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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01R
管理番号 1356414
審判番号 不服2018-12253  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-12 
確定日 2019-10-24 
事件の表示 特願2017- 22421「磁気センサとその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月16日出願公開、特開2018-128390〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この審判事件に関する出願(以下、「本願」という。)は、平成29年2月9日の出願であって、平成29年8月31日付け手続補正書により特許請求の範囲についての補正がされ、同年10月30日付けで拒絶の理由が通知され、平成30年1月9日付け手続補正書により明細書及び特許請求の範囲についての補正がされ、同年3月12日付けで拒絶の理由が通知され、同年5月21日付け手続補正書により明細書及び特許請求の範囲についての補正がされ、同年6月5日付けで拒絶査定がなされ、同年6月12日に査定の謄本が送達された。これに対して、同年9月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
その後、令和元年5月15日付けで当審により拒絶の理由が通知され、これに対して、同年7月22日付け手続補正書により明細書及び特許請求の範囲についての補正がされるとともに、同日付け意見書が提出された。


第2 本願発明
本願請求項1-10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明10」という。)は、令和元年7月22日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1、8は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
基板と、前記基板に設けられた磁界検出素子であって、前記基板の前記磁界検出素子が設けられた面と平行な第1の方向の磁界を検出する磁界検出素子と、前記基板に設けられ、前記磁界検出素子の近傍に位置し、前記第1の方向と直交するとともに前記基板の前記面に対して垂直な第2の方向に延びる第1のヨークと、を有し、
前記第1のヨークは、前記磁界検出素子から少なくとも前記第1の方向に離れて位置する第1の部分と、前記第2の方向に関し前記第1の部分より前記基板から離れて位置する第2の部分と、を有し、前記第2の部分は、前記第1の部分との境界面と反対側の面が、前記第2の方向において前記基板及び前記第1の部分から離れる方向に突き出す曲面形状をなしている、磁気センサ。」

「【請求項8】
基板に第1の方向の磁界を検出する磁界検出素子を形成する工程と、
前記第1の方向と直交する第2の方向に前記磁界検出素子を覆うレジストを形成する工程と、
前記レジストに、前記磁界検出素子から前記第1の方向に離れた位置で、前記レジストの上面から前記第2の方向に延びる穴を形成する工程と、
前記レジストの前記穴及び前記穴の上方にメッキによってヨークを形成する工程と、
前記レジストを除去する工程と、を含み、
前記ヨークは、前記磁界検出素子から少なくとも前記第1の方向に離れて位置する第1の部分と、前記第2の方向に関し前記第1の部分より前記基板から離れて位置する第2の部分と、を有し、前記第2の部分は、前記第1の部分との境界面と反対側の面が、前記第2の方向において前記基板及び前記第1の部分から離れる方向に突き出す曲面形状をなしている、磁気センサの製造方法。」

なお、本願発明2-7は本願発明1を減縮した発明であり、本願発明9-10は本願発明8を減縮した発明である。


第3 当審が通知した拒絶の理由
当審が通知した拒絶の理由は、概略以下のとおりである。

1 理由1
この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
よって、この出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 理由2
請求項1-7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 よって、この出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3 理由3
本願の請求項6及びこれを引用する請求項7に係る発明は明確でない。
よって、この出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


第4 理由1(特許法36条4項1号違反)についての判断

発明の詳細な説明には、請求項1-10に係る発明の「磁気センサ」を製造する方法(特に、「第2の部分」における「曲面形状」を製造する方法)に関する実施形態として、「次に、図7(a)に示すように、第2の電極膜12の上に第2のフォトレジスト45を形成し、露光及び現像プロセスによって、第1のヨーク23の第1の部分23aが形成される第2の穴46を形成する。次に、図7(b)に示すように、第2の穴46にメッキで第1のヨーク23の第1の部分23aを形成する。第2の穴46は第1の部分23aで完全に埋められる。さらに、第1の部分23aが形成された後もメッキ工程を続け、第1の部分23aの上に第2の部分23bを形成する。第2の部分23bは第2のフォトレジスト45の外部に形成されるため、溶融メッキの表面張力によって曲面形状に形成される。メッキ工程は、Z方向からみて第2の部分23bが第1の部分23aの外側まで張り出す前に終了する。その後、第2のフォトレジスト45を剥離し、第2の電極膜12の第1のヨーク23と接していない部分を除去し、第1のヨーク23の第1の部分23aと第2の部分23bの側方に第6の絶縁層11を形成し、図1に示す状態となる。」という事項(段落【0025】参照)が記載されている。また、発明の詳細な説明には、「第1?第3のヨーク23,24,25はNiFeなどの軟磁性体で形成されている。」という事項(段落【0012】参照)が記載されていることから、第2の部分23bにおける曲面形状を形成するための溶融メッキには、NiFeなどの合金が用いられているものと認められる。
ここで、NiFeの融点は1400℃を超える程度の温度であり、NiFeなどの軟磁性体として使用可能な合金の融点は、第2のフォトレジスト45の融点に対して比較的高い温度であるものと想定される。それゆえ、NiFeなどの合金を用いて、第2のフォトレジスト45の第2の穴46に溶融メッキを行おうとすると、第2のフォトレジスト45が熱によって溶融・損傷して、第2の穴46の形状も変形してしまい、溶融メッキの表面張力によって曲面形状である第2の部分23bを形成することはできないものと想定される。
また、第2のフォトレジスト45が熱によって溶融・損傷して、第2の穴46の形状も変形してしまうと、請求項2の構成のように、第1の部分の第1方向における幅を、第2の部分に向けて単調に増加するように形成することについてもできないものと想定される。
してみると、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮して、請求項1-10に係る発明の「磁気センサ」を具体的にどのように作成すれば良いのかが不明である。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。


第5 請求人の主張について
請求人は、意見書で以下のように主張している。

「(a)理由1について
審判官殿は明細書の段落[0025]における「第2の部分23bは第2のフォトレジスト45の外部に形成されるため、溶融メッキの表面張力によって曲面形状に形成される。」との記載に関し、メッキに使用する合金の融点を考慮するとフォトレジストが熱によって溶融・損傷してしまい、溶融メッキの表面張力によって曲面形状である第2の部分23bを形成することはできないものと想定され、本願の磁気センサをどのように作成するのか不明である、とされました。
この記載は正しくなく、正確には電解メッキとすべきでした。電解メッキは金属下地層の上に金属膜を堆積させていく技術で、半導体プロセスにおけるビアの形成などに一般的に用いられています。添付図に示すように、メッキ金属は表面上のすべてのポイントから同心円状に成長します。レジストには電流が流れず、レジストの近傍(穴の側壁の近傍)では薬液の交換が起こりにくいため、メッキは相対的にレジストの穴の中央部で優先的に成長します。この結果、レジストの穴の開口部では、メッキの表面が曲面形状になります。また、電解メッキではフォトレジストが熱によって溶融・損傷することがないため、レジストの穴が変形することもありません。よって、メッキはレジストの穴の形状に従って形成されます。」

請求人は、「この記載は正しくなく、正確には電解メッキとすべきでした。電解メッキは金属下地層の上に金属膜を堆積させていく技術で、半導体プロセスにおけるビアの形成などに一般的に用いられています。」、すなわち、溶融メッキは電解メッキが正しい記載であると主張しており、また、「添付図に示すように、メッキ金属は表面上のすべてのポイントから同心円状に成長します。レジストには電流が流れず、レジストの近傍(穴の側壁の近傍)では薬液の交換が起こりにくいため、メッキは相対的にレジストの穴の中央部で優先的に成長します。この結果、レジストの穴の開口部では、メッキの表面が曲面形状になります。」という事項を述べている。

当該主張について検討する。
まず、発明の詳細な説明には、「電解メッキ」自体や上記事項について何ら記載されていない。
また、発明の詳細な説明には、曲面形状である第2の部分23bを形成する方法として「溶融メッキ」を用いることしか記載されておらず、その他の方法は記載も示唆もされていない。
さらに、曲面形状である第2の部分23bを形成する方法として「溶融メッキ」を用いると、「第4 理由1(特許法36条4項1号違反)についての判断」で述べたように「溶融メッキの表面張力によって曲面形状である第2の部分23bを形成することはでき」ず、技術的に矛盾することまでは、当業者が理解できるとしても、それに代わる方法は記載も示唆もされていないし、「電解メッキ」を用いることが当業者にとって自明であると認めるに足りる証拠もない。
したがって、請求人の主張は、採用することができない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-08-22 
結審通知日 2019-08-27 
審決日 2019-09-11 
出願番号 特願2017-22421(P2017-22421)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 續山 浩二名取 乾治  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 梶田 真也
小林 紀史
発明の名称 磁気センサとその製造方法  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 宮崎 昭夫  

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