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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 C09D 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 C09D |
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管理番号 | 1356844 |
異議申立番号 | 異議2019-700527 |
総通号数 | 240 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-12-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-07-04 |
確定日 | 2019-11-01 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6451351号発明「水性塗料組成物および塗装物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6451351号の請求項1及び4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許に係る出願は、平成27年1月29日に特許出願され、平成30年12月21日にその特許権の設定登録(請求項の数4。)がされ、平成31年1月16日に特許掲載公報が発行され、令和元年7月4日に特許異議申立人 中井 博(以下「申立人」という。)により、請求項1及び4の発明(以下「本件発明1」及び「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」という。)に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。 第2 特許異議の申立ての概要 1 証拠の一覧 申立人は、甲第1?5号証(以下「甲1」?「甲5」という。)として、以下の証拠を提示した。 甲1:特開2000-73001号公報 甲2:村橋 俊介外1名編、「高分子化学」改訂版、共立出版株式会社発行、(昭和54年3月15日改訂6刷発行)、61?62頁 甲3:特開2012-219126号公報 甲4:特開2001-64571号公報 甲5:特開2004-250637号公報 2 申立ての理由 申立人は、次の2つの理由を主張した。 (1)申立て理由1 本件発明は、甲1に記載された発明であるか、甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の発明であるか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明に係る特許は特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである。 (2)申立て理由2 本件発明は、甲3に記載された発明であるか甲3に記載された発明及び甲2、4、5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の発明であるか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明に係る特許は特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである。 第3 申立理由についての判断 1 本件発明等について (1)本件発明1、4は、登録時の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1及び4に記載されたとおりに特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 含フッ素重合体(α)とアクリルシリコーン(β)が水性媒体に分散している分散体を含有し、 前記含フッ素重合体(α)と前記アクリルシリコーン(β)の配合比「α/β」(乾燥固形分質量比)が、90/10?53/47であり、 前記分散体中の前記アクリルシリコーン(β)の数平均粒子径が50?100nmである、水性塗料組成物。」 「【請求項4】 請求項1?3のいずれか一項に記載の水性塗料組成物により塗膜が形成されてなる、塗装物品。」 (2)本件特許明細書の記載 ア 「【0075】 (分散体(B)) 分散体(B)は、アクリルシリコーン(β)が水性媒体に分散しているものである。 水性媒体は、分散体(A)に用いられるものと同様である。 【0076】 アクリルシリコーン(β)は、アクリル系重合体に加水分解性シランを付加したものである。アクリルシリコーン(β)は、水性媒体中でコア・シェル構造を形成する。本明細書では、アクリルシリコーン(β)が水性媒体に分散した分散体(B)を、「コア・シェル型シリコーン変性アクリルエマルション」または「アクリルシリコーンエマルション」とも呼ぶ。 ・・・」 イ 「【0086】 [アクリルシリコーン(β)の数平均粒子径] 分散体(B)中のアクリルシリコーン(β)の数平均粒子径は、50?150nmである。該数平均粒子径は、50?140nmが好ましく、50?100nmがより好ましい。 アクリルシリコーン(β)の数平均粒子径が前記下限値以上であれば、分散体の安定性に優れ、一方、前記上限値以下であれば、塗膜形成時、粒子の最密充填性がより良好になり、耐水性により優れたものになる。 本明細書において、アクリルシリコーン(β)の数平均粒子径は、動的光散乱法により測定された値である。数平均粒子径の測定器としては、例えば、大塚電子株式会社製「ELS-8000」が挙げられる。」 ウ 「【0087】 [アクリルシリコーン(β)の含有量] 分散体(B)中のアクリルシリコーン(β)の含有量は、30?70質量%が好ましく、35?65質量%がより好ましく、40?60質量%が最も好ましい。 分散体(B)中のアクリルシリコーン(β)の含有量が前記下限値以上であれば、分散体は安定であり、一方、前記上限値以下であれば、分散体の粘性が良好である。」 エ 「【0088】 [分散体(B)の製造方法] 分散体(B)の製造方法は、公知の方法により行えばよい、 アクリル系重合体を合成する際の重合法としては、例えば、乳化重合法として、バッチ重合、モノマー滴下重合、乳化モノマー滴下重合等の方法により製造することができる。重合に用いる乳化剤としては、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性乳化剤から選ばれる1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。 【0089】 アクリル系重合体に加水分解性シランを付加する方法としては、例えば、特開2013-170244号公報に開示されるアクリル系重合体と加水分解性シランとを混合することにより、加水分解性シランによりアクリル系重合体を変性する方法、特開平11-80486号公報等に開示される加水分解性シランを滴下しながら、アクリル系重合体を乳化重合する方法等が挙げられる。 【0090】 分散体(B)は、市販されているものを用いてもよい。 市販品としては、日本触媒社製「ユーダブル(登録商標)EF-100F(製品名)」(コア・シェル型シリコーン変性アクリルエマルション)、旭化成ケミカルズ社製「ポリデュレックス(登録商標)X4759(製品名)」(コア・シェル型シリコーン変性アクリルエマルション)等が挙げられる。」 オ 「【0103】 <分散体(A)> 分散体(A1-1):後述の製造例1により得られる含フッ素共重合体(α1-1)の分散体。 分散体(A1-2):後述の製造例2により得られる含フッ素共重合体(α1-2)の分散体。 分散体(A2-1):後述の製造例3により得られる含フッ素共重合体(α2-1)の分散体。 分散体(A3-1):Arkema社製「Kynar(登録商標)Aquatec FMA-12」(製品名)(VDF系重合体/アクリル樹脂=50/50(質量比)、アクリル樹脂:メタクリル酸メチル単位/メタクリル酸エチル単位/メタクリル酸ブチル単位=60/20/20(モル比))、固形分濃度:50質量%。」 カ 「【0104】 (製造例1で使用した単量体) 単量体(a11):CTFE。 単量体(a12):CH_(2)=CHOCH_(2)-cycloC_(6)H_(10)-CH_(2)(OCH_(2)CH_(2))_(t)OH(以下、「CM-EOVE」ともいう。)(数平均分子量830)。 単量体(a13):CHMVE。 単量体(a14):CHVE、2-EHVE、EVE。 【0105】 (製造例2で使用した単量体) 単量体(a21’):CTFE。 単量体(a22’):EVE、CHVE。 単量体(a23’):4-ヒドロキシブチルビニルエーテル(以下、「4-HBVE」ともいう。)。 【0106】 (製造例1)分散体(A1-1)の製造 内容積2500mLの撹拌機付きステンレス製オートクレーブ中に、水の1280g、CHVEの415g、2-EHVEの230g、CM-EOVEの21g、CHMVEの34g、イオン交換水の1280g、炭酸カリウムの3.0g、過硫酸アンモニウムの5.4g、ノニオン性乳化剤(日本乳化剤社製、Newcol-2320)の33g、アニオン性乳化剤(ラウリル硫酸ナトリウム)の1.4gを仕込み、氷で冷却して、窒素ガスで0.4MPaGになるよう加圧し脱気した。この加圧脱気を2回繰り返した。0.095MPaGまで脱気して溶存空気を除去した後、CTFEの580gを仕込み、50℃で24時間反応を行った。24時間反応を行った後、オートクレーブを水冷して反応を停止した。この反応液を室温まで冷却した後、未反応単量体をパージし、固形分濃度50質量%の分散体(A1-1)を得た。 これに含まれる含フッ素共重合体(α1-1)の水酸基価は10mgKOH/gであった。含フッ素共重合体(α1-1)の単位の比は、CTFE単位/CM-EOVE単位/CHMVE単位/CHVE単位/2-EHVE単位=50/0.25/2/33/14.75(モル比)であった。 【0107】 (製造例2)分散体(A1-2)の製造 内容積2500mLの撹拌機付きステンレス製オートクレーブ中に、水の1280g、EVEの185g、CHVEの244g、CM-EOVEの47g、CHMVEの194g、イオン交換水の1280g、炭酸カリウムの2.0g、過硫酸アンモニウムの1.3g、ノニオン性乳化剤(日本乳化剤社製、Newcol-2320)の33g、アニオン性乳化剤(ラウリル硫酸ナトリウム)の1.4gを仕込み、氷で冷却して、窒素ガスで0.4MPaGになるよう加圧し脱気した。この加圧脱気を2回繰り返した。0.095MPaGまで脱気して溶存空気を除去した後、CTFEの664gを仕込み、50℃で24時間反応を行った。24時間反応を行った後、オートクレーブを水冷して反応を停止した。この反応液を室温まで冷却した後、未反応単量体をパージし、固形分濃度50質量%の分散体(A1-2)を得た。 これに含まれる含フッ素共重合体(α1-2)の水酸基価は55mgKOH/gであった。含フッ素共重合体(α1-2)の単位の比は、CTFE単位/CM-EOVE単位/CHMVE単位/EVE単位/CHVE単位=50/0.5/10/17/22.5(モル比)であった。 【0108】 (製造例3)分散体(A2-1)の製造 含フッ素共重合体(α2’-1)(旭硝子社製、ルミフロン(登録商標)フレーク、CTFE単位/EVE単位/CHVE単位/4-HBVE単位=50/15/15/20(モル比)、水酸基価:100mgKOH/g、質量平均分子量:7000)を、メチルエチルケトン(MEK)に溶解させて固形分60質量%のワニスを得た。 このワニスの300gに、無水こはく酸の4.8g、触媒としてトリエチルアミンの0.072gを加え、70℃で6時間反応させエステル化した。反応液の赤外吸収スペクトルを測定したところ、反応前に観測された無水酸の特性吸収(1850cm^(-1)、1780cm^(-1))が反応後では消失しており、カルボン酸(1710cm^(-1))およびエステル(1735cm^(-1))の吸収が観測された。エステル化後の含フッ素共重合体(α2’’-1)の水酸基価は85mg/KOH、酸価は15mgKOH/gであった。 【0109】 次に、エステル化後の含フッ素共重合体(α2’’-1)に、トリエチルアミンの4.9gを加え室温で20分撹拌してカルボン酸を中和し、イオン交換水の180gを徐々に加えた。 【0110】 最後に、アセトンおよびメチルエチルケトンを減圧留去した。イオン交換水を用いて、固形分濃度50質量%の分散体(A2-1)を製造した。 含フッ素重合体(α2-1)の単位の比は、CTFE単位/EVE単位/CHVE単位/4-HBVE単位/エステル化された4-HBVE単位=50/15/15/17/3(モル比)であった。エステル化された4-HBVE単位のうち、トリエチルアミンで中和された割合は70モル%であった。」 キ 「【0111】 <分散体(B)> 分散体(B-1):アクリルシリコーンエマルション(日本触媒社製「ユーダブル(登録商標)EF-100F(製品名)」、コア・シェル型シリコーン変性アクリルエマルション、アクリルシリコーンの数平均粒子径:80nm、固形分濃度:45質量%)。 分散体(B-2):アクリルシリコーンエマルション(旭化成ケミカルズ社製「ポリデュレックス(登録商標)X4759(製品名)」、コア・シェル型シリコーン変性アクリルエマルション、アクリルシリコーンの数平均粒子径:90nm、固形分濃度:42質量%)。 <分散体(B’)> アクリルエマルション(BASF社製「アクロナール(登録商標)YJ-28188D(製品名)」、アクリルの数平均粒子径:120nm、固形分濃度:47質量%)。」 ク「【0112】 <実施例1> 分散体(A1-1)の56g、分散体(B-1)の24g、造膜助剤(三協化学製、ブチセロソルブ)の6g、増粘剤(ローム&ハース社製、プライマル(登録商標)TT-615)の0.4g、消泡剤(BASF社製、デヒドラン(登録商標)1620)の0.6g、イオン交換水の13gを加えて混合し、水性塗料組成物を調整した。 【0113】 縦120mm、横60mm、厚さ15mmのスレート板の表面に、(大日本塗料社製、製品名「Vセラン#300エナメル」)を、エアスプレーにて、塗布量80?90g/m^(2)となるように塗布し、120℃で15分間、乾燥させた。 その後、水性塗料組成物を、エアスプレーにて、塗布量80?90g/m^(2)となるように塗布し、100℃で210秒間乾燥させ、試験板を得た。 【0114】 <実施例2> 分散体(A1-1)を分散体(A1-2)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で水性塗料組成物を調整し、試験板を得た。 【0115】 <実施例3> 分散体(A1-1)を分散体(A3-1)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で水性塗料組成物を調整し、試験板を得た。 【0116】 <実施例4> 分散体(A1-1)を分散体(A1-2)と分散体(A2-1)を併用したものに変更した以外は、実施例1と同様の方法で水性塗料組成物を調整し、試験板を得た。 【0117】 <実施例5> 分散体(B-1)を分散体(B-2)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で水性塗料組成物を調整し、試験板を得た。 【0118】 <比較例7> アクリル系重合体を変性する際の加水分解性シランの滴下スピード変更により、分散体(B-1)中のアクリルシリコーンエマルションの数平均粒子径を120nmに調整したものに変更した以外は、実施例1と同様の方法で水性塗料組成物を調整し、試験板を得た。 【0119】 <比較例8> アクリル系重合体を変性する際の加水分解性シランの滴下スピード変更により、分散体(B-1)中のアクリルシリコーンエマルションの数平均粒子径を150nmに調整したものに変更した以外は、実施例1と同様の方法で水性塗料組成物を調整し、試験板を得た。 【0120】 <実施例8> 分散体(A1-1)の量を40gに、アクリルシリコーンエマルションの量を40gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で水性塗料組成物を調整し、試験板を得た。」 ク 「【0128】 【表1】 」 ケ 「【0129】 表1に示されるように、数平均粒子径が50?150nmの範囲内のアクリルシリコーン(β)が分散している分散体(B)を特定量配合した実施例1?8の水性塗料組成物は、塗膜を温水中に浸漬させた後、塗膜の白化が生じず耐水性に優れ、また、耐候性、耐ブロッキング性にも優れていた。 一方、数平均粒子径が160nmのアクリルシリコーンが分散している分散体を配合した比較例1は、塗膜の耐水性に劣っていた。 分散体(B-1)に替えて、アクリルエマルション(分散体(B’))を配合した比較例2は、塗膜の耐水性、耐候性、耐ブロッキング性に劣っていた。 分散体(B)を配合しない比較例3は、耐水性に劣っていた。 「α/β」(乾燥固形分質量比)が、90/10よりも大きい比較例4は、耐候性、耐ブロッキング性に優れているものの、耐水性に劣っていた。 分散体(A)を配合しない比較例5、6は、塗膜の耐水性、耐候性、耐ブロッキング性に劣っていた。」 2 証拠に記載された事項 (1)甲1の記載事項 甲1には、次の記載がある(下線は、当審が付した。)。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、太陽光などの輻射、伝熱による温度上昇を抑えることができるとともに耐久性、耐候性の良好な塗膜を形成できる熱遮断塗料として有用なフッ素樹脂塗料組成物に関する。」 イ 「【0009】本発明において、水性フッ素樹脂エマルションに使用されるフッ素樹脂は、親水性部位を有することが好ましい。フッ素樹脂がフルオロオレフィン系共重合体である場合、フルオロオレフィンと親水性部位を有する共重合可能な単量体と共重合させることにより、親水性部位を取り込むことができる。親水性部位を有する共重合可能な単量体としては、たとえば、親水性部位を有するマクロモノマーなどが挙げられる。」 ウ 「【0035】本発明の塗料組成物には、樹脂成分としてフッ素樹脂以外の他の樹脂を混合することも可能である。他の樹脂としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、シリコーン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。本発明の塗料組成物が水性エマルションである場合、これらの他の樹脂は、水性エマルションの形態で混合することが好ましい。他の樹脂を混合する場合、フッ素樹脂の含有量は、塗膜の耐候性の観点からは樹脂全量に対し少なくとも30重量%以上であることが好ましく、特に50重量%以上であることが好ましい。さらに、本発明の塗料組成物は、無機塗料と複合化することも可能である。」 エ 「【0036】・・・基材の種類は特に限定的ではなく、金属、セラミック、ブラスチック、ガラスなどに適用可能である。本発明の塗料組成物により塗装される物品は、種々のものがあり、たとえば、倉庫、工場、畜舎、体育館などの屋根、屋外タンク、製造プラント、外壁などが挙げられる。」 (2)甲3の記載事項 甲3には、次の記載がある。 ア 「【請求項1】 (A)フッ素樹脂エマルション、(B)アルコキシシリル基含有アクリル樹脂エマルション、(C)オルガノシリケートおよび/またはその変性物、(D)アルコキシシリル基の加水分解・縮合反応を促進させる硬化触媒を含有する水性塗料用樹脂組成物。」 イ 「【請求項4】 前記、(A)フッ素樹脂エマルションと(B)アルコキシシリル基含有アクリル樹脂エマルションの割合が、固形部比で50/50?10/90である請求項1?3の何れか1項に記載の水性塗料用樹脂組成物。」 ウ 「【0010】 以下に本発明をその実施の形態に基づき詳細に説明する。 [(A)フッ素樹脂エマルション] フッ素樹脂エマルションとしては、フルオロオレフィン重合体および/またはフルオロオレフィンと共重合可能な単量体との共重合体を水中に分散させたものが使用できる。 フルオロオレフィンとしては、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレンなどがあげられる。 【0011】 フルオロオレフィンと共重合可能な単量体としては、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類;エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;ブチルビニルエステル、オクチルビニルエステル、酢酸ビニル、バーサチック酸ビニル(ヘキシオン・スペシャルティケミカルズ ジャパン(株)製ベオバ10、ベオバ9、ベオバ11)などのビニルエステル類;スチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル化合物;エチルアリルエーテルなどのアリルエーテル類やブチルアリルエステルなどのアリル化合物;(メタ)アクリル酸エステル類などがあげられる。 【0012】 これらは、各社から市販されており、例えば、旭硝子(株)製の市販品であるルミフロン;ダイキン工業(株)製の市販品であるゼッフル;セントラル硝子(株)製の市販品であるセフラルコート;DIC(株)製の市販品であるフルオネート;東亜合成(株)製の市販品であるザフロン、フランス国アルケマ社の市販品であるカイナーなどがあげられる。」 エ 「【0013】 [(B)アルコキシシリル基含有アクリル樹脂エマルション] アルコキシシリル基含有アクリル樹脂エマルションは、(a)アクリル系単量体、(b)アルコキシシリル基含有単量体及び(c)これらと共重合可能な単量体とをラジカル共重合により得られるものが使用できる。」 オ 「【0016】 (b)アルコキシシリル基含有単量体は特に限定されないが、一般式(2)で示されるアルコキシシリル基含有単量体(b1)をシェル部の重合に、一般式(3)で示されるアルコキシシリル基含有単量体(b2)をコア部の重合に用いることが好ましい。 アルコキシシリル基含有単量体(b1)は、一般式(2) R^(3)R^(4)_((3-a))SiX_(a) (2) (式中、R^(3)は重合性二重結合を有する1価有機基、R^(4)は炭素数1?4のアルキル基、Xは炭素数1?4のアルコキシ基、aは2又は3)で示される有機けい素化合物で、2又は3個のアルコキシ基を有し、反応性二重結合を有する化合物である。その具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジブトキシシランなどが上げられ、これらを1種又は2種以上併用して用いることができる。なかでも、エマルションの保存安定性の観点から、Xは炭素数2?4が特に好ましい。 【0017】 これらをコア/シェル型エマルションにおけるシェル部100重量部に対して0.5?20重量部、好ましくは1?15重量部用いることによって、シェル部が高度に架橋し、耐候性、塗膜硬度、耐ブロッキング性を向上させることができる。 【0018】 また、アルコキシシリル基含有単量体(b2)は、一般式(3) R^(5)R^(6)_((3-b))SiY_(b) (3) (式中、R^(5)は重合性二重結合を有する1価有機基、R^(6)は炭素数1?4のアルキル基、Yは炭素数1?4のアルコキシ基、bはb<aの関係を有する1又は2の整数)で示される有機けい素化合物で、1又は2個のアルコキシ基を有し、反応性二重結合を有する化合物である。その具体例としては、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジブトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルブトキシシランなどが上げられ、これらを1種又は2種以上併用して用いることができる。 【0019】 これらをコア/シェル型エマルションにおけるコア部100重量部に対して0?20重量部、好ましくは0.5?10重量部用いることによって、コア部に緩やかな架橋構造が導入され、柔軟性を損なうことなく、耐水性、耐候性を向上させることができる。 (b1)および(b2)のアルコキシ基の炭素数X、Yは、X>Yの関係を有することが、付着性、タック性、可とう性、保存安定性の面で好ましい。」 カ 「【0039】 アルコキシシリル基含有アクリル樹脂エマルションは、平均粒子径が0.02?1.0μm程度が好ましい。平均粒子径は、重合初期に仕込む界面活性剤の量で調整することが可能である。 【0040】 前記、(A)フッ素樹脂エマルションと(B)アルコキシシリル基含有アクリル樹脂エマルションの混合割合は、固形部比で50/50?10/90が好ましく、47/53?20/80が特に好ましく、45/55?30/70が更に好ましい。 【0041】 (A)フッ素樹脂エマルションの割合が50%を超えると下地の対する付着性が大きく低下する。 【0042】 また、(A)フッ素樹脂エマルションの割合が10%を下回ると十分な耐候性が確保できない。」 キ 「【0116】 本発明で得られた水性塗料用樹脂組成物および水性塗料用樹脂組成物を配合してなる塗料は、ビル・戸建住宅・集合住宅・工場家屋・病院・学校・ガソリンスタンド等の建物、橋梁・土木・プラント・海洋構造物・水門・鉄塔・大型パイプ・プール等の構造物、サッシ・建具・各種ボード・無機建材等の建築資材、船舶、PCM・金属家具・コンテナー・ガードレール・自転車部材・フェンス・食缶・ドラム缶・ボンベ・ガス器具・石油ストーブ等の金属製品、乗用車・トラック・バス・オートバイ等の道路車両、家庭電気・重電機・電子機械・事務用機械・通信機・計測機・冷凍機・照明器具・自動販売機・コンピュータ関連機器等の電機機械、産業機械・農業機械・建設機械・鉄道車両・航空機等の機械、合板・家具・楽器等の木工製品などの各種塗装に用いることができる。」 ク 「【0118】 [(B)アルコキシシリル基含有アクリル樹脂エマルションの合成(合成例1)] 撹拌機、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応容器に、脱イオン水192重量部、Newcol-707SN(日本乳化剤(株)製:有効成分30%)0.46重量部、5%炭酸水素ナトリウム水溶液1.0重量部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ50℃に昇温した。昇温後、7%t-ブチルハイドロパーオキサイド水溶液2.0重量部、10%Bruggolite FF-6水溶液1.4重量部、硫酸第一鉄・7水和物(0.10%)/エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(0.40%)混合水溶液2.8部を添加し、表1(B-1)コア部記載のモノマー混合物に、アデカリアソープSR-1025((株)ADEKA製:有効成分25%)9.6重量部、アデカリアソープER-20((株)ADEKA製:有効成分75%)1.5重量部および脱イオン水50重量部を加え乳化したモノマー乳化液を160分かけて等速追加した。その間、7%t-ブチルハイドロパーオキサイド水溶液1.6重量部および2.5%Bruggolite FF-6水溶液3.2重量部を2回に分けて添加した。モノマー乳化液追加終了後、1時間後重合を行った。 【0119】 さらに、7%t-ブチルハイドロパーオキサイド水溶液1.3重量部、2.5%Bruggolite FF-6水溶液3.6重量部を添加した後、表1(B-1)シェル部記載のモノマーおよび連鎖移動剤混合物にアデカリアソープSR-1025((株)ADEKA製:有効成分25%)14.4重量部、アデカリアソープER-20((株)ADEKA製:有効成分75%)2.3重量部および脱イオン水71重量部を加え乳化したモノマー乳化液を240分かけて等速追加した。その間、7%t-ブチルハイドロパーオキサイド水溶液2.3重量部および2.5%Bruggolite FF-6水溶液3.4重量部を3回に分けて添加した。追加終了後、1.5時間後重合を行った。得られたエマルションに5%炭酸水素ナトリウム水溶液22部を添加後、脱イオン水で固形分濃度50%に調整した(B-1)。」 ケ 「【0120】 【表1】 」 コ 「【0121】 [基材(I)の製造例] 合成した樹脂組成物B-1および市販のフッ素樹脂エマルションを用い、表2の顔料ペーストを用いて、表3に示す配合処方で基材(I)を作成した。 【0122】 【表2】 【0123】 D-918:堺化学工業(株)製(表面処理:二酸化珪素、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム) TITANIX JR-901S:テイカ(株)製(表面処理:二酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム) 【0124】 【表3】 」 (3)甲2、甲4及び甲5の記載事項 ア 甲2の記載事項 甲2には、次の記載がある。 (ア)61頁18?24行 「3.1.12 乳 化 重 合 スチレンをモノマーとした場合について一例をあげると乳化重合は モノマー 100部, 水 100部, セッケン 2?5部, K_(2)S_(2)O_(8) 0.1?0.5部 といった処方で,酸素を除いた系で行なわれる。この系の中には水相のほかに,最初モノマーの油滴,セッケンミセルが存在し,重合が進むとともにミセルはポリマー粒子に変化するが,それらは表3.7に示すような状態にある。」 (イ)62頁上部の表3.7 「 」 イ 甲4の記載事項 甲4には次の記載がある。 (ア)「【請求項1】窯業系建材の表面を塗装するために用いる、乳化重合により得られるアクリル系共重合体を主成分として含有する水系エマルジョン塗料であって、そのエマルジョン粒子の平均粒子径が0.01?0.3μmであり、かつ前記水系塗料の固形分100重量部に対し、ポリビニルアルコールを1?10重量部含有してなることを特徴とする水系エマルジョン塗料。」 (イ)「【0034】(B)塗料の構成 本発明の水系エマルジョン塗料に用いられるアクリル系共重合体は乳化重合により得られるものである。 【0035】本発明に用いられるアクリル系共重合体としては、例えば、アルキル基の炭素数が1?18のアクリル酸アルキルエステル及び/又はアルキル基の炭素数が1?18のメタクリル酸アルキルエステル並びにこれらの単量体と共重合可能な単量体を乳化重合して得られるものを挙げることができる。 【0036】上記アルキル基の炭素数が1?18のアクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル等を挙げることができる。中でも、アルキル基の炭素数が1?8のアクリル酸アルキルエステルが好ましい。 【0037】上記アルキル基の炭素教が1?18のメタクリル酸アルキルエステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル等を挙げることができる。中でも、アルキル基の炭素数が1?8ののメタクリル酸アルキルエステルが好ましい。 【0038】上記アクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステル並びにこれらの単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、無水フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸等の不飽和カルボン酸等のエチレン系不飽和カルボン酸;酢酸ビニル、ブタジエン、イソブチレン、スチレン、α-メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、ジビニルベンゼン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニル化合物;アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド等のアミド化合物を挙げることができる。 【0039】本発明の塗料中におけるアクリル系共重合体からなるエマルジョン粒子の平均粒子径は、0.01?0.3μm、好ましくは、0.05?0.25μmである。0.01μm未満であると、塗料粘度が増大し、塗装及び取り扱いが困難となり、0.3μmを超えると、窯業系建材への含浸性が低下し、緻密性、建材との密着性が低下する。」 (ウ)「【0093】 【実施例】以下、本発明の実施例を図面を参照しつつさらに詳しく説明するが、この実施例によって本発明はいかなる限定をも受けるものではない。 【0094】[実施例1]乳化重合により得られた平均粒子径0.1μmのアクリル系共重合体に、成膜助剤、増粘剤、消泡剤を配合し水系エマルジョン塗料(固形分濃度20%)を得た。この塗料の固形分の100重量部に対し部分けん化PVA2重量部を添加し、塗料粘度12秒の塗料を得た。 上記塗料中に100メッシュSUS製篩を通過させた基材粉を4重量%添加し、シャワーコート塗装機で12時間循環した(雰囲気温度35℃)。平均粒子径,塗料粘度、塗膜の耐温水性、循環後の塗料性状の観察及び塗膜の密着性を以下の方法で測定した。 【0095】平均粒子径:レーザー回折/散乱式粒度分布計LA-910(HORIBA社製) 塗料粘度:・・・ 塗膜の耐水性:・・・ 塗膜の密着性:・・・ 【0096】[実施例2,比較例1?3]実施例1において、表1に示す配合に変えたこと以外は、実施例1と同様にした。結果を表1に示す。 【0097】 【表1】 」 ウ 甲5の記載事項 甲5には、次の記載がある。 (ア)「【請求項1】 水性フッ素樹脂エマルジョン、及びアクリル共重合体の水溶液または水分散体を含み、水性フッ素樹脂エマルジョンとアクリル共重合体の水溶液または水分散体との合計量(固形分)に対し、水性フッ素樹脂エマルジョンが30?95重量%、アクリル共重合体の水溶液または水分散体が70?5重量%である、水系上塗り塗料組成物。 【請求項2】 更に、自己乳化型ポリイソシアネートを含む、請求項1記載の水系上塗り塗料組成物。 【請求項3】 前記アクリル共重合体の水溶液または水分散体中における粒径が100nm未満である、請求項1または2に記載の水系上塗り塗料組成物。」 (イ)「【0026】 本発明のアクリル共重合体の水溶液または分散体については、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、水溶液または分散体中でのアクリル共重合体の粒径は100nm未満であることが好ましい。アクリル共重合体の水溶液または分散体の例として、(1)アクリル系モノマーを乳化重合することで得られるアクリル共重合体の水溶液または水分散体、または(2)例えば以下の方法により得られるアクリル共重合体の水溶液または水分散体を挙げることが出来る。すなわち、まず、溶液ラジカル重合によりアクリル系モノマーの共重合体を合成し、合成後、水に対して良好な分散性を獲得するため共重合体主鎖中に存在するカルボン酸を中和剤(例えば、トリエチルアミン、ジメチルモノエタノールアミン等の三級アミン)で中和する。次いで、得られた共重合体溶液を純水に分散させ均一に分散させた後、減圧蒸留により溶剤を除去する。なお、アクリル系モノマーの溶液ラジカル重合においては、メチルエチルケトン(MEK)を溶剤として使用することが好ましい。」 (ウ)「【0027】 上記アクリル系モノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、グリシジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等を挙げることができる。なお、アクリル系モノマーは、単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよいが、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メタクリル酸等の耐候性に優れたモノマーと、n-ブチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリル酸等といった密着性に寄与し得るモノマーとを組み合わせて使用することが好ましい。 【0028】 また、本発明のアクリル共重合体は、上記したアクリル系モノマーとその他のモノマーとの共重合体でもよい。アクリル系モノマーとの共重合に用いられるその他のモノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸、イタコン酸等が挙げられる。 【0029】 アクリル共重合体の水溶液または水分散体中での粒径は動的光散乱法により測定され、100nm未満であることが好ましい。粒径の測定機器としては、例えばELS-8000(大塚電子株式会社製)が使用される。」 (エ)「【0048】 <アクリル共重合体Aの水分散体> 合成方法:500gのメチルエチルケトン中に、単量体の固形分が約50%となるように(単量体の合計量が約500gとなるように)、各単量体を表1に示す組成で加え、開始剤として5gのAIBNを用い、80℃において6時間溶液ラジカル重合を行った。重合反応終了後、得られた重合体中に存在するカルボン酸を、表1に示す量のトリエチルアミンで中和した。続いて、重合体溶液を表1に示す量の純水に分散し、均一に分散した後、減圧蒸留によりメチルエチルケトンを除去し、アクリル共重合体A(粒径80nm)の水分散体を得た。・・・」 3 申立て理由1について (1)甲1発明の認定 前記2(1)に摘記したように、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認定できる。 「水性フッ素樹脂エマルション及び水性アクリルシリコーン樹脂エマルションを配合したフッ素樹脂塗料組成物。」の発明。 (2)対比 ア 甲1発明における「フッ素樹脂」は、本件発明1における「含フッ素重合体」を充足する。 イ 甲1発明における「水性フッ素樹脂エマルション」は、技術常識を踏まえると、本件発明1における「含フッ素重合体(α)・・・が水性媒体に分散している分散体」に相当する。 ウ 甲1発明における「アクリルシリコーン樹脂」は、本件発明1における「アクリルシリコーン」に相当する。 エ 甲1発明における「水性アクリルシリコーン樹脂エマルション」は、前記イと同様に本件発明1における「アクリルシリコーン(β)が水性媒体に分散している分散体」に相当する。 (3)一致点及び相違点 ア 一致点 本件発明1と甲1発明とは次の点で一致する。 「「【請求項1】 含フッ素重合体(α)とアクリルシリコーン(β)が水性媒体に分散している分散体を含有する水性塗料組成物。」である点。 イ 相違点 本件発明1と甲1発明とは次の点で相違する。 (ア)相違点1 本件発明1においては、含フッ素重合体(α)と前記アクリルシリコーン(β)の配合比「α/β」(乾燥固形分質量比)が、90/10?53/47と規定されているのに対して、甲1発明では配合比が不明である点。 (イ)相違点2 本件発明1においては、「前記分散体中の前記アクリルシリコーン(β)の数平均粒子径が50?100nmである」と規定されているのに対して、甲1発明においては、数平均粒子径が不明である点。 (4)相違点についての判断 事案に鑑み相違点2から検討する。 ア 前記2(3)ア(イ)に摘記したように甲2には、乳化重合におけるポリマー粒子の直径が500?1500Åであることが記載されている。 イ これをnmに換算すると、50?150nmであることが記載されていることになる。 ウ 検討 (ア)前記2(3)ア(ア)の記載から、上記500?1500Åとなるのは、スチレンをセッケンを界面活性剤として乳化重合した場合の例であることがわかる。しかしながら、本件発明のアクリルシリコーン樹脂を乳化重合した場合に、数平均粒子径がどの程度になるか推測させるものとはいえない。 (イ)仮に、スチレンの乳化重合であっても、アクリルシリコーン樹脂のエマルジョンと同程度の数平均粒子径であるとしても、本件発明1における相違点2に係る構成は、「50?100nm」であり、甲2に記載の範囲は「50?150nm」であるから、それより、広い範囲である。 (ウ)下記のように甲4及び甲5を参照しても、甲2に記載された範囲から、「50?100nm」を選択する動機付けとなる証拠があるとはいえない。 エ 甲4には、前記2(3)イ(ア)に摘記したように、エマルション粒子の平均粒子径を0.01?0.3μmとする点、同(ウ)に摘記したように、平均粒子径を0.1μmとする点が開示されているが、甲4に記載のエマルションは、同(イ)に摘記したようにアクリル系共重合体であっても、加水分解性シランが付加されたものではない。すなわち、甲4に記載された樹脂はアクリルシリコーン樹脂ではない。したがって、甲4の記載は、アクリルシリコーン樹脂の水性エマルションの数平均粒子径を50?100nmとする動機付けにはならない。 オ 前記2(3)ウ(エ)に摘記したように、甲5には、粒径80nmのアクリル共重合体Aが記載されているが、甲5に記載のエマルションは、同(ウ)に摘記したようにアクリル系共重合体であっても、加水分解性シランが付加されたものではない。すなわち、甲5に記載された樹脂はアクリルシリコーン樹脂ではない。したがって、甲4の記載は、アクリルシリコーン樹脂の水性エマルションの数平均粒子径を50?100nmとする動機付けにはならない。 カ 効果について (ア)前記1(2)クにおいて摘記した本件明細書の【表1】(当審注:実施例3の「α/βまたはα/β’」の数値56/44は、前記1(2)キの実施例3の記載から、72/28の誤記であり、実施例5の「粒子の数平均粒子径(nm)の数値80は、同キの実施例5の記載から、90の誤記と認められる。)の記載から、特に「耐温水浸漬試験-2」のΔL値に注目すると、比較例7(数平均粒子径=120nm)における1.8に対し、実施例5(数平均粒子径=90nm)における1.2と変色が少ないことが読み取れる。 (イ)そうすると、相違点2に係る本件発明1の構成による数値限定には、作用効果の点で臨界的な意義があるといえ、それにより、予測できない効果を奏するということができる。 キ 申立人の主張について (ア)α/βについて 申立人は、前記2(1)ウに、「他の樹脂を混合する場合、フッ素樹脂の含有量は、塗膜の耐候性の観点からは樹脂全量に対し少なくとも30重量%以上であることが好ましく、特に50重量%以上であることが好ましい。」との記載は、α/βが100/0?50/50であるから、α/βが90/10?53/47である本件発明と同一であると主張する。 しかしながら、フッ素樹脂の含有量が規定されたとしても、アクリルシリコーン樹脂の含有量が規定されるわけではないから、申立人の主張は前提において誤りである。 また、仮に樹脂がフッ素樹脂とアクリルシリコーン樹脂の2成分のみであったとすると、申立人の主張する数値範囲は、読み取れるといえるが、その数値範囲は、本件発明の数値範囲を包含するものであるから、本件発明の上位概念が開示されているとしかいえず、同一であるとは到底いえないものである。 (イ)数平均粒子径について 申立人は、前記1(2)キで摘記した「分散体(B-1):アクリルシリコーンエマルション(日本触媒社製「ユーダブル(登録商標)EF-100F(製品名)」、コア・シェル型シリコーン変性アクリルエマルション、アクリルシリコーンの数平均粒子径:80nm、固形分濃度:45質量%)。」(以下「EF-100F」という。)の記載から、アクリルシリコーン樹脂が80nmの数平均粒子径を有することは、本件出願前公知であったと主張する。 この主張は、甲1発明のアクリルシリコーンとして、公知のEF-100Fを採用すれば、本願発明が構成できるという主張と解されるが、本件発明は、アクリルシリコーン自体の発明ではなく、各種のアクリルシリコーンのうち塗料組成物として最適なものを探索し、数値限定したものと解されるから、甲1発明のアクリルシリコーンとしてEF-100Fを採用しようと検討すること自体が後知恵と評価されることである。申立人の主張は失当である。 ク 前記ア?オで検討したように、相違点2に係る本件発明1の構成である「前記分散体中の前記アクリルシリコーン(β)の数平均粒子径が50?100nmである」ことは、実質的な相違点であるから、本件発明は特許法第29条第1項第3号に規定の発明でない。また、以上で検討したように、「前記分散体中の前記アクリルシリコーン(β)の数平均粒子径が50?100nmである」ことを甲1発明及び甲2、4、5に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得たということはできないから、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ということはできない。 4 申立て理由2について (1)甲3発明の認定 ア 前記2(2)アに摘記したように、甲3には、「(A)フッ素樹脂エマルション、(B)アルコキシシリル基含有アクリル樹脂エマルション」を含有する水性塗料用樹脂組成物が開示されている。 イ 更に具体的に、前記2(2)コの【表3】に記載された「FSi-2」に注目すると、(A)成分として旭硝子製のルミフロンFE4300を48.65重量部、(B)成分としてB-1が18.00重量部それぞれ配合され、「(A)/(B)固形分比率」が72/27であることも読み取れる。 ウ ここで、B-1に関して、前記2(2)ク及びケで摘記したように、コア部に「γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン」が共重合されており、シェル部に「γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン」が共重合されているから、アルコキシシリル基を含有するものである。 エ 以上から、甲3には、「(A)成分として、フッ素樹脂エマルジョンを48.65重量部、(B)成分として、アルコキシシリル基を含有する共重合されたアクリル系樹脂エマルションを18.00重量部含有し、(A)/(B)固形分比率が72/27である水性塗料用樹脂組成物。」の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。 (2)対比 ア 甲3発明における「フッ素樹脂」「アルコキシシリル基を含有する共重合されたアクリル系樹脂」は、それぞれ、本件発明1における「含フッ素重合体(α)」「アクリルシリコーン(β)」に相当する。 イ 甲3発明における「水性」「エマルション」は、本件発明1における「水性媒体に分散している分散体」に相当する。 ウ 甲3発明における「固形分比率」は、本件発明における「乾燥固形分質量比」と同義であり、甲3発明における「72/27」は、本件発明1の「90/10?53/47」の数値範囲内であるからこの点で一致する。なお、甲3発明における「固形分比率」は、「73/27」の誤記とも考えられるが、この場合であっても一致する。 エ 一致点 そうすると、本件発明1と甲3発明は次の点で一致する。 「含フッ素重合体(α)とアクリルシリコーン(β)が水性媒体に分散している分散体を含有し、 前記含フッ素重合体(α)と前記アクリルシリコーン(β)の配合比「α/β」(乾燥固形分質量比)が、90/10?53/47である水性塗料組成物。」 オ 相違点 本件発明1と甲3発明は、次の点で相違する。 本件発明1においては、「分散体中の前記アクリルシリコーン(β)の数平均粒子径が50?100nmである」のに対して甲3発明における数平均粒子径が明らかでない点(以下「相違点3」という。)。 (3)相違点3についての判断 ア 甲3には、前記2(2)カにおいて摘記したように、「アルコキシシリル基含有アクリル樹脂エマルションは、平均粒子径が0.02?1.0μm程度が好ましい。」との記載がある。 イ 0.02?1.0μmは、20?1000nmに相当する。そして、この数値範囲から、「50?100nm」を選択する動機付けがあるかどうかを検討する。 ウ 前記3(4)ア?オで検討したように、甲2、甲4、甲5のいずれの証拠にも、数平均粒子径が50?100nmであるアクリルシリコーン樹脂のエマルションが記載されておらず、また、相違点3に係る本件発明1の構成により、前記(4)カで検討した格別の効果を奏するのであるから、本件発明1は、甲3発明及び甲2、4、5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたといえない。したがって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。 エ 申立人の主張に対して 申立人は、前記2(2)カで摘記した甲3の開示から、本件発明1の範囲が同一であると主張する。 しかしながら、いわゆる上位概念が開示されている場合に、下位概念である本件発明と同一であるという主張は論理的に誤りであり、採用できない。 5 小括 以上のとおり、申立理由1及び申立理由2のいずれも成り立たないから、本件発明1及び4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。 第4 むすび したがって、本件発明1及び4に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては、取り消すことができない。 また、他に本件発明1及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-10-23 |
出願番号 | 特願2015-15443(P2015-15443) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(C09D)
P 1 652・ 113- Y (C09D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 磯貝 香苗 |
特許庁審判長 |
蔵野 雅昭 |
特許庁審判官 |
木村 敏康 門前 浩一 |
登録日 | 2018-12-21 |
登録番号 | 特許第6451351号(P6451351) |
権利者 | AGC株式会社 |
発明の名称 | 水性塗料組成物および塗装物品 |
代理人 | 竹本 洋一 |
代理人 | 蜂谷 浩久 |
代理人 | 伊東 秀明 |