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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A23L 審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L |
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管理番号 | 1356832 |
異議申立番号 | 異議2018-701049 |
総通号数 | 240 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-12-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-12-25 |
確定日 | 2019-10-07 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6348307号発明「濃縮液体調味料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6348307号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。 特許第6348307号の請求項1?11に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6348307号の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成26年3月25日に特許出願され、平成30年6月8日に特許権の設定登録がなされ、平成30年6月27日に特許掲載公報が発行されたところ、平成30年12月25日に特許異議申立人西郷新(以下、「申立人」という。)により全請求項について特許異議の申立てがなされた。 そして、当審において、平成31年4月5日付けで取消理由を通知したところ、その指定期間内である、令和元年6月7日に特許権者より意見書と訂正請求書が提出され、申立人より令和元年7月18日に意見書が提出された。 以下、令和元年6月7日付け訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、これに係る訂正を「本件訂正」という。 第2 本件訂正の可否 1.本件訂正の内容 本件訂正の請求は、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?11について訂正を求めるものであって、その訂正の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1における「粘度(20℃)は、50?3000mPa・sであることを特徴とする濃縮液体調味料。」との記載を、「粘度(20℃)は、50?2000mPa・sであり、脂質の含有量が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、2.2?15質量%であることを特徴とする濃縮液体調味料。」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項9における「脂質の含有量が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、0.25?15質量%である」との記載を、「脂質の含有量が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、2.7?15質量%である」に訂正する。 2.訂正の適否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、請求項1記載の「濃縮液体調味料」の「粘度(20℃)」の数値範囲について、「50?3000mPa・sである」とされていたのを、「50?2000mPa・sである」と数値範囲を限定するとともに、当該「濃縮液体調味料」について「脂質の含有量が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、2.2?15質量%である」との限定を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、本件明細書の段落【0020】には、「本発明における濃縮液体調味料の粘度(20℃)は、3000m・Pa以下(通常、5m・Pa以上)であり、好ましくは50?3000m・Pa、より好ましくは100?2000m・Paである。この粘度が上記範囲内である場合には、鶏がらだしのコクが強まり、後味のくどさが低減されるため好ましい。」の記載からすれば、本件発明は「粘度(20℃)」の上限値を2000m・Paとすることも意図していたといえるから、「粘度(20℃)」の数値範囲について、「50?2000mPa・sである」とすることは、新規事項の追加にあたらない。 また、本件明細書の段落【0027】には、「本発明の濃縮液体調味料に含まれる脂質分は、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、0.25?15質量%であることが好ましく、より好ましくは0.3?10質量%、更に好ましくは0.5?5.5質量%である。この含有量が上記範囲内である場合には、鶏がらだしのコクを十分に感じられ、後味のくどさを感じない香味バランスとなるため好ましい。」との記載があり、また、段落【0037】の表3には、香味について評価の高い実験例(総合評価が「◎」のもの。)として実験例18,19及び22が示されており、当該実験例18及び22の脂質の量は2.2質量%であり、実験例19の脂質の量が5.2質量%とされているからすれば、脂質の量の下限値を2.2質量%とすることは明細書の記載の範囲内の限定といえるから、「濃縮液体調味料」の「脂質の含有量が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、2.2?15質量%である」とすることは、新規事項の追加にあたらない。 そして、訂正事項1に係る発明特定事項の限定によりカテゴリーや対象、目的に変更が生じるものではないから、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項9の「濃縮液体調味料」の「脂質の含有量」について、「0.25?15質量%」とされていたものを「2.7?15質量%」と数値範囲を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、本件明細書の段落【0027】には、「本発明の濃縮液体調味料に含まれる脂質分は、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、0.25?15質量%であることが好ましく、より好ましくは0.3?10質量%、更に好ましくは0.5?5.5質量%である。この含有量が上記範囲内である場合には、鶏がらだしのコクを十分に感じられ、後味のくどさを感じない香味バランスとなるため好ましい。」との記載があり、また、段落【0035】の表1及び段落【0036】の表2には、香味について評価の高い実験例(総合評価が「◎」であるもの。)として実験例4及び10?12が示され、これら実験例の脂質の量は2.7質量%である。 してみれば、脂質の量の下限値を2.7質量%とすることは明細書の記載の範囲内の限定といえるから、「濃縮液体調味料」の「脂質の含有量」について、下限値を2.7質量%とすることは、新規事項の追加にあたらない。 そして、訂正事項2に係る発明特定事項の限定によりカテゴリーや対象、目的に変更が生じるものではないから、訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。 (3)一群の請求項に係る訂正か否かについて 訂正前の請求項2?11はいずれも直接又は間接的に訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正事項1及び2によって訂正される請求項1?11は一群の請求項である。 よって、本件訂正は一群の請求項毎に請求されたものである。 3.小括 以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1?11についての訂正を認める。 第3 本件発明 上記のとおり本件訂正は認められるので、本件特許請求の範囲の請求項1?11の記載は、以下のとおりのものである。 【請求項1】 希釈して用いられる濃縮液体調味料であって、 鶏エキスと、コハク酸塩と、植物系油脂と、甘味料と、を含有しており、 前記鶏エキスに含まれる窒素分及び前記コハク酸塩の質量比(窒素分:コハク酸塩)は1:(1.5?8)であり、 前記鶏エキスに含まれる窒素分及び前記植物系油脂の質量比(窒素分:植物系油脂)は1:(5?50)であり、 前記鶏エキスに含まれる窒素分及び前記甘味料(但し、甘味度での砂糖換算量)の質量比(窒素分:甘味料)は1:(8.7?40)であり、 前記鶏エキスに含まれる窒素分が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、0.02?0.6質量%であり、 粘度(20℃)は、50?2000mPa・sであり、 脂質の含有量が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、2.2?15質量%であることを特徴とする濃縮液体調味料。 【請求項2】 5?20倍に希釈して用いられる請求項1に記載の濃縮液体調味料。 【請求項3】 鍋つゆ・麺つゆ兼用である請求項1又は2に記載の濃縮液体調味料。 【請求項4】 前記植物系油脂は、ナタネ油、ごま油、米油、大豆油、コーン油、ヤシ油、パーム油、綿実油、ひまわり油、紅花油、亜麻仁油、シソ油、オリーブ油、落花生油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、米糠油、小麦胚芽油、香味食用油、これらの油脂の分別油、これらの油脂の硬化油、及びこれらの油脂のエステル交換油のうちの少なくとも1種である請求項1乃至3のうちのいずれか一項に記載の濃縮液体調味料。 【請求項5】 増粘剤を更に含有しており、前記増粘剤の含有量が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、0.1?0.8質量%である請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の濃縮液体調味料。 【請求項6】 前記増粘剤は、キサンタンガム、でんぷん、加工でんぷん、タマリンドガム、グアーガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、タラガム、カラギーナン、ペクチン、グルテン、カルボキシメチルセルロース及びゼラチンのうちの少なくとも1種である請求項5に記載の濃縮液体調味料。 【請求項7】 グルタミン酸ナトリウムを更に含有しており、前記グルタミン酸ナトリウムの含有量が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、2?13質量%である請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載の濃縮液体調味料。 【請求項8】 核酸系調味料を更に含有しており、前記核酸系調味料の含有量が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、0.1?1質量%である請求項1乃至7のうちのいずれか1項に記載の濃縮液体調味料。 【請求項9】 脂質の含有量が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、2.7?15質量%である請求項1乃至8のうちのいずれか1項に記載の濃縮液体調味料。 【請求項10】 乳化剤を更に含有しており、前記乳化剤の含有量が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、0.05?1質量%である請求項1乃至9のうちのいずれか1項に記載の濃縮液体調味料。 【請求項11】 食塩を更に含有しており、前記食塩の含有量が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、10?20質量%である請求項1乃至10のうちのいずれか1項に記載の濃縮液体調味料。 第4 取消理由通知で指摘した取消理由について 1.取消理由通知の概要 本件特許に対する平成31年4月5日付け取消理由通知(以下、「取消理由通知」という。)には、概ね次の取消理由が記載されている。 取消理由1.(明確性要件)本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 取消理由2.(実施可能要件)本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 取消理由3.(サポート要件)本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 ●取消理由1及び2について 請求項1の記載では「粘度(20℃)は、50?3000mPa・Sである」「濃縮液体調味料」を特定することができず、不明確である。 また、請求項1を引用する請求項2?11についても同様である。 さらに、本件明細書の発明の詳細な説明には、どのような測定条件で粘度を測定すればよいのか十分に特定されておらず、当業者が本件発明を実施するにあたって、過度の試行錯誤が必要になるものと認められるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。 ●取消理由3について 本件明細書記載の実施例26を2倍に希釈したもの(以下、「希釈例」という。)は、本件請求項1に規定する要件をすべて満たすが、希釈例を5倍に希釈したものは、実施例26を10倍に希釈したものと同じであるから、本件発明の作用効果を奏さないことになる。 してみれば、本件発明には、希釈例のように本件請求項1に規定する要件をすべて満たすにもかかわらず、本件発明の作用効果を生じないものが含まれることになるから、発明の詳細な説明に記載された発明を請求項1の記載まで拡張ないし一般化することはできない。 したがって、請求項1に係る発明はサポート要件を満たしておらず、請求項1を引用する請求項2ないし11に係る発明も同様にサポート要件を満たしていない。 2.証拠方法 (1)申立人提出の証拠方法 申立人が提出した証拠方法(甲第1?5号証)は、以下のとおりである。以下、各証拠を、その証拠番号に従い「甲1」などという。 甲1:特開昭49-93571号公報 甲2:特開2011-177152号公報 甲3:川上謙,「澱粉およびその食品への利用 II」,調理科学,1970年,Vol.3 No.1,p45-49 甲4:浅井一輝 外5名,「非ニュートン性が単一円筒型粘度計」(B型粘度計)の測定結果に及ぼす影響について」,流体工学会誌,2009年,Vol.46,No12,p19-26 甲5:大和谷和彦 外1名,「キサンタンガムの近況と利用技術」,月刊フードケミカル2002年8月号,株式会社食品化学新聞社,平成14年7月1日発行,Vol.18,No.8,p32-36 (2)特許権者提出の証拠方法 特許権者が提出した証拠方法(乙第1?3号証)は、以下のとおりである。以下、各証拠を、その証拠番号に従い「乙1」などという。 乙1:「B型粘度計 取扱説明書」,東機産業株式会社,2006年9月 乙2:「ドレッシングの日本農林規格」,農林水産省告示第1503号,平成20年10月16日 乙3:「ウスターソース類の日本農林規格」,農林水産省告示第1387号,平成27年5月28日 第5 当審の判断 1.取消理由1及び2について 請求項1の「粘度(20℃)は、50?2000mPa・sであり、」の記載の意味するところは、20℃で粘度を測定した場合に、粘度の値が50?2000mPa・sという値を採ることと解されるところ、当該値は液体濃縮調味料の物性値であり、当該物性値の範囲が請求項1の記載で特定されていることは明らかであるといえるから、請求項1の上記記載が不明確であるとはいえない。 また、当該物性値である粘度の測定にあたっては、発明の詳細な説明の段落【0020】に「尚、上記粘度は、通常、原料の組み合わせ及びそれらの配合量、上記増粘剤等により調整することができる。また、この粘度は、B型粘度計等の粘度測定装置により測定することができる。」の記載があることからすれば、当業者は例示されたB型粘度計を用いて粘度測定することを検討するものと認められる。そして、B型粘度計での粘度の測定にあたっては、乙1の「(6)ロータと回転数の組み合わせの選定」(8頁1?13行)に記載されているように、当業者は通常、ロータ番号の大きい方から小さい方へ、回転数は低速から高速の方へと変速して、指針が目盛板上でなるべくフルスケール近くなるような組合せを見つけることにより、ロータと回転数を選定するのであるから、ロータ及び回転数が特定されていないからといって、粘度の測定にあたって、過度の試行錯誤が必要ということはなく、本件明細書の発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されていないとすることはできない。 よって、本件特許請求の範囲の記載は明確であり、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。 申立人は、甲4を提示し、測定サンプル・測定条件が同一であっても使用する粘度計によって粘度は変わる旨主張している(特許異議申立書33頁3?12行参照。)が、本件明細書の段落【0020】記載に照らせば、本件発明ではB型粘度計の利用を予定しているものと認められるし、甲4は、粘度計により粘度の測定値が異なる場合に当該測定値をB型粘度計の値に換算できることを示唆している(甲4の25頁右欄下から7行?26頁右欄5行参照。)。 また、申立人は、甲5を提示し、回転数の変化が粘度に影響することを主張している(特許異議申立書33頁13行?34頁2行)が、上述のとおり、B型粘度計においてロータと回転数を当業者は選定するものであるから、回転数を特定しなければ粘度を特定できないとまではいえない。 よって、申立人の主張は採用できない。 2.取消理由3について 本件訂正により、請求項1に係る発明は、「粘度(20℃)は、50?2000mPa・s」(以下、「要件1」という。)であり、「脂質の含有料が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、2.2?15質量%」(以下、「要件2」という。)であるという構成要件を備えることとなった。 一方、取消理由通知で指摘した実験例26を2倍に希釈したもの(希釈例)は、脂質の含有量が1.35%(2.7%×1/2)となるので、上記要件2を満たしていない。 また、実験例26の希釈物の脂質の含有量が、上記要件2を満たすように希釈すると、希釈倍率は2.7/2.2となるところ、当該希釈倍率で実験例26のものを希釈すると、粘度は3312×2.7/2.2=2698.7mPa・sとなり、要件1を満たさない。 よって、本件訂正により、希釈例は請求項1に規定する要件を満たさないものとなったので、取消理由通知の取消理由3で指摘した点は解消された。 なお、申立人は取消理由3(サポート要件)について、令和元年7月18日提出の意見書(以下、「意見書」という。)において、「(1)脂質の含有量について」と「(2)希釈倍率について」の主張を行っている(意見書3頁18行?5頁13行)。 しかしながら、「(1)脂質の含有量について」は、訂正前の請求項9について主張できたものであり、「(2)希釈倍率について」も、訂正の請求内容に付随して生じる理由であるとは認められないので、これらの主張は採用しない。 第6 取消理由として採用しなかった異議申立理由について 1.新規性、進歩性について (1)甲1に記載された事項 甲1には、以下の事項が記載されている。 ア.「水分約15%以下の動物質エキスに食塩を加え混合した後に油脂を加え、セ氏約50度以下の油脂が溶融している状態において混合することを特徴とする調味料の製造方法。」(特許請求の範囲) イ.「本発明は主としてスープ類の素として使用される調味料の製造方法に関するものである。」(379頁左欄10?11行) ウ.「次に本発明の実施例を述べる。 但し、次表数値の単位はgr.である。 エキスはいずれも水分50%のものを用い、活性白土を濾材として濾過し、遠心分離機にて分離し更に活性炭にて吸着し再び濾過したものをセ氏65度、常圧にて水分35%に濃縮し、噴霧乾燥法にて水分約11%とした。 これに前記表のI,II,IIIのそれぞれの食塩および添加物を加え常温にて充分混合攪拌した後、油脂をセ氏45度に加温保持して混合攪拌しペースト状の調味料を得た。 これらを約5倍の温水に溶解したところ、Iは半透明、IIは混濁、IIIは透明なスープがそれぞれ得られた。」(381頁右上欄1行?左下欄12行) 上記記載からすると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「約5倍の温水に溶解して用いられるペースト状の調味料であって、鶏エキスと、コハク酸ソーダと、胡麻油と、糖類と、を含有しているペースト状の調味料」 (2)甲2に記載された事項 甲2には、以下の事項が記載されている。 (ア)「マヨネーズは、卵黄又は全卵を乳化材として食用油脂を乳化し、食塩、食酢、香辛料などを加えた粘ちょうなソースである。マヨネーズは、乳化物であることから白色の外観を呈し、酸味やコク味が調和した特有の風味を有する。」(段落【0002】) (イ)「本発明の液状調味料の粘度は、100?3000mPa・s、好ましくは100?2000mPa・s、より好ましくは100?1500mPa・sである。本発明においては、粘度が前記範囲であることにより、液状調味料を添加した味付き液状食品の粘度を低粘性に保つことができる。なお、本発明における前記味付き液状食品及び液状調味料の粘度は、BH形粘度計で、品温20℃、回転数:10rpmの条件で、粘度が750mPa・s未満のときは、ローターNo.1、粘度が750mPa・s以上1500mPa・s未満のときはローターNo.2、粘度が1500mPa・s以上3000mPa・s未満のときはローターNo.3、粘度が3000mPa・s以上のときはローターNo.4を使用し、測定開始後ローターが2回転した時の示度により算出した値である。また、液状食品に具材が含まれる場合は、当該液状食品を10メッシュの網目に通して具材を取り除いたものを測定する。」(段落【0014】) (ウ)「[製造例1]液状調味料 (1)乳酸発酵卵白の製造 液卵白50%、グラニュ糖4%、酵母エキス0.05%、50%乳酸0.15%及び清水45.8%からなる卵白水溶液を攪拌、調製した。得られた卵白水溶液を70?90℃で5分間加熱した後、乳酸菌スターター0.02%を添加し、30℃で24時間発酵を行った後、70?90℃で10分間加熱殺菌し、次いで高圧ホモゲナイザーを用いて10MPaの圧力で処理し、本発明で用いる乳酸発酵卵白(固形分含有量10%)を製した。 (2)液状調味料の製造 下記に示す配合割合で液状調味料を製した。つまり、食酢、発酵乳酸、生卵黄、ホスホリパーゼA処理卵黄、食塩、グルタミン酸ソーダ、乳酸発酵卵白、清水をミキサーに入れ、攪拌しながら植物油を徐々に添加して粗乳化し、更にコロイドミルに通して仕上げ乳化を施し、液状調味料を製した。なお、得られた液状調味料は、液状調味料に対し有機酸を3.2%、乳酸を1.8%、卵黄及び乳酸発酵卵白を固形分換算で合計6%、脂質を24%含有し、脂質100部に対する卵黄及び乳酸発酵卵白の合計含有量(固形分換算)は26部、卵黄及び乳酸発酵卵白の合計含有量100部(固形分換算)に対する有機酸の含有量は52部である。また、得られた液状調味料の粘度は1000mPa・sであった。 <液状調味料の配合割合> (油相) 植物油 20% (水相) 食酢(酸度10%) 14% 発酵乳酸(酸度50%) 3.6% 生卵黄 4% ホスホリパーゼA処理卵黄 8% 食塩 3% グルタミン酸ソーダ 0.3% 乳酸発酵卵白(固形分含有量10%)0.1% 清水 残余 ??????????????????????? 合計 100% 」(段落【0036】?【0038】) (3)甲3に記載された事項 甲3には、以下の事項が記載されている。 「調理の場合には塩味、酸味、甘味、苦味、旨味等のいわゆる化学的味覚と共に滑らかなる食感、「コク」を作る適当な粘稠性、あるいは適度の粘弾性、などを含む物理的味覚も大変重要である。例えば各種のスープ、ソースなどに澱粉および澱粉質食品が利用され適度の粘性を与えているのもこの例であり、また蒲鉾、ソーセージ等にも大いに使用され好ましい粘弾性(いわゆる足)を与えて物理的味覚を高揚していることはよく知られた事実である。」(48頁左欄2?10行) 2.対比・判断 本件特許の請求項1記載の発明(以下、「本件発明」という。)と甲1発明を対比すると、甲1発明の「ペースト状の調味料」は液体であるものと認められ、温水に溶解することは希釈することにあたるから、甲1発明の「約5倍の温水に溶解して用いられるペースト状の調味料」は、本件発明の「希釈して用いられる濃縮液体調味料」に相当する。 また、甲1発明の「コハク酸ソーダ」、「胡麻油」及び「糖類」は、その構成及び機能上、本願発明の「コハク酸塩」、「植物系油脂」及び「甘味料」に相当する。 してみれば、本件発明と甲1発明は、次の一致点及び相違点を有する。 【一致点】 希釈して用いられる濃縮液体調味料であって、 鶏エキスと、コハク酸塩と、植物系油脂と、甘味料と、を含有した濃縮液体調味料。 【相違点】 1.本件発明は、鶏エキスに含まれる窒素分及び前記コハク酸塩の質量比(窒素分:コハク酸塩)は1:(1.5?8)であり、鶏エキスに含まれる窒素分及び前記植物系油脂の質量比(窒素分:植物系油脂)は1:(5?50)であり、鶏エキスに含まれる窒素分及び前記甘味料(但し、甘味度での砂糖換算量)の質量比(窒素分:甘味料)は1:(8.7?40)であり、鶏エキスに含まれる窒素分が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、0.02?0.6質量%であるのに対し、甲1発明は、そのような数値限定がない点。 2.本件発明は、粘度(20℃)は、50?2000mPa・sであり、脂質の含有量が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、2.2?15質量%であるのに対し、甲1発明は、そのような数値限定がない点。 以下、上記相違点について検討する。 相違点1について 甲1には、甲1発明の鶏エキスの窒素分の含有量について記載や示唆するところはなく、鶏エキスの窒素分の含有量を具体的に特定することが技術常識ともいえないから、甲1発明における鶏エキスに含まれる窒素分が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合にどの程度であるか特定することはできず、結果として、鶏エキスに含まれる窒素分及びコハク酸塩の質量比、鶏エキスに含まれる窒素分及び植物系油脂の質量比及び鶏エキスに含まれる窒素分及び甘味料(但し、甘味度での砂糖換算量)の質量比を特定することもできない。 なお、申立人は、本件明細書の段落【0031】に、「各原料[鶏エキス(鶏がらだし、窒素分の含有割合;1.53質量%)」との記載があることを根拠に、甲1発明の表中のI及びIIの鶏エキスに含まれる窒素分を、それぞれ1.53g及び0.76gと認定した上で、「鶏エキスに含まれる窒素分」と「コハク酸塩」、「植物系油脂」及び「甘味料」との質量比を算出すると共に、濃縮液体調味料を100質量%とした場合の「鶏エキスに含まれる窒素分」の質量%を算出することにより、甲1発明は相違点1に係る構成を備える旨主張している(特許異議申立書14頁4行?16頁最終行)。 しかし、甲1発明の鶏エキスが、本願発明の鶏がらだしからなる鶏エキスと同じ窒素含有量を有しているという根拠はなく、鶏がらだしの窒素分の含有割合が1.53質量%程度であるという技術常識もないので、上記申立人の主張は採用できない。 また、申立人は、本願発明及び甲1発明は、鶏エキスについて、特段の特徴が記載されていないことを根拠に、両者の窒素分が同量である旨主張しているが、「鶏エキス」の用語には、原料として鶏がらだしの使用の有無や、製造方法等において広範なものが含まれるから、鶏エキスの特徴の明記がないということのみをもって、本件発明と甲1発明の鶏エキスの窒素分の含有量が同じであるとすることはできない。 また、申立人は、甲1に鶏エキスは水分50%のものを使用していることを根拠に、当該50%の水分を控除して鶏エキスの窒素分の含有量を算出している(特許異議申立書14頁13?17行)が、本件発明の段落【0031】の「各原料[鶏エキス(鶏がらだし、窒素分の含有割合;1.53質量%)」の記載からは、鶏エキスの窒素分の含有割合が1.53質量%であることが示されているにすぎず、鶏エキスの総量から水分が控除されているか否か特定されていない。 よって、甲1発明の鶏エキスの窒素分の含有量を申立人の主張するように特定することはできないから、相違点1に係る構成を甲1発明が備えているとすることはできないし、甲1発明には相違点1に係る構成を採用する動機付けがないから、甲1発明から本件発明の相違点1に係る構成を当業者が容易に発明をすることができたということもできない。 以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明は甲1発明、甲2及び甲3に記載された事項並びに技術常識に基づき、当業者が容易に発明できたものではない。 また、本件特許請求の範囲の請求項2?11は、いずれも直接又は間接的に請求項1を引用するものであるから、本件発明と同様の理由により、請求項2,4,7,8及び11に係る発明が甲1発明と同一であるとはいえず、また、請求項2?11に係る発明を甲1発明、甲2及び甲3に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。 2.実施可能要件について 申立人は、2倍に希釈した実験例26の液体調味料は、請求項1の構成要件をすべて充足しているものの、この調味料を5倍に希釈した場合は(未希釈の)実験例26の液体調味料を10倍に希釈した場合同様に、発明の効果を発揮し得ないといえるから、本件発明は、実施をすることができない、即ち、発明の効果を発揮し得ない形態を含んでおり、実施可能要件を満たしていない旨主張している(特許異議申立書35頁下から4行?40頁13行)。 しかし、請求項1に係る構成が、発明の効果を発揮し得ない構成を含んでいるからといって、発明の詳細な説明が実施可能要件を備えていないとはいえないので、申立人の主張は採用できない。 なお、請求項1に係る構成が、発明の効果を発揮し得ない構成を含んでいることによりサポート要件を欠くとの主張を採用できないことについては、上記第5の「2.取消理由3について」において検討したとおりである。 第7 むすび 以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号、同条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとは認められず、同法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定に違反してされたものとも認められないから、上記取消理由及び異議申立理由によって取り消すことはできない。 また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 希釈して用いられる濃縮液体調味料であって、 鶏エキスと、コハク酸塩と、植物系油脂と、甘味料と、を含有しており、 前記鶏エキスに含まれる窒素分及び前記コハク酸塩の質量比(窒素分:コハク酸塩)は1:(1.5?8)であり、 前記鶏エキスに含まれる窒素分及び前記植物系油脂の質量比(窒素分:植物系油脂)は1:(5?50)であり、 前記鶏エキスに含まれる窒素分及び前記甘味料(但し、甘味度での砂糖換算量)の質量比(窒素分:甘味料)は1:(8.7?40)であり、 前記鶏エキスに含まれる窒素分が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、0.02?0.6質量%であり、 粘度(20℃)は、50?2000mPa・sであり、 脂質の含有量が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、2.2?15質量%であることを特徴とする濃縮液体調味料。 【請求項2】 5?20倍に希釈して用いられる請求項1に記載の濃縮液体調味料。 【請求項3】 鍋つゆ・麺つゆ兼用である請求項1又は2に記載の濃縮液体調味料。 【請求項4】 前記植物系油脂は、ナタネ油、ごま油、米油、大豆油、コーン油、ヤシ油、パーム油、綿実油、ひまわり油、紅花油、亜麻仁油、シソ油、オリーブ油、落花生油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、米糠油、小麦胚芽油、香味食用油、これらの油脂の分別油、これらの油脂の硬化油、及びこれらの油脂のエステル交換油のうちの少なくとも1種である請求項1乃至3のうちのいずれか一項に記載の濃縮液体調味料。 【請求項5】 増粘剤を更に含有しており、前記増粘剤の含有量が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、0.1?0.8質量%である請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の濃縮液体調味料。 【請求項6】 前記増粘剤は、キサンタンガム、でんぷん、加工でんぷん、タマリンドガム、グアーガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、タラガム、カラギーナン、ペクチン、グルテン、カルボキシメチルセルロース及びゼラチンのうちの少なくとも1種である請求項5に記載の濃縮液体調味料。 【請求項7】 グルタミン酸ナトリウムを更に含有しており、前記グルタミン酸ナトリウムの含有量が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、2?13質量%である請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載の濃縮液体調味料。 【請求項8】 核酸系調味料を更に含有しており、前記核酸系調味料の含有量が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、0.1?1質量%である請求項1乃至7のうちのいずれか1項に記載の濃縮液体調味料。 【請求項9】 脂質の含有量が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、2.7?15質量%である請求項1乃至8のうちのいずれか1項に記載の濃縮液体調味料。 【請求項10】 乳化剤を更に含有しており、前記乳化剤の含有量が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、0.05?1質量%である請求項1乃至9のうちのいずれか1項に記載の濃縮液体調味料。 【請求項11】 食塩を更に含有しており、前記食塩の含有量が、濃縮液体調味料を100質量%とした場合に、10?20質量%である請求項1乃至10のうちのいずれか1項に記載の濃縮液体調味料。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-09-27 |
出願番号 | 特願2014-62650(P2014-62650) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L) P 1 651・ 113- YAA (A23L) P 1 651・ 537- YAA (A23L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 飯室 里美 |
特許庁審判長 |
山崎 勝司 |
特許庁審判官 |
井上 哲男 莊司 英史 |
登録日 | 2018-06-08 |
登録番号 | 特許第6348307号(P6348307) |
権利者 | 株式会社Mizkan Holdings 株式会社Mizkan |
発明の名称 | 濃縮液体調味料 |
代理人 | 小島 清路 |
代理人 | 平岩 康幸 |
代理人 | 鈴木 勝雅 |
代理人 | 小島 清路 |
代理人 | 小島 清路 |
代理人 | 小島 清路 |
代理人 | 平岩 康幸 |
代理人 | 鈴木 勝雅 |
代理人 | 鈴木 勝雅 |
代理人 | 鈴木 勝雅 |