• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特29条の2  H01M
管理番号 1356809
異議申立番号 異議2018-700691  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-21 
確定日 2019-09-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6282997号発明「電池用包装材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6282997号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。 特許第6282997号の請求項1?8に係る特許を維持する。 特許第6282997号の請求項9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6282997号の請求項1?9に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成25年2月18日に出願した特願2013-29516号の一部を平成27年4月24日に新たな特許出願としたものであって、平成30年2月2日付けでその特許権の設定登録がなされ、同年2月21日に特許掲載公報が発行され、その後、同年8月21日付けで特許異議申立人岡林茂(以下、「申立人」という。)より全請求項に対して特許異議の申立てがなされ、同年10月30日付けで取消理由が通知され、これに対して、同年12月27日付けで特許権者より意見書が提出されるとともに、訂正請求がなされ、平成31年2月14日付けで申立人より意見書が提出され、同年3月5日付けで訂正拒絶理由が通知され、これに対して、特許権者より同年3月26日付けで意見書が提出され、令和1年5月21日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対して、令和1年7月5日付けで特許権者より意見書が提出されるとともに、訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたものである。
なお、申立人に対し、期間を指定して、本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)についての意見を求めたが、当該期間中に申立人からの意見はなかった。

第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
本件訂正は、特許第6282997号の特許請求の範囲を本件訂正に係る訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?9について訂正を求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
なお、当審で訂正箇所に下線を付した。

(1)訂正事項1
請求項1について、本件訂正前の「前記絶縁層は、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物であり、」を「前記絶縁層は、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物(ただし、不飽和カルボン酸またはその酸無水物とラウリルメタクリレートとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含む樹脂組成物の硬化物を除く)であり、」と訂正する。
請求項1を引用する請求項2?8も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
請求項8について、本件訂正前の「絶縁層の厚みが0.1μm?20μmである、請求項1?6のいずれかに記載の電池用包装材料の製造方法」を「絶縁層の厚みが0.1μm?20μmであり、前記工程後に、前記積層体を前記シーラント層の融点以上の温度で加熱する工程をさらに備える、請求項1?6のいずれかに記載の電池用包装材料の製造方法」と訂正する。

(3)訂正事項3
請求項9を削除する。

2 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の「不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物」について、先行技術との重複を避けるために、「ただし、不飽和カルボン酸またはその酸無水物とラウリルメタクリレートとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含む樹脂組成物の硬化物を除く」としたものである。
したがって、訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、さらに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した範囲内の訂正である。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項9に記載された「前記工程後に、前記積層体を前記シーラント層の融点以上の温度で加熱する工程をさらに備える」事項を、請求項8に繰り入れるものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、さらに、本件明細書等に記載した範囲内の訂正である。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項9を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

以上によれば、訂正事項1?3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないから、同法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであり、また、願書に添付した明細書等に記載した範囲内の訂正であるから、同法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

3 独立特許要件
本件は、訂正前の全請求項について特許異議申立がなされているので、訂正事項1?3について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項は適用されない。

4 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?9は、請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?9は一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、そのような一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?9〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

5 本件訂正請求のむすび
以上のとおり、令和元年7月5日に特許権者が行った本件訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とするものであり、同法第120条の5第4項の規定に適合し、同法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものであるから、特許請求の範囲の請求項1?9について、結論のとおり訂正することを認める。

第3 特許異議申立について
1 本件発明
令和元年7月5日に特許権者が行った請求項1?9についての訂正は、上記第2で検討したとおり、適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?9(以下、これらを請求項数に応じて、それぞれ「本件発明1」?「本件発明9」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?9に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とがこの順に積層された積層体からなり、
前記絶縁層は、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物(ただし、不飽和カルボン酸またはその酸無水物とラウリルメタクリレートとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含む樹脂組成物の硬化物を除く)であり、
前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%であり、
前記硬化剤は、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、これらをポリマー化またはヌレート化したもの、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、変性ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、及びポリグリセリンポリグリシジルエーテルからなる化合物の群から選択された少なくとも1種であり、
絶縁層の厚みが0.1μm?20μmである、電池用包装材料。
【請求項2】
前記変性ポリプロピレン系樹脂は、ホモポリプロピレン及びプロピレン共重合体の少なくとも一方のプロピレン系樹脂が、前記不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性されたものである、請求項1に記載の電池用包装材料。
【請求項3】
前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、80モル%?100モル%である、請求項1または2に記載の電池用包装材料。
【請求項4】
前記硬化剤は、2種類以上の前記化合物により構成されている、請求項1?3のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項5】
前記樹脂組成物において、前記硬化剤の含有量は、前記変性ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、0.1質量部?50質量部の範囲にある、請求項1?4のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項6】
前記金属層がアルミニウム箔により形成されている、請求項1?5のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項7】
正極、負極、及び電解質を備えた電池素子が、請求項1?6のいずれかに記載の電池用包装材料により封止されてなる、電池。
【請求項8】
少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とをこの順に積層して積層体を得る工程を備え、
前記工程において、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物から前記絶縁層を形成し、
前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%であり、
前記硬化剤は、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、これらをポリマー化またはヌレート化したもの、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、変性ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、及びポリグリセリンポリグリシジルエーテルからなる化合物の群から選択された少なくとも1種であり、
絶縁層の厚みが0.1μm?20μmであり、
前記工程後に、前記積層体を前記シーラント層の融点以上の温度で加熱する工程をさらに備える、請求項1?6のいずれかに記載の電池用包装材料の製造方法。
【請求項9】
(削除)」

2 令和1年5月21日付けで通知された取消理由(決定の予告)の概要
(1)特許法第29条の2(拡大先願)について
本件特許の請求項1?8に係る発明は、本件特許の出願の日前の特許出願又は実用新案登録出願であって、本件特許の出願後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされた下記アの特許出願又は実用新案登録出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明又は考案と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が本件特許の出願前の特許出願又は実用新案登録出願に係る上記の発明又は考案をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許又は実用新案登録出願の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

<特許出願>
ア 国際出願PCT/JP2013/050466(以下、「先願」という。国際公開第2013/114934号(申立人が提出した甲第1号証(以下、「甲1」という。)参照。)

また、申立人は平成31年2月14日付け意見書において、下記のイ?エの文献を挙げて、特許法第29条の2の申立理由について、周知技術を主張している。
イ 特開2008-230198号公報(申立人が提出した甲第7号証:以下、「甲7」という。)
ウ 特開2009-238475号公報(申立人が提出した甲第8号証:以下、「甲8」という。)
エ 特開2010-212070号公報(申立人が提出した甲第9号証:以下、「甲9」という。)

3 平成30年10月30日付けで通知された取消理由の概要
(1)特許法第29条の2(拡大先願)について
上記2の(1)と同じ。

4 上記2、3以外の特許異議申立理由
(1)特許法第29条第2項(進歩性)について
本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

<刊行物>
オ 特開2001-176467号公報(申立人が提出した甲第2号証:以下、「甲2」という。)
カ 国際公開第2012/0190646号(申立人が提出した甲第3号証:以下、「甲3」という。)
キ 特開2011-98759号公報(申立人が提出した甲第4号証:以下、「甲4」という。)
ク 「DURANATE HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)のエキスパート」(https://www.akcpc.jp/duranate/hyoujyun.html)、旭化成(公知日不明)(申立人が提出した甲第5号証:以下、「甲5」という。)
ケ 特開2011-181218号公報(申立人が提出した甲第6号証:以下、「甲6」という。)

・請求項1?6、8について:甲3、甲4
・請求項7について:甲3、甲4、甲2(周知技術を示す文献)
・請求項9について:甲3、甲4、甲6
(いずれも主たる文献は、甲3である。)

5 甲号証の記載事項
(1) 先願明細書等(甲1)の記載
先願の国際出願の明細書、請求の範囲及び図面(以下、これらをまとめて「先願明細書等」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当審で付した。 以下、同じ。
ア 明細書の記載
「[0001]本発明は、例えば、ノートパソコン用、携帯電話用、車載用、定置型のリチウムイオン二次電池等の二次電池のケースとして好適に、或いは食品、医薬品の包装材として好適な包装材に関する。」
「[0014]本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、電解液の影響を受けて層間ラミネート強度が低下することを防止できると共に、充放電の繰り返しによる発熱や包装材の膨張、収縮の影響を受けて層間ラミネート強度が低下することも防止できる、層間のラミネート強度に優れた成形用包装材を提供すること、及び、このような層間のラミネート強度に優れた成形用包装材を生産性良く製造することのできる製造方法を提供することを目的とする。」
「[0039]本発明に係る成形用包装材1の一実施形態を図1に示す。この成形用包装材1は、例えば、上面が開口された略直方体形状等に成形されてリチウムイオンポリマー二次電池のケースとして用いられるものである。
[0040]前記成形用包装材1は、金属箔層4の一方の面に第2接着剤層11を介して耐熱性樹脂層(外側層)2が積層一体化されると共に、前記金属箔層4の他方の面に第1接着剤層5を介してポリプロピレン層(内側層)3が積層一体化されてなる。
[0041]前記金属箔層4の少なくとも内側の面(ポリプロピレン層3側の面)4aに化成処理が施され、該金属箔層4の内側の化成処理面4aに第1接着剤層5が積層されている。
[0042]前記第1接着剤層5は、前記金属箔層4の内側の化成処理面4aに、少なくとも
(A)有機溶媒と、
(B)該有機溶媒に溶解され、130℃で測定したMFR(メルトフローレート)が5g/10分?42g/10分である、カルボキシル基を有するポリオレフィン樹脂と、
(C)多官能イソシアネート化合物と、 を含有してなる第1接着剤を塗布することによって形成されたものである。」
「[0058]前記第1接着剤(処理液)を構成する有機溶媒(A成分)としては、接着剤組成物の加熱等により、揮発させ、除去することが容易な有機溶媒であることが好ましい。このような有機溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶剤、n-ヘキサン等の脂肪族系有機溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族系有機溶剤、メチルエチルケトン等のケトン系有機溶剤、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系有機溶媒等が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
[0059]中でも、前記有機溶媒(A成分)としては、アルコール系有機溶媒(エタノール、イソプロピルアルコール等)を少なくとも含む構成であるのが好ましく、この場合には接着剤の貯蔵安定性を向上させることができる。さらに、前記有機溶媒の全量に対するアルコール系有機溶媒の含有比率は0.1質量%?20質量%に設定されるのが好ましく、中でも0.3質量%?10質量%に設定されるのが特に好ましい。
[0060]前記カルボキシル基を有するポリオレフィン樹脂(B成分、D成分)としては、例えば、不飽和カルボン酸又は/及びその誘導体で変性されたポリオレフィン等が挙げられる。前記変性としては、グラフト付加変性などが挙げられる。
[0061]前記不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体としては、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸等が挙げられる。これらのエチレン性不飽和カルボン酸は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
[0062]これらの中でも、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物でグラフト付加変性されたポリプロピレンを用いるのが好ましく、特に無水マレイン酸でグラフト付加変性されたポリプロピレンが好適である。」
「[0067]また、前記B成分の融点は、好ましくは50℃?90℃、より好ましくは60℃?85℃である。融点が前記好適範囲内であれば、高温下においても大きいラミネート強度を得ることができる。」
「[0070]前記多官能イソシアネート化合物としては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するものであれば、特に限定されず、芳香族系、脂肪族系、脂環族系の各種イソシアネート化合物、更には、これらのイソシアネート化合物の変性物を用いることができる。具体例としては、トルエンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物、及びこれらの化合物をイソシアヌレート変性、ビュレット変性、トリメチロールプロパン等の多価アルコールでアダクト変性した変性物、イソシアネートをブロック剤でマスクして安定化したブロック型イソシアネート等が挙げられる。中でも、1分子中に3個以上のイソシアネート基を有する化合物を用いるのが好ましい。前記多官能イソシアネート化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、前記第1接着剤(処理液)において、前記多官能イソシアネート化合物は、通常、有機溶媒に溶解している。
[0071]
前記第1接着剤(処理液)におけるカルボキシル基含有ポリオレフィン樹脂(B成分、D成分)と、多官能イソシアネート化合物との含有割合については、特に限定されないが、多官能イソシアネート化合物が有するイソシアネート基(NCO)と、ポリオレフィン樹脂(B成分、D成分)が有するカルボキシル基を構成するヒドロキシル基(OH)との当量比(NCO/OH)が、0.01?12.0であるのが好ましい。前記当量比(NCO/OH)が0.01?12.0であれば、特に初期の接着性に優れた第1接着剤組成物とすることができると共に、十分な架橋密度を有し、且つ柔軟性等に優れた硬化物(第1接着剤層)を形成することができる。中でも、前記当量比(NCO/OH)は、より好ましくは0.04?12.0、更に好ましくは0.1?12.0、特に好ましくは0.1?9.0である。なお、カルボキシル基含有ポリオレフィン樹脂としてB成分のみを含有する場合には、当量比=(NCO)/(B成分のOH)であり、カルボキシル基含有ポリオレフィン樹脂としてB成分及びD成分を含有する場合には、当量比=(NCO)/(B成分のOH+D成分のOH)である。」
「[0083]<原材料>
(合成例1)カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J
メタロセン触媒を重合触媒として用いて製造した、プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体(MFR:10g/10分、融点:85℃;以下、「プロピレン系ランダム共重合体A」という)100質量部、無水マレイン酸2質量部、ラウリルメタクリレート1質量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5質量部を、シリンダー部の最高温度を170℃に設定した二軸押出機を用いて混練して反応させた。その後、押出機内にて減圧脱気を行い、残留する未反応物を除去して、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J(B成分)を合成した。このカルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂Jは、130℃で測定したMFRが12g/10分であり、カルボキシル基の含有量は、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂(樹脂J)1g当たり0.4mmolであった。」
「[0092]<実施例1>
トルエン(有機溶媒;A成分)850g、130℃で測定したMFRが12g/10分である、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J(B成分)150g、HDI(多官能イソシアネート化合物;C成分)15gを配合してなる第1接着剤E(処理液)を作製した。前記第1接着剤Eの固形分含有率は15質量%である。また、前記第1接着剤Eにおいて、B成分(カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂)は、溶媒のトルエンに溶解している。
[0093]厚さ40μmのアルミニウム箔4の両面に、ポリアクリル酸、三価クロム化合物、水、アルコールからなる化成処理液を塗布し、180℃で乾燥を行って、クロム付着量が10mg/m^(2)となるようにした後、このアルミニウム箔4の一方の面に厚さ25μmの二軸延伸ポリアミドフィルム(二軸延伸ナイロンフィルム)(耐熱性樹脂層)2を二液硬化型のウレタン系接着剤11でドライラミネートし、次いでアルミニウム箔4の他方の面4aに、前記第1接着剤E(処理液)をグラビアロール法で塗布した後、200℃の熱風乾燥炉を通過させることによって、加熱による焼き付けを行って、固着量2g/m^(2)の第1接着剤層5を形成せしめて、積層体30を得、次いで、図2に示すように、押出機の押出ダイス20から押し出したプロピレン-エチレン共重合体樹脂(DSCで測定した融点が140℃、230℃で測定したMFRが21g/10分)3Xを40μmの厚さで前記第1接着剤層5の未積層面(何も積層されていない面)5aに押出ラミネート法により積層一体化することにより、図1に示す成形用包装材1を得た。」

イ 請求の範囲の記載
「[請求項1]外側層としての耐熱性樹脂層と、内側層としてのポリプロピレン層と、これら両層間に配設された金属箔層とを含む成形用包装材であって、
前記金属箔層の少なくとも内側の面に化成処理が施され、前記金属箔層の内側の化成処理面に接着剤層を介して前記ポリプロピレン層が積層され、
前記接着剤層は、前記金属箔層の内側の化成処理面に、少なくとも有機溶媒と、該有機溶媒に溶解され、130℃で測定したMFRが5g/10分?42g/10分である、カルボキシル基を有するポリオレフィン樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含有してなる接着剤を塗布することによって形成されたものであることを特徴とする成形用包装材。」

ウ 図面の記載
「[図1]



エ 先願明細書等に記載された発明
(ア)上記アの[0093]には、アルミニウム箔4の一方の面に二軸延伸ポリアミドフィルム2を二液硬化型のウレタン系接着剤11でドライラミネートし、次いでアルミニウム箔4の他方の面4aに、第1接着剤E(処理液)をグラビアロール法で塗布した後、加熱による焼き付けを行って、第1接着剤層5を形成せしめて積層体30を得、次いで、プロピレン-エチレン共重合体樹脂3Xを第1接着剤層5の未積層面5aに積層一体化することにより、「成形用包装材1」を得たことが記載されている。
(イ)上記アの[0092]には、第1接着剤E(処理液)は、トルエン850g、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J150g、HDI(多官能イソシアネート化合物)15gを配合してなるものであることが記載されている。
(ウ)上記アの[0083]には、プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体100質量部、無水マレイン酸2質量部、ラウリルメタクリレート1質量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5質量部を混練して反応させて、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂Jを合成したことが記載されている。
(エ)上記アの[0093]の記載によれば、第1接着剤層5は固着量2g/m^(2)で形成されたものである。
(オ)上記アの[0093]に記載された「成形用包装材1」は、上記アの[0001]の記載からすると、リチウムイオン二次電池のケースとして用いられるものである。
(カ)上記(オ)を勘案すると、上記アの[0001]には、「成形用包装材1」で包装されたリチウムイオン二次電池が記載されているといえる。
(キ)上記(ア)?(オ)より、先願明細書等には、次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
「アルミニウム箔4の一方の面に二軸延伸ポリアミドフィルム2を二液硬化型のウレタン系接着剤11でドライラミネートし、次いでアルミニウム箔4の他方の面4aに、第1接着剤E(処理液)をグラビアロール法で塗布した後、加熱による焼き付けを行って、第1接着剤層5を形成せしめて積層体30を得、次いで、プロピレン-エチレン共重合体樹脂3Xを第1接着剤層5の未積層面5aに積層一体化することにより得られる、成形用包装材1であって、
前記第1接着剤E(処理液)は、トルエン850g、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J150g、HDI(多官能イソシアネート化合物)15gを配合してなるものであり、
前記カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂Jは、プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体100重量部、無水マレイン酸2重量部、ラウリルメタクリレート1重量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5重量部を混練して反応させて合成され、
第1接着剤層5は固着量2g/m^(2)で形成された、
リチウムイオン二次電池のケースとして用いられる成形用包装材1。」
(ク)また、同様に上記(ア)?(オ)より、先願明細書等には、次の発明(以下、「先願方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「アルミニウム箔4の一方の面に二軸延伸ポリアミドフィルム2を二液硬化型のウレタン系接着剤11でドライラミネートし、次いでアルミニウム箔4の他方の面4aに、第1接着剤E(処理液)をグラビアロール法で塗布した後、加熱による焼き付けを行って、第1接着剤層5を形成せしめて積層体30を得、次いで、プロピレン-エチレン共重合体樹脂3Xを第1接着剤層5の未積層面5aに積層一体化することにより得られる、成形用包装材1の製造方法であって、
前記第1接着剤E(処理液)は、トルエン850g、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J150g、HDI(多官能イソシアネート化合物)15gを配合してなるものであり、
前記カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂Jは、プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体100重量部、無水マレイン酸2重量部、ラウリルメタクリレート1重量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5重量部を混練して反応させて合成され、
第1接着剤層5は固着量2g/m^(2)で形成された、
リチウムイオン二次電池のケースとして用いられる成形用包装材1の製造方法。」
(ケ)さらに、上記(ア)?(エ)、(カ)、(キ)より、先願明細書等には、次の発明(以下、「先願発明2」という。)が記載されていると認められる。
「先願発明の成形用包装材1で包装されたリチウムイオン二次電池。」

(2)甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
ア 特許請求の範囲の記載
「【請求項1】 正極および負極と共に電解質を備えた電池素子が、外装部材により覆われてなる電池であって、
前記正極および前記負極のうちの少なくとも一方は集電体層を有し、かつ前記集電体層が前記外装部材を介して外部に導出されていることを特徴とする電池。」

イ 明細書の記載
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】このような従来の二次電池では、電解液が用いられるために漏液などの問題があり、金属製の電池缶111および電池蓋114を用いて気密性を厳重に確保する必要があった。また、そのために、溶接などの煩雑な工程を経て、正極リード125および負極リード126を取り付けていた。すなわち、一般に、従来の二次電池は重量が大きく、また、製造工程が煩雑であり、形状の自由度も低いという問題があった。
【0007】そこで、最近活発に研究がなされている、いわゆる固体電解質などを用いて、煩雑な製造工程を必要としない簡便な構造を有する電池を開発することが望まれている。
【0008】本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、簡便な構造を有する電池を提供することにある。」
「【0012】図1は、本発明の一実施の形態に係る電池の平面構造を表すものであり、図2は、図1のII-II線に沿った断面構造を表すものである。この電池は、外装部材10と、外装部材10により覆われた電池素子20とを備えている。電池素子20は、例えば、正極21と負極22とが電解質23を介して積層されたものである。
【0013】外装部材10は、例えば、高分子化合物膜と金属膜と高分子化合物膜とをこの順に張り合わせたラミネートフィルムにより形成されている。この外装部材10は、端部が融着あるいは接着剤によりシールされて袋状となっており、後述する正極集電体層21aおよび負極集電体層22aが導出される集電体導出端部Eを有している。なお、高分子化合物膜の構成材料としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂,ナイロン(ポリアミド系の合成樹脂),酢酸ビニル系樹脂,アクリル樹脂あるいはエポキシ樹脂が挙げられる。また、金属膜は、外装部材10の内部に外気が侵入することを防止する機能を有することが好ましく、アルミニウム(Al)箔などが適当である。」

ウ 図面の記載
「【図1】


【図2】



エ 甲2に記載された発明
(ア)上記イの【0012】より、甲2には、外装部材10と、外装部材10により覆われた電池素子20とを備えている電池が記載されている。
(イ)上記イの【0013】より、甲2には、上記(ア)の外装部材10について、高分子化合物膜と金属膜と高分子化合物膜とをこの順に張り合わせたラミネートフィルムにより形成されていることが記載されている。
(ウ)上記(ア)及び(イ)より、甲2には、次の発明(以下、「甲2電池発明」という。)が記載されていると認められる。
「外装部材10と、外装部材10により覆われた電池素子20とを備えている電池であって、
前記外装部材10は、
高分子化合物膜と金属膜と高分子化合物膜とをこの順に張り合わせたラミネートフィルムにより形成されている、
電池。」

(3)甲3の記載
甲3には、次の記載がある。
ア 明細書の記載
「[0001]本発明は、接着剤組成物及びこの接着剤組成物を用いた熱融着性部材に関する。更に詳しくは、優れた接着性、接着部における耐熱性等を与え、ポリオレフィン樹脂フィルム等のポリオレフィン樹脂成形体と他部材との接着に有用な接着剤組成物、及びこの接着剤組成物によりアルミニウム箔等の金属箔と熱融着性樹脂フィルムとが接合されてなる熱融着性部材に関する。
[0002]・・・(略)・・・接着剤組成物は、複数の部材どうしの接着に用いられた結果、複合物を形成する。そして、この複合物は、食品、薬品等を収容する密封用容器、生活雑貨等の用途に適用されている。一般に、このような複合物は、生活環境の中で用いられると、形状安定性を得ることができるが、例えば、複合物が、暑い季節における自動車の中で放置される等により、80℃程度の高い温度になると、必ずしも、形状安定性が得られるわけではない。」
「[0004]・・・(略)・・・本発明は、本来、他部材との接着性に劣るポリオレフィン樹脂成形体の接着に用いたときに、十分な接着強度が得られる接着剤組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、ポリオレフィン樹脂成形体と他部材との接合体において、接着部における耐熱性(耐熱接着性)等に優れた接着剤組成物を提供することを目的とする。更に、本発明は、これらの接着剤組成物により、アルミニウム箔等の金属箔とポリオレフィン樹脂フィルム等の熱融着性樹脂フィルムとが接合されてなる熱融着性部材を提供することを目的とする。」
「[0037]本発明の熱融着性部材は、本発明の接着剤組成物が硬化してなる接着剤層と、接着剤層の一面側に接合された金属層と、接着剤層の他面側に接合された熱融着性樹脂層とを備える。
本発明の熱融着性部材の概略図は、図1及び図2に示される。即ち、図1の熱融着性部材1は、熱融着性樹脂層11と、接着剤層12と、金属層13と、を、順次、備える。また、図2の熱融着性部材1は、熱融着性樹脂層11と、接着剤層12と、金属層13と、他の層14と、を、順次、備える。
本発明の熱融着性部材の形状は、用途等に応じて、適宜、選択され、図1及び図2に示されるように、シート状であってよいし、線状、点状、格子状、市松模様状等であってもよい。
[0038]上記「熱融着性樹脂層」は、熱によって溶融し、一面側の層を構成する材料と、他面側の層を構成する材料とを融着し得る樹脂を含む層である。
[0039]上記熱融着性樹脂層の厚さは、樹脂の材質等にもより、特に限定されないが、通常、10?200μmである。例えば、無延伸ポリプロピレンを含む層である場合、好ましくは10?200μm、より好ましくは20?100μm、更に好ましくは60?100μmである。無延伸ポリプロピレンを含む層の厚さが10?200μmであれば、容易に破損することがなく、耐久性の高い密封容器等の熱融着複合製品を得ることができる。
[0040]上記「接着剤層」は、上記に記載された接着剤組成物が硬化して形成された層であり、即ち、ポリオレフィン樹脂(A)と、多官能イソシアネート化合物との反応生成物;ポリオレフィン樹脂(A)と、多官能イソシアネート化合物との反応生成物、及び、ポリオレフィン樹脂(B)と、多官能イソシアネート化合物との反応生成物、の混合物;又は、ポリオレフィン樹脂(A)及びポリオレフィン樹脂(B)の両方と、多官能イソシアネート化合物との反応生成物、を含む硬化物からなる層である。接着剤層の厚さは、その材質や、熱融着性部材の用途等にもより、特に限定されないが、好ましくは1?20μm、特に好ましくは2?10μmである。接着剤層の厚さが1?20μmであれば、熱融着性部材が、例えば、シート状である場合の折り曲げ等の加工が容易である。
[0041]上記「金属層」は、金属(合金を含む)を含む層である。金属又は合金は、特に限定されないが、加工性に優れるため、通常、アルミニウムが用いられる。金属層の厚さは、その材質や、熱融着性部材の用途等にもより、特に限定されない。金属層が、例えば、アルミニウムからなる場合、好ましくは20?100μm、特に好ましくは20?80μm、更に好ましくは30?60μmである。
[0042]本発明の熱融着性部材が、金属層を備える場合には、図2に示すように、金属層13の表面に、他の層14を備えることができる。他の層を構成する材料は、金属層を保護するという観点から、樹脂を含むことが好ましい。即ち、他の層は、樹脂層であることが好ましい。この樹脂は、特に限定されず、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂等とすることができる。樹脂層の透明性は、特に限定されないが、この樹脂層が透明又は半透明であるとき、熱融着複合製品として密封容器等とした場合に、優れた外観を得ることができる。
他の層の厚さは、特に限定されず、好ましくは30?60μm、特に好ましくは30?50μmである。」
「[0044]また、図2に示される熱融着性部材の製造方法は、以下の通りである。
(3)接着剤組成物を、他の層14を構成する樹脂層と、この樹脂層の一面側に、蒸着等により形成された金属層13とを有する複合フィルムにおける金属層13の表面に塗布し、その後、組成物中の有機溶剤を除去して接着剤層12を形成し、次いで、接着剤層12が形成された面と、熱融着性樹脂層11形成用樹脂フィルム(熱融着性樹脂フィルム)を接触させて、加熱しながら、圧着する方法。
(4)接着剤組成物を、熱融着性樹脂層11形成用樹脂フィルム(熱融着性樹脂フィルム)の表面に塗布し、その後、組成物中の有機溶剤を除去して接着剤層12を形成し、次いで、接着剤層12が形成された面に、他の層14を構成する樹脂層と、この樹脂層の一面側に、蒸着等により形成された金属層13とを有する複合フィルムにおける金属層13が形成された面を接触させて、加熱しながら、圧着する方法。
(5)上記(1)又は(2)の方法により得られた積層体における金属層13の表面に、他の層14形成用フィルムを押出成形する方法。
[0045]接着剤組成物は、金属箔等の金属層形成用材料、又は、金属層及び他の層(樹脂層)を備える複合フィルムにおける金属層の表面に塗布されることが多いが、特に限定されない。金属箔を用いる場合には、厚さが20?100μmであるアルミニウム箔を用いることが好ましい。これにより、破損が抑制された熱融着性部材を容易に形成することができる。また、複合フィルムを用いる場合には、金属層がアルミニウムを含み、他の層(樹脂層)がポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂等を含むことが好ましい。更に、複合フィルムを用いず、図2に示す熱融着性部材を製造する場合、即ち、上記(5)の方法を採用する場合、他の層14形成用フィルムとして、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂等を含むフィルムを用いることが好ましい。」
「[0047]本発明の熱融着性部材において、熱融着性樹脂層が無延伸ポリプロピレンを含む場合には、破損しにくく、耐久性に優れた密封用容器等の熱融着複合製品を得ることができる。」
「[0049]2.ポリオレフィン樹脂(A)及びその溶液の製造
合成例1-1
メタロセン触媒を重合触媒として製造した、プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体(MFR:10g/10min、融点:85℃、以下、「プロピレン系ランダム共重合体」という)100質量部、無水マレイン酸2質量部、ラウリルメタクリレート1質量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5質量部を、シリンダー部の最高温度を170℃に設定した二軸押出機を用いて混練反応した。その後、押出機内にて減圧脱気を行い、残留する未反応物を除去して、ポリオレフィン樹脂(a1)を合成した。ポリオレフィン樹脂(a1)は、MFRが12g/10min、融点が85℃、酸価が20mgKOH/gであり、カルボキシル基の含有量は、樹脂1gあたり0.4mmolであった。
次に、内容積1Lの三つ口フラスコに撹拌機、温度計及びコンデンサーを取り付け、トルエン680g及びメチルエチルケトン(以下「MEK」という)170gを仕込み、撹拌しながら60℃に昇温した。これに上記ポリオレフィン樹脂(a1)150gを供給し、1時間程度撹拌した。樹脂を溶解した後、室温まで冷却して固形分15%の溶液を得た。この溶液を「PP溶液a1」とする。」
「[0054]3.ポリオレフィン樹脂(B)及びその分散液の製造
合成例2-1
プロピレン重合体(融点:163℃)100質量部及びトルエン435質量部を撹拌機が付設された内容積1.5Lのオートクレーブに入れ、攪拌下、140℃に昇温し、完全に溶解した。この溶液を140℃に保ったまま、攪拌下、無水マレイン酸16質量部及びジクミルパーオキサイド1.5質量部を、それぞれ、4時間かけて滴下し、滴下終了後、更に140℃で1時間撹拌し、後反応を行い、変性重合体を得た。反応終了後、溶液を室温まで冷却し、溶液にアセトンを加えて変性重合体を析出させた。析出した変性重合体を繰り返しアセトンで洗浄した後、乾燥し、変性重合体を回収した。この変性重合体の無水マレイン酸のグラフト量は2.8質量%であり、融点が156℃、酸価が32mgKOH/g、カルボキシル基の含有量は、樹脂1gあたり0.6mmolであった。
次に、この変性共重合体15質量部及びトルエン85質量部を、撹拌機付きオートクレーブに入れ、130℃に加熱して樹脂を完全に溶解した。その後、撹拌しながら25℃/時間の冷却速度で90℃まで降温した後、5℃/時間の冷却速度で60℃まで冷却した。次いで、20℃/時間の冷却速度で、30℃まで降温したさせて、固形分15%の乳白色の均一な分散液を得た。分散物(樹脂粒子)の平均粒子径(D50)を測定したところ、11.0μmであった。この分散液を、「PP分散液b1」とする。」
「[0058]4.接着剤組成物の製造及び評価
実施例1
コンデンサー及び攪拌機が付設された内容積300mlのフラスコに、10gの「PP溶液a1」及び190gの「PP分散液b1」を仕込み、室温で10分間撹拌し、混合液を得た。その後、この混合液に、反応促進剤としてジブチルスズジラウレート(以下「DBTL」という)0.15mgを添加して更に混合し、25℃における粘度が43mPa・sであり、樹脂濃度が15質量%である、白濁した液状の樹脂組成物を得た。
次いで、この樹脂組成物を主剤とし、この主剤に多官能イソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、商品名「デュラネートTPA-100」)を、当量比(NCO/OH)が1.5になるように配合して混合し、接着剤組成物を得た。この接着剤組成物を用いて、上記の接着性試験に供した。尚、試験片の作製に際して、多官能イソシアネート化合物を配合後、1時間以内に、接着剤組成物を使用した。」

イ 図面の記載
「[図1]


[図2]



ウ 甲3に記載された発明
(ア)上記アの[0037]より、甲3には、熱融着性部材1は、熱融着性樹脂層11と、接着剤組成物が硬化してなる接着剤層12と、金属層13と、他の層14と、を、順次、備えることが記載されているといえる。
(イ)上記アの[0002]より、甲3には、接着剤組成物は、複数の部材どうしの接着に用いられた複合物を形成し、この複合物は、食品、薬品等を収容する密封用容器、生活雑貨等の用途に適用されていると記載されており、当該複合物は、上記(ア)の「熱融着性部材1」であるといえるから、「熱融着性部材1」は、食品、薬品等を収容する密封用容器、生活雑貨等の用途に適用されるものであるといえる。
(ウ)上記アの[0049]より、甲3には、プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体100質量部、無水マレイン酸2質量部、ラウリルメタクリレート1質量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5質量部を、混練反応してポリオレフィン樹脂(a1)を合成し、次に、トルエン680g及びメチルエチルケトン170gを仕込み、これに上記ポリオレフィン樹脂(a1)150gを供給して「PP溶液a1」を得たことが記載されている。
(エ)上記アの[0054]より、甲3には、プロピレン重合体100質量部及びトルエン435質量部を攪拌し、無水マレイン酸16質量部及びジクミルパーオキサイド1.5質量部を、滴下、撹拌し、変性重合体を得て、反応終了後、変性重合体を回収し、次に、この変性共重合体15質量部及びトルエン85質量部を、加熱、冷却し、次いで、降温したさせて、乳白色の均一な「PP分散液b1」を得たことが記載されている。
(オ)上記アの[0058]より、甲3には、上記(ウ)の「PP溶液a1」及び上記(エ)の「PP分散液b1」を混合し、反応促進剤を混合し、次いで、多官能イソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、商品名「デュラネートTPA-100」)を混合して、上記(ア)の「接着剤組成物」を得ることが記載されている。
(カ)上記アの[0044]より、甲3には、接着剤組成物を、他の層14を構成する樹脂層と、この樹脂層の一面側に、蒸着等により形成された金属層13とを有する複合フィルムにおける金属層13の表面に塗布し、その後、組成物中の有機溶剤を除去して接着剤層12を形成し、次いで、接着剤層12が形成された面と、熱融着性樹脂層11形成用樹脂フィルム(熱融着性樹脂フィルム)を接触させて、加熱しながら、圧着する熱融着性部材1の製造方法が記載されている。
(キ)上記(ア)?(オ)より、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「熱融着性樹脂層11と、接着剤組成物が硬化してなる接着剤層12と、金属層13と、他の層14と、を、順次、備えるとともに、食品、薬品等を収容する密封用容器、生活雑貨等の用途に適用される熱融着性部材1であって、
前記接着剤組成物は、
プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体100質量部、無水マレイン酸2質量部、ラウリルメタクリレート1質量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5質量部を、混練反応してポリオレフィン樹脂(a1)を合成し、次に、トルエン680g及びメチルエチルケトン170gを仕込み、これに上記ポリオレフィン樹脂(a1)150gを供給してPP溶液a1を得て、
プロピレン重合体100質量部及びトルエン435質量部を攪拌し、無水マレイン酸16質量部及びジクミルパーオキサイド1.5質量部を、滴下、撹拌し、変性重合体を得て、反応終了後、変性重合体を回収し、次に、この変性共重合体15質量部及びトルエン85質量部を、加熱、冷却し、次いで、降温したさせて、乳白色の均一なPP分散液b1を得て、
前記PP溶液a1及び前記PP分散液b1を混合し、反応促進剤を混合し、次いで、多官能イソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、商品名「デュラネートTPA-100」)を混合して得る、
熱融着性部材1。」
(ク)上記(ア)?(カ)より、甲3には、次の発明(以下、「甲3方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「甲3発明である熱融着性部材1の製造方法であって、
接着剤組成物を、他の層14を構成する樹脂層と、この樹脂層の一面側に、蒸着等により形成された金属層13とを有する複合フィルムにおける金属層13の表面に塗布し、その後、組成物中の有機溶剤を除去して接着剤層12を形成し、次いで、接着剤層12が形成された面と、熱融着性樹脂層11形成用樹脂フィルム(熱融着性樹脂フィルム)を接触させて、加熱しながら、圧着する、
熱融着性部材1の製造方法。」

(4)甲4の記載
甲4には、次の記載がある。
「【請求項1】
外側層としての耐熱性樹脂層と、内側層としての熱可塑性樹脂層と、これら両層間に配設された金属箔層とを含む成形用包装材であって、
前記熱可塑性樹脂層と前記金属箔層との間に二軸延伸ポリプロピレンフィルム層が積層配置されていることを特徴とする成形用包装材。」
「【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、ノートパソコン用、携帯電話用、車載用、定置型のリチウムイオン二次電池等の二次電池のケースとして好適に用いられる包装材、或いは食品、医薬品の包装材として好適な包装材に関する。」
「【発明を実施するための形態】
【0032】
この発明に係る成形用包装材1の一実施形態を図1に示す。この成形用包装材1は、例えば直方体形状等に成形されてリチウムイオンポリマー二次電池のケースとして用いられるものである。
【0033】
前記成形用包装材1は、金属箔層4の上面に第一樹脂接着剤層11を介して耐熱性樹脂層(外側層)2が積層一体化されると共に、前記金属箔層4の下面に第二樹脂接着剤層12を介して二軸延伸ポリプロピレンフィルム層5が積層され、さらに該二軸延伸ポリプロピレンフィルム層5の下面に熱可塑性樹脂層(内側層)3が積層一体化されてなる。
【0034】
前記耐熱性樹脂層(外側層)2としては、特に限定されるものではないが、例えば、ナイロンフィルム、ポリエステルフィルム等が挙げられ、これらの延伸フィルムが好ましく用いられる。中でも、前記耐熱性樹脂層2としては、二軸延伸ナイロンフィルム、二軸延伸ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム又は二軸延伸ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用いるのが特に好ましい。前記ナイロンフィルムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、6ナイロンフィルム、6,6ナイロンフィルム、MXDナイロンフィルム等が挙げられる。なお、前記耐熱性樹脂層2は、単層で形成されていても良いし、或いは、例えばPETフィルム/ナイロンフィルムからなる複層で形成されていても良い。」
「【0036】
前記金属箔層4は、包装材1に酸素や水分の侵入を阻止するガスバリア性を付与する役割を担うものである。前記金属箔層4としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウム箔、銅箔等が挙げられ、アルミニウム箔が一般的に用いられる。前記金属箔層4の厚さは、20?100μmあるのが好ましい。20μm以上であることで金属箔を製造する際の圧延時のピンホール発生を防止できると共に、100μm以下であることで張り出し成形時や絞り成形時の応力を小さくできて成形性を向上できる。」
「【0049】
前記第一接着剤層11、前記第二接着剤層12を構成する接着剤としては、特に限定されるものではないが、例えばポリオール成分及びイソシアネート成分を含有してなる二液硬化型のウレタン系接着剤等が挙げられる。この二液硬化型のウレタン系接着剤は、特にドライラミネート法で接着する際に好適に用いられる。前記ポリオール成分としては、特に限定されるものではないが、例えばポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等が挙げられる。前記イソシアネート成分としては、特に限定されるものではないが、例えばTDI(トリレンジイソシアネート)、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)、MDI(メチレンビス(4,1-フェニレン)ジイソシアネート)等のジイソシアネート類などが挙げられる。前記第一接着剤層11の厚さ、前記第二接着剤層12の厚さは、いずれも、2?5μmに設定されるのが好ましく、中でも3?4μmに設定されるのが特に好ましい。」
「【図1】



(5)甲5の記載
甲5には、次の記載がある。




(6)甲7の記載
甲7には、次の記載がある。
ア 明細書の記載
「【0001】
本発明は、包装材料に関するものであり、特に耐内容物性に優れた包装材料に関するものである。」
「【0008】
本発明の包装材料は、バリア層、接着層およびシーラント層がこの順に積層されてなる包装材料である。」
「【0014】
接着層には、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが50g/分以下である酸変性ポリオレフィン樹脂を用いる。
【0015】
酸変性ポリオレフィン樹脂の主成分であるオレフィン成分は特に限定されないが、エチレン、プロピレン、イソブチレン、2-ブテン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2?6のアルケンが好ましく、これらの混合物を用いてもよい。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン等の炭素数2?4のアルケンがより好ましく、エチレン、プロピレンがさらに好ましく、エチレンが最も好ましい。
【0016】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、不飽和カルボン酸成分により酸変性されたものである。不飽和カルボン酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。また、不飽和カルボン酸成分は、酸変性ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)などが挙げられる。」
「【0018】
接着層に用いられる酸変性ポリオレフィン樹脂は、バリア層やシーラント層との接着性が良好になる点から、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有していることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1?30のアルコールとのエステル化物が挙げられ、中でも入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1?20のアルコールとのエステル化物が好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物を用いてもよい。この中で、入手の容易さと接着性の点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがより好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。(なお、「(メタ)アクリル酸?」とは、「アクリル酸?またはメタクリル酸?」を意味する。)
【0019】
酸変性ポリオレフィン樹脂における(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、接着性が向上する点から、0.1?20質量%であることが好ましく、3?15質量%であることが特に好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が0.1質量%未満の場合はアルミニウム箔やポリオレフィン樹脂系フィルムとの接着性が低下する傾向にあり、20質量%を超える場合は耐内容物性が低下する傾向がある。また、(メタ)アクリル酸エステル成分は、酸変性ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)等が挙げられる。」
「【0037】
本発明の包装材料は様々な内容物に対して良好な耐性を有していることから、特に、揮発性を有する内容物の包装材料として好適であり、中でも香り成分、香辛料成分、薬効成分を有する製品の包装材料として最適である。具体的には、芳香剤、香料、入浴剤、香辛料、湿布剤、医薬品、二次電池、トイレタリー製品、界面活性剤、シャンプー、リンス、洗剤、防虫剤、殺虫剤、消臭剤、育毛剤、食酢、歯磨き剤、化粧品の包装材料に好適に使用される。」
「【0047】
参考例1
〔酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-1の製造〕
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gの酸変性ポリオレフィン樹脂(アルケマ社製ボンダインLX-4110、無水マレイン酸共重合ポリエチレン樹脂)、90.0gのイソプロパノール、3.0gのトリエチルアミンおよび147.0gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140℃に保ってさらに30分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-1(固形分濃度20質量%)を得た。
【0048】
参考例2
〔酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-2の製造〕
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gの酸変性ポリオレフィン樹脂(三井・デュポンケミカル社製ニュクレルN1560、エチレン-メタクリル酸共重合体)、90.0gのイソプロパノール、12.0gのトリエチルアミンおよび138.0gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140℃に保ってさらに3時間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-2(固形分濃度20質量%)を得た。
【0049】
参考例3
〔酸変性ポリオレフィン樹脂溶液Y-1の製造〕
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、10.0gの酸変性ポリオレフィン樹脂(日本ポリエチレン社製レクスパールET530H、無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂)、290gのトルエンをガラス容器内に仕込み、攪拌下、110℃に保ってさらに30時間撹拌しポリオレフィン樹脂を溶解させ、酸変性ポリオレフィン樹脂溶液Y-1(固形分濃度3.3質量%)を得た。
【0050】
水性分散体E-1およびE-2、ならびに溶液Y-1の製造に使用した酸変性ポリオレフィン樹脂の組成は、次の通りである。
(1)ボンダインLX-4110
エチレン/アクリル酸エチル/無水マレイン酸=91/7/2(質量%)。メルトフローレート:5g/10分。
(2)ニュクレルN1560
エチレン/メタクリル酸=85/15(質量%)。メルトフローレート:60g/10分。
(3)レクスパールET530H
エチレンとアクリル酸メチルを共重合成分として含み、無水マレイン酸が2.5質量%である。メルトフローレート:30g/10分。」

(7)甲8の記載
甲8には、次の記載がある。
ア 明細書の記載
「【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用外装体及びその外装体を用いた電池に関する。」
「【0008】
すなわち本発明は、基材層、バリア層、アンカー層、シーラント層および接着層がこの順に積層されてなり、前記アンカー層および接着層が、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有する酸変性ポリオレフィン樹脂を含むことを特徴とする電池用外装体であり、また、前記外装体を用いた電池である。」
「【0017】
本発明の電池用外装体は、アンカー層および接着層として、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有する酸変性ポリオレフィン樹脂を含む。アンカー層、接着層には同一の酸変性ポリオレフィン樹脂を用いてもよいし、それぞれの層に異なる酸変性ポリオレフィン樹脂を使用してもよい。
【0018】
酸変性ポリオレフィン樹脂の主成分であるオレフィン成分は特に限定されないが、エチレン、プロピレン、イソブチレン、2-ブテン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2?6のアルケンが好ましく、これらの混合物を用いてもよい。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン等の炭素数2?4のアルケンがより好ましく、エチレン、プロピレンがさらに好ましく、エチレンが最も好ましい。
【0019】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、不飽和カルボン酸成分により酸変性されたものである。不飽和カルボン酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。また、不飽和カルボン酸成分は、酸変性ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)などが挙げられる。」
「【0021】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有している必要がある。この成分を含有していないと、バリア層やシーラント層との十分な接着性が得られない。(メタ)アクリル酸エステル成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1?30のアルコールとのエステル化物が挙げられ、中でも入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1?20のアルコールとのエステル化物が好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物を用いてもよい。この中で、入手の容易さと接着性の点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがより好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。(なお、「(メタ)アクリル酸?」とは、「アクリル酸?またはメタクリル酸?」を意味する。)
【0022】
酸変性ポリオレフィン樹脂における(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、耐内容物性が向上する点から、0.1?25質量%であることが好ましく、1?20質量%であることがより好ましく、2?18質量%であることがさらに好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が0.1質量%未満の場合はアルミニウム箔やポリオレフィン樹脂系フィルムとの接着性が低下する傾向にあり、25質量%を超える場合は耐内容物性が低下してしまう。また、(メタ)アクリル酸エステル成分は、酸変性ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)等が挙げられる。」
「【0039】
参考例1
〔酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-1の製造〕
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gの酸変性ポリオレフィン樹脂(アルケマ社製ボンダインTX-8030)、90.0gのイソプロパノール、3.0gのトリエチルアミンおよび147.0gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140?145℃に保ってさらに30分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-1を得た。E-1の固形分濃度は20.0質量%であった。
【0040】
参考例2
〔酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-2の製造〕
酸変性ポリオレフィン樹脂としてボンダインHX-8290(アルケマ社製)を用い、水性分散体E-1の製造と同様の操作を行って酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-2を得た。E-2の固形分濃度は20.0質量%であった。
【0041】
参考例3
〔酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-3の製造〕
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのエチレン-アクリル酸共重合体樹脂(ダウケミカル社製プリマコール5980I)、16.8gのTEA、および223.2gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140?145℃に保ってさらに30分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、微白濁の水性分散体E-3を得た。E-3の固形分濃度は20.1質量%であった。
【0042】
水性分散体E-1?E-3の製造に使用した酸変性ポリオレフィン樹脂の組成を表1に示した。
【0043】
【表1】




(8)甲9の記載
甲9には、次の記載がある。
ア 明細書の記載
「【技術分野】
【0001】
本発明は、電池における封止信頼性の向上技術に関する。」
「【0017】
また、本発明の電池における外装体は、厚み方向に順に、基材層、バリア層、アンカー層、シーラント層をこの順に積層した構成を有していることが好ましい。」
「【0026】
アンカー層は、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有する酸変性ポリオレフィン樹脂を含んでいることが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂の詳細については後述する。」
「【0029】
酸変性ポリオレフィン樹脂の主成分であるオレフィン成分は特に限定されないが、エチレン、プロピレン、イソブチレン、2-ブテン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2?6のアルケンが好ましく、これらの混合物を用いてもよい。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン等の炭素数2?4のアルケンがより好ましく、エチレン、プロピレンがさらに好ましく、エチレンが最も好ましい。
【0030】
本発明に用いられる酸変性ポリオレフィン樹脂は、オレフィン成分が不飽和カルボン酸成分により変性されたものである。不飽和カルボン酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。また、不飽和カルボン酸成分は、酸変性ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)などが挙げられる。」
「【0032】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有している必要がある。この成分を含有していないと、タブやシーラント層との十分な接着性が得られない。また、外装体に用いる場合にも、バリア層とシーラント層の接着性向上のためにこの成分を含有していることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1?30のアルコールとのエステル化物が挙げられ、中でも入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1?20のアルコールとのエステル化物が好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物を用いてもよい。この中で、入手の容易さと接着性の点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがより好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。(なお、「(メタ)アクリル酸?」とは、「アクリル酸?またはメタクリル酸?」を意味する。)
【0033】
酸変性ポリオレフィン樹脂における(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、耐内容物性が向上する点から、0.1?25質量%であることが好ましく、1?20質量%であることがより好ましく、2?18質量%であることがさらに好ましく、3?15質量%であることが特に好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が0.1質量%未満の場合は外装体との接着性が低下する傾向にあり、25質量%を超える場合は耐内容物性が低下してしまう。また、(メタ)アクリル酸エステル成分は、酸変性ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)等が挙げられる。」
「【0052】
参考例1
〔酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-1の製造〕
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gの酸変性ポリオレフィン樹脂(アルケマ社製ボンダインTX-8030)、90.0gのイソプロパノール、3.0gのトリエチルアミンおよび147.0gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140?145℃に保ってさらに30分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-1を得た。E-1の固形分濃度は20.0質量%であった。
【0053】
参考例2
〔酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-2の製造〕
酸変性ポリオレフィン樹脂としてボンダインHX-8290(アルケマ社製)を用い、水性分散体E-1の製造と同様の操作を行って酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-2を得た。E-2の固形分濃度は20.0質量%であった。
【0054】
参考例3
〔酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-3の製造〕
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのエチレン-アクリル酸共重合体樹脂(ダウケミカル社製プリマコール5980I)、16.8gのTEA、および223.2gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140?145℃に保ってさらに30分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、微白濁の水性分散体E-3を得た。E-3の固形分濃度は20.1質量%であった。
【0055】
水性分散体E-1?E-3の製造に使用した酸変性ポリオレフィン樹脂の組成を表1に示した。
【0056】
【表1】



6 対比・判断
(1)特許法第29条の2について
ア 本件発明1について
本件発明1と先願発明とを対比する。
(ア)先願発明の「アルミニウム箔4」、「二軸延伸ポリアミドフィルム2」、「第1接着剤層5」、「プロピレン-エチレン共重合体樹脂3X」からなる層、「リチウムイオン二次電池のケースとして用いられる成形用包装材1」は、本件発明1の「金属層」、「基材層」、「絶縁層」、「シーラント層」、「電池用包装材料」にそれぞれ相当する。

(イ)先願発明の「プロピレン-エチレンランダム共重合体」、「無水マレイン酸」、「ラウリルメタクリレート」は、本件発明1の「ポリプロピレン系樹脂」、「不飽和カルボン酸またはその酸無水物」、「(メタ)アクリル酸エステル」にそれぞれ相当する。
また、上記2の(1)のアの[0070]には、多官能イソシアネート化合物の具体例として、「ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート」が記載されており、先願発明の「HDI(多官能イソシアネート化合物)」は、この「ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート」を含むものであるといえるから、先願発明の「HDI(多官能イソシアネート化合物)」は、本件発明1の「イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、これらをポリマー化またはヌレート化したもの、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、変性ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、及びポリグリセリンポリグリシジルエーテルからなる化合物の群から選択された少なくとも1種であ」る「硬化剤」に相当する。

(ウ)先願発明の「アルミニウム箔4の一方の面に二軸延伸ポリアミドフィルム2を二液硬化型のウレタン系接着剤11でドライラミネートし、次いでアルミニウム箔4の他方の面4aに、第1接着剤E(処理液)をグラビアロール法で塗布した後、加熱による焼き付けを行って、第1接着剤層5を形成せしめて積層体30を得、次いで、プロピレン-エチレン共重合体樹脂3Xを第1接着剤層5の未積層面5aに積層一体化することにより得られる」事項は、本件発明1の「少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とがこの順に積層された積層体からな」る事項に相当する。

(エ)先願発明の「プロピレン単位97モル%」「からなる」事項は、本件発明1の「プロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%であ」る事項に含まれる。
また、先願発明の「カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J」は、上記2の(1)のアの[0060]?[0062]の記載によれば、「無水マレイン酸でグラフト付加変性されたポリプロピレン」が特に好適とされているから、先願発明の「カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J」は、グラフト付加変性されたものであるといえる。
そうすると、先願発明の「プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体100重量部、無水マレイン酸2重量部、ラウリルメタクリレート1重量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5重量部を混練して反応させて合成される」「カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J」は、本件発明1の「不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性され」、「プロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%であ」る「変性ポリプロピレン系樹脂」に相当するといえる。

(オ)先願発明の「第1接着剤層5」は、硬化剤である「HDI(多官能イソシアネート化合物)」を「配合してなる」「第1接着剤E(処理液)をグラビアロール法で塗布した後、加熱による焼き付けを行って、」「形成せしめ」るものであるから、本件発明1の「硬化物」に相当するものであるといえる。
また、先願発明の「第1接着剤層5」は、「第1接着剤E(処理液)をグラビアロール法で塗布した後、加熱による焼き付けを行って、」「形成せしめ」るものであるから、先願発明の「第1接着剤E(処理液)は、トルエン850g、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J150g、HDI(多官能イソシアネート化合物)15gを配合してなるものであり、前記カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂Jは、」「プロピレン-エチレンランダム共重合体100重量部、無水マレイン酸2重量部、ラウリルメタクリレート1重量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5重量部を混練して反応させて合成される」事項は、本件発明1の「絶縁層は、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物」である事項に相当する。

(カ)先願発明の「第1接着剤E(処理液)」に含まれる「トルエン」は、「加熱による焼き付け」により、蒸発することを考慮すると、先願発明の「第1接着剤層5」の主成分である「カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J」は、「プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体100重量部、無水マレイン酸2重量部、ラウリルメタクリレート1重量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5重量部」を配合したものであるから、そのほとんどをプロピレン単位が占めていることとなる。
そして、ポリプロピレンの密度は、一般的に、0.85?0.92g/ml程度である(下記の参考資料(「化学大事典8 縮刷版」共立出版株式会社、1964年2月15日発行、第772頁下)参照。)から、仮に、「第1接着剤層5」が全てポリプロピレンから構成されていたとすると、その厚みは、単位面積当たりの固着量2g/m^(2)を下記参考資料に記載された密度の値である、0.85?0.92g/mlで除することにより求められるから、2.17?2.35μm程度と概算できる。
したがって、実際は、「第1接着剤層5」には、プロピレン単位以外に、HDI(多官能イソシアネート)、エチレン単位、変性された基を含むものであるものの、この2.17?2.35μm程度という厚み、及び、「第1接着剤層5」は、そのほとんどがプロピレン単位で占められていることからすると、「第1接着剤層5」の厚みは、本件発明1の「0.1μm?20μm」の範囲内である蓋然性が極めて高い。
そうすると、先願発明の「第1接着剤層5は固着量2g/m^(2)で形成された」事項は、本件発明1の「絶縁層の厚みが0.1μm?20μmである」事項に相当する。

(参考資料)


(キ)上記(ア)?(カ)より、本件発明1と先願発明とは、
「少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とがこの順に積層された積層体からなり、
前記絶縁層は、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物であり、
前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%であり、
前記硬化剤は、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、これらをポリマー化またはヌレート化したもの、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、変性ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、及びポリグリセリンポリグリシジルエーテルからなる化合物の群から選択された少なくとも1種であり、
絶縁層の厚みが0.1μm?20μmである、電池用包装材料。」で一致し、次のAの相違点で相違する。

(相違点)
A 「樹脂組成物の硬化物」について、本件発明1は、「ただし、不飽和カルボン酸またはその酸無水物とラウリルメタクリレートとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含む樹脂組成物の硬化物を除く」との特定があるのに対し、先願発明は、「第1接着剤E(処理液)」が、「トルエン850g、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J150g、HDI(多官能イソシアネート化合物)15gを配合してなるものであり、 前記カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂Jは、プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体100重量部、無水マレイン酸2重量部、ラウリルメタクリレート1重量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5重量部を混練して反応させて合成され」るものであって、「第1接着剤層5」が、本件発明1で除かれている「樹脂組成物の硬化物」である点。

(ク)以下、上記Aの相違点について検討する。

(ケ)先願発明は、先願明細書の「実施例」欄([0082]?[0118])に実施例1として記載された「成形用包装材1」に基づいて認定されているところ、先願明細書の「発明を実施するための形態」欄([0039]?[0081])には、第1接着剤層5に含まれる樹脂として、「特に無水マレイン酸でグラフト付加変性されたポリプロピレンが好適である」([0062])と、「不飽和カルボン酸またはその酸無水物」で変性された「変性ポリプロピレン系樹脂」について記載されているものの、「(メタ)アクリル酸エステル」で「変性された変性ポリプロピレン系樹脂」については、記載されていない。

(コ)そうすると、先願発明の「第1接着剤E(処理液)」において、その合成時に、「ラウリルメタクリレート」以外の「(メタ)アクリル酸エステル」を混合させることが先願明細書に記載されているとはいえない。

(サ)したがって、上記Aの相違点は実質的な相違点であるといわざるえないから、本件発明1と先願発明とが実質的に同一であるとはいえない。

(シ)なお、申立人は平成31年2月14日付けの意見書において、甲7?甲9によれば、電池用包装材料の分野において、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と、ラウリルメタクリレートとは異なる(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレンを用いることは周知技術であるから、本件発明1と先願発明とは実質的に同一であると主張している。

(ス)しかしながら、甲7?甲9が、上記(シ)の周知技術の根拠であるとしているが、酸変性ポリオレフィン樹脂の主成分であるオレフィン成分として7つの例示があって、その1つがプロピレンであり、実施例には、プロピレンを主成分とした酸変性ポリオレフィン樹脂が記載されていないから、これらの文献に、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と、ラウリルメタクリレートとは異なる(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレンを用いることが記載されているとまではいえない。

(セ)そうすると、甲7?甲9から、電池用包装材料の分野において、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と、ラウリルメタクリレートとは異なる(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレンを用いることが周知技術であるとはいいきれず、上記Aの相違点は実質的な相違点であって、課題解決のための具体的手段における微差はいえないから、本件発明1と先願発明とは実質的に同一であるともいえない。

(ソ)よって、申立人の主張は根拠がない。

イ 本件発明2?6について
(ア)本件発明2?6は、いずれも本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2?6と先願発明とは、少なくとも上記Aの相違点で相違する。
(イ)そして、上記Aの相違点は、上記アで検討したとおり、実質的な相違点であるから、本件発明2?6は、いずれも先願発明と同一とはいえない。

ウ 本件発明7について
(ア)本件発明7は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明7と先願電池発明とを対比すると、少なくとも上記Aの相違点で相違する。
(イ)そして、上記Aの相違点は、上記アで検討したとおり、実質的な相違点であるから、本件発明7は、いずれも先願電池発明と同一とはいえない。

エ 本件発明8について
(ア)本件発明8は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明8と先願方法発明とを対比すると、少なくとも上記Aの相違点で相違する。
(イ)そして、上記Aの相違点は、上記アで検討したとおり、実質的な相違点であるから、本件発明7は、いずれも先願方法発明と同一とはいえない。

(2)特許法第29条第2項について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲3発明とを対比する。
(ア)甲3発明の「金属層13」、「他の層14」、「接着剤組成物が硬化してなる接着剤層12」、「熱融着性樹脂層11」は、本件発明1の「金属層」、「基材層」、「絶縁層」、「シーラント層」にそれぞれ相当する。

(イ)甲3発明の「食品、薬品等を収容する密封用容器、生活雑貨等の用途に適用される熱融着性部材1」と本件発明1の「電池用包装材料」とは、「包装材料」で共通する。

(ウ)甲3発明の「プロピレン-エチレンランダム共重合体」、「無水マレイン酸」、「ラウリルメタクリレート」は、本件発明1の「ポリプロピレン系樹脂」、「不飽和カルボン酸またはその酸無水物」、「(メタ)アクリル酸エステル」にそれぞれ相当する。
また、上記5の(5)には、甲3発明の「多官能イソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、商品名「デュラネートTPA-100」)」が、「ヘキサメチレンジイソシアネート」であることが示されているから、甲3発明の「多官能イソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、商品名「デュラネートTPA-100」)」は、本件発明の「イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、これらをポリマー化またはヌレート化したもの、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、変性ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、及びポリグリセリンポリグリシジルエーテルからなる化合物の群から選択された少なくとも1種であ」る「硬化剤」に相当する。

(エ)甲3発明の「熱融着性樹脂層11と、接着剤組成物が硬化してなる接着剤層12と、金属層13と、他の層14と、を、順次、備える」事項は、本件発明1の「少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とがこの順に積層された積層体からな」る事項に相当する。

(オ)甲3発明の「プロピレン単位97モル%」「からなる」事項は、本件発明1の「プロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%であ」る事項に含まれる。
また、甲3発明の「ポリオレフィン樹脂(a1)」は、「プロピレン-エチレンランダム共重合体100質量部、無水マレイン酸2質量部、ラウリルメタクリレート1質量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5質量部を、混練反応して」「合成し」ているから、「無水マレイン酸」及び「ラウリルメタクリレート」で変性されていると考えられる。
そうすると、甲3発明の「プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体100質量部、無水マレイン酸2質量部、ラウリルメタクリレート1質量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5質量部を、混練反応して」「合成」される「ポリオレフィン樹脂(a1)」は、本件発明1の「不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性され」、「プロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%であ」る「変性ポリプロピレン系樹脂」に相当するといえる。

(カ)甲3発明の「接着剤組成物」は、「プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体100質量部、無水マレイン酸2質量部、ラウリルメタクリレート1質量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5質量部を、混練反応してポリオレフィン樹脂(a1)を合成し、次に、トルエン680g及びメチルエチルケトン170gを仕込み、これに上記ポリオレフィン樹脂(a1)150gを供給してPP溶液a1を得て、プロピレン重合体100質量部及びトルエン435質量部を攪拌し、無水マレイン酸16質量部及びジクミルパーオキサイド1.5質量部を、滴下、撹拌し、変性重合体を得て、反応終了後、変性重合体を回収し、次に、この変性共重合体15質量部及びトルエン85質量部を、加熱、冷却し、次いで、降温したさせて、乳白色の均一なPP分散液b1を得て、前記PP溶液a1及び前記PP分散液b1を混合し、反応促進剤を混合し、次いで、多官能イソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、商品名「デュラネートTPA-100」)を混合して得る」ものである。
また、甲3発明の「接着剤層12」は、「接着剤組成物が硬化してなる」ものである。
そうすると、甲3発明の「接着剤層12」は、本件発明1の「不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物」に相当するものであるといえる。

(キ)上記(ア)?(カ)より、本件発明1と甲3発明とは、
「少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とがこの順に積層された積層体からなり、
前記絶縁層は、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物であり、
前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%であり、
前記硬化剤は、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、これらをポリマー化またはヌレート化したもの、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、変性ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、及びポリグリセリンポリグリシジルエーテルからなる化合物の群から選択された少なくとも1種である、
包装材料。」で一致し、次のB?Dの相違点で相違する。

(相違点)
B 「樹脂組成物の硬化物」について、本件発明1は、「ただし、不飽和カルボン酸またはその酸無水物とラウリルメタクリレートとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含む樹脂組成物の硬化物を除く」との特定があるのに対し、甲3発明は、「接着剤組成物」が、「プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体100質量部、無水マレイン酸2質量部、ラウリルメタクリレート1質量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5質量部を、混練反応してポリオレフィン樹脂(a1)を合成し、次に、トルエン680g及びメチルエチルケトン170gを仕込み、これに上記ポリオレフィン樹脂(a1)150gを供給してPP溶液a1を得て、プロピレン重合体100質量部及びトルエン435質量部を攪拌し、無水マレイン酸16質量部及びジクミルパーオキサイド1.5質量部を、滴下、撹拌し、変性重合体を得て、反応終了後、変性重合体を回収し、次に、この変性共重合体15質量部及びトルエン85質量部を、加熱、冷却し、次いで、降温したさせて、乳白色の均一なPP分散液b1を得て、前記PP溶液a1及び前記PP分散液b1を混合し、反応促進剤を混合し、次いで、多官能イソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、商品名「デュラネートTPA-100」)を混合して得る」ものであって、「接着剤組成物が硬化してなる接着剤層12」が、本件発明1で除かれている「樹脂組成物の硬化物」である点。

C 「絶縁層の厚み」が、本件発明1は、「0.1μm?20μmである」のに対し、甲3発明は、「接着剤組成物が硬化してなる接着剤層12」の厚みが特定されていない点。

D 「包装材料」について、本件発明は、「電池用」であるのに対し、甲3発明は、「食品、薬品等を収容する密封用容器、生活雑貨等の用途に適用される」ものである点。

(ク)事案に鑑み、まず、上記Dの相違点について検討する。
(ケ)甲3には、甲3発明の「熱融着性部材1」を電池用包装材料として用いることは記載も示唆もされていない。
(コ)そして、本件発明1の「電池用包装材料」は、「電極活物質や電極タブの破片などの微小な異物が、シーラント層同士の界面や電極タブとシーラント層との間などのヒートシールされる部分に存在する場合にも、絶縁性が高い電池用包装材料を提供することができる。」さらに、本件発明1の「電池用包装材料は、絶縁層と金属層またはシーラント層との接着性が高いため、耐久性にも優れている。」すなわち、本件発明1の「電池用包装材料によって電池素子を封止することにより、電池の絶縁性を高めることができ、さらに電池の耐久性を向上させることができる」(本件明細書【0013】)という効果を奏するものである。
(サ)また、仮に、甲3発明の「熱融着性部材1」を電池用包装材料として用いることが想到できたとしても、上記(コ)の「電極活物質や電極タブの破片などの微小な異物が、シーラント層同士の界面や電極タブとシーラント層との間などのヒートシールされる部分に存在する場合にも、絶縁性が高い電池用包装材料を提供することができる」という効果まで想到することはできない。
(シ)ここで、申立人は特許異議申立書において、(a)甲4には、成形用包装材が電池ケースとして好適に用いられ、これ以外にも、食品の包装材、医薬品の包装材として好適であると記載されていることから、甲3発明の「食品、薬品等を収容する密封用容器、生活雑貨等の用途に適用される熱融着性部材1」を電池ケースに応用することは当業者ならば容易に想到することである旨主張している。
(ス)しかしながら、甲4に記載された「成形用包装体」は、第二接着剤層12(本件発明1の「絶縁層」に相当。)として、「特に限定されるものではないが、例えばポリオール成分及びイソシアネート成分を含有してなる二液硬化型のウレタン系接着剤等が挙げられる」(上記5の(4)の【0049】参照。)とされており、甲3発明の「プロピレン-エチレンランダム共重合体」が反応して(変性して)得られる「ポリオレフィン樹脂(a1)」については何ら記載がない。
(セ)そうすると、甲3発明と甲4に記載された「成形用包装体」とは、絶縁層について異なるものといえるから、甲4に、成形用包装材が電池ケースとして好適に用いられ、これ以外にも、食品の包装材、医薬品の包装材として好適であると記載されていたとしても、この記載をもって、「食品、薬品等を収容する密封用容器、生活雑貨等の用途に適用される熱融着性部材1」である甲3発明を、「電池用包装材料」として用いることは、当業者が容易に想到できたとはいえない。
(ソ)また、仮に、「食品、薬品等を収容する密封用容器、生活雑貨等の用途に適用される熱融着性部材1」である甲3発明を、「電池用包装材料」として用いることが想到できたとしても、上記(コ)の「電極活物質や電極タブの破片などの微小な異物が、シーラント層同士の界面や電極タブとシーラント層との間などのヒートシールされる部分に存在する場合にも、絶縁性が高い電池用包装材料を提供することができる」という効果まで想到することができたとはいえない。
(タ)また、申立人は特許異議申立書において、本件発明は、「電極活物質や電極タブの破片などの微小な異物が、シーラント層同士の界面や電極タブとシーラント層との間などのヒートシールされる部分に存在する場合にも、絶縁性が高い電池用包装材料を提供することができる」ものであるところ、甲3発明は、他部材とポリオレフィン樹脂成形体の接着性に優れた接着剤組成物を提供することを目的としており、破損しにくく、耐久性に優れた密封容器等の熱融着複合製品を得ることも目的とするものであって、熱融着部材を構成する積層体の各層の接着力が高ければ、成形用包装材におけるシール性は高まるし、破損しにくければ、当然絶縁性を有するので、本件発明と甲3発明とは、両者の目的及び効果に実質的に差がないものである旨主張している。
(チ)ここで、甲3には、破損しにくい点について、「熱融着性樹脂層の厚さは、樹脂の材質等にもより、特に限定されないが、通常、10?200μmである。例えば、無延伸ポリプロピレンを含む層である場合、好ましくは10?200μm、より好ましくは20?100μm、更に好ましくは60?100μmである。無延伸ポリプロピレンを含む層の厚さが10?200μmであれば、容易に破損することがなく、耐久性の高い密封容器等の熱融着複合製品を得ることができる」(上記5の(3)の[0039]参照。)、「金属箔を用いる場合には、厚さが20?100μmであるアルミニウム箔を用いることが好ましい。これにより、破損が抑制された熱融着性部材を容易に形成することができる」(上記5の(3)の[0045]参照。)、「熱融着性樹脂層が無延伸ポリプロピレンを含む場合には、破損しにくく、耐久性に優れた密封用容器等の熱融着複合製品を得ることができる」(上記5の(3)の[0047]参照。)と、「熱融着性樹脂層」(本件発明1の「シーラント層」に相当。)の材料、厚さ、及び、「金属層」の材料を選択することにより、破損しにくくすることが記載されている。
(ツ)そうすると、甲3発明が、破損しにくいから高い絶縁性を得ることができたとしても、その絶縁性は、「熱融着性樹脂層」の材料と厚さ、及び、「金属層」の材料を選択することにより得られるものであって、本件発明1のように、絶縁層の材料や厚さを工夫することにより、高い絶縁性を提供するものではないから、その絶縁性の意味合いが異なるものであるといわざるをえない。
(テ)また、上記(コ)の「電極活物質や電極タブの破片などの微小な異物が、シーラント層同士の界面や電極タブとシーラント層との間などのヒートシールされる部分に存在する場合にも、絶縁性が高い電池用包装材料を提供することができる」という効果まで想到することはできない。
(ト)よって、申立人の主張には根拠がない。
(ナ)よって、上記Dの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明2?6について
(ア)本件発明2?6は、いずれも本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2?6と先願発明とは、少なくとも上記Dの相違点で相違する。
(イ)そして、上記Dの相違点は、上記アで検討したとおり、上記Dの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2?6は、甲3発明及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明7について
本件発明7と甲2電池発明とを対比する。
なお、特許異議申立書では、本件発明7は、甲3発明に、甲2に記載された事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたとしているが、本件発明7は「電池」の発明であるのに対し、甲3発明は「熱融着性部材1」の発明であって、全く異なる技術分野の発明であるから、両者の対比ができないので、ここでは、甲2に記載された発明を主引例とした。
(ア)甲2電池発明の「電池素子20」は、技術常識に照らせば、正極、負極、及び電解質を備えるものであるから、本件発明7の「正極、負極、及び電解質を備えた電池素子」に相当する。
(イ)甲2発明の「外装部材10は、高分子化合物膜と金属膜と高分子化合物膜とをこの順に張り合わせたラミネートフィルムにより形成されている」事項と、本件発明7の「電池用包装材料」は「少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とがこの順に積層された積層体からな」る事項とは、「電池用包装材料は、金属層を含む積層体により形成されている」事項で共通する。
(ウ)上記(ア)、(イ)より、本件発明7と甲2電池発明とは、
「正極、負極、及び電解質を備えた電池素子が、
金属層を含む積層体により形成されている電池用包装材料により封止されてなる、電池。」で一致し、次のEの相違点で相違する。

(相違点)
E 「積層体」が、少なくとも本件発明1を引用する本件発明7は、「少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とがこの順に積層された」ものであって、「前記絶縁層は、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物(ただし、不飽和カルボン酸またはその酸無水物とラウリルメタクリレートとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含む樹脂組成物の硬化物を除く)であり、前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%であり、前記硬化剤は、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、これらをポリマー化またはヌレート化したもの、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、変性ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、及びポリグリセリンポリグリシジルエーテルからなる化合物の群から選択された少なくとも1種であり、絶縁層の厚みが、0.1μm?20μmである」のに対し、甲2電池発明は、「高分子化合物膜と金属膜と高分子化合物膜とをこの順に張り合わせたラミネートフィルムにより形成されている」点。

(エ)上記Eの相違点について、検討する。
(オ)上記アの(ア)?(キ)で検討したように、甲3には、上記相違点Eのうち、「少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とがこの順に積層された」ものであって、「前記絶縁層は、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物」「であり、前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%であり、前記硬化剤は、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、これらをポリマー化またはヌレート化したもの、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、変性ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、及びポリグリセリンポリグリシジルエーテルからなる化合物の群から選択された少なくとも1種であ」ることに相当する事項が記載されている。
(カ)しかしながら、甲2電池発明は、電池についての発明であるのに対し、甲3に記載された事項は、「食品、薬品等を収容する密封用容器、生活雑貨等の用途に適用される熱融着性部材1」(上記5の(3)の[0002]参照。)についての発明であって、甲2発明に甲3に記載された事項を適用する動機付けがない。
(キ)よって、上記Eの相違点に係る本件発明7の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、本件発明7は、甲2電池発明及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件発明8について
(ア)本件発明8は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明8と甲3方法発明とを対比すると、少なくとも上記Dの相違点で相違する。
(イ)そして、上記Dの相違点は、上記アで検討したとおり、上記Dの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、甲3発明及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

7 むすび
以上のとおり、本件の請求項1?8に係る特許は、平成30年10月30日付けで通知された取消理由に記載した取消理由、令和1年5月21日付けで通知された取消理由(決定の予告)に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すべき理由を発見しないし、他に本件の請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件の請求項9は、本件訂正により削除されたから、本件特許の請求項9に対して、申立人がした特許異議申立については、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とがこの順に積層された積層体からなり、
前記絶縁層は、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物(ただし、不飽和カルボン酸またはその酸無水物とラウリルメタクリレートとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含む樹脂組成物の硬化物を除く)であり、
前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%であり、
前記硬化剤は、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、これらをポリマー化またはヌレート化したもの、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、変性ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、及びポリグリセリンポリグリシジルエーテルからなる化合物の群から選択された少なくとも1種であり、
絶縁層の厚みが0.1μm?20μmである、電池用包装材料。
【請求項2】
前記変性ポリプロピレン系樹脂は、ホモポリプロピレン及びプロピレン共重合体の少なくとも一方のプロピレン系樹脂が、前記不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性されたものである、請求項1に記載の電池用包装材料。
【請求項3】
前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、80モル%?100モル%である、請求項1または2に記載の電池用包装材料。
【請求項4】
前記硬化剤は、2種類以上の前記化合物により構成されている、請求項1?3のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項5】
前記樹脂組成物において、前記硬化剤の含有量は、前記変性ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、0.1質量部?50質量部の範囲にある、請求項1?4のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項6】
前記金属層がアルミニウム箔により形成されている、請求項1?5のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項7】
正極、負極、及び電解質を備えた電池素子が、請求項1?6のいずれかに記載の電池用包装材料により封止されてなる、電池。
【請求項8】
少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とをこの順に積層して積層体を得る工程を備え、
前記工程において、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物から前記絶縁層を形成し、
前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%であり、
前記硬化剤は、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、これらをポリマー化またはヌレート化したもの、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、変性ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、及びポリグリセリンポリグリシジルエーテルからなる化合物の群から選択された少なくとも1種であり、
絶縁層の厚みが0.1μm?20μmであり、
前記工程後に、前記積層体を前記シーラント層の融点以上の温度で加熱する工程をさらに備える、請求項1?6のいずれかに記載の電池用包装材料の製造方法。
【請求項9】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-09-13 
出願番号 特願2015-89609(P2015-89609)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 16- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 正 知晃  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
亀ヶ谷 明久
登録日 2018-02-02 
登録番号 特許第6282997号(P6282997)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 電池用包装材料  
代理人 水谷 馨也  
代理人 田中 順也  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
代理人 田中 順也  
代理人 水谷 馨也  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ