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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02D
管理番号 1356675
審判番号 不服2018-16335  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-06 
確定日 2019-11-26 
事件の表示 特願2014-221345「ユニフロー掃気式2サイクルエンジン」拒絶査定不服審判事件〔平成28年5月23日出願公開、特開2016-89642、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年10月30日の出願であって、平成30年4月23日付け(発送日:同年5月1日)で拒絶の理由が通知され、同年6月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月18日付け(発送日:同年9月25日)で拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対して同年12月6日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

(進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

請求項1に対して:引用文献1及び2
請求項2に対して:引用文献1ないし5

引用文献等一覧
1.特公平2-26700号公報
2.特開2006-183482号公報
3.特開2014-20375号公報
4.特開2013-40578号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2013-7320号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成30年12月6日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定された、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ピストンが往復動するシリンダの一端側に排気ポートが形成されるとともに、該シリンダの他端側に掃気ポートが形成され、低圧縮比モードと、該低圧縮比モードよりも該ピストンの上死点および下死点が該排気ポート側に位置する高圧縮比モードとの少なくとも2つの運転モードに切り替えられるユニフロー掃気式2サイクルエンジンであって、
前記低圧縮比モードのとき、掃気ガスに気体燃料を噴射する第1燃料供給部と、
前記高圧縮比モードのとき、前記第1燃料供給部よりも、前記シリンダの一端側において、該シリンダ内に液体燃料を噴射する第2燃料供給部と、
を備え、
前記掃気ポートは、
前記シリンダの外部から内部に向けて、該シリンダの径方向に対して傾斜した方向に掃気ガスを導くスワールガイド部と、
前記スワールガイド部よりも前記シリンダの他端側に設けられ、該スワールガイド部よりも、前記掃気ガスを該シリンダの中心側に向けて導く中心ガイド部と、
を備え、
前記高圧縮比モード時に前記ピストンが下死点にある場合には、前記スワールガイド部が該ピストンと非対向となり、前記中心ガイド部の少なくとも一部が該ピストンに対向するとともに、前記低圧縮比モード時に該ピストンが下死点にある場合には、該中心ガイド部と該ピストンとが非対向となるか、もしくは、該高圧縮比モード時よりも該ピストンと対向する面積が小さくなることを特徴とするユニフロー掃気式2サイクルエンジン。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された特公平2-26700号公報(以下「引用文献1」という。)には、「シリンダライナ」に関して、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付与した。以下同様。)。

(1)「本発明はユニフロー掃気式2サイクルディーゼル機関のシリンダライナに関する。
第1図はシリンダライナの掃気、排気の方式を示し、Aはユニフロー掃気式、Bはループ掃気式、Cはクロス掃気式を示す。第2図はシリンダライナの1例を示す軸線方向の断面図、第3図は従来の掃気ポートの形状を示す断面図である。
舶用ディーゼル機関のユニフロー形機関のシリンダライナの下部に設けられた掃気ポート形状に関して、スワール効果を大ならしむるため、第3図に示すような上部と下部で異った角度の流入角を与えるスキュードポートアレンジが提案されている。
この場合は、流入角がすべて同一のとき、第1図Aに示す様に、燃焼後の排気ガスが、シリンダライナ壁面やシリンダライナ中心部に残留し、掃気効率が低くなる。そこで、かかる従来のものは、異った角度の流入角を与え、シリンダライナ壁面や中心部へも掃気を吹き込み、残留する排気ガスを押し出し、掃気効率を上げている。
第3図及び第4図に示すような従来のスキュードポートにおいて、ポート3を構成する各円形ポートの内径dを上部、中部、下部で同一にした場合(d_(1)=d_(2)=d_(3))には、ポート3出口の開口巾aがa_(1)<a_(2)<a_(3)と違ってくる。特に流入スワール角θ_(3)が大きい上部ではシリンダライナ1の内面の残り肉厚(以下リブと称する)4の巾b3が狭くなり、またポート3の開口巾出口a_(3)が広いため、ピストンリングがポート3の開口巾を通過する際、ポート内部へはみ出し、ピストンリングの摺動性能や折損に対する強度面で不利となる。また、場合によっては、リブ4の断面積が減少するため強度低下の問題がある。」(第1欄第14行ないし第2欄第22行)

(2)「本発明の目的は上記欠点を排除し、ポートアレンジの加工形状を最も効率のよい形状とすることであり、その特徴とするところは、掃気ポートをスキュードポートに形成したユニフロー掃気式2サイクルディーゼル機関のシリンダライナにおいて、上記掃気ポートは、複数段の円形ポートをシリンダライナの上部側のポートのスワール角がそれよりも下部のスワール角よりも大きくなるように、該シリンダライナの軸線方向に連設して形成されるとともに、各円形ポートのシリンダライナ内周側開口部の円周方向幅が等しく、かつ上記各開口部の中心線がシリンダライナの軸心線に平行に形成されたことである。」(第2欄第23行ないし第3欄第11行)

(3)「第5図は本発明による1実施例のポート形状の上、中、下部の断面図を示し、第6図はポートのシリンダライナ内面及び外面形状を示す。
図において、ポート3の内周面への開口巾aを上部巾a_(3)、中部巾a_(2)、下部巾a_(1)とするとき、ポート3の内径dをスワール角θ_(1),θ_(2),θ_(3)の大きさに反比例してd_(1)>d_(2)>d_(3)と小さくするようにして、ポート3の開口巾aをa_(1)=a_(2)=a_(3)にすると共に、特に上部ポートにおいてリブ4の巾を広くするものである。ここで開口巾aは、ピストンリングの摺動性能や折損に対する強度面で不利とならぬ範囲で、必要なポート面積も確保する為、同一巾とする。また、第6図に示すように、ポート3のシリンダライナ内面への開口部の中心線はシリンダライナの軸線と平行になるように構成する。」(第3欄第19行ないし第34行)

(4)第1図(A)の図示内容から、シリンダライナ1の一端側に排気ポートが形成され、他端側にポート3(掃気ポート)が形成されていることが看取できる。

上記記載事項及び認定事項並びに図面の図示内容からみて、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

〔引用発明〕
「ピストンが往復動するシリンダライナ1の一端側に排気ポートが形成されるとともに、該シリンダライナ1の他端側に掃気ポートが形成されるユニフロー掃気式2サイクルデイーゼル機関であって、
前記掃気ポートは、
複数段の円形ポートをシリンダライナ1の上部側のポートのスワール角がそれよりも下部のスワール角よりも大きくなるように、該シリンダライナ1の軸線方向に連設して形成されたユニフロー掃気式2サイクルデイーゼル機関。」

2 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-183482号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面(特に、図1ないし4を参照。)とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0007】
図1は、本発明に係るユニフロー型の2ストローク内燃機関の概略構成を模式的に示している。シリンダブロック1とシリンダヘッド2により大略構成されたエンジン本体内には、複数のシリンダ3が直列に形成されている。これらのシリンダ3内には、それぞれピストン4が摺動可能に配置されている。
【0008】
シリンダヘッド2には、排気弁5によって開閉される排気ポート6が各シリンダ3毎に形成されている。シリンダブロック1には、ピストン4によって開閉される掃気ポート7が、各シリンダ3毎に形成されている。掃気ポート7に接続された吸気系としての吸気通路8には、吸気コレクタ9が介装されていると共に、吸気コレクタ9の上流側に過給機10が配置されている。」

(2)「【0017】
図3は、上述した複リンク式ピストン-クランク機構61により、機関圧縮比を高くした場合(高ε)と、機関圧縮比を低くした場合(低ε)と、のピストンストロークを対比したものである。図3から明らかなように、機関圧縮比を変化させることにより、ピストン下死点におけるピストン最下点位置が変化する。そのため、機関圧縮比を変化させることにより、図4に示すように掃気ポート7の開口高さが変化する。また、図3に示したピストンストローク特性から、機関圧縮比の変化に伴い掃気ポート7の開口期間も変化することになる。すなわち、複リンク式ピストン-クランク機構61によりピストン下死点位置を高くすることで機関圧縮比を高圧縮比側に変化させると、図4(a)に示すように掃気ポート7の開口高さは小さくなり、かつ掃気ポート7の開口期間は短くなる。一方、ピストン下死点位置を低くすることで機関圧縮比を低圧縮比側に変化させると、図4(b)に示すように掃気ポート7の開口高さは大きくなり、かつ掃気ポート7の開口期間は長くなる。」

上記記載事項及び図面の図示内容からみて、引用文献2には次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献2記載事項〕
「ピストン4が往復動するシリンダ3の一端側に排気ポート6が形成されるとともに、該シリンダ3の他端側に掃気ポート7が形成され、圧縮比を低くした場合と、該圧縮比を低くした場合よりも該ピストンの上死点および下死点が該排気ポート6側に位置する圧縮比を高くした場合とに変化させることができるユニフロー型の2ストローク内燃機関であって、
前記圧縮比を高くした場合には、前記掃気ポート7の開口高さは小さくなり、かつ開口期間は短くなり、前記圧縮比を低くした場合には、前記掃気ポート7の開口高さは大きくなり、かつ開口期間は長くなるユニフロー型の2ストローク内燃機関。」

3 引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用された特開2014-20375号公報(以下「引用文献3」という。)には、図面(特に、図1を参照)とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0021】
当該方法は、さらに、各クロスヘッドおよび/または各ピストンに、前記往復ピストン燃焼エンジンの圧縮比を制御する制御機器を提供するステップと、
異なる点火特性を有する異なる燃料品質が供給された場合、または燃料供給がディーゼル油からガスもしくはガスからディーゼル油に変化した場合、前記圧縮比を変化させるステップと、
を有する。」

(2)「【0027】
図1には、本発明による大型往復ピストン燃焼エンジン1の実施例を示す。エンジン1は、シリンダライナ4を備える少なくとも一つのシリンダと、シリンダライナ内に可動式に配置された少なくとも一つのピストン6と、クランクシャフトハウジングに回転可能に配置され、および/または保管されたクランクシャフト2とを有する。ピストン6は、何れの場合も、ピストンロッド7を介してクロスヘッド8に接続され、クロスヘッドは、何れの場合も、接続ロッド9を介してクランクシャフト2に接続され、クランクシャフトが駆動される。また、各クロスヘッド、各ピストン、またはその両方には、制御機器が提供され、往復ピストン燃焼エンジンの圧縮比が制御される。圧縮比を制御する制御機器の通常の実施例は、以下の図面を参照して以下に記載する。」

(3)「【0029】
また、大型往復ピストン燃焼エンジン1は、任意で、1または2以上の以下の部材を有しても良い:掃気空気の入口用のシリンダライナ4の下側部分の1または2以上の掃気開口5、燃料噴射のためシリンダカバーに配置された1または2以上の噴射ノズル12、排気ガスの放出を制御するための少なくとも一つの出口バルブ13、ならびに排気バルブの動作および/またはクランクシャフト位置に関連して圧縮比を制御する制御機器のタイミングを制御する電子制御ユニット25。」

(4)「【0034】
偏心クロスヘッドピン14は、ロック機構が解除されている場合、定められた角度内で自由に回転できる。ピストン6およびピストンロッド7を介して偏心クロスヘッドピンに作用するガス力およびマス力により、クロスヘッドピンは、図2Bに示すように、下死点(BDC)における低圧縮比位置まで回転する。従って、各周期の間の燃焼により、あるサイクルから次のサイクルにおいて、高圧縮比から低圧縮比への切り換えが可能になる。」

(5)上記(3)及び図1の図示内容から、シリンダの一端側に排気ポートが形成されているといえる。

上記記載事項及び認定事項並びに図面の図示内容からみて、引用文献3には次の事項(以下「引用文献3記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献3記載事項〕
「ピストン6が往復動するシリンダの一端側に排気ポートが形成されるとともに、該シリンダの他端側に掃気開口5が形成され、低圧縮比と、高圧縮比とに切り換えられる大型往復ピストン燃焼エンジン1であって、
異なる点火特性を有する異なる燃料品質が供給された場合、または燃料供給がディーゼル油からガスもしくはガスからディーゼル油に変化した場合、圧縮比を変化させる、大型往復ピストン燃焼エンジン1。」

4 引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用された特開2013-40578号公報(以下「引用文献4」という。)には、図面(特に、図1を参照)とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態における2サイクルエンジンの全体構成を示す図である。
本実施形態の2サイクルエンジンは、例えば船舶等に設けられる大型のユニフロー型2サイクルエンジンであり、燃料として、LNG(液化天然ガス)をガス化したガス燃料と、軽油や重油等(ディーゼル燃料)の液体燃料とを用いるデュアルフューエル(2元燃料)方式を採用している。」

(2)「【0015】
シリンダ2の上部(長さ方向一端側)には、第2燃料噴射ポート5(後述)及び排気ポート6が設けられている。排気ポート6は、ピストン3の上死点近傍であって、シリンダヘッド4aの頂部において開口している。排気ポート6は、排気弁7を有する。排気弁7は、排気弁駆動装置8によって所定のタイミングで上下動し、排気ポート6を開閉させる構成となっている。排気ポート6を介して排気された排気ガスは、例えば、不図示の排気主管を通って外部に排気される。」

(3)「【0019】
第1燃料噴射ポート13は、排気ポート6と掃気ポート9との間においてシリンダ2の内部(燃焼室)に、LNGをガス化したガス燃料を噴射する構成となっている。第1燃料噴射ポート13は、シリンダライナ4bの周方向に間隔をあけて複数設けられ、それぞれが第1燃料噴射弁13aを有する。第1燃料噴射弁13aは、制御装置15からの指令を受け、第1燃料噴射ポート13を開放あるいは閉塞させ、ガス燃料の噴射、噴射停止を行う構成となっている。
【0020】
第2燃料噴射ポート5は、シリンダ2の上部である上死点近傍においてシリンダ2の内部に、軽油や重油等の液体燃料(ディーゼル燃料)を噴射する構成となっている。第2燃料噴射ポート5は、シリンダヘッド4aに設けられ、第2燃料噴射弁5aを有する。第2燃料噴射弁5aは、制御装置15からの指令を受け、第2燃料噴射ポート5を開放あるいは閉塞させ、液体燃料の噴射、噴射停止を行う構成となっている。」

上記記載事項及び図面の図示内容からみて、引用文献4には次の事項(以下「引用文献4記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献4記載事項〕
「ピストン3が往復動するシリンダ2の一端側に排気ポート6が形成されるとともに、該シリンダの他端側に掃気ポート9が形成されるユニフロー型2サイクルエンジンであって、
掃気ガスにガス燃料を噴射する第1燃料噴射ポート13と、
前記第1燃料噴射ポート13よりも、前記シリンダの一端側において、該シリンダ内に液体燃料を噴射する第2燃料噴射ポート5とを備えるユニフロー型2サイクルエンジン。」

5 引用文献5
原査定の拒絶の理由に引用された特開2013-7320号公報(以下「引用文献5」という。)には、図面(特に、図1及び2を参照)とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0031】
図1は、一例としての、機関速度が250rpm以下の低速の2サイクルユニフローガスエンジンを示す。符号1は低速2サイクルガスエンジンのシリンダヘッド、2はシリンダライナ、3はシリンダライナ2の下部に周方向に複数個が配設されて掃気をシリンダライナ2内に導入する掃気ポート、4はシリンダ1の上部に設けられてシリンダライナ2内の燃焼ガスを図示しない排気レシーバに排気する排気弁、5はシリンダライナ1内を上下に摺動するピストンである。一例としてのこのエンジンでは、シリンダとシリンダライナ2とが一体構造で形成されている。」

(2)「【0033】
図2に示すように、主にメタンを主成分とする天然ガス等のガス燃料を主にシリンダライナ2内の中心部へ噴射するガス噴射弁20を、シリンダライナ2の中部ないし下部、かつ掃気ポート3よりも上方に、1シリンダにつき1個、又は必要により複数個を設ける。このガス噴射弁20には、通常運転時にガス噴射弁20へのガス燃料の供給停止及びその流量調節を行なう流量調節弁(開閉弁)24が一体に組み込まれている。」

(3)「【0036】
シリンダ1の上部に図示しないパイロット燃料噴射弁を備え、このパイロット燃料噴射弁からパイロットディーゼル燃料を噴射して、掃気と予混合されたガス燃料が着火される仕組みである。上述のエンジンコントローラ22が、排気弁4と、このパイロット燃料噴射弁の作動を制御する。」

上記記載事項及び図面の図示内容からみて、引用文献5には次の事項(以下「引用文献5記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献5記載事項〕
「ピストン1が往復動するシリンダライナ2の一端側に排気ポートが形成されるとともに、該シリンダライナ2の他端側に掃気ポート3が形成される2サイクルユニフローガスエンジンであって、
掃気ガスにガス燃料を噴射するガス噴射弁20と、
前記ガス噴射弁20よりも、前記シリンダライナ2の一端側において、該シリンダライナ2内にパイロットディーゼル燃料を噴射するパイロット燃料噴射弁と
を備える2サイクルユニフローガスエンジン。」

第5 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「シリンダライナ1」は、その機能、構成または技術的意義から見て、本願発明における「シリンダ」に相当し、同様に、「ユニフロー掃気式2サイクルデイーゼル機関」は、「ユニフロー掃気式2サイクルエンジン」に相当する。
引用発明における「前記掃気ポートは、複数段の円形ポートをシリンダライナの上部側のポートのスワール角がそれよりも下部のスワール角よりも大きくなるように、該シリンダライナの軸線方向に連設して形成された」に関して、「上部側のポート」は、本願発明における「シリンダの外部から内部に向けて、該シリンダの径方向に対して傾斜した方向に掃気ガスを導くスワールガイド部」に相当する。そして、「下部」のポートは、本願発明における「スワールガイド部よりも前記シリンダの他端側に設けられ、該スワールガイド部よりも、前記掃気ガスを該シリンダの中心側に向けて導く中心ガイド部」と、「スワールガイド部よりも前記シリンダの他端側に設けられ、該スワールガイド部よりも、前記掃気ガスを該シリンダの中心側に向けて導くガイド部」という限りにおいて一致している。
よって、引用発明における「前記掃気ポートは、複数段の円形ポートをシリンダライナの上部側のポートのスワール角がそれよりも下部のスワール角よりも大きくなるように、該シリンダライナの軸線方向に連設して形成された」と本願発明の「前記掃気ポートは、前記シリンダの外部から内部に向けて、該シリンダの径方向に対して傾斜した方向に掃気ガスを導くスワールガイド部と、前記スワールガイド部よりも前記シリンダの他端側に設けられ、該スワールガイド部よりも、前記掃気ガスを該シリンダの中心側に向けて導く中心ガイド部と、を備え」とは、「前記掃気ポートは、前記シリンダの外部から内部に向けて、該シリンダの径方向に対して傾斜した方向に掃気ガスを導くスワールガイド部と、前記スワールガイド部よりも前記シリンダの他端側に設けられ、該スワールガイド部よりも、前記掃気ガスを該シリンダの中心側に向けて導くガイド部と、を備え」という限りにおいて一致している。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
〔一致点〕
「ピストンが往復動するシリンダの一端側に排気ポートが形成されるとともに、該シリンダの他端側に掃気ポートが形成されるユニフロー掃気式2サイクルエンジンであって、
前記掃気ポートは、
前記シリンダの外部から内部に向けて、該シリンダの径方向に対して傾斜した方向に掃気ガスを導くスワールガイド部と、
前記スワールガイド部よりも前記シリンダの他端側に設けられ、該スワールガイド部よりも、前記掃気ガスを該シリンダの中心側に向けて導くガイド部と、
を備えるユニフロー掃気式2サイクルエンジン。」

〔相違点1〕
本願発明は「低圧縮比モードと、該低圧縮比モードよりも該ピストンの上死点および下死点が該排気ポート側に位置する高圧縮比モードとの少なくとも2つの運転モードに切り替えられる」ユニフロー掃気式2サイクルエンジンであって、「前記低圧縮比モードのとき、掃気ガスに気体燃料を噴射する第1燃料供給部と、前記高圧縮比モードのとき、前記第1燃料供給部よりも、前記シリンダの一端側において、該シリンダ内に液体燃料を噴射する第2燃料供給部」を備えるのに対して、引用発明はかかる事項を備えていない点。

〔相違点2〕
掃気ポートに関して、本願発明においては「前記シリンダの外部から内部に向けて、該シリンダの径方向に対して傾斜した方向に掃気ガスを導くスワールガイド部と、前記スワールガイド部よりも前記シリンダの他端側に設けられ、該スワールガイド部よりも、前記掃気ガスを該シリンダの中心側に向けて導く中心ガイド部と」を備えるものであるのに対して、引用発明においては「複数段の円形ポートをシリンダライナ1の上部側のポートのスワール角がそれよりも下部のスワール角よりも大きくなるように、該シリンダライナ1の軸線方向に連設して形成された」ものであって、「下部」のポートが「中心ガイド部」といえるかどうか不明な点。

〔相違点3〕
本願発明は「前記高圧縮比モード時に前記ピストンが下死点にある場合には、前記スワールガイド部が該ピストンと非対向となり、前記中心ガイド部の少なくとも一部が該ピストンに対向するとともに、前記低圧縮比モード時に該ピストンが下死点にある場合には、該中心ガイド部と該ピストンとが非対向となるか、もしくは、該高圧縮比モード時よりも該ピストンと対向する面積が小さくなる」ものであるのに対して、引用発明はかかる事項を備えていない点。

上記相違点1について検討する。
引用文献2記載事項は
「ピストン4が往復動するシリンダ3の一端側に排気ポート6が形成されるとともに、該シリンダ3の他端側に掃気ポート7が形成され、圧縮比を低くした場合と、該圧縮比を低くした場合よりも該ピストンの上死点および下死点が該排気ポート6側に位置する圧縮比を高くした場合とに変化させることができるユニフロー型の2ストローク内燃機関であって、
前記圧縮比を高くした場合には、前記掃気ポート7の開口高さは小さくなり、かつ開口期間は短くなり、前記圧縮比を低くした場合には、前記掃気ポート7の開口高さは大きくなり、かつ開口期間は長くなるユニフロー型の2ストローク内燃機関。」というものである。
引用文献3記載事項は
「ピストン6が往復動するシリンダの一端側に排気ポートが形成されるとともに、該シリンダの他端側に掃気開口5が形成され、低圧縮比と、高圧縮比とに切り換えられる大型往復ピストン燃焼エンジンであって、
異なる点火特性を有する異なる燃料品質が供給された場合、または燃料供給がディーゼル油からガスもしくはガスからディーゼル油に変化した場合、圧縮比を変化させる、大型往復ピストン燃焼エンジン。」というものである。
引用文献4記載事項は
「ピストン3が往復動するシリンダ2の一端側に排気ポート6が形成されるとともに、該シリンダの他端側に掃気ポート9が形成されるユニフロー型2サイクルエンジンであって、
掃気ガスにガス燃料を噴射する第1燃料噴射ポート13と、
前記第1燃料噴射ポート13よりも、前記シリンダの一端側において、該シリンダ内に液体燃料を噴射する第2燃料噴射ポート5とを備えるユニフロー型2サイクルエンジン。」というものである。
引用文献5記載事項は
「ピストン1が往復動するシリンダライナ2の一端側に排気ポートが形成されるとともに、該シリンダライナ2の他端側に掃気ポート3が形成される2サイクルユニフローガスエンジンであって、
掃気ガスにガス燃料を噴射するガス噴射弁20と、
前記ガス噴射弁20よりも、前記シリンダライナ2の一端側において、該シリンダライナ2内にパイロットディーゼル燃料を噴射するパイロット燃料噴射弁と
を備える2サイクルユニフローガスエンジン。」というものである。
引用文献2記載事項ないし引用文献5記載事項はいずれも、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項、特に「前記低圧縮比モードのとき、掃気ガスに気体燃料を噴射する第1燃料供給部と、前記高圧縮比モードのとき、前記第1燃料供給部よりも、前記シリンダの一端側において、該シリンダ内に液体燃料を噴射する第2燃料供給部」を開示ないし示唆するものではない。
また、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、本願の出願時において周知の技術でもない。
そうすると、引用発明に、引用文献2記載事項ないし引用文献5記載事項を参酌しても、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることはできない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載事項ないし引用文献5記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

したがって、本願発明は、原査定の引用文献1ないし5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-11-11 
出願番号 特願2014-221345(P2014-221345)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 戸田 耕太郎  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 水野 治彦
鈴木 充
発明の名称 ユニフロー掃気式2サイクルエンジン  
代理人 特許業務法人青海特許事務所  

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