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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61N
管理番号 1356455
審判番号 不服2018-4212  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-28 
確定日 2019-10-23 
事件の表示 特願2016-540048「神経刺激用のパターン化された刺激強度」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月25日国際公開,WO2015/095092,平成28年12月28日国内公表,特表2016-540594〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2014年(平成26年)12月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年(平成25年)12月16日 米国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 8月15日 :翻訳文の提出
平成29年 4月26日 :手続補正書の提出
平成29年 6月28日付け:拒絶理由通知
平成29年 9月28日 :意見書,誤訳訂正書の提出
平成29年11月21日付け:拒絶査定
平成30年 3月28日 :審判請求書,手続補正書の提出(以下この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 本願発明について
本件補正は,本件補正前の請求項2乃至12を削除する補正であり,特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当するから,特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしている。
したがって,本件補正は適法になされたものである。
よって,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された,次のとおりのものである。

「 個体の神経組織への印加用に刺激信号を生成するように構成されたパルスジェネレーターと、
前記パルスジェネレーターに連結され、前記刺激信号を前記神経組織に印加するように構成された電極と、
前記神経組織に対する前記刺激信号の印加に応答してフィードバック信号を受信する受信機とを備え、
前記刺激信号は、時間可変パターンにアレンジされた複数のパルスを含み、
時間可変パターンにアレンジされた前記複数のパルスは、前記神経組織内の神経線維の異なる束を、異なる割合、異なる時間で興奮させ、
前記パルスジェネレーターは、前記フィードバック信号に基づいて、時間可変パターンにアレンジされた前記複数のパルスの強度に関連するパラメーターを調整するように構成される、
システム。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうちの一つ(平成29年6月28日付け拒絶理由通知の理由2,拒絶査定の理由1)は,本願の請求項1に係る発明は,本願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,というものである。

引用文献1.特表2013-523410号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明

1 引用文献1の記載
(1)引用文献1(平成25年6月17日公表)には,図面とともに,次の記載がある。なお,下線は当審で付した。

【0003】
神経刺激は、いくつかの病状のための治療として提案されている。神経刺激治療の例は、睡眠呼吸障害のような呼吸困難、高血圧症を処置するような血圧制御、心臓律動管理、心筋梗塞及び虚血、心不全、てんかん、抑鬱症、疼痛、片頭痛、摂食障害、肥満、炎症性疾患、及び移動障害のための神経刺激治療を含む。一部の現在の及び提案された神経刺激治療は、数分、数日、数週間、数ヶ月、及び数年の程度の期間にわたって加えられる長期治療である。神経刺激治療が望ましくない反応に関連している場合、反応の不快さは、治療の長期的な性質のために悪化する場合がある。例えば、望ましくない反応は、時間と共に患者の健康又は生命の質に影響を与える場合がある。従って、神経刺激治療に対する望ましくない反応を軽減し、最小にするか又は排除することが望ましい。

【0006】
神経刺激治療を患者の自律神経ターゲットに加えるための様々な装置実施形態は、神経刺激器、メモリ、コントローラ、センサ、及び反応抽出器を含む。神経刺激器は、刺激エネルギを発生させて自律神経ターゲットを刺激するように構成される。メモリは、その中に格納されたプログラムされた神経刺激治療を有する。治療は、神経刺激治療の投与量を制御するのに使用するための複数のプログラマブル神経刺激パラメータを含む。神経刺激治療は、複数の神経刺激バーストを含み、各バーストは、複数の神経刺激パルスを含み、連続バーストは、神経刺激パルスのない時間によって分離される。コントローラは、メモリ及び神経刺激器と通信し、プログラマブルパラメータを使用して神経刺激治療を制御するように構成される。センサは、神経刺激治療に対する誘発反応を示す少なくとも1つの生理的パラメータを感知するようになっている。反応抽出器は、センサからパラメータデータの時系列を受け入れてパラメータデータの時系列から誘発反応データを抽出するように構成され、かつ誘発反応データが神経刺激バースト間に実質的に基線に戻るかを判断するように構成される。

【0012】
図1は、断続的神経刺激(INS)の描写を示している。図は、1つの刺激パルス又は集団刺激パルス(すなわち、バースト)のセットが送出される時にオンになっている刺激の間隔と、刺激パルスが送出されない時にオフになっている刺激の間隔を繰り返す神経刺激の時間的経過を示している。刺激オンの間隔の持続時間は、刺激持続時間又はバースト持続時間と呼ばれる場合がある。刺激オンの間隔の開始は、時間参照点NSイベントである。連続NSイベント間の時間間隔は、INS間隔であり、INS間隔は、刺激周期又はバースト周期と呼ばれる場合がある。神経刺激の印加が断続的になるようにするために、刺激周期(すなわち、オン間隔)は、神経刺激が加えられている時の刺激周期(すなわち、INS間隔)よりも短くすべきである。INSのオフ間隔の期間は、オン間隔とINS間隔の持続時間によって制御される。INS間隔に対するオン間隔の持続時間(例えば、比率として表される)は、INSの負荷サイクルと呼ばれる場合がある。

【0020】
図3は、副交感神経を刺激するのに使用する一列の神経刺激バーストを示している。各バーストは、バースト内に複数のパルス(図示せず)を含む。図では、各バーストは、等しい持続時間(例えば、10秒の程度)を有し、バーストは、バースト周期(例えば、1分の程度)によって分離される。持続時間及び/又はバースト周期は、治療投与量及び過渡誘発反応を調節するように治療中に調節することができる。投与量及び過渡誘発反応は、バースト内の神経刺激パルスの振幅、パルス周波数、及び/又はパルス幅を変えることによって調節することができる。

【0036】
一部の実施形態は、誘発反応ゴールに対して神経刺激パラメータの範囲にわたって自動検索を実施する。例えば、様々な実施形態は、定められたパラメータ範囲、定められた検索スケジュール、又は定められた成功/破壊基準にわたって単独又は組み合わせて指定されたパラメータのためにあるべき自動検索行動をプログラムして制約する。一部の例示的な検索方法は、パラメータランプ(例えば、振幅ランプ、刺激持続時間ランプ)、山登り技術、模擬焼きなまし、及び他のアルゴリズム検索技術である。例えば、NSバースト持続時間及びバースト間隔、及び/又は刺激パルス強度及びパルス周波数は、検索中に変更することができる。異なる刺激位置(多重電極構成を有する)及び刺激波形(単電極又は多重電極構成を有する)は、捕捉された軸索(神経路)セットを変えて、最適過渡反応に対して異なる神経路にわたって検索を可能にするように変更することができる。

【0040】
装置及びシステム
図10は、断続的神経刺激に対する検出された誘発反応に基づいて使用かつ修正することができるプログラマブルパラメータの一部の例を示している。プログラマブルパラメータは、振幅1016、周波数1017、パルス幅1018のような神経刺激治療の強度を調節するのに使用するパラメータを含むことができる。一部の実施形態は、神経刺激スケジュールを調節し、神経刺激強度を調節する。スケジュールパラメータの例は、治療持続時間1019(例えば、何分でINS治療プロトコルを加えるか)、開始/停止時間1020(例えば、いつINS治療プロトコルを開始又は停止するか)、刺激周期1021(例えば、INS治療プロトコルのバースト間隔)、刺激周期1022当たりの刺激列持続時間(例えば、INS治療プロトコルのバースト持続時間)、負荷サイクル1023(例えば、INS治療プロトコルの刺激持続時間/刺激周期)、及び刺激バーストの強度の増強及び/又は低下1024を含む。一部の実施形態は、全体を符号1025に示すような新経路に沿って異なる位置を刺激し、神経路に沿ってそれらの異なる位置において活動電位を開始するように、神経路の近くで複数の電極を作動的に位置決めする機能を考慮して設計される。一部の実施形態は、活動電位が反応を誘導する前に移動する必要がある距離を変えるように神経が刺激され、かつ従って直接反応又は反射反応の活動電位によって誘導された反応のタイミングを変える位置を変える。一部の実施形態は、全体を符号1026に示すように遠心路又は求心路が刺激されているか否かを制御する。

【0042】
様々な実施形態は、神経刺激を制御し、断続的神経刺激イベントに続いてHR、BP、及び他の生理活動の一時的変化を制御する。以下の例は、心拍数及び血圧信号及びターゲットを使用して示されている。心拍数及び血圧は、非網羅的例である。当業技術で公知のように、他の生理的パラメータは、ANS活動の影響を受ける。本発明の主題は、他の生理的信号及びターゲットを使用して実施することができる。図11は、抽出反応を使用して誘発反応及び制御刺激を抽出するように構成されたシステム実施形態を示している。様々な装置実施形態は、神経刺激送出システム1127(神経刺激器とも呼ばれる)、センサ(例えば、HRセンサ1129及び/又はBPセンサ1130など)からのフィードバックを提供することができる反応抽出器1128、及びコントローラ1131を含む。神経刺激器は、例えば、心拍数及び/又は血圧を直接又は反射的に調節するように構成される。反応抽出器は、心拍数及び/又は血圧反応が所定の断続的神経刺激器と如何に相関性があるかを判断することによって誘発反応の描写を抽出し、次に、全持続時間、直接及び反射反応持続時間及びマグニチュードなどのような反応のパラメータを判断する。コントローラは、神経刺激投与量及び/又は負荷サイクルを調節し、過渡的である誘発反応を提供し及び/又は所定の誘発反応パターンを達成するように構成される。

【0044】
HRセンサを使用してHR時系列信号を記録することができ、BRセンサを使用してBR時系列信号を記録することができる。神経刺激器(NS)イベント(例えば、所定の振幅、持続時間、位置、極性などの断続的バースト)は、本明細書では誘発反応と呼ぶ予想可能かつ再現可能なパターン及び持続時間を有するHR又はBRの摂動を誘発することができる。時系列分解は、所定の投与量の断続的NSイベントに関連している誘発反応を抽出することができる。特に、誘発反応の持続時間は、NSイベントによる相関摂動が持続する時間の長さを判断することによって判断することができる。この誘発反応の持続時間は、NSイベントによるHR又はBPの変化が消耗し、すなわち、基線に戻るのに要する時間である。これが、所定のNS投与量に対する反応抽出器によって判断される時に、INS負荷サイクルは、断続的NSイベントによるHR又はBPのあらゆる変化が過渡的であることを保証するようにコントローラによって適合させることができる。これは、NS治療中にHR又はBPの持続的な有害な変化によって引き起こす(例えば、心不全患者において過度の徐脈を引き起こす)場合がある臨床的危険性を回避する。(以下略)

【0045】
HR又はBPに対する神経刺激の効果は、NS投与量によって制御され、NS投与量は、電極設計、刺激部位、パルス振幅、幅、及び位相、バルスバースト持続時間及びパターン、及び刺激タイミングなどを含む複合的な変数から構成される。NS投与量の選択は、装置の治療適用に依存する。一部の適用において、NS投与量は、HR又はBPを制御する神経路を直接刺激することによってHR又はBPを過渡的に減少又は増加させるように選択することができる。これは、次に、NSイベント終了後HR又はBPの代償性反射変化をもたらす場合がある。このような場合には、NSイベントは、数秒又は数分の間持続するHR又はBPの振動を引き起こす場合がある。それらは、振動誘発反応である。それらは、ANS活動における直接刺激及び反射変化の組合せを送出する装置の一部の適用においては好ましい場合がある。NS投与量を変更することにより、装置は、HR又はBP誘発反応のマグニチュード、パターン、及び持続時間を制御することができる。装置反応抽出器は、NS投与量に適合して好ましい又は最適誘発反応を達成するように、コントローラによって使用すべきそれらの誘発反応パラメータを測定することができる。

【0046】
HR及びBPセンサ1129及び1130は、HR及びBP信号データの連続した流れを反応抽出器1128に提供する。このデータの流れは、解析するためにデジタル化して離散的時系列にすることができる。…(中略)…抽出された相関反応は、次に、反応持続時間のような誘発反応データをコントローラに与えるように定量化される。コントローラ1131は、プログラムされたパラメータによりそれらのデータを使用して、神経刺激の負荷サイクル及び/又は投与量を制御する。例えば、コントローラは、INS間隔を調節して誘発反応の持続時間よりも大きく又はこれに等しくなるようにプログラムされ、従って、各NSイベントによって生じたHR又はBP反応が、次のNSが送出される前に背景レベルに戻ることを保証することができる。コントローラは、誘発反応が、最小又は最大持続時間又は最小又は最大反応レベル、又は多くの他の可能性のようなプログラムされた基準に適合するまでNS投与量を調節するようにプログラムすることができる。(以下略)

(2)上記記載から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 引用文献1に記載された技術は,神経刺激治療を加えるための装置に関するものであり,神経刺激治療による望ましくない不快な反応を軽減することを課題とするものである(【0003】,【0006】)。

イ 神経刺激治療を加えるための装置は,刺激エネルギを発生させて自律神経ターゲットを刺激する神経刺激器と,コントローラと,センサからパラメータデータの時系列を受け入れてパラメータデータの時系列から誘発反応データを抽出する反応抽出器とを備える(【0006】)。また,神経を刺激するに際して,電極を用いている(【0040】)。

ウ 神経刺激パルスは,複数のパルスを含み,複数のパルスは,その振幅,周波数,パルス幅等を変えることができる(【0012】,【0020】)。ここで,「神経刺激パルス」は,神経を刺激するためのパルスであり,当然にエネルギを有するから,上記イに記載の神経刺激器が発生する「刺激エネルギ」に含まれるものと認められ,よって,神経刺激器は神経刺激パルスを発生させる。

エ 神経刺激に対する検出された誘発反応に基づいて振幅、周波数、パルス幅のような神経刺激治療の強度を調節する(【0040】)。反応抽出器は,センサからのフィードバックを提供する(【0042】)。また,神経刺激の効果は,NS投与量により制御され,NS投与量は,電極設計,刺激部位,パルス振幅,幅,及び位相,バルスバースト持続時間及びパターン,及び刺激タイミングなどを含む複合的な変数から構成される(【0045】)。また,コントローラは,センサから提供されたデータを使用して,神経刺激の負荷サイクル及び/又は投与量を制御する(【0045】,【0046】)。

オ 上記イ,エから,反応抽出器はセンサからのデータを受け入れフィードバックを提供するものであり,上記エから,コントローラは,センサから提供されたデータを使用してフィードバック制御をするものであることから,コントローラは当然に,反応抽出器から提供されたフィードバックを受信する部分を有する。ここで,センサ(HRセンサ及びBRセンサ)は神経刺激イベントが誘発する信号を記録するものである(【0042】,【0044】)。

上記ア?オから,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「 神経ターゲットを刺激するために神経刺激パルスを発生させる神経刺激器と,
電極と,
神経刺激イベントが誘発する信号を記録するセンサからのデータを受け入れる反応抽出器から提供されたフィードバックを受信する部分を有するコントローラとを備え,
神経刺激パルスは,その振幅,周波数,パルス幅等を変えることができる複数のパルスを含み,
電極設計,刺激部位,パルス振幅,幅,及び位相,バルスバースト持続時間及びパターン,及び刺激タイミングなどを含む複合的な変数から構成されるNS投与量が制御され,
コントローラは,センサから提供されたデータを使用して,神経刺激の負荷サイクル及び/又は投与量を制御する,
装置」

第5 対比
1 本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明は,神経刺激治療を加えるための装置に関するものであり,神経刺激治療による望ましくない不快な反応を軽減することを課題とするものである点で,本願発明と技術分野及び課題が共通する。

(2)引用発明の「神経ターゲットを刺激するために神経刺激パルスを発生させる神経刺激器」は,その機能からみて,本願発明の「パルスジェネレーター」の「個体の神経組織への印加用に刺激信号を生成するように構成された」部分に相当する。

(3)引用発明の「電極」は,神経を刺激するためのものであるという機能からみて当然に神経刺激パルスを発生させる部分に連結され,かつ神経刺激パルスを神経ターゲットに印加するよう構成されていることから,本願発明の「前記パルスジェネレーターに連結され、前記刺激信号を前記神経組織に印加するように構成された電極」に相当する。

(4)引用発明の「コントローラ」の「神経刺激イベントが誘発する信号を記録するセンサからのデータを受け入れる反応抽出器から提供されたフィードバックを受信する部分」は,その機能からみて,本願発明の「前記神経組織に対する前記刺激信号の印加に応答してフィードバック信号を受信する受信機」に相当する。

(5)引用発明の,「神経刺激パルス」は,その機能からみて,本願発明の「刺激信号」に相当する。また,「振幅,周波数,パルス幅等を変えることができる複数のパルス」は,振幅,周波数,パルス幅等を変えることができるということは,時間経過に応じてパターンを変化させることができることを意味するから「時間可変パターン」のものであり,また,神経刺激パルスはその「時間可変パターン」が決定された上で印加されるのであるから,「アレンジされた」ものでもある。よって,引用発明の「振幅,周波数,パルス幅等を変えることができる複数のパルス」は,本願発明の「時間可変パターンにアレンジされた複数のパルス」に相当する。

(6)引用発明の「神経刺激の負荷サイクル及び/又は投与量」は,神経刺激の投与量(NS投与量)が電極設計、刺激部位、パルス振幅、幅、及び位相、バルスバースト持続時間及びパターン、及び刺激タイミングなど(【0045】)であることからみて,本願発明の「時間可変パターンにアレンジされた複数のパルスの強度に関連するパラメーター」に相当する。
よって,引用発明の「コントローラ」の「センサから提供されたデータを使用して,神経刺激の負荷サイクル及び/又は投与量を制御する」部分は,本願発明の「パルスジェネレーター」の「フィードバック信号に基づいて、時間可変パターンにアレンジされた前記複数のパルスの強度に関連するパラメーターを調整するように構成される」部分に相当する。

(7)引用発明の「装置」は,明らかに本願発明の「システム」に相当する。

2 以上のことから,本願発明と引用発明とは以下の【一致点】で一致し,【相違点】で一応相違する。

【一致点】
「 個体の神経組織への印加用に刺激信号を生成するように構成されたパルスジェネレーターと,
前記パルスジェネレーターに連結され、前記刺激信号を前記神経組織に印加するように構成された電極と,
前記神経組織に対する前記刺激信号の印加に応答したフィードバック信号を受信する受信機とを備え,
前記刺激信号は,時間可変パターンにアレンジされた複数のパルスを含み,
前記パルスジェネレーターは,前記フィードバック信号に基づいて,時間可変パターンにアレンジされた前記複数のパルスの強度に関連するパラメーターを調整するように構成される,
システム。」

【相違点】
時間可変パターンにアレンジされた前記複数のパルスが,本願発明では,「前記神経組織内の神経線維の異なる束を,異なる割合,異なる時間で興奮させ」るのに対し,引用発明は,電極設計,刺激部位,パルス振幅,幅,及び位相,バルスバースト持続時間及びパターン,及び刺激タイミングなどを含む複合的な変数から構成されるNS投与量を制御するものの,「前記神経組織内の神経線維の異なる束を,異なる割合,異なる時間で興奮させ」る点に関して明らかではない点。

第6 判断
1 以下,相違点について検討する。
(1)本願明細書の「強度に関する刺激信号(SS)の1つまたは複数のパルスパラメーターを調整すると、それぞれのパルスを用いて軸索の異なる束を動員できる。」(【0034】),「強度に関する刺激信号の1つまたは複数のパルスパラメーターが調整されると、各々のパルスで軸索の異なる束を動員することができる。」(【0045】),「強度に関する刺激信号の1つまたは複数の強度パラメーターを調整すると、それぞれのパルスを用いて軸索の異なる束を動員できる。」(【0050】)との記載によれば,「前記神経組織内の神経線維の異なる束」が「興奮させ」られることは,強度パラメーターを調整した結果として生じる事象である。
また,引用文献1の「異なる刺激位置(多重電極構成を有する)及び刺激波形(単電極又は多重電極構成を有する)は、捕捉された軸索(神経路)セットを変え」るとの記載(【0036】)からは,刺激位置及び刺激波形を異なるものとすることで,補足される軸索セット(神経線維の束)が異なるものとなることが把握される。
してみると,電極設計、刺激部位、パルス振幅、幅、及び位相、バルスバースト持続時間及びパターン、及び刺激タイミングなどのNS投与量を変更する引用発明は,「前記神経組織内の神経線維の異なる束」を「興奮させ」るものと認められる。
また,引用文献1に「NS投与量を変更することにより、装置は、HR又はBP誘発反応のマグニチュード、パターン、及び持続時間を制御することができる。装置反応抽出器は、NS投与量に適合して好ましい又は最適誘発反応を達成するように、コントローラによって使用すべきそれらの誘発反応パラメータを測定することができる。」(【0045】)とあるように,引用発明は,NS投与量(強度に関するパラメーター)を調整した結果として異なる誘発反応が生じるものであり,異なる誘発反応が生じるということは,異なる神経線維の束が興奮した結果といえる。
よってこの点からも,引用発明は,「前記神経組織内の神経線維の異なる束」を「興奮させ」るものと認められる。

(2)また,「異なる束」を興奮させることで,全体に対して興奮させられるものの割合が変化することから,「異なる割合」で興奮させるものとなることは明らかであるし,NS投与量(強度に関するパラメーター)の調整として,パルス幅,位相,バースト持続時間,パターン,刺激タイミングなどを変化させた場合には,「異なる時間」で興奮させるものとなることもまた,明らかである。

(3)そうすると,引用発明は,「前記神経組織内の神経線維の異なる束を,異なる割合,異なる時間で興奮させ」るものである。
よって,上記相違点は実質的には相違点でない。

2 請求人の主張について
請求人は審判請求書にて,「引用文献1に記載された発明は、神経刺激バーストに含まれる複数のパルス全体を調節するのであって、本願請求項1にかかる発明のように、神経刺激バースト内に含まれる個々のパルスの特性を独立に調節することはできない(本願明細書の段落[0045]参照)。従って、本願請求項1に記載された発明は、個々のパルスを調節することができる点で、引用文献1に記載された発明より差異を有し、この差異により、本願請求項1に記載された発明は、「神経組織内の軸索の異なる束を動員することができる」という、従来技術にない有利な効果を有すると思料する。」と主張するので,この点について検討する。
上記主張は,本願発明が「神経刺激バースト内に含まれる個々のパルスの特性を独立に調節する」ことを前提としているが,請求項1には,「時間可変パターンにアレンジされた前記複数のパルスの強度に関連するパラメータ
ーを調整する」ことが特定されているに留まり,「個々のパルスの特性を独立に調節する」ことは特定されていない。
よって,上記主張は請求項の記載に基づくものでないため,採用できない。

3 したがって,本願発明は,引用文献1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-05-21 
結審通知日 2019-05-28 
審決日 2019-06-11 
出願番号 特願2016-540048(P2016-540048)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石川 薫宮崎 敏長  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 寺川 ゆりか
関谷 一夫
発明の名称 神経刺激用のパターン化された刺激強度  
代理人 一色国際特許業務法人  

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