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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1357424
審判番号 不服2018-9827  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-18 
確定日 2019-11-26 
事件の表示 特願2016-503517「薄膜トランジスタ及びその製造方法,アレイ基板,並びにディスプレイ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月25日国際公開,WO2014/146380,平成28年 7月 7日国内公表,特表2016-519847〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2013年(平成25年)7月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年(平成25年)3月21日 中華人民共和国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 8月14日付け:拒絶理由通知書
平成29年11月21日 :意見書,手続補正書の提出
平成29年12月 6日付け:拒絶理由通知書
平成30年 3月19日 :意見書,手続補正書の提出
平成30年 3月29日付け:拒絶査定
平成30年 7月18日 :審判請求書,手続補正書の提出
平成30年 9月19日 :上申書の提出
平成30年11月 5日 :上申書の提出

第2 平成30年7月18日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年7月18日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。)
「【請求項1】
薄膜トランジスタであって,
基板,前記基板上に形成されたゲート電極,ソース電極,ドレイン電極及び半導体層と,
前記ゲート電極と半導体層との間にあり,或いは,前記ゲート電極とソース電極及びドレイン電極との間にあるゲート絶縁層,及び半導体層とソース電極及びドレイン電極との間にあり,ソース接触穴及びドレイン接触穴を有するエッチング阻止層と,
前記ソース電極と半導体層との間にあるソースバッファー層,及び前記ドレイン電極と半導体層との間にあるドレインバッファー層と,
前記ソースバッファー層と前記半導体層との間にある導電可能なソース隔離層,及び前記ドレインバッファー層と前記半導体層との間にある導電可能なドレイン隔離層と,を備え,
前記ソース電極及びドレイン電極は金属銅電極であり,前記ソースバッファー層及びドレインバッファー層は2層の膜層であり,前記2層の膜層が上層の銅金属層及び下層の銅以外の金属からなる金属膜層を有し,
前記ソース隔離層及び前記ドレイン隔離層は同じ層に設けられ,
前記ソース隔離層は前記ソース接触穴を完全に被覆し,
前記ドレイン隔離層は前記ドレイン接触穴を完全に被覆し,
前記薄膜トランジスタが前記ソース隔離層及びドレイン隔離層と同じ層に設けられる画素電極層をさらに備え,
前記ソースバッファー層及びドレインバッファー層は,銅アルミニウム合金層,銅マンガン合金層,銅タリウム合金層,又は銅ハフニウム合金層であることを特徴とする薄膜トランジスタ。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成30年3月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
薄膜トランジスタであって,
基板,前記基板上に形成されたゲート電極,ソース電極,ドレイン電極及び半導体層と,
前記ゲート電極と半導体層との間にあり,或いは,前記ゲート電極とソース電極及びドレイン電極との間にあるゲート絶縁層,及び半導体層とソース電極及びドレイン電極との間にあり,ソース接触穴及びドレイン接触穴を有するエッチング阻止層と,
前記ソース電極と半導体層との間にあるソースバッファー層,及び前記ドレイン電極と半導体層との間にあるドレインバッファー層と,
前記ソースバッファー層と前記半導体層との間にある導電可能なソース隔離層,及び前記ドレインバッファー層と前記半導体層との間にある導電可能なドレイン隔離層と,を備え,
前記ソース電極及びドレイン電極は金属銅電極であり,前記ソースバッファー層及びドレインバッファー層は2層の膜層であり,前記2層の膜層が上層の銅金属層及び下層の銅以外の金属からなる金属膜層を有し,
前記ソース隔離層及び前記ドレイン隔離層は同じ層に設けられ,
前記ソース隔離層は前記ソース接触穴を完全に被覆し,
前記ドレイン隔離層は前記ドレイン接触穴を完全に被覆し,
前記薄膜トランジスタが前記ソース隔離層及びドレイン隔離層と同じ層に設けられる画素電極層をさらに備えることを特徴とする薄膜トランジスタ。」

2 補正の適否
本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ソースバッファー層」及び「ドレインバッファー層」について,上記のとおり限定を付加するものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2012-164976号公報(平成24年8月30日出願公開。以下「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(下線は,当審で付した。以下同じ。)
「【0055】
(実施の形態1)
本実施の形態では,フォトマスク数及びフォトリソグラフィ工程数を削減した液晶表示装置に用いられる半導体装置,及び画素の構成及び画素の作製方法の一例について,図1乃至図7を用いて説明する。」

「【0064】
次に,図1を用いて液晶表示装置に用いられる画素の構成の一例について説明する。なお,図1において,液晶層及び対向電極等は,省略してある。図1(A)は,画素110の平面構成を示す上面図であり,図1(B)は,図1(A)におけるA1-A2の鎖線で示す部位の積層構成を示す断面図である。また,図1(C)は,図1(A)におけるB1-B2の鎖線で示す部位の積層構成を示す断面図である。なお,図1に示すトランジスタ111は,チャネル形成領域がゲート電極より上層に設けられるボトムゲート型のトランジスタである。
【0065】
図1(B)に示す断面A1-A2において,基板200上に絶縁層201が形成され,絶縁層201上にゲート電極202及び配線203が形成されている。絶縁層201は下地層として機能する。また,ゲート電極202上に,ゲート絶縁層として機能する絶縁層204,半導体層205,チャネル保護層として機能する絶縁層214及び絶縁層215が形成されている。絶縁層215は半導体層205の側面を覆って形成されており,半導体層205の側面からの不純物侵入を防ぐ役割も有する。また,絶縁層215上に,平坦化絶縁層218が形成されている。平坦化絶縁層218上に,画素電極211bが形成され,画素電極211bは,絶縁層214,絶縁層215,及び平坦化絶縁層218に設けられたコンタクトホール208を介して,半導体層205に電気的に接続されている。
【0066】
また,画素電極211b上にソース電極206a及びドレイン電極206bが形成される。画素電極211bは,ソース電極206aまたはドレイン電極206bと電気的に接続されている。」

「【0089】
次いで,絶縁層232上に半導体層233を形成する。半導体層233に酸化物半導体を用いる場合,酸化物半導体としては,少なくともIn,Ga,Sn及びZnから選ばれた一種以上の元素を含有する。例えば,四元系金属の酸化物であるIn-Sn-Ga-Zn-O系酸化物半導体や,三元系金属の酸化物であるIn-Ga-Zn-O系酸化物半導体,In-Sn-Zn-O系酸化物半導体,In-Al-Zn-O系酸化物半導体,Sn-Ga-Zn-O系酸化物半導体,Al-Ga-Zn-O系酸化物半導体,Sn-Al-Zn-O系酸化物半導体や,二元系金属の酸化物であるIn-Zn-O系酸化物半導体,Sn-Zn-O系酸化物半導体,Al-Zn-O系酸化物半導体,Zn-Mg-O系酸化物半導体,Sn-Mg-O系酸化物半導体,In-Mg-O系酸化物半導体や,In-Ga-O系の材料,一元系金属の酸化物であるIn-O系酸化物半導体,Sn-O系酸化物半導体,Zn-O系酸化物半導体などを用いることができる。また,上記酸化物半導体にInとGaとSnとZn以外の元素,例えばSiO_(2)を含ませてもよい。」

「【0132】
次いで,図4(A)に示すように,ゲート電極202,島状の絶縁層214,配線203,配線212上に絶縁層215を形成する。絶縁層215は,絶縁層201,絶縁層232(島状の絶縁層204),絶縁層234(島状の絶縁層214)と同様の材料及び方法で形成することができる。また,絶縁層215は,容量素子113の誘電体層として機能するため,比誘電率が大きい材料を用いることが好ましい。なお,第1のフォトリソグラフィ工程によって,ゲート電極202の一部,配線203,配線212のバリア層は,除去されてしまうが,当該絶縁層215を保護層として機能させることができる。絶縁層215の膜厚は,50nm以上300nm以下,好ましくは100nm以上200nm以下とすればよい。
【0133】
その後,絶縁層215上に,平坦化絶縁層218を形成する。平坦化絶縁層218は,容量素子113の誘電体層として機能するため,比誘電率が大きい材料を用いることが好ましい。
【0134】
次いで,図4(B)に示すように,第2のフォトマスクを用いた第2のフォトリソグラフィ工程を行う。島状の絶縁層214,絶縁層215,平坦化絶縁層218を選択的に除去し,コンタクトホール208を形成する。コンタクトホール208において,島状の半導体層205の一部が露出する。また,絶縁層215,平坦化絶縁層218を選択的に除去し,コンタクトホール219を形成する。コンタクトホール219において,配線212の一部が露出する。また,接触抵抗を低減するため,コンタクトホールは極力大きい面積にすること,もしくは,コンタクトホールの数を多くすることが好ましい。
【0135】
次いで,図4(C)に示すように,平坦化絶縁層218,島状の半導体層205の露出した一部,配線212の露出した一部上に,画素電極として機能する導電層211を形成する。
【0136】
画素電極として機能する導電層211としては,透光性を有する材料を用いることが好ましい。透光性を有する導電性材料としては,酸化タングステンを含むインジウム酸化物,酸化タングステンを含むインジウム亜鉛酸化物,酸化チタンを含むインジウム酸化物,酸化チタンを含むインジウム錫酸化物,インジウム錫酸化物(以下,ITOと示す。),インジウム亜鉛酸化物,酸化ケイ素を添加したインジウム錫酸化物などを用いることができる。また,導電層211としてグラフェンを用いることもできる。
【0137】
更に,画素電極として機能する導電層211上に導電層224を形成する。導電層224は,導電層231と同様に,スパッタリング法,真空蒸着法,メッキ法等を用いて形成する。導電層224の膜厚は,配線として用いる場合の抵抗を考慮して決定し,100nm以上500nm以下,好ましくは200nm以上300nm以下とすればよい。
【0138】
導電層224は,モリブデン(Mo),チタン(Ti),タングステン(W)タンタル(Ta),アルミニウム(Al),銅(Cu),クロム(Cr),ネオジム(Nd),スカンジウム(Sc),マグネシウム(Mg)等の金属材料,又はこれらを主成分とする材料を用いて形成することができ,低抵抗材料であるアルミニウム(Al),銅(Cu)を含む材料を用いて形成することがより好ましい。アルミニウム(Al),銅(Cu)を用いることで,配線抵抗を低減し,信号の遅延を防ぎ,波形のなまりを軽減することができる。
【0139】
なお,導電層224として,Cuを用いる場合には,Mo,Ti,Wなどの,Cuよりも融点の高い金属材料,又はこれらを主成分とする材料を積層することが好ましい。また,絶縁物でなければ,これらの材料の酸化物または窒化物を積層してもよい。例えば,導電層224を窒化チタンとCuの積層としてもよい。
【0140】
次いで,図5(A)に示すように,第3のフォトマスクを用いた第3のフォトリソグラフィ工程を行う。導電層224の上に第3のフォトマスクとして多階調マスクを用いて,厚さの厚い領域と薄い領域を有するレジストマスク238を形成する。導電層224上には,レジストマスク238が形成されず,導電層224が露出する領域も存在する。
【0141】
レジストマスク238をマスクとして,導電層224を選択的にエッチングする。これより画素電極として機能する導電層211の一部が露出する。続いて,厚さの薄い領域を有するレジストマスク238を除去する。これより,導電層224の一部が露出する。また,厚さの厚い領域を有するレジストマスク238は,縮小し,導電層224上に一部残存する。
【0142】
その後,残存したレジストマスク238をマスクとして,露出した画素電極として機能する導電層211の一部を選択的にエッチングする。これより平坦化絶縁層218の一部が露出し,電極211a,画素電極211b,電極222が形成される。また,露出した導電層224の一部を選択的にエッチングする。これより,画素電極211bの一部が露出する。
【0143】
図5(B)に示すように,残存したレジストマスク238は,更に縮小し,ソース電極206a,ドレイン電極206b,電極221,配線216,電極223が形成される。次いで,図5(C)に示すように,レジストマスク238を除去する。」











(イ)上記摘記に照らして,上記図1及び図5から以下の事項を見て取ることができる。
「基板200,前記基板200上に形成された下地層として機能する絶縁層201,ゲート電極202,半導体層205,ソース電極206a及びドレイン電極206bと,
前記ゲート電極202と半導体層205との間にある,ゲート絶縁層として機能する絶縁層204,及び半導体層205とソース電極206a及びドレイン電極206bとの間にあり,コンタクトホール208を有するチャネル保護層として機能する絶縁層214,絶縁層215及び平坦化絶縁層218と,
前記ソース電極206aと半導体層205との間にある電極211a,及び前記ドレイン電極206bと半導体層205との間にある画素電極211bと,を備え,
前記電極211a及び前記画素電極211bは前記コンタクトホール208を完全に被覆する,
トランジスタ111の構造。」

(ウ)上記(ア),(イ)から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「液晶表示装置に用いられるトランジスタ111であって,
基板200,前記基板200上に形成された下地層として機能する絶縁層201,ゲート電極202,半導体層205,ソース電極206a及びドレイン電極206bと,
前記ゲート電極202と半導体層205との間にある,ゲート絶縁層として機能する絶縁層204,及び半導体層205とソース電極206a及びドレイン電極206bとの間にあり,コンタクトホール208を有するチャネル保護層として機能する絶縁層214,絶縁層215及び平坦化絶縁層218と,
前記ソース電極206aと半導体層205との間にある電極211a,及び前記ドレイン電極206bと半導体層205との間にある画素電極211bと,を備え,
前記電極211a及び前記画素電極211bは前記コンタクトホール208を完全に被覆し,
前記電極211a及び前記画素電極211bは,画素電極として機能する導電層211の一部を選択的にエッチングして形成されたものであって,前記画素電極として機能する導電層211としては,透光性を有する材料を用いることが好ましく,透光性を有する導電性材料としては,酸化タングステンを含むインジウム酸化物,酸化タングステンを含むインジウム亜鉛酸化物,酸化チタンを含むインジウム酸化物,酸化チタンを含むインジウム錫酸化物,インジウム錫酸化物(以下,ITOと示す。),インジウム亜鉛酸化物,酸化ケイ素を添加したインジウム錫酸化物などを用いることができ,
前記ソース電極206a及び前記ドレイン電極206bは,導電層224の一部を選択的にエッチングして形成されたものであって,前記導電層224は,低抵抗材料である銅(Cu)を用いて形成した層と,Mo,Ti,Wなどの,Cuよりも融点の高い金属材料を主成分とする材料からなる層とを積層したものである,
液晶表示装置に用いられるトランジスタ111。」

イ 引用文献2
(ア)同じく原査定に引用され,本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2011-91364号公報(以下「引用文献2」という。)には,次の記載がある。
「【0005】
ところで,液晶表示装置などに代表される表示装置では,ゲート配線やソース-ドレイン配線などの配線材料として,電気抵抗が比較的小さく微細加工が容易な純AlまたはAl-NdなどのAl系合金が多く用いられている。しかし,表示装置の大型化および高画質化が進むにつれて,配線抵抗が大きいことに起因する信号遅延および電力損失といった問題が顕在化している。そのため,配線材料として,Alよりも低抵抗である銅(Cu)が注目されている。Al薄膜の電気抵抗率は3.0×10^(-6)Ω・cmであるのに対し,Cu薄膜の電気抵抗率は2.0×10^(-6)Ω・cmと低い。
【0006】
しかし,Cuは,ガラス基板やその上に成膜される絶縁膜(ゲート絶縁膜など)との密着性が低く,剥離するという問題がある。また,Cuは,ガラス基板などとの密着性が低いために,配線形状に加工するためのウェットエッチングやドライエッチングが困難であるという問題がある。そこで,Cuとガラス基板との密着性を向上させるための様々な技術が提案されている。
【0007】
例えば特許文献2?4は,Cu配線とガラス基板との間に,モリブデン(Mo)やクロム(Cr)などの高融点金属層を介在させて密着性の向上を図る技術を開示している。しかし,これらの技術では,高融点金属層を成膜する工程が増加し,表示装置の製造コストが増大する。さらにCuと高融点金属(Mo等)という異種金属を積層させるため,ウェットエッチングの際に,Cuと高融点金属との界面で腐食が生ずるおそれがある。またこれら異種金属ではエッチングレートに差が生じるため,配線断面を望ましい形状(例えばテーパー角が45?60°程度である形状)に形成できないという問題が生じ得る。さらに高融点金属,例えばCrの電気抵抗率(約15×10^(-6)Ω・cm)は,Cuのものよりも高く,配線抵抗による信号遅延や電力損失が問題となる。」

「【0024】
また,上記課題を解決し得た上記配線構造の製造方法は,Cu合金膜を成膜し,成膜後に250℃以上の温度で30分間以上加熱することにより,前記基板および/または絶縁膜と,前記Cu合金膜との界面に,Mnの一部を析出および/または濃化させるところに要旨を有するものである。」

「【0028】
上記のCu合金膜は,好ましくは画素電極を構成する透明導電膜(代表的にはITOやIZOなど)と直接接続されている(図1を参照)。また,上述した積層のCu合金膜を構成する第一層(Y)の膜厚は,好ましくは10nm以上100nm以下であって,且つ,Cu合金膜全膜厚に対して60%以下である。また,第一層(Y)に含有される好ましい合金元素はMnであり,基板および/または絶縁膜との密着性に非常に優れている。これは,基板および/または絶縁膜との界面にMnの一部が析出および/または濃化したCu-Mn反応層が形成されるためと推察される。このような密着性に優れた積層のCu合金膜は,Cu合金膜の成膜後に,約250℃以上の温度で30分間以上の加熱処理を行なうことによって作製することが好ましい。しかしながら,Cu合金膜と酸化物半導体層との低いコンタクト抵抗を,再現性良く確実に確保するという観点からすれば,Cu合金膜成膜後の加熱処理を,おおむね,300℃超500℃程度までの範囲内に制御して行なうことが有効であり,300℃以下の温度で加熱処理を行なうと,酸化物半導体層とのコンタクト抵抗にバラツキが生じることが判明した(後記する実施例2を参照)。」

「【0031】
そして,本発明の特徴部分は,上記Cu合金として,上述した積層のCu合金を用いたところにある。本発明において,基板および/または絶縁膜と直接接触する第一層(Y)は,密着性向上に寄与する合金元素を含むCu合金で構成されており,これにより,基板および/または絶縁膜との密着性が向上する。一方,上記第一層(Y)の上に積層される第二層(X)は,酸化物半導体層と直接接続されており,電気抵抗率の低い元素(純Cu,または純Cuと同程度の低電気抵抗率を有するCu合金)で構成されており,これにより,Cu合金膜全体の電気抵抗率の低減を図っている。すなわち,本発明で規定する上記積層構造とすることにより,(ア)Alに比べて電気抵抗率が低く,酸化物半導体層および/または画素電極を構成する透明導電膜とのコンタクト抵抗も低く抑えられるという,Cu本来の特性を有効に最大限に発揮させつつ,(イ)Cuの欠点であった基板および/または絶縁膜との低い密着性も著しく高められる。すなわち,上記Cu合金は,ダイレクトコンタクト用Cu合金として極めて有用であり,特にソース電極および/またはドレイン電極の配線材料と好適に用いられる。」

「【0036】
上述した密着性向上元素のうち好ましいのはMn,Niであり,より好ましくはMnである。Mnは,上述した界面での濃化現象が非常に強く発現される元素だからである。すなわち,Mnは,Cu合金成膜時または成膜後の熱処理(例えば,SiO_(2)膜の絶縁膜を成膜する工程といった表示装置の製造過程における熱履歴を含む)によって膜の内側から外側(絶縁膜との界面など)に向って移動する。界面へのMnの移動は,熱処理による酸化によって生成するMn酸化物が駆動力になって,更に一層促進される。その結果,絶縁膜などとの界面にCu-Mnの反応層(以下,「Mn反応層」と呼ぶ。)が全面的に密着性良く形成され,絶縁膜などとの密着性が著しく向上するものと考えられる。
【0037】
このようなMn反応層などの上記濃化層(析出物も含む)は,好ましくは,スパッタリング法(詳細は後述する。)によるCu合金成膜後,所定の加熱処理を行なうことによって得られる。ここで,「所定の加熱処理を行なう」とは,前述したように,密着性を考慮すれば約250℃以上で30分間以上の加熱処理を意味し;更に酸化物半導体層との低い抵抗を再現性良く確実に確保するという観点からすれば,加熱処理の温度範囲を,特に約300℃超500℃以下に制御することを意味する。このよう加熱処理により,絶縁膜などとの界面に合金元素が拡散して濃化し易くなる。その後,酸化物半導体膜を成膜すれば良い。
【0038】
なお,上記の加熱処理は,Mn反応層などの上記濃化層の形成を目的に行うものであってもよいし,Cu合金膜形成後の熱履歴(例えば,窒化シリコン膜などの保護膜を成膜する工程)が,前記温度・時間を満たすものであってもよい。」

(イ)上記記載から,引用文献2には,次の技術的事項が記載されていると認められる。
「液晶表示装置などに代表される表示装置では,表示装置の大型化および高画質化が進むにつれて,配線抵抗が大きいことに起因する信号遅延および電力損失といった問題が顕在化していることから,ゲート配線やソース-ドレイン配線などの配線材料として,Alよりも低抵抗である銅(Cu)が注目されていること。」(【0005】)

「Cuは,ガラス基板やその上に成膜される絶縁膜(ゲート絶縁膜など)との密着性が低く,剥離するという問題があり,また,配線形状に加工するためのウェットエッチングやドライエッチングが困難であるという問題があることから,Cuとガラス基板との密着性を向上させるために,Cu配線とガラス基板との間に,モリブデン(Mo)やクロム(Cr)などの高融点金属層を介在させて密着性の向上を図るとする技術が提案されていること。」(【0006】,【0007】)

「しかしながら,Cu配線とガラス基板との間に,モリブデン(Mo)やクロム(Cr)などの高融点金属層を介在させて密着性の向上を図るとする技術では,高融点金属層を成膜する工程が増加し,表示装置の製造コストが増大し,さらにCuと高融点金属(Mo等)という異種金属を積層させるため,ウェットエッチングの際に,Cuと高融点金属との界面で腐食が生ずるおそれがあり,またこれら異種金属ではエッチングレートに差が生じるため,配線断面を望ましい形状(例えばテーパー角が45?60°程度である形状)に形成できないという問題が生じ,さらに高融点金属,例えばCrの電気抵抗率(約15×10^(-6)Ω・cm)は,Cuのものよりも高く,配線抵抗による信号遅延や電力損失が問題となること。」(【0007】)

「Cu合金膜を成膜し,成膜後に250℃以上の温度で30分間以上加熱することにより,前記基板および/または絶縁膜と,前記Cu合金膜との界面に,Mnの一部が析出および/または濃化すること。」(【0024】)

「積層のCu合金膜を構成する第一層(Y)に含有される好ましい合金元素はMnであり,基板および/または絶縁膜との密着性に非常に優れており,これは,基板および/または絶縁膜との界面にMnの一部が析出および/または濃化したCu-Mn反応層が形成されるためと推察されること。」(【0028】)

「密着性向上に寄与する合金元素を含むCu合金で構成されている第一層(Y)と,前記第一層(Y)の上に積層される,Cu合金膜全体の電気抵抗率の低減を図るために,電気抵抗率の低い元素(純Cu,または純Cuと同程度の低電気抵抗率を有するCu合金)で構成した第二層(X)とからなる積層のCu合金は,特にソース電極および/またはドレイン電極の配線材料と好適に用いられるものであり,当該積層構造とすることで,(ア)Alに比べて電気抵抗率が低く,酸化物半導体層および/または画素電極を構成する透明導電膜とのコンタクト抵抗も低く抑えられるという,Cu本来の特性を有効に最大限に発揮させつつ,(イ)Cuの欠点であった基板および/または絶縁膜との低い密着性も著しく高められること。」(【0031】)

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「トランジスタ111」は,「基板200,前記基板200上に形成された下地層として機能する絶縁層201,ゲート電極202,半導体層205,ソース電極206a及びドレイン電極206b」を構成要素とするものであって,基板上に半導体を層状に,すなわち薄膜として形成し,電界効果トランジスタとして機能させるものであるから,「薄膜トランジスタ」といえる。

(イ)引用発明の「ソース電極206a」及び「ドレイン電極206b」は,「導電層224」の一部を選択的にエッチングして形成されたものである。
そして,当該「導電層224」は,「低抵抗材料である銅(Cu)を用いて形成した層」と,「Mo,Ti,Wなどの,Cuよりも融点の高い金属材料を主成分とする材料からなる層」とを積層した構成を有する。
そうすると,引用発明の「ソース電極206a」及び「ドレイン電極206b」は,いずれも,「低抵抗材料である銅(Cu)を用いて形成した層」と,「Mo,Ti,Wなどの,Cuよりも融点の高い金属材料を主成分とする材料からなる層」とを積層した構成を有することは明らかである。
そして,引用発明の「ソース電極206a」を構成する,前記「低抵抗材料である銅(Cu)を用いて形成した層」,及び前記「Mo,Ti,Wなどの,Cuよりも融点の高い金属材料を主成分とする材料からなる層」は,それぞれ,本件補正発明の「『金属銅電極であ』る『ソース電極』」,及び「ソースバッファー層」に相当し,また,引用発明の「ドレイン電極206b」を構成する,前記「低抵抗材料である銅(Cu)を用いて形成した層」,及び前記「Mo,Ti,Wなどの,Cuよりも融点の高い金属材料を主成分とする材料からなる層」は,それぞれ,本件補正発明の「『金属銅電極であ』る『ドレイン電極』」,及び「ドレインバッファー層」に相当する。

(ウ)引用発明の「基板200」,「ゲート電極202」,「半導体層205」及び「ゲート電極202と半導体層205との間にある,ゲート絶縁層として機能する絶縁層204」は,それぞれ,本件補正発明の「基板」,「ゲート電極」,「半導体層」及び「『ゲート電極と半導体層との間にあ』る『ゲート絶縁層』」に相当する。

(エ)引用発明の「コンタクトホール208」は,本件補正発明の「ソース接触穴」及び「ドレイン接触穴」に相当する。

(オ)引用文献1の「【0142】その後,残存したレジストマスク238をマスクとして,露出した画素電極として機能する導電層211の一部を選択的にエッチングする。これより平坦化絶縁層218の一部が露出し,電極211a,画素電極211b,電極222が形成される。」との記載から,引用発明の「平坦化絶縁層218」は,「残存したレジストマスク238をマスクとして,露出した画素電極として機能する導電層211の一部を選択的にエッチングする」際に,エッチング阻止の機能を果たすことが理解される。
したがって,引用発明の「平坦化絶縁層218」は,本件補正発明の「エッチング阻止層」に相当する。

(カ)引用発明の「電極211a」及び「画素電極211b」は,それぞれ,「コンタクトホール208を完全に被覆」して,「ソース電極206a」と「半導体層205」,及び,「ドレイン電極206b」と「半導体層205」とを「隔離」するように形成されており,さらに,「画素電極として機能する導電層211の一部を選択的にエッチングして形成されたもの」であることから「導電可能」であることは明らかである。
また,引用発明の「導電層211」は,インジウム亜鉛酸化物やインジウム錫酸化物などの材料を用いるものである(前記(2)ア(ア)【0136】)から,引用発明の「電極211a」及び「画素電極211b」は,「Cu合金において含量の少ない金属原子が金属酸化物の半導体層における酸素を奪うことを阻止することができる。」(本願明細書の【0036】の記載を参照)という機能を有することは明らかである。
したがって,引用発明の「電極211a」及び「画素電極211b」は,それぞれ,本件補正発明の「導電可能なソース隔離層」及び「導電可能なドレイン隔離層」に相当する。
そして,「電極211a」及び「画素電極211b」は,画素電極として機能する導電層211の一部を選択的にエッチングして形成したものであるから,「電極211a」及び「画素電極211b」が同じ層に設けられること,並びに,トランジスタ111が「電極211a」及び「画素電極211b」と同じ層に設けられる画素電極層をさらに備えることは明らかである。

イ 以上のことから,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
<一致点>
「薄膜トランジスタであって,
基板,前記基板上に形成されたゲート電極,ソース電極,ドレイン電極及び半導体層と,
前記ゲート電極と半導体層との間にあり,或いは,前記ゲート電極とソース電極及びドレイン電極との間にあるゲート絶縁層,及び半導体層とソース電極及びドレイン電極との間にあり,ソース接触穴及びドレイン接触穴を有するエッチング阻止層と,
前記ソース電極と半導体層との間にあるソースバッファー層,及び前記ドレイン電極と半導体層との間にあるドレインバッファー層と,
前記ソースバッファー層と前記半導体層との間にある導電可能なソース隔離層,及び前記ドレインバッファー層と前記半導体層との間にある導電可能なドレイン隔離層と,を備え,
前記ソース電極及びドレイン電極は金属銅電極であり,
前記ソース隔離層及び前記ドレイン隔離層は同じ層に設けられ,
前記ソース隔離層は前記ソース接触穴を完全に被覆し,
前記ドレイン隔離層は前記ドレイン接触穴を完全に被覆し,
前記薄膜トランジスタが前記ソース隔離層及びドレイン隔離層と同じ層に設けられる画素電極層をさらに備える薄膜トランジスタ。」

<相違点>
・相違点1
本件補正発明は,「金属銅電極であ」る「ソース電極」及び前記ソース電極と半導体層との間にある「ソースバッファー層」を備える構造を有し,
当該「ソースバッファー層」が「『2層の膜層であり,前記2層の膜層が上層の銅金属層及び下層の銅以外の金属からなる金属膜層を有』する『銅アルミニウム合金層,銅マンガン合金層,銅タリウム合金層,又は銅ハフニウム合金層である』」のに対し,
引用発明は,「低抵抗材料である銅(Cu)を用いて形成した層」と,「Mo,Ti,Wなどの,Cuよりも融点の高い金属材料を主成分とする材料からなる層」とを積層した導電層224の一部を選択的にエッチングして形成したものであって,
前記「Mo,Ti,Wなどの,Cuよりも融点の高い金属材料を主成分とする材料からなる層」が,「『2層の膜層であり,前記2層の膜層が上層の銅金属層及び下層の銅以外の金属からなる金属膜層を有』する『銅アルミニウム合金層,銅マンガン合金層,銅タリウム合金層,又は銅ハフニウム合金層である』」ことが特定されていない点。

・相違点2
本件補正発明は,「金属銅電極であ」る「ドレイン電極」及び前記ドレイン電極と半導体層との間にある「ドレインバッファー層」を備える構造を有し,
当該「ドレインバッファー層」が「『2層の膜層であり,前記2層の膜層が上層の銅金属層及び下層の銅以外の金属からなる金属膜層を有』する『銅アルミニウム合金層,銅マンガン合金層,銅タリウム合金層,又は銅ハフニウム合金層である』」のに対し,
引用発明は,「低抵抗材料である銅(Cu)を用いて形成した層」と,「Mo,Ti,Wなどの,Cuよりも融点の高い金属材料を主成分とする材料からなる層」とを積層した導電層224の一部を選択的にエッチングして形成したものであって,
前記「Mo,Ti,Wなどの,Cuよりも融点の高い金属材料を主成分とする材料からなる層」が,「『2層の膜層であり,前記2層の膜層が上層の銅金属層及び下層の銅以外の金属からなる金属膜層を有』する『銅アルミニウム合金層,銅マンガン合金層,銅タリウム合金層,又は銅ハフニウム合金層である』」ことが特定されていない点。

(4)判断
以下,相違点について検討する。
ア 相違点1について
(ア)上記(2)イ(イ)のとおり,引用文献2の記載から,本願の優先日前において,Cuは,ガラス基板やその上に成膜される絶縁膜(ゲート絶縁膜など)との密着性が低く,剥離するという問題があり,また,配線形状に加工するためのウェットエッチングやドライエッチングが困難であるという問題が知られており,さらに,前記問題を解決して,Cuとガラス基板との密着性を向上させるために,Cu配線とガラス基板との間に,モリブデン(Mo)やクロム(Cr)などの高融点金属層を介在させて密着性の向上を図る技術が知られていたといえる。
一方,引用文献1には,「【0139】なお,導電層224として,Cuを用いる場合には,Mo,Ti,Wなどの,Cuよりも融点の高い金属材料,又はこれらを主成分とする材料を積層することが好ましい。また,絶縁物でなければ,これらの材料の酸化物または窒化物を積層してもよい。例えば,導電層224を窒化チタンとCuの積層としてもよい。」との記載がある。
そうすると,これらの記載を勘案すれば,引用発明が,「導電層224」として,「低抵抗材料である銅(Cu)を用いて形成した層」と,「Mo,Ti,Wなどの,Cuよりも融点の高い金属材料を主成分とする材料からなる層」とを積層した構造を有する理由は,「Mo,Ti,Wなどの,Cuよりも融点の高い金属材料を主成分とする材料からなる層」を積層することによって,「低抵抗材料である銅(Cu)を用いて形成した層」の密着性を向上させるためであると理解することが,自然かつ合理的であると認められる。
してみれば,引用発明と,引用文献2に記載された技術は,いずれも,Cuの欠点であった低い密着性を高めるという共通する課題を解決するものであるから,引用発明に引用文献2に記載された技術を適用する動機があるといえる。

(イ)一方,上記(2)イ(イ)のとおり,引用文献2には,モリブデン(Mo)やクロム(Cr)などの高融点金属層を介在させて密着性の向上を図るとする技術には問題があること,及び,積層のCu合金膜を構成する第一層(Y)に含有される好ましい合金元素はMnであり,基板および/または絶縁膜との密着性に非常に優れており,これは,基板および/または絶縁膜との界面にMnの一部が析出および/または濃化したCu-Mn反応層が形成されるためと推察されること,並びに,Cu合金膜を成膜し,成膜後に250℃以上の温度で30分間以上加熱することにより,前記基板および/または絶縁膜と,前記Cu合金膜との界面に,Mnの一部が析出および/または濃化することが記載されている。
さらに,上記(2)イ(イ)のとおり,引用文献2には,密着性向上に寄与する合金元素を含むCu合金で構成されている第一層(Y)と,前記第一層(Y)の上に積層される,Cu合金膜全体の電気抵抗率の低減を図るために,電気抵抗率の低い元素(純Cu,または純Cuと同程度の低電気抵抗率を有するCu合金)で構成した第二層(X)とからなる積層のCu合金は,特にソース電極および/またはドレイン電極の配線材料と好適に用いられるものであり,当該積層構造とすることで,(ア)Alに比べて電気抵抗率が低く,酸化物半導体層および/または画素電極を構成する透明導電膜とのコンタクト抵抗も低く抑えられるという,Cu本来の特性を有効に最大限に発揮させつつ,(イ)Cuの欠点であった基板および/または絶縁膜との低い密着性も著しく高められることも記載されている。
してみれば,引用文献2に記載された技術に接した当業者であれば,引用発明において,Cuの欠点であった低い密着性を高めるという課題をより適切に解決するために,引用文献2において示されている,成膜後に界面にMnの一部を析出させることでCu-Mn反応層を形成して密着性を向上させる,合金元素としてMnを含有する積層のCu合金膜を用いたソース電極および/またはドレイン電極の作製方法を適用すること,
すなわち,「低抵抗材料である銅(Cu)を用いて形成した層」と,「Mo,Ti,Wなどの,Cuよりも融点の高い金属材料を主成分とする材料からなる層」とを積層した構造を有する引用発明において,「低抵抗材料である銅(Cu)を用いて形成した層」の密着性を向上させるために積層されているものと理解される「Mo,Ti,Wなどの,Cuよりも融点の高い金属材料を主成分とする材料からなる層」に替えて,引用文献2に記載される「界面にMnの一部が析出および/または濃化したCu-Mn反応層が形成されるためと推察される理由によって密着性が向上すると考えられる合金元素であるMnを含むCu合金で構成されている第一層(Y)」を用い,Cu合金膜を成膜した後に加熱することにより,界面に,Mnの一部を析出させて,Cuの欠点であった基板および/または絶縁膜との低い密着性を著しく高めることは当業者が容易に想到し得たことである。
さらに,Mnの融点は1240℃であって,Cuの融点である1083.4℃よりも高いことから,「Mo,Ti,Wなどの,Cuよりも融点の高い金属材料」と特定する引用発明において,「Mo,Ti,Wなど」として具体的に例示されている「Mo,Ti,W」ではなく,引用文献2に記載される「Mn」を選択することに阻害事由はない。
そして,「Mnを含むCu合金で構成されている第一層(Y)」は,本件補正発明の「銅マンガン合金層」に相当し,前記「Mnを含むCu合金で構成されている第一層(Y)」を加熱することで形成される,「Mnの一部が析出」層,及び「Mnを含むCu合金で構成されている第一層(Y)」からMnの一部が抜けた層は,それぞれ,本件補正発明の「下層の銅以外の金属からなる金属膜層」,及び「上層の銅金属層」に相当する。

(ウ)してみれば,引用発明において,上記相違点1について本件補正発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことと認められる。

イ 相違点2について
上記相違点1と同様の理由により,引用発明において上記相違点2について本件補正発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことと認められる。

ウ そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用文献2に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

エ したがって,本件補正発明は,引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年7月18日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成30年3月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1?12に係る発明は,本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2?5に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

1.特開2012-164976号公報
2.特開2011-091364号公報
3.特開2012-149294号公報
4.国際公開第2009/034953号
5.特開平04-050924号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし2及びその記載事項は,前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から,「ソースバッファー層及びドレインバッファー層は,銅アルミニウム合金層,銅マンガン合金層,銅タリウム合金層,又は銅ハフニウム合金層である」とする限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]2(3),(4)に記載したとおり,引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-06-25 
結審通知日 2019-07-01 
審決日 2019-07-12 
出願番号 特願2016-503517(P2016-503517)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 脇水 佳弘  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 鈴木 和樹
加藤 浩一
発明の名称 薄膜トランジスタ及びその製造方法、アレイ基板、並びにディスプレイ  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  

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