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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16H
管理番号 1356393
審判番号 不服2018-13245  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-03 
確定日 2019-11-12 
事件の表示 特願2017-129158号「オイル供給構造」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月24日出願公開、特開2019- 11831号、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本願は、平成29年6月30日の出願であって、平成30年3月29日付けで拒絶の理由が通知され、同年6月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月27日付けで拒絶査定(原査定)がなされ、これに対し、同年10月3日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
そして、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成30年6月4日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
円筒状の外周面を有する回転体と、
前記回転体の周囲を取り囲み、前記回転体の外周面に対して間隔を空けて同心をなす内周面を有する環状部材と、
前記回転体の外周面と前記環状部材の内周面との間に介在し、前記回転体の回転軸線方向に移動可能に設けられた可動部材と、
前記環状部材と前記回転軸線方向に間隔を空けて対向する対向壁とを含み、
前記環状部材は、前記回転軸線方向に延びる第1軸の一方側の端部であり、
前記第1軸の前記一方側の端部には、端面で開放される凹部が形成されており、
前記回転体は、前記回転軸線方向に延びる第2軸の前記一方側と反対の他方側の端部であって、前記凹部に挿入されており、
前記回転体には、前記回転軸線上を前記第2軸の前記他方側の端面まで延びて、当該端面で開放される軸心油路と、前記軸心油路と連通し、前記軸心油路からのオイルが流通する油路とが形成され、
前記油路は、前記回転体の外周面において、前記環状部材と前記対向壁との間に対して前記回転体の回転径方向に臨む位置で開放され、
前記可動部材には、少なくとも前記対向壁側の端部に、前記回転径方向の両側に開放される連通溝が形成されている、オイル供給構造。」

2.原査定の概要
原査定は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項並びに周知の事項(引用文献3参照)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献1.特開2006-2904号公報
引用文献2.国際公開第2008/029714号
引用文献3.特開2015-145682号公報

3.引用文献
(1)引用文献1に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。
なお、下線は当審で付したものである。以下同様。

「【0001】
この発明は、各種の用途、例えば自動車のトランスミッションの各ギヤ中に組込まれるアイドラニードル軸受等として用いられる保持器付きころに関する。」

「【0011】
この発明の第1の実施形態を図1と共に説明する。この保持器付きころ1は、円筒状をなし、円周方向の複数箇所にころ保持用のポケット4が形成された保持器2と、この保持器2の各ポケット4内に保持される複数のころ3とを備えたものである。ころ3は、例えば針状ころからなる。保持器2は、金属製のものであっても、樹脂製のものであっても良い。
図1(B)に保持器1の展開図を示すように、保持器2の端部には、内径面から外径面に貫通する油路となる油孔5が、円周方向の複数箇所に設けられている。この実施形態では、前記油孔5は、丸孔として形成されている。各油孔5は、ポケット4間の柱部7のある円周方向位置に設けられている。
【0012】
この構成の保持器付きころ1によると、機器における潤滑油の経路途中に設けた場合、保持器2の端部に設けられた油孔5を潤滑油が通過できる。そのため、保持器2によって潤滑油の経路が塞がれることがなく、この保持器付きころ1を経て他部品に供給される潤滑油の量を十分に確保することができる。
【0013】
この発明の他の実施形態を図2に示す。この保持器付きころ1は、保持器2の端部に設ける油路を、図1に示す第1の実施形態における油孔5に代えて、保持器2の端面に形成された径方向の油溝6としたものである。その他の構成は第1の実施形態と同じである。
【0014】
この構成の保持器付きころ1においては、機器における潤滑油の経路途中に設けられた場合に、保持器2を位置決めする部材(図示せず)と保持器2との間の潤滑油通過面積が油溝6で増大する。そのため、保持器2によって潤滑油の経路が塞がれることがなく、この保持器付きころ1を経て他部品に供給される潤滑油の量が十分に確保される。」

「【0018】
図4は、図1または図2に示した保持器付きころ1を用いた機器の他の例を示す。この例は、オートマチックトランスミッションへの適用例である。このオートマチックトランスミッションは、クラッチギヤ22が、アイドラニードル軸受となる保持器付きころ1を介して回転軸21に回転自在に支持され、クラッチギヤ22と回転軸21間の回転の接続および遮断状態を切り換えるクラッチ機構23を備える。
回転軸21の外径面における保持器付きころ1が転走する転走面21aには、潤滑油吐出口32が設けられており、潤滑油吐出口32へは図示しない潤滑油供給手段から回転軸21内に軸方向に延びて設けられた油路33を経て潤滑油が供給される。
【0019】
・・・(略)・・・クラッチギヤ22の両幅面は、回転軸21の外周に設けられた一対の位置決めフランジ30,31に、それぞれ保持器付きころ形式のスラストころ軸受29を介して挟み付けられている。
【0020】
この構成の場合、潤滑油供給手段から供給される潤滑油は、図4に破線で示すように、回転軸21の油路33から転走面21aの潤滑油吐出口32を経て、クラッチ板26,27へと供給される。このとき、保持器付きころ1の保持器2には油路として油孔5または油溝6(図1,図2)が設けられているので、隣接するスラスト軸受29等で給油経路が塞がれてしまうのを回避でき、クラッチ板26,27に十分な潤滑油を供給できる。」

上記ウの記載及び【図4】の記載からみて、クラッチギヤ22は回転軸21の周囲を取り囲んでいると認められる。
以上の記載事項及び認定事項並びに【図2】、【図4】の図示内容からみて、引用文献1には「潤滑油の供給構造」として次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明〕
「回転軸21と、
回転軸21の周囲を取り囲み、アイドラニードル軸受となる保持器付きころ1を介して回転軸21に回転自在に支持されたクラッチギヤ22と、
クラッチギヤ22の両幅面は、回転軸21の外周に設けられた一対の位置決めフランジ30、31に、それぞれ保持器付きころ形式のスラストころ軸受29を介して挟み付けられ、
回転軸21には、回転軸21内に軸方向に延びて設けられた油路33と、回転軸21の外径面における保持器付きころ1が転走する転走面21aに設けられ、油路33から潤滑油が供給される潤滑油吐出口32とが形成され、
保持器付きころ1には、保持器2の端面に径方向の油溝6が形成されている、潤滑油の供給構造。」

(2)引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「[0109]
さらに、ハウジングとしてのシリンダヘッド13およびベアリングキャップ13cには、カムシャフト19を収容する領域に潤滑油を供給する油路の開口13eが設けられている。また、カムシャフト19には、内部に軸方向に伸びるオイル通路19eと、オイル通路19eから軸部19aに向かって延びる油孔19fとが形成されている。そこで、針状ころ軸受21を組み込む際には、外輪部材22a,22bの外径面に形成された油溝22iが、開口13eに対面するように配置する。
・・・略・・・
[0111]
また、外輪部材22a,22bの外径面に油溝22iを設けることにより、開口13eから供給された潤滑油が、油溝22iを経由して油穴22hや隣接する外輪部材22a,22bの突合部分から軸受内部に流入し、さらに、カムシャフト19の油孔19fとオイル通路19eとを通って各部へ分配される。また、潤滑油の他の流路としては、上記と反対にカムシャフト19の油孔19fから供給された潤滑油が、針状ころ軸受21の油穴22hや隣接する外輪部材22a,22bの突合部分、および油溝22iを通って開口13eからハウジングの油路に流出する経路、さらには、開口13eから油溝22iを通って他の位置に設けられた開口13eからハウジングの油路に戻る経路等が考えられる。」

[図10]から、カムシャフト19の油孔19fは、針状ころ軸受21を間に挟んで、ベアリングキャップ13cの油路となる開口13eと対向した位置にあることを看取しうる。

(3)引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0016】
図1?図4は本発明の実施例1に係る無段変速装置を説明するための図である。
・・・(中略)・・・
【0021】
前記ベルト式無段変速機構10は、前記入力軸5と平行に配置された駆動プーリ軸6と、・・・(中略)・・・
【0022】
前記駆動プーリ軸6の、入力側基端部6′には前記入力軸5の前進用駆動ギヤ9aが噛合する前進用入力ギヤ6aが固定され、出力側先端部6′′には駆動プーリ19が装着されており、・・・
・・・(中略)・・・
【0024】
ここで前記駆動プーリ19は、前記駆動プーリ軸6の反入力側に一体形成された固定プーリ半体19aと、該駆動プーリ軸6の入力側に該プーリ軸6に対して軸方向移動可能にかつ回転力伝達可能に装着された可動プーリ半体19bと、・・・(中略)・・・を有する。・・・(中略)・・・」

「【0039】
図5?図7は本発明の実施例2に係る動力分割式無段変速装置を説明するための図であり、図中、図1?図4と同一符号は同一又は相当部分を示す。」

【図4】及び【図7】から、駆動プーリ軸6は、固定プーリ半体19aの端部の凹部に固定されていることを看取しうる。

4.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
後者の「回転軸21」は、円筒状であることは明らかといえるので、前者の「円筒状の外周面を有する回転体」に相当する。
後者の「回転軸21の周囲を取り囲み、アイドラニードル軸受となる保持器付きころ1を介して回転軸21に回転自在に支持されたクラッチギヤ22」は、前者の「回転体の周囲を取り囲み、回転体の外周面に対して間隔を空けて同心をなす内周面を有する環状部材」に相当する。
後者の「アイドラニードル軸受となる保持器付きころ1」は、回転軸21とクラッチギヤ22との間に介在するので、前者の「回転体の外周面と環状部材の内周面との間に介在し、回転体の回転軸線方向に移動可能に設けられた可動部材」と、「回転体の外周面と環状部材の内周面との間に介在した可動部材」である限りにおいて一致する。
後者の「クラッチギヤ22の両幅面は、回転軸21の外周に設けられた一対の位置決めフランジ30、31に、それぞれ保持器付きころ形式のスラストころ軸受29を介して挟み付けられ」た構成において、一対の位置決めフランジ30、31及びスラストころ軸受29はクラッチギヤ22の両幅面に対向した壁といえるので、後者は、前者の「環状部材と回転軸線方向に間隔を空けて対向する対向壁を含み」との構成を備えているといえる。
後者の「回転軸21内に軸方向に延びて設けられた油路33」は、前者の「回転軸線上を第2軸の他方側の端面まで延びて、端面で開放される軸心油路」と、「回転軸線上を延びた軸心油路」である限りにおいて一致する。
後者の「油路33から潤滑油が供給される潤滑油吐出口32」は、前者の「軸心油路と連通し、軸心油路からのオイルが流通する油路」に相当する。
後者の「径方向の油溝6」は、前者の「回転径方向の両側に開放される連通溝」に相当し、後者の「保持器2の端面に径方向の油溝6が形成されている」ことは、前者の「少なくとも対向壁側の端部に、回転径方向の両側に開放される連通溝が形成されている」ことに相当する。
後者の「潤滑油の供給構造」は、前者の「オイル供給構造」に相当する。
そうすると、両者は、
「円筒状の外周面を有する回転体と、
前記回転体の周囲を取り囲み、前記回転体の外周面に対して間隔を空けて同心をなす内周面を有する環状部材と、
前記回転体の外周面と前記環状部材の内周面との間に介在した可動部材と、
前記環状部材と前記回転軸線方向に間隔を空けて対向する対向壁とを含み、
前記回転体には、前記回転軸線上を延びた軸心油路と、前記軸心油路と連通し、前記軸心油路からのオイルが流通する油路とが形成され、
前記可動部材には、少なくとも前記対向壁側の端部に、前記回転径方向の両側に開放される連通溝が形成されている、オイル供給構造。」
である点で一致し、次の点で相違する。
〔相違点1〕
「可動部材」に関して、本願発明は、「回転体の回転軸線方向に移動可能に設けられ」たものであるのに対し、引用発明は、保持器付きころ1が回転軸21の軸線方向に移動するとは特定されていない点。
〔相違点2〕
本願発明は、「回転体」及び「環状部材」の構造に関して、「前記環状部材は、前記回転軸線方向に延びる第1軸の一方側の端部であり、前記第1軸の前記一方側の端部には、端面で開放される凹部が形成されており、前記回転体は、前記回転軸線方向に延びる第2軸の前記一方側と反対の他方側の端部であって、前記凹部に挿入されており」と特定され、「軸心油路」及び「油路」に関して、「前記回転体には、前記回転軸線上を前記第2軸の前記他方側の端面まで延びて、当該端面で開放される軸心油路」「が形成され、前記油路は、前記回転体の外周面において、前記環状部材と前記対向壁との間に対して前記回転体の回転径方向に臨む位置で開放され」たと特定されているのに対して、引用発明は、回転軸21及びクラッチギヤ22の構造、及び、油路33の構造について、そのような構造ではない点。

事案に鑑み、相違点2について、以下検討する。
〔相違点2について〕
引用文献2には、カムシャフト19の軸方向に伸びるオイル通路19eに連通した油孔19fは、針状ころ軸受21を間に挟んで、ベアリングキャップ13cの油路となる開口13eと対向した位置にあることが記載されているものの(上記3.(2)を参照。)、相違点2に係る本願発明の「回転体」及び「環状部材」の構造を示唆するものではない。
引用文献3には、駆動プーリ軸6が、固定プーリ半体19aの端部の凹部に固定され、一体とされていることが記載されており(上記3.(3)アの段落【0024】及びウを参照)、その技術的意義からみて、当該構造は駆動プーリ軸6と固定プーリ半体19aとを一体に回転するためのものと認められる。引用文献3から導き出せる、一方の軸(固定プーリ半体19a)の端部の凹部に、他方の軸(駆動プーリ軸6)を挿入する構造は、2つの軸を固定して一体回転させるためのものといえる。
これに対して、引用発明の、回転軸21と、回転軸21を取り囲んだクラッチギヤ22とは、アイドラニードル軸受となる保持器付きころ1を介しており、回転軸21とクラッチギヤ22とが相対回転可能な構造であるので、当該構造に対して、引用文献3に示される、2つの軸を一体に回転させるための構造を適用する動機付けはないといえる。
また、他に相違点2に係る本願発明の「回転体」及び「環状部材」の構造が周知の事項であるとする証拠もない。
したがって、引用発明を、相違点2に係る本願発明の「回転体」及び「環状部材」の構造とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえず、また、「回転体」及び「環状部材」の構造とすることができない以上、相違点2に係る本願発明の「回転軸線上を第2軸の他方側の端面まで延びて、当該端面で開放される軸心油路」の構成とすることも、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、相違点2に係る本願発明の「油路」の回転体外周面における開放位置に関する構成について検討するまでもなく、引用発明を相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

そして、本願発明は、相違点2に係る構成により、「ニードルベアリング13の保持器71の両端部には、回転径方向の両側に開放される連通溝73が形成されている。そのため、連通油路53の開放端とセカンダリ軸2およびスラストレース44間の隙間45との間にニードルベアリング13が介在しても、連通油路53の開放端からセカンダリ軸2とスラストレース44との間の隙間45に向かうオイルの流れがニードルベアリング13により遮断されることを抑制できる。その結果、セカンダリ軸2の外周の各部に隙間45を通してオイルを供給でき、各部に潤滑不足による摩耗や焼き付きなどの不具合が発生することを抑制できる。」(本願明細書の段落【0040】を参照。)、「連通油路53の開放端から放出されるオイルが隙間45を流れることにより、アウトプット軸3の外周面とスラストレース44との間を流れるオイルの量が過多になることを抑制できるので、オイルの供給過多によるクラッチC1の引き摺り損失の増大を抑制できる。その結果、変速機1のトルク伝達効率を向上させることができ、ひいては、変速機1が搭載される車両の燃費改善効果を発揮することができる。」(同じく段落【0041】を参照。)との作用効果を奏するものであり、当該作用効果は引用発明及び引用文献2又は3に記載された事項から予測しうる範囲のものとはいえない。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項並びに周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項並びに周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-10-28 
出願番号 特願2017-129158(P2017-129158)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高橋 祐介  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 内田 博之
平田 信勝
発明の名称 オイル供給構造  
代理人 皆川 祐一  

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