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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F25D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F25D
管理番号 1356599
審判番号 不服2018-15188  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-15 
確定日 2019-10-31 
事件の表示 特願2014-149737「冷蔵庫」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月 8日出願公開、特開2016- 23892〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年7月23日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年4月11日付けで拒絶理由通知
平成30年6月14日に意見書及び手続補正書の提出
平成30年8月7日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成30年11月15日に審判請求書及び手続補正書の提出
平成31年1月10日に上申書の提出

第2 平成30年11月15日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年11月15日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1ないし11の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
貯蔵室の前面開口部を開閉する扉に、前記貯蔵室内を撮影するカメラを備え、
前記扉はヒンジ部を支点に回動が可能であり、
前記カメラは、前記扉にあって前記ヒンジ部側とは反対の反ヒンジ部側に位置し、前記扉から突出して、当該カメラの光軸が前記扉の内面に対して傾斜する状態で取り付けられ、前記扉が開放される際又は前記扉が閉鎖される際に、所定の開放角度ごと又は所定時間ごとに複数回撮影する、
冷蔵庫。
【請求項2】
前記カメラは、左右方向に傾斜している請求項1記載の冷蔵庫。
【請求項3】
前記カメラは、傾斜角度が調整可能である請求項1または2に記載の冷蔵庫。
【請求項4】
前記カメラは、当該カメラの撮影面が前記ヒンジ部側に向けられている請求項1から3のいずれか一項記載の冷蔵庫。
【請求項5】
前記カメラは、前記扉を90度開放した位置で前記貯蔵室内の隅部が撮影範囲に入る請求項4記載の冷蔵庫。
【請求項6】
前記カメラは、前記扉を90度開放した位置で前記貯蔵室内の左右および中央部が撮影範囲に入る請求項4記載の冷蔵庫。
【請求項7】
前記カメラは、前記扉を90度開放した位置で撮影範囲に前記貯蔵室の外側を含まないように撮影する請求項4記載の冷蔵庫。
【請求項8】
前記カメラは、前記扉の開放途中で当該カメラの撮影面が前記貯蔵室に正面から対向するようになる請求項4記載の冷蔵庫。
【請求項9】
前記カメラは、前記扉が90度を超えて開放されても撮影する請求項4から8のいずれか一項記載の冷蔵庫。
【請求項10】
前記カメラは、当該カメラの撮影面が前記ヒンジ部側とは反対の反ヒンジ部側に向けられている請求項1から3のいずれか一項記載の冷蔵庫。
【請求項11】
前記カメラは、上下方向に傾斜している請求項1から3のいずれか一項記載の冷蔵庫。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年6月14日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
貯蔵室の前面開口部を開閉する扉に、前記貯蔵室内を撮影するカメラを備え、
前記扉はヒンジ部を支点に回動が可能であり、
前記カメラは、前記扉にあって前記ヒンジ部側とは反対の反ヒンジ部側に位置し、前記扉から突出して、当該カメラの光軸が前記扉の内面に対して傾斜する状態で取り付けられている冷蔵庫。
【請求項2】
前記カメラは、前記扉が開放された状態で撮影する請求項1記載の冷蔵庫。
【請求項3】
前記カメラは、左右方向に傾斜している請求項1または2記載の冷蔵庫。
【請求項4】
前記カメラは、傾斜角度が調整可能である請求項1から3のいずれか一項記載の冷蔵庫。
【請求項5】
前記カメラは、当該カメラの撮影面が前記ヒンジ部側に向けられている請求項1から4のいずれか一項記載の冷蔵庫。
【請求項6】
前記カメラは、前記扉を90度開放した位置で前記貯蔵室内の隅部が撮影範囲に入る請求項5記載の冷蔵庫。
【請求項7】
前記カメラは、前記扉を90度開放した位置で前記貯蔵室内の左右および中央部が撮影範囲に入る請求項5記載の冷蔵庫。
【請求項8】
前記カメラは、前記扉を90度開放した位置で撮影範囲に前記貯蔵室の外側を含まないように撮影する請求項5記載の冷蔵庫。
【請求項9】
前記カメラは、前記扉の開放途中で当該カメラの撮影面が前記貯蔵室に正面から対向するようになる請求項5記載の冷蔵庫。
【請求項10】
前記カメラは、前記扉が90度を超えて開放されても撮影する請求項5から9のいずれか一項記載の冷蔵庫。
【請求項11】
前記カメラは、当該カメラの撮影面が前記ヒンジ部側とは反対の反ヒンジ部側に向けられている請求項1から4のいずれか一項記載の冷蔵庫。
【請求項12】
前記カメラは、上下方向に傾斜している請求項1,2,4のいずれか一項記載の冷蔵庫。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「カメラ」の「貯蔵室内を撮影する」という機能について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である、特開平8-49958号公報(平成8年2月20日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(なお、下線は、理解の一助のために当審において付したものである。)
「【請求項1】 正面開放の物品出入れ口を有する物品収納室と、該物品収納室の一方の側辺部を支点として回動可能に取り付けられ前記物品出入れ口の開閉を行う開閉扉と、を備える冷蔵庫において、
冷蔵庫内に設けられ、前記開閉扉の開放時に前記物品収納室内及び/又は前記開閉扉内側を自動撮影するカメラと、
前記開閉扉の回動角を検出しその角度情報を送出する扉角度センサと、
カメラの撮影アングルを変更調整可能なアングル調整部と、
前記カメラにて撮影した像の情報を記憶するメモリと、
冷蔵庫の外面に外側から認識可能に設置されたディスプレイと、
該ディスプレイ上に前記撮影した像を表示させることを指示する信号を発するための操作部と、
前記扉角度センサからの角度情報に基づく前記各カメラの撮影対象への方向付けのための前記アングル調整部の動作制御、前記操作部からの指示信号に基づく前記メモリからの前記撮影した像情報の読み出しと前記ディスプレイ上への表示制御を行うCPUと、
を備えたことを特徴とする内部状態表示装置付冷蔵庫。
【請求項2】 前記カメラは、収納室側に設けられ前記開放扉内側を撮影する扉用カメラと、前記開閉扉側に設けられ前記収納室内を撮影する収納室用カメラとを含むことを特徴とする請求項1に記載の内部状態表示装置付冷蔵庫。
【請求項3】 前記カメラによる撮影は、前記CPUが前記角度センサからの角度情報に基づき開閉扉の動作方向及び回動位置を演算し、所定基準に合致した時に前記カメラに撮影動作信号を送ることによって行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の内部状態表示装置付冷蔵庫。」

「【0003】
【発明が解決しようとする課題】近年の夫婦共働き傾向を背景として食品の買だめの割合が以前よりも増加している。これに伴い、冷蔵庫も大型化が望まれ、冷蔵庫内に収納される収納物は多種類化、大量化している。このことは、一般家庭においては食料品の保存管理を冷蔵庫に依存する率が大きくなっていることを意味し、これに伴って食品等の出入れ回数並びに内部状況の確認の回数が増加し、扉の開閉の頻繁化は不可避の状況にある。このような扉の開閉動作は、冷蔵庫の効率の良い冷却動作を阻害する最も大きな要因である。しかしながら、利用者が大量多品種の収納品目を記憶しておくことは困難であり、食品の選択や内部の確認は扉を開放することなしには行うことができないのが現状である。
【0004】開閉扉を一定時間以上開放した場合に警報音等が発せられるシステムも開発されているが、このような警報音が鳴ったとしても、食品の選択動作や確認動作を中断することはできないので、上記事情を解消するには有効とは言えない。また、開閉扉に透明な部分を設け、内部のぞき窓として機能させることも考えられる。しかし、その部分に熱遮断性の劣化が生じること、窓として機能させる部分の扉内側に物品を収納できないので収納スペースが小さくなること、更に、常に冷蔵庫の中が外部から見えることが利用者にとって必ずしも望ましいことではないこと等の事情から有効策ではない。
【0005】本発明は、上記諸事状に鑑みなされたものであり、その目的は冷蔵庫の内部状態を冷蔵庫の扉を開けることなく外部から視覚的に確認することができ、扉の開閉動作回数の減少を図ることのできる内部状態表示装置付冷蔵庫を提供することにある。」

「【0009】
【作用】本発明は、最後に開閉扉の開閉動作を行った時点、すなわち扉を閉める直前の冷蔵庫内風景が現在の冷蔵庫内状況にほぼ等しいとの認識に基づくもので、少なくとも扉を閉める直前の冷蔵庫内状態が画像表示できれば、有効に所望の機能を発揮するものである。
【0010】まず、請求項1に係る内部状態表示付冷蔵庫によれば、冷蔵庫利用者は操作部を用いてディスプレイ上に冷蔵庫の内部像を表示させることができる。冷蔵庫内には物品収納室内及び/又は開閉扉内側を自動撮影するカメラが設けられており、このカメラはアングル調整部により常に撮影対象に適切に向くようにアングル調整されている。この制御は、CPUが扉角度センサからの角度情報に基づきアングル調整部を制御することにより行う。そして、カメラが撮影した画像情報はメモリに記憶される。次に、利用者が操作部により表示指示を行うと、CPUがメモリから上記画像情報を読み出し、ディスプレイに表示させる制御を行う。
【0011】従って、利用者はカメラにて撮影した物品収納室内及び/又は開閉扉内側の画像を冷蔵庫の外面に設置されたディスプレイによって視覚的に認識することができる。すなわち、開閉扉を開放して内部を見ることなく収納物の状況を把握することができる。なお、一般に冷蔵庫の開閉扉を開放すると照明ランプが点灯され、冷蔵庫内を見易くするシステムがとられているので、カメラによる撮影において照明上の問題は特に生じるおそれがない。
【0012】次に、請求項2に係る内部状態表示装置付冷蔵庫によれば、収納室側に扉用カメラが設けられ、開閉扉側に収納室用カメラが設けられており、それぞれ開閉扉内側と収納室内を撮影する。開閉扉内側には一般に飲料用ボトルなどを収納するための収納ポケットが存するが、その部分の状況並びに物品収納室内の状況の双方を確認することができる。
【0013】更に、請求項3に係る内部状態表示装置付冷蔵庫によれば、開閉扉の動作方向及び回動位置を演算し、これらが所定の基準に合致した時に前記カメラにより撮影するようにしている。これにより、開閉扉の開閉角度の大小の如何を問わず適切な撮影時点にて撮影を行うことが可能である。例えば、開放方向への動作が行われ、閉塞方向への動作に移り所定角度移動したときにカメラが撮影動作を行うようにすることなどが可能である。」

「【0014】
【実施例】以下、図面に基づいて本発明の実施例について詳細に説明する。図1は、本発明の実施例の基本構成を示しており、冷蔵庫10には2つの自動撮影式カメラ、収納室用カメラ12及び開閉扉用カメラ14が設けられている。これらのカメラは、作動信号を受けたときに自動的にシャッターを切る様に調整されている。収納室用カメラ12は、開閉扉40側に設置され、開閉扉用カメラ14は、物品収納室側に設置される。それぞれのカメラ12、14には、アングル調整機構16、18が設けられ、開閉扉40の開き角度に応じて撮影対象である開閉扉の内側及び物品収納室内にそれぞれ適切にアングル調整されるようになっている。
【0015】カメラ12及び14は、A/D変換装置20を介してメモリ22に接続されている。また、各々のカメラ12、14は、CPU28に接続され、CPU28からの所定タイミングでの作動信号によりシャッターを切る。A/D変換器20は、カメラ12、14にて撮影した画像のアナログ情報をデジタル情報に変換しメモリ22に送るものである。メモリ22は、D/A変換器24を介してディスプレイ26に接続されている。本実施例では、ディスプレイ26として液晶ディスプレイが用いられている。
【0016】更に、メモリ22にはCPU28が接続され、CPU28には開閉扉の回動角を検出する角度センサ30、冷蔵庫利用者がカメラ12、14にて撮影した画像を液晶ディスプレイ26に表示させることを指示するための操作部32、タイマー34及びアングル調整機構16、18が接続されている。次に、本実施例の機械的構成の一例について説明する。
【0017】図2は、冷蔵庫10の開閉扉40を開放した状態の正面から見た図が示されている。図示のように、収納室用カメラ12は開閉扉40の揺動端部側の上部位置に収納設置されており、受光部12aの方向は図示していないアングル調整機構16によって自動調整される。なお、アングル調整機構16は、小型モータ等を用いた機械的構成を有しており、公知の技術を用いている。アングル調整機構18も同様であり、後述のようにCPU28によって制御される。一方、物品収納室42には開閉扉40の回動軸の設置された辺とは反対側の側辺近傍の上部位置に、開閉扉用カメラ14が収納設置され、その受光部14aは図示していないアングル調整機構18によって開閉扉40の回動角に基づき適切な方向に自動的に調整される。
【0018】図3(A)及び(B)は、各カメラ12及び14の撮影方向を説明するための説明図であり、同図(A)は上下方向角度、同図(B)は水平方向角度を示している。図示のように、収納室用カメラ12及び開閉扉用カメラ14は、各被写体を上方から見下す角度で撮影を行う。これは、冷蔵庫の利用者が開閉扉40を開放して冷蔵庫内を覗き込む角度とほぼ同様の方向であり、それぞれ収納室内及び開閉扉内側全体を撮影できる角度とされている。
【0019】それぞれの被写体全体を適切に撮影するために、カメラのアングルは上下方向、左右方向共に、開閉扉40の開放角に応じて調整する必要があり、アングル調整機構16、18がそれぞれのカメラ12、14を角度調整する。開閉扉40の開放角を検出するための角度センサ30は、同図(B)にて示したように開閉扉40の回動軸部分に取り付けられ、開閉扉40の回動角に応じた電気信号を出力する。」

「【0021】以下、上記構成の実施例の具体的動作について説明する。まず、利用者が開閉扉40を開閉動作した時に収納室用カメラ12及び開閉扉用カメラ14がそれぞれ被写体の撮影を行う。このときCPU28は、角度センサ30からの信号により、開閉扉40の開き角に対応した適切なカメラアングルを演算或いは選択し、カメラの受光部12a、14aの上下左右の角度調整を行わせている。
【0022】そして、撮影時点の決定及び撮影動作制御もCPU28によって行われる。例えば、角度センサ30からの信号並びにタイマー34からの経時信号により、開閉扉40が開放方向に動作されていることが判断される。そして、逆に開放角度の減少を角度センサ30及びタイマー34からの信号に基づいて判断すると、閉じる動作の開始後所定のタイミングでシャッター動作信号をカメラ12及び14に送る。これに基づきカメラ12及び14はそれぞれ撮影を行う。この時、開閉扉40の角度位置は毎回異なるが、その範囲は一定の距離範囲に限られているので、特に焦点合せをすることなく鮮明な画像を撮影することができる。但し、各カメラ12、14に自動フォーカス装置を設け、距離に応じた微妙なフォーカス調整を行うようにしても良い。こうして撮影した画像情報は、A/D変換器によって信号変換されメモリ22に格納される。
【0023】利用者は、冷蔵庫10の外方から操作部32の操作を行って、冷蔵庫内部状況の画像表示を要求することができる。すなわち、開閉扉40を開けることなく内部状況画像表示を行わせることができる。本実施例では、操作部32には収納室42内の画像表示か、開閉扉40の内側の画像表示かを選択するためのそれぞれの収納室内キー32a、扉キー32bが設けられている。利用者は、いずれかのキーを押すことによって希望する側の画像表示を要求することができる。」

「【0028】なお、本発明は上記実施例の構成に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、上記実施例では、カメラによる撮影時点を開閉扉40の閉じる動作開始後所定のタイミングとしたが、より単純に所定の角度位置に開閉扉がきたときにシャッターを切るように角度位置のみで制御することも可能である。また、上記実施例では冷蔵室側のみにカメラを設けた例を示したが、一般に冷蔵室上部に設けられる冷凍庫にもこのようなシステムを応用することが可能である。
【0029】更に、カメラによる撮影は、静止画の撮影に限られず、ビデオカメラによる動画撮影とすることもできる。その場合、シャッタータイミングの細かい制御は不要である。即ち、扉の開放動作開始から利用者の物品の出し入れ動作を含む扉閉塞までの全動作を撮影し、これを画像表示することも可能である。この場合、操作部32に静止画キーを設け、所望の時点で画像を静止させることによって、上記静止画の撮影の場合と同様の静止画表示とすることもできる。
【0030】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る内部状態表示装置付冷蔵庫によれば、冷蔵庫内部の状況を冷蔵庫の開閉扉を開放することなく冷蔵庫外方から視覚的に認識することができる。これにより、冷蔵庫の扉の開閉動作の頻度を減少させ、かつ食品等の出入れ動作時間の短縮化を図ることができ、トータル的に冷蔵庫の開閉扉が開いている時間を大きく減少させることができる。従って、冷蔵庫の冷却効果の効率並びに省電力化が達成される。」

(イ)上記(ア)及び図面の記載から認められる事項
上記(ア)及び図面の記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 上記(ア)の請求項1ないし3、段落【0009】、【0012】、【0014】及び【0017】並びに図2及び3の記載によれば、引用文献1には、物品収納室の物品出し入れ口を開閉する開閉扉に、前記物品収納室内を撮影する収納室用カメラを備えた冷蔵庫が示されている。

b 上記(ア)の請求項1、段落【0017】並びに図2及び3の記載によれば、開閉扉は物品収納室の一方の側辺部を支点として回動可能に取り付けられている。

c 上記(ア)の請求項2、段落【0012】、【0014】、【0017】並びに図2及び3の記載によれば、収納室用カメラは、開閉扉の揺動端部側の上部位置に収納配置されている。

d 上記(ア)の請求項1、段落【0010】、【0014】、【0017】、【0019】及び【0021】並びに図1及び3の記載(特に、段落【0010】の記載)によれば、収納室用カメラは、当該収納室用カメラの撮影アングルがアングル調整部により常に撮影対象に適切に向くようにアングル調整されている。

e 上記(ア)の請求項3、段落【0013】、【0022】及び【0028】並びに図1の記載によれば、収納室用カメラは、開閉扉が閉じる動作の開始後所定のタイミング又は所定の角度位置に前記開閉扉がきたときに撮影するものである。

(ウ)引用発明
上記(ア)及び(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「物品収納室の物品出し入れ口を開閉する開閉扉に、前記物品収納室内を撮影する収納室用カメラを備え、
前記開閉扉は前記物品収納室の一方の側辺部を支点として回動可能に取り付けられ、
前記収納室用カメラは、前記開閉扉の揺動端部側の上部位置に収納配置されており、当該収納室用カメラの撮影アングルがアングル調整部により常に撮影対象に適切に向くようにアングル調整されており、前記開閉扉が閉じる動作の開始後所定のタイミング又は所定の角度位置に前記開閉扉がきたときに撮影する、
冷蔵庫。」

(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
ア 後者の「物品収納室」は、前者の「貯蔵室」に相当し、以下同様に、「物品出し入れ口」は「前面開口部」に、「開閉扉」は「扉」に、「収納室用カメラ」は「カメラ」に、「冷蔵庫」は「冷蔵庫」に、それぞれ相当する。

イ 後者の「物品収納室の一方の側辺部」は、回動軸が設けられるものであり(引用文献1の段落【0017】)、前者の「ヒンジ部」に相当する。
そして、後者の「前記開閉扉は前記物品収納室の一方の側辺部を支点として回動可能に取り付けられ」る態様は、前者の「前記扉はヒンジ部を支点に回動が可能であり」という態様に相当する。

ウ 後者の「前記収納室用カメラは、前記開閉扉の揺動端部側の上部位置に収納配置されており」という態様は、上記イの検討を踏まえると、開閉扉の揺動端部側は、ヒンジ部側とは反対の反ヒンジ部側といえるから、前者の「前記カメラは、前記扉にあって前記ヒンジ部側とは反対の反ヒンジ部側に位置し」という態様に相当する。

エ 後者の「前記収納室用カメラ」は、「当該収納室用カメラの撮影アングルがアングル調整部により常に撮影対象に適切に向くようにアングル調整され」る態様は、収納室用カメラの光軸(一般に「光学系においてレンズ・反射鏡などの中心を結ぶ直線」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]であって、引用文献1の図3(B)においては、2点鎖線で示された収納室用カメラの撮影範囲を等分する中心線として理解できる。)が、常に開閉扉の内面に対して傾斜した状態になるから、前者の「前記カメラ」は、「当該カメラの光軸が前記扉の内面に対して傾斜する状態で取り付けられ」る態様に相当する。

オ 後者の「前記開閉扉が閉じる動作の開始後所定のタイミング又は所定の角度位置に前記開閉扉がきたときに撮影する」態様は、前者の「前記扉が開放される際又は前記扉が閉鎖される際に、所定の開放角度ごと又は所定時間ごとに複数回撮影する」態様に、「前記扉が開放される際又は前記扉が閉鎖される際に、撮影する」という限りにおいて一致する。

以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「貯蔵室の前面開口部を開閉する扉に、前記貯蔵室内を撮影するカメラを備え、
前記扉はヒンジ部を支点に回動が可能であり、
前記カメラは、前記扉にあって前記ヒンジ部側とは反対の反ヒンジ部側に位置し、当該カメラの光軸が前記扉の内面に対して傾斜する状態で取り付けられ、前記扉が開放される際又は前記扉が閉鎖される際に、撮影する、
冷蔵庫。」

[相違点1]
本件補正発明は、「前記カメラ」が「前記扉が開放される際又は前記扉が閉鎖される際に、所定の開放角度ごと又は所定時間ごとに複数回撮影する」のに対し、引用発明は、「前記収納室用カメラ」が「前記開閉扉が閉じる動作の開始後所定のタイミング又は所定の角度位置に前記開閉扉がきたときに撮影する」ものであり、所定の開放角度ごと又は所定時間ごとに複数回撮影するものではない点(以下「相違点1」という。)。

[相違点2]
本件補正発明は、「前記カメラ」が「前記扉から突出して」いるのに対して、引用発明は、「前記収納室用カメラ」が「前記開閉扉」から突出しているか不明である点(以下「相違点2」という。)。

(4)判断
ア 相違点1について
冷蔵庫の扉に貯蔵室内を撮影するカメラを備え、前記扉が開放される際又は前記扉が閉鎖される際に異なる角度で複数回撮影することは、本願の出願前に周知技術(必要であれば、特開2000-244906号公報(特に、請求項1、段落【0001】及び【0032】並びに図1及び2)及び米国特許出願公開第2003/0164754号明細書(特に、段落[0017]、[0025]及び[0026]並びに図1ないし4d)を参照。)である。
そして、周知技術は、異なる撮像範囲(受像範囲)で複数回撮影することで、カメラの撮影範囲を向上させることを可能とするものであるところ(特開2000-244906号公報の段落【0032】)、引用発明の冷蔵庫においても、収納室用カメラの撮影範囲を向上することは内在する課題である(現に、引用文献1の段落【0029】には、動画撮影により扉の開放動作開始から利用者の物品の出し入れ動作を含む扉閉塞までの全動作を撮影する例が示されている。)から、引用発明に周知技術を適用して、開閉扉が開放される際又は開閉扉が閉鎖される際に、所定の開放角度ごとに複数回撮影するようにし、上記相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

なお、請求人は平成31年1月10日提出の上申書において、相違点に係る本件補正発明の構成について、「所定の開放角度ごと又は所定時間ごとに複数回撮影する」を「所定時間ごとに複数回撮影する」に補正する案を提示しているが、引用発明において、「所定の角度位置に前記開閉扉がきたとき」という角度の条件のほか、「開閉扉が閉じる動作の開始後所定のタイミング」という条件で撮影するものでもあるから、時間の条件を考慮して、開閉扉が開放される際又は開閉扉が閉鎖される際に、所定時間ごとに複数回撮影することは、当業者が適宜なし得たことである(必要であれば、広い範囲を撮影するのに、カメラの撮影範囲を移動(カメラを走査駆動)して異なる撮像範囲の撮影(分割撮影)を所定時間ごとに複数回撮影することが特開平11-225291号公報(特に、段落【0001】、【0009】及び【0010】)に記載があるので参照のこと。)。

イ 相違点2について
引用発明において、収納室用カメラの撮影範囲が開閉扉や収納物等によって妨げられないようにする必要があることは、当業者であれば技術常識として理解することであって、収納室用カメラの撮影範囲が妨げられないように、収納室用カメラを開閉扉から突出させて、相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項と認められる。

ウ 効果について
そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ まとめ
したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成30年6月14日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の一部は、以下のとおりである。
(1)理由2(進歩性)
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開平8-49958号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記扉が開放される際又は前記扉が閉鎖される際に、所定の開放角度ごと又は所定時間ごとに複数回撮影する」という発明特定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比した場合の相違点は、前記第2の[理由]2(3)で挙げた相違点2のみとなるから、前記第2の[理由]2(4)の検討を踏まえれば、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-08-29 
結審通知日 2019-09-03 
審決日 2019-09-17 
出願番号 特願2014-149737(P2014-149737)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F25D)
P 1 8・ 121- Z (F25D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石黒 雄一  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 槙原 進
大屋 静男
発明の名称 冷蔵庫  
代理人 特許業務法人 サトー国際特許事務所  

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