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審決分類 審判 全部申し立て 1項2号公然実施  H05K
審判 全部申し立て 2項進歩性  H05K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H05K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H05K
管理番号 1356823
異議申立番号 異議2019-700099  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-08 
確定日 2019-10-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6371460号発明「配線基板用補強板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6371460号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第6371460号の請求項1?3、7、8に係る特許を維持する。 特許第6371460号の請求項4?6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6371460号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成29年12月6日に出願され、平成30年7月20日にその特許権の設定登録がされ、平成30年8月8日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して2件の特許異議の申立てがあり、次のとおりに手続が行われた。
平成31年2月8日 :特許異議申立人日向 ヨシ子による請求項
1?8に係る特許に対する特許異議の申立

平成31年2月8日 :特許異議申立人トーヨーケム株式会社によ
る請求項1?6、8に係る特許に対する特
許異議の申立て
令和元年5月16日付け :取消理由通知(上記の2事件を併合)
令和元年7月19日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求
令和元年8月29日 :特許異議申立人日向 ヨシ子による意見書
の提出
令和元年8月29日 :特許異議申立人トーヨーケム株式会社によ
る意見書の提出

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和元年7月19日付けの訂正請求の趣旨は、特許第6371460号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「表面性状のアスペクト比は、0.5以上である」と記載されているのを、「表面性状のアスペクト比は、0.7以上であり、前記第1の導電性接着剤層は、前記補強板本体の前記第1の面に直接接している」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3、7、8も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「表面性状のアスペクト比は、0.5以上である、請求項1?3(当審注:「3」は「6」の誤記と認める。)のいずれか1項に記載の配線基板用補強板。」と記載されているのを、「表面性状のアスペクト比は、0.7以上である、請求項1?3のいずれか1項に記載の配線基板用補強板。」に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8も同様に訂正する)。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に「前記配線基板に接着された請求項1?7のいずれか1項に記載の配線基板用補強板とを備えている、補強配線基板。」と記載されているのを、「前記配線基板に接着された請求項1?3、7のいずれか1項に記載の配線基板用補強板とを備えている、補強配線基板。」に訂正する

(7)一群の請求項
上記訂正事項1?6に係る本件訂正前の請求項1?8について、請求項2?8は請求項1を引用しているから、本件訂正前の請求項1?8に対応する本件訂正の請求項1?8は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1に係る補強板本体の第1の面について、表面性状のアスペクト比を「0.5以上」から「0.7以上」へと限定するとともに、「前記第1の導電性接着剤層は、前記補強板本体の前記第1の面に直接接している」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、請求項1を引用する請求項2、3、7、8についても、同様に特許請求の範囲を減縮を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書の段落【0021】に「一方、Strの値が0.5以上、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7以上の場合に、リフロー後の接触抵抗を低くでき、リフロー後においても低い接触抵抗を維持できることを本願発明者は見いだした。」と記載され、訂正前の請求項4に「前記第1の導電性接着剤層は、前記補強板本体の前記第1の面に直接接している」と記載されていることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、請求項7に係る補強板本体の第2の面について、表面性状のアスペクト比を「0.5以上」から「0.7以上」へと限定するとともに、「請求項1?6のいずれか1項に記載の配線基板用補強板。」から「請求項1?3のいずれか1項に記載の配線基板用補強板。」と、請求項4?6の引用を行わないようにするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
請求項7を引用する請求項8についても、同様に特許請求の範囲を減縮を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書の段落【0049】に「この場合、補強板本体101の両方の面において、Strを0.5以上、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7とすればよい。」と記載されていることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(6)訂正事項6について
訂正事項6は、「前記配線基板に接着された請求項1?7のいずれか1項に記載の配線基板用補強板とを備えている、補強配線基板。」と記載されているのを、「前記配線基板に接着された請求項1?3、7のいずれか1項に記載の配線基板用補強板とを備えている、補強配線基板。」と、請求項4?6の引用を行わないようにするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

3 小活
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?8に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明8」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
補強板本体と、
前記補強板本体の第1の面に設けられた第1の導電性接着剤層とを備え、
前記補強板本体の前記第1の面における、ISO 25178-6:2010に準拠して求めた表面性状のアスペクト比は、0.7以上であり、
前記第1の導電性接着剤層は、前記補強板本体の前記第1の面に直接接している、配線基板用補強板。
【請求項2】
前記補強板本体は、前記第1の面における算術平均高さが0.10μm以上である、請求項1に記載の配線基板用補強板。
【請求項3】
前記補強板本体は、オーステナイト系ステンレスからなる、請求項1又は2に記載の配線基板用補強板。
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記補強板本体の第2の面に設けられた第2の導電性接着剤層をさらに備え、
前記補強板本体の前記第2の面における、ISO 25178-6:2010に準拠して求めた表面性状のアスペクト比は、0.7以上である、請求項1?3のいずれか1項に記載の配線基板用補強板。
【請求項8】
グランド回路を有する配線基板と、
前記グランド回路と前記補強板本体とが導通するように、前記配線基板に接着された請求項1?3、7のいずれか1項に記載の配線基板用補強板とを備えている、補強配線基板。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
訂正前の請求項1?8に係る特許に対して、当審が令和元年5月16日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)請求項1?3、8に係る発明は、甲第1号証?甲第3号証の記載より本件特許の出願前に公然実施されていたと認められる発明である。よって、請求項1?3、8に係る特許は、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)請求項5に係る発明は、甲第1号証?甲第3号証の記載より本件特許の出願前に公然実施されていたと認められる発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものであり、請求項6に係る発明は、甲第1号証?甲第3号証の記載より本件特許の出願前に公然実施されていたと認められる発明、甲第5号証に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものである。よって、請求項5、6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(3)請求項1?8に係る特許は、発明の詳細な説明に記載されたものでなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

甲第1号証:トーヨーケム株式会社技術本部開発部 早坂努研究員による平成31年2月4日付け実験成績証明書(特許異議申立人 トーヨーケム株式会社提出の甲第1号証)
甲第2号証:iUnlocker"Check iPhone imei or Serial number for any APPLE device"(https://iunlocker.net/check_imei.php)(特許異議申立人 トーヨーケム株式会社提出の甲第2号証)
甲第2号証の1:IMEI番号355337083788320、355338081502895及び355844081019079の各iPhone7について、甲第2号証を用いた検索結果(特許異議申立人 トーヨーケム株式会社提出の甲第2号証の1)
甲第3号証:毎日新聞、2016年9月16日インターネット配信記事(https://mainichi.jp/graphs/20160916/hrc/00m/040/001000g/5)(特許異議申立人 トーヨーケム株式会社提出の甲第3号証)
甲第4号証:国際公開第2017/010101号(特許異議申立人 トーヨーケム株式会社提出の甲第6号証)
甲第5号証:国際公開第2016/032006号(特許異議申立人 トーヨーケム株式会社提出の甲第7号証)

第5 当審の判断
1 特許法第29条第1項、第2項について
(1)甲号証の記載事項
ア 甲第1号証
取消理由通知において引用した上記甲第1号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「4.実験の目的
市販されているiPhone7において、特許第6371460号公報に記載された配線基板用補強板、及び補強配線基板が組み込まれているか否かを確認する。」

「5.実験内容
5-1.iPhone7のIMEI番号及びシリアル番号の確認
中古品として入手した3台のiPhone7(順に、試験品1、試験品2、試験品3とも記す。)を起動させ、画面内の設定、一般、情報から、IMEI番号とシリアル番号を表示させて記録した。
以下、試験品1を用いて行った分解及び分析工程を写真と共に示す。試験品2及び試験品3についても同様の所作を行った。

5-2.iPhone7からの測定サンプル(フロントカメラ近接センサーフレックスケーブルのコネクタ部)の取り出し

・・・中略・・・

5-3.測定サンプルの分割
図に示した箇所を、剃刀を用いて測定サンプルを切断して分割した。下記写真における測定サンプル(1)(当審注:○に数字は、()に数字とした。以下、同様。)を後述する金属板のアスペクト比(Str)及び算術平均高さ(Sa)の測定、組成分析並びに接着剤の導電性確認に用い、測定サンプル(2)を断面構造分析に用いた。

・・・中略・・・

5-4.測定サンプル(2)の断面出し
測定サンプル(2)を、シアノアクリレート系接着剤で支持板に貼り合わせ、下記写真に示すように固定具に固定し、固定具からはみ出した基板部分を研磨するようにした。

・・・中略・・・

5-5.測定サンプル(2)の断面構造分析
断面構造分析用サンプルの研磨面に、smart Coater(JEOL社製)を用いて金スパッタを施した。
SEM/EDS(走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法)により、JSM6010 PLUS/LV(JEOL社製)を用いて、研磨面を以下の条件で分析した。
(SEM条件)
加速電圧:10kV
(EDS条件)
加速電圧:20kV
定量補正法:ZAF
計算方法:単体
特性X線:Kα
点分析時間:100秒

5-6.コネクタからの金属板の取り外し

・・・中略・・・

5-7.金属板の表面粗さの測定
測定サンプル(1)から剥がした金属板の配線基板への貼付面の表面性状を、形状測定レーザマイクロスコープVK-X100(キーエンス社製)により、以下の条件で測定した。測定は、金属板の異なる5箇所について行い、得られた測定データをキーエンス社のデータ解析ソフト(ISO 25178表面性状計測モジュール)を用いて、アスペクト比(Str)及び算術平均高さ(Sa)を算出し、それらの平均値を求めた。なお、本件特許の明細書には測定条件の詳細が記載されておらず、ISO 25178-6:2010においても具体的な測定条件が記載されていないため、レンズ倍率、フィルター種別、S-フィルター、及びL-フィルターの各条件は、次のように実験者が設定した。
また、後述するニッケル金属層を除去した金属板の表面のアスペクト比(Str)及び算術平均高さ(Sa)についても、同様に測定した。
(測定条件)
レンズ倍率:50倍
傾き補正方法:面傾き補正(自動)、高さレンジ(自動調整)
フィルター種別:ガウシアン
S-フィルター:1μm
F-オペレーション:無し
L-フィルター:0.2mm
測定表面の全領域を範囲指定し、各種パラメータを算出した。

5-8.金属板の組成分析
後述のとおり、金属板の接着層側表面にはニッケル金属層の存在が認められたので、測定サンプル(1)の金属板を、比重1.42の硝酸水溶液に2分間浸し、ニッケル金属層を除去した。その後、イオン交換水で洗浄して水分を除去し、蛍光X線分析装置JSX-1000S(JEPL社製)を用いて金属板の元素の構成成分を分析した。
(条件)
バルクFP法
管電圧:50kV
気圧:真空
コリメーター:0.9mmφ
プリセット値:60秒
PHAモード:T2
ロジウム管球

5-9.接着剤の導電性の確認
金属板を剥がした後のコネクタ部の配線基板に残った、金属板を貼り付けるための接着剤の導電性を、抵抗計RM3544(HIOKI社製)とL2103ピン形リード(HIOKI社製)により測定した。」

「6.実験結果
6-1.IMEIとシリアル番号
各試験品のIMEIとシリアル番号は、情報画面の下記写真に示されるとおりである。

・・・中略・・・

各試験品のIMEI番号とシリアル番号の対応表を以下に示す。

IMEI番号 シリアル番号
試験品1 355337083788320 DNPTJJFKHG7X
試験品2 355338081502895 DNPT7EX0HG7Y
試験品3 355844081019079 F17VC716J5KP

6-2.基板の断面構造
断面を研磨した測定サンプル(2)の断面SEM画像、並びにSEM/EDSによる各層の元素マッピング結果を、各構成の解説図とともに以下に示す。断面SEM画像は、下記に示す測定サンプル(2)の赤色の点線部を観察したものである。

・・・中略・・・

上記のとおり、コネクタ部には、フレキシブル配線基板と、この基板に貼り付けられた金属板とが存在し、金属板の配線基板側表面には、ニッケルの金属層が存在していた。また、金属板と一部のグランド回路が接着剤によって接合されていることが確認できた。接着剤を元素マッピングしたところ、カーボン成分の中に、銅及び銀を主成分とする金属フィラーが配合されていることが判明した。

6-3.金属の表面粗さ
金属板の接着剤層と接する面のアスペクト比(Str)値及び算術平均高さ(Sa)値の測定結果は、次のとおりであった。
試験品1 試験品2 試験品3
アスペクト比(Str) n1 0.82 0.66 0.94
n2 0.90 0.81 0.72
n3 0.95 0.77 0.86
n4 0.93 0.85 0.91
n5 0.88 0.89 0.92
平均 0.90 0.80 0.87
算術平均高さ(Sa) n1 0.12 0.11 0.16
[μm] n2 0.13 0.11 0.19
n3 0.12 0.10 0.16
n4 0.12 0.11 0.15
n5 0.11 0.10 0.17
平均 0.12 0.10 0.16
アスペクト比(Str) n1 0.83 0.84 0.95
(ニッケル金属層除去後) n2 0.85 0.73 0.91
n3 0.81 0.78 0.94
n4 0.91 0.73 0.76
n5 0.83 0.89 0.96
平均 0.85 0.79 0.90
算術平均高さ(Sa) n1 0.10 0.08 0.11
[μm] n2 0.10 0.08 0.12
(ニッケル金属層除去後) n3 0.10 0.07 0.12
n4 0.10 0.08 0.12
n5 0.10 0.07 0.13
平均 0.10 0.08 0.12

6-4.金属板の組成
蛍光X線分析により求めた金属板の元素の構成成分は、次のとおりであった。
金属板は主成分が鉄でありクロムを約16質量%、ニッケルを約10質量%含む金属であるため、ニッケル系(300N)のステンレスであって、オーステナイト系ステンレスであることが判明した(添付資料参照)。
試験品1 試験品2 試験品3
Cr 16.56 16.10 16.67
Mn 1.56 1.56 1.32
Fe 69.72 69.87 69.82
Ni 10.24 10.53 10.31
Mo 1.92 1.96 1.88

・・・中略・・・

6-5.接着剤の導電性
接着剤には、断面のSEM-EDS分析により、樹脂成分中に銅および銀からなる金属粒子が含まれていることが判明した。
この接着剤の抵抗値は155?220mΩであり、導電性を有することがわかった。
試験品1 試験品2 試験品3
接着剤の抵抗値 160 220 205
[mΩ]」

「7.考察
以上のとおり、市販されているiPhone7のフロントカメラ近接センサーフレックスケーブルのコネクタ部は、フレキシブル配線基板に対し、Ni金属層が表面に形成されたオーステナイト系のステンレス板が、導電性接着層を介して貼り付けられた構造をしており、そのステンレス板の表面性状のアスペクト比(Str)の平均は、0.79?0.90の範囲内であり、算術平均高さの平均は0.08?0.12μmであることが確認できた。ここで、オーステナイト系ステンレス板は、フレキシブル配線基板の補強板として機能するものである。
したがって、iPhone7には、特許第6371460号公報に記載された配線基板用補強板、及び補強配線基板が組み込まれていると考える。」

イ 甲第2号証
上記甲第2号証には、以下の事項が記載されている。

「Check iPhone imei or Serial number for any APPLE device
Here you can check your iPhone imei or serial number on model, size, color, serial number, coverage status, find my iPhone status,simlock and another information.Also you can check any Apple device with s\n(当審注:バックスラッシュは¥とした。以下、同様。) Macbook or iMac or iPad or AirPods any device.

IMEI/SERIAL Check」
(当審訳:iPone imei又はシリアル番号でAPPLE社の全製品を調べましょう。
このサイトで、iPhone imei又はシリアル番号により、型式、サイズ、色、シリアル番号、保証状況、iPhoneを探すの状況、シムロック又は別の情報を調べることができます。さらに、Macbook、iMac、iPad、又はAirPodsのS¥nで、あらゆるApple製品を調べることができます。

IMEI/シリアル チェック)」

ウ 甲第2号証の1
上記甲第2号証の1には、以下の事項が記載されている。
「Details about order #388617

・・・中略・・・

Model:IPHONE 7,JPN,MM,32GB,SLVR
IMEI:355338081502895
Serial Number:DNPT7EX0HG7Y
ICCID:No Info
ICCID2:No Info
Coverage Status:Out Of Warranty(No Coverage)
Estimated Purchase Date:05/06/17
Product Sold By:SOFTBANK CORP.
Purchased In:Japan

・・・中略・・・

First Activation Date:05/06/17

・・・中略・・・

Replacement Details:Not Found


Details about order #388614
1件のメッセージ

・・・中略・・・

Model:IPHONE 7,JPN,MM,32GB,BLCK
IMEI:355337083788320
Serial Number:DNPTJJFKHG7X
ICCID:No Info
ICCID2:No Info
Coverage Status:Out Of Warranty(No Coverage)
Estimated Purchase Date:08/09/17
Product Sold By:SOFTBANK CORP.
Purchased In:Japan

・・・中略・・・

First Activation Date:08/09/17

・・・中略・・・

Replacement Details:Not Found


Details about order #388604
1件のメッセージ

・・・中略・・・

Model:IPHONE 7,JPN,MM,32GB,JET BLCK
IMEI:355844081019079
Serial Number:F17VC716J5KP
ICCID:No Info
ICCID2:No Info
Coverage Status:Out Of Warranty(No Coverage)
Estimated Purchase Date:09/30/17
Product Sold By:NTT DOCOMO.INC.
Purchased In:Japan

・・・中略・・・

First Activation Date:09/30/17

・・・中略・・・

Replacement Details:Not Found」
(当審訳:発注#388617についての詳細

・・・中略・・・

型式:IPHONE 7,JPN,MM,32GB,SLVR
IMEI:355338081502895
シリアル番号:DNPT7EX0HG7Y
ICCID:情報無し
ICCID2:情報無し
保証状況:保険適用外(保証無し)
推定購入日:05/06/17
製品販売者:ソフトバンク株式会社
販売地:日本

・・・中略・・・

初回利用開始設定日:05/06/17

・・・中略・・・

交換の詳細:見当たらない


発注#388614についての詳細
1件のメッセージ

・・・中略・・・

型式:IPHONE 7,JPN,MM,32GB,BLCK
IMEI:355337083788320
シリアル番号:DNPTJJFKHG7X
ICCID:情報無し
ICCID2:情報無し
保証状況:保険適用外(保証無し)
推定購入日:08/09/17
製品販売者:ソフトバンク株式会社
販売地:日本

・・・中略・・・

初回利用開始設定日:08/09/17

・・・中略・・・

交換の詳細:見当たらない


発注#388604についての詳細
1件のメッセージ

・・・中略・・・

型式:IPHONE 7,JPN,MM,32GB,JET BLCK
IMEI:355844081019079
シリアル番号:F17VC716J5KP
ICCID:情報無し
ICCID2:情報無し
保証状況:保険適用外(保証無し)
推定購入日:09/30/17
製品販売者:株式会社NTTドコモ
販売地:日本

・・・中略・・・

初回利用開始設定日:09/30/17

・・・中略・・・

交換の詳細:見当たらない)

エ 甲第3号証
上記甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
「iPhone7発売
決済機能も アップルストアに行列
2016-09-16

・・・中略・・・

店員とハイタッチをしながら店内に入る「iPhone7」や「7プラス」を購入するために開店前から並んでいた人たち=東京都渋谷区のアップルストア表参道店で2016年9月16日午前8時2分、竹内紀臣撮影」

オ 甲第4号証
上記甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
「[0058][金属補強板]
金属補強板は、例えば金、銀、銅、鉄およびステンレス等の導電性金属が挙げられる。これらの中で補強板としての強度、コストおよび化学的安定性の面でステンレスが好ましい。金属補強板の厚みは、一般的に0.04?1mm程度である。
金属補強板は、ニッケル層が金属板の全表面に形成されていることが好ましい。ニッケル層は、電解ニッケルめっき法で形成することが好ましい。ニッケル層の厚みは、0.5?5μm程度であり、1?4μmがより好ましい。」

カ 甲第5号証
上記引用文献5には、以下の事項が記載されている。
「[0006] 本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、薄い層厚でも高温高湿度の環境で電気抵抗値の上昇を抑えることが可能なフレキシブルプリント配線板用補強部材、及びそれを備えたフレキシブルプリント配線板を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0007] 本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、金属基材の表面に形成されたニッケル層にリンを含有させると、リンを含有したニッケル層(以下、単に「ニッケル層」という場合がある)が形成された金属基材の表面側において高い耐熱性及び耐湿性を発揮することに気付いた。そして、本発明者は、以下のフレキシブルプリント配線板用補強部材、及びフレキシブルプリント配線板の発明をなした。」

「[0029] ニッケル層135b・135cは、無電解めっき処理や電解めっき処理によって形成されることができ、生産性が良好な電解めっき処理により形成されることが望ましい。例えば、大サイズの金属基材135aをめっき浴に浸漬することでニッケル層135b・135cを形成し、その後に、金属基材135aをニッケル層135b・135cと共に縦方向及び横方向にそれぞれ所定の寸法で切断することによって、複数個の補強部材135を得る。なお、めっき処理に代えて、蒸着等によってニッケル層135b・135cが形成されてもよい。」

(2)公然実施発明
甲第1号証の上記の摘記された記載事項からみて、
「IMEI番号355337083788320でシリアル番号DNPTJJFKHG7XのiPhone7、MEI番号355338081502895でシリアル番号DNPT7EX0HG7YのiPhone7及びMEI番号355844081019079でシリアル番号F17VC716J5KPのiPhone7」の「フロントカメラ近接センサーフレックスケーブルのコネクタ部」は、「フレキシブル配線基板に対し、Ni金属層が表面に形成されたオーステナイト系のステンレス板が、導電性接着層を介して貼り付けられた構造をしており、そのステンレス板は、表面性状のアスペクト比(Str)の平均は、0.79?0.90の範囲内であり、算術平均高さの平均は0.08?0.12μm」であると認められる。
ここで、甲第3号証よりiPhone7は、本件特許出願前に市販されたものであること、甲第2号証及び甲第2号証の1より、「IMEI番号355337083788320でシリアル番号DNPTJJFKHG7XのiPhone7、MEI番号355338081502895でシリアル番号DNPT7EX0HG7YのiPhone7及びMEI番号355844081019079でシリアル番号F17VC716J5KPのiPhone7」はいずれも、日本国の移動体通信事業者により販売され、本件特許出願前に初回利用開始設定がなされたものであることを考慮すれば、「IMEI番号355337083788320でシリアル番号DNPTJJFKHG7XのiPhone7、MEI番号355338081502895でシリアル番号DNPT7EX0HG7YのiPhone7及びMEI番号355844081019079でシリアル番号F17VC716J5KPのiPhone7」はいずれも、本件特許の出願前に市販されたものである。
したがって、甲第2号証、甲第2号証の1、甲第3号証によれば、甲第1号証の実験成績正面書の実験に用いられたiPhone7は本件特許の出願前に市販されたものであり、本件特許の出願前に、
「フレキシブル配線基板に対し、導電性接着層を介して貼り付けられた、Ni金属層が表面に形成されたオーステナイト系のステンレス板であり、そのステンレス板は、前記配線基板への貼付面の表面性状のアスペクト比(Str)の平均は、0.79?0.90の範囲内であり、算術平均高さの平均は0.08?0.12μmであるステンレス板。」
の発明(以下、「公然実施発明1」という。)が公然実施されていたと認められる。

また、甲第1号証の「6-2.基板の断面構造」に記載されるように、金属板と一部のグランド回路が接着剤によって接合されているから、本件特許の出願前に、
「フレキシブル配線基板に対し、Ni金属層が表面に形成されたオーステナイト系のステンレス板が、導電性接着層を介して貼り付けられ、前記ステンレス板と前記フレキシブル配線基板のグランド回路が前記導電性接着層によって接合され、そのステンレス板は、表面性状のアスペクト比(Str)の平均は、0.79?0.90の範囲内であり、算術平均高さの平均は0.08?0.12μmであるフレキシブル配線基板。」
の発明(以下、「公然実施発明2」という。)が公然実施されていたと認められる。

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と公然実施発明1とを対比する。
a 公然実施発明1の「ステンレス板」は、「フレキシブル配線基板に対し、・・・導電性接着層を介して貼り付けられ」たものであるから、フレキシブル配線基板を補強する補強板ともいい得るものであり、本件発明1の「補強板本体」に相当する。

b 公然実施発明1は「フレキシブル配線基板に対し、Ni金属層が表面に形成されたオーステナイト系のステンレス板が、導電性接着層を介して貼り付けられ」たものであるから、公然実施発明1の「導電性接着層」は、「ステンレス板」の1面に設けられていることは明らかであり、本件発明1の「前記補強板本体の第1の面に設けられた第1の導電性接着剤層」に相当する。

c 公然実施発明1の「ステンレス板」は、「配線基板への貼付面の表面性状のアスペクト比(Str)の平均は、0.79?0.90の範囲内」であり、甲第1号証の「5-7.金属板の表面粗さの測定」の欄の記載によると、当該表面性状のアスペクト比(Str)はISO 25178-6:2010に準拠して求めたものと認められるから、本件発明1の「前記補強板本体の前記第1の面における、ISO 25178-6:2010に準拠して求めた表面性状のアスペクト比は、0.7以上」であることに相当する。

d 本件発明1の「前記第1の導電性接着剤層は、前記補強板本体の前記第1の面に直接接している」のに対し、公然実施発明1は「フレキシブル配線基板に対し、Ni金属層が表面に形成されたオーステナイト系のステンレス板が、導電性接着層を介して貼り付けられ」たものであるから、公然実施発明1の「導電性接着層」は、「Ni金属層が表面に形成されたオーステナイト系のステンレス板」の1面に設けられたものであり、すなわち、「Ni金属層」を介して設けられ、ステンレス板の1の面に直接接しているものではない点で相違する。

e 公然実施発明1は「フレキシブル配線基板に対し、Ni金属層が表面に形成されたオーステナイト系のステンレス板が、導電性接着層を介して貼り付けられ」るものであるから、公然実施発明1の「ステンレス板」及び「導電性接着層」からなる構成は、本件発明1の「配線基板用補強板」に相当する。

すると、本件発明1と公然実施発明1とは、次の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
「補強板本体と、
前記補強板本体の第1の面に設けられた第1の導電性接着剤層とを備え、
前記補強板本体の前記第1の面における、ISO 25178-6:2010に準拠して求めた表面性状のアスペクト比は、0.7以上である、
配線基板用補強板。」

〈相違点〉
本件発明1は、「前記第1の導電性接着剤層は、前記補強板本体の前記第1の面に直接接している」のに対して、公然実施発明1は、「導電性接着層」が「Ni金属層」を介してステンレス板に設けられたものであり、ステンレス板の1の面に直接接しているものではない点

(イ)判断
本件発明1と公然実施発明1とは相違点を有しており、本件発明1は公然実施発明1であるとは言えない。
したがって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第2号に該当せず、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

イ 本件発明2、3について
本件発明2は請求項1を引用する発明、本件発明3は請求項1又は2を引用する発明であるから、本件発明2、3と公然実施発明1とは相違点を有しており、本件発明2、3は公然実施発明1であるとは言えない。
したがって、請求項2、3に係る特許は、特許法第29条第1項第2号に該当せず、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

ウ 本件発明8について
(ア)対比
本件発明8と公然実施発明2とを対比する。
a 公然実施発明2の「フレキシブル配線基板」は「グランド回路」を有するものであるから、本件発明8の「グランド回路を有する配線基板」に相当する。

b 公然実施発明2の「ステンレス板」は、「フレキシブル配線基板に対し、・・・導電性接着層を介して貼り付けられ」、「表面性状のアスペクト比(Str)の平均は、0.79?0.90の範囲内であり、算術平均高さの平均は0.08?0.12μmである」から、フレキシブル配線基板を補強する補強板ともいい得るものであり、本件発明8の「前記配線基板に接着された請求項1?3、7のいずれか1項に記載の配線基板用補強板」とは、「前記配線基板に接着された配線基板用補強板」である点では一致する。しかしながら、本件発明8の「配線基板用補強板」は「請求項1?3、7のいずれか1項に記載の」配線基板用補強板、すなわち、「補強板本体と、前記補強板本体の第1の面に設けられた第1の導電性接着剤層とを備え、前記補強板本体の前記第1の面における、ISO 25178-6:2010に準拠して求めた表面性状のアスペクト比は、0.7以上であり、前記第1の導電性接着剤層は、前記補強板本体の前記第1の面に直接接している」補強板であるのに対して、公然実施発明2の「ステンレス板」は、「フレキシブル配線基板に対し、・・・導電性接着層を介して貼り付けられ」、「表面性状のアスペクト比(Str)の平均は、0.79?0.90の範囲内」であるものの、「導電性接着層」は、「Ni金属層が表面に形成されたオーステナイト系のステンレス板」の1面に設けられたものであり、すなわち、「Ni金属層」を介して設けられ、ステンレス板の1の面に直接接しているものではない点で相違する。

c 公然実施発明2が「前記ステンレス板と前記フレキシブル配線基板のグランド回路が前記導電性接着層によって接合され」るものであることは、本件発明8の「前記グランド回路と前記補強板本体とが導通するように、前記配線基板に接着され」ることに相当する。

d 公然実施発明2の「ステンレス板が、導電性接着層を介して貼り付けられ」た「フレキシブル配線基板」は、補強配線基板ともいい得るものである。

すると、本件発明8と公然実施発明2とは、次の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
「グランド回路を有する配線基板と、
前記グランド回路と前記補強板本体とが導通するように、前記配線基板に接着された配線基板用補強板とを備えている、補強配線基板。」

〈相違点〉
「配線基板用補強板」が、本件発明8は、「請求項1?3、7のいずれか1項に記載の配線基板用補強板」である、すなわち「前記第1の導電性接着剤層は、前記補強板本体の前記第1の面に直接接している」のに対して、公然実施発明2は、「導電性接着層」が「Ni金属層」を介してステンレス板に設けられたものであり、ステンレス板の1の面に直接接しているものではない点

(イ)判断
本件発明8と公然実施発明2とは相違点を有しており、本件発明8は公然実施発明2であるとは言えずない。
したがって、請求項8に係る特許は、特許法第29条第1項第2号に該当せず、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

2 特許法第36条第6項第1号について
取消理由通知では、本件の発明の詳細な説明には、Strが0.48の補強板が比較例2として記載される一方、実施例として記載された補強板の下限値は0.7であり、実施例の補強板のStr下限値より0.2低く、比較例の補強板のStrよりわずか0.02高いStr0.5の補強板によっても本件発明の課題が解決し得ると、当業者が認識し得るものとは認められず、本件の特許請求の範囲請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化し得るものとは認められない、とした。
これに対し、訂正後の請求項1には、「表面性状のアスペクト比は、0.7以上である」であると記載されており、本件発明1は、補強板の表面性状のアスペクト比を0.7以上とすることにより、「めっき処理を施さずに表面に不働態皮膜を有する配線基板用補強板をFPCのグランド回路と接続しようとすると、リフロー後に接続抵抗値が上昇してしまい、電磁波シールド効果や接地電位との接続安定性が低下してしまう」(本件明細書段落【0005】)という課題を解決し、「めっき処理等を施さなくてもリフロー後の接続抵抗の上昇を抑えた配線基板用補強板を実現できるようにする」(本件明細書段落【0007】)、「めっき処理等が施されていない、表面に不働態皮膜が存在する金属板を補強板本体101として用いても、接続抵抗を低く維持する」(本件明細書段落【0020】)との効果を奏する発明であるものと認められる。
そして、本件の発明の詳細な説明には、Strの値が最小の実施例として、実施例4にStrが0.70の補強板の例が記載されており、補強板のStrを0.7以上とすることにより本件発明の課題が解決し得ると、当業者は認識し得るものと認められる。
よって、本件発明1?8は発明の詳細な説明に記載されたものでないということはできない。

したがって、請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由及び特許異議申立人提出の意見書について
1 特許異議申立人日向 ヨシ子による申立理由について
(1)特許法第29条第2項について
異議申立人日向 ヨシ子は、以下の文献を提示し、本件の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明に基づき当業者が容易になし得た発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨主張している。

甲第1号証:特許第6135815号公報(以下、「引用例1」という。)
甲第2号証:特開2003-272466号公報(以下、「引用例2」という。)
甲第3号証:特開平9-256199号公報(以下、「引用例3」という。)
甲第4号証:特開2001-266686号公報(以下、「引用例4」という。)
甲第5号証:国際公開第2016/032006号(以下、「引用例5」という。)
甲第6号証:特開2017-59801号公報(以下、「引用例6」という。)
甲第7号証:特開2017-59802号公報(以下、「引用例7」という。)
甲第8号証:JIS B0681-6:2014(ISO 25178-6:2010)(以下、「引用例8」という。)
甲第9号証:レーザーテック株式会社ホームページ、https://www.lasertec.co.jp/products/special/hybrid/lineup/index.html(以下、「引用例9」という。)
甲第10号証:オリンパス株式会社、3D測定レーザー顕微鏡OLS5000「表面粗さ測定入門書」、https://www.olympus-ims.com/ja/support/book-download-form/(以下、「引用例10」という。)
甲第11号証:オリンパス株式会社、「5.オリンパスの工業用レーザー顕微鏡の原理的な特徴」、https://www.olympus-ims.com/ja/knowledge/metrology/lext_principles/features/(以下、「引用例11」という。)

ア 引用例1の記載・引用発明
(ア)引用例1には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
配線回路基板、導電性接着剤層、および金属補強板を備え、前記導電性接着剤層は、前記配線回路基板および金属補強板に対してそれぞれ接着し、
前記金属補強板は、金属板の表面に保護層を有し、
前記金属板はステンレス板であって、
前記保護層は貴金属、またはその合金から形成されてなり、保護層表面のクロム原子濃度が3?17%であって、
さらに、前記保護層の表面粗さRaが0.2μm以上であり、
前記表面粗さRaを1としたときの前記保護層の厚みの割合が、0.001?0.3であることを特徴とするプリント配線板。
【請求項2】
保護層が、導電性接着剤層と接する界面全面に形成されてなる、請求項1記載のプリント配線板。」

「【0006】
本発明は、導電性接着剤層と金属補強板とが良好な接着力を有し、リフロー工程を経た後にも発泡が生じ難く、湿熱経時後もグランド回路と金属板との導電性が良好なプリント配線板の提供を目的とする。」

「【0012】
《プリント配線板》
本発明のプリント配線板1は、図1に示す通り、配線基板6と、金属補強板2とを接着する導電性接着剤層3を備えている。金属補強板2は、ステンレス板2aの表面に保護層2bを有している。
そして、前記保護層2bは、保護層表面のクロム原子濃度が1?20%であることを特徴とする。
【0013】
保護層表面のクロムの原子濃度は、保護層がピンホールやクラック等の空孔を有する多孔質膜である場合、金属板であるステンレスが一部表面に露出し、この表面に一部露出したステンレスに由来して、クロムの表面原子濃度を制御することが可能となる。ステンレスに含有しているクロムは金等に比べて極性が高く、空孔を介して導電接着剤が一部露出したステンレス板と接着することで、金メッキを形成した金属補強板でも大幅に接着力が向上する。その結果、金属板の全面を覆う貴金属層を設ける場合よりも接着性に優れ、十分な密着力で、金属板と保護層とを一体化することができる。
また、リフロー工程時の発泡が抑制され、保護層と導電性接着剤層の接続抵抗値も良化する。加えて、長期にわたって安定した導電性を維持することができ、機械的強度および導電性に優れたプリント配線板を得ることができる。
あるいは、保護層中に合金成分としてクロム原子が含有される場合においても上記と同様の効果が得られる。
【0014】
プリント配線板1の実施態様をさらに説明する。配線基板6は、絶縁基材9と接する面であって金属補強板2と対向する面に電子部品10を実装することで、プリント配線板1に必要な強度が得られる。金属補強板2を備えることで、プリント配線板1に曲げ等の力が加わった際の半田接着部位ないし電子部品10に対するダメージを防止できる。また、導電性接着剤層3は、プリント配線板の上方向から下方向に対する電磁波をシールドすることができる。
【0015】
<金属補強板>
本発明の金属補強板2は、ステンレス板2aの表面に表面保護層としての保護層2bを有している。
【0016】
[ステンレス板]
ステンレス板2aは、腐食性が高く導電性に優れた金属板であり、一定の厚み以上で金属補強板としての強度を備えたものである。ステンレス板は、オーステナイト系ステンレス板、フェライト系ステンレス板、2相系ステンレス板、マルテンサイト系ステンレス板、析出硬化系ステンレス板が使用できる。オーステナイト系ステンレス板としては、例えばSUS301、SUS301L、SUS301J1、SUS302B、SUS303、SUS304、SUS304Cu、SUS304L、SUS304N1、SUS304N
2、SUS304LN、SUS304J1、SUS304J2、SUS305、SUS309S、SUS310S、SUS312L、SUS315J1、SUS315J2、SUS316、SUS316L、SUS316LN、SUS316Ti、SUS316J1、SUS316J1L、SUS317、SUS317L、SUS317LN、SUS317J1、SUS317J2、SUS836L、SUS890L、SUS321、SUS347、SUSXM7、SUSXM15J1が挙げられる。フェライト系ステンレス板としては、例えばSUS405、SUS410L、SUS429、SUS430、SUS430LX、SUS430J1L、SUS434、SUS436L、SUS436J1L、SUS445J1、SUS445J2、SUS444、SUS447J1、SUSXM27が挙げられる。2相系ステンレス板としては、例えばSUS329J1、SUS329J3L、SUS329J4Lが挙げられる。マルテンサイト系ステンレス板としては、例えばSUS403、SUS410、SUS410S、SUS420J1、SUS420J2、SUS440Aが挙げられる。析出硬化系ステンレス板としては、例えばSUS630、SUS631が挙げられる。
これらの中でも金属補強板としての強度、コストおよび化学的安定性の面でSUS301、SUS303、SUS304、SUS305、SUS316、SUS316Lが好ましい。
金属補強板2aの厚みは、0.04?1mmが好ましい。
【0017】
[保護層]
表面保護層としての保護層2bは、金属補強板2の最表面に形成された貴金属層であり、保護層表面のクロム原子濃度が1?20%であり、3?17%が好ましく、5?15%がより好ましい。
ここで貴金属層とは、貴金属、および貴金属を主成分とする合金の、少なくともいずれかにより形成されてなる層をいう。
保護層表面のクロム原子濃度が1?20%であることで、保護層全面にピンホール等の空孔が形成された多孔質膜が得られ、ステンレス板が一部表面に露出している状態となる。ステンレス板の部分的な露出部のクロム成分と導電性接着剤層が強固に接着するため、金属補強板に対する導電性接着剤層の接着力を向上させ、リフロー時の発泡を抑制することができる。また、長期にわたって安定した導電性を維持することが可能となり、機械的強度および導電性に優れたプリント配線板を得ることができる。
【0018】
なお、本発明において保護層は、導電性接着剤層と接する界面全面に形成されていることが好ましい。
導電性接着剤層と接する界面全面に保護層を形成した場合、ステンレス板の一部に点または線等、局所的に保護層を施す形態よりも、保護層全面にミクロンまたはナノサイズのピンホールが形成されることで、上記の効果を得ることができる。
また、保護層中に合金成分としてクロム原子を含有させ保護層表面のクロム原子濃度を1?20%とする形態も、上記と同様の効果を得ることができる。
張り合わせる導電性接着剤層の面積100に対して保護層の面積は、80以上が好ましく90以上がより好ましい。上記の範囲とすることで、ハンダフロート試験による発泡をより抑制し、高温高湿試験後の接続信頼性を向上することができる。
【0019】
保護層表面のクロムの原子濃度を1%以上とすることで、剥離強度およびリフロー時の発泡を抑制できる。また、保護層に対するクロムの表面原子濃度を20%以下とすることで、85℃相対湿度(RH)85%の高温高湿の経時後であっても接続抵抗値が良好であり、接続信頼性を高めることができる。
【0020】
保護層2bの形成に使用可能な貴金属としては、例えば、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(0s)等があり、金、銀、白金、およびパラジウムのいずれか1種であることが好ましい。または、これら貴金属を主成分とする合金から形成することも好ましい。
これらの貴金属であれば、保護層の酸化による抵抗値上昇が起こりにくいため85℃相対湿度(RH)85%経時後の接続抵抗値の安定性向上の点から好ましい。
【0021】
なかでも、金を用いて形成する場合、軟質金メッキ、硬質金メッキ及び、無電解メッキで形成することが好ましい。この中でも軟質金メッキが金属補強板2への密着力および高度な導電性を維持する点で好ましい。
【0022】
保護層2bの厚みは、0.005μm?1μmが好ましく、0.01μm?0.05μmがより好ましい。保護層の厚みを0.005μm?1μmとすることで、コストを抑えつつ導電性を良化することができる。
【0023】
また、保護層2bは、その表面粗さRaが0.2μm以上であることが好ましく、0.3μm以上がより好ましく、0.4μm以上がさらに好ましい。表面粗さRaの数値が大きいと、保護層2bの表面が粗面となるため、金属補強板2と導電性接着剤層3を熱圧着する際、導電性接着剤層3が保護層2bの表面の窪みに侵入して両者の接着力を強固にすることができる。
【0024】
本発明では、ステンレス板にニッケル層などを介さず直接保護層を形成する態様が好ましい。ニッケル層などの中間層を設けない場合、工程の簡略化によりコストダウンが図れる他、保護層の厚みを薄く形成できることからステンレス板表面の凹凸形状を保護層表面に確実に転写することができる。すなわちRaのコントロールが容易となるため、保護層と導電性接着剤の接着力を向上することができる。
【0025】
なお、表面粗さRaは、保護層2bの表面を接触式表面粗さ計を使用してJIS B 0601-2001に準拠して測定した数値である。」

「【0027】
<導電性接着剤層>
導電性接着剤層3は、配線回路基板および金属補強板に対してそれぞれ接着している。また、熱硬化性樹脂および導電性成分を含む、等方導電性接着剤または異方導電性接着剤を使用して形成する。ここで等方導電性とは、X軸(図1における左右方向)、Y軸(図1における奥行き方)およびZ軸(図1における上下方向)の3次元方向に導電する性質である。また異方導電性とはZ軸にのみ導電する性質である。これらの導電性はプリント配線板の使用態様に応じて適宜選択できる。」

「【0032】
<配線回路基板>
配線回路基板6は、絶縁層4aおよび4b、接着剤層5aおよび5b、ならびにグランド配線回路7、ならびに配線回路8、ならびに絶縁基板9を備えている。また配線回路基板6は、グランド配線回路7上にビア11(Via)といわれる円柱状ないしすり鉢状の穴を備えている。」

(イ)引用発明
上記の摘記された記載事項より、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「配線基板6と、金属補強板2とを接着する導電性接着剤層3を備え、
金属補強板2は、ステンレス板2aの表面に保護層2bを有し、
保護層2bは、金属補強板2の最表面に形成された貴金属層であり、保護層は、導電性接着剤層と接する界面全面に形成され、保護層2bの形成に使用可能な貴金属としては、金(Au)等があり、金を用いて形成する場合、軟質金メッキ、硬質金メッキ及び、無電解メッキで形成し、
保護層2bは、表面粗さRaは、JIS B 0601-2001に準拠して測定した数値である表面粗さRaが0.2μm以上で、保護層2bの表面が粗面となるため、金属補強板2と導電性接着剤層3の接着力を強固にすることができ、
ステンレス板表面の凹凸形状を保護層表面に確実に転写した
金属補強板2。」

イ 対比・判断
(ア)本件発明1について
a 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
(a)引用発明の「金属補強板2」は「ステンレス板2aの表面に保護層2b」を有するものであるから、引用発明の「ステンレス板2a」は、本件発明1の「補強板本体」に相当する。

(b)引用発明の「導電性接着剤層3」は、「配線基板6と、金属補強板2とを接着する」ものであるから、本件発明1の「前記補強板本体の第1の面に設けられた第1の導電性接着剤層」に相当する。

(c)引用発明の「金属補強板2」の「保護層2b」は、「ステンレス板表面の凹凸形状」を転写した、「表面粗さRaは、JIS B 0601-2001に準拠して測定した数値である表面粗さRaが0.2μm以上で、保護層2bの表面が粗面となるため、金属補強板2と導電性接着剤層3の接着力を強固にすることができる」ものであるから、引用発明の「ステンレス板2a」が凹凸形状を有するのは明らかである。
一方、本件発明1の「前記補強板本体の前記第1の面における、ISO 25178-6:2010に準拠して求めた表面性状のアスペクト比は、0.7以上」であることは、本件の発明の詳細な説明段落【0021】の記載によれば、補強板本体の第1の面が凹凸形状を有することを前提に、凹凸形状の方向依存性が小さいことを表すものである。
したがって、引用発明の「ステンレス板2a」は本件発明1の「補強板本体」と、「第1の面」に凹凸形状を有する点では共通する。
しかしながら、本件発明1は、「前記補強板本体の前記第1の面における、ISO 25178-6:2010に準拠して求めた表面性状のアスペクト比は、0.7以上」であるのに対して、引用発明は、表面性状のアスペクト比が特定されていない点で相違する。

(d)本件発明1の「前記第1の導電性接着剤層は、前記補強板本体の前記第1の面に直接接している」のに対し、引用発明は「金属補強板2は、ステンレス板2aの表面に保護層2bを有し」、「保護層2b」は、金属補強板2の最表面に形成された貴金属層であり、保護層は、導電性接着剤層と接する「軟質金メッキ、硬質金メッキ及び、無電解メッキで形成し」、「保護層2bの表面が粗面となるため、金属補強板2と導電性接着剤層3の接着力を強固にする」ものであるから、引用発明の「導電性接着剤層3」は、「ステンレス板2a」の表面にメッキにより形成された「保護層2b」を有する「金属補強板2」に設けられたものであり、「ステンレス板2a」の1の面に直接接しているものではない点で相違する。

(e)引用発明は「配線基板6と、金属補強板2とを接着する導電性接着剤層3を備え」、「金属補強板2は、ステンレス板2aの表面に保護層2bを有」するものであるから、引用発明の「ステンレス板2b」及び「導電性接着剤層3」からなる構成は、本件発明1の「配線基板用補強板」に相当する。

すると、本件発明1と公然実施発明1とは、次の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
「補強板本体と、
前記補強板本体の第1の面に設けられた第1の導電性接着剤層とを備え、
前記補強板本体の前記第1の面に凹凸形状を有する、
配線基板用補強板。」

〈相違点1〉
本件発明1は、「前記補強板本体の前記第1の面における、ISO 25178-6:2010に準拠して求めた表面性状のアスペクト比は、0.7以上」であるのに対して、引用発明は、表面性状のアスペクト比が特定されていない点

〈相違点2〉
本件発明1は、「前記第1の導電性接着剤層は、前記補強板本体の前記第1の面に直接接している」のに対して、引用発明は、「導電性接着剤層3」は、「ステンレス板2a」の表面にメッキにより形成された「保護層2b」を有する「金属補強板2」に設けられたものであり、「ステンレス板2a」の1の面に直接接しているものではない点

b 判断
(a)相違点1について
引用例2には、ステンレス鋼箔の表面に方向性のない均一な表面粗さを有することにより、めっき層を形成しなくとも、接触電気抵抗値は小さく、かつ安定し、製造コストが低いスイッチ用のステンレス鋼箔製ばね材とする技術、引用例3には、ステンレス鋼の鋼板表面にピットを隙間なく形成することにより、ステンレス鋼板と塗膜の密着性を向上させる技術、引用例4には、スイッチ用材料としてステンレス鋼を用いた電気接点において、単位面積当たりの接触点密度を増大させ軽度の押し付けでも電気接点安定性を実現するために、表面粗さにおいて、凸凹の平均間隔が最小となる方向への粗さ測定により得られた算術平均粗さと凸凹の平均間隔の比率を0.001以上とする技術が記載されている。
しかしながら、引用例2?4に記載された上記技術はいずれも、表面に不働態皮膜を有するステンレス板を導電性接着剤を介して接続するものではなく、また、表面性状のアスペクト比を0.7以上、すなわち、表面の凹凸の方向性を小さくすることにより、めっき処理等を施さなくても、表面に不働態皮膜を有する配線基板用補強板をFPCのグランド回路とのリフロー後の接続抵抗の上昇を抑えるものでもない。
したがって、引用例2?4には、「第1の導電性接着剤層」を備える「補強板本体の第1の面」における「ISO 25178-6:2010に準拠して求めた表面性状のアスペクト比」を0.7以上とすることが、記載も示唆もされていない。
また、引用例5?11にも、「第1の導電性接着剤層」を備える「補強板本体の第1の面」における「ISO 25178-6:2010に準拠して求めた表面性状のアスペクト比」を0.7以上とすることは、記載も示唆もされていない。

したがって、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、引用発明及び引用例2?11に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。

よって、本件発明1は、上記相違点2について検討するまでもなく、引用発明及び引用例2?11に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明2、3、7、8について
本件発明2、3、7、8はいずれも、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明2、3、7、8はいずれも、引用発明及び引用例2?11に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)特許法第36条第4項第1号について
異議申立人日向 ヨシ子は、特許異議申立書において、本件明細書には、「具体的に、如何なる素材の如何なる表面形状のロールを、どのような圧力で加工対象の金属板に接触させ、どのような速度でロールを回転させて表面を粗面化するのかについての条件は全く記載されていない。実施例で使用したステンレス板については、既に粗面化された市販品であるのか、実施例用に粗面化処理したものであるかも不明であり、前者の場合は入手経路、後者の場合はその処理方法が開示されなければ、当業者は実施例の追試をすることもできない。」(第19頁第8?14行)、「当業者といえども、本件発明の表面性状を備えた補強板を、過度の試行錯誤なく製造することはできない。」(第19頁第16?17行)旨主張する。
また、「「コンフォーカル顕微鏡(Lasertec社製、OPTELICS HYBRID)」には、・・・ベーシックモデル、スタンダードモデル、ハイエンドモデルというラインナップがあり、本件発明の表面性状の測定に如何なる機種が使用されたのか不明である。」(第19頁第29行?第20頁第2行)旨、「本件明細書には具体的な測定条件については、何も記載されていない。一方、・・・ISO 25178-6:2010にも、具体的な測定条件についての記載が全く存在しない」(第20頁第20?23行)、「本来コンフォーカル顕微鏡を用いた表面性状の測定には、顕微鏡を使用する際の最も基本的な拡大倍率をはじめ、対物レンズの種類、フィルターの種別とその組合せ、Sフィルター及びLフィルターの各条件等が少なくとも必要であるから、これらについての記載を欠いた本件明細書が実施可能要件を満たさないものであることは自明である。また、本件明細書の実施例の測定値が得られる追試を行うためにこれらの各条件を設定することは、当業者には過度な試行錯誤となることは言うまでもない。」(第20頁第24?30行)旨主張する。
しかしながら、本件明細書には、「金属板101を非磁性のオーステナイト系のステンレスとする」(段落【0028】)、「オーステナイト系のステンレスとしては、・・・SUS304及びSUS316、SUS316L等を用いることができる。」(段落【0031】)、「第1の方向に延びる凹凸が設けられたロールと、第1の方向と交差する第2の方向に延びる凹凸が設けられたロールの両方を用いて加工することによりStrを大きくすることができる。」(段落【0033】)と、加工対象となる金属板の材料や加工方法が記載されるとともに、厚さ、Str、Saが特定されたSUS304から成る金属板を用いた実施例が複数記載されている。
そして、本件明細書の段落【0033】に「通常行われるロールトゥロールのヘアライン加工の場合には、一方向の粗面化でありSaを大きくすることができ」と記載されるように、ロールを用い、金属板の表面に凹凸を設ける加工自体は周知技術であることを考慮すれば、加工に用いるロールの材質、表面形状や加工圧力が具体的に明示されていないとしても、上記加工対象となる金属板の材料及び加工方法の記載に基づいて、Str値が所定値以上となる凹凸を金属板の表面設けることが、過度の試行錯誤が必要なものであるとは認められない。
また、一般に、測定値に必要とされる精度が得られるように測定機器を選択し測定条件を設定することは、当業者が通常行うことであること、異議申立人が提示した引用例8?11(「第6 1(1)」参照)に記載されるように、Str及びSaは、測定値として普通に知られたものであることを考慮すれば、必要とされる精度のStr及びSaを測定するための測定機器の選択や測定条件の設定が、当業者に過度な試行錯誤が必要なものとは認められない。
したがって、「コンフォーカル顕微鏡(Lasertec社製、OPTELICS HYBRID)」が複数のモデルを有するものであるところ、本件明細書に、金属表面のStr及びSaの測定に、「コンフォーカル顕微鏡(Lasertec社製、OPTELICS HYBRID)」のうち如何なる機種が使用されたのか記載されておらず、測定条件も記載されていないとしても、当業者に過度な試行錯誤となるものとは認められない。

以上のとおりであるから、本件の明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1?3、7、8の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえず、特許異議申立人日向 ヨシ子のかかる主張は、採用することができない。

(3)特許法第36条第6項第2号について
異議申立人日向 ヨシ子は、特許異議申立書において、「本件発明1において表面性状のアスペクト比は、「ISO 25178-6:2010に準拠して求めた」とのみ特定されるところ、・・・「ISO 25178-6:2010に準拠して求めた」という特定のみでは、いかなる方法で測定するのかも不明である。また、仮に「ISO 25178-6:2010に準拠した方法」が本件明細書に記載の「コンフォーカル顕微鏡を用いる方法」に特定されたとしてもなお、・・・その測定に必要な具体的条件が全く定められていない。そうすると、その測定条件により測定結果が異なり、本件発明の範囲に包含される場合とされない場合とが生じることは当業者には自明であるから、本件発明は著しく不明確である。」(第21頁第6?16行)旨主張している。
しかしながら、上記「第6 1(2)」に記載したように、一般に、測定値に必要とされる精度が得られるように測定機器を選択し測定条件を設定することは、当業者が通常行うことであること、異議申立人が提示した引用例8?11(「第6 1(1)」参照)に記載されるように、Str及びSaは、測定値として普通に知られたものであることを考慮すれば、本件発明1の「ISO 25178-6:2010に準拠して求めた表面性状のアスペクト比」は、必要とされる精度のStrを測定し得るように測定機器の選択や測定条件の設定を行い得たものと解するのが自然であり、「ISO 25178-6:2010に準拠して求めた表面性状のアスペクト比」なる記載が不明瞭であるとはいえない。
したがって、本件の特許請求の範囲の請求項1?3、7、8の記載は、特許を受けようとする発明が明確でないとはいえず、特許異議申立人日向 ヨシ子のかかる主張は、採用することができない。

(4)令和元年8月29日付け意見書について
ア 特許法第36条第6項第2号について
異議申立人日向 ヨシ子は、意見書において、「「直接接している」とはいかなる実施態様を意味するのか、当業者は理解することができず、不明確である。」(第2頁第6?7行)、「金属表面には、一般に様々な表面処理が行われるものである」(第3頁第9行)、「これらの処理を経た補強板本体は本件訂正発明1の「直接接している」の範疇に含まれるのか否か、当業者には判断ができない」(第3頁第14?15行)旨主張している。
しかしながら、この「直接接している」に関する発明特定事項は、訂正前の請求項4に記載されていたものであることを踏まえると、異議申立人日向 ヨシ子のかかる主張は、実質的に新たな内容を含むものであるから、新たな取消理由として採用しない。

イ 特許法第29条第2項について
異議申立人日向 ヨシ子は、意見書において、「めっきを行わないことによりコストを削減でき且つその機能を維持できるステンレス鋼が公知ないし周知であったのであるから、コストを削減するために、公然実施発明1においてかかるステンレス板を選択することは、当業者において容易になし得たことである。」(第4頁第9?12行)、「不動態皮膜にリチウムイオン等を含有させる改質方法・・・は、当業者の周知技術であった。例えば、特開2008-277145号公報・・・また、特開2009-221512号公報・・・ほかにも、特開2008-277146号公報、及び特開2009-221513号公報にも同様の記載が認められる。このように、本件出願以前より、ステンレス鋼の不動態皮膜にリチウムイオンを含有させる改質方法(本件明細書に記載の「ルコア処理」)は、それがばね材やスイッチに使用されることも含めて、当業者には周知であったのである。」(第4頁第13行?第5頁第2行)、「公然実施発明1において、コスト削減という普遍的な課題を解決するために、めっき処理をしないステンレス鋼であって接続抵抗値の小さな、周知のステンレス鋼を使用することは、当業者には十分に動機づけられることであり、単なる設計事項である。」(第5頁第3?6行)、「本件特許発明の効果は当業者の予測の範囲内の効果に過ぎない。」(第5頁第10?11行)旨主張している。
しかしながら、公然実施発明1の「ステンレス板」は、「Ni金属層が表面に形成されたオーステナイト系のステンレス板」であり、当該Ni金属層はめっきにより形成された層と特定されたものではなく、また、当該Ni金属層はいかなる機能を奏するために設けられたものであるのか特定されたものでもない。
そして、「めっきを行わないことによりコストを削減でき且つその機能を維持できるステンレス鋼が公知ないし周知」であり、また、「不動態皮膜にリチウムイオン等を含有させる改質方法」が周知技術であったとしても、当該周知技術の存在が、めっきにより形成された層と特定されたものではなく、また、いかなる機能を奏するために設けられた層であるのか特定されない上記Ni金属層を形成しないことの動機になるものとは認められない。
したがって、本件発明1は、公然実施発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできず、特許異議申立人日向 ヨシ子のかかる主張は、採用することができない。

ウ 特許法第36条第6項第2号について
異議申立人日向 ヨシ子は、意見書において、「実施例1の金属板のStrとSaはどちらも、実施例4の金属板よりも大きい。・・・本件明細書の記載に従えば、実施例1の接続抵抗は実施例4よりも低い値となるはずである。しかし、・・・その初期値もリフロー後の値も実施例4よりも実施例1の方が高く、変化率(リフロー後/初期)は約2.6倍にもなっている(実施例4では1.75倍)。」(第6頁第18?23行)、「本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、表面性状について特定の物性を満たすものとすることによって発明の課題が解決されることが理解できるように記載されていないので、サポート要件として足りるものではなく、本件特許発明はサポート要件を充足しないものである。」(第7頁第5?8行)旨主張している。
しかしながら、異議申立人日向ヨシ子のかかる主張は、訂正の請求に付随して生じたものではなく、実質的に新たな内容を含むものであるから、新たな取消理由として採用しない。

2 特許異議申立人トーヨーケム株式会社による申立理由について
(1)特許法第29条第2項について
特許異議申立人トーヨーケム株式会社は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項4に関し、「配線基板用補強板において、補強板である金属板上に導電性接着剤層が形成される構成は周知である。したがって、当業者において、甲1発明からニッケル層を省いた構成を想到することは設計事項にすぎず、本件発明4は、公然実施された発明に基づき、当業者が容易になし得た発明である。」(第9頁第20?24行)旨主張している。
しかしながら、上記「第6 1(4)イ」に記載したように、公然実施発明1の「Ni金属層」は、めっきにより形成された層と特定されたものではなく、また、いかなる機能を奏するために設けられたものであるのか特定されたものでもない。
したがって、「配線基板用補強板において、補強板である金属板上に導電性接着剤層が形成される構成は周知」であるとしても、公然実施発明1において「Ni金属層」を省く動機があるとはいえない。
よって、特許異議申立人トーヨーケム株式会社のかかる主張は、採用することができない。

(2)令和元年8月29日付け意見書について
異議申立人トーヨーケム株式会社は、意見書において、「ステンレス板等を補強板に使用する場合に、表面にめっき層を設けることと並び、めっき層を設けないステンレス板等を用いることもまた、当業者の技術常識である。」(第4頁第13?15行)、「配線基板用の補強板に用いられる金属板には「必要に応じて」めっきが施されることは当業者の技術常識なのであり、換言すると、表面にめっき層を設けない金属板を補強板に使用することも当業者の技術常識なのである。」(第5頁第5?7行)、「本件出願日以前から、携帯電話等に用いられるフレキシブル配線板に使用できるステンレス鋼板「ル・コア」が販売されており、この「ル・コア」はNiめっきを省略してコストダウンを図った製品であって、Niめっき処理品と同等の抵抗接触特性を有していることが知られていた。」(第5頁第8?11行)、「本件出願日以前に、補強板本体の金属板においてめっきは任意の処理であることが知られており、また、Niめっきと同等の接触抵抗でありながらメッキレスであってコストダウンが可能なステンレス鋼「ル・コア」が存在し且つ周知であったのであるから、当業者において、公然実施発明1のステンレス板を、めっき層を設けない金属板に、例えば「ル・コア」に変更することには強い動機付けがあり、極めて容易である。」(第6頁第16?21行)旨主張している。
しかしながら、上記「第6 1(4)イ」に記載したように、公然実施発明1の「Ni金属層」は、めっきにより形成された層と特定されたものではなく、また、いかなる機能を奏するために設けられたものであるのか特定されたものでもない。
したがって、「本件出願日以前に、補強板本体の金属板においてめっきは任意の処理であることが知られており、また、Niめっきと同等の接触抵抗でありながらメッキレスであってコストダウンが可能なステンレス鋼「ル・コア」が存在し且つ周知であった」としても、公然実施発明1において「ステンレス板」をNi金属層が表面に形成されていないステンレス板とする動機があるとはいえない。
よって、特許異議申立人トーヨーケム株式会社のかかる主張は、採用することができない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?3、7、8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?3、7、8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件請求項4?6は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項4?6に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強板本体と、
前記補強板本体の第1の面に設けられた第1の導電性接着剤層とを備え、
前記補強板本体の前記第1の面における、ISO 25178-6:2010に準拠して求めた表面性状のアスペクト比は、0.7以上であり、
前記第1の導電性接着剤層は、前記補強板本体の前記第1の面に直接接している、配線基板用補強板。
【請求項2】
前記補強板本体は、前記第1の面における算術平均高さが0.10μm以上である、請求項1に記載の配線基板用補強板。
【請求項3】
前記補強板本体は、オーステナイト系ステンレスからなる、請求項1又は2に記載の配線基板用補強板。
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記補強板本体の第2の面に設けられた第2の導電性接着剤層をさらに備え、
前記補強板本体の前記第2の面における、ISO 25178-6:2010に準拠して求めた表面性状のアスペクト比は、0.7以上である、請求項1?3のいずれか1項に記載の配線基板用補強板。
【請求項8】
グランド回路を有する配線基板と、
前記グランド回路と前記補強板本体とが導通するように、前記配線基板に接着された請求項1?3、7のいずれか1項に記載の配線基板用補強板とを備えている、補強配線基板。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-09-24 
出願番号 特願2017-234186(P2017-234186)
審決分類 P 1 651・ 112- YAA (H05K)
P 1 651・ 536- YAA (H05K)
P 1 651・ 121- YAA (H05K)
P 1 651・ 537- YAA (H05K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 秋山 直人  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 須原 宏光
山田 正文
登録日 2018-07-20 
登録番号 特許第6371460号(P6371460)
権利者 タツタ電線株式会社
発明の名称 配線基板用補強板  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  
代理人 三好 秀和  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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