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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1356767
審判番号 不服2018-15340  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-20 
確定日 2019-11-07 
事件の表示 特願2015-81523「内燃機関の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月1日出願公開、特開2016-200080〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年4月13日の出願であって、平成30年2月28日付け(発送日:同年3月6日)で拒絶理由が通知され、同年4月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月16日付け(発送日:同年8月28日)で拒絶査定がされ、これに対して同年11月20日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成30年4月26日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

「【請求項1】
内燃機関の燃焼室内に燃料を噴射可能な燃料噴射弁と、
前記燃料噴射弁から噴射された燃料噴霧が点火可能領域を通過し該燃料噴霧に直接に点火可能となるように、該燃料噴射弁に対する相対位置が決定された点火装置と、
圧縮行程中のプレ噴射時期に前記燃料噴射弁によるプレ噴射を実行するとともに該プレ噴射によって形成される燃料噴霧であるプレ噴霧に対し前記点火装置によって火花点火を行うことで、プレ噴射燃料の一部を燃焼させるとともに該プレ噴射燃料の燃え残りを前記燃焼室内に生成させ、さらに、前記点火装置による前記プレ噴霧への点火後であり且つ圧縮行程上死点前の時期であって、前記プレ噴霧への点火によって生じた火炎を起点として噴射燃料の燃焼が開始されるように設定されたメイン噴射時期に前記燃料噴射弁によるメイン噴射の実行を開始することで、前記プレ噴射燃料の燃え残りとメイン噴射燃料とにおいて自着火を発生させるとともに少なくとも前記メイン噴射燃料の一部を拡散燃焼させて、該プレ噴射燃料の燃え残りと該メイン噴射燃料を燃焼させる所定燃焼制御を実行する燃焼制御手段と、
前記燃焼制御手段が前記所定燃焼制御を実行する運転領域において、内燃機関の機関負荷が所定負荷より高い場合は、該機関負荷が該所定負荷以下の場合に比べて、内燃機関の有効圧縮比または圧縮比を低くする圧縮比制御手段と、を備える内燃機関の制御装置。」

第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

(進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

請求項1に対して:引用文献1ないし3

<引用文献等一覧>
1.特開2009-108780号公報
2.特開2008-169714号公報
3.特開2010-236429号公報

第4 引用文献、引用発明
1 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2009-108780号公報(以下「引用文献1」という。)には、「圧縮着火式内燃機関の燃料供給制御装置」に関して、図面(特に、図1ないし4を参照。)とともに、次の事項が記載されている(下線は理解の一助のために当審が付与した。以下同様。)。

(1)「【0001】
本発明は圧縮着火式内燃機関の燃料供給制御装置に関する。」

(2)「【0009】
図1を参照すると、1は複数の気筒を備える機関本体、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストン、5は燃焼室、6は一対の吸気弁、7は一対の吸気ポート、8は一対の排気弁、9は一対の排気ポート、10は単一の電子制御式燃料噴射弁、11は点火栓をそれぞれ示す。この場合、図2に示されるように、一対の吸気弁6及び一対の排気弁8は平坦状のシリンダヘッド内壁面3aのほぼ中央すなわち燃焼室5のほぼ中央を通る対称面L-Lに関しそれぞれ対称的に配置されており、燃料噴射弁10及び点火栓11はこの対称面L-L上に配置される。また、本発明による実施例では、燃料噴射弁10は燃焼室5のほぼ中央に一つだけ配置され、点火栓11は燃料噴射弁10の周囲の燃焼室5に配置される。」

(3)「【0015】
電子制御ユニット40はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス41によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)42、RAM(ランダムアクセスメモリ)43、CPU(マイクロプロセッサ)44、入力ポート45及び出力ポート46を具備する。エアフローメータ20、空燃比センサ25、差圧センサ29、燃料圧センサ37及び水温センサ38の出力信号は対応するAD変換器47を介して入力ポート45に入力される。また、アクセルペダル49にはアクセルペダル49の踏み込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ50が接続され、負荷センサ50の出力電圧は対応するAD変換器47を介して入力ポート45に入力される。アクセルペダル49の踏み込み量Lは要求負荷を表している。さらに、入力ポート45にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ51が接続される。CPU44ではこれら出力パルスに基づいて機関回転数Neが算出される。一方、出力ポート46は対応する駆動回路48を介して燃料噴射弁10、点火栓11、ステップモータ18、EGR制御弁31、第1の燃料ポンプ36a及び第2の燃料ポンプ36bに接続される。」

(4)「【0017】
さて、本発明による実施例では、主噴射を行うのに先立ち燃料噴射弁10により補助噴射を行って混合気を形成すると共にこの混合気を点火栓11により着火し次いで燃料噴射弁10により主噴射を行ってこの主噴射による燃料を圧縮着火させ拡散燃焼させるスパークアシスト拡散燃焼が行われる。このスパークアシスト拡散燃焼には、成層スパークアシスト拡散燃焼及び均質スパークアシスト拡散燃焼が含まれる。
【0018】
成層スパークアシスト拡散燃焼では、図3(A)に示されるように、まず例えば圧縮行程末期に燃料噴射弁10により補助噴射AFIが行われ、したがって図4(A)に示されるように補助噴射AFIによるわずかばかりの燃料すなわち補助噴射燃料AFが噴射される。その結果、図4(B)に示されるように、点火栓11周りの燃焼室5内に成層混合気SGMが形成される。この成層混合気SGMは点火栓11によって着火可能であるが圧縮着火しない混合気であり、また、その周りが空気のみ又は空気及びEGRガスのみによって囲まれている。次いで、図3(A)にSでもって及び図4(B)に示されるように、成層混合気SGMが例えば圧縮行程末期に点火栓11により着火され、主として火炎伝播燃焼される。次いで、図3(A)に示されるように補助噴射燃料AFの燃焼中又は燃焼後の圧縮TDC周りにおいて燃料噴射弁10により主噴射MFIが行われ、したがって図4(C)に示されるように主噴射MFIによる燃料すなわち主噴射燃料MFが噴射される。この主噴射燃料MFは次いで圧縮着火され、拡散燃焼される。このように、主噴射MFIを行うのに先立って補助噴射AFIを行い補助噴射燃料AFを燃焼させると、燃焼室5内にいわゆる火種が形成され、したがって主噴射燃料MFを確実に圧縮着火させ拡散燃焼させることができる。」

(5)上記(2)、図2及び4の図示内容並びに技術常識から、点火栓11は、燃料噴射弁10から噴射された燃料噴霧が点火可能領域を通過し該燃料噴霧に直接に点火可能となるように、該燃料噴射弁10に対する相対位置が決定されているといえる。

(6)上記(4)及び技術常識から、補助噴射燃料AFは、補助噴射AFIによって形成される燃料噴霧であるといえる。

(7)図3(A)の図示内容から、主噴射MFIの実行が開始される主噴射MFI時期は、圧縮行程上死点前の時期であることが分かる。さらに、上記(4)及び技術常識から、主噴射MFI時期は、補助噴射燃料AFの燃焼により形成される火種を起点として噴射燃料が拡散燃焼されるように設定されているといえる。

(8)上記(3)、(4)及び図1の図示内容並びに技術常識から、電子制御ユニット40は、成層スパークアシスト拡散燃焼を実行するものであるといえる。

上記記載事項及び認定事項並びに図面の図示内容からみて、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

〔引用発明〕
「内燃機関の燃焼室5内に燃料を噴射可能な燃料噴射弁10と、
前記燃料噴射弁10から噴射された燃料噴霧が点火可能領域を通過し該燃料噴霧に直接に点火可能となるように、該燃料噴射弁10に対する相対位置が決定された点火栓11と、
圧縮行程末期に前記燃料噴射弁10による補助噴射AFIを実行するとともに該補助噴射AFIによって形成される燃料噴霧である補助噴射燃料AFに対し前記点火栓11によって着火を行うことで、補助噴射燃料AFが主として火炎伝播燃焼され、さらに、前記点火栓11による前記補助噴射燃料AFへの着火後であり且つ圧縮行程上死点前の時期であって、前記補助噴射燃料AFの燃焼により形成される火種を起点として噴射燃料が拡散燃焼されるように設定された主噴射MFI時期に前記燃料噴射弁10による主噴射MFIの実行を開始することで、前記主噴射燃料MFを圧縮着火させるとともに主噴射燃料MFを拡散燃焼させて、該主噴射燃料MFを燃焼させる成層スパークアシスト拡散燃焼を実行する電子制御ユニット40と、
を備える圧縮着火式内燃機関の燃料供給制御装置。」

2 引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2008-169714号公報(以下「引用文献2」という。)には、「内燃機関」に関して次の事項が記載されている。

(1)「【0002】
従来、予混合火花点火火炎伝播燃焼モードと圧縮自着火拡散燃焼モードを切り替えて運転する内燃機関が存在している。この種の内燃機関としては、例えば、下記の特許文献1,2に開示されている。その特許文献1に記載の内燃機関は、軽負荷側で予混合火花点火火炎伝播燃焼モード運転を行い、高負荷側で圧縮自着火拡散燃焼モード運転を行うものである。」

(2)「【0005】
しかしながら、上記特許文献2に開示された可変圧縮比機構は、ピストンの上下方向の位置を可変させる為の機械的なリンク機構やアクチュエータなどの部品が必要になるので、応答性が悪く、滑らかな燃焼モードの切り替えを行いにくい。つまり、予混合火花点火火炎伝播燃焼モードであろうが圧縮自着火拡散燃焼モードであろうが機関負荷が高くなるにつれて可変圧縮比機構を作動させて圧縮比を下げていかなければならないが、通常、圧縮自着火拡散燃焼モードで必要な圧縮比は予混合火花点火火炎伝播燃焼モードに適した圧縮比よりも高いので、これらの燃焼モードの切り替え時には、予混合火花点火火炎伝播燃焼モードの最低圧縮比と圧縮自着火拡散燃焼モードの最高圧縮比との間で瞬時に圧縮比の切り替えを実行せねばならない。また、圧縮比を変更して目標トルクを保つには吸入空気量の緻密な制御も必要とされるので、更なる応答性の悪化が引き起こされる。従って、そのような可変圧縮比機構による圧縮比の変更は、燃焼モードを切り替える際の燃焼不良の解決策として応答性の観点から現実味を帯びていない。また、仮に圧縮比の切り替えが瞬時に実行できたとしても、複数の気筒を備えた内燃機関においては、気筒毎の精度良い圧縮比の変更が困難であり、何れかの気筒において圧縮比がずれて燃焼不良を引き起こす可能性がある。更に、そのような可変圧縮比機構を用意する為には、コストの増加は免れず、また、機関自体の大型化を招き、車輌への搭載性の観点からも好ましくない。」

上記記載事項からみて、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献2記載事項〕
「予混合火花点火火炎伝播燃焼モードと圧縮自着火拡散燃焼モードを切り替えて運転される内燃機関において、予混合火花点火火炎伝播燃焼モードでも圧縮自着火拡散燃焼モードでも、機関負荷が高くなるにつれて圧縮比を下げていくこと。」

3 引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2010-236429号公報(以下「引用文献3」という。)には、「過給機付き直噴エンジン」に関して、図面(特に、図4及び5を参照。)とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0010】
また、本発明は、吸入空気を加圧する過給機と、燃焼室に直接燃料を噴射するインジェクタとを備えた過給機付き直噴エンジンであって、エンジンの圧縮比を可変的に設定する圧縮比調整手段と、筒内の燃焼圧力の上昇率を制御するdp/dθ制御手段とを備え、少なくともエンジンの温間時における空燃比が、エンジン負荷の全域で理論空燃比よりもリーンな空燃比に設定され、エンジンの低負荷域を含む第1の運転領域では、上記圧縮比調整手段により圧縮比が高めに設定された状態で圧縮自己着火による燃焼が行われる一方、上記第1の運転領域よりも高負荷側の第2の運転領域では、上記圧縮比調整手段により圧縮比が低めに設定されるとともに、上記dp/dθ制御手段により燃焼圧力の上昇率が緩和され、かつ上記過給機による過給量が増大された状態で、圧縮自己着火による燃焼が行われることを特徴とするものである(請求項2)。」

(2)「【0050】
図4は、上記ECU50がエンジンを制御する際に参照する制御マップを示す図である。本図において、高回転・高負荷域を除く比較的広範な領域に設定されたHCCI領域Aは、圧縮自己着火による燃焼が実行される運転領域であり、これ以外の領域に設定されたSI領域Bは、火花点火による燃焼が実行される運転領域である。すなわち、HCCI領域Aでは、吸気行程時等に燃料が噴射されることで生成された混合気が圧縮上死点の前後で自着火するように燃焼が制御される一方、SI領域Bでは、点火プラグ11からの火花点火により混合気が強制的に着火されることで燃焼が起きるようになっている。
【0051】
上記HCCI領域Aは、圧縮比や空燃比等の燃焼条件の相違に応じてさらに2つの領域A1,A2に分けられる。すなわち、両領域A1,A2のうち、低負荷側を第1HCCI領域A1、高負荷側を第2HCCI領域A2とすると、これら第1・第2HCCI領域A1,A2では、圧縮比や空燃比等の燃焼条件が変更された上で、いずれも圧縮自己着火による燃焼が行われるようになっている。当実施形態では、このように燃焼条件を種々変更しながら圧縮自己着火による燃焼を行わせることで、圧縮自己着火が可能な運転領域を比較的高負荷側まで拡大するようにしている。なお、本発明の構成との対応関係としては、上記第1HCCI領域A1が本発明にかかる第1の運転領域に相当し、上記第2HCCI領域A2が本発明にかかる第2の運転領域に相当する。」

(3)「【0061】
まず、図5を用いて圧縮比(有効圧縮比)の変化について説明する。なお、図5では、第1HCCI領域A1と第2HCCI領域A2との境界となる負荷点をP、第2HCCI領域A2とSI領域Bとの境界となる負荷点をQ、SI領域Bの上限である最高負荷点をMとしてそれぞれ表わしている。
【0062】
図5に示すように、当実施形態における圧縮比は、第1HCCI領域A1における有効圧縮比が約18に維持される一方、第2HCCI領域A2では、負荷の増大とともに有効圧縮比が18から15程度まで徐々に下げされ、また、SI領域Bでは、有効圧縮比が14程度までさらに下げられる。具体的には、図5の原点(無負荷状態)から、第1HCCI領域A1と第2HCCI領域A2との境界である負荷点Pに至るまで、有効圧縮比が一律に約18(つまり幾何学的圧縮比とほぼ同じ値)に維持される一方、上記負荷点Pよりも高負荷側では、有効圧縮比が徐々に下げられ、上記第2HCCI領域A2とSI領域Bとの境界である負荷点Qで、約15まで低下する。そして、上記負荷点Qを境に有効圧縮比がさらに14程度まで下げられ、その後は最高負荷点Mまで14のまま維持される。
【0063】
上記のように、負荷点Pよりも高負荷側にあたる第2HCCI領域A2およびSI領域Bで有効圧縮比が徐々に下げられるのは、筒内温度や筒内圧力の過上昇による騒音やノッキングの発生等を防止するためである。なお、上記のような圧縮比の変化特性は、上記バルブタイミング制御手段51およびVVT42による吸気弁8の閉じ時期の制御によって得ることができる。」

上記記載事項及び図面の図示内容からみて、引用文献3には、次の事項(以下「引用文献3記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献3記載事項〕
「圧縮自己着火による燃焼が実行される運転領域であるHCCI領域Aを有するエンジンにおいて、前記HCCI領域Aのうち、低負荷側の第1HCCI領域A1では、有効圧縮比を高めに設定し、高負荷側の第2HCCI領域A2では、負荷の増大とともに有効圧縮比を徐々に下げること。」

第5 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「燃焼室5」は、その機能、構成又は技術的意義から本願発明における「燃焼室」に相当し、以下同様に、「燃料噴射弁10」は「燃料噴射弁」に、「点火栓11」は「点火装置」に、「圧縮行程末期」は「圧縮行程中のプレ噴射時期」に、「補助噴射AFI」は「プレ噴射」に、「補助噴射燃料AF」は「プレ噴霧」に、「点火栓11によって着火を行う」は「点火装置によって火花点火を行う」に、「点火栓11による前記補助噴射燃料AFへの着火後」は「前記点火装置による前記プレ噴霧への点火後」に、「補助噴射燃料AFの燃焼により形成される火種」は「プレ噴霧への点火によって生じた火炎」に、「噴射燃料が拡散燃焼されるように」は「噴射燃料の燃焼が開始されるように」に、「主噴射MFI」は「メイン噴射」に、「圧縮着火」は「自着火」に、「主噴射燃料MF」は「メイン噴射燃料」に、「主噴射燃料MFを拡散燃焼させて」は「少なくとも前記メイン噴射燃料の一部を拡散燃焼させて」に、「成層スパークアシスト燃焼」は「所定燃焼制御」に、「電子制御ユニット40」は「燃焼制御手段」に、「圧縮着火式内燃機関の燃料供給制御装置」は「内燃機関の制御装置」に、それぞれ相当する。
引用発明における「補助噴射燃料AFが主として火炎伝播燃焼され」と本願発明における「プレ噴射燃料の一部を燃焼させるとともに該プレ噴射燃料の燃え残りを前記燃焼室5内に生成させ」とは、「プレ噴射燃料の少なくとも一部を燃焼させ」という限りにおいて一致し、同様に、「主噴射燃料MFを圧縮着火させる」と「プレ噴射燃料の燃え残りとメイン噴射燃料とにおいて自着火を発生させる」とは、「メイン噴射燃料において自着火を発生させる」という限りにおいて一致し、「主噴射燃料MFを燃焼させる」と「該プレ噴射燃料の燃え残りと該メイン噴射燃料を燃焼させる」とは、「メイン噴射燃料を燃焼させる」という限りにおいて一致している。

よって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
〔一致点〕
「内燃機関の燃焼室内に燃料を噴射可能な燃料噴射弁と、
前記燃料噴射弁から噴射された燃料噴霧が点火可能領域を通過し該燃料噴霧に直接に点火可能となるように、該燃料噴射弁に対する相対位置が決定された点火装置と、
圧縮行程中のプレ噴射時期に前記燃料噴射弁によるプレ噴射を実行するとともに該プレ噴射によって形成される燃料噴霧であるプレ噴霧に対し前記点火装置によって火花点火を行うことで、プレ噴射燃料の少なくても一部を燃焼させ、さらに、前記点火装置による前記プレ噴霧への点火後であり且つ圧縮行程上死点前の時期であって、前記プレ噴霧への点火によって生じた火炎を起点として噴射燃料の燃焼が開始されるように設定されたメイン噴射時期に前記燃料噴射弁によるメイン噴射の実行を開始することで、メイン噴射燃料において自着火を発生させるとともに少なくとも前記メイン噴射燃料の一部を拡散燃焼させて、メイン噴射燃料を燃焼させる所定燃焼制御を実行する燃焼制御手段と、を備える内燃機関の制御装置。」

〔相違点1〕
本願発明においては、プレ噴射燃料の「一部」を燃焼させるとともに「該プレ噴射燃料の燃え残り」を前記燃焼室内に生成させ、「プレ噴射燃料の燃え残り」とメイン噴射燃料とにおいて自着火を発生させ、該「プレ噴射燃料の燃え残り」と該メイン噴射燃料を燃焼させるのに対して、引用発明においては、補助噴射燃料AFが主として火炎伝播燃焼され、主噴射燃料MFを圧縮着火させ、主噴射燃料MFを燃焼させるものであるが、補助噴射燃料AFの燃え残りを前記燃焼室5内に生成させ、補助噴射燃料AFの燃え残りにおいて自着火を発生させ、補助噴射燃料AFの燃え残りを燃焼させるのか否か不明である点。

〔相違点2〕
本願発明においては「燃焼制御手段が所定燃焼制御を実行する運転領域において、内燃機関の機関負荷が所定負荷より高い場合は、該機関負荷が該所定負荷以下の場合に比べて、内燃機関の有効圧縮比または圧縮比を低くする圧縮比制御手段」を備えるのに対して、引用発明においてはかかる事項を備えていない点。

上記相違点1について検討する。
本願発明における「プレ噴射燃料の燃え残りを前記燃焼室内に生成させ」の技術的意義について検討する。
本願の発明の詳細な説明の段落【0021】には「本発明におけるプレ噴射燃料の燃え残りは、点火によって生じる火炎伝播による燃焼には供されずに該点火以後も燃焼室内に未燃の状態で残った燃料を指すものであり、その燃え残った燃料が特定の物性を示す状態になっていることが必ずしも要求されるものではない。」との記載がある。また、請求人は審判請求書(3.(c))において「本願の請求項1に係る『プレ噴射燃料の燃え残り』とは、火炎伝播の途中において残っている燃料ではなく、火炎伝播の完了後においても燃え残る燃料である。」と述べている。これらによれば、プレ噴射燃料の燃え残りとは、点火によって生じる火炎伝播による燃焼には供されず、該燃焼後、結果として燃焼室内に未燃の状態で存在している燃料のことと理解できる。
一方、噴射燃料に対して点火栓により点火を行う内燃機関において、燃焼室内における燃焼後、不可避的に燃料の燃え残りが生成されることは技術常識である。
また、引用文献1(段落【0018】)には、「成層混合気SGMが例えば圧縮行程末期に点火栓11により着火され、主として火炎伝播燃焼される。」との記載があり、成層混合気SGMの中には、火炎伝播燃焼に供されないものがあることが示唆されている。
そうすると、引用発明においても、補助噴射燃料AFの燃え残りが燃焼室5内に生成されることは示唆されているといえる。そして、補助噴射燃料AFの燃焼の後に主噴射燃料MFが圧縮着火されるのであるから、該補助噴射燃料AFの燃え残りは、主噴射燃料MFとともに圧縮着火され、燃焼されることは、当業者が容易に理解できることである。
そうすると、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明においても生じている現象ということができるので、上記相違点1は実質的なものではない。

上記相違点2について検討する。
上述のとおり、引用文献2記載事項は「予混合火花点火火炎伝播燃焼モードと圧縮自着火拡散燃焼モードを切り替えて運転される内燃機関において、予混合火花点火火炎伝播燃焼モードでも圧縮自着火拡散燃焼モードでも、機関負荷が高くなるにつれて圧縮比を下げていくこと。」というものであり、引用文献3記載事項は「圧縮自己着火による燃焼が実行される運転領域であるHCCI領域Aを有するエンジンにおいて、前記HCCI領域Aのうち、低負荷側の第1HCCI領域A1では、有効圧縮比を高めに設定し、高負荷側の第2HCCI領域A2では、負荷の増大とともに有効圧縮比を徐々に下げること。」というのものであるから、内燃機関において、機関負荷が高くなるにつれて圧縮比又は有効圧縮比を低くすることは、本願出願前に周知の技術(以下「周知技術」という。)であったといえる。
そして、内燃機関において、機関負荷が高くなると不適切なタイミングでの燃料の自着火が起こり易くなり、これによる不具合を解消するために、機関負荷が高くなるにつれて圧縮比を低くすることは、本願出願前に周知の事項(以下「周知事項」という。例えば、特開2004-263562号公報の段落【0033】ないし【0035】、特開2004-293368号公報の段落【0030】、特開2012-21533号公報の段落【0034】、特開平10-238374号公報の段落【0023】を参照。)である。
そうすると、引用発明においても、不適切なタイミングでの燃料の自着火が起こり易くなると不具合が生じることは、当業者であれば容易に理解できることであるから、引用発明において、周知技術及び周知事項を参酌し、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易に想到できたことである。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明、周知技術及び周知事項から予測し得ない格別な効果を奏するものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明、周知技術及び周知事項に基いて、当業者が容易になし得たものである。

第6 請求人の主張について
請求人は、審判請求書「3.(C)」において、「本願の請求項1に係る『プレ噴射燃料の燃え残り』とは、火炎伝播の途中において残っている燃料ではなく、火炎伝播の完了後においても燃え残る燃料である。したがって、本願の請求項1に係る『プレ噴射燃料の燃え残り』と、引用例1における補助噴射燃料AFの燃焼中に主噴射MFIが開始された場合の該主噴射MFI開始時点で残っている補助噴射燃料AFと、は明らかに異なるものであります。そのため、平成30年4月26日付意見書においても主張したように、そもそも、引用例1における『スパークアシスト拡散燃焼』は、本願の請求項1に係る『所定燃焼制御』とは全く異なる燃焼制御である。」と主張している。
しかしながら、上記「第5 対比・判断」で述べたとおり、本願発明と引用発明とは、相違点1及び相違点2に係る事項で相違し、その余の点では一致するものである。そして、相違点1についての検討で述べたとおり、噴射燃料に対して点火栓により点火を行う内燃機関において、燃焼室内における燃焼後、不可避的に燃料の燃え残りが生成されることは技術常識であり、引用発明においても、補助噴射燃料AFの燃え残りが燃焼室5内に生成されることは示唆されている。
そうすると、引用発明における「成層スパークアシスト燃焼」においては、本願発明における「所定燃焼制御」に係る発明特定事項と同様の燃焼プロセスが起こっているといえるから、引用発明における「成層スパークアシスト燃焼」は、本願発明における「所定燃焼制御」に相当するものである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、周知技術及び周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-09-03 
結審通知日 2019-09-10 
審決日 2019-09-24 
出願番号 特願2015-81523(P2015-81523)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 戸田 耕太郎  
特許庁審判長 水野 治彦
特許庁審判官 齊藤 公志郎
鈴木 充
発明の名称 内燃機関の制御装置  
代理人 平川 明  
代理人 関根 武彦  
代理人 今堀 克彦  
代理人 小久保 篤史  
代理人 宮下 文徳  
代理人 矢澤 広伸  
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