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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
管理番号 1356754
審判番号 不服2018-7781  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-06 
確定日 2019-11-07 
事件の表示 特願2013-238600「便通改善剤、便通改善作用を有する加工米の製造方法およびその加工品」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月28日出願公開、特開2015- 97494〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成25年11月19日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 7月31日付け:拒絶理由の通知
同年10月10日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 2月28日付け:拒絶査定
同年 6月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年 7月19日 :審判請求書の手続補正書(方式)の提出
同年10月15日 :上申書の提出
平成31年 4月18日付け:当審による拒絶理由の通知
令和 元年 6月24日 :意見書、手続補正書の提出
同年 6月25日 :手続補足書の提出(同年同月26日受付)

2.本願発明について
本願の請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明3」という。まとめて、「本願発明」ということもある。)は、令和元年6月24日に提出された手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本願発明1は、以下のとおりのものである。
なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表示した。
「[請求項1]
澱粉中のアミロース含量が20重量%以上である米穀粒を湿熱処理した加工米、またはその粉砕物を含み、
便通改善が、摂取した食物の消化管内通過時間を短縮させる便秘改善を意味する、便秘解消を目的とする便通改善剤。」

3.当審拒絶理由について
当審が平成31年4月18日付けで通知した拒絶理由のうち、理由3(進歩性、刊行物2を主引例とする場合)は、概略、以下のとおりである。
理由3(進歩性)
本願の請求項1?8に係る発明は、本願の出願日前に頒布された下記刊行物1?7に記載された発明に基いて、本願出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<刊行物等一覧>
2.佐藤達也 et al, 「2J17p06 ラット脂質代謝に及ぼす湿熱処理高アミロース米の影響」, 日本農芸化学会2011年度大会講演要旨集, 社団法人日本農芸化学会, 2011年3月5日, p.69
1.特開2012-44919号公報
3.特開2010-279307号公報
4.特開2006-151951号公報
5.特開2010-47605号公報
6.再公表特許WO2008/053984号公報
7.特開平8-214814号公報
刊行物1、3?7は、出願時の技術常識を示す文献である。

4.当審の判断
(1)刊行物及びその記載事項
ア 刊行物2に記載された事項
刊行物2には以下の事項が記載されている。
(2a)「[方法]高アミロース米北陸207号に、0.2MPa、5分間の湿熱処理を行った。総食物繊維、難消化性デンプン含量とin vitroでのデンプン消化速度を測定した。Wistar系雄ラット各群6匹にコシヒカリ(コシ)、北陸207号(北陸)、湿熱処理北陸(湿熱)を68%含む飼料を21日間投与した。血中脂質、肝臓中脂質、肝臓7α-ヒドロキシラーゼ活性、糞中中性ステロール・酸性ステロール含量、糞中胆汁酸組成、盲腸内容有機酸組成を測定した。
[結果]北陸はコシよりデンプン消化速度が低く、湿熱処理により総食物繊維含量が増加、デンプン消化速度が低下した。ラット投与試験では、湿熱はコシに比べ、糞便重量が有意に増加し、糞中コレステロール排泄量が増加した。湿熱の盲腸内容有機酸組成は、酪酸の割合が増加する傾向が見られた。」(第69頁2J17p06)

イ 刊行物1に記載された事項
刊行物1には以下の事項が記載されている。
(1a)「[特許請求の範囲]
[請求項1]
澱粉中のアミロース含量が20重量%以上の米穀粒を、0.05?0.5MPaの圧力条件下、1?60分間、水蒸気による湿熱処理に付した後、粉砕処理を行うことを特徴とする、米穀粒の加工方法。
[請求項2]
前記の湿熱処理に付す米穀粒が、うるち精白米、うるち玄米、うるち部搗米のいずれかである、請求項1に記載の米穀粒の加工方法。
[請求項3]
前記の湿熱処理に付す米穀粒が、水分含有量が10?25重量%のものである、請求項1または2に記載の米穀粒の加工方法。
[請求項4]
前記の湿熱処理によって、前記の米穀粒のリパーゼ活性およびリポキシナーゼ活性のそれぞれを低減させる、請求項1?3のいずれか1項に記載の米穀粒の加工方法。
[請求項5]
請求項1?4のいずれか1項に記載の米穀粒の加工方法によって得られたものであることを特徴とする、米穀粉。
[請求項6]
澱粉中のアミロース含量が20重量%以上の米穀粒を、0.05?0.5MPaの圧力条件下、1?60分間、水蒸気による湿熱処理に付した後、粉砕処理を行うことを特徴とする、米穀粉の粒径および粒径分布の制御方法。
[請求項7]
澱粉中のアミロース含量が20重量%以上の米穀粒を、0.05?0.5MPaの圧力条件下、1?60分間、水蒸気による湿熱処理に付した後、粉砕処理を行うことを特徴とする、米穀粉の糊化度および粘度の制御方法。
[請求項8]
請求項5、6または7に記載の米穀粉から得られたものであることを特徴とする、加工品。」(特許請求の範囲)

ウ 刊行物3に記載された事項
刊行物3には以下の事項が記載されている。
(3a)「[0031]
具体的には、原料となる高アミロース米は、品種が北陸207号で、この北陸207号のアミロース値は36%前後である。」

エ 刊行物4に記載された事項
刊行物4には以下の事項が記載されている。
(4a)「[0011]
本発明の麦の葉由来の水不溶成分を有効成分とする便通改善剤は、腸からの排泄を促進する作用(すなわち腸内通過時間短縮作用)、糞便量の増加作用、糞便中の水分量が増加する作用(糞便中の保水作用)を有し、さらに腸内細菌叢の改善作用を有する。これらの中でも、特に、他の植物(例えば、小麦フスマ)由来の水不溶成分に比べて、腸内通過時間短縮作用および糞便中の保水作用に優れる。」

(4b)「[0024]
本発明に用いられる麦の葉由来の水不溶性成分は、具体的には以下のようにして得られる。まず、麦の葉1kgを60℃で乾燥した後、ハンマーミルを用いて粉末化する。次いで、この粉末に水1kgを加えて12時間振盪・攪拌し、遠心分離して上清を除去する。さらに得られる沈澱物に対して上記振盪・攪拌工程および上清を除去する工程を2?5回繰り返す。得られた沈澱物を乾燥して約800gの水不溶成分を得ることができる。この水不溶成分には、例えば、ヘミセルロース、セルロース、リグニンなどの不溶性食物繊維が豊富に含まれている。
[0025]
本発明に用いられる麦の葉由来の水不溶成分は、優れた便通改善作用を有する。例えば、麦の葉由来の水不可溶成分を摂取することにより、水不溶成分(特に不溶性食物繊維)を高含有する植物(小麦フスマ)に比べて、腸の蠕動運動を活性化し、食品の腸内通過時間を短縮し、腸からの排泄を促進し得る。さらに、麦の葉由来の水不溶成分を摂取すると、糞便量が増加する。一般に、小麦フスマなどの他の植物由来の水不溶成分(例えば、不溶性食物繊維)を摂取すると、水分含量が少ない便になりやすく、便秘傾向にある場合は、特に排便が困難になる可能性がある。これに対して、本発明に用いられる麦の葉由来の水不溶成分は、便中の水分含量を増加させて排便に適した便の形状を形成し(保水効果)、さらに便秘傾向者にみられる腸の蠕動運動の低下を改善し得る。これらのことは、便秘傾向者にとって、単なる糞便量を増加させる排便作用だけではなく、よりスムーズな排便を可能とし得る。上記保水作用は、さらに、例えば、痔の防止などとしても特に有効である。」

オ 刊行物5に記載された事項
刊行物5には以下の事項が記載されている。
(5a)「[0011]
本発明の麦の葉由来の水不溶成分を有効成分とする便通改善剤は、腸からの排泄を促進する作用(すなわち腸内通過時間短縮作用)、糞便量の増加作用、糞便中の水分量が増加する作用(糞便中の保水作用)を有し、さらに腸内細菌叢の改善作用を有する。これらの中でも、特に、他の植物(例えば、小麦フスマ)由来の水不溶成分に比べて、腸内通過時間短縮作用および糞便中の保水作用に優れる。」

(5b)「[0023]
本発明に用いられる麦の葉由来の水不溶性成分は、具体的には以下のようにして得られる。まず、麦の葉1kgを60℃で乾燥した後、ハンマーミルを用いて粉末化する。次いで、この粉末に水1kgを加えて12時間振盪・攪拌し、遠心分離して上清を除去する。さらに得られる沈澱物に対して上記振盪・攪拌工程および上清を除去する工程を2?5回繰り返す。得られた沈澱物を乾燥して約800gの水不溶成分を得ることができる。この水不溶成分には、例えば、ヘミセルロース、セルロース、リグニンなどの不溶性食物繊維が豊富に含まれている。
[0024]
本発明に用いられる麦の葉由来の水不溶成分は、優れた便通改善作用を有する。例えば、麦の葉由来の水不可溶成分を摂取することにより、水不溶成分(特に不溶性食物繊維)を高含有する植物(小麦フスマ)に比べて、腸の蠕動運動を活性化し、食品の腸内通過時間を短縮し、腸からの排泄を促進し得る。さらに、麦の葉由来の水不溶成分を摂取すると、糞便量が増加する。一般に、小麦フスマなどの他の植物由来の水不溶成分(例えば、不溶性食物繊維)を摂取すると、水分含量が少ない便になりやすく、便秘傾向にある場合は、特に排便が困難になる可能性がある。これに対して、本発明に用いられる麦の葉由来の水不溶成分は、便中の水分含量を増加させて排便に適した便の形状を形成し(保水効果)、さらに便秘傾向者にみられる腸の蠕動運動の低下を改善し得る。これらのことは、便秘傾向者にとって、単なる糞便量を増加させる排便作用だけではなく、よりスムーズな排便
を可能とし得る。上記保水作用は、さらに、例えば、痔の防止などとしても特に有効である。」

カ 刊行物6に記載された事項
刊行物6には以下の事項が記載されている。
(6a)「[0001]
本発明は、摂食物が消化管内、特に下部消化管(大腸)に長時間滞留するのを防ぎ、瀉下作用を伴わずに、軟便にすることなく、体外に排出するまでの時間を短縮することによって、消化管内特に大腸での食物残渣から生じる有害な腐敗産物による人体の悪影響を抑制し、または便秘を改善させ、健康や美容を維持増進できる健康食品組成物に関する。
[背景技術]
[0002]
食事の摂取から排便されるまでに要する時間、すなわち、食物残渣の消化管通過時間は、性別、食生活、年齢・体調等の要因によって様々であると予想される。食べてから小腸末端の回腸を出るまでの時間には個人差が少ないが、大腸から直腸を経て排出されるまでの時間には個人差が大きい。消化管内特に大腸特ににから小腸末端の回腸から盲腸に入るには、食事由来の成分から腐敗性の有害物質(腐敗産物)を産生する腐敗性腸内細菌の存在が知られており、消化管内での食物残渣の通過時間が長くなると、すなわち食物残渣が長時間かけてゆっくり消化管内を移動すれば、その間に腐敗性腸内細菌により有害な腐敗産物が多く生成され、それと接する腸管や生体に悪影響を及ぼす。また、消化管通過時間が長くなることにより結果として便秘症を引き起こす。」

キ 刊行物7に記載された事項
刊行物7には以下の事項が記載されている。
(7a)「[0003]
[発明が解決しようとする課題]食物繊維質は、水溶性と不水溶性に、大別され水溶性食物繊維は、血液中のコレステロールを、低下させ糠の吸収を、抑制し、不水溶性食物繊維は水分を吸収し、便量を増やすことで、腸を刺激し、排便を、促す機能がある。大腸ガンの原因は、高脂肪低繊維の、食生活である。脂肪を取り過ぎると、消化吸収の、ために、胆汁酸が、大量に、分泌されるが、この胆汁酸は、腸内細菌に、よって発ガン性のある、2次胆汁酸を作る。この時、食物繊維が、不足していると、腸内の、停滞時間が、長くなると、便内の有害物質の濃度が高まり、悪性細菌が、増加し、腸壁との、接触時間が、長くなるために、大腸ガンの危険性が高まる、不水溶性食物繊維は、大腸の機能を、円滑にして便量を、増加させると、同時に、消化管通過時間を短縮させる作用が、あるため大腸ガンを予防すると考えられる又健常者の食物繊維摂取量が平均1日20gであるのに対し大腸ガン患者では1日15gであった現在の女性の約半数の20才代の人達は便秘に悩んでいる原因は食物繊維の不足である1日1回の排便に約22gの食物繊維が必要であると云う又食物繊維の少ない食事は満腹感がなく腸内での吸収がよく肥満の原因でもある」

(2)刊行物2に記載された発明
刊行物2には、高アミロース米北陸207号に、0.2MPa、5分間の湿熱処理を行ったこと、湿熱処理によって総食物繊維含量が増加したこと、ラット投与試験によると、湿熱処理北陸はコシヒカリに比べ、糞便重量が有意に増加し、糞中コレステロール排泄量が増加したことが記載されていることから(摘記(2a))、「0.2MPa、5分間の湿熱処理をし、総食物繊維含量が増加し、ラットの糞便重量を有意に増加させる高アミロース米北陸207号」の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

(3)本願発明1について
ア 本願発明1と引用発明2との対比
本願発明1と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「総食物繊維含量が増加し、ラットの糞便重量を有意に増加させる高アミロース米北陸207号」は、総食物繊維含量が増加し、ラットの糞便重量を有意に増加させることは、便通改善といえるから、本願発明1の「便通改善剤」に相当する。
引用発明2の「高アミロース米北陸207号」は、刊行物3によれば、アミロース値は36%前後であるから(摘記(3a))、本願発明1の「澱粉中のアミロース含量が20重量%以上の米穀粒」に該当する。
そうすると、両者は、「澱粉中のアミロース含量が20重量%以上である米穀粒を湿熱処理した加工米を含む便通改善剤」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本願発明1は、「便通改善が、摂取した食物の消化管内通過時間を短縮させる便秘改善を意味する、便秘解消を目的とする」ものであることが特定されているのに対し、引用発明2はそのような特定がない点。
そこで、上記相違点1について検討する。

イ 相違点1について
刊行物4には、「麦の葉由来の水不溶成分を有効成分とする便通改善剤は、腸からの排泄を促進する作用(すなわち腸内通過時間短縮作用)、糞便量の増加作用、糞便中の水分量が増加する作用(糞便中の保水作用)を有」し、「特に、他の植物(例えば、小麦フスマ)由来の水不溶成分に比べて、腸内通過時間短縮作用および糞便中の保水作用に優れる」こと(摘記4a)、「この水不溶成分には、例えば、ヘミセルロース、セルロース、リグニンなどの不溶性食物繊維が豊富に含まれている」こと、「本発明に用いられる麦の葉由来の水不溶成分は、便中の水分含量を増加させて排便に適した便の形状を形成し(保水効果)、さらに便秘傾向者にみられる腸の蠕動運動の低下を改善し得る」こと、及び「これらのことは、便秘傾向者にとって、単なる糞便量を増加させる排便作用だけではなく、よりスムーズな排便を可能とし得る」こと(摘記4b)が記載されている。
刊行物5には、刊行物4と同様に、「麦の葉由来の水不溶成分を有効成分とする便通改善剤は、腸からの排泄を促進する作用(すなわち腸内通過時間短縮作用)、糞便量の増加作用、糞便中の水分量が増加する作用(糞便中の保水作用)を有し、さらに腸内細菌叢の改善作用を有」し、「特に、他の植物(例えば、小麦フスマ)由来の水不溶成分に比べて、腸内通過時間短縮作用および糞便中の保水作用に優れる」こと(摘記5a)、「この水不溶成分には、例えば、ヘミセルロース、セルロース、リグニンなどの不溶性食物繊維が豊富に含まれている」こと、「本発明に用いられる麦の葉由来の水不溶成分は、便中の水分含量を増加させて排便に適した便の形状を形成し(保水効果)、さらに便秘傾向者にみられる腸の蠕動運動の低下を改善し得る」こと、及び「これらのことは、便秘傾向者にとって、単なる糞便量を増加させる排便作用だけではなく、よりスムーズな排便を可能とし得る」こと(摘記5b)が記載されている。
刊行物6には、「食事の摂取から排便されるまでに要する時間、すなわち、食物残渣の消化管通過時間」について、「消化管通過時間が長くなることにより結果として便秘症を引き起こす」こと、及び「摂食物が消化管内、特に下部消化管(大腸)に長時間滞留するのを防ぎ、瀉下作用を伴わずに、軟便にすることなく、体外に排出するまでの時間を短縮することによって、消化管内特に大腸での食物残渣から生じる有害な腐敗産物による人体の悪影響を抑制し、または便秘を改善させ」ることができること(摘記6a)が記載されている。
刊行物7には、「不水溶性食物繊維は水分を吸収し、便量を増やすことで、腸を刺激し、排便を、促す機能がある」こと、「現在の女性の約半数の20才代の人達は便秘に悩んでいる原因は食物繊維の不足であ」り、「1日1回の排便に約22gの食物繊維が必要であると云う」こと(摘記7a)が記載されている。
上記の記載を参酌すると、一般に、食物繊維(水不溶成分)は、「腸からの排泄を促進する作用(すなわち腸内通過時間短縮作用)、糞便量の増加作用、糞便中の水分量が増加する作用(糞便中の保水作用)」を有するものであり(摘記4a、5a、7a)、また、消化管通過時間が長くなることにより結果として便秘症を引き起こすところ(摘記6a)、腸内通過時間短縮作用は、すなわち、腸からの排泄を促進する作用をもたらし(摘記4a、5a)、消化管内特に大腸での食物残渣から生じる有害な腐敗産物による人体の悪影響を抑制し、または便秘を改善させること(摘記6a)、さらに、糞便中の保水作用は、「便中の水分含量を増加させて排便に適した便の形状を形成」し(摘記4b、5b)、「便量を増やすことで、腸を刺激し、排便を、促」すこと(摘記7a)、加えて、「便秘傾向者にみられる腸の蠕動運動の低下を改善し得る」こと(摘記4b、5b)、そして、これらのことにより、「便秘傾向者にとって、単なる糞便量を増加させる排便作用だけではなく、よりスムーズな排便を可能とし得る」こと(4b、5b)が知られているから、食物繊維が便通改善作用を有すること、便通改善には、摂取した食物の消化管内通過時間を短縮させる便秘改善が含まれ、便秘傾向者のスムーズな排便を可能とすることが周知の技術的事項であるといえる。
ここで、引用発明2は、「総食物繊維含量が増加」し、かつ、「ラットの糞便重量を有意に増加させる」ものであるところ、上記食物繊維についての周知の技術的事項を参酌すると、当業者は、「ラットの糞便重量を有意に増加させる」という作用効果を、食物繊維の保水作用等に由来する周知の作用効果の現れの一つとして、「総食物繊維含量が増加」したことと特段の矛盾なく結び付けて理解することができるといえる。
そうすると、「総食物繊維含量が増加」した引用発明2について、当業者は、上記食物繊維についての周知の技術的事項を参酌することにより、「糞便重量を有意に増加させる」という作用効果だけでなく、「腸からの排泄を促進する作用(すなわち腸内通過時間短縮作用)」、「糞便中の水分量が増加する作用(糞便中の保水作用)」、「便秘傾向者にみられる腸の蠕動運動の低下を改善」等の作用効果を有するものと理解するから、引用発明2について、「便通改善が、摂取した食物の消化管内通過時間を短縮させる便秘改善を意味する、便秘解消を目的とする」ものであることを特定することにより、上記相違点1に係る構成に至ることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、それにより本願発明1が格別顕著な効果乃至異質の効果をもたらすものであるとも認められない。
よって、本願発明1は、刊行物2に記載された発明及び出願時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 請求人の主張について
(ア)請求人の主張の概要
請求人は、令和元年6月24日に提出した意見書において、概ね以下の点を主張している。
(a)食物繊維について
本願明細書の便通改善作用の評価試験(0080?0084段落)には、食物繊維を豊富に含んでいるにもかかわらず、高アミロース玄米(未かおり)には便通改善作用がほとんどないことが示されている。刊行物2の試験に使用されているラットは便通に障害のない一般的なラットであり、便通改善の判断は難しいが、本願発明では便秘状態のラット(便秘誘発ラット)を用いて「食物繊維」以外の効果による便通改善を評価している。未かおりと同程度の食物繊維含有量である湿熱処理高アミロース玄米(湿かおり)が、有意に消化管通過時間を短縮したことは、高アミロース米(玄米)に湿熱処理を施すことで、食物繊維を劇的に増加させることなく、消化管通過時間を短縮させる効果を付与させたことを示していると言える。本願発明の「便通改善」は、「食物繊維」の摂取によってもたらされる糞便重量の増加といった効果を超えた改善効果である。
(b)ラットについて
刊行物2の実験で使用されているラットは便秘を誘発したラットでは無いから、刊行物2を当業者が見たとしても、湿熱処理した米品種「北陸207号」については「食物繊維」に伴う糞便重量の増加は理解できても、便秘改善効果を奏することについては、記載も示唆もされていないことは明らかである。
そこで、審判請求人の主張について検討する

(イ)主張(a)及び(b)と本願発明1の記載との関係について
請求人は、上記(a)食物繊維及び(b)実験で使用されているラットの点で、本願発明1と引用発明2とが相違していることを主張しているが、本願発明1においては、食物繊維について特段の特徴が記載されているわけではなく、また、「便秘解消を目的とする」という目的の記載により用いる対象が特定されているともいえないから、請求人の主張はいずれも請求項の記載に基づかないものである。

(ウ)主張(a)食物繊維について
請求人は、要するに、本願発明1の「摂取した食物の消化管内通過時間を短縮させる便秘改善を意味する」、「便通改善」効果は、引用発明2の効果とは異なるものであることを主張していると認められる。
しかし、引用発明2は、「0.2MPa、5分間の湿熱処理をし、総食物繊維含量が増加し、ラットの糞便重量を有意に増加させる高アミロース米北陸207号」であり、この“0.2MPa、5分間の湿熱処理をした高アミロース米北陸207号”は、本願発明1にいう「澱粉中のアミロース含量が20重量%以上である米穀粒を湿熱処理した加工米」に該当するものである。
そして、引用発明2の効果は、“0.2MPa、5分間の湿熱処理をした高アミロース米北陸207号”を摂取することによりもたらされるが、その効果が本願発明1の「澱粉中のアミロース含量が20重量%以上である米穀粒を湿熱処理した加工米」の摂取によりもたらされる効果と相違するとはいえない。
したがって、本願発明1の効果と引用発明2の効果とが異なるとはいえない。

(エ)主張(b)ラットについて
刊行物2の実験で使用されているラットは便秘を誘発したラットではないが、刊行物2のラットを用いた試験がヒトの便秘改善を目的として実施されたものであることは、当業者であれば明らかであり、刊行物2の記載から、“0.2MPa、5分間の湿熱処理をした高アミロース米北陸207号”がヒトの便秘の改善に有効であることを理解するといえる。

(オ)請求人の主張についてのまとめ
よって、請求人の主張はいずれも採用できない。

エ 本願発明1についてのまとめ
以上のことから、本願発明1は、刊行物2に記載された発明及び本願出願時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(4)理由3(進歩性)のまとめ
よって、本願発明2及び3について検討するまでもなく、本願は理由3(進歩性、刊行物2を主引例とする場合)により拒絶すべきものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。そうすると、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-09-04 
結審通知日 2019-09-10 
審決日 2019-09-24 
出願番号 特願2013-238600(P2013-238600)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高山 敏充  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 瀬良 聡機
天野 宏樹
発明の名称 便通改善剤、便通改善作用を有する加工米の製造方法およびその加工品  
代理人 田村 慶政  
代理人 井波 実  
代理人 紺野 昭男  
代理人 伊藤 武泰  
代理人 伊藤 武泰  
代理人 田村 慶政  
代理人 紺野 昭男  
代理人 井波 実  

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