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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01B |
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管理番号 | 1357422 |
審判番号 | 不服2018-5189 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-04-16 |
確定日 | 2019-11-25 |
事件の表示 | 特願2014- 47652「透明導電パターンの製造方法及び透明導電性シート」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 1日出願公開、特開2015-173010〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年3月11日に出願された特願2014-047652号であり、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成29年10月31日付け:拒絶理由通知書 平成29年12月28日 :意見書、手続補正書の提出 平成30年1月10日付け :拒絶査定 平成30年4月16日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和1年5月7日付け :拒絶理由通知書 令和1年7月4日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)の提出 第2 本願発明 本願の請求項1ないし6に係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「 基材上に透明導電パターンを形成する透明導電パターンの製造方法であって、 前記基材の一方の主面上に、透明導電性材料を含むコーティング組成物を塗布して、パターン形成面に凹凸がない平滑な透明導電パターンを形成する工程と、 前記透明導電パターンの周囲に導電部を形成する工程と、 AFM/電流同時測定により前記透明導電パターンの全体を可視化する工程と、 前記可視化した透明導電パターンの欠陥の有無を確認する工程とを含むことを特徴とする透明導電パターンの製造方法。」 第3 拒絶の理由 令和1年5月7日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由1は、この出願の請求項1ないし6に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし4に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開2008-277022号公報 引用文献2:特開2010-034039号公報(周知技術を示す文献) 引用文献3:特開2012-054078号公報(周知技術を示す文献) 引用文献4:特開2010-263067号公報(周知技術を示す文献) 第4 引用文献の記載事項 1 引用文献1 令和1年5月7日付けで当審が通知した拒絶理由で引用された特開2008-277022号公報(以下「引用文献1」という。)には、「導電性フィルムのパターニング処理方法およびパターニングされた導電性フィルム」に関して、図面とともに、次の記載がある(下線は当審で付与した。)。 (1)「【0011】 本発明の導電性フィルムのパターニング処理方法によれば、汎用溶剤であるイソプロピルアルコールを含有する処理剤を用いることによって容易に導電層のパターニングができるため、工業的に安全かつ安価にパターニングされた導電性フィルムが得られる。また、得られるパターニングされた導電性フィルムは、非不活性化部分の導電性は元のままで優れた特性を有しており、透明タッチパネル、液晶ディスプレイ(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス素子、無機エレクトロルミネッセンス素子、電子ペーパー等の透明電極として特に好適に使用することができる。」 (2)「【0012】 本発明で用いられる導電性フィルムを、まず図面を用いて説明する。図1は、本発明にかかる導電性フィルムの断面図、すなわち層構成の一例を示すものである。図1中、符号1は基材フィルム、符号2は導電層、符号3はアンカー層を示す。図1から分かるように、本発明にかかる導電性フィルムは、基材フィルムの少なくとも片面に特定の導電性高分子を主成分とする導電層を有するものである。このような構成を有するものであれば、他の機能層が本発明の目的を損なわない限りにおいて形成されていてもよく、例えばアンカー層(符号3)、アンカー層と基材フィルムとの間に易接着層(符号4)を設けてもよい。また、導電層を形成した面とは反対側に、易接着層、ハードコート層(符号5)を設けてもよい。」 (3)「【0016】 〈導電層〉 本発明における導電層は、表面抵抗を下げられ、かつ透明性も具備する下記一般式 【化2】 で表される繰返し単位からなるポリカチオン状のポリチオフェン(以下、“ポリ(3,4-ジ置換チオフェン)”と称することがある)と、ポリアニオンとからなる導電性高分子を主たる構成成分として含む組成物から形成される。すなわち、この導電性高分子はポリ(3,4-ジ置換チオフェン)とポリアニオンとの複合化合物である。」 (4)「【0019】 本発明における導電層を形成するためのコーティング組成物は、上述の導電性高分子を主成分として水に分散または溶解させた液を用いるが、必要に応じてポリエステル、ポリアクリル、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラールなどの適当な有機高分子材料をバインダーとして添加することができる。」 (5)「【0025】 また、かかる導電層を形成するための塗液を、基材フィルム面上または後述するアンカー層上に塗布する際には、必要に応じて、さらに密着性・塗工性を向上させるための予備処理として、基材フィルム面または後述するアンカー層表面にコロナ放電処理、プラズマ放電処理などの物理的表面処理を施しても構わない。表面処理を行った後の基材フィルム面またはアンカー層上の表面濡れ指数(表面張力)は50ダイン/cm以上であることが好ましく、特に好ましくは60ダイン/cm以上である。表面張力が50ダイン/cm未満と低い場合には、濡れ性の改善効果が不十分となり、導電層の密着性・塗工性の改善効果が小さくなる。」 (6)「【0027】 〈パターニング処理方法〉 本発明においては、上記導電層を有する導電性フィルムのパターニング処理を行うために、イソプロピルアルコール(2-プロパノール;以下IPAと表記することがある)を絶縁性を向上させたい部分に塗布し、次いで乾燥処理することによって該部分の表面抵抗を好ましくは104Ω/□以上、好ましくは106Ω/□以上、特に好ましくは1010Ω/□以上増加させる必要がある。かくすることにより、回路などが形成されたパターニングされた導電性フィルムを安全かつ低コストで容易に製造することができる。 【0028】 なお、IPAによる前記導電性高分子からなる導電層の不活性化の理由については明らかになっていないが、他の溶剤、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、tert-ブタノール等のアルコール系溶剤、ヘキサン、デカン等の直鎖アルキル系溶剤、水等の各種溶剤については不活性化の効果が確認されていないことより、IPAのみの特異的な現象、例えば、IPAの前記導電性高分子に対する親和性が非常に強いために、導電層中に浸透することにより導電層中に形成されている導電性高分子の三次元ネットワーク構造が破壊され、導電性高分子鎖同士の距離が増大する結果、分子間の電子のホッピングが起こりにくくなって導電性の低下が起こるものと推定される。 【0029】 本発明のIPAを含有する処理液による上述のパターニング処理の方法は特には限定されず、従来公知のマスキング技術であるフォトレジストによるマスキング法により不活性化する部分以外をマスキングした後、非マスキング部分をIPA含有処理液で処理して不活性化し、次いでレジストを除去する方法、あるいは、スクリーン印刷やインクジェット印刷によって不活性化したい部分にIPA含有処理液を塗布する方法などがあげられる。」 (7)「【実施例】 【0068】 以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中における各評価は下記の方法にしたがった。 (1)膜厚 反射分光膜厚計(大塚電子製、商品名「FE-3000」)を用いて、試料導電性フィルムの導電層側の波長300?800nmにおける反射率を測定した。 アンカー層の膜厚は、上述の反射スペクトルの干渉波形からピークバレー法を用いてフィッティングさせることにより算出した。 また導電層の膜厚は、上述の反射率測定値について代表的な屈折率の波長分散の近似式としてn-k Cauchyの分散式を引用し、スペクトルの実測値とフィッティングさせることにより求めた。 (2)アンカー層表面の濡れ指数 JIS K6768に準拠し、アンカー層表面に濡れ性標準試薬を塗布し、2秒以上撥水することなく濡れる最小の試薬番号をアンカー層表面の濡れ指数とした。 (3)全光線透過率 JIS K7150にしたがい、スガ試験機(株)製のヘイズメーターHCM-2Bにて測定を行った。 (4)表面抵抗 三菱化学社製Lorester MCP-T600を用いて、JIS K7194に準拠して測定した。測定は任意の箇所を5回測定し、それらの平均値とした。 (5)塗膜成分の分析 不活性化処理を行った部分の塗膜のESCA分析を行い、ポリチオフェン由来の硫黄元素のピークを検出することにより導電性高分子成分の存在を確認した。」 (8)「【0076】 <導電層の形成> 導電性ポリマー:ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)0.5重量%とポリスチレンスルホン酸(分子量Mn=150,000)0.8重量%を含んでなるポリマーの水分散体(BaytronP:バイエルAG製)97部に対して3部のジエチレングリコール、0.5部のγ?グリシドキシトリメトキシシランを添加して調整した溶液を、マイヤーバーを用いて上記のアンカー層を設けた基材フィルム上に塗工し、140℃で1分間の乾燥を行い導電層を形成した。得られた導電層の厚みは0.08μmであった。 【0077】 <不活性化処理によるパターニング> 上述のように作製した導電性フィルムを20cm角の大きさに切り出し、中央部の表面抵抗を測定した後、スクリーン印刷法を用いて中央部の10cm角の面積にIPAを塗布し、10分間室温にて乾燥させた。その後、処理部と未処理部の表面抵抗を測定した。また、処理部と未処理部のESCA分析を行い硫黄元素のピーク強度の比較を行い、処理部と未処理部で導電性高分子の検出量が変わらないことを確認した。」 (9)「【0086】 【表1】 【0087】 上記表1から、IPAで処理した部分の表面抵抗は著しく増大するのに対して、本発明外の溶剤で処理した部分の表面抵抗は殆ど変化しないことがわかる。すなわち、本発明の処理方法によれば、導電性フィルムにパターニング処理が容易にできることがわかる。」 ・上記(4)によれば、「導電層を形成するためのコーティング組成物」は、導電性高分子を主成分として水に分散または溶解させた液を用いるものである。また上記(5)によれば、導電層を形成するための塗液は、基材フィルム面上に塗布されるものであり、かつ上記(2)によれば、導電性フィルムは、基材フィルムの少なくとも片面に導電性高分子を主成分とする導電層を有するものであるから、「導電層を形成するためのコーティング組成物」は、「基材フィルムの少なくとも片面に塗布される」ものである。さらに上記(3)によれば、導電性高分子は、透明性を具備するものである。したがって、「基材フィルムの少なくとも片面に、透明性を具備する導電性高分子を主成分とするコーティング組成物を塗布して」、「導電層を形成」しているといえる。 ・上記(6)、(8)によれば、基材フィルム上に導電層を形成した後に、不活性化処理によるパターニングが行われる。また上記(6)によれば、導電層を有する導電性フィルムのパターニング処理方法は、フォトレジストによるマスキング法により導電層の不活性化する部分以外をマスキングした後、非マスキング部分をイソプロピルアルコールを含有する処理液で処理して不活性化し、次いでレジストを除去するものであり、かつ上記不活性化に伴い導電性の低下が起こるものである。さらに上記(1)によれば、導電性フィルムのパターニング処理方法によれば、導電層のパターニングができるのであるから、上記パターニング処理方法によってパターニングされた導電層が得られることになる。したがって、「導電層を形成し」た後に、「フォトレジストによるマスキング法により前記導電層の不活性化する部分以外をマスキングした後、非マスキング部分をイソプロピルアルコールを含有する処理液で処理して不活性化し、導電性を低下させ、レジストを除去し、パターニングされた導電層を得」ているといえる。 ・上記(6)、(8)によれば、導電層を形成し、パターニング処理を行うことにより、パターニングされた導電性フィルムを製造することができるものである。したがって、導電層を形成し、パターニング処理を行うことは、導電性フィルムの製造方法であるということができる。 そうすると、上記摘示事項および図面を総合勘案すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「 基材フィルムの少なくとも片面に、透明性を具備する導電性高分子を主成分とするコーティング組成物を塗布して導電層を形成し、 フォトレジストによるマスキング法により前記導電層の不活性化する部分以外をマスキングした後、 非マスキング部分をイソプロピルアルコールを含有する処理液で処理して不活性化し、導電性を低下させ、 レジストを除去し、パターニングされた導電層を得る、 導電性フィルムの製造方法。」 2 引用文献2 令和1年5月7日付けで当審が通知した拒絶理由で周知技術を示す文献として引用された特開2010-034039号公報(以下「引用文献2」という。)には、「導電成膜の製造方法、及び、導電成膜」に関して、図面とともに、次の記載がある(下線は当審で付与した。)。 (1)「【0076】 焼成後の導電性膜について走査型プローブ顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)を用いて、表面形状像、電流像の観察を行った。カンチレバーは、セイコーインスツル社製のSI-AF01Aを用いた。 測定条件 導電測定AFMホルダ(セイコーインスツル社製)を用いて測定した。焼成後のサンプルを約1cm角に切り出し、端部をドータイト銀ペーストで固定した。金コートした探針を用い、探針と基板の間にバイアス電圧1?5Vを印加して表面形状像と電流像の同時測定を行った。スキャン範囲は50μm四方である。図11に、AFM測定装置の模式図を示す。図11に示すように、ピエゾステージ31上に試料ステージ32を乗せ、その上に基板上に導電性膜を形成した試料33を設置する。そして、金コート探針34により試料33の表面を走査しながら、試料の表面形状を観察した。また、銀ペースト35により試料表面の導電性膜と試料ステージとを連結することにより、金コート探針34と銀ペースト35との間に1?5Vのバイアスを印加することによって、電流像を観察した。図12に、AFM測定によって、200℃で1時間焼成を行った膜について、表面形状像(a)、電流像(b)を示す。また、図13に、AFM測定によって、400℃で30分間焼成を行った膜について、表面形状像(a)、電流像(b)を示す。 【0077】 200℃で1時間の焼成を行った膜においては、図12(a)の表面形状像から空孔部と網目状線部とが形成された膜であることを確認した。電流像からは、網目状線部に対応する部分で電流が流れていることが確認され、網目状線部により導電性のネットワークが形成されていることが確認された。 400℃で30分間の焼成を行った膜においては、図13(a)の表面形状像から空孔部と網目状線部とが形成された膜であることを確認したが、導電性物質の凝集等によって好適な状態で導電性のネットワークが形成されておらず、図13(b)の電流像からは、電流が流れていることを確認することができなかった。」 (2)「【図12】 」 (3)「【図13】 」 3 引用文献3 令和1年5月7日付けで当審が通知した拒絶理由で周知技術を示す文献として引用された特開2012-054078号公報(以下「引用文献3」という。)には、「透明異方導電性膜、及び、その製造方法」に関して、図面とともに、次の記載がある(下線は当審で付与した。)。 (1)「【0069】 <焼成ラインパターンの導電性> 焼成ラインパターンについて、導電性の評価を行った。導電性の評価としては、まず導電性AFM測定を以下のようにして行った。 導電性AFM測定としては、走査型プローブ顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)を用いて、表面形状像、電流像の観察を行った。カンチレバーは、オリンパス社製のOMCL-TR800をオスミウムスパッタしたものを用いた。 測定条件: 導電測定AFMホルダ(セイコーインスツル社製)を用いて測定した。焼成後のサンプルを約1cm角に切り出し、端部をドータイト銀ペーストで固定した。オスミウムスパッタした探針を用い、探針と基板の間にバイアス電圧10Vを印加して表面形状像と電流像の同時測定を行った。スキャン範囲は100μm四方である。焼成ラインパターン(Y-2-2)について、AFM測定による表面形状像を図23(a)に、電流像を図23(b)に示す。この結果から、作製した焼成ラインパターン(Y-2-2)上を電流が流れていることが示された。」 (2)「【図23】 」 4 引用文献4 令和1年5月7日付けで当審が通知した拒絶理由で周知技術を示す文献として引用された特開2010-263067号公報(以下「引用文献4」という。)には、「パターン電極の製造方法及びパターン電極」に関して、次の記載がある(下線は当審で付与した。)。 (1)「【0096】 (導通性評価) 各透明導電性フィルムを電流測定可能なAFMにより、表面の導通性を確認した。 【0097】 電流測定可能なAFMとして、エスアイアイナノテクノロジー社製S-Imageを用いて、銀ペーストにより試料と試料台との導通を確保し、感知レバー側にマイナス5Vの電圧を印加し、80μm四方の範囲をスキャンして、その領域の電流像と形状像とを同時に測定した。 【0098】 ○;少なくとも一部の金属ナノワイヤに対応した電流像が見られる ×;ほとんど電流が流れず、金属ナノワイヤに対応した電流像が見られない。」 第5 対比 そこで、本願発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「基材フィルムの少なくとも片面」は、本願発明の「基材の一方の主面上」に相当する。 (2)「透明性を具備する導電性高分子を主成分とするコーティング組成物」は、本願発明の「透明導電性材料を含むコーティング組成物」に相当する。 (3)引用発明の「導電層」は透明性を具備するものであるから、「パターニングされた導電層」も透明性を具備するものである。したがって、引用発明の「パターニングされた導電層」は、本願発明の「透明導電パターン」に相当する。 (4)引用発明の「導電性フィルム」は、基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも片面にパターニングされた導電層を有するものであるから、引用発明の「導電性フィルムの製造方法」は、パターニングされた導電層を製造する方法とも言い得るものである。また、引用発明の「導電層」は、「基材フィルムの少なくとも片面に形成される」ものであるから、「パターニングされた導電層」も「基材フィルムの少なくとも片面に形成される」ものである。したがって、引用発明の「導電性フィルムの製造方法」は、本願発明の「基材上に透明導電パターンを形成する透明導電パターンの製造方法」に相当する。ただし、本願発明は、「透明導電パターンの周囲に導電部を形成する工程と、AFM/電流同時測定により前記透明導電パターンの全体を可視化する工程と、前記可視化した透明導電パターンの欠陥の有無を確認する工程を含む」のに対し、引用発明はそのような工程を含んでいない点で相違する。 (5)引用発明の「基材フィルムの少なくとも片面に、透明性を具備する導電性高分子を主成分とするコーティング組成物を塗布して導電層を形成し」、「フォトレジストによるマスキング法により前記導電層の不活性化する部分以外をマスキングした後」、「非マスキング部分をイソプロピルアルコールを含有する処理液で処理して不活性化し、導電性を低下させ」、「レジストを除去し、パターニングされた導電層を得る」ことは、本願発明の「前記基材の一方の主面上に、透明導電性材料を含むコーティング組成物を塗布して、パターン形成面に凹凸がない平滑な透明導電パターンを形成する工程」と、「前記基材の一方の主面上に、透明導電性材料を含むコーティング組成物を塗布して、透明導電パターンを形成する工程」である点で共通するといえる。ただし、本願発明は「パターン形成面に凹凸がない平滑な」透明導電パターンを形成するのに対し、引用発明ではその旨の特定がされていない点で相違する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、 「 基材上に透明導電パターンを形成する透明導電パターンの製造方法であって、 前記基材の一方の主面上に、透明導電性材料を含むコーティング組成物を塗布して、透明導電パターンを形成する工程とを含むことを特徴とする透明導電パターンの製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 透明導電パターンについて、本願発明は「パターン形成面に凹凸がない平滑な」ものであるのに対し、引用発明ではその旨の特定がされていない点。 <相違点2> 本願発明は「透明導電パターンの周囲に導電部を形成する工程と、AFM/電流同時測定により前記透明導電パターンの全体を可視化する工程と、前記可視化した透明導電パターンの欠陥の有無を確認する工程を含む」のに対し、引用発明はそのような工程を含んでいない点。 第6 判断 そこで、まず上記相違点1について検討する。 「パターン形成面に凹凸がない平滑な透明導電パターン」に関して、本願明細書には次の記載がある(下線は当審で付与した。)。 「【0002】 液晶ディスプレイ、透明タッチパネル等の各種デバイスに用いられる透明電極には、スズ含有酸化インジウム(ITO)等の酸化物系の導電性材料が多く使用されている。例えば、基材上にITO膜を成膜し、ITO膜を所望の形状にパターニングすることにより形成される導電パターンを透明電極として用いる。ITO膜のパターニング方法としては、エッチング方式が主流となっているが、エッチング方式の問題点は、製造コストが高い点と、基材とITO膜との屈折率差が大きいことにより、パターニングが見える点にある。また、ITO膜は、スパッタリングを用いて成膜されるため、製造コストが高くなる。 【0003】 そこで、導電性材料として、ITOに代えて、優れた安定性及び導電性を有するチオフェン系やアニリン系の高分子にドーパントを付加した導電性高分子が注目されている。 【0004】 導電性高分子を導電性材料として用いた導電パターン形成方法としては、導電性高分子を含むコーティング組成物を用いて基材上に導電性膜を形成し、導電性膜の導電パターン形成位置以外の部分をエッチング液により溶解・除去することにより、残った導電性膜を導電パターンとする方法が知られている。しかし、この方法は、エッチング方式を利用するため、前述したような問題がある。 【0005】 一方、エッチング方式を用いずに、導電性膜の導電パターン形成位置以外の部分の導電性を極端に下げる(抵抗を上げる)不活性化を行い、不活性化された部分(以下、非導電部という。)と不活性化されていない部分(以下、導電部という。)との表面抵抗値の差をつけることで、導電パターンを形成する方法も知られている。この方法の利点は、非導電部をエッチングにより除去する必要がないので、パターニングが見えない(骨見えがない)点と、導電パターン形成面に凹凸がないため、十分な硬度が得られる点にある。 【0006】 ここで言う不活性化とは、導電性膜をある処理液(不活性化剤)に接触反応させることで、導電に関与する導電性高分子の二重結合を切断することにより、導電性高分子の導電性を失活させることをいう。」 そして、これらの記載を参酌すれば、エッチング方式を用いずに、導電性膜を不活性化剤である処理液に接触反応させて、導電性膜の導電パターン形成位置以外の部分の導電性を下げる不活性化を行い、不活性化された部分と不活性化されていない部分との表面抵抗値の差をつけることで、導電パターンを形成するという方法を用いれば、「パターン形成面に凹凸がない平滑な透明導電パターン」が得られるものと認められる。 そうすると、引用発明は、導電層の不活性化する部分以外をマスキングし、非マスキング部分の導電性高分子を処理液で処理して不活性化し、導電性を低下させることにより、パターニングされた導電層を得るものであるから、導電性膜の導電パターン形成位置以外の部分を溶解・除去するエッチング方式とは異なり、パターン形成面に凹凸がない平滑な導電パターンが得られることは明らかである。 してみれば、上記相違点1については、実質的な相違点とは認められない。 次に、上記相違点2について検討する。 引用文献1に、パターニング処理された導電性フィルムに対して処理部及び未処理部の表面抵抗を測定することにより、導電性フィルムにパターニング処理ができていることを確認することが記載されている(上記「第4 1」の(7)、(9)を参照。)ように、製造された導電パターンに対して導電性のチェックを行うことは、一般的に行われていることである。 ここで、製造された導電パターンに対して導電性のチェックを行うために、前記導電パターンの周囲に導電部を形成し、AFM/電流同時測定により前記導電パターンを可視化し、可視化した前記導電パターンの導電性の有無を確認することは、例えば引用文献2(上記「第4 2」を参照。)、引用文献3(上記「第4 3」を参照。)、引用文献4(上記「第4 4」を参照。)にあるように周知の技術である。 すなわち、引用文献2には、焼成後の導電性膜について、切り出した焼成後のサンプルの端部を銀ペーストで固定し(「導電パターンの周囲に導電部を形成し」に相当。)、AFMを用いて表面形状像と電流像の同時測定を行い(「AFM/電流同時測定により導電パターンを可視化し」に相当。)、200℃で1時間焼成を行った膜については、電流像から網目状線部に対応する部分で電流が流れており、網目状線部により導電性のネットワークが形成されていることを確認でき、400℃で30分間の焼成を行った膜については、電流像から電流が流れていることを確認できなかった(「可視化した導電パターンの導電性の有無を確認する」に相当。)ことが記載されており、また引用文献3には、焼成ラインパターンについて、導電性の評価を行うために、切り出した焼成後のサンプルの端部を銀ペーストで固定し(「導電パターンの周囲に導電部を形成し」に相当。)、AFMを用いて表面形状像と電流像の同時測定を行い(「AFM/電流同時測定により導電パターンを可視化し」に相当。)、作成した焼成ラインパターン上を電流が流れていることを確認した(「可視化した導電パターンの導電性の有無を確認する」に相当。)ことが記載されており、さらに引用文献4には、各透明導電性フィルムの導通性を評価するために、銀ペーストにより試料と試料台との導通を確保し(「導電パターンの周囲に導電部を形成し」に相当。)、AFMにより電流像と形状像とを同時に測定し(「AFM/電流同時測定により導電パターンを可視化し」に相当。)、金属ナノワイヤに対応した電流像が見られること、又は金属ナノワイヤに対応した電流像が見られないことを確認した(「可視化した導電パターンの導電性の有無を確認する」に相当。)ことが記載されている。 したがって、引用発明において、製造された導電パターンに対して導電性のチェックを行うために、引用文献2ないし4に記載された周知技術を採用し、透明導電パターンの周囲に導電部を形成する工程と、AFM/電流同時測定により前記透明導電パターンを可視化する工程と、前記可視化した透明導電の導電性の有無を確認する工程を含むようにすることは、当業者が容易になし得たことである。 また、引用発明において、製造された透明導電パターンに対して導電性のチェックを行うにあたり、具体的にどの範囲をチェックするかは、当業者が適宜選択し得る範囲内のことである。例えば透明導電パターンに問題がないことを確実にチェックするために、透明導電パターンの全体について導電性のチェックを行うことに、格別の困難性はない。したがって、引用発明において、上記周知技術を採用し、AFM/電流同時測定により透明導電パターンを可視化するに際し、透明導電パターンの全体を可視化することは、当業者が適宜なし得たことである。 さらに、引用発明において、上記周知技術により導電性のチェックを行うにあたり、上記周知技術は、電流の流れに基づいて導電パターンを可視化しているのであるから、可視化した導電パターンにより欠陥の有無を確認し得るのは明らかであり、可視化した透明導電パターンの欠陥の有無を確認する工程を含むようにすることは、当業者が当然になし得たことである。 なお、審判請求人は、令和1年7月4日に提出された意見書において、「導電部と非導電部との表面抵抗値の差が一定以上あるか否かの導電パターンの電気特性の評価を目的とする引用文献1に、導電部と非導電部との表面抵抗値の差が一定以上あるか否かの導電パターンの電気特性の評価ができない引用文献2?4に記載の技術を採用しても、引用文献1の目的を達成できません。よって、引用文献1及び引用文献2?4に接した当業者は、引用文献1に引用文献2?4の技術を組み合わせることは決してありません。」と主張している(下線は当審で付与した。)。 しかしながら、引用文献1に記載された「パターニング処理された導電性フィルムに対して処理部及び未処理部の表面抵抗を測定することにより、導電性フィルムにパターニング処理ができていることを確認する」という技術は、「導電性のチェック」の一例を示すものであり、引用文献2ないし4に記載された「AFM/電流同時測定により導電パターンを可視化し、可視化した前記導電パターンの導電性の有無を確認する」という周知技術も、「導電性のチェック」の一例を示すものである。そして、製造された物に対する性能のチェックを行うにあたり、複数の項目に対してチェックを行うことは一般的に行われていることであるから、引用発明において、「パターニング処理された導電性フィルムに対して処理部及び未処理部の表面抵抗を測定することにより、導電性フィルムにパターニング処理ができていることを確認する」という導電性のチェックに加えて、上記周知の「AFM/電流同時測定により導電パターンを可視化し、可視化した前記導電パターンの導電性の有無を確認する」という導電性のチェックも行うことに、格別の困難性はない。そして、引用文献1に記載された「パターニング処理された導電性フィルムに対して処理部及び未処理部の表面抵抗を測定することにより、導電性フィルムにパターニング処理ができていることを確認する」という技術と、上記周知の「AFM/電流同時測定により導電パターンを可視化し、可視化した前記導電パターンの導電性の有無を確認する」という技術とを併用した場合、引用文献1の目的を達成できないことにはならない。 よって、審判請求人の上記主張を採用することができない。 そして、本願発明の作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-09-25 |
結審通知日 | 2019-09-26 |
審決日 | 2019-10-08 |
出願番号 | 特願2014-47652(P2014-47652) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(H01B)
P 1 8・ 121- WZ (H01B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 和田 財太 |
特許庁審判長 |
國分 直樹 |
特許庁審判官 |
山田 正文 宮本 秀一 |
発明の名称 | 透明導電パターンの製造方法及び透明導電性シート |
代理人 | 特許業務法人池内アンドパートナーズ |