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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A61K
管理番号 1356392
審判番号 不服2018-3831  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-19 
確定日 2019-11-09 
事件の表示 特願2013-105775「化粧料」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月 8日出願公開、特開2014-227350、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年5月20日の出願であって、平成29年3月7日付けで拒絶理由通知がなされ、同年6月2日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成30年3月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、当審において平成31年2月28日付けで拒絶理由通知がなされ、令和1年5月20日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1?3に係る発明は、令和1年5月20日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
ヒアルロン酸又はその塩の微生物(シノモナス アトロシアネア(Sinomonas atrocyanea))の発酵物を含む表皮細胞賦活剤であって、前記発酵物に含まれる不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩として2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみを含むことを特徴とする表皮細胞賦活剤。
【請求項2】
ヒアルロン酸又はその塩の微生物(シノモナス アトロシアネア(Sinomonas atrocyanea))の発酵物を含むコラーゲン合成促進剤であって、前記発酵物に含まれる不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩として2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみを含むことを特徴とするコラーゲン合成促進剤。
【請求項3】
ヒアルロン酸又はその塩の微生物(シノモナス アトロシアネア(Sinomonas atrocyanea))の発酵物を含むセラミド合成酵素活性亢進剤であって、前記発酵物に含まれる不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩として2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみを含むことを特徴とするセラミド合成酵素活性亢進剤。」
(以下、請求項順に「本願発明1」等といい、また、これらをまとめて単に「本願発明」ということがある。)


第3 当審の拒絶理由の概要
当審により平成31年2月28日付けで通知された拒絶理由通知書における拒絶理由の概要は、次のとおりである。

「 1.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


理由1(明確性)について
・請求項 1?3
請求項1における「前記発酵物は不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩として2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみを含む」との記載は、(a)発酵物に含まれる不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩が2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみであることを意味しているのか、或いは(b)発酵物が2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩であることを意味しているのか明確でない。
よって、請求項1に係る発明は、明確でない。請求項2及び3に係る発明は、同様に明確でない。」


第4 原査定の拒絶の理由の概要
平成29年6月2日付け手続補正書における請求項1?6に係る発明について、平成29年11月27日付けの拒絶査定における拒絶の理由1、2の概要は以下のとおりである。

「1.(新規性)この出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.(進歩性)この出願の請求項1?6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開平1-272511号公報
2.特表2002-533376号公報
3.国際公開第2008/129607号
4.特開昭63-044883号公報
5.特開2008-035858号公報
6.関 太輔,連載 浴用剤とスキンケア (3),FRAGRANCE JOURNAL Vol.25, No.1,1997年1月,p80-p86(周知技術を示す文献)
7.P.Rooney,Angiogenic oligosaccharides of hyaluronan enhance the production of collagens by endothelial cells,Journal of Cell Science,1993年,Vol.105,p213-p218(周知技術を示す文献)
8.田中 順三,肌に優しいコスメ新素材,3重らせん・うろこコラーゲン,BIO INDUSTRY,2009年,Vol.26 No.8,p26-p32(周知技術を示す文献)
9.高木 豊,特集 最近の保湿研究と保湿剤の開発,FRAGRANCE JOURNAL ,2005年10月,Vol.33, No.10,p42-p50(周知技術を示す文献)
10.特開2009-298765号公報(周知技術を示す文献)
11.国際公開第2008/053960号(周知技術を示す文献) 」


第5 当審の拒絶理由に対する合議体の判断
請求項1?3において、補正前の
「前記発酵物は不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩として2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみを含む」
との記載を
「前記発酵物に含まれる不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩として2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみを含む」(下線は当審で付した。)
と補正することにより、各剤に含まれるのは、発酵物に含まれる不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩が2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみであることを意味していることが明らかになり、当審の拒絶の理由は解消した。


第6 原査定の拒絶の理由に対する合議体の判断
以下に述べるように,本願については,原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

1 理由1(新規性)、理由2(進歩性)について
(1) 引用文献に記載されている事項及び引用発明
ア 引用文献1に記載されている事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願出願前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平1-272511号公報(平成1年10月31日出願公開)には、次の事項が記載されている。

(ア) 「2.特許請求の範囲
(1)ヒアルロンサン又はその塩に、睾丸ヒアルロニダーゼもしくは細菌ヒアルロニダーゼを作用させることによつて生ずるオリゴ糖である下記構造式の四糖類、二糖類又は六糖類、並びに不飽和二糖類の一種もしくは2種以上の混合物、又は生じた不飽和二糖をさらに還元することによつて得られる開裂不飽和二糖よりなる、化粧品に美白性、湿潤性及び紫外線吸収性を付与するための化粧品用添加剤。

」 (請求項1)

(イ) 「発明の詳細な説明
本発明は新規な美白性、湿潤性及び紫外線吸収性を有する化粧品用添加剤に関する。更に詳しくはN-アセルチル DグルコサミンとDグルクロン酸とからなるムコ多糖であるヒアルロン酸を、牛睾丸ヒアルロニダーゼ(半井化学薬品株式会社製)又は細菌ヒアルロニダーゼであるヒアルロニダーゼSD(生化学工業株式会社製)により酵素分解して生成する以下の構造式により表わされるオリゴ糖、即ち以下の構造式の四糖、二糖及び六糖の混合物、又は不飽和二糖、もしくはこの生成不飽和二糖の還元(たとえばNaBH_(4)を還元剤として使用)によって得られる開裂不飽和二糖よりなる。 」(第3頁左上欄第1?14行)

(ウ) 「しかるに、本発明者は人体に好ましくない副作用を有さず、かつすぐれた美白効果および日焼防止効果を奏しうる美白剤を見出すべく種々研究を重ねた結果、構造式(i)?(v)のオリゴ糖は人生体内にて常に繰返されて生成する物質であり、皮フ科学的に全く無害物質であり極めて湿潤効果が良好でかつ人体皮膚内に存在するチロジナーゼの活性を阻害して顕著なメラニン生成抑制作用を示すと共に、すぐれた抗酸化作用や紫外線吸収作用を示し、そのためすぐれた美白効果および日焼防止効果を奏し、さらにpH、光、熱などに対する安定性が大きく保存性がすこぶる良好であるという新たな事実を見出し、本発明を完成するにいたった。
上記の各成分はそれ自体強い湿潤効果とチロシナーゼ活状阻害能力を有しかつすぐれた抗酸化作用や紫外線吸収作用を有すると共に、光、pHに対する安定性が増加して保存安定性がきわめて良好であるなどのすぐれた美白効果および日焼防止効果を奏しうると共に、人体に対してまったく無害である。
本発明の化粧料添加剤は適宜の化粧料基材に0.1?5%、特に0.5?2%(重量)を配合することにより所期の効果を達成する。」(第4頁右下欄第3行?第5頁左上欄第6行)

(エ) 「


」 (第5頁下の表)

(オ) 「実施例2(湿潤作用効果…エモリエントテスト)
エモリエント(湿潤効果テスト)
皮膚を柔軟にする作用を持つ物質を一般にエモリエント剤と呼んでいる。
エモリエント剤としてはグリセリン プロピレングリコール ソルビトール、ピロリドンカルボン酸塩が知られている。
これらのエモリエント剤は化粧品の特性である皮膚を保護し、すこやかに保つ上で重要な役割りを果している。
従って前記オリゴ糖I、II、IIIの皮膚柔軟化作用について上記エモリエント剤ソルビトールと比較するため、「インビトロ」及び「イン・ビボ」のテストを行い、一般に云われているなめらかさを官能テストにより行なって検討し以下の結果を得た。
第1表

結合水分(mg/100mg乾燥上皮重量)の比較

実験方法
ラッテ上皮を用いて溶液に浸漬し上皮が恒量になるまで乾燥し、一定時間相対湿度23%の恒湿度室において2?3日一定恒量まで吸水させ、とりこむ水分を測定する。
第1表に示される結果よりブランクにくらべると保水性があり、湿潤効果のあることは明確である。
ヒトの皮膚を用いた「イン・ビボ」試験を行い前腕屈側部において前記オリゴ糖[I][II][III]の保湿効果を高周波インピーダンスメータを用いてソルビトールの同濃度で実施すると大凡同程度の保湿効果を示した。
同時に前記クリームによる各々オリゴ糖[I][II][III]の官能テストを行った結果、いずれの場合も、ソルビトールと大差ないものの使用後の感触に於てはベタベタした感じがなくサッパリした感じがあって、よいことが解かった。大体55?60%の者に続けて使用したいと云う有効率が得られた。

実施例3(紫外吸収作用効果)
本発明の添加剤は人体生理的物質であり、皮膚に安全な紫外線吸収剤としての性能を有する。紫外線防止には一般にはタルクチタンetcの無機物質を配合して皮膚上面で紫外線を散乱させる方法があり、又一方パラアミノ安息香酸、サリチル酸エステル、p-メトキシケイ皮酸エトキシエチルの様な紫外吸収剤による方法の二つがある。280?340mμの紫外線を直接皮膚に当てない事が要求される。
本発明によるオリゴ糖[I]、[II]、[III]がいずれも紫外吸収作用があり安全性がある。大体0.5?5なかんずく1%でもよい。従ってクリーム配合の前処方にて充分とその効果は発揮されるのである。
検査の方法として被験者の腕又は背部に塗布しMED(最少紅斑量)を測定して判断する。
(MEDとは皮膚に紅斑を発生させうる紫外線の最少照射量で通常、照射時間(秒)で示される、従ってMEDの大きい程紫外線防止効果にすぐれていることを示す。)


[II][III]の場合も概略[I]と同程度と判断される。MED判定については相当熟練を必要とする。」(第6頁右上欄第11行?第7頁右上欄下から第11行)

イ 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願出願前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特表2002-533376号公報(平成14年10月8日公表(平成12年7月6日国際公開))には、次の事項が記載されている。

(ア) 「【請求項1】 ヒトまたは動物の皮膚および/または粘膜の正常な機能と構造を保護、保持または再建し、UVに起因した皮膚損傷を含む環境に起因した皮膚損傷を防止するための薬剤において、
当該薬剤が、ヒアルロン酸から酵素的に製造されたフラグメント混合物ならびに製薬的キャリヤーおよび/または親水性および/または親油性の作用物質および/または助剤を含有することを特徴とする薬剤。
【請求項2】 前記酵素として微生物起源のヒアルロナートリアーゼが使用されたことを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】 前記フラグメント混合物を製造するために、組織から得られたかまたは微生物から得られたかのいずれかであるヒアルロン酸が、水溶液中で微生物起源のヒアルロナートリアーゼにより部分的に消化されたことを特徴とする請求項1または2に記載の薬剤。

【請求項5】 前記フラグメント混合物を製造するために、水溶液中のヒアルロン酸が、ストレプトコッカスアガラクティエから得られたヒアルロナートリアーゼにより部分的に消化されたことを特徴とする請求項1ないし4の少なくともいずれか1項に記載の薬剤。

【請求項7】 前記フラグメント混合物が1,000ないし1,500,000Dの範囲の平均モル質量、好ましくは10,000ないし300,000Dの範囲のモル質量を有することを特徴とする請求項1ないし6の少なくともいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項8】 前記配合物に、1.0g/lないし500g/lの範囲の濃度の液状の前記ヒアルロン酸フラグメント混合物が該配合物1g当たり0.01ないし0.7gの範囲の量で添加されたことを特徴とする請求項1ないし7の少なくともいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項9】 前記配合物に、固体状の前記ヒアルロン酸フラグメント混合物が該配合物1g当たり0.01ないし0.7gの範囲の量で添加されたことを特徴とする請求項1ないし7の少なくともいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項10】 ペースト、軟膏、クリーム、エマルジョン、ゲル、スティック、好ましくはO/W-エマルジョンであることを特徴とする請求項1ないし9の少なくともいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項11】 前記配合物に、製薬的キャリヤーおよび/または親水性および/または親油性の作用物質および/または助剤が含まれていることを特徴とする請求項1ないし10の少なくともいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項12】 前記ヒアルロン酸フラグメント混合物および/または前記作用物質および/または前記助剤が、コロイドキャリヤー系、好ましくはナノ粒子、リポソームまたはマイクロエマルジョンに混和されていることを特徴とする請求項1ないし11の少なくともいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項13】 前記助剤として浸透モジュレーターが使用されることを特徴とする請求項1ないし12の少なくともいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項14】 前記浸透モジュレーターとして尿素が、前記配合物1g当たり0.01ないし0.4gの範囲の濃度で含まれていることを特徴とする請求項1ないし12の少なくともいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項15】 前記ヒアルロン酸フラグメント混合物の他に、ラジカル捕獲剤としての性質を有する物質、好ましくはビタミンEおよびビタミンCが混和されていることを特徴とする請求項1ないし14の少なくともいずれか1項に記載の薬剤。」(請求項1?3、5、7?15)

(イ) 「【0010】
(発明の開示)
そこで本発明の目的は、皮膚保護を目的とした薬剤であって、特に生体親和的で、人間医学および獣医学において長期適用に適した薬剤を提供することである。本薬剤は環境に起因したおよび/または高エネルギー線の影響作用もしくは有毒な酸素化学種の作用を含むその他の疾患の結果としての皮膚損傷、外傷性現象ならびに炎症および老化プロセスを、副作用を生ずることなく、治療および/または予防することに適するものである。本発明のさらなる目的は、皮膚ケアまたは皮膚保護に適用される薬剤を美容上および/または皮膚科学上からも利用できるようにすることである。」(【0010】)

(ウ) 「【0014】
一般的な概念であるヒアルロニダーゼは、異なった作用を有する3種のタイプのヒアルロン酸分解酵素を表わしている[J.Ludowieg:The Mechanism of Hyaluronidases[ヒアルロニダーゼのメカニズム]、JBC236、333-339(1961)]。一つはエンドヒドロラーゼで、これはβ-(1-3)-結合を加水分解する。これに属するのは高級生体から得られる多数のヒアルロニダーゼであり、たとえばウシの睾丸から得られるヒアルロニダーゼである。これらのヒアルロナート-グリカンヒドロラーゼ(酵素群E.C.3.2.1.35/36)はヒアルロン酸の結合の他に限定的ではあるがその他のグリコサミノグリカンも分解する。ヒル(Blutegel)から得られるエンド-β-ヒアルロニダーゼは別のタイプを表わしており、これは高度特異的にβ-(1-4)-結合を切断する。第三の酵素タイプであるヒアルロナートリアーゼ(酵素群:EC4.2.2.1)はグルクロン酸の(4-5)-位に二重結合を形成しつつ脱離メカニズムにしたがってヒアルロン酸のベータ-(1-4)-結合を切断する。リアーゼについては文献中にエンドおよびエキソ分解メカニズムが挙げられている。
【0015】
本発明者は、特にヒアルロナートリアーゼを用いた好ましい実施形態において、明らかに末端二重結合に基づいて卓越した特性を有すると思われる不飽和フラグメントが生ずることを明らかにすることができた。
【0016】
本薬剤は、微生物好ましくはストレプトコッカス、とりわけストレプトコッカスアガラクティエから得られた酵素ヒアルロナートリアーゼの作用により水溶液中において高分子ヒアルロン酸から脱離メカニズムに基づいて生ずる低分子不飽和フラグメントを薬剤に混和することによって製造するのが好ましい。
【0017】
驚くべきことに、本発明に基づいて使用された不飽和低分子ヒアルロン酸フラグメントを含有した薬剤は、酸化防止剤、ラジカル捕獲剤、有害な光化学反応生成物の形成抑制剤、皮膚老化防止剤、光化学反応防止剤および炎症反応抑制剤ならびに毒性物質からの一般的な保護剤として、現行技術水準に相応して天然の動物性またはバイオテクノロジー技法を用いて得られたヒアルロン酸またはその低分子飽和加水分解産物を含有した薬剤よりさらに優れた作用を有することが明らかとなった。こうした作用の増強は、本発明に基づいて製造されたフラグメント中に二重結合が存在していることと直接に関連していることは明らかであるように思われる。」(【0014】?【0017】)(下線は当審で付した。以下、同様。)

(エ) 「【0019】
本発明による薬剤はさらに、製薬的キャリヤーおよび/またはその他の親水性および/または親油性の作用物質および/または助剤を含有している。出発物質として使用される高分子ヒアルロン酸は、バイオテクノロジー技法によるかまたは動物組織から得ることができる。一実施形態において、ヒアルロナートリアーゼは脱離に際し固体キャリヤーに固定されて使用される。本発明に基づく不飽和低分子フラグメントは1ないし1,500kD、好ましくは10ないし300kDのモル質量を有する。本発明に基づく配合物製造の一方法においては、低分子不飽和フラグメント混合物は濃度1.0g/lないし500g/lの液状形態で配合物1g当たり0.01ないし0.7gの量で混入される。」(【0019】)

(オ) 「【0027】
【実施例】
実施例1
脱離メカニズムに基づいて不飽和低分子ヒアルロン酸フラグメントを製造するため、バイオテクノロジー技法によって得られた平均モル質量1,800kDの高分子ヒアルロン酸0.5gを、酸性度pH7.0の0.05Mアセテート緩衝液100ml中に37℃にて12時間かけて攪拌しながら溶解させる。続いて該溶液を、ストレプトコッカスアガラクティエから得られた10000IUのヒアルロナートリアーゼを用いて30分にわたって攪拌下で培養する。この時間が経過した後、該溶液を5分間、85℃に加熱し、その後急速に20℃に冷却する。生じたフラグメント混合物は、その後、蒸留水に対して透析に付される。続いて溶液を凍結乾燥する。このフラグメント混合物の平均モル質量を粘度計を用いて測定する。生じたフラグメントは平均モル質量150kDを有する。」(【0027】)

(カ) 「【0028】
実施例2
還元ラジカルを結合する特性は、無細胞系において、ルシゲニン強化されたキサンチンオキシダーゼ・テストによりヒポキサンチンから尿酸への転換を基準として測定される。この場合に生ずるO2 ‐ラジカルは、ルシゲニンを用い相対化学ルミネセンス測定によって検出することができる。ラジカル捕獲剤の存在によりO_(2 )‐ラジカルは中和され、化学ルミネセンス収量は減少する。標準としてアロプリノール(Sigma Chemicals Co.)が使用され、この物質は、キサンチンオキシダーゼを激しく阻害する。本発明に基づくモル質量100ないし160kDのヒアルロン酸フラグメント1mgは、200ないし400μgのアロプリノールのそれに相当するラジカル結合活性を有している。これに対してモル質量1,800kDのヒアルロン酸は、無視し得る程度のラジカル結合活性しか有していない(Pierce,L.A.、W.O.Tarnow-Mordi及びI.A.Cree:Antibiotics Effects on Phagocyte Chemilumineszence in Vitro[インビトロでの食細胞化学ルミネセンスに抗生物質が及ぼす効果]。J.Clin.Lab.Res.-(1995)25,93-98)。
【0029】
ヒトケラチノサイト(keratinocytes)による毒性検査
(図1ないし5)
モル質量の相違したヒアルロン酸フラグメントを、ヒトケラチノサイト(HaCaTケラチノサイト?Prof.Dr.Norbert E.Fusenigより供与 ;ハイデルベルク・ドイツ癌研究センター、ドイツ国)の増殖挙動に及ぼす影響を検定するため、24hにわたって培養した後、DNA合成能力を、DNAへのBrdU取込み(Cell Proliferation ELISA、BrdU colorimetric-Boehringer Mannheim、マンハイム、ドイツ国)に基づいて測定した。以下の被検ヒアルロン酸フラグメントについては、細胞の毒性反応は観察されなかった。これらの結果(図1ないし5)は、分解された分子ならびに不消化ヒアルロン酸は共に非常に優れた適合性を有していることを証明している。
【0030】
UV-B放射に対するヒアルロン酸フラグメントの保護作用の具体例
(図6ないし11)
HaCaTケラチノサイトに対して毒性影響作用を示さなかったヒアルロン酸フラグメントがUV-B照射されるケラチノサイトに対する保護特性に関してテストされた。そのため、当該細胞をそれぞれ1h、24h、48hおよび72hにわたってそれぞれのフラグメントと共にプレインキュベーションした後、120mJ/cm^(2 )(UV-B)の照射線量に曝露した。これは無照射の対照標準と比較して照射されたグループに50ないし60%の損傷をもたらした。生細胞数を測定するための活性度テスト[SCHROEDER,Hetal.、Naunyn-Schmiedebergs Arch.Pharmacol.347:664-666(1993)]は常に、照射から24時間後に行った。
【0031】
得られた結果は、有害UV-Bに対する本発明によるヒアルロン酸フラグメントの保護効果を示しており、これは個々のケースにつき当該図面6ないし10から理解することができる。
【0032】
保護効果については、結果からわかるように、プレインキュベーション時間および使用濃度との相関性を引き出すことができる。テストされたフラグメントのフィルター効果は、得られた吸収スペクトルに従って除外することができる(図11参照)。このようにして、UV光の照射に生じるラジカル形成は、本発明によるヒアルロン酸フラグメントの存在によって減少させることができる。」(【0028】?【0032】)

ウ 引用文献3に記載された事項
本願出願前に、頒布された記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2008/129607号(2008年10月30日国際公開)には、次の事項が記載されている。

(ア) 「請求の範囲
[1] ヒアルロナンを有効成分とする、ヒアルロナン産生促進剤。
[2] 上記ヒアルロナンは、-D-グルクロン酸-β-1,3-D-N-アセチルグルコサミン-β-1,4-を1単位とし、これを2個含む4糖である請求項1記載のヒアルロナン産生促進剤。
[3] ヒアルロナンを有効成分とする、ヒアルロナン分解抑制剤。
[4] 上記ヒアルロナンは、-D-グルクロン酸-β-1,3-D-N-アセチルグルコサミン-β-1,4-を1単位とし、これを2個含む4糖である請求項3記載のヒアルロナン分解抑制剤。
[5] ヒアルロナンを有効成分とする、スキンケア剤。
[6] 上記ヒアルロナンは、-D-グルクロン酸-β-1,3-D-N-アセチルグルコサミン-β-1,4-を1単位とし、これを2個含む4糖である請求項5記載のスキンケア剤。
[7] 上記ヒアルロナンは、-D-グルクロン酸-β-1,3-D-N-アセチルグルコサミン-β-1,4-を1単位とし、これを1個含む2糖、これを2個含む4糖、これを3個含む6糖、これを4個含む8糖及びこれを5個含む10糖を含む混合物である請求項5記載のスキンケア剤。
[8] 皮膚に対して塗布される剤形である請求項5記載のスキンケア剤。
[9] 経口投与に適した剤形である請求項5記載のスキンケア剤。
[10] 哺乳動物に有効量のヒアルロナンを投与するステップを含む、皮膚の保湿性を向上させる方法。
[11] 上記ヒアルロナンは、-D-グルクロン酸-β-1,3-D-N-アセチルグルコサミン-β-1,4-を1単位とし、これを2個含む4糖である請求項10記載の方法。
[12] 上記ヒアルロナンは、-D-グルクロン酸-β-1,3-D-N-アセチルグルコサミン-β-1,4-を1単位とし、これを1個含む2糖、これを2個含む4糖、これを3個含む6糖、これを4個含む8糖及びこれを5個含む10糖を含む混合物である請求項10記載の方法。
[13] ヒアルロナンが皮膚に塗布される請求項10記載の方法。
[14] ヒアルロナンが経口投与される請求項10記載の方法。」(請求項1?14)

(イ) 「[0006] そこで、本発明は、新規なヒアルロナン産生促進剤及びヒアルロナン分解抑制剤を提供し、ヒアルロナン産生促進作用及びヒアルロナン分解抑制作用を利用したスキンケア剤を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0007] 上述した目的を達成した本発明に係るヒアルロナン産生促進剤、ヒアルロナン分解抑制剤及びスキンケア剤は、4糖のヒアルロナンを有効成分として含有する。本発明に係るヒアルロナン産生促進剤は、細胞内のヒアルロナンの産生を促進、ヒアルロナンの分解を抑制する。また、本発明に係るスキンケア剤は、上記有効成分による細胞内のヒアルロナン産生促進作用及びヒアルロナン分解抑制作用によって、皮膚の保湿を向上させる。また、本発明の方法により、ヒアルロナンの産生が促進され、及びヒアルロナンの分解が抑制されることにより、皮膚の保湿性が向上する。
・・・
[0009] 以下、本発明を詳細に説明する。本発明に係るヒアルロナン産生促進剤は、細胞によるヒアルロナンの産生を促進する機能を有する薬剤である。また、本発明に係るヒアルロナン分解抑制剤は、産生されたヒアルロナンの分解を抑制する薬剤である。さらに、本発明に係るスキンケア剤は、細胞におけるヒアルロナン産生促進作用及びヒアルロナン分解抑制作用を介して皮膚の保湿性を改善する薬剤である。
[0010] 以下の説明において、本発明に係るヒアルロナン産生促進剤、ヒアルロナン分解抑制剤及びスキンケア剤を単に薬剤と称する。本発明に係る薬剤に含まれるヒアルロナンとしては、基本的にはβ-D-グルクロン酸の1位とβ-D-N-アセチルグルコサミンの3位とが結合した2糖単位を少なくとも1個含む2糖以上のものでかつβ-D-グルクロン酸とβ-D-N-アセチルグルコサミンとから基本的に構成されるものであれば、2糖単位が1個または複数個結合したものにそれらの要素が結合した糖であってもよく、またこれらの誘導体、例えば、アシル基等の加水分解性保護基を有したもの等も使用し得る。該糖は不飽和糖であってもよく、不飽和糖としては、非還元末端糖、通常、グルクロン酸の4,5位炭素間が不飽和のもの等が挙げられる。本発明で使用するヒアルロナンとしては、具体的には動物等の天然物から抽出されたもの、微生物を培養して得られたもの、化学的もしくは酵素的に合成されたものなどいずれも使用することができる。例えば鶏冠、さい帯、皮膚、関節液などの生体組織から公知の抽出法と精製法によって得ることができる。またストレプトコッカス属の細菌等を用いた発酵法によっても製造できる。
[0011] 本発明においては、ヒアルロナンオリゴ糖もヒアルロナンに包含され、上記2糖単位1個からなる2糖およびその誘導体のような低分子量のヒアルロナンも含まれる。より好ましくは2?20糖程度のヒアルロナンを挙げることができる。
[0012] 特に、本発明においてヒアルロナンとしては、-D-グルクロン酸-β-1,3-D-N-アセチルグルコサミン-β-1,4-を1単位とし、これを1個含む2糖、これを2個含む4糖、これを3個含む6糖、これを4個含む8糖及びこれを5個含む10糖を含む混合物であることが好ましい。
[0013] ヒアルロナンのうち分子量の低いものは、具体的には、酵素分解法、アルカリ分解法、加熱処理法、超音波処理法(Biochem., 33(1994)p6503-6507)等の公知の方法によってヒアルロナンを低分子化する方法、化学的もしくは酵素的に合成する方法(Glycoconjugate J., (1993)p435-439、WO93/20827) などで製造することが好ましい。例えば酵素分解法としては、ヒアルロナン分解酵素(ヒアルロニダーゼ(睾丸由来)、ヒアルロニダーゼ(Streptomyces由来)、ヒアルロニダーゼSDなど)、コンドロイチナーゼAC、コンドロイチナーゼACII、コンドロイチナーゼACIII 、コンドロイチナーゼABCなどのヒアルロナンを分解する酵素をヒアルロナンに作用させてヒアルロナンオリゴ糖を生成する方法(新生化学実験講座「糖質II-プロテオグリカンとグリコサミノグリカン-」p244-248、1991年発行、東京化学同人 参照)などが挙げられる。」([0006]?[0013])


(ウ) 「[0047] 被検物質の調製
本実施例では、塩酸加水分解法によって図5に示すような組成を有するヒアルロナンオリゴ糖混合物(以下、HAオリゴ糖混合物)を準備した。・・・」([0047])

(エ) 「[0062] 結果
上述した「ヒアルロナン結合タンパク質によるヒアルロナン染色実験」の結果を図7に示す。図7に示すように、基材のみを含有する塗布クリーム及び高分子HAを含有する塗布クリームを使用した場合には、背部皮膚にヒアルロナンの産生は認められなかった。これに対して、HAオリゴ糖混合物を含有する塗布クリームを使用した場合には、背部皮膚にヒアルロナン染色が検出された。また、図7に示すように、ヒアルロニダーゼ処理によってその染色性は消失したことから、HAオリゴ糖混合物を含有する塗布クリームを使用した場合には、ヒアルロナンの産生が促進されていることが実証された。
[0063] また、上述した「皮膚内ヒアルロナン含量の測定実験」の結果を図8に示す。図8に示すように、HAオリゴ糖混合物を含有する塗布クリームを使用した場合には、基材のみからなる塗布クリーム及び高分子HAを含有する塗布クリームを使用した場合と比較して、ヒアルロナン含量が有意に増加した。この結果からも、HAオリゴ糖混合物を含有する塗布クリームを使用した場合には、ヒアルロナンの産生が促進されていることが実証された。」([0062]?[0063])

(オ) 「【図5】



エ 引用発明
引用文献1には、摘記事項ア(ア)?(オ)、特に(ア)、(エ)の製造番号No.2の生成物からみて、次の発明が記載されている。
「ヒアルロン酸又はその塩に、細菌ヒアルロニダーゼであるヒアルロニダーゼSD(生化学工業kk)を作用させて生ずるオリゴ糖である下記構造式の不飽和二糖類を含む生成物よりなる、化粧品に美白性、湿潤性及び紫外線吸収性を付与するための化粧品用添加剤。

」(以下、「引用発明1」という。)

また、引用文献2には、摘記事項イ(ア)?(カ)、特に(オ)、(カ)からみて、次の発明が記載されている。
「ヒアルロン酸にストレプトコッカスアガラクティエから得られたヒアルロナートリアーゼを作用させて得られた、平均モル質量150kDの不飽和低分子ヒアルロン酸を含むUVに起因した皮膚損傷を防止するための薬剤。」(以下、「引用発明2」という。)

さらに、引用文献3には、ウ(ア)?(オ)、特に(ウ)?(オ)からみて、次の発明が記載されている。

「ヒアルロナンとしては、-D-グルクロン酸-β-1,3-D-N-アセチルグルコサミン-β-1,4-を1単位とし、これを1個含む2糖、これを2個含む4糖、これを3個含む6糖、これを4個含む8糖及びこれを5個含む10糖を含む混合物を含むヒアルロン酸産生促進剤又は分解抑制剤。」(以下、「引用発明3」という。)

(2) 引用文献1を主引用例とする場合(理由1(新規性)、理由2(進歩性)について)
ア 本願発明1について
(ア) 対比
本願発明1と引用発明1を対比する。
引用発明1の「ヒアルロン酸又はその塩」、「不飽和二糖類」は、本願発明1の「ヒアルロン酸又はその塩」、「不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩として2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸」に相当する。
また、引用発明1の「化粧品用添加剤」は、化粧品等に用いる「剤」との限りにおいて、本願発明1の「剤」と重複する。
そうすると、本願発明1と引用発明1は、
「不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩として2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩を含む剤。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
発酵物又は生成物に係る組成物が、本願発明1は、「ヒアルロン酸又はその塩の微生物(シノモナス アトロシアネア(Sinomonas atrocyanea))の発酵物」であって、当該発酵物に含まれる「不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩」が「2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみ」であるのに対し、引用発明1は、「ヒアルロン酸又はその塩に細菌ヒアルロニダーゼであるヒアルロニダーゼSD(生化学工業kk)を作用させて生ずるオリゴ糖を含む生成物」であって、2糖の糖鎖を有する不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩を含むものの、「不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩」として、それ「のみを含む」ものであるのか明らかではない点。

(相違点2)
本願発明1は、「表皮細胞賦活剤」であるのに対し、引用発明1は、「化粧品に美白性、湿潤性及び紫外線吸収性を付与するための化粧品用添加剤。」である点。

(イ) 判断
まず、本願発明1は、引用発明1と上記相違点1、2で相違するから、引用文献1に記載された発明ではない。

次に、上記相違点1について検討する。
組成物が、引用発明1では、「ヒアルロン酸又はその塩を細菌ヒアルロニダーゼであるヒアルロニダーゼSD(生化学工業kk)を作用させて生じるオリゴ糖を含む生成物」であって、「不飽和型二糖類」を含むものであるが、その根拠となる製造番号No.2の生成物は、その収量が90%との記載があるものの(摘記事項ア(エ))、それが不飽和型の低分子ヒアルロン酸として不飽和型二糖類、つまり2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみからなるかどうかは明らかではない。
また、紫外線吸収作用について、引用文献1の記載によれば、引用発明1の不飽和二糖類を含む生成物は、紫外線吸収作用を有するものである(摘記事項ア(オ)実施例3) 。一方、本願発明1の発酵物は、2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩を含むものであるが、平成30年3月19日に提出の審判請求書の実験によれば、290?400nmの範囲において紫外線極大吸収を有さないものである。
そして、ヒアルロン酸またはその塩に作用させるものについて、引用発明1ではヒアルロニダーゼSD(生化学工業kk)を作用させており、これは、引用文献4によれば、ストレプトコッカス・ディスガラクティエの微生物由来の酵素であるヒアルロニダーゼである。一方、本願発明1では、微生物(シノモナス アトロシアネア(Sinomonas atrocyanea))を作用させている。
そうすると、本願発明1の、ヒアルロン酸又はその塩に「微生物(シノモナス アトロシアネア(Sinomonas atrocyanea))を作用させた発酵物」であって、不飽和型の低分子型のヒアルロン酸又はその塩が「2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみ」のものと、引用発明1の、ヒアルロン酸に「ヒアルロニダーゼSD(生化学工業kk)を作用させた生成物」とは、原材料であるヒアルロン酸またはその塩に作用させたものが異なり、その紫外線吸収の有無が異なることに鑑みれば、両発明の組成物が、不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩における、2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩以外の構成成分の点で相違すると認められる。
また、引用文献5には、ヒアルロン酸を、微生物のアースロバクター アトロシアネウス種(本願発明1のシノモナス アトロシアネア(Sinomonas atrocyanea)の旧名称)により分解して、2糖または4糖の不飽和型ヒアルロン酸が得られることの記載はあるものの(請求項6、【0005】、実施例、特に【0063】)、2糖の糖鎖のみを含む不飽和低分子型ヒアルロン酸を得ることについての記載はないから、この文献に記載された事項を引用発明1と組み合わせたとしても、本願発明1の相違点1に係る特定の組成の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
さらに、他の文献2?4、6?11をみても、本願発明1の相違点1に係る特定の組成の構成とすることを示唆するものはなく、引用発明1において、本願発明1の相違点1に係る特定の組成の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

上記相違点2について検討する。
本願発明1に係る表皮細胞賦活剤は、ヒト表皮細胞に当該剤を添加して培養し、MTT法によりMTT値を測定した結果、表皮細胞の増加(表皮細胞賦活作用)を示すものである(本願明細書の段落【0064】?【0066】)。
一方、引用文献1には、引用発明1が湿潤性を有することが記載されているものの(摘記事項(1)ア(ア))、表皮細胞賦活作用を有することについては、記載はない。
そして、他の文献2?11をみても、湿潤性(湿潤作用)を有すれば、必ず表皮細胞賦活作用を有することは記載されておらず、例えば、引用文献6に、皮膚本来の油脂である皮脂の産生を促進するものとして、表皮細胞の機能を賦活する作用を持った物質が皮膚保湿剤としての作用を有することは記載されていても(第82頁右欄第3?8行)、この記載が、皮膚保湿(皮膚の湿潤)の作用を有すれば直ちに表皮細胞賦活作用を有していることを意味するものではない。つまり、皮膚保湿作用があれば必ず表皮細胞賦活作用を有することが本願出願時の技術常識とはいえず、本願発明1は、2糖の糖鎖を有する不飽和型低分子ヒアルロン酸の皮膚の保湿(湿潤)における作用機序を単に確認したものでもなく、表皮細胞賦活剤という新たな剤を提供するものである。
そうすると、引用発明1の化粧品用添加剤から、引用文献6を含めた他の引用文献2?11の記載に基づいて、本願発明1の「表皮細胞賦活剤」を導き出すことは、当業者が容易に想到し得たことではない。

本願発明1の効果について検討するに、本願発明1は、不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩として2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみを含む「ヒアルロン酸又はその塩の微生物(シノモナス アトロシアネア(Sinomonas atrocyanea))の発酵物」が、ヒアルロン酸や、不飽和型の低分子ヒアルロン酸として2糖、4等、6糖及び8糖を含む発酵物(製造例2)よりも、表皮細胞賦活剤として有用なことを示しており(本願明細書の段落【0064】?【0066】)、表皮細胞賦活効果として格別顕著な効果を奏するものである。

よって、本願発明1は、引用発明1および周知技術(引用文献2?11に記載された事項)に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

イ 本願発明2について
(ア)対比
本願発明2は、コラーゲン合成促進剤に関するものであるが、本願発明1の表皮細胞賦活剤と、発酵物自体は同じである。
それを踏まえて、本願発明2と引用発明1を対比すると、構成成分の対比は上記ア(ア)と同様になり、両発明は、
「不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩として2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩を含む剤。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1a)
発酵物又は生成物に係る組成物が、本願発明2は、「ヒアルロン酸又はその塩の微生物(シノモナス アトロシアネア(Sinomonas atrocyanea))の発酵物」であって、当該発酵物に含まれる「不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩」が「2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみ」であるのに対し、引用発明1は、「ヒアルロン酸又はその塩に細菌ヒアルロニダーゼであるヒアルロニダーゼSD(生化学工業kk)を作用させて生ずるオリゴ糖を含む生成物」であって、2糖の糖鎖を有する不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩を含むものの、「不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩」として、それ「のみを含む」ものであるのか明らかではない点。

(相違点2a)
本願発明2は、「コラーゲン合成促進剤」であるのに対し、引用発明1は、「化粧品に美白性、湿潤性及び紫外線吸収性を付与するための化粧品用添加剤。」である点。

(イ) 判断
まず、本願発明2は、引用発明1と上記相違点1a、2aで相違するから、引用文献1に記載された発明ではない。

次に、上記相違点1aについて検討する。
相違点1aは、本願発明1の相違点1と同じであり、上記ア(イ)で検討したとおりであるから、引用発明1において、本願発明2の相違点1aに係る特定の組成の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

相違点2aについて検討する。
本願発明2はコラーゲン合成促進剤であるが、引用文献1には、引用発明1が湿潤性を有することが記載されているものの、コラーゲン合成促進作用を有することについては記載がない。
そして、他の引用文献2?11をみても、湿潤性(作用)を有すれば、必ずコラーゲン合成促進作用を有することは記載されていない。例えば、引用文献8にはコラーゲンが高い保湿性(湿潤性)を有することが記載されているが(第31頁左欄第1?18行)、この記載が、保湿性(湿潤性)を有すればコラーゲン合成促進作用を有することを意味するものではないし、2糖の糖鎖を有する不飽和型低分子ヒアルロン酸またはその塩のみを含むこととコラーゲン合成促進作用との関係を示唆するものでもない。
また、引用文献7に、ヒアルロン酸をウシ精巣ヒアルロニダーゼで処理した画分(F3)が、ニワトリ肺のCAM(漿尿膜)でコラーゲンの産生を増強する旨の記載があるものの、引用文献7に記載の処理した画分(F3)は、2糖単位を3?10個含む、分子量1350?4500Daのオリゴ糖の組成物であって(第214頁第46?49行)、2糖の糖鎖は含まないから、引用発明1の生成物と異なるし、本願発明2の2糖の糖鎖を有する不飽和ヒアルロン酸又はその塩のみを含む発酵物とも異なるものである上に、コラーゲンの産生が行われる対象も引用文献7ではニワトリ肺のCAM(漿尿膜)であって、本願発明2の実施例における皮膚表皮細胞ではない。したがって、引用文献7の上記記載が、本願発明2におけるヒト表皮細胞におけるコラーゲン産生促進効果を有することを指摘するものではない。
そうすると、引用発明1の化粧品用添加剤から、引用文献7、8を含めた他の引用文献2?11の記載に基づいて、本願発明2の特定の剤であるコラーゲン合成促進剤を導き出すことは、当業者にとって容易になし得たことではない。

本願発明2の効果について検討するに、本願発明2は、不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩として2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみを含む「ヒアルロン酸又はその塩の微生物(シノモナス アトロシアネア(Sinomonas atrocyanea))の発酵物」が、ヒアルロン酸や、不飽和の低分子ヒアルロン酸として2糖、4等、6糖及び8糖を含む発酵物(製造例2)よりも、コラーゲン合成促進剤として有用なことを示しており(本願明細書の段落【0067】?【0069】)、格別顕著な効果を奏するものである。

よって、本願発明2は、引用発明1および周知技術(引用文献2?11に記載された事項)に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

ウ 本願発明3について
(ア) 対比
本願発明3は、セラミド合成酵素活性亢進剤であるが、本願発明1の表皮細胞賦活剤と、発酵物は同じである。
それを踏まえて、本願発明3と引用発明1を対比すると、構成成分の対比は上記ア(ア)と同様になり、両発明は、
「不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩として2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩を含む剤。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1b)
発酵物又は生成物に係る組成物が、本願発明3は、「ヒアルロン酸又はその塩の微生物(シノモナス アトロシアネア(Sinomonas atrocyanea))の発酵物」であって、当該発酵物に含まれる「不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩」が「2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみ」であるのに対し、引用発明1は、「ヒアルロン酸又はその塩に細菌ヒアルロニダーゼであるヒアルロニダーゼSD(生化学工業kk)を作用させて生ずるオリゴ糖を含む生成物」であって、2糖の糖鎖を有する不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩を含むものの、「不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩」として、それ「のみを含む」ものであるのか明らかではない点。

(相違点2b)
本願発明3は、「セラミド合成酵素活性亢進剤」であるのに対し、引用発明1は、「化粧品に美白性、湿潤性及び紫外線吸収性を付与するための化粧品用添加剤。」である点。

(イ) 判断
まず、本願発明3は、引用発明1と上記相違点1b、2bで相違するから、引用文献1に記載された発明ではない。

上記相違点1bについて検討する。
相違点1bは、本願発明1の相違点1と同じであり、上記ア(イ)で検討したとおりであるあるから、引用発明1において、本願発明3の構成成分とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

相違点2bについて検討する。
本願発明3は、セラミド合成酵素活性亢進剤であるが、引用文献1には、引用発明1が湿潤性を有することが記載されているものの、セラミド合成酵素活性亢進作用を有することについては記載がない。
そして、引用文献9?11には、セラミドを含む角質細胞間脂質が保湿機能において重要な役割を有することや(引用文献9 「3.セラミドによる保湿作用」)、セラミド合成酵素発現促進によって保湿効果向上や皮膚老化防止効果を生じることが記載されているものの(引用文献10【0065】、引用文献11[0024])、保湿作用(湿潤作用)を有すれば、必ずセラミド合成酵素活性亢進作用を有することは記載されていない。その他の引用文献2?8をみても、湿潤作用を有すれば、必ずセラミド合成酵素活性亢進作用を有することは記載されていない。
そうすると、引用発明1の化粧品用添加剤から、引用文献9?11を含めた他の引用文献2?11の記載に基づいて、本願発明3の特定の剤である「セラミド合成酵素活性亢進剤」を導き出すことは、当業者にとって容易になし得たことではない。

本願発明3の効果について検討するに、本願発明3は、不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩として2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみを含む「ヒアルロン酸又はその塩の微生物(シノモナス アトロシアネア(Sinomonas atrocyanea))の発酵物」が、ヒアルロン酸や、不飽和の低分子ヒアルロン酸として2糖、4等、6糖及び8糖を含む発酵物(製造例2)よりも、セラミド合成酵素活性亢進剤として有用なことを示しており(本願明細書の段落【0070】?【0072】)、格別顕著な効果を奏するものである。

よって、本願発明3は、引用発明1および周知技術(引用文献2?11に記載された事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) 引用文献2を主引用例とする場合(理由1(新規性)、理由2(進歩性)について)
ア 本願発明1について
(ア) 対比
本願発明1と引用発明2を対比する。
引用発明2の「ヒアルロン酸」は、本願発明1の「ヒアルロン酸又はその塩)に相当し、引用発明2の「不飽和低分子ヒアルロン酸」は、本願発明1の「不飽和低分子ヒアルロン酸又はその塩」の限りにおいて一致する。
また、引用発明2の「微生物(ストレプトコッカス)に由来するヒアルロニダーゼSDを作用させ」るとの事項と本願発明1の「微生物(アトロシアネア(Sinomonas atrocyanea)の発酵物」とは、「微生物由来のものを作用させた」との限りにおいて重複している。
さらに、引用発明2「UVに起因した皮膚損傷を防止するための薬剤」は、化粧品等に用いる「剤」との限りにおいて、本願発明1の「剤」と重複する。
そうすると、本願発明1と引用発明2とは、
「ヒアルロン酸又はその塩に、微生物由来のものを作用させた不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩を含む剤」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点3)
不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩が、本願発明1は、「ヒアルロン酸又はその塩の微生物(シノモナス アトロシアネア(Sinomonas atrocyanea))の発酵物」に含まれるものであって、当該発酵物に含まれる不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩が「2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみ」であるのに対し、引用発明2は、「ストレプトコッカスアガラクティエから得られたヒアルロナートリアーゼを作用させて得られた」ものであって、「平均モル質量150kDの不飽和低分子ヒアルロン酸を含む」点。

(相違点4)
本願発明1は、「表皮細胞賦活剤」であるのに対し、引用発明2は、「UVに起因した皮膚損傷を防止するための薬剤」である点。

(イ) 判断
まず、本願発明1は、上記相違点3、4で相違するので、引用文献2に記載された発明ではない。

次に、上記相違点3について検討する。
本願発明1は、「2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみを含む」ものであるが、引用文献2には、「2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみを含む」ものを用いる点についての記載はない。
また、本願発明1の2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸は、その分子量を計算すると約380程度であるが、引用発明2のものは平均モル質量150kDであって、分子量が大きく異なるものである。そして、引用文献2の他の記載をみても、ヒアルロン酸を酵素的に分解したフラグメント混合物の平均分子量は1000ないし1,500,000と記載されているとおり(摘記事項イ(ア)請求項7)、不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩が、2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸のみを含むものとは認められない。
そして、他の文献1、3?11にも、引用発明2の平均モル質量150kDの不飽和低分子ヒアルロン酸を、本願発明1の2糖の不飽和低分子ヒアルロン酸とすることを動機付けるような記載はない。
したがって、引用発明2において、本願発明1における相違点3に係る特定の組成の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明2および周知技術(引用文献1、3?11に記載された事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本願発明2について
(ア) 対比
本願発明2は、コラーゲン合成促進剤に関するものであるが、本願発明1の表皮細胞賦活剤と、発酵物自体は同じである。
それを踏まえて、本願発明2と引用発明2を対比すると、構成成分の対比は上記ア(ア)と同様になり、両発明は、
「ヒアルロン酸又はその塩に、微生物由来のものを作用させた不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩を含む剤」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点3a)
不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩が、本願発明2は、「ヒアルロン酸又はその塩の微生物(シノモナス アトロシアネア(Sinomonas atrocyanea))の発酵物」に含まれるものであって、当該発酵物に含まれる不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩が「2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみ」であるのに対し、引用発明2は、「ストレプトコッカスアガラクティエから得られたヒアルロナートリアーゼを作用させて得られた」ものであって、「平均モル質量150kDの不飽和低分子ヒアルロン酸を含む」点。

(相違点4a)
本願発明2は、「コラーゲン合成促進剤」であるのに対し、引用発明2は、「UVに起因した皮膚損傷を防止するための薬剤」である点。

(イ) 判断
まず、本願発明2は、上記相違点3a,4aで相違するので、引用文献2に記載された発明ではない。

また、相違点3aについて検討するに、相違点3aは上記ア(ア)の相違点3と同じであり、ア(イ)の相違点3と同様に判断される。
したがって、引用発明2において、本願発明2における相違点3aに係る特定の組成の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本願発明2は、引用発明2および周知技術(引用文献1、3?11に記載された事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本願発明3について
(ア) 対比
本願発明3は、セラミド合成酵素活性亢進剤であるが、本願発明1の表皮細胞賦活剤と、発酵物自体は同じである。
それを踏まえて、本願発明3と引用発明2を対比すると、構成成分の対比は上記ア(ア)と同様になり、両発明は、
「ヒアルロン酸又はその塩に、微生物由来のものを作用させた不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩を含む剤」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点3b)
不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩が、本願発明3は、「ヒアルロン酸又はその塩の微生物(シノモナス アトロシアネア(Sinomonas atrocyanea))の発酵物」に含まれるものであって、当該発酵物に含まれる不飽和型の低分子ヒアルロン酸又はその塩が「2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみ」であるのに対し、引用発明2は、「ストレプトコッカスアガラクティエから得られたヒアルロナートリアーゼを作用させて得られた」ものであって、「平均モル質量150kDの不飽和低分子ヒアルロン酸を含む」点。

(相違点4b)
本願発明3は、「セラミド合成酵素活性亢進剤」であるのに対し、引用発明2は、「UVに起因した皮膚損傷を防止するための薬剤」である点。

(イ) 判断
まず、本願発明3は、上記相違点3b、4bで相違するので、引用文献2に記載された発明ではない。

また、相違点3bについて検討するに、相違点3bは上記ア(ア)の相違点3と同じであり、ア(イ)の相違点3と同様に判断される。
したがって、引用発明2において、本願発明3における相違点3bに係る特定の組成の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本願発明3は、引用発明2および周知技術(引用文献1、3?11に記載された事項)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4) 引用文献3を主引用例とする場合(理由2(進歩性)について)
ア 本願発明1について
(ア) 対比
本願発明1と引用発明3を対比する。
引用発明3の「-D-グルクロン酸-β-1,3-D-N-アセチルグルコサミン-β-1,4-を1単位とし、これを1個含む2糖」は、不飽和型低分子ヒアルロン酸ではないので、「2糖糖鎖を有する低分子ヒアルロン酸又は塩」との限りにおいて本願発明1と重複する。
また、本願発明1と引用発明3とは、化粧料等に用いる「剤」との限りにおいて、重複している。
そうすると、本願発明1と引用発明3は、
「2糖の糖鎖を有する低分子ヒアルロン酸又はその塩を含む剤」
である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点5)
本願発明1は、「ヒアルロン酸又はその塩の微生物(シノモナス アトロシアネア(Sinomonas atrocyanea))の発酵物を含む」ものであって、当該発酵物に含まれる不飽和型の低分子ヒアルロン鎖又はその塩として「2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみを含む」のに対し、引用発明3は、2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩を含まない点。

(相違点6)
本願発明1は、「表皮細胞賦活剤」であるのに対し、引用発明3は、「ヒアルロン酸産生促進剤又は分解抑制剤」である点。

(イ) 判断
相違点5について検討する。
引用文献3の摘記事項(イ)の[0013]には、ヒアルロナン(ヒアルロン酸)のうち分子量の低いものは、酵素分解法等で得られる旨の記載があり、酵素分解法として、ヒアルロニダーゼ(睾丸由来)、ヒアロニダーゼ(Streptomyces由来)、ヒアロニダーゼSDなどが例示され、これらの酵素を用いれば不飽和2糖が生じることは引用文献1、2、4の記載から理解できるものの、これらの酵素を用いたとしても、本願発明1における「2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみを含む」ものが得られないから、本願発明1の相違点5に係る特定の組成の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことではない。
また、引用文献5には、ヒアルロン酸を、微生物のアースロバクター アトロシアネウス種(本願発明1のシノモナス アトロシアネア(Sinomonas atrocyanea)の旧名称)により分解して、2糖または4糖の不飽和型ヒアルロン酸が得られることの記載はあるものの(請求項6、【0005】、実施例、特に【0063】)、2糖のみを含む不飽和低分子型ヒアルロン酸を得ることについての記載はないから、この文献に記載された事項を引用発明3と組み合わせたとしても、本願発明1の相違点5に係る特定の組成の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明3及び引用文献1、2、4、5及び6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本願発明2について
(ア) 対比
本願発明2は、コラーゲン合成促進剤であるが、本願発明1の表皮細胞賦活剤とは、発酵物自体は同じである。
それを踏まえて、本願発明2と引用発明3を対比すると、構成成分の対比は上記ア(ア)と同様になり、両発明は、
「2糖の糖鎖を有する低分子ヒアルロン酸又はその塩を含む剤」
である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点5a)
本願発明2は、「ヒアルロン酸又はその塩の微生物(シノモナス アトロシアネア(Sinomonas atrocyanea))の発酵物を含む」ものであって、当該発酵物に含まれる不飽和型の低分子ヒアルロン鎖又はその塩として「2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみを含む」のに対し、引用発明3は、2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩を含まない点。

(相違点6a)
本願発明2は、「コラーゲン合成促進剤」であるのに対し、引用発明3は、「ヒアルロン酸産生促進剤又は分解抑制剤」である点。

(イ) 判断
相違点5aについて検討する。
相違点5aは、上記ア(ア)の相違点5と同じであり、ア(イ)と同じく判断される。
そうすると、引用発明3において、本願発明2の相違点5aに係る特定の組成の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本願発明2は、引用発明3及び引用文献1、2、4、5及び7?8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本願発明3について
(ア) 対比
本願発明3は、セラミド合成酵素活性亢進剤に関するものであるが、本願発明1の表皮細胞賦活剤と、発酵物自体は同じである。
それを踏まえて、本願発明3と引用発明3を対比すると、構成成分の対比は上記ア(ア)と同様になり、両発明は、
「2糖の糖鎖を有する低分子ヒアルロン酸又はその塩を含む剤」
である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点5b)
本願発明3は、「ヒアルロン酸又はその塩の微生物(シノモナス アトロシアネア(Sinomonas atrocyanea))の発酵物を含む」ものであって、当該発酵物に含まれる不飽和型の低分子ヒアルロン鎖又はその塩として「2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩のみを含む」のに対し、引用発明3は、2糖の糖鎖を有する不飽和型ヒアルロン酸又はその塩を含まない点。

(相違点6b)
本願発明3は、「セラミド合成酵素活性亢進剤」であるのに対し、引用発明3は、「ヒアルロン酸産生促進剤又は分解抑制剤」である点。

(イ) 判断
相違点5bについて検討する。
相違点5bは、上記ア(ア)の相違点5と同じであり、ア(イ)と同じく判断される。
そうすると、引用発明3において、本願発明3の相違点5bに係る特定の組成の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本願発明3は、引用発明3及び引用文献1、2、4、5及び9?11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶理由および当審の拒絶理由のいずれによっても、本願を拒絶することはできない。
また、他の本願を拒絶すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-10-01 
出願番号 特願2013-105775(P2013-105775)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (A61K)
P 1 8・ 121- WY (A61K)
P 1 8・ 113- WY (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 池田 周士郎天野 皓己田中 雅之  
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 吉田 知美
岡崎 美穂
発明の名称 化粧料  

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