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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C10M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C10M
審判 全部申し立て 2項進歩性  C10M
管理番号 1356818
異議申立番号 異議2019-700003  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-01-08 
確定日 2019-09-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6355339号発明「金属加工油剤組成物、それを用いた加工方法及びその金属加工方法により製造される金属加工部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6355339号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6355339号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6355339号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成26年1月17日(優先権主張 平成25年1月18日 (JP)日本国)にされたものであり、平成30年6月22日にその特許権の設定登録がされ、同年7月11日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その特許についての異議申立ての経緯は、以下のとおりである。

平成31年1月8日: 特許異議申立人山内博明による特許異議の申立て
平成31年1月10日: 特許異議申立人新井誠一による特許異議の申立て
平成31年4月2日付け:取消理由通知
令和元年5月24日: 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
令和元年7月2日: 意見書の提出(特許異議申立人新井誠一)

なお、令和元年5月24日になされた訂正請求に対し、特許法第120条の5第5項の規定により、特許異議申立人に意見を述べる機会を与えたが、特許異議人山内博明からの応答はなかった。


第2 訂正の適否
1 訂正の内容

令和元年5月24日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。

(1) 訂正事項1(請求項1?6に係る訂正)

特許請求の範囲の請求項1に、
「下記成分(A)?(C):
(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種、
・・・(略)・・・
を含有し、」
と記載されているのを、
「下記成分(A)?(C):
(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種、
・・・(略)・・・
を含有する金属加工用油剤組成物であって、
基油として、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を含み、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、」
と訂正する。
請求項2?6についても同様に訂正する。

(2) 訂正事項2(請求項6に係る訂正)

特許請求の範囲の請求項6に、
「合成エステル油が2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステル及び/又はトリメチロールプロパンのカルボン酸エステルであり、」
と記載されているのを、
「合成エステル油が2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルであるか、又は2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステル及びトリメチロールプロパンのカルボン酸エステルであり、」
と訂正する。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的

訂正前の請求項1に係る発明は、金属加工用油剤組成物が「(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種」を含むことを特定している。すなわち、基油として、合成エステル油を含む態様と、含まない態様とを包含している。
これに対して、訂正後の請求項1に係る発明は、金属加工用油剤組成物が、基油として、特定の2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を必須成分として含むことを特定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること

訂正事項1は、金属加工用油剤組成物が、基油として、特定の2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を必須成分として含むことを特定するものであり、この特定の2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルは、願書に添付した明細書の【0009】に記載されているから、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと

訂正事項1は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的

訂正前の請求項6に係る発明では、「合成エステル油が2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステル及び/又はトリメチロールプロパンのカルボン酸エステル」であることを特定している。すなわち、合成エステル油がトリメチロールプロパンのカルボン酸エステルである態様を包含している。
これに対して、訂正後の請求項6に係る発明では、訂正事項1において、金属加工用油剤組成物が、基油として、特定の2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を必須成分として含むことを特定したことに対応して、合成エステル油がトリメチロールプロパンのカルボン酸エステルである態様を削除するものである。すなわち、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範回内の訂正であること

訂正事項2は、訂正事項1において、金属加工用油剤組成物が、基油として、特定の2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を必須成分として含むことを特定したことに対応して、合成エステル油がトリメチロールプロパンのカルボン酸エステルである態様を削除するものであるから、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと

訂正事項2は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(3)まとめ

訂正事項1、2は、それぞれ、一群の請求項を構成する請求項1?6、及び、請求項6を訂正の対象とし、特許法第120条の5第4項及び第3項の規定に従って、請求されたものであるところ、上記のとおり、いずれも、同条第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を、令和元年5月24日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?6]について訂正することを認める。


第3 本件訂正発明

本件特許の請求項1?6に係る発明は、令和元年5月24日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された、以下のとおりのもの(以下、それぞれ、「本件訂正発明1」、「本件訂正発明2」・・・「本件訂正発明6」といい、これらをまとめて「本件訂正発明」ともいう。)と認める。

「 【請求項1】
下記成分(A)?(C):
(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種、
(B)アミンとして、少なくとも第3級アルカノールアミンと、第1級アミン又は第2級アミンとの組み合わせ、及び
(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体、
を含有する金属加工用油剤組成物であって、
基油として、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を含み、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
全構成成分のアミン価が10?100mgKOH/gであり、全構成成分の酸価(AV)とアミン価(BN)の比率(BN/AV)が1.0?2.0であり、アミン価の25%以上が3級アルカノールアミンによるものであり、炭素数2?8のヒドロキシカルボン酸を含まない、切削油剤組成物又は研削油剤組成物である金属加工用油剤組成物。
【請求項2】
(B)第3級アルカノールアミンが、ブチルジイソプロパノールアミン、ジブチルモノイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジブチルエタノールアミン、シクロヘキシルジエタノールアミン及びこれらの混合物からなる群から選ばれる請求項1記載の金属加工用油剤組成物。
【請求項3】
(B)第3級アルカノールアミンが、トリエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン及びこれらの混合物からなる群から選ばれる請求項2記載の金属加工用油剤組成物。
【請求項4】
組成物の全質量を基準として、(A)基油の含有量が30質量%以上であり、(B)第3級アルカノールアミンと(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体との合計量が70質量%以下である請求項1?3のいずれか1項記載の金属加工用油剤組成物。
【請求項5】
鉱油が、40℃における動粘度が20?90mm^(2)/sのものであり、合成炭化水素油が、40℃における動粘度が20?90mm^(2)/sのものであり、合成エステル油が、40℃における動粘度が5?60mm^(2)/sである、請求項1?4のいずれか1項記載の金属加工用油剤組成物。
【請求項6】
合成エステル油が2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルであるか、又は2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステル及びトリメチロールプロパンのカルボン酸エステルであり、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1?5のいずれか1項記載の金属加工用油剤組成物。」


第4 当審の判断
1 取消理由通知書に記載した取消理由について
(1) 取消理由の概要

本件訂正前の請求項1?6に係る特許に対して平成31年4月2日付けで特許権者に通知した取消理由は、以下の取消理由1?3である。

<取消理由1>
本件特許の請求項1?6に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
<取消理由2>
本件特許の請求項1?6に係る発明は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、その出願前日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
<取消理由3>
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

<取消理由1、2で引用した刊行物一覧>

取消理由1、2で引用した刊行物は、以下のとおりである。
なお、主たる引用刊行物は、「甲1-1」?「甲1-5」及び「甲2-1」である。

・国際公開2006/129747号(異議申立人山内博明(以下、「申立人1」という。)が提出した甲第1号証。以下、「甲1-1」という。)
・特開2010-189530号公報(申立人1が提出した甲第2号証。以下、「甲1-2」という。)
・特開2003-94283号公報(申立人1が提出した甲第3号証。以下、「甲1-3」という。)
・特開2002-285186号公報(申立人1が提出した甲第4号証(以下、「甲1-4」という。)であり、異議申立人新井誠一(以下、「申立人2」という。)が提出した甲第2号証(以下、「甲2-2」という。)でもある。)
・特開平2-199199号公報(申立人1が提出した甲第5号証。以下、「甲1-5」という。)
・特開2012-197329号公報(申立人1が提出した甲第6号証。以下、「甲1-6」という。)
・特開昭57-159891号公報(申立人1が提出した甲第8号証(以下、「甲1-8」という。))
・特開2011-178854号公報(申立人1が提出した甲第9号証(以下、「甲1-9」という。)
・特開2003-82380号公報(申立人1が提出した甲第10号証(以下、「甲1-10」という。)
・特開2007-302754号公報(申立人1が提出した甲第11号証(以下、「甲1-11」という。)
・特開平8-253789号公報(申立人2が提出した甲第1号証。以下、「甲2-1」という。)

(2) 取消理由1、2について
ア 甲1-1に基づく取消理由について
(ア)甲1-1の記載
甲1-1(国際公開2006/129747号)には、以下の事項が記載されている。

「[0001] 本発明は切削研削加工をはじめとし塑性加工などの金属加工へも広く適用できる水溶性金属加工油剤組成物及びこれを用いた金属加工方法に関し、特に、耐腐敗性能に優れた水溶性金属加工油剤組成物及びこれを用いた金属加工方法に関するものである。 」
「[0022] また、本発明に係わる水溶性金属加工油剤組成物は、必要に応じて、基油を含有する。基油としては、たとえば鉱油、ポリオールエステル、油脂、ポリグリコール、ポリ αオレフィン、α?オレフイン、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、アルキルベンゼン、ポリエーテルなどがあげられる。これらは、単品に限らず、複数種のブレンド油としても良い。好ましくは、鉱油、ポリグリコール、アルキルベンゼンが良い。
[0023] 本発明の、金属加工油剤組成物は、必要に応じて、ラウリルコハク酸、ステアリルコハク酸、イソステアリルコハク酸、ドデカン二酸などの脂肪酸、石油スルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸塩、カルボン酸アミドなどを防腐剤として用いても良い。
また、本発明の、金属加工油剤組成物は、必要に応じてシリコーン系消泡剤、アルコール系消泡剤、ベンゾチアゾール系金属防食剤などを用いても良い。
さらに、本発明の、金属加工油剤組成物は、必要に応じてベンゾイソチアゾリン、及び/またはその誘導体、ソジウムオマジン、金属ピリチオン塩、などの防腐剤、ラウリルアミン、オレイルアミンなどに代表されるアルキルアミンおよびそれらのオキシエチレン付加物を防腐剤あるいは菌抑制剤として用いても良い。
本発明の金属加工油剤組成物は水で5?200倍程度に希釈して使用するのが一般的である。
[0024] 以下実施例により本発明を詳細に説明する。
表1 (例1?8)、表2(例9?16)及び表3(例17?28)に示す質量組成 (それぞれ全体で100質量部)の金属加工油剤組成物を調製した。
[0025] [表1]


(イ) 甲1-1発明

上記表1に記載の例2の組成物は、「切削研削加工をはじめとし塑性加工などの金属加工へも広く適用できる水溶性金属加工油剤組成物」([0001])の具体例であると認められるから、甲1-1には、以下の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲1-1発明>
「切削研削加工をはじめとし塑性加工などの金属加工へも広く適用できる水溶性金属加工油剤組成物であって、
ノルマルブチルジエタノールアミン 5質量部
ジシクロヘキシルアミン 5質量部
シクロヘキシルプロピルジアミン 1質量部
メチルジエタノールアミン 6質量部
ペラルゴン酸 3.5質量部
ネオデカン酸 1質量部
オレイン酸 5質量部
ドデカン二酸 2質量部
ソルビタンモノオレエート 9質量部
ラウリルアミンEO7モル付加物 3質量部
オレイルアルコールEO2モル付加物 3質量部
鉱油 残部
水 10質量部
からなり、全体で100質量部である組成物。」


(ウ) 本件訂正発明1について
a 対比

本件訂正発明1と甲1-1発明を対比する。
甲1-1発明の「ノルマルブチルジエタノールアミン」、及び、「メチルジエタノールアミン」は、本件訂正発明1の「第3級アルカノールアミン」に相当する。
甲1-1発明の「ジシクロヘキシルアミン」、「シクロヘキシルプロピルジアミン」、及び、「ラウリルアミンEO7モル付加物」は、本件訂正発明1の「第1級アミン又は第2級アミン」に相当する。
甲1-1発明の「ペラルゴン酸」、「ネオデカン酸」、「オレイン酸」、及び、「ドデカン二酸」は、本件訂正発明1の「カルボン酸」に相当する。
甲1-1発明の「ソルビタンモノオレエート」は、本件特許の明細書に「合成エステル油としては、例えば (中略) ソルビタンモノオレート」(【0009】)と記載されていることから、本件訂正発明1の「合成エステル油」に相当する。
甲1-1発明の「鉱油」は、本件訂正発明1の「鉱油」に相当する。
したがって、甲1-1発明は、本件訂正発明1の「下記成分(A)?(C):(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種、(B)アミンとして、少なくとも第3級アルカノールアミンと、第1級アミン又は第2級アミンとの組み合わせ、及び(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体、を含有し」を充足する。

また、「ノルマルブチルジエタノールアミン」の分子量は、161であるから、甲1-1発明の組成物1gあたりの「ノルマルブチルジエタノールアミン」によるアミン価は、17.4mgKOH/g(=1/161*56.1*1000*5/100)であると計算でき、
「ジシクロヘキシルアミン」のアミン価は、本件特許の明細書の【表1】によれば312mgKOH/gであるから、甲1-1発明の組成物1gあたりの「ジシクロヘキシルアミン」によるアミン価は、15.6mgKOH/g(=312*5/100)であると計算でき、
「シクロヘキシルプロピルジアミン」は、分子量が156の2価のアミンであるから、甲1-1発明の組成物1gあたりの「シクロヘキシルプロピルジアミン」によるアミン価は、7.2mgKOH/g(=1/156*56.1*1000*1/100*2)であると計算でき、
「メチルジエタノールアミン」のアミン価は、本件特許の明細書の【表1】によれば471mgKOH/gであるから、甲1-1発明の組成物1gあたりの「メチルジエタノールアミン」によるアミン価は、28.3mgKOH/g(=471*6/100)であると計算でき、
「ラウリルアミンEO7モル付加物」のアミン価は、本件特許の明細書の【表1】によれば111mgKOH/gであるから、甲1-1発明の組成物1gあたりの「ラウリルアミンEO7モル付加物」によるアミン価は、3.3mgKOH/g(=111*3/100)であると計算できる。
したがって、甲1-1発明の組成物1gあたりのアミン価(以下、「甲1-1発明における全アミン価」という。)は、71.8mgKOH/g(=17.4+15.6+7.2+28.3+3.3)であると計算できるから、甲1-1発明は、本件訂正発明1の「全構成成分のアミン価が10?100mgKOH/gであり」を充足する。

そして、甲1-1発明における全アミン価のうち3級アルカノールアミンによるものは、45.7mgKOH/g(=17.4+28.3)であると計算でき、甲1-1発明における全アミン価のうち3級アルカノールアミンによるものの割合は、64%(=45.7/71.8*100)であると計算できる。
したがって、甲1-1発明は、本件訂正発明1の「アミン価の25%以上が3級アルカノールアミンによるものであり」を充足する。

さらに、「ペラルゴン酸」の分子量は、158であるから、甲1-1発明の組成物1gあたりの「ペラルゴン酸」による酸価は、12.4mgKOH/g(=1/158*56.1*1000*3.5/100)であると計算でき、
「ネオデカン酸」の酸価は、本件特許の明細書の【表1】によれば326mgKOH/gであるから、甲1-1発明の組成物1gあたりの「ネオデカン酸」による酸価は、3.3mgKOH/g(=326*1/100)であると計算でき、
「オレイン酸」の分子量は282であるから、オレイン酸1gあたりの酸価は、199mgKOH/g(=1/282*56.1*1000)と計算できる(なお、本件特許の明細書の【表1】には181mgKOH/gと記載されているが、誤っている。)。したがって、甲1-1発明の組成物1gあたりの「オレイン酸」による酸価は、10.0mgKOH/g(=199*5/100)であると計算でき、
「ドデカン二酸」の酸価は、本件特許の明細書の【表1】によれば488mgKOH/gであるから、甲1-1発明の組成物1gあたりの「ドデカン二酸」による酸価は、9.8mgKOH/g(=488*2/100)であると計算できる。
したがって、甲1-1発明の組成物1gあたりの酸価(以下、「甲1-1発明における全酸価」という。)は、35.5mgKOH/g(=12.4+3.3+10.0+9.8)であると計算でき、甲1-1発明における全アミン価と甲1-1発明における全酸価の比率は、2.0(=71.8/35.5*100)であると計算できるから、甲1-1発明は、本件訂正発明1の「全構成成分の酸価(AV)とアミン価(BN)の比率(BN/AV)が1.0?2.0であり」を充足する。

加えて、甲1-1発明は、本件訂正発明1の「炭素数2?8のヒドロキシカルボン酸を含まない」を充足する。
甲1-1発明の「組成物」は、「切削研削加工をはじめとし塑性加工などの金属加工へも広く適用できる水溶性金属加工油剤組成物」であるから、本件訂正発明1の「切削油剤組成物又は研削油剤組成物である金属加工用油剤組成物」に相当する。

そうすると、本件訂正発明1と甲1-1発明の一致点、相違点は、以下のとおりであると認められる。

<一致点>
「 下記成分(A)?(C):
(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種、
(B)アミンとして、少なくとも第3級アルカノールアミンと、第1級アミン又は第2級アミンとの組み合わせ、及び
(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体、
を含有する金属加工用油剤組成物であって、
全構成成分のアミン価が10?100mgKOH/gであり、全構成成分の酸価(AV)とアミン価(BN)の比率(BN/AV)が1.0?2.0であり、アミン価の25%以上が3級アルカノールアミンによるものであり、炭素数2?8のヒドロキシカルボン酸を含まない、切削油剤組成物又は研削油剤組成物である金属加工用油剤組成物。」

<相違点1>
「基油」について、本件訂正発明1は、「基油として、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を含み、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり」と特定されているのに対し、甲1-1発明は、「鉱油」を含むものである点。

b 相違点1についての検討

上記相違点1について検討する。
「基油」について、甲1-1の[0022]には、たとえば鉱油、ポリオールエステル、油脂などがあげられることや、好ましくは、鉱油、ポリグリコール、アルキルベンゼンが良いことが記載されているが、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルについては記載も示唆もない。
そして、上記記載によれば、甲1-1発明の基油に関して、なんらかの理由で好ましいものや、好ましいものよりは劣るが許容可能なものがあることを推察できるところ、甲1-1発明は、上記のとおり、基油として好ましいとされている「鉱油」を使用するものである。
そうすると、甲1-1発明は、既に好適とされている「鉱油」を基油として用いていることから、当業者は、甲1-1発明の「鉱油」を、わざわざ甲1-1に何ら記載ないし示唆もない「2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステル」に置換することを着想することはないと解するのが相当である。
また、その他の上記引用刊行物をみても、当該着想を動機付ける記載は見当たらない。

c 効果について

ここで、効果についてみると、本件訂正発明1は、優れた切削性を有する金属加工油剤を提供することができるという効果を奏するものである(【0005】)。また、「優れた切削性」については、【0019】に記載されている「切削性試験」で「十点平均粗さ表面粗さ」の数値を測定することにより評価しているところ、本件訂正発明1の実施例に該当する実施例1?4、36?40の同数値は、4.3?8.7μmであり(【表1】、【表4】)、一方、基油として鉱油を含む例(甲1-1発明に対応する例)に該当する実施例5?31、33、34の同数値は、4.3?13.8μmである。
これらの実施例は、基油以外の成分(成分(B)、(C))の種類や含有割合、アミン価、酸化とアミン価の比率などが一致していないので、直接対比することができるものではないが、本件訂正発明1のように基油として「2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を含み、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種」を用いることにより、「十点平均粗さ表面粗さ」の数値を低く抑えられることがわかる。
そして、当該効果は、甲1-1に記載された事項から当業者が予測することができないものであると認められる。

d 小括

したがって、本件訂正発明1は、甲1-1に記載された発明であるとは認められず、また、当業者が甲1-1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとも認められない。

(エ) 本件訂正発明2?6について

本件訂正発明2?6は、いずれも、本件訂正発明1を直接または間接的に引用し、さらに限定したものであるが、上記のとおり、本件訂正発明1は、当業者が甲1-1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められないものであるから、本件訂正発明2?6も、本件訂正発明1と同様の理由により、当業者が甲1-1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められない。


イ 甲1-2に基づく取消理由について
(ア) 甲1-2の記載

甲1-2(特開2010-189530号公報)には、以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、各種金属材料の切削加工に有用な、エマルション型水溶性切削油剤組成物に関する。なお、本明細書における「切削」には、切削と研削の両方が含まれる。」
「【0013】
不揮発成分に含まれる基油は限定されず、例えば、鉱物油、動植物油、合成潤滑油等が幅広く使用できる。不揮発成分は、これらの基油を主成分とし、必要に応じて後述の各種添加剤を含む。不揮発成分の含有量は、水溶性切削油剤組成物中に55質量%未満となる範囲で調整可能であるが、通常は10?50質量%程度が好ましく、20?40質量%程度がより好ましい。なお、下限値は1質量%程度である。」
「【0027】
本発明の水溶性切削油剤組成物は、実使用に際しては2?15質量%程度に水希釈して用いる。用途としては、いわゆる切削油又は研削油として有用である。研削油の場合には、例えば、ステンレス鋼板のベルト研削加工、粗仕上げ及び仕上げ研削加工、クリープフィード研削加工、超仕上げ加工等に用いられる。切削油の場合には、例えば、旋削加工、ドリル、タップ、リーマ、中ぐりなどの穴加工、ブローチ加工、歯切加工、自動盤加工等に用いられる。」
「【0031】
実施例1及び比較例1
実施例1及び比較例1で調製する水溶性切削油剤組成物の組成を下記表1に示す。
【0032】
精製水以外の成分を約60℃で混合した後、30℃の精製水に徐々に加えることによりO/Wエマルション型水溶性切削油剤組成物を調製した。
【0033】
【表1】


試験例1
実施例1及び比較例1で調製した水溶性切削油剤組成物の性能評価を行った。
【0034】
具体的には、各水溶性切削油剤組成物の10倍希釈溶液(水希釈)を試験液とし、四球式摩擦摩耗試験機(神鋼造機製)を用いて、ステップアップ荷重下における各試験液が示すトルク及び摩擦係数を測定することにより行った。なお、ステップアップ荷重は、図1に示す経過時間(横軸:秒)と負荷荷重(縦軸:N)との関係となるように設定した。
(トルク測定結果)
負荷荷重変化とトルク変化の関係を調べた。結果を図2に示す。」
「【0049】
(中略)
実施例7
実施例7で調製する水溶性切削油剤組成物の組成を下記表7に示す。
【0050】
精製水以外の成分を約60℃で混合した後、30℃の精製水に徐々に加えることによりO/Wエマルション型水溶性切削油剤組成物を調製した。
【0051】
【表7】



(イ) 甲1-2発明

上記【表1】に記載の実施例1の組成物、及び、【表7】に記載の実施例7の組成物は、「各種金属材料の切削加工に有用な、エマルション型水溶性切削油剤組成物」(【0001】)の具体例であると認められるから、甲1-2には、実施例1、7に基づく以下の発明(以下、それぞれ、「甲1-2-1発明」、及び、「甲1-2-7発明」といい、まとめて、「甲1-2発明」ともいう。)が記載されていると認められる。

<甲1-2-1発明>
「各種金属材料の切削加工に有用な、エマルション型水溶性切削油剤組成物であって、
アミノメチルプロパノールアミン 0.9質量%
トリエタノールアミン 2.0質量%
ジシクロヘキシルアミン 0.4質量%
二塩基酸混合物(C8?12混合物) 1.0質量%
ダイマー酸 1.0質量%
オレイン酸 2.5質量%
トリメチロールプロパントリオレエート 2.0質量%
ソルビタンモノオレエート 1.5質量%
C11アルコールEO・PO8モル付加物 0.5質量%
基油(マシンオイル22) 7.6質量%
防腐剤 0.6質量%
精製水 80.0質量%
からなる組成物。」

<甲1-2-7発明>
「各種金属材料の切削加工に有用な、エマルション型水溶性切削油剤組成物であって、
アミノメチルプロパノールアミン 2.5質量%
トリエタノールアミン 5.0質量%
ジシクロヘキシルアミン 1.0質量%
シクロへキシルアミンEO 2モル付加物 7.5質量%
二塩基酸混合物(C8?12混合物) 2.5質量%
ダイマー酸 2.5質量%
オレイン酸 8.75質量%
トリメチロールプロパントリオレエート 1.5質量%
ソルビタンモノオレエート 3.75質量%
C11アルコールEO・PO8モル付加物 1.25質量%
基油(マシンオイル22) 12.25質量%
防腐剤 1.5質量%
精製水 50.0質量%
からなる組成物。」


(ウ) 本件訂正発明1について
a 引用発明を甲1-2-1発明とする場合について
(a) 対比

まず、本件訂正発明1と甲1-2-1発明を対比する。
甲1-2-1発明の「トリエタノールアミン」は、本件訂正発明1の「第3級アルカノールアミン」に相当する。
甲1-2-1発明の「アミノメチルプロパノールアミン」、及び、「ジシクロヘキシルアミン」は、本件訂正発明1の「第1級アミン又は第2級アミン」に相当する。
甲1-2-1発明の「二塩基酸混合物(C8?12混合物)」、「ダイマー酸」、及び、「オレイン酸」は、本件訂正発明1の「カルボン酸」に相当する。
甲1-2-1発明の「トリメチロールプロパントリオレエート」、及び、「ソルビタンモノオレエート」は、本件特許の明細書に「合成エステル油としては、例えば (中略) トリメチロールプロパントリオレート (中略) ソルビタンモノオレート」(【0009】)と記載されていることから、本件訂正発明1の「合成エステル油」に相当する。
甲1-2-1発明の「基油(マシンオイル22)」は、本件訂正発明1の「(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種」に相当する。
したがって、甲1-2-1発明は、本件訂正発明1の「下記成分(A)?(C):(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種、(B)アミンとして、少なくとも第3級アルカノールアミンと、第1級アミン又は第2級アミンとの組み合わせ、及び(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体、を含有し」を充足する。

また、「トリエタノールアミン」のアミン価は、本件特許の明細書の【表1】によれば377mgKOH/gであるから、甲1-2-1発明の組成物1gあたりの「トリエタノールアミン」によるアミン価は、7.5mgKOH/g(=377*2/100)であると計算でき、
「アミノメチルプロパノールアミン」は、分子量が89.1の2価のアミンであるから、甲1-2-1発明の組成物1gあたりの「アミノメチルプロパノールアミン」によるアミン価は、11.3mgKOH/g(=1/89.1*56.1*1000*0.9/100*2)であると計算でき、
「ジシクロヘキシルアミン」のアミン価は、本件特許の明細書の【表1】によれば312mgKOH/gであるから、甲1-2-1発明の組成物1gあたりの「ジシクロヘキシルアミン」によるアミン価は、1.2mgKOH/g(=312*0.4/100)であると計算できる。
したがって、甲1-2-1発明の組成物1gあたりのアミン価(以下、「甲1-2-1発明における全アミン価」という。)は、20.0mgKOH/g(=7.5+11.3+1.2)であると計算できるから、甲1-2-1発明は、本件訂正発明1の「全構成成分のアミン価が10?100mgKOH/gであり」を充足する。

そして、甲1-2-1発明における全アミン価のうち3級アルカノールアミンによるものは、7.5mgKOH/gであるから、甲1-2-1発明における全アミン価のうち3級アルカノールアミンによるものの割合は、38%(=7.5/20.0*100)であると計算できる。
したがって、甲1-2-1発明は、本件訂正発明1の「アミン価の25%以上が3級アルカノールアミンによるものであり」を充足する。

さらに、「二塩基酸混合物(C8?12混合物)」の分子量(平均分子量)は、二塩基酸が全てC8の酸(オクタン二酸)である場合の174から、全てC12の酸(ドデカン二酸)である場合の230の範囲にあると認められるから、甲1-2-1発明の組成物1gあたりの酸価は、6.4mgKOH/g(=1/174*56.1*1000*1/100*2)から、4.9mgKOH/g(=1/230*56.1*1000*1/100*2)の範囲にあると計算でき、
「ダイマー酸」は、分子量565の二塩基酸であるから、甲1-2-1発明の組成物1gあたりの「ダイマー酸」の酸価は、2.0mgKOH/g(=1/565*56.1*1000*1/100*2)であると計算でき、
「オレイン酸」の分子量は282であるから、オレイン酸1gあたりの酸価は、199mgKOH/g(=1/282*56.1*1000)と計算できる(なお、本件特許の明細書の【表1】には181mgKOH/gと記載されているが、誤っている。)。したがって、甲1-2-1発明の組成物1gあたりの「オレイン酸」の酸価は、5.0mgKOH/g(=199*2.5/100)であると計算できる。
したがって、甲1-2-1発明の組成物1gあたりの酸価は、11.9mgKOH/g(=4.9+2.0+5.0)から、13.4mgKOH/g(=6.4+2.0+5.0)であると計算でき、酸価(AV)とアミン価(BN)の比率(BN/AV)は、1.5(=20.0/13.4*100)から、1.7(=20.0/11.9*100)であると計算できるから、甲1-2-1発明は、本件訂正発明1の「全構成成分の酸価(AV)とアミン価(BN)の比率(BN/AV)が1.0?2.0であり」を充足する。

加えて、甲1-2-1発明は、本件訂正発明1の「炭素数2?8のヒドロキシカルボン酸を含まない」を充足する。
甲1-2-1発明の「組成物」は、「各種金属材料の切削加工に有用な、エマルション型水溶性切削油剤組成物」であるから、本件訂正発明1の「切削油剤組成物又は研削油剤組成物である金属加工用油剤組成物」に相当する。

そうすると、本件訂正発明1と甲1-2-1発明の一致点、相違点は、以下のとおりであると認められる。

<一致点>
「 下記成分(A)?(C):
(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種、
(B)アミンとして、少なくとも第3級アルカノールアミンと、第1級アミン又は第2級アミンとの組み合わせ、及び
(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体、
を含有する金属加工用油剤組成物であって、
全構成成分のアミン価が10?100mgKOH/gであり、全構成成分の酸価(AV)とアミン価(BN)の比率(BN/AV)が1.0?2.0であり、アミン価の25%以上が3級アルカノールアミンによるものであり、炭素数2?8のヒドロキシカルボン酸を含まない、切削油剤組成物又は研削油剤組成物である金属加工用油剤組成物。」

<相違点2>
「基油」について、本件訂正発明1は、「基油として、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を含み、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり」と特定されているのに対し、甲1-2-1発明は、「基油(マシンオイル22)」、「トリメチロールプロパントリオレエート」、及び、「ソルビタンモノオレエート」を含むものである点。

(b) 相違点2についての検討

上記相違点2について検討する。
「基油」について、甲1-2の【0013】には、基油は限定されず、例えば、鉱物油、動植物油、合成潤滑油等が幅広く使用できることが記載されているが、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含め、使用可能な基油の具体例は一切記載されていない。
そうすると、当業者は、甲1-2-1発明の基油に関して、周知のものがいずれも使用可能であるが、いずれを使用しても特段の優劣はないと理解するから、甲1-2-1発明の「基油(マシンオイル22)」、「トリメチロールプロパントリオレエート」、及び、「ソルビタンモノオレエート」を、わざわざ甲1-2に何ら記載ないし示唆もない「2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステル」に置換することを着想することはないと解するのが相当である。
また、その他の上記引用刊行物をみても、当該着想を動機付ける記載は見当たらない。

(c) 効果について

また、効果についてみると、本件訂正発明1は、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを用いることにより、上記ア(ウ)cに記載した効果を奏するものであるところ、上述のとおり、当業者は、甲1-2の記載に基づき、甲1-2-1発明の「基油(マシンオイル22)」、「トリメチロールプロパントリオレエート」、及び、「ソルビタンモノオレエート」を「2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステル」にすることを着想することすらできないのであるから、当該効果は、甲1-2に記載された事項から当業者が予測することができないものであると認められる。

(d) 小括

そうすると、本件訂正発明1は、甲1-2に記載された甲1-2-1発明であるとは認められず、また、当業者が甲1-2に記載された甲1-2-1発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとも認められない。

b 引用発明を甲1-2-7発明とする場合について
(a) 対比

次に、本件訂正発明1と甲1-2-7発明を対比する。
甲1-2-7発明の「トリエタノールアミン」は、本件訂正発明1の「第3級アルカノールアミン」に相当する。
甲1-2-7発明の「アミノメチルプロパノールアミン」、「ジシクロヘキシルアミン」、及び、「シクロへキシルアミンEO 2モル付加物」は、本件訂正発明1の「第1級アミン又は第2級アミン」に相当する。
甲1-2-7発明の「二塩基酸混合物(C8?12混合物)」、「ダイマー酸」、及び、「オレイン酸」は、本件訂正発明1の「カルボン酸」に相当する。
甲1-2-7発明の「トリメチロールプロパントリオレエート」、及び、「ソルビタンモノオレエート」は、本件特許の明細書に「合成エステル油としては、例えば (中略) トリメチロールプロパントリオレート (中略) ソルビタンモノオレート」(【0009】)と記載されていることから、本件訂正発明1の「合成エステル油」に相当する。
甲1-2-7発明の「基油(マシンオイル22)」は、本件訂正発明1の「(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種」に相当する。
したがって、甲1-2-7発明は、本件訂正発明1の「下記成分(A)?(C):(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種、(B)アミンとして、少なくとも第3級アルカノールアミンと、第1級アミン又は第2級アミンとの組み合わせ、及び(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体、を含有し」を充足する。

また、「トリエタノールアミン」のアミン価は、本件特許の明細書の【表1】によれば377mgKOH/gであるから、甲1-2-7発明の組成物1gあたりの「トリエタノールアミン」によるアミン価は、18.9mgKOH/g(=377*5/100)であると計算でき、
「アミノメチルプロパノールアミン」は、分子量が89.1の2価のアミンであるから、甲1-2-7発明の組成物1gあたりの「アミノメチルプロパノールアミン」によるアミン価は、31.5mgKOH/g(=1/89.1*56.1*1000*2.5/100*2)であると計算でき、
「ジシクロヘキシルアミン」のアミン価は、本件特許の明細書の【表1】によれば312mgKOH/gであるから、甲1-2-7発明の組成物1gあたりの「ジシクロヘキシルアミン」によるアミン価は、3.1mgKOH/g(=312*1.0/100)であると計算でき、
「シクロへキシルアミンEO 2モル付加物」のアミン価は、甲第7号証(特開2016-15365号公報)の【0105】によれば、307.0mgKOH/gであるから、甲1-2-7発明の組成物1gあたりの「シクロへキシルアミンEO 2モル付加物」によるアミン価は、23.0mgKOH/g(=307*7.5/100)であると計算できる。
したがって、甲1-2-7発明の組成物1gあたりのアミン価(以下、「甲1-2-7発明における全アミン価」という。)は、76.5mgKOH/g(=18.9+31.5+3.1+23.0)であると計算できるから、甲1-2-7発明は、本件訂正発明1の「全構成成分のアミン価が10?100mgKOH/gであり」を充足する。

そして、甲1-2-7発明における全アミン価のうち3級アルカノールアミンによるものは、18.9mgKOH/gであるから、そして、甲1-2-7発明における全アミン価のうち3級アルカノールアミンによるものの割合は、25%(=18.9/76.5*100)であると計算できる。
したがって、甲1-2-7発明は、本件訂正発明1の「アミン価の25%以上が3級アルカノールアミンによるものであり」を充足する。

さらに、「二塩基酸混合物(C8?12混合物)」の分子量(平均分子量)は、二塩基酸が全てC8の酸(オクタン二酸)である場合の174から、全てC12の酸(ドデカン二酸)である場合の230の範囲にあると認められるから、甲1-2-7発明の組成物1gあたりの酸価は、16.1mgKOH/g(=1/174*56.1*1000*2.5/100*2)から、12.2mgKOH/g(=1/230*56.1*1000*2.5/100*2)の範囲にあると計算でき、
「ダイマー酸」は、分子量565の二塩基酸であるから、甲1-2-7発明の組成物1gあたりの「ダイマー酸」の酸価は、5.0mgKOH/g(=1/565*56.1*1000*2.5/100*2)であると計算でき、
「オレイン酸」の分子量は282であるから、オレイン酸1gあたりの酸価は、199mgKOH/g(=1/282*56.1*1000)と計算できる(なお、本件特許の明細書の【表1】には181mgKOH/gと記載されているが、誤っている。)。したがって、甲1-2-7発明の組成物1gあたりの「オレイン酸」の酸価は、17.4mgKOH/g(=199*8.75/100)であると計算できる。
したがって、甲1-2-7発明の組成物1gあたりの酸価は、34.6mgKOH/g(=12.2+5.0+17.4)から、38.5mgKOH/g(=16.1+5.0+17.4)であると計算でき、酸価(AV)とアミン価(BN)の比率(BN/AV)は、2.0(=76.5/38.5*100)から、2.2(=76.5/34.6*100)であると計算できる。

加えて、甲1-2-7発明は、本件訂正発明1の「炭素数2?8のヒドロキシカルボン酸を含まない」を充足する。
甲1-2-7発明の「組成物」は、「各種金属材料の切削加工に有用な、エマルション型水溶性切削油剤組成物」であるから、本件訂正発明1の「切削油剤組成物又は研削油剤組成物である金属加工用油剤組成物」に相当する。

そうすると、本件訂正発明1と甲1-2-7発明の一致点、相違点は、以下のとおりであると認められる。

<一致点>
「 下記成分(A)?(C):
(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種、
(B)アミンとして、少なくとも第3級アルカノールアミンと、第1級アミン又は第2級アミンとの組み合わせ、及び
(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体、
を含有する金属加工用油剤組成物であって、
全構成成分のアミン価が10?100mgKOH/gであり、アミン価の25%以上が3級アルカノールアミンによるものであり、炭素数2?8のヒドロキシカルボン酸を含まない、切削油剤組成物又は研削油剤組成物である金属加工用油剤組成物。」

<相違点3>
「基油」について、本件訂正発明1は、「基油として、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を含み、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり」と特定されているのに対し、甲1-2-7発明は、「基油(マシンオイル22)、トリメチロールプロパントリオレエート、及び、ソルビタンモノオレエート」を含むものである点。

<相違点4>
「全構成成分の酸価(AV)とアミン価(BN)の比率(BN/AV)」について、本件訂正発明1は、「1.0?2.0」と特定されているのに対し、甲1-2-7発明は、「2.0?2.2」である点。

(b) 相違点3についての検討

まず、相違点3について検討するに、相違点3は、実質的に相違点2と同じものである。
そして、この相違点に係る本件訂正発明1の構成が容易想到の事項とはいえないことは、上記a(b)?(d)のとおりである。

(c) 小括

したがって、上記相違点4について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、当業者が甲1-2に記載された甲1-2-7発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(エ) 本件訂正発明2?6について

本件訂正発明2?6は、いずれも、本件訂正発明1を直接または間接的に引用し、さらに限定したものであるが、上記(ウ)のとおり、本件訂正発明1は、当業者が甲1-2に記載された発明(甲1-2-1発明または甲1-2-7発明)に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められないものであるから、本件訂正発明2?6も、本件訂正発明1と同様の理由により、当業者が甲1-2に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められない。


ウ 甲1-3に基づく取消理由について
(ア) 甲1-3の記載

甲1-3(特開2003-94283号公報)には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】 不水溶性切削油を使用する加工時に、水溶液を加工箇所に噴霧または噴射するようにした切削加工方法であって、
回収液を一の回収槽に回収貯留して、比重差に基づいて不水溶性切削油とその他の水溶液とを分離し、それぞれを再使用するようにしたことを特徴とする切削加工方法。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、加工精度に優れると共に、防災面の対策も万全である切削加工方法及びそのとき使用する切削油に関する。」
「【0017】
【実施例】(a)油水分離試験
(1)(当審注:原文は、○の中に1)試料1?試料8(水溶性切削油)
水または水溶性切削液につき、表1に示した試料1?試料8を用意する。なお、水溶性切削液の希釈倍率は、表1の右欄に示す通りである。
【0018】
【表1】


【0019】表1において、非イオン界面活性剤Aとは、ポリエトキシノニルフェノール、ポリエトキシアルキルエーテル、ソルビタンモノオレエートなど、乳化作用を持つ界面活性剤を意味する。非イオン界面活性剤Bとは、HO (CH_(2)CH_(2)O)_(n)(CH_(3)CH_(2)CH_(2)O)_(m) (CH_(2)CH_(2)O)_(x)H で示される化合物であり、m,n,xは、0を超える任意の値である。非イオン界面活性剤Cとは、HO(CH_(3)CH_(2)CH_(2)O)_(n)(CH_(2)CH_(2)O)_(m)(CH_(3)CH_(2)CH_(2)O)xH で示される化合物であり、m,n,xは、0を超える任意の値である。中鎖脂肪酸とは、炭素数6?11の一塩基酸または二塩基酸のアルキルカルボン酸を示し、高級脂肪酸とは、炭素数12?24の一塩基酸または二塩基酸のアルキル又はアリルカルボン酸である。PAG(ポリアルキレングリコール)は、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム結合品であり、分子末端のOH基の数によりモノ、ディ、トリ、ヘキサオールなどがある。
【0020】(2)(当審注:原文は、○の中に2)試料A?試料K(不水溶性切削油)
不水溶性切削液につき、表2に組成を示した試料A?試料Kを用意する。
【0021】
【表2】
(中略)
【0022】(3)(当審注:原文は、○の中に3)試験方法
活栓付き100ccのメスシリンダーに、水または水溶性切削液(表1)50ccと、不水溶性切削油(表2)50ccとを入れる。次に、このメスシリンダーに栓をして激しく上下に50回振り混ぜて静置し、5分後に分離状態を検査した。
【0023】
【表3】
(中略)
【0024】表3は、その結果を示すものであり、試料A,G,J,Kと、試料1,2,6,7,8との組合せにおいて、好ましい分離状態が確認された。一方、試料3と試料5では、全ての不水溶性切削油(試料A?K)に対して分離性が悪いことが確認された。
【0025】(4)(当審注:原文は、○の中に4)好ましい不水溶性切削油
以上の結果より、本発明を適用して優れた効果を発揮する不水溶性切削油は、試料A,G,J,Kであり、高度精製鉱物油、塩素化パラフィン、ポリサルファイドを組み合わせた切削油が好ましいことが確認される。
【0026】(5)(当審注:原文は、○の中に5)好ましい水溶性切削油
水溶性切削油としては、トリエタノールアミンの水溶液(試料2)が優れていることが確認された。なお、希釈倍率を変えて確認したところ、0.1?2%程度の水溶液でも同様の結果が得られた。また、試料6,7,8の組成より、トリエタノールアミン20?30%程度、中鎖脂肪酸8?15%程度、水40?60%程度を主成分とする水溶性切削油の30倍希釈の水溶液が好適であることが確認される。なお、トリエタノールアミン15重量%以上、中鎖脂肪酸5重量%以上、水35重量%以上であれば、同様の効果を発揮するものと考えられる。また、親油基の炭素数が12以上の界面活性剤(石鹸を含む陰イオン、陽イオン、両性イオン、非イオン界面活性剤)は、使用時に0.5%以下の含有率で使用可能であると考えられる。その理由は、(1) 表3によると、エマルジョン切削液a(試料3)に比べ、エマルジョン切削液b(試料4)の方が分離性が改善されていること、(2) 表1によると、試料4は、試料3に比べて非イオン界面活性剤Aと高級脂肪酸の含有量が少ないこと、(3) 試料4において、石油スルホン酸ソーダと非イオン界面活性剤Aと高級脂肪酸の含有量の総和が14%であり、使用時には0.47%であることからである。」

(イ) 甲1-3発明

上記【表1】に記載の試料5の組成物は、「加工精度に優れると共に、防災面の対策も万全である切削加工のとき使用する切削油」(【0001】)の具体例であると認められるから、甲1-3には、以下の発明(以下、「甲1-3発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲1-3発明>
「加工精度に優れると共に、防災面の対策も万全である切削加工のとき使用する切削油組成物であって、組成が、
水 59%
鉱物油 5%
石油スルホン酸ソーダ 8%
非イオン系界面活性剤A 2%
中鎖脂肪酸 1%
高級脂肪酸 15%
トリエタノールアミン 6%
モノエタノールアミン 4%
である組成物。」

(ウ) 本件訂正発明1について
a 対比

本件訂正発明1と甲1-3発明を対比する。
甲1-3発明の「トリエタノールアミン」は、本件訂正発明1の「第3級アルカノールアミン」に相当する。
甲1-3発明の「モノエタノールアミン」は、本件訂正発明1の「第1級アミン又は第2級アミン」に相当する。
甲1-3発明の「中鎖脂肪酸」、及び、「高級脂肪酸」は、本件訂正発明1の「カルボン酸」に相当する。
甲1-3発明の「鉱物油」は、本件訂正発明1の「(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種」に相当する。
したがって、甲1-3発明は、本件訂正発明1の「下記成分(A)?(C):(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種、(B)アミンとして、少なくとも第3級アルカノールアミンと、第1級アミン又は第2級アミンとの組み合わせ、及び(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体、を含有し」を充足する。

また、「トリエタノールアミン」のアミン価は、本件特許の明細書の【表1】によれば377mgKOH/gであるから、甲1-3発明の組成物1gあたりの「トリエタノールアミン」によるアミン価は、22.6mgKOH/g(=377*6/100)であると計算でき、
「モノエタノールアミン」の分子量は、61.1であるから、甲1-3発明の組成物1gあたりの「モノエタノールアミン」によるアミン価は、36.7mgKOH/g(=1/61.1*56.1*1000*4/100)であると計算できる。
したがって、甲1-3発明の組成物1gあたりのアミン価(以下、「甲1-3発明における全アミン価」という。)は、59.3mgKOH/g(=22.6+36.7)であると計算できるから、甲1-3発明は、本件特許発明1の「全構成成分のアミン価が10?100mgKOH/gであり」を充足する。

そして、甲1-3発明における全アミン価のうち3級アルカノールアミンによるものは、22.6mgKOH/gであるから、甲1-3発明における全アミン価のうち3級アルカノールアミンによるものの割合は、38%(=22.6/59.3*100)であると計算できる。
したがって、甲1-3発明は、本件訂正発明1の「アミン価の25%以上が3級アルカノールアミンによるものであり」を充足する。

さらに、「中鎖脂肪酸」とは、「炭素数6?11の一塩基酸または二塩基酸のアルキルカルボン酸」(【0009】)であり、そのうち酸価が最も大きいカルボン酸は、炭素数6の二塩基酸のアルキルカルボン酸であって、その分子量は146であり、また、酸価が最も小さいカルボン酸は、炭素数11の一塩基酸のアルキルカルボン酸であって、その分子量は186である。したがって、甲1-3発明の組成物1gあたりの「中鎖脂肪酸」の酸価は、7.7mgKOH/g(=1/146*56.1*1000*1/100*2)から、3.0mgKOH/g(=1/186*56.1*1000*1/100)の範囲にあると計算できる。
「高級脂肪酸」とは、「高級脂肪酸とは、炭素数12?24の一塩基酸または二塩基酸のアルキル又はアリルカルボン酸」(【0019】)であり、そのうち酸価が最も大きいカルボン酸は、炭素数12の二塩基酸のアルキルカルボン酸であって、その分子量は230であり、また、酸価が最も小さいカルボン酸は、炭素数24の一塩基酸のアルキルカルボン酸であって、その分子量は369である。したがって、甲1-3発明の組成物1gあたりの「高級脂肪酸」の酸価は、73.2mgKOH/g(=1/230*56.1*1000*15/100*2)から、22.8mgKOH/g(=1/369*56.1*1000*15/100)の範囲にあると計算でき、甲1-3発明の組成物1gあたりの酸価は、25.8mgKOH/g(=3.0+22.8)から、80.9mgKOH/g(=7.7+73.2)であると計算でき、酸価(AV)とアミン価(BN)の比率(BN/AV)は、0.7(=59.3/80.9*100)から、2.3(=59.3/25.8*100)であると計算できる。

加えて、甲1-3発明は、本件訂正発明1の「炭素数2?8のヒドロキシカルボン酸を含まない」を充足する。
甲1-3発明の「組成物」は、「加工精度に優れると共に、防災面の対策も万全である切削加工のとき使用する切削油組成物」であるから、本件特許発明1の「切削油剤組成物又は研削油剤組成物である金属加工用油剤組成物」に相当する。

そうすると、本件訂正発明1と甲1-3発明の一致点、相違点は、以下のとおりであると認められる。

<一致点>
「 下記成分(A)?(C):
(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種、
(B)アミンとして、少なくとも第3級アルカノールアミンと、第1級アミン又は第2級アミンとの組み合わせ、及び
(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体、
を含有する金属加工用油剤組成物であって、
全構成成分のアミン価が10?100mgKOH/gであり、アミン価の25%以上が3級アルカノールアミンによるものであり、炭素数2?8のヒドロキシカルボン酸を含まない、切削油剤組成物又は研削油剤組成物である金属加工用油剤組成物。」

<相違点5>
「基油」について、本件訂正発明1は、「基油として、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を含み、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり」と特定されているのに対し、甲1-3発明は、「鉱物油」を含むものである点。

<相違点6>
「全構成成分の酸価(AV)とアミン価(BN)の比率(BN/AV)」について、本件訂正発明1は、「1.0?2.0」と特定されているのに対し、甲1-3発明は、「0.7?2.3」である点。

b 相違点5についての検討

まず、相違点5について検討する。
上記(イ)のとおり、甲1-3発明は、要するに試料5の水溶性切削液であるが、甲1-3には、水溶性切削液に含まれている基油などの各成分について、その好ましい例や、選択の指針などに関する一般的な記載ないし示唆はない。

また、甲1-3には、実施例について、試料5以外にも、水または水溶性切削液として、試料1?試料8(【0017】)を用意したこと、不水溶性切削液として試料A?試料K(【0020】)を用意し、油水分離試験(【0017】?【0026】) を行ったこと、及び、その結果、試料5では、全ての不水溶性切削油(試料A?K)に対して分離性が悪いことが確認されたこと(【0024】)、水溶性切削油としては、トリエタノールアミンの水溶液(試料2)が優れていることが確認されたこと(【0026】)が記載されている。
しかしながら、試料5よりも優れている旨の評価がされている試料2は、トリエタノールアミンの水溶液である。
そうすると、甲1-3の実施例の試料2は、試料5において、「鉱物油」を「基油として、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を含み、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種」に変更する動機付けとなるものではないし、他の試料についても同様である。
また、その他の上記引用刊行物をみても、当該着想を動機付ける記載は見当たらない。

そして、本件訂正発明1は、「基油として、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を含み、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種」を用いることにより、上記ア(ウ)cに記載した、甲1-3に記載された事項からは予測し得ない効果を奏するものである。

したがって、さらに相違点6について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、当業者が甲1-3に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(エ) 本件訂正発明2?6について

本件訂正発明2?6は、いずれも、本件訂正発明1を直接または間接的に引用し、さらに限定したものであるが、上記のとおり、本件訂正発明1は、当業者が甲1-3に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められないものであるから、本件訂正発明2?6も、本件訂正発明1と同様の理由により、当業者が甲1-3に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められない。


エ 甲1-4(甲2-2)に基づく取消理由について
(ア) 甲1-4の記載

甲1-4(特開2002-285186号公報)には、以下の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、切削加工、研削加工、塑性加工等の金属加工に広く適用できる水溶性金属加工油剤組成物に関し、特に、耐腐敗性能に優れた水溶性金属加工油剤組成物及びそれを用いた水溶性金属加工油剤に関するものである。」
「【0017】以下実施例により本発明をさらに詳細に説明する。下記表1に記載の配合組成で各金属加工油剤組成物を調製した。表中の配合量は質量%である。
【0018】
【表1】


【0019】試料の調製
表1に示す組成の水溶性金属加工油剤組成物を水で所定倍率に希釈し、切削性能、耐腐敗性能及び肌荒れ性を以下の試験方法により評価した。結果を表2に示す。
【0020】切削性能試験
(切削諸元)実験材として、アルミ合金(AC8B-T6、300×200×30mm、HRB60)を用い、下穴12.5φ貫通穴をあけ、13.0φのリーマ(超硬K10)による切削性試験を行った。リーマ加工条件は以下のとおりである。
回転数 :400rpm
切削速度 :16.3m/分
送り速度 :60mm/分
切削長 :t=30mm(貫通穴)
N数 :9
リーマ代 :0.5mm/径
表1の組成物を5質量%となるように水で希釈した倍希釈油剤組成物を2L/分で給油
評価は目視による観察。判定基準は以下のとおりである。
A:加工面に傷無し 合格
B:加工面の一部(加工面全面に対して3%未満)に傷あり 合格
C:加工面の全体に傷あり 不合格」

(イ) 甲1-4発明

上記【表1】に記載の比較例3の組成物は、「切削加工、研削加工、塑性加工等の金属加工に広く適用できる水溶性金属加工油剤組成物」(【0001】)の具体例であると認められるから、甲1-4には、以下の発明(以下、「甲1-4発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲1-4発明>
「切削加工、研削加工、塑性加工等の金属加工に広く適用できる水溶性金属加工油剤組成物であって、配合量が質量%で、
メチルジエタノールアミン 3質量%
モノイソプロパノールアミン 4質量%
オレイン酸 6質量%
ネオデカン酸 2質量%
ドデカン二酸 2質量%
ラウリルアミンEO付加物 3質量%
鉱油 60質量%
リシノレイン酸重縮合物 10質量%
水 10質量%
である組成物。」

(ウ) 本件訂正発明1について
a 対比

本件訂正発明1と甲1-4発明を対比する。
甲1-4発明の「メチルジエタノールアミン」は、本件訂正発明1の「第3級アルカノールアミン」に相当する。
甲1-4発明の「モノイソプロパノールアミン」、及び、「ラウリルアミンEO付加物」は、本件訂正発明1の「第1級アミン又は第2級アミン」に相当する。
甲1-4発明の「オレイン酸」、「ネオデカン酸」、「ドデカン二酸」、及び、「リシノレイン酸重縮物」は、本件訂正発明1の「カルボン酸」に相当する。
甲1-4発明の「鉱油」は、本件訂正発明1の「鉱油」に相当する。
したがって、甲1-4発明は、本件訂正発明1の「下記成分(A)?(C):(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種、(B)アミンとして、少なくとも第3級アルカノールアミンと、第1級アミン又は第2級アミンとの組み合わせ、及び(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体、を含有し」を充足する。

また、「メチルジエタノールアミン」のアミン価は、本件訂正の明細書の【表1】によれば471mgKOH/gであるから、甲1-4発明の組成物1gあたりの「メチルジエタノールアミン」によるアミン価は、14.1mgKOH/g(=471*3/100)であると計算でき、
「モノイソプロパノールアミンン」のアミン価は、本件訂正の明細書の【表1】によれば748mgKOH/gであるから、甲1-4発明の組成物1gあたりの「モノイソプロパノールアミン」によるアミン価は、29.9mgKOH/g(=748*4/100)であると計算でき、
甲1-4には、「ラウリルアミンEO付加物」について、EOが何モル付加された付加物なのかが記載されていないので、仮に、本件訂正発明1と同じく7モル付加物であるとすると、「ラウリルアミンEO7モル付加物」のアミン価は、本件訂正の明細書の【表1】によれば111mgKOH/gであるから、甲1-4発明の組成物1gあたりの「ラウリルアミンEO付加物」によるアミン価は、3.3mgKOH/g(=111*3/100)であると計算できる。
したがって、甲1-4発明の組成物1gあたりのアミン価(以下、「甲1-4発明における全アミン価」という。)は、47.3mgKOH/g(=14.1+29.9+3.3)であると計算できるから、甲1-4発明は、本件訂正発明1の「全構成成分のアミン価が10?100mgKOH/gであり」を充足する。

そして、甲1-4発明における全アミン価のうち3級アルカノールアミンによるものは、14.1mgKOH/gであるから、甲1-4発明における全アミン価のうち3級アルカノールアミンによるものの割合は、30%(=14.1/47.3*100)であると計算できる。
したがって、甲1-4発明は、本件訂正発明1の「アミン価の25%以上が3級アルカノールアミンによるものであり」を充足する。

さらに、「オレイン酸」の分子量は282であるから、オレイン酸1gあたりの酸価は、199mgKOH/g(=1/282*56.1*1000)と計算できる(なお、本件訂正の明細書の【表1】には181mgKOH/gと記載されているが、誤っている。)。したがって、甲1-4発明の組成物1gあたりの「オレイン酸」による酸価は、11.9mgKOH/g(=199*6/100)であると計算でき、
「ネオデカン酸」の酸価は、本件訂正の明細書の【表1】によれば326mgKOH/gであるから、甲1-4発明の組成物1gあたりの「ネオデカン酸」による酸価は、6.5mgKOH/g(=326*2/100)であると計算でき、
「ドデカン二酸」の酸価は、本件訂正の明細書の【表1】によれば488mgKOH/gであるから、甲1-4発明の組成物1gあたりの「ドデカン二酸」による酸価は、9.8mgKOH/g(=488*2/100)であると計算でき、
「リシノレイン酸重縮物」の酸価は、概ねリシノレイン酸の酸価と等しいと認められ、リシノレイン酸の分子量は、298であるから、甲1-4発明の組成物1gあたりの「リシノレイン酸重縮物」による酸価は、18.8mgKOH/g(=1/298*56.1*1000*10/100)であると計算できる。
したがって、甲1-4発明の組成物1gあたりの酸価(以下、「甲1-4発明における全酸価」という。)は、47.0mgKOH/g(=11.9+6.5+9.8+18.8)であると計算でき、甲1-4発明における全アミン価と甲1-4発明における全酸価の比率は、1.0(=47.3/47.0*100)であると計算できるから、甲1-4発明は、本件訂正発明1の「全構成成分の酸価(AV)とアミン価(BN)の比率(BN/AV)が1.0?2.0であり」を充足する。

加えて、甲1-4発明は、本件訂正発明1の「炭素数2?8のヒドロキシカルボン酸を含まない」を充足する。
甲1-4発明の「組成物」は、「切削加工、研削加工、塑性加工等の金属加工に広く適用できる水溶性金属加工油剤組成物」であるから、本件訂正発明1の「切削油剤組成物又は研削油剤組成物である金属加工用油剤組成物」に相当する。

そうすると、本件訂正発明1と甲1-4発明の一致点、相違点は、以下のとおりであると認められる。

<一致点>
「 下記成分(A)?(C):
(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種、
(B)アミンとして、少なくとも第3級アルカノールアミンと、第1級アミン又は第2級アミンとの組み合わせ、及び
(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体、
を含有する金属加工用油剤組成物であって、
全構成成分のアミン価が10?100mgKOH/gであり、全構成成分の酸価(AV)とアミン価(BN)の比率(BN/AV)が1.0?2.0であり、アミン価の25%以上が3級アルカノールアミンによるものであり、炭素数2?8のヒドロキシカルボン酸を含まない、切削油剤組成物又は研削油剤組成物である金属加工用油剤組成物。」

<相違点7>
「基油」について、本件訂正発明1は、「基油として、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を含み、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり」と特定されているのに対し、甲1-4発明は、「鉱油」を含むものである点。

b 相違点7についての検討

上記相違点7について検討する。
「基油」について、甲1-4の【0013】には、「また、本発明の水溶性金属加工油剤組成物は、必要に応じて、基油を含有することができる。例えば、鉱油、ポリオールエステル、油脂、ポリグリコール、ポリα-オレフィン、α-オレフィン、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、アルキルベンゼン、ポリエーテルなどが挙げられる。好ましくは、ポリオールエステル、油脂、ポリグリコール、アルキルベンゼンである。これらは、単品でも複数種の混合物としても良い。」と記載されているが、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルについては記載ないし示唆もない。
そして、上記記載によれば、当業者は、甲1-4発明の基油に関して、なんらかの理由で鉱油などよりも好ましいもの(例えば、ポリオールエステルなど)が存在することや、甲1-4に記載ないし示唆のない2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルについては、せいぜい、鉱油などと同レベルかそれ以下のもの(好ましくないもの)であると理解する。
そうすると、仮に、甲1-4発明において「鉱油」を変更することを着想し得たとしても、より好ましい旨記載されているポリオールエステルなどに変更するのであって、甲1-4発明の「鉱油」を、わざわざ甲1-4に何ら記載ないし示唆もない「2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステル」に置換することを着想することはないと解するのが相当である。
また、その他の上記引用刊行物をみても、当該着想を動機付ける記載は見当たらない。

そして、本件訂正発明1は、「基油として、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を含み、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種」を用いることにより、上記ア(ウ)cに記載した甲1-4記載された事項からは予測し得ない効果を奏するものである。

したがって、本件訂正発明1は、甲1-4に記載された発明であるとは認められず、また、当業者が甲1-4に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(エ) 本件訂正発明2?6について

本件訂正発明2?6は、いずれも、本件訂正発明1を直接または間接的に引用し、さらに限定したものであるが、上記のとおり、本件訂正発明1は、甲1-4に記載された発明であるとは認められず、また、当業者が甲1-4に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとも認められないものであるから、本件訂正発明2?6も、本件訂正発明1と同様の理由により、甲1-4に記載された発明であるとは認められず、また、当業者が甲1-4に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとも認められない。


オ 甲1-5に基づく取消理由について
(ア) 甲1-5の記載

甲1-5(特開平2-199199号公報)には、以下の事項が記載されている。

「 産業上の利用分野
本発明は切削加工、あるいは研削加工に用いられる水溶性切削油剤(以下の記述においては、これを「水切」と略記することがある。)に関するものである。さらに詳しくいえば、本発明は微生物による劣化が少なく、さび止め性に優れ、かつ、皮膚に対する影響が少ない水切に関する。」(1頁左下欄18行?右下欄4行)
「 〈鉱物油および油性剤〉
本発明で使用できる鉱物油は、スピンドル油、マシン油、タービン油、ブライストックおよび流動パラフィン等であり、油性剤はナタネ油、大豆油等の油脂および2-エチル-ヘキシルオレエート、トリメチロールプロパントリオレエート等のエステル類であり、これらの1種以上を本発明の水切に組成する。
これらの鉱物油及び油性剤は、潤滑性を付与する以外に鉱物油等を脂肪酸の第1級アミン塩に添加することによって皮膚刺激性を著しく軽減する効果があり、またこれらを添加しても脂肪酸の第1級アミン塩の単独と同程度の微生物による耐劣化性を有していることを見い出したため適用した。」(3頁左下欄7行?右下欄1行)

「 実 施 例
つぎに実施例を挙げて本発明を説明する。ただし、本発明は実施例によってなんら制限されるものではない。
第1表に本発明の実施例および比較例の組成を示す(ただし、第1表中の組成に関する数は重量部を示す。)。
(中略)


」(第4頁左上欄4行?第5頁左上欄)

(イ) 甲1-5発明

上記第1表(4)に記載の比較例2の組成物は、「切削加工、あるいは研削加工に用いられる水溶性切削油剤」(1頁左下欄18行?右下欄4行)の具体例であると認められ、当該水溶性切削油剤は、組成物であるといえるから、甲1-5には、以下の発明(以下、「甲1-5発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲1-5発明>
「切削加工、あるいは研削加工に用いられる水溶性切削油剤からなる組成物であって、配合量が重量部で、
鉱物油[粘度10cSt(40℃)〕 30重量部
オレイン酸 20重量部
モノエタノールアミン 1重量部
ジエタノールアミン 5重量部
トリエタノールアミン 4重量部
石油スルホネート 26重量部
ポリオキシエチレンノニルフェニル
エーテル(EO6モル) 4重量部
オクタデカノール 10重量部
であり、
合計100重量部である
組成物。」

(ウ) 本件訂正発明1について
a 対比

本件特許発明1と甲1-5発明を対比する。
甲1-5発明の「トリエタノールアミン」は、本件特許発明1の「第3級アルカノールアミン」に相当する。
甲1-5発明の「ジエタノールアミン」、及び、「モノエタノールアミン」は、本件特許発明1の「第1級アミン又は第2級アミン」に相当する。
甲1-5発明の「オレイン酸」は、本件特許発明1の「カルボン酸」に相当する。
甲1-5発明の「鉱物油」は、本件特許発明1の「鉱油」に相当する。
したがって、甲1-5発明は、本件特許発明1の「下記成分(A)?(C):(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種、(B)アミンとして、少なくとも第3級アルカノールアミンと、第1級アミン又は第2級アミンとの組み合わせ、及び(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体、を含有し」を充足する。

また、「トリエタノールアミン」のアミン価は、本件特許の明細書の【表1】によれば377mgKOH/gであるから、甲1-5発明の組成物1gあたりの「トリエタノールアミン」によるアミン価は、15.1mgKOH/g(=377*4/100)であると計算でき、
「ジエタノールアミンン」の分子量は105であるから、甲1-5発明の組成物1gあたりの「ジエタノールアミン」によるアミン価は、26.7mgKOH/g(=1/105*56.1*1000*5/100)であると計算でき、
「モノエタノールアミンン」の分子量は61.1であるから、甲1-5発明の組成物1gあたりの「ジエタノールアミン」によるアミン価は、9.2mgKOH/g(=1/61.1*56.1*1000*1/100)であると計算できる。
したがって、甲1-5発明の組成物1gあたりのアミン価(以下、「甲1-4発明における全アミン価」という。)は、51.0mgKOH/g(=15.1+26.7+9.2)であると計算できるから、甲1-5発明は、本件特許発明1の「全構成成分のアミン価が10?100mgKOH/gであり」を充足する。

そして、甲1-5発明における全アミン価のうち3級アルカノールアミンによるものは、15.1mgKOH/gであるから、甲1-5発明における全アミン価のうち3級アルカノールアミンによるものの割合は、30%(=15.1/51.0*100)であると計算できる。
したがって、甲1-5発明は、本件特許発明1の「アミン価の25%以上が3級アルカノールアミンによるものであり」を充足する。

さらに、「オレイン酸」の分子量は282であるから、オレイン酸1gあたりの酸価は、199mgKOH/g(=1/282*56.1*1000)と計算できる(なお、本件特許の明細書の【表1】には181mgKOH/gと記載されているが、誤っている。)。したがって、甲1-5発明の組成物1gあたりの「オレイン酸」による酸価は、39.8mgKOH/g(=199*20/100)であると計算でき、甲1-5発明の組成物1gあたりの酸価(以下、「甲1-5発明における全酸価」という。)は、39.8mgKOH/gとなる。
また、甲1-5発明における全アミン価と甲1-5発明における全酸価の比率は、1.3(=51.0/39.8*100)であると計算できるから、甲1-5発明は、本件特許発明1の「全構成成分の酸価(AV)とアミン価(BN)の比率(BN/AV)が1.0?2.0であり」を充足する。

加えて、甲1-5発明は、本件特許発明1の「炭素数2?8のヒドロキシカルボン酸を含まない」を充足する。
甲1-5発明の「組成物」は、「切削加工、あるいは研削加工に用いられる水溶性切削油剤からなる組成物」であるから、本件特許発明1の「切削油剤組成物又は研削油剤組成物である金属加工用油剤組成物」に相当する。

そうすると、本件訂正発明1と甲1-5発明の一致点、相違点は、以下のとおりであると認められる。

<一致点>
「 下記成分(A)?(C):
(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種、
(B)アミンとして、少なくとも第3級アルカノールアミンと、第1級アミン又は第2級アミンとの組み合わせ、及び
(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体、
を含有する金属加工用油剤組成物であって、
全構成成分のアミン価が10?100mgKOH/gであり、全構成成分の酸価(AV)とアミン価(BN)の比率(BN/AV)が1.0?2.0であり、アミン価の25%以上が3級アルカノールアミンによるものであり、炭素数2?8のヒドロキシカルボン酸を含まない、切削油剤組成物又は研削油剤組成物である金属加工用油剤組成物。」

<相違点8>
「基油」について、本件訂正発明1は、「基油として、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を含み、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり」と特定されているのに対し、甲1-5発明は、「鉱物油」を含むものである点。

b 相違点8についての検討

上記相違点8について検討する。
「基油」について、甲1-5の3頁左下欄には、鉱物油および油性剤が使用できること及びその具体例として、スピンドル油や、マシン油、タービン油などとともに2-エチル-ヘキシルオレエート(本件訂正発明1の2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルであって、そのカルボン酸成分が、オレイン酸である場合に相当する。)が例示されている。
そうすると、上記記載によれば、当業者は、せいぜい、甲1-5発明の基油に関して、スピンドル油や、マシン油、タービン油、2-エチル-ヘキシルオレエートなどを、いずれも特に優劣なく使用することができると理解する程度であって、あえて甲1-5発明の「鉱物油」を2-エチル-ヘキシルオレエートに置換しようとまで着想することはないと解するのが相当である。
また、その他の上記引用刊行物をみても、当該着想を動機付ける記載は見当たらない。

そして、本件訂正発明1は、「基油として、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を含み、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種」を用いることにより、上記ア(ウ)cに記載した甲1-5記載された事項からは予測し得ない効果を奏するものである。

したがって、本件訂正発明1は、甲1-5に記載された発明であるとは認められず、また、当業者が甲1-5に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(エ) 本件訂正発明2?6について

本件訂正発明2?6は、いずれも、本件訂正発明1を直接または間接的に引用し、さらに限定したものであるが、上記のとおり、本件訂正発明1は、甲1-5に記載された発明であるとは認められず、また、当業者が甲1-5に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとも認められないものであるから、本件訂正発明2?6も、本件訂正発明1と同様の理由により、甲1-5に記載された発明であるとは認められず、また、当業者が甲1-5に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとも認められない。


カ 甲2-1に基づく取消理由について
(ア) 甲2-1の記載

甲2-1(特開平8-253789号公報)には、以下の事項が記載されている。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、アルミニウム、銅およびそれらの合金、さらにはステンレス鋼などを圧延加工する際に使用されるエマルション型圧延油剤と、水で希釈することによってエマルション型圧延油剤となる圧延油剤原液に関する。」
「【0005】本発明の圧延油剤原液組成物(以下、原液組成物という)は、(A)鉱油、合成油および油脂の中から選ばれる1種以上の基油、(B)2?10価の多価アルコールと炭素数6?24の脂肪酸との部分エステル、(C)炭素数6?24の脂肪酸および/またはザルコシド、(D)炭素数1?12のアルカノールアミン、(E)炭素数1?16のアミン、および(F)水で構成される。(A)成分の基油としては、従前からエマルション型圧延油剤や水可溶型圧延油剤などの基油として用いられていた鉱油、合成油および油脂がいずれも使用できる。本発明で使用可能な鉱油系基油を例示すれば、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の1種もしくは2種以上の精製手段を適宜組み合わせて適用して得られるパラフィン系、ナフテン系の鉱油を挙げることができる。また、合成油としては、例えば、ポリαーオレフィン(ポリブテン、1ーオクテンオリゴマー、1ーデセンオリゴマーなど)、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、エステル(ブチルステアレート、オクチルラウレート、ジトリデシルグルタレート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルセバケートなど)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、トリメチロールプロパンオレート、トリメチロールプロパンステアレート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート、ペンタエリスリトールオレート、ペンタエリスリトールステアレートなど)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテルなどが挙げられる。また、油脂としては、例えば、パーム油、牛脂などが挙げられる。(A)成分の基油は、その全てを上記のような鉱油、合成油および油脂のいずれか1種で構成させることができ、また2種以上を任意の割合で配合した混合物で基油を構成させることもできる。そして、使用する鉱油、合成油又は油脂自体も、それぞれ単一種である必要はない。(A)成分として用いる基油は、その粘度に格別の限定はないが、一般的には、40℃における動粘度が1?300mm2/sの範囲にあるものが好ましく、2?100mm2/sの範囲にあるものがより好ましい。本発明の原液組成物における(A)成分の含有量は、組成物全量基準で2?50質量%であるが、好ましくは5?40質量%である。」
「【0021】本発明の圧延油剤組成物は、例えばステンレス鋼、銅、アルミニウムおよびそれらの合金などの金属材料を冷間圧延する場合の圧延油剤として、また、アルミニウムおよびアルミニウム合金などを熱間圧延する場合の圧延油剤として、好適に用いることができる。そして、圧延加工製品の表面に良好な光沢を付与できることから、本発明の圧延油剤組成物は冷間圧延用圧延油剤として特に好ましい。本発明の圧延油剤組成物はまた、切削油、研磨油、プレス加工油、引き抜き加工油、熱処理油、DI缶製造用油剤等の金属加工油としても用いることができる。
【0022】
【実施例】以下、実施例および比較例により本発明の内容をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。表1に示す組成で各種の圧延油剤原液組成物を調製し、次いで、これら組成物を水道水で希釈率で希釈して圧延油剤組成物とした。原液組成物調製に用いた各成分は以下のとおりである。
(A)成分;A1:パラフィン系鉱油(40℃における動粘度32cSt)
A2:ブチルステアレート
A3:トリメチロールプロパントリオレート
(B)成分;B1:グリセリンモノオレート
B2:トリメチロールプロパンモノオレート
(C)成分;C1:オレイン酸
C2:オレイルザルコシド
(D)成分;D1:トリエタノールアミン
D2:ジエタノールアミン
(E)成分;E1:ジシクロヘキシルアミン
E2:ジベンジルアミン
(F)成分;水道水
次に、各圧延油剤組成物について、外観および濾過性を評価し、併せて、圧延性および圧延後の金属材表面の光沢性を評価した。結果を表1および表2に示す。
(1)(当審注:原文は、○の中に1)圧延条件
圧延材:ステンレス鋼(SUS430 2B材)
厚さ0.5mm×幅50mm
ワークロール径:51mmφ
ワークロール粗さ:Ra 0.03μm
圧延速度:100m/min
圧下率:25%(圧延性試験においては25?60%)
油供給方法:圧延ロールの手前で、ノズルを用いて被圧延材および圧延ロールに実施例、比較例で用いた圧延油剤組成物を個々に噴射した。
(2)(当審注:原文は、○の中に2)評価方法
外観性:実施例、比較例で用いた圧延油剤組成物を5分間攪拌後、24時間放置した際の状態が、半透明のエマルションになっているものを○、白濁したエマルション状態にあるものを△、分離油が見られる状態であるものを×とした。なお、×の場合実用上使用できるものではないので他の試験は省略した。
濾過性:実施例、比較例で用いた圧延油剤組成物50mlを、メンブレンフィルター(0.22μm)を用いて水流吸引濾過し、5分以内にろ過が終了したものは○、5分を越えてもろ過が終了しないものには×とした。
圧延性:(1)(当審注:原文は、○の中に1)の圧延条件(圧下率25%)で3回圧延した後、4回目の圧延において圧下率30%で圧延を開始しその後逐次圧下率を上げて圧延し、圧延可能な最大圧下率を求めた。
光沢性:の圧延条件(圧下率25%)で3回圧延した後の圧延材表面の光沢を、SMカラーコンピュータ(型式 SM-2;スガ試験機(株)製により、裏面直角60゜でのGloss値で求めた。
【0023】
【表1】




(イ) 甲2-1発明

上記【表1】に記載の実施例1、3?6、8、10?13の組成物は、「表1に示す組成で各種の圧延油剤原液組成物を調製し、次いで、これら組成物を水道水で希釈率で希釈して圧延油剤組成物とした」(【0022】)ものであるから、「水で希釈することによってエマルション型圧延油剤となる、アルミニウム、銅およびそれらの合金、さらにはステンレス鋼などを圧延加工する際に使用されるエマルション型圧延油剤の原液」であって、「切削油、研磨油、プレス加工油、引き抜き加工油、熱処理油、DI缶製造用油剤等の金属加工油としても用いることができる」組成物の具体例であると認められるから、甲2-1には、以下の発明(以下、実施例の番号に対応して、「甲2-1-1発明」、「甲2-1-3発明」、などといい、まとめて「甲2-1発明」ともいう。)が記載されていると認められる。

<甲2-1-1発明>
「切削油、研磨油、プレス加工油、引き抜き加工油、熱処理油、DI缶製造用油剤等の金属加工油としても用いることができる組成物であって、
A1(パラフィン系鉱油(40℃における
動粘度32cSt)) 24.0質量%
B1(グリセリンモノオレート) 24.0質量%
C1(オレイン酸) 16.0質量%
D1(トリエタノールアミン) 8.0質量%
E1(ジシクロヘキシルアミン) 8.0質量%
水 20.0質量%
からなる組成物。」

<甲2-1-3発明>
「切削油、研磨油、プレス加工油、引き抜き加工油、熱処理油、DI缶製造用油剤等の金属加工油としても用いることができる組成物であって、
A1(パラフィン系鉱油(40℃における
動粘度32cSt)) 10.0質量%
B1(グリセリンモノオレート) 30.0質量%
C1(オレイン酸) 20.0質量%
D1(トリエタノールアミン) 10.0質量%
E1(ジシクロヘキシルアミン) 10.0質量%
水 20.0質量%
からなる組成物。」

<甲2-1-4発明>
「切削油、研磨油、プレス加工油、引き抜き加工油、熱処理油、DI缶製造用油剤等の金属加工油としても用いることができる組成物であって、
A2(ブチルステアレート) 24.0質量%
B2(トリメチロールプロパンモノオレート) 24.0質量%
C1(オレイン酸) 16.0質量%
D1(トリエタノールアミン) 8.0質量%
E1(ジシクロヘキシルアミン) 8.0質量%
水 20.0質量%
からなる組成物。」

<甲2-1-5発明>
「切削油、研磨油、プレス加工油、引き抜き加工油、熱処理油、DI缶製造用油剤等の金属加工油としても用いることができる組成物であって、
A2(ブチルステアレート) 24.0質量%
B2(トリメチロールプロパンモノオレート) 24.0質量%
C1(オレイン酸) 16.0質量%
D1(トリエタノールアミン) 8.0質量%
E1(ジシクロヘキシルアミン) 8.0質量%
水 20.0質量%
からなる組成物。」

<甲2-1-6発明>
「切削油、研磨油、プレス加工油、引き抜き加工油、熱処理油、DI缶製造用油剤等の金属加工油としても用いることができる組成物であって、
A2(ブチルステアレート) 24.0質量%
B2(トリメチロールプロパンモノオレート) 24.0質量%
C1(オレイン酸) 16.0質量%
D1(トリエタノールアミン) 8.0質量%
E1(ジシクロヘキシルアミン) 8.0質量%
水 20.0質量%
からなる組成物。」

<甲2-1-8発明>
「切削油、研磨油、プレス加工油、引き抜き加工油、熱処理油、DI缶製造用油剤等の金属加工油としても用いることができる組成物であって、
A2(ブチルステアレート) 13.5質量%
B1(グリセリンモノオレート) 13.5質量%
C1(オレイン酸) 26.0質量%
D1(トリエタノールアミン) 13.5質量%
E1(ジシクロヘキシルアミン) 13.5質量%
水 20.0質量%
からなる組成物。」

<甲2-1-10発明>
「切削油、研磨油、プレス加工油、引き抜き加工油、熱処理油、DI缶製造用油剤等の金属加工油としても用いることができる組成物であって、
A2(ブチルステアレート) 20.0質量%
B1(グリセリンモノオレート) 20.0質量%
C1(オレイン酸) 22.0質量%
D1(トリエタノールアミン) 6.0質量%
E1(ジシクロヘキシルアミン) 12.0質量%
水 20.0質量%
からなる組成物。」

<甲2-1-11発明>
「切削油、研磨油、プレス加工油、引き抜き加工油、熱処理油、DI缶製造用油剤等の金属加工油としても用いることができる組成物であって、
A2(ブチルステアレート) 20.0質量%
B1(グリセリンモノオレート) 20.0質量%
C1(オレイン酸) 22.0質量%
D1(トリエタノールアミン) 12.0質量%
E1(ジシクロヘキシルアミン) 6.0質量%
水 20.0質量%
からなる組成物。」

<甲2-1-12発明>
「切削油、研磨油、プレス加工油、引き抜き加工油、熱処理油、DI缶製造用油剤等の金属加工油としても用いることができる組成物であって、
A2(ブチルステアレート) 30.0質量%
B1(グリセリンモノオレート) 10.0質量%
C1(オレイン酸) 20.0質量%
D1(トリエタノールアミン) 10.0質量%
E1(ジシクロヘキシルアミン) 10.0質量%
水 20.0質量%
からなる組成物。」

<甲2-1-13発明>
「切削油、研磨油、プレス加工油、引き抜き加工油、熱処理油、DI缶製造用油剤等の金属加工油としても用いることができる組成物であって、
A2(ブチルステアレート) 19.0質量%
B1(グリセリンモノオレート) 19.0質量%
C1(オレイン酸) 22.0質量%
D1(トリエタノールアミン) 10.0質量%
E1(ジシクロヘキシルアミン) 10.0質量%
水 20.0質量%
からなる組成物。」

(ウ) 本件訂正発明1について
a 引用発明を甲2-1-1発明とする場合について
(a) 対比

本件特許発明1と甲2-1-1発明を対比する。
甲2-1-1発明の「トリエタノールアミン」は、本件特許発明1の「第3級アルカノールアミン」に相当する。
甲2-1-1発明の「ジシクロヘキシルアミン」は、本件特許発明1の「第1級アミン又は第2級アミン」に相当する。
甲2-1-1発明の「オレイン酸」は、本件特許発明1の「カルボン酸」に相当する。
甲2-1-1発明の「グリセリンモノオレート」は、本件特許の明細書に「合成エステル油としては、例えば (中略) グリセリン (中略) などのアルコールとカルボン酸とのエステルなどが挙げられる。ここで、カルボン酸としては、例えばオレイン酸」(【0009】)と記載されていることから、本件特許発明1の「合成エステル油」に相当する。
甲2-1-1発明の「パラフィン系鉱油(40℃における動粘度32cSt)」は、本件特許発明1の「鉱油」に相当する。
したがって、甲2-1-1発明は、本件特許発明1の「下記成分(A)?(C):(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種、(B)アミンとして、少なくとも第3級アルカノールアミンと、第1級アミン又は第2級アミンとの組み合わせ、及び(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体、を含有し」を充足する。

また、「トリエタノールアミン」のアミン価は、本件特許の明細書の【表1】によれば377mgKOH/gであるから、甲2-1-1発明の組成物1gあたりの「トリエタノールアミン」によるアミン価は、30.1mgKOH/g(=377*8/100)であると計算でき、
「ジシクロヘキシルアミン」のアミン価は、本件特許の明細書の【表1】によれば312mgKOH/gであるから、甲2-1-1発明の組成物1gあたりの「ジシクロヘキシルアミン」によるアミン価は、25.0mgKOH/g(=312*8/100)であると計算できる。
したがって、甲2-1-1発明の組成物1gあたりのアミン価(以下、「甲2-1-1発明における全アミン価」という。)は、55.1mgKOH/g(=25.0+30.1)であると計算できるから、甲2-1-1発明は、本件特許発明1の「全構成成分のアミン価が10?100mgKOH/gであり」を充足する。

そして、甲2-1-1発明における全アミン価のうち3級アルカノールアミンによるものは、30.1mgKOH/gであり、甲2-1-1発明における全アミン価のうち3級アルカノールアミンによるものの割合は、55%(=30.1/55.1*100)であると計算できる。
したがって、甲2-1-1発明は、本件特許発明1の「アミン価の25%以上が3級アルカノールアミンによるものであり」を充足する。

さらに、「オレイン酸」の分子量は282であるから、オレイン酸1gあたりの酸価は、199mgKOH/g(=1/282*56.1*1000)と計算できる(なお、本件特許の明細書の【表1】には181mgKOH/gと記載されているが、誤っている。)。したがって、甲2-1-1発明の組成物1gあたりの「オレイン酸」による酸価は、31.8mgKOH/g(=199*16/100)であると計算できるから、甲2-1-1発明の組成物1gあたりの酸価(以下、「甲2-1-1発明における全酸価」という。)も31.8mgKOH/gであり、甲2-1-1発明における全アミン価と甲2-1-1発明における全酸価の比率は、1.7(=55.1/31.8*100)であると計算できるから、甲2-1-1発明は、本件特許発明1の「全構成成分の酸価(AV)とアミン価(BN)の比率(BN/AV)が1.0?2.0であり」を充足する。

加えて、甲2-1-1発明は、本件特許発明1の「炭素数2?8のヒドロキシカルボン酸を含まない」を充足する。
甲2-1-1発明の「組成物」は、「切削油、研磨油、プレス加工油、引き抜き加工油、熱処理油、DI缶製造用油剤等の金属加工油としても用いることができる組成物」であるから、本件特許発明1の「切削油剤組成物又は研削油剤組成物である金属加工用油剤組成物」に相当する。

そうすると、本件訂正発明1と甲2-1-1発明の一致点、相違点は、以下のとおりであると認められる。

<一致点>
「 下記成分(A)?(C):
(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種、
(B)アミンとして、少なくとも第3級アルカノールアミンと、第1級アミン又は第2級アミンとの組み合わせ、及び
(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体、
を含有する金属加工用油剤組成物であって、
全構成成分のアミン価が10?100mgKOH/gであり、全構成成分の酸価(AV)とアミン価(BN)の比率(BN/AV)が1.0?2.0であり、アミン価の25%以上が3級アルカノールアミンによるものであり、炭素数2?8のヒドロキシカルボン酸を含まない、切削油剤組成物又は研削油剤組成物である金属加工用油剤組成物。」

<相違点9>
「基油」について、本件訂正発明1は、「基油として、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を含み、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり」と特定されているのに対し、甲2-1-1発明は、「パラフィン系鉱油」を含むものである点。

(b) 相違点9についての検討

上記相違点9について検討する。
「基油」について、甲2-1の【0005】には、従前からエマルション型圧延油剤や水可溶型圧延油剤などの基油として用いられていた鉱油、合成油および油脂がいずれも使用できることや、例えば、パラフィン系、ナフテン系の鉱油、ポリαーオレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、エステルなどの合成油、パーム油、牛脂などの油脂が挙げられることが記載されているが、「基油として、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を含み、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種」については記載ないし示唆もない。
そうすると、上記記載によれば、当業者は、せいぜい、甲2-1-1発明の基油に関して、パラフィン系、ナフテン系の鉱油、ポリαーオレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、エステルなどの合成油、パーム油、牛脂などの油脂などを、いずれも特に優劣なく使用することができると理解する程度であって、甲2-1-1発明の「パラフィン系鉱油」を甲2-1に例示されているものに置換するのであればともかく、あえて、甲2-1に記載ないし示唆もない「2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を含み、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種」に置換しようとまで着想することはないと解するのが相当である。
また、その他の上記引用刊行物をみても、当該着想を動機付ける記載は見当たらない。

そして、本件訂正発明1は、「基油として、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を含み、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種」を用いることにより、上記ア(ウ)cに記載した甲2-1に記載された事項からは予測し得ない効果を奏するものである。

したがって、本件訂正発明1は、甲2-1に記載された甲2-1-1発明であるとは認められず、また、当業者が甲2-1に記載された甲2-1-1発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとも認められない。

b 引用発明を甲2-1-3発明ないし甲2-1-13発明とする場合について

引用発明を甲2-1-3発明ないし甲2-1-13発明として考えても、本件訂正発明1と引用発明との間には、上記相違点9と同様の基油に関する相違点が認められ、当該相違点に係る本件訂正発明1の構成が容易想到の事項でないことも、上記のとおりである。
したがって、本件訂正発明1は、甲2-1に記載された甲2-1-3発明ないし甲2-1-13発明であるとは認められず、また、これらの発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとも認められない。

(エ) 本件訂正発明2?6について

本件訂正発明2?6は、いずれも、本件訂正発明1を直接または間接的に引用し、さらに限定したものであるが、上記のとおり、本件訂正発明1は、甲2-1に記載された甲2-1-1発明ないし甲2-1-13発明であるとは認められず、また、当業者が甲2-1に記載された甲2-1-1発明ないし甲2-1-13発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとも認められないものであるから、本件訂正発明2?6も、本件訂正発明1と同様の理由により、甲2-1に記載された甲2-1-1発明ないし甲2-1-13発明であるとは認められず、また、当業者が甲2-1に記載された甲2-1-1発明ないし甲2-1-13発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとも認められない。

キ まとめ

以上、ア?カのとおりであるから、取消理由1、2によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。


(3) 取消理由3について

特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

本件特許の明細書の発明の詳細な説明には以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、優れた切削性を有する金属加工油剤組成物、それを用いる金属加工方法、及びその金属加工方法により製造される金属加工部品を提供することである。」
「【0008】
(A)基油は、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。
鉱油としては、例えばナフテン系及びパラフィン系の鉱油などが挙げられる。
合成炭化水素油としては、例えばポリα-オレフィン、ポリブテン、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、アルキルベンゼンなどが挙げられる。このうち、アルキルベンゼンが好ましく、アルキル基の炭素数は10?26が好ましい。
【0009】
合成エステル油としては、例えば2-エチルヘキサノール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール、ソルビトールなどのアルコールとカルボン酸とのエステルなどが挙げられる。ここで、カルボン酸としては、例えばオレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸、その他、動物、魚、植物、穀物などの天然油脂から得られる脂肪酸などが挙げられる。合成エステル油の具体例としては、例えば2-エチルヘキシルオレエート、2-エチルヘキシルステアレート、2-エチルヘキシルパルミテート、トリメチロールプロパントリオレート、トリメチロールプロパントリステアレート、トリメチロールプロパントリパルミテート、グリセリントリオレート、グリセリントリパルミテート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールジオレート、ペンタエリスリトールテトラオレエート、ネオペンチルグリコールオレート、ネオペンチルグリコールステアレート、ソルビタントリオレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノステアレートなどが挙げられる。このうち、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステル及び/又はトリメチロールプロパンのカルボン酸エステルであり、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。なかでも、2-エチルヘキシルパルミテート、トリメチロールプロパントリオレートが好ましい。
【0010】
これらの基油は、単独、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。好ましくは、本発明の基油は、合成エステル油を含み、さらに鉱油を含んでもよいが、合成エステル油単独であることがより好ましい。
本発明の基油は、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油以外の基油をさらに含んでもよい。鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油以外の基油としては、天然油脂、天然油脂誘導体、エーテル油、シリコン油、フッ素油などが挙げられる。天然油脂としては、例えば菜種油、大豆油、ひまし油、ヤシ油、パーム油、牛脂、ラードなどが挙げられる。天然油脂誘導体としては水添菜種油、水添大豆油、水添ひまし油、水添ヤシ油、水添パーム油、水添牛脂、水添ラードなどの水素添加物、及びアルキレンオキシドを付加したひまし油などが挙げられる。エーテル油としてはアルキルジフェニルエーテル、ポリアルキレングリコールなどが挙げられる。シリコン油としてはジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーンなどが挙げられる。フッ素油としてはパーフルオロポリエーテル、ポリ三フッ化塩化エチレンなどが挙げられる。
本発明の基油が、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油以外の基油を含む場合、基油中の、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油以外の基油の含有量は、70質量%以下であるのが好ましい。より好ましくは、本発明の基油は、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油以外の基油を含まない。
【0011】
(A)鉱油の40℃における動粘度は、好ましくは15?100mm^(2)/sであり、より好ましくは20?90mm^(2)/sである。このような範囲であると潤滑性の点で優れる。
(A)合成炭化水素油の40℃における動粘度は、好ましくは15?100mm^(2)/sであり、より好ましくは20?90mm^(2)/sである。このような範囲であると潤滑性の点で優れる。
(A)合成エステル油の40℃における動粘度は、好ましくは5?100mm^(2)/sであり、より好ましくは5?60mm^(2)/sである。このような範囲であると潤滑性の点で優れる。
本発明の基油が2種以上の混合油の場合、40℃における動粘度は、好ましくは15?90mm^(2)/s、より好ましくは20?90mm^(2)/sである。鉱油と合成エステル油との混合油の場合、40℃における動粘度は、好ましくは20?60mm^(2)/sである。このような範囲であると潤滑性の点で優れる。
(A)基油の含有量は、本発明の金属加工油剤組成物の全質量を基準として、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは45質量%以上である。このような範囲であると潤滑性の点で優れる。
【0012】
(B)第3級アルカノールアミンとしては、例えばブチルジイソプロパノールアミン、ジブチルモノイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジブチルエタノールアミン、シクロヘキシルジエタノールアミンなどが挙げられる。これらを単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。このうち、トリエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン及びこれら3種の混合物が好ましい。
本発明の金属加工用油剤組成物は、(B)第3級アルカノールアミン以外のアミンを含有してもよい。このようなその他のアミンとしては、例えば、第1級アミンとして、ブタノールアミン、ヘキサノールアミン、オクタノールアミン、ドデカノールアミン、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、アミノメチルプロパノール、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、メタキシレンジアミン、シクロヘキシルアミンなどが挙げられる。このうち、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、モノイソプロパノールアミンが好ましい。
【0013】
第2級アミンとしてはジイソプロパノールアミン、モノブチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルエタノールアミン、エチルエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジベンジルアミンなどが挙げられる。このうち、ジイソプロパノールアミン、モノブチルエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジベンジルアミンが好ましい。
アミンの含有量は、本発明の金属加工油剤組成物の全質量を基準として、好ましくは0.1?30質量%であり、より好ましくは5?20質量%である。このような範囲であると、本発明の金属加工用油剤組成物は、耐腐敗性、pH維持性、及び皮膚低刺激性の点で優れる。
【0014】
(C)カルボン酸としては、例えばカプリル酸、ノナン酸、イソノナン酸、デカン酸、ネオデカン酸、ウンデカン酸、ウンデシレン酸、ドデカン酸、ドデカン二酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、リノール酸、オレイン酸、12-ヒドロキシオクタデセン酸などが挙げられる。その他、動物、魚、植物、穀物などの天然油脂から得られる脂肪酸でも良い。このうち、ネオデカン酸、ドデカン二酸、イソステアリン酸、オレイン酸及びこれら4種の混合物が好ましい。
カルボン酸誘導体としては、ひまし脂肪酸重縮合物があげられる。特に2?6量体が好ましい。
(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体の含有量は、本発明の金属加工油剤の全質量を基準として、好ましくは0.1?50質量%であり、より好ましくは10?40質量%である。このような範囲であると乳化安定性及び原液の安定性の点で優れる。
【0015】
本発明の金属加工用油剤組成物は、全構成成分のアミン価が10?100mgKOH/gである。全構成成分のアミン価をこのような範囲であると優れた切削性を得ることができる。全構成成分のアミン価は、好ましくは20?80mgKOH/gである。このような範囲であると切削性に優れる。
本発明の金属加工用油剤組成物は、全構成成分の酸価(AV)とアミン価(BN)の比率(BN/AV)が1.0?2.0である。このような範囲であると切削性に優れる。全構成成分の酸価(AV)とアミン価(BN)の比率(BN/AV)は、好ましくは1.2?2.0である。このような範囲であると切削性、耐腐敗性に優れる。
なお、本発明の組成物のアミン価は、JIS K2501に記載の塩基価の測定法に従って測定することができる。本発明の組成物の酸価は、JIS K2501に従って測定
することができる。本発明において、各原料の酸価、アミン価を個別に測定し、配合量に応じた合計値を、組成物のアミン価及び酸価とする。
本発明の金属加工用油剤組成物は、アミン価の25%以上が第3級アルカノールアミンによるものである。第3級アルカノールアミンの量をこのような範囲であると切削性に優れる。好ましくは、アミン価の45%以上が第3級アルカノールアミンによるものである。このような範囲であると切削性に優れる。」
「【0019】
実施例及び比較例の金属加工用油剤を下記表に示す。表中の成分欄の数値は、原液(水で希釈する前の組成物)中の各成分の質量%を示す。各金属加工用油剤について切削性能を以下の試験方法により評価した。結果を下記表に示す。
(切削性試験)
下記被削材を用いて、下記条件にてφ13.0のリーマ加工を行った。
工具 : φ13.0mmガンリーマ
被削材 : ADC12
切削速度: 300m/min
送り : 0.13mm/rev
下穴 : 12.5mmエンドミル
リーマ代: 0.5mm/径
切削長 : 38mm(貫通)
濃度 : 原液を水道水で5mass%に希釈
評価方法: 十点平均粗さ表面粗さ(Rz:JIS B 0601-1982)測定
判定基準: 十点平均粗さ表面粗さが14μm未満を合格とする」
「【0020】
【表1】


【0021】
【表2】


【0022】
【表3】


【0023】
【表4】



【0024】
【表5】




そうすると、本件訂正発明が解決しようとする課題は、「優れた切削性を有する金属加工油剤組成物を提供すること」(【0005】)であると認められる。
また、「優れた切削性を有する」か否かを判定する基準は、【0019】に記載されている「切削性試験」を行った際に「十点平均粗さ表面粗さが14μm未満」となることであると認められる。

そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明1について、成分(A)?(C)の好ましい選択肢や、全構成成分のアミン価の数値範囲などを切削性と関連づけて説明する一般的な記載(【0008】?【0015】)があり、かつ、これと整合する実施例1?40及び比較例1?9(【表1】?【表5】)も記載されている。
また、本件訂正発明1に該当する実施例は、実施例1?4及び36?40であるが、いずれも、「切削性試験」を行った際に「十点平均粗さ表面粗さが14μm未満」であって、課題を解決することができるものであるし、本件訂正により、比較例8、9は、本件訂正発明1に属さないものとなったから、本件訂正発明1に該当するが、「切削性試験」を行った際に「十点平均粗さ表面粗さが14μm未満」とならない比較例(上記課題を解決できない具体例)などは存在しない。
そうすると、本件訂正発明1は、本件特許の明細書の記載により、課題を解決することができるものであると理解することができるものであると認められる。
また、本件訂正発明2?6は、いずれも、本件訂正発明1を直接または間接的に引用しさらに、限定したものであるが、上述のとおり、本件訂正発明1は、本件特許の明細書の記載により、課題を解決することができるものであると理解することができるものであると認められるものであるから、本件訂正発明2?6も、本件特許の明細書の記載により、課題を解決することができるものであると理解することができるものであると認められる。

以上のとおりであるから、取消理由3によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。


2 取消理由通知書で採用しなかった特許異議申立ての理由について
(1) 特許異議申立理由の概要

申立人1又は2が申し立てた理由のうち、上記1の取消理由として採用しなかった理由の概要は、以下のとおりである。

ア 申立人1が申し立てたもの

<ア-1>
本件特許明細書の記載に加え、本件特許の審査の過程で特許権者が平成29年12月28日付けで提出した意見書(申立人1が提出した甲第13号証)における主張を勘案して、本件の課題は、「優れた切削性を有すると共に、耐腐食性及び皮膚低刺激性の点でも優れた金属加工油剤組成物、それを用いる金属加工方法、及びその金属加工方法により製造される金属加工部品を提供すること」であると認定できるが、実施例8、11、17、20、23、26、29、30、39、40で調製した組成物は、耐腐敗性の評価がされておらず、上述の本件訂正発明が解決するとされる課題が、解決されない疑念が非常に強い。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(申立人1の特許異議申立書の52頁1行?56頁10行)。


イ 申立人2が申し立てたもの

<イ-1>
本件特許の請求項4に係る発明は、上記「甲2-1」の実施例11に記載された発明(上記「甲2-1-11発明」)であるか、又は、当該発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同法同条第2項により、特許を受けることができないものである。したがって、本件特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(申立人2の特許異議申立書の20頁4行?21頁11行)。

<イ-2>
本件特許の請求項6に係る発明は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、上記「甲2-1発明」及び「特開2011-63735号公報」(申立人2が甲第3号証として提出したもの。以下、「甲2-3」という。)に記載された事項に基いて、容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(申立人2の特許異議申立書の25頁8行?26頁18行)。

<イ-3>
本件特許の請求項5に係る発明は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、上記「甲2-2」(「甲1-4」と同じ)に記載された発明(上記「甲1-4発明」のこと)に基いて、容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(申立人2の特許異議申立書の30頁13?19行)。

<イ-4>
本件特許の請求項6に係る発明は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、上記「甲2-2」(「甲1-4」と同じ)に記載された発明(上記「甲1-4発明」のこと)及び「甲2-3」に記載された事項に基いて、容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(申立人2の特許異議申立書の30頁23行?31頁末行)。

<イ-5>
特許権者は、本件特許の審査の過程で提出した平成29年12月28日付け意見書(申立人2が提出した甲第6号証)において、耐腐敗性に関する優れた効果について主張するが、特許権者が出願人となっている甲2-2に記載されている比較例3は、本件特許の請求項1に記載されている事項を全て満たすものであるが、甲2-2の表2には、耐腐敗性において問題があることが示されている。
したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、耐腐敗性において問題がある態様を含むものであって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(申立人2の特許異議申立書の32頁下から7行?36頁7行)。

<イ-6>
甲2-2に記載されている比較例3は、本件特許の請求項1に記載されている事項を全て満たすものであり、かつ、切削性がAである。また、甲2-2に記載されている実施例1?7及び比較例1、2は、本件特許の請求項1に記載されている「全構成成分のアミン価が10?100mgKOH/gであり」、「全構成成分の酸価(AV)とアミン価(BN)の比率(BN/AV)が1.0?2.0であり」、「アミン価の25%以上が3級アルカノールアミンによる」を満たすものではないが、切削性がAである。
そうすると、これらの事項を満たそうが満たすまいが、切削性において効果が変わらないのであるから、これらの事項に係る「範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味」を理解することができない。
したがって、本件特許の請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件に違反している。
請求項2?6の記載も、請求項1と同様の理由により特許法第36条第6項第1号に規定する要件に違反している。(申立人2の特許異議申立書の36頁9行?37頁3行)

(2) 取消理由ア-1について

取消理由ア-1は、本件訂正発明が解決しようとする課題が「優れた切削性を有すると共に、耐腐食性及び皮膚低刺激性の点でも優れた金属加工油剤組成物、それを用いる金属加工方法、及びその金属加工方法により製造される金属加工部品を提供すること」であると認定できることを前提とするものであるが、上記1(3)のとおり、本件訂正発明が解決しようとする課題は、本件特許の明細書の記載に基づき、「優れた切削性を有する金属加工油剤組成物を提供すること」と解するのが合理的であるから、「耐腐食性」などを含めて本件訂正発明の解決しようとする課題を理解するのは適切でない。
そうすると、取消理由ア-1は、その前提において適切なものとはいえないから、さらに検討するまでもなく、この理由によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
そして、本件特許に特許法第36条第6項第1号規定の要件違反に起因する取消理由が存しないことは、上記1(3)のとおりである。

(3) 取消理由イ-1について

甲2-1の実施例11には、上記1(2)カ(イ)に記載した「甲2-1-11発明」が記載されているところ、上記1(2)カ(ウ)bのとおり、本件訂正発明1は、「甲2-1-11発明」であるとも、「甲2-1-11発明」から容易想到であるともいえないものであるから、当該本件訂正発明1の発明特定事項を全て有する本件訂正発明4についても同様のことがいえる。
したがって、取消理由イ-1によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。

(4) 取消理由イ-2について

取消理由イ-2は、要するに、当業者であれば、甲2-1に記載された発明と甲2-3に記載されている事項を組み合わせることにより、本件訂正前の請求項6に係る発明を容易に想到しうるというものであるところ、本件訂正により、本件訂正発明1は、当該請求項6に記載されていた「合成エステル油が2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステル及び/又はトリメチロールプロパンのカルボン酸エステルであり、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である」に関する事項を有するものとなったから、ここでは、本件訂正発明1について検討する。
なお、申立人2は、令和元年7月2日付けの意見書においても、上記の組み合わせによる本件訂正発明1の容易想到性についての主張をしているので、合わせて検討する。

ア 甲2-1に記載された発明

甲2-1には、上記1(2)カ(ア)に摘記した事項が記載され、上記1(2)カ(イ)に記載した 「甲2-1発明」(「甲2-1-1発明」?「甲2-1-13発明」)が記載されている。

イ 甲2-3の記載
甲2-3(特開2011-63765号公報)には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
基油、及び陰イオン性界面活性剤を含む金属加工用油剤において、
基油が、2-エチルヘキサノールの脂肪族カルボン酸エステルを含み、脂肪族カルボン酸がパルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であること、
陰イオン性界面活性剤が脂肪族カルボン酸アミン塩であり、脂肪族カルボン酸アミン塩を構成する脂肪族カルボン酸が炭素数8?18の分岐脂肪族カルボン酸から選ばれる少なくとも1種を含み、アミンが炭素数3?12の分岐アルカノールアミンから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする金属加工用油剤。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工、研削加工、転造加工、プレス加工、塑性加工等の金属加工に広く適用できる金属加工用油剤に関する。さらに詳細には、水で希釈して使用する金属加工用油剤に関し、特に切削性に優れた金属加工用油剤、その金属加工用油剤を用いた金属加工方法及びその金属加工方法により製造される金属加工品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に切削・研削加工においては切削・研削油剤が使用されている。切削・研削油剤の最も重要な機能としては潤滑作用が挙げられ、この作用により加工に用いられる工具の寿命延長、被加工物の仕上げ面精度の向上、生産能率の向上等、生産性を向上する事ができる。また、それらの要求性能に関し加工方法からのアプローチもなされ、クーラントの給油方式として内部給油で行われるケースも目立ってきた。内部給油方式では必然的にクーラントを高圧条件下で使用することとなり、それに伴い泡立ちが問題視され消泡性の優れた油剤も求められている。
【0003】
潤滑作用を向上する対策としては、例えば、特定のパームオレイン油を用いた熱間圧延油及び熱間圧延方法(特許文献1)、パーム油及びその改質油脂(パーム分別油)などの動植物油からなる基油と炭化水素系合成油とを必須成分として含有する、圧延加工または切削加工に用いられる加水分解安定性に優れる潤滑油組成物(特許文献2)などが知られている。
また、油脂、鉱物油及び脂肪酸エステルから成る群から選ばれる潤滑油成分、特定の陽イオン性又は両性イオン性の水溶性高分子化合物、及び非イオン性界面活性剤を含有する金属加工油組成物も知られている(特許文献3)。
しかしながら、これらの金属加工用油剤は、十分な潤滑作用が得られない、消泡性が劣る、加水分解を受けやすい等の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3320642号
【特許文献2】特開平10-17880号公報
【特許文献3】特公平2-40116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、切削加工、研削加工、転造加工、プレス加工、塑性加工等の金属加工に広く適用できる金属加工用油剤を提供することである。
本発明の他の目的は、切削性に優れた金属加工用油剤を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、切削性、消泡性、原液安定性、乳化安定性、耐加水分解性に優れ、低温での動粘度が低い金属加工用油剤を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、上記金属加工用油剤を用いた金属加工方法及びその金属加工方法により製造される金属加工品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討の結果、特定の脂肪族カルボン酸エステル及び特定の界面活性剤を使用することにより、従来の金属加工用油剤と比較してはるかに優れた切削性、あるいはさらに優れた消泡性、耐加水分解性が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。本発明は以下の金属加工用油剤、その金属加工用油剤を用いた金属加工方法及びその金属加工方法により製造される金属加工品を提供するものである。
1.基油、及び陰イオン性界面活性剤を含む金属加工用油剤において、
基油が、2-エチルヘキサノールの脂肪族カルボン酸エステルを含み、脂肪族カルボン酸がパルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であること、
陰イオン性界面活性剤が脂肪族カルボン酸アミン塩であり、脂肪族カルボン酸アミン塩を構成する脂肪族カルボン酸が炭素数8?18の分岐脂肪族カルボン酸から選ばれる少なくとも1種を含み、アミンが炭素数3?12の分岐アルカノールアミンから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする金属加工用油剤。」
「【0008】
本発明に使用する基油としては、例えば、鉱物油、ポリオールエステル、油脂、ポリグリコール、ポリαオレフィン、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、アルキルベンゼン、ポリエーテルなどがあげられる。これらは、単品に限らず、複数種のブレンド油としても良い。好ましくは、鉱油、ポリグリコール、アルキルベンゼンが良い。
本発明の基油は、2-エチルヘキサノールの脂肪族カルボン酸エステル、すなわち、2-エチルヘキサノールのパルミチン酸及び2-エチルヘキサノールのステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種(以下「2-エチルヘキサノールの脂肪族カルボン酸エステル」という)を含む。
本発明の金属加工用油剤(水で希釈する前の「原液」、以下特に明記しない限り同様)中の基油の含有量は好ましくは1?95質量%、さらに好ましくは3?95質量%である。
また本発明の金属加工用油剤中の2-エチルヘキサノールの脂肪族カルボン酸エステルの含有量は、好ましくは0.5?15質量%、さらに好ましくは1?15質量%である。
0.5質量%未満では、切削性能向上効果が低く、15質量%を超えてもさらなる効果の向上はなく不経済である。」
「【0024】
【表1】


【0025】
【表2】


【0026】
【表3】


【0027】
【表4】


※pHは原液を純水で3質量%に希釈した液を測定した。
【0028】
基油が、2-エチルヘキサノールのパルミチン酸エステル又はステアリン酸エステルを含有し、かつ陰イオン性界面活性剤として、特定の脂肪族カルボン酸アミン塩を含有する本発明の実施例1-18の金属加工用油剤は、切削性、消泡性、原液安定性、乳化安定性
、耐加水分解性に優れ、低温での動粘度も低い。
【0029】
2-エチルヘキサノールのパルミチン酸エステル又はステアリン酸エステルを含有しない比較例1の油剤は、切削性が劣る。
2-エチルヘキサノールのパルミチン酸エステル又はステアリン酸エステルの代わりにノルマルオクチルパルミテートを使用した比較例2の油剤は、耐加水分解性が劣っている。
2-エチルヘキサノールのパルミチン酸エステル又はステアリン酸エステルの代わりにトリメチロールプロパントリオレート、ペンタエリスリトールテトラオレート又は菜種油を使用した比較例3-5の油剤は、切削性及び耐加水分解性が劣る。
2-エチルヘキサノールのパルミチン酸エステル又はステアリン酸エステルを含有しない比較例6の油剤は、動粘度が高い。
炭素数8?18の分岐脂肪族カルボン酸及び炭素数3?12の分岐アルカノールアミンの少なくとも一方を含まない比較例7-9の油剤は、消泡性が劣る。」

ウ 本件訂正発明1と甲2-1発明との対比

本件訂正発明1と甲2-1発明(甲2-1-1発明?甲2-1-13発明)とを対比すると、上記1(2)カ(ウ)a(a)、bのとおり、両者は、次の点で相違するものである(相違点9参照)。

<相違点10>
「基油」について、本件訂正発明1は、「基油として、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を含み、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり」と特定されているのに対し、甲2-1発明は、そのような基油を有していない点(例えば、甲2-1-1発明は、基油として「パラフィン系鉱油」を含むものである)。

エ 相違点の検討

相違点10は、相違点9と同様の内容であり、上記1(2)カ(ウ)a(b)、bのとおり、甲2-1及びその他の上記引用刊行物(甲2-3を含んでいない)をみても、上記相違点9に係る本件訂正発明1の構成が容易想到の事項であるとは認められないところ、申立人2は、甲2-1発明と甲2-3に記載された事項に基づく容易想到性について、次のように主張するので、以下、これについて検討する。

<主張1>
甲2-3の請求項1には、金属加工用油剤の基油が、2-エチルヘキサノールの脂肪族カルボン酸エステルを含み、脂肪族カルボン酸がパルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることについて記載され、同【0008】には、鉱油とのブレンドについても記載されている。また、甲2-1には、「本発明の圧延油剤組成物はまた、切削油、研磨油、プレス加工油、引き抜き加工油、熱処理油、DI缶製造用油剤等の金属加工油としても用いることができる。」(【0021】)と記載され、甲2-3には、「本発明の目的は、切削加工、研削加工、転造加工、プレス加工、塑性加工等の金属加工に広く適用できる金属加工用油剤を提供することである。」(【0005】)と記載されているから、甲2-1発明に甲2-3に記載の事項を組み合わせる動機付けは十分に存在する。
したがって、「甲2-1発明」、特に、「甲2-1-1発明」及び「甲2-1-3発明」において、「2-エチルヘキサノールのパルミチン酸」や「2-エチルヘキサノールのステアリン酸」を含む態様を採用することは当業者であれば容易である(申立人2の特許異議申立書の25頁8行?26頁18行)。

<主張2>
甲2-3の請求項1記載の基油は、その【0003】の特許文献3(後記「甲7」)などに記載された、鉱物油を用いる従来技術の問題にかんがみたものであり、甲2-3には、その具体例として、2-エチルヘキシルパルミテート及び/又は2-エチルヘキシルステアレートを含有する実施例1?18が提示され、他方、【0029】ではこれらを含有しない比較例の問題点が指摘され、それらを含有することによる効果が示されている。
したがって、上記「甲2-1-1発明」及び「甲2-1-3発明」における「鉱油」に代えて、又は甲2-3で示されている実施例と同様に当該「鉱油」に加えて「基油が、2-エチルヘキサノールの脂肪族カルボン酸エステルを含み、脂肪族カルボン酸がパルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である」構成を採用する動機付けは十分に存在する(申立人2の令和元年7月2日提出の意見書の1頁下から8行?4頁11行、9頁7行?17頁2行)。

まず、主張1について検討する。
主張1は、要するに、甲2-1発明は、金属加工用油剤をも予定しており、甲2-3の請求項1に記載された金属加工用油剤と、技術分野において共通しているので、甲2-1発明に甲2-3に記載された事項を組み合わせる動機付けがあるから、甲2-1発明において、甲2-3の請求項1に記載された「基油が、2-エチルヘキサノールの脂肪族カルボン酸エステルを含み、脂肪族カルボン酸がパルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であること」という構成を適用し、本件訂正発明1とすることは容易になし得るというものであると解される。
しかしながら、単に、金属加工用油剤について記載した刊行物は、多数存在するところ、その中から特に甲2-3に着目する動機付けとなる事項は、認められず、また、甲2-3の上記基油(特定の脂肪族カルボン酸エステル)は、特定の界面活性剤と組み合わせて使用されるものであるから(【0006】)、甲2-3記載の特定の脂肪族カルボン酸エステル(「2-エチルヘキサノールのパルミチン酸」や「2-エチルヘキサノールのステアリン酸」)を甲2-1発明に適用するにあたっては、該特定の界面活性剤である、脂肪族カルボン酸アミン塩を伴うこととなり、その結果、甲2-1発明の組成物に含まれている脂肪族カルボン酸及びアミンの種類及び量が変化するため、必ずしも、アミン価、酸価、及び、酸価とアミン価の比率が、本件訂正発明1で規定する数値範囲を充足するものとは限らない(甲2-1に甲2-3を組み合わせても、本件訂正発明1にならない蓋然性が高い)。
したがって、主張1を採用して、上記相違点に係る本件訂正発明1の構成を容易想到の事項ということはできない。

次に、主張2について検討すると、主張2は、要するに、甲2-3においてその問題点が指摘されている特許文献3(特公平2-40116号公報。申立人2が提出した甲第7号証。以下、「甲2-7」という。)は、鉱物油を利用するものであり、甲2-3は、当該鉱物油を用いる従来技術を否定した上で、上記特定の脂肪族カルボン酸エステルを採用することを開示するものであるから、従来技術と同様に鉱物油(鉱油)を用いている甲2-1発明において、甲2-3記載の当該特定の脂肪族カルボン酸エステルを採用する十分な動機付けがある、というものと解される。
しかしながら、甲2-3は、その実施例から明らかなとおり、鉱物油(鉱油)の存在を否定しているわけではないから、上記動機付けの論拠は当を得たものとはいえない。
また、仮に、甲2-1発明に甲2-3の記載事項を組み合わせることを動機付けられたとしても、必ずしも本件訂正発明1にならないことは、上記のとおりである。
したがって、主張2を採用して、上記相違点に係る本件訂正発明1の構成を容易想到の事項ということもできない。

オ 効果について

本件訂正発明1は、「基油として、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を含み、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種」を用いることにより、上記1(2)ア(ウ)cに記載した甲2-1発明及び甲2-3に記載された事項からは予測し得ない効果を奏するものである。

カ 小括

したがって、本件訂正発明1は、当業者が甲2-1発明及び甲2-3に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

キ 本件訂正発明2?6について

本件訂正発明2?6は、いずれも、本件訂正発明1を直接または間接的に引用し、さらに限定したものであるが、上記のとおり、本件訂正発明1は、当業者が甲2-1発明及び甲2-3に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められないものであるから、本件訂正発明2?6も、本件訂正発明1と同様の理由により、当業者が甲2-1発明及び甲2-3に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

ク 取消理由イ-2についてのまとめ

したがって、取消理由イ-2によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。

(5) 取消理由イ-3について

甲2-2(「甲1-4」と同じ)の比較例3には、上記1(2)エ(イ)に記載した「甲1-4発明」が記載されているところ、上記1(2)エ(ウ)bのとおり、本件訂正発明1は、「甲1-4発明」から容易想到であるとはいえないものであるから、当該本件訂正発明1の発明特定事項を全て有する本件訂正発明5についても同様のことがいえる。
したがって、取消理由イ-3によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。

(6) 取消理由イ-4について

取消理由イ-4は、要するに、甲2-3に記載されている金属加工用油剤が、圧延油剤組成物や切削油などに用いるものである点で、甲2-2に記載された発明と共通するので、甲2-2に記載された発明と甲2-3に記載の技術的事項を組み合わせる動機付けは十分に存在するから、本件訂正前の請求項6に係る発明は、当業者が容易に発明をすることができたものである、というものである。
しかしながら、甲2-2に記載された発明は、甲2-2の比較例3に他ならず、当該比較例3の改善を試行させるには強い動機付けを要するところ、上記の点がそこまでの動機付けとなるとは認められない。
したがって、取消理由イ-3によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。

(7) 取消理由イ-5について

取消理由イ-5は、要するに、上記取消理由ア-1と同様、本件訂正発明が解決しようとする課題には、耐腐敗性の向上が含まれていること及び甲2-2の比較例3は、本件訂正発明1に属するものであることを前提とするところ、その前提が適切なものでなく、本件訂正後のものに妥当しないことは、上記1(3)及び上記1(2)エのとおりであるから、さらに検討するまでもなく、この理由によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
そして、本件特許に特許法第36条第6項第1号規定の要件違反に起因する取消理由が存しないことは、上記1(3)のとおりである。

(8) 取消理由イ-6について

取消理由イ-6も、上記取消理由イ-5と同様、本件訂正発明が解決しようとする課題には、耐腐敗性の向上が含まれていること及び甲2-2の比較例3は、本件訂正発明1に属するものであることを前提とするところ、その前提が適切なものでなく、本件訂正後のものに妥当しないことは、上記1(3)及び上記1(2)エのとおりである。
そして、上記1(3)のとおり、本件訂正発明は、本件特許の明細書の記載に基づいて、当業者において、その課題を解決することができるものであると理解することができるものであると認められる。
そうすると、取消理由イ-6によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。


第5 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり、決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)?(C):
(A)基油として、鉱油、合成炭化水素油及び合成エステル油からなる群から選ばれる少なくとも1種、
(B)アミンとして、少なくとも第3級アルカノールアミンと、第1級アミン又は第2級アミンとの組み合わせ、及び
(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体、
を含有する金属加工用油剤組成物であって、
基油として、2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルを含む合成エステル油を含み、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
全構成成分のアミン価が10?100mgKOH/gであり、全構成成分の酸価(AV)とアミン価(BN)の比率(BN/AV)が1.0?2.0であり、アミン価の25%以上が3級アルカノールアミンによるものであり、炭素数2?8のヒドロキシカルボン酸を含まない、切削油剤組成物又は研削油剤組成物である金属加工用油剤組成物。
【請求項2】
(B)第3級アルカノールアミンが、ブチルジイソプロパノールアミン、ジブチルモノイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジブチルエタノールアミン、シクロヘキシルジエタノールアミン及びこれらの混合物からなる群から選ばれる請求項1記載の金属加工用油剤組成物。
【請求項3】
(B)第3級アルカノールアミンが、トリエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン及びこれらの混合物からなる群から選ばれる請求項2記載の金属加工用油剤組成物。
【請求項4】
組成物の全質量を基準として、(A)基油の含有量が30質量%以上であり、(B)第3級アルカノールアミンと(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体との合計量が70質量%以下である請求項1?3のいずれか1項記載の金属加工用油剤組成物。
【請求項5】
鉱油が、40℃における動粘度が20?90mm^(2)/sのものであり、合成炭化水素油が、40℃における動粘度が20?90mm^(2)/sのものであり、合成エステル油が、40℃における動粘度が5?60mm^(2)/sである、請求項1?4のいずれか1項記載の金属加工用油剤組成物。
【請求項6】
合成エステル油が2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステルであるか、又は2-エチルヘキサノールのカルボン酸エステル及びトリメチロールプロパンのカルボン酸エステルであり、そのカルボン酸成分が、オレイン酸、パルミチン酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1?5のいずれか1項記載の金属加工用油剤組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-09-17 
出願番号 特願2014-6958(P2014-6958)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C10M)
P 1 651・ 537- YAA (C10M)
P 1 651・ 121- YAA (C10M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中野 孝一  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 蔵野 雅昭
天野 宏樹
登録日 2018-06-22 
登録番号 特許第6355339号(P6355339)
権利者 協同油脂株式会社
発明の名称 金属加工油剤組成物、それを用いた加工方法及びその金属加工方法により製造される金属加工部品  
代理人 服部 博信  
代理人 弟子丸 健  
代理人 服部 博信  
代理人 山崎 一夫  
代理人 箱田 篤  
代理人 弟子丸 健  
代理人 浅井 賢治  
代理人 箱田 篤  
代理人 山崎 一夫  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 市川 さつき  
代理人 浅井 賢治  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 市川 さつき  
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