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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01R
管理番号 1356491
審判番号 不服2019-411  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-11 
確定日 2019-11-19 
事件の表示 特願2014-219888号「コネクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月19日出願公開、特開2016- 85938号、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本願は、平成26年10月29日の出願であって、平成30年3月23日付けで拒絶の理由が通知され、同年5月21日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成31年1月11日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
そして、本願の請求項1及び2に係る発明(以下、「本願発明1及び2」という。)は、平成30年5月21日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
筐体に取り付けられると共に、前記筐体内の電線を取り付け可能なコネクタであって、ハウジングを備え、
前記ハウジングは、前記筐体の内部へ角筒状に突出して前記筐体内の前記電線を覆う角筒部を有し、
前記角筒部は、4つの外面を有し、
前記4つの外面には、鋳造により形成された金属製の又は射出成型により形成された樹脂製の排水溝が互いに連なるように夫々形成されており、
前記各排水溝の断面形状は、前記排水溝の最深部が前記排水溝の溝幅中央と比較して前記角筒部の先端から遠くなるような非対称形状であり、
前記各排水溝の前記最深部は、前記排水溝内の水滴が前記排水溝の長手方向の端部へ向かって移動するように前記排水溝の長手方向の中央において隆起しており、
前記各排水溝の前記最深部における前記角筒部の板厚は、前記各排水溝の長手方向の中央で最も厚く、前記各排水溝の長手方向の両端部に近づくにつれて薄くなる、
コネクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のコネクタであって、
前記各排水溝の前記最深部は、湾曲面状に形成されている、
コネクタ。」

2.原査定の概要
原査定は、本願発明1及び2は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献1.仏国特許出願公開第2844106号明細書
引用文献2.特開2001-118628号公報

3.引用文献
(1)引用文献1に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。
なお、括弧内の翻訳は当審で作成した。

" L'appareil 1 illustre sur les dessins, qui est donc ici une prise de courant, comporte un mecanisme 2, une plaque d'habillage 3, un enjoliveur 4 et un joint 5.
Le mecanisme 2 comporte un support 6 et un coeur de mecanisme 7 assujetti au support 6."(7頁1?5行)
(図面に示されている装置1(ここではソケット)は、機構2、カバープレート3、ハブキャップ4、及び接合部材5を備えている。
機構2は、支持体6と、支持体に固定された機構コア7とを備えている。)

"Les contacts electriques 8A, 8B et 8C comportent chacun une borne de raccordement a l'un des conducteurs du reseau auquel doit etre connecte l'appareil 1."(7頁9?11行)
(電気接点8A、8B及び8Cは、それぞれ、装置1が接続されるネットワークの導体の1つへの接続端子を有する。)

"En arriere du flasque 53, le joint 5 comporte une bague 61 dont la surface laterale externe a le meme profil general que la surface laterale interne 19 du cadre de fixation 12, ・・・"(12頁5?7行)
(フランジ53の後部に、接合部材5は、その外側側面が固定フレーム12の内側側面19と同様の断面形状を有する環状部61を備え、・・・)

"La surface externe de la bague 61 presente deux rainures annulaires 62A et 62B, ・・・"(12頁12?13行)
(環状部61の外面には、2つの環状溝62A及び62Bがあり、・・・)

"En arriere de la bague 61, le joint 5 comporte, en haut, une paroi de toit 64・・・"(12頁22?23行)
(環状部61の後方で、接合部材5は、上部に・・・屋根壁64を備えている。)

"Le joint 5 comporte egalement une paroi de plancher 65, ・・・, de l'ordre d'un tiers de la profondeur de la paroi 64."(12頁31行?13頁2行)
(接合部材5は、・・・屋根壁64の3分の1の長さの床壁65を備えている。)

"On va maintenant expliquer comment l'on procede a la mise en place de l'appareil 1 sur une boite telle que la boite 70 (figure 4), encastree dans le mur 71 et bordee par la surface 72 de ce mur, laquelle forme une surface d'appui pour l'appareil.
On commence par mettre en place sur la boite 70 le mecanisme 2 d'abord en le raccordant aux conducteurs du reseau prealablement amenes jusqu'a l'interieur de la boite 70, et plus precisement en raccordant les conducteurs de pole respectivement aux contacts 8A et 8C et le conducteur de terre au contact 8B. Ensuite, on dispose le coeur de mecanisme 7 a l'interieur de la boite 70 et plus generalement l'on positionne le mecanisme 2 de sorte que la face posterieure 17 du cadre de fixation 12 soit contre la surface d'appui 72, ・・・"(13頁18?28行)
(壁70に埋め込まれ、装置の支持面となる壁の表面72で囲まれた箱体70(図4)のような箱体に、装置1を設置する方法を説明する。
最初に箱体70の内部に取り込んだネットワーク導体への接続、具体的には、両極の導体それぞれを接点8A及び8Cに、接地導体を接点8Bに接続することで、箱体70に機構2を設置する。次に、機構コア7が箱体70内に配置され、機構2が、その固定フレーム12の後面17が支持面72に接するように配置され、・・・)

"L'eventuel liquide s'etant infiltre en haut l'appareil 1 entre la surface d'appui 72 et la surface posterieure 21, et plus precisement 21A, de la plaque d'habillage 3 a tendance, sous l'effet de la gravite, a s'ecouler vers le bas, et donc a rejoindre le cadre de fixation 12 vis-a-vis duquel ce liquide peut s'ecouler le long de la face posterieure 17 et/ou le long de la face anterieure 18, l'ecoulement se poursuivant jusqu'a ce que le liquide rencontre le joint 5, et en particulier la bague 61. Dans les rainures 62A et 62B de la bague 61, le liquide va etre recueilli a la facon d'une gouttiere, jusqu'a ce qu'il parvienne en partie basse ou il quitte les rainures et continue a s'ecouler vers le bas le long de la surface d'appui 72, la fente 25 du cadre 3 situee en bas facilitant l'evacuation du liquide."(14頁28行?15頁5行)
(支持面72と被覆板3の後面21、より詳細には21Aとの間で装置1の上方に浸透した液体は、重力の影響で、下方に流れ、固定フレーム12に達し、後面17及び/または前面18に沿って流れ、液体が接合部材5の特に環状部61に接するまで流れる。環状部61の溝62A及び62Bでは、排水溝の要領で液体が集められ、底に達したところで溝から出て、支持面72に沿って下方に流れ続け、被覆板3のスロット25からの排出を促進する。)

"Si, pour une raison ou une autre, du liquide a reussi a s'infiltrer plus en arriere que la rainure 62B, il parviendra sur la paroi de toit 64 et aura tendance a revenir vers la nervure 62B ou alors a s'ecouler par les cotes de la paroi 64, c'est-a-dire dans une region de la boite situee a l'ecart des contacts 8A, 8B et 8C."(15頁9?13行)
(何らかの理由で、液体が溝62Bよりも後方に浸透した場合、液体は屋根壁64に到達し溝62Bに戻るか、屋根壁64の側面、すなわち接点8A、8B及び8Cから離れて位置した領域を流れる。)

図6から、環状溝62Aの断面形状は、溝62Aの最深部が溝62Aの溝幅中央と比較して接合部材5の先端から遠くなるような非対称形状であることを看取しうる。

引用文献1には、以上の記載事項及び図示内容から、次の発明が記載されていると認められる。
〔引用発明〕
「壁71の表面である支持面72に取り付けられ、壁71内の導体を取り付けられる、ソケットである装置1であって、
接合部材5を備え、
接合部材5は、壁71内に突出する環状部61を有し、
環状部61の外面には、環状溝62Aがあり、
環状溝62Aの断面形状は、溝62Aの最深部が溝62Aの溝幅中央と比較して接合部材5の先端から遠くなるような非対称形状である、装置1。」

(2)引用文献2に記載された事項
原査定の引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0009】
【発明の実施の形態】[実施形態1]以下、本発明を具体化した実施形態1を図1乃至図7を参照して説明する。本実施形態のコネクタAは、合成樹脂製のハウジング10に対して細長くL字形をなす複数本の雄端子金具20をインサート成形により一体化させて製造されている。ハウジング10は、相手側コネクタ(図示せず)との嵌合部11と、回路基板P(本発明の構成要件である電気部品)を収容する収容部12と、嵌合部11と収容部12の間に位置して雄端子金具20を貫通させる端子貫通部13とから構成されている。」

「【0012】次に、収容部12の上面12aにかかったり落ちた水を排水するための手段について説明する。・・・(中略)・・・さらに、収容部12の上面12aのうち端子貫通部13と対応する領域には、その端子貫通部13を肉抜き状に切欠した形態の排水溝15が形成されている。排水溝15は、端子貫通部13の前端(嵌合部11の近く)に位置しているとともに、上から視て左右方向へ一直線状に細長く延び、その両端はハウジング10の左右外側面に開口している。・・・(中略)・・・さらに、排水溝15の溝底面15aは、左右方向におけるほぼ中央位置が最も高い頂上部15bとされているとともに、この頂上部15bから左右両側へ向かって下り傾斜となっている。
【0013】次に、本実施形態の作用を説明する。収容部12の上面12aにかかった水は、その上面12aの傾斜により前方へ流れて排水溝15に流れ込み、さらに、排水溝15内ではその溝底面15aの傾斜により左右いずれかへ流れ、最終的にハウジング10の外側面を伝ってハウジング10の下方へ落下する。・・・(後略)・・・」

4.対比・判断
(1)本願発明1
本願発明1と引用発明とを対比する。
後者の「壁71の表面である支持面72」は、前者の「筐体」と、「取付部」である限りにおいて一致する。
後者の「壁71内の導体」は、前者の「筐体内の電線」と、「取付部内の電線」である限りにおいて一致する。
後者の「ソケットである装置1」は、前者の「コネクタ」に相当する。
後者の「接合部材5」は、その機能からみて、前者の「ハウジング」に相当する。
後者の「環状部61」は、環状であるので筒状を呈しているといえ、後者の「壁71内に突出する環状部61」は、前者の「筐体の内部へ角筒状に突出して筐体内の電線を覆う角筒部」と、「取付部の内部へ筒状に突出した筒部」である限りにおいて一致する。
後者の「環状部61の外面」は、前者の「角筒部は、4つの外面を有し」たことと、「筒部は、外面を有し」たことである限りにおいて一致する。
後者の「環状部61の外面には、環状溝62A」があることは、環状溝62Aが環状部61の外面に連なって形成されていることに等しいので、前者の角筒部の「4つの外面には、鋳造により形成された金属製の又は射出成型により形成された樹脂製の排水溝が互いに連なるように夫々形成され」たことと、「外面には、排水溝が連なるように形成され」たことである限りにおいて一致する。
後者の「環状溝62A」は、上述のとおり、前者の各排水溝が連なったものと等しいので、後者の「環状溝62Aの断面形状」は、前者の「各排水溝の断面形状」に相当し、後者の「溝62Aの最深部が溝62Aの溝幅中央と比較して接合部材5の先端から遠くなるような非対称形状である」ことは、前者の「各排水溝の断面形状は、排水溝の最深部が排水溝の溝幅中央と比較して角筒部の先端から遠くなるような非対称形状であ」ることに相当する。
そうすると、両者は、
「取付部に取り付けられると共に、前記取付部内の電線を取り付け可能なコネクタであって、
ハウジングを備え、
前記ハウジングは、前記取付部の内部へ筒状に突出した筒部を有し、
前記筒部は、外面を有し、
前記外面には、排水溝が連なるように形成されており、
前記排水溝の断面形状は、前記排水溝の最深部が前記排水溝の溝幅中央と比較して前記角筒部の先端から遠くなるような非対称形状である、
コネクタ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
〔相違点1〕
「取付部」に関し、本願発明1は、「筐体」であるのに対し、引用発明は、壁71の表面の支持面72である点。
〔相違点2〕
「筒部」に関し、本願発明1は、「筐体の内部へ角筒状に突出して筐体内の電線を覆う角筒部」であり、「角筒部は、4つの外面を有し」ているのに対し、引用発明は、壁71内に突出する環状部61であるものの、環状部61が4つの外面を有した角筒状であるのか明らかでなく、壁71内の導体を覆うものではない点。
〔相違点3〕
「排水溝」に関し、本願発明1は、角筒部の「4つの外面には、鋳造により形成された金属製の又は射出成型により形成された樹脂製の排水溝が互いに連なるように夫々形成され」たものであるのに対し、引用発明は、環状部61の外面に設けられた環状溝62Aであるものの、4つの外面にそれぞれ形成された排水溝が互いに連なるように形成されたものではなく、その形成の仕方も特定されていない点。
〔相違点4〕
本願発明1は、「各排水溝の最深部は、排水溝内の水滴が排水溝の長手方向の端部へ向かって移動するように排水溝の長手方向の中央において隆起しており、各排水溝の最深部における角筒部の板厚は、各排水溝の長手方向の中央で最も厚く、各排水溝の長手方向の両端部に近づくにつれて薄くなる」ものであるのに対して、引用発明は、そのような構成を備えていない点。

事案に鑑み、相違点4について、以下検討する。
〔相違点4について〕
引用文献2には、コネクタAのハウジング10の上面12aに、上から視て左右方向へ一直線状に細長く延びた排水溝15を形成し、この排水溝15の溝底面15aを、左右方向におけるほぼ中央位置が最も高い頂上部15bとし、この頂上部15bから左右両側へ向かって下り傾斜とすることで、ハウジング10の上面12aにかかった水は排水溝15に流れ込み、排水溝15に流れ込んだ水は溝底面15aの傾斜により左右いずれかへ流れ、ハウジング10の外側面を伝って下方へ落下することが記載されている(上記3.(2)を参照。)。
他方で、引用文献1の、液体の排出に関する記載(上記3.(1)ク及びケを参照。)及び接合部材5が屋根壁64、床壁65を備えているとの記載(上記3.(1)オ及びカを参照。)に鑑みれば、引用発明は上下方向が特定されて壁71に取り付けられるものであり、環状溝62Aについても上方、下方、側方が特定されていることになる。
そうすると、引用発明の環状溝62Aに、引用文献2に記載された上記事項を適用すると、環状溝62Aの上方に位置する箇所に適用するのが自然であり、敢えて環状溝62Aの側方や下方に位置する箇所に適用する動機付けはないといえる。
したがって、引用発明を、引用文献2に記載された事項に基いて、相違点4に係る本願発明1の「各排水溝の最深部」を「排水溝内の水滴が排水溝の長手方向の端部へ向かって移動するように排水溝の長手方向の中央において隆起」した構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

また、引用発明の環状部61の板厚は特定されていないため、仮に、引用文献2に記載の事項を引用発明の環状溝62Aの上方のみならず側方や下方に位置する箇所にも適用したとしても、相違点4に係る本願発明1の構成に含まれる「各排水溝の最深部における角筒部の板厚は、各排水溝の長手方向の中央で最も厚く、各排水溝の長手方向の両端部に近づくにつれて薄くなる」構成に至るとは認められない。
したがって、引用発明を、引用文献2に記載された事項に基いて、相違点4に係る本願発明1の「各排水溝の最深部における角筒部の板厚は、各排水溝の長手方向の中央で最も厚く、各排水溝の長手方向の両端部に近づくにつれて薄くなる」構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

以上から、引用発明を、相違点4に係る本願発明1の構成とすることは、引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
また、他に引用発明を、相違点4に係る本願発明1の構成としうる証拠もない。

そして、本願発明1は、相違点4に係る構成により、「4つの排水溝17のすべてにおいて上記の隆起が形成されているので、レセプタクル4がどのような姿勢で筐体2の正面パネル5に取り付けられても、極めて高い排水作用が得られる。」(本願明細書の段落【0037】を参照。)との作用効果を奏するものであり、当該作用効果は引用発明及び引用文献2に記載された事項から予測しうる範囲のものとはいえない。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本願発明2
本願発明2は、本願発明1の発明特定事項を全て含み減縮した発明であるので、本願発明1と同様の理由で、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明1及び2は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-11-06 
出願番号 特願2014-219888(P2014-219888)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 板澤 敏明  
特許庁審判長 大町 真義
特許庁審判官 平田 信勝
尾崎 和寛
発明の名称 コネクタ  
代理人 家入 健  

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