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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1356308
審判番号 不服2018-7327  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-29 
確定日 2019-10-16 
事件の表示 特願2016-542712「液晶表示装置及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年7月9日国際公開,WO2015/100765,平成29年1月5日国内公表,特表2017-500613〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続等の概要
特願2016-542712号(以下「本件出願」という。)は,2014年(平成26年)1月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年(平成25年)12月31日 中国)を国際出願日とする特許出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成29年 6月13日付け:拒絶理由通知書
平成29年 8月22日付け:意見書
平成29年 8月22日付け:手続補正書
平成30年 1月22日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成30年 5月29日付け:審判請求書
平成30年 5月29日付け:手続補正書
平成30年11月20日付け:上申書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年5月29日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は,国際出願日における国際特許出願の明細書の翻訳文の【0034】及び【0035】の記載に基づいて,特許請求の範囲の記載を補正するものであるから,本件補正は,特許法184条の12第2項により読み替えて適用される同法17条の2第3項の規定に適合する。
そこで,事案に鑑みて,本件補正のうち,特許請求の範囲の請求項1についてした補正について,以下,検討する。
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の(平成29年8月22日付け手続補正書によって補正された)特許請求の範囲の請求項1及び請求項6の記載は,次のとおりである。
「【請求項1】
液晶表示装置であって,
第1電極層(15)と前記第1電極層(15)を被覆する第1配向層(19)を有し,ガラス基板(11)とパッシベーション層(180)との間にカラーフィルタ層(18)が形成され,さらにブラックマトリクス(22)とフォトスペーサ(30)が設置されているTFTアレイ基板(1)と,
第2電極層(24)と前記第2電極層(24)を被覆する第2配向層(29)を有する基板(2)と,
前記TFTアレイ基板(1)の第1配向層(19)と前記基板(2)の第2配向層(29)との間に設置される液晶層(3)と,
を含み,
前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)はいずれも少なくとも1つの分割領域(10,20)に分けられ,それぞれの分割領域は複数の配向領域(100,200)に分けられ,前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)に対応する配向領域(100,200)の所定の配向方向は互いに直交し,
前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)の各配向領域(100,200)に対しそれぞれ異なる方向の直線偏光を採用して照射し,前記各配向領域に対して照射した直線偏光の偏光方向と前記配向方向は同一であり,よって,前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)に各配向領域(100,200)に対応する所定の配向方向を有する配向フィルムを形成する,
ことを特徴とする液晶表示装置。

【請求項6】
前記各分割領域(10,20)は2本の互いに直交する区切り線により4つの配向領域に分けられ,前記4つの配向領域における少なくとも2つの配向領域の所定の配向方向は異なることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。なお,下線は,当合議体が付したものであり,補正箇所を示す。
「液晶表示装置であって,
第1電極層(15)と前記第1電極層(15)を被覆する第1配向層(19)を有し,ガラス基板(11)とパッシベーション層(180)との間にカラーフィルタ層(18)が形成され,さらにブラックマトリクス(22)とフォトスペーサ(30)が設置されているTFTアレイ基板(1)と,
第2電極層(24)と前記第2電極層(24)を被覆する第2配向層(29)を有する基板(2)と,
前記TFTアレイ基板(1)の第1配向層(19)と前記基板(2)の第2配向層(29)との間に設置される液晶層(3)と,
を含み,
前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)はいずれも少なくとも1つの分割領域(10,20)に分けられ,それぞれの分割領域は複数の配向領域(100,200)に分けられ,前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)に対応する配向領域(100,200)の所定の配向方向は互いに直交し,
前記各分割領域(10,20)は2本の互いに直交する区切り線により4つの配向領域に分けられ,前記4つの配向領域における少なくとも2つの配向領域の所定の配向方向は異なり,
前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)の各配向領域(100,200)に対しそれぞれ異なる方向の直線偏光を採用して照射し,前記各配向領域に対して照射した直線偏光の偏光方向と前記配向方向は同一であり,よって,前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)に各配向領域(100,200)に対応する所定の配向方向を有する配向フィルムを形成し,
前記4つの配向領域のそれぞれにおいて,前記4つの配向領域の中心位置に向かう方向に配向する液晶分子または前記4つの配向領域のそれぞれにおいて,前記4つの配向領域の中心位置から離れる方向に配向する液晶分子を備えることを特徴とする液晶表示装置。」

2 補正の適否
特許請求の範囲の請求項1についてした本件補正は,本件補正前の請求項6に係る発明を特定するために必要な事項である,「4つの配向領域」を,「前記4つの配向領域のそれぞれにおいて,前記4つの配向領域の中心位置に向かう方向に配向する液晶分子または前記4つの配向領域のそれぞれにおいて,前記4つの配向領域の中心位置から離れる方向に配向する液晶分子を備える」ものに限定するものである。また,本件補正前の請求項6に係る発明と,本件補正後の請求項1に係る発明の,産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
そうしてみると,特許請求の範囲の請求項1についてした本件補正は,特許法17条の2第5項1号の請求項の削除及び同項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が,同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討すると,以下のとおりとなる。

3 本件補正後発明
本件補正後発明は,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりのものである(前記1(2)参照。)。

4 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された国際公開第2010/116565号(以下「引用文献1」という。)は,本件出願の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「技術分野
[0001]本発明は,液晶表示装置,光重合体膜形成用組成物,液晶層形成用組成物,及び,液晶表示装置の製造方法に関する。
…(省略)…
背景技術
[0002]液晶表示装置は,複屈折性を有する液晶分子の配向を制御することにより光の透過/遮断(表示のオン/オフ)を制御する表示パネルである。
…(省略)…
[0004]MVAモードの液晶表示装置では,電圧を印加していない状態では液晶分子が基板面に対して垂直に配向しており,画素電極と共通電極との間に電圧を印加すると,液晶分子は電圧に応じた角度で傾斜して配向する。このとき,画素電極に設けられたスリットや土手状の突起物により,1画素内に液晶分子の倒れる方向が相互に異なる複数の領域(ドメイン)が形成される。このように1画素内に液晶分子の倒れる方向が相互に異なる複数の領域を形成することにより,良好な表示特性を得ることができる。
[0005]…(省略)…しかし,土手状の突起物同士の間隔,又は,スリット同士の間隙が非常に広いと,液晶分子の傾斜の伝播に時間がかかるようになり,表示のために必要な電圧を液晶層に印加したときの液晶分子の応答が非常に遅くなる。
[0006]この応答の遅れを改善する方法としては,重合可能なモノマーを含む液晶材料を基板間に注入し,電圧を印加した状態でモノマーを重合させて,液晶分子の倒れる方向を記憶させた重合体膜を配向膜上に形成する技術(以下,「PSA(Polymer Sustained Alignment)技術」ともいう。)が導入されている(例えば,特許文献2参照。)。
…(省略)…
発明の効果
[0041]本発明によれば,光重合性モノマーの重合性官能基の反応性に優れた光重合体膜を配向膜上に有するので,応答速度の高速化を実現するとともに,焼き付きの低減された液晶表示装置を得ることができる。」

イ 「[0044]実施形態1
…(省略)…
[0053]図3は,実施形態1の液晶表示装置を示す断面模式図である。図3に示すように実施形態1の液晶表示装置は,TFT基板10と,対向基板20と,TFT基板10及び対向基板20からなる一対の基板間に狭持された液晶層30とを備える。
[0054]TFT基板10は,ガラス等を材料とする絶縁性の透明基板11を有し,更に,透明基板11上に形成された各種配線,画素電極13,TFT等を備える基板である。また,上記各種配線及びTFT上に形成された絶縁膜12,更に,絶縁膜12上に複数の画素電極13を備える。画素電極13は,各々が小さな画素を構成し,各画素電極13は,それぞれが一定の間隔を空けてマトリクス状に配置される。画素電極13は,絶縁膜12内に設けられたコンタクトホールを介してTFTのドレイン電極と接続されており,ゲート信号線41の電位が一定電位以上になると,ソース信号線42の電位がTFTのドレイン電極を介して画素電極13に書き込まれる。
[0055]対向基板20は,ガラス等を材料とする絶縁性の透明基板21,及び,該透明基板21上に形成されたカラーフィルタ22,ブラックマトリクス23,共通電極24等を備える基板である。共通電極24は,画素電極13とともに液晶層30を狭持するように配置され,液晶層30内に一定電圧を印加するための電極であり,対向基板20面の全体に形成される。
…(省略)…
[0058]実施形態1の液晶表示装置が備えるカラーフィルタ22は,対向基板20ではなく,TFT基板10に配置されていてもよい。このような形態をカラーフィルタオンアレイ(Color Filter On Array)ともいう。図4は,実施形態1の液晶表示装置の他の一例を示す断面模式図であり,カラーフィルタオンアレイの形態を示す。
…(省略)…
[0107]実施形態4
実施形態4の液晶表示装置は,配向処理方向がTFT基板と対向基板とで直交しているRTN(Reverse Twisted Nematic)モードであり,更に,一つの画素を4つのドメイン(Domain)に分割するタイプ(4D-RTN)である点で実施形態1の液晶表示装置と異なっているが,それ以外は実施形態1の液晶表示装置と同様である。
[0108]図11及び図12は,実施形態4の液晶表示装置において四分割された画素のうちの一つの画素における光配向処理方向と液晶分子のプレチルト方向との関係を示す液晶分子群の斜視模式図である。図11はOFF状態(黒表示)を表し,図12はON状態(白表示)を表す。…(省略)…なお,TFT基板10及び対向基板20はいずれも,垂直配向膜及びPSA膜を液晶層30側の表面に有している。図11及び図12においてTFT基板10及び対向基板20に示されている黒矢印は,液晶分子50のチルト方向を示しており,ラビング方向又は光配向処理方向(光照射方向)でもある。
…(省略)…
[0110]図14は,実施形態4の液晶表示装置に係る光配向処理の様子を示す斜視模式図である。実施形態4の液晶表示装置における配向膜は,光反応性官能基を有する樹脂材料で構成されている。光配向処理によって付与される配向性は,光の照射角度,強度等により調整可能であるため,このように光反応性官能基を有する樹脂材料を用いることで,本実施形態のような一つの画素内で互いに異なる4つの配向方向を規定する4D-RTN(Reverse Twisted Nematic)の形態を容易に得ることができる。
[0111]図14に示すように,入射面に平行に偏光した紫外線(図14中の白抜き矢印)を基板面法線方向から,40?50°傾いた角度から照射することで,下地膜に対して,液晶分子をUVが照射された方向と同じ方向に傾かせる配向性を付与することができる。なお,基板面に対する液晶分子の長軸の傾きの大きさが,液晶層に対して閾値以上の電圧が印加される前の液晶分子の傾き,すなわち,プレチルト角となる。露光は,一括露光により行われてもよいし,スキャン露光により行われてもよい。また,露光方法としては,基板及び光源を固定した状態で照射してもよいし,紫外線を走査させながらの照射であってもよい。図14において点線矢印は,紫外線の走査方向を示す。
[0112]実施形態4においては,このような露光を,TFT基板10側及び対向基板20側のそれぞれにおいて,1つの画素が4分割されるように行われており,これにより4D-RTNが実現されている。
[0113]図15及び図16は,実施形態4の液晶表示装置の画素内に形成するための工程を示す平面模式図である。図15はTFT基板側の光配向方向を示し,図16は対向基板側の光配向方向を示している。
[0114]図15に示すように,TFT基板側の表面に対しては,矩形の画素を長辺方向(縦方向)に二分割するように,かつ,これらの領域における光配向方向が互いに逆向きとなるように光配向処理がなされている。また,図16に示すように,対向基板側の表面に対しては,矩形の画素を短辺方向(横方向)に二分割するように,かつ,これらの領域における光配向方向が互いに逆向きとなるように光配向処理がなされている。
…(省略)…
[0117]図17は,実施形態4において光配向処理されることで形成された配向膜の液晶分子の配向の様子を基板面に対して垂直な方向から見たときの平面模式図である。なお,図17中の液晶分子50は,液晶層の厚み方向における中央部に位置する液晶分子を示している。こうすることで,TFT基板と対向基板との間に閾値以上のAC電圧が印加されると,液晶分子は基板面に対して垂直な方向から見たときに,90°ねじれた構造を有するとともに,図17に示すように,液晶層の厚み方向における中央付近に位置する液晶分子は,4つの領域(図図17中,i?iv)において,互いに直交する4つの方向に配向することになり,その結果,一つの画素の中に,異なる配向状態を有する4ドメインが形成される。
[0118]なお,本発明者らが実際に光反応性官能基を有する材料を基板に塗布し,斜め40°の方向から330nmをセンター波長とするP偏光の紫外線を50mJ/cm^(2)照射したところ,約88°のプレチルト配向性をもつ光配向膜が形成された。」

ウ 図3,図4,図11,図12,図14?図17
図3:

図4:

図11:

図12:

図14:

図15:

図16:

図17:


(2) 引用発明
引用文献1の[0107]?[0117]には,図11?図17とともに「実施形態4の液晶表示装置」が開示されている。また,[0107]の記載からみて,「実施形態4の液晶表示装置」における,配向処理方向及びドメインを除く構成は,「実施形態1の液晶表示装置」([0044]?[0091]及び図1?図4)と同様と理解される。また,[0053]?[0055]及び図4からは,「透明基板11と絶縁膜12の間にカラーフィルタ22及びブラックマトリクス23を備えているカラーフィルタオンアレイの形態」を把握できる。
そうしてみると,引用文献1には,次の「液晶表示装置」の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 TFT基板10と,対向基板20と,TFT基板10及び対向基板20からなる一対の基板間に狭持された液晶層30とを備える液晶表示装置であって,
TFT基板10は,ガラス等を材料とする絶縁性の透明基板11を有し,更に,透明基板11上に形成された各種配線,画素電極13,TFT等を備え,また,各種配線及びTFT上に形成された絶縁膜12,更に,絶縁膜12上に複数の画素電極13を備え,画素電極13は,各々が小さな画素を構成し,透明基板11と絶縁膜12の間にカラーフィルタ22及びブラックマトリクス23を備えているカラーフィルタオンアレイの形態であり,
対向基板20は,ガラス等を材料とする絶縁性の透明基板21,共通電極24等を備える基板であり,
TFT基板10及び対向基板20はいずれも,垂直配向膜及びPSA膜を液晶層30側の表面に有し,
垂直配向膜は,光反応性官能基を有する樹脂材料で構成され,入射面に平行に偏光した紫外線を基板面法線方向から,40?50°傾いた角度から照射することで,液晶分子を紫外線が照射された方向と同じ方向に傾かせる配向性を付与することができ,また,露光方法としては,基板及び光源を固定した状態で照射してもよいし,紫外線を走査させながらの照射であってもよく,
図Aに示すように,TFT基板10側の表面に対しては,矩形の画素を長辺方向に二分割するように,かつ,これらの領域における光配向方向が互いに逆向きとなるように光配向処理がなされ,また,図Bに示すように,対向基板20側の表面に対しては,矩形の画素を短辺方向に二分割するように,かつ,これらの領域における光配向方向が互いに逆向きとなるように光配向処理がなされ,
光配向処理されることで形成された垂直配向膜の液晶分子の配向の様子を基板面に対して垂直な方向から見たときの平面模式図は図Cに示され,液晶層の厚み方向における中央付近に位置する液晶分子は,4つの領域(i?iv)において,互いに直交する4つの方向に配向することになり,その結果,一つの画素の中に,異なる配向状態を有する4ドメインが形成される,
液晶表示装置。
図A:

図B:

図C:



(3) 引用文献2
原査定の拒絶の理由において引用文献2として引用された米国特許出願公開第2005/0140858号明細書(以下「引用文献2」という。)は,本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,判断等に活用した箇所を示す。
ア 「[0002] 1. Technical Field
[0003] The present invention relates to a liquid crystal display device and more particularly, to a liquid crystal display device and a method of manufacturing the same capable of reducing the number of processes by forming a light shielding layer through the use of a mask process used to form a spacer.
[0004] 2. Description of the Related Art
…(省略)…
[0019] Meanwhile, a second transparent substrate 21 is arranged on an upper portion of the first substrate 11 and is separated from the first substrate 11 by a defined distance by the spacer 25.」
(参考訳:[0002] 1. 技術分野
[0003] 本発明は液晶表示装置に係り,特に,スペーサを形成するために使用されるマスクプロセスの使用を介して遮光部を形成して工程数を減らすことができる液晶表示装置及びその製造方法に関する。
[0004] 2. 関連技術の説明
…(省略)…
[0019] また,第2透明基板21が第1基板11の上部に配置され,スペーサ25によって第1基板11から規定距離だけ離隔される。)

イ 「DETAILED DESCRIPTION
[0058]
…(省略)…
[0060] FIG. 3 is a sectional view illustrating a liquid crystal display device having a COT structure according to a first embodiment of the present invention.
…(省略)…
[0070] The spacer 55 and the light shielding layer 53 are simultaneously patterned and formed by the same photolithographic method at a portion corresponding to the thin film transistor 40.
…(省略)…
[0081] Referring to FIG. 7C, an inorganic insulating film such as silicon oxide or silicon nitride is deposited on the source and the drain electrodes 41 and 59, to thereby form the first passivation film 43.
[0082] A photosensitive material capable of filtering red R, green G and blue, e.g., light of red color R, is applied to the first passivation film 43 and then is patterned by an exposure process and a developing process, to thereby form the color filter 45 at the pixel region including the thin film transistor 40.
…(省略)…
[0083] Referring to FIG. 7D, an organic insulating film such as an acrylic organic insulating material or BCB (benzocyclobutene) is coated on the color filter 45, to thereby form the second passivation film 47.
…(省略)…
[0085] Referring to FIG. 7E, a transparent conductive material such as Indium-Tin-Oxide (ITO) or Indium-Zinc-Oxide (IZO) is deposited on the second passivation film 47 and then is patterned by photolithography, to thereby form the pixel electrode 51.」
(参考訳:発明の詳細な説明
[0058]
…(省略)…
[0060]図3は,本発明の第1の実施形態に係るCOT構造を有する液晶表示装置を示す断面図である。
…(省略)…
[0070]スペーサ55と遮光層53は,薄膜トランジスタ40に対応する部分に,同じフォトリソグラフィ法により同時にパターニングされ,形成されている。
…(省略)…
[0081] 図7Cに示されるように,ソース電極41及びドレイン電極59上に酸化シリコン,窒化シリコン等の無機絶縁膜を堆積して第1パッシベーション膜43を形成する。
[0082] 第1保護膜43上には,赤色R,緑色G及び青色(例:赤色Rの光)をフィルタリングすることができる感光性物質が塗布された後,露光工程及び現像工程によってパターニングされて,薄膜トランジスタ40を含む画素領域にカラーフィルタ45を形成する。
…(省略)…
[0083] 図7Dに示すように,アクリル系有機絶縁材料,BCB(ベンゾシクロブテン)等の有機絶縁膜をカラーフィルタ45上にコートすることにより,第2パッシベーション膜47を形成する。
…(省略)…
[0085] 図7Eに示すように,第2パッシベーション膜47上にインジウム酸化スズ(ITO)又はインジウム酸化亜鉛(IZO)等の透明導電物質を蒸着した後,フォトリソグラフィ工程によってパターニングして,画素電極51を形成する。)

ウ 図3,図7C,図7D及び図7E
図3:

図7C:

図7D:

図7E:


(4) 引用文献3
特開2013-225098号公報(以下「引用文献3」という。)は,本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
…(省略)…
【0006】
一つの画素に複数のドメインを形成する以外の他の手段として,配向膜に光を照射して液晶の配向方向を制御する光配向方法がある。
…(省略)…
【発明を実施するための形態】
【0022】
…(省略)…
【0027】
本発明の一実施形態によれば,画素PXは,一つの画素電極191と,対応する液晶表示装置の領域と,を備えていてもよく,画素PXは,プレチルト方向が互いに異なる複数のドメイン(domain)を備えていてもよい。例えば,図1を参照すると,画素PXは,横中心線94及び縦中心線95を境界とする4つのドメイン,第1乃至第4のドメインDa,Db,Dc,Ddを備える。各ドメインDa,Db,Dc,Ddにおけるほとんどの液晶分子302は,平面視で矢印Aa,Ab,Ac,Adで示す方向のプレチルトを有するように配向されてもよい。
…(省略)…
【0044】
紫外線を照射する過程について具体的に説明する。まず,図3を参照すると,第1のパネル100の一部の領域を一方向に1次的に光誘起配向(light-induced orientation)する。
…(省略)…
【0045】
その後,図4を参照すると,第1のパネル100の他の一部の領域を上記とは異なる方向に2次的に露光して第2の光誘起配向を行う。
…(省略)…
【0046】
図5を参照すると,第2のパネル200の一部の領域を一方向に1次的に露光して第3の光誘起配向を行う。
…(省略)…
【0047】
次に,図6を参照すると,第2のパネル200の他の一部の領域を上記とは異なる方向に2次的に露光して第4の光誘起配向を行う。
…(省略)…
【0048】
すると,第1のパネル100と第2のパネル200との間に配置された液晶分子302は,光配向された配向膜130,230によってプレチルトを有することになる。このとき,プレチルトの方向は,上述した第1の配向膜130と第2の配向膜230との光配向方向のベクトル和と実質的に平行であり同じ方向になる。
…(省略)…
【0070】
図14は,本発明の他の実施形態による液晶表示装置の画素を概略的に示す平面図であり,図15及び図16は,図14に示す液晶表示装置を製造する方法の一実施形態を概略的に示す平面図である。
…(省略)…
【0072】
各ドメインDa,Db,Dc,Ddのプレチルト方向Aa,Ab,Ac,Adは,画素電極191の隅部から中心に向かう,または,逆に中心から隅部に向かう方向である。
…(省略)…
【0081】
図17は,本発明の他の実施形態による液晶表示装置の画素を概略的に示す平面図であり,図18及び図19は,図17に示す液晶表示装置を製造する方法の一実施形態を概略的に示す平面図である。
…(省略)…
【0083】
各ドメインDa,Db,Dc,Ddのプレチルト方向Aa,Ab,Ac,Adはいずれも画素電極191の隅部から中心に向かう方向である。」

イ 図1,図3?図7,図14及び図17
図1:

図3:

図4:

図5:

図6:

図7:

図14:

図17:


5 対比及び判断
以下,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者」を,「当業者」という。
(1) 対比
ア TFTアレイ基板(1)
引用発明の「TFT基板10は,ガラス等を材料とする絶縁性の透明基板11を有し,更に,透明基板11上に形成された各種配線,画素電極13,TFT等を備え,また,各種配線及びTFT上に形成された絶縁膜12,更に,絶縁膜12上に複数の画素電極13を備え」,また,「透明基板11と絶縁膜12の間にカラーフィルタ22及びブラックマトリクス23を備えているカラーフィルタオンアレイの形態」のものである。また,引用発明の「液晶表示装置」の「TFT基板10及び対向基板20はいずれも,垂直配向膜及びPSA膜を液晶層30側の表面に有し」ている(以下,「TFT基板10」の表面の「垂直配向膜」と「対向基板20」の表面の「垂直配向膜」を区別するため,それぞれ「TFT基板側垂直配向膜」及び「対向基板側垂直配向膜」という。)。

ここで,上記の各部材の配置からみて,引用発明の「TFT基板10」は,「画素電極13」と「TFT基板側垂直配向膜」を有し,「透明基板11」と「絶縁膜12」との間に「カラーフィルタ22」を備え,さらに「ブラックマトリクス23」を備えたものである。また,これら部材の文言から理解される機能や,液晶表示装置に関する技術常識を勘案すると,引用発明において,「TFT基板10側垂直配向膜」が「画素電極13」を被覆する層状のものであること,及び「TFT基板10」のTFTがアレイ状に配置されていることは明らかである。同様に,「画素電極13」及び「カラーフィルタ22」が層状に形成されたものであること,「絶縁膜12」が保護層(パッシベーション層)としての機能を有することも明らかである。加えて,引用発明の「ガラス等を材料とする絶縁性の透明基板11」は,その上に「各種配線,画素電極13,TFT等」を形成することができる材質のものであるから,事実上,ガラス基板と理解される。そして,引用発明の「TFT基板10」は,「ブラックマトリクス23」を備えているのであるから,「ブラックマトリクス23」が設置されているものと言い換えることができる。

以上勘案すると,引用発明の「画素電極13」,「TFT基板側垂直配向膜」,「透明基板11」,「絶縁層12」,「カラーフィルタ22」,「ブラックマトリクス23」及び「TFT基板10」は,それぞれ本件補正後発明の「第1電極層(15)」,「第1配向層(19)」,「ガラス基板(11)」,「パッシベーション層(180)」,「カラーフィルタ層(18)」,「ブラックマトリクス(22)」及び「TFTアレイ基板(1)」に相当する。
また,引用発明の「TFT基板10」と本件補正後発明の「TFTアレイ基板(1)」は,「第1電極層(15)と前記第1電極層(15)を被覆する第1配向層(19)を有し,ガラス基板(11)とパッシベーション層(180)との間にカラーフィルタ層(18)が形成され,さらにブラックマトリクス(22)」「が設置されている」点で共通する。

イ 基板(2)
引用発明の「対向基板20は,ガラス等を材料とする絶縁性の透明基板21,共通電極24等を備える基板であ」る。また,引用発明の「液晶表示装置」の「TFT基板10及び対向基板20はいずれも,垂直配向膜及びPSA膜を液晶層30側の表面に有し」ている。
前記アと同様に検討すると,引用発明の「共通電極24」,「対向基板側垂直配向膜」及び「対向基板20」は,それぞれ本件補正後発明の「第2電極層(24)」,「第2配向層(29)」及び「基板(2)」に相当する。また,引用発明の「対向基板20」は,本件補正後発明の「基板(2)」の「第2電極層(24)と前記第2電極層(24)を被覆する第2配向層(29)を有する」という要件を満たす。

ウ 液晶層(3)
引用発明の「液晶表示装置」は,「TFT基板10と,対向基板20と,TFT基板10及び対向基板20からなる一対の基板間に狭持された液晶層30とを備え」,「TFT基板10及び対向基板20はいずれも,垂直配向膜及びPSA膜を液晶層30側の表面に有し」ている。
前記アと同様に検討すると,引用発明の「液晶層30」は,本件補正後発明の「液晶層(3)」に相当する。また,引用発明の「液晶層30」は,本件補正後発明の「液晶層(3)」の,「前記TFTアレイ基板(1)の第1配向層(19)と前記基板(2)の第2配向層(29)との間に設置される」という要件を満たす。

エ 分割領域及び配向領域
引用発明の「TFT基板側垂直配向膜」は,「矩形の画素を長辺方向に二分割するように,かつ,これらの領域における光配向方向が互いに逆向きとなるように光配向処理がなされ」,また,「対向基板側垂直配向膜」は,「矩形の画素を短辺方向に二分割するように,かつ,これらの領域における光配向方向が互いに逆向きとなるように光配向処理がなされ」ている。そして,引用発明の「光配向処理されることで形成された垂直配向膜の液晶分子」は,「4つの領域(i?iv)において,互いに直交する4つの方向に配向する」。

ここで,本件補正後発明の「前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)はいずれも少なくとも1つの分割領域(10,20)に分けられ」ていれば足りる(「1つ」でも「分割領域(10,20)に分けられ」といえる。)。そうしてみると,引用発明の「TFT基板側垂直配向膜」及び「対向基板側垂直配向膜」は,「矩形の画素」に対応する領域において,いずれも少なくとも1つの分割領域に分けられている(当合議体注:仮にこの点を相違点にするとしても,8ドメイン等の画素は,例示するまでもなく周知である。)。
また,「矩形」は,「直角四角形」(広辞苑第6版)を意味するから,引用発明において,「矩形の画素を長辺方向に二分割する」分割線と,「矩形の画素を短辺方向に二分割する」分割線は互いに直交し,領域は4つに分けられる。そうしてみると,引用発明のそれぞれの「矩形の画素」に対応する領域は,2本の互いに直交する区切り線により4つの配向領域,すなわち「4つの領域(i?iv)」に分けられていると考えることができる。
加えて,引用発明の「TFT基板側垂直配向膜」及び「対向基板側垂直配向膜」の各領域における「光配向方向」は,上記の関係にある。そうしてみると,引用発明の「TFT基板側垂直配向膜」及び「対向基板側垂直配向膜」に対応する「4つの領域(i?iv)」の「光配向処理がなされ」た所定の配向方向は,互いに直交するとともに,「4つの領域(i?iv)」における少なくとも2つの配向領域の所定の配向方向は異なっている。

以上勘案すると,引用発明の「矩形の画素」に対応する領域,及び「4つの領域(i?iv)」のそれぞれは,本件補正後発明の「分割領域(10,20)」及び「配向領域」に相当する。また,引用発明の「矩形の画素を長辺方向に二分割する」分割線,及び「矩形の画素を短辺方向に二分割する」分割線は,それぞれ本件補正後発明の「2本の互いに直交する区切り線」の一方,及び「2本の互いに直交する区切り線」の他方に相当する。そして,引用発明の「TFT基板側垂直配向膜」及び「対向基板側垂直配向膜」は,本件補正後発明の「第1配向層(19)」及び「第2配向層(29)」における,「前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)はいずれも少なくとも1つの分割領域(10,20)に分けられ,それぞれの分割領域は複数の配向領域(100,200)に分けられ,前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)に対応する配向領域(100,200)の所定の配向方向は互いに直交し」及び「前記各分割領域(10,20)は2本の互いに直交する区切り線により4つの配向領域に分けられ,前記4つの配向領域における少なくとも2つの配向領域の所定の配向方向は異なり」という要件を満たす。

オ 製造方法
引用発明の「垂直配向膜は,光反応性官能基を有する樹脂材料で構成され,入射面に平行に偏光した紫外線を基板面法線方向から,40?50°傾いた角度から照射することで,液晶分子を紫外線が照射された方向と同じ方向に傾かせる配向性を付与することができ」るものである。また,引用発明の「TFT基板側垂直配向膜」は,「矩形の画素を長辺方向に二分割するように,かつ,これらの領域における光配向方向が互いに逆向きとなるように光配向処理がなされ」,また,「対向基板側垂直配向膜」は,「矩形の画素を短辺方向に二分割するように,かつ,これらの領域における光配向方向が互いに逆向きとなるように光配向処理がなされ」ている。
ここで,光配向処理に関する技術常識を勘案すると,引用発明の「偏光した紫外線」は,P偏光の直線偏光である(引用文献1の図14や[0118]の記載からも確認される事項である。)。また,引用発明の上記の「光配向処理」からみて,引用発明の「垂直配向膜」は,「TFT基板側垂直配向膜」と「対向基板側垂直配向膜」の「4つの領域(i?iv)」に対しそれぞれ異なる方向の「偏光した紫外線」を採用して照射する工程を具備する。加えて,引用発明の各「4つの領域(i?iv)」に対して照射した「偏光した紫外線」の直線偏光の偏光方向と,引用発明の「垂直配向膜」の「光配向方向」は同一である。そして,引用発明においては,上記の光配向処理によって,「TFT基板側垂直配向膜」と「対向基板側垂直配向膜」に「4つの領域(i?iv)」に対応する所定の配向方向を有する,フィルム状の「垂直配向膜」を形成している。
そうしてみると,引用発明の「紫外線」及び「垂直配向膜」は,本件補正後発明の「直線偏光」及び「配向フィルム」に相当する。また,引用発明の「光配向処理」は,本件補正後発明の「前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)の各配向領域(100,200)に対しそれぞれ異なる方向の直線偏光を採用して照射し,前記各配向領域に対して照射した直線偏光の偏光方向と前記配向方向は同一であり,よって,前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)に各配向領域(100,200)に対応する所定の配向方向を有する配向フィルムを形成し」という要件を満たす処理といえる。

カ 液晶表示装置
上記ア?オの対比結果,並びに,本件補正後発明及び引用発明の全体の構成からみて,引用発明の「液晶表示装置」は本件補正後発明の「液晶表示装置」に相当する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「液晶表示装置であって,
第1電極層(15)と前記第1電極層(15)を被覆する第1配向層(19)を有し,ガラス基板(11)とパッシベーション層(180)との間にカラーフィルタ層(18)が形成され,さらにブラックマトリクス(22)が設置されているTFTアレイ基板(1)と,
第2電極層(24)と前記第2電極層(24)を被覆する第2配向層(29)を有する基板(2)と,
前記TFTアレイ基板(1)の第1配向層(19)と前記基板(2)の第2配向層(29)との間に設置される液晶層(3)と,
を含み,
前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)はいずれも少なくとも1つの分割領域(10,20)に分けられ,それぞれの分割領域は複数の配向領域(100,200)に分けられ,前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)に対応する配向領域(100,200)の所定の配向方向は互いに直交し,
前記各分割領域(10,20)は2本の互いに直交する区切り線により4つの配向領域に分けられ,前記4つの配向領域における少なくとも2つの配向領域の所定の配向方向は異なり,
前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)の各配向領域(100,200)に対しそれぞれ異なる方向の直線偏光を採用して照射し,前記各配向領域に対して照射した直線偏光の偏光方向と前記配向方向は同一であり,よって,前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)に各配向領域(100,200)に対応する所定の配向方向を有する配向フィルムを形成する,
液晶表示装置。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は,次の点で相違する。
(相違点1)
「TFTアレイ基板(1)」が,本件補正後発明は「フォトスペーサー(30)」が設置されているものであるのに対して,引用発明は,このように特定されたものではない点。

(相違点2)
「4つの配向領域」について,本件補正後発明は,「前記4つの配向領域のそれぞれにおいて,前記4つの配向領域の中心位置に向かう方向に配向する液晶分子または前記4つの配向領域のそれぞれにおいて,前記4つの配向領域の中心位置から離れる方向に配向する液晶分子を備える」という構成を具備するのに対して,引用発明は,これとは異なる構成を具備する点。

(3) 判断
ア 相違点1について
引用文献2の図3,図7E,[0060],[0070]及び[0085]の記載からは,液晶表示装置において,薄膜トランジスタが設けられた側の基板に,フォトリソグラフィ法によりスペーサを形成する技術が開示されている(以下「引用文献2記載技術」という。)。また,このスペーサが,液晶表示装置における2つの基板を規定距離だけ隔離させるためのものであることは,液晶表示装置における技術常識である(引用文献2の[0019]の記載からも理解されるところである。)。
そして,引用発明の液晶表示装置においても,「TFT基板10」と「対向基板20」を規定距離だけ離間させる必要があることを勘案すると,引用発明において,引用文献2記載技術を採用することは,当業者が容易に発明をすることができた事項である。また,このようにしてなる引用発明の「TFT基板10」は,「フォトスペーサー」と称しうるものが配置されたものとなるから,相違点1に係る本件補正後発明の構成を具備したものとなる。

イ 相違点2について
技術的にみて,引用発明の「4つの領域(i?iv)」の「配向方向」は,「一つの画素の中に,異なる配向状態を有する4ドメインが形成される」限り,どのような組み合わせのものであっても構わない。すなわち,引用発明の「4つの領域(i?iv)」の「配向方向」は,引用文献1の図17あるいは引用文献3の図1から看取されるような配向方向の組み合わせであるが,引用文献3の図14や図17から看取されるような配向方向の組み合わせであっても,原理上,液晶表示装置の表示特性は,改善される。
そして,引用発明の「4つの領域(i?iv)」の「配向方向」は,「光配向処理」によって作製されるものであるから,「TFT基板10側の表面に対しては,矩形の画素を長辺方向に二分割するように,かつ,これらの領域における光配向方向が互いに逆向きとなるように光配向処理がなされ」,「対向基板20側の表面に対しては,矩形の画素を短辺方向に二分割するように,かつ,これらの領域における光配向方向が互いに逆向きとなるように光配向処理がなされ」とされる,「光配向方向」の組み合わせを変えることにより,配向方向の組み合わせを自在に変化させることができる。
(当合議体注:引用発明では,図Aの左側が上方向,右側が下方向,図Bの上側が右方向,下側が左方向の光配向処理が施されているが,例えば,図Aの左側を下方向,右側を上方向に変えると,引用文献3の図14と同じ4ドメインの配置となる。また,図Aの左側を右方向,右側を左方向,図Bの上側を下方向,下側を上方向に変えると,引用文献3の図17と同じ4ドメインの配置となる。さらに,図Aの左側を左方向,右側を右方向,図Bの上側を上方向,下側を下方向に変えると,引用文献3の図17とは逆の(画素電極の中心から隅部に向かう)4ドメインの配置となる。)
以上勘案すると,引用発明において,「4つの領域(i?iv)」の「配向方向」を,相違点2に係る本件補正後発明の要件を満たすものとすることは,4つのドメインの配向方向の単なる組み替えににすぎない。

(4) 発明の効果について
本件補正後発明の効果は,本件出願の明細書の【0019】,【0021】及び【0022】に記載されたものと認められる。
しかしながら,【0019】,【0021】及び【0022】に記載された効果は,引用発明も奏する効果である。
なお,【0020】に記載された効果は,配向層の設計方法に関する効果であるから,本件補正後発明の効果とは認められない。念のため検討するとしても,【0020】に記載された効果は,原理的にみて明らかな効果に過ぎない(引用文献3の記載からも確認できる効果である。)。
また,【0023】に記載された効果は,特許請求の範囲(の請求項1の)に記載に基づくものではないから,本件補正後発明の効果とは認められない。

(5) 予備的な見解
ア パッシベーション層(180)
引用文献1には,「絶縁層12」が保護層(パシベーション層)として機能することについて,明示的な記載がない。
しかしながら,仮にこの点を相違点とするとしても,このような構成は,カラーフィルタオンアレイにおける周知の構成にすぎない(引用文献2の[0083]及び図7Dからも確認できる構成である。)。

イ それぞれ異なる方向の直線偏光
本件補正後発明の「前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)の各配向領域(100,200)に対しそれぞれ異なる方向の直線偏光を採用して照射し」という構成は,文言上は,「前記第1配向層(19)の4つの配向領域(100)に対しそれぞれ異なる方向の直線偏光を採用して照射し,かつ前記第2配向層(29)の4つの配向領域(200)に対しそれぞれ異なる方向の直線偏光を採用して照射し」と解釈することもできる。
しかしながら,このように解釈すると,本件出願の明細書から,本件補正後発明に対応する実施例がなくなってしまう。
実施例1?実施例3との整合を考慮すると,本件補正後発明の上記構成は,前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)の各配向領域(100,200)に対し採用される直線偏光の方向の組み合わせが,それぞれ異なっていることを意味すると解するのが相当である。
仮にそうでないとしても,前記(3)で述べたとおり,4つのドメインの配向方向の単なる組み替えにすぎない。

(6) 小括
本件補正後発明は,引用文献1に記載された発明,並びに,引用文献2及び引用文献3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(7) 上申書について
請求人は,平成30年11月20日付け上申書において,次の補正案を提示している(以下「補正案発明」という。)。なお,下線は当合議体が付したものであり,本件補正後発明と異なる記載箇所を示す。
「液晶表示装置であって,
第1電極層(15)と前記第1電極層(15)を被覆する第1配向層(19)を有し,ガラス基板(11)とパッシベーション層(180)との間にカラーフィルタ層(18)が形成され,さらにブラックマトリクス(22)とフォトスペーサ(30)が設置されているTFTアレイ基板(1)と,
第2電極層(24)と前記第2電極層(24)を被覆する第2配向層(29)を有する基板(2)と,
前記TFTアレイ基板(1)の第1配向層(19)と前記基板(2)の第2配向層(29)との間に設置される液晶層(3)と,
を含み,
前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)はいずれも少なくとも1つの分割領域(10,20)に分けられ,それぞれの分割領域は複数の配向領域(100,200)に分けられ,前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)に対応する配向領域(100,200)の所定の配向方向は互いに直交し,
前記各分割領域(10,20)は2本の互いに直交する区切り線により4つの配向領域に分けられ,前記4つの配向領域における少なくとも2つの配向領域の所定の配向方向は異なり,
前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)の各配向領域(100,200)に対しそれぞれ異なる方向の直線偏光を採用して照射し,前記各配向領域に対して照射した直線偏光の偏光方向と前記配向方向は同一であり,よって,前記第1配向層(19)と前記第2配向層(29)に各配向領域(100,200)に対応する所定の配向方向を有する配向フィルムを形成し,
前記第1の配向層(19)に偏光方向が横方向の前記区切り線に向かう前記直線偏光と前記第2の配向層(29)に偏光方向が縦方向の前記区切り線に向かう前記直線偏光とを照射することにより,前記4つの配向領域のそれぞれにおいて,前記4つの配向領域の中心位置に向かう方向に配向する液晶分子,または前記第1の配向層(19)に偏光方向が横方向の前記区切り線から離れる前記直線偏光と前記第2の配向層(29)に偏光方向が縦方向の前記区切り線から離れる前記直線偏光とを照射することにより,前記4つの配向領域のそれぞれにおいて,前記4つの配向領域の中心位置から離れる方向に配向する液晶分子を備えることを特徴とする液晶表示装置。」

しかしながら,補正の却下の決定に先だって補正の機会を与えることは,妥当であるとはいえない。
仮に補正案発明について検討するとしても,前記(3)イで述べたとおりであるから,補正案発明は,当業者が容易に発明をすることができたものである。
いずれにせよ,補正案を採用することはできない。

6 補正の却下の決定のむすび
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて適用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,[補正の却下の決定]のとおり,決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明について
本件補正は,上記のとおり却下されたので,本件出願の請求項6に係る発明は,平成29年8月22日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項6に記載された事項によって特定されるとおりのものである(前記「第2」[理由]1(1)参照,以下「本願発明」という。)。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,本願発明は,本件優先日前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
原査定の拒絶の理由において引用された文献は,前記引用文献1及び引用文献2である。

3 引用文献の記載及び引用発明
引用文献1及び引用文献2の記載,並びに,引用発明は,前記「第2」[理由]4(1)?(3)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,前記「第2」[理由]5で検討した本件補正後発明から,「前記4つの配向領域のそれぞれにおいて,前記4つの配向領域の中心位置に向かう方向に配向する液晶分子または前記4つの配向領域のそれぞれにおいて,前記4つの配向領域の中心位置から離れる方向に配向する液晶分子を備える」という限定事項を削除したものである。
そうしてみると,本件補正後発明は,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する。そして,本件補正後発明は,前記「第2」[理由]6に記載したとおり,引用文献1に記載された発明,並びに,引用文献2及び引用文献3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。加えて,本願発明は,上記の限定事項に係る構成,すなわち前記「第2」[理由]5(2)で述べた相違点2に係る本件補正後発明の構成を具備しない(引用文献3を考慮する必要がない。)。
したがって,本願発明は,引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-05-17 
結審通知日 2019-05-21 
審決日 2019-06-04 
出願番号 特願2016-542712(P2016-542712)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02F)
P 1 8・ 575- Z (G02F)
P 1 8・ 572- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三笠 雄司鈴木 俊光外山 未琴  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 高松 大
樋口 信宏
発明の名称 液晶表示装置及びその製造方法  
代理人 山田 卓二  
代理人 山尾 憲人  
代理人 柳橋 泰雄  

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