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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B25J
管理番号 1356434
審判番号 不服2019-2022  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-13 
確定日 2019-11-12 
事件の表示 特願2014-225359「把持装置、搬送装置、及び分析装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年6月18日出願公開、特開2015-110264、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年11月5日(優先権主張 平成25年11月6日)の出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 4月25日付け:拒絶理由通知書
平成30年 7月 9日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年11月 1日付け:拒絶査定
平成31年 2月13日 :審判請求書と同時に手続補正書の提出


第2 原査定の概要
原査定(平成30年11月1日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1に係る発明は、以下の引用文献1-2、4-6に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
同様に、本願請求項2-3に係る発明は以下の引用文献1-2、4-6に基づき、本願請求項4-7に係る発明は以下の引用文献1-6に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2008-45946号公報
2.特開2007-83331号公報
3.特開昭61-140404号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2001-151466号公報(周知技術を示す文献)
5.特開平8-1569号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2006-13208号公報(周知技術を示す文献)


第3 本願発明
本願請求項1-6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は、平成31年2月13日に提出された手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される発明であり、そのうち本願発明1は以下のとおりの発明である。

「液体の検体を収容する複数の凹部が形成されたプレート状の把持対象物を互いに接離し把持する把持部材と、
前記把持部材を前記把持対象物と接離する水平方向に移動させる移動機構と、
前記把持対象物の下方において、前記把持対象物を受けることができる単一の受け部材と、
前記把持部材で把持された前記把持対象物の下方へ、前記把持対象物と間隔を開けて前記受け部材を水平方向に直線的に移動させる受け部材移動機構と、
を備えた把持装置。」

また、本願発明2-6は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであり、本願発明1を減縮した発明である。


第4 引用文献、引用発明等

1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
本発明は、自動分注方法、特に試薬や検体等の液状試料の分注時に使用する、試薬プレートやチップラック等の分注用具を搬入・搬出するハンドユニットを所定位置に正確に位置決めすることができる自動分注方法に関する。」

イ 「【0003】
従来の分注装置は、図1にその一例を示すように、分注ヘッド1が、X駆動機構2及びY駆動機構3により装置テーブル4上を平面方向に移動可能になっていると共に、該分注ヘッド1には複数のピペット5がヘッド内でZ方向に移動可能に保持されている。
【0004】
上記装置テーブル4上の所定位置には、複数の検体プレート6が各ウェルに吸引元となる検体が予め分注された状態で位置決めセットされると共に、試薬槽7もセットされる。
【0005】
又、装置テーブル4上に設けられている分注ステージ8には、吐出先となる試薬プレート9が載置されると共に、この分注ステージ8に近接する位置に設けられているチップラックステージ10には、ディスポーサルチップ11が挿入されたチップラック12が載置される。
【0006】
又、装置テーブル4の下側に設けられているストッカ13には、試薬プレート9及びチップラック12が収納される。このストッカ13の前方の手前側にはハンドユニット14が、これら試薬プレート9やチップラック12を把持した状態でXZ駆動機構15により移動可能に配設され、これらを前記分注ステージ8やチップラックステージ10にそれぞれ搬送可能になっている。」

ウ「【0007】
次に、分注装置における作業工程の流れを説明する。作業者は、まずストッカ13に試薬プレート9及びディスポーサルチップ11が挿入されているチップラック12を必要数収納する。この段階では、図1に既に示されている試薬プレート9及びチップラック12も未だストッカ13内に収納されている。
【0008】
以上のストッカ13内への収納準備が完了した後、テーブル4上に検査対象の検体プレート6を必要数載置する。次いで、制御ソフトで動作する制御部(図示せず)より分注の一連の動作を開始する命令を出力すると、ハンドユニット14はストッカ13から試薬プレート9を分注ステージ8に、チップラック12をチップラックステージ10にそれぞれ搬送する。
【0009】
搬送が終了すると、分注ヘッド1がX駆動機構2及びY駆動機構3によりチップラックステージ10に載置されているチップラック12の上方に移動され、複数のピペット5は分注ヘッド1内に搭載されているZ駆動機構により下降され、その先端部にディスポーサルチップ11を装着する。
【0010】
次いで、分注ヘッド1は検体プレート6上に移動し、ピペット5の先端のディスポーサルチップ11内に分注元の液状の検体を吸引する。この吸引が終了すると、分注ヘッド1は分注ステージ8の試薬プレート9上に移動され、試薬プレート9上に形成されている各ウェル内に検体を吐出する分注を行なう。次いで、分注ヘッド1はディスポーサルチップ廃棄エリア16に移動し、チップ廃棄機構(図示せず)によりディスポーサルチップを廃棄する。
【0011】
以上のような検体の分注動作が終了すると、分注ヘッド1は再びチップラックステージ10のチップラック12の上方に移動し、新しいディスポーサルチップ11を装着した後、試薬槽7の上方に移動し、ディスポーサルチップ11内に試薬を吸引し、再び分注ステージ8に移動し、検体が入っている試薬プレート9に試薬を吐出する。
【0012】
この一連の検体と試薬の分注工程を必要回数繰り返し、分注ステージ8に設置されている試薬プレート9に予定数の検体や試薬が分注されると、再びハンドユニット14が試薬プレート9やチップラック12をストッカ13内に戻す。更に、次の分注工程が設定されている場合には、以上の工程を初めから必要回数繰り返す。
【0013】
以上のように、ハンドユニット14により、分注工程に必要な試薬プレート9やチップラック12を、ストッカ13と分注ステージ8やチップラックステージ10との間でそれぞれ搬送する分注装置では、ハンドユニット14が試薬プレート9やチップラック12を把持したり、開放したりする目標位置は制御ソフト上に予め登録されている。」

エ 「【0014】
従来の登録の仕方を、図2、図3を用いて説明すると、例えば分注ステージ8における試薬プレート9の載置位置の場合は、作業者がX方向駆動機構15A及びZ方向駆動機構15Bを操作してハンドユニット14を移動させる速度を通常より落とし、事故で他の部品と衝突したとしても互いに破壊されない程度にして、該ハンドユニット14を分注ステージ8に載置されている試薬プレート9の大体の載置位置までX方向、Z方向にそれぞれ移動させる。
【0015】
次に、開閉動作可能なハンドを開いた状態で分注ステージ8に載置されている試薬プレート9との相対位置を目視で確認しながら開いたハンド17と試薬プレート9とのX方向、Z方向の隙間が適切な間隔になるように制御ソフトで上記各駆動機構15A、15Bを操作して、ハンドユニット14を移動させる。
【0016】
次いで、ハンドユニット14を、Y方向駆動機構18を同様に操作してプレート把持位置まで移動させ、実際にハンド17で試薬プレート9を把持させる動作を、試薬プレート9とプレートガイド(位置決めガイド)19の隙間を目視で確認しながら行い、ハンドユニット14によるX、Y、Zの3方向に関して適切な位置になるまで、制御ソフトで移動させる操作により微調整を行なう。最終的に良好な位置に調整できた時点で、そのXYZの各座標の位置情報を制御ソフトに教示し、目標位置として登録する。」

オ 上記イから、試薬プレート9には検体が吐出される複数のウェルを有することが理解できる。

カ 上記エから、ハンドユニット14のハンド17は、試薬プレート9の搬送にあたり開閉動作により把持するものであり、Y方向、すなわち試薬プレート9に接離する方向に移動されるものであることが理解される。

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「液状の検体を収容する複数のウェルが形成された試薬プレート9を互いに開閉し把持するハンド17と、
前記ハンド17を前記試薬プレート9と接離するY方向に移動させるY方向駆動機構18と、
を備えたハンドユニット14。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
この発明は、ロボットハンド機構に係り、特に、家庭など人間と共存する環境において、多様な形状・大きさ並びに様々な場所に位置されている対象物品を把持することができるロボットハンド機構に関する。」

イ 「【0004】
上述した従来技術に係るロボットハンド機構では、1対の平行移動可能な指を備えた1自由度の開閉式ハンドで対象物品を把持し、対象物品の荷重を支えている。従って、対象物品の荷重を支える間においては、ロボットハンド機構は、高いトルクを連続的に出し続けなければならず、運搬中に対象物品が変形又は破損に至る虞があり、また、ハンド駆動アクチュエータにより静動トルクを連続的に発生するために、運搬中において、ハンドの取る姿勢は変化しないにも拘わらず、把持に必要なエネルギー消費量を抑えることが困難である問題がある。また、1自由度の把持では、把持対象物の滑落の危険性も考えられる。」

ウ 「【0010】
この発明によれば、自由度の少ないロボットハンド機構においても、支持用プレートに把持した対象物品を載せて支持することによりハンドの指先に必要なトルクを軽減することが可能でハンド指先で対象物品の位置決めを行うことによりマニピュレータでハンドを動かしても、またマニピュレータを持つ移動ロボットが移動しても、水平を保ったまま安定して対象物品を運搬することができる。またアクチュエータによる自由度を増やさずに支持用プレートを補助装置として設けるので補助装置の駆動のために電気的エネルギーを必要とせず、全体として把持・運搬動作にかかるエネルギーを軽減することができる。」

エ 「【0014】
図1及び図2に示すように、マニピュレータ21の先端部には、手首関節22を介してロボットハンド機構10が設けられている。このロボットハンド機構10には、ハンド本体11が手首関節22に取り付けられ、このハンド本体11から対象部品30を把持する為の一対のグリッパ12が互いに平行に延出されている。一対のグリッパ12は、互いに対向し、ハンド本体11内に設けられた駆動機構(図示せず)によってその間に対象物品30を把持する為にその間隔を均等に変えることができる。・・・」

オ 「【0016】
図1及び図2に示されるようにハンド本体11の底面下(収納位置)には、平行リンク機構14の一端が枢支固定されている支持プレート13が支持補助装置としてに配置され、平行リンク機構14の他端がハンド本体11内に枢支固定されている。・・・平行リンク機構14の一端に固定された支持プレート13が収納位置から対象物品30の底面に向けてスイング(揺動)されて対象物品30の底面に接触される。この状態では、対象物品30は、一対のグリッパ12に把持され、支持プレート13が支持位置に位置されていることから、支持プレート13によっても底面支持されることとなる。従って、マニュピュレータ21が設けられたロボット(図示せず)が移動を開始して外部から振動を受けて対象物品30が下方にずり落ちるような力が対象物品に加わっても支持プレート13によってその落下が阻止され、ロボットが移動されても対象物品を確実に搬送することができる。」

したがって、上記引用文献2には、以下の技術的事項が記載されていると認められる。

「ロボットハンド機構10において、対象部品30の下方において、前記対象部品30を載せて支持する支持プレート13と、グリッパ12で把持された前記対象部品30の下方へ、前記支持プレート13を前記対象部品30の底面を支持するように揺動させる平行リンク機構14とを備えること。」


第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
引用発明における「液状の検体」は、本願発明1における「液体の検体」に相当し、以下同様に、「ウェル」は「凹部」に、「試薬プレート9」は「プレート状の把持対象物」に、「互いに開閉し把持する」は「互いに接離し把持する」に、「ハンド17」は「把持部材」に、「接離するY方向」は「接離する水平方向」に、「Y方向駆動機構18」は「移動機構」に、「ハンドユニット14」は「把持装置」に、相当する。
また、引用発明の「液状の検体を収容する複数のウェルが形成された試薬プレート9」は、本願発明1の「液体の検体を収容する複数の凹部が形成されたプレート状の把持対象物」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「液体の検体を収容する複数の凹部が形成されたプレート状の把持対象物を互いに接離し把持する把持部材と、
前記把持部材を前記把持対象物と接離する水平方向に移動させる移動機構と、
を備えた把持装置。」

(相違点)
本願発明1は、「前記把持対象物の下方において、前記把持対象物を受けることができる単一の受け部材と、前記把持部材で把持された前記把持対象物の下方へ、前記把持対象物と間隔を開けて前記受け部材を水平方向に直線的に移動させる受け部材移動機構」を備えるものであるのに対し、引用発明では、そのような構成を有していない点。

(2)相違点についての判断
ア 上記相違点について検討すると、上記第4の2.で示したとおり、引用文献2には「ロボットハンド機構10において、対象部品30の下方において、前記対象部品30を載せて支持する支持プレート13と、グリッパ12で把持された前記対象部品30の下方へ、前記支持プレート13を前記対象部品30の底面を支持するように揺動させる平行リンク機構14とを備えること」(以下、「引用文献2の技術的事項」という。)が記載されている。
そうすると、引用文献2の技術的事項から、「把持装置」において、「把持対象物の下方において、前記把持対象物を載せて支持する単一の受け部材と、把持部材で把持された前記把持対象物の下方へ、前記受け部材を移動させる受け部材移動機構とを備えること」は、本願優先日前に公知であったといえる。

イ しかしながら、引用文献2の技術的事項における受け部材は、把持対象物を載せて支持するものであるし、受け部材移動機構は揺動するものであるから、本願発明1における、「単一の受け部材」を、「把持部材で把持された把持対象物の下方へ、把持対象物と間隔を開けて」、「水平方向に直線的に移動させる」との構成は、引用発明及び引用文献2の技術的事項のいずれにも記載されておらず、また自明であるともいえない。

ウ 加えて、原査定で示されたとおり、滑落防止のための部材を、対象物に触れる状態ではなく間隔を開けた状態で対象物の下方に配置することが、上記引用文献4-6に見られる従来周知の技術(引用文献4の段落【0006】-【0011】、図1-2、4、引用文献5の段落【0029】-【0030】、【0048】、図1-2、引用文献6の段落【0014】-【0015】、【0031】-【0039】、図5-6等を参照。)であるとしても、引用文献2の技術的事項は、支持プレート13が対象部品30の底面を載せて支持すること、すなわち、支持プレート13が対象部品30の底面と接触して支えることを要件としているものであるし、支持プレート13は平行リンク機構14による揺動で移動させるものであるから、引用発明に引用文献2の上記技術的事項を適用する際に、上記従来周知の技術に接したとしても、支持プレート13を対象部品30の底面と間隔を開けて、水平方向に直線的に移動させることに想到するとはいえない。

エ さらに、本願発明1の「把持装置」において、「単一の受け部材」を、「把持部材で把持された把持対象物の下方へ、把持対象物と間隔を開けて」、「水平方向に直線的に移動させる」との構成は、前置報告書に引用された以下の文献7-9も含めて、その他のいずれの文献にも記載されていない。特に、文献9は、「受け部材」に相当する支え爪35がワークを下から支えるものである(段落【0023】-【0024】等を参照。)点、文献7は、「受け部材」に相当する脱落阻止部材30が左右一対の部材である(段落【0019】等を参照。)点で、本願発明1の上記構成を備えていないし、加えて、文献7、9は、いずれも、「液体の検体を収容する複数の凹部が形成されたプレート状の把持対象物」を把持する把持装置に関する発明ではない。
<文献>
7.特開平6-286603号公報
8.特表2005-502479号公報
9.特開2002-103267号公報

オ したがって、引用発明、引用文献2の技術的事項及び上記周知の技術により、相違点に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。


2.本願発明2-6について
本願発明2-6は、本願発明1の発明特定事項の全てを含むものであり、本願発明1と同じ相違点を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2の技術的事項及び従来周知の技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-6は、当業者が引用発明、引用文献2に記載された技術的事項及び従来周知の技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-10-24 
出願番号 特願2014-225359(P2014-225359)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B25J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 永冨 宏之松井 裕典  
特許庁審判長 見目 省二
特許庁審判官 大山 健
刈間 宏信
発明の名称 把持装置、搬送装置、及び分析装置  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  
代理人 福田 浩志  

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