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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1356762
審判番号 不服2018-12844  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-27 
確定日 2019-11-07 
事件の表示 特願2014-126093「ポリビニルアルコール系フィルムロール,それを用いた偏光膜の製法及びポリビニルアルコール系フィルムロールの製法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年4月9日出願公開,特開2015- 64557〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2014-126093号(以下「本件出願」という。)は,平成26年6月19日(優先権主張 平成25年8月28日)の出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成30年 1月 4日付け:拒絶理由通知書
平成30年 2月27日付け:意見書
平成30年 2月27日付け:手続補正書
平成30年 6月22日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成30年 9月27日付け:審判請求書
平成30年 9月27日付け:手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年9月27日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の,平成30年2月27日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「 光学用ポリビニルアルコール系フィルムを円筒状の芯管に巻き取ってなるポリビニルアルコール系フィルムロールであり,該芯管がアルミニウム合金からなり,該アルミニウム合金の0.2%耐力が175N/mm^(2)以上であり,該芯管の外径が150?300mmで,芯管の円筒長が2?7mであることを特徴とするポリビニルアルコール系フィルムロール。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。なお,下線は補正箇所を示す。
「 幅が1.5?6mで,長さが5000?20000mである光学用ポリビニルアルコール系フィルムを円筒状の芯管に巻き取ってなるポリビニルアルコール系フィルムロールであり,該芯管がアルミニウム合金からなり,該アルミニウム合金の0.2%耐力が175N/mm^(2)以上であり,該芯管の外径が150?300mmで,芯管の円筒長が2?7mで,芯管の肉厚が3?40mmであることを特徴とするポリビニルアルコール系フィルムロール。」

2 補正の適否
本件補正は,以下の補正事項1及び補正事項2からなる。
補正事項1:本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「光学用ポリビニルアルコール系フィルム」を,「幅が1.5?6mで,長さが5000?20000mである」ものに限定する。
補正事項2:同じく,「芯管」を,「肉厚が3?40mmである」ものに限定する。
ここで,上記補正事項1に係る補正は,本件出願の願書に最初に添付した明細書の【0033】の記載に基づく補正であり,上記補正事項2に係る補正は,同じく【0019】の記載に基づく補正である。
そうしてみると,本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであるから,特許法17条の2第3項の規定に適合する。

また,上記補正事項1に係る補正及び上記補正事項2に係る補正は,その内容からみて,いずれも,同法36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定する補正である。そして,本件補正前の請求項1に記載された発明と,本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は,同一である(明細書の【0001】及び【0009】参照。)。
そうしてみると,本件補正は,同法17条の2第5項2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正後発明」という。)が,同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(1) 本件補正後発明
本件補正後発明は,前記1(2)に記載したとおりのものである。

(2) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された特開2012-236663号公報(以下「引用文献1」という。)は,本件出願の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に,日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,液晶フィルムなどを巻き取って保管するフィルム用巻芯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5(a)に示すものは,液晶フィルムなどを巻き取るための巻芯であり,この種の巻芯は,長尺な管21と,その管21の長手方向両端部に取り付けるボス22とから構成してある。
…(省略)…
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
フィルム27を巻いた状態でボス受け26に乗せたとき,その荷重によりボス22の支持部23と取付部24との境界部28に相当の応力が発生するものであった(図5(b)参照)。ボス22を支持台25のボス受け26に置いた状態で巻芯を搬送したときには,揺れや衝撃によってボス22が境界部28で破損する問題点があった。
本発明は,上記課題を鑑みてなされたものであり,保管時あるいは搬送時に加わる衝撃に対して耐久性を備える堅牢なフィルム用巻芯を提供することにある。」

イ 「【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のうち請求項1記載の発明は,アルミ押出形材からなる管と,アルミ鍛造品からなるボスとを備え,管は,長手方向両端部にボスをそれぞれ取り付けるものであり,ボスは,支持部と管との取付部を有しており,支持部と取付部との境界部にはRが設けてあることを特徴とする。
…(省略)…
【0006】
本発明のうち請求項3記載の発明は,管をアルミニウム合金6N01で成形し,ボスをアルミニウム合金6061で成形していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のうち請求項1記載の発明によれば,ボスがアルミ鍛造成形してあることで耐久性が向上するとともに,ボスの支持部と取付部との境界部にRが設けてあることにより,応力が分散できるころから堅牢なフィルム用巻芯が提供できる。
…(省略)…
【0009】
本発明のうち請求項3記載の発明によれば,ボスをアルミニウム合金6061で成形し,管をアルミニウム合金6N01で成形しているので,いずれのアルミニウム合金についても加工性や引張強度を有する素材であり,さらに,押出性やコスト面でもフィルム用巻芯として最適なものとなる。
…(省略)…
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に,図面に基づいて本実施によるフィルム用巻芯について説明する。本実施によるフィルム用巻芯(以下,巻芯と記す)は,管1と,管1の長手方向両端部に取り付けられるボス2とを備えており,図2(a)(b)のように,支持台9のボス受け10に置かれている。管1は,図1(a)のように,A6N01S-T5(アルミニウム合金6N01を押出し成形したもの)であり,本実施のものでは,管の外径が250mmに設定されている。ボス2は,図1(b)のように,筒状をなす支持部3と,その支持部3よりも径が大きく且つ管1の長手方向両端部に嵌入して取り付ける取付部4とからなっており,A6061FD-T6(アルミニウム合金6061を型鍛造で成形したもの)を使用している。また,支持部3は,長手方向の長さが50mmとしてあり,外径が175mm,内径が155mmである。さらに,取付部4の径は,外径が250mmであり,内径が238mmであり,管1内に飲み込まれる長さは50mmとしてある。また,管1とボス2は,管1の外周側から直交方向に差し込まれるピン6を連通して抜け止めするものであり,そのピン6を嵌入するためのピン孔7a,7bが管1とボス2の取付部にそれぞれ設けてある。
…(省略)…
【0015】
管1は,径が大きいため,変形抵抗値の大きな2000系,7000系では押出しが困難であることから,アルミニウム合金6000系が選択され,その中で押出性,コスト,強度を鑑みたときにA6N01S-T5を選定するものである。ボス2と同様にA6061FD-T6で成形したときには,押出し性が悪いためにコスト高になり,また,押出し性の良好なA6063S-T5としたときには,耐力値が想定される使用環境では満たされないことから管1としては適さない。
【0016】
ボス2の取付部4は,上記実施形態では管1の長手方向両端部に嵌入してピン6で固定するものが示されたが,取付部4を雄ネジ部,管の内周に雌ネジ部とし,互いをネジ式に螺合するものなど,管1から抜け出さないように取り付けできるものであればよい。」

ウ 【図1】,【図2】,【図5】
図1:

図2:

図5:


(3) 引用発明
引用文献1の【0011】には「フィルム用巻芯」の「管1」の材質が,「A6N01S-T5」であることが記載されている。また,「管1」の材質として,「A6N01S-T5」が選定された理由については,引用文献1の【0015】に記載がある。
そうしてみると,引用文献1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 フィルム用巻芯であって,
フィルム用巻芯は,管1と,管1の長手方向両端部に取り付けられるボス2とを備え,
管1は,A6N01S-T5であり,外径が250mmに設定され,
ボス2は,筒状をなす支持部3と,その支持部3よりも径が大きく且つ管1の長手方向両端部に嵌入して取り付ける取付部4とからなり,
支持部3は,長手方向の長さが50mm,外径が175mm,内径が155mm,取付部4の径は,外径が250mm,内径が238mm,管1内に飲み込まれる長さは50mmであり,
管1は,押出性,コスト,強度を鑑みてA6N01S-T5を選定するものであり,A6061FD-T6で成形したときには,押出し性が悪いためにコスト高になり,押出し性の良好なA6063S-T5としたときには,耐力値が想定される使用環境では満たされない,
フィルム用巻芯。」

(4) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比する。
ア 芯管
引用発明の「フィルム用巻芯は,管1と,管1の長手方向両端部に取り付けられるボス2とを備え」,「管1は」,「外径が250mmに設定され」ている。
上記の構成,及びフィルム用巻芯に関する技術常識からみて,引用発明の「管1」は,円筒状のものである(図1からも看取される。)。また,引用発明の「管1」の外径は,150?300mmの範囲にある。
そうしてみると,引用発明の「管1」は,本件補正後発明の「芯管」に相当する。また,引用発明の「管1」は,本件補正後発明の「芯管」における,「円筒状」及び「外径が150?300mm」という要件を満たす。

イ 肉厚,0.2%耐力
引用発明の「管1は,A6N01S-T5であり」,「取付部4の径は,外径が250mm,内径が238mm」である。
ここで,引用発明の「管1」の肉厚は,「取付部4」の外径と内径の差の半分程度,すなわち(250mm-238mm)÷2=6mm程度と計算されるから,3?40mmの範囲にある。
(当合議体注:引用発明の「取付部4」の「内径」が,どこの寸法を指すのかは,文言上明白とはいえないが,仮にこの点を相違点にするとしても,後に検討するとおり,この値は巻き取り対象に応じて見直されるはずのものであるから,ここではこれ以上議論しない。)
また,引用発明の「管1」は,「A6N01S-T5」というJISの型番で特定されるものであるから,その0.2%耐力が175N/mm^(2)以上であることは明らかである。
(当合議体注:「A6N01S-T5」の「A」は「アルミニウム」,「6N01」は合金の組成(Si,Mg等の分量が本件出願の明細書の【0058】の【表1】のもの),「S」は「押出成形」,「T5」は「高温加工から冷却後人工時効硬化処理したもの」を表すJIS規格の記号である。また,JIS規格では,「A6N01S-T5」の機械的特性の下限値も規定されているところ,その0.2%耐力の下限値は175N/mm^(2)である。)

(5) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明(の芯管)と引用発明は,次の構成で一致する。
「 円筒状の芯管であり,該芯管がアルミニウム合金からなり,該アルミニウム合金の0.2%耐力が175N/mm^(2)以上であり,該芯管の外径が150?300mmで,芯管の肉厚が3?40mmである芯管。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は,次の点で相違する。
本件補正後発明は,「幅が1.5?6mで,長さが5000?20000mである光学用ポリビニルアルコール系フィルムを円筒状の芯管に巻き取ってなるポリビニルアルコール系フィルムロールであり,該芯管がアルミニウム合金からなり,該アルミニウム合金の0.2%耐力が175N/mm^(2)以上であり,該芯管の外径が150?300mmで,芯管の円筒長が2?7mで,芯管の肉厚が3?40mmであるポリビニルアルコール系フィルムロール。」であるのに対し,引用発明は,「フィルム用芯管」にとどまり,上記下線部の構成を具備するとはいえない点。

(6) 判断
引用発明は「フィルム用巻芯」である。また,引用文献1の【0001】には,「本発明は,液晶フィルムなどを巻き取って保管するフィルム用巻芯に関する」と記載されている。引用文献1でいう「液晶フィルムなど」が,「液晶表示装置用のフィルムなど」のことを意味しているのか,それとも,液晶表示装置等において位相差板として使用される「液晶膜を有するフィルムなど」のことを意味しているのかは,判然としない。しかしながら,引用発明の「フィルム用巻芯」の用途及び形状等に接した当業者ならば,いずれにせよ,引用発明の「フィルム用巻芯」が,液晶表示装置の偏光板の部材である光学用ポリビニルアルコール系フィルムを含む,種々の長尺状のフィルムの巻芯として利用できることに気付くといえる。
ここで,「幅が1.5?6mで,長さが5000?20000mである光学用ポリビニルアルコール系フィルム」の「フィルムロール」は,本件優先日前の当業者に周知であった。例えば,特開2005-306483号公報(以下「周知文献1」という。)の【0064】には,幅3.0m,長さ8000mの光学用ポリビニルアルコール系フィルムを巻き取ったフィルムロールが開示されている(実施例2)。また,特開2006-205536号公報の【0058】及び【0059】には,幅が4300mm,長さが6000mのポリビニルアルコール系フィルムを巻き取ったロールが開示されている(実施例1)。そして,上記周知技術を心得た当業者ならば,このような幅及び長さの光学用ポリビニルアルコール系フィルムのフィルムロールにも対応可能なように,引用発明の「フィルム用巻芯」を設計すると考えられる。
そこで,幅3.0m,長さ8000mの光学用ポリビニルアルコール系フィルムの場合を例に検討すると,以下のとおりとなる。
まず,「管1」の円筒長については,幅が3.0mである光学用ポリビニルアルコール系フィルムを巻き取るために,3.0mより若干長いものとして設計することとなるから,その円筒長は,2?7mの範囲内になる(当合議体注:例えば,周知文献1の【0029】には,フィルムの幅より20?100cm長い円筒長が示唆されている。また,特開2001-315885号公報の【0031】にも,フィルムの幅より10mm?30cm長いことが最も好ましいことが示唆されている。)。
次に,引用発明の「管1」のアルミニウム合金については,「押出性,コスト,強度を鑑みてA6N01S-T5を選定するものであり,A6061FD-T6で成形したときには,押出し性が悪いためにコスト高になり,押出し性の良好なA6063S-T5としたときには,耐力値が想定される使用環境では満たされない」とされるものであるから,当業者ならば,「A6N01S-T5」のままにすると考えられる。また,「管1」の外径についても,変更する直接的な理由が見当たらないから,250mmのままにすると考えられる。
これに対して,引用発明の「管1」の肉厚については,「管1」の強度を大きく左右することが明らかであるから,当業者ならば,試行錯誤等により見直すと考えられるが,その結果は,前記(4)イで計算した値と大差ないと考えられる(当合議体注:引用発明の「管1」について試行錯誤した当業者ならば,自ずと本件補正後発明の実施例のもの(A6N01の場合で6?8mm)と同程度の肉厚にたどり着くといえる。なお,特開2004-106377号公報の【0025】には,芯管の好ましい厚みとして3?20mmが開示されており,当業者ならば,このような値をも参考にして,試行錯誤すると考えられる。)。

以上のとおりであるから,引用発明の「フィルム用巻芯」において,巻き取る対象を光学用ポリビニルアルコール系フィルムとした当業者が,上記相違点に係る本件補正後発明の構成を具備したフィルムロールの構成に到ることは,当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項である。

(7) 発明の効果について
本件補正後発明の,「繰り出すフィルムを均質なものとすることができ,そのフィルムから作製する偏光膜を,偏光性能,外観特性に優れたものとすることができる」(本件出願の明細書の【0012】)という効果は,引用発明の「フィルム用巻芯」が巻き取る対象を光学用ポリビニルアルコール系フィルムとした当業者が,目標とすべき効果であり,かつ,達成される効果にとどまるものである。

(8) 請求人の主張について
請求人は,審判請求書において,概略,引用文献1発明の課題は,引用文献2?5発明の課題と異なるため,当業者は,本願発明の課題の解決に,引用文献1?5の開示内容を組み合わせて検討することはなく,しかも,引用文献1?5には,アルミニウム合金の0.2%耐力について記載されていないことから,引用文献1?5の開示内容から,本件補正後発明を想到することはできないと主張する(審判請求書の8頁9?14行)。
しかしながら,引用発明は「フィルム用巻芯」であるから,フィルムを安定的に巻き取り,繰り出すことが,本質的に求められるものである。また,引用文献1の【0015】に,引用発明の「管1」として「A6N01S-T5」を選定した理由として強度が挙げられ,「A6063S-T5」を選定しなかった理由として耐力値が挙げられていることを考慮すると,当業者は,引用発明に基づいて,本件補正後発明を想到することができたといえる。
なお,請求人が指摘する引用文献2?引用文献5は,光学用ポリビニルアルコール系フィルム等の寸法に関する周知技術を例示するために引用されたものであって,これら文献に記載された発明の課題は,光学用ポリビニルアルコール系フィルム等の寸法に関する事実を左右するものではない。そして,引用発明の「フィルム用巻芯」に巻き取る対象として光学用ポリビニルアルコール系フィルムに気付いた当業者が,引用文献1?引用文献5の開示内容が例示する周知の光学用ポリビニルアルコール系フィルム等の寸法を組み合わせて検討することは,十分にあり得ることである。また,本件補正後発明の「アルミニウム合金の0.2%耐力が175N/mm^(2)以上」という構成は,「A6N01S-T5」というJISの型番から理解される規格値(耐力の下限値)にすぎないから,引用文献1に記載されているに等しいものである。
請求人の主張は,採用できない。

(9) 小括
本件補正後発明は,本件優先日前に,周知技術を心得た当業者が,引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 まとめ
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,前記[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり,決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり,本件補正は却下されたので,本件出願の請求項1?請求項3に係る発明は,平成30年2月27日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」とい

う。)は,前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,本願発明は,本件優先日前に頒布された刊行物である特開2012-236663号公報(引用文献1)に記載された発明及び周知技術に基づいて,本件優先日前の当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用文献1の記載及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は,前記「第2」[理由]2(2)及び(3)に記載したとおりである。

4 対比,判断
本願発明は,前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から,「光学用ポリビニルアルコール系フィルム」及び「芯管」の寸法に係る限定事項(前記「第2」[理由]2の補正事項1及び補正事項2を参照。)を削除したものである。
そうしてみると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正後発明が,前記「第2」[理由]2(4)?(9)に記載したとおり,周知技術を心得た当業者が,引用文献1に記載された発明に基づいて,容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,周知技術を心得た当業者が,引用文献1に記載された発明に基づいて,容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-08-28 
結審通知日 2019-09-03 
審決日 2019-09-20 
出願番号 特願2014-126093(P2014-126093)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 572- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 廣田 健介清水 督史  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 関根 洋之
樋口 信宏
発明の名称 ポリビニルアルコール系フィルムロール、それを用いた偏光膜の製法及びポリビニルアルコール系フィルムロールの製法  
代理人 西藤 優子  
代理人 井▲崎▼ 愛佳  
代理人 西藤 征彦  

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