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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C03C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C03C 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C03C |
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管理番号 | 1356838 |
異議申立番号 | 異議2018-700857 |
総通号数 | 240 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-12-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-10-19 |
確定日 | 2019-10-04 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6396622号発明「ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、および光学素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6396622号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?21〕について訂正することを認める。 特許第6396622号の請求項1?21に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6396622号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?21に係る特許についての出願は、平成26年9月30日に出願された特願2014-202516号の一部を平成29年10月27日に新たな出願とした特願2017-207906号の一部を平成30年1月18日に新たな出願とした特願2018-6239号の一部を平成30年8月3日に新たな出願としたものであり、平成30年9月7日にその特許権の設定登録がされ、平成30年9月26日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、平成30年10月19日付けで特許異議申立人岡田佐和(以下、「特許異議申立人1」という。)による請求項4?21に係る特許に対する特許異議の申立てがされ、平成31年3月25日付けで特許異議申立人石田祥子(以下、「特許異議申立人2」という。)による請求項1?21に係る特許に対する特許異議の申立てがされ、令和1年5月15日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和1年7月19日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、本件訂正請求に対して、特許異議申立人1から令和1年8月23日付けで意見書の提出がされ、特許異議申立人2から令和1年9月10日付けで意見書の提出がされたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(なお、訂正箇所に下線を付した。) (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1における「質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が2.9/30以上であり」との記載を、「質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が2.9/30以上9/26.6以下であり」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項4における「SiO_(2)とB_(2)O_(3)との合計含有量が25?32%、La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量が55?65%」との記載を、「SiO_(2)とB_(2)O_(3)との合計含有量が25?32%、SiO_(2)含有量が10%以下、La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量が55?65%」に訂正する。 2 訂正要件の判断 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1における「質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))」を「2.9/30以上」から「2.9/30以上9/26.6以下」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、願書に添付した明細書の段落【0063】の【表1】には、ガラスNo.14のSiO_(2)含有量が9%、SiO_(2)とB_(2)O_(3)との合計含有量が26.6%であることが記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてなされたものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項4の「SiO_(2)とB_(2)O_(3)との合計含有量」における「SiO_(2)含有量」を「10%以下」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、願書に添付した明細書の段落【0016】には、「SiO_(2)の含有量の好ましい上限は15%、より好ましい上限は10%、さらに好ましい上限は5%である。」と記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてなされたものである。 (3)一群の請求項について 訂正前の請求項2、3、5?21は、訂正前の請求項1を引用するものであり、また、訂正前の請求項5?21は、訂正前の請求項4も引用するものであるから、訂正前の請求項1?21は、一群の請求項である。 したがって、訂正事項1?2の特許請求の範囲の訂正は、この一群の請求項1?21について請求されたものである。 3 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?21〕について訂正することを認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?21に係る発明(以下、「本件発明1?21」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?21に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認める。 「【請求項1】 質量%表示で、 SiO_(2)とB_(2)O_(3)との合計含有量が25?32%、 La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量が55?65%、 La_(2)O_(3)含有量が42?55%、 Gd_(2)O_(3)含有量が0?2.1%、 Y_(2)O_(3)含有量が9?20.9%、 Yb_(2)O_(3)含有量が0%以上1.0%未満、 ZrO_(2)含有量が4?10%、 TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)およびTa_(2)O_(5)の合計含有量が2.0?5.0%、 ZnO含有量が0?2%、 WO_(3)含有量が0?1%、 であり、 質量比ZnO/Nb_(2)O_(5)が0?0.40の範囲であり、ただしNb_(2)O_(5)を必須成分として含み、 質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が2.9/30以上9/26.6以下であり、 質量比Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))が0.15以上であり、 質量比La_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))が0.65以上であり、 質量比Yb_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))が0?0.02であり、 屈折率ndが1.800?1.830の範囲であり、アッベ数νdが45.5?46.8の範囲であり、かつ下記(2)式: nd>2.585-0.017×νd ・・・(2) を満たすガラス。 【請求項2】 質量比(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)+TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+Ta_(2)O_(5))/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が1.95以上である請求項1に記載のガラス。 【請求項3】 質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が3.3/30以上である請求項1または2に記載のガラス。 【請求項4】 質量%表示で、 SiO_(2)とB_(2)O_(3)との合計含有量が25?32%、 SiO_(2)含有量が10%以下、 La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量が55?65%、 La_(2)O_(3)含有量が42?55%、 Gd_(2)O_(3)含有量が0?2.1%、 Y_(2)O_(3)含有量が9?20.9%、 Yb_(2)O_(3)含有量が0%以上1.0%未満、 ZrO_(2)含有量が4?10%、 TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)およびTa_(2)O_(5)の合計含有量が2.0?5.0%、 ZnO含有量が0?2%、 WO_(3)含有量が0?1%、 であり、 質量比ZnO/Nb_(2)O_(5)が0?0.40の範囲であり、ただしNb_(2)O_(5)を必須成分として含み、 質量比((La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)+TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+Ta_(2)O_(5))/(SiO_(2)+B_(2)O_(3)))が2.05以上、 質量比Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))が0.15以上であり、 質量比Yb_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))が0?0.02であり、 屈折率ndが1.800?1.830の範囲であり、アッベ数νdが45.5?46.8の範囲であり、かつ下記(2)式: nd>2.585-0.017×νd ・・・(2) を満たすガラス。 【請求項5】 質量比(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が1.83以上である請求項1?4のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項6】 Li_(2)O、Na_(2)O、K_(2)OおよびCs_(2)Oの合計含有量が0?2質量%の範囲である請求項1?5のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項7】 MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量が0?5質量%の範囲である請求項1?6のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項8】 MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量が0?2質量%の範囲である請求項1?7のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項9】 B_(2)O_(3)含有量が27.1質量%以下である請求項1?8のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項10】 B_(2)O_(3)含有量が17.4質量%以上である請求項1?9のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項11】 Gd_(2)O_(3)含有量が0?1質量%の範囲である請求項1?10のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項12】 Gd_(2)O_(3)含有量が0?0.5質量%の範囲である請求項1?11のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項13】 Ta_(2)O_(5)含有量が0?2質量%の範囲である請求項1?12のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項14】 F含有量が0.1質量%未満である請求項1?13のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項15】 Al_(2)O_(3)含有量が0?2質量%の範囲である請求項1?14のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項16】 着色度λ5が335nm以下である請求項1?15のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項17】 比重が4.7以下である請求項1?16のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項18】 比重を屈折率ndで除した値が2.00?2.56の範囲である請求項1?16のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項19】 請求項1?18のいずれか1項に記載のガラスからなるプレス成形用ガラス素材。 【請求項20】 請求項1?18のいずれか1項に記載のガラスからなる光学素子ブランク。 【請求項21】 請求項1?18のいずれか1項に記載のガラスからなる光学素子。」 2 取消理由の概要 令和1年5月15日付けの取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に関する取消理由 ア 訂正前の請求項1に係る発明の各成分の含有量のうち、「質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))」の上限値は、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の実施例1のNo.10?20、22?25、27、29?31(以下、「実施例」という。)に記載された各成分の含有量の数値範囲から大きく外れているため、本件特許明細書の記載や技術常識を考慮しても、訂正前の請求項1に係る発明の各成分の数値範囲において、訂正前の請求項1に係る発明の「屈折率ndが1.800?1.830の範囲であり、アッベ数νdが45.5?46.8の範囲であり、かつ下記(2)式: nd>2.585-0.017×νd ・・・(2) を満たす」との物性要件を満たす配合組成が存在することを当業者が認識できないから、訂正前の請求項1に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。 また、訂正前の請求項1に係る発明を引用する請求項2、3、5?9、11?21に係る発明も同様な理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえない。 イ 訂正前の請求項4に係る発明の各成分の含有量のうち、「SiO_(2)とB_(2)O_(3)との合計含有量」から把握される「SiO_(2)含有量」の上限値は、本件特許明細書の実施例に記載された各成分の含有量の数値範囲から大きく外れているため、本件特許明細書の記載や技術常識を考慮しても、訂正前の請求項4に係る発明の各成分の数値範囲において、訂正前の請求項4に係る発明の「屈折率ndが1.800?1.830の範囲であり、アッベ数νdが45.5?46.8の範囲であり、かつ下記(2)式: nd>2.585-0.017×νd ・・・(2) を満たす」との物性要件を満たす配合組成が存在することを当業者が認識できないから、訂正前の請求項4に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。 また、訂正前の請求項4に係る発明を引用する請求項5?9、11?21に係る発明も同様な理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえない。 ウ 以上のとおりであるから、訂正前の請求項1?9、11?21に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 3 取消理由の検討 (1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に関する取消理由 ア 本件発明1について 本件発明1では、「質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が2.9/30以上9/26.6以下」と新たに特定されている。 そして、質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))の上限値(9/26.6)のガラスは、実施例のガラス(No.14)であるから、本件発明1の「屈折率ndが1.800?1.830の範囲であり、アッベ数νdが45.5?46.8の範囲であり、かつ下記(2)式: nd>2.585-0.017×νd ・・・(2) を満たす」との物性要件を満たしつつ、質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が上限値(9/26.6)であるガラス組成が得られることを当業者が認識できる。 よって、本件発明1の各成分の数値範囲において、上記物性要件を満たすガラス組成が存在することを当業者が認識できるから、本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。 イ 本件発明4について 本件発明4では、「SiO_(2)含有量が10%以下」と新たに特定されている。 そして、SiO_(2)含有量の上限値に最も近い実施例のガラスは、当該含有量が9%のガラス(No.14)であるところ、その屈折率ndは1.81608、アッベ数νdは46.21であり、本件発明4の物性要件を十分な余裕をもって満たしているから、ガラス(No.14)のガラス組成において、ガラス製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で、本件特許明細書に、ガラスのネットワークを形成する成分であって熱的安定性と熔融性を改善する成分として記載されているB_(2)O_(3)(段落【0015】及び【0017】)の一部を、ネットワークを形成する成分であり熱的安定性を改善する成分と記載されているSiO_(2)(段落【0015】及び【0016】)に置き換えることによって、本件発明4の「屈折率ndが1.800?1.830の範囲であり、アッベ数νdが45.5?46.8の範囲であり、かつ下記(2)式: nd>2.585-0.017×νd ・・・(2) を満たす」との物性要件を満たしつつ、SiO_(2)含有量が上限値(10%)であるガラス組成が得られることを当業者であれば認識できる。 よって、本件発明4の各成分の数値範囲において、上記物性要件を満たすガラス組成が存在することを当業者が認識できるから、本件発明4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。 ウ 特許異議申立人1の意見について 特許異議申立人1は、本件発明1及び4の各成分の含有量のうち、質量比ZnO/Nb_(2)O_(5)の上限値(0.40)は、本件特許明細書の実施例に記載された質量比ZnO/Nb_(2)O_(5)の数値範囲の上限値である0.21(No.14)から大きく外れているため、実施例のように、屈折率及びアッベ数を所定の値に維持しつつ熱的安定性を良好に保つことを当業者が認識できないから、取消理由は解消されていない旨を主張している(令和1年8月23日付け意見書の第3?4頁の「(3-2)訂正後の請求項1及び4に記載の発明について」参照)。 しかしながら、本件特許明細書の実施例には、質量比ZnO/Nb_(2)O_(5)が0.40であるガラス(No17)が記載されており、本件発明1及び4は、質量比ZnO/Nb_(2)O_(5)の上限値(0.40)においても、屈折率及びアッベ数を所定の値に維持しつつ熱的安定性を良好に保つことを当業者が認識できるから、特許異議申立人1の上記主張は採用できない。 エ 小括 以上で検討したとおり、本件発明1及び4は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえるし、また、本件発明1を引用する本件発明2、3、5?21、及び、本件発明4を引用する本件発明5?21についても、同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。 したがって、特許法第36条第6項第1号に関する取消理由は理由がない。 4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の検討 (1)特許法第36条第6項第2号に関する申立理由 特許異議申立人1は、訂正前の請求項4に係る発明は、「SiO_(2)とB_(2)O_(3)との合計含有量が25?32%」、「La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量が55?65%」、「TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)およびTa_(2)O_(5)の合計含有量が2.0?5.0%」、及び、「質量比((La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)+TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+Ta_(2)O_(5))/(SiO_(2)+B_(2)O_(3)))が2.05以上」と特定されているところ、SiO_(2)とB_(2)O_(3)との合計含有量が25%の場合には、La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)及びYb_(2)O_(3)の合計含有量の数値範囲内、並びに、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)及びTa_(2)O_(5)の合計含有量の数値範囲内では、質量比((La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)+TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+Ta_(2)O_(5))/(SiO_(2)+B_(2)O_(3)))は、必ず2.28以上となるため、「質量比((La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)+TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+Ta_(2)O_(5))/(SiO_(2)+B_(2)O_(3)))が2.05以上」との特定事項は、取り得ない数値範囲(2.05以上2.28未満)を含むものとなり不明確であるから、訂正前の請求項4に係る発明及びこれを引用する請求項5?21に係る発明は明確でなく、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであることを主張している(平成30年10月19日付けの特許異議申立書の第5頁の「イ 記載不備の理由」参照)。 そこで検討するに、「SiO_(2)とB_(2)O_(3)との合計含有量」が「32%」である場合には、「La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量」の数値範囲、及び、「TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)およびTa_(2)O_(5)の合計含有量」の数値範囲から算出される質量比((La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)+TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+Ta_(2)O_(5))/(SiO_(2)+B_(2)O_(3)))は、1.78(=(55%+2.0%)/32%)?2.19(=(65%+5.0%)/32%)となり、「質量比((La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)+TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+Ta_(2)O_(5))/(SiO_(2)+B_(2)O_(3)))が2.05以上」との特定事項は、組成要件として有意なものといえるから、当該特定事項は明確である。 よって、本件発明4及びこれを引用する本件発明5?21は明確であるから、特許異議申立人1が主張する申立理由は理由がない。 (2)特許法第29条第2項に関する申立理由 ア 特許異議申立人2は、訂正前の請求項1?21に係る発明は、甲第1号証(特開2012-92016号公報)に記載された発明、並びに、甲第2号証(特開2002-284542号公報)及び甲第3号証(上原進、光学ガラスの高屈折率化、光学、2013年7月10日、第42巻、第7号、第345?350頁)に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?21に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであることを主張している(平成31年3月25日付けの特許異議申立書の第13?21頁の「イ 引用発明の説明」及び「ウ 本件発明と証拠に記載された発明との対比」参照)。 イ 甲第1号証の記載事項 (ア)「【発明が解決しようとする課題】 【0009】 本発明は、このような事情のもとで、使用環境の温度変化による結像特性影響を受けにくい、屈折率(nd)が1.75以上、かつ、アッベ数(νd)が35以上である高屈折率低分散光学ガラスを環境負荷が高い成分及び希少な鉱物資源を大量に用いることなく提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明者らは、前記目標を達成するために鋭意試験研究を重ねた結果、SiO_(2)、B_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)を必須成分として含有させ、かつ構成成分の比率を調整することにより、-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが130×10^(-12)℃×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下を実現する高屈折率低分散光学ガラスを、環境負荷が高い成分及び希少鉱物資源を大量に使用することなく作製し、前記目的を達成し得ることを見出し、本発明をなすに至った。・・・」 (イ)「【0033】 La_(2)O_(3)成分は、屈折率を高め、分散が小さくなる(アッベ数が大きくなる)効果のほかに、光弾性定数βを小さくする効果がある。・・・」 (ウ)「【0034】 前記構成2の光学ガラスは、屈折率(nd)が1.75?2.00、アッベ数(νd)が35?55の範囲の光学恒数を有することを特徴としており、様々な光学素子及び光学設計に有用である。 上記光学定数は特に光学系の小型化が可能である(屈折率が1.75以上であるという高屈折率である特性は、薄肉レンズであっても大きな光の屈折量を得る事ができる。アッベ数が35以上であるという低分散特性は、単レンズであっても、光の波長による焦点のずれ(色収差)が小さくできる。)という理由から、光学設計上有用である」 (エ)「【0035】 前記構成1及び2の光学ガラスにおいて、Gd_(2)O_(3)成分はLa_(2)O_(3)成分と同様に屈折率を高め、分散を小さくする効果が得られるが、過剰に含有させると、La_(2)O_(3)成分と同様に、失透が発生しやすくなる。・・・ 【0036】 Y_(2)O_(3)成分は、屈折率及び分散を調整する効果があるが、過剰に含有させると所望の光学恒数が得られなくなる恐れがある。・・・」 (オ)「【実施例】 【0075】 次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例に限定されるものではない。 【0076】 表1?表8に、使用環境の温度変化による結像特性影響を受けにくい、屈折率(nd)が1.75以上、かつ、アッベ数(νd)が35以上である高屈折率低分散光学ガラスを得るための好適な実施例(No.1?38)のガラス組成、屈折率(nd)、アッべ数(νd)、-30?+70℃の平均線膨張係数α、波長546.1nmにおける光弾性定数β、乗算α×β、各種の成分含有率の比及び含有率和を示す。 ・・・ 【0081】 【表3】 」 ウ 甲第1号証に記載された発明 特許異議申立人2は、甲第1号証の実施例15のガラスと比較検討しているため、甲第1号証の記載を上記イ(オ)の実施例15に注目して整理すると、甲第1号証には、 「質量%表示で、SiO_(2)が2.00%、B_(2)O_(3)が26.54%、Y_(2)O_(3)が0%。La_(2)O_(3)が32.49%、Gd_(2)O_(3)が26.97%、Yb_(2)O_(3)が0%、TiO_(2)が0%、ZrO_(2)が6.71%、Nb_(2)O_(5)が3.56%、Ta_(2)O_(5)が0%、ZnOが1.00%、BaOが0.68%、Sb_(2)O_(3)が0.05%のガラス組成を有し、屈折率ndが1.801、アッベ数νdが46.7、-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが88.20×10^(-12)℃×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)である光学ガラス。」 の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 エ 本件発明1について 本件発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明の各成分の含有量から本件発明1が特定する合計含有量及び質量比を算出すると、SiO_(2)とB_(2)O_(3)との合計含有量は28.54%、La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量は59.64%、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)およびTa_(2)O_(5)の合計含有量は3.56%であり、質量比ZnO/Nb_(2)O_(5)は0.28、質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))は0.07、質量比Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))は0、質量比La_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))は0.55、質量比Yb_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))は0となる。 また、甲1発明のアッベ数は46.7であるから、本件発明1が特定する式(2)の右辺に当てはめると、1.7911(=2.585-0.017×46.7)となり、甲1発明は、式(2)を満足する。 したがって、本件発明1は、甲1発明と、 「質量%表示で、 SiO_(2)とB_(2)O_(3)との合計含有量が25?32%、 La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量が55?65%、 Yb_(2)O_(3)含有量が0%以上1.0%未満、 ZrO_(2)含有量が4?10%、 TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)およびTa_(2)O_(5)の合計含有量が2.0?5.0%、 ZnO含有量が0?2%、 WO_(3)含有量が0?1%、 であり、 質量比ZnO/Nb_(2)O_(5)が0?0.40の範囲であり、ただしNb_(2)O_(5)を必須成分として含み、 質量比Yb_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))が0?0.02であり、 屈折率ndが1.800?1.830の範囲であり、アッベ数νdが45.5?46.8の範囲であり、かつ下記(2)式: nd>2.585-0.017×νd ・・・(2) を満たすガラス。」である点で一致し、以下の点で相違している。 (相違点1) 本件発明1の「La_(2)O_(3)含有量は42?55%、Gd_(2)O_(3)含有量は0?2.1%、Y_(2)O_(3)含有量は9?20.9%、質量比Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))は0.15以上、質量比La_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))は0.65以上」であるのに対して、甲1発明の「La_(2)O_(3)含有量は32.49%、Gd_(2)O_(3)含有量は26.97%、Y_(2)O_(3)含有量は0%、質量比Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))は0、質量比La_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))は0.55」である点。 (相違点2) 本件発明1の「質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))は2.9/30以上9/26.6以下」であるのに対して、甲1発明の「質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))は0.07」である点。 まず、相違点1について検討すると、特許異議申立人2は、甲第1号証の段落【0033】、【0035】及び【0036】の記載(上記イ(イ)及び(エ)参照)や甲第2号証の段落【0016】?【0019】の記載、甲第3号証の図7の記載から、La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)は高屈折率及び低分散性を付与する成分であって、相互に置換可能な成分であるから、これらの合計含有量を変えずに、Gd_(2)O_(3)からY_(2)O_(3)へ10%、Gd_(2)O_(3)からLa_(2)O_(3)へ16.9%を置換して、La_(2)O_(3)含有量を49.46%、Gd_(2)O_(3)含有量を0%、Y_(2)O_(3)含有量を10%、質量比Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))を0.17、質量比La_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))を0.83とすることは当業者が容易になし得ることであることを主張している。 しかしながら、甲第1号証には、上記イ(ア)に摘示したとおり、甲1発明の課題が、使用環境の温度変化による結像特性影響を受けやすいことであって、当該課題を解決するために、-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βを130×10^(-12)℃×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)以下にすることが記載されている。また、甲第1号証には、La_(2)O_(3)成分、Gd_(2)O_(3)成分及びY_(2)O_(3)成分について、上記イ(イ)及び(エ)によれば、屈折率を高め、分散が小さくなる成分であることが記載されているが、La_(2)O_(3)成分は光弾性定数βを小さくする成分であるのに対して、Gd_(2)O_(3)成分及びY_(2)O_(3)成分がそのような作用を有していることは記載されていないから、La_(2)O_(3)成分と、Gd_(2)O_(3)成分及びY_(2)O_(3)成分とは、上記課題に対して等価な成分であるといえず、相互に置換できるものといえない。 したがって、特許異議申立人2が主張するGd_(2)O_(3)からLa_(2)O_(3)への置換には阻害要因があるから、甲1発明において、La_(2)O_(3)含有量を42?55%、Gd_(2)O_(3)含有量を0?2.1%、Y_(2)O_(3)含有量を9?20.9%、質量比Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))を0.15以上、質量比La_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))を0.65以上とすることは、当業者が容易になし得ることであるといえない。 以上のとおりであるから、相違点2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、並びに、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。 オ 本件発明4について 本件発明4と甲1発明を対比する。 甲1発明の各成分の含有量から本件発明4が特定する合計含有量及び質量比を算出すると、SiO_(2)とB_(2)O_(3)との合計含有量は28.54%、La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量は59.64%、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)およびTa_(2)O_(5)の合計含有量は3.56%であり、質量比ZnO/Nb_(2)O_(5)は0.28、質量比((La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)+TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+Ta_(2)O_(5))/(SiO_(2)+B_(2)O_(3)))は2.21、質量比Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))は0、質量比Yb_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))は0となる。 また、甲1発明のアッベ数は46.7であるから、本件発明4が特定する式(2)の右辺に当てはめると、2.585-0.017×46.7=1.7911となり、甲1発明は、本件発明4の式(2)を満足する。 したがって、本件発明4は、甲1発明と、 「質量%表示で、 SiO_(2)とB_(2)O_(3)との合計含有量が25?32%、 SiO_(2)含有量が10%以下、 La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量が55?65%、 Yb_(2)O_(3)含有量が0%以上1.0%未満、 ZrO_(2)含有量が4?10%、 TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)およびTa_(2)O_(5)の合計含有量が2.0?5.0%、 ZnO含有量が0?2%、 WO_(3)含有量が0?1%、 であり、 質量比ZnO/Nb_(2)O_(5)が0?0.40の範囲であり、ただしNb_(2)O_(5)を必須成分として含み、 質量比((La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)+TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+Ta_(2)O_(5))/(SiO_(2)+B_(2)O_(3)))が2.05以上、 質量比Yb_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))が0?0.02であり、 屈折率ndが1.800?1.830の範囲であり、アッベ数νdが45.5?46.8の範囲であり、かつ下記(2)式: nd>2.585-0.017×νd ・・・(2) を満たすガラス。」である点で一致し、 (相違点3) 本件発明1の「La_(2)O_(3)含有量は42?55%、Gd_(2)O_(3)含有量は0?2.1%、Y_(2)O_(3)含有量は9?20.9%、質量比Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))は0.15以上」であるのに対して、甲1発明の「La_(2)O_(3)含有量は32.49%、Gd_(2)O_(3)含有量は26.97%、Y_(2)O_(3)含有量は0%、質量比Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))は0」である点。 そして、相違点3について検討すると、上記エの相違点1についての検討と同様に、Gd_(2)O_(3)からLa_(2)O_(3)への置換には阻害要因があるから、甲1発明において、La_(2)O_(3)含有量を42?55%、Gd_(2)O_(3)含有量を0?2.1%、Y_(2)O_(3)含有量を9?20.9%、質量比Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))を0.15以上とすることは、当業者が容易になし得ることであるといえない。 したがって、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明、並びに、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。 カ 特許異議申立人2の意見について 特許異議申立人2は、甲第1号証の実施例11のガラスを甲第1号証に記載された発明とした上で、本件発明1及び4は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであることを主張している(令和1年9月10日付け意見書の第3?7頁の「(3-2)訂正後の請求項1及び4に記載の発明について」参照)。 そこで検討するに、甲第1号証の記載を上記イ(オ)の実施例11に注目して整理すると、甲第1号証には、 「質量%表示で、SiO_(2)が2.60%、B_(2)O_(3)が29.00%、Y_(2)O_(3)が12.86%。La_(2)O_(3)が43.00%、Gd_(2)O_(3)が0%、Yb_(2)O_(3)が0%、TiO_(2)が0%、ZrO_(2)が6.60%、Nb_(2)O_(5)が3.80%、Ta_(2)O_(5)が0%、ZnOが1.10%、SrOが1.00%、Sb_(2)O_(3)が0.04%のガラス組成を有し、屈折率ndが1.789、アッベ数νdが47.3、-30?+70℃の平均線膨張係数αと波長546.1nmにおける光弾性定数βの乗算α×βが87.23×10^(-12)℃×nm×cm^(-1)×Pa^(-1)である光学ガラス。」 の発明(以下、「甲1発明a」という。)が記載されていると認められる。 まず、本件発明1と甲1発明aを対比すると、本件発明1の屈折率及びアッベ数は、「屈折率ndが1.800?1.830の範囲であり、アッベ数νdが45.5?46.8の範囲であり、かつ下記(2)式: nd>2.585-0.017×νd ・・・(2) を満た」しているのに対して、甲1発明aでは、「屈折率ndが1.789、アッベ数νdが47.3」である点で少なくとも相違している。 そして、上記相違点について検討すると、特許異議申立人2は、光学ガラスの開発において、屈折率を若干高くし、同時にアッベ数を若干低くする操作は困難でなく、甲1発明aにおいて、ネットワークフォーマーであるB_(2)O_(3)から、高屈折率高分散成分であるTiO_(2)やNb_(2)O_(5)へ若干量置換することで、本件発明1の屈折率及びアッベ数の範囲に到達することは当業者であれば容易に想到するし、nd>2.585-0.017×νdの要件は、屈折率及びアッベ数を特段制限するものでないことを主張している。 しかしながら、屈折率及びアッベ数の数値範囲に関して、甲第1号証には、上記イ(ウ)に摘示したとおり、光学系の小型化の観点から、屈折率(nd)を1.75?2.00、アッベ数(νd)を35?55の範囲とすることが記載されているのみであり、更に限定された範囲である「屈折率ndが1.800?1.830の範囲であり、アッベ数νdが45.5?46.8の範囲であり、かつ下記(2)式: nd>2.585-0.017×νd ・・・(2) を満た」す範囲とすることは記載も示唆もされておらず、甲1発明aの屈折率及びアッベ数をこのような限定された範囲にする動機付けがない。 したがって、その他の点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。 また、本件発明4について検討しても、本件発明4の屈折率及びアッベ数は、「屈折率ndが1.800?1.830の範囲であり、アッベ数νdが45.5?46.8の範囲であり、かつ下記(2)式: nd>2.585-0.017×νd ・・・(2) を満た」しているのに対して、甲1発明aでは、「屈折率ndが1.789、アッベ数νdが47.3」である点で少なくとも相違しているから、本件発明1に対する判断と同様に、本件発明4も、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。 よって、特許異議申立人2の上記主張は採用できない。 キ 小括 以上で検討したとおり、本件発明1及び本件発明4は、甲第1号証に記載された発明、並びに、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。 また、本件発明2、3、5?21は、本件発明1又は本件発明4を更に限定するものであるから、本件発明1及び4に対する検討と同様に、甲第1号証に記載された発明、並びに、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。 よって、特許異議申立人2の主張する申立理由は理由がない。 5 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件請求項1?21に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?21に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 質量%表示で、 SiO_(2)とB_(2)O_(3)との合計含有量が25?32%、 La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量が55?65%、 La_(2)O_(3)含有量が42?55%、 Gd_(2)O_(3)含有量が0?2.1%、 Y_(2)O_(3)含有量が9?20.9%、 Yb_(2)O_(3)含有量が0%以上1.0%未満、 ZrO_(2)含有量が4?10%、 TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)およびTa_(2)O_(5)の合計含有量が2.0?5.0%、 ZnO含有量が0?2%、 WO_(3)含有量が0?1%、 であり、 質量比ZnO/Nb_(2)O_(5)が0?0.40の範囲であり、ただしNb_(2)O_(5)を必須成分として含み、 質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が2.9/30以上9/26.6以下であり、 質量比Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))が0.15以上であり、 質量比La_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))が0.65以上であり、 質量比Yb_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))が0?0.02であり、 屈折率ndが1.800?1.830の範囲であり、アッベ数νdが45.5?46.8の範囲であり、かつ下記(2)式: nd>2.585-0.017×νd ・・・(2) を満たすガラス。 【請求項2】 質量比(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)+TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+Ta_(2)O_(5))/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が1.95以上である請求項1に記載のガラス。 【請求項3】 質量比SiO_(2)/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が3.3/30以上である請求項1または2に記載のガラス。 【請求項4】 質量%表示で、 SiO_(2)とB_(2)O_(3)との合計含有量が25?32%、 SiO_(2)含有量が10%以下、 La_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量が55?65%、 La_(2)O_(3)含有量が42?55%、 Gd_(2)O_(3)含有量が0?2.1%、 Y_(2)O_(3)含有量が9?20.9%、 Yb_(2)O_(3)含有量が0%以上1.0%未満、 ZrO_(2)含有量が4?10%、 TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)およびTa_(2)O_(5)の合計含有量が2.0?5.0%、 ZnO含有量が0?2%、 WO_(3)含有量が0?1%、 であり、 質量比ZnO/Nb_(2)O_(5)が0?0.40の範囲であり、ただしNb_(2)O_(5)を必須成分として含み、 質量比((La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)+TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+Ta_(2)O_(5))/(SiO_(2)+B_(2)O_(3)))が2.05以上、 質量比Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))が0.15以上であり、 質量比Yb_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))が0?0.02であり、 屈折率ndが1.800?1.830の範囲であり、アッベ数νdが45.5?46.8の範囲であり、かつ下記(2)式: nd>2.585-0.017×νd ・・・(2) を満たすガラス。 【請求項5】 質量比(La_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が1.83以上である請求項1?4のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項6】 Li_(2)O、Na_(2)O、K_(2)OおよびCs_(2)Oの合計含有量が0?2質量%の範囲である請求項1?5のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項7】 MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量が0?5質量%の範囲である請求項1?6のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項8】 MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量が0?2質量%の範囲である請求項1?7のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項9】 B_(2)O_(3)含有量が27.1質量%以下である請求項1?8のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項10】 B_(2)O_(3)含有量が17.4質量%以上である請求項1?9のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項11】 Gd_(2)O_(3)含有量が0?1質量%の範囲である請求項1?10のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項12】 Gd_(2)O_(3)含有量が0?0.5質量%の範囲である請求項1?11のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項13】 Ta_(2)O_(5)含有量が0?2質量%の範囲である請求項1?12のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項14】 F含有量が0.1質量%未満である請求項1?13のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項15】 Al_(2)O_(3)含有量が0?2質量%の範囲である請求項1?14のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項16】 着色度λ5が335nm以下である請求項1?15のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項17】 比重が4.7以下である請求項1?16のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項18】 比重を屈折率ndで除した値が2.00?2.56の範囲である請求項1?16のいずれか1項に記載のガラス。 【請求項19】 請求項1?18のいずれか1項に記載のガラスからなるプレス成形用ガラス素材。 【請求項20】 請求項1?18のいずれか1項に記載のガラスからなる光学素子ブランク。 【請求項21】 請求項1?18のいずれか1項に記載のガラスからなる光学素子。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-09-26 |
出願番号 | 特願2018-146864(P2018-146864) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(C03C)
P 1 651・ 851- YAA (C03C) P 1 651・ 121- YAA (C03C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 増山 淳子 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
宮澤 尚之 金 公彦 |
登録日 | 2018-09-07 |
登録番号 | 特許第6396622号(P6396622) |
権利者 | HOYA株式会社 |
発明の名称 | ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、および光学素子 |
代理人 | 特許業務法人特許事務所サイクス |
代理人 | 特許業務法人特許事務所サイクス |