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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A23L
管理番号 1356566
審判番号 不服2018-5778  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-25 
確定日 2019-11-19 
事件の表示 特願2014-558654「デンプン含有食品の製造方法及びデンプン含有食品改質用の酵素製剤」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月31日国際公開、WO2014/115894、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年1月21日(優先権主張 2013年1月24日 日本)を国際出願日とする出願であって、平成29年5月24日付けで拒絶理由が通知され、同年8月2日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年1月31日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年4月25日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年1月31日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
理由1.本願請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1?5,8?12に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2011-193876号公報
2.国際公開第2012/002558号
3.国際公開第2008/059992号
4.特開2003-235480号公報
5.特開平8-134104号公報
6.生物工学会誌,2006年,第84巻,第2号,61-66頁(周知技術を示す文献)
7.日本作物学会関東支部会報,1998年,vol.13,pp.74-75(周知技術を示す文献)
8.特開2009-022267号公報
9.国際公開第2010/035858号
10.国際公開第2010/090337号
11.国際公開第2005/096839号
12.特開昭57-132850号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって、請求項1の「デンプン含有食品」に「硬さの付与された」という事項を追加する補正は、「デンプン含有食品」に「硬さ」という特性が付与されたことを特定したものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。また、請求項5の「デンプン含有食品改質用の酵素製剤」の「改質用」を「に硬さを付与するため」という事項にする補正は、改質する特性を「硬さを付与するため」に特定したものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
本願の「デンプン含有食品」の特性としての「硬さ」に関する事項は、当初明細書の【0003】や【0005】?【0011】の実施例1?6に記載されており、新規事項を追加するものではないといえる。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1?5に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、平成30年4月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
ブランチングエンザイム及びα-グルコシダーゼを原料に添加することを特徴とする硬さの付与されたデンプン含有食品の製造方法であって、
ブランチングエンザイムの添加量が、原料1g当たり2.0×10^(-16)?4.0×10^(5)Uであり、α-グルコシダーゼの添加量が、原料1g当たり1.0×10^(-4)?5.0×10^(7)Uである方法。
【請求項2】
ブランチングエンザイムの添加量が、α-グルコシダーゼ1U当たり4.0×10^(-24)?40Uである請求項1記載の方法。
【請求項3】
デンプン含有食品が米飯食品又は米加工品であり、原料が生米である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
デンプン含有食品がパン又は麺である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
ブランチングエンザイム及びα-グルコシダーゼを有効成分として含有するデンプン含有食品に硬さを付与するための酵素製剤であって、ブランチングエンザイムの含有量が、α-グルコシダーゼ1U当たり4.0×10^(-24)?40Uである酵素製剤。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献について
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】
α-グルコシダーゼ及び/又はβ-アミラーゼとアミロペクチン含量が75%以上の澱粉とを含有する米飯改質剤。
【請求項2】
α-グルコシダーゼとアミロペクチン含量が75%以上の澱粉とを含有する米飯改質剤であって、α-グルコシダーゼの含有量が、該改質剤中の澱粉1gあたり、100?50000Uである米飯改質剤。
・・・・・・・
【請求項4】
α-グルコシダーゼを原料生米1gあたり2?1200U、アミロペクチン含量が75%以上の澱粉を原料生米に対し0.1?6重量%添加することを特徴とする米飯食品の製造方法。」(特許請求の範囲)

(1b)「【0002】
α化した澱粉を常温や低温で放置すると、水分を分離し硬くなる。この現象を老化といい、澱粉の老化現象については数多く研究されている。一般に老化の防止のためには温度を80℃以上に保っておくか、急速に乾燥させて水分を15%以下にする、pH13以上のアルカリ性に保つことが必要である。また、老化を防止する方法として澱粉含有食品に糖類(ブドウ糖、果糖、液糖等)や大豆タンパク、小麦グルテン、脂肪酸エステル、多糖類(山芋、こんにゃく等)を添加する方法が一般に知られており、・・・・・
・・・・・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、米飯食品の製造直後の品質(食味と物性)を向上し、かつ炊飯器内での長期間の保温による米飯食品の食味、食感、色調の変化を抑制する機能を有する米飯改質剤を提供すること、品質の向上された米飯食品の製造方法を提供する目的とする。
・・・・・・・
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、白飯や炊き込みご飯等の米飯食品の製造直後の品質(食味と物性)を向上することができ、炊飯器内での長期間の保温や、レンジ加熱による米飯食品食味、食感、色調の変化を抑制することができる。」

(1c)「【0019】
本発明の米飯食品として、炊飯米(白飯)、酢飯(寿司飯)、赤飯、ピラフ、炊き込みご飯、粥、リゾット、おにぎり、寿司、弁当、米麺が挙げられる。また、これらの冷凍品も含まれる。」

(2)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。
(2a)「[0017]
冷凍又は冷蔵巻き寿司を製造する際の米飯は、通常に炊飯した米飯や通常の手順で製造した寿司飯を用いることができるが、原料米の性状、特に原料米中のアミロースの含有量に応じた炊飯方法を選択して採用することにより、チルド解凍した冷凍巻き寿司を喫食する際に最適な状態の米飯、寿司飯を得ることができる。また、アミロース含量が少ない(アミロペクチンが多い)程、冷凍時に飯中の澱粉の老化が抑制される。」

(3)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、次の事項が記載されている。
(3a)「1.トランスグルコシダーゼを低温条件下で澱粉含有食品又は澱粉に作用させることを特徴とする澱粉含有食品又は改質澱粉の製造方法。」(請求の範囲)

(3b)「発明の開示
本発明の目的は、効率よく物性及び食味の改善された澱粉含有食品及び改質澱粉の製造方法を提供することである。
・・・・・・・
本発明に用いるトランスグルコシダーゼは、α-1,4結合をα-1,6結合へと変換させる糖転移活性を有するα-グルコシダーゼ酵素(EC3.2.1.20)である。
・・・・・・・
本発明の澱粉含有食品は、澱粉を含有する食品であれば特に限定されないが、澱粉が該食品の食感、物性に寄与している食品が挙げられる。代表例として具体的には、米飯食品、パン、麺等の小麦加工食品・・・・が挙げられる。」(明細書2頁3行?3頁3行)

(3c)「本発明の酵素を澱粉含有食品又は澱粉に作用させる場合、低温条件下で酵素が作用する限り、それらの製造工程のどの段階で作用させてもかまわない。すなわち原料混合時に酵素を添加してもよいし、混合後に酵素を添加して作用させてもよい。低温条件は、0℃以上20℃未満が好ましく、5℃以上18℃以下がより好ましく、5℃以上15℃以下がさらに好ましい。酵素の反応時間は、酵素が基質物質に作用することが可能な時間であれば特に構わなく、非常に短い時間でも逆に長時間作用させても構わないが、現実的な作用時間としては5分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上、さらに好ましくは60分以上の反応時間をとるとよい。例えば、米飯食品の製造の場合、原料米を洗米後、トランスグルコシダーゼの添加された溶液に浸潰し、20℃未満、好ましくは5?15℃に室温が制御された低温室又は冷蔵室内に5分?100時間、好ましくは10分?100時間、より好ましくは30分?100時間保持した後炊飯すればよい。パンの製造の場合、小麦粉、酵母、水等の原料にトランスグルコシダーゼを加えて混合後、20℃未満、好ましくは5?15℃でに室温が制御された低温室又は冷蔵室内に10分?24時間、好ましくは30分?4時間保持して一次発酵を行なった後、必要に応じ他の原料を混合後あるいは二次発酵後、焼成すればよい。中華麺、うどん、そば等麺の製造の場合、原料にトランスグルコシダーゼを添加し、麺打ち後、20℃未満、好ましくは5?15℃に室温が制御された低温室又は冷蔵室内で5分?100時間、好ましくは10分?100時間、より好ましくは30分?100時間ねかした後、ゆでたり、冷凍すればよい。」(明細書3頁19行?4頁10行)

(4)引用文献4の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、次の事項が記載されている。
(4a)「【0046】
高度分岐環状グルカンの製造方法の概略を以下に記載する。高度分岐環状グルカンの製造方法においては、原料という用語には誘導体化された原料が含まれる。高度分岐環状グルカンは、α-1,4-グルコシド結合および少なくとも1個のα-1,6-グルコシド結合を有する糖類と、この糖類に作用して環状構造を形成し得る酵素とを反応させることによって製造され得る。
【0047】
高度分岐環状グルカンの製造に使用し得る酵素としては、α-1,4-グルコシド結合および少なくとも1個のα-1,6-グルコシド結合を有する糖類に作用して、重合度が50以上であって、環状構造を有するグルカンを形成し得る酵素であれば、いずれをも使用し得る。使用し得る酵素としては、枝作り酵素(1,4-α-グルカン分岐酵素、枝付け酵素、ブランチングエンザイム、Q酵素とも呼ばれる)、D酵素(4-α-グルカノトランスフェラーゼ、不均化酵素、アミロマルターゼとも呼ばれる)、CGTase(サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼとも呼ばれる)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
枝作り酵素(EC 2.4.1.18)は、澱粉系の糖類のα-1、4-グルカン鎖の一部を6位に転移して分枝を作る酵素である。」

(5)引用文献5の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には、次の事項が記載されている。
(5a)「【請求項7】 内分岐環状構造部分と外分岐構造部分とを有する、重合度が50以上であるグルカンの製造方法であって、該方法は、
α-1,4-グルコシド結合とα-1,6-グルコシド結合とを有する糖類と、該糖類に作用して環状構造を形成し得る酵素とを反応させることを含む、方法。
【請求項8】前記糖類が澱粉である、請求項7に記載の方法。
・・・・・・・
【請求項10】前記酵素が枝作り酵素である、請求項7から9いずれかの項に記載の方法。」(特許請求の範囲)

(5b)「【0037】
本願発明は、さらに、上記グルカンを含有する、飲食用組成物、食品添加用組成物、輸液、接着用組成物および澱粉の老化防止剤に関する。」

(5c)「【0045】
(酵素)
本願発明に使用し得る酵素としては、α-1,4-グルコシド結合および少なくとも1個のα-1,6-グルコシド結合を有する糖類に作用して、重合度が50以上であって、環状構造を有するグルカンを形成し得る酵素であれば、いずれをも使用し得る。使用し得る酵素としては、1,4-α-グルカン分枝酵素(枝作り酵素、Q酵素)、4-α-グルカノトランスフェラーゼ(D酵素、アミロマルターゼ、不均化酵素)、サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase)等が挙げられるが、これらに限定されない。」

(6)引用文献6の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6には、次の事項が記載されている。
(6a)「クラスターデキストリン^(TM)は、ほぼアミロペクチンのみからなるモチ種トウモロコシデンプン(ワキシーコーンスターチ)をブランチングエンザイム(EC2.4.1.18以下,BEと略)により加工して得られる食品用デキストリンである.BEは,動植物,微生物に広く分布するグルカン鎖転移酵素であり,生体内ではデンプンやグルコーゲンのα-1,6-グルコシド結合(分岐結合)合成に関与している.」(62頁左欄27行?同頁右欄3行)

(7)引用文献7の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7には、次の事項が記載されている。
(7a)「ブランチングエンザイム(QE)は,α-1,6-グルカン分岐導入反応を触媒するアミロペクチン合成に必須の酵素である」(74頁1?2行)

(8)引用文献8の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献8には、次の事項が記載されている。
(8a)「【請求項1】
糖鎖のα-1,4結合をα-1,6結合へと変換する糖転移活性を有する酵素及びトランスグルタミナーゼを用いることを特徴とする米飯食品の製造方法。
【請求項2】
糖鎖のα-1,4結合をα-1,6結合へと変換する糖転移活性を有する酵素がα-グルコシダーゼである請求項1記載の方法。
【請求項3】
α-グルコシダーゼの添加量が、原料生米1g当り1.5?300,000Uであり、トランスグルタミナーゼの添加量が原料生米1g当り0.0001?100Uである請求項2記載の方法。
・・・・・・・
【請求項7】
α-グルコシダーゼ及びトランスグルタミナーゼを含有する米飯食品改質用の酵素製剤。
【請求項8】
α-グルコシダーゼの含有量がトランスグルタミナーゼ1U当り0.15U?200,000Uである請求項7記載の酵素製剤。」(特許請求の範囲)

(8b)「【0005】
本発明の目的は、物性及び食味の改善された米飯食品の製造方法及び米飯食品改質用の酵素製剤を提供することである。特に米飯食品の製造直後の品質(食味と物性)を向上し、製造工程及び製造後の流通過程での時間経過による品質劣化を抑制する方法を提供することである。
・・・・・・・
【発明の効果】
【0007】
本発明により、米飯食品の製造直後の品質(食味、弾力、粘り、粒感、ほぐれ性等物性)を向上することができ、時間経過による該食品の品質劣化を抑制することができる。」

(8c)「【0008】
本発明による米飯食品の製造方法には、α-1,4結合をα-1,6結合へと変換する糖転移活性を有する酵素とトランスグルタミナーゼを用いる。α-1,4結合をα-1,6結合へと変換する糖転移活性を有する酵素の例として、α-グルコシダーゼ(トランスグルコシダーゼ)、1,4-αグルカン分枝酵素、1,4-αグルカン6-α-D-グルコシルトランスフェラーゼが挙げられる。α-グルコシダーゼは、α-1,4結合をα-1,6結合へと変換する糖転移能を有するものが好ましく、そのようなα-グルコシダーゼをトランスグルコシダーゼと呼ぶ。・・・・・・・
【0009】
トランスグルタミナーゼはタンパク質やペプチド中のグルタミン残基を供与体、リジン残基を受容体とするアシル転移反応を触媒する活性を有する酵素のことを指し、哺乳動物由来のもの、魚類由来のもの、微生物由来のものなど、種々の起源のものが知られている。本発明で用いる酵素はこの活性を有している酵素であれば構わず、その起源としてはいずれのものでも構わない。また、組み換え酵素であっても構わない。
・・・・・・・
【0010】
本発明の米飯食品として、炊飯米(白飯)、酢飯(寿司飯)、赤飯、ピラフ、炊き込みご飯、粥、リゾット、おにぎり、寿司、弁当、米麺が挙げられる。また、これらの冷凍品も含まれる。米にα-1,4結合をα-1,6結合へと変換する糖転移活性を有する酵素及びトランスグルタミナーゼを作用させる場合は、炊飯までのどの段階で作用させてもかまわない。」

(9)引用文献9の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献9には、次の事項が記載されている。
(9a)「1.トランスグルタミナーゼ及び/又はα-グルコシダーゼとグルコースオキシダーゼとを用いることを特徴とする米飯食品の製造方法。
2.原料生米1g当たり0.0001?120Uのトランスグルタミナーゼ及び/又は原料生米1g当たり0.03?300,000Uのα-グルコシダーゼと原料生米1g当たり0.001?500Uのグルコースオキシダーゼとを米に作用させることを特徴とする米飯食品の製造方法。
・・・・・・・
6.トランスグルタミナーゼ及び/又はα-グルコシダーゼとグルコースオキシダーゼとを有効成分として含有する米飯食品改質用の酵素製剤。
7.グルコースオキシダーゼの含有量が、トランスグルタミナーゼ1U当たり0.003?10,000U及び/又はα-グルコシダーゼ1U当たり0.000003?34Uである請求の範囲第6項記載の酵素製剤。」(請求の範囲)

(9b)「本発明の目的は、物性及び食味の改善された米飯食品の製造方法及び米飯食品改質用の酵素製剤を提供することであり、特に米飯食品の製造直後の品質(食味と物性)を向上し、製造工程及び製造後の流通過程での時間経過による品質劣化を抑制、更には加工米飯の製造適性を向上する方法を提供することである。より具体的には、α-グルコシダーゼ、トランスグルタミナーゼの単独使用や両酵素の併用のみでは得られない食感、例えば「もちもち感」、「ふっくら感」あるいは「粒感」、「パラパラ感」を有する米飯食品の製造方法を提供することである。
・・・・・・・・
本発明により、米飯食品の品質を向上することができる。特に、製造直後の品質(ふっくら感、もちもち感、粒感、ほぐれ性等物性)を向上することができ、時間経過による米飯食品の品質劣化を抑制することができる。」(明細書3頁2行?4頁9行)

(9c)「グルコースオキシダーゼは、グルコース、酸素、水を基質としてグルコン酸と過酸化水素を生成する反応を触媒する酸化酵素である。この反応により生成された過酸化水素は、タンパク中のSH基を酸化することでSS結合(ジスルフィド結合)生成を促進し、タンパク中に架橋構造を作る。グルコースオキシダーゼは、微生物由来、植物由来のものなど種々の起源のものが知られているが、本発明で用いる酵素はこの活性を有している酵素であれば構わず、その起源としてはいずれのものでも構わない。また、組み換え酵素であっても構わない。」(明細書4頁16?22行)

(9d)「本発明のα-グルコシダーゼは、非還元末端α-1,4-グルコシド結合を加水分解し、α-グルコースを生成する酵素である。α-グルコシダーゼのうち、α-1,4結合よりα-1,6結合への糖転移活性を有するトランスグルコシダーゼが好ましい。尚、トランスグルコシダーゼL「アマノ」という商品名で天野エンザイム(株)より市販されている酵素が、α-グルコシダーゼの一例である。
本発明の米飯食品として、炊飯米(白飯)、酢飯(寿司飯)、赤飯、ピラフ、炒飯、炊き込みご飯、おこわ、お粥、リゾット、おにぎり、寿司、弁当などが挙げられる。また、これらの冷凍品、無菌包装品、レトルト品、乾燥品、缶詰品も含まれる。」(5頁4?12行)

(10)引用文献10の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献10には、次の事項が記載されている。
(10a)「1.α-グルコシダーゼの量が原料穀粉1g当たり1.5?300,000Uであり、グルコースオキシダーゼの量が原料穀粉1g当たり0.002?500Uかつα-グルコシダーゼ1U当たり0.00003?30Uであることを特徴とする、α-グルコシダーゼ及びグルコースオキシダーゼを用いる麺類の製造方法。
・・・・・・・
10.グルコースオキシダーゼの含有量がα-グルコシダーゼ1U当たり0.00003?30Uであることを特徴とする、α-グルコシダーゼ及びグルコースオキシダーゼを有効成分として含有する麺類改質用の酵素製剤。」(請求の範囲)

(10b)「本発明の目的は、物性及び食味の改善された麺類の製造方法及び麺類改質用の酵素製剤を提供することであり、特に穀粉等を混練する麺類の製造直後の品質(食味と物性)を向上し、製造工程及び製造後の流通過程での時間経過による品質劣化を抑制する方法を提供することである。更には、麺類の製造適性を向上する方法を提供することである。より具体的には、α-グルコシダーゼ、トランスグルタミナーゼの単独使用や両酵素の併用のみでは得られない食感、例えば「もちもち感」と強い「弾力」を同時に有する麺類の製造方法を提供することである。尚、「もちもち感」とは噛み潰した際に歯にまとわりつく感覚、「弾力」とは噛み潰した際に反発してくる応力すなわち復元力の強さを意味する。
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、本発明は、α-グルコシダーゼ及びグルコースオキシダーゼ、もしくはα-グルコシダーゼ及びグルコースオキシダーゼ及びトランスグルタミナーゼを用いることにより、上記目的を達成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
・・・・・・・
本発明により、麺類の品質を向上することができる。特に、「もちもち感」と強い「弾力」を同時に有する麺類を製造することができ、時間経過による麺類の品質劣化を抑制することができる。」(明細書3頁10行?5頁2行)

(10c)「グルコースオキシダーゼは、グルコース、酸素、水を基質としてグルコン酸と過酸化水素を生成する反応を触媒する酸化酵素である。この反応により生成された過酸化水素は、タンパク中のSH基を酸化することでSS結合(ジスルフィド結合)生成を促進し、タンパク中に架橋構造を作る。グルコースオキシダーゼは、微生物由来、植物由来のものなど種々の起源のものが知られているが、本発明で用いる酵素はこの活性を有している酵素であれば構わず、その起源としてはいずれのものでも構わない。また、組み換え酵素であっても構わない。」(明細書5頁12?19行)

(10d)「麺類としては様々なものが考えられるが、市場の大きさや、ニーズ等と照らし合わせると、うどん、パスタ、日本そば、中華麺、焼きそば、フライ工程や乾燥工程を経る即席麺等の麺類、餃子、焼売の皮等が特に有効であると考えられる。
麺類(餃子の皮、焼売の皮等も含む)の製造において、小麦粉等の原料穀粉にα-グルコシダーゼ及びグルコースオキシダーゼ、もしくはα-グルコシダーゼ及びグルコースオキシダーゼ及びトランスグルタミナーゼを作用させる場合は、麺類製造工程のどの段階で作用させてもかまわない。すなわち原料混合時に酵素を添加してもよいし、混合後に酵素を振りかけて作用させてもよい。トランスグルタミナーゼ、α-グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼを麺類に作用させる順序は特に問わず、いずれかの1種もしくは2種の酵素を先に作用させた後、残りの酵素を作用させてもよいが、3種を同時に作用させるのが好ましい。」(6頁3?15行)

(11)引用文献11の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献11には、次の事項が記載されている。
(11a)「1.α-1,4結合をα- 1,6結合へと変換する糖転移活性を有する酵素を用いることを特徴とする澱粉含有食品の品質向上方法。
・・・・・・・
5.原料生米 1 g当り15?30000Uのトランスグルコシダーゼを添加し作用させることを特徴とする米飯食品の品質向上方法。
・・・・・・・
11.α-1,4結合をα-1,6結合へと変換する糖転移活性を有する酵素を含むことを特徴とする、澱粉含有食品の品質向上剤。
12.酵素がトランスダルコシダーゼである請求の範囲第11項記載の品質向上剤。」(請求の範囲)

(11b)「 本発明は、米、小麦、ジャガイモ等より製造される澱粉含有食品の老化抑制、品質向上方法を提供すること及び澱粉含有食品に用いる品質剤を提供することを目的とする。澱粉含有食品の中でも特に、炊き上げ時の米飯食品の品質(食味・食感・風味・歩留まり改善等)を向上し、保存による品質劣化を抑制することができる米飯食品の製造方法及び米飯用改質剤の提供と焼成後のパンの品質(食味・食感・風味等)を向上し、保存による品質劣化を抑制することができるパンの製造方法及び製パン・パン生地用改質剤の提供を目的とする。
本発明者は鋭意研究を行った結果、α-1,4結合をα-1,6結合へと変換する糖転移活性を有する酵素を用いることにより澱粉含有食品の老化を抑制することができ、品質を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
・・・・・・・
本発明による澱粉含有食品の老化抑制、品質向上方法には、α-1,4結合をα-1,6結合へと変換する糖転移活性を有する酵素を用いる。該活性を有する酵素の例として、トランスグルコシダーゼ(EC3.2.1.20)、1,4-αグルカン分枝酵素(EC2.4.1.18)、1,4-αグルカン6-α-D-グルコシルトランスフェラ一ゼ(EC2.4.1.24)が挙げられる。トランスグルコシダーゼはα-グルコシダーゼ、マルターゼという別名をもち、
α-1,4結合をα-1,6結合へと変換する糖転移活性を有し、非還元末端α1,4-グルコシド結合を加水分解し、α-グルコースを生成する酵素である。
・・・・・・・
本発明の澱粉含有食品は、澱粉を含有する食品であれば特に限定されないが、澱粉が該食品の食感、物性に寄与している食品が挙げられる。代表例として具体的には、米飯食品、パン、麺等の小麦加工食品・・・・が挙げられる。」(明細書4頁13行?6頁8行)

(12)引用文献12の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献12には、次の事項が記載されている。
(12a)「飲食物の製造に際し、澱粉質に枝つくり酵素を作用させ、得られる生成物を含有せしめることを特徴とする飲食物の製造方法。」(特許請求の範囲)

(12b)「澱粉質を含有する食品では、澱粉質の老化によって、その保存性の低下、消化率の低下をもたらすことが知られている。従来は、これを防止するため、食品製造に際して、澱粉質の一部分をα-アミラーゼにより加水分解するか、または糖類を添加するなどの方法が経験的に採用されてきた。しかしながら、これらの方法では、澱粉質本来の性質、例えば接着性、増粘性、賦形性などが低下し、甘味が増大するなどの欠点が生ずる。
本発明者らは、澱粉質を含有する飲食物の製造に際し、澱粉質の長所を失うことなく、得られる飲食物の品質向上を目的に鋭意研究したところ、澱粉質に枝つくり酵素を作用させ、得られる生成物を使用することにより、本目的を達成し得ることを見いだし、本発明を完成した。
枝つくり酵素(EC 2.4.1.18)は、Q-酵素とも呼ばれ、アミロースのような直鎖状グルカンのα-1,4結合に作用してアミロペクチンまたはグリコーゲンのようなα-1,6結合の枝分れ構造を生成する酵素であり、例えば、・・・・などに記載されている。」(1頁左下欄13行?同頁右下欄15行)

(12c)「飲食物の製造に際して、澱粉質に枝つくり酵素を作用させ、得られる生成物を含有せしめる方法は、本発明の目的が達成できればよく、例えば、予じめ糊化分散させた澱粉質溶液に枝つくり酵素を作用させて、これをそのまま若しくは必要に応じて濃縮、乾燥した後、飲食物に配合してもよい。また、予じめ澱粉質と枝つくり酵素とを共存させて加熱し、糊化と酵素作用とを同時に行なって飲食物を製造してもよい。
このようにして得られる飲食物は、枝つくり酵素の作用により澱粉質の老化を抑制し、消化率の低下を抑制できるだけでなく、飲食物の口当り、接着性、増粘性、賦形性、濃厚性、分散性、保湿性、照りなどの物性を改善し、しかもそれらの性質が変化しにくく高品質を長期間維持できるので極めて商品価値が高い。」(2頁左上欄17行?同頁右上欄12行)

2.引用発明について
(1)引用文献1に記載された発明について
上記引用文献1には、上記(1a)の請求項4の記載から「α-グルコシダーゼを原料生米1gあたり2?1200U、アミロペクチン含量が75%以上の澱粉を原料生米に対し0.1?6重量%添加することを特徴とする米飯食品の製造方法。」(以下、「引用発明1a」という。)の発明が、上記(1a)の請求項1の記載から「α-グルコシダーゼとアミロペクチン含量が75%以上の澱粉とを含有する米飯改質剤であって、α-グルコシダーゼの含有量が、該改質剤中の澱粉1gあたり、100?50000Uである米飯改質剤。」(以下、「引用発明1b」という。)の発明が、それぞれ記載されていると認める。

(2)引用文献3に記載された発明について
上記引用文献3には、上記(3a)の請求項1の記載から「トランスグルコシダーゼを低温条件下で澱粉含有食品又は澱粉に作用させることを特徴とする澱粉含有食品又は改質澱粉の製造方法。」(以下、「引用発明3a」という。)の発明が、上記(3c)の記載から「低温条件下で澱粉含有食品又は澱粉に作用させるトランスグルコシダーゼからなる酵素。」(以下、「引用発明3b」という。)の発明が、それぞれ記載されていると認める。

(3)引用文献8に記載された発明について
上記引用文献8には、上記(8a)の請求項1?3の記載から「α-グルコシダーゼ及びトランスグルタミナーゼを用いることを特徴とする米飯食品の製造方法であって、α-グルコシダーゼの添加量が、原料生米1g当り1.5?300,000Uであり、トランスグルタミナーゼの添加量が原料生米1g当り0.0001?100Uである製造方法。」(以下、「引用発明8a」という。)の発明が、また、上記(8a)の請求項7?8の記載から「α-グルコシダーゼ及びトランスグルタミナーゼを含有する米飯食品改質用の酵素製剤であって、α-グルコシダーゼの含有量がトランスグルタミナーゼ1U当り0.15U?200,000Uである酵素製剤。」(以下、「引用発明8b」という。)の発明が、それぞれ記載されていると認める。

(4)引用文献9に記載された発明について
上記引用文献9には、上記(9a)の請求項1?2の記載から「トランスグルタミナーゼ及び/又はα-グルコシダーゼとグルコースオキシダーゼとを用いることを特徴とする米飯食品の製造方法であって、原料生米1g当たり0.0001?120Uのトランスグルタミナーゼ及び/又は原料生米1g当たり0.03?300,000Uのα-グルコシダーゼと原料生米1g当たり0.001?500Uのグルコースオキシダーゼとを米に作用させることを特徴とする米飯食品の製造方法。」(以下、「引用発明9a」という。)の発明が、また、上記(9a)の請求項6?7の記載から「トランスグルタミナーゼ及び/又はα-グルコシダーゼとグルコースオキシダーゼとを有効成分として含有する米飯食品改質用の酵素製剤であって、グルコースオキシダーゼの含有量が、トランスグルタミナーゼ1U当たり0.003?10,000U及び/又はα-グルコシダーゼ1U当たり0.000003?34Uである酵素製剤。」(以下、「引用発明9b」という。)の発明が、それぞれ記載されていると認める。

(5)引用文献10に記載された発明について
上記引用文献10には、上記(10a)の請求項1の記載から「α-グルコシダーゼの量が原料穀粉1g当たり1.5?300,000Uであり、グルコースオキシダーゼの量が原料穀粉1g当たり0.002?500Uかつα-グルコシダーゼ1U当たり0.00003?30Uであることを特徴とする、α-グルコシダーゼ及びグルコースオキシダーゼを用いる麺類の製造方法。」(以下、「引用発明10a」という。)の発明が、また、上記(10a)の請求項10の記載から「グルコースオキシダーゼの含有量がα-グルコシダーゼ1U当たり0.00003?30Uであることを特徴とする、α-グルコシダーゼ及びグルコースオキシダーゼを有効成分として含有する麺類改質用の酵素製剤。」(以下、「引用発明10b」という。)の発明が、それぞれ記載されていると認める。

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)引用発明1aとの対比
引用発明1aの「α-グルコシダーゼ」は、本願発明1の「α-グルコシダーゼ」に相当する。
引用発明1aの「原料生米」は、本願発明1の「原料」に相当し、引用発明1aの「α-グルコシダーゼを原料生米1gあたり2?1200U」は、原料1g当たり2.0×10^(0)?1.2×10^(3)Uと表すことができるから、本願発明1の「α-グルコシダーゼの添加量が、原料1g当たり1.0×10^(-4)?5.0×10^(7)U」の範囲の中に含まれる。引用発明1aの「米飯食品の製造方法」は、本願発明1の「デンプン含有食品の製造方法」に相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明1aは、「α-グルコシダーゼを原料に添加することを特徴とするデンプン含有食品の製造方法であって、α-グルコシダーゼの添加量が、原料1g当たり2.0×10^(0)?1.2×10^(3)Uである方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本願発明1は、ブランチングエンザイムをα-グルコシダーゼと組み合わせて原料に添加し、ブランチングエンザイムの添加量を特定しているのに対して、引用発明1aには、ブランチングエンザイムをα-グルコシダーゼに組み合わせて原料に添加すること、及びその添加量について記載されていない点。
相違点2:デンプン含有食品の製造方法について、本願発明1は、「硬さの付与された」ものであるのに対して、引用発明1aは、硬さが付与されたことの特定がない点。

ア 相違点1について
一般に、酵素は、基質特異性があり、酵素としての触媒作用を示す最適温度や最適pH等の反応条件も個々の酵素で異なるものであるから、複数の酵素を組み合わせて用いることは通常行われないのが技術常識であり、ブランチングエンザイムが当業者に公知の酵素である(引用文献4の(4a)、引用文献5の(5c)、引用文献6の(6a)、引用文献7の(7a)、引用文献11の(11b)及び引用文献12の(12b))としても、これら引用文献4?7、11?12のいずれにも、ブランチングエンザイムをα-グルコシダーゼと組み合わせることは記載も示唆もないから、α-グルコシダーゼにブランチングエンザイムを組み合わせることを当業者が容易に想到するとはいえない。
また、引用文献2は、単にアミロース含有量が少ない(アミロペクチンが多い)程、冷凍時に飯中の澱粉の老化が抑制されることを示している文献に過ぎない。
そうすると、相違点1を当業者が容易になし得るとはいえない。

イ 相違点2について
本願発明1の「硬さの付与されたデンプン含有食品の製造方法」の「硬さの付与された」という特性は、上記相違点1のブランチングエンザイムをα-グルコシダーゼと組み合わせて原料に添加したことによって得られる特性であり、このことは、本願明細書の【0005】?【0011】の実施例1?6並びに【図1】及び【図3】に記載されている。
また、引用文献1及び引用文献2、4?7、11?12には、いわゆる澱粉の老化防止に関する効果が記載されているにとどまり、本願発明1のブランチングエンザイムをα-グルコシダーゼと組み合わせて原料に添加したことによって得られる特性である硬さの付与されたことに関する記載及び示唆はない。
そうすると、「硬さが付与された」ことを特定することを当業者が容易になし得るとはいえない。

ウ 小括
したがって、本願発明1は、引用文献1及び引用文献2、4?7、11?12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)引用発明3aとの対比
引用発明3aの「澱粉含有食品又は澱粉」は、本願発明1の「原料」に相当し、引用発明3aの「トランスグルコシダーゼ」は、上記(3b)の記載よりα-グルコシダーゼのことであるから、本願発明1の「α-グルコシダーゼ」に相当する。また、引用発明3aの「澱粉含有食品又は改質澱粉の製造方法」は、本願発明1の「デンプン含有食品の製造方法」に相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明3aは、「α-グルコシダーゼを原料に添加することを特徴とするデンプン含有食品の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点3:本願発明1は、ブランチングエンザイムをα-グルコシダーゼと組み合わせて原料に添加し、それぞれの添加量を特定しているのに対して、引用発明3aには、ブランチングエンザイムをα-グルコシダーゼに組み合わせて原料に添加すること、及びそれぞれの添加量について記載されていない点。
相違点4:デンプン含有食品の製造方法について、本願発明1は、「硬さの付与された」ものであるのに対して、引用発明3aは、硬さが付与されたことの特定がない点。

ア 相違点3について
相違点3は、上記(1)アで検討した相違点1と同様であるから、上記相違点1と同様の理由により、相違点3を当業者が容易になし得るとはいえない。
イ 相違点4について
相違点4は、上記(1)イで検討した相違点2と同じであるから、上記相違点2と同様な理由により、「硬さが付与された」ことを特定することを当業者が容易になし得るとはいえない。

ウ 小括
したがって、本願発明1は、引用文献3及び引用文献2、4?7、11?12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(3)引用発明8aとの対比
引用発明8aの「α-グルコシダーゼ」は、本願発明1の「α-グルコシダーゼ」に相当する。
引用発明8aの「原料生米」は、本願発明1の「原料」に相当し、引用発明8aの「α-グルコシダーゼの添加量が、原料生米1gあたり1.5?300,000U」は、原料1g当たり1.5×10^(0)?3.0×10^(5)Uと表すことができるから、本願発明1の「α-グルコシダーゼの添加量が、原料1g当たり1.0×10^(-4)?5.0×10^(7)U」の範囲の中に含まれる。引用発明8aの「米飯食品の製造方法」は、本願発明1の「デンプン含有食品の製造方法」に相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明8aは、「α-グルコシダーゼを原料に添加することを特徴とするデンプン含有食品の製造方法であって、α-グルコシダーゼの添加量が、原料1g当たり1.5×10^(0)?3.0×10^(5)Uである方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点5:本願発明1は、ブランチングエンザイムをα-グルコシダーゼと組み合わせて原料に添加し、ブランチングエンザイムの添加量を特定しているのに対して、引用発明8aは、α-グルコシダーゼ及びトランスグルタミナーゼを用い、トランスグルタミナーゼの添加量を特定している点。
相違点6:デンプン含有食品の製造方法について、本願発明1は、「硬さの付与された」ものであるのに対して、引用発明8aは、硬さが付与されたことの特定がない点。

ア 相違点5について
一般に、酵素は、基質特異性があり、酵素としての触媒作用を示す最適温度や最適pH等の反応条件も個々の酵素で異なるものであるから、複数の酵素を組み合わせて用いることは通常行わないのが技術常識であり、トランスグルタミナーゼが当業者に公知の酵素である(引用文献8の(8c)の【0009】)としても、ブランチングエンザイムとトランスグルタミナーゼは、触媒作用が全く異なる酵素であり、触媒作用の異なるトランスグルタミナーゼに代えてブランチングエンザイムを用いること及びその添加量を特定の範囲にすることは、記載も示唆もないから、α-グルコシダーゼにブランチングエンザイムを組み合わせることを当業者が容易に想到するとはいえない。
また、引用文献2は、単にアミロース含有量が少ない(アミロペクチンが多い)程、冷凍時に飯中の澱粉の老化が抑制されることを示している文献に過ぎない。
そうすると、相違点5を当業者が容易になし得るとはいえない。

イ 相違点6について
相違点6は、上記(1)イで検討した相違点2と同じであるから、上記相違点2と同様な理由により、「硬さが付与された」ことを特定することを当業者が容易になし得るとはいえない。

ウ 小括
したがって、本願発明1は、引用文献8及び引用文献2、4?7、11?12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(4)引用発明9aとの対比
引用発明9aの「トランスグルタミナーゼ及び/又はα-グルコシダーゼ」は、本願発明1の「α-グルコシダーゼ」に相当し、引用発明9aの「原料生米」は、本願発明1の「原料」に相当し、引用発明9aの「原料生米1g当たり0.0001?120Uのトランスグルタミナーゼ及び/又は原料生米1g当たり0.03?300,000Uのα-グルコシダーゼ」は、原料生米1g当たり3.0×10^(-2)?3.0×10^(5)Uのα-グルコシダーゼと表すことができるから、本願発明1の「α-グルコシダーゼの添加量が、原料1g当たり1.0×10^(-4)?5.0×10^(7)U」の範囲の中に含まれる。引用発明9aの「米飯食品の製造方法」は、本願発明1の「デンプン含有食品の製造方法」に相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明9aは、「α-グルコシダーゼを原料に添加することを特徴とするデンプン含有食品の製造方法であって、α-グルコシダーゼの添加量が、原料1g当たり3.0×10^(-2)?3.0×10^(5)Uである方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点7:本願発明1は、ブランチングエンザイムをα-グルコシダーゼと組み合わせて原料に添加し、ブランチングエンザイムの添加量を特定しているのに対して、引用発明9aは、α-グルコシダーゼとグルコースオキシダーゼを用い、グルコースオキシダーゼの添加量を特定している点。
相違点8:デンプン含有食品の製造方法について、本願発明1は、「硬さの付与された」ものであるのに対して、引用発明9aは、硬さが付与されたことの特定がない点。

ア 相違点7について
一般に、酵素は、基質特異性があり、酵素としての触媒作用を示す最適温度や最適pH等の反応条件も個々の酵素で異なるものであるから、複数の酵素を組み合わせて用いることは通常行われないのが技術常識であり、グルコースオキシダーゼが当業者に公知の酵素である(引用文献9の(9c))としても、ブランチングエンザイムとグルコースオキシダーゼは、触媒作用が全く異なる酵素であり、触媒作用の異なるグルコースオキシダーゼに代えてブランチングエンザイムを用いること及びその添加量を特定することは、記載も示唆もないから、α-グルコシダーゼにブランチングエンザイムを組み合わせることを当業者が容易に想到するとはいえない。
また、引用文献2は、単にアミロース含有量が少ない(アミロペクチンが多い)程、冷凍時に飯中の澱粉の老化が抑制されることを示している文献に過ぎない。
そうすると、相違点7を当業者が容易になし得るとはいえない。

イ 相違点8について
相違点8は、上記(1)イで検討した相違点2と同じであるから、上記相違点2と同様な理由により、「硬さが付与された」ことを特定することを当業者が容易になし得るとはいえない。

ウ 小括
したがって、本願発明1は、引用文献9及び引用文献2、4?7、11?12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(5)引用発明10aとの対比
引用発明10aの「α-グルコシダーゼ」は、本願発明1の「α-グルコシダーゼ」に相当する。
引用発明10aの「原料穀粉」は、本願発明1の「原料」に相当し、引用発明10aの「α-グルコシダーゼの量が原料穀粉1g当たり1.5?300,000Uの」は、α-グルコシダーゼの量が原料穀粉1g当たり1.5×10^(0)?3.0×10^(5)Uと表すことができるから、本願発明1の「α-グルコシダーゼの添加量が、原料1g当たり1.0×10^(-4)?5.0×10^(7)U」の範囲の中に含まれる。引用発明10aの「麺類の製造方法」は、本願発明1の「デンプン含有食品の製造方法」に相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明10aは、「α-グルコシダーゼを原料に添加することを特徴とするデンプン含有食品の製造方法であって、α-グルコシダーゼの添加量が、原料1g当たり1.5×10^(0)?3.0×10^(5)Uである方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点9:本願発明1は、ブランチングエンザイムをα-グルコシダーゼと組み合わせて原料に添加し、ブランチングエンザイムの添加量を特定しているのに対して、引用発明10aは、α-グルコシダーゼとグルコースオキシダーゼを用い、グルコースオキシダーゼの添加量を特定している点。
相違点10:デンプン含有食品の製造方法について、本願発明1は、「硬さの付与された」ものであるのに対して、引用発明10aは、硬さが付与されたことの特定がない点。

ア 相違点9について
相違点9は、上記(4)アで検討した相違点7と同様であるから、上記相違点7と同様の理由により、相違点9を当業者が容易になし得るとはいえない。

イ 相違点10について
相違点10は、上記(1)イで検討した相違点2と同様であるから、上記相違点2と同様な理由により、「硬さが付与された」ことを特定することを当業者が容易になし得るとはいえない。

ウ 小括
したがって、本願発明1は、引用文献10及び引用文献2、4?7、11?12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(6)まとめ
上記のとおり、本願発明1は、引用文献1、3、8、9又は10のいずれに記載された発明を主引用発明としても、引用文献2、4?7、11?12に記載された事項との組合せに基いて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2?4について
本願発明2?4は、いずれも本願発明1を直接又は間接的に引用し、本願発明2は、ブランチングエンザイムの添加量をさらに特定し、本願発明3及び4は、デンプン含有食品の種類を特定したものである。
これらの特定によっても、本願発明1における上記1.(1)?(5)で検討した点には何ら影響を与えるものではないから、本願発明1と同様に、引用文献1、3、8、9又は10のいずれに記載された発明を主引用発明としても、引用文献2、4?7、11?12に記載された事項との組合せに基いて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

3.本願発明5について
本願発明5は、上記第4に記載されたとおり「デンプン含有食品に硬さを付与するための酵素製剤」に関するものであり、その特徴は、酵素として「ブランチングエンザイムとα-グルコシダーゼを組み合わせること」及びデンプン含有食品に「硬さを付与するため」のものである点である。
そして、本願発明5と引用発明1b、引用発明3b、引用発明8b、引用発明9b又は引用発明10bとをそれぞれ対比すると、各引用発明における相違点は、本願発明1において検討した上記1.(1)?(5)で指摘した相違点と同様である。
そして、これらの相違点は、すでに上記1.(1)?(5)で検討したとおりであるから、本願発明5は、本願発明1と同様に、引用文献1、3、8、9又は10のいずれに記載された発明を主引用発明としても、引用文献2、4?7、11?12に記載された事項との組合せに基いて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

4.小活
したがって、本願発明1?5は、引用文献1、3、8、9又は10のいずれに記載された発明を主引用発明としても、引用文献2、4?7、11?12に記載された事項との組合せに基いて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 原査定について
本願発明1?5は、上記第6で対比・判断したとおり、引用文献1、3、8、9又は10のいずれに記載された発明を主引用発明としても、引用文献2、4?7、11?12に記載された事項との組合せに基いて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
したがって、原査定の理由1を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-11-06 
出願番号 特願2014-558654(P2014-558654)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 白井 美香保  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 佐々木 秀次
天野 宏樹
発明の名称 デンプン含有食品の製造方法及びデンプン含有食品改質用の酵素製剤  
代理人 高島 一  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 竹井 増美  

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