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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1357385 |
審判番号 | 不服2019-1155 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-01-29 |
確定日 | 2019-12-17 |
事件の表示 | 特願2014-262761「半導体ウエハのマウント方法および半導体ウエハのマウント装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月 7日出願公開、特開2016-122763、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成26年12月25日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年 6月 5日:拒絶理由通知(起案日) 平成30年 8月 8日:意見書・手続補正書 平成30年10月23日:拒絶査定(起案日)(以下,「原査定」という。) 平成31年 1月29日:審判請求 平成31年 1月29日:手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。) 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 本願請求項1ないし4に係る発明は,本願出願前に頒布された以下の引用文献1,2に基づいて,本願出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2013-232582号公報 2.特開2012-49318号公報 第3 審判請求時の補正について 審判請求時の補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。 補正前の請求項1に記載された「粘着テープを再加熱し」に,「粘着テープを押圧することなく」という限定を追加する補正,及び「第2貼付け過程」に「粘着テープに蓄積されている引張応力を解消させながら」という限定を追加する補正は,いずれも補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項を限定する補正であって,補正前の発明と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしている。また,本件補正により追加された構成は,本願の願書に最初に添付された明細書(以下「当初明細書」という。また,本願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面をまとめて「当初明細書等」という。)の段落【0011】,【0012】,【0083】,【0084】,【0094】並びに図25等に記載されており,本件補正は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである。請求項3についても,同様である。 そして,「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように,補正後の請求項1ないし4に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。 第4 本願発明 1 本願請求項1ないし4に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は,平成31年1月29日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1ないし4は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 支持用の粘着テープを介してリングフレームに半導体ウエハをマウントする半導体ウエハのマウント方法であって, 前記半導体ウエハは,裏面外周に環状凸部を有し, 前記リングフレームに貼り付けられた粘着テープと半導体ウエハの裏面を近接対向させた状態で,一対のハウジングの一方に備えられた保持テーブルで当該半導体ウエハを保持するとともに,粘着テープを両ハウジングによって挟み込んでチャンバを形成する過程と, 前記粘着テープによって仕切られたハウジング内の2つの空間に差圧を生じさせるとともに,当該粘着テープを加熱しながら凹入湾曲させて半導体ウエハの裏面に貼り付ける第1貼付け過程と, 前記チャンバでの差圧および加熱を解消させた後に,前記粘着テープを押圧することなく前記粘着テープを再加熱して前記粘着テープに蓄積されている引張応力を解消させながら前記粘着テープを貼り付ける第2貼付け過程と, を備えたことを特徴とする半導体ウエハのマウント方法。 【請求項2】 請求項1に記載の半導体ウエハのマウント方法において, 前記第1貼付け過程のチャンバから搬出して異なる保持テーブルに半導体ウエハを搬送しながら粘着テープを室温の大気にさらした後に,当該保持テーブル上で半導体ウエハを加熱しながら粘着テープを貼り付ける第2貼付け過程を行う ことを特徴とする半導体ウエハのマウント方法。 【請求項3】 支持用の粘着テープを介してリングフレームに半導体ウエハをマウントする半導体ウエハのマウント装置であって, 裏面外周に環状凸部を有する前記半導体ウエハを保持する第1保持テーブルと, 前記粘着テープの貼り付けられたリングフレームを保持するフレーム保持部と, 前記第1保持テーブルを収納するとともに,リングフレームに貼り付けられた粘着テープを挟み込む一対のハウジングからなるチャンバと, 前記チャンバ内の粘着テープを加熱する第1加熱器と, 前記粘着テープにより仕切られたチャンバ内の2つの空間に差圧を生じさせ,加熱されている粘着テープを凹入湾曲させながら半導体ウエハの裏面に貼り付けさせる制御部とを含む第1貼付け機構と, 前記第1貼付け機構で粘着テープに半導体ウエハを貼り付けられてなるマウントフレームを保持する第2保持テーブルと, 前記第2保持テーブル上で粘着テープを再加熱する第2加熱器と, 前記第1貼付け機構から第2保持テーブルに前記マウントフレームを搬送する搬送機構と, 前記チャンバでの差圧および前記第1加熱器による加熱を解消させた後に,前記粘着テープを押圧することなく前記粘着テープを前記第2加熱器で再加熱して前記粘着テープに蓄積されている引張応力を解消させながら前記粘着テープを貼り付ける第2貼付け機構と, を備えたことを特徴とする半導体ウエハのマウント装置。 【請求項4】 請求項3に記載の半導体ウエハのマウント装置において, 前記第1貼付け機構は,リングフレームを被覆する大きさの粘着テープを供給するテープ供給部と, 前記リングフレームとハウジングの一方の接合部に粘着テープを貼り付けるテープ貼付け機構と, 前記リングフレーム上で粘着テープを切断する切断機構と, 円形に切り抜かれた粘着テープを剥離する剥離する剥離機構と, 剥離後の前記粘着テープを回収するテープ回収部と, を備えたことを特徴とする半導体ウエハのマウント装置。」 第5 引用文献及び引用発明 1 引用文献1について (1)引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。) 「【技術分野】 【0001】 本発明は,リングフレームと当該リングフレームの中央に載置された半導体ウエハ(以下,適宜「ウエハ」という)の裏面とに亘って支持用の粘着テープを貼付け,粘着テープを介してウエハをリングフレームに一体化するための粘着テープ貼付け方法および粘着テープ貼付け装置に関する。」 「【0003】 バックグラインド処理によって環状凸部の形成されたウエハ裏面とリングフレームとにわたって支持用の粘着テープを貼り付けてマウントフレームを作成している。」 「【発明を実施するための形態】 【0033】 以下,図面を参照して本発明の一実施例を説明する。なお,実施例装置は,裏面外周に環状凸部によって補強部が形成された半導体ウエハ(以下,適宜「ウエハ」という)に対して,粘着テープを貼付ける。」 「【0040】 テープ貼付部3は,保持テーブル13,チャンバ14,フレーム保持部15,テープ貼付機構16およびテープ切断機構17などから構成されている。 【0041】 保持テーブル13は,半導体ウエハW(以下,単に「ウエハW」という)の保護テープPTの貼付けられたパターン面を載置保持する。この保持テーブル13は,下ハウジング22とともに,レール18に沿って前後に水平移動する可動台19上で昇降可能に構成されている。つまり,保持テーブル13は,チャンバ14を構成する下ハウジング22を貫通するロッド20と連結されている。ロッド20の基端は,モータ21と駆動連結されている。したがって,保持テーブル13は,モータ21の正逆転により下ハウジング22内で昇降する。 【0042】 チャンバ14は,保持テーブル13を収容するとともに,粘着テープTの幅よりも小さい直径を有する一対の上・下ハウジング22,23から構成されている。下ハウジング22の円筒上部は,丸みを有するとともに,フッ素加工などの離型処理が施されている。」 「【0046】 フレーム保持部15は,チャンバ14を囲うように基台100から立設された環状である。先端の保持部には,リングフレームfを収容可能な段差43が形成されている。この段差43は,リングフレームfを載置したときに,フレーム表面と外周凸部44の表面とが平坦になるように設定されている。」 「【0070】 リングフレームfへの粘着テープTの貼り付けが完了すると,図13に示すように,上ハウジング23が下降する。この下降に伴って,ウエハWの外周からリングフレームfの内径の間で粘着面が露出している粘着テープTを上ハウジング23と下ハウジング22によって挟持してチャンバ14を構成する。このとき,粘着テープTがシール材として機能するとともに,上ハウジング23側と下ハウジング22側とを分割して2つの空間を形成する(ステップS3)。 【0071】 下ハウジング22内に位置するウエハWは,粘着テープTと所定のクリアランスを有している。 【0072】 制御部81は,ヒータ33を作動させて上ハウジング23側から粘着テープTを加熱するとともに,図7に示す電磁バルブ37,38,40を閉じた状態で,真空装置35を作動させて上ハウジング23内と下ハウジング22内を減圧する。このとき,両ハウジング22,23内が同じ速度で減圧してゆくように,電磁バルブ36の開度を調整する。」 「【0074】 制御部81は,電磁バルブ40の開度を調整してリークさせながら上ハウジング23内を所定の気圧まで徐々に高める。このとき,下ハウジング22内の気圧が上ハウジング23内の気圧よりも低くなりその差圧によって,図14に示すように,粘着テープTがその中心から下ハウジング22内に引き込まれてゆき,近接配備されたウエハWの中心から外周に向けて徐々に貼付けられてゆく(ステップS4A)。このとき,環状凸部rの内側の角部のエアーは抜気され,間隙が潰された状態で粘着テープTが接着している。 【0075】 予め設定された気圧に上ハウジング23内が達すると,制御部81は,電磁バルブ38の開度を調整して下ハウジング22内の気圧を上ハウジング23内の気圧と同じにする。この気圧調整に応じて保持テーブル13を上昇させてリングフレームfの表面とウエハWの環状凸部rの頂部の高さを同じにする。その後,制御部81は,図15に示すように,上ハウジング23を上昇させて上ハウジング23内を大気開放するとともに,電磁バルブ38を全開にして下ハウジング22側も大気開放する。 【0076】 なお,チャンバ14内で粘着テープTをウエハWに貼付けている間に,テープ切断機構17が作動する。このとき,カッタ61がリングフレームfに貼付けられた粘着テープTをリングフレームfの形状に切断するとともに,押圧ローラ63がカッタ61に追従してリングフレームf上のテープ切断部位を転動しながら押圧してゆく(ステップS4B)。 つまり,上ハウジング23が下降して下ハウジング22によってチャンバ14を構成したとき,図13に示すように,テープ切断機構17のカッタ61と押圧ローラ63も切断作用位置に到達している。 【0077】 上ハウジング23を上昇させた時点でウエハWへの粘着テープTの貼り付けおよび粘着テープTの切断は完了しているので,ピンチローラ54を上昇させて粘着テープTのニップを解除する。その後,ニップローラ49を移動させてテープ回収部4に向けて切断後の不要な粘着テープTを巻き取り回収してゆくとともに,テープ供給部1から所定量の粘着テープTを繰り出す(ステップS5)。 【0078】 粘着テープTの剥離が完了し,ニップローラ49および貼付けローラ8が初期位置に戻ると,図16に示すように,リングフレームfと裏面全面に粘着テープTが仮接着されているマウントフレームMFを保持したまま,図1に示す可動台19が貼付位置から手前の搬出位置に移動する。マウントフレームMFは,ロボットアームなどの搬送機構によって加圧ユニット5に搬出される(ステップS6)。 【0079】 加圧ユニット5のフレーム保持部70およびウエハ保持部71にマウントフレームMFを構成するリングフレームfおよびウエハWのそれぞれが載置保持される。このとき,図17に示すように,第1押圧部材72および第2押圧部材73は,上方の待機位置にある。 【0080】 制御部81は,加圧ユニット5を作動させ,図18に示すように,第1押圧部材72および第2押圧部材73を同時に所定高さまで下降させる。このとき,先ず,第1押圧部材72の扁平面72aが,フレーム保持部70の凸部74aに当接して下降が規制される。第1押圧部材72の底面は,弾性体92の弾性力により粘着テープTを適度に押圧する。したがって,環状凸部rの内側角部に対向する部分の粘着テープTは,第1押圧部材72と協働し,シールとして機能する。 【0081】 制御部81は,第1押圧部材72の下降が停止した後に,ウエハWが破損しない程度に第2押圧部材73を僅かに下降させ,粘着テープTを適度に押圧する。第2押圧部材73による粘着テープTの押圧により,第1押圧部材72からエアーを供給したときに,エアーが内側に回り込むのを防止する。 【0082】 第1押圧部材72と第2押圧部材73による押圧状態が保たれると,制御部81は,圧空装置79から予め設定された温度および流量のエアーを供給させる。 【0083】 所定温度に加熱されたエアーは,第1押圧部材72の凸部72bのテーパ面72cに形成された溝76から環状凸部rの内側角部に向けられる。ことのき,第1押圧部材72のテーパ面72cで覆われた空間は,粘着テープTによってシールされているので,密閉状態のまま粘着テープTが一定に加圧される。また,加温されたエアーにより粘着テープTが軟化され,図19に示すように,内側角部の形状に沿って変形しながら密着してゆく(ステップS7)。 【0084】 なお,実験やシミュレーションなどによって予め決めた設定時間が経過すると,制御部81は,圧空装置79を停止し,第1押圧部材72および第2押圧部材73を上方の待機位置に戻す。 【0085】 その後,搬送機構によりマウントフレームMFを吸着保持して加圧ユニット5から搬出する(ステップS8)。以上でウエハWへの粘着テープTの一巡の貼付け動作が終了し,以後,予め設定した枚数(設定値)に計数値が達するまで同じ処理が繰り返し行われる(ステップS9)。 【0086】 上記実施例装置によれば,テープ貼付部3でウエハWの裏面に粘着テープTを貼り付けた後に,密着しきれていない環状凸部rの内側角部の粘着テープTのみに第1押圧部材72により再度の貼付処理を行うことができる。つまり,加圧ユニット5に備わった第1押圧部材72により加熱したエアーを角部に供給する。このとき,第1押圧部材72によって密閉された角部の空間が加圧されるとともに,粘着テープが温風によって軟化するので,角部の形状に沿って粘着テープTが変形して密着する。したがって,裏面外周に環状凸部rの形成されたウエハWの裏面に粘着テープTを貼り付けて所定時間が経過しようとも,環状凸部rの内側角部の粘着テープTが浮き上がるのを防止でき,ひいては,後工程のダイシング処理時に環状凸部rを切断しても,粘着テープTの密着不良によるチップの飛散を防止することができる。」 「【図13】 」 (2)上記摘記に照らして,上記図13から以下の事項を見て取ることができる。 「ウエハWの裏面は,粘着テープTと所定のクリアランスを有している。」 (3)引用発明 上記(1),(2)の記載から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明1」,及び「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 ア 引用発明1 「リングフレームと前記リングフレームの中央に載置された半導体ウエハの裏面とに亘って支持用の粘着テープを貼付け,前記粘着テープを介して前記半導体ウエハを前記リングフレームと一体化させて,マウントフレームを作成する方法であって, 前記半導体ウエハは,裏面外周に環状凸部によって補強部が形成されるステップと, 前記リングフレームへの前記粘着テープの貼り付けが完了し,前記半導体ウエハの裏面と前記粘着テープとの間に所定のクリアランスを有している状態で,下ハウジング内で昇降する保持テーブルで前記半導体ウエハを載置保持するとともに,前記粘着テープを上ハウジングと前記下ハウジングによって挟持することで,前記上ハウジング側と前記下ハウジング側とが分割された2つの空間からなるチャンバを構成するステップと, ヒータを作動させて前記上ハウジング側から前記粘着テープを加熱するとともに,前記下ハウジング側の空間の気圧と前記上ハウジング側の空間の気圧の差圧によって,前記粘着テープがその中心から前記下ハウジング内に引き込まれてゆき,前記半導体ウエハの中心から外周に向けて徐々に貼付けられていくステップであって,前記環状凸部の内側の角部のエアーは抜気され,間隙が潰された状態で前記粘着テープが接着しているステップと, 前記上ハウジング,及び下ハウジングを大気開放した後,前記リングフレームと裏面全面に前記粘着テープが仮接着されている前記マウントフレームを保持したまま,ロボットアームなどの搬送機構によって前記マウントフレームを加圧ユニットに搬出するステップと, 加熱したエアーを前記半導体ウエハの環状凸部の内側の角部に向けて供給し,第1押圧部材によって密閉された前記角部の空間を加圧するとともに,温風によって前記粘着テープを軟化させ,前記角部の形状に沿って前記粘着テープを変形させ密着させることで,再度の貼付処理を行うステップと, を備えたことを特徴とする方法。」 イ 引用発明2 「リングフレームと前記リングフレームの中央に載置された半導体ウエハの裏面とに亘って支持用の粘着テープを貼付け,前記粘着テープを介して前記半導体ウエハを前記リングフレームと一体化させて,マウントフレームを作成する粘着テープ貼付装置であって, 裏面外周に環状凸部によって補強部が形成された前記半導体ウエハを保持する保持テーブルと, 前記粘着テープが貼り付けられた前記リングフレームを収容可能なフレーム保持部と, 前記保持テーブルを収容するとともに,前記粘着テープの幅よりも小さい直径を有する一対の上ハウジング,及び下ハウジングから構成され,前記粘着テープを前記上ハウジングと前記下ハウジングによって挟持するチャンバと, 前記上ハウジング側から前記粘着テープを加熱するヒータと, 前記ヒータを作動させて前記上ハウジング側から前記粘着テープを加熱するとともに,前記下ハウジング側の空間の気圧と前記上ハウジング側の空間の気圧の差圧によって,前記粘着テープがその中心から前記下ハウジング内に引き込まれてゆき,前記半導体ウエハの中心から外周に向けて徐々に貼付けられていくとともに,前記環状凸部の内側の角部のエアーを抜気し,間隙が潰された状態で前記粘着テープを接着させる制御部とを含むテープ貼付部と, 前記制御部によって前記上ハウジング,及び下ハウジングを大気開放した後,前記リングフレームと裏面全面に前記粘着テープが仮接着されている前記マウントフレームを保持したまま,前記マウントフレームを搬出するロボットアームなどの搬送機構と, 前記搬送機構によって搬送された前記半導体ウエハに対して,その環状凸部の内側の角部に向けて加熱したエアーを供給し,第1押圧部材によって密閉された前記角部の空間を加圧するとともに,温風によって前記粘着テープを軟化させ,前記角部の形状に沿って前記粘着テープを変形させ密着させることで,再度の貼付処理を行う加圧ユニットと, を備えたことを特徴とする粘着テープ貼付装置。」 2 引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は,被着体に接着シートを貼付するシート貼付装置および貼付方法に関する。」 「【0007】 前記目的を達成するため,本発明のシート貼付装置は,被着体に接着シートを貼付するシート貼付装置であって,前記被着体に対向して配置した前記接着シートを支持するシート支持手段と,前記被着体および当該被着体に対向して配置した接着シートを減圧雰囲気に保つ減圧手段と,前記接着シートを減圧雰囲気下で前記被着体に接近させて貼付する貼付手段とを備え,前記被着体への前記接着シートの貼付後に前記被着体と前記接着シートとの間に存在する空隙を除去する空隙除去手段を有することを特徴とする。」 「【0010】 以上のような本発明によれば,減圧および大気圧雰囲気で接着シートを被着体に貼付したときに,これら被着体と接着シートとの間に空隙が生じていたとしても,空隙除去手段によって,例えば接着シートを加熱することにより,空隙部分の接着シートに伸び代が生まれ,空隙の内外の圧力差によって当該接着シートが被着体に密着する。よって,空隙を生じさせることなく被着体に接着シートを貼付することができる。なお,前述した先行文献は,接着シートが加熱により伸びてしまった状態で被着体に貼付されるため,チャンバ内に大気圧が導入されて接着シートに大気圧が作用しても,それ以上接着シートに伸び代が生まれることはなく,接着シートと被着面との間に空隙が残ってしまう。本発明は,加熱を行うことなく接着シートを被着体に貼付するため,当該接着シートは,大気圧雰囲気で加熱されるときの伸び代を確保した状態で被着体に貼付されていることとなり,確実に空隙を消滅させることができる。」 第6 対比及び判断 1 本願発明1について (1)本願発明1と引用発明1との対比 本願発明1と引用発明1とを対比すると,次のことがいえる。 ア 引用発明1における「リングフレーム」,「半導体ウエハ」,「粘着テープ」,「環状凸部」,「下ハウジング」,「保持テーブル」,「2つの空間」,「チャンバ」,「加熱」,「差圧」,「再度の貼付け処理」は,それぞれ本願発明1の「リングフレーム」,「半導体ウエハ」,「粘着テープ」,「環状凸部」,「一対のハウジングの一方」,「保持テーブル」,「2つの空間」,「チャンバ」,「加熱」,「差圧」,「第2貼付け過程」に相当する。 イ 引用発明1における「半導体ウエハ」を「粘着テープ」を介して「リングフレーム」に「一体化」させて形成されたものを「マウントフレーム」と呼ぶことから,引用発明1において「半導体ウエハ」を「粘着テープ」を介して「リングフレーム」に「一体化」することは,本願発明1において「半導体ウエハ」を「粘着テープ」を介して「リングフレーム」に「マウント」することに相当する。 ウ 引用発明1における「粘着テープ」と「半導体ウエハ」の裏面との間に所定のクリアランスを有している状態は,両者が互いに近接し向かい合っている状態を表しているから,本願発明1の「粘着テープと半導体ウエハの裏面を近接対向させた状態」といえる。 エ 引用発明1における「前記下ハウジング側の空間の気圧と前記上ハウジング側の空間の気圧の差圧によって,前記粘着テープがその中心から前記下ハウジング内に引き込まれてゆき,前記半導体ウエハの中心から外周に向けて徐々に貼付けられていく」ことは,粘着テープがその中央部から周辺部に向かって凹のような形状に湾曲しながら半導体ウエハに貼り付けられることを表しているから,本願発明1の粘着テープを「凹入湾曲させて半導体ウエハの裏面に貼り付ける」ことに相当する。 オ 上記ア及びエより,引用発明1における「ヒータを作動させて前記上ハウジング側から前記粘着テープを加熱するとともに,前記下ハウジング側の空間の気圧と前記上ハウジング側の空間の気圧の差圧によって,前記粘着テープがその中心から前記下ハウジング内に引き込まれてゆき,前記半導体ウエハの中心から外周に向けて徐々に貼付けられていくステップ」は,本願発明1の「前記粘着テープによって仕切られたハウジング内の2つの空間に差圧を生じさせるとともに,当該粘着テープを加熱しながら凹入湾曲させて半導体ウエハの裏面に貼り付ける第1貼付け過程」に相当する。 カ 引用発明1における「前記上ハウジングを上昇させて前記上ハウジング内を大気開放するとともに,前記下ハウジング側も大気開放した後,前記リングフレームと裏面全面に前記粘着テープが仮接着されているマウントフレームを保持したまま,ロボットアームなどの搬送機構によって前記マウントフレームを加圧ユニットに搬出するステップ」は,チャンバにおける上ハウジング側の空間及び下ハウジング側の空間をそれぞれ大気開放することで,両者の差圧が解消されるとともに,ロボットアームなどによって半導体ウエハをチャンバから加圧ユニットに搬送している間に,半導体ウエハに加えた熱が解消されると理解できることから,本願発明1の「前記チャンバでの差圧および加熱を解消させ」ることに相当する。 したがって,本願発明1と引用発明1との間には,次の一致点,相違点があるといえる。 (一致点) 「支持用の粘着テープを介してリングフレームに半導体ウエハをマウントする半導体ウエハのマウント方法であって, 前記半導体ウエハは,裏面外周に環状凸部を有し, 前記リングフレームに貼り付けられた粘着テープと前記半導体ウエハの裏面を近接対向させた状態で,一対のハウジングの一方に備えられた保持テーブルで前記半導体ウエハを保持するとともに,粘着テープを両ハウジングによって挟み込んでチャンバを形成する過程と, 前記粘着テープによって仕切られたハウジング内の2つの空間に差圧を生じさせるとともに,前記粘着テープを加熱しながら凹入湾曲させて前記半導体ウエハの裏面に貼り付ける第1貼付け過程と, 前記チャンバでの差圧および加熱を解消させた後に,前記粘着テープを前記半導体ウエハの裏面に貼り付ける第2貼付け過程と, を備えたことを特徴とする半導体ウエハのマウント方法。」 (相違点) (相違点1)第2貼付け過程が,本願発明1においては,「前記粘着テープを押圧することなく前記粘着テープを前記第2加熱器で再加熱して前記粘着テープに蓄積されている引張応力を解消させながら前記粘着テープを貼り付ける」ものであるのに対して,引用発明1では,粘着テープに対して温風だけでなく加圧も加えることで,粘着テープを貼り付けており,また,粘着テープに蓄積されている引張応力の解消についても特定されていない点。 (2)相違点についての判断 ア 相違点1についての判断 本願発明1における,「第2貼付け過程」として,「粘着テープを押圧することなく」,「粘着テープを再加熱して」,「粘着テープに蓄積されている引張応力を解消させながら」,「粘着テープを貼り付ける」過程を採用することは,引用文献1,2には記載も示唆もない。 引用文献2には,第2の貼付け過程として,接着シートすなわち粘着テープを押圧することなく,加熱のみによって,粘着テープを貼り付ける技術が記載されているが(前記第5の2【0007】,【0010】),引用文献2に記載された技術は,粘着テープを,大気圧雰囲気で加熱されるときの伸び代を確保した状態で被着体に貼付するために,第1の貼付け過程において粘着テープを加熱しないことが前提条件である旨,記載されている(前記第5の2【0010】)。したがって,第1の貼付け過程において粘着テープを加熱する引用発明1に,第1の貼付け過程において,粘着テープを加熱しないことを前提とする引用文献2記載の技術を採用することには,阻害要因があるというべきである。 したがって,相違点1について本願発明1の構成を採用することは当業者が容易になし得たこととは認められない。 イ したがって,本願発明は,引用発明1および引用文献2に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2について 本願発明2は,本願発明1の発明特定事項を全て有するものであるので,本願発明2もまた,本願発明1と同じ理由により,引用発明1,引用文献2に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 3 本願発明3について (1)本願発明3と引用発明2との対比 本願発明3と引用発明2とを対比すると,次のことがいえる。 ア 引用発明2における「リングフレーム」,「半導体ウエハ」,「粘着テープ」,「環状凸部」,「保持テーブル」,「フレーム保持部」,「2つの空間」,「チャンバ」,「ヒータ」,「差圧」,「搬送機構」は,それぞれ本願発明3の「リングフレーム」,「半導体ウエハ」,「粘着テープ」,「環状凸部」,「第1保持テーブル」,「フレーム保持部」,「2つの空間」,「チャンバ」,「第1加熱器」,「差圧」,「搬送機構」に相当する。 イ 引用発明2における「半導体ウエハ」を「粘着テープ」を介して「リングフレーム」に「一体化」させて形成されたものを「マウントフレーム」と呼ぶことから,引用発明2において「半導体ウエハ」を「粘着テープ」を介して「リングフレーム」に「一体化」することは,本願発明3において「半導体ウエハ」を「粘着テープ」を介して「リングフレーム」に「マウント」することに相当する。 ウ 上記イより、引用発明2における「マウントフレーム」を作成する「粘着テープ貼付装置」は,本願発明3の「リングフレームに半導体ウエハをマウントする半導体ウエハのマウント装置」に相当する。 エ 引用発明2における「上ハウジング」,及び「下ハウジング」は,まとめて本願発明3の「一対のハウジング」に相当する。 オ 引用発明2における「前記ヒータを作動させて前記上ハウジング側から前記粘着テープを加熱するとともに,前記下ハウジング側の空間の気圧と前記上ハウジング側の空間の気圧の差圧によって,前記粘着テープがその中心から前記下ハウジング内に引き込まれてゆき,前記半導体ウエハの中心から外周に向けて徐々に貼付けられていくとともに,前記環状凸部の内側の角部のエアーを抜気し,間隙が潰された状態で前記粘着テープを接着させる」処理は,粘着テープがその中央部から周辺部に向かって凹のような形状に湾曲しながら半導体ウエハに貼り付けられることを表しているから,本願発明3の粘着テープを「粘着テープにより仕切られたチャンバ内の2つの空間に差圧を生じさせ,加熱されている粘着テープを凹入湾曲させながら半導体ウエハの裏面に貼り付けさせる」処理に相当する。したがって,引用発明2の上記処理を実行する「制御部」は,本願発明3の上記処理を実行する「制御部」に相当する。 カ 上記ア?オより,引用発明2における「保持テーブル」と,「フレーム保持部」と,「チャンバ」と,「ヒータ」と,「制御部」とを含む「テープ貼付部」は,本願発明3における「第1保持テーブル」と,「フレーム保持部」と,「チャンバ」と,「第1加熱器」と,「制御部」とを含む「第1貼付け機構」に相当する。 キ 引用発明2における「前記制御部によって前記上ハウジング,及び下ハウジングを大気開放した後,前記リングフレームと裏面全面に前記粘着テープが仮接着されている前記マウントフレームを保持したまま,前記マウントフレームを搬出する」ことは,チャンバにおける上ハウジング側の空間及び下ハウジング側の空間をそれぞれ大気開放することで,両者の差圧が解消されるとともに,半導体ウエハをチャンバから加圧ユニットに搬送している間に,半導体ウエハに加えた熱が解消されると理解できることから,本願発明3の「前記チャンバでの差圧および加熱を解消させ」ることに相当する。 ク 上記キより,引用発明2における「加圧ユニット」は,半導体ウエハに加わった差圧および加熱を解消させた後に,再度,半導体ウエハに粘着テープを貼り付ける装置であると理解できることから,この点において,本願発明3における,「前記チャンバでの差圧および前記第1加熱器による加熱を解消させた後に」,「前記粘着テープを貼り付ける第2貼付け機構」に相当する。 したがって,本願発明3と引用発明2との間には,次の一致点,相違点があるといえる。 (一致点) 「支持用の粘着テープを介してリングフレームに半導体ウエハをマウントする半導体ウエハのマウント装置であって, 裏面外周に環状凸部を有する前記半導体ウエハを保持する第1保持テーブルと, 前記粘着テープの貼り付けられたリングフレームを保持するフレーム保持部と, 前記第1保持テーブルを収納するとともに,リングフレームに貼り付けられた粘着テープを挟み込む一対のハウジングからなるチャンバと, 前記チャンバ内の粘着テープを加熱する第1加熱器と, 前記粘着テープにより仕切られたチャンバ内の2つの空間に差圧を生じさせ,加熱されている粘着テープを凹入湾曲させながら半導体ウエハの裏面に貼り付けさせる制御部とを含む第1貼付け機構と, 前記第1貼付け機構で粘着テープに半導体ウエハを貼り付けられてなるマウントフレームを保持する第2保持テーブルと, 前記第2保持テーブル上で粘着テープを再加熱する第2加熱器と, 前記第1貼付け機構から第2保持テーブルに前記マウントフレームを搬送する搬送機構と, 前記チャンバでの差圧および前記第1加熱器による加熱を解消させた後に,前記粘着テープを貼り付ける第2貼付け機構と, を備えたことを特徴とする半導体ウエハのマウント装置。」 (相違点) (相違点2)第2貼付け機構が,本願発明3においては,「前記粘着テープを押圧することなく前記粘着テープを前記第2加熱器で再加熱して前記粘着テープに蓄積されている引張応力を解消させながら前記粘着テープを貼り付ける」ものであるのに対して,引用発明2では,粘着テープに対して温風だけでなく加圧も加えており,また,粘着テープに蓄積されている引張応力の解消についても特定されていない点。 (2)相違点についての判断 ア 相違点2についての判断 上記第6の1(2)アと同様の理由により,相違点2について本願発明3の構成を採用することは当業者が容易になし得たこととは認められない。 イ したがって,本願発明3は,引用発明2および引用文献2に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 4 本願発明4について 本願発明4は,本願発明3の発明特定事項を全て有するものであるので,本願発明4もまた,本願発明3と同じ理由により,引用発明2および引用文献2に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 第7 原査定について 1 理由(特許法第29条第2項)について 原査定は,上記第2のとおり,引用文献1,2に基づいて,当業者であれば容易に発明できたものであるというものである。 しかしながら,上記第6の1?4のとおり,本件補正により付加された上記相違点1,2に係る構成は,引用文献1,2に記載も示唆もされていないし,周知技術であるということもできない。したがって,本願発明1ないし4は,引用文献1,2に基づいて当業者であれば容易に発明できたものであるということはできない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。 第8 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-11-29 |
出願番号 | 特願2014-262761(P2014-262761) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01L)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 中田 剛史 |
特許庁審判長 |
加藤 浩一 |
特許庁審判官 |
小田 浩 西出 隆二 |
発明の名称 | 半導体ウエハのマウント方法および半導体ウエハのマウント装置 |
代理人 | 杉谷 勉 |
代理人 | 杉谷 勉 |