ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D04H |
---|---|
管理番号 | 1357407 |
審判番号 | 不服2019-4190 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-04-01 |
確定日 | 2019-11-28 |
事件の表示 | 特願2014-213438「シート製造装置及びシート製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月16日出願公開、特開2016- 79533〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年10月20日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年5月25日付け :拒絶理由通知 平成30年7月27日 :意見書、手続補正書の提出 平成30年12月19日付け:拒絶査定 平成31年4月1日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成31年4月1日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項8に係る発明(以下「本願発明」という。)は、当該補正により、補正されておらず、以下のとおりのものである。 「繊維及び樹脂を含む材料を堆積して堆積物を形成する工程と、 前記堆積物を加熱加圧する第1加熱加圧工程と、 前記第1加熱加圧工程の後に、前記堆積物を調湿する調湿工程と、 前記調湿工程の後に、前記堆積物を加熱加圧する第2加熱加圧工程と、 を含み、 前記第1加熱加圧工程における加熱温度及び加圧力は、前記第2加熱加圧工程における加熱温度及び加圧力よりも低い又は小さいことを特徴とする、シート製造方法。」 第3 原査定における拒絶の理由 原査定の本願発明に対する拒絶の理由は、本願発明は、本願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1.特開平8-252557号公報 第4 引用文献 引用文献1には、次の事項が記載されている。なお、下線は理解の便宜のために当審で付した。 1 「【請求項1】 古紙を水を用いず空気中で乾式解繊した古紙パルプと熱可塑性樹脂の微細繊維とを、乾式で混合した繊維集合体を、該熱可塑性樹脂の融点以上の温度で加熱することにより、該熱可塑性樹脂微細繊維の一部叉は全部を溶解し、古紙パルプ同士の結合を行って作製したボードにおいて、ボード表面層に水を塗布した後に、加圧することを特徴とする古紙ボード。」(特許請求の範囲) 2 「本発明は、古紙を主原料とした古紙ボードの製造方法に関するものであり、物品の破損、傷つけ、つぶれ等を防止する目的で使用される緩衝材や、断熱、保温材等として広範囲な使用が可能である。」(段落0001) 3 「ところで、乾燥方法としては公知のヤンキーシリンダー、カウンターフロー、インピンジメント(高速エアキャップ式、トンネル式)、エアスルー、エアフローティング、赤外線、マイクロ波、誘導加熱等が有るが、特に限定されない。叉、用途に応じて乾燥と同時に圧力をかける加熱加圧方法が好ましい。この場合、熱プレスまたは熱キャレンダー掛けが好ましく、多段叉は併用で使用しても良い。」(段落0014) 4 「ところで本発明に使用可能な熱可塑性樹脂の微細繊維は、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂、あるいはこれらの樹脂の共重合物を短繊維状に加工したもの、または上記樹脂の2種以上を同時に紡糸した、いわゆるサイドバイサイドタイプや、シースコアタイプの複合繊維を短繊維状に加工したものであり、これらの1種以上を使用することが可能である。特に、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂より製造された、パルプ状多分岐繊維が好ましい。」(段落0016) 5 「ボードの製法として、一般的に以下の様な方法が取られている。古紙パルプと熱可塑性微細繊維は加熱処理に先立ち、乾式でエアーや機械的な攪拌等により均一に混合し、均一に混合された古紙パルプと針葉樹パルプの混合パルプと熱可塑性微細繊維との繊維集合体は、移動するベルト状搬送用支持体上に積層され、加熱処理装置へ移送される。この場合、古紙パルプと熱可塑性微細繊維との混合繊維積層体を上下から通気性の搬送用支持体で挟んでもよいし、熱伝導性の高い、金属ベルト等ではさんで搬送しても良い。加熱装置としては、混合繊維積層体中の熱可塑性微細繊維の溶融が可能であれば、特に限定するものではなく、例えば、熱風炉やマイクロウエーブ等が使用できる。熱風炉の場合には、古紙パルプや熱可塑性微細繊維の飛散を防止するために、搬送用支持体の下から吸引しておくことが好ましい。加熱装置の加熱温度は、260℃以下であることが好ましい。加熱温度が260℃を越えると、パルプ繊維の炭化や発火の恐れがあり、好ましくない。加熱装置により熱可塑性樹脂微細繊維の融点以上に加熱された古紙パルプおよび熱可塑性樹脂微細繊維の混合繊維積層体は、加熱装置内あるいは加熱装置を出た後で、プレスロール等の加圧装置によって加圧され、所望の厚さおよび密度の低密度ボードを得ることができる。この場合、加圧処理は加熱装置の中および加熱装置を出た後の両方で行ってもよい。」(段落0019) 6 「実施例1 新聞古紙とNBKPシートをそれぞれ単独でパルプ粗砕機(瑞光鉄工(株)製、TYPE FR-160)を用いて粗砕後、パルプ粉砕機(瑞光鉄工(株)製、TYPE P-270)を用いて乾式で解繊し、古紙パルプとNBKPを得た。得られた古紙パルプの長さ加重平均長さは1.07mmであり、NBKPの長さ加重平均長は2.69mmであった。得られた古紙パルプとNBKPを古紙パルプ/NBKP=45/55の割合で混合し、長さ加重平均長さ1.96mmの混合パルプを得た。得られた混合パルプと、乾式で解繊された乾燥された多分岐状合成パルプ(三井石油化学(株)製、商品名SWP、E780)を、混合パルプ/合成パルプ=80/20の割合で配合し、ミキサーで均一に混合して混合繊維を得た。合成パルプの融点は130℃であり平均繊維長は1.6mmであった。次に、該混合繊維を8mmの高さのスペーサーを置いた熱プレス装置((株)東洋精機製作所製、ラボプレス30T)の間に積層し、5kg/cm^(2)の圧力、170℃の温度で10分間保持し、ボードを得た。 更にこのボードに対して、100cc/m^(2)の水をスプレーを使用して均一塗布し、7.5mmの間隙で、熱キャレンダー(温度:180℃)に通し、古紙ボードを作製した。得られた古紙ボードの密度は0.15g/cm^(3)であり、坪量は1500g/cm^(2)であった。」(段落0024) したがって、引用文献1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「古紙パルプとNBKPを混合した混合パルプと多分岐状合成パルプ(三井石油化学(株)製、商品名SWP、E780)をミキサーで均一に混合して混合繊維を得て、該混合繊維を8mmの高さのスペーサーを置いた熱プレス装置の間に積層し、5kg/cm^(2)の圧力、170℃の温度で10分間保持し、ボードを得て、このボードに対して、100cc/m^(2)の水をスプレーを使用して均一塗布し、7.5mmの間隙で、熱キャレンダー(温度:180℃)に通した、古紙ボード製造方法。」 第5 対比 そこで、本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「古紙パルプとNBKPを混合した混合パルプ」は、本願発明の「繊維」に相当し、「多分岐状合成パルプ」は、前記第4の4の記載より熱可塑性樹脂であるから、本願発明の「樹脂」に相当し、引用発明の「古紙パルプとNBKPを混合した混合パルプと多分岐状合成パルプをミキサーで均一に混合して混合繊維を得て、該混合繊維を8mmの高さのスペーサーを置いた熱プレス装置の間に積層」することは、本願発明の「繊維及び樹脂を含む材料を堆積して堆積物を形成する工程」に相当する。 次に、引用発明の「5kg/cm^(2)の圧力、170℃の温度で10分間保持しボードを得」ることは、その圧力や温度からみて、本願発明の「前記堆積物を加熱加圧する第1加熱加圧工程」に相当し、引用発明の「このボードに対して、100cc/m^(2)の水をスプレーを使用して均一塗布」することは、ボードに対して水分が付与されることであるから、本願発明の「前記第1加熱加圧工程の後に、前記堆積物を調湿する調湿工程」に相当し、引用発明の「7.5mmの間隙で、熱キャレンダー(温度:180℃)に通した」ことは、前記第4の1の「ボード表面層に水を塗布した後に、加圧する」という記載、前記第4の3の「用途に応じて乾燥と同時に圧力をかける加熱加圧方法が好ましい。この場合、熱プレスまたは熱キャレンダー掛けが好ましく、」という記載及び前記第4の6の「100cc/m^(2)の水をスプレーを使用して均一塗布し、7.5mmの間隙で、熱キャレンダー(温度:180℃)に通し、」という記載からみて、本願発明の「前記調湿工程の後に、前記堆積物を加熱加圧する第2加熱加圧工程」に相当し、引用発明の「古紙ボード製造方法」は、本願明細書の段落0090を参照すると、本願発明の「シート製造方法」に相当する。 また、引用発明の「該混合繊維を8mmの高さのスペーサーを置いた熱プレス装置の間に積層し、5kg/cm^(2)の圧力、170℃の温度で10分間保持しボードを得」ること及び「7.5mmの間隙で、熱キャレンダー(温度:180℃)に通し加熱加圧した」ことは、その温度を比較すれば、前者は後者の加工温度より低いといえるから、「前記第1加熱加圧工程における加熱温度は、前記第2加熱加圧工程における加熱温度よりも低い」という限りにおいて、本願発明の「前記第1加熱加圧工程における加熱温度及び加圧力は、前記第2加熱加圧工程における加熱温度及び加圧力よりも低い又は小さいこと」と一致する。 したがって、本願発明と引用発明とは「繊維及び樹脂を含む材料を堆積して堆積物を形成する工程と、前記堆積物を加熱加圧する第1加熱加圧工程と、前記第1加熱加圧工程の後に、前記堆積物を調湿する調湿工程と、前記調湿工程の後に、前記堆積物を加熱加圧する第2加熱加圧工程と、を含み、前記第1加熱加圧工程における加熱温度は、前記第2加熱加圧工程における加熱温度よりも低い、シート製造方法。」の点で一致し、本願発明は「前記第1加熱加圧工程における」「加圧力は、前記第2加熱加圧工程における」「加圧力よりも」「小さい」のに対して、引用発明は、5kg/cm^(2)の圧力で加熱加圧した後の加圧力が不明な点で相違する(以下「相違点」という。)。 第6 判断 1 相違点について 引用発明の「7.5mmの間隙で、熱キャレンダー(温度:180℃)に通し加熱加圧した」ことは、「5kg/cm^(2)」の圧力で加圧して「8mm」に圧縮したボードを、「8mm」から「7.5mm」になるまで、さらに加圧して圧縮することであるから、ボードを「5kg/cm^(2)」以上で加圧することは明らかである。 そして、当該工程における加圧力は、古紙ボードに求める厚さや密度等の諸元を勘案して定められるものであるから、古紙ボードとしてさらに薄いものや、密度の高いものを想定して、前記加圧力を「5kg/cm^(2)」より大きいものとすることは、当業者が設計上適宜になし得たことである。 よって、本願発明の上記相違点に係る構成は、引用発明に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。 2 本願発明の奏する効果について 本願発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 3 請求人の主張について 請求人は、審判請求書の「(4)引用文献と本願発明との対比」において、以下のように主張している。 「本願発明によれば、特に、繊維がセルロースであり、樹脂が熱可塑性の樹脂粒子であり、第1の加熱加圧部の加熱温度が60℃以上160℃以下であることで、第1の加熱加圧部によって熱可塑性の樹脂粒子の一部が溶融され、繊維間の空隙を確保した状態(ウエブの密度が低い状態)で緩く結着させることができます。これにより、その後調湿した際にウエブの空隙によって水分が通り易くなり、ウエブ内部への水分の浸透及び吸収が容易となり、その結果、ウエブからの繊維や樹脂粒子の脱離が抑えられるという格別な効果が得られます。そして、第1加熱加圧部よりも高い加熱温度と加圧力の第2加熱加圧部によって、繊維や樹脂粒子の脱離が抑えられた状態で、ウエブの密度を高めてシートが製造されるものであります。 本願発明で用いられる樹脂は粒子状であるので、その比表面積が、例えば引用文献で用いている微細繊維状の樹脂よりも小さいことから熱の伝わり方が小さく、部分的な溶融に留まり、繊維間の空隙が確保された状態で緩く結着できるものであります。また、一方で、樹脂が粒子状ですので、ウエブ内部において溶融していない樹脂粒子が、ウエブから脱離し易い傾向にあり、そのため、調湿により十分にウエブ内部に水分を浸透及び吸収させて、繊維や樹脂粒子の脱離を抑える必要があるのであります。 」 しかし、本願発明は、「繊維がセルロースであり、樹脂が熱可塑性の樹脂粒子であり、第1の加熱加圧部の加熱温度が60℃以上160℃以下であることで、第1の加熱加圧部によって熱可塑性の樹脂粒子の一部が溶融され、繊維間の空隙を確保した状態(ウエブの密度が低い状態)で緩く結着させること」を特定していないため、少なくとも、請求項8に係る発明である本願発明については、前記主張は、特許請求の範囲の記載に基づいた主張とはいえず、採用できない。 さらに、「樹脂」については、本願明細書の段落0069に「プレ加熱部110によってウェブW中に含まれる樹脂の一部を溶融させる。なお、ウェブWの表面近傍の樹脂だけを溶融させてもよい。」と記載されており、「溶融」が前提となっているところ、熱可塑性樹脂の溶融温度は様々であり、全ての熱可塑性樹脂が、60℃以上160℃以下で溶融するわけではないから、樹脂粒子の脱離がおこる状態であるのかどうかは不明であって、当該主張は当を得たものではない。そもそも、「調湿」については、本願明細書の段落0075に「調湿部120は、プレ加熱部110からみてウェブWの搬送方向下流に設けられる。調湿部120は、ウェブWに対して、水分を付与して、ウェブWを調湿する。ウェブWが調湿部120によって調湿される(水分が付与される)ことにより、調湿部120やシート形成部80によってウェブWに印可される圧力によって、締まりやすくなる(密度と高めやすくなる)。」と記載されてはいるものの、調湿により十分にウエブ内部に水分を浸透及び吸収させて、樹脂粒子の脱離を抑えることまでは、本願明細書には記載も示唆もされておらず、この「調湿」に係る効果の主張は明細書の記載に基づく主張ではない。 4 小括 よって、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-09-30 |
結審通知日 | 2019-10-01 |
審決日 | 2019-10-16 |
出願番号 | 特願2014-213438(P2014-213438) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(D04H)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 長谷川 大輔 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
佐々木 正章 石井 孝明 |
発明の名称 | シート製造装置及びシート製造方法 |
代理人 | 仲井 智至 |
代理人 | 松岡 宏紀 |
代理人 | 渡辺 和昭 |
代理人 | 磯部 光宏 |