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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L |
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管理番号 | 1356316 |
審判番号 | 不服2018-638 |
総通号数 | 240 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-01-17 |
確定日 | 2019-10-17 |
事件の表示 | 特願2016-111934「流路部材、これを用いた熱交換器および電子部品装置ならびに半導体製造装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月23日出願公開、特開2016-171343〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成23年12月6日(優先権主張平成23年7月28日)に出願した特願2011-266998号の一部を平成28年6月3日に新たな特許出願としたものであって、平成29年2月28日付けで拒絶理由通知がなされ、同年5月12日付けで補正書と意見書が提出されたが、同年10月11日付けで拒絶査定がされた。これに対して平成30年1月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、手続補正書が提出され、当審において平成31年3月18日付けで拒絶理由通知がなされ、令和1年5月16日付けで意見書と手続補正書が提出されたものである。 2.本願発明 本願の特許請求の範囲は、令和1年5月16日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された、次のとおりのものである。 「【請求項1】 セラミックスからなる、蓋体部と、側壁部と、底板部とで構成され、内部に流体が流れる流路を有する流路部材であって、 前記側壁部は、前記流路を形成するための孔を有する板状体を複数備えてなる積層体であり、流体が流れる方向に沿って延びる凹凸を有し、 前記流体が流れる方向に対して垂直な断面において、前記蓋体部および前記側壁部、または前記底板部および前記側壁部で構成される、複数ある前記流路のコーナ部の少なくとも1つは、該コーナ部を構成する前記側壁部における前記流路側に面する部分が湾曲面状であることを特徴とする流路部材。 【請求項2】 前記流路を構成する隔壁部を備えるとともに、該隔壁部を形成する面の少なくとも一部に流体が流れる方向に沿って延びる凹凸を有することを特徴とする請求項1に記載の流路部材。 【請求項3】 前記側壁部の厚みが、前記隔壁部の厚みより薄いことを特徴とする請求項2に記載の流路部材。 【請求項4】 前記流路を形成する面に、流体が流れる方向に沿って延びる凹凸を断続的に有していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の流路部材。 【請求項5】 請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の前記流路部材の前記蓋体部の外面に、金属板を設けてなることを特徴とする熱交換器。 【請求項6】 請求項5に記載の前記熱交換器の前記金属板上に電子部品を搭載してなることを特徴とする電子部品装置。 【請求項7】 請求項5に記載の前記熱交換器を備え、該熱交換器における前記金属板上が半導体の製造領域であることを特徴とする半導体製造装置。」 3.当審の拒絶の理由 当審において平成31年3月18日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。 3-1.理由1(進歩性) 本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2乃至4に記載の周知の技術事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、 本件出願の請求項2?6に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明、引用文献2乃至4に記載の周知の技術事項及び引用文献5に記載の技術事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、 本件出願の請求項7?9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明、引用文献2乃至4に記載の周知の技術事項、引用文献5に記載の技術事項、及び引用文献6に記載の技術事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引 用 文 献 等 一 覧 1.特開平02-121355号公報 2.特開平09-304321号公報(周知技術を示す文献) 3.特開2007-246321号公報(周知技術を示す文献) 4.特開2009-283732号公報(周知技術を示す文献) 5.特開2011-17516号公報 6.特開2002-329938号公報 3-2.理由2(サポート要件) 本件出願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)請求項1には、流路のコーナ部の少なくとも一部は、「凹曲面」を有すると記載されている。 しかしながら、発明の詳細な説明には、コーナ部5の形状を「湾曲面状」にすることは記載されているが、「凹曲面」にすることは何ら記載されていない。 よって、請求項1ないし9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 (2)請求項1には、流体が流れる方向に対して垂直な断面において、前記蓋体部および前記側壁部、または前記底板部および前記側壁部で構成される前記流路の「コーナ部の少なくとも一部」と記載されている。 しかしながら、発明の詳細な説明には、蓋体部1aと側壁部1cおよび底板部1bと側壁部1cとで構成される流路3の「コーナ部5」とは記載されているものの、「コーナ部の少なくとも一部」とまでは記載されていない。 よって、請求項1ないし9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 3-3.理由3(明確性) 本件出願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)請求項1の「流体が流れる方向に対して垂直な断面において、前記蓋体部および前記側壁部、または前記底板部および前記側壁部で構成される前記流路のコーナ部の少なくとも一部」とは、コーナ部のうちどこを指しているのかが不明である。(請求項1は、四つのコーナ部のうち少なくとも一つのコーナ部全体のことを指しているのか、また、一つのコーナ部の奥行きも考慮すると、当該奥行きのどこか一部を指しているのかが不明である。) よって、請求項1ないし9に係る発明は、明確でない。 (2)請求項9の「半導体製造装置」の構成が何も記載されておらず不明であり、また、当該「製造装置」のどこに「熱交換器を備える」のかも不明である。 よって、請求項9に係る発明は、明確でない。 4.当審の判断 4-1.理由1(進歩性)について (1)引用発明・引用文献の技術 ア.引用文献1 当審で通知した拒絶理由に引用された引用文献1には、図面とともに以下の記載がある。(下線部は当審において付加した。以下同じ) (ア)「<産業上の利用分野> 本発明はIC等の半導体装置などを実装するための基板に関し、更に詳しくは、シート状セラミックスを多層に積層した基板に関する。」(公報1頁左下欄14-17行) (イ)「<実施例> 第1図は本発明実施例の外観図で、第2図はその分解斜視図である。 基板は3層のアルミナ等のシート状セラミックス1,2および3を積層して形成されており、その内部に基板表面に沿ってコ字形に伸びる冷媒通路4が形成されている。そして、この冷媒通路4は、基板の端面において冷媒入口5および冷媒出口6に連通している。 冷媒通路4と冷媒入口5、出口6は、最上の第1層1と最下の第3層3で挟まれた第2層2にコ字形の刳り貫き部2aを設けることによって形成される。 すなわち、各層の積層前のグリーンシートの状態において、第2層2に刳り貫き部2aを形成するわけである。その製法は、例えば通常の多層基板と同様に、グリーンシートから第1?第3層1?3を基板の大きさにあわせて切り出し、このうち第2層2を打ち抜いて刳り貫き部2aを形成した後、各層を積層して焼成する。あるいは、第2層2は刳り貫き部2aによって実質的には2葉(2a,2b)となるから、これらの各葉2a,2bをグリーンシートから個別に切り出して位置合わせをして積層してもよい。 以上の本発明実施例において、冷媒入口5と冷媒出口6に適当な口金等を固着し、冷却水等を冷媒通路4内に導いて循環させることによって基板全体が冷却され、例えば第1層1上に装着されたIC等からの熱を有効に奪うことができる。」(公報2頁左上欄10-右上欄18行) (ウ)「第3図は本発明の他の実施例の外観図で、第4図はその分解斜視図である。 この例では、4層のシート状セラミックス11?14を積層して基板を形成しており、冷媒通路15は中間層である第2および第3層12および13の双方にまたがって形成され、基板端面の冷媒入口16と冷媒出口17に連通している。 すなわち、第2層12にはその一端面に冷媒入口・出口16・17に対応する刳り貫き部12a・12bと、これと所定の距離を隔てて上述の一端面に平行に伸びる刳り貫き部12cが形成され、また、第3層13には、第2層12の刳り貫き部12a,12b間のピッチと等しいピッチで互いに平行に伸びる2つの刳り貫き部13a,13bが形成されている。 そして、この第2、第3層12,13を挟んで第1、第4層11,14が積層され、この積層状態で各刳り貫き部が12a→13a→12c→13b→12bと互いに連通するよう構成されている。 以上のように冷媒通路15を複数層に亘って形成することにより、4層以上の多層の基板に対しても充分な冷却効果が得られる。また、適当に刳り貫き部を層間で分担させることで、第1図、第2図に示した例のように刳り貫き部を形成することによりシートが2葉に分離されることがなく、積層時の位置合わせが容易になるという効果もある。」(公報2頁右上欄19-右下欄5行) (エ)「 」 ・上記(ウ)には、4層のシート状セラミックス11?14を積層して基板を形成し、冷媒通路15が中間層である第2および第3層12および13の双方にまたがって形成されること、さらに、第2、第3層12,13を挟んで第1、第4層11,14が積層し、この積層状態で各刳り貫き部が12a→13a→12c→13b→12bと互いに連通することで複数層に亘って冷媒通路15が形成されることが記載されている。 してみると、引用文献1には、4層のシート状セラミックス11、12、13、14を順に積層し、中間層である第2層12および第3層13の各刳り貫き部が12a→13a→12c→13b→12bと互いに連通することで複数層に亘って冷媒通路15が形成される基板が記載されているといえる。 ・上記(ウ)には、第2層12にはその一端面に冷媒入口・出口16・17に対応する刳り貫き部12a・12bと、これと所定の距離を隔てて上述の一端面に平行に伸びる刳り貫き部12cが形成され、また、第3層13には、第2層12の刳り貫き部12a,12b間のピッチと等しいピッチで互いに平行に伸びる2つの刳り貫き部13a,13bが形成されていることが記載されている。 また、上記(エ)の図4によれば、刳り貫き部12c、及び刳り貫き部13a、13bは、孔状であることが看取できる。 してみると、引用文献1には、第2層12にはその一端面に冷媒入口・出口16、17に対応する刳り貫き部12a、12bと、これと所定の距離を隔てて上述の一端面に平行に伸びる孔状の刳り貫き部12cが形成され、第3層13には、第2層12の刳り貫き部12a、12b間のピッチと等しいピッチで互いに平行に伸びる2つの孔状の刳り貫き部13a、13bが形成されていることが記載されているといえる。 以上総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。 「4層のシート状セラミックス11、12、13、14を順に積層し、中間層である第2層12および第3層13の各刳り貫き部が12a→13a→12c→13b→12bと互いに連通することで複数層に亘って冷媒通路15が形成される基板であって、 第2層12にはその一端面に冷媒入口・出口16、17に対応する刳り貫き部12a、12bと、これと所定の距離を隔てて上述の一端面に平行に伸びる孔状の刳り貫き部12cが形成され、 第3層13には、第2層12の刳り貫き部12a、12b間のピッチと等しいピッチで互いに平行に伸びる2つの孔状の刳り貫き部13a、13bが形成されている、 基板。」 イ.引用文献2 当審で通知した平成31年1月17日付け拒絶理由に引用された引用文献2には、図面とともに以下の記載がある。 (ア)「【0061】次に,上記積層体200を5kgf/cm2 にて加圧する。次いで,上記積層体200を温度1500℃,2時間で焼成する。これにより上記突出部231が若干溶融し,窓部290に沿って弧状の傾斜面を有する応力緩和部が形成された。よって,図5に示すごとく,空洞部29を有する,上記セラミック積層体2を得た。その他は,実施形態例1と同様である。 【0062】ところで,従来,空洞部を有するセラミック積層体においては,特に空洞部の四隅に角部が形成されやすく,熱応力がここに集中し,上記角部を起点として剥離,割れが生じるという問題があった。 【0063】本例のセラミック積層体2においては,上記空洞部29に面する位置に,上記応力緩和部20を設けてある。よって,熱応力の集中する部分を除去することができる。また,上記応力緩和部20は,熱応力の大きさを減少することができる。これにより,空洞部29を有するセラミック積層体2における,熱応力を原因とする,割れ,剥離を防止することができる。 【0064】また,本例の接合層23は,アルミナとジルコニアの双方を含有している。このため,接合層23の熱膨張係数は第一セラミック体21と第二セラミック体22との中間の値となる。このため,隣接する各層の熱膨張係数の差が小さくなるため熱応力が小さくなる。その他は,実施形態例1と同様の作用効果を有する。」 (イ)「 」 上記記載事項によれば、引用文献2には、以下の技術事項が開示されていると認められる。 「空洞部29に面する位置に,弧状の傾斜面を有する応力緩和部20を設け、セラミック積層体の空洞部の四隅の応力の集中を除去すること。」 ウ.引用文献4 当審で通知した平成31年1月17日付け拒絶理由に引用された引用文献4には、図面とともに以下の記載がある。 (ア)「【0015】 以下、本実施形態にかかる回路基板10について、各構成要素に分けて詳細に説明する。 <回路基板> (誘電体基板) 誘電体基板1は、冷媒流路となるべき第1の凹部1aを有する。 【0016】 誘電体基板1を構成する材料としては、酸化アルミニウム(Al2O3)質焼結体、ムライト(3Al2O3・2SiO2)質焼結体、炭化珪素(SiC)質焼結体、窒化アルミニウム(AlN)質焼結体、窒化珪素(Si3N4)質焼結体、ガラスセラミックス等のセラミック材料、又はポリイミド等の高耐熱の樹脂材料等の絶縁材料を用いることもできる。 【0017】 誘電体基板1は、セラミック材料からなる場合、樹脂材料等の絶縁材料と比較して、剛性や耐熱性、腐食性に優れる。また、セラミック材料は、樹脂材料よりも剛性に優れることから、従来よりも高圧力で冷媒を流路に供給した場合であっても、当該水圧で誘電体基板1が変形することを抑制でき、以って、後述する第1の金属板2、第2の金属板3との接合信頼性を高めることができる。」 (イ)「【0040】 第1変形例の回路基板10を図3に示す。 【0041】 第1変形例と本実施形態との相違点は、冷媒流路1aの形状である。すなわち、第1変形例に示す回路基板10では、その冷媒流路1aの形状が、第1の凹部1aの底部から第1の金属に向かって広がるものである。 【0042】 第1変形例は、冷媒流路の断面積が、図2に示す実施形態と同一である場合、図2に示す実施形態よりも、冷媒流路1aの底面と側壁面のなす角度が大きいので底面と側壁面のコーナー部に加わる応力が小さくなり、コーナー部にクラックが生じることを抑制できる。 【0043】 なお、第1変形例に示す冷媒流路1aの形状は、誘電体基板1をブラスト処理することにより容易に形成できるため、回路基板10の大量生産に適する。また、ブラストにより形成した冷媒流路1aは各コーナー部にRが形成されるため、誘電体基板1の冷媒流路1aの角部に応力が集中しにくいので好ましい。」 (ウ)「 」 上記記載事項によれば、引用文献4には、以下の技術事項が開示されていると認められる。 「冷媒流路1aは各コーナー部にRが形成すると、誘電体基板1の冷媒流路1aの角部に応力が集中しにくいこと。」 エ.引用文献5 当審で通知した平成31年1月17日付け拒絶理由に引用された引用文献5には、図面とともに以下の記載がある。 (ア)「【0012】 実施の形態1. ・・・中略・・・ 【0014】 3枚の放熱プレート13は、銅、アルミ及び鉄などのロウ付け或いはハンダ付けが可能で且つ熱伝導性の良い材料で作製され、各々長方形の平板状を成し、長手方向ほぼ全長にわたって多数のスリット状の長孔21が概略平行に穿孔されている。3枚の放熱プレート13は、積層されて積層体を構成する。このとき、放熱プレート13の長孔21は位置が一致し、図5に示すように積層方向に連通する。なお、放熱プレート13の長孔21の加工方法としては、プレス加工、レーザーカット加工、エッチング加工等がある。 ・・・中略・・・ 【0016】 そして、本実施の形態のプレート積層型冷却装置においては、長孔21の側面に、冷媒の流通方向に沿う移動に対して流通方向(流通軸線)と直交する方向に出入りするような凹凸21aが形成されている。凹凸21aは、断面形状が連続する複数の三角形の凹凸であり、対向する両側面に概ね同じ形状で形成され、両者間に形成される流路幅がほぼ一定となるように相互にピッチを一致させ流路幅だけ離れて相互に組み合っている。 ・・・中略・・・ 【0020】 以上のように、本実施の形態のプレート積層型冷却装置においては、冷媒の流通方向に沿う移動に対して流通方向と直交する方向に出入りするような凹凸21aが形成されているので、伝熱面積が拡大し、冷却性能が向上する。また、冷媒が凸部に衝突しながら流れるため、衝突噴流による冷却性能の向上効果もある。」 (イ)「【0031】 実施の形態5. 図10は、実施の形態5のプレート積層型冷却装置の放熱プレートの積層体の平面図である。図11は、図10のC-C線に沿う矢視断面図である。本実施の形態のプレート積層型冷却装置の積層体は、実施の形態1と同様に3枚の放熱プレート13が積層されてなるが、中央の放熱プレート13に形成された長孔27は、上下に重なる放熱プレート13の長孔21に対して冷媒の流通方向と直交する方向(放熱プレート13の短手方向)にずれている。なお、そのずれ量は、長孔21の幅以下の大きさである。そのため、長孔21と長孔27とは、ずれた状態で連通している。 【0032】 このように、本実施の形態のプレート積層型冷却装置においては、放熱プレート13は複数枚が積層され、積層方向に隣接する2枚の放熱プレート13は、互いに穿孔された長孔21,27が、冷媒の流通方向と直交する方向にずれて連通するように形成されている。そのため、流路の断面が長方形ではなくカギ形となり、伝熱面積が広がるので、更に冷却性能が向上する。」 (ウ)「 」 (エ)「 」 ・上記(イ)、図10(上記(ウ))、及び図11(上記(エ))に記載の実施の形態5において放熱プレート13は、実施の形態1と同様なものであって、上記(ア)及び図10によれば、長孔21が形成され、長孔21の側面に冷媒の流通方向に沿う移動に対して流通方向と直交する方向に出入りするような凹凸21aが形成されることで、伝熱面積が拡大し、冷却性能が向上させている。 上記記載事項(特に実施の形態5に注目)によれば、引用文献5には、以下の技術事項が開示されていると認められる。 「放熱プレート13の長孔21の側面に冷媒の流通方向に沿う移動に対して流通方向と直交する方向に出入りするような凹凸21aを形成し、さらに、積層方向に隣接する2枚の放熱プレート13は、互いに穿孔された長孔21、27が、冷媒の流通方向と直交する方向にずれて連通するように形成され流路の断面が長方形ではなくカギ形とすることで、伝熱面積を広げ、冷却性能が向上させること。」 (2)対 比 本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と引用発明とを対比する。 引用発明の「冷媒通路15」は、本願発明の「内部に流体が流れる流路」に相当する。 引用発明の「第2層のシート状セラミックス12」と「第3層のシート状セラミックス13」は、それぞれの刳り貫き部によって冷媒通路を形成しているから、本願発明の「セラミックスからなる、側壁部」及び「前記側壁部は、前記流路を形成するための孔を有する板状体を複数備えてなる積層体」に相当する。 また、引用発明の「第1層のシート状セラミックス11」及び「第4層のシート状セラミックス14」は、冷媒通路の上下に形成されるものであるから、本願発明の「セラミックスからなる、蓋体部」及び「底板部」に相当する。 そして、引用発明の「4層のシート状セラミックス11、12、13、14」は、第2層のシート状セラミックス12と第3層のシート状セラミックス13で形成される冷媒通路を、第1層のシート状セラミックス11及び第4層のシート状セラミックス14で覆うことになるから、本願発明の「内部に流体が流れる流路を有する流路部材」の構成を備えるものである。 但し、側壁部について、本願発明では、「流体が流れる方向に沿って延びる凹凸を有」するのに対して、引用発明では、その旨の特定がされていない点で相違する。 また、 本願発明では、「前記流体が流れる方向に対して垂直な断面において、前記蓋体部および前記側壁部、または前記底板部および前記側壁部で構成される、複数ある前記流路のコーナ部の少なくとも1つは、該コーナ部を構成する前記側壁部における前記流路側に面する部分が湾曲面状である」のに対して、引用発明では、その旨の特定がされていない点で相違する。 したがって、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、以下の点で一致ないし相違する。 (一致点) 「セラミックスからなる、蓋体部と、側壁部と、底板部とで構成され、内部に流体が流れる流路を有する流路部材であって、 前記側壁部は、前記流路を形成するための孔を有する板状体を複数備えてなる積層体である、 流路部材。」 (相違点1) 側壁部について、本願発明では、「流体が流れる方向に沿って延びる凹凸を有」するのに対して、引用発明では、その旨の特定がされていない点。 (相違点2) 本願発明では、「前記流体が流れる方向に対して垂直な断面において、前記蓋体部および前記側壁部、または前記底板部および前記側壁部で構成される、複数ある前記流路のコーナ部の少なくとも1つは、該コーナ部を構成する前記側壁部における前記流路側に面する部分が湾曲面状である」のに対して、引用発明では、その旨の特定がされていない点。 (3)判断 そこで、上記相違点1、2について検討する。 相違点1について 引用文献5(上記(1)エを参照)には、流路の側壁を流体がながれる方向に凹凸を形成し、さらに、垂直方向の断面をカギ形とすることで冷媒との伝熱面積を広げ冷却効率を向上させることが記載されている。 また、引用発明は、上記(1)ア(イ)に記載されるように、冷却水等を冷媒通路内に導いて基板全体の冷却を行うものであるから、冷却効率の向上という課題を有しているものと認められる。 してみれば、冷却を行う引用発明の基板において、冷却効率を向上させるために引用文献5に記載の技術事項を適用して、上記相違点1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 なお、審判請求人は令和1年5月16日付けの意見書において、引用文献5に記載されたプレート積層型冷却装置は、段落0014に記載のように、銅、アルミ及び鉄などのロウ付け或いはハンダ付けが可能で且つ熱伝導性の良い材料で作製されるものであり、本願とは材質が異なる。銅、アルミ及び鉄などと、セラミックスとでは、プレートの加工方法、流路を形成するための方法(ろう付け、ハンダ付けに対して接合)、焼成の有無など、技術が大きく相違する旨を主張している。 しかしながら、引用文献5は、冷媒との伝熱面積を広げることで冷却効率を向上させる一例として示したものであって、流路の材質によらない事項であるから、上記主張を採用することはできない。 相違点2について 引用文献2及び4に記載されるように(上記(1)イ及びウを参照)、流路を有するセラミック積層体において、流路のコーナの角部に集中する応力を緩和するために、流路の側壁部分を湾曲面状にすることは周知の技術である。 したがって、引用発明の冷媒通路のコーナの角部における応力の集中を緩和するために上記周知技術を適用して、上記相違点2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 また、審判請求人は令和1年5月16日付けの意見書において、引用文献2乃至4には、「側壁部は、前記流路を形成するための孔を有する板状体を複数備えてなる積層体であり、流体が流れる方向に沿って延びる凹凸を有」(以下、「構成要件B」という。)することが示されていないから、「前記流体が流れる方向に対して垂直な断面において、前記蓋体部および前記側壁部、または前記底板部および前記側壁部で構成される、複数ある前記流路のコーナ部の少なくとも1つは、該コーナ部を構成する前記側壁部における前記流路側に面する部分が湾曲面状であること」(以下、「構成要件C」という。)を想到することは容易でない旨を主張している。 しかしながら、構成要件Cは応力緩和のために「コーナ部を構成する前記側壁部における前記流路側に面する部分が湾曲面状」とすることであって、一方、構成要件Bは伝熱面積を広げるために「側壁部」を「流体が流れる方向に沿って延びる凹凸」とすることであるから、両者に技術的な関連性はない。 してみると、構成要件C(相違点2)のみを判断する際には、構成要件Bについて考慮する必要はなく、引用文献2乃至4に構成要件Bの記載がなくとも、引用発明において、引用文献2乃至4を適用して構成要件Cを想到することは容易であって、請求人の上記主張を採用することはできない。 してみれば、引用文献1に記載された発明に周知の技術及び引用文献5に記載の技術事項を適用して、上記相違点1、2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本願発明の効果も、引用文献1に記載された発明、周知の技術及び引用文献5に記載の技術事項から想到される構成から当業者が予想できる範囲のものである。 4-2.理由3(明確性)について 上記「3-3.」の(2)の請求項9に対する記載不備に関する指摘に対しては、補正によって対応する請求項となった請求項7に、「該熱交換器における前記金属板上が半導体の製造領域である」点を付加して、「製造装置」のどこに「熱交換器を備える」かの点は明確とした。しかし、依然として、「半導体製造装置」の構成に関しては何も記載されておらず不明であって、また、請求人は令和1年5月16日付け意見書において何ら具体的に反論してもいない。 よって依然として、上記「3-3.」の(2)の指摘事項に関する記載不備は解消しておらず、これら記載不備に関する指摘は妥当なものと認めらるから、請求項7に係る発明は明確なものでない。 したがって、本件出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 5.むすび 以上のとおりであって、本願発明は、上記引用発明、周知の技術及び引用文献5に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 また、本件出願は、特許請求の範囲の請求項9の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-08-07 |
結審通知日 | 2019-08-20 |
審決日 | 2019-09-03 |
出願番号 | 特願2016-111934(P2016-111934) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01L)
P 1 8・ 537- WZ (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 麻川 倫広 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
山澤 宏 佐々木 洋 |
発明の名称 | 流路部材、これを用いた熱交換器および電子部品装置ならびに半導体製造装置 |