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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1357356
審判番号 不服2019-3302  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-08 
確定日 2019-12-17 
事件の表示 特願2016-549843「フラッシュメモリ内蔵マイコン、マイコンに内蔵されたフラッシュメモリへのデータ書込み方法、および、フラッシュメモリへのデータを書込むプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月31日国際公開、WO2016/046940、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2014年9月25日を国際出願日とする出願であって,平成30年4月16日付けで拒絶の理由が通知され,同年6月22日に意見書とともに手続補正書が提出され,同年11月30日付けで拒絶査定(謄本送達日同年12月11日)がなされ,これに対して平成31年3月8日に審判請求がなされ,令和元年7月26日付けで当審により拒絶の理由が通知され,同年9月20日に意見書とともに手続補正書が提出され,同年10月3日付けで当審により拒絶の理由が通知され,同年10月9日に手続補正書が提出されたものである。


第2 原査定の概要

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1,6,7
・引用文献等 1-3

・請求項 2-5
・引用文献等 1-4

<引用文献等一覧>
1.特開2013-003869号公報
2.特開2006-040264号公報
3.特開2009-223435号公報
4.特開2000-105694号公報


第3 本願発明

本願請求項1乃至7に係る発明(以下「本願発明1」乃至「本願発明7」という。)は,令和元年10月9日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至7に記載された,次のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
順に更新される少なくとも2つのメモリブロックを含み、
前記それぞれのメモリブロックは、ブロック管理情報とデータを格納する複数のスロットとを含み、
前記ブロック管理情報はデータが更新された順を示す更新カウンタを含み、
前記複数のスロットの各々は、更新されたデータと、その書込みが完了した旨の書込み完了フラグとを有し、
前記2つのメモリブロックの一方のメモリブロックの複数のスロットについて、更新カウンタの順でデータが更新され、一方のメモリブロックの複数のスロットのデータが全て更新されると、他方のメモリブロックの複数のスロットについて、更新カウンタの順でデータの更新がされ、これが順に繰り返され、
前記2つのメモリブロックの更新カウンタに基づいて最も新しく更新されたメモリブロックを検出するメモリブロック検出手段と、
前記メモリブロック検出手段の検出したメモリブロックにおいて、
前記更新カウンタの順に基づいて、前記書込み完了フラグが正しく記録された旨を示すスロットを見つけ、
最も新しくデータの書込みが完了したスロットを検出するスロット検出手段と、を含み、それによって、電源断時に対処する、フラッシュメモリ内蔵マイコン。
【請求項2】
前記メモリブロックは所定のフォーマットに構成され、
前記メモリブロックが前記所定のフォーマットに構成されたことを示すフォーマット完了フラグを有し、
前記ブロック管理情報は前記フォーマット完了フラグを含む、請求項1に記載のフラッシュメモリ内蔵マイコン。
【請求項3】
前記メモリブロックはブロックが消去されたときにその完了を示す消去完了フラグを有し、
前記ブロック管理情報は前記消去完了フラグを含む、請求項1または2に記載のフラッシュメモリ内蔵マイコン。
【請求項4】
前記メモリブロックは所定のユーザデータのサイズ情報を有し、
前記ブロック管理情報は前記ユーザデータのサイズ情報を含む、請求項1?3のいずれかに記載のフラッシュメモリ内蔵マイコン。
【請求項5】
前記ブロック管理情報は、前記更新カウンタをビット反転したビット反転カウンタを含む、請求項1?4のいずれかに記載のフラッシュメモリ内蔵マイコン。
【請求項6】
順に更新される少なくとも2つのメモリブロックを含む、マイコンに内蔵されたフラッシュメモリへのデータの書込み方法であって、
それぞれのメモリブロックは、ブロック管理情報とデータを格納する複数のスロットとを含み、
ブロック管理情報はデータが更新された順を示す更新カウンタを含み、
複数のスロットの各々は、更新されたデータと、その書込みが完了した旨の書込み完了フラグとを有し、
前記2つのメモリブロックの一方のメモリブロックの複数のスロットについて、更新カウンタの順でデータが更新され、一方のメモリブロックの複数のスロットのデータがすべて更新されると、他方のメモリブロックの複数のスロットについて、更新カウンタの順でデータの更新がされ、これが順に繰り返され、
前記2つのメモリブロックの更新カウンタに基づいて最も新しく更新されたメモリブロックを検出するステップと、
検出ステップで検出されたメモリブロックにおいて、更新カウンタの順に基づいて、前記書込み完了フラグが正しく記録された旨を示すスロットを見つけ、最も新しくデータの書込みが完了したスロットを検出するステップとを含み、それによって、電源断時に対処する、マイコンに内蔵されたフラッシュメモリへのデータ書込み方法。
【請求項7】
順に更新される少なくとも2つのメモリブロックを含む、内蔵されたフラッシュメモリを有するマイコンにおける、フラッシュメモリへのデータを書込むプログラムであって、
それぞれのメモリブロックは、ブロック管理情報とデータを格納する複数のスロットとを含み、
ブロック管理情報はデータが更新された順を示す更新カウンタを含み、
複数のスロットの各々は、更新されたデータと、その書込みが完了した旨の書込み完了フラグとを有し、
前記2つのメモリブロックの一方のメモリブロックの複数のスロットについて、更新カウンタの順でデータが更新され、一方のメモリブロックの複数のスロットのデータがすべて更新されると、他方のメモリブロックの複数のスロットについて、更新カウンタの順でデータの更新がされ、これが順に繰り返され、
マイコンを、2つのメモリブロックの更新カウンタに基づいて、最も新しく更新されたメモリブロックを検出するステップと、
検出ステップで検出されたメモリブロックにおいて、更新カウンタの順に基づいて、前記書込み完了フラグが正しく記録された旨を示すスロットを見つけ、最も新しくデータの書込みが完了したスロットを検出するステップとを含むように実行させ、それによって、電源断時に対処する、マイコンを用いて内蔵されたフラッシュメモリへデータを書込むプログラム。」


第4 引用例

1 引用例1に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2013-3869号公報(平成25年1月7日公開。以下,これを「引用例1」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。(下線は当審で説明のために付加。以下同様。)

A 「【0003】
ICカードでは、一般的に、電源を切っても記憶内容を保持することができる不揮発性メモリが用いられることが多い。このような不揮発性メモリには、例えば、EEPROM(Electrically Erasable/Programmable Read Only Memory)、フラッシュEEPROM(以下、フラッシュメモリと称する)等がある。特に、フラッシュメモリは、大容量化を容易かつ低コストで実現できる。

…(中略)…

【0008】
ところで、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリでは、一括消去処理や書き込み処理の実行中に、何らかの原因により、電源断が発生する場合がある。一括消去処理の実行中に電源断が発生した場合には、例えば、メモリセルブロック内に書き込み状態のビットが残存する、あるいは、消去状態および書き込み状態のいずれにも該当しない不定状態のビットが発生する等の問題が生じる。また、書き込み処理の実行中に電源断が発生すると、例えば、記憶すべきデータの一部が欠落した状態となる等の問題が発生する。

…(中略)…

【0016】
また、本発明の不揮発性半導体記憶装置におけるメモリセルブロック特定部は、ステータス情報に現在使用中である旨の情報が含まれるメモリセルブロックが複数あるとき、その複数のメモリセルブロックのうち、更新履歴情報に直近のデータ更新処理におけるデータ更新先であることを示す内容が含まれているメモリセルブロックを、現在使用中のメモリセルブロックとする。
【0017】
上記構成によって、ステータス情報が何らかの原因でデータ化けをした場合でも、現在使用中のメモリセルブロックを特定することができる。」

B 「【0031】
以下、本発明のメモリ管理方法および不揮発性半導体記憶装置について、図面を用いて説明する。まず、図1に、本発明のメモリ管理方法および不揮発性半導体記憶装置をICカードへ適用した例を示す。ICカード1は、1以上のアドレスを有するメモリセルブロックを複数備え、ICカード1の動作に必要なデータを記憶するフラッシュメモリ11(詳細は図3参照)、あるいはROM13に記憶された制御プログラムを実行することにより、ICカード1の各種機能を実現するCPU10と、CPU10による制御プログラムの実行において生成される各種データを一時的に記憶するためのRAM12を備えている。
【0032】
また、ICカード1は、リーダライタ装置(図示せず)と物理的に接続してデータ通信を行うための接触式用通信I/F14と、リーダライタ装置と物理的に接続せずにデータ通信を行うための非接触式用通信I/F15のうちの少なくとも一方を備えて構成されている。本実施形態では、ICカード1は、接触式用通信I/F14または非接触式用通信I/F15を介して、リーダライタ装置から電源供給を受けるように構成されている。
【0033】
CPU10は、リーダライタ装置とのデータ通信を行うとともに、データ通信の状態あるいはフラッシュメモリ11の各メモリセルブロックの記憶状態に応じて、フラッシュメモリ11に対し、メモリセルブロック単位での一括消去処理、所定アドレス数の記憶領域単位またはビット単位での書き込み処理、および、メモリセルブロック単位でのデータ更新処理等の制御を行う。なお、CPU10が本発明のメモリ制御部,メモリセルブロック特定部に相当する。また、フラッシュメモリ11が本発明の不揮発性メモリに相当する。」

C 「【0039】
図3に、フラッシュメモリ11の詳細構成を示す。図3の例では、フラッシュメモリ11は、ブロック(「メモリセルブロック」の略称)1?ブロック4で示された4個のメモリセルブロックを含んでいる。各メモリセルブロックは、ステータス情報記憶領域(101,201,301,401)、更新履歴情報記憶領域(102,202,302,402)が設けられ、残余の領域がデータ記憶領域(103,203,303,403)となっている。
【0040】
メモリセルブロックにデータが何も記憶されていない状態(例えば、一括消去処理が行われた後の状態)では、ブロック3あるいはブロック4のように、ステータス情報記憶領域は「未使用」、更新履歴情報記憶領域は「値なし」、データ記憶領域は「空き」となっている。
【0041】
また、メモリセルブロックにデータが書き込まれると、そのメモリセルブロック(図3のブロック1,ブロック2)には、ステータス情報記憶領域(101,201)、更新履歴情報記憶領域(102,202)には、状態に応じた値が書き込まれ、データ記憶領域(103,203)にデータが書き込まれる。」

D 「【0043】
図4を用いて、上述のステータス情報記憶領域(101,201,301,401)の詳細について、ブロック1のステータス情報記憶領域101を例に挙げて説明する。ステータス情報記憶領域は、例えば1バイト×4の4バイトの領域で構成され、それぞれ、「使用中」領域101a,「コピー中」領域101b,「使用済」領域101c,「故障」領域101dのように区分されている。図4(a)のブロック3,4のように、ブロック1が未使用のときは、ステータス情報記憶領域101の全領域(101a,101b,101c,101d)に何も書き込まれていない状態(データが消去された状態)となっている。
【0044】
図4(b)のように、ブロック1を使用中のときは、「使用中」領域101aに予め定められた値が書き込まれる(他の3個の領域は「空き」状態)。次に、他のメモリセルブロックへデータをコピーするデータ更新処理を実行中のときには、「コピー中」領域101bに予め定められた値が書き込まれる(他の2個の領域:「使用済」領域101c,「故障」領域101dは「空き」状態)。
【0045】
そして、データ更新処理を終了すると、図4(c)のように、「使用済」領域101cに予め定められた値が書き込まれる(「故障」領域101dのみ「空き」状態)。このとき、コピー先のメモリセルブロックのステータス情報記憶領域の「使用中」領域に、予め定められた値が書き込まれる。」

E 「【0050】
図5を用いて、更新履歴情報記憶領域(102,202,302,402)の詳細について、ブロック1の更新履歴情報記憶領域102を例に挙げて説明する。図5の例では、更新履歴情報としてカウンタを用いている。このカウンタは、データ更新処理において、自身がコピー先となったときに、コピー元のメモリセルブロックの更新履歴情報記憶領域のカウンタ値に対して、インクリメントした(あるいはデクリメントした)ものを記憶する。カウンタ値が最大となったときには、初期値(例えば、ゼロ)に戻ってインクリメントを継続する。
【0051】
なお、図3の、更新履歴情報記憶領域(302,402)の「カウンタ(値なし)」は、データ削除時に書き込まれる値、あるいは初期値等の予め定められた値のような、カウンタ値が通常時に示す値とは異なる値となっていることを示している。
【0052】
更新履歴情報は、直近のデータ更新処理におけるデータ更新先であることを示すもので、最新のデータ更新先であることを示すことが可能であれば、カウンタ値以外の値(例えば、他のメモリセルブロックの更新履歴情報との間で大小関係を比較できるもの)を設定してもよい。」

F 「【0056】
図6に、フラッシュメモリのデータ記憶領域に記憶されるデータの構成を示す。データは、データID,データ値,データ値(データIDを含めてもよい)のチェックサムを含んでいる。チェックサムを含まない構成としてもよい。例えばブロック2に既に記憶されているデータが更新され、更新データが空き領域203bに追記されたとき、ブロック2には同じデータIDを持つデータが複数記憶される。しかし、データはデータ記憶領域203の先頭アドレスから書き込まれるので、同じデータIDで、最も大きいアドレスに書き込まれているものが最新のデータであると判断できる。」

G 「【0061】
図9,図4を用いて、ROM13に記憶された制御プログラムに含まれ、CPU10が実行するデータ更新処理について説明する(ブロック1→ブロック2へのコピーを例示)。本処理は、例えば、現在使用中のメモリセルブロックのデータ記憶領域が一杯になったときに実行する。なお、ステップS30a?S30cについては、本処理の必須構成ではないので後述する。
【0062】
まず、ブロック1(図3参照)のステータス情報記憶領域101の「コピー中」領域101bに0x5Aを書き込む(S31)。次に、ブロック1のデータをブロック2にコピーする(S32)。コピーするデータは各データIDの最新のもののみである。どのデータが最新かの判断方法は上述したとおりである。
【0063】
データのコピーが終了したとき(S33:Yes)、ブロック2のステータス情報記憶領域201の「使用中」領域201aに0x5Aを書き込む(S34)。続いて、ブロック2の更新履歴情報記憶領域202(カウンタ値202a)に0x01を書き込む(S35)。上述の初期化処理で、ブロック1の更新履歴情報記憶領域102(カウンタ値102a)には0x00が書き込まれているので、その値をインクリメントしたものを更新履歴情報記憶領域202に書き込んでいる。ブロック1の更新履歴情報に記憶された値に1以外の値を加えたもの、ブロック1の更新履歴情報に記憶された値に所定の演算を行ったものでもよい。
【0064】
最後に、ブロック1のステータス情報記憶領域101の「使用済」領域101cに0x5Aを書き込む(S36)。」

H 「【0067】
図10を用いて、ROM13に記憶された制御プログラムに含まれ、CPU10が実行するブロック特定処理について説明する。まず、不揮発性半導体記憶装置に電源を投入する(S51)。ICカード1のときは、リーダライタ装置(図示せず)に電源を投入してICカード1をリーダライタ装置に接近あるいは挿入した状態である。また、ECU2のときは、ECU2に電源を投入した状態である。
【0068】
次に、フラッシュメモリ11の全てのメモリセルブロック(ブロック1?4)のステータス情報記憶領域(101,201,301,401)および更新履歴情報記憶領域(102,202,302,402)の内容を読み込む(S52)。全てのメモリセルブロックのステータス情報および更新履歴情報を読み込むと(S53:Yes)、ステータス情報の「使用中」領域に0x5Aが書き込まれているブロック、すなわち現在使用中のメモリセルブロックを検索する(S54)。このとき、「使用済」領域あるいは「故障」領域に0x5Aが書き込まれているものは除外する。
【0069】
次に、現在使用中のメモリセルブロックがあり(S55:Yes)、現在使用中のメモリセルブロックが複数ないとき(S56:No)、検索したメモリセルブロックを現在使用中のメモリブロックとして特定する(S57)。
【0070】
一方、現在使用中のメモリセルブロックがなかったとき(S55:No)、あるいは、現在使用中のメモリセルブロックが複数あったとき(S56:Yes)、読み込んだ更新履歴情報記憶領域の内容から、カウンタ値が最大である(すなわち、直近のデータ更新処理におけるデータ更新先であることを示す値を記憶する)メモリセルブロックを検索する(S58)。使用中のメモリセルブロックを検索できなかったときは、全てのメモリセルブロックが検索対象となる。また、使用中のメモリセルブロックを複数あったときは、それら複数のメモリセルブロックがカウンタ値の検索対象となる。
【0071】
カウンタ値が最大であるメモリセルブロックを検索できたとき(S59:Yes)、そのメモリセルブロックを現在使用中のメモリセルブロックとして特定する(S57)。」

以上記載事項A乃至Hから,引用例1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「電源を切っても記憶内容を保持することができる,大容量化を容易かつ低コストで実現できるフラッシュメモリを不揮発性メモリとして用いたICカードであって,
従来,一括消去処理や書き込み処理の実行中に,何らかの原因により,電源断が発生する場合があり,書き込み処理の実行中に電源断が発生すると,記憶すべきデータの一部が欠落した状態となる等の問題が発生することがあり,
ステータス情報が何らかの原因でデータ化けをした場合でも,現在使用中のメモリセルブロックを特定することができ,
当該ICカードは,1以上のアドレスを有するメモリセルブロックを複数備え,ICカードの動作に必要なデータを記憶するフラッシュメモリ11,ICカードの各種機能を実現するCPU10と,CPU10による制御プログラムの実行において生成される各種データを一時的に記憶するためのRAM12を備え,
CPU10は,フラッシュメモリ11の各メモリセルブロックの記憶状態に応じて,フラッシュメモリ11に対し,メモリセルブロック単位での一括消去処理,所定アドレス数の記憶領域単位またはビット単位での書き込み処理,および,メモリセルブロック単位でのデータ更新処理等の制御を行い,
フラッシュメモリ11は,ブロック(「メモリセルブロック」の略称)1?ブロック4で示された4個のメモリセルブロックを含み,各メモリセルブロックは,ステータス情報記憶領域(101,201,301,401),更新履歴情報記憶領域(102,202,302,402)が設けられ,残余の領域がデータ記憶領域(103,203,303,403)となっていて,
メモリセルブロックにデータが何も記憶されていない状態では,ステータス情報記憶領域は「未使用」,更新履歴情報記憶領域は「値なし」,データ記憶領域は「空き」となっていて,
メモリセルブロックにデータが書き込まれると,そのメモリセルブロックには,ステータス情報記憶領域(101,201),更新履歴情報記憶領域(102,202)には,状態に応じた値が書き込まれ,データ記憶領域(103,203)にデータが書き込まれ,
ステータス情報記憶領域は,1バイト×4の4バイトの領域で構成され,それぞれ,「使用中」領域101a,「コピー中」領域101b,「使用済」領域101c,「故障」領域101dのように区分され,ブロック1が未使用のときは,ステータス情報記憶領域101の全領域(101a,101b,101c,101d)に何も書き込まれていない状態(データが消去された状態)となっていて,
ブロック1を使用中のときは,「使用中」領域101aに予め定められた値が書き込まれ,他のメモリセルブロックへデータをコピーするデータ更新処理を実行中のときには,「コピー中」領域101bに予め定められた値が書き込まれ,データ更新処理を終了すると,「使用済」領域101cに予め定められた値が書き込まれ,
ブロック1の更新履歴情報記憶領域102は,更新履歴情報としてカウンタを用いていて,該カウンタは,データ更新処理において,自身がコピー先となったときに,コピー元のメモリセルブロックの更新履歴情報記憶領域のカウンタ値に対して,インクリメントした(あるいはデクリメントした)ものを記憶し,
更新履歴情報は,直近のデータ更新処理におけるデータ更新先であることを示すものであり,
フラッシュメモリのデータ記憶領域に記憶されるデータは,データID,データ値,データ値のチェックサムを含んでいて,ブロック2に既に記憶されているデータが更新され,更新データが空き領域203bに追記されたとき,ブロック2には同じデータIDを持つデータが複数記憶され,データはデータ記憶領域203の先頭アドレスから書き込まれるので,同じデータIDで,最も大きいアドレスに書き込まれているものが最新のデータであると判断でき,
CPU10が実行するデータ更新処理は,現在使用中のメモリセルブロックのデータ記憶領域が一杯になったときに実行され,
ブロック1のステータス情報記憶領域101の「コピー中」領域101bに0x5Aを書き込み,ブロック1のデータをブロック2にコピーし,コピーするデータは各データIDの最新のもののみであり,
データのコピーが終了したとき,ブロック2のステータス情報記憶領域201の「使用中」領域201aに0x5Aを書き込み,ブロック2の更新履歴情報記憶領域202に0x01を書き込み,ブロック1の更新履歴情報記憶領域102(カウンタ値102a)には0x00が書き込まれているので,その値をインクリメントしたものを更新履歴情報記憶領域202に書き込み,ブロック1のステータス情報記憶領域101の「使用済」領域101cに0x5Aを書き込み,
ブロック特定処理は,フラッシュメモリ11の全てのメモリセルブロック(ブロック1?4)のステータス情報記憶領域(101,201,301,401)および更新履歴情報記憶領域(102,202,302,402)の内容を読み込み,ステータス情報の「使用中」領域に0x5Aが書き込まれているブロック,すなわち現在使用中のメモリセルブロックを検索し,
現在使用中のメモリセルブロックがあり,現在使用中のメモリセルブロックが複数ないとき,検索したメモリセルブロックを現在使用中のメモリブロックとして特定し,
現在使用中のメモリセルブロックがなかったとき,あるいは,現在使用中のメモリセルブロックが複数あったとき,読み込んだ更新履歴情報記憶領域の内容から,カウンタ値が最大である(すなわち,直近のデータ更新処理におけるデータ更新先であることを示す値を記憶する)メモリセルブロックを検索し,
カウンタ値が最大であるメモリセルブロックを検索できたとき,そのメモリセルブロックを現在使用中のメモリセルブロックとして特定する
ICカード。」

2 引用例2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2006-40264号公報(平成18年2月9日公開。以下,これを「引用例2」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

I 「【0003】
メモリカードに使用されるフラッシュメモリの代表例としては、NAND型フラッシュメモリが挙げられる。NAND型フラッシュメモリはブロック単位でしか消去を行えない。1つのブロックは、複数の、書き込み単位であるページを含んでいる。このため、ブロックに記憶されたデータの一部のみを書き換える場合は、書き換える新データを消去済みの新ブロックに書き込み、旧データ(新データに書き換えられるデータ)を含んでいる旧ブロックから、書き換えられないデータを新ブロックにコピーする必要がある。このような処理は「引越し書き込み(巻き添えコピー)」と呼ばれる。この「引越し書き込み」は書き換えられないデータのコピー動作を伴うため、「引越し書き込み」が多発すると、オーバーヘッドが非常に増大することになる。」

J 「【0057】
そこで、フラッシュメモリをDVD-Rタイプのファイルシステムでフォーマットした場合、図9に示すように、各ページ11は、データ記憶部11aと冗長部11bとから構成される。そして、各ページの冗長部11bを書き済み済み情報部として用い、書き込み済み情報部にページの書き込済み/未書き込みを示すフラグが設けられる。このフラグをチェックすることで、最高位のページが「最終書き込み領域」として判別されることができる。
【0058】
このフラグ情報は冗長部11bにあるため、メモリカード1の通常のメモリリードコマンドでは、コントローラ4は、このフラグ情報を読み取ることができない。したがって、このフラグ情報に基づく書き込み済み領域の情報を読み込むためのコマンドがメモリカードインタフェース5に設置される。
【0059】
コントローラ4は、書き込み時、データとともにページにフラグを追記していく。ただし、この方法はDVD-R方式のようなシーケンシャルライト方式のみに使える。また、「最終書き込み領域」を知るためにはコントローラ4がページを検索していく必要がある。」

3 引用例3に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2009-223435号公報(平成21年10月1日公開。以下,これを「引用例3」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

K 「【0036】
また、第2フラッシュメモリ領域14は、複数(図では4つ)のブロックに分割されており、本実施形態では、このうちの2ブロック(ブロック0,ブロック1)を使って保存データの記憶/更新が行われる。」

4 引用例4に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2000-105694号公報(平成12年4月11日公開。以下,これを「引用例4」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

L 「【0028】図1は本発明の一実施例の構成を示すブロック図である。本実施例は、マイクロコンピュータ1、CPU(制御手段)2、書き換えプログラム領域3、フラッシュ領域4、および、フラッシュ領域4の書き換えを行う書き換え手段5、各処理の一時的なデータを格納するためのRAM6およびこれらの間を接続する通信手段7から構成されている。
【0029】図2は、フラッシュ領域4の構成を示す図であり、図2(A)は物理的な構成を示し、図2(B)は論理的な構成を示している。
【0030】フラッシュ領域4には、消去可能な1つの単位であるブロックが複数設けられており、各ブロックは、書き換え処理の履歴を格納するフラグ領域と、プログラムやデータテーブルなどを格納するデータ領域から構成されている。ここでは、データ領域1およびフラグ領域1から構成されるブロック1に101の符号を付し、データ領域2およびフラグ領域2から構成されるブロック2に102の符号を付している。」

M 「【0047】図5で挙げた例ではこのことを利用し、各フラグを1書き込み単位である1バイト内に割り当てた例である。BIT7?BIT0のそれぞれには、ベリファイエラーフラグ、ブランクエラーフラグ、書き換え終了フラグ、ベリファイ終了フラグ、書込終了フラグ、ブランクチェック終了フラグ、消去終了フラグ、書き換え開始フラグが割り当てられている。」

N 「【0054】その後、消去が終了したことを示す消去終了フラグをセットし(ステップB3)、フラグ領域を“00000010”とする。
【0055】つづいて、消去が完全に行われたかどうかを確認するためデータ領域のブランクチェックを行い(ステップB4)、その後ブランクチェックの結果を確認する(ステップB5)。ブランクチェックにて不一致が発生した場合ブランクエラーフラグをセットするが(ステップB6)、再度消去の処理からやり直しても良い。
【0056】ブランクチェックが正常に終了した場合にはブランクチェック終了フラグをセットし(ステップB7)、フラグ領域を“00000110”とした後、引き続き書き込み処理を行う(ステップB8)。」


第5 対比・判断

1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

(あ)引用発明の「ICカード」は,当該「ICカードの各種機能を実現するCPU10と,CPU10による制御プログラムの実行において生成される各種データを一時的に記憶するためのRAM12を備え」るものであり,当該「CPU10は,フラッシュメモリ11の各メモリセルブロックの記憶状態に応じて,フラッシュメモリ11に対し,メモリセルブロック単位での一括消去処理,所定アドレス数の記憶領域単位またはビット単位での書き込み処理,および,メモリセルブロック単位でのデータ更新処理等の制御を行」うものであることから,本願発明1の「フラッシュメモリ内蔵マイコン」に相当するといえる。

(い)引用発明の「ICカード」は,「1以上のアドレスを有するメモリセルブロックを複数備え」ることから,本願発明1と,“少なくとも2つのメモリブロックを含”む点で一致する。
また引用発明は,「現在使用中のメモリセルブロックのデータ記憶領域が一杯になったときに実行され」る「データ更新処理」によって,「ブロック1のステータス情報記憶領域101の「コピー中」領域101bに0x5Aを書き込み」,「データのコピーが終了したとき,ブロック2のステータス情報記憶領域201の「使用中」領域201aに0x5Aを書き込み,ブロック2の更新履歴情報記憶領域202に0x01を書き込み,ブロック1の更新履歴情報記憶領域102(カウンタ値102a)には0x00が書き込まれているので,その値をインクリメントしたものを更新履歴情報記憶領域202に書き込み,ブロック1のステータス情報記憶領域101の「使用済」領域101cに0x5Aを書き込」んで,「現在使用中のメモリセルブロックがなかったとき,あるいは,現在使用中のメモリセルブロックが複数あったとき,読み込んだ更新履歴情報記憶領域の内容から,カウンタ値が最大である(すなわち,直近のデータ更新処理におけるデータ更新先であることを示す値を記憶する)メモリセルブロックを検索」し,「カウンタ値が最大であるメモリセルブロックを検索できたとき,そのメモリセルブロックを現在使用中のメモリセルブロックとして特定する」ものであるから,複数の「メモリセルブロック」に対し,順に更新されているといえるから,上記認定と併せ,引用発明と本願発明1とは,“順に更新される少なくとも2つのメモリブロックを含”む点で一致するといえる。

(う)引用発明は,「ブロック(「メモリセルブロック」の略称)1?ブロック4で示された4個のメモリセルブロックを含み,各メモリセルブロックは,ステータス情報記憶領域(101,201,301,401),更新履歴情報記憶領域(102,202,302,402)が設けられ,残余の領域がデータ記憶領域(103,203,303,403)となってい」て,当該「ステータス情報記憶領域(101,201,301,401),更新履歴情報記憶領域(102,202,302,402)」は,「メモリセルブロックにデータが何も記憶されていない状態では,ステータス情報記憶領域は「未使用」,更新履歴情報記憶領域は「値なし」,データ記憶領域は「空き」とな」り,「データ記憶領域(103,203,303,403)」は,「メモリセルブロックにデータが書き込まれると,そのメモリセルブロックには,ステータス情報記憶領域(101,201),更新履歴情報記憶領域(102,202)には,状態に応じた値が書き込まれ,データ記憶領域(103,203)にデータが書き込まれ」るものである。そして,「ステータス情報記憶領域は,1バイト×4の4バイトの領域で構成され,それぞれ,「使用中」領域101a,「コピー中」領域101b,「使用済」領域101c,「故障」領域101dのように区分され」ていることから,当該「「使用中」領域101a,「コピー中」領域101b,「使用済」領域101c,「故障」領域101d」に書き込まれている情報と,「更新履歴情報記憶領域(102,202)」に書き込まれる,「更新履歴情報としてカウンタを用いていて,該カウンタは,データ更新処理において,自身がコピー先となったときに,コピー元のメモリセルブロックの更新履歴情報記憶領域のカウンタ値に対して,インクリメントした(あるいはデクリメントした)もの」とは,本願発明1の「ブロック管理情報」に対応する情報といえるとともに,引用発明の「データ記憶領域(103,203)」に書き込まれる「データ」は,本願発明1の「データ」に相当する。
以上のことから,引用発明は,本願発明1の「前記それぞれのメモリブロックは、ブロック管理情報とデータを格納する複数のスロットとを含み」とされる構成と,下記の点で相違するものの,“前記それぞれのメモリブロックは、ブロック管理情報とデータを格納する領域を含”む点で共通するといえる。

(え)引用発明の「ブロック1の更新履歴情報記憶領域102」に記憶される,「更新履歴情報としてカウンタを用いていて,該カウンタは,データ更新処理において,自身がコピー先となったときに,コピー元のメモリセルブロックの更新履歴情報記憶領域のカウンタ値に対して,インクリメントした(あるいはデクリメントした)もの」は,「更新履歴情報」が,「直近のデータ更新処理におけるデータ更新先であることを示すもの」であり,当該「カウンタ」は,本願発明1の「データが更新された順を示す更新カウンタ」に相当する。上記(う)の認定も踏まえれば,引用発明と本願発明1とは,“前記ブロック管理情報はデータが更新された順を示す更新カウンタを含”む点で共通するといえる。

(お)引用発明の「データのコピーが終了したとき,ブロック2のステータス情報記憶領域201の「使用中」領域201aに0x5Aを書き込み,ブロック2の更新履歴情報記憶領域202に0x01を書き込み,ブロック1の更新履歴情報記憶領域102(カウンタ値102a)には0x00が書き込まれているので,その値をインクリメントしたものを更新履歴情報記憶領域202に書き込み,ブロック1のステータス情報記憶領域101の「使用済」領域101cに0x5Aを書き込」む構成と,上記(え)における,「更新カウンタ」に係る認定を踏まえると,引用発明は,本願発明1の「前記2つのメモリブロックの一方のメモリブロックの複数のスロットについて、更新カウンタの順でデータが更新され」る構成と,下記の点で異なるものの,“前記2つのメモリブロックの一方のメモリブロックについて,更新カウンタの順でデータが更新され”る点で共通するといえる。
また,引用発明は,「ブロック特定処理」によって,「カウンタ値が最大であるメモリセルブロックを検索できたとき,そのメモリセルブロックを現在使用中のメモリセルブロックとして特定」して,当該特定されたメモリセルブロックでは,「ブロック1を使用中のときは,「使用中」領域101a」に予め定められた値」を書き込み,「他のメモリセルブロックへデータをコピーするデータ更新処理を実行中のときには,「コピー中」領域101bに予め定められた値」を書き込み,「データ更新処理を終了すると,「使用済」領域101cに予め定められた値」を書き込むなどして,データの更新がなされていて,複数のメモリセルブロックにおいて順次行われることは明らかである。
引用発明は,「ブロック特定処理」によって,「現在使用中のメモリセルブロックがなかったとき,あるいは,現在使用中のメモリセルブロックが複数あったとき,読み込んだ更新履歴情報記憶領域の内容から,カウンタ値が最大である(すなわち,直近のデータ更新処理におけるデータ更新先であることを示す値を記憶する)メモリセルブロックを検索し」た上で,上記特定,すなわちデータを更新するメモリセルブロックを特定していることから,本願発明1と,“一方のメモリブロックのデータが全て更新されると,他方のメモリブロックについて,更新カウンタの順でデータの更新がされ,これが順に繰り返され”る点で共通するといえる。
以上総合すると,引用発明と本願発明1とは,“前記2つのメモリブロックの一方のメモリブロックについて,更新カウンタの順でデータが更新され,一方のメモリブロックのデータが全て更新されると,他方のメモリブロックについて,更新カウンタの順でデータの更新がされ,これが順に繰り返され”る点で一致する。

(か)引用発明は,「現在使用中のメモリセルブロックがなかったとき,あるいは,現在使用中のメモリセルブロックが複数あったとき,読み込んだ更新履歴情報記憶領域の内容から,カウンタ値が最大である(すなわち,直近のデータ更新処理におけるデータ更新先であることを示す値を記憶する)メモリセルブロックを検索」し,「カウンタ値が最大であるメモリセルブロックを検索できたとき,そのメモリセルブロックを現在使用中のメモリセルブロックとして特定する」ものであり,各メモリセルブロックには,それぞれ「更新履歴情報記憶領域」が存在し,当該領域のカウンタ値に基づいて「現在使用中のメモリセルブロックとして特定」していることから,本願発明1の「前記2つのメモリブロックの更新カウンタに基づいて最も新しく更新されたメモリブロックを検出するメモリブロック検出手段」に相当する構成を有するといえる。

(き)引用発明は,「ステータス情報が何らかの原因でデータ化けをした場合でも,現在使用中のメモリセルブロックを特定することができ」るものであるが,当該「データ化け」が生ずる原因の1つとして,従来,「一括消去処理や書き込み処理の実行中に,何らかの原因により,電源断が発生する場合があり,書き込み処理の実行中に電源断が発生すると,記憶すべきデータの一部が欠落した状態となる等の問題が発生することがあ」ることから,引用発明と本願発明1とは,“電源断時に対処する”ものである点で一致するといえる。

(く)以上,(あ)乃至(き)の検討から,引用発明と本願発明1とは,次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
「順に更新される少なくとも2つのメモリブロックを含み,
前記それぞれのメモリブロックは、ブロック管理情報とデータを格納する領域を含み,
前記ブロック管理情報はデータが更新された順を示す更新カウンタを含み,
前記2つのメモリブロックの一方のメモリブロックについて,更新カウンタの順でデータが更新され,一方のメモリブロックのデータが全て更新されると,他方のメモリブロックについて,更新カウンタの順でデータの更新がされ,これが順に繰り返され,
前記2つのメモリブロックの更新カウンタに基づいて最も新しく更新されたメモリブロックを検出するメモリブロック検出手段を含み,電源断時に対処する,
フラッシュメモリ内蔵マイコン。」

〈相違点1〉
本願発明1が,「それぞれのメモリブロック」に,「複数のスロット」を含み,「前記複数のスロットの各々は、更新されたデータと、その書込みが完了した旨の書込み完了フラグとを有」すると共に,「メモリブロック」のデータの「更新」は,それぞれの「メモリブロック」の「複数のスロット」に対して行われるのに対し,引用発明は,「各メモリセルブロックは,ステータス情報記憶領域(101,201,301,401),更新履歴情報記憶領域(102,202,302,402)が設けられ,残余の領域がデータ記憶領域(103,203,303,403)」となっているものの,「それぞれのメモリブロック」に,「複数のスロット」を含むことや,当該スロットに「書込み完了フラグ」を有することが特定されていない点。

〈相違点2〉
本願発明1が,「前記メモリブロック検出手段の検出したメモリブロックにおいて、前記更新カウンタの順に基づいて、前記書込み完了フラグが正しく記録された旨を示すスロットを見つけ、最も新しくデータの書込みが完了したスロットを検出するスロット検出手段」を有するのに対し,引用発明は,「データ記憶領域に記憶されるデータは,データID,データ値,データ値のチェックサムを含んでいて,ブロック2に既に記憶されているデータが更新され,更新データが空き領域203bに追記されたとき,ブロック2には同じデータIDを持つデータが複数記憶され,データはデータ記憶領域203の先頭アドレスから書き込まれるので,同じデータIDで,最も大きいアドレスに書き込まれているものが最新のデータであると判断でき」るものであるものの,「メモリブロック」に含まれる「複数のスロット」に「書込み完了フラグ」を有するものでなく,当該「書込み完了フラグが正しく記録された旨を示すスロットを見つけ、最も新しくデータの書込みが完了したスロットを検出する」ことが特定されていない点。

(2) 相違点についての判断
相違点1及び2について検討する。
本願発明は,「それぞれのメモリブロック」に,「複数のスロット」を含み,当該「スロットの各々」には,「更新されたデータと、その書込みが完了した旨の書込み完了フラグ」を有することによって,当該スロットにデータを書き込む場合,1バイト目から書き込んで,書き込みが完了したらその旨を示す書込み完了フラグを記録し(本願明細書段落28),当該スロットの1バイト目のデータと書込み完了フラグをみれば,そのスロットの状態を判別することができ(同段落30及び図3等),このことにより,データの書込み途中で電源断等が生じた場合の検出ができ,正しくデータを書き込むことができるようにしたものである。
一方,引用発明は,「直近のデータ更新処理におけるデータ更新先であることを示すものであ」る「更新履歴情報」として,「データ更新処理において,自身がコピー先となったときに,コピー元のメモリセルブロックの更新履歴情報記憶領域のカウンタ値に対して,インクリメントした(あるいはデクリメントした)ものを記憶」したり,「データID,データ値,データ値のチェックサムを含」む「フラッシュメモリのデータ記憶領域に記憶されるデータ」は,「更新データが空き領域203bに追記されたとき,ブロック2には同じデータIDを持つデータが複数記憶され,データはデータ記憶領域203の先頭アドレスから書き込まれるので,同じデータIDで,最も大きいアドレスに書き込まれているものが最新のデータであると判断でき」るものであって,データ書込み途中に,電源断等によってデータの1バイト目や書込みが完了したことを示す「書込み完了フラグ」に異常なデータが記録されることを利用して,正しくデータを書込むようにする機序はなく,また,引用例1にはそのような機序についての記載も示唆もない。
本願発明1は,このような引用発明に対する構成上の違いを有することにより,処理の途中で電源断等が生じても,どこまで処理が完了していたのかを判断でき,そのブロックから新たな処理を続行でき(本願明細書段落43),電源断等に対処するための無駄なデータの書込み読み出しを不要にし,省電力が可能であるとともに,ビット単位での書込み操作を必要としない(同段落44)などの,特にICカードなどに用いられるフラッシュメモリ内蔵マイコンとして顕著な効果を奏するものであって,引用発明からは相違点1及び2に係る構成を容易に想起し得たとまではいうことができない。
相違点1及び2に係る構成は,その他上記第4の2乃至4に示した引用例2乃至4にも記載されておらず,当業者にとって周知な技術ともいえない。
したがって,本願発明1は,当業者であっても,引用発明及び引用例2乃至4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2乃至5について
本願発明2乃至5は,請求項1をさらに限定するものであって,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用例2乃至4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明6及び本願発明7について
本願発明6及び本願発明7は,本願発明1とカテゴリー表現のみ異なるものであって,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用例2乃至4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 当審拒絶理由の概要

当審より,特許請求の範囲の記載が,「所定の順でデータが更新され」るとの構成,「所定の順でデータの更新がされ」るとの構成,「前記所定の順および前記書込み完了フラグを考慮して最も新しくデータの書込みが完了したスロットを検出する」との構成,及び「所定の順および書込み完了フラグを考慮して最も新しくデータの書込みが完了したスロットを検出する」との構成が不明確であり,本件出願は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないとの拒絶理由を通知したところ,上記第3に示すとおり補正され,当該拒絶理由は解消した。


第7 原査定についての判断

令和元年10月9日付けの補正により,補正後の請求項1乃至7は,とりわけ,「前記メモリブロック検出手段の検出したメモリブロックにおいて、前記更新カウンタの順に基づいて、前記書込み完了フラグが正しく記録された旨を示すスロットを見つけ、最も新しくデータの書込みが完了したスロットを検出するスロット検出手段」を有するものとなった。当該「前記メモリブロック検出手段の検出したメモリブロックにおいて、前記更新カウンタの順に基づいて、前記書込み完了フラグが正しく記録された旨を示すスロットを見つけ、最も新しくデータの書込みが完了したスロットを検出するスロット検出手段」は,原査定における引用文献1乃至4(上記第4における引用例1乃至4)には記載されておらず,本願出願前における周知技術でもないので,本願発明1乃至7は,当業者であっても,引用文献1乃至4に記載された発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定を維持することはできない。


第8 むすび

以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-12-03 
出願番号 特願2016-549843(P2016-549843)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 酒井 恭信  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 松平 英
山崎 慎一
発明の名称 フラッシュメモリ内蔵マイコン、マイコンに内蔵されたフラッシュメモリへのデータ書込み方法、および、フラッシュメモリへのデータを書込むプログラム  
代理人 特許業務法人アイミー国際特許事務所  

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