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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1357337
審判番号 不服2018-12066  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-17 
確定日 2019-11-21 
事件の表示 特願2016-119508「白色長残光蛍光体ブレンド又は層状構造体」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月 1日出願公開、特開2016-199757〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成23年12月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成22年12月17日、米国)を国際出願日とする特願2013-544662号の一部を、平成28年6月16日に新たな特許出願とした外国語書面出願であって、以降の手続の経緯は、概略以下のとおりのものである。

平成28年 6月16日 :翻訳文提出書
平成28年 7月13日 :手続補正書
平成29年 4月28日付け:拒絶理由通知書
平成29年11月 8日 :意見書
平成30年 4月16日付け:拒絶査定
平成30年 8月17日 :審判請求書・手続補正書
平成30年10月19日 :手続補正書(方式)
平成30年12月14日付け:前置報告

第2 平成30年8月17日付け手続補正についての補正の却下の決定

1 補正の却下の決定の結論
平成30年8月17日付け手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。

2 理由
(1) 補正の内容
ア 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりとなった(下線部は、補正箇所である)。
「【請求項1】
製品であって、
各層に第一の長残光蛍光体、第二の長残光蛍光体及び第三の蛍光体の1種以上を有する2以上の層を含む製品であって、3層を含んでおり、第一の長残光蛍光体、第二の長残光蛍光体及び第三の非長残光蛍光体が各々別々の層に存在し、第一の長残光蛍光体が以下の式Iのものであり、第二の長残光蛍光体が以下の式IIのものであり、第三の蛍光体が300?500nmの波長域の波長で励起される非長残光蛍光体であり、
前記3層が、前記製品の基材側から、第一の長残光蛍光体の層、第二の長残光蛍光体の層、第三の非長残光蛍光体の層の順に配置されている、製品。
Ca_(x-y-z-a)A_(a)Al_(2-m-n-o-p)O_(d):Eu_(y),RE_(z),B_(m),Zn_(n),Co_(o),Sc_(p) I
(式中、xは0.75?1.3であり、yは0.0005?0.1であり、zは0.0005?0.1であり、aは0?0.2であり、AはSr及びBaの1種以上であり、mは0?0.3であり、nは0?0.1であり、oは0?0.01であり、pは0?0.10であり、REは希土類イオンであり、dは3.945?4.075である。)
Sr_(x-y-z-a)A_(a)Al_(14-m-n-o-p)O_(d):Eu_(y),RE_(z),B_(m),Zn_(n),Co_(o),Sc_(p) II
(式中、xは3.0?5.2であり、yは0.0005?0.1であり、zは0.0005?0.1であり、aは0?0.2であり、AはCa及びBaの1種以上であり、mは0?0.3であり、nは0?0.1であり、oは0?0.01であり、pは0?0.10であり、REは希土類イオンであり、dは23.945?26.425である。)」

イ 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正前の、平成28年7月13日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
各層に第一の長残光蛍光体、第二の長残光蛍光体及び第三の蛍光体の1種以上を有する2以上の層を含む製品であって、3層を含んでおり、第一の長残光蛍光体、第二の長残光蛍光体及び第三の非長残光蛍光体が各々別々の層に存在し、第一の長残光蛍光体が以下の式Iのものであり、第二の長残光蛍光体が以下の式IIのものであり、第三の蛍光体が300?500nmの波長域の波長で励起される非長残光蛍光体である、製品。
Ca_(x-y-z-a)A_(a)Al_(2-m-n-o-p)O_(d):Eu_(y),RE_(z),B_(m),Zn_(n),Co_(o),Sc_(p) I
(式中、xは0.75?1.3であり、yは0.0005?0.1であり、zは0.0005?0.1であり、aは0?0.2であり、AはSr及びBaの1種以上であり、mは0?0.3であり、nは0?0.1であり、oは0?0.01であり、pは0?0.10であり、REは希土類イオンであり、dは3.945?4.075である。)
Sr_(x-y-z-a)A_(a)Al_(14-m-n-o-p)O_(d):Eu_(y),RE_(z),B_(m),Zn_(n),Co_(o),Sc_(p) II
(式中、xは3.0?5.2であり、yは0.0005?0.1であり、zは0.0005?0.1であり、aは0?0.2であり、AはCa及びBaの1種以上であり、mは0?0.3であり、nは0?0.1であり、oは0?0.01であり、pは0?0.10であり、REは希土類イオンであり、dは23.945?26.425である。)」

(2) 補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「3層」について、上記のとおり「前記製品の基材側から、第一の長残光蛍光体の層、第二の長残光蛍光体の層、第三の非長残光蛍光体の層の順に配置されている」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に係る発明と、補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か、について検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記「第2 2(1)ア」に示した請求項1により特定されるとおりのものであって、再掲すると次のとおりである。
「【請求項1】
製品であって、
各層に第一の長残光蛍光体、第二の長残光蛍光体及び第三の蛍光体の1種以上を有する2以上の層を含む製品であって、3層を含んでおり、第一の長残光蛍光体、第二の長残光蛍光体及び第三の非長残光蛍光体が各々別々の層に存在し、第一の長残光蛍光体が以下の式Iのものであり、第二の長残光蛍光体が以下の式IIのものであり、第三の蛍光体が300?500nmの波長域の波長で励起される非長残光蛍光体であり、
前記3層が、前記製品の基材側から、第一の長残光蛍光体の層、第二の長残光蛍光体の層、第三の非長残光蛍光体の層の順に配置されている、製品。
Ca_(x-y-z-a)A_(a)Al_(2-m-n-o-p)O_(d):Eu_(y),RE_(z),B_(m),Zn_(n),Co_(o),Sc_(p) I
(式中、xは0.75?1.3であり、yは0.0005?0.1であり、zは0.0005?0.1であり、aは0?0.2であり、AはSr及びBaの1種以上であり、mは0?0.3であり、nは0?0.1であり、oは0?0.01であり、pは0?0.10であり、REは希土類イオンであり、dは3.945?4.075である。)
Sr_(x-y-z-a)A_(a)Al_(14-m-n-o-p)O_(d):Eu_(y),RE_(z),B_(m),Zn_(n),Co_(o),Sc_(p) II
(式中、xは3.0?5.2であり、yは0.0005?0.1であり、zは0.0005?0.1であり、aは0?0.2であり、AはCa及びBaの1種以上であり、mは0?0.3であり、nは0?0.1であり、oは0?0.01であり、pは0?0.10であり、REは希土類イオンであり、dは23.945?26.425である。)」

イ 引用刊行物
1.特開2005-330459号公報(拒絶査定における引用文献1)(以下、本願優先日前に頒布された当該刊行物1を、「引用例1」という)
ウ 引用例1の記載
引用例1には、次の記載がある。

a 「【請求項1】
励起源のエネルギーの少なくとも一部を変換して、前記エネルギーと異なる第一の発光スペクトルを有する第一の蛍光物質と、前記第一の発光スペクトルの少なくとも一部を変換して、前記第一の発光スペクトルと異なる第二の発光スペクトルを有する第二の蛍光物質とを有し、
前記第一の蛍光物質は、蓄光性蛍光物質である、蛍光物質。
・・・(中略)・・・
【請求項3】
第一の蛍光物質及び第二の蛍光物質がそれぞれ層状に形成されている、請求項1に記載の蛍光物質。」(請求項1、3)

b 「【発明の効果】
【0036】
本発明の項1?5の蛍光物質は、非常に広い範囲の発光色度の、残光性を有する高輝度な光を発光することが可能である。また、長時間残光性を有する発光色度と同じ又はほぼ同じ色を保持することができる。即ち、残光の色度が長時間にわたり変化しない、又は変化し難い。
【0037】
さらに、項3の蛍光物質は、第一蛍光物質、及び第二蛍光物質が、それぞれ層状に形成されていることから、均一な発光色度で発光することができる。
・・・(中略)・・・
【0057】
・・・(中略)・・・
第一蛍光物質及び第二蛍光物質の発光スペクトル
本発明において、第一および第二の蛍光物質は、それぞれ一種類であってもよいし、それぞれが二種類以上の蛍光物質により構成されていてもよい。これにより、発光スペクトルの組み合わせが大きく広がり、適切な組み合わせを選択することにより、演色性、発光輝度などの特性に優れた蛍光物質が得られる。また、第二の蛍光物質が、第一の蛍光物質によって励起される場合であって、第一の蛍光物質を二種類以上用いているときは、それら第一の蛍光物質のすべてが第二の蛍光物質の励起源となっていなくてもよく、第一の蛍光物質のうちのいずれかが、第二の蛍光物質を励起させることができればよい。前述したように、第二の蛍光物質は、第一の蛍光物質と励起源のエネルギーとの両方に励起されるものであってもよい。
・・・(中略)・・・
【0060】
本発明の蛍光物質において、第一の蛍光物質は、第二の蛍光物質の発光スペクトルにおけるピーク波長と補色関係にあるピーク波長を有する発光スペクトルを有するのが好ましい。この場合も、効率よく、残光性を有する高輝度な白色領域の発光をすることができる。また、色ムラが抑制された白色領域の発光が得られる。さらに、第一の蛍光物質により第二の蛍光物質が励起されるようにするときは、第一の蛍光物質が劣化した場合には第二の蛍光物質が励起され難くなるため、出力や発光効率は低下しても色ズレは少なくすることができる。なお、第一の蛍光物質及び第二の蛍光物質が、それぞれ1種類の蛍光物質からなる場合でも、また2種類以上の蛍光物質からなる場合でも、第一の蛍光物質と第二の蛍光物質とを補色関係になるようにすることは可能である。これにより、より演色性に優れた蛍光物質とすることができる。」(段落0036?0037、0057、0060)

c 「【0050】
本発明の蛍光物質(III)は、励起源のエネルギーの少なくとも一部を変換して、このエネルギーと異なる第一の発光スペクトルを有する蓄光性蛍光物質である第一の蛍光物質を含む層と、第一の発光スペクトルの少なくとも一部を変換して、第一の発光スペクトルと異なる第二の発光スペクトルを有する第二の蛍光物質を含む層とを有するものである。
【0051】
蛍光物質(III)は、第一及び第二の蛍光物質がそれぞれ層状に形成されているため、均一な発光色度の光を発することができる。
【0052】
蛍光物質(III)は、第一及び第二の蛍光物質層をそれぞれ1?3層程度含むことが好ましい。各層が1層ずつ形成されている場合は、励起源に近い位置から第一蛍光物質層、および第二蛍光物質層の順序で形成されているのが好ましい。また、各層がそれぞれ複数設けられる場合は、励起源に近い位置から第一蛍光物質層および第二蛍光物質層がこの順序で交互に形成されていることが好ましい。このような順序で形成されることにより、色度範囲が広くなり、また色度を制御し易い。また、第一及び第二の蛍光物質層の厚みは、用途に応じて異なるが、ランプに備えられるものである場合は、第一の蛍光物質層を5?100μm程度とすればよく、第二の蛍光物質層が5?100μm程度とすればよい。
その他は、蛍光物質(I)について説明した通りである。」(段落0050?0052)

d 「【0075】
第二の蛍光物質の好適な態様として、以下の(9)?(16)の蛍光物質が挙げられる。これらに含まれる蛍光物質の1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
(9) Yの一部もしくは全体が、Lu、Sc、La、Gd、Pr、TbおよびSmからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素に置換されたものと、Alと、Oとが、Ceで付活されたセリウム付活イットリウムアルミニウム酸化物系蛍光物質、
Yの一部もしくは全体が、Lu、Sc、La、Gd、Pr、TbおよびSmからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素に置換されたものと、Alと、Tl、GaおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、Oとが、Ceで付活されたセリウム付活希土類アルミニウム酸化物系蛍光物質、および
Yの一部もしくは全体が、Lu、Sc、La、Gd、Pr、TbおよびSmからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素に置換されたものと、Al、Tl、GaおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、Oとが、Ceで付活されたセリウム付活希土類アルミニウム酸化物系蛍光物質
からなる群より選ばれる少なくとも1種の蛍光物質
(10) (9)の中でも、一般式(Y_(z)Gd_(1-z))_(3)Al_(5)O_(12):Ce(zは0<z≦1を満たす数を表す。)、または、(A_(1-a)Sm_(a))_(3)A’_(5)O_(12):Ce(AはY、Lu、Sc、La、Gd、PrおよびTbからなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、A’はAl、GaおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、aは0≦a<1を満たす数を表す。)で表される蛍光物質
第二の蛍光物質が上記のセリウム付活イットリウムアルミニウム酸化物系蛍光物質(9)、特に(10)であることで、非常に広い範囲の発光色度の残光性を有する発光、及び残光における一定発光色度の長時間保持という本発明の効果を損なうことなく、安定した色度を維持することが可能となる。
・・・(中略)・・・
【0098】
上記の第二の蛍光物質(10)は、ガーネット構造を採るため、熱、光および水分に強く、励起スペクトルのピークを450nm付近にすることができる。また、発光ピークも580nm付近にあり、700nmまで広がるブロードな発光スペクトルを持つ。」(段落0075、0098)

e 「1.蛍光物質の作製
【実施例1】
【0233】
SrCO_(3)144.7g、Al_(2)O_(3)178.4g、Eu_(2)O_(3)1.8gおよびDy_(2)O_(3)1.9gを秤量し、ボールミルにより充分に混合した。この混合原料をアルミナ坩堝に充填し、N_(2),H_(2)の還元雰囲気中1200?1400℃で約3時間焼成した。得られた焼成品を粉砕、分散、篩、分離、水洗、乾燥して第一の蛍光物質を得た。
【0234】
得られた第一の蛍光物質の組成比は、Srが0.98、Euが0.01、Dyが0.01、Sr,Eu,Dyが4、Alが14、Oが25であった。
・・・(中略)・・・
【実施例3】
【0239】
CaCO_(3)98.1g、Al_(2)O_(3)101.9g、Eu_(2)O_(3)1.8gおよびNd_(2)O_(3)1.7gを秤量し、ボールミルにより充分に混合した。この混合原料をアルミナ坩堝に充填し、N_(2),H_(2)の還元雰囲気中1200?1400℃で約3時間焼成した。得られた焼成品を粉砕、分散、篩、分離、水洗、乾燥して第一の蛍光物質を得た。
【0240】
得られた第一の蛍光物質の組成比は、Caが0.98、Euが0.01、Ndが0.01、Alが2、Oが4であった。
【0241】
Y_(2)O_(3)30.48g、Gd_(2)O_(3)2.7g、CeO_(2)2.6g、Al_(2)O_(3)51.0gを秤量し、ボールミルにより充分に混合した。この混合原料をアルミナ坩堝に充填し、N_(2),H_(2)の還元雰囲気中1300?1500℃で約3時間焼成した。得られた焼成品を粉砕、分散、篩、分離、水洗、乾燥して第二の蛍光物質を得た。
【0242】
得られた第二の蛍光物質の組成比は、Yが0.90、Gdが0.05、Ceが0.05、Y,Gd,Ceが3、Alが5、Oが12であった。
・・・(中略)・・・
【実施例15】
【0263】
実施例3で得られた第一の蛍光物質と、実施例1で得られた第一の蛍光物質と、実施例3で得られた第二の蛍光物質とを、重量比で、実施例3の第一の蛍光物質:実施例1の第一蛍光物質:第二蛍光物質=3:4:3の混合割合で、均質に混合し、本発明の蛍光物質を得た。」(段落0233?0234、0239?0242、0263)

f 「【0266】
・・・(中略)・・・
2.蛍光物質の評価
得られた蛍光物質について、励起光源として波長365.0nm紫外放射のブラックライトランプ(強度0.5mW/cm^(2))を用い15分間照射して励起させ、励起終了1分後および10分後の残光輝度と、残光色を測定した。
【0267】
結果を下記の表1に示す。
【0268】
【表1】

【0269】
表1から明らかなように、本発明の蛍光物質は、発光色度範囲が非常に広く、好みの発光色度で発光することが可能であり、高輝度の残光特性を有していることが分かる。また、残光の発光色度が経時的に変化し難いことが分かる。」(段落0266?0269)

エ 引用例1に記載された発明
引用例1には、摘記事項aの「励起源のエネルギーの少なくとも一部を変換して、前記エネルギーと異なる第一の発光スペクトルを有する第一の蛍光物質と、前記第一の発光スペクトルの少なくとも一部を変換して、前記第一の発光スペクトルと異なる第二の発光スペクトルを有する第二の蛍光物質とを有し、前記第一の蛍光物質は、蓄光性蛍光物質である、蛍光物質」との記載(請求項1)からみて、「励起源のエネルギーの少なくとも一部を変換して、前記エネルギーと異なる第一の発光スペクトルを有する第一の蓄光性蛍光物質と、前記第一の発光スペクトルの少なくとも一部を変換して、前記第一の発光スペクトルと異なる第二の発光スペクトルを有する第二の蛍光物質とを有する、蛍光物質」の発明が記載されている。また、具体的な蛍光物質として実施例15(摘記事項e)に、「実施例3で得られた第一の蛍光物質と、実施例1で得られた第一の蛍光物質と、実施例3で得られた第二の蛍光物質とを、重量比で、実施例3の第一の蛍光物質:実施例1の第一蛍光物質:第二蛍光物質=3:4:3の混合割合で、均質に混合」したものが記載されている(段落0263)。ここで、「実施例3で得られた第一の蛍光物質」とは段落0239?0240(摘記事項e)の記載からみて「(Ca_(0.98)Eu_(0.01)Nd_(0.01))Al_(2)O_(4)」と認められ、「実施例1で得られた第一の蛍光物質」とは段落0233?0234(摘記事項e)の記載からみて「(Sr_(0.98)Eu_(0.01)Dy_(0.01))_(4)Al_(14)O_(25)」と認められ、「実施例3で得られた第二の蛍光物質」とは段落0241?0242(摘記事項e)の記載からみて「(Y_(0.90)Gd_(0.05)Ce_(0.05))_(3)Al_(5)O_(12)」と認められる。そして、摘記事項bの「第二の蛍光物質が、第一の蛍光物質によって励起される場合であって、第一の蛍光物質を二種類以上用いているときは、それら第一の蛍光物質のすべてが第二の蛍光物質の励起源となっていなくてもよく、第一の蛍光物質のうちのいずれかが、第二の蛍光物質を励起させることができればよい。」との記載(段落0057)からみて、「実施例3で得られた第一の蛍光物質」である「(Ca_(0.98)Eu_(0.01)Nd_(0.01))Al_(2)O_(4)」と、「実施例1で得られた第一の蛍光物質」である「(Sr_(0.98)Eu_(0.01)Dy_(0.01))_(4)Al_(14)O_(25)」とのうち少なくとも一方が、「実施例3で得られた第二の蛍光物質」である「(Y_(0.90)Gd_(0.05)Ce_(0.05))_(3)Al_(5)O_(12)」を励起させていると認められる。
そうすると、引用例1には、
「励起源のエネルギーの少なくとも一部を変換して、前記エネルギーと異なる第一の発光スペクトルを有する第一の蓄光性蛍光物質である(Ca_(0.98)Eu_(0.01)Nd_(0.01))Al_(2)O_(4)と、励起源のエネルギーの少なくとも一部を変換して、前記エネルギーと異なる第一の発光スペクトルを有する第一の蓄光性蛍光物質である(Sr_(0.98)Eu_(0.01)Dy_(0.01))_(4)Al_(14)O_(25)と、前記2種の第一の蓄光性蛍光物質のうち少なくとも一方の第一の発光スペクトルの少なくとも一部を変換して、前記第一の発光スペクトルと異なる第二の発光スペクトルを有する第二の蛍光物質である(Y_(0.90)Gd_(0.05)Ce_(0.05))_(3)Al_(5)O_(12)とを、3:4:3の重量比で均質に混合して得られた蛍光物質」の発明(以下、この発明を「引用例1発明」という)が記載されていると認められる。

オ 対比・判断
本件補正発明と引用例1発明とを比較する。
引用例1発明の「蛍光物質」は製造したものであるから、本件補正発明の「製品」に相当する。
引用例1発明の「第一の蓄光性蛍光物質である(Ca_(0.98)Eu_(0.01)Nd_(0.01))Al_(2)O_(4)」は、本件補正発明の式Iにおいてx=1、y=0.01、RE=Nd、z=0.01、a=m=n=o=p=0、d=4に該当するものであり、蓄光性すなわち長残光のものであるから、本件補正発明の「第一の長残光蛍光体」に相当する。
引用例1発明の「第一の蓄光性蛍光物質である(Sr_(0.98)Eu_(0.01)Dy_(0.01))_(4)Al_(14)O_(25)」 は、本件補正発明の式IIにおいてx=4、y=0.04、RE=Dy、z=0.04、a=m=n=o=p=0、d=25に該当するものであり、蓄光性すなわち長残光のものであるから、本件補正発明の「第二の長残光蛍光体」に相当する。
引用例1発明の「第二の蛍光物質である(Y_(0.90)Gd_(0.05)Ce_(0.05))_(3)Al_(5)O_(12)」は、引用例1の段落0075(摘記事項d)における「(10)」に該当する蛍光物質であり、当該蛍光物質について段落0098(摘記事項d)には、「励起スペクトルのピーク」が「450nm」付近であるとの示唆が存在する。また、当該蛍光物質はいわゆるYAGに該当する周知の蛍光物質であって、本願明細書の段落0032にも記載されているように、約460nmの波長で励起され、かつ非長残光のものと認められる。よって、当該蛍光物質は本件補正発明の「第三の蛍光体」に相当する。
してみると、本件補正発明と引用例1発明とは、
「製品であって、第一の長残光蛍光体、第二の長残光蛍光体及び第三の蛍光体の1種以上を有し、第一の長残光蛍光体が以下の式Iのものであり、第二の長残光蛍光体が以下の式IIのものであり、第三の蛍光体が300?500nmの波長域の波長で励起される非長残光蛍光体である、製品。
Ca_(x-y-z-a)A_(a)Al_(2-m-n-o-p)O_(d):Eu_(y),RE_(z),B_(m),Zn_(n),Co_(o),Sc_(p) I
(式中、xは0.75?1.3であり、yは0.0005?0.1であり、zは0.0005?0.1であり、aは0?0.2であり、AはSr及びBaの1種以上であり、mは0?0.3であり、nは0?0.1であり、oは0?0.01であり、pは0?0.10であり、REは希土類イオンであり、dは3.945?4.075である。)
Sr_(x-y-z-a)A_(a)Al_(14-m-n-o-p)O_(d):Eu_(y),RE_(z),B_(m),Zn_(n),Co_(o),Sc_(p) II
(式中、xは3.0?5.2であり、yは0.0005?0.1であり、zは0.0005?0.1であり、aは0?0.2であり、AはCa及びBaの1種以上であり、mは0?0.3であり、nは0?0.1であり、oは0?0.01であり、pは0?0.10であり、REは希土類イオンであり、dは23.945?26.425である。)」
である点において一致し、以下の点において相違が認められる。

(相違点)
本件補正発明は、製品が「各層に第一の長残光蛍光体、第二の長残光蛍光体及び第三の蛍光体の1種以上を有する2以上の層を含」み、「3層を含んでおり、第一の長残光蛍光体、第二の長残光蛍光体及び第三の非長残光蛍光体が各々別々の層に存在し」、「前記3層が、前記製品の基材側から、第一の長残光蛍光体の層、第二の長残光蛍光体の層、第三の非長残光蛍光体の層の順に配置されている」のに対し、引用例1発明は、このような層構造を有していない点。

そこで、当該相違点について検討する。
引用例1の請求項3(摘記事項a)には、「第一の蛍光物質及び第二の蛍光物質がそれぞれ層状に形成されている、請求項1に記載の蛍光物質。」と記載され、段落0050(摘記事項c)には、「本発明の蛍光物質(III)は、励起源のエネルギーの少なくとも一部を変換して、このエネルギーと異なる第一の発光スペクトルを有する蓄光性蛍光物質である第一の蛍光物質を含む層と、第一の発光スペクトルの少なくとも一部を変換して、第一の発光スペクトルと異なる第二の発光スペクトルを有する第二の蛍光物質を含む層とを有するものである」と記載され、段落0051(摘記事項c)には、「蛍光物質(III)は、第一及び第二の蛍光物質がそれぞれ層状に形成されているため、均一な発光色度の光を発することができる。」と記載され、段落0052(摘記事項c)には「各層が1層ずつ形成されている場合は、励起源に近い位置から第一蛍光物質層、および第二蛍光物質層の順序で形成されているのが好ましい。」と記載されている。そして、「第一蛍光物質」が2種類存在する場合に「第一蛍光物質層」を形成する方法として、当該2種類の物質を物理的に混合して層を形成する方法、各物質の層を積層して「第一蛍光物質層」とする方法が存在することは当業者に自明であるし、上記段落0051の記載からみて、後者の方法の方が発光色度が均一になると認められる。さらに、段落0052(摘記事項c)には、「第一及び第二の蛍光物質層の厚みは、用途に応じて異なるが、ランプに備えられるものである場合は、第一の蛍光物質層を5?100μm程度とすればよく、第二の蛍光物質層が5?100μm程度とすればよい。」と記載されているところ、そのような薄層を形成するのに基材が必要であることは当業者に自明である。
してみれば、引用例1発明において、均一な発光色度の光を得るために、蛍光物質を、各蛍光体の均質混合物とすることにかえて、励起源に近い位置から、基材、(Ca_(0.98)Eu_(0.01)Nd_(0.01))Al_(2)O_(4)を含む層と(Sr_(0.98)Eu_(0.01)Dy_(0.01))_(4)Al_(14)O_(25)を含む層との積層による第一の蓄光性蛍光物質層、および(Y_(0.90)Gd_(0.05)Ce_(0.05))_(3)Al_(5)O_(12)を含む第二の蛍光物質層の順序の層構成とすることは、当業者が容易になし得る事項である。また、Ca_(0.98)Eu_(0.01)Nd_(0.01))Al_(2)O_(4)を含む層と(Sr_(0.98)Eu_(0.01)Dy_(0.01))_(4)Al_(14)O_(25)を含む層の順序は、当業者が適宜決定し得る設計的事項である。
そして、本件補正発明の効果について検討するに、本願明細書の段落0011には、「蛍光体ブレンドは、公知の白色発光蛍光体と比較して相対的に高い初期強度、長残光性及び良好な経時的色安定性を有する。蛍光体ブレンドは、この材料を組み込む製品においてより良好な性能を可能にしうる。」と記載されている。他方、引用例1には、段落0036(摘記事項b)に「本発明の項1?5の蛍光物質は、非常に広い範囲の発光色度の、残光性を有する高輝度な光を発光することが可能である。また、長時間残光性を有する発光色度と同じ又はほぼ同じ色を保持することができる。」との効果、段落0060(摘記事項b)に「本発明の蛍光物質において、第一の蛍光物質は、第二の蛍光物質の発光スペクトルにおけるピーク波長と補色関係にあるピーク波長を有する発光スペクトルを有するのが好ましい。この場合も、効率よく、残光性を有する高輝度な白色領域の発光をすることができる。また、色ムラが抑制された白色領域の発光が得られる。さらに、第一の蛍光物質により第二の蛍光物質が励起されるようにするときは、第一の蛍光物質が劣化した場合には第二の蛍光物質が励起され難くなるため、出力や発光効率は低下しても色ズレは少なくすることができる。」との効果が記載され、それらの効果は上記本願明細書記載の効果と同様の効果と認められ、また、実施例15の結果を示す表1(摘記事項f)には、引用例1発明において高い初期強度、長残光性及び良好な経時的色安定性が達成されたことが具体的に示されており、それらの性質は引用例1発明を層構造とした場合にも維持されると認められる。さらに、本願明細書の段落0017には「層の順序付けは、発光の外見を調和させるために調整することができる。」と記載されているものの、その意味するところは明瞭でなく、当該記載を参酌しても、本件補正発明が格別の作用効果を奏しているものとは認められない。してみると、本件補正発明が、引用例1に記載された発明から予測外の格別の作用効果を奏しているものとは認められない。
したがって、本件補正発明は、引用例1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

カ 請求人の主張の検討
請求人は、平成29年11月8日に提出した意見書において、
引用例1には、「本願請求項1に規定するように、第一の長残光蛍光体、第二の長残光蛍光体及び第三の非長残光蛍光体が3層のうちの各々別々の層に存在するように構成することは記載も示唆もされていない。」
と主張し、平成30年10月19日に提出した手続補正書(方式)において、
引用例1には、「蛍光体の3層が、製品の基材側から、式Iの第一の長残光蛍光体の層、式IIの第二の長残光蛍光体の層、300?500nmの波長域の波長で励起される非長残光蛍光体である第三の非長残光蛍光体の層の順に配置されることについては、開示も示唆もされていない。本願発明は、係る構成により、「第一及び第二の長残光蛍光体粒子12、14から放出された光子18、20は、第三の蛍光体粒子16によって吸収されてもよく、それは次いで各々、吸収されたエネルギーをより長い波長の光子22、24として放出する」作用効果を奏するものである(段落0017、図2)。引用文献1には、係る構成については開示も示唆もされておらず、当然、本願発明の作用効果を奏することもない。」
と主張する。
しかし、上記「オ」に記載したとおり、特定の層構成とすることは引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得ることであるし、引用例1発明においても、第一の蓄光性蛍光物質である(Ca_(0.98)Eu_(0.01)Nd_(0.01))Al_(2)O_(4)の第一の発光スペクトルと、第一の蓄光性蛍光物質である(Sr_(0.98)Eu_(0.01)Dy_(0.01))_(4)Al_(14)O_(25)の第一の発光スペクトルは、その一部が第二の蛍光物質である(Y_(0.90)Gd_(0.05)Ce_(0.05))_(3)Al_(5)O_(12)によって変換され第二の発光スペクトルとなるのであるから、本件補正発明の作用効果と引用例1発明の作用効果は同一である。
よって、出願人の主張は採用できない。

キ まとめ
したがって、本件補正発明は、引用例1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明
平成30年8月17日付けでなされた本件補正は、上記「第2」のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1?9に係る発明は、平成28年7月13日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものである。そして、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、上記「第2 2(1)イ」に示した本件補正前のものであって、再掲すると次のとおりである。
「【請求項1】
各層に第一の長残光蛍光体、第二の長残光蛍光体及び第三の蛍光体の1種以上を有する2以上の層を含む製品であって、3層を含んでおり、第一の長残光蛍光体、第二の長残光蛍光体及び第三の非長残光蛍光体が各々別々の層に存在し、第一の長残光蛍光体が以下の式Iのものであり、第二の長残光蛍光体が以下の式IIのものであり、第三の蛍光体が300?500nmの波長域の波長で励起される非長残光蛍光体である、製品。
Ca_(x-y-z-a)A_(a)Al_(2-m-n-o-p)O_(d):Eu_(y),RE_(z),B_(m),Zn_(n),Co_(o),Sc_(p) I
(式中、xは0.75?1.3であり、yは0.0005?0.1であり、zは0.0005?0.1であり、aは0?0.2であり、AはSr及びBaの1種以上であり、mは0?0.3であり、nは0?0.1であり、oは0?0.01であり、pは0?0.10であり、REは希土類イオンであり、dは3.945?4.075である。)
Sr_(x-y-z-a)A_(a)Al_(14-m-n-o-p)O_(d):Eu_(y),RE_(z),B_(m),Zn_(n),Co_(o),Sc_(p) II
(式中、xは3.0?5.2であり、yは0.0005?0.1であり、zは0.0005?0.1であり、aは0?0.2であり、AはCa及びBaの1種以上であり、mは0?0.3であり、nは0?0.1であり、oは0?0.01であり、pは0?0.10であり、REは希土類イオンであり、dは23.945?26.425である。)」

2 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由は、「平成29年4月28日付け拒絶理由通知書に記載した理由3」であって、要するに、この出願の請求項1?9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
そして、該拒絶の理由において引用された刊行物は次のとおりである。
<引用文献等一覧>
1.特開2005-330459号公報

3 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された刊行物は、上記引用例1にほかならず、その記載事項は、前記「第2 2(2)ウ」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記「第2 2(2)」で検討した本件補正発明の「3層」について、「前記製品の基材側から、第一の長残光蛍光体の層、第二の長残光蛍光体の層、第三の非長残光蛍光体の層の順に配置されている」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記限定事項によって限定したものに相当する本件補正発明が、前記「第2 2(2)オ」に記載したとおり、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-05-28 
結審通知日 2019-06-18 
審決日 2019-07-11 
出願番号 特願2016-119508(P2016-119508)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C09K)
P 1 8・ 121- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 古妻 泰一  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 牟田 博一
日比野 隆治
発明の名称 白色長残光蛍光体ブレンド又は層状構造体  
代理人 小倉 博  
代理人 田中 拓人  
復代理人 市位 嘉宏  
代理人 荒川 聡志  

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