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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
管理番号 1356724
審判番号 不服2017-2735  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-24 
確定日 2019-11-05 
事件の表示 特願2013-554043「可変状況で作動するアセンブリ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月23日国際公開、WO2012/110979、平成26年 3月 6日国内公表、特表2014-506113〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2012年2月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理:2011年2月16日、仏国)を国際出願日とする出願であって、平成28年10月24日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成28年10月26日)、これに対し、平成29年2月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、当審により平成29年12月21日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成30年1月4日)、これに対し、平成30年4月2日付で意見書及び手続補正書が提出され、当審により平成30年7月31日付で最後の拒絶の理由が通知され(発送日:平成30年8月6日)、これに対し、平成31年2月6日付で意見書及び手続補正書が提出されたものである。


2.平成31年2月6日付の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年2月6日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由I]
(1)補正の内容
本件補正前の特許請求の範囲は、以下のとおりである。
「【請求項1】
可変の速度、可変の電力、又は可変の力率で作動する電気機械アセンブリであって、
励磁機(11)によって又はスリップリングとブラシによる直接励磁によって供給電圧(V_(f))を通じたDC電流が供給される巻線回転子(15)を有し、かつ出力電圧(U_(S))を送出する1MWよりも大きいか又はそれに等しい電力の同期交流発電機(10)と、
機械シャフトによって受け取る風力を電気エネルギに変換し、ネットワーク(9)に供給するための、前記交流発電機の前記出力電圧(US)を整流するための整流器(21)を含むコンバータ(20)と、
前記交流発電機の前記出力電圧(U_(S))と基準電圧(U_(s eff ref))の間の差を最小にするために、前記供給電圧(V_(f))に作用するように構成された電圧調整器(18)であって、前記基準電圧(U_(s eff ref))は、渦電流による損失やヒステリシスによる損失からなる鉄損、前記回転子でのジュール効果を通じた損失、固定子でのジュール効果を通じた損失、に含まれる損失のうちの少なくとも1つを最小にするように計算されるものである、電圧調整器(18)と、
を含み、
前記巻線回転子に給電する前記供給電圧(V_(f))は、前記電圧調整器(18)により前記交流発電機の前記出力電圧(U_(S))に追従し、前記交流発電機の前記出力電圧(U_(S))を回転速度(回転毎分での)の関数として与える曲線が、該回転速度が公称速度に達した時に不連続を示すものである
ことを特徴とするアセンブリ。
【請求項2】
前記基準電圧(U_(s eff ref))は、前記速度、前記電力、前記力率、前記機械の熱状態のうちの少なくとも1つに依存することを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項3】
前記基準電圧(U_(s eff ref))は、アセンブリの前記作動中に実時間で計算されることを特徴とする請求項1から請求項2のいずれか1項に記載のアセンブリ。
【請求項4】
前記交流発電機は、調整された電圧(V_(r))でDC電流が供給されている励磁機(11)を含み、必要な励磁を該励磁機(11)内に発生させることを可能にする前記調整された電圧(V_(r))が、該交流発電機(10)によって供給される出力電圧(U_(s eff))に追従することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のアセンブリ。
【請求項5】
前記巻線回転子(15)に給電するための少なくとも1つのスリップリングと1つのブラシとを含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のアセンブリ。
【請求項6】
前記整流器(21)の出力電流が、DCバス(22)に給電することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のアセンブリ。
【請求項7】
一定のバス電圧を維持するように前記整流器(21)を制御するための調整器(25)を含むことを特徴とする請求項6に記載のアセンブリ。
【請求項8】
発電機であって、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のもののようなアセンブリ、
を構成するものであることを特徴とする発電機。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のアセンブリを用いて機械エネルギを電気エネルギに変換する方法であって、
巻線回転子(15)を有する同期交流発電機(10)の回転子が、該交流発電機の出力電圧(U_(S))に追従する供給電圧(V_(f))でDC電流を供給される、
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記交流発電機の前記出力電圧(U_(S))は、パルス幅変調型整流器を用いて整流されることを特徴とする請求項9に記載の方法。」

本件補正により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。
「【請求項1】
可変の速度、可変の電力、又は可変の力率で作動する風力タービンであって、
マストと、
前記マストの上部に固定されたナセルと、
風によって回転するように駆動される、前記ナセルに固定されたブレード(2)と、
風力エネルギを受け取る機械シャフト(6)と、
前記機械シャフト(6)の速度を増大させる増倍器(5)と、を含み、
前記ナセルは、
励磁機(11)によって又はスリップリングとブラシによる直接励磁によって供給電圧(V_(f))を通じたDC電流が供給される巻線回転子(15)を有し、かつ出力電圧(U_(S))を送出する1MWよりも大きいか又はそれに等しい電力の同期交流発電機(10)と、
前記交流発電機の前記出力電圧(U_(S))を整流するための整流器(21)を含むコンバータ(20)であって、前記交流発電機及び前記コンバータは、前記機械シャフトによって受け取られた前記風力エネルギを電気エネルギに変換し、ネットワーク(9)に供給するためのものであるコンバータ(20)と、
前記交流発電機の前記出力電圧(U_(S))と基準電圧(U_(s eff ref))の間の差を最小にするために、前記供給電圧(V_(f))に作用するように構成された電圧調整器(18)であって、前記基準電圧(U_(s eff ref))は、渦電流による損失やヒステリシスによる損失からなる鉄損、前記回転子でのジュール効果を通じた損失、固定子でのジュール効果を通じた損失、に含まれる損失のうちの少なくとも1つを最小にするように、前記タービンの作動の前に前記電力及び前記タービンの前記速度の関数として計算されるものである、電圧調整器(18)と、
を含み、
前記巻線回転子に給電する前記供給電圧(V_(f))は、前記電圧調整器(18)により前記交流発電機の前記出力電圧(U_(S))に追従し、前記交流発電機の前記出力電圧(U_(S))を回転速度(回転毎分での)の関数として与える曲線が、該回転速度が公称速度に達した時に低下を示すものである
ことを特徴とする風力タービン。
【請求項2】
前記基準電圧(U_(s eff ref))は、アセンブリの前記作動中に実時間で計算されることを特徴とする請求項1に記載のタービン。
【請求項3】
前記交流発電機は、調整された電圧(V_(r))でDC電流が供給されている励磁機(11)を含み、必要な励磁を該励磁機(11)内に発生させることを可能にする前記調整された電圧(V_(r))が、該交流発電機(10)によって供給される出力電圧(U_(s eff))に追従することを特徴とする請求項1から請求項2のいずれか1項に記載のタービン。
【請求項4】
前記整流器(21)の出力電流が、DCバス(22)に給電することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のタービン。
【請求項5】
一定のバス電圧を維持するように前記整流器(21)を制御するための調整器(25)を含むことを特徴とする請求項4に記載のタービン。
【請求項6】
発電機であって、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のもののようなタービン、
を構成するものであることを特徴とする発電機。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のタービンを用いて機械エネルギを電気エネルギに変換する方法であって、
巻線回転子(15)を有する同期交流発電機(10)の回転子が、該交流発電機の出力電圧(U_(S))に追従する供給電圧(V_(f))でDC電流を供給される、
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
前記交流発電機の前記出力電圧(U_(S))は、パルス幅変調型整流器を用いて整流されることを特徴とする請求項7に記載の方法。」


(2)目的要件
本件補正が、特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」は、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られる。また、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。
請求人は、平成31年2月6日付意見書において、本件補正で請求項2、5を削除した旨主張しており、本件補正前の請求項数は10で本件補正後の請求項数は8であるから、本件補正後の請求項1は本件補正前の請求項1に対応するものとして検討する。

(2-1)本件補正前の請求項1は、発明の対象が、可変の速度、可変の電力、又は可変の力率で作動する電気機械アセンブリであり、電気機械とは、回転電機と変圧器のことであり、アセンブリとは、組立て部品のことである。一方、本件補正後の請求項1は、可変の速度、可変の電力、又は可変の力率で作動する風力タービンであって、マストと、前記マストの上部に固定されたナセルと、風によって回転するように駆動される、前記ナセルに固定されたブレード(2)と、風力エネルギを受け取る機械シャフト(6)と、前記機械シャフト(6)の速度を増大させる増倍器(5)と、を含んだものとなっており、タービンとは、流体を動翼列にあてて流体の運動エネルギーを回転運動に変え回転動力を得る原動機のことである。
そうすると、本件補正前の請求項1の、電気機械アセンブリの構成をどの様に限定しても、本件補正後の請求項1の、風力タービンとはならないから、本件補正は、特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものには該当せず、特許法第17条の2第5項2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものには該当しない。

(2-2)本件補正前の請求項1には、「前記交流発電機の前記出力電圧(U_(S))を回転速度(回転毎分での)の関数として与える曲線が、該回転速度が公称速度に達した時に不連続を示すものである」とあったものが、本件補正後の請求項1には、「前記交流発電機の前記出力電圧(U_(S))を回転速度(回転毎分での)の関数として与える曲線が、該回転速度が公称速度に達した時に低下を示すものである」となっている。不連続とは、連続しないことであって、本願では、曲線が急激に変化することであり、低下とは、低くなることである。
そうすると、本件補正前の請求項1は、公称速度に達した時の曲線の変化が急激な不連続であったものが、本件補正後の請求項1は、公称速度に達した時の曲線の変化が低下すれば変化の程度はいくらでも良いこととなるから、本件補正は、特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものには該当せず、特許法第17条の2第5項2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものには該当しない。
更に、本件補正前の請求項1は、曲線が不連続を示すのは、図17において、曲線Vが曲線Aに向かって変化する1500rpm付近の箇所(平成30年4月2日付意見書図面参照)であったものが、本件補正後の請求項1は、曲線が低下を示すのは、図17において、2000rpm付近の電圧が低下する箇所となる。
そうすると、本件補正前後の請求項1で、曲線の変化を示す位置が異なることとなるから、本件補正は、特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものには該当せず、特許法第17条の2第5項2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものには該当しない。

(2-3)したがって、請求項1についての本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正とは認められない。
また、請求項1についての本件補正が、請求項の削除、誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明を目的としたものでないことも明らかである。


(3)したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


[理由II]
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるが、仮に本件補正後の請求項1-8についての本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の請求項1-8に記載されたものが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)特許法第36条第4項、第6項について
(1-1)請求項1には、「前記基準電圧(U_(s eff ref))は、渦電流による損失やヒステリシスによる損失からなる鉄損、前記回転子でのジュール効果を通じた損失、固定子でのジュール効果を通じた損失、に含まれる損失のうちの少なくとも1つを最小にするように、前記タービンの作動の前に前記電力及び前記タービンの前記速度の関数として計算されるものである」とあり、作動前に基準電圧(U_(s eff ref))を計算しているが、請求項1を引用する請求項2には、「前記基準電圧(U_(s eff ref))は、アセンブリ(審決注:特許請求の範囲の他の記載から判断して「タービン」の誤記と認める。)の前記作動中に実時間で計算される」とあり、作動中に基準電圧(U_(s eff ref))を計算しているので、請求項2記載のタービンは、基準電圧をどの時点で計算するのか特定できず不明である。
なお、請求項2を引用する請求項3-8も同様である。
したがって、請求項2-8の記載は、明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1-2)請求項1に「前記交流発電機の前記出力電圧(U_(S))と基準電圧(U_(s eff ref))の間の差を最小にするために、前記供給電圧(V_(f))に作用するように構成された電圧調整器(18)であって、前記基準電圧(U_(s eff ref))は、渦電流による損失やヒステリシスによる損失からなる鉄損、前記回転子でのジュール効果を通じた損失、固定子でのジュール効果を通じた損失、に含まれる損失のうちの少なくとも1つを最小にするように、前記タービンの作動の前に前記電力及び前記タービンの前記速度の関数として計算されるものである、電圧調整器(18)」とあるが、交流発電機の電圧調整器は、通常出力電圧が所定値を超えると回転子巻線に流れる電流を制限するものであり、交流発電機の出力電圧が基準電圧より小さい場合は、電圧調整器はどの様にして出力電圧と基準電圧の差を最小にするのか明細書を参照しても全く不明(どの様な回路構成となるのか不明。例えば風が殆ど吹いていない様な場合どの様な制御を行うのか不明。)である。
更に、基準電圧決定の計算のためには関数(演算)が必要であるが明細書を参照しても何等開示が無く不明(「前記電力及び前記タービンの前記速度の関数」とあるが、「前記電力」に対応するのは「可変の電力」であり、可変の電力とタービンの速度の関数とはどの様な関数であるのか何ら開示が無く不明。しかも、基準電圧を可変の電力とタービンの速度の関数として計算することは翻訳文等に何等開示が無い。)であり、又、「損失のうちの少なくとも1つを最小にする」とあるから、上記損失の1つを最小にする場合、2つを最小にする場合、3つを最小にする場合等が考えられるが、各々どの様な演算を行うのか明細書を参照しても何等開示が無く不明であり、又、上記損失のうちのいずれを最小にするにも交流発電機回転子に流す電流を0に限りなく近づけることとなるが何故この様な電圧値が必要であるのか明細書を参照しても不明(交流発電機は通常AVRを有しているが、タービンが如何なる速度であっても、AVRが回転子に供給される電流を0に限りなく近づける制御を行えば良いのか。この場合供給電圧(V_(f))は交流発電機の出力電圧(U_(S))に追従できなくなる。)である。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1-8の記載は、明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1-3)以上のとおりであるので、本件補正後の請求項1-8に記載された発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。


(2)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条の規定により却下されるべきものである。


3.本願発明について
(1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、上記した平成30年4月2日付手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものである。


(2)最後の拒絶の理由
当審の平成30年7月31日付の最後の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。
「I 平成30年4月2日付でした手続補正は、下記の点で国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文(特許協力条約第19条(1)の規定に基づく補正後の請求の範囲の翻訳文が提出された場合にあっては、当該翻訳文)又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く)(以下、翻訳文等という)(誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあっては、翻訳文等又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない(同法第184条の12第2項参照)。

II この出願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。

理由I

(1)補正後の請求項1には「スリップリングとブラシによる直接励磁」とあるから、発電機の回転子はブラシとスリップリングを介して給電されることとなる。
そこで、当該補正が、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。
翻訳文等には、
a「可変状況で、特に可変の速度、電力、又は力率で作動する電気機械アセンブリであって、
特に励磁機(11)を用いた電圧(Vf)を通じて又は分割リング及び整流子による直接励磁のDC電流が供給される巻線回転子(15)を有し、かつ出力電圧(US)を送出する1MWよりも大きいか又はそれに等しい電力の同期交流発電機(10)と、
前記交流発電機の前記出力電圧(US)を整流するための場合によってはパルス幅変調又はダイオードベースのものであって任意的にDC/DCコンバータが続く整流子(21)を含むコンバータ(20)と、
を含み、
前記巻線回転子に給電する前記供給電圧(Vf)は、前記交流発電機の前記出力電圧(US)に追従する、
ことを特徴とするアセンブリ。」(【請求項1】)
b「前記巻線回転子(15)に給電するための少なくとも1つの分割リングと1つの整流子とを含むことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のアセンブリ。」(【請求項8】)
c「交流発電機は、一般的に固定子にある電機子巻線内にAC電圧を発生させるために分割リングとブラシ」(【0003】)
d「分割リング及び整流子による直接励磁」(【0018】)
e「代替として、交流発電機の巻線回転子の励磁は、分割リング及び整流子による直接的なものとすることができる。分割リング及びブラシシステムによる回転子への給電の場合には」(【0038】)
と記載されるにすぎず、分割リング及び整流子(整流子は図面の符号21で示されるAC/DC変換部である)による直接励磁は記載はあるが、スリップリングとブラシによる直接励磁は図面を参照しても記載も示唆も無い。
したがって、「スリップリングとブラシによる直接励磁」は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。
なお、請求人は、平成30年4月2日付意見書で、
「また、請求項及び発明の詳細な説明において「分割リング」は「スリップリング」に補正した。これは本願対応の国際出願のフランス語原文における「bague」の訳語であったが、「スリップリング」とすべきところを「分割リング」とした誤記があったためである。これは、本願対応の米国出願では「bague」を「slip ring」と訳すべきところ「split ring」としたタイプミスによる誤記があり、その米国出願の英文を参照して翻訳した本願でも「スリップリング」ではなく「分割リング」となった誤記が生じたためである。今回の補正により、その誤記を修正した。なお、段落0003などに「分割リングとブラシ又は励磁機のいずれかによってDC電流が供給される一般的に回転子にある界磁巻線をそれ自体公知の方式で含む」などの記載があるが、ブラシと接触してDC電流を界磁巻線に供給するリングはスリップリングであることは技術常識であるため、「分割リング」は「スリップリング」の誤記であることは明らかであるものと思量する。」
と主張するが、翻訳文等には明確に「分割リング」と記載されているから、請求人の上記主張は採用できない。
請求項5も同様である。
(2)補正後の請求項1には「機械シャフトによって受け取る風力を電気エネルギに変換」とあるから、機械シャフトが風力を受け取ることとなる。
そこで、当該補正が、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。
翻訳文等には、
f「図1に示すのは、風力によって回転駆動することに向けられたブレード2、例えば、3枚ブレードが固定されたナセルを含む本発明による風力タービン1である。ナセルは、図示していないマストの上部に固定される。増倍器5は、風力タービンの機械シャフト6の速度を増大させることを可能にする。
ナセルは、同期交流発電機10、並びに機械シャフトが受け取る風力エネルギを電気エネルギに変換して電力網9に給電するためのコンバータ20を含む。交流発電機は、この目的のために、出力電圧Us eff、例えば、従来的にU、V、及びWで表す3相の電圧を送出する。」(【0046】-【0047】)
と記載されるにすぎず、機械シャフトが風力を受け取ることは図面を参照しても記載も示唆も無い。
したがって、「機械シャフトによって受け取る風力を電気エネルギに変換」は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。
(3)補正後の請求項1には「前記交流発電機の前記出力電圧(US)を回転速度(回転毎分での)の関数として与える曲線が、該回転速度が公称速度に達した時に不連続を示すものである」とあるから、出力電圧が不連続な値をとることとなる。
そこで、当該補正が、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。
翻訳文等には、出力電圧が不連続な値をとることは記載も示唆も無く、しかも、一般的な発電機の出力電圧は連続的な値をとり、不連続な値をとることはない。
したがって、「前記交流発電機の前記出力電圧(US)を回転速度(回転毎分での)の関数として与える曲線が、該回転速度が公称速度に達した時に不連続を示すものである」は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。


理由II

(1)請求項1に、「前記交流発電機の前記出力電圧(US)と基準電圧(Us eff ref)の間の差を最小にするために、前記供給電圧(Vf)に作用するように構成された電圧調整器(18)であって」との訳語があるが、電圧調整器がどの様な構成であってどの様に動作するのか何等開示が無く不明であり、又、風力タービンによる交流発電機の出力電圧が基準電圧より大きい場合と出力電圧が基準電圧より小さい場合があり、風力タービンによる交流発電機の出力電圧が基準電圧より大きい場合は交流発電機の回転子に電流が流れない様にすれば良い(従来周知の手法である)が、風力タービンによる交流発電機の出力電圧が基準電圧より小さい場合はどの様にして出力電圧と基準電圧の差を最小にするのか明細書を参照しても全く不明(例えば風が殆ど吹いていない様な場合どの様な制御を行うのか)である。
(2)請求項1に、「前記基準電圧(Us eff ref)は、渦電流による損失やヒステリシスによる損失からなる鉄損、前記回転子でのジュール効果を通じた損失、固定子でのジュール効果を通じた損失、に含まれる損失のうちの少なくとも1つを最小にするように計算される」との訳語があるが、基準電圧は如何なる場合でも固定であるのか可変であるのか不明であり、又、基準電圧決定の計算のためには関数(演算)が必要であるが明細書を参照しても何等開示が無く不明(基準電圧決定のために用いる変数は何か。当該変数に対してどの様な演算を行って基準電圧を求めるのか。)であり、又、上記損失のうちのいずれを最小にするにも交流発電機に流す電流を0に限りなく近づけることとなるが何故この様な電圧値が必要であるのか不明(交流発電機は通常AVRを有しており、AVRが回転子に供給される電流を0に限りなく近づける制御を行えば良いのか。この場合供給電圧(Vf)は交流発電機の出力電圧(US)に追従できなくなる。)であり、又、計算は何が行うのか不明(人間が行っているのか)である。
(3)請求項1に、「前記巻線回転子に給電する前記供給電圧(Vf)は、前記電圧調整器(18)により前記交流発電機の前記出力電圧(US)に追従」との訳語があるが、追従とはどの様な意味(普通の意味では「あとにつき従うこと」である)であるのか不明である。仮に「あとにつき従うこと」との意味であれば、供給電圧は出力電圧につき従うこととなるが、出力電圧が基準電圧より大きくなった場合、供給電圧が出力電圧につき従がえば、供給電圧も現在より大きな値になるが、電圧調整器が出力電圧と基準電圧の差を最小にするから、供給電圧は現在より小さな値となって供給電圧は出力電圧につき従うことはできず、どの様な制御を行っているのか不明(電圧調整器が無ければ自励式同期発電機は供給電圧は出力電圧につき従うことができるが、電圧調整器を有する自励式同期発電機は出力電圧は供給電圧につき従うのではないか。)である。請求項9も同様である。
(4)請求項1に、「前記交流発電機の前記出力電圧(US)を回転速度(回転毎分での)の関数として与える曲線が、該回転速度が公称速度に達した時に不連続を示す」との訳語があるが、公称速度とはどの様な速度を意味するのか定義が不明(請求人は意見書で「公称速度」は技術常識と主張するが、何ら証拠が提出されていない。常識であるならば信頼できる第三者による刊行物が存在するはずであるから当該刊行物を提出し当該主張を裏付けられたい。)であり、又、「不連続」とあるが、出力電圧は不連続な出力にはなり得ず、曲線がどの様な状態になることを意味するのか不明であり、不連続の状態と不連続でない状態の違いはどの様なものか不明であり、図17のVは具体的にどの様な制御を行えばAより小さく推移し1500rpm付近で急に立ち上がる(電圧が急に立ち上がる、急に大きくなることは読み取れるが、不連続とはいえない。)ことができるのか明細書を参照しても不明(どの様な物理現象が起きているのか。どの様な制御を行っているのか。)である。
(5)請求項1に、「前記交流発電機の前記出力電圧(US)と基準電圧(Us eff ref)の間の差を最小にするために、前記供給電圧(Vf)に作用するように構成された電圧調整器(18)であって、前記基準電圧(Us eff ref)は、渦電流による損失やヒステリシスによる損失からなる鉄損、前記回転子でのジュール効果を通じた損失、固定子でのジュール効果を通じた損失、に含まれる損失のうちの少なくとも1つを最小にするように計算されるものである、電圧調整器(18)」、「前記巻線回転子に給電する前記供給電圧(Vf)は、前記電圧調整器(18)により前記交流発電機の前記出力電圧(US)に追従し、前記交流発電機の前記出力電圧(US)を回転速度(回転毎分での)の関数として与える曲線が、該回転速度が公称速度に達した時に不連続を示すものである」との訳語があるが、単に希望を記載しただけであって交流発電機に対してどの様な制御を行うのか明細書を参照しても全く不明であり、仮に制御が必要としても、交流発電機の動力源は風力(風車)であるから、回路素子の点弧を制御しても回転速度が自然任せであるから所望の制御ができない(所望の電気的出力が得られない)ものと考えるがこの点不明である。
(6)請求項2に、「前記基準電圧(Us eff ref)は、前記速度、前記電力、前記力率、前記機械の熱状態のうちの少なくとも1つに依存する」との訳語があるが、「依存」とはどの様な状態のことを意味するのか平成30年4月2日付意見書を参照しても不明であり、速度、電力、力率、機械の熱状態を変数として演算を行って基準電圧を求めることを意味するならば、どの様な関数を用いて基準電圧を求めるのか何等開示が無く不明であり、引用する請求項1では損失を最小にするように基準電圧を求めているが、損失を最小にしながら速度、電力、力率、機械の熱状態をどの様に用いて基準電圧を求めるのか明細書及び平成30年4月2日付意見書を参照しても不明である。
(7)請求項4に、「前記調整された電圧(Vr)が、該交流発電機(10)によって供給される出力電圧(Us eff)に追従する」との訳語があるが、追従とはどの様な意味か不明((3)参照)である。
(8)請求項5は請求項4を引用しているため、発電機が励磁機、スリップリング、ブラシを有するものが含まれるが、発電機がどの様な構成となるのか不明である。」


(3)当審の最後の拒絶の理由についての判断
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項は、平成31年2月6日付意見書を参照しても、「3.(2)理由I(2)」、「3.(2)理由I(3)」に示したとおり、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。
したがって、平成30年4月2日付でした手続補正は、翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、明細書及び平成31年2月6日付意見書を参照しても、「3.(2)理由II」に示したとおり、明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


(4)むすび
したがって、平成30年4月2日付でした手続補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、請求項1-10の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
そうすると、本願を拒絶すべきであるとした原査定は維持すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-05-29 
結審通知日 2019-06-03 
審決日 2019-06-20 
出願番号 特願2013-554043(P2013-554043)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H02P)
P 1 8・ 575- WZ (H02P)
P 1 8・ 537- WZ (H02P)
P 1 8・ 536- WZ (H02P)
P 1 8・ 572- WZ (H02P)
P 1 8・ 536- WZ (H02P)
P 1 8・ 55- WZ (H02P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上野 力  
特許庁審判長 久保 竜一
特許庁審判官 中川 真一
堀川 一郎
発明の名称 可変状況で作動するアセンブリ  
代理人 須田 洋之  
代理人 上杉 浩  
代理人 弟子丸 健  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 大塚 文昭  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 近藤 直樹  
代理人 西島 孝喜  

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