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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1356292
審判番号 不服2018-14224  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-26 
確定日 2019-06-20 
事件の表示 特願2018-517237「半導体光素子」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年12月8日を国際出願日とする出願であって、 その手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 4月 2日:出願審査請求書の提出
同年 5月22日:拒絶理由通知(5月29日発送)
同年 7月 5日:手続補正書・意見書の提出
同年 8月 8日:拒絶査定(8月21日送達)
同年10月26日:審判請求書・手続補正書の提出
平成31年 1月17日:上申書の提出

第2 本件補正
1 本件補正の内容
(1)平成30年7月5日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1は、以下のとおりである(なお、下線は、当審で付した。以下同じ。)。

「【請求項1】
埋込部で両側が挟まれ、第1端部と第2端部とを有する光導波路と、
前記光導波路の第1端部に接続され、少なくとも出力側の端面が前記埋込部と接する光合波器と、
前記埋込部の中に設けられた凹部からなる反射溝と、を含み、
前記光合波器から出た光が前記光導波路を通って前記第2端部から出射する半導体光素子であって、
前記反射溝のすべての側面は、前記光導波路に対して平行ではない側面であり、
前記側面は、前記光合波器の前記出力側の端部から出た迷光を、前記光導波路から遠ざかるように反射するとともに、前記反射溝の側面と前記光導波路との間の迷光の伝搬距離を抑制したことを特徴とする半導体光素子。」

(2)平成30年10月26日付け手続補正(以下「本件補正」という。)により補正され特許請求の範囲の請求項1は、以下のとおりである。

「【請求項1】
埋込部で両側が挟まれ、第1端部と第2端部とを有する光導波路と、
前記光導波路の第1端部に接続され、少なくとも出力側の端面が前記埋込部と接する光合波器と、
前記埋込部の中に設けられた凹部からなる反射溝と、を含み、
前記光合波器から出た光が前記光導波路を通って前記第2端部から出射する半導体光素子であって、
前記反射溝のすべての側面は、前記光導波路に対して平行ではない側面であり、
前記反射溝の側面は、前記光合波器の前記出力側の端部から出た迷光を前記光導波路から遠ざかるように反射する側面を有し、
前記反射溝の側面は、前記迷光が前記反射溝と前記光導波路との間を伝搬する距離を抑制し、前記反射溝と前記光導波路との間を伝搬する前記迷光が回折現象により広がる形状を有することを特徴とする半導体光素子。」(以下「本願発明」という。)

2 補正の適否について
(1)本件補正は、本件補正前の明細書及び特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ、本件補正前の請求項1の下から三行目の「前記側面」であって、「(迷光を)前記光導波路から遠ざかるように反射する」ものとは、その前段の「前記反射溝のすべての側面」のうち、一部の側面であるか又はすべての側面であるのか定かでなかったところ、本件補正により、一部の側面であってもよいことが明らかになった、

(2)また、本件補正により追加された「前記反射溝と前記光導波路との間を伝搬する前記迷光が回折現象により広がる形状」との文言は、本件補正前の「反射溝の側面」の有する機能を明示的に示したものであって、形状を何ら限定するものではない。

(3)そうすると、本件補正は、特許法17条の2第5項4号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする補正であると認められる。

3 本件補正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件補正は適法になされたものである。

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし10に係る発明は、下記の引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

<引用文献等一覧>
1 特開2007-250889号公報(2007年9月27日公開)
2 国際公開第2010/110152号(周知技術を示す文献)
3 特開2005-311308号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献に記載の事項
原査定の拒絶の理由において引用された、特開2007-250889号公報(以下「引用文献」という。)には、図面とともに以下の記載がある。

(1)「【請求項1】
複数の半導体レーザと、前記複数の半導体レーザからの出力光を合流させることができる光合流器と、前記光合流器からの出力光を増幅する半導体光増幅器とを集積した集積型半導体レーザ素子であって、
前記光合流器の出力ポート側の端面の前部に前記半導体光増幅器の出力端側へ伝搬する光を後方に反射する反射手段を設けたことを特徴とする集積型半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記反射手段は、前記半導体光増幅器を埋め込む埋め込み部に幅方向にわたって設けた溝であることを特徴とする請求項1に記載の集積型半導体レーザ素子。
【請求項3】
……
【請求項4】
前記反射手段の反射面と前記光合流器の出力ポート側の端面とのなす角度が0度より大きく45度より小さいことを特徴とする請求項1?3のいずれか一つに記載の集積型半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記半導体光増幅器と前記反射手段の該半導体光増幅器に近い端部との距離は、該半導体光増幅器を導波する光の幅方向の強度分布が最大値から1/e^(2)となる位置よりも離れていることを特徴とする請求項1?4のいずれか一つに記載の集積型半導体レーザ素子。」

(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、従来の集積型半導体レーザ素子を備える半導体レーザモジュールにおいては、上記の制御方法を用いても光ファイバ出力が一定にならない場合があった。図19はパワーモニタPDに流れる電流と光ファイバ出力との関係を示す図である。図19に示すように、パワーモニタPDに流れる電流と光ファイバ出力との間にはオフセットがある。
【0008】
……
【0009】
…特に、光合流器が、半導体埋め込み型の導波路からなる場合は、出力ポートに結合しない光のほとんどが出力ポート側の端面から放射する。
【0010】
すなわち、従来の集積型半導体レーザ素子は、内部で発生する迷光が半導体光増幅器の出力端側へ伝搬して素子の前方へ出射するという課題があった。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、内部で発生する迷光の前方への放射を抑制することができる集積型半導体レーザ素子およびこれを備える半導体レーザモジュールを提供することを目的とする。」

(3)「【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、光合流器の出力ポート側の端面の前部に半導体光増幅器の出力端側へ伝搬する光を後方に反射する反射手段を設けたことにより、内部で発生する迷光の伝搬を阻止することができるので、迷光の前方への放射を抑制することができる集積型半導体レーザ素子を実現できるという効果を奏する。」

(4)「【0023】
(実施の形態1)
まず、本発明の実施の形態1に係る集積型半導体レーザ素子の構造と製造方法について説明する。図1は、本発明の実施の形態1に係る集積型半導体レーザ素子を模式的に表した平面概略図である。
【0024】
図1に示すように、本実施の形態1に係る集積型半導体レーザ素子10は、複数のDFBレーザストライプ11-1?11-n(nは2以上の整数)と、複数の光導波路12-1?12-nと、MMI合流器13と、半導体光増幅器14とを一つの半導体基板上に集積し、埋め込み部15により埋め込んだ構造を有する。そして、MMI光合流器13の出力ポート13a側の端面13bの前部の埋め込み部に、半導体光増幅器14の出力端14a側へ伝搬する光を後方に反射する反射手段である反射溝16a、16bを幅方向(半導体光増幅器14の光の伝搬方向に直交する方向)にわたって設けている。また、DFBレーザストライプ11-1?11-n間の埋め込み部にトレンチ溝17-1?17-m(m=n?1)を設けている。
【0025】
DFBレーザストライプ11-1?11-nは、各々が幅1.5?3μm、長さ600μmのストライプ状の埋め込み構造を有する端面発光型レーザであり、集積型半導体レーザ素子10の一端において幅方向に25μmピッチで形成されている。DFBレーザストライプ11-1?11-nは、各DFBレーザストライプに備えられた回折格子の間隔を互いに異ならせることにより、出力光の波長が1530nm?1570nmの範囲で相違するように構成されている。また、DFBレーザストライプのレーザ発振波長は、集積型半導体レーザ素子10の設定温度を変化させることにより調整することができる。すなわち、集積型半導体レーザ素子10は、駆動するDFBレーザストライプの切り替えと温度制御により、広い波長可変範囲を実現している。
【0026】
MMI合流器13は集積型半導体レーザ素子10の中央部付近に形成されている。また、光導波路12-1?12-nはDFBレーザストライプ11-1?11-nとMMI合流器13との間に形成されており、DFBレーザストライプ11-1?11-nとMMI合流器13とを光学的に接続する。半導体光増幅器14は集積型半導体レーザ素子10のDFBレーザストライプ11-1?11-nとは反対側の一端に形成されている。
【0027】
この集積型半導体レーザ素子10の動作を説明する。まず、DFBレーザストライプ11-1?11-nの中から選択した1つのDFBレーザストライプを駆動する。トレンチ溝17-1?17-mはDFBレーザストライプ11-1?11-n間を電気的に分離するのでDFBレーザストライプ間の分離抵抗が大きくなり、DFBレーザストライプ11-1?11-nの中の1つを選択して駆動することが容易にできる。
【0028】
つぎに、複数の光導波路12-1?12-nのうち駆動するDFBレーザストライプと光学的に接続している光導波路は、駆動するDFBレーザストライプからの出力光を導波する。MMI合流器13は、光導波路を導波した光を通過させて出力ポート13aから出力する。半導体光増幅器14は、出力ポート13aから出力した光を増幅して出力端14aから出力する。
【0029】
半導体光増幅器14は、駆動するDFBレーザストライプからの出力光のMMI合流器13による光の損失を補い、出力端から所望の強度の光出力を得るために用いられる。
【0030】
この集積型半導体レーザ素子10が動作する際には、光導波路12-1?12-nの曲がった部分からの放射光や、MMI光合流器13の出力ポート13a側の端面13bからの放射光が迷光となる。しかし、図2に示すように、反射溝16a、16bの内側面が反射面となって半導体光増幅器14の出力端14a側へ伝搬する図中矢印で示される迷光を後方に反射するので、迷光の素子の前方への放射を抑制することができる。反射溝16a、16bの反射率は埋め込み部15の屈折率により異なるが、例えば溝内部が空気で埋め込み部15が半導体の場合30%程度である。
【0031】
反射溝16aの内側面とMMI光合流器13の端面13bとのなす角度θ(図1参照)は、0度より大きく45度より小さい。反射溝16bについても同様である。角度θが0度であると反射溝16a、16bが反射した光がもとの方向に戻るので、MMI光合流器13を経由してDFBレーザストライプ11-1?11-nに戻り、レーザ発振の動作の不安定や雑音の発生の原因となる場合がある。角度θが45度であると反射溝16a、16bが反射した光が集積型半導体レーザ素子10の側面で反射し、再び反射溝16a、16bで反射してもとの方向に戻るので、MMI光合流器13の端面13bを経由してDFBレーザストライプ11-1?11-nに戻り、レーザ発振の動作の不安定や雑音の発生の原因となる場合がある。また、角度θが45度より大きいと、溝の内側面で反射した迷光が集積型半導体レーザ素子10の側面と溝との間の部分を通って前方に伝搬しやすくなる。
【0032】
また、半導体光増幅器14と反射溝16aの半導体光増幅器14に近い端部との距離l(図2参照)は、半導体光増幅器14を導波する光の幅方向の強度分布が最大値から1/e^(2)となる位置よりも離れており、たとえば2μm以上とする。その結果、反射溝16aが半導体光増幅器14を導波する光の導波モードに影響を及ぼすことはない。ただし、距離lは、大きすぎると反射溝16aと半導体光増幅器14の間から迷光が漏洩する量が多くなるので、5μm以下とすることが好ましい。半導体光増幅器14と反射溝16bの半導体光増幅器14に近い端部との距離も同様の距離とする。」

(5)「【0049】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2に係る集積型半導体レーザ素子について説明する。本実施の形態2に係る集積型半導体レーザ素子は、実施の形態1に係る集積型半導体レーザ素子と同様の構造を有し、同様の方法で製造できるが、反射溝が素子の前方に向かって複数設けられている点が異なる。
【0050】
……
【0051】
この集積型半導体レーザ素子50が動作する際には、光導波路52-1?52-nの曲がった部分からの放射光や、MMI光合流器53の出力ポート53a側の端面53bからの放射光が迷光となる。しかし、図15に示すように、素子の前方に向かって設けられた複数の反射溝56a、56bが半導体光増幅器54の出力端54a側へ伝搬する図中矢印で示される迷光を後方に反射するので、迷光の素子前方への放射を抑制することができる。そして、一つの反射溝を透過した迷光も、図中幅のある矢印で示されるように複数の反射溝によって順次反射されて減衰する。また、半導体光増幅器52と一つの反射溝の間を抜けて前方へ伝搬する迷光も、図中矢印で示されるように外側に広がることにより次の反射溝により反射される。その結果、素子の前方へ放射する迷光が一層抑制される。」

(6)実施の形態1に関する図1及び図2は、以下のものである。
図1


10…集積型半導体レーザ素子
11-1?11-n…DFBレーザストライプ
12-1?12-n…光導波路
13…MMI光合流器
13a…出力ポート
13b…出力側端面
14…半導体光増幅器
14a…出力端
15…埋め込み部
16a、16b…反射溝
θ…反射溝16aの内側面とMMI光合流器13の端面13bとのなす角度

図2


l(エル)…半導体光増幅器14と反射溝16aの半導体光増幅器14に近い端部との距離

(7)実施の形態2に関する図15は、以下のものである。


50… 集積型半導体レーザ素子
53… MMI光合流器
54… 半導体光増幅器
55・・埋め込み部
56a、56b…複数の反射溝

2 引用文献に記載された発明
(1)上記1(1)の記載からして、引用文献には、
「複数の半導体レーザと、
前記複数の半導体レーザからの出力光を合流させることができる光合流器と、
前記光合流器からの出力光を増幅する半導体光増幅器と、
前記光合流器の出力ポート側の端面の前部に前記半導体光増幅器の出力端側へ伝搬する光を後方に反射する反射手段と、を集積した集積型半導体レーザ素子であって、
前記反射手段は、前記半導体光増幅器を埋め込む埋め込み部に幅方向にわたって設けた溝であり、前記反射手段の反射面と前記光合流器の出力ポート側の端面とのなす角度が0度より大きく45度より小さく、
前記半導体光増幅器と前記反射手段の該半導体光増幅器に近い端部との距離は、該半導体光増幅器を導波する光の幅方向の強度分布が最大値から1/e^(2)となる位置よりも離れている、集積型半導体レーザ素子。」(請求項1-2-4-5)が記載されているものと認められる。

(2)上記1(2)及び(3)の記載からして、
上記アの「(反射手段により後方に反射される)出力端側へ伝搬する光」とは、出力ポートに結合しない光などの「埋め込み部15」を伝搬する迷光であることが理解できる。

(3)上記1(4)の記載を踏まえて、本実施の形態1に関する図1及び図2を見ると、以下のことが理解できる。
ア 上記(1)の「集積型半導体レーザ素子」は、
「複数の端面発光型レーザ」、「MMI合流器13」、「半導体光増幅器14」及び「反射手段16」を、矩形の半導体基板上に集積し、「埋め込み部15」により埋め込んだ構造を有する「集積型半導体レーザ素子10」であってももよいこと。

イ 上記(1)の「複数の半導体レーザ」は、
「出力光の波長が1530nm?1570nmの範囲で相違する」こと。

ウ 上記(1)の「半導体光増幅器」は、
光合流器13の出力ポート13aから出力した光を増幅して出力端14aから出力すること。

エ 上記(1)の「光合流器の出力ポート側の端面の前部」とは、
「光合流器の出力ポート側の端面13bの前部(前方)」であること。

オ 上記(1)の「距離」は、
具体的には、半導体光増幅器14と反射溝(16a、16b)の該半導体光増幅器14に近い端部との距離であって、「例えば、2μm?5μm」であること。

(4)上記1(5)の記載を踏まえて、本実施の形態2に関する図15を見ると、「半導体光増幅器54」と「反射溝(56a、56b)」の間を抜けて前方へ伝搬する迷光(黒矢印)は、そのまま直進するのではなく、外側に広がることから、図1及び図2に示された本実施の形態1においても、「半導体光増幅器14」と「反射溝(16a、16b)」の間を抜けて前方へ伝搬する迷光は、外側に広がるものと解される。

(5)上記(1)ないし(4)を総合すると、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「出力光の波長が1530nm?1570nmの範囲で相違する複数の端面発光型レーザと、
前記複数の端面発光型レーザからの出力光を合流させることができる光合流器13と、
前記光合流器13の出力ポート13aから出力した光を増幅して出力端14aから出力する半導体光増幅器14と、
前記光合流器13の出力ポート側の端面13bの前部(前方)に前記半導体光増幅器14の出力端14b側へ伝搬する迷光を後方に反射する反射手段16と、を矩形の半導体基板上に集積し、埋め込み部15により埋め込んだ構造を有する集積型半導体レーザ素子10であって、
前記反射手段16は、前記半導体光増幅器14を埋め込む埋め込み部15に幅方向にわたって設けた反射溝(16a、16b)であり、前記反射溝(16a、16b)の反射面と前記光合流器13の出力ポート側の端面13bとのなす角度が0度より大きく45度より小さく、
前記半導体光増幅器14と前記反射溝(16a、16b)の該半導体光増幅器14に近い端部との距離は、該半導体光増幅器14を導波する光の幅方向の強度分布が最大値から1/e^(2)となる位置より大きい、例えば、2μm?5μm程度であり、
前記半導体光増幅器14と前記反射溝(16a、16b)の間を抜けて前方へ伝搬する迷光が外側に広がる、集積型半導体レーザ素子10。」

第5 対比
1 本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
ア 引用発明の「半導体光増幅器14」は、「矩形の半導体基板上に集積」され、「埋め込み部15」に埋め込まれたものであるから、本願発明の「埋込部で両側が挟まれ、第1端部と第2端部とを有する光導波路」に相当する。

イ 引用発明の「光合流器13」は、「(その)出力ポート13a」が「半導体光増幅器14」に接続され、「(その)出力ポート側の端面13b」が「埋め込み部15」によって埋め込まれているから、本願発明の「光導波路の第1端部に接続され、少なくとも出力側の端面が埋込部と接する光合波器」に相当する。

ウ 引用発明の「反射手段16」は、「半導体光増幅器14を埋め込む埋め込み部15に幅方向にわたって設けた反射溝(16a、16b)」であるから、引用発明は、「埋込部の中に設けられた凹部からなる反射溝」を備えているといえる。

エ 本願明細書の【0010】における「図1に示すように、集積型半導体光素子100は、光合波器30と、光合波器30の出力ポート31に接続された埋め込み型の光導波路20を含む。」との記載によれば、引用発明の「集積型半導体レーザ素子10」は、本願発明の「半導体光素子」に相当する。

オ ここで、上記アないしエを整理すると、
本願発明と引用発明とは、
「埋込部で両側が挟まれ、第1端部と第2端部とを有する光導波路と、
前記光導波路の第1端部に接続され、少なくとも出力側の端面が前記埋込部と接する光合波器と、
前記埋込部の中に設けられた凹部からなる反射溝と、を含み、
前記光合波器から出た光が前記光導波路を通って前記第2端部から出射する半導体光素子」である点で一致する。

カ 引用発明においては、「反射溝(16a、16b)の反射面と光合流器13の出力ポート13a側の端面とのなす角度が0度より大きく45度より小さく」設定されていることから、反射面で反射した迷光が「半導体光増幅器14」から遠ざかることは、明らかである。
よって、本願発明と引用発明とは、
「反射溝の側面は、光導波路に対して平行ではない側面を含み、
前記反射溝の側面は、光合波器の出力側の端部から出た迷光を光導波路から遠ざかるように反射する側面を有している」点で一致する。

キ また、引用発明においても、「半導体光増幅器14」と「反射溝(16a、16b)」との間(以下「隙間」などと表記することがある。)を抜けて前方へ伝搬する迷光が外側に広がるものであるから、引用発明の「反射溝(16a、16b)」の側面は、「反射溝と光導波路との間を伝搬する迷光が広がる形状」であるといえる。

2 上記「1」の検討からして、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「埋込部で両側が挟まれ、第1端部と第2端部とを有する光導波路と、
前記光導波路の第1端部に接続され、少なくとも出力側の端面が前記埋込部と接する光合波器と、
前記埋込部の中に設けられた凹部からなる反射溝と、を含み、
前記光合波器から出た光が前記光導波路を通って前記第2端部から出射する半導体光素子であって、
前記反射溝の側面は、前記光導波路に対して平行ではない側面を含み、
前記反射溝の側面は、前記光合波器の前記出力側の端部から出た迷光を前記光導波路から遠ざかるように反射する側面を有し、
前記反射溝の側面は、前記反射溝と前記光導波路との間を伝搬する前記迷光が広がる形状を有する、半導体光素子。」

3 一方、両者は、以下の点で相違する。
<相違点>
反射溝の側面に関して、
本願補正発明は、
(1)「反射溝のすべての側面は、光導波路に対して平行ではない側面」であって、
(2)「迷光が反射溝と光導波路との間を伝搬する距離を抑制し、前記反射溝と光導波路との間を伝搬する迷光が回折現象により広がる形状を有する」のに対して、
引用発明は、すべての側面が光導波路に対して平行ではない側面であるか否か不明であり、迷光の伝搬する距離を抑制し、迷光が回折現象により広がる形状であるか否かも不明である点。

第6 判断
1 <相違点>について
(1)まず、本願発明において、上記<相違点>に係る構成を採用する技術的意義について、本願明細書の記載を参酌して検討する。

ア 本願明細書には、以下の記載がある。
「【0023】
…しかしながら、反射溝10、11の平面形状のうち、光導波路20に近接している部分が光導波路20と平行になるように設けられているため、光導波路20と反射溝10、11との間の隙間を迷光が長い距離伝搬してしまう。」

「【0024】
…すなわち反射溝10、11は、光導波路20に対して平行な側面を有さない構造を採用した。これにより、入射した迷光を反射溝10、11で光導波路20から遠ざかるように反射すると共に、光導波路20と反射溝10、11との間の隙間を光が伝搬する距離が短くなり、さらに隙間を通過してもすぐに回折現象により光が広がるようになり、光導波路20に沿って伝搬し、集積型半導体光素子100の端面25に到達する迷光を抑制できる。」

イ 上記記載からして、
上記技術的意義は、反射溝と光導波路が平行となる部分では、迷光は回折現象により広がることなく、その部分をそのまま伝搬してしまうために、平行となる部分をなくすことで、いち早く、迷光を広げることにあるものと認められる。

(2)一方、引用発明における「迷光」は、引用文献の図15に示された黒矢印からして、引用発明の「半導体光増幅器14」と「反射溝(16a、16b)」の隙間では、迷光の広がりが抑えられた状態でそのまま前方へ伝搬し、隙間の出口から、広がりが抑えられていた迷光が外側に広がり始めるものと解される。
そして、引用発明においては、端面発光型レーザの出力光の波長(1530nm?1570nm)と半導体光増幅器14と反射溝(16a、16b)との間の距離(例えば、2000nm?5000nm程度)が、概ね同等の大きさであるから、下記の図に示すように、その迷光は、回折現象により「反射溝(16a、16b)」の背後に回り込むものと解される。


911…スリット
912…開口部
(特開2013-104789号公報の図1)

(3)そうすると、その隙間の長さ(入口から出口までの距離)が短いほど、いち早く、迷光が広がり、前方へ伝搬する迷光を抑制できることは、当業者にとって明らかである。

(4)そして、平成30年5月22日付け拒絶理由通知で指摘したように、光導波路の両側に配置する「迷光を遮断する部材」の形状について、その側面を光導波路と平行配置としないものは、本願の国際出願日(2017年12月8日)時点で周知である(以下「周知技術」という。)。

必要ならば、下記の文献を参照。
国際公開第2010/110152号(図9)
特開2014-138005号公報(図8)
特開2010-135586号公報(図7)
特開2006-276518号公報(図4)
実願昭63-38254号(実開平1-142907号)のマイクロ
フィルム(第1図)

ちなみに、
ア 国際公開第2010/110152号の図9は、以下のものである。


14,16…導波路
15…光合流器
17…半導体光増幅器
18…曲げ導波路
20…漏洩光阻止部

イ また、実願昭63-38254号(実開平1-142907号)のマイクロフィルムの第1図は、以下のものである。


20…基板
21…光導波路
22,23…溝
24…受光側光フアイバ

(5)そして、引用発明において、上記周知技術のような「『反射溝のすべての側面が、光導波路(半導体光増幅器14)に対して平行ではない側面』からなる『反射溝(16a、16b)』」を採用しても、半導体光増幅器14と反射溝(16a、16b)の間を抜けて前方へ伝搬する迷光は(回折現象により)外側に広がるものと認められ、その適用を妨げる特段の事情は見あたらない。

(6)上記(5)のようにした引用発明においては、隙間の長さ(入口から出口までの距離)が短くなるから、いち早く、迷光が広がり、前方へ伝搬す迷光を抑制できることは、当然のことである。

(7)以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点>に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が上記周知技術に基いて容易になし得たことである。

2 効果
本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び上記周知技術の奏する効果から予測し得る範囲内のものである。

3 審判請求書における主張について
(1)請求人は、審判請求書において、以下のように主張することから、この点について検討する。

ア 「しかしながら、引用文献2の漏洩光阻止部20は、段落[0034]の記載から光を吸収する部材等で半導体デバイスに新たに設けられるものであり、反射溝であることについての記載も示唆もありません。」(第8頁後段)
当審注:引用文献2は、上記「周知技術」で引用する国際公開第2010/110152号である。

引用文献2の図9に関する[0034]には「…なお、漏洩光阻止部20は、空間的に遮断してもよいし、積極的に光を吸収する部材で形成してもよい。」と記載されており、溝により漏洩光を反射させてもよい旨記載されている。
よって、引用発明において、引用文献2に記載された「(空間的に遮断する)漏洩光阻止部20」の採用を妨げるものではない。

イ 「たとえ(引用文献2に記載された)図9の漏洩光阻止部20の形状が光導波路に対して平行でない側面としたとしても、図9の光導波路の近傍における漏洩光阻止部の形状は、光合波器の出力側の端部から出た迷光が反射溝と光導波路との間を伝搬してしまう形状であり、光合波器の出力側の端部から出た迷光が反射溝と光導波路との間を伝搬する距離を抑制し、反射溝と光導波路との間を伝搬する迷光が回折現象により広がる形状ではなく、それ示唆する記載もありません。」(第8頁後段)

上記主張は、引用文献2の図9に示された「漏洩光阻止部20」のすべての側面が光導波路に対して平行でない側面であるとしても、それは、迷光の伝搬する距離を抑制し、迷光が回折現象により広がる形状ではない旨をいうものと解される。
しかしながら、審判請求時の補正の根拠として指摘している[0028]には、「反射溝10、11は、光導波路20に平行な側面10a、10b、10c、10dおよび側面11a、11b、11c、11dを有さない。このため、光導波路20と反射溝10、11との隙間を迷光が伝搬する距離が短くなり、さらに隙間を伝搬してもすぐに回折現象により迷光は広がるため、光導波路20に沿って伝搬して集積型半導体光素子100の端面25に到達する迷光を低減できる。」と記載されており、反射溝が、光導波路20に平行な側面を有さないとの構成を備えることにより、迷光が伝搬する距離が短くなり、かつ、回折現象により迷光は広がるものと解され、上記主張は、[0028]の記載内容と整合しない。

ウ 「そのため、引用文献2は、光合波器の出力側の端部から出た迷光が、反射溝と光導波路との間を光導波路に沿って伝搬するのを抑制し、信号光と迷光との干渉を抑制して、出射光のビーム形状を良好にすることができるという格別な効果を奏するものではありません。」(第9頁上段)

しかしながら、引用文献2の図9に関する[0034]には、「…これによって、光合流器15からの漏洩光がFFPに影響することがないので、安定したFFPを得ることができる。」と記載されており、引用発明において、図9に示された「(空間的に遮断する)漏洩光阻止部20」を採用することにより、安定したFFPを得ることができること、つまり、出射光のビーム形状が良好になることは予測し得るものである。

(2)以上のことから、請求人の上記各主張は、いずれも採用できない。

4 平成31年1月17日提出の上申書における補正案(第4頁中段)について
以下の理由により、補正案を採用することはできない。

【理由】
(1)「(1)補正案の説明
[請求項1]
埋込部で両側が挟まれ、第1端部と第2端部とを有する光導波路と、
前記光導波路の第1端部に接続され、少なくとも出力側の端面が前記埋込部と接する光合波器と、
前記埋込部の中に設けられた凹部からなる反射溝と、を含み、
前記光合波器から出た光が前記光導波路を通って前記第2端部から出射する半導体光素子であって、
前記反射溝のすべての側面は、前記光導波路に対して平行ではない側面であり、
前記反射溝の側面は、前記光合波器の前記出力側の端部から出た迷光を前記光導波路から遠ざかるように反射する側面を有し、
前記反射溝の側面は、前記光合波器と平行な方向に延在する第1側面と、前記第1側面の前記光導波路に近い端部から、前記反射溝と前記光導波路との間を伝搬する前記迷光が回折現象により広がるように延在する第2側面とを有し、
前記第1側面及び前記第2側面は、前記迷光が前記反射溝と前記光導波路との間を伝搬する距離を抑制し、前記反射溝と前記光導波路との間を伝搬する前記迷光が回折現象により広がる形状であることを特徴とする半導体光素子。」

(2)判断
ア 上記「1 <相違点>について」で検討したように、隙間の出口において、回折により迷光が外側に拡がり始めることから、隙間の長さ(入口から出口までの距離)が短いほど、いち早く、迷光が広がり、前方へ伝搬する迷光を抑制できることは、当業者にとって明らかである。

イ 補正案における「反射溝」の形状は、本願の図1に示された形状に特定するものではあるが、本願明細書の【0017】には「…言い換えれば光導波路20に近接している側面が埋込部40、41を挟んで光導波路20と平行配置とならなければ、以下で述べる図3のような三角形、矩形、他の多角形とすることも可能である。また、直線ではなく湾曲した形状でも構わない。」と記載されているように、三角形、矩形、湾曲形状などの形状の違いにより、その効果に差異は認められないから、補正案に示された特定形状を採用することにより、格別顕著な効果が得られるとはいえない。

(3)まとめ
仮に、補正案のとおり補正されたとしても、進歩性を認めることはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-04-19 
結審通知日 2019-04-23 
審決日 2019-05-09 
出願番号 特願2018-517237(P2018-517237)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井部 紗代子佐藤 宙子  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 星野 浩一
近藤 幸浩
発明の名称 半導体光素子  
代理人 松井 重明  
代理人 倉谷 泰孝  
代理人 村上 加奈子  

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