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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C07C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07C
審判 全部申し立て 発明同一  C07C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07C
管理番号 1356834
異議申立番号 異議2018-701021  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-18 
確定日 2019-10-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6367410号発明「フッ素化オレフィンを製造するための統合プロセス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6367410号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕、〔9?13〕について訂正することを認める。 特許第6367410号の請求項7?8、14?17に係る特許を維持する。 特許第6337410号の請求項1?6、9?13に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6337410号の請求項1?17に係る特許についての出願は、2011年10月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年10月12日 2011年9月9日 いずれも米国(US))を国際出願日とする特願2013-533893号の一部を、平成28年7月1日に新たな特許出願とした特願2016-131547号の一部を、平成29年3月17日に新たな特許出願としたものであって、平成30年7月13日にその特許権の設定登録がされ、同年8月1日にその特許公報が発行され、その後、その特許に対し、平成30年12月18日にフランク シュタインバッハ(以下「特許異議申立人」という。)により請求項1?17(全請求項)に対して特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯の概要は次のとおりである。

平成31年 3月28日付け 取消理由通知
令和 1年 5月27日 訂正請求書・意見書の提出(特許権者)
同年 6月10日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 7月24日 意見書の提出(特許異議申立人)

第2 訂正の適否
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和1年5月27日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6、9?13について訂正(以下「本件訂正」という。)することを求めた。

1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項11を削除する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項12を削除する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項13を削除する。

2 本件訂正の適否
(1)一群の請求項について
本件訂正は、請求項1?6及び請求項9?13についてのものであるところ、本件訂正前の請求項2?6はいずれも直接的、間接的に請求項1を引用するものであり、また、本件訂正前の請求項10?13はいずれも請求項9を引用するものであるから、請求項1?6及び請求項9?13は、それぞれ、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。そして、本件訂正の請求は、請求項1?6及び請求項9?13についてされているから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(2)訂正事項1?11について
ア 訂正の目的について
訂正事項1?11は、いずれも請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加、特許請求の範囲の実質上の拡張ないし変更の有無
訂正事項1?11は、いずれも請求項を削除するものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張ないし変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び6項の規定に適合する。
したがって、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕、〔9?13〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項〔1?6〕、〔9?13〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項7?8、14?17に係る発明は、令和1年5月27日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項7?8、14?17に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件発明7」などと、また、これらを合わせて「本件発明」ということがある。)である。

「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(a)ヘキサフルオロプロピレンを含む出発材料流を、還元剤と接触させることによって水素化して、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを含む中間体流を生成させ;
(b)1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを、KOHを含む脱ハロゲン化水素化剤の存在下で脱フッ化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを含む生成物流を生成させ:
(c)生成物流から、水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を含む第2の生成物流を引き抜き;
(d)前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を回収し;そして
(e)場合によっては、精製した脱ハロゲン化水素化剤を濃縮して、脱ハロゲン化水素化反応に再循環して戻す;
ことを含む、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法であって、
工程(d)が、前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(b)に再循環することを含む、方法。
【請求項8】
第2の生成物流が、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)及び/又は1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)からなる群から選択される溶解した有機化合物を更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
(削除)
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
(a)1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)又は1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)を、脱ハロゲン化水素化剤であるKOHの存在下で脱ハロゲン化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFP-1225ye)を生成させ;
(b)水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物並びに溶解した有機化合物を含む反応流を排出し;
(c)前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を回収し;
(d)場合によっては前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物に含まれ工程(c)で回収されたKFをKOHに転化させる;
ことを含む、フルオロオレフィンの製造方法であって、工程(c)が、前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(a)に再循環することを含む、方法。
【請求項15】
工程(d)を行った後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物中のKOHを濃縮して、濃縮後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(a)の脱ハロゲン化水素化反応に再循環して戻すことを更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程(d)が存在しない、請求項14?15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
工程(d)が存在する、請求項14?15のいずれかに記載の方法。」

第4 当審が平成31年3月28日付けで通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要
当審が平成31年3月28日付けで通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は次のとおりである。

1 当審が平成31年3月28日付けで通知した取消理由
[理由1]本件の請求項1?6、9?13に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第2号に適合しない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

2 特許異議申立人が申し立てた取消理由
[理由ア-1]本件特許の請求項1?17に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第2?甲第4号証に記載される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、上記請求項に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
[理由ア-2]本件特許の請求項1?17に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第2号証に記載された発明並びに甲第1、甲第3及び甲第4号証に記載される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、上記請求項に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
[理由ア-3]本件特許の請求項1?17に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第4号証に記載された発明及び甲第1?甲第3号証に記載される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、上記請求項に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
[理由イ-1]本件特許の請求項14?17に係る発明は、その出願の日前の外国語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた甲第7号証に係る外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下「甲7明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件出願の発明者がその出願前の外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件出願の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
よって、上記請求項に係る特許は、同法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
[理由イ-2]本件特許の請求項7?11、13、14、16、17に係る発明は、その出願の日前の外国語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた甲第8号証に係る外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下「甲8明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件出願の発明者がその出願前の外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件出願の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
よって、上記請求項に係る特許は、同法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
[理由ウ]本件発明1?17について、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合しない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
[理由エ]本件発明1?17について、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
[理由オ]本件発明1?17について、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合しない。
よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

そして、甲第1?甲第8号証として、以下の刊行物が挙げられている。
甲第1号証:国際公開第2010/029240号
甲第2号証:仏国特許出願公開第2940968号明細書
甲第3号証:特開昭59-70626号公報
甲第4号証:特表2010-513437号公報
甲第5号証:米国特許第4414185号明細書
甲第6号証:J.W.MULLIN著,「CRYSTALLIZATION THIRD EDITION」,Butterworth-Heinemann Ltd,1993年,423?425頁
甲第7号証:国際公開第2011/010023号
甲第8号証:国際公開第2011/010024号
(以下「甲1」などということがある。)

第5 当審が平成31年3月28日付けで通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた取消理由に対する当審の判断

1 当審が平成31年3月28日付けで通知した取消理由について
当審が通知した取消理由通知の理由1は、請求項1?6、9?13に係る発明が明確ではないことを根拠とするものであるところ、本件訂正により、理由1の対象の請求項である請求項1?6、9?13は削除された。
したがって、理由1によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。

2 特許異議申立人が申し立てた取消理由について
(1)削除された請求項1?6、9?13に係る発明について
上記第2で述べたとおり、本件訂正が認められたことにより、請求項1?6、9?13に係る発明は削除された。
そして、特許異議申立人が申し立てた取消理由のうち、請求項1?6、9?13に係る発明に対するものは、対象とする請求項が存在しないものとなった。
したがって、請求項1?6、9?13に係る発明に対する特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
以下に検討する「理由ア-1」?「理由オ」では、本件発明7、8、14?17の発明について検討する。

(2)理由ア-1?ア-3について
ア 甲各号証の記載事項
甲1?甲6には、以下の事項が記載されている。

甲1(訳文で示す。):
1a)「文献米国特許第US-P-5396000号明細書には1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)の触媒デヒドロフルオロ化によって1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン-1(HFO-1225ye)を作り、その水素化によって所望化合物を製造する1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンの製造方法が記載されている。HFC-236eaの脱ハロゲン化水素でHFO-に1225yeにする反応は気相で行なわれる。一つの実施例では反応生成物が反応装置へ直接送られ、化合物HF0-1225yeの水素化によってHFC-245ebが作られる。この文献にはヘキサフルオロプロピレン(HFP)の水素化によっても化合物HFC-236eaが得られることが記載されている。」(2頁31行?3頁5行)

1b)「本発明は・・・2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンの製造方法を提供する・・・
(i)ヘキサフルオロプロピレンを水素化して1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンにし;
(ii)上記段階で得られた1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを110?180℃の温度で水と水酸化カリウムとの混合物(混合物中の水酸化カリウムの濃度は58?86重量%)を用いてデヒドロフルオロ化して1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン-1にし;
(iii)上記段階で得られた1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン-1を水素化して1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンにし、
(iv)上記段階で得られた1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンを110?180℃の温度で水と水酸化カリウムとの混合物(混合物中の水酸化カリウム濃度は58?86%)を使用してデヒドロフルオロ化して2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンにする。
・・・
- 水素化段階(i)および/または(iii)は多段反応器または直列な少なくとも二つの反応装置で実行し、必要に応じて分離段階を存在させる。
・・・
反応段階はバッチ、半連続的または連続的に実行できるが、本発明方法は連続的に実行するのが好ましい。本発明方法では化合物HF0-1234yfを経済的なプロセスで得ることができ、出発原料のHFPは商業的にローコストで容易に入手できる。」(4頁6行?6頁11行)

1c)「噴射する水素の量は広範囲に変えることができる。」(7頁21?22行)

1d)「必要に応じてHFC-245ebを分離したHF0-1234yfから成るデヒドロフルオロ化段階(iv)からの流れは例えば蒸留による精製段階へ送る。」(9頁16?19行)

1e)「水素化段階(i)および(iii)は同じ反応装置で好ましくは同じ触媒を用いて実行することができる。
共-水素化は第1の反応装置で行う。第1の反応装置の出口流はHFC-236eaとHFC-245ebとを含む。この出口流を分離し、HFC-245ebを第2のデヒドロフルオロ化反応装置へ送り、HFC-236eaは第1のデヒドロフルオロ化反応装置へ送る。第1のデヒドロフルオロ化反応装置からの出口流は主としてHFO-1225yeから成り、場合によっては未反応のHFC-236eaを含む。第1のデヒドロフルオロ化反応装置からの出口流は水素化反応装置へ送り、このHF0-1225yeから化合物HFC-245ebを作る。分離したHFC-236eaは必要に応じてデヒドロフルオロ化反応装置の最上部へ再循環できる。」(9頁20?37行)

1f)「水素化段階(i)および/または(iii)からの流れは次のデヒドロフルオロ化段階へ直接送るか、デヒドロフルオロ化段階へ送る前に分離段階へ送って未反応物(水素、HFPまたはHFO-1225ye)を分離する。分離後の未反応物はリサイクルできる。」(7頁28?34行)

1g)「デヒドロフルオロ化反応ではHFC-236eaおよび/またはHFC-245ebを水と水酸化カリウム(KOH)との混合物と反応させる。」(8頁6?8行)

1h)「デヒドロフルオロ化反応を連続的に実行する反応で弗化カリウムを形成する場合には形成されたKFの全てまたは一部を反応媒体から連続的またはバッチで除去するのが好ましい。弗化カリウムは濾過によって反応媒体から分離できる。
水-KOH混合物中のKOH含有量を維持するためにデヒドロフルオロ化反応で形成される水も上記とおなじ頻度で連続的またはバッチで除去できる。水は蒸発で除去できる。」(9頁1?11行)

1i)「文献Knunyants et al., Journal of the USSR Academy of Sciences, Chemistry Department, "Reactions of Fluoroolefins", report 13, "Catalytic Hydrogenation of Perfluoroolefins", 1960にはこのフッ素化物の各種化学反応が記載されている。この文献には20?50℃にし、その後はこの温度に維持して、アルミナに担持されたパラジウムベースの触媒上でHFPをほぼ定量的に水素化する方法が記載されている。この文献ではジブチルエーテルのKOH懸濁液を通過させる1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)のデヒドロ弗素化で1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン-1(HFO-1225ye)の製造方法が記載されているが、収率は60%にすぎない。この文献にはアルミナ担持パラジウム触媒上で1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン-1(HF0-1225ye)を水素化して1,1,l,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)にする方法が記載されている。この水素化中に水素化分解によって有意量の1,1,1,2-テトラフルオロプロパンも製造される。この文献にはジブチルエーテルのKOH粉末懸濁液中で1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)をデヒドロフルオロ化して2,3,3,3-テトラフルオロ-l-プロペン(HFO-1234yf)を製造する方法が記載されているが、収率は70%に過ぎない。これらの反応はお互いに独立しての記載されており、種々の弗素量を含むエチレン、プロピレンおよびイソブチレン誘導体の合成とも組み合わせることができると記載されている。」(2頁3?30行)

甲2(訳文で示す。):
2a)「したがって、本発明は、(i)反応物質用の少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口を備えた、水性反応媒体を含む撹絆した反応装置内で、3から6個の炭素原子、少なくとも2個のフッ素原子、及び少なくとも1個の水素原子を含み、但し、少なくとも1個の水素原子及び1個のフッ素原子が隣接する炭素原子上に位置する、少なくとも1つの化合物を、水酸化カリウムと接触させて、(ヒドロ)フルオロオレフィン化合物を得、これを気体状反応媒体及びフッ化カリウムから分離させる工程、(ii)(i)で生成したフッ化カリウムを水性媒体中で水酸化カルシウムと接触させて、水酸化カリウムを得、フッ化カルシウムを沈殿させる工程、(iii)工程(ii)で沈殿したフッ化カルシウムを反応媒体から分離する工程、及び(iv)場合によって、水酸化カリウムの濃度を場合によって調整した後、反応媒体を工程(i)にリサイクルする工程を含む、(ヒドロ)フルオロオレフィン化合物の連続式又は半連続式製造方法を目的とする。」(3頁9?22行)」

2b)「このように、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンは,KOHによる1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパンの脱フッ化水素によって得られ、及び/又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンは、KOHによる1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンの脱フッ化水素によって得ることができる。1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンは、シス及び/又はトランス異性体の形でありうる。」(4頁14?17行)

2c)「有利には、工程(ii)は、水、水酸化カリウム、及びフッ化カリウムを含む工程(i)に由来する反応媒体内で実施される。工程(i)に由来し、工程(ii)に供給されるフッ化カリウムは、溶解又は懸濁状態でありうる。」(5頁11?14行)」

2d)「実施例1
図1は、本発明の一実施形態の図を示している。加熱及び反応媒体の温度測定の装置を備え、水とKOHとの混合物を含むニッケル製の撹拌した反応装置(1)に、水中にKOHが60重量%存在する溶解したKOH溶液(2)、及び1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(3)を連続的に供給する。温度は160℃に維持され、反応装置内の圧力は1.2絶対バールである。気体の生成物はカバー上に位置する排気口(4)によって反応装置から排出され、気体の流れの中に含まれる水は凝縮によって除去される(13)。
反応装置(1)の出口(5)は、反応装置(6)の入口とつながっているため、水性媒体に懸濁していてもよいフッ化カリウムの反応装置(6)への供給を確保する。水中10重量%の水酸化カルシウム懸濁液は、反応装置(6)に通路(7)から注入される。反応装置(6)は、100から120℃の温度で維持される。
反応装置(6)の出口は、精製されたフッ化カルシウムを得る(12)ため、反応媒体からフッ化カルシウムを分離し、次に水で洗浄する(9)ためのフィルター(8)につながっている。次いで、フッ化カルシウムから分離された水性媒体、及びフッ化カルシウムの洗浄水は、蒸発装置(11)内でのKOH濃度の調整後、反応装置(1)にリサイクルされる。
反応装置(1)に供給される溶解したKOH混合物は、KOHの50重量%水溶液(14)の蒸発(水の除去(15))によって調製される。

実施例2
1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンの代わりに1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパンを連続的に反応装置(1)に供給する以外は、実施例1のように操作する。」(第6頁10行?7頁2行)

2e)「特許請求の範囲
1. (i)反応物質用の少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口を備えた、水性反応媒体を含む撹絆した反応装置内で、3から6個の炭素原子、少なくとも2個のフッ素原子、及び少なくとも1個の水素原子を含み、但し、少なくとも1個の水素原子及び1個のフッ素原子が隣接する炭素原子上に位置する、少なくとも1つの化合物を、水酸化カリウムと接触させて、(ヒドロ)フルオロオレフィン化合物を得、これを気体状反応媒体及びフッ化カリウムから分離させる工程、(ii)(i)で生成したフッ化カリウムを水性媒体中で水酸化カルシウムと接触させて、水酸化カリウムを得、フッ化カルシウムを沈殿させる工程、(iii)工程(ii)で沈殿したフッ化カルシウムを反応媒体から分離する工程、及び(iv)場合によって、水酸化カリウムの濃度を場合によって調整した後、反応媒体を工程(i)にリサイクルする工程を含む、(ヒドロ)フルオロオレフィン化合物の連続式又は半連続式製造方法。
・・・
4. 2,3,3,3-テトラフルオロプロペンは、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパンを水酸化カリウムと接触させることによって得られ、及び/又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンは、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを水酸化カリウムと接触させることによって得られることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。」(8頁?9頁、特許請求の範囲の請求項1及び4)

2f)「

」(図面)

甲3:
3a)「本発明は3,4-ジクロルブテン-1の脱塩化水素反応によってクロロプレン(2-クロルブタジエン-1,3)を製造する方法の改良法に関する。」(2頁左上欄下から2行?右上欄2行)

3b)「また、水性相中に有機相が若干混入していることがあり、これを静置等の通常の操作によって分離してから濃縮を行なうことが好ましい。」(4頁右下欄4?7行)

3c)「反応器19のレベルが一定となるように導管4より水相を抜出し、デカンター20にて若干混入している油相と水相(析出した塩化ナトリウムを含む)を分離し、油相は導管5を経て反応器に戻した。デカンター20にて油相を除去した固型塩化ナトリウムを含む水相を強制循環方式の濃縮缶21へ導管6を経て供給し、112℃、200mmHg absにおいてNaOH/(NaOH+H_(2)0)=0.5となるように濃縮を行なつた。水相を導管8から導管9を経て熱交換器22で加熱し、導管10より凝縮缶21へ循環させて実施した。濃縮に伴い溶解塩化ナトリウムが水相に析出してくるが、当該水相を導管8から抜き出し、導管11を経てスラリータンク24に導き、さらに遠心分離機25に送つて析出した塩化ナトリウムを分離し導管12より廃棄した。回収した水酸化ナトリウム水溶液は導管13を経て導管2へ戻し、再び反応に供した。」(5頁左上欄2?下から3行)

3d)「

」(6頁図面)

甲4:
4a)「【請求項1】
式CF_(3)CF=CHX、CHX_(2)CX=CX_(2)の化合物あるいは線状または分岐C_(4‐7)(ヒドロ)フルオロアルケン(各Xは独立してHまたはFであるが、但しCHX_(2)CX=CX_(2)において少なくとも1つのXはFである)を製造するためのプロセスであって、
塩基の存在下で、式CF_(3)CFYCH_(2)X、CF_(3)CFHCYHX、CHX_(2)CXYCX_(2)H、CHX_(2)CXHCX_(2)Yの化合物あるいは線状または分岐C_(4‐7)ヒドロ(ハロ)フルオロアルカン(各Xは独立してHまたはFであるが、但しCHX_(2)CXYCX_(2)HおよびCHX_(2)CXHCX_(2)Yにおいて少なくとも1つのXはFであり、YはF、Cl、BrまたはIである)を脱ハロゲン化水素することを含んでなるプロセス。
・・・
【請求項4】
塩基がアルカリ金属水酸化物である、請求項1?3のいずれかに記載のプロセス。
【請求項5】
アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選択される、請求項4に記載のプロセス。
・・・
【請求項8】
プロセスが溶媒中で行われる、請求項1?7のいずれかに記載のプロセス。
【請求項9】
溶媒が、水、アルコール、ジオール、ポリオール、極性非プロトン性溶媒およびそれらの混合物から選択される、請求項8に記載のプロセス。
・・・
【請求項16】
1,2,3,3,3‐ペンタフルオロプロペン(CF_(3)CF=CFH、HFC‐1225ye)、2,3,3,3‐テトラフルオロプロペン(CF_(3)CF=CH_(2)、HFC‐1234yf)およびそれらの混合物から選択される(ヒドロ)フルオロプロペンを製造するための、請求項1?15のいずれかに記載のプロセス。
・・・
【請求項19】
CF_(3)CF=CH_(2)が、1,1,1,2,3‐ペンタフルオロプロパン(CH_(2)FCHFCF_(3)、HFC‐245eb)を脱フッ化水素および/または1,1,1,2‐テトラフルオロ‐3‐クロロプロパンを脱塩化水素することにより製造される、請求項16?18のいずれかに記載のプロセス。」

4b)「【0013】
本発明のプロセスはいずれか適切な装置、例えばスタティックミキサー、攪拌タンクリアクターまたは攪拌気液分離容器で行われる。本プロセスはバッチ式でもまたは連続的でも行える。バッチ式プロセスまたは連続プロセスはいずれも“ワンポット”式で、または2以上の別々な反応ゾーンおよび/または反応器を用いて行われる。」

4c)「【0060】
HFC‐1234yfおよび1,3,3,3‐テトラフルオロプロペン(CF3CH=CHF、HFC‐1234ze)が本発明のプロセスで一緒に製造されることもある。一方、HFC‐1234yfおよびHFC‐1225yeが本発明のプロセスで一緒に製造されることもある。」

4d)「【0062】
HFC‐1234yfは、1,1,1,2,2‐ペンタフルオロプロパン(CH_(3)CF_(2)CF_(3)、HFC‐245ca)または1,1,1,2,3‐ペンタフルオロプロパン(CH_(2)FCHFCF_(3)、HFC‐245eb)の脱フッ化水素を含んでなるプロセスにより製造される。」

4e)「【0066】
・・・
【化2】



4f)「【0073】
HFC‐1225yeは式CF_(3)CFYCH_(2)FまたはCF_(3)CFHCYFHの化合物を脱ハロゲン化水素することで製造してもよく、ここでYはF、Cl、BrまたはI、好ましくはFまたはCl、最も好ましくはFである。このように、HFC‐1225yeは、現在最も好ましくは、下記のようにCF_(3)CFHCF_(2)H(HFC‐236ea)またはCF_(3)CF_(2)CH_(2)F(HFC‐236cb)の脱フッ化水素により製造される。
【化6】



4g)「【0075】
HFC‐236eaおよびHFC‐236cbは双方ともApollo Chemicals Ltd.から得られる。一方、HFC‐236eaは、例えば、下記のようにヘキサフルオロプロピレンを水素化することで、都合よく製造しうる。
CF_(3)CF=CF_(2)+H_(2)→CF_(3)CHFCHF_(2)」

4h)「【0078】
例1?7
溶媒(10g)、アルカリ金属水酸化物(10g)および(用いられる場合)触媒(0.25g)を温度および圧力計と十字型スターラー装備の50mL Hastalloy C反応器へ入れた。容器を密封し、窒素で圧力検査した。次いでCF_(3)CFHCF_(2)H(HFC‐236ea)またはCF_(3)CF_(2)CH_(2)F(HFC‐236cb)(10?15g,97%)の原料を小型供給ボンベから入れ、内容物を表1に掲載された時間にわたり150℃で攪拌しながら加熱した。実験の最後に、揮発性生成物および未変換原料をGC‐MSによる解析のため蒸留により回収した。結果が表1で掲載されている。
【表1】



甲5(訳文で示す。):
5a)「著しい濃度の無機フッ化物が、ガラス製造者、電気メッキ事業、製鉄業者、及びある化学プラントからの産業廃液にみられる。これらの濃度は、環境基準から過剰であり得るし、環境に排水を放出する前に除去されねばならない。フッ化物除去のために水を石灰で軟質にしたり処理したりすることは、フッ化物低減のための周知で確立されたプロセスである。しかし、そのようなプロセスで生成される純度の低いフッ化カルシウムは、販売されることができず、それ自体が処理問題である。」(1欄12?22行)

甲6(訳文で示す。):
6a)「晶析装置で生成される実際の結晶は、それ自体本質的に純粋であるが、その母液から分離され乾燥された後であっても、その結果生じる結晶塊は比較的不純であり得る。たとえ介在物が形成されていなくとも、母液の除去はしばしば不十分である。結晶は、吸着により、その表面に小量の母液を保持し、毛細管引力により、粒子集団の空隙内に大量に保持する。もし結晶が不整であれば、割れ目内の母液保持の量はかなりになる。この意味で、結晶のクラスター及び凝集体は悪評高い。
母液から産業的に結晶化するプロセスの後には、効率のよい液-固分離をしなければならない。遠心ろ過はしばしば粒状結晶集団の母液含有量を5から10パーセント減少させることができるが、不整な小さい結晶は50%以上保持し得る。したがって、最も効率的なろ過を採用するだけでなく、結晶化において規則的な結晶を生成することが極めて重要である。
ろ過後、生成物は、通常、保持されている不純な母液の量をまたさらに減らすよう、洗浄される。」(423頁11?27行)

イ 甲1、2、4に記載された発明
(ア)甲1
上記摘示1a?1i、特に1bの記載からみて、甲1には、
「(i)ヘキサフルオロプロピレンを水素化して1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンにし;
(ii)上記段階で得られた1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを110?180℃の温度で水と水酸化カリウムとの混合物(混合物中の水酸化カリウムの濃度は58?86重量%)を用いてデヒドロフルオロ化して1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン-1にし;
(iii)上記段階で得られた1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン-1を水素化して1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンにし、
(iv)上記段階で得られた1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンを110?180℃の温度で水と水酸化カリウムとの混合物(混合物中の水酸化カリウム濃度は58?86%)を使用してデヒドロフルオロ化して2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンにする方法。」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

(イ)甲2
上記摘示2a及び2e(請求項1)に記載の「3から6個の炭素原子、少なくとも2個のフッ素原子、及び少なくとも1個の水素原子を含み、ただし、少なくとも1個の水素原子及び1個のフッ素原子が隣接する炭素原子上に位置する、少なくとも1つの化合物」に該当するものとして、摘示2b、2d及び2e(請求項4)に「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパン」及び「1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン」が記載され、同じく摘示2a及び2e(請求項1)に記載の「(ヒドロ)フルオロオレフィン化合物」に該当するものとして、摘示2b及び2e(請求項4)に「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」及び「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン」が記載されている。
したがって、上記摘示2a?2f)、特に摘示2a、2b、2d及び2eの記載からみて、甲2には、
「(i)反応物質用の少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口を備えた、水性反応媒体を含む撹絆した反応装置内で、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパン、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを、水酸化カリウムと接触させて、それぞれ、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを得、これを気体状反応媒体及びフッ化カリウムから分離させる工程、(ii)(i)で生成したフッ化カリウムを水性媒体中で水酸化カルシウムと接触させて、水酸化カリウムを得、フッ化カルシウムを沈殿させる工程、(iii)工程(ii)で沈殿したフッ化カルシウムを反応媒体から分離する工程、及び(iv)場合によって、水酸化カリウムの濃度を場合によって調整した後、反応媒体を工程(i)にリサイクルする工程を含む、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンの連続式又は半連続式製造方法。」の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

(ウ)甲4
上記摘示4aの請求項1に記載の「CF_(3)CF=CHX、CHX_(2)CX=CX_(2)の化合物あるいは線状または分岐C_(4‐7)(ヒドロ)フルオロアルケン(各Xは独立してHまたはFであるが、但しCHX_(2)CX=CX_(2)において少なくとも1つのXはFである)」に該当するものとして、同請求項16に「1,2,3,3,3‐ペンタフルオロプロペン(CF_(3)CF=CFH、HFC‐1225ye)、2,3,3,3‐テトラフルオロプロペン(CF_(3)CF=CH_(2)、HFC‐1234yf)およびそれらの混合物から選択される(ヒドロ)フルオロプロペン」が記載され、同請求項1に記載の「式CF_(3)CFYCH_(2)X、CF_(3)CFHCYHX、CHX_(2)CXYCX_(2)H、CHX_(2)CXHCX_(2)Yの化合物あるいは線状または分岐C_(4‐7)ヒドロ(ハロ)フルオロアルカン(各Xは独立してHまたはFであるが、但しCHX_(2)CXYCX_(2)HおよびCHX_(2)CXHCX_(2)Yにおいて少なくとも1つのXはFであり、YはF、Cl、BrまたはIである)」に該当し、上記HFC‐1225ye及びHFC‐1234yfにそれぞれ対応する原料化合物として、上記摘示4fに「CF_(3)CFHCF_(2)H(HFC‐236ea)」が、上記摘示4aの請求項19及び上記摘示4dに「1,1,1,2,3‐ペンタフルオロプロパン(CH_(2)FCHFCF_(3)、HFC‐245eb)」が記載されている。
さらに、摘示4aの請求項1に記載の塩基として、同請求項4にアルカリ金属水酸化物が記載され、当該アルカリ金属水酸化物として、同請求項5に水酸化カリウムが記載されている。
したがって、甲4には、
「1,2,3,3,3‐ペンタフルオロプロペン(CF_(3)CF=CFH、HFC‐1225ye)、2,3,3,3‐テトラフルオロプロペン(CF_(3)CF=CH_(2)、HFC‐1234yf)およびそれらの混合物から選択される(ヒドロ)フルオロプロペンを製造するためのプロセスであって、
水酸化カリウムの存在下で、CF_(3)CFHCF_(2)H(HFC‐236ea)、1,1,1,2,3‐ペンタフルオロプロパン(CH_(2)FCHFCF_(3)、HFC‐245eb)を脱ハロゲン化水素することを含んでなるプロセス。」の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認める。

ウ 判断
(ア)本件発明7について
a 理由ア-1について(甲1が主引用例)
本件発明7と甲1発明とを対比する。
甲1発明は、工程(i)で、「ヘキサフルオロプロピレンを水素化して1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンにし」、工程(ii)で、「上記段階で得られた1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを」「デヒドロフルオロ化して1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン-1に」するものであるところ、甲1には、水素化、デヒドロフルオロ化において流れが生じていること、反応段階を連続的に行うことが記載されており(摘示1b、1e)、また、ヘキサフルオロプロピレンが出発材料であること、水素化により生成する1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンは、甲1発明の工程(ii)において、デヒドロフルオロ化して1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン-1にされるから中間体といえること、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン-1が生成物といえることは明らかである。
また、甲1発明の「水素化」について、甲1には、水素を用いることが記載されており(摘示1c)、該水素は本件発明7の還元剤に相当し、甲1発明において、水素化の際にヘキサフルオロプロピレンを水素と「接触させる」ことも明らかである。
したがって、甲1発明の「(i)ヘキサフルオロプロピレンを水素化して1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンに」することは、本件発明7の「(a)ヘキサフルオロプロピレンを含む出発材料流を、還元剤と接触させることによって水素化して、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを含む中間体流を生成させ」ることに相当する。
さらに、甲1発明は、工程(ii)において、「1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを110?180℃の温度で水と水酸化カリウムとの混合物(混合物中の水酸化カリウムの濃度は58?86重量%)を用いてデヒドロフルオロ化」するものであるところ、水酸化カリウムがデヒドロフルオロ化させるための剤であり、脱ハロゲン化水素化剤として作用するものであることは明らかであるから、甲1発明の工程(ii)の上記工程は、本件発明7の「1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを、KOHを含む脱ハロゲン化水素化剤の存在下で脱フッ化水素化」することに相当する。
そして、甲1発明の「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン-1」は本件発明7の「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン」に相当する。
したがって、甲1発明の「(ii)上記段階で得られた1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを110?180℃の温度で水と水酸化カリウムとの混合物(混合物中の水酸化カリウムの濃度は58?86重量%)を用いてデヒドロフルオロ化して1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン-1に」することは、本件発明7の「(b)1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを、KOHを含む脱ハロゲン化水素化剤の存在下で脱フッ化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを含む生成物流を生成させ」ることに相当する。
さらに、甲1発明は、工程(iii)及び(iv)により、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン-1を2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンにするものであるから、本件発明7の「2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法」に相当する。

してみれば、本件発明7と甲1発明とは、
「 (a)ヘキサフルオロプロピレンを含む出発材料流を、還元剤と接触させることによって水素化して、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを含む中間体流を生成させ;
(b)1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを、KOHを含む脱ハロゲン化水素化剤の存在下で脱フッ化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを含む生成物流を生成させ:
ることを含む、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法について、本件発明7が、「(c)生成物流から、水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を含む第2の生成物流を引き抜き;
(d)前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を回収し;そして
(e)場合によっては、精製した脱ハロゲン化水素化剤を濃縮して、脱ハロゲン化水素化反応に再循環して戻す;」ことを含み、かつ、「工程(d)が、前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(b)に再循環することを含む」ものであるのに対し、甲1発明は、そのような特定がされていない点

<相違点2>
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法について、甲1発明が、「(iii) 上記段階で得られた1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン-1を水素化して1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンにし、
(iv) 上記段階で得られた1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンを110?180℃の温度で水と水酸化カリウムとの混合物(混合物中の水酸化カリウム濃度は58?86%)を使用してデヒドロフルオロ化して2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンにする」ものであるのに対し、本件発明7は、そのような特定がされていない点

上記相違点について検討する、
<相違点1>について
甲1には、KFの全て又は一部を反応媒体から連続的またはバッチで除去するのが好ましいこと、デヒドロフルオロ化反応で形成される水も連続的又はバッチで除去できることが記載されているものの(摘示1h)、KOHを除去することについての記載はない。また、本件発明7では、水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、除去した後の当該混合物を工程(b)に再循環するものであるところ、甲1には、KOH等を再循環することについての記載も示唆もない。
甲1には、弗化カリウムの濾過による分離、水の蒸発による除去が記載されているが(摘示1h)、当該記載が、水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去した後に当該混合物を工程(b)に再循環することを記載、示唆しているとはいえない。
一方、甲2には、「(i)反応物質用の少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口を備えた、水性反応媒体を含む撹絆した反応装置内で、3から6個の炭素原子、少なくとも2個のフッ素原子、及び少なくとも1個の水素原子を含み、ただし、少なくとも1個の水素原子及び1個のフッ素原子が隣接する炭素原子上に位置する、少なくとも1つの化合物を、水酸化カリウムと接触させて、(ヒドロ)フルオロオレフィン化合物を得、これを気体状反応媒体及びフッ化カリウムから分離させる工程、(ii)(i)で生成したフッ化カリウムを水性媒体中で水酸化カルシウムと接触させて、水酸化カリウムを得、フッ化カルシウムを沈殿させる工程、(iii)工程(ii)で沈殿したフッ化カルシウムを反応媒体から分離する工程、及び(iv)場合によって、水酸化カリウムの濃度を場合によって調整した後、反応媒体を工程(i)にリサイクルする工程を含む、(ヒドロ)フルオロオレフィン化合物の連続式又は半連続式製造方法」が記載され(摘示2a)、具体的には、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンをKOH溶液により脱フッ素化して、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを製造すること(摘示2b、2d、工程(i))、「工程(ii)は、水、水酸化カリウム、及びフッ化カリウムを含む工程(i)に由来する反応媒体内で実施される」こと(摘示2c)が記載されているところ、甲2には、脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を脱ハロゲン化水素化工程に再循環することについての直接的な記載も示唆もなく、それが本件特許の優先日における技術常識であるということもできない。
甲2に、沈殿したフッ化カルシウムを反応媒体から分離する工程(工程(iii))が記載されており、該工程が有機化合物を分離する工程に相当するかについてさらに検討する。
甲5には、概要、フッ化物除去のために水を石灰で軟質にしたり処理したりするプロセスにより生成されるフッ化カルシウムは純度が低いことが、甲6には、概要、晶析装置で生成される結晶は、母液を保持することが記載されているが、甲2には、沈殿したフッ化カルシウムが結晶であることは記載されておらず、仮に結晶であったとしても、沈殿したフッ化カルシウムと共に有機化合物が除去されることは記載されていない。
そして、本件明細書には、「【0064】
[0068]消費された脱ハロゲン化水素化剤を含む生成物流は、通常はそれと共に若干の溶解している有機化合物(例えばHFC-236ea及び/又はHFC-245eb)を同伴している。撹拌器を停止し、撹拌が停止している時間中に消費された脱ハロゲン化水素化剤を取り出すことによって、脱ハロゲン化水素化剤及びかかる有機化合物の分離を容易にすることができる。消費された脱ハロゲン化水素化剤及び溶解している有機化合物を容器中に回収し、ここで1以上の上記の分離方法を用いて脱ハロゲン化水素化剤及び有機化合物の更なる分離を行うことができる。例えば、1つの非限定的な態様においては、蒸留、即ち有機化合物を236ea及び/又は245ebの沸点の直ぐ上の温度に加熱して、それによって有機化合物を消費されたKOHから分別することによって、KOHを分離する。或いは、相分離器を用いて2つの相の間で分離させることができる。有機化合物を含まないKOH単離物は、反応器に直ちに再循環することができ、或いは濃縮して、濃縮した溶液を反応器に戻すことができる。」、「【0076】
[0086]消費されたKOHをスクラバー生成物回収シリンダー(SPCC)中に回収した。SPCCには、塩化メチレンを予め充填した(目標は、最終的な消費KOH-塩化メチレン溶液中で15?20重量%の塩化メチレンを有するようにすることであった)。塩化メチレン層の分析によって、約70GC面積%が236eaであったことが示された。少量の1225ye(約2%)が存在しており、残りは未確認の重質物であった。全ての有機化合物が塩化メチレンによって抽出されたことを確認するために、1部のKOHを1部のMeCl_(2)に加えた(即ち1:1)。GC分析によって、有機化合物の量は無視できるものであったことが示された。」との記載があり(下線は当審が付与。)、これらの記載からみて、本件発明7における「有機化合物を除去」するとは、他の物質を分離する際に、それに付随して有機化合物が除去されることを意味するのではなく、除去の対象物そのものが有機化合物であるといえるから、仮にフッ化カルシウムの結晶に付随して一部の有機化合物が除去されたとしても、それが本件発明7における有機化合物の除去にあたるともいえない。
したがって、甲5及び甲6の記載を参酌しても、甲2に記載の沈殿したフッ化カルシウムを反応媒体から分離する工程(工程(iii))が有機化合物を分離する工程に相当するとはいえず、甲2に記載の上記工程(ii)?(iv)が、脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を脱ハロゲン化水素化工程に再循環することを記載ないし示唆するとはいえない。
また、甲3に、3,4-ジクロルブテン-1の脱塩化水素反応によってクロロプレン(2-クロルブタジエン-1,3)を製造する方法において、水性相中に混入した有機相を分離してから濃縮を行なうことが好ましい旨が記載されているが(摘示3a?3c)、反応原料及び生成物が甲1に記載のものとは異なるから、甲3に記載の当該技術的事項を甲1発明に適用することが当業者が容易に行う事項であるということはできない。
甲4にも、脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を脱ハロゲン化水素化工程に再循環することについての記載も示唆もない。
したがって、甲1発明に相違点1に係る技術的事項を採用することが、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明7は、甲1に記載された発明及び甲2?甲4に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

b 理由ア-2について(甲2が主引用例)
本件発明7と甲2発明とを対比する。
甲2発明は、「(i)反応物質用の少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口を備えた、水性反応媒体を含む撹絆した反応装置内で、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパン、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを、水酸化カリウムと接触させて、それぞれ、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを得」るものであるところ、この反応は脱ハロゲン化水素化反応であり、水酸化カリウムが脱ハロゲン化水素化剤として作用するものであることは明らかであり、また、甲2発明は、連続式製造方法を含み、反応により生成した生成物が流れを生成することも明らかであるから、甲2発明の工程(i)の上記工程は、本件発明7の「(b)1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを、KOHを含む脱ハロゲン化水素化剤の存在下で脱フッ化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを含む生成物流を生成させ」ることに相当する。
甲2発明は、「(i)・・・2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを得、これを気体状反応媒体及びフッ化カリウムから分離させる工程」、「(ii)(i)で生成したフッ化カリウムを水性媒体中で水酸化カルシウムと接触させて、・・・工程」を含むものであるところ、甲2には、「工程(ii)は、水、水酸化カリウム、及びフッ化カリウムを含む工程(i)に由来する反応媒体内で実施される。工程(i)に由来し、工程(ii)に供給されるフッ化カリウムは、溶解又は懸濁状態でありうる」ことが記載されているから(摘示2c)、工程(i)で分離されるフッ化カリウムは、水、水酸化カリウムを含むものであるといえ、また、水、水酸化カリウム、フッ化カリウムは、脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物であるといえる。
また、分離されたフッ化カリウムは、工程(ii)で水酸化カルシウムと接触させているから、回収されているということができる。
したがって、甲2発明の工程(i)の「これを気体状反応媒体及びフッ化カリウムから分離させる工程」は、本件発明7の「(c)生成物流から、水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を含む第2の生成物流を引き抜き;(d)前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を回収」することに相当する。
甲2発明は、「(iii)工程(ii)で沈殿したフッ化カルシウムを反応媒体から分離する工程」を含むものであるところ、フッ化カルシウムを分離することにより、反応媒体中に含まれる水酸化カリウム、すなわち,脱ハロゲン化水素化剤が精製されているといえる。また、甲2発明は「(iv)場合によって、水酸化カリウムの濃度を場合によって調整した後、反応媒体を工程(i)にリサイクルする工程」を含むものであるところ、工程(i)は脱ハロゲン化反応を行う工程であるといえる。そして、濃度を調整することは濃縮することを含むといえる。
したがって、甲2発明の「(iii)工程(ii)で沈殿したフッ化カルシウムを反応媒体から分離する工程、及び(iv)場合によって、水酸化カリウムの濃度を場合によって調整した後、反応媒体を工程(i)にリサイクルする工程」は、当該「濃度」の「調整」が「濃縮」を含む限りにおいて、本件発明7の「(e)場合によっては、精製した脱ハロゲン化水素化剤を濃縮して、脱ハロゲン化水素化反応に再循環して戻す」ことと共通する。
甲2発明は「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」の連続式製造方法に関するものであり、本件発明7の「2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法」に相当する。
以上のとおりであるから、本件発明7と甲2発明とは、
「(b)1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを、KOHを含む脱ハロゲン化水素化剤の存在下で脱フッ化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを含む生成物流を生成させ:
(c)生成物流から、水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を含む第2の生成物流を引き抜き;
(d)前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を回収し;そして
(e)場合によっては、精製した脱ハロゲン化水素化剤の濃度を調整して、脱ハロゲン化水素化反応に再循環して戻す;
ことを含む、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3>
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法について、本件発明7が、「(a)ヘキサフルオロプロピレンを含む出発材料流を、還元剤と接触させることによって水素化して、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを含む中間体流を生成させ」る工程を含むのに対して、甲2発明は、そのような特定がされていない点

<相違点4>
濃度の調整について、本件発明7が、「濃縮」と特定されているのに対して、甲2発明は、濃縮とはされていない点

<相違点5>
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法について、本件発明7が、「工程(d)が、前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(b)に再循環することを含む」のに対して、甲2発明は、そのような特定がされていない点

上記相違点について検討する。
<相違点5>について
甲2発明は、「(iv)場合によって、水酸化カリウムの濃度を場合によって調整した後、反応媒体を工程(i)にリサイクルする工程」及び「(ii)(i)で生成したフッ化カリウムを水性媒体中で水酸化カルシウムと接触させて、水酸化カリウムを得、フッ化カルシウムを沈殿させる工程、(iii)工程(ii)で沈殿したフッ化カルシウムを反応媒体から分離する工程」を含むものであるものの、甲2には、脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を脱ハロゲン化水素化工程に再循環することについての直接的な記載も示唆もなく、それが本件特許の優先日における技術常識であるということもできない。
そして、甲5及び甲6を参酌しても、甲2に記載の上記工程(ii)?(iv)が、脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を脱ハロゲン化水素化工程に再循環することを記載ないし示唆するものともいえないことは上記aの「<相違点1>について」で述べたとおりである。
さらに、甲3に、3,4-ジクロルブテン-1の脱塩化水素反応によってクロロプレン(2-クロルブタジエン-1,3)を製造する方法において、水性相中に混入した有機相を分離してから濃縮を行なうことが好ましい旨が記載されているが(摘示3a?3c)、反応原料及び生成物が甲2に記載のものとは異なるから、甲3に記載の当該技術的事項を甲2発明に適用することが当業者が容易に行う事項であるということはできない。
甲1には、KOH等を再循環することについての記載も示唆もなく、甲4にも、脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を脱ハロゲン化水素化工程に再循環することについての記載も示唆もない。
したがって、甲2発明に相違点5に係る技術的事項を採用することが当業者が容易に行う技術的事項であるであるということはできない。

よって、相違点3及び4について検討するまでもなく、本件発明7は、甲2に記載された発明及び甲1、甲3及び甲4に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c 理由ア-3について(甲4が主引用例)
本件発明7と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「1,2,3,3,3‐ペンタフルオロプロペン(CF_(3)CF=CFH、HFC‐1225ye)」、「2,3,3,3‐テトラフルオロプロペン(CF_(3)CF=CH_(2)、HFC‐1234yf)」、「CF_(3)CFHCF_(2)H(HFC‐236ea)」、「1,1,1,2,3‐ペンタフルオロプロパン(CH_(2)FCHFCF_(3)、HFC‐245eb)」はそれぞれ、本件発明7の「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン」、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」、「1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン」、「1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン」に相当する。
また、甲4発明のプロセスは、脱フッ化水素化であるといえ、同プロセスにおける水酸化カリウムは脱ハロゲン化水素化剤として作用するものであることは明らかである。
さらに、甲4には、プロセスを連続的に行えることが記載されており(摘示4b)、連続的に行う場合に、生成物が流れを生成するといえる。
したがって、本件発明7と甲4発明とは、
「(b)1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを、KOHを含む脱ハロゲン化水素化剤の存在下で脱フッ化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを含む生成物流を生成させ:
ることを含む、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点6>
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法について、本件発明7が、「(a)ヘキサフルオロプロピレンを含む出発材料流を、還元剤と接触させることによって水素化して、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを含む中間体流を生成させ;」、
「(c)生成物流から、水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を含む第2の生成物流を引き抜き;
(d)前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を回収し;そして
(e)場合によっては、精製した脱ハロゲン化水素化剤を濃縮して、脱ハロゲン化水素化反応に再循環して戻す;
ことを含む」ものであるのに対し、甲4発明は、そのような特定がされていない点

<相違点7>
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法について、本件発明7が、「工程(d)が、前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(b)に再循環することを含む」ものであるのに対し、甲4発明は、そのような特定がされていない点

上記相違点について検討する。
<相違点7>について
甲4には、水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を再循環することについての記載はない。また、甲1にもKOH等を再循環することについての記載も示唆もない。
甲4には、具体的な例として、揮発性生成物および未変換原料をGC‐MSによる解析のため蒸留により回収した旨が記載されているが(摘示4h)、当該記載が、相違点7に係る、脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(b)に再循環することを記載、示唆しているとはいえない。
一方、甲2には、「(i)反応物質用の少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口を備えた、水性反応媒体を含む撹絆した反応装置内で、3から6個の炭素原子、少なくとも2個のフッ素原子、及び少なくとも1個の水素原子を含み、ただし、少なくとも1個の水素原子及び1個のフッ素原子が隣接する炭素原子上に位置する、少なくとも1つの化合物を、水酸化カリウムと接触させて、(ヒドロ)フルオロオレフィン化合物を得、これを気体状反応媒体及びフッ化カリウムから分離させる工程、(ii)(i)で生成したフッ化カリウムを水性媒体中で水酸化カルシウムと接触させて、水酸化カリウムを得、フッ化カルシウムを沈殿させる工程、(iii)工程(ii)で沈殿したフッ化カルシウムを反応媒体から分離する工程、及び(iv)場合によって、水酸化カリウムの濃度を場合によって調整した後、反応媒体を工程(i)にリサイクルする工程を含む、(ヒドロ)フルオロオレフィン化合物の連続式又は半連続式製造方法」が記載され(摘示2a)、具体的には、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンをKOH溶液により脱フッ素化して、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを製造すること(摘示2b、2d、工程(i))、「工程(ii)は、水、水酸化カリウム、及びフッ化カリウムを含む工程(i)に由来する反応媒体内で実施される」こと(摘示2c)が記載されているところ、甲2に、脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を脱ハロゲン化水素化工程に再循環することについての記載も示唆もないこと、それが本件特許の優先日における技術常識であるということもできないことは、上記a及びbで述べたとおりである。
また、甲3に、3,4-ジクロルブテン-1の脱塩化水素反応によってクロロプレン(2-クロルブタジエン-1,3)を製造する方法において、水性相中に混入した有機相を分離してから濃縮を行なうことが好ましい旨が記載されているが(摘示3a?3c)、反応原料及び生成物が甲4に記載のものとは異なるから、甲3に記載の技術的事項を甲4発明に適用することが当業者が容易に行う事項であるということはできない。
したがって、甲4発明に相違点7に係る技術的事項を採用することが、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

よって、相違点6について検討するまでもなく、本件発明7は、甲4に記載された発明及び甲1?甲3に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明8について(理由ア-1?ア-3について)
本件発明8は本件発明7を技術的にさらに限定したものであるから、本件発明7が、甲1に記載された発明及び甲2?甲4に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲2に記載された発明及び甲1、甲3及び甲4に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲4に記載された発明及び甲1?甲3に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明8は、甲1に記載された発明及び甲2?甲4に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲2に記載された発明及び甲1、甲3及び甲4に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲4に記載された発明及び甲1?甲3に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明14について
a 理由ア-1について(甲1が主引用例)
本件発明14と甲1発明とを対比する。
甲1発明は、工程(ii)において、「1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを110?180℃の温度で水と水酸化カリウムとの混合物(混合物中の水酸化カリウムの濃度は58?86重量%)を用いてデヒドロフルオロ化」するものであるところ、水酸化カリウムがデヒドロフルオロ化するための剤であり、脱ハロゲン化水素化剤として作用するものであることは明らかであるから、甲1発明の工程(ii)の上記工程は、本件発明14の「1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)又は1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)を、脱ハロゲン化水素化剤であるKOHの存在下で脱ハロゲン化水素化」することに相当する。
そして、甲1発明の「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン-1」は本件発明14の「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFP-1225ye)」に相当する。
したがって、甲1発明の「(ii)・・・1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを110?180℃の温度で水と水酸化カリウムとの混合物(混合物中の水酸化カリウムの濃度は58?86重量%)を用いてデヒドロフルオロ化して1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン-1に」することは、本件発明14の「(a)1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)又は1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)を、脱ハロゲン化水素化剤であるKOHの存在下で脱ハロゲン化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFP-1225ye)を生成させ」ることに相当する。
さらに、甲1発明は、工程(ii)において、「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン-1に」するものであるところ、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン-1はフルオロオレフィンといえる。
したがって、本件発明14と甲1発明とは、
「(a)1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)又は1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)を、脱ハロゲン化水素化剤であるKOHの存在下で脱ハロゲン化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFP-1225ye)を生成させ;
ることを含む、フルオロオレフィンの製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点8>
フルオロオレフィンの製造方法について、本件発明14が、「(b)水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物並びに溶解した有機化合物を含む反応流を排出し;
(c)前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を回収し;
(d)場合によっては前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物に含まれ工程(c)で回収されたKFをKOHに転化させる;」ことを含むものであり、かつ、「工程(c)が、前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(a)に再循環することを含む」ものであるのに対し、甲1発明は、そのような特定がされていない点

<相違点9>
フルオロオレフィンの製造方法について、甲1発明が、「(i)ヘキサフルオロプロピレンを水素化して1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンにし;」、「(iii)上記段階で得られた1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン-1を水素化して1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンにし、
(iv)上記段階で得られた1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンを110?180℃の温度で水と水酸化カリウムとの混合物(混合物中の水酸化カリウム濃度は58?86%)を使用してデヒドロフルオロ化して2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンにする」ものであり、工程(ii)の1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンについて、「上記段階で得られた」と特定しているのに対し、本件発明1では、そのような特定がされていない点

上記相違点について検討する。
<相違点8>について
相違点8に係る技術的事項のうち、「(c)前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を回収し」、「工程(c)が、前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(a)に再循環することを含む」は、相違点1に含まれる事項と同様であるところ、上記(ア)aの「<相違点1>について」で述べたのと同様の理由により、「脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(a)に再循環すること」を甲1発明に採用することが当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

よって、相違点9について検討するまでもなく、本件発明14は、甲1に記載された発明及び甲2及び甲3に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

b 理由ア-2について(甲2が主引用例)
本件発明14と甲2発明とを対比する。
甲2発明は、「(i)反応物質用の少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口を備えた、水性反応媒体を含む撹絆した反応装置内で、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパン、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを、水酸化カリウムと接触させて、それぞれ、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを得」るものであるところ、この反応は脱ハロゲン化水素化反応であり、水酸化カリウムが脱ハロゲン化水素化剤として作用するものであることは明らかであるから、甲2発明の工程(i)の上記工程は、本件発明14の「(a)1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)又は1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)を、脱ハロゲン化水素化剤であるKOHの存在下で脱ハロゲン化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFP-1225ye)を生成させ」ることに相当する。
甲2発明は、連続式製造方法を含み、反応により生成した生成物が流れを生成することは明らかである。
また、甲2発明は、「(i)・・・2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを得、これを気体状反応媒体及びフッ化カリウムから分離させる工程」、「(ii)(i)で生成したフッ化カリウムを水性媒体中で水酸化カルシウムと接触させて、・・・工程」を含むものであるところ、甲2には、「工程(ii)は、水、水酸化カリウム、及びフッ化カリウムを含む工程(i)に由来する反応媒体内で実施される。工程(i)に由来し、工程(ii)に供給されるフッ化カリウムは、溶解又は懸濁状態でありうる」ことが記載されているから(摘示2c)、工程(i)で分離されるフッ化カリウムは、水、水酸化カリウムを含むものであるといえ、水、水酸化カリウム、フッ化カリウムは、脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物であるといえる。
そして、分離されたフッ化カリウムは、工程(ii)で水酸化カルシウムと接触させているから、回収されているということができる。
したがって、甲2発明の工程(i)の「これを気体状反応媒体及びフッ化カリウムから分離させる工程」は、本件発明14の「(b)水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を含む反応流を排出し;(c)前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を回収」することに相当する。
甲2発明は、「(ii)(i)で生成したフッ化カリウムを水性媒体中で水酸化カルシウムと接触させて、水酸化カリウムを得、フッ化カルシウムを沈殿させる工程」を含むところ、当該工程は、本件発明14の「前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物に含まれ工程(c)で回収されたKFをKOHに転化させる」ことに相当する。
甲2発明は「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン」の製造方法に関するものであるところ、これは、本件発明14の「フルオロオレフィンの製造方法」に相当する。
したがって、本件発明14と甲2発明とは、
「(a)1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)又は1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)を、脱ハロゲン化水素化剤であるKOHの存在下で脱ハロゲン化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFP-1225ye)を生成させ;
(b)水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を含む反応流を排出し;
(c)前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を回収し;
(d)場合によっては前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物に含まれ工程(c)で回収されたKFをKOHに転化させる;
ことを含む、フルオロオレフィンの製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点10>
工程(b)の反応流について、本件発明14が、「溶解した有機化合物」を含むものであるのに対して、甲2発明は、そのような特定がされていない点

<相違点11>
フルオロオレフィンの製造方法について、本件発明14が、「工程(c)が、前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(a)に再循環することを含む」ものであるのに対し、甲2発明は、そのような特定がされていない点

上記相違点について検討する。
<相違点11>について
この相違点は相違点5と同様のものであるところ、上記(ア)bで述べたのと同様の理由により、甲2発明に相違点11に係る技術的事項を採用することが、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

よって、相違点10について検討するまでもなく、本件発明14は、甲2に記載された発明及び甲1及び甲3に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c 理由ア-3について(甲4が主引用例)
本件発明14と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「1,2,3,3,3‐ペンタフルオロプロペン(CF_(3)CF=CFH、HFC‐1225ye)」、「2,3,3,3‐テトラフルオロプロペン(CF_(3)CF=CH_(2)、HFC‐1234yf)」、「CF_(3)CFHCF_(2)H(HFC‐236ea)」、「1,1,1,2,3‐ペンタフルオロプロパン(CH_(2)FCHFCF_(3)、HFC‐245eb)」はそれぞれ、本件発明14の「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFP-1225ye)」、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)」、「1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)」、「1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)」に相当する。
また、甲4発明のプロセスは、脱フッ化水素化であるといえ、同プロセスにおける水酸化カリウムは脱ハロゲン化水素化剤として作用するものであることは明らかである。
さらに、甲4発明の「(ヒドロ)フルオロプロペン」は本件発明14の「フルオロオレフィン」に相当する。
したがって、本件発明14と甲4発明とは、
「(a)1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)又は1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)を、脱ハロゲン化水素化剤であるKOHの存在下で脱ハロゲン化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFP-1225ye)を生成させ;
ることを含む、フルオロオレフィンの製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点12>
フルオロオレフィンの製造方法について、本件発明14が、「(b)水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物並びに溶解した有機化合物を含む反応流を排出し;
(c)前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を回収し;
(d)場合によっては前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物に含まれ工程(c)で回収されたKFをKOHに転化させる;」ことを含むものであるのに対し、甲4発明は、そのような特定がされていない点

<相違点13>
フルオロオレフィンの製造方法について、本件発明14が、「工程(c)が、前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(a)に再循環することを含む」ものであるのに対し、甲4発明は、そのような特定がされていない点

上記相違点について検討する。
<相違点13>について
この相違点は、相違点7と同様のものであるところ、上記(ア)cで述べたのと同様の理由により、甲4発明に相違点13に係る技術的事項を採用することが、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

よって、相違点12について検討するまでもなく、本件発明14は、甲4に記載された発明及び甲1?甲3に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)本件発明15?17について(理由ア-1?ア-3について)
本件発明15?17は本件発明14を技術的にさらに限定したものであるから、本件発明14が、甲1に記載された発明及び甲2?甲4に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲2に記載された発明及び甲1、甲3及び甲4に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲4に記載された発明及び甲1?甲3に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明15?17は、甲1に記載された発明及び甲2?甲4に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲2に記載された発明及び甲1、甲3及び甲4に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲4に記載された発明及び甲1?甲3に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(オ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲1、甲2及び甲4に記載された発明について、当審が認定した上記甲1発明、甲2発明及び甲4発明とは異なる発明が記載されていると主張するが、特許異議申立人は、甲1、甲2及び甲4それぞれの各所に記載された事項を組み合わせて1つの発明とするものであり、そのような発明が甲1、甲2及び甲4に記載されているとまではいえない。
仮に特許異議申立人が主張する発明が記載されているとしても、特許異議申立人も相違点であるとする、「脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(b)に再循環する」、「脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(a)に再循環する」との点が、当業者が容易になし得た事項であるとはいえないことは上述のとおりである。
したがって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(3)理由イ-1?イ-2について
ア 甲各号証の記載事項
甲7及び甲8には、以下の事項が記載されている。

甲7(訳文で示す(図を除く)。):
7a)「本発明の対象は、下記の(i)?(iv)の段階:
(i) 反応物用の少なくとも一つの入口と少なくとも一つの出口とを備えた撹拌反式応器内で、3?6つの炭素原子と、少なくとも2つのフッ素原子と、少なくとも1つの水素原子とを有する少なくとも一種の化合物(ただし、少なくとも一つの水素原子と一つのフッ素原子は互いに隣接する炭素原子上に位置している)を水溶性反応媒体中で水酸化カリウムと接触させて、(ハイドロ)フルオロオレフィン化合物を作り、それを気体の形で反応媒体および弗化カリウムから分離し、
(ii) 第2の反応装置中で段階(i)で作られた弗化カリウムを水溶性媒質中での水酸化カルシウムと接触させて水酸化カリウムとし、弗化カルシウムを沈澱させ、
(iii) 段階(ii)で反応媒体から沈澱させた弗化カルシウムを分離し、
(iv)必要に応じて、水酸化カリウムの濃度を調整した後に反応媒体を段階(i)へ再循環させる、
を有する連続的または半連続的に(ハイドロ)フルオロオレフィン化合物を製造する方法において、
段階(ii)の反応媒体中に存在する水酸化カリウムが媒体の水と水酸化カリウム混合物の重量に対して10?35重量%で存在することを特徴とする方法にある。」(3頁8?26行)

7b)「すなわち、段階(i)で1,1,1,2,3- ペンタフルオロプロパンをKOHでデハイドロフルオロ化して2,3,3,3- テトラフルオロプロペンを得るか、および/または、1,1,1,2,3,3- ヘキサフルオロプロパンをKOHをデハイドロフルオロ化して1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを得ることができる。1,2,3,3,3- ペンタフルオロプロペンはシスおよび/またはトランス異性体でもよい。」(4頁25?28行)

7c)「段階(ii)の反応は撹拌式反応器または流動層式反応器で、水酸化カルシウムを好ましくは水に懸濁して段階(i)からの弗化カリウムと反応させて実行できる。反応温度は広範囲で変えることがきるが、経済的理由から50?150℃の間、好ましくは70?120℃の間、有利には70?100℃の間にする。」(5頁13?18行)

7d)「段階(ii)には段階(i)に由来する水と、水酸化カリウムと、弗化カリウムとから成る反応媒体を介して弗化カリウムを送るのが有利である。段階(i)の弗化カリウムは溶解するか、懸濁させることができる。弗化カリウムは段階(i)からの反応媒体の重量の4?45重量%にするのが好ましい。
段階(ii)では2モルの弗化カリウムを1モルの水酸化カルシウムと反応させて1モルの弗化カリウムと2モルの水酸化カリウムにする。この水酸化カリウムの生成によって再濃縮の必要性が減り、従って、プロセスへの水酸化カリウムの添加量を減らすことができる。」(5頁22?31行)

7e)「段階(ii)で沈澱した弗化カルシウムは例えば濾過および/または静置分離で反応媒体から分離できる。静置段階は濾過の前に置くことができる。分離した弗化カルシウムは水で洗浄できる。」(6頁1?4行)

7f)「弗化カルシウムを分離後、反応媒体を、弗化カルシウムの洗浄で生じた水性溶液は一緒に、またはそれ無しに、必要に応じて水酸化カリウム含有量を調整した後に、段階(i)へ再循環することができる。」(6頁9?11行)

7g)「実施例4
図1は本発明の実施例を示す。加熱/冷却具と反応媒体の温度測定具とを備えた撹拌式反応器(1)には水中に65重量%のKOHを含む水とKOHの混合物が入れてある。この混合物中へ水中に60重量%のKOHが存在する溶解したKOH(2)溶液と、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(3)とを連続的に供給する。度は150℃に維持し、反応装置の圧力は1.2絶対バールにする。反応装置の蓋に設けたオリフィス(4)を介してガス生成物を取り出し、ガス流中に存在する水は凝縮(13)によって除去する。
反応装置(1)から出た材料(5)は、水(6)で希釈され、KOHの比率を30%にする。この混合物を反応装置(7)の入口へ送り、水溶性媒質中に懸濁可能な弗化カリウムが反応装置(7)へ供給される。反応装置(7)にはライン(8)を介して水酸化カルシウムの15重量%の懸濁液が供給される。反応装置(7)は70?80℃の温度に維持される。
反応装置(7)の出口はフィルタ(9)に接続され、反応媒体から弗化カルシウムが分離され、水(10)で洗浄される。弗化カルシウムから分離された水溶性媒質はKOH濃度を調整した後に反応装置(1)へ再循環される。その後、弗化カルシウムの洗浄で生じた水相は水酸化カルシウムの懸濁液を製造するタンク(16)へ再循環される。
反応装置(1)へ供給する溶解したKOH混合物は50重量%のKOH水溶液(14)および濾過(9)で得られた水溶液の蒸発(水(15)の除去)によって製造される。
反応装置(1)出口での1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンのモル転化率は98%以上であり、1,1,1,2,3- ペンタフルオロプロペンの選択率は99%以上である。反応装置(7)出口での水酸化カルシウムのモル転化率は85%以上である。」(7頁16行?8頁10行)

7h)「

」(図1/1)

甲8(訳文で示す。):
8a)「本発明は、下記の段階から成ることを特徴とする、少なくとも一種の下記式(Ia):
CF_(3)CF=CFR (Ia)
(ここで、Rは水素原子またはフッ素原子を表す)
の化合物から下記式(I)のフルオロプロペンの製造方法:
CF_(3)CF=CHR (I)
(ここで、RはIaと同じ意味を有する)
を製造する方法を提供する:
(i) 断熱反応器中で、触媒の存在下に、少なくとも一種の式(Ia)の化合物を超化学量輪量(superstoichiometric)の水素で水素化して、少なくとも一種のヒドロフルオロプロパンを作り、
(ii) 段階(i)の断熱反応器からの流れを部分的に凝縮させて、未反応の水素と段階(i)で形成されたヒドロフルオロプロパンの一部とから成る気相成分と、段階(i)で形成された残りのヒドロフルオロプロパンから成る液相成分とを作り、気相成分は上記水素化段階へ再循環させ、
(iii) 撹拌反応器中に存在する水性反応媒体中の水酸化カリウム(KOH)を用いて、段階(ii)の液体成分からのヒドロフルオロプロパンをデヒドロフルオロ化して式(I)のフルオロプロペンを作り、
(iv) 式(I)のフルオロプロペンを精製する。
・・・
本発明方法はバッチ、半連続法または連続法で実行できる。連続的に実行するのが有利である。」(4頁18行?5頁25行)

8b)「水素化される化合物がヘキサフルオロプロペンの場合、このデヒドロフルオロ化段階では1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)を水酸化カリウムと反応させて1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンにする。
水素化される化合物が1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンの場合、このデヒドロフルオロ化段階では1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)を水酸化カリウムと反応させて、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンにする。

水酸化カリウムを再生させる処理段階
デヒドロフルオロ化段階中にフッ化カリが生じる。本発明方法はその処理段階を有する。この処理段階では、デヒドロフルオロ化段階で生じたフッ化カリウムを水酸化カルシウムと接触させる。その時の水溶性反応媒体の温度は50?150℃、有利には70?120℃、より有利には70?100℃にするのが好ましい。
この処理段階は、デヒドロフルオロ化段階から来るフッ化カリウム、水酸化カリウムおよび水から成る反応媒体の一部(必要に応じて希釈後に)を収容した反応装置中に水酸化カルシウムを供給して実行するのが好ましい。
」(8頁16行?9頁10行)

8c)「この処理段階を水酸化カルシウムで行うことで、水酸化カリウムを再生してデヒドロフルオロ化段階へ再循環することができ、分離後、例えば濾過および沈殿処理後に、有価物の商業的品質のフッ化カルシウムを回収できる。」(9頁19?23行)

8d)「以下、本発明の実施例を示すが、本発明がこれら実施例に限定されるものではない。
HFPの水素化でHFC-236eaを作り、HFC-236eaをデヒドロフルオロ化してHF0-1225yeを合成する、HF0-1225yeの合成。」(11頁5?9行)

8e)「文献米国特許第US-P-5,396,000号明細書には1,1,1,2,3,3- ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)の触媒デヒドロ化で1,2,3,3,3- ペンタフルオロ-l-プロペン(HFO-1225ye)を作り、それをさらに水素化-フッ素化して所望の化合物を製造する1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンの製造方法餓鬼されている。HFC-236eaを脱水素ハロゲン化してHFO-1225yeにする反応は気相で実行される。一つの実施例では反応生成物化合物が次の反応装置へ直接運ばれ、そこで化合物HFO-1225yeを水素化してHFC-245ebにする。この文献にはヘキサフルオロプロピレン(HFP)の水素化によって化合物HFC-236eaを得る方法も記載されている。
文献米国特許第US-P-5679875号明細書には1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)の触媒デヒドロフルオロ化によって1,2,3,3,3-ペンタフルオロ-l- プロペン(HF0-1225ye)を作り、さらに水素化して所望の化合物を製造する1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンの製造方法が記載されている。この反応は気相で実行される。この文献にはヘキサフルオロプロピレン(HFP)の水素化によって化合物HFC-236eaを得る方法も記載されている。」(2頁20行?3頁6行)

イ 甲7及び甲8明細書等に記載された発明
(ア)甲7明細書等
上記摘示7aに記載の「3?6つの炭素原子と、少なくとも2つのフッ素原子と、少なくとも1つの水素原子とを有する少なくとも一種の化合物(ただし、少なくとも一つの水素原子と一つのフッ素原子は互いに隣接する炭素原子上に位置している)」として、摘示7bに「1,1,1,2,3- ペンタフルオロプロパン」及び「1,1,1,2,3,3- ヘキサフルオロプロパン」が記載され、同じく摘示7aに記載の「(ハイドロ)フルオロオレフィン化合物」として、摘示7bに「2,3,3,3- テトラフルオロプロペン」及び「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン」が記載されている。
したがって、上記摘示7a?7h、特に7a、7b、7gの記載からみて、甲7明細書等には、
「(i) 反応物用の少なくとも一つの入口と少なくとも一つの出口とを備えた撹拌反式応器内で、1,1,1,2,3- ペンタフルオロプロパン、1,1,1,2,3,3- ヘキサフルオロプロパンを水溶性反応媒体中で水酸化カリウムと接触させて、それぞれ、2,3,3,3- テトラフルオロプロペン、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを作り、それを気体の形で反応媒体および弗化カリウムから分離し、
(ii) 第2の反応装置中で段階(i)で作られた弗化カリウムを水溶性媒質中での水酸化カルシウムと接触させて水酸化カリウムとし、弗化カルシウムを沈澱させ、
(iii) 段階(ii)で反応媒体から沈澱させた弗化カルシウムを分離し、
(iv)必要に応じて、水酸化カリウムの濃度を調整した後に反応媒体を段階(i)へ再循環させる、
を有する連続的または半連続的に(ハイドロ)フルオロオレフィン化合物を製造する方法において、
段階(ii)の反応媒体中に存在する水酸化カリウムが媒体の水と水酸化カリウム混合物の重量に対して10?35重量%で存在することを特徴とする方法。」の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されていると認める。

(イ)甲8明細書等
上記摘示8aに記載の式(Ia)の化合物として、摘示8bに「ヘキサフルオロプロペン」及び「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン」が記載され、摘示8aのヒドロフルオロプロパンとして、摘示8bに「1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)」及び「1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)」が記載され、摘示8aの式(I)の化合物として、摘示8bに「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン」及び「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」が記載されている。
したがって、上記摘示8a?8e、特に8a及び8bの記載からみて、甲8明細書等には、
「下記の段階から成ることを特徴とする、ヘキサフルオロプロペン、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンから、それぞれ、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを製造する方法:
(i) 断熱反応器中で、触媒の存在下に、ヘキサフルオロプロペン、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを超化学量輪量(superstoichiometric)の水素で水素化して、それぞれ、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)を作り、
(ii) 段階(i)の断熱反応器からの流れを部分的に凝縮させて、未反応の水素と段階(i)で形成された1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)の一部とから成る気相成分と、段階(i)で形成された残りの1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)から成る液相成分とを作り、気相成分は上記水素化段階へ再循環させ、
(iii) 撹拌反応器中に存在する水性反応媒体中の水酸化カリウム(KOH)を用いて、段階(ii)の液体成分からの1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)をデヒドロフルオロ化して、それぞれ、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを作り、
(iv) 1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを精製する。」の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されていると認める。

ウ 判断
(ア)本件発明7について
理由イ-2について(甲8に係る出願が引用出願)
本件発明7と甲8発明とを対比する。
本件発明7は、ヘキサフルオロプロピレンを出発材料として、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを製造する方法であるといえる。
一方、甲8発明は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを製造する方法を包含するものではあるものの、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを製造する際の出発材料は、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンであるといえる(摘示8b)。
この点を考慮して、対比する。
甲8発明の段階(iii)について、「1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)」、「1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)」、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」、「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン」はぞれぞれ、本件発明7の「1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン」、「1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン」、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」、「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン」に相当する。また、甲8発明の「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」、「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン」は生成物であるといえる。
甲8発明の「デヒドロフルオロ化」は本件発明7の「脱フッ化水素化」に相当し、甲8発明において、水酸化カリウム(KOH)を用いてデヒドロフルオロ化しているから、水酸化カリウム(KOH)が脱ハロゲン化水素化剤として作用するものであることは明らかであり、当該「水酸化カリウム(KOH)」は本件発明7の「KOHを含む脱ハロゲン化水素化剤」に相当する。
甲8明細書等には、方法を連続法で実行することが記載されているから(摘示8a)、甲8発明において流れが生成しているといえる。
したがって、甲8発明の「(iii) 撹拌反応器中に存在する水性反応媒体中の水酸化カリウム(KOH)を用いて、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)をデヒドロフルオロ化して、それぞれ、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを作」ることは、本件発明7の「(b)1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを、KOHを含む脱ハロゲン化水素化剤の存在下で脱フッ化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを含む生成物流を生成させ」ることに相当する。
したがって、本件発明7と甲8発明とは、「(b)1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを、KOHを含む脱ハロゲン化水素化剤の存在下で脱フッ化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを含む生成物流を生成させ:
ることを含む、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点14>
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法について、本件発明7が、「(a)ヘキサフルオロプロピレンを含む出発材料流を、還元剤と接触させることによって水素化して、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを含む中間体流を生成させ」ることを含むのに対し、甲8発明は、そのような特定がされていない点

<相違点15>
上記した一致点に係る1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンについて、甲8発明は、「段階(ii)の液体成分からの」ものであるのに対して、本件発明7は、そのような特定がされていない点

<相違点16>
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法について、本件発明7が、「(c)生成物流から、水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を含む第2の生成物流を引き抜き;
(d)前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を回収し;そして
(e)場合によっては、精製した脱ハロゲン化水素化剤を濃縮して、脱ハロゲン化水素化反応に再循環して戻す;
ことを含」み、「工程(d)が、前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(b)に再循環することを含む」ものであるのに対して、甲8発明はそのような特定がされていない点

<相違点17>
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法について、甲8発明が、「(i) 断熱反応器中で、触媒の存在下に、ヘキサフルオロプロペン、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを超化学量輪量(superstoichiometric)の水素で水素化して、それぞれ、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)を作り、
(ii) 段階(i)の断熱反応器からの流れを部分的に凝縮させて、未反応の水素と段階(i)で形成された1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)の一部とから成る気相成分と、段階(i)で形成された残りの1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)から成る液相成分とを作り、気相成分は上記水素化段階へ再循環させ、」、「(iv) 1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを精製する」ものであるのに対し、本件発明7は、そのような特定がされていない点

上記相違点について検討する。
<相違点14>について
上記したとおり、甲8明細書等には、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを製造する際の出発材料は、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンであることが記載されており、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを製造する際に、出発材料としてヘキサフルオロプロピレンを用いることについての記載はない。
そして、この相違点が課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない。
したがって、この点は実質的な相違点である。

<相違点16>について
本件発明7の工程(d)について、甲8明細書等には、水酸化カリウムを再生させる処理段階として、デヒドロフルオロ化段階で生じたフッ化カリウムを水酸化カルシウムと接触させること、この処理段階は、デヒドロフルオロ化段階から来るフッ化カリウム、水酸化カリウムおよび水から成る反応媒体の一部(必要に応じて希釈後に)を収容した反応装置中に水酸化カルシウムを供給して実行すること、この処理段階を水酸化カルシウムで行うことで、水酸化カリウムを再生してデヒドロフルオロ化段階へ再循環することができ、分離後、例えば濾過および沈殿処理後に、有価物の商業的品質のフッ化カルシウムを回収できることが記載されている(摘示8b、8c)ものの、本件発明7の工程(d)に係る、脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(b)に再循環することについて記載はない。
そして、上記(2)ウ(ア)aの「<相違点1>について」で述べたのと同様の理由により、甲5及び甲6の記載を参酌しても、甲8明細書等に記載のフッ化カルシウムの回収が、上記本件発明7の工程(d)の、脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を脱ハロゲン化水素化工程に再循環することにあたるとはいえない。
そして、この点が課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない。
したがって、この点は実質的な相違点である。

よって、相違点15、17について検討するまでもなく、本件発明7は、甲8明細書等に記載された発明と同一ではない。

(イ)本件発明8について
本件発明8は、本件発明7を引用し、技術的にさらに限定するものであるから、本件発明7が甲8明細書等に記載された発明と同一ではない以上、本件発明8は、甲8明細書等に記載された発明と同一ではない。

(ウ)本件発明14について
a 理由イ-1について(甲7に係る出願が引用出願)
本件発明14と甲7発明とを対比する。
甲7発明の「1,1,1,2,3- ペンタフルオロプロパン」、「1,1,1,2,3,3- ヘキサフルオロプロパン」、「2,3,3,3- テトラフルオロプロペン」、「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン」は、それぞれ、本件発明14の「1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)」、「1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)」、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)」、「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFP-1225ye)」に相当する。
また、甲7発明は、「1,1,1,2,3- ペンタフルオロプロパン、1,1,1,2,3,3- ヘキサフルオロプロパンを水溶性反応媒体中で水酸化カリウムと接触させて、それぞれ、2,3,3,3- テトラフルオロプロペン、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを作」るものであるところ、この反応は脱ハロゲン化水素化反応であり、水酸化カリウムが脱ハロゲン化水素化剤として作用するものであることは明らかである。
したがって、甲7発明の「(i) 反応物用の少なくとも一つの入口と少なくとも一つの出口とを備えた撹拌反式応器内で、1,1,1,2,3- ペンタフルオロプロパン、1,1,1,2,3,3- ヘキサフルオロプロパンを水溶性反応媒体中で水酸化カリウムと接触させて、それぞれ、2,3,3,3- テトラフルオロプロペン、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを作」ることは、本件発明14の「(a)1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)又は1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)を、脱ハロゲン化水素化剤であるKOHの存在下で脱ハロゲン化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFP-1225ye)を生成させ」ることに相当する。
甲7発明は、段階(i)で、2,3,3,3- テトラフルオロプロペン、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを気体の形で反応媒体および弗化カリウムから分離するものであるところ、甲7明細書等には、反応媒体は、水、水酸化カリウム、フッ化カリウムとから成ることが記載されているから(摘示7d)、当該反応媒体は、本件発明14の「水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物」に相当する。また、甲7発明は、連続的な製造方法を包含し、連続的な製造方法の場合に、反応により生成した生成物が流れを生成することも明らかであるから、甲7発明の上記反応媒体およびフッ化カリウムにより生成する流れは、反応流であるといえる。
したがって、甲7発明の「反応媒体および弗化カリウムから分離」することは、本件発明14の「(b)水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を含む反応流を排出し;(c)前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を回収」することに相当する。
甲7発明は、段階(ii)で、「第2の反応装置中で段階(i)で作られた弗化カリウムを水溶性媒質中での水酸化カルシウムと接触させて水酸化カリウムと」するものであるところ、これは、本件発明14の「(d)場合によっては前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物に含まれ工程(c)で回収されたKFをKOHに転化させる」ことに相当する。
甲7発明は、段階(iv)で、「(iv)必要に応じて、水酸化カリウムの濃度を調整した後に反応媒体を段階(i)へ再循環させる」ものであり、上記のとおり、反応媒体は、本件発明14の「脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物」に相当するところ、再循環させる前に何らかの処理をしているという限りにおいて、本件発明14の「工程(c)が、前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(a)に再循環する」ことに共通する。
甲7発明の「(ハイドロ)フルオロオレフィン化合物を製造する方法」は、本件発明14の「フルオロオレフィンの製造方法」に相当する。
したがって、本件発明14と甲7発明とは、
「(a)1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)又は1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)を、脱ハロゲン化水素化剤であるKOHの存在下で脱ハロゲン化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFP-1225ye)を生成させ;
(b)水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を含む反応流を排出し;
(c)前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を回収し;
(d)場合によっては前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物に含まれ工程(c)で回収されたKFをKOHに転化させる;
ことを含む、フルオロオレフィンの製造方法であって、工程(c)が、前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を処理したものを工程(a)に再循環することを含む、方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点18>
工程(b)の反応流について、本件発明14が、「有機化合物を含む」と特定しているのに対し、甲7発明は、そのような特定がされていない点

<相違点19>
工程(c)における再循環する脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(a)に再循環する点について、本件発明14が、「前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(a)に再循環する」ものであるのに対して、甲7発明は、「必要に応じて、水酸化カリウムの濃度を調整した後に反応媒体を段階(i)へ再循環させる」点

<相違点20>
甲7発明は、さらに、段階(ii)において「弗化カルシウムを沈澱させ」ること、「(iii) 段階(ii)で反応媒体から沈澱させた弗化カルシウムを分離」すること、「段階(ii)の反応媒体中に存在する水酸化カリウムが媒体の水と水酸化カリウム混合物の重量に対して10?35重量%で存在すること」を特定しているのに対し、本件発明14は、そのような特定がされていない点

上記相違点について検討する。
<相違点19>について
本件発明14の工程(c)について、甲7明細書等には、段階(ii)及び(iii)について、段階(ii)で沈澱した弗化カルシウムは例えば濾過および/または静置分離で反応媒体から分離できること、静置段階は濾過の前に置くことができること、分離した弗化カルシウムは水で洗浄できること、弗化カルシウムを分離後、反応媒体を、弗化カルシウムの洗浄で生じた水性溶液は一緒に、またはそれ無しに、必要に応じて水酸化カリウム含有量を調整した後に、段階(i)へ再循環することができることが記載されている(摘示7e、7f)ものの、本件発明14の工程(c)に係る、脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(a)に再循環することについて記載はない。
そして、上記(2)ウ(ア)aの「<相違点1>について」で述べたのと同様の理由により、甲5及び甲6の記載を参酌しても、甲7明細書等に記載の弗化カルシウムの分離が、上記本件発明14の工程(c)の「脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(a)に再循環する」ことにあたるとはいえない。
そして、この点が課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない。
したがって、この点は実質的な相違点である。

よって、相違点17、19について検討するまでもなく、本件発明14は、甲7明細書等に記載された発明と同一ではない。

b 理由イ-2について(甲8に係る出願が引用出願)
本件発明14と甲8発明とを対比する。
甲8発明の段階(iii)について、「1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)」、「1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)」、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」、「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン」はぞれぞれ、本件発明14の「1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)」、「1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)」、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)」、「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFP-1225ye)」に相当する。
甲8発明の「デヒドロフルオロ化」は本件発明14の「脱ハロゲン化水素化」に相当し、甲8発明において、水酸化カリウム(KOH)を用いてデヒドロフルオロ化しているから、水酸化カリウム(KOH)が脱ハロゲン化水素化剤として作用するものであることは明らかであり、当該「水酸化カリウム(KOH)」は本件発明14の「脱ハロゲン化水素化剤であるKOH」に相当する。
したがって、甲8発明の「(iii) 撹拌反応器中に存在する水性反応媒体中の水酸化カリウム(KOH)を用いて、段階(ii)の液体成分からの1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)をデヒドロフルオロ化して、それぞれ、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを作」ることは、本件発明14の「(a)1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)又は1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)を、脱ハロゲン化水素化剤であるKOHの存在下で脱ハロゲン化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFP-1225ye)を生成させ」ることに相当する。
甲8発明は「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを製造する方法」に関するものであるところ、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンはいずれも、フルオロオレフィンといえるから、本件発明14の「フルオロオレフィンの製造方法」に相当する。
したがって、本件発明14と甲8発明とは、
「(a)1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)又は1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)を、脱ハロゲン化水素化剤であるKOHの存在下で脱ハロゲン化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFP-1225ye)を生成させ;
ることを含む、フルオロオレフィンの製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点21>
上記した一致点に係る1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンについて、甲8発明は、「段階(ii)の液体成分からの」ものであるのに対して、本件発明14は、そのような特定がされていない点

<相違点22>
フルオロオレフィンの製造方法について、本件発明14が、「(b)水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物並びに溶解した有機化合物を含む反応流を排出し;
(c)前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を回収し;
(d)場合によっては前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物に含まれ工程(c)で回収されたKFをKOHに転化させる;
ことを含」み、「工程(c)が、前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(a)に再循環することを含む」のに対し、甲8発明は、そのような特定がされていない点

<相違点23>
フルオロオレフィンの製造方法について、甲8発明が、「(i) 断熱反応器中で、触媒の存在下に、ヘキサフルオロプロペン、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを超化学量輪量(superstoichiometric)の水素で水素化して、それぞれ、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)を作り、
(ii) 段階(i)の断熱反応器からの流れを部分的に凝縮させて、未反応の水素と段階(i)で形成された1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)の一部とから成る気相成分と、段階(i)で形成された残りの1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)から成る液相成分とを作り、気相成分は上記水素化段階へ再循環させ、」、「(iv) 1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを精製する」ものであるのに対し、本件発明14は、そのような特定がされていない点

上記相違点について検討する。
<相違点22>について
本件発明14の工程(c)について、甲8明細書等には、水酸化カリウムを再生させる処理段階として、デヒドロフルオロ化段階で生じたフッ化カリウムを水酸化カルシウムと接触させること、この処理段階は、デヒドロフルオロ化段階から来るフッ化カリウム、水酸化カリウムおよび水から成る反応媒体の一部(必要に応じて希釈後に)を収容した反応装置中に水酸化カルシウムを供給して実行すること、この処理段階を水酸化カルシウムで行うことで、水酸化カリウムを再生してデヒドロフルオロ化段階へ再循環することができ、分離後、例えば濾過および沈殿処理後に、有価物の商業的品質のフッ化カルシウムを回収できることが記載されている(摘示8b、8c)ものの、本件発明14の工程(c)に係る、脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(a)に再循環することについて記載はない。
そして、上記(2)ウ(ア)aの「<相違点1>について」で述べたのと同様の理由により、甲5及び甲6の記載を参酌しても、甲8明細書等に記載のフッ化カルシウムの回収が、上記本件発明14の工程(c)の「脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(a)に再循環する」ことにあたるとはいえない。
そして、この点が課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない。
したがって、この点は実質的な相違点である。

よって、相違点21、23について検討するまでもなく、本件発明14は、甲8明細書等に記載された発明と同一ではない。

(エ)本件発明15?17について
本件発明15?17は、本件発明14を引用し、技術的にさらに限定するものであるから、本件発明14が甲7明細書等に記載された発明と同一ではなく、甲8明細書等に記載された発明と同一ではない以上、本件発明15は、甲7明細書等に記載された発明と同一ではなく、本件発明16及び17は、甲7明細書等に記載された発明と同一ではなく、甲8明細書等に記載された発明と同一ではない。

(オ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲7明細書等及び甲8明細書等に記載された発明について、当審が認定した上記甲7発明及び甲8発明とは異なる発明が記載されていると主張するが、特許異議申立人は、甲7明細書等及び甲8明細書等それぞれの各所に記載された事項を組み合わせて1つの発明とするものであり、そのような発明が甲7明細書等及び甲8明細書等に記載されているとまではいえない。
仮に特許異議申立人が主張する発明が記載されているとしても、特許異議申立人も相違点であるとする、「脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(b)に再循環する」、「脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(a)に再循環する」との点が、実質的な相違点であることは上述のとおりである。
したがって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(4)理由ウについて
特許異議申立人が主張する理由は、
a)請求項7に、「工程(d)が、前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し」との記載があるが、工程(c)においては、脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物は,水、KOH及びKFを含むと記載されており、「有機化合物」がどこに由来するのか不明であり、
a-1)請求項8に、「溶解した有機化合物を更に含む」との記載があるが、請求項8の「更に」との記載から、請求項7記載の「有機化合物」は、請求項8に記載の「溶解した有機化合物」とは異なるものと認められるが、この場合、請求項7に記載の「有機化合物」は何を指すのか不明であり、
したがって、請求項7及び請求項7を引用する請求項8の記載は不明瞭であり、
b)請求項14に、「工程(c)が、前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し」との記載があるが、工程(b)で排出された溶解した有機化合物は工程(c)で回収されておらず、除去される「有機化合物」がどこに由来するのか不明であり、さらに、「脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物」との記載について、水素化剤に由来するとは何を意味するのか不明である、
ことを根拠とするものである。

以下に検討する。
a)について
請求項7には、「(b)1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを、KOHを含む脱ハロゲン化水素化剤の存在下で脱フッ化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを含む生成物流を生成させ:(c)生成物流から、水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を含む第2の生成物流を引き抜き」と記載されており、「脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物」は「水、KOH及びKFを含む」とされているから、その他の成分を含有することを否定するものではない。
また、「脱ハロゲン化水素化剤」は、工程(b)において、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンの脱フッ化水素化による2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンの生成に用いられるものであり、当該反応の生成物流から抜き出されたものが「脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物」を含む第2の生成物流であるから、当該「脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物」は、未反応の有機化合物である1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン等を含有する場合があるといえる。
このように解することは、本件明細書に、
「【0025】
[0026]幾つかの態様においては、消費された脱ハロゲン化水素化剤の流れは、HFC-236ea及び/又はHFC-245ebなど(しかしながらこれらに限定されない)の1種類以上の溶解した有機化合物を更に含む。1以上の公知の分離方法を用いて、かかる有機化合物から消費された脱ハロゲン化水素化剤を取り除くことができる。」、
「【0064】
[0068]消費された脱ハロゲン化水素化剤を含む生成物流は、通常はそれと共に若干の溶解している有機化合物(例えばHFC-236ea及び/又はHFC-245eb)を同伴している。撹拌器を停止し、撹拌が停止している時間中に消費された脱ハロゲン化水素化剤を取り出すことによって、脱ハロゲン化水素化剤及びかかる有機化合物の分離を容易にすることができる。消費された脱ハロゲン化水素化剤及び溶解している有機化合物を容器中に回収し、ここで1以上の上記の分離方法を用いて脱ハロゲン化水素化剤及び有機化合物の更なる分離を行うことができる。例えば、1つの非限定的な態様においては、蒸留、即ち有機化合物を236ea及び/又は245ebの沸点の直ぐ上の温度に加熱して、それによって有機化合物を消費されたKOHから分別することによって、KOHを分離する。或いは、相分離器を用いて2つの相の間で分離させることができる。有機化合物を含まないKOH単離物は、反応器に直ちに再循環することができ、或いは濃縮して、濃縮した溶液を反応器に戻すことができる。」、
「【0066】
[0070]図6を参照すると、本発明の一態様においては、脱ハロゲン化水素化工程は、それに関連して、少なくとも第1の流路又は供給流5A、少なくとも第2の流路又は供給流5B、及び少なくとも第3の流路又は供給流8を有し、それぞれの流路が独立して運転可能である反応工程Cを含む。かかる態様においては、第1の流路又は供給流5AはHFO-236eaを含み、好ましくはHFO-236eaの実質的に全部を反応工程Cに供給し、第2の流路又は供給流5BはHFC-245ebを含み、好ましくはHFO-245ebの実質的に全部を反応工程Cに供給することが好ましい(多くの態様において、供給流5Bは実質的に0の流量を有すると認められる)。流路又は流れ8は、再循環流を反応工程中に導入するための流路である。幾つかの態様においては、再循環流8の実際の流量は0であるが、好ましい態様においては、再循環流は、冷却及び/又は分離した後の反応生成物流6Aの一部を含む比較的低温の流れを含む。再循環流8の内容物は、存在する場合には、未反応の有機化合物(例えば、HFC-236ea、HFC-245eb)、並びに消費した脱ハロゲン化水素化剤を含んでいてよい。本明細書において規定するようにそれぞれを精製又は回収して再循環することができる。」と記載されていることとも整合する(下線は当審が付与。以下同様。)。
そして、未反応の有機化合物である1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン等は、工程(a)の出発原材料流に由来することは明らかである。
したがって、請求項7の「工程(e)が、前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し」との記載に不明瞭な点はない。

a-1)について
請求項8において特定される有機化合物は、「1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)及び/又は1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)からなる群から選択される溶解した」ものであるところ、当該請求項8の「第2の生成物流が、・・・溶解した有機化合物を更に含む」との記載から、請求項7に記載の「有機化合物」は、請求項8に記載の上記「溶解した有機化合物」とは異なる化合物であると解釈できるとしても、請求項7には、「水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を含む第2の生成物流」と記載されているから、脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物及び第2の生成物流が、請求項7に記載の有機化合物以外の化合物を含有することを否定するものではない。
そして、上記「a)について」で摘示した本件明細書の【0025】、【0064】、【0066】の記載からみて、本件明細書には、脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物は、HFC-236ea及び/又はHFC-245eb以外の有機化合物を含有する場合があることが記載されているといえ、請求項7における「有機化合物」はそれら化合物(例えば、生成物である2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンが考えられる。)を指すといえる。
したがって、請求項7の「有機化合物」との記載に不明瞭な点はない。
よって、これらa)、a-1)の理由によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。

b)について
上記「a)について」で摘示した本件明細書の【0025】、【0064】、【0066】の記載からみて、本件明細書には、脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物は、HFC-236ea及び/又はHFC-245ebを含めた有機化合物を含有する場合があることが記載されているといえ、また、当該有機化合物が工程(a)の出発原材料流に由来することは明らかである。
さらに、「脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物」における「由来」とは、脱ハロゲン化水素化剤を請求項に記載の工程に付すことにより生じることを意味すると解される。
したがって、請求項14の「工程(c)が、前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し」との記載に不明瞭な点はない。
よって、この理由によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。

(5)理由エ及びオについて
特許異議申立人が主張する理由は、
請求項7、14の「脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物」との記載について、どのような反応経路に由来するのか特定されていないため、あらゆる反応経路を包含するが、発明の詳細な説明には、特定の反応経路しか説明されていないことを根拠とし、請求項7及び請求項7を引用する請求項8、請求項14及び請求項14を引用する請求項15?17について、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合せず、発明の詳細な説明の記載が同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものである
と解される。

以下に検討する。
請求項7には、「(a)ヘキサフルオロプロピレンを含む出発材料流を、還元剤と接触させることによって水素化して、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを含む中間体流を生成させ;
(b)1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを、KOHを含む脱ハロゲン化水素化剤の存在下で脱フッ化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを含む生成物流を生成させ:
(c)生成物流から、水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を含む第2の生成物流を引き抜き;
(d)前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を回収し」と記載されているから、請求項7における「脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物」は、請求項7に記載の工程(a)及び工程(b)を経た生成物流から、引き抜かれた第2の生成物流中に存在するものといえ、「脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物」がどのような反応に由来するかが請求項7において特定されているといえる。
また、請求項14には、「(a)1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)又は1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)を、脱ハロゲン化水素化剤であるKOHの存在下で脱ハロゲン化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFP-1225ye)を生成させ;
(b)水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物並びに溶解した有機化合物を含む反応流を排出し;
(c)前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を回収し」と記載されているから、請求項14における「脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物」は、請求項14に記載の工程(a)の後に排出される反応流中に存在するものといえ、「脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物」がどのような反応に由来するかが請求項14において特定されているといえる。
したがって、請求項7、14について、特許異議申立人の主張はその前提において誤りがあるといえる。
よって、請求項7、8、14?17について、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合せず、発明の詳細な説明の記載が同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていないということはできない。
したがって、この理由によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明7?8、14?17に係る特許は、当審が平成31年3月28日付けで通知した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によって取り消すことができない。
他に本件発明7?8、14?17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項1?6、9?13に係る特許は本件訂正により削除されているから、請求項1?6、9?13に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(a)ヘキサフルオロプロピレンを含む出発材料流を、還元剤と接触させることによって水素化して、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを含む中間体流を生成させ;
(b)1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを、KOHを含む脱ハロゲン化水素化剤の存在下で脱フッ化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを含む生成物流を生成させ:
(c)生成物流から、水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を含む第2の生成物流を引き抜き;
(d)前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を回収し;そして
(e)場合によっては、精製した脱ハロゲン化水素化剤を濃縮して、脱ハロゲン化水素化反応に再循環して戻す;
ことを含む、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法であって、
工程(d)が、前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(b)に再循環することを含む、方法。
【請求項8】
第2の生成物流が、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)及び/又は1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)からなる群から選択される溶解した有機化合物を更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
(削除)
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
(a)1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)又は1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb)を、脱ハロゲン化水素化剤であるKOHの存在下で脱ハロゲン化水素化して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFP-1225ye)を生成させ;
(b)水、KOH及びKFを含む脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物並びに溶解した有機化合物を含む反応流を排出し;
(c)前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を回収し;
(d)場合によっては前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物に含まれ工程(c)で回収されたKFをKOHに転化させる;
ことを含む、フルオロオレフィンの製造方法であって、工程(c)が、前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物から有機化合物を除去し、有機化合物を除去した後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(a)に再循環することを含む、方法。
【請求項15】
工程(d)を行った後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物中のKOHを濃縮して、濃縮後の前記脱ハロゲン化水素化剤由来の混合物を工程(a)の脱ハロゲン化水素化反応に再循環して戻すことを更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程(d)が存在しない、請求項14?15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
工程(d)が存在する、請求項14?15のいずれかに記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-09-26 
出願番号 特願2017-52898(P2017-52898)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C07C)
P 1 651・ 536- YAA (C07C)
P 1 651・ 161- YAA (C07C)
P 1 651・ 537- YAA (C07C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 水野 浩之  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 村上 騎見高
冨永 保
登録日 2018-07-13 
登録番号 特許第6367410号(P6367410)
権利者 ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド
発明の名称 フッ素化オレフィンを製造するための統合プロセス  
代理人 小野 新次郎  
代理人 野田 茂  
代理人 山本 修  
代理人 小野 新次郎  
代理人 宮前 徹  
代理人 鈴木 雄太  
代理人 松田 豊治  
代理人 宮前 徹  
代理人 中西 基晴  
代理人 山本 修  
代理人 中西 基晴  
代理人 松田 豊治  
代理人 鈴木 雄太  

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