ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B32B 審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B |
---|---|
管理番号 | 1356833 |
異議申立番号 | 異議2019-700036 |
総通号数 | 240 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-12-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-01-21 |
確定日 | 2019-10-03 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6366029号発明「離型フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6366029号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 特許第6366029号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許6366029号の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成29年8月17日(優先権主張平成28年8月25日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成30年7月13日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成30年8月1日)がされた。 本件特許異議申立て以降の経緯は、次のとおりである。 平成31年1月21日 :特許異議申立人岩崎勇(以下「申立人」という。)による請求項1?12に係る特許に対する特許異議の申立て 平成31年3月22日付け :取消理由通知 令和元年5月8日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 (なお、当審から特許法第120条の5第5項の規定に基づき、上記取消理由通知の写し、上記訂正の請求書及びこれに添付された訂正した特許請求の範囲の副本、並びに、上記取消理由通知に対応する特許権者の意見書副本を、期間を指定して申立人に送付し、意見書を提出する機会を与えたが、当該期間内に、申立人からはなんらの応答もなされなかった。) 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 上記令和元年5月8日提出の訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。 本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。 (1)訂正事項1 本件訂正前の請求項1の「離型フィルムの離型層を有する面とは反対面の表面粗さSRa(B)が10nm未満であり、」という記載を、「離型フィルムの離型層を有する面とは反対面は基材フィルム自体で構成されており、その表面粗さSRa(B)が10nmであり、」と訂正する。(請求項1を引用する請求項3?12も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 本件訂正前の請求項2の「離型フィルムの離型層を有する面とは反対面の表面粗さSRa(B)が10nm未満であり、」という記載を、「離型フィルムの離型層を有する面とは反対面は基材フィルム自体で構成されており、その表面粗さSRa(B)が10nmであり、」と訂正する。(請求項2を引用する請求項3?12も同様に訂正する。) 2.一群の請求項、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)一群の請求項 本件訂正前の請求項3?12は、請求項1あるいは2を引用するものであって、それぞれ訂正事項1による請求項1の訂正、あるいは、訂正事項2による請求項2の訂正のそれぞれの訂正に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1?12に対応する訂正後の請求項〔1-12〕は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (2)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「離型フィルムの離型層を有する面とは反対面」について、「基材フィルム自体で構成されており」との技術的事項を付加し、限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 さらに、本件特許明細書の段落【0092】には、「本発明の離型フィルムの反対面は基材フィルム自体で構成されていることがより好ましい」という記載があるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものである。 そして、訂正事項1が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかである。 (3)訂正事項2について 訂正事項2は、上記(2)に示した訂正事項1と同様に、訂正前の請求項2に記載された「離型フィルムの離型層を有する面とは反対面」について、「基材フィルム自体で構成されており」との技術的事項を付加し、限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項2は新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。 3.小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1-12〕について訂正を認める。 第3 本件訂正後の本件発明 上記第2に示したとおり、本件訂正請求は認められたから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?12に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 基材フィルムの一方の面に離型層を有する離型フィルムであって、離型層が非シリコーン系化合物を主成分として含有し、かつ離型層の表面粗さSRa(A)が10nm未満であり、離型フィルムの離型層を有する面とは反対面は基材フィルム自体で構成されており、その表面粗さSRa(B)が10nm未満であり、かつ離型層の表面自由エネルギーが20?35mJ/m^(2)の範囲であり、かつ離型フィルムのヘイズ値が1.5%未満である、離型フィルム。 【請求項2】 基材フィルムの一方の面に離型層を有する離型フィルムであって、離型層が非シリコーン系化合物を主成分として含有し、前記非シリコーン系化合物が長鎖アルキル化合物であり、かつ離型層の表面粗さSRa(A)が10nm未満であり、離型フィルムの離型層を有する面とは反対面は基材フィルム自体で構成されており、その表面粗さSRa(B)が10nm未満であり、かつ離型層の表面自由エネルギーが20?35mJ/m^(2)の範囲である、離型フィルム。 【請求項3】 基材フィルムの厚みが30μm未満である、請求項1または2に記載の離型フィルム。 【請求項4】 基材フィルムが3層積層構造である、請求項1?3のいずれかに記載の離型フィルム。 【請求項5】 基材フィルムが、A層/B層/A層からなる3層積層構造である、請求項4に記載の離型フィルム。 【請求項6】 基材フィルムが3層積層構造であり、両側の表面層の厚みがいずれも0.1?2.0μmである、請求項4または5に記載の離型フィルム。 【請求項7】 基材フィルムが3層積層構造であり、両側の表面層がいずれも、平均粒子径が0.2?0.7μmの粒子を含有する、請求項4?6のいずれかに記載の離型フィルム。 【請求項8】 離型層表面の剥離力が7N/50mm以下である、請求項1?7のいずれかに記載の離型フィルム。 【請求項9】 離型層の表面自由エネルギーが21?32mJ/m^(2)の範囲である、請求項1?8のいずれかに記載の離型フィルム。 【請求項10】 離型層が、少なくとも長鎖アルキル化合物およびメラミン化合物を含有する熱硬化性組成物の硬化層である、請求項1?9のいずれかに記載の離型フィルム。 【請求項11】 離型層が、少なくとも長鎖アルキル化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物の硬化層である、請求項1?9のいずれかに記載の離型フィルム。 【請求項12】 長鎖アルキル化合物が、分子中にエチレン性不飽和基と長鎖アルキル基を有する化合物である、請求項11に記載の離型フィルム。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1.取消理由の概要 本件発明1?5、9、10、12に対して、当審が平成31年3月22日付けで特許権者に通知した取消理由は、引用刊行物も含めて、次のとおりである。 なお、申立人が本件特許異議申立書に添付して提出した甲第1号証等を、以下「甲1」等という。 (1)新規性 本件発明1?5、9、10、12は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する発明であるので、それらに係る特許は、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として、取り消されるべきものである。 (2)進歩性 本件発明1?5、9、10、12は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないので、それらに係る特許は、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として、取り消されるべきものである。 <引用刊行物一覧> 甲1:国際公開第2006/035684号 甲2:国際公開第2007/094441号 2.引用刊行物 (1)甲1 本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲1には、次の記載がある。 「[書類名]明細書 [0023] 本発明の積層フィルムは、高いレベルの導電性が湿度変化によらず発現し、かつ、防汚性、離型性、耐水性、平滑性、加熱時のオリゴマー析出抑制性、透明性に優れ、更にフィルム内部の異物が少ないため検査時に最適であり、偏光板保護用積層フィルムや転写用積層フィルムとして非常に有用である。」 「[0031] ポリエステルフィルムの厚みは、特に限定されるものではなく、本発明の積層フィルムが使用される用途や種類に応じて適宜選択されるが、機械的強度、ハンドリング性などの点から、通常は好ましくは1?500μm、より好ましくは5?250μm、最も好ましくは9?50μmである。また、ポリエステルフィルム基材は、共押出による複合フィルムであってもよい。特に2層以上の複合フィルムとしたとき、例えば、スキン層に易滑性の微粒子を添加し、コア層は無粒子とするなど、易滑性と表面粗さを両立しやすい。更に、3層複合フィルムとしたとき、例えば、スキン層に易滑性の微粒子を添加し、コア層は無粒子あるいは回収原料を用いるなどした場合でも、易滑性と表面粗さを両立しやすいなどのメリットがある。一方、得られたフィルムを各種の方法で貼り合わせて用いることもできる。」 「[0051] 本発明の積層フィルムの積層膜に用いる炭素数が18?25のアルキル鎖を有するアクリル系樹脂(C)としては、例えば、炭素数18?25個のアルキル基を側鎖に持つアクリル系モノマーと、該アクリル系モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合アクリル系樹脂が挙げられる。」 「[0053] このような炭素数が18?25のアルキル鎖(以下、「長鎖アルキル基」と称することがある)を側鎖に持つアクリル系モノマーとしては、上記の要件を満たすものであれば特に限定されるものではない。例えば、本発明にはアクリル酸オクタデシル、アクリル酸ノナデシル、アクリル酸エイコシル、アクリル酸ヘンエイコシル、アクリル酸ドコシル、アクリル酸トリコシル、アクリル酸テトラコシル、アクリル酸ペンタコシル、メタクリル酸オクタデシル、メタクリル酸ノナデシル、メタクリル酸エイコシル、メタクリル酸ヘンエイコシル、メタクリル酸ドコシル、メタクリル酸トリコシル、メタクリル酸テトラコシル、メタクリル酸ペンタコシルなどの長鎖アルキル基含有アクリル系モノマーが用いられる。なお、炭素数が25を越えるものについては工業的に容易に入手することが困難であり、炭素数が25程度のものが上限である。 [0054] 本発明で用いる長鎖アルキル基含有アクリル系樹脂は、環境面の配慮から、水系の塗剤を用いることが好ましい。例えば、エマルション化するために、他の共重合可能なモノマーとしては、下記のアクリル系モノマーやビニル系モノマーを用いることができる。モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エトキシエチル、アクリル酸2-メトキシエチル、アクリル酸2-ブトキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリロニトニル、メタクリロニトニル、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、スチレン、イタコン酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、Nーメチロール(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルリン酸エステル、ビニルスルホン酸ソーダ、スチレンスルホン酸ソーダ、無水マレイン酸などを用いることができる。」 「[0064] また、本発明においては、複数の架橋剤の併用も好適に用いられ、例えば、エポキシ系架橋剤(B)とメラミン系架橋剤、あるいはエポキシ系架橋剤(B)として異なる種類のエポキシ系架橋剤の併用は、両者の特性が発現するので好ましい。このとき用いられる架橋剤としては、例えば、メラミン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、アミドエポキシ化合物、チタンキレートなどのチタネート系カップリング剤、オキサゾリン系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、メチロール化あるいはアルキロール化した尿素系、アクリルアミド系などを用いることができる。」 「[0068] また、本発明おいては、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に設けられる積層膜とは反対側に、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂から選ばれた少なくとも1種からなる層を設けてもよい。この場合、積層膜が設けられた側は、湿度依存性のない高いレベルの導電性、防汚性、平滑性、耐水性、オリゴマー析出抑制性を有し、かつ、反対側は接着性などを有する別の機能層とする事ができる。例えば、該層上に粘着剤層を設けたり、印刷層を設けたりする場合、接着性が向上するなど、有用である。」 「[0075] また、本発明では例えば、部材として積層状態で用いられる光学フィルムやその保護フィルムなどを本発明の転写用フィルムから剥がして使用する場合など、その剥離後の部材表面の平滑性や光沢性が非常に重要視されるため、積層フィルムの表面粗さについては、少なくとも片面の3次元中心線平均粗さ(SRa)が3?15nmであることが好ましい。更に本発明においては、転写物を設ける側のフィルム面の表面粗さが非常に重要であり、より好ましくは3?10nm、最も好ましくは3?6nmである。また、3次元十点平均粗さ(SRz)は、大きな突起や凹みなどを特徴づけるものであり、本値が大きいと転写物の表面が部分的に大きく荒れ、光沢感が失われるなどの特徴がある。本発明では、転写用として用いる場合SRzを500nm以下であることが好ましい。より好ましくは300nm以下である。上記した表面粗さ(SRaとSRz)とすることで、例えば、剥離後の部材表面の平滑性や光沢性、あるいは転写箔の光沢性などを極めて優れたものとすることができる。もちろん、本発明においては、本発明の積層フィルムの積層膜を設けた面を転写物を設ける面として利用してもよいし、該積層膜を設けたのとは反対面を転写物を設ける面として利用することもできる。」 「[0077] 本発明においては、積層フィルムのヘイズが5%以下であることが好ましい。さらに好ましくは4%以下であり、最も好ましくは0.9?3.5%である。5%よりも大きいと、透過光の散乱が大きく透明性が劣るため、欠点などの検査性に劣る傾向がある。一方、極端に透明性に優れる場合は、フィルム中の異物など偏光板保護用途では問題にならないレベルの欠点まで見えてしまい、逆効果となる傾向がある。」 「[0090] また、このようにして得られた本発明の転写用積層フィルムは、高いレベルの導電性、離型性、耐水性、光沢性に優れ、更に加熱時のオリゴマー析出抑制性も兼ね備える。このため、ホットスタンピングホイル法や、インモールド転写法や、真空プレス転写法などに用いられる転写箔の基材フィルムとして好適に用いることができる。さらに、IT・フラットパネルディスプレイ・携帯電話・光学用途などで、本発明の積層フィルム上に、例えば、ハードコート層と接着剤層を設けておき、その積層体を製品組立時に転写させて用いることもできる。また、本発明の積層フィルムの積層面上に直接、光学用部材となるフィルム状やシート状物を塗布などの方法で積層しておき、本発明にかかる積層膜の離型性を利用して必要に応じて剥離し、その平滑性をも利用し、光沢性に優れた光学用部材を剥離法や溶液キャスト法などで得ることも可能である。 [0091] 本発明における特性の測定方法および効果の評価方法は次のとおりである。」 「[0093] (2)表面粗さ 積層フィルムの積層膜表面の表面粗さを測定した。JIS-B-0601に従って、3次元中心線平均粗さ(SRa)および3次元十点平均粗さ(SRz)は、光触針式3次元粗さ計ET-30HK(小坂研究所株式会社製)を用いて、測定長0.5mm、測定本数80本、カットオフ0.25mm、送りピッチ5μm、触針荷重10mg、スピード100μm/秒で測定した。なお、3回測定を行い、その平均値を用いた。」 「[0098] (6)離型性(水滴接触角) 積層フィルムの積層膜表面の離型性を評価した。離型性は表面エネルギーが低いものが優れ、疎水性表面が優れる。本発明においては、水滴接触角を離型性のパラメーターとして用い、水滴接触角が大きいもの程、優れた離型性を示す。なお、本発明においては、95度以上あれば離型性良好であり、更に98度以上が離型性に優れ、100度以上は極めて優れた離型性を示すものと判断した。なお、測定は、23℃、相対湿度65%の条件下で、接触角計CA-D型(協和界面科学(株)製)にて行い、3回測定の平均値を用いた。」 「[0137] [表1] 」 「[0138] [表2] 」 「[0151] [表3] 」 「[0152] [表4] 」 「[0153] (実施例21) 高純度テレフタル酸100kgに対しエチレングリコール45kgのスラリーを、予めビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート約123kgが仕込まれ、温度250℃、圧力1.2×10^(5)Paに保持されたエステル化反応槽に4時間かけて順次供給した。供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を行い、このエステル化反応生成物を重縮合槽に移送した。引き続いて、エステル化反応生成物が移送された前記重縮合反応槽に、ジエチルホスホノ酢酸エチルを0.01重量部添加し、さらに酢酸マグネシウム4水塩を0.04重量部、さらに重合触媒として三酸化アンチモン(住友金属鉱山(株)製)を、得られるポリエステルに対してアンチモン原子換算で400ppmとなるように添加した。さらに添加剤として平均粒径0.4μmのシリカ粒子がポリエステルに対し0.015重量%になるように添加、更に平均粒径1.5μmのシリカ粒子がポリエステルに対して0.006重量%になるように添加した。その後、低重合体を30rpmで攪拌しながら、反応系を250℃から285℃まで60分かけて昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。なお最終圧力到達までの時間は60分とした。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージし常圧に戻し重縮合反応を停止し、20℃の冷水にストランド状に吐出、直ちにカッティングしてポリエステルのペレットを得た。なお、減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は3時間であった。 [0154] 得られたポリエステルペレットは、極限粘度0.63dl/g、カルボキシル末端基量40当量/トン、ガラス転移温度(Tg)78℃、環状三量体含有量1.1重量%であった。 [0155] このポリエステルペレットを水分率20ppmに真空乾燥した後、押し出し機に供給し285℃の温度で溶融し、8μmカットステンレス繊維焼結フィルター(FSS)でろ過した。その後、リップ間隙3.5mmのT字型口金からシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化させた。このようにして得られた未延伸フィルムを、92℃の温度に加熱して長手方向に3.3倍延伸し、一軸延伸フィルムとした。この一軸延伸フィルムに空気中でコロナ放電処理を施し、その濡れ張力を55mN/mとし、その処理面に下記の積層膜形成塗液を塗布した。積層膜形成塗液が塗布された一軸延伸フィルムを、クリップで把持しながら予熱ゾーンに導き、95℃の温度で乾燥後、引き続き連続的に100℃の温度の加熱ゾーンで幅方向に3.5倍延伸し、更に、225℃の温度の加熱ゾーンで熱処理を施し、結晶配向の完了した積層PETフィルムを得た。得られたPETフィルム厚みは38μmであり、積層膜の厚み0.025μmであった。結果を表5および表6に示す。導電性、離型性、オリゴマーの析出抑制性、光沢性に優れたものであった。 「積層膜形成塗液」 ・塗液A1: ポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸からなる複合体の水性塗液(Bayer社/H.C.Starck社(ドイツ国)製“Baytron”P)。 ・塗液B3: エポキシ架橋剤として、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル系エポキシ架橋剤(ナガセケムテックス(株)製“デナコール”EX-512(分子量約630、エポキシ当量168、水溶率100%))を水に溶解させた水性塗液。 ・塗液C2: 下記の共重合組成からなる長鎖アルキル基含有アクリル樹脂を、イソプロピルアルコール5重量%とn-ブチルセロソルブ5重量%を含む水に溶解させた水性塗液。 <共重合成分> ステアリルメタクリレート 65重量% (長鎖アルキル基炭素数18) メタクリル酸 25重量% 2-ヒドロキシエチルメタクリレート 10重量% 上記した塗液A1と塗液B3を固形分重量比で、塗液A1/塗液B3=25/75で混合したものを、5日間、常温で熟成させた(熟成塗液5と略称する)。その後、該熟成塗液5と塗液C2を固形分重量比で、熟成塗液5/塗液C2=100/20で混合したものを、積層膜形成塗液とした。なお、このとき、各塗液の固形分重量比は、塗液A1/塗液B3/塗液C2=25/75/20であった。 [0156] (実施例22) 実施例21で用いたPETペレットとして、平均粒径1.5μmのシリカ粒子を0.06重量%を含有するPETペレット(極限粘度0.63dl/g)を用い、下記の積層膜形成塗液を用い、かつ、PETフィルムの厚みを16μmとしたこと以外は、実施例21と同様にして積層PETフィルムを得た。 「積層膜形成塗液」 ・塗液A1、塗液B3は実施例21と同じものを用いた。 ・塗液C1: 下記の共重合組成からなる長鎖アルキル基含有アクリル樹脂を、イソプロピルアルコール10重量%とn-ブチルセロソルブ5重量%を含む水に溶解させた水性塗液。 <共重合成分> ベヘニルメタクリレート 65重量% (長鎖アルキル鎖炭素数22) メタクリル酸 25重量% 2-ヒドロキシエチルメタクリレート 10重量% 上記した塗液A1と塗液B3を固形分重量比で、塗液A1/塗液B3=40/60で混合したものを、5日間、常温で熟成させた(熟成塗液6と略称する)。その後、該熟成塗液6と塗液C1を固形分重量比で、熟成塗液6/塗液C1=100/15で混合したものを、積層膜形成塗液とした。結果を表5および表6に示す。導電性、離型性、オリゴマーの析出抑制性、光沢性に優れたものであった。」 「[0166] (実施例28) 実施例26で用いた積層膜形成塗液に代え、下記の積層膜形成塗液を用いた以外は、実施例26と同様にして積層PETフィルムを得た。 「積層膜形成塗液」 ・塗液A1は実施例21と同じものを用いた。 ・塗液B1: エポキシ架橋剤として、ポリヒドロキシアルカンポリグリシジルエーテル系エポキシ架橋剤(大日本インキ化学工業(株)製CR-5L(エポキシ当量180、水溶率100%))を水に溶解させた水性塗液。 ・塗液C1は実施例22と同じものを用いた。」 「[0168] (実施例29) 実施例28において、積層膜を設けたのとのは反対面に、下記のポリエステル樹脂からなる塗布層を、該積層膜を設けると同時にインラインコート法で設けた以外は、実施例28と同様にして、積層PETフィルムを得た。なお、このとき、該塗布層を設けた側の表面粗さは、SRa=5nm、SRz=70nmであった。結果を表5および表6に示す。導電性、離型性、オリゴマーの析出抑制性、光沢性に優れたものであった。更に、反対面に設けたポリエスエル樹脂からなる塗布層上に酸化重合型印刷インキ層を設けた場合、接着性に優れるものであった。 「塗布層形成塗液」 ・ポリエステル樹脂水分散体: 下記の共重合成分からなるポリエステル樹脂を粒子状に水に分散させた水性塗液。 <共重合成分> テレフタル酸 70モル% イソフタル酸 23モル% 5-ナトリウムスルホイソフタル酸 7モル% エチレングリコール 70モル% ジエチレングリコール 30モル% (実施例30) 実施例21で用いたPETペレットとして、平均粒径1.5μmのシリカ粒子を0.016重量%を含有するPETペレット(極限粘度0.63dl/g)を用い、下記の積層膜形成塗液を用いたこと以外は、実施例21と同様にして積層PETフィルムを得た。 「積層膜形成塗液」 ・塗液A1および塗液B3は実施例21と同じものを用いた。 ・塗液C1は実施例22と同じものを用いた。 「[0177] [表5] 」 「[0178] [表6] 」 「[0180] 更に、本発明の積層フィルムは、高いレベルの導電性、離型性、耐水性に優れ、更に加熱時のオリゴマー析出抑制性も兼ね備えている。そのため、光学部材関係の表面保護に用いる途などに用いる工程フィルムとして優れた機能を発揮することができ、有用である。例えば、液晶テレビ、カーナビゲーション用ディスプレイ、携帯電話の液晶ディスプレイ、コンピューターディスプレイなどに用いられる偏光板などの加工、実装時における表面保護用に使用される偏光板保護用積層フィルムとして有用である。 [0181] また、本発明の積層フィルムは、高いレベルの導電性、離型性、耐水性、光沢性に優れ、更に加熱時のオリゴマー析出抑制性も兼ね備えている。そのため、光学部材関係の転写用途などに用いる工程フィルムとして優れた機能を発揮することができ、有用である。例えば、成形部品に直接熱転写するホットスタンピングホイル法や、射出成形と同時に転写印刷するインモールド転写法や、転写用フィルムと成形部品間の空気を減圧して後、加圧加熱することで転写印刷する真空プレス転写法などに用いられる転写箔用積層フィルム、光学用部材を転写して用いる場合に、剥離法や溶液キャスト法などで得るための離型機能を有する転写用積層フィルムとして有用である。」 「[書類名]請求の範囲 [1] 熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に、組成物(A)、エポキシ系架橋剤(B)、炭素数が18?25のアルキル鎖を有するアクリル系樹脂(C)を含有してなる積層膜が設けられた積層フィルムであって、 組成物(A)が、少なくともポリチオフェンとポリ陰イオンを含有する組成物および/またはポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンを含有する組成物であり、 かつ、積層膜中に組成物(A)と架橋剤(B)および/またはその反応生成物の合計100重量部に対して、炭素数が18?25のアルキル鎖を有するアクリル系樹脂(C)を15?100重量部含み、 かつ、該積層フィルムの少なくとも片面の3次元中心線平均粗さ(SRa)が3?50nmであり、 かつ、該積層フィルム中に含まれる平均粒径100μm以上の内部異物が10個/m^(2)未満であることを特徴とする積層フィルム。 [4] 積層フィルムのヘイズが5%以下であることを特徴とする請求の範囲1に記載の積層フィルム。 [7] 3次元中心線平均粗さ(SRa)が3?15nmであることを特徴とする請求の範囲1記載の積層フィルム。 [17] 転写用フィルムであることを特徴とする請求の範囲1記載の積層フィルム。 [18] 3次元中心線平均粗さ(SRa)が3?10nmであることを特徴とする請求の範囲17記載の積層フィルム。 [19] 転写箔用に用いられることを特徴とする請求の範囲17に記載の積層フィルム。 [20] 積層膜が設けられた面と反対面の3次元中心線平均粗さ(SRa)が3?15nmであることを特徴とする請求の範囲19に記載の積層フィルム。」 したがって、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 「熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に、組成物(A)、エポキシ系架橋剤(B)、炭素数が18?25のアルキル鎖を有するアクリル系樹脂(C)を含有してなる積層膜が設けられた積層フィルムであって、 組成物(A)が、少なくともポリチオフェンとポリ陰イオンを含有する組成物および/またはポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンを含有する組成物であり、かつ、積層膜中に組成物(A)と架橋剤(B)および/またはその反応生成物の合計100重量部に対して、炭素数が18?25のアルキル鎖を有するアクリル系樹脂(C)を15?100重量部含み、かつ、積層膜が設けられた面(積層膜側)の3次元中心線平均粗さ(SRa)が、6nmであり、かつ積層膜を有する面とは反対面に塗布層を設けた積層フィルムであって、該塗布層側の3次元中心線平均粗さ(SRa)が5nmであり、 積層膜表面の水滴接触角が95°以上であり、 積層フィルムのヘイズが0.5%である、 積層フィルム。」 (2)甲2 甲2の、「明細書」の[0006]、[0010]および[0012]、並びに、「請求の範囲」の[1]、[2]の記載がある。そして、甲2に記載された表面自由エネルギーの単位は「mN/m」であるが、それは本件特許発明1の「mJ/m^(2)」と同義であることを踏まえると、甲2には、以下の甲2事項が記載されている。 「ポリエステルフィルムの少なくとも片面にコーティング層が積層されてなる容器成形用途等に用いる成形用二軸配向ポリエステルフィルムにおいては、コーティング層の表面自由エネルギーは、離型性の点から、15?35mJ/m^(2)であることが必要であり、より好ましい範囲は17?33mJ/m^(2)であり、20?30mJ/m^(2)であれば最も好ましい。 また、コーティング層の水との接触角は、離型性の点で、90?120°であることが好ましく、より好ましい範囲は95?120°であり、97?120°であれば最も好ましい。」 第5 新規性の取消理由について 1.本件発明2について (1)対比・検討 本件発明2と甲1発明とを対比すると、次の点で相違する。 <相違点> 本件発明2の「離型フィルムの離型層を有する面とは反対面」は、「基材フィルム自体で構成されており、」、かつ「離型層の表面自由エネルギーが20?35mJ/m^(2)の範囲」であるのに対し、甲1発明の「積層フィルムの積層膜を有する面とは反対面」は、「塗布層」が構成されており、「積層膜」の表面の「水滴接触角が95°以上」であるものの、「表面自由エネルギー」の値については、明らかではない点。 (2)相違点についての検討 上記<相違点>は、「離型フィルムの離型層を有する面とは反対面」について、本件発明2は「基材フィルム自体」で構成されているのに対し、甲1発明は、「積層フィルム」に対して「塗布」された「層」であるから、実質的な相違点である。 そうすると、本件発明2は、甲1発明ではないから、本件発明2は、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。 2.本件発明1,3?5、9、10、12について (1)本件発明1について 上記1.(1)に示した<相違点>は、本件発明1と甲1発明との相違点でもある。 そうすると、<相違点>は実質的な相違点であったから、本件発明1も甲1発明ではない。よって、本件発明2は特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。 (2)本件発明3?5、9、10、12について 本件発明3?5、9、10、12は、直接あるいは間接に本件発明1及び2を引用する発明である。本件発明1は、上記1.(2)に示したとおり、甲1発明ではない。本件発明2は、上記2.(2)に示したとおり、甲1発明ではない。そうすると、本件発明1あるいは2をさらに限定した発明である、本件発明3?5、9、10、12も、甲1発明ではないから、本件発明3?5、9、10、12は、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。 3.小括 以上のとおりであるから本件発明1?5、9、10、12は、甲1発明ではないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するとはいえない。 よって、本件発明1?5、9、10、12に係る特許は、特許法第113条第2号に該当することを理由として、取り消すことはできない。 第6 進歩性の取消理由について 1.本件発明1について (1)対比 本件発明2と甲1発明とを対比すると、上記第5の1.(1)に示した<相違点>において、相違する。 (2)相違点についての検討 甲1発明の「積層フィルムの積層膜を有する面とは反対面」には、「積層膜」が設けられているから、当該反対面を「熱可塑性樹脂フィルム」自体で構成することの動機付けが、甲1発明に存在するとはいえない。 また、甲1発明において、当該「反対面」を「熱可塑性樹脂フィルム」自体で構成することは、甲1に記載もないし、示唆する記載もない。 また、本件特許明細書の段落【0149】?【0152】に記載されたように、表面事由エネルギーは、三種類の液体の接触角から算出されるのであるから、「積層膜」の「表面自由エネルギー」の値を「20?35mJ/m^(2)の範囲」とすることは、一種類の液体である水との接触角しか特定していない甲1には、記載もされていないし示唆しているともいえない。 なお、甲2には表面自由エネルギーを20?30mJ/m^(2) とした成形フィルムが開示されているが、甲1発明とは用途が異なるから、その表面自由エネルギーとすることに動機付けがあるとはいえない。 本件発明1は、上記<相違点>に係る本件発明1の構成を備えることで、「離型層の表面自由エネルギー」の値を「20?35mJ/m^(2)の範囲」とすることにより「離型フィルムの離型層上に積層される被転写膜の良好な塗工性を確保」し、「剥離力を小さく」しつつも、剥離力小さいことで生じがちな「塗布膜の成分が離型層あるいは被転写膜に移行する」ことを、「反対面」を「基材フィルム自体で構成」することで防止できる、との格別な作用効果を生じる(本件特許明細書【0077】、【0092】、【0093】)。 そうすると、甲1発明を上記<相違点>に係る本件発明2の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件発明2は、甲1発明及び甲2事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 2.本件発明1について (1)対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、上記第5の1.(1)に示した<相違点>において、少なくとも相違する。 (2)相違点についての検討 上記1.(2)に示したのと同様に、甲1発明において上記<相違点>に係る本件発明2の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明及び甲2事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 3.本件発明3?5、9、10、12 本件発明3?5、9、10、12は、それぞれ本件発明1及び2を直接あるいは間接に引用する発明である。そうすると、上記1.(3)及び2.(3)においてそれぞれ示したように、本件発明1及び2は、甲1発明及び甲2事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえないから、本件発明1あるいは2に特定された事項を全て包含しさらに減縮した本件発明3?12も、甲1発明及び甲2事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、本件発明1?5、9、10、12は、甲1発明及び甲2事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 4.小括 以上のとおりであるから、本件発明1?5、9、10、12は、いずれも甲1発明及び甲2事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、それらの特許は、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として取り消すべきものであるとはいえない。 第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 申立人は、次の甲3及び甲4を提出して、申立書において、本件発明1?4及び6?12は、甲3発明及び甲4事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、との取消理由を主張している。 甲3:特開2003-300283号公報 甲4:特開2016-60158号公報 しかし、甲3には、「長鎖アルキル基含有ポリマーからなる離型層で構成された表面(A面)の中心面平均粗さ(SRa(A))が20nm以下、常態剥離力が150mN/cm以下であり、もう一方のフィルム表面(B面)の中心面平均粗さSRa(B)が10?50nmであることを特徴とする離型フィルム。」(【請求項1】)及び「・・・本発明の離型フィルムは、離型層の表面(A面)の中心面平均粗さSRa(A)が20nm以下、好ましくは10nm以下である。SRa(A)が20nmを超えると、グリーンシート成形時に、ハジキ、抜けを生じるなどスラリー塗工性が不十分となるため好ましくない。本発明の離型フィルムは、A面の反対面(B面)の中心面平均粗さSRa(B)が10?50nm、好ましくは15?30nmである。SRa(B)が10nmに満たない場合、ブロッキングの発生や搬送性悪化等の問題を生じる場合があるので好ましくない。SRa(B)が50nmを超えると、A面へのC面表面突起の転写、いわゆる裏写りが生じ、SRa(A)を10nm以上としてしまうため好ましくない。」(【0007】)という記載がある。 そうすると、甲3発明において「離型フィルムの離型層を有する面とは反対面の表面粗さ」を本件発明1及び2に特定されたように「10nm未満」とすることは、「SRa(B)が10nmに満たない場合、ブロッキングの発生や搬送性悪化等の問題を生じる場合があるので好ましくない。」から、甲3発明において、そのようにすることの阻害事由が存在するといえる。 申立人は、「甲4発明のセラミックシート製造用離型フィルムにおいて、離型フィルムの離型塗布層を有する面(表面層A)とは反対面になる平滑化塗布層の領域葉面(表面層B)の平均粗さ(Sa)は、5nm以上25nm以下、より好ましくは7nm以上23nm以下である(甲第4号証【請求項1】【0048】)」(申立書32ページ18?21行)「甲第4号証の実施例10には、離型層の表面粗さ(Sa)が2nmであり、かつ平滑化塗布層の表面粗さ(Sa)が8nmであり、基材として二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた甲4発明の超薄層セラミックシート製造用離型フィルムを製造したことが記載されている。」(申立書32ページ22?25行)、そして、「甲3発明の離型フィルムにおいて、離型フィルムの離型層を有する面とは反対面の表面粗さSRa(B)として、要件(D)の”10nm”を選択することは、甲第4号証を参酌すれば当業者には容易である。」(申立書32ページ9?11行)と主張している。 しかし、甲4において、上記「反対面」の表面粗さを10nm未満とする旨の記載があったとしても、上記したとおり、甲3発明には、「反対面」の表面粗さを10nmに満たないものとすることに阻害事由が存在するから、本件発明1及び2は、甲3発明に甲4事項を適用して当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 よって、当該取消理由を採用することはできない。 第8 まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1?12に係る特許は、平成31年3月22日付け取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては、本件発明1?12に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 基材フィルムの一方の面に離型層を有する離型フィルムであって、離型層が非シリコーン系化合物を主成分として含有し、かつ離型層の表面粗さSRa(A)が10nm未満であり、離型フィルムの離型層を有する面とは反対面は基材フィルム自体で構成されており、その表面粗さSRa(B)が10nm未満であり、かつ離型層の表面自由エネルギーが20?35mJ/m^(2)の範囲であり、かつ離型フィルムのヘイズ値が1.5%未満である、離型フィルム。 【請求項2】 基材フィルムの一方の面に離型層を有する離型フィルムであって、離型層が非シリコーン系化合物を主成分として含有し、前記非シリコーン系化合物が長鎖アルキル化合物であり、かつ離型層の表面粗さSRa(A)が10nm未満であり、離型フィルムの離型層を有する面とは反対面は基材フィルム自体で構成されており、その表面粗さSRa(B)が10nm未満であり、かつ離型層の表面自由エネルギーが20?35mJ/m^(2)の範囲である、離型フィルム。 【請求項3】 基材フィルムの厚みが30μm未満である、請求項1または2に記載の離型フィルム。 【請求項4】 基材フィルムが3層積層構造である、請求項1?3のいずれかに記載の離型フィルム。 【請求項5】 基材フィルムが、A層/B層/A層からなる3層積層構造である、請求項4に記載の離型フィルム。 【請求項6】 基材フィルムが3層積層構造であり、両側の表面層の厚みがいずれも0.1?2.0μmである、請求項4または5に記載の離型フィルム。 【請求項7】 基材フィルムが3層積層構造であり、両側の表面層がいずれも、平均粒子径が0.2?0.7μmの粒子を含有する、請求項4?6のいずれかに記載の離型フィルム。 【請求項8】 離型層表面の剥離力が7N/50mm以下である、請求項1?7のいずれかに記載の離型フィルム。 【請求項9】 離型層の表面自由エネルギーが21?32mJ/m^(2)の範囲である、請求項1?8のいずれかに記載の離型フィルム。 【請求項10】 離型層が、少なくとも長鎖アルキル化合物およびメラミン化合物を含有する熱硬化性組成物の硬化層である、請求項1?9のいずれかに記載の離型フィルム。 【請求項11】 離型層が、少なくとも長鎖アルキル化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物の硬化層である、請求項1?9のいずれかに記載の離型フィルム。 【請求項12】 長鎖アルキル化合物が、分子中にエチレン性不飽和基と長鎖アルキル基を有する化合物である、請求項11に記載の離型フィルム。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-09-24 |
出願番号 | 特願2017-544972(P2017-544972) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 藤田 雅也 |
特許庁審判長 |
渡邊 豊英 |
特許庁審判官 |
門前 浩一 久保 克彦 |
登録日 | 2018-07-13 |
登録番号 | 特許第6366029号(P6366029) |
権利者 | 東レフィルム加工株式会社 |
発明の名称 | 離型フィルム |
代理人 | 一條 力 |
代理人 | 一條 力 |