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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L |
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管理番号 | 1356756 |
審判番号 | 不服2018-8619 |
総通号数 | 240 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-06-22 |
確定日 | 2019-11-07 |
事件の表示 | 特願2016-228137「半導体発光素子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月31日出願公開,特開2018- 85456〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は,平成28年11月24日を出願日とする出願であって,以降の手続は次のとおりである。 平成29年12月22日 拒絶理由通知(平成30年1月9日発送) 平成30年 2月23日 意見書提出・手続補正 同年 4月10日 拒絶査定(同年同月17日謄本送達) 同年 6月22日 審判請求・手続補正 平成31年 1月16日 拒絶理由通知(同年同月22日発送) 同年 3月25日 意見書提出 令和 元年 5月20日 拒絶理由通知(同年同月21日発送) 同年 7月10日 意見書提出 令和元年5月20日付けの拒絶理由通知で通知された拒絶理由を,以下においては「当審拒絶理由」という。また,平成30年6月22日にされた手続補正を,以下においては「本件補正」という。 2 本願発明 本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりのものである。 「【請求項1】 n型のAlGaNで構成されるn型クラッド層上にAlGaN系半導体材料の活性層を形成する工程と, 前記活性層上にp型半導体層を形成する工程と, 前記n型クラッド層の一部領域が露出するように,前記p型半導体層,前記活性層および前記n型クラッド層の一部を塩素(Cl)を含むガスを用いてドライエッチングする工程と, 前記n型クラッド層を100℃以上1000℃以下の温度で加熱しながら,前記n型クラッド層の露出した前記一部領域に,アンモニア(NH_(3))の熱分解により生じる窒素原子(N)を反応させる工程と, 前記窒素原子を反応させた前記n型クラッド層の前記一部領域上にn側電極を形成する工程と,を備えることを特徴とする半導体発光素子の製造方法。」 3 当審拒絶理由 当審拒絶理由は,次のとおりのものである。 本件出願の請求項1?3に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 ---< 引用例等一覧 >-------------------- 1 国際公開2013/046419号 2 特開2008-218826号公報 3 特開2006-59956号公報 4 特開2016-32011号公報 5 特開平11-112104号公報 --------------------------------- 4 引用例の記載及び引用発明 (1)引用例1 ア 引用例1には以下の記載がある(下線は,当審で付した。以下同じ。)。 「[0001] 本発明は,窒化物半導体素子及びその製造方法に関し,特に,発光ダイオード,レーザダイオード等に利用される発光中心波長が約365nm以下の窒化物半導体発光素子及びその製造方法に関し,更に詳しくは,素子に用いるn電極とp電極の電極構造に関する。」 「[0034] 図4に示すように,本実施形態の発光素子1は,サファイア基板2上にAlN層3とAlGaN層4を成長させた基板をテンプレート5(下地構造部に相当)として用い,当該テンプレート5上に,n型AlGaNからなるn型クラッド層6,活性層7,Alモル分率が活性層7より大きいp型AlGaNの電子ブロック層8,p型AlGaNのp型クラッド層9,p型GaNのp型コンタクト層10を順番に積層した積層構造を有している。n型クラッド層6より上部の活性層7,電子ブロック層8,p型クラッド層9,p型コンタクト層10の一部が,n型クラッド層6の一部表面が露出するまで反応性イオンエッチング等により除去され,n型クラッド層6上の第1領域R1にn型クラッド層6からp型コンタクト層10までの発光素子構造部11が形成されている。活性層7は,一例として,膜厚10nmのn型AlGaNのバリア層7aと膜厚3.5nmのAlGaNの井戸層7bからなる単層の量子井戸構造となっている。活性層7は,下側層と上側層にAlモル分率の大きいn型及びp型AlGaN層で挟持されるダブルヘテロジャンクション構造であれば良く,また,上記単層の量子井戸構造を多層化した多重量子井戸構造であっても良い。更に,p型コンタクト層10の表面に,p電極12が,n型クラッド層6の第1領域R1以外の第2領域R2の表面の一部に,n電極13が形成されている。 [0035] 各AlGaN層は,有機金属化合物気相成長(MOVPE)法,或いは,分子線エピタキシ(MBE)法等の周知のエピタキシャル成長法により形成されており,n型層のドナー不純物として,例えばSi,p型層のアクセプタ不純物として,例えばMgを使用している。尚,導電型を明記していないAlN層及びAlGaN層は,不純物注入されないアンドープ層である。また,n型AlGaN層及び活性層のAlNモル分率は,一例として,AlGaN層4,n型クラッド層6及び電子ブロック層8が20%以上100%以下,活性層7が0%以上80%以下となっている。本実施形態では,発光素子1のピーク発光波長は,223nm以上365nm以下となる場合を想定する。本実施形態では,井戸層7bからの発光をサファイア基板2側から取り出す裏面出射型の発光素子を想定しているため,AlGaN層4のAlNモル分率は,井戸層7bより大きく設定する必要があり,一例として,AlGaN層4とn型クラッド層6のAlNモル分率を同じに設定する。尚,AlGaN層4のAlNモル分率をn型クラッド層6より大きくしても良い。 [0036] 活性層7以外の発光素子構造部の各AlGaN層の膜厚は,例えば,n型クラッド層6が2000nm,電子ブロック層8が2nm,p型クラッド層9が540nm,p型コンタクト層10が200nmである。また,テンプレート5については,AlN層3の膜厚は,2200nm以上6600nm以下,より好ましくは,3000nm以上6000nm以下に設定するのが好ましく,AlGaN層4の膜厚は,例えば,200nm以上300nm以下の範囲に設定する。尚,本実施形態では,AlGaN層4上に同じAlGaN層のn型クラッド層6が形成されるため,AlGaN層4の導電型はアンドープ層ではなくn型層であっても良く,AlGaN層4をn型クラッド層6と一体化して,テンプレート5をAlN層3だけで構成しても良い。 [0037] 図5に,発光素子1の平面視パターンの一例を示す。図5は,p電極12及びn電極13が形成される前の第1領域R1と第2領域R2を示す。一例として,p電極12は第1領域R1のほぼ全面に,n電極13は第2領域R2のほぼ全面に,夫々形成される。また,後述する実施例に使用した発光素子1のチップサイズは縦横夫々800μmであり,第1領域R1の面積は約168000μm2である。尚,図4に示す第1領域R1は,図5に示す第1領域R1の一部である。」 「[0046] 次に,p電極12及びn電極13の形成方法について,図8の工程図を参照して説明する。 [0047] 先ず,発光素子1のテンプレート5及び発光素子構造部11の各層が,上述のように周知の成長方法により形成する(ステップ#1,#2)。テンプレート5と発光素子構造部11を形成した後,n電極13の反転パターンとなる第1のフォトレジストを形成し(ステップ#3A),全面にn電極コンタクト部13aとなるTi/Al/Ti多層膜を,電子ビーム蒸着法等により堆積する(ステップ#3B)。引き続き,当該第1のフォトレジストをリフトオフにより除去して,当該第1のフォトレジスト上のTi/Al/Ti多層膜を剥離してパターニングし(ステップ#3C),RTA(瞬間熱アニール)等により第1のアニール処理を施し(ステップ#3D),第2領域R2内に露出したn型クラッド層6の表面にn電極コンタクト部13aを形成する(ステップ#3)。第1のアニール処理の処理温度は,下地のn型クラッド層6のAlNモル分率に応じて,n型クラッド層6との接触抵抗を低減できる最適な処理温度とし,例えば,600℃?1000℃,好ましくは,700℃?1000℃の温度範囲内で設定する。また,本実施形態では,第1のアニール処理は,例えば,120秒間,窒素雰囲気内で実施する。尚,第1のアニール処理の条件は,本実施形態で例示した条件に限定されるものではない。」 ここで,図4は以下のものである。 イ 以上から,引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「テンプレート5上に,n型AlGaNからなるn型クラッド層6,n型AlGaNのバリア層とAlGaNの井戸層からなる活性層7,電子ブロック層8,p型クラッド層9およびp型コンタクト層10を順次形成した後,n型クラッド層6,活性層7,電子ブロック層8,p型クラッド層9およびp型コンタクト層10の一部を反応性イオンエッチング等により除去して,n型クラッド層6の一部を露出させ,露出させたn型クラッド層6上にn電極13を形成した,発光素子1の製造方法。」 (2)引用例2 ア 引用例2には以下の記載がある。 「【0003】 窒化物半導体は化学的に非常に安定であるため,ウェットエッチングを行なうことは困難である。このため,メサ構造等を形成する場合,窒化物半導体のエッチングには,ドライエッチングが用いられる。ドライエッチングは,反応性が極めて高い塩素等のガスを反応性ガスとして用いた,ICP,RIEなどのプラズマドライエッチング装置を用いて行なわれるため,エッチング後の窒化物半導体表面には,ダメージ層が形成される。このダメージ層は,窒化物半導体素子の特性に悪影響を与えることがわかっている。 【0004】 たとえば,ドライエッチングによって形成したリッジ構造を有する半導体レーザにおいては,ドライエッチングによって生じたダメージ層が光吸収層となり,光出力特性の劣化を引き起こす。また,窒化物半導体を用いた電子デバイスにおいては,ドライエッチングを行なった面に,金属を製膜して,電極の形成を行なった場合,ドライエッチングによって形成されたダメージ層の影響により,良好なオーミック電極を形成することが困難となる等の問題が生じる。 【0005】 ・・・(中略)・・・ 【0006】 本発明は,上記課題を解決するためになされたものであり,その目的は,ドライエッチングによって形成されたメサ構造を有する窒化物半導体素子であって,ドライエッチングにより生じたダメージ層を除去することにより,電気特性,光学特性が改善された窒化物半導体素子の製造方法を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0007】 ・・・(中略)・・・ 【0010】 以上のように,ドライエッチング面においては,ドライエッチングによるダメージで生じた窒素抜けを原因とする窒素空孔が生じ,さらには,その窒素空孔に不純物元素が再結合して不純物層を形成するという複合的な要因で,ダメージ層が形成されていることが判明した。これらのダメージ層によって,ドライエッチング面での光吸収や,電気特性の異常等が生じると考えられる。 【0011】 本発明者らは,上記知見に基づき,ドライエッチングにより生じたダメージ層を回復させるためには,エッチング面に再結合した不純物元素を除去して清浄化を行ない,さらに,清浄化された面に存在する窒素空孔に対して,窒素を再結合させることで,窒素空孔をなくすことが有効であるとの着想を得た。また,窒素分子は安定な分子であるため,窒素空孔が存在する面に対して窒素分子を接触させても,窒素空孔と窒素分子とが容易に再結合することはないが,窒素をプラズマ化することで,窒素をより活性な状態に励起して,窒素離脱面の窒素空孔への再結合率を劇的に改善させることができることを見出した。すなわち,本発明は以下のとおりである。 【0012】 本発明は,ドライエッチングによって形成されたメサ構造を有する窒化物半導体素子の製造方法であって,窒素プラズマを含む雰囲気中で,前記ドライエッチングにより露出した面を,プラズマ処理する(以下,単に窒素プラズマ処理ともいう)工程(A)を含むことを特徴とする。 【0013】 ここで,上記窒化物半導体素子は,ドライエッチングによって形成された電流経路制限構造を有する窒化物半導体発光素子であってもよく,あるいはドライエッチングによって形成されたリッジ構造を有する窒化物半導体レーザ素子であってもよい。 【0014】 上記窒素プラズマを含む雰囲気は,実質的に窒素のみを含むガスから生成されることが好ましい。 【0015】 また,上記プラズマ処理は,上記窒化物半導体素子の基板温度が100℃以上800℃以下の条件下で行なうようにしてもよい。 【0016】 ・・・(中略)・・・ 【発明の効果】 【0021】 本発明によれば,窒素プラズマを含む雰囲気中で,ドライエッチングにより露出した面をプラズマ処理することにより,ドライエッチングに伴って形成されたダメージ層に多量に存在する窒素空孔に,窒素を再結合させて,ダメージ層の結晶性の改善を行なうことが可能となり,窒化物半導体素子の電気特性,光学特性を改善することが可能となる。本発明を,窒化物半導体レーザ素子に適用した場合,半導体レーザの微分効率が上昇し,光出力特性が向上する。また,本発明を窒化物半導体電子デバイスに適用した場合,ドライエッチングを行なった窒化物半導体層に対しても,良好なオーミック特性を有する電極を形成することが可能となる。」 イ 以上から,引用例2には以下(ア)及び(イ)の各技術事項が記載されているといえる。 (ア)窒化物半導体のエッチングには,反応性が極めて高い塩素等のガスを反応性ガスとして用いた,ICP,RIEなどのプラズマドライエッチング装置を用いて行なわれるため,エッチング後の窒化物半導体表面には,ダメージ層が形成され,その影響により,ドライエッチングを行なった面に良好なオーミック電極を形成することが困難となる等の問題が生じるところ,当該ドライエッチング面においては,ドライエッチングによるダメージで生じた窒素抜けを原因とする窒素空孔が生じ,さらには,その窒素空孔に不純物元素が再結合して不純物層を形成するという複合的な要因で,ダメージ層が形成されており,これらのダメージ層によって,ドライエッチング面での光吸収や,電気特性の異常等が生じると考えられる。 (イ)窒素プラズマを含む雰囲気中で,ドライエッチングにより露出した面をプラズマ処理することにより,ドライエッチングに伴って形成されたダメージ層に多量に存在する窒素空孔に,窒素を再結合させて,ダメージ層の結晶性の改善を行なうことが可能となり,窒化物半導体素子の電気特性,光学特性を改善することが可能となる。 (3)引用例3 ア 引用例3には以下の記載がある。 「【0005】 このようなIII-V族窒化物半導体を用いたHFETやHBTを含む電子デバイスにおいて,エピ成長後やプロセス中に生じる表面の窒素不足という化学組成のアンバランスが,電気特性を劣化させ,オーミックコンタクト抵抗やゲートリーク電流,ショットキー特性を悪化させるということが課題となっていた。そのため,これまではこのようなIII-V族窒化物半導体の表面改質を行うためにアンモニアを含むガスや不活性ガスにより基板表面をプラズマエッチングする方法が採用されている(例えば,特許文献1,2参照)。 【特許文献1】特開2002-261326号公報 【特許文献2】特開2003-188104号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかし,表面改質のためのアンモニアや不活性ガスによる処理においては,プラズマダメージが入ることにより基板表面の窒素不足を完全に回避できず,デバイスの電気特性の劣化の原因となっている。」 「【0025】 (第2の実施形態) 第2の実施形態に係る発明は,FETのキャップリセス後の表面処理におけるリモートプラズマ処理技術に関するものである。この第2の実施形態においては,窒素リモートプラズマ処理を行うことにより,エピをドライエッチングした時に生じる窒素不足を補ってやることができる。それにより,オーミックコンタクト抵抗の低減や,ゲート部についてショットキー障壁の表面準位によるピニングを抑制する効果がある。 【0026】 図4は本発明の第2の実施形態に係る半導体装置であってHFETの断面構成を示している。図4に示すように,例えば,サファイアからなる基板21の上に,厚さが約1μmで窒化アルミニウム(AlN)又は窒化ガリウム(GaN)からなるバッファ層22と,厚さが約1μmでn型キャリア密度が小さいすなわちi型の窒化ガリウム(GaN)からなる第1の窒化物半導体層23と,厚さが約25nmでi型の窒化アルミニウムガリウム(Al_(0.26)Ga_(0.74)N)からなる第2の窒化物半導体層24と,厚さ30nmでn型キャリア密度の大きいすなわちn型の窒化ガリウム(GaN)からなる第3の窒化物半導体層25が順次形成されている。 【0027】 ここで,第2の窒化物半導体層24を構成するAl_(0.26)Ga_(0.74)Nは,第1の窒化物半導体層23を構成するGaNと比べて電子のバンドギャップエネルギーが大きいため,第1の窒化物半導体層23における第2の窒化物半導体層24との界面の近傍,より具体的には該界面から10nm程度の深さに2DEG層(図示せず)が形成される。 【0028】 第3の窒化物半導体層25を塩素系のガスによりドライエッチングを行い,第2の窒化物半導体層24の表面までエッチングすることにより,オーミック部とゲート部とする。次に第2の窒化物半導体層24と第3の窒化物半導体層25の表面に,窒素イオンガス29を,プラズマパワー50W,基板温度400℃,N_(2)ガス圧力133Pa,N_(2)ガス流量500sccm,プラズマ源と基板間距離を5cm以上,例えば40cmとして5分照射する。その後,例えばチタン(Ti)とアルミニウム(Al)との積層膜からなるオーム性を持つ(オーミック性の)ソース電極26及びドレイン電極27を形成する。その後,550℃1分でオーミックシンタを行う。次に,該第2の窒化物半導体層24とショットキー接触する例えばニッケル(Ni)と金(Au)との積層膜からなるゲート電極28が形成されている。 【0029】 以下,前記のように構成されたHFETの製造方法について図面を参照しながら説明する。図5(a)?図5(c)は本発明の第2の実施形態に係るHFETの製造方法の工程順の断面構成を示している。 【0030】 まず,図5(a)に示すように,例えば有機化学気相堆積(Metalorganic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)法により,サファイアからなる基板21の上に,窒化アルミニウム又は窒化ガリウムからなるバッファ層22と,i型の窒化ガリウムからなる第1の窒化物半導体層23と,i型の窒化アルミニウムガリウム(Al_(0.26)Ga_(0.74)N)からなる第2の窒化物半導体層24と,厚さ30nmでn型キャリア密度の大きいすなわちn型の窒化ガリウム(GaN)からなる第3の窒化物半導体層25を順次成長して形成する。ここで,各窒化物半導体層の成膜方法は,MOCVD法に限られず,該MOCVD法に代えて分子線エピタキシ(Molecular Beam Epitaxy:MBE)法を用いてもよい。 【0031】 次に,図5(b)に示すように,第3の窒化物半導体層25をCl_(2)雰囲気中でドライエッチングを行い,第2の窒化物半導体層24の表面までエッチングすることにより,オーミック部とゲート部とする。次に,窒素イオンガス29を,プラズマパワー50W,基板温度400℃,N_(2)ガス圧力133Pa,N_(2)ガス流量500sccm,プラズマ源と基板間距離を40cmとして5分照射する。ここで,用いるガスは窒素を含むガス,例えば,アンモニア,窒素酸化物,シアン化合物を用いても良い。また,ここで照射する窒素イオン,又は窒素を含む化合物イオンは,イオン注入法を含む方法による窒素イオンビーム,又は窒素を含む化合物イオンビームでも良い。その後,図5(c)に示すように,例えば電子線蒸着法によりチタンからなる電極形成膜を成膜する。続いて,成膜した電極形成膜における不要部分を第2のレジストパターンと共に除去するいわゆるリフトオフ法により,オーミック性のソース電極26及びドレイン電極27を形成する。次に,550℃1分間のオーミックシンタを行う。続いて,ソース電極26及びドレイン電極27の間にゲート電極形成領域を露出する開口部を有する第3のレジストパターン(図示せず)を形成し,例えば電子線蒸着法によりニッケル及び金からなるゲート電極形成膜を成膜し,さらに,リフトオフを行なって,ゲート電極形成膜からゲート電極28を形成する。 【0032】 ・・・(中略)・・・ 【0034】 上記表3によれば,該窒素イオン処理を施したことにより,エッチングにより生じた表面における窒素不足が完全に解消した状態で,電極を形成することができた。そのため,コンタクト抵抗は5×10^(-5)Ω・cm^(2)から4×10^(-6)Ω・cm^(2)と低減された。また,ショットキー特性の理想因子は,該窒素イオンを照射したことにより表面準位によるショットキー障壁のピニングを抑制したため,3.0から1.5と低減され,理想因子がより1に近づくことが明らかとなった。」 イ 以上から,引用例3には以下(ア)及び(イ)の技術事項が記載されているといえる。 (ア)窒化物半導体をCl_(2)雰囲気中でドライエッチングを行ったときには,当該ドライエッチングにより生じた表面における窒素不足によって,当該表面に形成されるオーミック電極のオーミックコンタクト抵抗の悪化や,ショットキー電極におけるショットキー障壁の表面準位によるピニングによって,ショットキー特性の悪化が生じる。 (イ)窒化物半導体をCl_(2)雰囲気中でドライエッチングを行った後に,当該ドライエッチングにより生じた表面に対して,窒素イオン,又は窒素を含む化合物イオンを照射することにより,ドライエッチングした時に生じる窒素不足を補ってやることができ,それにより,オーミックコンタクト抵抗の低減や,ゲート部についてショットキー障壁の表面準位によるピニングを抑制する効果がある。 (4)引用例4 ア 引用例4には以下の記載がある。 「【0049】 (第4実施例) 第3窒化物半導体層18をエッチングして第2窒化物半導体層8の表面を露出させる際に,第2窒化物半導体層8の表面にエッチングダメージが生じる。エッチングダメージの大部分は,窒化物半導体から窒素が抜けることである。そこで,第3窒化物半導体層18が除去されて第2窒化物半導体層8の表面が露出した窒化物半導体基板をアンモニアガスに晒しながら熱処理する。すると,窒化物半導体に窒素が補給され,エッチングダメージが修復される。その後にアノード電極24を形成すると,アノード電極24と第2窒化物半導体層8がショットキー接合する。その場合は,AlO膜が形成されるエッチング条件を採用しなくてもよい。」 イ 以上から,引用例4には以下の技術事項が記載されているといえる。 「第3窒化物半導体層をエッチングして,その下の第2窒化物半導体層の表面を露出させる際に,第2窒化物半導体層の表面にエッチングダメージが生じるが,当該エッチングダメージの大部分は,窒化物半導体から窒素が抜けることである。そこで,第3窒化物半導体層が除去されて第2窒化物半導体層8の表面が露出した窒化物半導体基板をアンモニアガスに晒しながら熱処理すと,窒化物半導体に窒素が補給され,エッチングダメージが修復される。その後にアノード電極24を形成すると,アノード電極24と第2窒化物半導体層8がショットキー接合する。」 (5)引用例5 ア 引用例5には以下の記載がある。 「【0015】上記結晶成長後,基板1を上記装置から取り出し,p型GaNコンタクト層107からn型GaNコンタクト層104の層途中までを反応性のガスを用いたドライエッチング法によりエッチング除去して,n型GaNコンタクト層104が露出したn側電極形成領域を形成する。 【0016】そして,p型GaNコンタクト層107およびp型AlGaNクラッド層106のドーパントを活性化して高キャリア濃度にするとともに,n型GaNコンタクト層104のエッチングによる結晶劣化を回復するために,窒素雰囲気中において750℃?800℃で30?60分熱処理を行う。」 イ 以上から,引用例5には以下の技術事項が記載されているといえる。 「n型GaNコンタクト層104のエッチングによる結晶劣化を回復するために,窒素雰囲気中において750℃?800℃で30?60分熱処理を行う。」 5 対比 (1) 本願請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「n型AlGaNからなるn型クラッド層6」は,本願発明1の「n型のAlGaNで構成されるn型クラッド層」に相当する。 イ 引用発明の「n型AlGaNのバリア層とAlGaNの井戸層からなる活性層7」は,本願発明1の「AlGaN系半導体材料の活性層」に相当する。 ウ 引用発明の「p型クラッド層9」は,本願発明1の「p型半導体層」に相当する。 エ 引用発明の「反応性イオンエッチング等」は,本願発明1の「ドライエッチング」に相当する。 オ 引用発明の「n電極13」は,本願発明1の「n側電極」に相当する。 カ 引用発明の「発光素子1」は,本願発明1の「半導体発光素子」に相当する。 (2)よって,本願発明1と引用発明は,次の点で一致する。 《一致点》 「n型のAlGaNで構成されるn型クラッド層上にAlGaN系半導体材料の活性層を形成する工程と, 前記活性層上にp型半導体層を形成する工程と, 前記n型クラッド層の一部領域が露出するように,前記p型半導体層,前記活性層および前記n型クラッド層の一部をドライエッチングする工程と, 前記n型クラッド層の前記一部領域上にn側電極を形成する工程と,を備える半導体発光素子の製造方法。」 (3)一方,両者は次の各点で相違する。 《相違点1》 本願発明1は,「塩素(Cl)を含むガスを用いてドライエッチングする」構成を備えるのに対して,引用発明は,「ドライエッチングする」構成は備えるものの,当該「ドライエッチングする」構成が「塩素(Cl)を含むガスを用いて」いるとの特定まではされていない点。 《相違点2》 本願発明1は,「前記n型クラッド層を100℃以上1000℃以下の温度で加熱しながら,前記n型クラッド層の露出した前記一部領域に,アンモニア(NH_(3))の熱分解により生じる窒素原子(N)を反応させる工程」を備え,「前記窒素原子を反応させた前記n型クラッド層の前記一部領域上にn側電極を形成する工程」を備えるのに対して,引用発明は,,「前記n型クラッド層を100℃以上1000℃以下の温度で加熱しながら,前記n型クラッド層の露出した前記一部領域に,アンモニア(NH_(3))の熱分解により生じる窒素原子(N)を反応させる工程」は備えておらず,また,「前記n型クラッド層の前記一部領域上にn側電極を形成する工程」は備えるものの,n側電極が形成される「n型クラッド層の一部領域上」は「前記窒素原子を反応させた」ものではない点。 6 検討 上記各相違点について検討する。 (1)相違点1について 一般に,窒化物半導体に対して,反応性イオンエッチング等のドライエッチングを行う際に,塩素を含むガスを用いることは,例えば,引用例2(前記4(2)イ(ア))及び引用例3(前記4(3)イ(ア))にも記載されているように,周知の技術である。 よって,引用発明において,反応性イオンエッチング等を行う際に,塩素を含むガスを用いて行うことは当業者が適宜になし得たことである。 (2)相違点2について ア 一般に,窒化物半導体に対してドライエッチングを行うと,当該ドライエッチングがされた表面にエッチングダメージによる窒素空孔が生じ,オーミック電極やショットキー電極の形成の妨げとなることは,例えば引用例2(前記4(2)イ(ア)),引用例3(前記4(3)イ(ア))及び引用例4(前記4(4)イ)にも記載されているように技術常識である。 イ また,当該窒素空孔を減少させるために,ドライエッチングがされた表面に窒素を供給して,良好なオーミック電極やショットキー電極を形成できるようにすることは,例えば引用例2(前記4(2)イ(イ)),引用例3(前記4(3)イ(イ)),及び引用例4(前記4(4)イ)にも記載されているように周知の技術である。 ウ そして,引用発明においては,反応性イオンエッチング等によりn型クラッド層6の一部を露出させ,当該露出させたn型クラッド層6上にn電極13を形成するのであるから,前記技術常識に照らし,n電極13を確実に形成するべく,前記周知の技術を適用し,その際,生じた窒素空孔に対して窒素を供給するために,引用例4に記載された,アンモニアガスに晒しながら熱処理する手法を採ることは,当業者が適宜になし得たことである。ここで,熱処理の温度として100℃以上1000℃以下の範囲は,引用例5(前記4(5)イ)における窒素雰囲気中の熱処理温度である「750℃?800℃」との記載に照らせば,通常取りうる温度を含む範囲を示したにすぎないものといえる。 エ なお,アンモニアガスに晒しながら熱処理することにより窒化物半導体に窒素が供給される際には,相違点2に係る,「アンモニア(NH_(3))の熱分解により生じる窒素原子(N)を反応させ」ていることは明らかである。 (3)意見書について ア 請求人は,令和元年7月10日に提出した意見書において,以下の主張をする。 (ア)引用例4では,第2窒化物半導体層8の表面をアンモニアガスに晒しながら熱処理することで「ショットキー接合」を実現することを目的としており,「オーミック接触」を目的とした表面処理について何ら開示しておりません。さらに言えば,引用例4では,p側電極をショットキー接合させるi型半導体層に対する表面処理について開示しているにすぎず,本願発明のようにn側電極をオーミック接触させるn型クラッド層の表面に対する表面処理について何ら触れておりません。 (イ)引用例5には,GaN層の成長工程における原料ガスとしてアンモニアを用いる点については開示されているものの,成長装置とは別の装置で実行される「窒素雰囲気中の熱処理」にアンモニアを用いる点については何ら開示されておりません。 (ウ)引用例4,5の記載に基づいて,n側電極をn側クラッド層にオーミック接触させることを目的として,「n型クラッド層を100℃以上1000℃以下の温度で加熱しながら,n型クラッド層の露出した一部領域に,アンモニア(NH_(3))の熱分解により生じる窒素原子(N)を反応させる工程」を当業者が導き出すことはできないものと思料いたします。したがって,本願発明は,引用例に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできません。 イ 上記主張について検討する。 確かに,引用例4には,第2窒化物半導体層8の表面をアンモニアガスに晒しながら熱処理することでショットキー接合を形成することが記載されているが,前記前記4(4)イに摘示したとおり,引用例4には,第2窒化物半導体層8の表面をアンモニアガスに晒すことにより,エッチングにより生じた,窒化物半導体から窒素が抜けた表面に,窒素が補給され,エッチングダメージが修復されることも併せて記載されている。 そして,前記(2)ア,イで指摘したとおり,良好なオーミック電極やショットキー電極を形成するために,ドライエッチングがされた表面に発生した窒素空孔を減少させるべく,当該表面に窒素を供給することが周知技術であるから,当該表面に窒素を供給するための具体的手段として,引用例4に係る技術を採用することに困難性はない。 したがって,上記請求人の意見は採用できない。 (4)小括 よって,本願発明は,引用発明及び引用例2?5に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 7 むすび 以上のとおりであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-09-05 |
結審通知日 | 2019-09-10 |
審決日 | 2019-09-24 |
出願番号 | 特願2016-228137(P2016-228137) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 吉野 三寛 |
特許庁審判長 |
瀬川 勝久 |
特許庁審判官 |
井上 博之 近藤 幸浩 |
発明の名称 | 半導体発光素子の製造方法 |
代理人 | 森下 賢樹 |