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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 E04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04B
管理番号 1357403
審判番号 不服2018-16233  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-05 
確定日 2019-11-28 
事件の表示 特願2014- 65711「スラブ構造」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月 2日出願公開、特開2015-190106〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月27日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年 3月27日 出願
平成29年10月10日 拒絶理由通知(同年10月17日発送)
平成29年11月29日 意見書・手続補正書
平成30年 4月 9日 拒絶理由通知(最後)(同年4月17日発送)
平成30年 6月 1日 意見書・手続補正書
平成30年 9月 6日 補正の却下の決定・拒絶査定
(同年9月11日発送)
平成30年12月 5日 審判請求書・手続補正書


第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年12月5日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「柱と、
前記柱を挟んで、各々の梁側面を対向させて配置されるとともに、前記柱の両側に配置された一対の第2鉄骨梁がピン接合により架設される一対の第1鉄骨梁と、
前記一対の第1鉄骨梁及び前記一対の第2鉄骨梁で囲まれたキャピタル枠内に設けられ、前記柱と前記一対の第1鉄骨梁の前記梁側面とをそれぞれ接合するとともに前記柱と前記一対の第2鉄骨梁の梁側面とをそれぞれ接合するコンクリート接合部と、
前記一対の第1鉄骨梁及び前記一対の第2鉄骨梁に支持されるコンクリートスラブと、
を備え、
前記一対の第1鉄骨梁及び前記一対の第2鉄骨梁は、前記コンクリート接合部の側面に沿ってそれぞれ配置され、
前記一対の第1鉄骨梁の前記梁側面、及び前記一対の第2鉄骨梁の梁側面には、前記コンクリート接合部に埋設されるスタッドがそれぞれ設けられる、
スラブ構造。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成29年11月29日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「柱と、
前記柱を挟んで、各々の梁側面を対向させて配置される一対の鉄骨梁と、
前記柱と前記一対の鉄骨梁の前記梁側面とをそれぞれ接合するコンクリート接合部と、
前記一対の鉄骨梁に支持されるコンクリートスラブと、
を備え、
前記一対の鉄骨梁は、前記コンクリート接合部の両側の側面に沿って配置される、
スラブ構造。」

2 補正の適否
上記補正事項は、請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「一対の鉄骨梁」を、「一対の第1鉄骨梁」と「一対の第2鉄骨梁」に分けた上で、両鉄骨梁について、「梁側面には、前記コンクリート接合部に埋設されるスタッドがそれぞれ設けられる」ものに限定し、さらに、上記「一対の第1鉄骨梁」について、「前記柱の両側に配置された一対の第2鉄骨梁がピン接合により架設される」ものに限定し、また、同じく「コンクリート接合部」について、「前記一対の第1鉄骨梁及び前記一対の第2鉄骨梁で囲まれたキャピタル枠内に設けられ」るものに限定する補正であって、かつ補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、上記補正事項は、出願当初の特許請求の範囲等に記載されていたものであるから、新規事項を追加するものではなく、同法第17条の2第3項の規定を満たしている。
そこで、本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特表2011-512465号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は審決で付した。以下同様。)。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、格子形状のドロップパネル構造物及びその施工方法に関するものである。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、梁またはスラブのたわむ(垂れる)ことによって発生される梁またはスラブのたわみ長さが小さいながらも、梁またはスラブの厚さや大きさが大きくない構造物とその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、複数の柱100、101または壁体と;
前記柱100、101または壁体の水平断面積より広い水平断面積を有するようにコンクリートで形成されるドロップパネル219を含む連結部材210と;
を含んで構成されて、
前記連結部材210は、4個の単位ロード212が前記ドロップパネル219のまわりを囲みながら格子形状で形成されて、
前記各単位ロード212は、柱の各面と平行であり、同じ高さでお互いに交差されて構成されることを特徴とする格子形状のドロップパネル構造物を提供する。
【0010】
そして、前記柱100、101は、鉄筋コンクリートまたは鉄骨鉄筋コンクリートを含むことができるし、前記連結部材210はH形鋼で構成されることができるし、前記単位ロード212の連結端部600、680は、水平断面積が下部より上部で広く形成されることができる。
【0011】
また、前記連結部材210に傾斜引張材410、412が連結部材210と同じ方向または傾斜方向に設置されることができるし、前記単位ロード212は、鋳鉄筋710がスターラップ712によって囲まれている鉄筋コンクリート梁700または鉄骨梁800であることがある。」

(ウ)「【0018】
<有利な効果>
本発明によれば、ドロップパネルを含む連結部材によって、直線部材またはスラブに発生されるたわむ(垂れる)ことによるたわみ長さが減る効果がある。
【0019】
そして、内部空間の下段に水平鋳型が設置されて内部空間にコンクリートが、打設されることができる効果があって、4個の単位ロードによって内部空間が設けられることができる効果がある。
【0020】
また、格子形状でなされた連結部材によってドロップパネル219の規模を大きくしなくても良くて施工費用が節減されて、またスラブのたわみ(垂れ)は最大限防止することができて、技術的利点を最大限いかす著しい効果がある。」

(エ)「【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施例を、添付された図面らを参照して詳しく説明する。まず、各図面の構成要素らに参照符号を付け加えることにおいて、同一な構成要素らに対してはたとえ他の図面上に表示されても、可能な限り同一な符号を有するようにしていることに留意しなければならない。また、本発明を説明することにおいて、係わる公知構成または機能に対する具体的な説明が本発明の要旨を曖昧にすることがあると判断される場合にはその詳細な説明は略する。
【0023】
図2は、本発明のうちで柱と梁またはスラブ部の設置構造を示す正面図であるが、このうち図2の(a)は直線部材で梁とスラブがすべて設けられた場合であり、図2の(b)は直線部材でスラブだけ設けられた場合である。
【0024】
図2のように本発明であるドロップパネル構造物施工方法において、柱と梁またはスラブ部の設置構造は一定間隔で立てられた柱100と、該柱100との間に連結された結合梁またはスラブ部200を含んでなされる。
【0025】
そして、前記結合梁またはスラブ部200は、前記柱100に連結された連結部材210と、該連結部材210の間に設けられた梁またはスラブである直線部材220を含んで構成される。
【0026】
前記のような本発明によれば、連結部材210は下で説明されるところのようにコンクリートが打設された部分であるドロップパネルを含んで、前記ドロップパネルは柱100と一体で形成されて柱100の領域を拡大する役割をするために、結合梁またはスラブ部200のうちで前記連結部材210のたわみ量が前記直線部材220のたわみ量より小さくなる。
【0027】
したがって、結合梁またはスラブ部200全体長さ(L1)とたわみ(垂れ)が発生される有効長さ(L2)とは違って、前記有効長さ(L2)が全体長さ(L1)より少なくて、有効長さ(L2)が従来より小さいためにたわみ長さ(E)も減る。
【0028】
そのため従来のように、直線部材220の断面二次モーメントを高めるために直線部材220の断面の厚さまたは大きさを大きくしなくても良い。
【0029】
前記のような結合梁またはスラブ部200を含む本発明であるドロップパネル構造物施工方法を説明すれば次のようである。
【0030】
まず、本発明であるドロップパネル構造物施工方法の第1実施例を説明する。
【0031】
図3は、本発明のうちでドロップパネル構造物施工方法の第1実施例の流れ図であり、図4は本発明のうちで柱用鋳型を設置した斜視図であり、図5は図4にコンクリートが打設された斜視図であり、図6は本発明であるドロップパネル構造物施工段階のうちで柱に連結部材が固定された斜視図である。
【0032】
第1段階(S110)は、図4のように垂直鋳型102を複数で設置する段階である。
【0033】
そして、第2段階(S120)は、前記第1段階(S110)を経た後に図5のように前記垂直鋳型102にコンクリート104を打設する段階である。
【0034】
この過程を通じて前記垂直鋳型102にコンクリート104が打設されて図6のように鉄筋コンクリート柱100が形成される。
【0035】
第3段階(S130)は、前記第2段階(S120)を経た後に図6のように複数の鉄筋コンクリート柱100の各層位置に前記柱100の水平断面積より広い水平断面積でなされた内部空間214が形成された連結部材210を設置する段階である。
【0036】
すなわち、複数の鉄筋コンクリート柱100の各層位置に連結部材210を設置する段階で、前記柱100は上方に複数の鉄筋110が突出される。
【0037】
また、前記柱100は壁体で代替可能であって、この場合に前記柱100の水平断面積は壁体の水平断面積に取り替えられる。
【0038】
一方、本実施例では前記連結部材210を構成する単位ロード212でH形鋼を例示しているが、使用者の必要によってI形鋼、T形鋼を含む多くの種類の形鋼を使用することができる。但し、H形鋼が多くの断面の形鋼のうちで断面積に比べて最大の断面二次モーメント値を有するので、大きい剛性を維持するためにはH形鋼を使用することが最も好ましい。
【0039】
図7は、図6の連結部材を示す斜視図である。
【0040】
図7のように前記連結部材210は、2種以上の形状で設けられることができるし、そのうち一番目は、図7の(a)のように前記連結部材210が4個の単位ロード212がお互いに直交する形状である格子形状で形成されて、その中心には内部空間214が形成されて、前記内部空間214には“+”字形状を有する結合ロード216が具備される形状の場合である。前記結合ロード216は、必要な場合のみに設置されて、結合ロード216が設置されない場合には前記連結部材210の下部に鋳型が設置されて柱100の上段に置かれる。
【0041】
必要な場合には、下に記載されるすべての前記結合ロード216も前記鋳型によって代替可能である。
【0042】
そして、二番目は、図7の(b)のように前記連結部材210が円形ロード221によって円形で形成されて、その中心には内部空間214が形成されて、前記内部空間214には“+”字形状を有する結合ロード216が具備される形状の場合である。
【0043】
注意する点は、前記内部空間214は水平断面積が前記柱100の水平断面積より広いために前記柱100の上段に前記結合ロード216が置かれれば単位ロード212または円形ロード221は柱100から離隔されるという事実である。
【0044】
必要な場合には前記連結部材210の形状を菱形またはその他多角形の形状で形成することも可能であって、前記結合ロード216の形状も“+”字形状以外の多様な形状で変形可能である。
【0045】
一方、図8は、図6の連結部材の間に直線部材が連結された斜視図であり、図9は図8に水平鋳型が設置された斜視図であり、図10は図9に追加鉄筋が配筋された斜視図である。
【0046】
第4段階(S140)は、前記第3段階(S130)を経た後に図8のように前記複数の連結部材210に直線部材220を連結する段階である。
【0047】
もう少し具体的に説明すれば、前記連結部材210を構成する前記単位ロード212と、これと隣接された連結部材210の単位ロード212との間に直線部材220を連結するものである。
【0048】
必要な場合には作業者が前記直線部材220を用意しないで、連結部材210と連結部材210との間に上段水平鋳型320だけ設置する。
【0049】
前記連結部材210の単位ロード212と直線部材220との連結は、接ぎ板232と複数のボルト及びナットによって連結部材210の単位ロード212と直線部材220を連結するものとして一般的に建設現場で通常進行される過程であるので、詳しい説明は略する。
【0050】
第5段階(S150)は、図9のように第4段階(S140)を経た後前記直線部材220と直線部材220との間に上段水平鋳型320を設置する段階である。
【0051】
そして、第6段階(S160)は、図10のように前記第5段階(S150)を終えた後前記内部空間214の下段に下段水平鋳型330を設置して、前記上段水平鋳型320及び下段水平鋳型330の上方に鉄筋341を配筋する段階である。
【0052】
必要な場合には前記第5段階(S150)と第6段階(S160)が共に進行されることができる。
【0053】
次に図11は、図10にコンクリートが打設された斜視図であり、図12は図11の柱部分垂直断面図を示す。
【0054】
そして、第7段階(S170)は、第6段階(S160)を終えた後に前記内部空間214と上段水平鋳型320上にコンクリートを打設して、図11及び図12のようにドロップパネル(Drop pannel)219とスラブ構造体500を形成する段階である。
【0055】
すなわち、前記第7段階(S170)には、前記内部空間214にコンクリートを打設してドロップパネル219を作る過程が含まれて、図12のように前記内部空間214にドロップパネル219が形成されて、前記上段水平鋳型320の上方にスラブ構造体500が設けられる。図12の(a)は直線部材220がある構造であり、図12の(b)は直線部材220がない構造である。
【0056】
前記第7段階(S170)によって1個層の工事が完了する。
【0057】
一方、前記第7段階(S170)によって1個層の工事が完了した状態で柱100と連結部材210及び直線部材220の垂直断面をよく見れば、図2及び図12のように連結部材210の内部空間214にコンクリートが打設されていて、前記コンクリートでなされたドロップパネル219は鉄骨構造である直線部材220またはスラブ構造体500に比べて引張強度が非常に強い。
【0058】
したがって、たわみ(垂れ)は、直線部材220または、連結部材210と連結部材210との間に設けられたスラブ構造体500の一部分のみに主に適用されて、前記直線部材220または、連結部材210と連結部材210との間に設けられたスラブ構造体500の一部分の長さは、前記連結部材210が柱100のまわりに突出された程度に減るために、前記直線部材220または、連結部材210と連結部材210との間に設けられたスラブ構造体500の一部分に発生されるたわみ(垂れ)によるたわみ長さ(E)が減るようになる。
【0059】
本発明によればドロップパネル219が作られて直線部材220または、連結部材210と連結部材210との間に設けられたスラブ構造体500の一部分の長さが減るために、断面の大きさが小さな直線部材220またはスラブ構造体500が使われながらも、直線部材220または、連結部材210と連結部材210との間に設けられたスラブ構造体500の一部分に発生されるたわみ(垂れ)によったたわみ長さは減る効果がある。
【0060】
また、内部空間214の下段に下段水平鋳型330を設置して、内部空間214にコンクリートを打設することができる効果があって、4個の単位ロード212によって内部空間214が設けられることができるし、結合ロード216によって連結部材210を柱100の各層位置におくことができる効果がある。
【0061】
前記連結部材210が柱100の上段に置かれる時、前記結合ロード216は、柱100と結合部218によって連結されるが、図5のように前記垂直鋳型102にコンクリート104が打設される過程で図12のように前記結合部218の下部231が鉄筋コンクリート柱100に埋立される。
【0062】
そして、鉄筋コンクリート柱100に埋立されない結合部218の上部233は、結合ロード216とボルト235結合などで締結される。」

(オ)図6をみると、直交する形状である格子形状に形成される4個の単位ロード212の中央に柱100が位置していることが看取できる。

(カ)上記(ア)ないし(オ)からみて、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。
「一定間隔で立てられた柱100と、該柱100との間に連結された結合梁またはスラブ部200を含んでなされる、柱と梁またはスラブ部の設置構造であって、
前記結合梁またはスラブ部200は、前記柱100に連結された連結部材210と、該連結部材210の間に設けられた梁またはスラブである直線部材220を含んで構成され、
前記連結部材210は、4個のH形鋼からなる単位ロード212がお互いに直交する形状である格子形状で形成されて、その中心には内部空間214が形成され、柱100と一体で形成されて柱100の領域を拡大する役割をするコンクリートが打設された部分であるドロップパネルを含んでおり、
柱100は、格子形状に形成される4個の単位ロード212の中央に位置しており、
前記連結部材210を構成する前記単位ロード212と、これと隣接された連結部材210の単位ロード212との間に直線部材220を連結し、
前記連結部材210の単位ロード212と直線部材220との連結は、接ぎ板232と複数のボルト及びナットによって連結部材210の単位ロード212と直線部材220を連結し、
前記直線部材220と直線部材220との間に上段水平鋳型320を設置し、
前記内部空間214の下段に下段水平鋳型330を設置し、
前記内部空間214と上段水平鋳型320上にコンクリートを打設して、ドロップパネル219とスラブ構造体500を形成する、
柱と梁またはスラブ部の設置構造。」

イ 引用文献2
原査定の補正の却下の決定に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開平8-4113号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
(ア)「【0005】即ち、本発明の鉄骨小梁の架設方法では、対向する鉄骨大梁の一方側に鉄骨小梁の一端部を例えばピン結合等によって建方前に予め連結しておくものであるから、鉄骨大梁と数量の多い鉄骨小梁とを同時に揚重でき、揚重回数を大幅に低減できるようになる。又、高所での鉄骨大梁と鉄骨小梁との接合作業量が減少し、高所での作業時間を短縮できるようになるから、現場作業の省力化・高効率化が図れ、安全性も向上する。」

ウ 引用文献3
新たに引用された本願の出願前に頒布された刊行物である、実願平3-49572号(実開平4-134303号)のマイクロフィルム(以下「引用文献3」という。)には、図面とともに次の記載がある。
(ア)「【0006】
図2および図3からも明らかなように、上記接合部の溝型鋼1のウエブ外面には中間スチフナー4が一体的に溶接されている。5はスタッドであって、上記接合部の溝型鋼1のウエブ内面に植設され、上記SRC柱Bの鉄筋コンクリート3中に定着されており、ダブルビームA、A′をSRC柱Bに一体的に接合している。」

(3)引用発明1との対比
ア 補正発明と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1において、「柱100は、格子形状に形成される4個の単位ロード212の中央に位置して」いることから、4個の単位ロード212のうち、2組ある相対する2個は、柱を挟んで、各々の側面を対向させて配置されているといえる。

(イ)引用発明1の「連結部材210」において、「4個のH形鋼からなる単位ロード212がお互いに直交する形状である格子形状に形成されて、その中心には内部空間214が形成され、」「コンクリートが打設された部分であるドロップパネルを含んで」おり、かつ「柱100は、格子状に形成される4個の単位ロード212の中心に位置して」いることから、「ドロップパネル」は、「柱と単位ロード212の側面とを接合する」「コンクリート接合部」といえ、また、「4個のH形鋼からなる単位ロード212」は、ドロップパネルの側面に沿って配置されているといえる。

(ウ)引用発明1の「ドロップパネル219とスラブ構造体500」は、「前記直線部材220と直線部材220との間に上段水平鋳型320を設置し、前記内部空間214の下段に下段水平鋳型330を設置し、」「前記内部空間214と上段水平鋳型320上にコンクリートを打設して」「形成」されるから、直線部材220と単位ロード212に支持されるコンクリートスラブであるといえる。

(エ)引用発明1において、「お互いに直交する形状である格子形状に形成され」た「4個のH形鋼」は、「その中心には内部空間214が形成され、」「コンクリートが打設され」るから、補正発明の「キャピタル枠」に相当する。

(オ)引用発明1において、「お互いに直交する形状である格子形状に形成される4個の単位ロード212」は、その配置からみると、2組の相対する一対の単位ロード212といえ、そして、「単位ロード212」は「H形鋼からなる」ものであるから、引用発明1の2組のうちの一方の「一対の単位ロード212」は、補正発明の「一対の第1鉄骨梁」、他方のものは、「一対の第2鉄骨梁」に相当し、そして引用発明1の「単位ロード212」は、補正発明と同様に、どちらかに対して架設されているものである。

(カ)引用発明1において、「前記連結部材210を構成する前記単位ロード212と、これと隣接された連結部材210の単位ロード212との間に直線部材220を連結し」ているから、上記(オ)の一方の「一対の単位ロード212」に連結される「直線部材220」も、補正発明の「一対の第1鉄骨梁」に相当し、同じく他方のものに連結される「直線部材220」が、「一対の第2鉄骨梁」に相当する。

(キ)上記(オ)ないし(カ)で検討したとおり、「4個の単位ロード212」及び「直線部材220」は、補正発明の「一対の第1鉄骨梁」または「一対の第2鉄骨梁」に相当するから、上記(ア)?(エ)で検討した事項における「4個の単位ロード212」についても、同様に、補正発明の「一対の第1の鉄骨梁」または「一対の第2の鉄骨梁」に相当する。
また、引用発明1の「柱と梁またはスラブ部の設置構造」は、補正発明の「スラブ構造」に相当する。

イ 以上のことから、補正発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「柱と、
前記柱を挟んで、各々の梁側面を対向させて配置されるとともに、前記柱の両側に配置された一対の第2鉄骨梁が架設される一対の第1鉄骨梁と、
前記一対の第1鉄骨梁及び前記一対の第2鉄骨梁で囲まれたキャピタル枠内に設けられ、前記柱と前記一対の第1鉄骨梁の前記梁側面とをそれぞれ接合するとともに前記柱と前記一対の第2鉄骨梁の梁側面とをそれぞれ接合するコンクリート接合部と、
前記一対の第1鉄骨梁及び前記一対の第2鉄骨梁に支持されるコンクリートスラブと、
を備え、
前記一対の第1鉄骨梁及び前記一対の第2鉄骨梁は、前記コンクリート接合部の側面に沿ってそれぞれ配置される、
スラブ構造。」

【相違点1】
第2鉄骨梁は第1鉄骨梁に対して、補正発明では、ピン接合により架設されるのに対し、引用発明1では、架設の手段が不明な点。
【相違点2】
第1鉄骨梁の梁側面、第2鉄骨梁の梁側面について、補正発明は、コンクリート接合部に埋設されるスタッドがそれぞれ設けられるのに対し、引用発明1は、スタッドが設けられていない点。

(4)判断
以下、上記相違点1及び2について検討する。
ア 相違点1
鉄骨梁間の接合手段として、ピン接合を採用することは、引用文献2に記載されているように、本願出願前に公知または周知の技術であるから、引用発明1の単位ロード212間の接合にピン接合を採用することにより、相違点1に係る補正発明の構成とすることは、当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、本願明細書の【0028】に「なお、本実施形態では、第2鉄骨梁30A,30Bが第1鉄骨梁20にピン接合されているが、これに限らない。例えば、第1鉄骨梁20の上フランジ部22及び下フランジ部24に第2鉄骨梁30A,30Bの上フランジ部32及び下フランジ部34をそれぞれ接合して剛接合にしても良い。また、第2鉄骨梁30A,30Bと第1鉄骨梁20とは、半剛接合にしても良い。」と記載されているように、鉄骨同士の接合構造として周知のもののいずれを採用してもよいのだから、補正発明においてピン接合を採用することに顕著な効果は認められない。

イ 相違点2
梁とコンクリートの接着性を高めるために、コンクリートと接着する梁の面にスタッドを設けることは、引用文献3に記載されているように、本願出願前に公知または周知の技術であるから、引用発明1の単位ロード212のコンクリート側の面にスタッドを設けることにより、相違点2に係る補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

ウ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、「引用文献1は、前述したように、梁またはスラブのたわみ量を低減することを目的(段落[0008])とし、図2(a)に示されるように、高剛性の連結部材210によって、直線部材220のたわみEを低減している(段落[0026]、[0027])。このような引用文献1に引用文献2を適用し、連結部材210を構成する4本の単位ロード212をピン接合すると、前述した直線部材220のたわみEが増加し、引用文献1の上記目的に反する結果となる。すなわち、引用文献1に引用文献2を適用し、連結部材210を構成する4本の単位ロード212をピン接合にすることには、技術的な阻害要因がある。」(8頁)と主張している。
しかしながら、引用文献1の記載(上記(2)ア(エ)の段落【0026】?【0027】)によれば、引用発明1は、「有効長さ(L2)」を小さくして「たわみ長さE」を減少させるという課題を解決するために、「コンクリートが打設された部分であるドロップパネル」が形成されており、該ドロップパネルが形成されることによって、「柱100と一体で形成されて柱100の領域を拡大する役割をするために、結合梁またはスラブ部200のうちで前記連結部材210のたわみ量が前記直線部材220のたわみ量より小さくなる」こと、及び、「結合梁またはスラブ部200全体長さ(L1)とたわみ(垂れ)が発生される有効長さ(L2)とは違って、前記有効長さ(L2)が全体長さ(L1)より少なく」なるという作用を奏することによって、上記課題が解決されるものと認められることから、単位ロード212間の接合手段の相違によって「たわみ長さ(E)」に顕著な差が発生するとは認められない。
よって、引用発明1に、単位ロード212間の接合手段としてピン接合を採用することに阻害要因は見当たらないから、上記アで検討したとおり、単位ロード212間の接合にピン接合を採用することにより、相違点1に係る補正発明の構成とすることは、当業者が容易に発明をすることができたものであって、請求人の主張は採用できない。

エ 小括
したがって、補正発明は、当業者が引用発明1、引用文献2及び引用文献3に記載の公知または周知の技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年12月5日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1ないし2に係る発明は、平成29年11月29日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 1(2)」において、本件補正前の請求項1として示したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
「1.(新規性)この出願の請求項1、2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の請求項1、2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特表2011-512465号」というものである。

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、上記第2の[理由]2(2)アに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明と引用発明1を対比する。
ア 引用発明1において、「4個の単位ロード212」は、「H形鋼」からなっており、「柱100は、格子形状に形成される4個の単位ロード212の中央に位置して」いることから、引用発明1の「4個の単位ロード212」のうち、2組ある相対する2個は、本願発明の「鉄骨梁」と同様に、「柱を挟んで、各々の梁側面を対向させて配置され」ている。

イ 引用発明1の「連結部材210」において、「4個のH形鋼からなる単位ロード212がお互いに直交する形状である格子形状に形成されて、その中心には内部空間214が形成され、」「コンクリートが打設された部分であるドロップパネルを含んで」おり、かつ「柱100は、格子状に形成される4個の単位ロード212の中心に位置して」いることから、引用発明1の「ドロップパネル」は、本願発明と同様に、「柱と一対の鉄骨梁の梁側面とをそれぞれ接合するコンクリート接合部」となっており、また、引用発明1の「4個の単位ロード212」は、本願発明の「一対の鉄骨梁」と同様に、「コンクリート接合部の両側の側面に沿って配置され」ている。

ウ 引用発明1の「ドロップパネル219とスラブ構造体500」は、「前記直線部材220と直線部材220との間に上段水平鋳型320を設置し、前記内部空間214の下段に下段水平鋳型330を設置し、」「前記内部空間214と上段水平鋳型320上にコンクリートを打設して」「形成」されるから、本願発明の「一対の鉄骨に支持されるコンクリートスラブ」に相当する。

エ 引用発明1の「柱と梁またはスラブ部の設置構造」は、本願発明の「スラブ構造」に相当する。

オ したがって、本願発明と引用発明1とは、
「柱と、
前記柱を挟んで、各々の梁側面を対向させて配置される一対の鉄骨梁と、
前記柱と前記一対の鉄骨梁の前記梁側面とをそれぞれ接合するコンクリート接合部と、
前記一対の鉄骨梁に支持されるコンクリートスラブと、
を備え、
前記一対の鉄骨梁は、前記コンクリート接合部の両側の側面に沿って配置される、
スラブ構造。」で一致し、相違点は存在しない。
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明である。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-09-30 
結審通知日 2019-10-01 
審決日 2019-10-17 
出願番号 特願2014-65711(P2014-65711)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (E04B)
P 1 8・ 121- Z (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 富士 春奈小池 俊次  
特許庁審判長 小林 俊久
特許庁審判官 須永 聡
住田 秀弘
発明の名称 スラブ構造  
代理人 中島 淳  
代理人 福田 浩志  
代理人 加藤 和詳  

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