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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04H
管理番号 1356417
審判番号 不服2018-14164  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-25 
確定日 2019-10-24 
事件の表示 特願2014-100551「構造物の施工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月 7日出願公開、特開2015-218442〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年5月14日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 1月12日付け:拒絶理由通知書
平成30年 3月20日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 7月23日付け:拒絶査定
平成30年 7月31日 :上記拒絶査定の謄本送達
平成30年10月25日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成30年10月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年10月25日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
本件補正は、特許請求の範囲の補正を含むものであり、本件補正の前後における特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。(下線部は、補正箇所である。)なお、請求項2の記載は、本件補正の前後で同じであり、摘記を省略する。

(1)本件補正後
「【請求項1】
構造物完成後に土圧を負担しない支持体間の上部に、地面付近で地組みによって屋根を架設する屋根構築工程と、
前記支持体で前記屋根を支持しながら該屋根の下の土砂を取り除いて内部空間を形成する内部空間形成工程と、
を備える構造物の施工方法。」

(2)本件補正前
「【請求項1】
構造物完成後に土圧を負担しない支持体間に、地組みによって屋根を架設する屋根構築工程と、
前記支持体で前記屋根を支持しながら該屋根の下の土砂を取り除いて内部空間を形成する内部空間形成工程と、
を備える構造物の施工方法。」

2 補正目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された「屋根構築工程」について、屋根が支持体間の「上部」に架設されること、及び、「地面付近で」地組により架設されることを、限定したものである。そのため、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認める。

3 独立特許要件
上記2のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認めることができる。
そのため、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)は、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合すること(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであること)を要する。
以下、本件補正発明の独立特許要件を検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の理由で引用され、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2013-81919号公報(平成25年5月9日公開。以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審決で付した。以下、同様。)。

a 明細書
「【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根付き処理施設およびその建設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物の処理施設として、従来、降雨などの環境に廃棄物がさらされないようにするために、屋根が設けられた屋根付き処理施設が知られている。この種の屋根付き処理施設として、従来、埋立地の上方に延在する被覆手段によって埋立地を覆う被覆型廃棄物最終処理施設がある(たとえば、特許文献1参照)。この被覆型廃棄物最終処理施設は、廃棄物を埋めるための埋立地が掘削されているとともに、その埋立地を覆う屋根が建設されているというものである。
・・・・(中略)・・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種の屋根付き処理施設として、大型の処理施設に対する要請がある。しかし、上記特許文献1に開示された被覆型廃棄物最終処理施設では、屋根の側部をコンクリート柱等で支えるのみであるため、大型の処理施設における屋根を支えるには十分でなかった。この点、たとえば、埋立地に屋根を支えるための柱を立設することが考えられる。ところが、埋立地に柱を立設するとしても、埋立地を掘削した後に柱を立設するのでは、工期が長期間に及んでしまうという問題があった。また、屋根付き処理施設は、屋外に建設されることから、降雨などの際には、雨水を受けたまま埋立領域の掘削を行わなければならないという問題があった。
・・・・(中略)・・・・
【0006】
そこで、本発明の課題は、建設する際の工期の短縮を図るとともに、降雨の際の雨水などを避けながら掘削作業等を行うことができ、さらには、埋立地の漏水を防止することができる屋根付き処理施設およびその建設方法を提供することにある。
・・・・(中略)・・・・
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各実施形態において、同一の機能を有する部分については同一の符号を付し、重複する説明は省略することがある。
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係る屋根付き処理施設の側断面図、図2は、その平断面図、図3は、その内部の斜視図である。図1?図3に示すように、本実施形態に係る屋根付き埋立処分地施設1は、廃棄物が埋め立てられる埋立領域2が形成されており、埋立領域2は、被覆屋根3によって覆われている。被覆屋根3は並設された複数のトラス梁を備え、トラス梁の表面に屋根部材が設けられて形成されており、建物躯体基礎4によって支持されるとともに、埋立領域2に所定間隔をおいて立設された複数の杭柱構造5によって支持されている。
・・・・(中略)・・・・
【0035】
杭柱構造5は、図4にも示すように、場所打ち杭11およびプレキャスト杭12を備えている。場所打ち杭11は、いわゆるオールケーシング工法(ベノト工法)によって造成されている。また、プレキャスト杭12は、PCコンクリート製である。プレキャスト杭12の径は、場所打ち杭11の径よりも細径とされている。プレキャスト杭12としては、PCコンクリート製杭のほか、鋼管杭などを用いることもできる。
【0036】
また、このプレキャスト杭12は、場所打ち杭11の鉛直上方に立設されており、被覆屋根3を支持する柱としての機能をも有している。プレキャスト杭12の頭部には、図示しないカラムが取り付けられている。カラムは、複数の鉄骨接合部を備えており、これらの鉄骨接合部は、種々の異なる方向を向いて配置されている。カラムにおける鉄骨接合部に被覆屋根3のトラス梁を接合することにより、被覆屋根3を容易にプレキャスト杭12に接合することができる。
・・・・(中略)・・・・
【0052】
次に、本実施形態に係る屋根付き埋立処分地施設1の施工手順について説明する。図7は、屋根付き処理施設を施工する工程を示す工程図、図8は、図7に続く工程を示す工程図である。図1に示す屋根付き埋立処分地施設1は、図7(a)に示すように、地盤Nに形成される。図7(a)では、屋根付き処理施設における埋立領域2の底面2Aとなる深さの位置を破線で示している。
【0053】
この状態から、図7(b)に示すように、一次掘削を行い、埋立領域2を形成する範囲のおよそ半分の深さまで掘削を行う。なお、埋立領域が浅い場合には、一次掘削は行われない。埋立領域が深い場合には、地上から場所打ち杭を造成することがコストおよび工程上不利となるので、コストおよび工程が最適となるように一次掘削の深さが設定される。
【0054】
一次掘削を行ったら、図7(c)に示すように、一次掘削面S1上にクレーンCを載置し、場所打ち杭11を造成する。このとき、場所打ち杭11の根入れ深さが埋立領域2よりも深い位置となるように場所打ち杭11が造成される。また、この場所打ち杭を一次掘削面S1上で順次造成していく。
【0055】
場所打ち杭11の造成が済んだら、杭頭処理作業ができる程度に少し掘り下げてから、図8(a)に示すように、造成した場所打ち杭11に対して、プレキャスト杭12を立設する。プレキャスト杭12を立設する際には、図4に示すように、プレキャスト杭12におけるフランジ12Aをアンカー部材13に固定し、場所打ち杭11の上面に根巻きコンクリート17を打設する。
【0056】
プレキャスト杭12を立設したら、図8(b)に示すように、建物躯体基礎4を形成するとともに、プレキャスト杭12を柱として、被覆屋根3を構築する。この段階で被覆屋根3を構築することにより、以後の埋立領域2における作業を被覆屋根3の下で行うことができる。したがって、降雨等があった場合でも、雨水をしのぎながら作業を行うことができる。なお、降雨等には、降雨のほか降雪なども含まれる。
・・・・(中略)・・・・
【0060】
その後、図8(c)に示すように、逆巻きで地盤を掘り下げて二次掘削を行い、埋立領域2を掘り進めていく。このとき、二次掘削の進行に合わせて遮水シート41を下方にまで伸ばして設けている。二次掘削が完了した後に場所打ち杭11の周囲に遮水シート41を取り付けようとすると、掘削面上に足場などを組み立てて遮水シート41を取り付ける必要が生じる。この点、二次掘削の進行に合わせて遮水シート41を設けることにより、遮水シート41を設ける際に、足場などを別途組み立てる必要がなくなる。
【0061】
こうして二次掘削と遮水シート構造40の形成とを進め、図9(a)に示すように、二次掘削が完了し、埋立領域2を所定の深さ位置まで掘り進める。この段階では、遮水シート41が場所打ち杭11の側面をほぼ覆う位置まで巻き付けられる。このとき、埋立領域2における法面2Bに対して随時遮水処理を施す。
・・・・(中略)・・・・
【0066】
そして、中間保護マット31Bの上層に、第2成型遮水シート34のつば部を挟んで、表面保護マット31Cを敷設する。こうして、埋立領域2の底面2Aには、下側から順に底面保護マット31A、下層シート32A、中間保護マット31B、上層シート32B、および表面保護マット31Cが積層される。その表面におよそ500mm程度の覆土を行う。こうして、下方遮水構造30および埋立領域2の底面2Aが形成され、屋根付き埋立処分地施設1が建設される。
【0067】
このように、本実施形態に係る屋根付き埋立処分地施設1は、被覆屋根3を支持する柱を立設するにあたり、埋立領域2に所定間隔をおいて造成された複数の場所打ち杭11の鉛直上方にプレキャスト杭12を立設し、このプレキャスト杭12を柱として用いている。このため、二次掘削および遮水シートの設置等の作用が天候に左右されずに施工できるので、工程が短縮される。また、被覆屋根3が建設された後には、掘削中の埋立領域2が被覆屋根3で覆われることとなる。このため、降雨の際、建設された被覆屋根3によって雨水などを避けながら、掘削および遮水シート等の設置作業を行うことができるので、品質が確保・向上される。なお、遮水シート等の設置作業には、集排水管設置等の作業も含まれる。」

b 図面
図1、図3、図7ないし9には、それぞれ以下の図示がある。
【図1】

【図3】

上記図3、図7(a)、図8(b)(c)及び図9より、建物躯体基礎4は、所定間隔をおいて地盤Nから露出する露出部を有する様子が、看て取れる。
また、上記図1、図3、図8(b)(c)及び図9より、被覆屋根3は、建物躯体基礎4の露出部の上部と、杭柱構造5の上部とに支持されて、埋立領域2を覆う様子が、看て取れる。
また、上記図1、図3、図8(b)(c)及び図9より、建物躯体基礎4は、地盤N内の埋設深さが、埋立領域2の底面2Aより浅く地表付近にとどまる様子が、看て取れる。

(イ)上記(ア)より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「地盤Nを、埋立領域2の底面2Aとなる深さの位置まで掘削した、埋め立て領域2、
埋立領域2に所定間隔をおいて、根入れ深さが埋立領域2よりも深い位置となるように造成された場所打ち杭11の上にプレキャスト杭12を備えた、複数の杭柱構造5、
所定間隔をおいて地盤Nから露出する露出部を有し、地盤N内の埋設深さは埋立領域2の底面2Aより浅く地表付近にとどまる、建物躯体基礎4、
建物躯体基礎4の露出部の上部と、杭柱構造5の上部とに支持されて、埋立領域2を覆う被覆屋根3、
を有する、屋根付き埋立処分地施設1の建設方法であり、
施工手順として、
埋立領域2が浅く、地上から場所打ち杭11を造成することがコストおよび工程上不利とならない場合には、一次掘削を行うことなく、地上から場所打ち杭11を造成し、造成した場所打ち杭11に対して、プレキャスト杭12を立設し、
建物躯体基礎4を形成するとともに、プレキャスト杭12を柱として、被覆屋根3を構築し、
被覆屋根3を構築して以後の埋立領域2における作業は、被覆屋根3の下で行い、
地盤を掘り下げて埋立領域2を掘り進め、埋立領域2を所定の深さ位置まで掘り進めると二次掘削を完了し、埋立領域2の底面2Aを形成する、
屋根付き埋立処分地施設1の建設方法。」


イ 参考文献2
本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった参考文献である、特開平6-346512号公報(平成6年12月20日公開。以下、「参考文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

a 明細書
「【0023】そして、適正な張力の導入で屋根架構2としては架構応力の安定性を確保でき、構造強度も十分に得ることができているので、後述するリフトアップ作業も安全且つスムーズに実施することができる。さらに、適正な張力の導入で構成できた屋根架構2であるので、構造物としての強度・耐力を十分に得ることができ、構造安全性を確保することができる。さらには、屋根架構2の全体を地組みによって完成することができるので、高所作業を必要最小限とすることができ、施工の安全性も向上できる。
【0024】次に、構築方法について、図2から図5を参照して説明する。図2に示すように敷地17内において、構造物1の屋根部分を構成する、平面多角形状の屋根架構2を地組みすると共に、屋根架構2の角部位置それぞれに主柱3を構築する。この作業にあたっては、敷地17内に張弦大梁6のアーチ形状に従って高さの異なる構台18を間隔を隔てて立設すると共に、その外側に主柱3を別途構築する。本実施例では、上述のように屋根架構2が平面四角形状であるので、主柱3は4隅に構築されると共に、上記構成の張弦大梁6は、地上において屋根架構2の形状中心を通る対角線に沿って平面Xの字状に構築されていく。この際、張弦大梁6の両端部の出隅部13は中空で、主柱3を囲繞するように構築される。また、主柱3の上端には図6及び図7に示すように、後述するリフトアップ作業に使用するセンターホールジャッキ19を備えた制御室20が設置される。このセンターホールジャッキ19は、張弦大梁6の長手方向と直交する方向に主柱3の上端から張り出された架台21の両端部にそれぞれ2台設けられ、そのロッド22が張弦大梁6の端部にアンカーヘッド23を介して定着される。そして張弦大梁6、ひいては屋根架構2は、このセンターホールジャッキ19を起動することで、主柱3を囲繞する出隅部13をガイドとしてリフトアップされるようになっている。この制御室20には、さらにリフトアップ作業中において張弦大梁6や張弦小梁9などに取り付けたセンサなどからのデータが入力されて、リアルタイムで応力・変位・歪を計測し、計画値と合致しているか監視するための、図示しないコンピュータも設置されている。」

b 図面
図2には、次の図示がある。

上記図2より、後にリフトアップを行う前に地面近傍で屋根架構2を構築する作業が、高さの異なる構台18の上に屋根架構2を組む工程を含んでいても、前記aに記載される「地組み」として行われる様子が、看てとれる。

ウ 参考文献3
本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった参考文献である、特開平7-317194号公報(平成7年12月5日公開。以下、「参考文献3」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

a 明細書
「【0011】
【実施例】以下、図面を参照して本発明のドーム屋根を備えた大型建築物の施工方法の一実施例について説明する。図1および図3において、符号Sは本実施例の施工方法を適用して施工された大型建築物を示す。この大型建築物Sは、その周囲を構成する外周構造体1と、この外周構造体1上に架設されたドーム屋根2とを主体として構成されている。
【0012】前記構成の大型建築物Sは、基本的に、外周構造体1を施工する一方で、この外周構造体1の内側領域内でドーム屋根2を地組し、この地組されたドーム屋根2を上昇させて外周構造体1上に架設することにより施工される。以下に、この施工の詳細について説明する。まず、図2(a)に示すように、外周構造体1を施工する外周部に、杭3を周方向に所定間隔で打ち込むとともに、外周構造体1の内側領域の地盤Gの地盤改良を行なう。次に、図2(b)に示すように、前記杭3上に基礎躯体4を形成するとともに、前記地盤G上に、前記ドーム屋根2を地組する際に、当該ドーム屋根2を支持するベント5…の建方をクレーン6を使用して行なう。これらベント5…は、平面視において、前記地盤Gの中央部から放射状にかつ周方向に所定間隔で建方されるもので、その高さは外周側のベント5ほど低くなるように設定されている。」

b 図面
図2には、次の図示がある。

上記図2より、後にドーム屋根2を上昇させる前に地面近傍でドーム屋根組む作業が、地盤上で高さの異なるベント5の上にドーム屋根2を支持させる作業を含んでいても、前記aに記載される「地組」として行われる様子が、看てとれる。

(3)引用発明1との対比
本件補正発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「屋根付き埋立処分地施設1」は、「杭柱構造5」、「建物躯体基礎4」、「被覆屋根3」という構造要素を有しており、「建設」される「施設」であるから、本件補正発明における「構造物」に相当する。
引用発明1における「被覆屋根3」は、本件補正発明における「屋根」に相当する。
引用発明1における「建物躯体基礎4」及び「杭柱構造5」は、「被覆屋根3」を支持するから、本件補正発明における「支持体」に相当する。
また、引用発明1における「建物躯体基礎4」は、「地盤N内の埋設深さは埋立領域2の底面2Aより浅く地表付近にとどまる」から、屋根付き埋立処分地施設1の完成後に土圧を負担する構造ではなく、引用発明1における「杭柱構造5」も、「柱」の構造をしているから、屋根付き埋立処分地施設1の完成後に土圧を負担する構造ではないと解される。引用発明1において、「建物躯体基礎4」及び「杭柱構造5」が、いずれも屋根付き埋立処分地施設1の完成後に土圧を負担する構造ではない点は、本件補正発明における「支持体」が、「構造物完成後に土圧を負担しない」点に相当する。
引用発明1において、「被覆屋根3」は、「所定間隔をおいて」設けられた「建物躯体基礎4の露出部」及び「杭柱構造5」の「上部」に支持されて、埋設領域2を覆うから、「被覆屋根3を構築」する施工手順では、「所定間隔をおいて」存在する「建物躯体基礎4の露出部」及び「杭柱構造5」の間の上部に、「被覆屋根3」を架け渡して構築していると解される。このことを勘案すると、引用発明1における「被覆屋根3を構築」する施工手順は、本件補正発明における「支持体間の上部」に「屋根を架設」する「屋根構築工程」に相当する。
引用発明1において、「被覆屋根3を構築して以後」の「被覆屋根3の下で行」う施工手順として、「地盤を掘り下げて埋立領域2を掘り進め、埋立領域2を所定の深さ位置まで掘り進めると二次掘削を完了し、埋立領域2の底面2Aを形成する」施工手順は、埋立領域2の底面2Aを形成する深さまで二次掘削を行うことで、屋根付き埋立処分地施設1の内部に空間を形成するものであり、また当該空間の形成は、「構築」された「被覆屋根3」が「建物躯体基礎4の露出部の上部と、杭柱構造5の上部とに支持され」た状態において、「被覆屋根3」の下の地盤掘削した土砂を取り除いて行われるものであるから、引用発明1における当該施工手順は、本件補正発明における「前記支持体で前記屋根を支持しながら該屋根の下の土砂を取り除いて内部空間を形成する内部空間形成工程」に相当する。
引用発明1における「建設方法」は、施工手順を有する方法であるから、本件補正発明における「施工方法」に相当する。

整理すると、本件補正発明と引用発明1とは、
「構造物完成後に土圧を負担しない支持体間の上部に、屋根を架設する屋根構築工程と、
前記支持体で前記屋根を支持しながら該屋根の下の土砂を取り除いて内部空間を形成する内部空間形成工程と、
を備える構造物の施工方法。」
である点で一致するといえる。

そして、本件補正発明と引用発明1とは、以下の点で相違する。
<相違点>
本件補正発明は、屋根を「地面付近」で「地組みによって」架設するのに対し、
引用発明1では、「被覆屋根3」を「地面付近」で「地組みによって」架設するとは特定されていない点。

(4)判断
上記相違点について判断する。
引用発明1において、「一次掘削を行うことなく」作業を行う選択肢を採る場合、「被覆屋根3」を構築する際の、「被覆屋根3」を支持する「建物躯体基礎4の露出部の上部」及び「杭柱構造5の上部」の位置は、一次掘削も二次掘削も行われていない分、地盤Nの表面である地面に近いこととなる。
また、例えば上記(2)のイ及びウに摘記した参考文献2及び3の記載に示されるように、後に屋根部材を上昇させる前に、地面の近傍で屋根部材を組む作業について、間隔をおいて設置された高さの異なる部材の上に屋根部材を組む工程を含んでいても、当該作業を「地組み」と称することは通常行われていることを勘案すると、引用発明1において「一次掘削」を行わない選択肢を採る場合、二次掘削の完了後に被覆屋根3を構築する場合に比較して、地盤Nの表面から近い位置にある「建物躯体基礎4の露出部の上部」及び「杭柱構造5の上部」に対して「被覆屋根3」を支持させる作業を、地面近くで可能な作業であることから「地組み」として行うことは、実際上当然の選択であるか、仮にそうでないとしても単なる設計事項程度である。
したがって、引用発明1において、「一次掘削を行うことなく」被覆屋根3を構築し、その際に上記相違点に係る本件補正発明の構成である「地面付近で地組みによって」当該屋根を構築する構成に至ることは、当業者であれば容易に想到し得た事項である。
そして、当該相違点に係る本件補正発明の構成の効果である、「屋根30の下の地盤12を掘り下げて地下に内部空間14の一部を形成することにより、地下に内部空間14を形成しない場合と比較して、屋根30を支持する柱24や仮設支柱24の支持高さH(図2(D)参照)を低くすることができる。したがって、低所において屋根30を組み立てる(地組み)ことができるため、屋根30の施工性が向上する。」(本件明細書段落【0052】参照)という効果も、引用発明1において「一次掘削を行うことなく」被覆屋根3を構築する選択を行う際に、事前に予測できた範囲を超えるものではない。
よって、引用発明1に基いて、上記相違点に係る本件補正発明の構成に至ることは、当該相違点に係る本件補正発明の構成が奏する効果を含めて検討しても、設計事項程度であるか当業者であれば想到容易である。

(5)請求人の主張について
請求人は審判請求書において、引用文献1の段落【0053】には「埋立領域が浅い場合には、一次掘削は行われない。」と記載されているところ、引用文献1における「埋立領域が浅い場合」とは、護岸等で囲まれた凹部を埋め立てて埋立地を形成する際の埋立量が少ない場合のことであるから、一次掘削が行われない場合には屋根の架設作業は図7(b)のように凹みが地面に存在する状態で行われることとなり、図7(a)の状態で屋根の架設作業が行われて作業位置が地面に近くなるものではない旨を主張している(審判請求書 4(2)欄参照)。
しかしながら、引用文献1において、掘削を行う前から地面に存在する凹部を埋め立てた後に屋根を構築することは記載されていない。また、請求人が根拠とする段落【0053】及び段落【0054】の記載も、「なお、埋立領域が浅い場合には、一次掘削は行われない。埋立領域が深い場合には、地上から場所打ち杭を造成することがコストおよび工程上不利となるので、コストおよび工程が最適となるように一次掘削の深さが設定される。・・・(中略)・・・場所打ち杭11の根入れ深さが埋立領域2よりも深い位置となるように場所打ち杭11が造成される。」というものであるから、引用文献1において、一次掘削を行わないのは、「根入れ深さが埋立領域2よりも深い位置となるように」造成する場所打ち杭11を、「地上から」造成することがコスト上及び工程上不利とならない場合であり、これに反する請求人の上記の主張は、引用文献1を正解しないものである。
また、請求人は審判請求書において、引用文献1には、被覆屋根3を地組みすることは記載も示唆もされておらず、本件発明の如く「支持体間の上部に、地面付近で地組によって屋根を架設する」構成を容易に想到することはできない旨を主張するとともに、拒絶査定後の電話応対において審査官が示した見解も適切ではないと主張している(審判請求書 4(3)欄参照)。
しかしながら、この点については上記(4)に判断したとおりであるから、これに反する請求人の主張は採用することができない。なお、原査定においても「そして、引用文献1に記載された発明において、一次掘削が行われない場合には、地盤Nが、図7(a)の状態で、図8(b)の屋根の架設作業が行われることとなり、屋根構築工程において、屋根が、地組みによって架設されるものとなることは、当業者に自明である。」として、上記(4)の判断と同旨の判断が示されているから、拒絶査定後の電話応対に関する請求人の主張も、上記(4)の判断及び原査定の判断を変更すべき事情とはならない。
請求人は審判請求書において、引用文献1には、図8(c)の状態について、段落【0060】に「二次掘削が完了した後に場所打ち杭11の周囲に遮水シート41を取り付けようとすると、掘削面上に足場などを組み立てて遮水シート41を取り付ける必要が生じる。」との記載があるから、引用文献1では被覆屋根3を取り付ける際にも足場が必要である旨を主張する(審判請求書 4(4)欄参照)。
しかしながら、当該段落【0060】の記載は「二次掘削が完了した後」に追加の作業を行おうとした場合の記載であり、引用発明1において二次掘削を行う前に被覆屋根3を構築する際に足場が必要となることを示すものではない。したがって、当該請求人の主張も採用することができない。
以上のとおり、いずれの請求人の主張を考慮しても、上記(4)の判断を覆すべき事情は見いだせない。

4 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条7項の規定に違反するものであるから、同法第159条1項の規定において読み替えて準用する同法第53条1項の規定により、却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本件発明について
1 本件発明
平成30年10月25日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし2に係る発明は、平成30年3月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるものである。
本願の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、上記第2[理由]3(2)アに示したとおりである。

4 対比・判断
本件補正発明と、引用発明1との対比、及び相違点についての判断は、上記第2[理由]3(3)及び(4)に示したとおりである。
本件発明の有する構成を全て有し、さらに限定した本件補正発明が、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も原査定の理由のとおり、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本件発明は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-08-23 
結審通知日 2019-08-27 
審決日 2019-09-10 
出願番号 特願2014-100551(P2014-100551)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04H)
P 1 8・ 575- Z (E04H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 兼丸 弘道  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 有家 秀郎
須永 聡
発明の名称 構造物の施工方法  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 福田 浩志  

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