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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
管理番号 1357144
審判番号 不服2019-7919  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-13 
確定日 2019-11-14 
事件の表示 特願2018-526819「電荷輸送性ワニス及びそれを用いる電荷輸送性薄膜」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月26日国際公開、WO2018/135580〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)1月18日(優先権主張 平成29年1月18日、平成29年6月28日)を国際出願日とする出願であって、平成30年5月23日に上申書の提出とともに手続補正がなされ、同年7月30日付けで拒絶理由が通知され、同年10月5日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年12月19日付けで拒絶理由が通知され、平成31年1月30日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年3月26日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、令和元年6月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
その後、令和元年7月4日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年9月2日に意見書の提出とともに手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされた。


2 本件発明
本願の請求項1?16に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、次のとおりのものである。
「 オリゴアニリン化合物と、
電子受容性ドーパントと、
SiO_(2)を含む、金属酸化物ナノ粒子と、
溶媒と、を含み、前記溶媒が1種又は2種以上の有機溶媒のみからなり、
前記オリゴアニリン化合物及び前記電子受容性ドーパントが、前記有機溶媒に溶解しており、
前記金属酸化物ナノ粒子の一次粒子の平均粒径が、1nm?100nmであり、
但し、前記オリゴアニリン化合物から、式(TPD)で表わされる化合物:
【化31】

は除かれる、電荷輸送性ワニス。」


3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、本願の請求項1?16に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
なお、当審拒絶理由に引用された引用文献1及び周知技術が記載された引用文献2?7は、以下のとおりである。

引用文献1:特表2007-531297号公報
引用文献2:国際公開第2008/129947号(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2002-151272号公報 (周知技術を示す文献)
引用文献4:国際公開第2010/058777号(周知技術を示す文献)
引用文献5:国際公開第2016/170998号(周知技術を示す文献)
引用文献6:特表2013-526636号公報 (周知技術を示す文献)
引用文献7:特表2015-504446号公報 (周知技術を示す文献)


4 引用刊行物の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載事項
当審拒絶理由に引用され、本願優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特表2007-531297号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、以下の記載事項がある。なお、合議体が、発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。以下の文献においても同様である。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極とカソード電極との間に配される、少なくとも1つの発光層と、基本材料を具える少なくとも1つの正孔(正電荷)又は電子(負電荷)輸送及び/又は注入層とを有するエレクトロルミネセント装置のための中間層であって、前記アノード電極及び前記カソード電極の両端に電圧が印加される場合、前記エレクトロルミネセント装置が光を発する中間層において、
前記輸送及び/又は注入層が、更に、コロイド粒子を有することを特徴とする中間層。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネセント(EL)装置の中間層に関する。
【背景技術】
【0002】
中間層は、正孔(hole,ホール)(正電荷)注入及び/又は正孔輸送層か、又は電子(負電荷)注入及び/又は電子輸送層の何れであってもよく、発光層とともに2つの電極の間に配される。電圧が2つの電極の両端に印加される場合、EL装置は電流の流れのために光を発する。
【0003】
EL装置は、無機半導体材料又は有機材料(OLED:有機発光ダイオード)から構成され得る。
【0004】
従って、ポリマーから成る少なくとも1つの層を有するLEDは、PolyLED即ちPLED(ポリマー発光ダイオード)と呼ばれる。PolyLEDに使用される一般的なポリマーは、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)(PEDT又はPDOT)であり、これは可視光に対して高度な吸収性をもつ材料である。それゆえ、非常に薄いPolyLED層でさえ、放出光の約5?10パーセントを吸収する。
【0005】
PolyLEDは、モノクロ又はフルカラーRGB(赤色/緑色/青色)PolyLED装置のディスプレイのために使用される。PolyLEDディスプレイの概略的な構造体が、従来技術に関する図1に示されている。このディスプレイの前方側を形成するガラスパネル1は、構造化されたインジウムスズ酸化物(ITO)電極2を備えている。2つの有機層3,4が、例えば、スピンコーティング又はインクジェット方式でITO電極2に堆積される。ITO電極2に堆積される第1の有機層3は、正電荷担体又は正孔の輸送及び注入のために使用される導電性ポリマーから成る。第2の層4は、電圧が印加されるときに光を発するポリマーから成る。高効率及び良好な寿命スパンを達成するために、通常、PDOT及びPSSポリ(スチレンスルホン酸塩)の混合物を使用する。第3の層5として、カソード金属が放出層4に堆積される。ゲッタ7を有するカバーの蓋6が、接着剤8で構造体に付着されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、アノード電極とカソード電極との間に配される、少なくとも1つの発光層とともに、少なくとも1つの正孔(正電荷)又は電子(負電荷)輸送及び/又は注入層を有するエレクトロルミネセント装置の中間層であって、電圧が2つの電極の両端に印加される場合、エレクトロルミネセント装置が光を発し、中間層が可視スペクトル範囲のより少ない光を吸収する中間層を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、可視スペクトル範囲の光の吸収が減少し、同じ発光に対してより少ないエネルギーを使用することにより、改善される効率をもつエレクトロルミネセント装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
中間層に関して、この目的は、可視スペクトル範囲の光に対して透明である10^(-7)乃至10^(-4)cmの範囲の粒径をもつコロイド粒子を有する輸送及び/又は注入層によって解決される。コロイド粒子は、塩素処理後(postchlorinated)のポリ塩化ビニル(PC:polyvinyl chloride)若しくはラテックスのような有機材料、又は酸化物、リン酸塩、ケイ酸塩若しくはホウ酸塩のような無機材料の何れであってもよい。これらの粒子は、製造条件、例えば、PLEDの製造中の処理温度が200℃まで上昇するなどの条件との互換性さえあればよい。
【0009】
有利なことに、コロイド粒子の屈折率が基本材料の屈折率の範囲内にあり、そのため、昼光でのコントラストは最高である。
【0010】
中間層のコロイド粒子は、コロイド性のシリコン二酸化粒子であってもよい。測定の結果は、基本材料が更にシリコン二酸化粒子を有するとき、層構造体から発する光のパーセンテージが増大することを示した。

(中略)

【0012】
コロイド粒子の存在は、光の高められたアウトカップリング(出力)をもたらす。そのために、EL装置が従来技術と比較して同じ発光をもつ場合、2つの電極の両端に印加される電圧は低減されることができる。

(中略)

【0014】
エレクトロルミネセント装置の好ましい実施形態によれば、コロイド粒子の平均粒径は輸送層の厚さの2倍の大きさよりも小さい。なぜならば、この条件下では、この装置の電気特性がほとんど変わらないからである。
【0015】
ある実施形態によれば、エレクトロルミネセント装置は、好ましくは、正孔を輸送し、PDOT又はTPD(Triphenyldiamine derivatives:トリフェニルジアミン誘導体)から作製されるコロイド粒子をもつ輸送層を有する。
【0016】
他の実施形態によれば、エレクトロルミネセント装置は、好ましくは、電子を輸送するコロイド粒子をもつ輸送層を有する。
【0017】
エレクトロルミネセント装置の発光層は、ポリ(p-フェニレンビニレン)(PPV)のようなポリマー及び/又は溶解処理された有機材料であってもよい。
【0018】
エレクトロルミネセント装置の発光層は、トリ(8-キノリノール)アルミニウム錯体(Alq_(3))のような真空蒸着された有機材料から作製されてもよい。
【0019】
好ましい実施形態によれば、電荷輸送層は、120nmの大きさ(粒径)をもつ二酸化ケイ素(SiO_(2))粒子の量(質量)の5倍を有するPDOTから構成される。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図2は、平均粒径が電荷輸送層11の厚さに対応するコロイド粒子12をもつ概略的なディスプレイの断面図を示す。輸送層11は、正電荷又は負電荷の何れでも輸送することができ、この実施例では、ITOアノード10である電極に堆積される。放出(放射)層13が輸送層11に堆積され、この放出層13は、更に、アノード10の突出エッジを覆う。この実施例では、大半がカソード電極14で覆われており、このカソード電極14は、放出層13の大部分及びガラスパネル9の一部を覆う。ガラスパネルは、電子新聞に使用されるような可撓性の透明材料によって置き換えられてもよく、その場合、ガラス粒子が透明プラスチック材料に堆積される。この実施例は、可視光を透過するアノード10及び可視光を反射するカソード14をもつLEDに関する。

(中略)

【0025】
本発明は、単独で利用されてもある程度の光をなお吸収する導電性ポリマーのような基本材料を有する中間層により、概要を述べる。コロイド粒子と組み合わせられると、中間層はほぼ完全に透明になる。その中に含まれるコロイド粒子のためにほぼ完全に透明である中間層を備えるエレクトロルミネセント装置は、改善された効率をもち、それゆえ、同じ発光特性に対してはより少ないエネルギーを必要とする。」
なお、図2は、以下のとおりのものである。


(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1の記載事項アの記載に基づけば、引用文献1には、請求項1に係る発明として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていたと認められる。
「アノード電極とカソード電極との間に配される、少なくとも1つの発光層と、基本材料を具える少なくとも1つの正孔又は電子輸送及び/又は注入層とを有するエレクトロルミネセント装置のための中間層であって、前記アノード電極及び前記カソード電極の両端に電圧が印加される場合、前記エレクトロルミネセント装置が光を発する中間層において、前記輸送及び/又は注入層が、更に、コロイド粒子を有する中間層。」

(3)引用文献2の記載事項
当審拒絶理由に、周知技術を示す文献として引用され、本願優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である国際公開第2008/129947号(以下、「引用文献2」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、オリゴアニリン化合物に関し、さらに詳述すると、トリフェニルアミン構造を含むオリゴアニリン化合物、およびこの化合物の電荷輸送性物質としての利用、並びにこの化合物を含む電荷輸送性ワニスに関する。
背景技術

(中略)

[0003] 近年、高溶解性の低分子オリゴアニリン系材料やオリゴチオフェン系材料を利用し、有機溶媒に完全溶解させた均一系溶液からなる電荷輸送性ワニスが見出された。そして、このワニスから得られる正孔注入層を有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELという)素子中に挿入することで、下地基板の平坦化効果や、優れたEL素子特性が得られることが報告されている(特許文献2:特開2002-151272号公報、特許文献3:国際公開第2005/043962号パンフレット)。
当該低分子オリゴマー化合物は、それ自体の粘度が低く、通常の有機溶媒を使用した場合、成膜操作におけるプロセスマージンが狭いため、スピンコート、インクジェット塗布、スプレー塗布等の種々の塗布方式や、種々の焼成条件を用いる場合、高い均一性を有する成膜を行うことは困難であった。
しかし、各種添加溶媒を用いることで、粘度や、沸点および蒸気圧の調整が可能となり、種々の塗布方式に対応して高い均一性を有する成膜面を得ることが可能になってきている(特許文献4:国際公開第2004/043117号パンフレット、特許文献5:国際公開第2005/107335号パンフレット)。
[0004] このように、低分子オリゴマー化合物は、近年、有機EL素子中の正孔注入層として用いられるようになってきている。
しかし、スピンコート、インクジェット塗布、スプレー塗布等の種々の塗布方式に容易に対応し得るように、低分子オリゴマー化合物の溶解性のさらなる改善が求められているとともに、導電性、並びに有機EL素子に使用したときの発光効率および輝度特性の一層の向上が望まれている。

(中略)

発明が解決しようとする課題
[0007] 本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、OLED素子およびPLED素子のどちらに使用した場合においても良好な発光効率および輝度特性を発現し得、かつ、有機溶媒に対する溶解性が良好であるため各種塗布方式に適用可能なオリゴアニリン化合物を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0008] 本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、分子鎖両末端にトリフェニルアミン構造を含むオリゴアニリン化合物が、有機溶媒に対する溶解性が良好であるとともに、電荷受容性物質と組み合わせて使用した場合に高電荷輸送性を示し、有機EL素子の正孔注入層として用いると、高い発光効率および輝度特性を発現し得ることを見出し、本発明を完成した。
[0009] すなわち、本発明は、
1. 式(1)で表されることを特徴とするオリゴアニリン化合物、
[化1]

(式中、R^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立して、水素原子、置換もしくは非置換の一価炭化水素基、t-ブトキシカルボニル基、またはベンジルオキシカルボニル基を示し、R^(3)?R^(34)は、それぞれ独立して水素原子、水酸基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、置換もしくは非置換の一価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基、スルホン基またはハロゲン原子を示し、mおよびnは、それぞれ独立して1以上の整数で、m+n≦20を満足する。)

(中略)

6. 1のオリゴアニリン化合物の酸化体であるキノンジイミン化合物、
7. 1?5のいずれかのオリゴアニリン化合物、または6のキノンジイミン化合物を含む電荷輸送性ワニス、
8. さらに電子受容性ドーパント物質または正孔受容性ドーパント物質を含む7の電荷輸送性ワニス、
9. 前記電子受容性ドーパント物質が、式(2)で表されるアリールスルホン酸誘導体である8の電荷輸送性ワニス、
[化2]

〔式中、Xは、O、SまたはNHを表し、Aは、Xおよびn個の(SO_(3)H)基以外の置換基を有していてもよいナフタレン環またはアントラセン環を表し、Bは、非置換もしくは置換の炭化水素基、1,3,5-トリアジン基、または非置換もしくは置換の下記式(3)もしくは(4)
[化3]

で示される基(式中、W^(1)およびW^(2)は、それぞれ独立して、O、S、S(O)基、S(O_(2))基、または非置換もしくは置換基が結合したN、Si、P、P(O)基を示す。)を表し、nは、Aに結合するスルホン酸基数を表し、1≦n≦4を満たす整数であり、qは、BとXとの結合数を示し、1≦qを満たす整数である。〕

(中略)

を提供する。
発明の効果
[0010] 本発明のトリフェニルアミン構造を有するオリゴアニリン化合物は、ホッピング移動度が高いため良好な導電性を有している。したがって、このオリゴアニリ化合物から得られた薄膜も良好な導電性を有しており、その結果、この薄膜を含む有機EL素子の特性を改善できる。
また、本発明のトリフェニルアミン構造を有するオリゴアニリン化合物と、シラン化合物とを併用して得られた薄膜を有機EL素子に用いることで、有機EL素子の寿命を著しく延ばすことができるのみならず、有機EL素子の輝度の向上を図ることもできる。」

イ 「[0027] 本発明に係る電荷輸送性ワニスは、電荷輸送性物質として、式(1)で表されるオリゴアニリン化合物、またはオリゴアニリン化合物の酸化体であるキノンジイミン化合物を含むものである。
ここで、電荷輸送性ワニスとは、電荷輸送機構の本体である本発明のオリゴアニリン化合物からなる電荷輸送物質、またはこの電荷輸送物質および電子もしくは正孔受容性ドーパント物質からなる電荷輸送性有機材料を少なくとも1種の溶媒に溶解または分散してなるものである。
なお、電荷輸送性とは、導電性と同義であり、正孔輸送性、電子輸送性、正孔および電子の両電荷輸送性のいずれかを意味する。本発明の電荷輸送性ワニスは、それ自体に電荷輸送性があるものでもよく、ワニスを使用して得られる固体膜に電荷輸送性があるものでもよい。
[0028] 本発明の電荷輸送性ワニスの電荷輸送能等を向上させるために、必要に応じて用いられる電荷受容性ドーパント物質としては、正孔輸送性物質に対しては電子受容性ドーパント物質を、電子輸送性物質に対しては正孔受容性ドーパント物質を用いることができるが、いずれも高い電荷受容性を有することが好ましい。電荷受容性ドーパント物質の溶解性に関しては、ワニスに使用する少なくとも一種の溶媒に溶解するものであれば特に限定されない。」

ウ 「[0165] 電荷輸送性ワニスに用いられる有機溶媒としては、例えば、

(中略)

が挙げられる。
これらの有機溶媒は、単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
[0166] 本発明においては、電荷輸送性物質および電荷受容性物質を良好に溶解し得る高溶解性溶媒を用いることができる。

(中略)

なお、電荷輸送性ワニスは、上記溶媒に完全に溶解しているか、均一に分散している状態となっていることが好ましい。」

エ 「[0170] 以上で説明した電荷輸送性ワニスを基材上に塗布し、溶媒を蒸発させることで基材上に電荷輸送性薄膜を形成させることができる。
ワニスの塗布方法としては、特に限定されるものではなく、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り、インクジェット法、スプレー法等が挙げられる。
溶媒の蒸発法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ホットプレートやオーブンを用いて、適切な雰囲気下、即ち大気、窒素等の不活性ガス、真空中等で蒸発させればよい。これにより、均一な成膜面を有する薄膜を得ることが可能である。
焼成温度は、溶媒を蒸発させることができれば特に限定されないが、40?250℃で行うことが好ましい。この場合、より高い均一成膜性を発現させたり、基材上で反応を進行させたりする目的で、2段階以上の温度変化をつけてもよい。
[0171] 電荷輸送性薄膜の膜厚は、特に限定されないが、有機EL素子内で電荷注入層として用いる場合、5?200nmであることが望ましい。膜厚を変化させる方法としては、ワニス中の固形分濃度を変化させたり、塗布時の基板上の溶液量を変化させたりする等の方法がある。
[0172] 本発明の電荷輸送性ワニスを用いてOLED素子を作製する場合の使用材料や、作製方法としては、下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
使用する電極基板は、洗剤、アルコール、純水等による液体洗浄を予め行って浄化しておくことが好ましく、例えば、陽極基板では使用直前にオゾン処理、酸素-プラズマ処理等の表面処理を行うことが好ましい。ただし陽極材料が有機物を主成分とする場合、表面処理を行わなくともよい。
[0173] 正孔輸送性ワニスをOLED素子に使用する場合、以下の方法を挙げることができる。
陽極基板上に当該正孔輸送性ワニスを塗布し、上記の方法により蒸発、焼成を行い、電極上に正孔輸送性薄膜を作製する。これを真空蒸着装置内に導入し、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極金属を順次蒸着してOLED素子とする。発光領域をコントロールするために任意の層間にキャリアブロック層を設けてもよい。
陽極材料としては、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)に代表される透明電極が挙げられ、平坦化処理を行ったものが好ましい。高電荷輸送性を有するポリチオフェン誘導体やポリアニリン誘導体を用いることもできる。
[0174] 正孔輸送層を形成する材料としては、(トリフェニルアミン)ダイマー誘導体(TPD)、(α-ナフチルジフェニルアミン)ダイマー(α-NPD)、[(トリフェニルアミン)ダイマー]スピロダイマー(Spiro-TAD)等のトリアリールアミン類、4,4’,4”-トリス[3-メチルフェニル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(m-MTDATA)、4,4’,4”-トリス[1-ナフチル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(1-TNATA)等のスターバーストアミン類、5,5”-ビス-{4-[ビス(4-メチルフェニル)アミノ]フェニル}-2,2’:5’,2”-ターチオフェン(BMA-3T)等のオリゴチオフェン類を挙げることができる。

(中略)

[0179] 本発明の電荷輸送性ワニスを用いたPLED素子の作製方法は、特に限定されないが、以下の方法が挙げられる。
上記OLED素子作製において、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の真空蒸着操作を行う代わりに、発光性電荷輸送性高分子層を形成することによって本発明の電荷輸送性ワニスによって形成される電荷輸送性薄膜を含むPLED素子を作製することができる。
具体的には、陽極基板上に、電荷輸送性ワニス(正孔輸送性ワニス)を塗布して上記の方法により正孔輸送性薄膜を作製し、その上部に発光性電荷輸送性高分子層を形成し、さらに陰極電極を蒸着してPLED素子とする。
あるいは、陰極基板上に、電荷輸送性ワニス(電子輸送性ワニス)を塗布して上記の方法により電子輸送性薄膜を作製し、その上部に発光性電荷輸送性高分子層を形成し、さらにスパッタリング、蒸着、スピンコート等の方法により陽極電極を作製してPLED素子とする。」

(4)引用文献3の記載事項
当審拒絶理由に、周知技術を示す文献として引用され、本願優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2002-151272号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 陽極及び陰極と、これらの間に狭持された1層もしくは複数層の有機化合物より構成される電解発光素子に於いて、陽極と有機層の間にキャリア輸送補助層として一般式(1)
【化1】

(式中、R^(1)、R^(2)及びR^(3)はそれぞれ独立して非置換もしくは置換の一価炭化水素基又はオルガノオキシ基を示し、A及びBはそれぞれ独立に一般式(2)又は一般式(3)
【化2】

で表される二価の基であり、R^(4)?R^(11)はそれぞれ独立して水素原子、水酸基、非置換もしくは置換の一価炭化水素基又はオルガノオキシ基、アシル基、又はスルホン酸基であり、m及びnはそれぞれ独立に1以上の正数で、m+n≦20を満足する。)で表されるオリゴアニリン誘導体と電子受容性ドーパントとで塩を形成してなる電気伝導性薄膜を用いたことを特徴とする電解発光素子。

(中略)

【請求項4】 請求項1記載の導電性薄膜においてその薄膜が一般式(1)のオリゴアニリン誘導体と一般式(4)のスルホン酸誘導体を有機溶剤に分散もしくは溶解させたものをスピンコートもしくはディッピングにより形成された請求項1乃至3のいずれかの請求項に記載の電界発光素子。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は発光性物質からなる発光層を有し、電界を印可することにより印可電圧を直接発光エネルギーに変換できる電界発光素子において、その無機電極と有機層の界面に導電性高分子層を形成し、ホール注入効率を向上させてなる電界発光素子関する。

(中略)

【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、これら上述の素子は水分吸着や熱的劣化による剥離に弱く、長時間使用することにより、ダークスポットの増加が著しくなることが分かってきた。これら劣化は無機電極と有機層の界面での剥離が主な原因とされるが、これら問題は未だ充分に解決されていない。
【0006】従って、本発明の目的は、これら有機エレクトロルミネッセンス素子の熱的劣化を抑制し、耐熱性及び耐久性に優れる電界発光素子を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、陽極である無機電極(ITO電極)と有機ホール輸送層の間にバッファー層として無機電極との密着性に優れかつ導電性を有する下記の一般式(1)で表されるオリゴアニリン誘導体をキャリア輸送補助層として1層設けることが耐久性に対して極めて効果的であることを見いだし本発明に至った。
【0008】この際に、オリゴアニリン誘導体に対して下記の一般式(4)のスルホン酸誘導体をドーピングすることによって導電性を付与し、電極としての性能を与え、ホール輸送能力を維持したままで、無機電極と有機層であるホール輸送層との親和性を向上させ、剥離等の界面現象を抑制するに至り、素子自身の耐久性を向上させるに至った。」

ウ 「【0020】オリゴアニリン誘導体の塗膜を形成するにはオリゴアニリン誘導体を溶解するものであれば特に限定されない。それら溶媒の具体例としては、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。これらは、単独でも混合して使用してもよい。更に、単独では均一溶媒が得られな溶媒であっても、均一溶媒が得られる範囲でその溶媒を加えて使用してもよい。その例としてはエチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコール等が挙げられる。
【0021】この溶液を基材上に塗布し、溶媒を蒸発させることにより基材上にオリゴアニリン塗膜を形成させることができる。この際の温度は溶媒が蒸発すればよく、通常は80から150℃で十分である。
【0022】また本発明のオリゴアニリン薄膜を形成する際の塗布方法としてはディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート、刷毛塗りなどが挙げられるが、特に限定されるものではない。また、既に一般式(4)でドーピングされているオリゴアニリン誘導体を単離した後、真空蒸着法により積層させることもできる。その膜厚は、特に限定されるものではないが、外部発光効率を向上させるためできるだけ薄いことが望ましく通常0.5?1000Åが好ましい。
【0023】電界発光素子の形状は上記記載のオリゴアニリン薄膜を先ず、無機電極であるITO上に形成する。この時一般にはITOは逆スパッタリング、オゾン処理、酸処理等の洗浄処理を行い表面の有機物等の異物を除去したものが用いられる。このようにして得られた電極付き基板に電界発光用有機材料を積層する。現在積層構造には様々な形があるが、特に限定されるものではないが、一般には蒸着法によりホール輸送層、発光層、キャリア輸送層の順に積層した素子が用いられている。」

エ 「【0029】
【実施例】実施例1
アニリン5量体

(中略)

【0031】をDMF溶媒に溶解させそれに5-スルホサリチル酸をドーピングした。ドーピング量及びワニス作成条件を表1に示す。

(中略)

【0033】

(中略)

上記記載ワニスはスピンコートにより成膜した。その後焼成を行い導電性薄膜を得た。得られた薄膜は直ちに蒸着により、発光素子化した。素子構造はITO電極上にα-NPD、Alqをそれぞれ500Å積層し、その上部にMgAgを2000Åカソード電極として積層した。

(中略)

【0035】

(中略)

実施例2
アニリン6量体をDMF溶媒に溶解させそれに5-スルホサリチル酸をドーピングした。ドーピング量及びワニス作成条件を表4に示す。

(中略)

【0038】上記記載ワニスはスピンコートにより成膜した。その後焼成を行い導電性薄膜を得た。得られた薄膜は直ちに蒸着により、発光素子化した。素子構造はITO電極上にα-NPD、Alqをそれぞれ500Å積層し、その上部にMgAgを2000Åカソード電極として積層した。」

(5)引用文献4の記載事項
当審拒絶理由に、周知技術を示す文献として引用され、本願優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である国際公開第2010/058777号(以下、「引用文献4」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、電荷輸送性材料および電荷輸送性ワニスに関し、さらに詳述すると、電子受容性ドーパントとしてヘテロポリ酸化合物を含む電荷輸送性材料および電荷輸送性ワニスに関する。

(中略)

発明が解決しようとする課題
[0008] 本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、有機溶媒に対する高い溶解性、正孔注入層における電荷輸送性ホスト物質に対する高酸化性、さらには正孔輸送材料に対する酸化性を兼ね備えた電子受容性ドーパントを含む電荷輸送性材料、およびこの電荷輸送性材料を含む電荷輸送性ワニスを提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0009] 本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、リンモリブデン酸等のヘテロポリ酸化合物が、有機溶媒に対する高溶解性、正孔注入層における電荷輸送性ホスト物質に対する高酸化性、さらには正孔輸送材料に対する酸化性を兼ね備えていることを見出すとともに、当該ヘテロポリ酸化合物と電荷輸送性物質とを含む電荷輸送性薄膜をOLED素子の正孔注入層として用いた場合に、駆動電圧を低下させ、素子寿命を向上し得ることを見出し、本発明を完成した。

(中略)

発明の効果
[0014] 本発明の電荷輸送性材料およびワニスに含まれるヘテロポリ酸化合物は、一般的な電荷輸送性ワニスの調製に用いられる有機溶媒に対して良好な溶解性を有しており、特に、一旦、良溶媒に溶解させることで、高粘度溶媒や低表面張力溶媒をはじめとした各種有機溶媒に対しても優れた溶解性を示す。このため、高粘度溶媒や低表面張力溶媒を一部、またはほぼ全量使用して低極性有機溶媒系の電荷輸送性ワニスを調製することができる。
このような低極性有機溶媒系の電荷輸送性ワニスは、溶剤耐性が問題となるインクジェット塗布装置にて塗布することができるだけでなく、基板上に絶縁膜や隔壁などの耐溶剤性が問題となる構造物が存在する場合でも用いることができ、その結果、高平坦性を有する非晶質固体薄膜を問題なく作製することができる。
さらに、得られた薄膜は、高電荷輸送性を示すため、正孔注入層または正孔輸送層として使用することで、有機EL素子の駆動電圧を低下させるとともに、素子の長寿命化を実現することができる。
そして、ヘテロポリ酸化合物は一般に高屈折率であることから、有効な光学設計によって光取り出し効率の向上も期待できる。
また、この薄膜は、高平坦性および高電荷輸送性を有しているため、この特性を利用して、当該薄膜を太陽電池のバッファ層あるいは正孔輸送層、燃料電池用電極、コンデンサ電極保護膜、帯電防止膜へ応用することもできる。」

イ 「発明を実施するための携帯
[0015] 以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る電荷輸送性材料は、電荷輸送性物質と、電子受容性ドーパントとしてヘテロポリ酸化合物とを含むものである。電荷輸送性物質は、電子受容性ドーパントと併用して用いられる場合には電荷輸送性ホスト物質ともいう。
ここで、電荷輸送性とは、導電性と同義であり、正孔輸送性、電子輸送性、正孔および電子の両電荷輸送性のいずれかを意味する。本発明の電荷輸送性材料は、それ自体に電荷輸送性があるものでもよく、これから得られる固体膜に電荷輸送性があるものでもよい。

(中略)

[0018] 本発明の電荷輸送性材料に使用できる電荷輸送性物質としては、使用する有機溶媒に可溶なものであれば特に限定されるものではないが、有機EL用途に用いる場合、100nm以下、通常20?50nm程度の極薄膜を高均一に作製する必要があるため、電荷輸送性物質は高溶解性を有すること、不純物成分の混入抑制のために分子量分布のないことが好ましく、特に分子量200?2000の低分子化合物が好ましい。低分子化合物は自身の粘性が低く高均一に塗布成膜を行うことが困難であることが多いため、高粘度溶媒を併用することが望ましく、このことから、電荷輸送性物質は高粘度溶媒への溶解性を有していることが望ましい。
具体的には、従来高溶解性材料として用いられている低分子オリゴアニリン化合物等のアニリン誘導体化合物、低分子オリゴチオフェン化合物等を用いることができる。
ヘテロポリ酸化合物はプロトン酸を含み、NH基を含有する電荷輸送性物質に対して強く電子受容性物質としての機能を発揮することから、電荷輸送性物質としては、アニリン誘導体化合物が好適であり、さらに高い電荷輸送性という点を考慮すると、アニリン単位を3以上有するオリゴアニリン誘導体化合物がより好ましい。
すなわち、ヘテロポリ酸化合物は、通常2つ以上のプロトン性水素を有しており、NH基を複数含有するオリゴアニリン誘導体化合物とともにイオン性の擬似高分子を形成するため、駆動中の素子内でのマイグレーションが抑制され、寿命が向上されやすくなる。さらには後述するようにヘテロポリ酸化合物は、トリフェニルアミン含有化合物に対する酸化性をも有しているため、これを正孔注入層に用いた場合、正孔注入層内の電荷輸送性ホスト物質とだけではなく、隣接する正孔輸送層に含まれる材料に対する酸化も可能となる。」

ウ 「[0034] 本発明に係る電荷輸送性ワニスは、上述した電荷輸送性物質と、電子受容性ドーパントとしてヘテロポリ酸化合物とを含んで構成される電荷輸送性材料と、有機溶媒とを含み、電荷輸送性物質およびヘテロポリ酸化合物が、有機溶媒に均一に溶解しているものである。
電荷輸送性ワニスを調製する際に用いられる有機溶媒としては、電荷輸送性物質およびヘテロポリ酸化合物の溶解能を有する良溶媒を用いることができる。
ここで、良溶媒とは、溶媒分子の極性が高く、高極性化合物を良く溶解することのできる溶媒を意味する。
このような良溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、N-シクロヘキシル-2-ピロリジノン等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、または2種以上混合して用いることができ、その使用量は、ワニスに使用する溶媒全体に対して5?100質量%とすることができる。」

エ 「[0045] 本発明の電荷輸送性ワニスを用いてOLED素子を作製する場合の使用材料や、作製方法としては、下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
使用する電極基板は、洗剤、アルコール、純水等による液体洗浄を予め行って浄化しておくことが好ましく、例えば、陽極基板では使用直前にオゾン処理、酸素-プラズマ処理等の表面処理を行うことが好ましい。ただし陽極材料が有機物を主成分とする場合、表面処理を行わなくともよい。
[0046] 正孔輸送性ワニスをOLED素子に使用する場合、以下の方法を挙げることができる。
陽極基板上に当該正孔輸送性ワニスを塗布し、上記の方法により蒸発、焼成を行い、電極上に正孔輸送性薄膜を作製して正孔注入層または正孔輸送層とする。これを真空蒸着装置内に導入し、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極金属を順次蒸着してOLED素子とする。ただし、必要に応じていずれか一層または複数層を除いて素子を作製してもよい。発光領域をコントロールするために任意の層間にキャリアブロック層を設けてもよい。
陽極材料としては、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)に代表される透明電極が挙げられ、平坦化処理を行ったものが好ましい。高電荷輸送性を有するポリチオフェン誘導体やポリアニリン誘導体を用いることもできる。
[0047] 正孔輸送層を形成する材料としては、(トリフェニルアミン)ダイマー誘導体(TPD)、(α-ナフチルジフェニルアミン)ダイマー(α-NPD)、[(トリフェニルアミン)ダイマー]スピロダイマー(Spiro-TAD)等のトリアリールアミン類、4,4’,4”-トリス[3-メチルフェニル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(m-MTDATA)、4,4’,4”-トリス[1-ナフチル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(1-TNATA)等のスターバーストアミン類、5,5”-ビス-{4-[ビス(4-メチルフェニル)アミノ]フェニル}-2,2’:5’,2”-ターチオフェン(BMA-3T)等のオリゴチオフェン類を挙げることができる。
本発明で用いるヘテロポリ酸化合物に対して還元性を有している正孔輸送材料は、有機EL素子特性における駆動電圧低下の観点において好ましい。特にトリフェニルアミン、トリアリールアミン類あるいはスターバーストアミン類は、本発明で用いるヘテロポリ酸化合物によって酸化されやすいため、これらの化合物を含む層を、当該へテロポリ酸化合物を含有する正孔注入層に隣接する正孔輸送層として使用すると好適である。」


5 対比
本件発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「正孔又は電子輸送及び/又は注入層」は、「基本材料を具える」とともに、「前記輸送及び/又は注入層が、更に、コロイド粒子を有する中間層」とされている。
ここで、引用発明の「正孔又は電子輸送及び/又は注入層」と本件発明の「電荷輸送性ワニス」とは、「電荷輸送性材料」である点で共通する。
また、引用発明の「コロイド粒子」と本件発明の「SiO_(2)を含む、金属酸化物ナノ粒子」とは、技術的にみて、「ナノ粒子」である点で共通する。

(2)以上より、本件発明と引用発明とは、
「ナノ粒子を含む電荷輸送性材料。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]本件発明は、「式(TPD)で表わされる化合物」を除いた「オリゴアニリン化合物」と、「電子受容性ドーパント」とを含むのに対し、引用発明は、「基本材料」を特定していない点。
[相違点2]本件発明は、ナノ粒子が、「SiO_(2)を含む、金属酸化物」であり、「金属酸化物ナノ粒子の一次粒子の平均粒径が、1nm?100nm」であるのに対し、引用発明は、「コロイド粒子」の成分及び一次粒子の平均粒径を特定していない点。
[相違点3]本件発明は、「1種又は2種以上の有機溶媒のみからなる」「溶媒」を含む「ワニス」であって、「前記オリゴアニリン化合物及び前記電子受容性ドーパントが、前記有機溶媒に溶解」しているのに対し、引用発明は、溶媒を含まない「正孔又は電子輸送及び/又は注入層」である点。


6 判断
(1)[相違点1]について
引用文献1の記載事項イには、「ある実施形態によれば、エレクトロルミネセント装置は、好ましくは、正孔を輸送し、PDOT又はTPD(Triphenyldiamine derivatives:トリフェニルジアミン誘導体)から作製されるコロイド粒子をもつ輸送層を有する。」(段落【0015】)と記載されており、また、記載事項ウには、「本発明は、単独で利用されてもある程度の光をなお吸収する導電性ポリマーのような基本材料を有する中間層により、概要を述べる。」(段落【0025】)と記載されている。上記記載に基づけば、引用文献1には、引用発明の(正孔を輸送する中間層の)「基本材料」として、「TPD(Triphenyldiamine derivatives:トリフェニルジアミン誘導体)」を用いることが示唆されているといえるところ、TPDは、その構造からみて「オリゴアニリン化合物」と呼ぶことができる。なお、本願の明細書の段落[0026]の「本発明の電荷輸送性ワニスに含まれるオリゴアニリン化合物は、平均分子量200?5000の、アニリン誘導体由来の複数の構造単位(同一であっても異なっていてもよい)で構成される化合物である。」との記載を参酌すれば、引用文献1に記載された「TPD(Triphenyldiamine derivatives:トリフェニルジアミン誘導体)」は、本件発明における「オリゴアニリン」に該当するといえる。
また、例えば、引用文献2には、記載事項イに「本発明に係る電荷輸送性ワニスは、電荷輸送性物質として、式(1)で表されるオリゴアニリン化合物、またはオリゴアニリン化合物の酸化体であるキノンジイミン化合物を含むものである。」及び「電荷輸送性ワニスとは、電荷輸送機構の本体である本発明のオリゴアニリン化合物からなる電荷輸送物質、またはこの電荷輸送物質および電子もしくは正孔受容性ドーパント物質からなる電荷輸送性有機材料を少なくとも1種の溶媒に溶解または分散してなるものである。」(段落[0027])、「本発明の電荷輸送性ワニスの電荷輸送能等を向上させるために、必要に応じて用いられる電荷受容性ドーパント物質としては、正孔輸送性物質に対しては電子受容性ドーパント物質を・・・用いることができるが、いずれも高い電荷受容性を有することが好ましい。」(段落[0028])と記載されており、記載事項エに「以上で説明した電荷輸送性ワニスを基材上に塗布し、溶媒を蒸発させることで基材上に電荷輸送性薄膜を形成させることができる。」及び「ワニスの塗布方法としては、特に限定されるものではなく、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り、インクジェット法、スプレー法等が挙げられる。」(段落[0170])、「本発明の電荷輸送性ワニスを用いてOLED素子を作製する場合の使用材料や、作製方法としては、下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。」(段落[0172])、「正孔輸送層を形成する材料としては、(トリフェニルアミン)ダイマー誘導体(TPD)、・・・を挙げることができる。」(段落[0174])、「上記OLED素子作製において、正孔輸送層・・・の真空蒸着操作を行う代わりに、・・・本発明の電荷輸送性ワニスによって形成される電荷輸送性薄膜を含むPLED素子を作製することができる。」(段落[0179])と記載されている。また、引用文献3には、記載事項イに、「オリゴアニリン誘導体をキャリア輸送補助層として1層設けること」(段落【0007】)及び「この際に、オリゴアニリン誘導体に対して下記の一般式(4)のスルホン酸誘導体をドーピングすることによって導電性を付与し、電極としての性能を与え、ホール輸送能力を維持したままで、無機電極と有機層であるホール輸送層との親和性を向上させ、剥離等の界面現象を抑制するに至り、素子自身の耐久性を向上させるに至った。」(段落【0008】)と記載されており、記載事項ウに、「溶液を基材上に塗布し、溶媒を蒸発させることにより基材上にオリゴアニリン塗膜を形成させることができる。」(段落【0021】)、「また本発明のオリゴアニリン薄膜を形成する際の塗布方法としてはディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート、刷毛塗りなどが挙げられる」(段落【0022】)及び「電界発光素子の形状は上記記載のオリゴアニリン薄膜を先ず、無機電極であるITO上に形成する。」(段落【0023】)と記載されている。また、実施例として「ワニス」としたことが記載されている。さらに、引用文献4の記載事項アには、「本発明の電荷輸送性材料およびワニスに含まれるヘテロポリ酸化合物は、一般的な電荷輸送性ワニスの調製に用いられる有機溶媒に対して良好な溶解性を有しており、特に、一旦、良溶媒に溶解させることで、高粘度溶媒や低表面張力溶媒をはじめとした各種有機溶媒に対しても優れた溶解性を示す。・・・さらに、得られた薄膜は、高電荷輸送性を示すため、正孔注入層または正孔輸送層として使用することで、有機EL素子の駆動電圧を低下させるとともに、素子の長寿命化を実現することができる。」(段落[0014])と記載されており、記載事項イには、「本発明に係る電荷輸送性材料は、電荷輸送性物質と、電子受容性ドーパントとしてヘテロポリ酸化合物とを含むものである。」(段落[0015])と記載されており、さらに、電荷輸送性材料に使用できる電荷輸送性物質として、「従来高溶解性材料として用いられている低分子オリゴアニリン化合物等のアニリン誘導体化合物、低分子オリゴチオフェン化合物等を用いることができる。」(段落[0018])、「正孔輸送層を形成する材料としては、(トリフェニルアミン)ダイマー誘導体(TPD)、・・・を挙げることができる。」、「特にトリフェニルアミン、トリアリールアミン類あるいはスターバーストアミン類は、本発明で用いるヘテロポリ酸化合物によって酸化されやすいため、これらの化合物を含む層を、当該へテロポリ酸化合物を含有する正孔注入層に隣接する正孔輸送層として使用すると好適である。」(段落[0047])と記載されている。そして、引用文献2?4に記載されたオリゴアニリン化合物は、いずれも、本件発明における「式(TPD)で表わされる化合物」には該当しない。以上の記載に基づけば、エレクトロルミネセント装置の電荷輸送層(例:正孔輸送層、正孔注入層)の材料として、本件発明における「式(TPD)で表わされる化合物」を除いたオリゴアニリン化合物と電子受容性ドーパントを含む材料を用いることは周知技術であるといえる。
したがって、引用発明の(正孔を輸送する中間層に該当する「正孔輸送層」や「正孔注入層」の)「基本材料」として、本件発明における「式(TPD)で表わされる化合物」を除いた「オリゴアニリン化合物」と、「電子受容性ドーパント」とを含む材料を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

(2)[相違点2]について
ア 引用文献1の記載事項イには、「中間層に関して、この目的は、可視スペクトル範囲の光に対して透明である10^(-7)乃至10^(-4)cmの範囲の粒径をもつコロイド粒子を有する輸送及び/又は注入層によって解決される。」(段落【0008】)、「中間層のコロイド粒子は、コロイド性のシリコン二酸化粒子であってもよい。測定の結果は、基本材料が更にシリコン二酸化粒子を有するとき、層構造体から発する光のパーセンテージが増大することを示した。」(段落【0010】)、「エレクトロルミネセント装置の好ましい実施形態によれば、コロイド粒子の平均粒径は輸送層の厚さの2倍の大きさよりも小さい。なぜならば、この条件下では、この装置の電気特性がほとんど変わらないからである。」(段落【0014】)、「好ましい実施形態によれば、電荷輸送層は、120nmの大きさ(粒径)をもつ二酸化ケイ素(SiO_(2))粒子の量(質量)の5倍を有するPDOTから構成される。」(段落【0019】)と記載されている。上記記載に基づけば、引用文献1には、引用発明の「コロイド粒子」の粒径が「10^(-7)乃至10^(-4)cmの範囲」、つまり、1nm?1000nmの範囲であって、可視スペクトル範囲の光に対して透明であり、電気特性に影響のない範囲で適宜調整し得ること、「コロイド粒子」の成分を「SiO_(2)を含む、金属酸化物ナノ粒子」とすることが示唆されていたといえる。
したがって、引用発明における「コロイド粒子」として、引用文献1の示唆に従い、「SiO_(2)を含む、金属酸化物ナノ粒子」を用い、「一次粒子の平均粒径」を、「1nm?100nm」の範囲とすることは、当業者が適宜なし得たことである。そして、「一次粒子の平均粒径」を、「1nm?100nm」の範囲としたことにより、格別な効果の差異が生じるということもできない。

イ 請求人は、令和元年9月2日に提出した意見書の「(3-6)粒径について」において、「引用文献1には「コロイド粒子」の粒径を「120nm程度」とすることは記載されているものの、引用文献1(?7)には、粒径を「1?100nm」とすることを教示・示唆する記載はないので、引用文献1(?7)に基づいても、当業者は、補正後の本願請求項1に規定される「電荷輸送性ワニス」を導き出すことはできません。」と主張している。
しかしながら、前記アに記載したとおり、引用文献1の段落【0008】には、「10^(-7)乃至10^(-4)cmの範囲の粒径をもつコロイド粒子を有する輸送及び/又は注入層」との記載がある。当該記載に基づけば、コロイド粒子の粒径の範囲を、1nmを下限とする範囲において調整することを教示又は示唆する記載が、引用文献1にはあるといえる。
したがって、請求人の当該主張は採用できない。

(3)[相違点3]について
ア 引用文献1の記載事項イには、背景技術として、「2つの有機層3,4が、例えば、スピンコーティング又はインクジェット方式でITO電極2に堆積される。ITO電極2に堆積される第1の有機層3は、正電荷担体又は正孔の輸送及び注入のために使用される導電性ポリマーから成る。第2の層4は、電圧が印加されるときに光を発するポリマーから成る。高効率及び良好な寿命スパンを達成するために、通常、PDOT及びPSSポリ(スチレンスルホン酸塩)の混合物を使用する。」(段落【0005】)と記載されている。上記背景技術の記載に基づけば、導電性ポリマーを「基本材料」として用いることを想定する引用発明も、「正孔又は電子輸送及び/又は注入層」をスピンコーティング又はインクジェット方式で堆積することを前提としているといえる。また、引用文献1の記載事項イには、「エレクトロルミネセント装置の発光層は、ポリ(p-フェニレンビニレン)(PPV)のようなポリマー及び/又は溶解処理された有機材料であってもよい。」(段落【0017】)とも記載されている。
そして、例えば、引用文献2には、記載事項イに、「ここで、電荷輸送性ワニスとは、電荷輸送機構の本体である本発明のオリゴアニリン化合物からなる電荷輸送物質、またはこの電荷輸送物質および電子もしくは正孔受容性ドーパント物質からなる電荷輸送性有機材料を少なくとも1種の溶媒に溶解または分散してなるものである。」(段落[0027])と記載されている。さらに、引用文献2の記載事項ウには「電荷輸送性ワニスに用いられる有機溶媒としては、例えば、・・・が挙げられる。」及び「これらの有機溶媒は、単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。」(段落[0165])、「本発明においては、電荷輸送性物質および電荷受容性物質を良好に溶解し得る高溶解性溶媒を用いることができる。」(段落[0166])と記載されている。また、引用文献3には、記載事項アに「導電性薄膜においてその薄膜が一般式(1)のオリゴアニリン誘導体と一般式(4)のスルホン酸誘導体を有機溶剤に分散もしくは溶解させたものをスピンコートもしくはディッピングにより形成」(【請求項4】)させることが記載されている。また、引用文献3の記載事項ウには「オリゴアニリン誘導体の塗膜を形成するにはオリゴアニリン誘導体を溶解するものであれば特に限定されない。それら溶媒の具体例としては、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。これらは、単独でも混合して使用してもよい。」(段落【0020】)と記載されている。さらに、引用文献4には、記載事項ウに、「本発明に係る電荷輸送性ワニスは、上述した電荷輸送性物質と、電子受容性ドーパントとしてヘテロポリ酸化合物とを含んで構成される電荷輸送性材料と、有機溶媒とを含み、電荷輸送性物質およびヘテロポリ酸化合物が、有機溶媒に均一に溶解しているものである。」(段落[0034])と記載されている。以上のとおり、エレクトロルミネセント装置の電荷輸送層を形成するための材料を、単独又は2種以上組み合わせた有機溶媒を用いたワニスとすること、ワニスとするに際し、オリゴアニリン化合物と電子受容性ドーパントを溶媒に溶解することは、いずれも、周知技術であったといえる。
したがって、引用発明を「1種又は2種以上の有機溶媒のみからなる」「溶媒」を含む「ワニス」とし、「前記オリゴアニリン化合物及び前記電子受容性ドーパントが、前記有機溶媒に溶解」しているものとすることは、当業者が適宜なし得たことである。

イ 請求人は、令和元年9月2日に提出した意見書において、「(3-2)相違点3に関する認定の誤り」と題して、「引用文献1において、「コロイド粒子」を含む「正孔又は電子輸送及び/又は注入層」を形成するための塗布型材料は記載されている事項ではなく、記載されているに等しい事項ともいえないため、これを引用発明とすることはできないと考えております。」と主張している。
しかしながら、当審拒絶理由(及び前記「5 対比」)は、「溶媒」を含む「ワニス」である点は、引用文献1に記載された発明として認定しておらず、[相違点3]としている。そうすると、当審拒絶理由(及び前記「5 対比」)は、引用文献1に「塗布型材料」が記載されているというような認定に基づくものでないことは明らかである。そして、相違点であることを前提として検討したところ、前記6(3)アに記載したとおり、引用発明を「1種又は2種以上の有機溶媒のみからなる」「溶媒」を含む「ワニス」とし、「前記オリゴアニリン化合物及び前記電子受容性ドーパントが、前記有機溶媒に溶解」しているものとすることは、当業者が適宜なし得たことといえるのである。したがって、請求人の上記主張及び上記主張を前提としたその他の主張は、いずれも採用することができない。
なお、引用文献1は、「コロイド粒子を有する中間層」がどのように作製されるかについて明らかにしていない。しかしながら、たとえ「中間層」に蒸着法で形成されることも知られる「TPD」を含んでもよいことが記載されていたとしても、「コロイド粒子を有する中間層」を蒸着法で作製できるとは、技術的にみて考え難い。コロイド粒子を有する中間層を、塗布により作製することは、通常の手法(必要であれば、例えば、特開2009-59666号公報の請求項13及び段落【0043】、特開2009-87784号公報の段落【0063】及び【0072】、特開2009-88419号公報の請求項5及び段落【0053】等を参照されたい。)であるから、引用発明の「コロイド粒子を有する中間層」も塗布法により作製されると考えるのが自然である。

(4)効果について
ア 本願の明細書の段落【0024】には、「本発明の電荷輸送性ワニスは、電荷輸送性物質として、有色物質である従来のオリゴアニリン化合物を含んでいるにもかかわらず、これを用いて作成した電荷輸送性薄膜は、従来の電荷輸送性ワニスを用いて作成したものに比して、可視領域における光透過率が著しく改善されており、従って電荷輸送性薄膜の着色が大幅に減少している上に、その他の特性においても著しい向上が認められる。よって、本発明の電荷輸送性ワニスを用いることにより、得られる電荷輸送性薄膜のみならず、その薄膜を用いて製造される有機EL素子についても、それらの種々の特性を、従来のオリゴアニリン化合物の化学構造を変えることなしに、著しく改善することができる。」と記載されている。上記記載に基づけば、本願の請求項1に係る発明の効果は、「可視領域における光透過率が著しく改善」し、その他の特性も向上した電荷輸送性薄膜及び有機EL素子を製造することができることにあるといえる。
一方、引用文献1の記載事項イには、「エレクトロルミネセント装置が光を発し、中間層が可視スペクトル範囲のより少ない光を吸収する中間層を提供することにある。」(段落【0006】)、「可視スペクトル範囲の光の吸収が減少し、同じ発光に対してより少ないエネルギーを使用することにより、改善される効率をもつエレクトロルミネセント装置を提供することにある。」(段落【0007】)と記載されている。上記記載に基づけば、引用発明は、中間層が可視スペクトル範囲の光を吸収しないものとすることを課題としているといえる。そして、引用文献1の記載事項ウには、「コロイド粒子と組み合わせられると、中間層はほぼ完全に透明になる。その中に含まれるコロイド粒子のためにほぼ完全に透明である中間層を備えるエレクトロルミネセント装置は、改善された効率をもち、それゆえ、同じ発光特性に対してはより少ないエネルギーを必要とする。」(段落【0025】)と記載されている。そうすると、引用発明も、正孔又は電子輸送及び/又は注入層とされる中間層を透明にし、改善された効率を持つエレクトロルミネセント装置装置を提供できるという効果を奏するものといえる。
したがって、本件発明の効果は、引用文献1?4の記載に基づいて当業者が予測することができたものである。

イ 請求人は、令和元年9月2日に提出した意見書の「(3-4)効果に関する認定の誤り」、「(i)」において、「そもそも当業者は、引用発明に係る正孔又は電子輸送及び/又は注入層とされる中間層を透明にし、改善された効率を持つエレクトロルミネセント装置の実現方法を引用文献1の記載に見出すことはできず、そうであれば、本願請求項1に係る発明の効果は、引用文献1(?4)の記載に基づいて当業者が予測することができたものであるとは言えません。」と主張している。
しかしながら、上記のとおり、引用文献1には、「コロイド粒子と組み合わせられると、中間層はほぼ完全に透明になる。」と記載されている。そうすると、引用文献1には、中間層を透明にするという効果が記載されていたといえる。したがって、請求人の当該主張は採用することができない。

ウ 請求人は、令和元年9月2日に提出した意見書の「(3-4)効果に関する認定の誤り」、「(ii)」において、「溶媒として「有機溶媒のみ」を含む本願発明に係る電荷輸送性ワニスは、意図的に水を加えたワニスと比較して、保存安定性に優れていることを示しており、このような有利な効果は、引用文献1(?4)に記載されていないものです。」と主張している。
しかしながら、有機化合物を溶解するにあたり、溶媒として、有機化合物との親和性の高い有機溶媒のみを用いることにより、保存安定性が優れたものとなることは、例示するまでもなく、当業者にとって自明の効果である。
したがって、請求人の当該主張は採用できない。


7 むすび
以上のとおり、本件発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本願は、その他の請求項について言及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-09-12 
結審通知日 2019-09-17 
審決日 2019-09-30 
出願番号 特願2018-526819(P2018-526819)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩井 好子  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 宮澤 浩
高松 大
発明の名称 電荷輸送性ワニス及びそれを用いる電荷輸送性薄膜  
代理人 特許業務法人 津国  

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