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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61G
管理番号 1356301
審判番号 不服2019-3833  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-22 
確定日 2019-11-05 
事件の表示 特願2018-129840号「遺影骨壺」拒絶査定不服審判事件〔請求項の数(5)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成30年7月9日の出願であって,同年9月3日付けで拒絶理由が通知され,同年10月10日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ,同年11月22日付けで拒絶理由が通知され,同年12月26日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたが,平成31年1月25日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年3月22日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成31年1月25日付けで拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.本願の請求項1,2に係る発明は,以下の引用文献1,5,6に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2.本願の請求項3,4に係る発明は,以下の引用文献1,2,5,6に基いて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3.本願の請求項5に係る発明は,以下の引用文献1?3,5,6に基いて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
4.本願の請求項6に係る発明は,以下の引用文献1?6に基いて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.実願昭61-196612号(実開昭63-100032号)のマイクロフィルム
2.実願昭59-140047号(実開昭61-54829号)のマイクロフィルム
3.米国特許出願公開第2015/0131875号明細書
4.特開2011-15931号公報
5.特開昭53-123429号公報(周知技術を示す文献)
6.特開昭52-91039号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願請求項1?5に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」という。)は,平成31年3月22日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である(下線部は,補正箇所であり,当審で付した。)
「【請求項1】
遺骨を納める円筒形又は方形の壺本体と,該壺本体の上部開口部を覆う蓋と,前記壺本体の外側面の所定位置に接着される故人の遺影を陶板に焼き付けた遺影陶板と,からなる陶磁器製の骨壺であって,
前記壺本体は,壺本体の外側面に,該壺本体外側面より前記遺影陶板を嵌め込み可能な大きさで窪んだ状態に形成された,前記遺影陶板が接着される遺影接着凹部が設けられ,前記遺影陶板は,前記遺影接着凹部の窪み深さと略同等の厚みを有し,前記壺本体の外側面と前記遺影接着凹部に接着された遺影陶板の表面とが略面一になるように形成され,
前記遺影接着凹部の遺影陶板接着面及び前記遺影陶板の遺影を焼き付けた面の反対面である接着面がいずれも平板状で釉薬が塗られていない素焼き面に形成され,前記遺影接着凹部の遺影陶板接着面及び前記遺影陶板の前記接着面には接着剤を配し,
前記遺影陶板と前記遺影接着凹部の隙間にはパテを施していることを特徴とする遺影骨壺。
【請求項2】
前記蓋の上表面に,該上表面上より窪んだ状態に形成された第2遺影接着凹部が設けられ,前記蓋の上表面と前記第2遺影接着凹部に接着された第2遺影陶板の表面とが略面一になるように接着されていることを特徴とする請求項1に記載の遺影骨壺。
【請求項3】
前記壺本体の外側面の前記遺影接着凹部が設けられていない壺本体外側面に,該壺本体外側面より窪んだ状態に形成された,故人の情報が焼き付けられた情報陶板が接着される情報陶板接着凹部が設けられ,
前記情報陶板は,前記情報陶板接着凹部の窪み深さと略同等の厚みを有し,前記壺本体の外側面と前記情報陶板接着凹部に接着された前記情報陶板の表面とが略面一になるように形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の遺影骨壺。
【請求項4】
前記情報陶板に焼き付けられた故人の情報が故人の遺伝子情報であることを特徴とする請求項3に記載の遺影骨壺。
【請求項5】
前記情報陶板に焼き付けられた故人の情報が,故人の各種情報を格納する記録媒体にアクセスするためのIDナンバーであることを特徴とする請求項3に記載の遺影骨壺。」

第4 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下同様。)。
ア.「【実用新案登録請求の範囲】
偏平部が正面に設けられた円筒状の胴部とこれにはまる蓋部とからなり,上記偏平部上半部に写真を焼付け印刷するとともにその下半部に俗名,戒名,その他を表示できるようにしたことを特徴とする骨つぼ。」
イ.「産業上の利用分野
本考案は骨つぼの改良に関するものである。」(明細書1ページ10?11行)
ウ.「1は骨つぼで,円筒状の胴部2とこれにはまる蓋部3とから構成されている。4は胴部2の正面に形成された偏平部で,その上半部5には図示のように故人又は遺族の方々が希望される故人の生前の最も好ましい写真Pが公知の手法で焼付け印刷され,その下半部6には俗名その他が焼付け表示されるようになつている。7,8は故人の写真が焼付け印刷された上半部5の両側に設けた文字等の表記部で例えば表記部7には戒名,俗名その他生年月日,没年月日などを刻印表示し,表記部8には故人を偲ぶ経歴或いは故人の好まれた言葉(希望)などを刻印表示する。
又,宗教,宗派に基づくマーク,題目などを刻印するようにしてもよく,上記マークは蓋部3の頂面に焼付け或いは刻印するようにしてもよい。」(明細書4ページ5?19行)
エ.「この実施例は写真を胴部2の偏平部4に直接焼付けるようにしているが,この写真焼付け部を別部材とし,写真焼付け後上記部材を胴部2の偏平部4に接着剤で接着するようにしてもよい。
第4図ないし第6図はそのようにした本考案の他の実施例で,第1図ないし第3図に示す第一実施例と同一部材は同一符号を付して説明する。
この実施例においても骨つぼ1は胴部2と蓋部3とからなり,胴部2の前面に設けた偏平部4’が第5図に示すように若干内側に位置して凹部を形成している。7,8は第1実施例と同様の表記部である。14は銘板でその上半部5には故人の写真Pが焼付けられ,下半部6には俗名その他が焼付表示され,接着剤で上記偏平部4’の凹部に第6図B矢視方向に押込んで接着する。
この実施例は第一実施例と同様の効果を奏しうる他写真Pの焼付けと俗名その他の焼付け表示が銘板14自体に施されるから焼付作業が短時間に簡単に行える利点がある。
なお,上記した各実施例は材質として青磁で作るのが好ましいが白磁,その他の材料で作ることもできる。」(明細書5ページ6行?6ページ7行)
オ.「(ト)考案の効果
本考案は上記各実施例の説明から明らかなとおり,骨つぼの胴部前面に設けた偏平部の上半部に故人の写真を焼付けるとともにその下半部に俗名その他が表示されているから上記写真が変質したり消えたり損傷することがなく永久的に保存できる。従つて何時までも故人の生前の顔と対面でき永く故人の遺徳を偲ぶことができる。」(明細書6ページ8?15行)
カ.以下の第4図?第6図が示されている。


キ.第4図ないし第6図の他の実施例において,偏平部4’が前面に設けられた円筒状の胴部2と,これにはまる蓋部3からなる骨つぼ1が理解できる。
ク.第5図からみて,銘板14は,偏平部4’の凹部の窪み深さと略同等の厚みを有し,胴部2の前面の凹部の周りの部分と前記凹部に接着された銘板14の表面とが略面一になるように形成されていることが理解できる。
ケ.凹部と銘板14が接着剤で接着されるから,技術常識からして,前記凹部の接着面及び銘板14の接着面には接着剤を配することが理解できる。
そうすると,第4図ないし第6図の他の実施例に着目すると,引用文献1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「偏平部4’が前面に設けられた円筒状の胴部2と,これにはまる蓋部3と,前記偏平部4’の若干内側に位置した凹部に接着剤で接着される故人の写真Pを焼き付けた銘板14とからなる,材質として青磁で作られた骨つぼ1であって,
前記胴部2は,胴部2の前面に,該胴部2に銘板14を押し込むための,故人の写真Pを焼き付けた銘板14が接着される凹部が設けられ,前記銘板14は,偏平部4’の凹部の窪み深さと略同等の厚みを有し,胴部2の前面の凹部の周りの部分と前記凹部に接着された銘板14の表面とが略面一になるように形成され,
前記凹部の接着面及び銘板14の接着面には接着剤を配する,
骨つぼ1。」

2.引用文献5について
原査定において周知技術として引用された引用文献5には,図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「本発明は陶磁器の接着剤に関するものである。」(公報1ページ左下欄10?11行)
イ.「本発明接着剤の基本成分は,このようなカルシウムアルミネート,石膏,およびボンドランドセメントからなるものである」(公報2ページ右上欄3?5行)

3.引用文献6について
原査定において周知技術として引用された引用文献6には,図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「本発明は新規な接着剤組成物に関する。」(公報1ページ左下欄15行)
イ.「以上のような接着剤組成物を実際に木材用接着剤に用いる場合には,木粉,小麦粉,大豆グルーなどの有機充填剤,炭酸カルシウム,石膏,クレーなどの無機充填剤を適当に加えて接着剤の粘度や固形分濃度を調節することが可能である。」(公報5ページ左上欄4?8行)
ウ.「本発明の接着剤組成物は,合板,単板積層材,集成材,フラッシュパネル,パーテイクルボード,建具,運動具その他の木工製品などの木材用接着剤としてとくに好適であるが,その他のたとえば段ボール,紙,布,金輌,陶磁器,無機板(たとえばアスベスト板,ロックウール板,石綿スレート板,パルプセメント板,けい酸カルシウム板,石膏ボード,コンクリート板など),プラスサック板(たとえばメラミン樹脂板,塩ビタイルなど),カラス板,木毛板などを接着する場合にも適用できる。」(公報5ページ左上欄16行?右上欄6行)

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,後者の「胴部2」は前者の「壺本体」に相当し,以下同様に,「蓋部3」は「蓋」に,「故人の写真P」は「故人の遺影」に,「材質として青磁で作られた骨つぼ1」は「陶磁器製の骨壺」に,「胴部2の前面」は「壺本体の外側面」に,「偏平部4’の若干内側に位置」は「所定位置」に,それぞれ相当する。
後者の「骨つぼ1」が「材質として青磁で作られ」ているから,その一部材である「銘板14」も青磁で作られたものであり,故人の写真Pが焼き付けられているから,後者の「銘板14」は前者の「陶板」及び「遺影陶板」に相当する。
後者の「骨つぼ1」は,故人の写真Pが焼き付けられているから,前者の「遺影骨壺」にも相当する。
後者の「骨つぼ1」の「胴部2」には遺骨を収納することは明らかであるから,後者の「胴部2」は前者の「遺骨を納める」「壺本体」に相当する。
後者の「凹部」には,「故人の写真Pを焼き付けた銘板14」が接着されるから,前者の「遺影接着凹部」に相当し,後者の「凹部の接着面」には,「故人の写真Pを焼き付けた銘板14」が接着されるから,前者の「遺影接着凹部の遺影陶板接着面」に相当する。
後者の「偏平部4’が前面に設けられた円筒状の胴部2と,これにはまる蓋部3と,前記偏平部4’の若干内側に位置した凹部に接着剤で接着される故人の写真Pを焼き付けた銘板14とからなる,材質として青磁で作られた骨つぼ1」と,前者の「遺骨を納める円筒形又は方形の壺本体と,該壺本体の上部開口部を覆う蓋と,前記壺本体の外側面の所定位置に接着される故人の遺影を陶板に焼き付けた遺影陶板と,からなる陶磁器製の骨壺」とは,「遺骨を納める壺本体と,該壺本体の上部開口部を覆う蓋と,前記壺本体の外側面の所定位置に接着される故人の遺影を陶板に焼き付けた遺影陶板と,からなる陶磁器製の骨壺」において共通する。
後者の「前記胴部2は,胴部2の前面に,該胴部2に銘板14を押し込むための,故人の写真Pを焼き付けた銘板14が接着される凹部が設けられ」ることは前者の「前記壺本体は,壺本体の外側面に,該壺本体外側面より前記遺影陶板を嵌め込み可能な大きさで窪んだ状態に形成された,前記遺影陶板が接着される遺影接着凹部が設けられ」ることに相当する。
後者の「前記銘板14は,偏平部4’の凹部の窪み深さと略同等の厚みを有し,胴部2の前面の凹部の周りの部分と前記凹部に接着された銘板14の表面とが略面一になるように形成され」ることは前者の「前記遺影陶板は,前記遺影接着凹部の窪み深さと略同等の厚みを有し,前記壺本体の外側面と前記遺影接着凹部に接着された遺影陶板の表面とが略面一になるように形成され」ていることに相当する。
後者の「前記凹部の接着面及び銘板14の接着面には接着剤を配する」ことは前者の「前記遺影接着凹部の遺影陶板接着面及び前記遺影陶板の接着面には接着剤を配」することに相当する。
そうすると,両者は,
「遺骨を納める壺本体と,該壺本体の上部開口部を覆う蓋と,前記壺本体の外側面の所定位置に接着される故人の遺影を陶板に焼き付けた遺影陶板と,からなる陶磁器製の骨壺であって,
前記壺本体は,壺本体の外側面に,該壺本体外側面より前記遺影陶板を嵌め込み可能な大きさで窪んだ状態に形成された,前記遺影陶板が接着される遺影接着凹部が設けられ,前記遺影陶板は,前記遺影接着凹部の窪み深さと略同等の厚みを有し,前記壺本体の外側面と前記遺影接着凹部に接着された遺影陶板の表面とが略面一になるように形成され,
前記遺影接着凹部の遺影陶板接着面及び前記遺影陶板の接着面には接着剤が配する,
遺影骨壺。」
の点で一致し,以下の各点で相違すると認められる。
<相違点1>
遺骨を納める壺本体に関して,壺本体が,本願発明1では,「円筒形又は方形」であるのに対して,引用発明では,偏平部4’が前面に設けられた円筒状である点。
<相違点2>
本願発明1では,「前記遺影接着凹部の遺影陶板接着面及び前記遺影陶板の遺影を焼き付けた面の反対面である接着面がいずれも平板状で釉薬が塗られていない素焼き面に形成され」ているのに対して,引用発明では,凹部と銘板14のそれぞれに接着面はあるものの,それ以上の特定はなされていない点。
<相違点3>
本願発明1では,「前記遺影陶板と前記遺影接着凹部の隙間にはパテを施している」のに対して,引用発明では,そのような特定はなされていない点。

(2)相違点の検討
事案に鑑み,まず,<相違点3>について検討する。
「第4 2.」「第4 3.」に摘記したとおり,引用文献5,6の記載により「陶磁器等の接着剤の組成物として,石膏を用いること」は出願前において周知の事項であり,また,石膏は,パテに用いられる材料であることも知られている。
しかしながら,相違点3における本願発明1の発明特定事項である「遺影陶板と遺影接着凹部の隙間にはパテを施」すことは,引用文献5,6には記載されていない。
したがって,引用発明に引用文献5,6に記載された周知の事項を適用しても,本願発明1の発明特定事項とすることはできない。
そして,上記相違点3における本願発明1の発明特定事項により,「遺影陶板と遺影接着凹部の隙間にパテを施して遺影陶板接着部の密閉度を高めて接着剤の劣化を防止し,長期間の安置により遺影陶板が剥落することを防止」するという格別の効果を奏するものである。
よって,その他の相違点について検討するまでもなく,本願発明1は,引用発明,引用文献5,6に記載された周知の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。
また,原査定において引用された他の引用文献2?4について検討しても,相違点3における本願発明1の発明特定事項である「遺影陶板と遺影接着凹部の隙間にはパテを施」すことは,記載も示唆もされていない

2.本願発明2?5について
本願発明2?5は,本願発明1の発明特定事項を全て含み,さらに限定して発明を特定するものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献5,6に記載された周知の事項,及び,引用文献2?4に記載された事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-10-23 
出願番号 特願2018-129840(P2018-129840)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小島 哲次  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 島田 信一
藤井 昇
登録日 2019-11-22 
登録番号 特許第6619060号(P6619060)
発明の名称 遺影骨壺  
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所  

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