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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
管理番号 1357289
審判番号 不服2018-6935  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-22 
確定日 2019-11-20 
事件の表示 特願2015-550131「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び1,2-ジフルオロエチレンを含有する組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月 3日国際公開、WO2014/102477、平成28年 1月21日国内公表、特表2016-501978〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年12月6日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年12月26日(FR)フランス〕を国際出願日とする特許出願であって、
平成29年9月27日付けの拒絶理由通知に対し、平成30年1月4日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、
平成30年1月11日付けの拒絶査定に対し、平成30年5月22日付けで審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、さらに、平成30年8月29日付けで上申書の提出がなされ、
平成30年10月18日付けの拒絶理由通知に対し、平成31年1月16日付けで意見書の提出とともに手続補正(以下「第3補正」ともいう。)がなされ、
平成31年2月19日付けの拒絶理由通知(最後)に対し、令和元年5月20日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされたものである。

第2 令和元年5月20日付け手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
令和元年5月20日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1.補正の内容
令和元年5月20日付け手続補正(以下「第4補正」という。)は、第3補正による補正後の特許請求の範囲の
「【請求項1】-30℃の共沸温度、及び1barの圧力で、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及びcis-1,2-ジフルオロエチレンの合計モル数に対して、62モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び38モル%のcis-1,2-ジフルオロエチレンを含む共沸組成物。
【請求項2】-2℃の共沸温度、及び3barの圧力で、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及びcis-1,2-ジフルオロエチレンの合計モル数に対して、65モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び35モル%のcis-1,2-ジフルオロエチレンを含む共沸組成物。
【請求項3】39℃の共沸温度、及び10barの圧力で、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及びcis-1,2-ジフルオロエチレンの合計モル数に対して、67モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び33モル%のcis-1,2-ジフルオロエチレンを含む共沸組成物。
【請求項4】56℃の共沸温度、及び15barの圧力で、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及びcis-1,2-ジフルオロエチレンの合計モル数に対して、69モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び31モル%のcis-1,2-ジフルオロエチレンを含む共沸組成物。」
との記載を、第4補正による補正後の特許請求の範囲の
「【請求項1】-30℃の共沸温度、及び1barの圧力で、62モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び38モル%の1,2-ジフルオロエチレンを含む共沸組成物。
【請求項2】-2℃の共沸温度、及び3barの圧力で、65モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び35モル%の1,2-ジフルオロエチレンを含む共沸組成物。
【請求項3】39℃の共沸温度、及び10barの圧力で、67モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び33モル%の1,2-ジフルオロエチレンを含む共沸組成物。
【請求項4】56℃の共沸温度、及び15barの圧力で、69モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び31モル%の1,2-ジフルオロエチレンを含む共沸組成物。」
との記載に改める補正を含むものである。

2.補正の適否
(1)請求項1の補正について
第4補正により、補正前の請求項1の「-30℃の共沸温度、及び1barの圧力で、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及びcis-1,2-ジフルオロエチレンの合計モル数に対して、62モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び38モル%のcis-1,2-ジフルオロエチレンを含む共沸組成物。」との記載を、補正後の請求項1の「-30℃の共沸温度、及び1barの圧力で、62モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び38モル%の1,2-ジフルオロエチレンを含む共沸組成物。」との記載に改める補正がなされている。
そして、令和元年5月20日付けの意見書の第1頁において、審判請求人は『請求項1-4の「cis-1,2-ジフルオロエチレン」という記載から「cis-」を削除し、請求項1-4から、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及びcis-1,2-ジフルオロエチレンの合計モル数に対して」という記載を削除しました。これらの記載は、明細書段落[0010]-[0014]にサポートされています。…これらの補正は、本願の願書に最初に添付した明細書等に記載されている事項の範囲であり、新規事項の追加等はないものと思料致します。』と主張している。

(2)請求項1の「拡張補正」について
上記請求項1についての補正のうち、補正前の「38モル%のcis-1,2-ジフルオロエチレンを含む」との記載部分を、補正後の「38モル%の1,2-ジフルオロエチレンを含む」との記載に改める補正(以下「拡張補正」という。)は、補正前の「1,2-ジフルオロエチレン」が「cis-」のものに限定されていたのに対して、補正後の「1,2-ジフルオロエチレン」は「cis-」のものに限定されなくなったという点において、その範囲が拡張されているものであり、このような範囲拡張によって補正前の特許請求の範囲が減縮されるとはいえないので、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当するとは認められない。
また、当該「拡張補正」によって「請求項の削除」がなされないことは明らかであるから、当該「拡張補正」が同1号に掲げる「第36条第5項に規定する請求項の削除」を目的とするものに該当するとは認められない。
さらに、当該「拡張補正」によって、補正前の「誤記」が「訂正」されることになるとはいえず、補正前の「明りようでない記載」が「釈明」されることになるともいえないので、当該「拡張補正」が同3号に掲げる「誤記の訂正」又は同4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものに該当するとも認められない。

(3)請求項2?4の補正について
第4補正により、請求項1と同様に、補正前の請求項2?4の「cis-1,2-ジフルオロエチレン」を「1,2-ジフルオロエチレン」とする補正が行われているが、上記2(2)と同様の理由により、これらの補正が特許法第17条の2第5項第1?4号に掲げる事項を目的とするものに該当するとは認められない。

3.まとめ
以上総括するに、第4補正は、目的要件違反があるという点において特許法第17条の2第5項の規定に違反してなされたものである。
このため、第4補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、〔補正の却下の決定の結論〕のとおり決定する。

第3 本願発明について
第4補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に記載された発明は、第3補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める(再掲)。
「【請求項1】-30℃の共沸温度、及び1barの圧力で、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及びcis-1,2-ジフルオロエチレンの合計モル数に対して、62モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び38モル%のcis-1,2-ジフルオロエチレンを含む共沸組成物。
【請求項2】-2℃の共沸温度、及び3barの圧力で、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及びcis-1,2-ジフルオロエチレンの合計モル数に対して、65モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び35モル%のcis-1,2-ジフルオロエチレンを含む共沸組成物。
【請求項3】39℃の共沸温度、及び10barの圧力で、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及びcis-1,2-ジフルオロエチレンの合計モル数に対して、67モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び33モル%のcis-1,2-ジフルオロエチレンを含む共沸組成物。
【請求項4】56℃の共沸温度、及び15barの圧力で、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及びcis-1,2-ジフルオロエチレンの合計モル数に対して、69モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び31モル%のcis-1,2-ジフルオロエチレンを含む共沸組成物。」

第4 平成31年2月19日付けの拒絶理由通知(最後)の概要
平成31年2月19日付けの拒絶理由通知(最後)の概要は、次のとおりである。
「理由5:
平成31年1月16日付けでした手続補正は、下記の点で国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文、請求の範囲の翻訳文又は図面(図面の中の説明を除く。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第184条の12第2項の規定により読み替えて適用する同法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
理由6:
本願の請求項1?4に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」

第5 当審の判断
1.理由5について
上述のとおり第4補正は却下されたところ、平成31年1月16日付けの手続補正(第3補正)による補正後の請求項1?4及び本件明細書の段落0022に記載された技術的事項については、以下のとおり、これが『当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである』とは認められない。

平成31年1月16日付けの手続補正(第3補正)は、補正後の請求項1の記載を「-30℃の共沸温度、及び1barの圧力で、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及びcis-1,2-ジフルオロエチレンの合計モル数に対して、62モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び38モル%のcis-1,2-ジフルオロエチレンを含む共沸組成物。」との記載に改める補正を含むものである。
そして、同日付けの意見書において、審判請求人は「これらの補正は、本願の願書に最初に添付した明細書等に記載されている事項の範囲であり、新規事項の追加等はないものと思料致します。」との釈明をしている。

しかしながら、本件特許出願の国際出願日における国際特許出願の明細書及び請求の範囲の翻訳文(以下「本件翻訳文」という。)には、例えば、その段落0010に「本発明による組成物は、45-90モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び55-10モル%の1,2-ジフルオロエチレンを含むか、好ましくはこれらから本質的になる。」との記載があるところ、本件翻訳文の記載における「45-90モル%」等のモル百分率が「組成物」を基準にしたものであるのに対して、補正後の請求項1に導入された「62モル%」等のモル百分率は「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及びcis-1,2-ジフルオロエチレンの合計モル数」を基準にしたものであるので、そのモル百分率の意味するところが相互に異なっている。そして、このような補正をすることにより、例えば、組成物全体に対するモル百分率として「0.62モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」と「0.38モル%のcis-1,2-ジフルオロエチレン」と「99モル%の其の他の成分」とを含む共沸組成物が、補正後の請求項1の記載の範囲に含まれることになる。このため、第3補正が、本件翻訳文に記載された技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえない。

また、本件翻訳文には、例えば、その段落0010に「55-10モル%の1,2-ジフルオロエチレンを含む」との記載があるところ、本件翻訳文には、請求項1の記載に追加された「cis-」という語句の記載が存在せず、当該「1,2-ジフルオロエチレン」が「cis-」のものであることについては、示唆を含めて記載がない。そして、本件翻訳文の「1,2-ジフルオロエチレン」との記載に接した当業者にしてみれば、当該「1,2-ジフルオロエチレン」はトランス体とシス体の混合物を意味するものとして普通に解される(国際公開第2012/155765号の段落0014参照)。このため、補正後の請求項1の記載に「38モル%のcis-1,2-ジフルオロエチレンを含む」という事項を導入する補正が、本件翻訳文に記載された技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえない。

さらに、補正後の請求項2?4の記載、及び本願明細書の段落0022の「表1」及び「表1(続き)」の記載においても、モル百分率の意味するところが変更され、新たに「cis-」という事項が追加されているところ、これらの変更及び追加をする補正についても、同様に本件翻訳文に記載された技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえない。

してみると、補正後の請求項1?4及び本件明細書の段落0022に記載された技術的事項については、これが『当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである』とは認められない。

したがって、第3補正は特許法第184条の12第2項の規定により読み替えて適用する同法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

なお、理由5について、令和元年5月20日付けの意見書の第1?2頁において、審判請求人は『理由5(新規事項):請求項1-4 上述の通り、明細書段落[0010]-[0014]の記載に基づいて、請求項1-4及び表1から、「cis-」、及び「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及びcis-1,2-ジフルオロエチレンの合計モル数に対して」を削除しました。本願明細書の記載に基づいて、請求項1-4に記載の組成物及び表1に示す実施形態を実施するために適切な1,2-ジフルオロエチレンを選択することは、当業者にとって困難なことではなかったものと思料致します。以上より、本願請求項に係る発明は、当該拒絶理由に該当しないものと思料致します。』と主張しているが、上述のとおり第4補正は却下されたので、審判請求人の上記主張は採用できない。

2.理由6について
上述のとおり第4補正は却下されたところ、本願請求項1?4に係る発明は、以下のとおり、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(1)引用刊行物及びその記載事項
刊行物1:米国特許出願公開第2011/252801号明細書

上記刊行物1には、和訳にして、次の記載がある。
摘記1a:Z-HFO-1132a及びHFO-1234yfの略号の意味
「〔0042〕…Z-1,2-ジフルオロエチレン(Z-HFO-1132a、又はZ-1,2-DEF、又はcis-1,2-ジフルオロエチレン)…
〔0044〕…2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)」

摘記1b:二成分組成物の有用性
「〔0003〕本開示は、冷凍、エアコン、及びヒートポンプシステムで使用される組成物であって、Z-1,2-ジフルオロエチレンを含む組成物に関する。…
〔0047〕本開示の二成分組成物の一実施形態として、Z-HFO-1132aが約1重量%から約99重量%で存在するときに一般に有用である。…
〔0049〕いくつかの実施態様において、本開示の組成物は共沸様であることがわかった。Z-HFO-1132aを含む共沸様組成物は、表1に列挙され、約0℃で同定された。
表1
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
化合物 共沸様範囲(重量百分率)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Z-HFO-1132a/HFO-1234yf 1?69/99?31
… …
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


摘記1c:共沸組成物となる組成範囲
「〔0050〕いくつかの実施態様において、本開示の組成物は共沸であることがわかった。Z-HFO-1132aを含む共沸組成物は、表1に列挙される特定の温度で同定された。
表2
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
化合物 濃度 wt% 温度 圧力
(A/B) A B ℃ psia(Kpa)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Z-HFO-1132a/HFO-1234yf 27.8 72.2 0 51.0(352)
… … … … …
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


(2)刊行物1に記載された発明
摘記1cの記載からみて、刊行物1には、
『0℃の温度、及び352Kpaの圧力で、72.2重量%のHFO-1234yf、及び27.8重量%のZ-HFO-1132aからなる共沸組成物。』についての発明(以下「刊1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比
本願請求項1に係る発明(以下「本1発明」という。)と刊1発明とを対比すると、
刊1発明の「HFO-1234yf」は、摘記1aの「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)」との記載からみて、本1発明の「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」に相当し、
刊1発明の「Z-HFO-1132a」は、摘記1aの「Z-HFO-1132a…又はcis-1,2-ジフルオロエチレン)」との記載からみて、本1発明の「cis-1,2-ジフルオロエチレン」に相当する。
また、刊1発明の「72.2重量%のHFO-1234yf」と「27.8重量%のZ-HFO-1132a」の組成は、HFO-1234yf(CH2=CFCF3)の分子量が「113」であって、Z-HFO-1132a(CHF=CHF)の分子量が「64」であるから、その「重量%」での組成を「モル%」での組成に換算すると、各々「60モル%のHFO-1234yf」及び「40モル%のZ-HFO-1132a」と換算される。
してみると、本1発明と刊1発明は、両者とも『2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及びcis-1,2-ジフルオロエチレンを含む共沸組成物。』である点において一致し、次の〔相違点〕において相違する。

〔相違点〕1234yfとcis-1132aの二成分を含む共沸組成物における「共沸」を示すための「温度」と「圧力」と「モル比」の条件が、
本1発明においては「-30℃」と「1bar」で「62モル%/38モル%」であるのに対して、
刊1発明においては「0℃」と「3.52bar」で「60モル%/40モル%」である点。

(4)判断
上記〔相違点〕について検討するに、刊行物1には、約60モル%の1234yf(2,3,3,3-テトラフルオロプロペン)と約40モル%のcis-1132a(cis-1,2-ジフルオロエチレン)のみからなる組成比の二成分系の組成物が、一般的な温度及び圧力の条件下(0℃及び3.52気圧)で「共沸組成物」になり、この「1234yf/cis-1132a」という特定の組み合わせのみからなる二成分系の組成物が広範な組成範囲で冷凍、エアコン、及びヒートポンプシステムで使用される組成物としての有用性を示すことが記載されている。
してみれば、この「1234yf/cis-1132a」という特定の二成分を少なくとも含む組成物について、その冷凍やエアコンやヒートポンプシステムとしての使用される場合に想定される通常の「温度」及び「圧力」の条件下で実際に「共沸」となる「モル比」の具体的な値を検証してみることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲にすぎない。
そして、刊行物1には、この「1234yf/cis-1132a」という特定の組み合わせのみからなる二成分系の組成物が、共沸組成物となり、広範な組成範囲で冷凍、エアコン、及びヒートポンプシステムで使用される組成物としての有用性を発揮できることが記載されているから、本1発明に格別予想外の効果があるとは認められない。
したがって、本1発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5)本願請求項2?4に係る発明について
本願請求項2?4に係る発明と刊1発明とを対比すると、1234yfとcis-1132aの二成分を含む共沸組成物における「共沸」を示すための「温度」と「圧力」と「モル比」の条件が、
本願請求項2に係る発明においては「-2℃」と「3bar」で「65モル%/35モル%」であり、
本願請求項3に係る発明においては「39℃」と「10bar」で「67モル%/33モル%」であり、
本願請求項4に係る発明においては「56℃」と「15bar」で「69モル%/31モル%」であるのに対して、
刊1発明においては「0℃」と「3.52bar」で「60モル%/40モル%」である点においてのみ相違するが、
刊行物1には、1234yfとcis-1132aの二成分のみからなる組成物が、冷凍やエアコンやヒートポンプシステムとしての使用される場合に想定される通常の「温度」及び「圧力」の条件下で「共沸組成物」となることが記載されているので、
その冷凍やエアコンやヒートポンプシステムとしての使用される場合に想定される通常の「温度」及び「圧力」の条件下で実際に「共沸組成物」となる「モル比」の具体的な値を検証してみることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲であり、本願請求項2?4に係る発明に格別予想外の効果があるとも認められない。
したがって、本願請求項2?4に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(6)審判請求人の主張について
理由6について、令和元年5月20日付けの意見書の第2頁において、審判請求人は『理由6(進歩性):請求項1-4;刊行物1 刊行物1は、冷凍、空調、及びヒートポンプシステムで使用するための、Z-1,2-ジフルオロエチレンを含む組成物に関します。しかし、刊行物1の表1では、99-31重量%(98-20モル%)の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと1-69重量%(2-80モル%)のZ-1,2-ジフルオロエチレンとを含む共沸又は共沸様組成物をごく一般的に幅広く記載しているに過ぎません。更に、刊行物1の表2では、72.2重量%(59.3モル%)の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び27.8重量%(40.7モル%)のZ-1,2-ジフルオロエチレンを含む組成物の実施態様を開示しています。しかし、この組成物は、本願請求項に係る発明の組成物に比べて過剰のZ-1,2-ジフルオロエチレンを含みます。従って、本願請求項に係る発明のような特定の共沸温度及び特定の圧力で共沸組成物を特定する動機も、示唆も、教示も、刊行物1にはありません。以上より、本願請求項に係る発明は、当該拒絶理由に該当しません。』と主張している。
しかしながら、刊行物1の「〔0027〕共沸組成物とは、単一物質のように挙動する2種以上の物質の低沸点混合物を意味する。…すなわち、混合物が組成変化することなく蒸留/還流する。…共沸組成物は、冷凍又は空調システムの運転中に分画を生じず、これによりシステムの熱伝達と効率を軽減させる。」との記載にあるように、刊行物1に記載された発明は『冷凍システムの運転中に分画を生じない共沸組成物』の組成を探索し、検証したものといえる。
してみると、冷凍システムとして使用される場合に想定される「温度」及び「圧力」の条件下で実際に「共沸組成物」となる「モル比」の具体的な値を更に検証してみることについて、刊行物1に、動機も、示唆も、教示もないとはいえないから、上記意見書の主張は採用できない。

3.第4補正による補正後の本願発明について
第4補正は上記のとおり却下されたところであるが、仮に第4補正が認められるものと善解して、第4補正による補正後の本願発明の進歩性について念のため検討する。

(1)本2発明及び刊1発明(再掲)
第4補正による補正後の請求項2に係る発明(以下「本2発明」ともいう。)は、次のとおりものである(再掲)。
「-2℃の共沸温度、及び3barの圧力で、65モル%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び35モル%の1,2-ジフルオロエチレンを含む共沸組成物。」
また、刊行物1には、上述のとおり、次の「刊1発明」が記載されているといえる(再掲)。
「0℃の温度、及び352Kpaの圧力で、72.2重量%のHFO-1234yf、及び27.8重量%のZ-HFO-1132aからなる共沸組成物。」

(2)対比
本2発明と刊1発明とを対比すると、
刊1発明の「HFO-1234yf」は、摘記1aの「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)」との記載からみて、本2発明の「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」に相当し、
刊1発明の「Z-HFO-1132a」は、摘記1aの「Z-1,2-ジフルオロエチレン(Z-HFO-1132a…又はcis-1,2-ジフルオロエチレン)」との記載、及び単に「1,2-ジフルオロエチレン」と表記された場合には、2種類の立体異性体を単独又は混合物で含むものを意味すると解される(必要ならば、国際公開第2012/157765号の段落0014の「HFO-1132としては、トランス-1,2-ジフルオロエチレン…、シス-1,2-ジフルオロエチレン…の2種類の立体異性体が存在する。…単独で用いてもよく、…混合物を用いてもよい。」との記載を参照されたい。)ことから、本2発明の「1,2-ジフルオロエチレン」に相当する。
また、刊1発明の「72.2重量%のHFO-1234yf」と「27.8重量%のZ-HFO-1132a」の組成は、その「重量%」での組成を「モル%」での組成に換算すると、各々「60モル%のHFO-1234yf」及び「40モル%のZ-HFO-1132a」と換算される。
してみると、本2発明と刊1発明は、両者とも『2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,2-ジフルオロエチレンを含む共沸組成物。』である点において一致し、次の〔相違点2〕において相違する。

〔相違点2〕1234yfと1132aの二成分を含む共沸組成物における「共沸」を示すための「温度」と「圧力」と「モル比」の条件が、
本2発明においては「-2℃」と「3bar」で「65モル%/35モル%」であるのに対して、
刊1発明においては「0℃」と「3.52bar」で「60モル%/40モル%」である点。

(3)判断
上記〔相違点2〕について検討するに、刊行物1には、約60モル%の1234yf(2,3,3,3-テトラフルオロプロペン)と約40モル%のcis-1132a(cis-1,2-ジフルオロエチレン)のみからなる組成比の二成分系の組成物が、一般的な温度及び圧力の条件下(0℃及び3.52気圧)で「共沸組成物」になり(摘記1c)、この「1234yf/cis-1132a」という特定の組み合わせのみからなる二成分系の組成物が広範な組成範囲で冷凍、エアコン、及びヒートポンプシステムで使用される組成物としての有用性を示すこと(二成分組成物の一実施形態として、Z-HFO-1132aが約1重量%から約99重量%で存在するときに一般に有用であること)が記載されている(摘記1b)。
してみれば、この「1234yf/cis-1132a」という特定の二成分を少なくとも含む組成物について、その冷凍やエアコンやヒートポンプシステムとしての使用される場合に想定される通常の「温度」及び「圧力」の条件下で実際に「共沸」となる「モル比」の具体的な値を検証してみることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲にすぎない。
そして、刊行物1には、この「1234yf/cis-1132a」という特定の組み合わせのみからなる二成分系の組成物が、共沸組成物となり、広範な組成範囲で冷凍、エアコン、及びヒートポンプシステムで使用される組成物としての有用性を発揮できることが記載されているから、本2発明に格別予想外の効果があるとは認められない。
したがって、本2発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(4)第4補正による補正後の他の発明について
第4補正による補正後の請求項1、3及び4に係る発明についても、上記に示したのと同様の理由により、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願は、第3補正が特許法第49条第1号の「その特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとき」に該当し、また、本願請求項1?4に係る発明(及び第4補正による補正後の本願請求項1?4に係る発明)が特許法第49条第2号の「その特許出願に係る発明が第29条の規定により特許をすることができないものであるとき」に該当するから、その余のことを検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する 。
 
別掲
 
審理終結日 2019-06-21 
結審通知日 2019-06-25 
審決日 2019-07-08 
出願番号 特願2015-550131(P2015-550131)
審決分類 P 1 8・ 55- WZ (C09K)
P 1 8・ 572- WZ (C09K)
P 1 8・ 121- WZ (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 恵理  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 木村 敏康
日比野 隆治
発明の名称 2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び1,2-ジフルオロエチレンを含有する組成物  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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