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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03H 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03H 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03H |
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管理番号 | 1356586 |
審判番号 | 不服2018-8284 |
総通号数 | 240 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-06-18 |
確定日 | 2019-10-31 |
事件の表示 | 特願2014-132939「フィルタ、デュプレクサおよびモジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月21日出願公開、特開2016- 12796〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年6月27日の出願であって、平成29年12月8日付けの拒絶理由の通知に対し、平成30年2月15日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成30年3月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成30年6月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされ、令和元年5月24日付けで拒絶理由の通知がされ、令和元年7月26日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし6に係る発明は、令和元年7月26日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 入力端子と出力端子との間に直列に接続され1ポート共振器である1または複数の直列共振器と、前記入力端子と前記出力端子との間に並列に接続され1ポート共振器である1または複数の並列共振器と、を備えるラダー型フィルタと、 前記入力端子または前記出力端子のいずれか一方の端子に一端が接続された第1インダクタと、 前記1または複数の並列共振器の少なくとも1つの並列共振器のグランド側の端子に一端が接続された第2インダクタと、 前記第1インダクタの他端と前記第2インダクタの他端とを接続する第1ノードに一端が接続され、グランドに他端が接続された第3インダクタと、 を具備し、 前記第1インダクタの一端は、前記1または複数の直列共振器のうち最も前記一方の端子に電気的に近い直列共振器に直接接続されていることを特徴とするフィルタ。」 第3 当審における拒絶の理由 当審における令和元年5月24日付けの拒絶理由のうちの理由2の概要は、進歩性について、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 引用文献1:国際公開第2009/082012号 第4 引用文献 1.引用文献1 当審の拒絶理由の理由2(進歩性)で引用された国際公開第2009/082012号(平成21年7月2日国際公開。以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は当審が付与、以下同じ。)。 「[0005] 以下、本実施形態のフィルタについて図面を参照しつつ詳細に説明する。なお本実施形態におけるフィルタは、弾性波素子として共振器型の弾性表面波素子を用いた弾性表面波フィルタ(以下、SAWフィルタとも称する)である。」(明細書第4頁第18行-第4頁第20行) 「図1に示すように、本実施形態のフィルタ50aは、弾性表面波素子1と、弾性表面波素子1に接続された入力側の不平衡信号端子12および出力側の不平衡信号端子13と、一方の不平衡信号端子12に接続された第1の信号線路9および他方の不平衡信号端子13に接続された第2の信号線路10と、第1および第2の信号線路9,10間を弾性表面波素子1に対して並列に接続する分流回路40と、を備えている。またフィルタ50は、弾性表面波素子1に対して直列となるように第1の信号線路9に設けられた入力側コンデンサ2と、分流回路40の第1の信号線路9側に設けられた第1のインダクタ3と、分流回路40の第2の信号線路10側に設けられた出力側コンデンサ4および第2のインダクタ5を有する直列共振回路11と、を具備している。」(明細書第4頁第25行-第5頁第5行) 「入力側コンデンサ2、第1のインダクタ3、出力側コンデンサ4、並びに第2のインダクタ5の容量およびインダクタンスを調整することによって、フィルタ50aの整合回路を構成している。 このように、整合回路として第1、第2のインダクタ3,5を用いるフィルタ回路において、出力側の整合回路を構成する第2のインダクタ5を用いて直列共振回路11を構成することによって、インピーダンスを広帯域な周波数帯域において整合させつつ、出力側コンデンサ4と第2のインダクタ5による直列共振の共振周波数を、高減衰を必要とする周波数帯付近に合わせることにより、SAWフィルタの通過帯域外減衰特性を高減衰にすることができる。」(明細書第5頁第6行-第5頁第14行) 「また、弾性表面波素子1のIDT電極14?16の接地側の電極指は、接地電極端子18,19に接続されている。接地電極端子18,19は図1に示すように接地用線路6を介して接地電極8に接続されている。 第1のインダクタ3、接地用線路6および直列共振回路部11は接地電極8に接続されているが、第1のインダクタ3、接地用線路6および直列共振回路部11と、接地電極8との間には、寄生インダクタ7が介在されている。寄生インダクタ7のインダクタンス値は、たとえば0.01nH?1nHである。」(明細書第5頁第26行-第6頁第4行) 「図8に別の実施形態にかかるフィルタ50bの回路図を示す。図9は、図8のフィルタ50bにおける弾性表面波素子1の電極構造の平面図である。 図8に示すフィルタ50bは、入力側コンデンサ2,出力側コンデンサ4がそれぞれ、圧電基板20上に形成された弾性表面波共振子30,31により構成されている。 図9に示すように本実施形態に使用される圧電基板20には、弾性表面波素子1の他に弾性表面波共振子30、31が設けられている。弾性表面波共振子30は弾性表面波素子1と入力用接地パッド12aとの間に配置され、弾性表面波共振子31は弾性表面波素子1と共振回路出力用パッド13bとの間に配置されている。」(明細書第11頁第9行-第11頁第16行) 「また、弾性表面波共振子30,31の共振周波数を、高減衰を必要とする周波数帯付近に合わせることにより、SAWフィルタの通過帯域外減衰特性を高減衰にすることができる。」(明細書第11頁第23行-第11頁第25行) さらに、引用文献1には、本実施形態にかかるフィルタについて以下の図1,2が、別の実施形態にかかるフィルタについて、以下の図8,9が記載されている。 「[図1] 」 「[図2] 」 「[図8] 」 「[図9] 」 引用文献1の明細書第4頁第25行-第5頁第5行及び図1の記載によれば、引用文献1の本実施形態の弾性表面波フィルタは、入力側の不平衡信号端子12と出力側の不平衡信号端子13との間に、直列に接続された入力側コンデンサ2と弾性表面波素子1とを備えている。 そして、引用文献1の明細書第4頁第18行-第4頁第20行の記載によれば、本実施形態では、弾性波素子として共振器型の弾性表面波素子を用いるから、「弾性表面波素子1」も共振器型の弾性表面波素子といえる。 また、引用文献1の本実施形態の弾性表面波フィルタは、入力側の不平衡信号端子12と出力側の不平衡信号端子13との間に、並列に接続された出力側コンデンサ4を備えている。 引用文献1の別の実施形態について、同文献の明細書第11頁第9行-第11頁第16行及び図8,9の記載によれば、引用文献1の別の実施形態にかかるフィルタは、同様に、入力用接地パッド12aとパッド13aとの間に、直列に接続された、入力側コンデンサ2を構成する弾性表面波共振子30と弾性表面波素子1とを備えている。(なお、図9の12aのパッドについて、明細書第11頁第15行では、「入力用接地パッド12a」と記載されているものの、当該パッドが接地されているとの記載は他になく、明細書の他の箇所では、パッド12aは「入力信号用パッド12a」と記載されている。) また、別の実施形態にかかるフィルタは、同様に、入力用接地パッド12aとパッド13aとの間に、並列に接続された、出力側コンデンサ4を構成する弾性表面波共振子31を備えている。 引用文献1の明細書第11頁第9行-第11頁第16行及び図8,9の記載によれば、別の実施形態にかかるフィルタの圧電基板20には、弾性表面波素子1、弾性表面波共振子30,31が設けられているといえる。ここで、図9の記載によれば、弾性表面波共振子30と弾性表面波素子1は直列に接続され、弾性表面波素子1とパッド13aに対して弾性表面波共振子31は並列に接続されているから、弾性表面波素子1、弾性表面波共振子30,31は1段の梯子型に接続されている。 そして、図8の回路図によれば、弾性表面波素子1の出力側には、出力側の端子13及び出力側コンデンサ4が接続され、出力側コンデンサ4を構成する弾性表面波共振子31がパッド13bに接続されているから、パッド13aが、図8の出力側の端子13に接続される出力信号用パッド13aであって、弾性表面波共振子31が出力側コンデンサ4に対応しているといえる。 次に、引用文献1の本実施形態の弾性表面波フィルタ(図1)と、別の実施形態にかかるフィルタ(図8,9)とは、弾性表面波素子1、入力側コンデンサ2及び出力側コンデンサ4以外の構成要素は同じである、つまり、図8,9に記載される別の実施形態にかかるフィルタは、図1の本実施形態にかかるフィルタを基本として、入力側コンデンサ2、出力側コンデンサ4を弾性表面波共振子30,31によって形成したものであるから、明細書第5頁第1行-第5頁第5行及び図1,8,9の記載によれば、別の実施形態にかかるフィルタ(図8,9)の入力用接地パッド12aに一端が接続されたインダクタ3は、本実施形態の弾性表面波フィルタ(図1)における、入力側の不平衡信号端子12に接続された第1の信号線路9側に設けられた第1のインダクタ3(図1)に対応するといえる。 また、別の実施形態にかかるフィルタ(図8,9)では、出力側コンデンサ4に対応する弾性表面波共振子31の一端は、弾性表面波素子1と出力信号用パッド13aに対して並列に信号線路10に接続されており、弾性表面波共振子30の他端はパッド13bに接続されている。 そうすると、パッド13bに一端が接続されたインダクタ5は、本実施形態の弾性表面波フィルタ(図1)における、出力側の不平衡信号端子13に接続された第2の信号線路10側に設けられた出力用コンデンサ4に接続された第2のインダクタ5(図1)に対応するといえる。 そして、別の実施形態にかかるフィルタ(図8,9)における、インダクタ3の他端とインダクタ5の他端とを接続するノードに一端が接続されており、接地電極8あるいは接地電極端子18に接続されたインダクタ7は、明細書第6頁第1行-第6頁第4行の記載によれば、本実施形態の弾性表面波フィルタ(図1)における、第1のインダクタ3の他端と第2のインダクタ5の他端とを接続するノードに一端が接続され、接地電極8に他端が接続された寄生インダクタ7に対応するといえる。ここで、寄生インダクタ7のインダクタンス値は0.01nH?1nHである。 さらに、引用文献1の明細書第5頁第26行-第5頁第28行及び図1の記載によれば、弾性表面波素子1は、接地用線路6を介して接地電極8に接続されているといえる。 そして、別の実施形態にかかるフィルタの回路図である図8においても、弾性表面波素子1は、線路6及びインダクタ7を介して接地された電極8に接続されている。 したがって、別の実施形態にかかるフィルタ(図8,9)における、線路6及び接地された電極8は、本実施形態の弾性表面波フィルタ(図1)における、接地用線路6及び接地電極8に対応するといえる。 上記によれば、引用文献1の別の実施形態には、 「入力用接地パッド12aと出力信号用パッド13aとの間に、直列に接続された、入力側コンデンサ2を構成する弾性表面波共振子30と、共振器型の弾性表面波素子1と、入力用接地パッド12aと出力信号用パッド13aとの間に、出力側コンデンサ4を構成する弾性表面波共振子31とパッド13bが並列に接続され、弾性表面波素子1、弾性表面波共振子30,31は1段の梯子型に接続された圧電基板20と、 入力用接地パッド12aに一端が接続された第1のインダクタ3と、 パッド13bに一端が接続された第2のインダクタ5と、 第1のインダクタ3の他端と第2のインダクタ5の他端とを接続するノードに一端が接続され、接地電極8に他端が接続された寄生インダクタ7(インダクタンス値は0.01nH?1nH)とを備え、 弾性表面波素子1は、接地用線路6を介して接地電極8に接続されている、 弾性表面波フィルタ。」(以下、「引用発明」という。) が記載されている。 2.引用文献2,3 新たに引用する特開2005-347892号公報(平成17年12月15日公開。以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。 「【0002】 弾性表面波フィルタに代表される弾性表面波素子は、携帯電話等の移動通信機器に広く用いられている。」 「【0028】 図2は、送信側及び受信側ともラダー型弾性表面波フィルタを使用した分波器であって、ラダー型弾性表面波フィルタを構成する各共振器20は1ポート弾性表面波共振器であり、IDT21と、その両側に設けた反射器22、23とからなる。 【0029】 図3に示した分波器は、ラダー型弾性表面波フィルタ32と縦結合2重モード型弾性表面波フィルタ33を有する。ラダー型弾性表面波フィルタ32は分波器の送信フィルタであり、縦結合2重モード型弾性表面波フィルタ33は受信フィルタである。これらのフィルタ32と33は異なる帯域中心周波数を有する。ラダー型弾性表面波フィルタ32の一端は共通端子に接続され、他端は個別端子(送信側端子)に接続されている。同様に、縦結合2重モード型弾性表面波フィルタ33の一端は整合回路を介して共通端子に接続され、他端は個別端子(受信側端子)に接続されている。ここで、送信フィルタが複数の1ポート弾性表面波共振器20をラダー型に接続したラダー型弾性表面波フィルタ32であるのに対し、受信フィルタが縦結合2重モード型弾性表面波フィルタ33で構成されている。ここで、ラダー型弾性表面波フィルタ32は送信フィルタであり、縦結合2重モード型弾性表面波フィルタ33は受信フィルタである。受信フィルタ33は、複数の2重モード型弾性表面波フィルタ(2つの2重モード型弾性表面波フィルタ34と35:以下、DMS(Dual Mode SAW)フィルタと略す)を並列に接続した回路構成である。」 「【図2】 」 「【図3】 」 また、新たに引用する特開2011-91650号公報(平成23年5月6日公開。以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに次の記載がある。 「【0002】 従来より、図4に示すような梯子形SAWフィルタ110が知られている。梯子形SAWフィルタ110は、複数の1ポートSAW共振器112を梯子形に繋いだものである。1ポートSAW共振器112は、図5に示すように、櫛歯が互い違いに入り込むように配置された1対の櫛形電極114,114と、その両側に配置された反射器116とで構成される。こうした1ポートSAW共振器112の共振周波数frは、弾性表面波の伝搬速度vを周期λ(電極幅hと電極間距離aとの和の2倍)で除した値で概略決定される。1ポートSAW共振器112には、入力端子と出力端子とを接続する入出力ライン118に直列に配置された直列腕共振器Rsと、2つの入出力ライン118,118を架け渡すように配置された並列腕共振器Rpとがある。直列腕共振器Rsと並列腕共振器Rpは、直列腕共振器Rsの共振周波数frsと並列腕共振器Rpの反共振周波数fapとが一致するようにそれぞれの周期λsと周期λpとがわずかに異なるように設計されている。この梯子形SAWフィルタ110の通過特性は、図6のようになる。低周波側の減衰極は並列腕共振器Rpの共振周波数frp、高周波側の減衰極は直列腕共振器Rsの反共振周波数 fas、中心周波数f0は直列腕共振器Rsの共振周波数frs(並列腕共振器Rpの反共振周波数fapとほぼ一致)となる。このような梯子形SAWフィルタ110には、圧電基板とその圧電基板よりも小さな線熱膨張係数を持つ支持基板とを接合した複合基板が利用される(例えば特許文献1参照)。」 「【図4】 」 「【図5】 」 「【図6】 」 弾性表面波フィルタは、SAWフィルタと同義であるから、引用文献2,3の上記記載によれば、 「1ポート弾性表面波共振器(1ポートSAW共振器)をラダー型に繋いで構成されるラダー型弾性表面波フィルタ。」(以下、「周知技術」という。)は周知である。 第5 対比 本願発明と、引用発明とを対比する。 (ア)引用発明における「入力用接地パッド12a」について、第4の「1.引用文献1」で述べたように、当該パッドが接地されているとの記載は他になく、明細書の他の箇所では、パッド12aは「入力信号用パッド12a」と記載されている。また、引用文献1の図9においても、パッド12aは接地電極端子19には接続されていないから、「入力用接地パッド12a」は実際には接地されていないといえる。 したがって、引用発明における「入力用接地パッド12a」は、本願発明における「入力端子」に相当する。 (イ)引用発明における「出力信号用パッド13a」は、本願発明における「出力端子」に相当する。 (ウ)本願明細書の【0048】には、「直列共振器S1からS3および並列共振器P1からP2は、弾性表面波共振器であり、金属膜48により形成された櫛型電極を有する。」と記載されており、【0053】には、「直列共振器および並列共振器としては、図12のように弾性表面波共振器、または図13のように圧電薄膜共振器を用いることができる。」と記載されているから、本願発明における「直列共振器」及び「並列共振器」には「弾性表面波共振器」が含まれる。 引用発明における「入力側コンデンサ2を構成する弾性表面波共振子30」は、「入力端子」と「出力端子」との間に直列に接続されているから、本願発明における「入力端子と出力端子との間に直列に接続され」た「直列共振器」であるといえる。 また、引用発明における「共振器型の弾性表面波素子1」は共振器であり、「入力端子」と「出力端子」との間に直列に接続されているから、本願発明における「入力端子と出力端子との間に直列に接続された」「直列共振器」であるといえる。 したがって、引用発明における「入力用接地パッド12aと出力信号用パッド13aとの間に、直列に接続された、入力側コンデンサ2を構成する弾性表面波共振子30と、共振器型の弾性表面波素子1」と、本願発明における「1または複数の直列共振器」とは、「入力端子と出力端子との間に直列に接続され」た「複数の直列共振器」である点で共通する。 (エ)(ウ)で述べたように、本願発明における「並列共振器」は「弾性表面波共振器」を含む。 ここで、引用発明における「出力側コンデンサ4を構成する弾性表面波共振子31」は、「入力端子」と「出力端子」との間に並列に接続されている。 したがって、引用発明における「出力側コンデンサ4を構成する弾性表面波共振子31」と、本願発明における「1または複数の並列共振器」とは、「入力端子と出力端子との間に並列に接続され」た「並列共振器」である点で共通する。 (オ)引用発明における、「弾性表面波素子1」、「弾性表面波共振子30」、「弾性表面波共振子31」は1段の梯子型に接続されており、引用発明における「圧電基板20」と、本願発明における「ラダー型フィルタ」とは、「直列共振器」と「並列共振器」が梯子型、すなわちラダー型に接続されている点で共通する。 そして、引用発明における「弾性表面波素子1」、「入力側コンデンサ2を構成する弾性表面波共振子30」及び「出力側コンデンサ4を構成する弾性表面波共振子31」が1段の梯子型に接続されており、所定の通過帯域を有する特性を有することは明らかであるから、「弾性表面波素子1」、「弾性表面波共振子30,31」は1段の梯子型に接続されたフィルタとして機能するといえる。 したがって、引用発明における「弾性表面波素子1、弾性表面波共振子30,31は1段の梯子型に接続された圧電基板20」は、本願発明における「ラダー型フィルタ」に対応する。 (カ)引用発明における「入力用接地パッド12aに一端が接続された第1のインダクタ3」は、本願発明における「前記入力端子または前記出力端子のいずれか一方の端子」(具体的には、入力端子)に「一端が接続された第1インダクタ」に相当する。 (キ)引用発明における「パッド13bに一端が接続された第2のインダクタ5」について、弾性表面波共振子31の一端は弾性表面波素子1と出力信号用パッド13a間の信号線路10に接続されており、他端はパッド13bに接続されているから、「パッド13b」は、弾性表面波共振子31のグランド側の端子であるといえる。 したがって、引用発明における「入力用接地パッド12aに一端が接続された第1のインダクタ3」と、本願発明における「前記1または複数の並列共振器の少なくとも1つの並列共振器のグランド側の端子に一端が接続された第2インダクタ」とは、「少なくとも1つの並列共振器のグランド側の端子に一端が接続された第2インダクタ」である点で共通する。 (ク)引用発明における「寄生インダクタ7」のインダクタンス値は、0.01nH?1nHである。 一方、本願発明における「第3インダクタ」に対応する本願実施例の「インダクタL3」について、本願明細書の【0022】には0.01nHであることが、【0027】には0.4nHであることが記載されている。 そうすると、引用発明における「寄生インダクタ7」と、本願発明における「第3インダクタ」とは、実質的に同程度のインダクタンス値であるといえる。 したがって、引用発明における「第1のインダクタ3の他端と第2のインダクタ5の他端とを接続するノードに一端が接続され、接地電極8に他端が接続された寄生インダクタ7(インダクタンス値は0.01nH?1nH)」は、本願発明における「前記第1インダクタの他端と前記第2インダクタの他端とを接続する第1ノードに一端が接続され、グランドに他端が接続された第3インダクタ」に相当する。 (ケ)(カ)で述べたように、引用発明における「第1インダクタ3」は、本願発明における「第1インダクタ」に相当し、引用発明における「入力用接地パッド12a」は、本願発明における「一方の端子」に相当する。 引用発明における「圧電基板20」に設けられた共振子である「弾性表面波素子1、弾性表面波共振子30,31」のうち、「入力用接地パッド12a」に最も電気的に近い共振子は、「弾性表面波共振子30」であり(引用文献1の図9参照)、引用発明における「第1インダクタ3」は、その一端が「入力用接地パッド12a」に接続されるとともに、入力側コンデンサ2を構成する「弾性表面波共振子30」(引用文献1の図8,9参照)に直接接続されているから、引用発明と本願発明とは、「前記第1インダクタの一端は、前記複数の直列共振器のうち最も前記一方の端子に電気的に近い直列共振器に直接接続されている」点で共通する。 (コ)引用発明における「弾性表面波フィルタ」は、「フィルタ」の一種であるから、「フィルタ」であるといえる。 上記(ア)?(コ)より、本願発明と引用発明との一致点は、次のとおりである。 【一致点】 「入力端子と出力端子との間に直列に接続された複数の直列共振器と、前記入力端子と前記出力端子との間に並列に接続された並列共振器と、を備えるラダー型フィルタと、 前記入力端子または前記出力端子のいずれか一方の端子(入力端子)に一端が接続された第1インダクタと、 少なくとも1つの並列共振器のグランド側の端子に一端が接続された第2インダクタと、 前記第1インダクタの他端と前記第2インダクタの他端とを接続する第1ノードに一端が接続され、グランドに他端が接続された第3インダクタと、 を具備し、 前記第1インダクタの一端は、前記複数の直列共振器のうち最も前記一方の端子に電気的に近い直列共振器に直接接続されているフィルタ。」 一方で、本願発明と引用発明とは以下の点で相違する。 【相違点】 一致点の「入力端子と出力端子との間に直列に接続された複数の直列共振器と、前記入力端子と前記出力端子との間に並列に接続された並列共振器」について、本願発明では、「複数の直列共振器」及び「並列共振器」が「1ポート共振器」であるのに対して、引用発明では、「弾性表面波共振子30」、「共振器型の弾性表面波素子1」及び「弾性表面波共振子1」が「1ポート共振器」であることが特定されていない点。 第6 判断 1.相違点の検討 以下で【相違点】について検討する。 本願発明のように「弾性表面波共振器」を用いた場合の「1ポート共振器」とは、櫛歯が互い違いに入り込むように配置された1対の櫛形電極(IDT)と、その両側に配置された反射器とで構成されるものである(引用文献2の段落【0028】及び図2、引用文献3の段落【0002】及び図5参照)。 そうすると、引用文献1の図9の電極構造の記載からみて、「弾性表面波共振子30」及び「弾性表面波共振子31」は、櫛歯が互い違いに入り込むように配置された1対の櫛形電極と、その両側に配置された反射器とで構成されているから、「1ポート共振器」である。 次に、第4の「2.引用文献2,3」で述べたように、「1ポート弾性表面波共振器(1ポートSAW共振器)をラダー型に繋いで構成されるラダー型弾性表面波フィルタ。」は周知技術である。 引用発明及び引用文献2,3に記載された周知技術は、ともに弾性表面波共振子を用いたフィルタに関するものであるから、引用発明における「共振器型の弾性表面波素子1」に代えて、周知の1ポート弾性表面波共振器をラダー型に繋いで構成されるラダー型弾性表面波フィルタを採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、「共振器型の弾性表面波素子1」として1ポート弾性表面波共振器で構成されるラダー型弾性表面波フィルタを採用しても、引用発明の弾性表面波フィルタは全体として「ラダー型フィルタ」となることは明らかである。 また、携帯電話等の移動通信機器に用いられる弾性表面波フィルタについて、分波器のフィルタを、縦結合弾性表面波フィルタで構成することも、1ポート弾性表面波共振器で構成されるラダー型弾性表面波フィルタで構成することも可能であるし(引用文献2の【0002】,【0028】,【0029】,図2及び図3参照)、1ポート弾性表面波共振器で構成されるラダー型弾性表面波フィルタは、直列共振器の共振周波数と、並列共振器の反共振周波数により調整可能な所定の通過帯域をもつものである(引用文献3の段落【0002】及び図6参照) したがって、「共振器型の弾性表面波素子1」として1ポート弾性表面波共振器で構成されるラダー型弾性表面波フィルタを採用しても、所望の通過帯域特性を有する弾性表面波フィルタを構成できることは明らかである。 なお、「共振器型の弾性表面波素子1」として、1ポート弾性表面波共振器で構成されるラダー型弾性表面波フィルタを採用しても、「第1のインダクタ3」の一端は入力端子に接続されており、「第1のインダクタ3」の一端が直接接続される「弾性表面波共振子30」は、圧電基板20に設けられた複数の直列共振器のうち、最も当該入力端子に電気的に近い共振器である点に変わりはない。 本願発明の奏する作用効果についても検討しておく。本願発明は、「通過帯域外の減衰量を向上させることができる」効果を奏するものである(本願明細書の【0014】参照)。 これに関連して、引用文献1の明細書第5頁第6行-第5頁第14行には、「入力側コンデンサ2、第1のインダクタ3、出力側コンデンサ4、並びに第2のインダクタ5の容量およびインダクタンスを調整することによって、フィルタ50aの整合回路を構成」すること、「出力側の整合回路を構成する第2のインダクタ5を用いて直列共振回路11を構成することによって、インピーダンスを広帯域な周波数帯域において整合させつつ、出力側コンデンサ4と第2のインダクタ5による直列共振の共振周波数を、高減衰を必要とする周波数帯付近に合わせることにより、SAWフィルタの通過帯域外減衰特性を高減衰にすることができる」ことが記載されている。 また、引用文献1の明細書第11頁第23行-第11頁第25行には、「弾性表面波共振子30,31の共振周波数を、高減衰を必要とする周波数帯付近に合わせることにより、SAWフィルタの通過帯域外減衰特性を高減衰にすることができる」ことが記載されている。 そうすると、引用発明も本願発明と同じ作用効果を奏するものといえるから、本願発明の奏する作用効果は当業者が予測し得るものである。 2.請求人の主張について 審判請求人は、令和元年7月26日に提出された意見書において、相違点について、 「・請求項1、2に係る発明は、以下の点で引用文献と異なります。 相違点:1または複数の直列共振器は1ポート共振器である点。 引用文献1の図9の弾性表面波素子1は縦結合共振型の弾性表面波素子であり(0002段落)、1ポート共振器ではありません。よって、引用文献1に上記相違点は記載されておりません。」と主張している。 また、相違点の効果について、(本願の)「図3(a)、図5(a)、図8(a)、0024、0029、0039段落のように、通過帯域外の減衰量を大きくすることができるという効果を奏することができます。」と主張している。 しかしながら、本願の請求項1に係る発明と引用文献1との相違点については、「1.相違点の検討」で検討したとおりである。 また、本願発明の奏する作用効果については、「1.相違点の検討」で検討したとおり、当業者が予測し得るものである。 第7 むすび 上記のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-08-27 |
結審通知日 | 2019-09-03 |
審決日 | 2019-09-17 |
出願番号 | 特願2014-132939(P2014-132939) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(H03H)
P 1 8・ 121- WZ (H03H) P 1 8・ 113- WZ (H03H) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | ▲高▼須 甲斐、吉田 美彦 |
特許庁審判長 |
吉田 隆之 |
特許庁審判官 |
古河 雅輝 中野 浩昌 |
発明の名称 | フィルタ、デュプレクサおよびモジュール |
代理人 | 片山 修平 |