• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:356  C01F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01F
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01F
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:357  C01F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01F
管理番号 1356792
異議申立番号 異議2018-700647  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-06 
確定日 2019-09-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6277334号発明「酸化マグネシウム粉末、及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6277334号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕、〔6?7〕について訂正することを認める。 特許第6277334号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6277334号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、2017年(平成29年) 5月 1日(優先権主張 平成28年 5月13日 日本国)を国際出願日として特許出願され、平成30年 1月19日にその特許権の設定登録がされ、同年 2月 7日に特許掲載公報が発行され、同年 8月 6日付けで特許異議申立人笹倉 康助(以下、「申立人笹倉」という。)により請求項1に係る特許に対して特許異議の申立て(以下、申立人笹倉による特許異議の申立てを「異議申立1」といい、異議申立1の特許異議申立書を「申立書1」という。)がされ、同年 8月 7日付けで合同会社SAS(以下、「申立人SAS」という。)により全ての請求項に係る特許に対して特許異議の申立て(以下、申立人SASによる特許異議の申立てを「異議申立2」といい、異議申立2の特許異議申立書を「申立書2」という。)がされ、同年10月18日付けで当審より取消理由が通知され、同年12月13日に特許権者代理人 弁理士 梶崎 弘一らとの面接が行われ、同年12月20日付けで特許権者より意見書(以下、「特許権者意見書1」という。)の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、これに対し、平成31年 2月14日付けで申立人笹倉より意見書(以下、「笹倉意見書1」という。)が提出されたが、申立人SASからは指定期間内に応答がなされなかったものであり、その後、同年 4月17日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、令和 1年 6月11日付けで特許権者より意見書(以下、「特許権者意見書2」という。)が提出され、同年 7月10日付けで当審より申立人笹倉及び申立人SASの両者に対して審尋が通知され、これに対して、同年 7月30日付けで申立人SASより回答書(以下、「SAS回答書」という。)が提出され、同年 7月31日付けで申立人笹倉より意見書(以下、「笹倉意見書2」という。)が提出されたものである。

第2 本件訂正請求による訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「前記Fe元素の少なくとも一部が、クラスター構造を有している」と記載されているのを、
「前記Fe元素がクラスター構造を有している」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?5も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「を特徴とする酸化マグネシウム粉末。」と記載されているのを、
「を特徴とする焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム粉末。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?5も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に
「前記Fe元素の少なくとも一部にクラスター構造を形成する」と記載されているのを、
「前記Fe元素にクラスター構造を形成する」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に
「を含む酸化マグネシウム粉末の製造方法。」と記載されているのを、
「を含む焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム粉末の製造方法。」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。)。

2 訂正の目的の適否、新規事項、一群の請求項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1、3について
(ア)訂正事項1、3による訂正は、いずれも、訂正前には、「Fe元素」の一部が「クラスター構造を有している」ものを包含していたのを、訂正後には、「Fe元素」が「クラスター構造を有している」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)また、本件特許明細書の【0086】には、
「【0086】
図4に、実験例1でのEXAFS振動を示す。・・・実験例1についてのEXAFS解析の結果から、Feの最近接に4つのOが、第二近接にFe(3.1Å)とMg(3.3Å)が配位していることが明らかとなり、Fe-FeとFe-Mgが両方存在することから、Feが酸化マグネシウム中でクラスター構造をとっていると考えられる。これにより、実験例1とほぼ同じXANESスペクトル形状を有する実施例1及び実施例5についても、Feが酸化マグネシウム中でクラスター構造をとっていると考えられる。」(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)と記載されており、本件特許明細書には、本件発明において、「Fe元素」が酸化マグネシウム中で「クラスター構造」をとっていることが記載されているから、訂正事項1、3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
そして、訂正事項1、3による訂正は、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2、4について
(ア)訂正事項2、4による訂正は、いずれも、「酸化マグネシウム粉末」の用途を「焼鈍分離剤用」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)また、本件特許明細書の【0046】には、
「【0046】
[方向性電磁鋼板の焼鈍分離剤]
本発明の酸化マグネシウム粉末は、焼鈍分離剤として用いることが好ましく、方向性電磁鋼板の焼鈍分離剤として用いることがより好ましい。」と記載されており、願書に添付した明細書には、「酸化マグネシウム粉末」を「焼鈍分離剤」として用いることが記載されているから、訂正事項2、4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
そして、訂正事項2、4による訂正は、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)一群の請求項及び独立特許要件について
本件訂正前の請求項2?5は、訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?5は、一群の請求項である。
また、本件訂正前の請求項7は、訂正前の請求項6を引用するものであるから、本件訂正前の請求項6?7は、一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、これらの一群の請求項について訂正の請求をするものである。
また、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 むすび
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕、〔6?7〕について訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1?7に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
Fe元素を含有する酸化マグネシウム粉末であって、前記Fe元素の含有量が、0.03?0.20重量%であり、前記Fe元素がクラスター構造を有していることを特徴とする焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム粉末。
【請求項2】
BET比表面積が、10?40m^(2)/gである請求項1に記載の酸化マグネシウム粉末。
【請求項3】
体積収縮率が、20?80%である請求項1又は2に記載の酸化マグネシウム粉末。
【請求項4】
前記Fe元素の価数が、3価のものを含む請求項1?3のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム粉末。
【請求項5】
方向性電磁鋼板の焼鈍分離剤として用いることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム粉末。
【請求項6】
Fe元素を含有する酸化マグネシウム粉末の製造方法であって、
Fe化合物を得られる酸化マグネシウム粉末に対してFe換算で0.03?0.20重量%含有するように調整した酸化マグネシウム前駆体を焼成して、前記Fe元素にクラスター構造を形成する工程を含む焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム粉末の製造方法。
【請求項7】
前記Fe化合物は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、塩化物、硫酸塩、硫化物、硝酸塩、リン酸塩、及びケイ酸塩からなる群から選択される少なくとも1種である請求項6に記載の酸化マグネシウム粉末の製造方法。」

第4 異議申立理由
1 異議申立1の理由の概要
(1)各甲号証
甲第1-1号証:特開2011-127179号公報
甲第1-2号証:山田 久夫ら,MgOとFe_(2)O_(3)との反応とそのマグネシアの焼結に対する影響,窯業協会誌,社団法人窯業協会,昭和37年12月 1日,Vol.70 No.804,p.335-343
甲第1-3号証:実験報告書,株式会社日産アーク,平成30年 7月25日

(2)特許法第29条第1項(新規性)について(申立書1の4頁18行?8頁23行)
訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1-1号証、甲第1-2号証の記載事項、及び甲第1-3号証に記載のトレース実験の結果によれば、甲第1-1号証に記載された発明であるので、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである。

(3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について(申立書1の8頁24行?9頁8行)
本件特許明細書には、3価のFe元素を含む化合物をMgOの前駆体に添加した後に焼成することによって、「Fe元素の少なくとも一部が、クラスター構造を有している」MgOを得ることができることが記載されているが、それ以外の具体的な製造方法は記載されていない。
しかし、本件特許明細書の記載からは、3価のFe元素を含む化合物をMgOの前駆体に添加した後で焼成すれば、必ず「Fe元素の少なくとも一部がクラスター構造を有している」MgOを得られることが明らかでないから、訂正前の請求項1に係る発明は、いわゆる実施可能要件を満たしていないので、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

2 異議申立2の理由の概要
(1)各甲号証
甲第2-1号証:特開昭55-58331号公報
甲第2-2号証:特開昭54-66935号公報
甲第2-3号証:特開平9-256068号公報
甲第2-4号証:特開2011-127179号公報
甲第2-5号証:特開2012-1752号公報
甲第2-6号証:山田 久夫ら,MgOとFe_(2)O_(3)との反応とそのマグネシアの焼結に対する影響,窯業協会誌,社団法人窯業協会,昭和37年12月 1日,Vol.70 No.804,p.335-343
甲第2-7号証:K.Asakura et al.,EXAFS AND XANES STUDIES ON THE LOCAL STRUCTURES OF METAL IONS IN METAL DOPED MgO SYSTEMS,JOURNAL DE PHYSIQUE Colloques,1986,47(C8),p.C8-317-C8-320
甲第2-8号証:山本 孝,3d遷移金属のX線吸収スペクトルのプレエッジピークは電気四重極遷移か電気双極子遷移か?,X線分析の進歩38(X線工業分析 第42集),(社)日本分析化学会 X線分析研究懇談会,2007年 3月31日,p.45-65
甲第2-9号証:宇田川 康夫編,X線吸収微細構造-XAFSの測定と解析- 日本分光学会測定法シリーズ26,3刷,株式会社学会出版センター,1999年 6月10日,p.1-12

(2)特許法第29条第1項(新規性)または第2項(進歩性)について
(2-1)甲第2-1号証を主引用例とする場合について(申立書2の15頁下から3行目?22頁下から5行目)
訂正前の請求項1、2、4?7に係る発明は、甲第2-1号証に記載された発明であるか、甲第2-1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、訂正前の請求項請求項1、2、4?7に係る発明の特許は、特許法第29条第1項または第2項の規定に違反してなされたものである。
訂正前の請求項3に係る発明は、甲第2-1号証に記載された発明と、甲第2-4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、訂正前の請求項請求項3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(2-2)甲第2-2号証を主引用例とする場合について(申立書2の22頁下から4行目?28頁13行)
訂正前の請求項1、4?7に係る発明は、甲第2-2号証に記載された発明であるか、甲第2-2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、訂正前の請求項1、4?7に係る発明の特許は、特許法第29条第1項または第2項の規定に違反してなされたものである。
訂正前の請求項2に係る発明は、甲第2-2号証に記載された発明と、甲第2-3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、訂正前の請求項2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
訂正前の請求項3に係る発明は、甲第2-2号証に記載された発明と、甲第2-4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、訂正前の請求項3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(2-3)甲第2-3号証を主引用例とする場合について(申立書2の28頁14行?33頁10行)
訂正前の請求項1、2、4?7に係る発明は、甲第2-3号証に記載された発明であるか、甲第2-3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、訂正前の請求項1、2、4?7に係る発明の特許は、特許法第29条第1項または第2項の規定に違反してなされたものである。
訂正前の請求項3に係る発明は、甲第2-3号証に記載された発明と、甲第2-4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、訂正前の請求項3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(2-4)甲第2-4号証を主引用例とする場合について(申立書2の33頁11行?38頁11行)
訂正前の請求項1、3?7に係る発明は、甲第2-4号証に記載された発明であるか、甲第2-4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、訂正前の請求項1、3?7に係る発明の特許は、特許法第29条第1項または第2項の規定に違反してなされたものである。
訂正前の請求項2に係る発明は、甲第2-4号証に記載された発明と、甲第2-3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、訂正前の請求項2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(2-5)甲第2-5号証を主引用例とする場合について(申立書2の38頁12行?43頁11行)
訂正前の請求項1、3?7に係る発明は、甲第2-5号証に記載された発明であるか、甲第2-5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、訂正前の請求項1、3?7に係る発明の特許は、特許法第29条第1項または第2項の規定に違反してなされたものである。
訂正前の請求項2に係る発明は、甲第2-5号証に記載された発明と、甲第2-3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、訂正前の請求項2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(3)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について(申立書2の43頁下から6行目?55頁1行)
(ア)本件特許明細書の実験例1のXANESスペクトルのプレエッジピークの強度は強いが、実施例1、5のXANESスペクトルをみると、そのプレエッジピークの強度は非常に弱く、Feは6配位構造をとっていることが推測され、少なくとも実験例1と比較した場合、その強度は明らかに弱く、Feが実験例1と同じ4配位構造をとっているとは言い難いから、前記実施例1、5の「酸化マグネシウム粉末」は「クラスター構造」を有していない。

(イ)甲第2-9号証には、XANESは、EXAFSとは異なって標準的な方法がなく問題に応じて種々の解析を行う必要があることが記載されており、このことは技術常識であるところ、本件特許明細書には、XANESスペクトルの解析に当たり、どのような手法をもってしたかが何ら示されていない上に、前記実験例1と実施例1、5のXANESスペクトルの強度を比較して、両者が一致すると判断したとしても、明らかに異なるピーク強度を一致すると判断すべき合理的な理由は何ら示されていないから、当業者は、前記実施例1、5の「酸化マグネシウム粉末」が「クラスター構造」を有していると確認されたことを理解できない。

(ウ)甲第2-9号証より、EXAFSにはXANESとEXAFSとがあり、これらは、相補的な情報を与えるものであるが、前記実施例1、5について、XANES測定のみしか行っておらず、「クラスター構造」の有無を特定するには、不十分な実験しか行っていないことは明らかであるから、前記実施例1、5において、「クラスター構造」の必須の構造であるFe-Fe結合の存在を確認できていないので、前記実施例1、5が「クラスター構造」を有することが確認されているとはいえない。

(エ)本件特許の図面【図1】のXANESスペクトルから、少なくとも、前記実験例1及び実施例1、5とは、明確にFeの酸化状態(価数)が異なることが読み取れるにも関わらず、本件特許明細書においては、前記実験例1及び実施例1、5のFeの酸化状態(価数)はいずれも3価であると判断しており、明確に技術的な誤りがあり、明らかに異なる酸化状態(価数)をいずれも3価と判断すべき合理的な理由は一切示されていない。

(オ)以上のとおりであるので、当業者は、本件特許明細書、図面の記載及び甲第2-7号証?甲第2-9号証に記載される技術常識に基づき、前記実施例1、5の「酸化マグネシウム粉末」が「クラスター構造」を有していると理解できない。

(カ)そして、訂正前の請求項1?7に係る発明は、「酸化マグネシウム粉末」が「クラスター構造」を有することをもって課題を解決するものであり、このことと前記(オ)によれば、当業者は、本件特許明細書に、「クラスター構造」を有する「酸化マグネシウム粉末」が課題を解決していることが記載されていることを理解できない。

(キ)また、訂正前の請求項1?7に係る発明は、「酸化マグネシウム粉末」が、少なくとも一部に「クラスター構造」を有するものであり、「クラスター構造」の存在量に制限がないところ、当業者は、「クラスター構造」の存在量が微量な場合においても、課題を解決できることを認識できない。

(ク)したがって、訂正前の請求項1?7に係る発明は、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、訂正前の請求項1?7に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

(4)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について(申立書2の55頁2行?56頁17行)
(ア)当業者は、本件特許明細書、図面の記載及び甲第2-7号証?甲第2-9号証に記載される技術常識に基づき、前記実施例1、5の「酸化マグネシウム粉末」が「クラスター構造」を有していると理解できないことは、前記(3)(オ)のとおりである。

(イ)したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、訂正前の請求項1?7に係る発明における「酸化マグネシウム粉末」を製造できるように記載されているとはいえないから、訂正前の請求項1?7に係る発明の特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

(5)特許法第36条第6項第2号(明確性)について(申立書2の56頁18行?57頁16行)
(ア)本件特許明細書の【0013】と【0019】の記載からは、クラスター構造が、FeイオンがMgイオンと置換した構造なのか、FeイオンがMgイオンと置換した構造でないのかが不明確であるので、クラスター構造の構造が不明確である。

(イ)このため、訂正前の請求項1?7に係る発明は不明確であるので、訂正前の請求項1?7に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

第5 取消理由の概要
1 平成30年10月18日付け取消理由通知書について
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1-1)「クラスタ構造」の存在量について
訂正前の請求項1に係る発明は、「Fe元素の少なくとも一部が、クラスター構造を有している」との発明特定事項を有するものであり、「Fe元素」の「クラスター構造」の量が少なく、本件発明の課題を解決しないものも包含するから、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、訂正前の請求項2?7に係る発明についても同様である。

(1-2)「酸化マグネシウム粉末」の用途について
訂正前の請求項1に係る発明においては、「酸化マグネシウム粉末」を方向性電磁鋼板の焼鈍分離剤として用いることが特定されていないので、訂正前の請求項1に係る発明は、本件発明の課題とは無関係のものも包含するから、訂正前の請求項1に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、訂正前の請求項2?4、6、7に係る発明についても同様である。

(2)特許法第29条第1項(新規性)について
(2-1)甲第2-1号証を主引用例とする場合について
訂正前の請求項1?5に係る発明は、甲第2-1号証に記載された発明である。

(2-2)甲第2-2号証を主引用例とする場合について
訂正前の請求項1、4、5に係る発明は、甲第2-2号証に記載された発明である。

(2-3)甲第2-4号証を主引用例とする場合について
訂正前の請求項1、3?7に係る発明は、甲第2-4号証に記載された発明である。

2 平成31年 4月17日付け取消理由通知書(決定の予告)について
(1)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
甲第2-6号証に記載される試料の製造方法は、Fe_(2)O_(3)をMg(OH)_(2)に添加することによりFe化合物を含有する「酸化マグネシウム前駆体」を製造し、当該Fe化合物を含有する「酸化マグネシウム前駆体」を焼成する点、及び焼成温度が1000℃?1200℃である点で、本件発明に係る「焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム粉末」(以下、「本件酸化マグネシウム粉末」ということがある。)の製造方法と合致する。
ところが、甲第2-6号証の記載からみれば、甲第2-6号証に記載される試料の製造方法で製造される酸化マグネシウム中のFe元素は、hematiteやmagnesioferriteとして存在するのであって、Fe化合物に由来するFe元素が「クラスター構造」を形成しているとはいえない。
そうすると、甲第2-6号証に記載される試料の製造方法と、Fe_(2)O_(3)をMg(OH)_(2)に添加することによりFe化合物を含有する「酸化マグネシウム前駆体」を製造し、当該Fe化合物を含有する「酸化マグネシウム前駆体」を焼成するものであって、焼成温度が1000℃?1200℃である点で合致する、「本件酸化マグネシウム粉末」の製造方法により、Fe化合物に由来する「Fe元素」が「クラスター構造」を形成する「本件酸化マグネシウム粉末」が製造されるとはいえない。
なお、本件特許明細書には、実験例1の測定試料において、Fe^(3+)イオンがクラスター構造を形成することが記載されているが、当該測定試料は、Fe^(3+)をドープされたMgO試料なのであって、MgO-Fe_(2)O_(3)系を構成するものとはいえないから、Fe^(3+)イオンのクラスター構造は、Fe^(3+)をドープされた、MgO-Fe_(2)O_(3)系を構成しないMgO試料においてのみ形成されるものと考えるのが妥当である。
以上のとおりであるから、本件特許明細書に記載される製造方法により、Fe化合物に由来する「Fe元素」が「クラスター構造」を形成する「本件酸化マグネシウム粉末」が製造できるものとはいえず、本件特許の発明の詳細な説明は、「本件酸化マグネシウム粉末」を製造できるように記載されているとはいえないから、本件発明1?7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

第6 取消理由についての当審の判断
1 平成30年10月18日付け取消理由通知書について
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1-1)クラスタ構造の存在量について
(ア)本件特許明細書には、以下の記載がある。
(a)「【0003】
従来の焼鈍分離剤として、特許文献1には、均一で優れた被膜性能をもつグラス被膜を形成するために、MgOを主体として、Fe化合物を含有する焼鈍分離剤が提案されている。・・・
【0004】
一方、特許文献2には、コイルの内周形状が変形する問題を解消することを目的として、マグネシア(MgO)を主体として、Fe_(2)O_(3)を含有する焼鈍分離剤が提案されている。・・・
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2のように、焼鈍分離剤中にFe元素がFe_(2)O_(3)として存在しており、その添加量が制御されているだけでは、MgOの被膜反応性を十分高めることができず、被膜外観をさらに精度よくコントロールするのが困難である。一方で、被膜外観を向上させるため、粉体の被膜反応性を高めると、被膜反応性の高い粉体は、自己焼結反応性も高いため、焼鈍時の体積収縮率が大きくなり、コイル形状を保持することが困難である。
【0007】
そこで、本発明の目的は、焼鈍後のコイルの内周形状が変形することを抑制できるとともに、焼鈍後に十分に均一な被膜外観を得ることができる酸化マグネシウム粉末、およびその製造方法を提供することにある。」

(b)「【0073】
[方向性電磁鋼板での評価]
実施例及び比較例で得られた酸化マグネシウム粉末を方向性電磁鋼板の焼鈍分離剤として用いて、以下のような分析を行った。各分析結果を表1に示す。
【0074】
(4)体積収縮率
酸化マグネシウム粉末2.0gを圧力200kgf/cm^(2)(19.6MPa)で径20mmにプレス成型したものを測定に供した。焼成は1200℃、20時間で窒素雰囲気下にて実施した。体積収縮率(%)は、以下の通り算出して、評価した。
【0075】
体積収縮率(%)=(焼成前の体積-焼成後の体積)÷(焼成前の体積)×100
(5)コイル変形量
C:0.045mass%、・・・残部Feおよび不可避不純物の組成を有する電磁鋼板用スラブを、1200℃の温度に加熱後、熱間圧延し、2.2mm厚の熱延板とした。・・・その後、コイルを横置き状態として、横置き状態にしてから60分経過後の縦(径)方向の内径を測定し、コイル変形量(mm)を以下の通り計算した。コイル変形量が50mmを超えると、ペイオフリールに挿入することが出来ない。コイル変形量(mm)=(初期内径(500mm))-(60分経過後の内径(mm))
【0076】
(6)被膜外観
(5)と同様の工程後に、被膜外観を目視で観察した。被膜外観は、灰色のフォルステライト被膜の点状欠陥(ベアスポット)の個数(1000mm×1000mmあたり)を数え、下記の通り判断した。
【0077】
0個:◎
1-4個:○
5-10個:△
11個以上:×
【0078】
以上の分析および評価の結果を表1?2に示す。
【0079】
【表1】



(イ)本件発明1は、「Fe元素の含有量が、0.03?0.20重量%であり、前記Fe元素がクラスター構造を有している」、「焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム粉末。」との発明特定事項を有するものであり、前記発明特定事項からみれば、本件発明1は、「0.03?0.20重量%」の「Fe元素」が「クラスター構造を有している」ものであるから、「クラスター構造」の存在量の下限を「0.03重量%」に特定するものである。

(ウ)一方、前記(ア)(a)、(b)によれば、焼鈍分離剤中に「Fe元素」がFe_(2)O_(3)として存在しており、その添加量が制御されているだけでは、MgOの被膜反応性を十分高めることができず、被膜外観をさらに精度よくコントロールするのが困難である一方で、被膜外観を向上させるため、粉体の被膜反応性を高めると、被膜反応性の高い粉体は、自己焼結反応性も高いため、焼鈍時の体積収縮率が大きくなり、コイル形状を保持することが困難である、という従来の焼鈍分離剤の課題を、「Fe元素」の含有量が0.03?0.20重量%であり、前記「Fe元素」が「クラスター構造」を有する「本件酸化マグネシウム粉末」により解決できるものと認められる。

(エ)前記(イ)、(ウ)によれば、本件発明1は、「Fe元素」の「クラスター構造」の量が少なく、本件発明の課題を解決しないものを包含するものではなく、本件発明1の発明特定事項によって、前記課題を解決できるものというべきである。
そして、このことは、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2?5についても同様であり、更に、「Fe化合物を得られる酸化マグネシウム粉末に対してFe換算で0.03?0.20重量%含有するように調整した酸化マグネシウム前駆体を焼成して、前記Fe元素にクラスター構造を形成する工程を含む」との発明特定事項を有する本件発明6、及び、本件発明6を引用する本件発明7についても同様である。

(1-2)酸化マグネシウム粉末の用途について
(ア)本件発明1は、「焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム粉末。」との発明特定事項を有するものであり、前記発明特定事項からみれば、本件発明1は、「酸化マグネシウム粉末」を「焼鈍分離剤」として用いることを特定するものであるので、前記(1)(イ)に記載される本件発明の課題とは無関係のものを包含するものではない。

(イ)そして、このことは、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2?5についても同様であり、更に、「焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム粉末の製造方法。」との発明特定事項を有する本件発明6、及び、本件発明6を引用する本件発明7についても同様である。

(1-3)小括
したがって、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の規定に適合する。

(2)特許法第29条第1項(新規性)について
(2-1)甲第2-1号証を主引用例とする場合について
(2-1-1)甲第2-1号証の記載事項
甲第2-1号証には、以下の記載がある。
(1a)「1.方向性珪素鋼板の表面に主としてマグネシアからなる焼鈍分離剤を塗布してコイル状に巻取つた後高温焼鈍を施す方向性珪素鋼板のフオルステライト絶縁被膜形成方法において、マグネシアのクエン酸活性度測定方法による測定の際に供試マグネシア重量を変化させてクエン酸と最終的に反応するMgO重量の供試マグネシア重量に対する最終反応率の変化に伴うクエン酸活性度が添付第1図の点A、B、C、D、E、F、G、Hで囲まれる範囲内にある、活性度分布の狭い低活性マグネシアを焼鈍分離剤として使用することを特徴とする方向性珪素鋼板のフオルステライト絶縁被膜形成方法。」(特許請求の範囲)

(1b)「以上のように予備実験の結果及びクエン酸活性度の測定によるマグネシア活性度の分布についての情報から、・・・次には同一の原料水酸化マグネシウムを出来るだけ温度と雰囲気の分布が狭くなるように、ロータリーキルンでは単位時間当たりの焼成量が小なく、且つキルンの回転速度を増すようにして、また、マツフル炉では一回の装入量を減じて積み厚を少なくし、しかも焼成途中で何回も攪拌して均一化をはかる方法で焼成した。得られたMgOはいずれも従来から用いられていたMgOと比較してすぐれた均一性を有していたので活性度の水準の異なる5種類のMgOを選んで実験に供した。これらのMgOの粉体特性を第1表に、クエン酸活性度の最終反応率依存性を第3図にこれらのMgOを用いて得られた被膜の概況を第2表に示す。」(3頁左下欄16行?右下欄13行)

(1c)「

」(4頁)

(ア)前記(1a)によれば、甲第2-1号証には、「方向性珪素鋼板のフオルステライト絶縁被膜形成方法」に係る発明が記載されており、前記「方向性珪素鋼板のフオルステライト絶縁被膜形成方法」における「焼鈍分離剤」は、主としてマグネシアからなるものであって、活性度分布の狭い低活性マグネシアを使用するものであり、前記(1b)?(1c)によれば、不純物としてFeを0.03±0.01%含有するものである。
また、前記(1b)によれば、前記「焼鈍分離剤」は、同一の原料水酸化マグネシウムを出来るだけ温度と雰囲気の分布が狭くなるように、ロータリーキルンでは単位時間当たりの焼成量が小なく、且つキルンの回転速度を増すようにして、また、マツフル炉では一回の装入量を減じて積み厚を少なくし、しかも焼成途中で何回も攪拌して均一化をはかる方法で焼成したものである。

(イ)すると、甲第2-1号証には、
「主としてマグネシアからなり、活性度分布の狭い低活性マグネシアを使用する焼鈍分離剤であって、不純物としてFeを0.03±0.01%含有し、同一の原料水酸化マグネシウムを出来るだけ温度と雰囲気の分布が狭くなるように、ロータリーキルンでは単位時間当たりの焼成量が小なく、且つキルンの回転速度を増すようにして、また、マツフル炉では一回の装入量を減じて積み厚を少なくし、しかも焼成途中で何回も攪拌して均一化をはかる方法で焼成した、焼鈍分離剤。」の発明(以下、「甲2-1発明」という。)が記載されているといえる。

(2-1-2)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲2-1発明とを対比すると、技術常識からみて、主としてマグネシアからなる「焼鈍分離剤」が粉末であることは明らかであるから、甲2-1発明における「焼鈍分離剤」は、本件発明1における「焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム粉末」に相当する。

(イ)また、甲2-1発明における「焼鈍分離剤」は、Feを0.03±0.01%含有するものであって、Feの含有量が重量%であることは自明であるから、甲2-1発明は、「Fe元素を含有する」ものであって、「Fe元素の含有量が、0.03重量%?0.20重量%」である点で、本件発明1と一致する。

(ウ)すると、本件発明1と甲2-1発明とは、
「Fe元素を含有する酸化マグネシウム粉末であって、前記Fe元素の含有量が、0.03?0.20重量%である、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム粉末。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1-1:本件発明1は、「Fe元素がクラスター構造を有している」との発明特定事項を有するのに対して、甲2-1発明が前記発明特定事項を有するか否かが不明である点。

イ 判断
(ア)前記相違点1-1について検討すると、本件特許の発明の詳細な説明には、前記1(1)(1-1)(ア)(a)、(b)に加えて、以下の記載がある。
(c)「【0013】
本発明の酸化マグネシウム粉末は、Fe元素の価数が、3価のものを含むことが好ましい。クラスター構造は、詳細は後述の通りだが、MgO単位格子からMg^(2+)が空格子となり、その代わりにFe^(3+)が存在していると考えらえるため、クラスター構造を安定して形成するためには、Fe元素の価数は3価のものを含むことが好ましい。また、Fe元素の価数が3価のものを含むことで、低濃度でのクラスター化が可能となり、高い被膜反応性を有することができ、コイル変形抑制及び被膜外観改善を両立しながら解決するためには、より有利である。」

(d)「【0019】
[クラスター構造]
本発明の酸化マグネシウム粉末は、Fe元素を含有する酸化マグネシウム粉末であって、前記Fe元素の少なくとも一部が、クラスター構造を有していることを特徴とする。ここで、クラスター構造とは、一部のFeイオンがMgイオンと置換した構造(置換型の固溶体)ではなく、FeイオンがMgO単位格子中の別のサイトに集合して存在することを意味する。具体的には、MgO単位格子中の一部のMg^(2+)が空格子として抜け(Mg^(2+)欠陥)、その代わりにFeイオンがMgO単位格子中に集合して存在することでクラスター構造(Fe/MgOのクラスター構造)を形成することができる。例えば、MgO単位格子中の13個のMg^(2+)が空格子として抜け(Mg^(2+)欠陥)、その代わりに4つのFe^(3+)がMgO単位格子中の四面体サイトに集合して存在して、クラスター構造(Fe^(3+)/MgOのクラスター構造)を形成することができる。このようなFe^(3+)/MgOのクラスター構造としては、例えば、参考文献1(K. Asakura, Y. Iwasawa, H. Kuroda, “EXAFS AND XANES STUDIES ON THE LOCAL STRUCTURES OF METAL IONS IN METAL DOPED MgO SYSTEMS.” Journal de Physique Colloques, 47, C8-317-C8-320(1986).)の図6に構造モデルが提案されている。なお、クラスター構造は、以下に記載のように、XAFS(X線吸収微細構造、X-ray absorption fine structure)測定により特定することができる。」

(e)「【0041】
一方、上記のようにして得た水酸化マグネシウムは、そのまま酸化マグネシウム前駆体として用いて次の工程へ進むことができる。その場合、後述のようなFe化合物を酸化マグネシウム前駆体に添加等することにより含有させ、Fe化合物を含有する酸化マグネシウム前駆体を製造できる。・・・
【0042】
Fe化合物としては、Fe元素を含有する化合物であれば特に制限がないものの、クラスター構造を形成する観点から、酸化物、水酸化物、炭酸塩、塩化物、硫酸塩、硫化物、硝酸塩、リン酸塩、及びケイ酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。酸化物としては、FeO、Fe_(2)O_(3)、Fe_(3)O_(4)等の酸化鉄であることが好ましく、Fe/MgOのクラスター構造を形成する観点から、3価であるFe_(2)O_(3)であることがより好ましい。・・・
【0043】
前記のようなFe化合物を含有する酸化マグネシウム前駆体を焼成することによって、酸化マグネシウムの形成とともに、Fe元素の少なくとも一部にクラスター構造を形成することができる。本発明では、クラスター構造を形成するために、酸化マグネシウム前駆体を焼成する前に、Fe化合物を添加する等して、酸化マグネシウム前駆体にFe化合物を含有させる。なお、最終焼成前であればいずれのタイミングで添加しても良い。酸化マグネシウム前駆体を焼成後にFe化合物を含有させても、クラスター構造を形成できないため、所望の効果は得られない。焼成する温度は、MgO結晶中の少なくとも一部にFe/MgOクラスター構造を形成させることができれば限定されないものの、例えば、600℃?1200℃であることが好ましく、700?1100℃であることがより好ましい。・・・
【0044】
前記Fe化合物は、Fe元素をクラスター化して触媒作用を発現する観点から、酸化マグネシウム粉末中にFe換算で0.03?0.20重量%となるように含有させる。ここで、クラスター構造を安定化しつつ、Fe元素の触媒作用を向上する観点から、前記Fe化合物は、酸化マグネシウム粉末中にFe換算で0.04?0.19重量%含有することが好ましく、0.05?0.18重量%含有することがより好ましい。」

(f)「【0059】
[実験例1]
参考文献1(K.Asakura,Y.Iwasawa,H.Kuroda,“EXAFS AND XANES STUDIES ON THE LOCAL STRUCTURES OF METAL IONS IN METAL DOPED MgO SYSTEMS.” Journal de Physique Colloques,47,C8-317-C8-320(1986).)と同様の方法で、以下の通り、測定試料(酸化マグネシウム粉末)を作製した。
【0060】
硝酸鉄9水和物7.23gを純水20mlで溶解し、MgO試薬(和光純薬工業株式会社,純度99.9%)20.0gを加えて攪拌後、120℃で8時間乾燥した。乾燥後、乳鉢で粉砕して、アルミナ製ルツボに10gを入れ、N_(2)還元下で600℃で5時間焼成した。冷却後、乳鉢で粉砕して、測定試料(酸化マグネシウム粉末)を作製した。
【0061】
[実施例1]
海水と消石灰をモル比 Mg^(2+):OH^(-)=1:1.8で反応させ、得た水酸化マグネシウム(Mg(OH)_(2))を1400℃で焼成し、45μm passが99%以上になるようにボールミルで粉砕してMgOを得た。液温50℃の水に、濃度15重量%になるように、上記MgOを添加し、Mg(OH)_(2)を得た。得たMg(OH)_(2)にMgO中のホウ素(B元素)が0.2重量%となるようにホウ酸を添加し、MgO中の鉄(Fe元素)が0.10重量%になるようにFe_(2)O_(3)を添加した。その後、BET比表面積が表1となるようにリンドバーグ電気炉で温度を変えて焼成した後、粉砕して、酸化マグネシウム粉末を作製した。
・・・
【0064】
[実施例5]
塩化マグネシウムと消石灰をモル比Mg^(2+):OH^(-)=1:1.8で反応させ、150℃で8時間養生する事でMg(OH)_(2)を得た。得たMg(OH)_(2)にMgO中のホウ素が0.20重量%となるように窒化ホウ素を添加し、MgO中の鉄が0.18重量%になるようにFe_(2)O_(3)を添加した。その後、BET比表面積が表1となるようにリンドバーグ電気炉で温度を変えて焼成した後、粉砕して、酸化マグネシウム粉末を作製した。」

(g)「【0081】
図1に、実験例1、実施例1及び実施例5でのFe XANESスペクトル(規格化後の吸収スペクトル)を示す。図2に、比較例7?8でのFe XANESスペクトル(規格化後の吸収スペクトル)を示す。図3に、標準試料(Fe、FeO、Fe_(2)O_(3)及びFe_(3)O_(4))でのFe XANESスペクトル(規格化後の吸収スペクトル)を示す。ここで、規格化とは吸収端後の吸収スペクトルが1に収束するように係数をかけることを意味する。
【0082】
まず、規格化後の吸光度が0.5となるエネルギーを吸収端エネルギーとして、図1及び図3での吸収端エネルギーを比較する。図1の実験例1のXANESスペクトルの形状は、実施例1及び実施例5のXANESスペクトルの形状とほぼ同じであり、これらは同様の電子状態(例えば、価数)をとっていると判断できる。従って、以下では、実施例1を用いて具体的に説明する。・・・従って、実施例1とほぼ同じXANESスペクトル形状を有する実験例1及び実施例5についても、Feの酸化状態はいずれも3価であると考えられる。」

(h)「【0085】
実施例1及び実施例5のXANESスペクトルのパターンは、標準試料(Fe、FeO、Fe_(2)O_(3)及びFe_(3)O_(4))のいずれとも一致しなかったが、参考文献1中のFe XANESスペクトルのパターンとよく一致していた。参考文献1によると、Fe^(3+)はMgO中でクラスター構造を形成している(Fe^(3+)/MgOと表記する)と記載され、参考文献1の図6に構造モデルが提案されている。従って、実施例1及び実施例5は、Fe^(3+)/MgOと同様の化学状態(クラスター構造)を有していると推定できる。この推定を裏付けるために、参考文献1と同様の方法で測定試料(実験例1)を作製してEXAFS測定を行った。
【0086】
図4に、実験例1でのEXAFS振動を示す。・・・実験例1についてのEXAFS解析の結果から、Feの最近接に4つのOが、第二近接にFe(3.1Å)とMg(3.3Å)が配位していることが明らかとなり、Fe-FeとFe-Mgが両方存在することから、Feが酸化マグネシウム中でクラスター構造をとっていると考えられる。これにより、実験例1とほぼ同じXANESスペクトル形状を有する実施例1及び実施例5についても、Feが酸化マグネシウム中でクラスター構造をとっていると考えられる。
【0087】
そして、このようなクラスター構造を有するFe元素を所定量含有する実施例1?5の酸化マグネシウム粉末は、表1の結果が示すように、焼鈍後のコイルの内周形状が変形することを抑制できるとともに、焼鈍後に十分に均一な被膜外観を得ることができる。これに対して、クラスター構造を有さない比較例3,5?8は、コイル変形量及び被膜外観ともに、所望の効果が得られなかった。比較例4のように、Fe量が多すぎると、コイル変形量が大きくなってしまい、被膜外観には点状欠陥が確認され、良好な結果が得られなかった。・・・」

(i)「



(イ)前記(ア)(c)?(e)によれば、本件発明における「クラスター構造」は、FeイオンがMgイオンと置換した構造ではなく、FeイオンがMgO単位格子中の別のサイトに集合して存在することを意味するものであり、具体的には、MgO単位格子中の一部のMg^(2+)が空格子として抜け(Mg^(2+)欠陥)、その代わりにFeイオンがMgO単位格子中に集合して存在することでクラスター構造(Fe/MgOのクラスター構造)を形成するものである。
そして、「本件酸化マグネシウム粉末」は、Fe元素によりクラスター構造を形成するために、酸化物、水酸化物、炭酸塩などからなるFe化合物を、例として水酸化マグネシウムが示される「酸化マグネシウム前駆体」に添加した後に焼成して製造されるものであり、「酸化マグネシウム前駆体」を焼成後にFe化合物を含有させても、クラスター構造を形成できないものである。
また、前記(1)(1-1)(ア)(b)、前記(ア)(e)?(i)によれば、本件発明において「クラスター構造」を形成する「Fe元素」は、「酸化マグネシウム前駆体」に添加したFe化合物に由来する「Fe元素」なのであって、「酸化マグネシウム前駆体」に元々不純物として含まれる「Fe元素」が、本件発明における「クラスター構造」の形成に関わるものではない。

(ウ)一方、甲2-1発明における「Fe元素」は、元々不純物として含まれるものであって、このことと前記(イ)によれば、甲2-1発明において、「Fe元素がクラスター構造を有している」とはいえない。
したがって、前記相違点1-1は実質的な相違点であるので、本件発明1が甲2-1発明であるとはいえない。

(2-1-3)本件発明2?5について
(ア)本件発明2は本件発明1を引用するものであって、本件発明2と甲2-1発明とを対比すると、少なくとも前記(2-1-2)ア(ウ)の相違点1-1の点で相違している。
そして、前記相違点1-1が実質的な相違点であることは、前記(2-1-2)イ(ウ)に記載のとおりであるから、本件発明2が甲2-1発明であるとはいえない。

(イ)更に、このことは、同様に本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明3?5についても同様であるから、本件発明3?5が甲2-1発明であるとはいえない。

(2-1-4)小括
したがって、本件発明1?5が、甲第2-1号証に記載された発明であるとはいえない。

(2-2)甲第2-2号証を主引用例とする場合について
(2-2-1)甲第2-2号証の記載事項
甲第2-2号証には、以下の記載がある。
(2a)「1.方向性珪素鋼板の表面に主としてマグネシアからなる焼鈍分離剤を塗布してコイル状に巻取つた後高温焼鈍を施して、フオルステライト絶縁被膜を形成する方法において、焼鈍分離剤と共にコイル内に持込まれるCaO成分の量に応じてコイル内に持込まれる水分の量を管理することを特徴とする密着性の良い方向性珪素鋼板のフオルステライト絶縁被膜の形成方法。」(特許請求の範囲)

(2b)「第1図に同一のマグネシアを用いて、スラリ一温度、塗布量、乾燥方法などを変えてコイルへの持込み水分量を変えて焼鈍分離剤を塗布し、最終焼鈍の結果得られた被膜のフオルステライト粒度を調べた結果を示す。ここで用いたMgOは含有不純物の存在によって被膜の微細構造が影響されることを避けるため、特に精製した水酸化マグネシアを焼成して得られたものを用いた。用いたMgOの化学分析結果を第1表に示す。」(3頁左上欄9行?17行)

(2c)「

」(3頁右上欄)

(ア)前記(2a)によれば、甲第2-2号証には「方向性珪素鋼板のフオルステライト絶縁被膜の形成方法」に係る発明が記載されており、前記(2b)?(2c)によれば、当該「方向性珪素鋼板のフオルステライト絶縁被膜の形成方法」における、マグネシアからなる「焼鈍分離剤」は、焼成後のFe_(2)O_(3)の含有量が0.05wt%であるものであり、スラリーとして用いられるものである。
また、前記マグネシアからなる「焼鈍分離剤」は、精製した水酸化マグネシアを焼成して得られるものであり、前記Fe_(2)O_(3)は、不純物として含まれるものである。

(イ)すると、甲第2-2号証には、
「不純物としてFe_(2)O_(3)を含有する、マグネシアからなる焼鈍分離剤であって、精製した水酸化マグネシアを焼成して得られ、焼成後のFe_(2)O_(3)の含有量が0.05wt%であり、スラリーとして用いられる、焼鈍分離剤。」の発明(以下、「甲2-2発明」という。)が記載されているといえる。

(2-2-2)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲2-2発明とを対比すると、技術常識からみて、マグネシアからなる「焼鈍分離剤」が粉末であることは明らかであるから、甲2-2発明における「焼鈍分離剤」は、本件発明1における「焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム粉末」に相当する。

(イ)また、甲2-2発明における「焼鈍分離剤」は、「焼成後のFe_(2)O_(3)の含有量が0.05wt%である」ものであり、その場合、「Fe元素」の含有量は0.035重量%となるから、甲2-2発明は、「Fe元素を含有する」ものであって、「Fe元素の含有量が、0.03重量%?0.20重量%」である点で、本件発明1と一致する。

(ウ)すると、本件発明1と甲2-2発明とは、
「Fe元素を含有する酸化マグネシウム粉末であって、前記Fe元素の含有量が、0.03?0.20重量%である、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム粉末。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点2-1:本件発明1は、「Fe元素がクラスター構造を有している」との発明特定事項を有するのに対して、甲2-2発明が前記発明特定事項を有するか否かが不明である点。

イ 判断
(ア)前記相違点2-1について検討すると、甲2-2発明における「Fe元素」は、元々不純物として含まれるものであって、このことと、前記(2-1)(2-1-2)イ(イ)によれば、甲2-2発明において、「Fe元素がクラスター構造を有している」とはいえない。

(イ)したがって、前記相違点2-1は実質的な相違点であるので、本件発明1が甲2-2発明であるとはいえない。

(2-2-3)本件発明4、5について
(ア)本件発明4は直接的又は間接的に本件発明1を引用するものであって、本件発明4と甲2-2発明とを対比すると、少なくとも前記(2-2-2)ア(ウ)の相違点2-1の点で相違している。
そして、前記相違点2-1が実質的な相違点であることは、前記(2-2-2)イ(イ)に記載のとおりであるから、本件発明4が甲2-2発明であるとはいえない。

(イ)更に、このことは、同様に本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明5についても同様であるから、本件発明4、5が甲2-2発明であるとはいえない。

(2-2-4)小括
したがって、本件発明1、4、5が、甲第2-2号証に記載された発明であるとはいえない。

(2-3)甲第2-4号証を主引用例とする場合について
(2-3-1)甲第2-4号証の記載事項
甲第2-4号証には、以下の記載がある。
(4a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼鈍分離剤が塗布された鋼板を、コイル状に巻取り、900℃以上の温度で焼鈍する際に用いる該焼鈍分離剤であって、体積収縮率が20%以上60%以下であることを特徴とする焼鈍分離剤。
【請求項2】
前記焼鈍分離剤がマグネシアを主体とすることを特徴とする請求項1に記載の焼鈍分離剤。」

(4b)「【0016】
なお、焼鈍分離剤の体積収縮率を調整するには様々な手法が存在するが、例えばマグネシアを主体とする場合は、窯業協会誌70〔2〕1962 P335「MgOとFe_(2)O_(3)との反応とそのマグネシアの焼結に対する影響」に記載があるように、Fe_(2)O_(3)の含有量を制御することにより調整でき、同様にFe_(2)O_(3)以外の微量元素の含有量制御によっても調整出来る。
また、マグネシアの焼成温度が高いほうが、鋼板塗布後の焼鈍に於ける体積収縮率が低くなる。
【0017】
さらに、マグネシアの粒度分布を制御することによっても、体積収縮率を調整することが出来る。・・・マグネシアの粒度分布制御のみにて体積収縮率を適切な範囲に調整できない場合は、シリカ、珪酸化合物、アルミナなどを混合して調整することが出来る。」

(4c)「【実施例2】
【0025】
C:0.06mass%、・・・残部Feおよび不可避的不純物よりなる電磁鋼板用スラブを、1350℃で40分加熱後、熱間圧延して2.8mmの板厚にした後、・・・0.23mmの最終板厚に仕上げた。次いで、脱炭焼鈍後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布して、内径1000mmおよび外径2000mmのコイル状に巻取り、このコイルを縦置きして、1200℃まで25℃/hで昇熱を行う仕上焼鈍を施したのち、平坦化焼鈍を施した。このとき、焼鈍分離剤の体積収縮率を、表2に示すように変化させた。なお、体積収縮率は、分離剤の粒度及びFe_(2)O_(3)の含有量を変えることで調整した。
【0026】
表2から、焼鈍分離剤の体積収縮率は60%より大きいとコイルの変形が大きくなり、20%未満であると被膜均一性が劣ることがわかる。
なお、被膜外観並びにコイルの変形量は、上記した実施例1と同様に評価した。
【0027】
【表2】



(ア)前記(4a)?(4c)によれば、甲第2-4号証には「焼鈍分離剤」に係る発明が記載されており、前記「焼鈍分離剤」は、マグネシアを主体とするものであって、【表2】No.3?No.6に注目すると、Fe_(2)O_(3)を0.05mass%?0.20mass%含有するものとして、体積収縮率を30%以上60%以下に調整したものである。

(イ)すると、甲第2-4号証には、
「マグネシアを主体とする焼鈍分離剤であって、Fe_(2)O_(3)を0.05mass%?0.20mass%含有するものとして、体積収縮率を20%以上60%以下に調整した、焼鈍分離剤。」の発明(以下、「甲2-4発明」という。)が記載されているといえる。
また、甲第2-4号証には、
「マグネシアを主体とする焼鈍分離剤の製造方法であって、Fe_(2)O_(3)を0.05mass%?0.20mass%含有させて、体積収縮率を20%以上60%以下に調整する、焼鈍分離剤の製造方法。」の発明(以下、「甲2-4’発明」という。)が記載されているといえる。

(2-3-2)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲2-4発明とを対比すると、技術常識からみて、マグネシアを主体とする「焼鈍分離剤」が粉末であることは明らかであるから、甲2-4発明における「焼鈍分離剤」は、本件発明1における「焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム粉末」に相当する。

(イ)また、甲2-4発明における「焼鈍分離剤」は、「Fe_(2)O_(3)を0.05mass%?0.20mass%含有する」ものであり、その場合、「Fe元素」の含有量は0.035重量%?0.14重量%となるから、甲2-4発明は、「Fe元素を含有する」ものであって、「Fe元素の含有量が、0.03重量%?0.20重量%」である点で、本件発明1と一致する。

(ウ)すると、本件発明1と甲2-4発明とは、
「Fe元素を含有する酸化マグネシウム粉末であって、前記Fe元素の含有量が、0.03?0.20重量%である、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム粉末。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点4-1:本件発明1は、「Fe元素がクラスター構造を有している」との発明特定事項を有するのに対して、甲2-4発明は、前記発明特定事項を有するか否かが不明である点。

イ 判断
(ア)前記相違点4-1について検討すると、甲第2-4号証には、甲2-4発明が、「酸化マグネシウム前駆体」に、酸化物、水酸化物、炭酸塩などからなるFe化合物を添加した後に焼成するものであることは記載されていない。

(イ)ここで、前記(2-3-1)(4b)(【0016】)の記載は、甲第2-6号証である「窯業協会誌70〔2〕1962」の335頁の、Mg(OH)_(2)の焼成の際には、MgOとFe_(2)O_(3)の反応により、Fe_(2)O_(3)が体積収縮に影響を及ぼす旨の記載を引用して、MgOを主体とする焼鈍分離剤の体積収縮は、Fe_(2)O_(3)の含有量により制御できることを開示するものに過ぎず、焼鈍分離剤の製造方法として、同336頁に記載されるMgOの製造方法を引用するものではない。

(ウ)そうすると、甲第2-6号証をみても、甲2-4発明における焼鈍分離剤の製造方法は不明であるから、甲2-4発明が、「酸化マグネシウム前駆体」に、酸化物、水酸化物、炭酸塩などからなるFe化合物を添加した後に焼成したものとはいえないのであって、このことと、前記(2-1)(2-1-2)イ(イ)によれば、甲2-4発明において、「Fe元素がクラスター構造を有している」とまではいえない。

(エ)したがって、前記相違点4-1は実質的な相違点であるので、本件発明1が甲2-4発明であるとはいえない。

(2-3-3)本件発明3?5について
(ア)本件発明3は本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであって、本件発明3と甲2-4発明とを対比すると、少なくとも前記(2-3-2)ア(ウ)の相違点4-1の点で相違している。
そして、前記相違点4-1が実質的な相違点であることは、前記(2-3-2)イ(エ)に記載のとおりであるから、本件発明2が甲2-4発明であるとはいえない。

(イ)更に、このことは、同様に本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明4?5についても同様であるから、本件発明3?5が甲2-4発明であるとはいえない。

(2-3-4)本件発明6について
ア 対比
(ア)本件発明6と甲2-4’発明とを対比すると、技術常識からみて、「焼鈍分離剤」が粉末であることは明らかであるから、甲2-4’発明における「焼鈍分離剤の製造方法」は、本件発明6における「焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム粉末の製造方法」に相当する。

(イ)また、甲2-4’発明は、Fe_(2)O_(3)を0.05mass%?0.20mass%含有させて、体積収縮率を20%以上60%以下に調整するものであり、その場合、「Fe元素」の含有量は0.035重量%?0.14重量%となるから、甲2-4’発明は、「Fe元素を含有する酸化マグネシウム粉末の製造方法」であって、「Fe化合物を得られる酸化マグネシウム粉末に対してFe換算で0.03?0.20%含有するように調整」する工程を含む点で、本件発明6と一致する。

(ウ)すると、本件発明6と甲2-4’発明とは、
「Fe元素を含有する酸化マグネシウム粉末の製造方法であって、Fe化合物を得られる酸化マグネシウム粉末に対してFe換算で0.03?0.20%含有するように調整する工程を含む、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム粉末の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点4-2:本件発明6は、「Fe化合物を得られる酸化マグネシウム粉末に対してFe換算で0.03?0.20%含有するように調整した酸化マグネシウム前駆体を焼成して、前記Fe元素にクラスター構造を形成する工程を含む」との発明特定事項を有するのに対して、甲2-4’発明は、前記発明特定事項を有するか否かが不明である点。

イ 判断
(ア)前記相違点4-2について検討すると、甲2-4発明が、酸化物、水酸化物、炭酸塩などからなるFe化合物を、「酸化マグネシウム前駆体」に添加した後に焼成したものとはいえず、甲2-4発明において、「Fe元素がクラスター構造を有している」とまではいえないことは、前記(2-3-2)イ(ウ)に記載のとおりであり、同様の理由により、甲2-4’発明が、「Fe化合物を得られる酸化マグネシウム粉末に対してFe換算で0.03?0.20%含有するように調整した酸化マグネシウム前駆体を焼成して、前記Fe元素にクラスター構造を形成する工程を含む」ものとはいえないので、前記相違点4-2は実質的な相違点である。
したがって、本件発明6が甲2-4’発明であるとはいえない。

(2-3-5)本件発明7について
(ア)本件発明7は本件発明6を引用するものであって、本件発明7と甲2-4’発明とを対比すると、少なくとも前記(2-3-4)ア(ウ)の相違点4-2の点で相違している。
そして、前記相違点4-2が実質的な相違点であることは、前記(2-3-4)イ(ア)に記載のとおりであるから、本件発明7が甲2-4’発明であるとはいえない。

(2-3-6)小括
したがって、本件発明1、3?7が、甲第2-4号証に記載された発明であるとはいえない。

(3)むすび
以上のとおりであるので、前記第5の1(1)(1-1)、(1-2)、同(2)(2-1)?(2-3)の取消理由はいずれも理由がない。

2 平成31年 4月17日付け取消理由通知書(決定の予告)について
(1)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
(ア)特許権者意見書2によれば、甲第2-6号証(337頁右欄16行?340頁左欄29行、Fig.10.)においては、焼成原料中のFe_(2)O_(3)が数十μの粒塊状で散点し、かつ、焼成温度が1000℃以上であるので、MgO中で「Fe元素」はhematiteやmagnesioferriteとして存在するのに対して、本件特許明細書の実施例1、5においては、Fe_(2)O_(3)の平均粒子径が0.1?0.2μm程度と小さく、「酸化マグネシウム前駆体」であるMg(OH)_(2)中で微細かつ均一な混合がなされ、更に焼成温度が700?900℃であるので、「Fe元素」が「クラスター構造」を形成するものである。
なお、特許権者意見書2のFe_(2)O_(3)の平均粒子径に関する主張は、甲第2-6号証においては平均粒子径が数十μであり、MgO中で微細かつ均一に混合されるものではないのに対して、実施例1、5においては、平均粒子径が、「酸化マグネシウム前駆体」であるMg(OH)_(2)中で微細かつ均一な混合がなされる程度のサブミクロンオーダーであり、甲第2-6号証と実施例1、5とではFe_(2)O_(3)の平均粒子径が著しく異なり、MgO中の存在形態が異なることをいうものと認められる。

(イ)ところが、本件特許明細書には、実施例1、5におけるFe_(2)O_(3)の平均粒子径及び焼成温度が記載されていないので、本件特許明細書の記載から、実施例1、5において、焼成原料中のFe_(2)O_(3)の平均粒子径がサブミクロンオーダーであることが理解できるか否か、また、焼成温度を700?900℃とすることを当業者が過度の試行錯誤をすることなくなし得るか否かについて検討する。
本件特許明細書には、焼成原料中に添加されるFe_(2)O_(3)について特段の記載がないのであって、その場合、当業者は、技術常識に基づいて、前記Fe_(2)O_(3)として市販の試薬が用いられると理解するものであるが、特許権者が令和 1年 8月27日に提出したキシダ化学株式会社の酸化鉄(III)〔第二〕の製品カタログの「サイズca.0.3μ」との記載や、戸田工業株式会社のTodaColorトダカラー[着色用酸化鉄]のカタログの品質特性表における「銘柄(Brand)」「100ED」?「130ED」、「KN-O」、「KN-R」、「130R」、?「580R」の「BET平均粒径」の記載、あるいは、特開2013-185104号公報(【0066】)の「Sigma-Aldrich社製 酸化鉄(III)(Fe_(2)O_(3)、粒子径:D_(10)=0.04μm,D_(50)=0.11μm,D_(90)=0.28μm)」との記載によれば、市販のFe_(2)O_(3)として平均粒子径がサブミクロンオーダーのものが用いられることは明らかであるから、実施例1、5において、焼成原料中のFe_(2)O_(3)として平均粒子径がサブミクロンオーダーのものが用いられることは、技術常識に基づいて当業者が理解できるものである。
また、実施例1、5においては、BET比表面積が前記1(1)(1-1)(ア)(b)の【0079】【表1】となるような焼成温度で焼成した後、粉砕して、「本件酸化マグネシウム粉末」を製造するものであるが、BET比表面積と焼成温度が負の相関関係を有することは技術常識といえ、かつ、前記1(2)(2-1)(2-1-2)イ(ア)(e)(【0043】)には、焼成温度として、「600?1200℃であることが好ましく、700?1100℃であることがより好ましい。」と記載されているから、実施例1、5において前記【表1】のBET比表面積となる焼成温度を見いだすのに、過度な試行錯誤を強いるものとはいえず、かつ、特許権者意見書2に記載される700?900℃という焼成温度は、前記(e)に記載される温度範囲に含まれるものである。
これらのことからみれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、技術常識に基づいて、実施例1、5において、焼成原料中のFe_(2)O_(3)の平均粒子径が、「酸化マグネシウム前駆体」であるMg(OH)_(2)中で微細かつ均一な混合がなされる程度のサブミクロンオーダーであることを理解でき、また、焼成温度を700?900℃とすることを、過度の試行錯誤をすることなくなし得るものである。

(ウ)更に、「本件酸化マグネシウム粉末」が「クラスター構造」を有し、前記1(1)(1-1)(ウ)の課題を解決するものであるか否かについて検討すると、前記1(2)(2-1)(2-1-2)イ(ア)(d)によれば、本件特許明細書に記載される参考文献1である甲第2-7号証には、「Fe元素」が「クラスター構造」を有している「酸化マグネシウム粉末」の構造モデルが提案され、また、そのような「酸化マグネシウム粉末の製造方法」が記載されるものであり、同(f)によれば、本件特許明細書の実験例1は、甲第2-7号証と同様の方法で測定試料の「酸化マグネシウム粉末」を製造したものであり、一方、実施例1、5は、本件発明にのっとって「本件酸化マグネシウム粉末」を製造したものである。
そして、同(f)?(i)によれば、実験例1のXANESスペクトルの形状は、実施例1、5のXANESスペクトルの形状とほぼ一致しており(【図1】)、これらは同様の電子状態をとっていると判断でき、実験例1、実施例1、5において、Feの酸化状態はいずれも3価であると考えられるものであり、甲第2-7号証と同様の方法で製造した実験例1は、EXAFS解析の結果(【図4】)から、「Fe元素」が「クラスター構造」をとっていると考えられるものであり、そのような実験例1のXANESスペクトルのパターンとパターンがよく一致する実施例1、5は、「Fe元素」が酸化マグネシウム中で「クラスター構造」を有していると考えられるものであって、EXAFS解析の結果、「Fe元素」が「クラスター構造」をとっていると考えられる実験例1のXANESスペクトルのパターンと、実施例1、5のXANESスペクトルのパターンがほぼ一致することにより、実施例1、5において、実験例1と同様に「Fe元素」が「クラスター構造」を有している、とする解析手法が、解析手法として不十分なものであるとはいえないし、実施例1、5において、「Fe元素」が「クラスター構造」を有しないことを示す具体的な証拠もない。
しかして、前記(b)、(f)?(i)によれば、実施例1、5の「本件酸化マグネシウム粉末」は、焼鈍後のコイルの内周形状が変形することを抑制できるとともに、焼鈍後に十分に均一な被膜外観を得ることができ、前記1(1)(1-1)(ウ)の課題を解決できるものである。

(エ)前記(ア)?(ウ)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、少なくとも実施例1、5により、「Fe元素」が「クラスター構造」を有し、前記第6の1(1)(1-1)(ウ)の課題を解決できる「本件酸化マグネシウム粉末」を製造できることを理解できるから、本件特許明細書の記載は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものといえるので、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定に適合するというべきである。

(2)SAS回答書及び笹倉意見書2について
(2-1)SAS回答書の主張の概要
申立人SASのSAS回答書における主張の概要は、以下のとおりである。
(ア)特許権者は、特許権者意見書2の3頁27行?44行において、甲第2-6号証の酸化マグネシウムの製造方法と、本件特許明細書の酸化マグネシウムの製造方法とは、相違点(1)?(3)(当審注:「(1)」?「(3)」は「○に1」?「○に3」と表記されている。以下、同様である。)において大きく異なるから、甲第2-6号証の記載に基づいて、本件特許明細書の実施可能要件は判断できない旨を主張している。

(イ)前記相違点(1)について、水和する前の酸化マグネシウムが「45μm篩通過が99%以上」であったというのは、その平均粒径が10μm程度であることを何ら示すものではなく、水和したときの水酸化マグネシウムの平均粒子径が1μm程度であると推定できる根拠とはならない。
更に、実施例で使用したFe_(2)O_(3)粒子の平均粒子径が0.1?0.2μm程度であったことは、本件特許明細書に何ら記載がなく、これを裏付ける資料も提出されていない。

(ウ)前記相違点(2)について、BET比表面積は、焼成温度のみならず、そのほかの要因によっても左右されるにもかかわらず、特許権者は、実施例1?5の酸化マグネシウムの焼成温度をBET比表面積から700?900℃と特定しており、このような主張は受け入れられない。

(エ)前記相違点(3)について、特許権者が、プレス成形により粒子表面での各成分のミクロな流動や拡散が抑制されると主張することに、何ら技術的な根拠はなく、むしろ、粉末をプレス成形することで、粒子間の空隙が減少し、粒子同士は十分に近接、接触するから、結果として粒子表面でのミクロな流動、拡散は起こりやすくなると考えられ、また、800kg/cm^(2)程度の圧力は、結晶相に影響を与えることはない。

(オ)特許権者は、特許権者意見書2の4頁10行?13行及び14行?16行において、本件特許明細書に記載された製造方法は、甲第2-6号証の製造方法よりも、Fe^(3+)が均一に拡散しやすい実験例1の製造方法により近いといえる旨を主張しており、これは、本件特許明細書に記載された製造方法が、前記実験例1と同様に、Fe^(3+)をドープされたMgOを焼成するものであることをいうものと思われる。
ところが、特許権者が主張する、実施例におけるFe_(2)O_(3)粒子は平均粒子径0.1?0.2μm程度であって、MgO中でFe_(2)O_(3)単位が集合する反応場としては、Feの原子半径の126pmに対して十分に大きいから、本件特許明細書に記載される製造方法は、依然としてMgO-Fe_(2)O_(3)径におけるものといえ、Fe^(3+)が原子レベルで拡散している実験例1の製造方法とは明らかに異なる。

(カ)特許権者は、実施例1等の酸化マグネシウムについて、実験例1とのXANESスペクトルの比較による構造評価から、クラスター構造を形成しているとも述べているが、このXANESスペクトルの比較にあたり、適切な構造評価をしているとは到底いえない。
なお、特許権者は、特許権者意見書1の3頁26行?28行において、「『クラスター構造』を形成する上で、Fe元素を含む化合物が固体(元素の集合体)として、酸化マグネシウム前駆体中に存在することが重要となります。」と述べており、この主張は、特許権者意見書2の前記(オ)の主張と正反対の主張である。

(キ)以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであって、平成31年 4月17日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知された取消理由により取り消されるべきものである。

(ク)なお、仮に、特許権者意見書において特許権者が述べることを事実として考慮したとしても、実施可能要件は、当業者が、本件特許明細書及び図面に記載された事項並びに出願時の技術常識に基づいて、本件発明を実施できるか否かにより判断されるものであり、本件特許明細書には、実施例の酸化マグネシウムの製造方法に関して、水酸化マグネシウム粒子とFe_(2)O_(3)粒子の平均粒子径及び焼成温度は明記されておらず、これらの条件なしに本件特許明細書に記載された実施例の酸化マグネシウムを製造することは不可能である。

(ケ)また、本件特許明細書には、前記(ク)のとおり、重要な製造条件である水酸化マグネシウム粒子とFe_(2)O_(3)粒子の平均粒子径及び焼成温度が示されておらず、それどころか、酸化マグネシウム前駆体が、最終焼成前にFe化合物を含有してさえいれば、クラスター構造を有する酸化マグネシウムを製造できると記載されており、これは甲第2-6号証に記載された事実からして明らかな誤りであり、これらにより、当業者は、本件発明の酸化マグネシウムの製造方法を理解できないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないので、取り消されるべきものである。

(2-2)笹倉意見書2の主張の概要
申立人笹倉の笹倉意見書2における主張の概要は、以下のとおりである。
(ア)前記(2)(2-1)(ア)の相違点(1)について、本件特許明細書には、「水酸化マグネシウム粒子とFe_(2)O_(3)粒子の平均粒子径が1μm程度以下である」ことについては何ら記載されていないし、このことについて何ら証拠などを示していないから、前記相違点(1)の主張は採用できないことは明らかである。
また、特許権者は、本件発明の実施例の平均粒子径とBET比表面積を根拠として、本件発明の製造方法においてFeが分散している旨を主張しているが、このうち平均粒子径は、焼成後に粉砕した後の状態の平均粒子径であって、本件発明において粒子が分散している根拠にはならない。更に、BET比表面積は、焼成温度の代わりに目標値として設定されているに過ぎず、焼成後のBET比表面積と粉砕後の平均粒子径をもって粒子が分散したことを示す根拠にはならないから、前記相違点(1)の主張は採用できない。

(イ)前記(2)(2-1)(ア)の相違点(2)について、本件特許明細書には、焼成温度を「700?900℃」にすることについての記載がなく、好ましい範囲として「600?1200℃」と記載されているだけであるから、前記相違点(2)の主張は採用できない。

(ウ)前記(2)(2-1)(ア)の相違点(3)について、酸化マグネシウムの粒子間隔が狭い方がFeの拡散が向上するから、高圧プレス成型することは何ら問題とならないので、前記相違点(2)の主張は採用できない。

(エ)特許権者は、特許権者意見書2において、甲第2-6号証の平衡状態図について、決定の予告は、特許権者意見書2の4頁に示される平衡状態図のA領域で議論されているが、本件特許は、焼成される原料混合物がより微細かつ均一な混合がなされているため、甲第2-6号証と比べてより平衡状態に近く、かつより低温での焼成となるため、前記平衡状態図のB領域で生成物の議論を行う必要がある旨を主張している。
しかしながら、本件発明において焼成される原料混合物がより微細かつ均一な混合がなされていることや、低温での焼成がなされていることは断定できないので、特許権者の前記主張は前提を欠く。
また、MgOにFe_(2)O_(3)粒子を添加した系におけるFeの拡散に着目した議論であるので、Fe-richで議論することに問題はない。

(オ)特許権者は、特許権者意見書2において、決定の予告に対する反論に終始しているだけで、本件特許が実施可能要件を満たしていることについての説明が十分になされていない。
例えば、本件特許明細書には、Fe_(2)O_(3)粒子を分散させるための粒子の平均粒径や形状あるいは物理的な分散条件など何ら記載されておらず、実施可能要件を満たしていない。
また、平衡状態図には、クラスター構造の存在について記載も示唆もされていないから、クラスター構造はFe元素のドープによる特異的な状態であり、本件特許明細書には、Feのクラスター構造を生成させる具体的な方法は、何ら開示されていない。

(カ)以上のことから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないので、取り消されるべきものである。

(2-3)判断
(ア)本件特許明細書の記載に接した当業者は、技術常識に基づいて、実施例1、5において、焼成原料中のFe_(2)O_(3)の平均粒子径が、「酸化マグネシウム前駆体」であるMg(OH)_(2)中で微細かつ均一な混合がなされる程度のサブミクロンオーダーであることを理解でき、また、焼成温度を700?900℃とすることを、過度の試行錯誤をすることなくなし得ること、実施例1、5は、「Fe元素」が酸化マグネシウム中で「クラスター構造」を有していると考えられるものであって、EXAFS解析の結果、「Fe元素」が「クラスター構造」をとっていると考えられる実験例1のXANESスペクトルのパターンと、実施例1、5のXANESスペクトルのパターンがほぼ一致することにより、実施例1、5において、実験例1と同様に「Fe元素」が「クラスター構造」を有している、とする解析手法が、解析手法として不十分なものであるとはいえないし、実施例1、5において、「Fe元素」が「クラスター構造」を有しないことを示す具体的な証拠もないこと、実施例1、5の「本件酸化マグネシウム粉末」は、焼鈍後のコイルの内周形状が変形することを抑制できるとともに、焼鈍後に十分に均一な被膜外観を得ることができ、前記1(1)(1-1)(ウ)の課題を解決できること、これらのことから、本件特許明細書の記載に接した当業者は、少なくとも実施例1、5により、「Fe元素」が「クラスター構造」を有し、前記1(1)(1-1)(ウ)の課題を解決できる「本件酸化マグネシウム粉末」を製造できることを理解できることは、前記(1)(イ)?(エ)に記載のとおりである。
そして、これらのことは、本件特許明細書の記載事項及び技術常識に基づいていえるものであるから、前記(2-1)(ア)の相違点(1)?(3)についての特許権者の主張が妥当であるか否かや、甲第2-6号証のMgOとFe_(2)O_(3)の相互作用や平衡状態図に関する記載事項に左右されるものではない。

(イ)また、特許権者意見書2の前記(2-1)(オ)の主張は、実施例1、5における「本件酸化マグネシウム粉体」の製造方法が、Fe元素を含む化合物が固体として「酸化マグネシウム前駆体」中に存在するものであっても、焼成原料中のFe_(2)O_(3)の平均粒子径が、「酸化マグネシウム前駆体」であるMg(OH)_(2)中で微細かつ均一な混合がなされる程度のサブミクロンオーダーであり、Fe^(3+)が均一に拡散しやすい実験例1の製造方法により近いことをいうものと認められ、実験例1と同じく、MgO粉末にFe^(3+)をドープするものであることをいうものとは認められず、特許権者意見書1の3頁26行?28行の主張と矛盾しない。

(ウ)更に、前記(ア)によれば、本件特許明細書には、MgO粉末にFe^(3+)をドープする製造方法でなくても、「Fe元素」が「クラスター構造」を有する「本件酸化マグネシウム粉末」が製造できることが記載されているといえ、加えて、申立書1の7頁下から6行目?8頁21行及び甲第1-3号証によれば、水酸化マグネシウムに酸化鉄を0.05、0.20質量%配合し、メノウ乳鉢で40分間乾式混合し、得られた粉末をアルミナ製の匣鉢に入れ、箱型電気炉に静置し、200℃/hで昇温し1000℃で1hキープして製造された「酸化マグネシウム粉末」は、XANESスペクトル及びEXAFS解析の結果、クラスター構造をとるものとされており、甲第1-3号証による「酸化マグネシウム粉末」の製造方法も、MgO粉末にFe^(3+)をドープするものではないにも関わらず、「Fe元素」が「クラスター構造」を有していると考えられるものである。
すると、「酸化マグネシウム粉末」の製造方法がMgO粉末にFe^(3+)をドープするものでなくても、「Fe元素」が「クラスター構造」を有することは、本件特許明細書のみならず、申立書1の7頁下から6行目?8頁21行及び甲第1-3号証によっても裏付けられるものといえ、「酸化マグネシウム粉末」の製造方法がMgO粉末にFe^(3+)をドープするものでない場合、「Fe元素」が酸化マグネシウム中で「クラスター構造」とはならないことを示す具体的な証拠もない。
してみれば、「酸化マグネシウム前駆体」が最終焼成前にFe化合物を含有してさえいれば、「クラスター構造」を有する「本件酸化マグネシウム粉末」を製造できる、との本件特許明細書の記載が、甲第2-6号証の記載からして明らかな誤りであるということはできないし、「クラスター構造」がFe^(3+)のドープによる特異的な状態であるともいえない。

(エ)したがって、SAS回答書及び笹倉意見書2の主張はいずれも採用できない。

(3)むすび
以上のとおりであるので、前記第5の2(1)の取消理由は理由がない。

第7 異議申立についての当審の判断
1 異議申立1について
(1)特許法第29条第1項について
(ア)甲第1-1号証、甲第1-2号証は、それぞれ、甲第2-4号証、甲第2-6号証と同じものであり、甲第2-6号証をみても、本件発明1が甲2-4発明であるとはいえないことは、前記第6の1(2)(2-3)(2-3-2)イ(ウ)、(エ)に記載のとおりである。

(イ)また、甲2-4発明が、「酸化マグネシウム前駆体」に、酸化物、水酸化物、炭酸塩などからなるFe化合物を添加した後に焼成したものとはいえないことは、前記第6の1(2)(2-3)(2-3-2)イ(ウ)に記載のとおりであり、そうすると、「酸化マグネシウム前駆体」に、酸化鉄(Fe_(2)O_(3))からなるFe化合物を添加した後に焼成した甲第1-3号証の実験は、甲2-4発明について適切な追試を行ったものとはいえないので、本件発明1が甲第1-1号証に記載された発明とはいえない。

(2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
(ア)本件特許明細書の記載に接した当業者は、少なくとも実施例1、5により、「Fe元素」が「クラスター構造」を有し、前記第6の1(1)(1-1)(ウ)の課題を解決できる「本件酸化マグネシウム粉末」を製造できることを理解できるから、本件特許明細書の記載は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものといえるので、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定に適合するというべきであることは、前記第6の2(1)(エ)に記載のとおりである。

(イ)そして、本件特許明細書に、3価のFe元素を含む化合物をMgOの前駆体に添加した後に焼成する方法以外の具体的な製造方法が記載されていないとしても、前記(ア)の事項に変わりはないから、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定に適合するというべきである。

(3)笹倉意見書1について
(3-1)笹倉意見書1の主張の概要
(3-1-1)特許法第29条第1項について
(ア)甲第2-6号証の記載からみれば、甲第2-4号証は、Fe_(2)O_(3)を酸化マグネシウム前駆体であるMg(OH)_(2)に添加した後に焼成することを明記している。

(イ)前記第6の1(2)(2-3)(2-3-1)(4b)(【0017】)によれば、甲第2-4号証においては、調整材料にFeが含まれていないことから、Fe_(2)O_(3)を焼成前に添加しているといえる。

(3-1-2)特許法第36条第4項第1号、第6項第1号について
(ア)本件特許の実施例1?3は、海水と消石灰から製造され、実施例5は塩化マグネシウムと消石灰から製造されており、消石灰は、通常、石灰石を焼成した生石灰を水和させることで製造する石灰乳であり、石灰石中の不純物として存在しているFeを反応生成物中の水酸化マグネシウムに含有している。

(イ)したがって、不純物の金属が固溶体として存在し、Fe元素がクラスター化しにくいのであれば、実施例1?3、5はクラスター化していないFeを含むこととなり、請求項1に含まれないことになる。
そして、本件特許明細書においてクラスター構造を確認しているのは実施例1及び5のみであるから、本件特許明細書には、訂正後の請求項1に記載された発明の実施例についての記載がなく、実施可能要件及びサポート要件を具備しない。

(ウ)また、本件特許明細書において全てのFe元素がクラスター構造を有していることの確認を行っていないから、この点においても、サポート要件を具備しない。

(3-2)判断
(3-2-1)特許法第29条第1項について
(ア)甲第2-6号証をみても、甲2-4発明における焼鈍分離剤の製造方法は不明であるから、甲2-4発明が、「酸化マグネシウム前駆体」に、酸化物、水酸化物、炭酸塩などからなるFe化合物を添加した後に焼成したものとはいえないことは、前記第6の1(2)(2-3)(2-3-2)イ(ウ)に記載のとおりである。

(イ)また、同(2-3-1)(4b)(【0017】)の記載は、マグネシアの粒度分布を制御することによっても、体積収縮率を調整することができ、マグネシアの粒度分布制御のみにて体積収縮率を適切な範囲に調整できない場合は、シリカ、珪酸化合物、アルミナなどを混合して調整することができることをいうものに過ぎず、甲2-4発明が、「酸化マグネシウム前駆体」に、酸化物、水酸化物、炭酸塩などからなるFe化合物を添加した後に焼成したものであることをいうものではない。

(ウ)してみれば、甲2-4発明が、「酸化マグネシウム前駆体」に、酸化物、水酸化物、炭酸塩などからなるFe化合物を添加した後に焼成したものであるとはいえないことに変わりはないので、申立人笹倉の前記(3-1)(3-1-1)(ア)、(イ)の主張はいずれも採用できない。

(3-2-2)特許法第36条第4項第1号、第6項第1号について
(ア)申立人笹倉は、申立書1において特許法第36条第6項第1号については主張していないから、この点について、笹倉意見書1は意見の内容が実質的に新たな内容を含むものであると認められるが、以下、まとめて検討すると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、少なくとも実施例1、5により、「Fe元素」が「クラスター構造」を有し、前記第6の1(1)(1-1)(ウ)の課題を解決できる「本件酸化マグネシウム粉末」を製造できることを理解できることは、前記第6の2(1)(エ)に記載のとおりである。

(イ)そして、本件発明において「クラスター構造」を形成する「Fe元素」は、「酸化マグネシウム前駆体」に添加したFe化合物に由来する「Fe元素」なのであって、「酸化マグネシウム前駆体」に元々不純物として含まれる「Fe元素」が本件発明における「クラスター構造」の形成に関わるものではないことは、前記第6の1(2)(2-1)(2-1-2)イ(イ)に記載のとおりであるから、元々不純物として含まれる「Fe元素」がクラスター化していないとしても、「酸化マグネシウム前駆体」に添加したFe化合物に由来する「Fe元素」がクラスター化していると考えられる実施例1、5は、本件発明1、6に含まれるものというべきである。

(ウ)また、前記(ア)、(イ)の事項は、元々不純物として含まれる「Fe元素」も含む、全ての「Fe元素」が「クラスター構造」を有していることの確認を行っていないことに左右されるものではないから、本件特許明細書及び特許請求の範囲は、実施可能要件及びサポート要件を満足するものというべきである。

(エ)したがって、申立人笹倉の前記(3-1)(3-1-2)(ア)?(ウ)の主張はいずれも採用できない。

(4)むすび
以上のとおりであるので、前記第4の1(2)及び(3)の異議申立理由はいずれも理由がない。

2 異議申立2について
(1)特許法第29条第1項及び第2項について
(ア)前記第6の1(2)(2-1)(2-1-2)ア(ウ)、同(2-2)(2-2-2)ア(ウ)、同(2-3)(2-3-2)ア(ウ)、同(2-3)(2-3-4)ア(ウ)の記載事項と、甲第2-3号証、甲第2-5号証の記載事項によれば、甲第2-1号証?甲第2-5号証のいずれにも、「焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム粉末」において、「Fe元素の含有量が、0.03?0.20重量%であり、前記Fe元素がクラスター構造を有している」こと、及び、「焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム粉末の製造方法」において、「Fe化合物を得られる酸化マグネシウム粉末に対してFe換算で0.03?0.20重量%含有するように調整した酸化マグネシウム前駆体を焼成して、前記Fe元素にクラスター構造を形成する工程を含む」ことは、記載も示唆もされていない。

(イ)したがって、本件発明1?7は、甲第2-1号証?甲第2-5号証に記載される発明であるとはいえないし、甲第2-1号証?甲第2-5号証に記載される発明と、甲第2-3号証及び甲第2-4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)、第4項第1号(実施可能要件)について
(ア)前記第6の1(2)(2-1)(2-1-2)イ(ア)(g)?(i)によれば、本件特許明細書には、EXAFS解析の結果、「Fe元素」が「クラスター構造」をとっていると考えられる実験例1のXANESスペクトルのパターンと、実施例1、5のXANESスペクトルのパターンがほぼ一致することにより、実施例1、5において、実験例1と同様に「Fe元素」が「クラスター構造」を有している、とする解析手法が記載されているのであり、実施例1、5のXANESスペクトルのプレエッジピークが、実験例1のXANESスペクトルのプレエッジピークと比較して非常に弱いとは認められないし、本件特許図面の【図1】のXANESスペクトルから、実験例1及び実施例1、5とは、明確にFeの酸化状態が異なることが読み取れるともいえない。
また、前記解析手法が解析手法として不十分なものであるとはいえないことは、前記第6の2(1)(ウ)に記載のとおりである。

(イ)そして、本件特許明細書の記載に接した当業者は、少なくとも実施例1、5により、「Fe元素」が「クラスター構造」を有し、前記第6の1(1)(1-1)(ウ)の課題を解決できる「本件酸化マグネシウム粉末」を製造できることを理解できることは、前記第6の2(1)(エ)に記載のとおりである。

(ウ)更に、本件発明1は、「0.03?0.20重量%」の「Fe元素」が「クラスター構造」を有しているものであるから、「クラスター構造」の存在量の下限を特定しないものとはいえないことは、前記第6の1(1)(1-1)(イ)に記載のとおりであり、このことは、本件発明6についても同様である。

(エ)したがって、本件発明1、6は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するというべきであり、このことは、本件発明1、6を直接的又は間接的に引用する本件発明2?5及び7についても同様であり、また、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するというべきである。

(3)特許法第36条第6項第2号(明確性)について
(ア)上記第6の1(2)(2-1)(2-1-2)イ(ア)(c)、(d)によれば、本件特許の発明の詳細な説明の【0013】、【0019】は、どちらも、酸化マグネシウム粉末においてFe^(3+)によりクラスター構造が形成されることをいうものと認められ、具体的には、MgO単位格子中の一部のMg^(2+)が空格子として抜け(Mg^(2+)欠陥)、その代わりにFeイオンがMgO単位格子中に集合して存在することでクラスター構造(Fe/MgOのクラスター構造)を形成することができるものであり、例えば、MgO単位格子中の13個のMg^(2+)が空格子として抜け(Mg^(2+)欠陥)、その代わりに4つのFe^(3+)がMgO単位格子中の四面体サイトに集合して存在して、クラスター構造(Fe^(3+)/MgOのクラスター構造)を形成することができることをいうものと認められる。

(イ)そして、【0013】に、クラスター構造が、一部のFeイオンがMgイオンと置換した構造(置換型の固溶体)であることが記載されるものでもないから、【0013】、【0019】の記載から、クラスター構造が不明確であるとはいえないので、本件発明1、6は明確であるというべきである。
したがって、本件発明1、6は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合する。
そして、このことは、本件発明1、6を直接的又は間接的に引用する本件発明2?5及び7についても同様である。

(4)むすび
以上のとおりであるので、前記第4の2(2)?(5)の異議申立理由はいずれも理由がない。

第8 むすび
以上のとおり、異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書で通知された取消理由によっては、本件請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe元素を含有する酸化マグネシウム粉末であって、前記Fe元素の含有量が、0.03?0.20重量%であり、前記Fe元素がクラスター構造を有していることを特徴とする焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム粉末。
【請求項2】
BET比表面積が、10?40m^(2)/gである請求項1に記載の酸化マグネシウム粉末。
【請求項3】
体積収縮率が、20?80%である請求項1又は2に記載の酸化マグネシウム粉末。
【請求項4】
前記Fe元素の価数が、3価のものを含む請求項1?3のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム粉末。
【請求項5】
方向性電磁鋼板の焼鈍分離剤として用いることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム粉末。
【請求項6】
Fe元素を含有する酸化マグネシウム粉末の製造方法であって、
Fe化合物を得られる酸化マグネシウム粉末に対してFe換算で0.03?0.20重量%含有するように調整した酸化マグネシウム前駆体を焼成して、前記Fe元素にクラスター構造を形成する工程を含む焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム粉末の製造方法。
【請求項7】
前記Fe化合物は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、塩化物、硫酸塩、硫化物、硝酸塩、リン酸塩、及びケイ酸塩からなる群から選択される少なくとも1種である請求項6に記載の酸化マグネシウム粉末の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-09-02 
出願番号 特願2017-545702(P2017-545702)
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (C01F)
P 1 651・ 121- YAA (C01F)
P 1 651・ 113- YAA (C01F)
P 1 651・ 357- YAA (C01F)
P 1 651・ 356- YAA (C01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 廣野 知子  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 小川 進
金 公彦
登録日 2018-01-19 
登録番号 特許第6277334号(P6277334)
権利者 神島化学工業株式会社
発明の名称 酸化マグネシウム粉末、及びその製造方法  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  
代理人 特許業務法人ユニアス国際特許事務所  
代理人 山田 哲也  
代理人 樺澤 聡  
代理人 樺澤 襄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ