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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1356510
審判番号 不服2018-9103  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-02 
確定日 2019-11-01 
事件の表示 特願2012-148814「大型往復ピストン燃料エンジン並びにそれを制御する方法、システム及びソフトウェア」拒絶査定不服審判事件〔平成25年2月4日出願公開、特開2013-24237〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年7月2日(パリ条約による優先権主張2011年7月14日、欧州特許庁)の出願であって、平成28年5月25日付け(発送日:同年5月31日)で拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年11月30日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年4月14日付け(発送日:同年4月20日)で拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年10月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年2月23日付けで拒絶査定(発送日:同年2月28日)がされ、これに対して、同年7月2日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出され、同年8月6日付けの前置報告書に対し、同年12月28日に上申書が提出されたものである。

第2 平成30年7月2日の手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成30年7月2日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1 本願補正発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前(平成29年10月20日の手続補正書)の請求項1に、

「【請求項1】
ディーゼルタイプの大型往復ピストン燃焼エンジンの動作を制御する方法であって、
前記大型往復ピストン燃焼エンジンの燃焼チャンバに燃料を噴射するステップと、
エンジン負荷またはエンジン速度に応じて、噴射開始角度の値を前進させることにより、部分負荷範囲において、いわゆる可変噴射タイミングを適用するステップと、
を有し、
エンジン負荷またはエンジン速度の上昇値が検出されるステップと、
検出された前記上昇値は、所定の値と比較されるステップと、
前記検出された上昇値が前記所定の値を超える場合、可変噴射タイミングによって生じる前記噴射開始角度の前進が未変化のまま維持され、あるいはゼロにシフトするステップと、
前記噴射開始角度の値は、定常状態条件下、前記エンジン負荷またはエンジン速度が安定化した後、可変噴射タイミングに応じて決まる値に前進するステップとを更に備えることを特徴とする方法。」
とあったものを、本件補正後に、

「【請求項1】
ディーゼルタイプの大型往復ピストン燃焼エンジンの動作を制御する方法であって、
前記大型往復ピストン燃焼エンジンの燃焼チャンバに燃料を噴射するステップと、
エンジン負荷またはエンジン速度に応じて、噴射開始角度の値を前進させることにより、部分負荷範囲において、いわゆる可変噴射タイミングを適用するステップと、
を有し、
エンジン負荷またはエンジン速度の上昇値が検出されるステップと、
検出された前記上昇値は、所定の値と比較されるステップと、
前記検出された上昇値が前記所定の値を超える場合、可変噴射タイミングによって生じる前記噴射開始角度の前進が未変化のまま維持され、あるいはゼロにシフトするステップと、
前記噴射開始角度の値は、定常状態条件下、前記エンジン負荷またはエンジン速度が安定化した後、可変噴射タイミングに応じて決まる値に前進するステップとを更に備え、
第1のエンジン負荷から第2のエンジン負荷へと変化している間、前記噴射開始角度の前進が未変化のまま維持され、あるいはゼロに設定されることを特徴とする方法。」
と補正する内容を含むものである(下線は補正箇所を示すために審判請求人が付した。)。

本件補正は、発明を特定するために必要な事項である「噴射開始角度」について「第1のエンジン負荷から第2のエンジン負荷へと変化している間、前記噴射開始角度の前進が未変化のまま維持され、あるいはゼロに設定される」と限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、請求項1についての本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて検討する。

2 引用文献
(1)引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特開昭59-10746号公報(以下「引用文献」という。)には、「ディーゼル機関の燃料噴射時期制御方法」に関して、図面(特に、第4図及び第6図を参照)とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審による。以下同様。

ア 「2.特許請求の範囲
エンジン運転条件に応じて予じめ定めた目標値に燃料噴射時期を制御するディーゼル機関において、エンジンがある運転条件から別の運転条件に燃料噴射時期を進角させるように制御する場合エンジンが過渡状態例えば加速時か否かを検知し、エンジンがその過渡状態にあると検知すれば噴射時期は徐々に目標値に向け設定し、過渡状態にないと判定すれば噴射時期を直ちに目標値に設定することを特徴とする燃料噴射制御方法。」(1ページ左下欄4行ないし13行)

イ 「本発明はエンジン運転条件に応じて予じめ定めた目標値に燃料噴射時期を制御するディーゼル機関に関する。
ディーゼル機関において、エンジン回転速度やアクセル開度等の運転条件から目標噴射時期を予じめ定め、エンジン運転中この目標値が常に得られるよう制御するものがある。目標噴射時期はその運転条件において最適なエンジン性能,燃費,排気エミッションが得られるように設定されている。しかしながら、このような最適値をもってきても、加速時には多量の窒素酸化物(NOx)成分が排出され、モード走行におけるNOx排出規制値を満足することは困難である。かかる加速時のNOx増大は噴射時期を遅らせることで対策するという慣用の手段がある。しかし、加速時において燃料噴射時期を遅らせると、燃費が悪化しかつ運転性の面でも好ましくないことは知られている通りである。」(1ページ左下欄15行ないし右下欄12行)

ウ 「従って、本発明の目的は、加速時におけるNOx排出量を基準以下に押えた上で燃費及び運転性の面でも満足できる噴射時期制御方法を提供することにある。この目的を達成するため本発明にあっては、ある運転状態から別の運転状態へ加速される場合の噴射時期の進角を徐々に行うことを特徴としている。噴射時期が徐々に進められることから加速の開始状態では噴射時期は相対的には遅角側に在り結果としてNOx排出量は押えられる。また噴射時期が徐々にではあるが目標値まで進角されることから燃費,運転性の面でも十分な改良が得られる。」(1ページ右下欄13行ないし2ページ左上欄4行)

エ 「以下図面によって説明すれば、第1図において、10はシリンダブロックであり、ピストン12が設けられる。シリンダブロック10上にシリンダヘッド14が設けられ、吸気マニホルド16、排気マニホルド18が取付けられる。シリンダヘッド16内の燃焼室20に燃料噴射弁24が開口する。
26は燃料噴射弁24への燃料供給を行う燃料噴射ポンプを全体として示す。燃料噴射ポンプは周知の分配型として構成され、一本のプランジャ28を持つ。プランジャ28はフェイスカム29、ローラリング30上のローラ31を介し入力軸32に連結され、カム29及びローラ31の働きでプランジャ28はその一回転中に気筒の数と一致した回数左右に往復運動を行う。軸32上には90°展開状態で図示するベーンポンプ34が設けられ、矢印Aの如く燃料タンクより導入される燃料を吸入通路36内に導入し矢印Bの如くポンプ室38内に導入する。このポンプ室38に導入された燃料は、プランジャ28が図の左方に動く際矢印Cの如く通路40及びプランジャの先端に気筒毎設けた溝の一つ42を介し吐出室44に導入される。吐出室44内の燃料はプランジャ28中心通路48及びシリンダに気筒毎に設けた吐出孔50の一つを介してデルベリ弁52より矢印Dの如くその気筒の燃料噴射弁24に導入される。」(2ページ左上欄5行ないし右上欄10行)

オ 「72は、ローラリング30の角度位置、換言すればローラ30がフェイスカム29の山部と係合し始める、燃料噴射の開始されるエンジンクランク角度位置を制御するタイマピストンである。タイマピストン72は90°展開状態で図示されロッド74を介してローラリング30に連結される。そのため、ピストンの一側のタイマ油圧室76に働く圧力に応じピストン72の位置、換言すれば燃料噴射時期を定めるローラリング30の位置が制御される。油圧室76は通路78によってポンプ室38に連通していると共に通路80によってポンプ34の吸入側の低圧室82と通じている。通路80上に開閉弁としてのタイミング制御弁84が設けられ、油圧室76から低圧室側への油量を制御し、油圧室への油圧を制御する。86はタイマ位置センサであり、タイマピストン72の位置に応じた信号を線88を介して制御回路68へ送り込む。このタイマ位置信号に応じて制御回路68は後述の如く線90を介してタイミング制御弁84に信号を送り燃料噴射時期制御を行う。」(2ページ左下欄6行ないし右下欄5行)

カ 「制御回路68には本発明における燃料噴射時期制御を行うため次のような運転状態検知センサが設けられる。即ち、92はエンジン回転数センサであり、入力軸32上の歯車94の回転数即ちエンジン回転数に応じた信号を線96を介して制御回路に印加する。また、98はアクセルセンサでありアクセルペダル100の踏み込みに応じた信号が線101を介して制御回路68に送り込まれる。また104は吸気圧力センサであり、吸気圧力に応じた信号を線106を介して制御回路68に印加する。」(2ページ右下欄6行ないし16行)

キ 「本発明による燃料噴射時期制御によれば、ある運転条件の目標値から別の運転条件の目標値へ燃料噴射時期を進角させる場合に、その運転条件の変化が加速やレーシング等の過渡的な変化であるか否かを検知し、過渡状態であると判定すれば燃料噴射時期が急速に目標値に進角されるのを避けることにより、加速の当初においては燃料噴射時期を最適より遅らせた状態とし、これにより燃費および運転性を維持しかつ白煙が発生しない限界においてNOx発生を押えるようにしたものである。このような制御を行うように制御回路68はプログラムされているのであるが以下このプログラムを第3,4図のフローチャートによって説明する。」(3ページ左上欄12行ないし右上欄4行)

ク 「先ず、第3図はエンジンが燃料噴射期を進角させるべき過渡状態、例えば加速又はレーシング等を検知するルーチンで、200はこのルーチンの割込み開始を示し、例えば20m秒毎に実行される時間割込ルーチンである。このルーチンが開始すると202でCPU118はアクセルセンサ98からの信号によって現在のアクセルペダル開度Accp(i)を算出する。次の204のステップでは前回この割込ルーチンを実行したとき得られたアクセルペダル開度Accp(i-1)を前記Accp(i)から減算したΔAccpが算出される。206のステップではΔAccpが所定の値例えば5%より大きいか否か判定される。
もし、206の判定がNO、即ちアクセルの開放速度が所定以下であれば加速中ではないと認識し、208でフラグFLAGA及びFLGBと共にクリヤする。次いで210に移り、ステップ202で計算したアクセル開度Accp(i)をAccp(i-1)を格納すべきRAM114のエリヤに入れる。212でメインルーチンへ復帰する。
206でYesと判定すればステップ214でΔAccpが20%より小さいか否か判定する。NOであればΔAccpが20%より大きい急加速状態と認識し、216のステップで急加速状態フラグFLGBを立てる。
もし、214でYesと判定すればΔAccpが5?20%にある緩加速状態と認識し、218のステップで緩加速状態フラグFLGAを立てる。」(3ページ右上欄5行ないし左下欄12行)

ケ 「第4図は、噴射時期制御を行なうルーチンを示すもので、220でこのルーチンが実行に入ると、222で燃料噴射量Qとエンジン回転数Nとより基本噴射時期Tの計算が行われる。即ち、燃料噴射時期は基本的には燃料噴射量Qとエンジン回転速度NEとで第5図の様に定まる。即ち、各格子点に示した数値が噴射時期Tである。ROMには、この第5図がマッピン(審決注:「マッピング」の誤記と認める。)がされており、CPU118は、そのとき検知される燃料噴射量Q及びエンジン回転数NEに対応した一つの進角値Tを目標値として計算するのである。(尚、燃料噴射量Qはエンジン回転数NEとアクセル回度(審決注:「アクセル開度」の誤記と認める。)とで定まることから、そのマッピッグ(審決注:「マッピング」の誤記と認める。)がROM116内に組んであり、CPU118は検出されるエンジン回転数とアクセル開度とからその運転時の燃料噴射量の値を計算する。)」(3ページ左下欄13行ないし右下欄8行)

コ 「次の224のステップでは、吸気管圧力の補正量TAを周知の算出式より計算する。これはエンジンの高度補償のためであり、後述の如く前記Tに加えたものが燃料噴射時期となる。
次の226では急加速状態フラグFLAGBの検定を行う。FLAGB=1である(Yes)と判定すれば228のステップに行き、前回のルーチンの実行で得られた過渡時の基本噴射時期TF(i-1)に、あるクランク角度例えば0.2°CAを加えたものを今回の過渡時の基本噴射時期TFとする。230のステップではTFが222で計算されるTより大きいか否か判定する。加速の当初は当然TFはまだTに達しておらずNOと判定され、234のステップに分岐し、228のステップで計算した今回のTFの値をTF(i-1)のRAMエリアへ格納し次回のこのルーチンで実行で利用する。次いで236ではTFとTAとを加えたものを最終的な燃料噴射時期TFINとし、238のステップに入る。この238のステップでは、CPU118はタイマ位置センサ86から入ってくるタイマピストン位置、即ち現実の燃料噴射時期TPと、236で計算された目標噴射時期TFINとからタイミング制御弁84の開時間を計算しデジタル信号として入出力ポート120に出力する。その結果入出力ポート120はそのデジタル信号に対応したデューティ比のオン・オフ信号を駆動開路122に印加しタイミング制御弁84を駆動する。かくして、燃料噴射時期は目標値に設定される。240はこのルーチンの終了を示す。」(3ページ右下欄9行ないし4ページ左上欄17行)

サ 「もし230でYes、即ち、TFが目標値に達していると判定されれば246のステップが実行され、222で計算されたTをTFとして、後のステップ処理を行う。
エンジンの運転が定常から加速に移ると燃料噴射時期は進角されなければならないが、以上のルーチンの実行の結果急加速時はこのルーチンの実行の度に0.2°CAづつ徐々に進められる。そのため加速後直ちには222で定められる目標値Tには達せず、急加速の当初は加速状態下であっても遅角状態となりNOx発生を押えることができ、また、噴射時期を徐々に進めることで燃費,運転性,白煙の悪化が防止することができる。」(4ページ左上欄18行ないし右上欄10行)

シ 「226で急加速でないと判定すれば242のステップに行き、緩加速状態フラグFLAGA=1か否かの判定を行う。Yesであれば、5?20%間の緩加速と認識し、次の244のステップTF(i-1)に0.1°CAを加えたものをTFとする。以下、230,234,236,288,246の各ステップが急加速の場合と同様実行される。
この緩加速運転時に定常から入ると、燃料噴射時期は急加速時と同様に徐々に目標値Tに向け進角される。そのため、急加速のときと同様な、NOx低減効果と燃費及び運転性との両立が得られる。緩加速時には、急速時よりNOx対策が問題となり進角の回復を遅らせる必要がある。そこで回復速度を0.1°CAと急加速時の0.2°CAより小さくしている。」(4ページ右上欄11行ないし左下欄5行)

ス 「エンジンが定常であると判定すれば242のステップではNOに分岐する。その結果、250のステップによって222の計算値であるTをTFとする。そのため、234,236,238の実行により目標値に直ちに燃料噴射時期に制御される。」(4ページ左下欄6行ないし10行)

セ 「第6図は本発明の方法の効果を説明するグラフであり、nの如きアクセル開度の増大とともに従来はl_(1)の如く噴射時期を急に進めていた。そのためm_(1)の如くNOx量が多い欠点があった。本発明ではl_(2)の如く噴射時期の進角される速度が遅くなることからm_(2)の如くNOxの発生が低減する。」(4ページ左下欄11行ないし16行)

ソ 「以上述べた実施例では加速時の燃料噴射時期の進角はステップきざみで行っているが、その代りとして加速を検出したらある一定噴射時期を遅角に保ちその後進角させるという制御方法もとれる。また加速運転をアクセル開度の変化量としてとらえているが、燃料噴射量の変化、スピル位置センサの変化などで見ることもできる。」(4ページ左下欄17行ないし右下欄3行)

(2)引用発明及び引用技術
上記(1)アないしソから、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「ディーゼルエンジンの動作を制御する方法であって、
前記ディーゼルエンジンの燃焼室20に燃料を噴射するステップと、
アクセルペダル開度に応じて、燃料噴射時期を進角させることにより、部分負荷範囲において、燃料噴射時期制御を適用するステップと、
を有し、
アクセルペダル開度の変化量ΔAccpが検出されるステップと、
検出されたアクセルペダル開度の変化量ΔAccpは、所定の値(例えば5%)と比較されるステップと、
前記検出されたアクセルペダル開度の変化量ΔAccpが前記所定の値を超える場合、燃料噴射時期制御によって生じる前記燃料噴射時期の進角がステップきざみで徐々に進められるステップと、
前記燃料噴射時期は、エンジンが定常であると判定されたとき、燃料噴射時期制御により計算された噴射時期Tに進角するステップとを更に備え、
加速前のアクセルペダル開度から加速後のアクセルペダル開度へと変化している間、前記燃料噴射時期の進角がステップきざみで徐々に進められる方法。」

また、上記(1)ソから、引用文献には、次の技術(以下、「引用技術」という。)が記載されている。

「加速時の燃料噴射時期の進角をステップきざみで行う代わりに、加速を検出したらある一定噴射時期を遅角に保ちその後進角させるという制御方法。」

また、上記(1)イから、引用文献には、従来技術として、次の技術(以下、「引用文献記載事項」という。)が記載されている。

「加速時には燃料噴射時期を遅らせる技術。」

3 対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「燃焼室20」は、前者の「燃焼チャンバ」に相当し、以下同様に、「燃料噴射時期を進角」させることは「噴射開始角度の値を前進」させることに、「燃料噴射時期制御」は「可変噴射タイミング」に、「所定の値(例えば5%)」は「所定の値」に、「燃料噴射時期の進角」は「噴射開始角度の前進」に、「燃料噴射時期」は「噴射開始角度の値」に、「エンジンが定常であると判定されたとき」は「定常状態条件下、前記エンジン負荷またはエンジン速度が安定化した後」に、「燃料噴射時期制御により計算された噴射時期Tに進角」することは「可変噴射タイミングに応じて決まる値に前進」することに、それぞれ相当する。
また、後者の「ディーゼルエンジン」は、前者の「ディーゼルタイプの大型往復ピストン燃焼エンジン」と、「ディーゼルタイプの往復ピストン燃焼エンジン」という限りにおいて一致し、同様に、後者の「ディーゼルエンジン」は、前者の「大型往復ピストン燃焼エンジン」と、「往復ピストン燃焼エンジン」という限りにおいて一致する。
また、ディーゼルエンジンにおいて、アクセルペダル開度がエンジン負荷に対応することは技術常識(例えば、特開平8-121231号公報の段落【0008】の「単位時間当たりの負荷変化量(たとえば単位時間当たりのアクセル開度変化量TACC)」という記載を参照。)である。
したがって、後者の「アクセルペダル開度」は、前者の「エンジン負荷またはエンジン速度」に包含され、後者の「アクセルペダル開度の変化量ΔAccp」は、前者の「エンジン負荷またはエンジン速度の上昇値」及び「前記上昇値」に包含される。
同様に、後者の「加速前のアクセルペダル開度」は、前者の「第1のエンジン負荷」に、後者の「加速後のアクセルペダル開度」は、前者の「第2のエンジン負荷」に、それぞれ相当する。
また、後者の「燃料噴射時期の進角がステップきざみで徐々に進められる」ことは、前者の「噴射開始角度の前進が未変化のまま維持され、あるいはゼロにシフトする」ことと、「噴射開始角度の前進を制御する」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「ディーゼルタイプの往復ピストン燃焼エンジンの動作を制御する方法であって、
前記往復ピストン燃焼エンジンの燃焼チャンバに燃料を噴射するステップと、
エンジン負荷またはエンジン速度に応じて、噴射開始角度の値を前進させることにより、部分負荷範囲において、いわゆる可変噴射タイミングを適用するステップと、
を有し、
エンジン負荷またはエンジン速度の上昇値が検出されるステップと、
検出された前記上昇値は、所定の値と比較されるステップと、
前記検出された上昇値が前記所定の値を超える場合、可変噴射タイミングによって生じる前記噴射開始角度の前進を制御するステップと、
前記噴射開始角度の値は、定常状態条件下、前記エンジン負荷またはエンジン速度が安定化した後、可変噴射タイミングに応じて決まる値に前進するステップとを更に備え、
第1のエンジン負荷から第2のエンジン負荷へと変化している間、前記噴射開始角度の前進を制御する方法。」
という点で一致し、次の点で相違する。

〔相違点1〕
本願補正発明は、ディーゼルタイプの「大型」往復ピストン燃焼エンジンないし「大型」往復ピストン燃焼エンジンであるのに対し、引用発明は、ディーゼルエンジンが「大型」か否か不明である点。

〔相違点2〕
「噴射開始角度の前進を制御する」ことについて、本願補正発明は「噴射開始角度の前進が未変化のまま維持され、あるいはゼロにシフトする」のに対し、引用発明は「燃料噴射時期の進角がステップきざみで徐々に進められる」点。

各相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用文献には、ディーゼルエンジンが大型のものであるかどうかについて記載はないが、引用発明を大型のディーゼルエンジンに適用することを妨げる阻害要因は見当たらず、引用発明が大型のディーゼルエンジンにも適用可能であることは明らかである。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではないか、相違点1が実質的な相違点であるとしても、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項は、当業者が容易に想到できたことである。

(2)相違点2について
引用発明は、加速前のアクセルペダル開度から加速後のアクセルペダル開度へと変化している間、前記燃料噴射時期の進角がステップきざみで徐々に進められ、その後、エンジンが定常であると判定されたとき、燃料噴射時期制御により計算された噴射時期Tに進角するものである。
さらに、引用文献には、「加速時の燃料噴射時期の進角をステップきざみで行う代わりに、加速を検出したらある一定噴射時期を遅角に保ちその後進角させるという制御方法。」(上記「引用技術」)も記載されている。
この引用技術において、「加速を検出したらある一定噴射時期を遅角に保ち」という事項は、加速検出後も所定時間は加速検出前の噴射時期を維持するという意味であると解される。(上記2(1)ウの「噴射時期が徐々に進められることから加速の開始状態では噴射時期は相対的には遅角側に在り結果としてNOx排出量は押えられる。」という記載を参照されたい。)そして、引用技術の「その後進角させる」時期は、引用文献の第6図においてl_(2)が急上昇する時期、つまり、アクセルペダル開度(負荷)が一定になり、エンジンが定常であると判断される時期であるとするのが自然である。
そうすると、引用技術は、本願補正発明における「第1のエンジン負荷から第2のエンジン負荷へと変化している間、噴射開始角度の前進が未変化のまま維持され」という事項に相当する事項を含むものである。
また、引用文献には、従来技術として、「加速時には燃料噴射時期を遅らせる技術。」(上記「引用文献記載事項」)も記載されている。そして、遅らせる角度としては、燃焼が安定し出力が大きくなる角度(本願補正発明における「ゼロ」)にすることが技術常識である。したがって、引用文献記載事項は、本願補正発明における「第1のエンジン負荷から第2のエンジン負荷へと変化している間、噴射角度の前進がゼロに設定される」という事項に相当する事項である。
したがって、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用発明において、引用技術又は引用文献記載事項を適用することにより、当業者が容易に想到できたことである。

(3)効果について
引用発明に引用技術又は引用文献記載事項を適用したものは、本願補正発明と同様の作用効果を奏することができるから、本願補正発明は、全体としてみて、引用発明、引用技術、及び引用文献記載事項から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

(4)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用技術又は引用文献記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成29年10月20日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2〔理由〕1」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由の概要
本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1?2
・引用文献1、2、5?6
・備考
引用例1(特に、請求項1、第2ページ左上欄第5行?第4ページ右下欄第3行、第1図?第6図等。なかでも、第4ページ左下欄17?20行を参照。),引用例2(特に、要約、段落0029?0094、図8,9,14等。なかでも、段落0070を参照。)に記載された発明は、請求項1、2に係る発明と特段の差異は認められない。なお、車両用ディーゼルエンジンにおいても、「大型ディーゼルエンジン」とすることは周知技術(例えば、文献5(特に、段落0002,0010等),文献6(特に、段落0076,0119,0163、図16等)等を参照。)にすぎない。

引用文献等一覧

1.特開昭59-10746号公報
2.特開平8-121231号公報
3.特開2004-239229号公報
4.特開2004-239230号公報
5.特開平4-325736号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2006-183670号公報(周知技術を示す文献)

3 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用した引用文献、その記載事項、引用発明、引用技術及び引用文献記載事項は、前記「第2〔理由〕2」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記「第2〔理由〕」で検討した本願補正発明における「噴射開始角度」についての「第1のエンジン負荷から第2のエンジン負荷へと変化している間、前記噴射開始角度の前進が未変化のまま維持され、あるいはゼロに設定される」との限定を省いたものである。
そうしてみると、本願発明の発明特定事項をすべて含んだものに実質的に相当する本願補正発明が、前記「第2〔理由〕3」に記載したとおり、引用発明及び引用技術又は引用文献記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明及び引用技術又は引用文献記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び引用技術又は引用文献記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-06-07 
結審通知日 2019-06-11 
審決日 2019-06-24 
出願番号 特願2012-148814(P2012-148814)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
P 1 8・ 575- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 戸田 耕太郎  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 齊藤 公志郎
金澤 俊郎
発明の名称 大型往復ピストン燃料エンジン並びにそれを制御する方法、システム及びソフトウェア  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  
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