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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61F
管理番号 1357426
審判番号 不服2018-13474  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-10 
確定日 2019-11-26 
事件の表示 特願2016-537167「流体吸収性製品」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月 5日国際公開、WO2015/028158、平成28年11月17日国内公表、特表2016-535646〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年 3月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年 8月26日 欧州特許庁、2013年10月30日 欧州特許庁、2014年 1月29日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その手続きの経緯は以下のとおりである。
平成28年 4月26日 :国際出願翻訳文提出書の提出
平成30年 2月27日付け:拒絶理由の通知
平成30年 5月15日 :意見書の提出
平成30年 6月 7日付け:拒絶査定
平成30年10月10日 :審判請求書の提出、及び同時に手続補正書の提出
平成31年 1月11日 :上申書の提出

なお、平成28年 4月26日に提出された国際出願翻訳文提出書の各翻訳文は、特許法第184条の6第2項の規定により、それぞれ本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書とみなされる。したがって、当該翻訳文のうち特許請求の範囲の翻訳文を、以下「願書に最初に添付した特許請求の範囲」という。

第2 平成30年10月10日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年10月10日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正の内容
本件補正は、願書に最初に添付した特許請求の範囲を補正するものであって、特許請求の範囲に関する以下のとおりの補正を含む。
(1)本件補正後の請求項1の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線は補正箇所を示すために当審で付与した。)。
「(A)上側の透液性層、
(B)下側の不透液性層、
(C)前記層(A)と前記層(B)との間にある流体吸収コア、該コアは、吸水性ポリマー粒子と繊維状材料との合計に対して、繊維状材料を0?90質量%、及び吸水性ポリマー粒子を10?100質量%含有し、ここで排泄帯域における前記流体吸収コアの坪量は、少なくとも500gsmであり、
(D)前記(A)と(C)との間にある、任意の捕捉・分配層、
(E)前記(C)の上に直接、及び/又は前記(C)の下に直接配置された、任意のティッシュ層、及び
(F)その他の任意の構成要素、
を有する流体吸収性製品であって、
ここで前記吸水性ポリマー粒子は、平均球形度(SPHT)が0.8?0.95であり、表面後架橋剤及び多価カチオンにより処理されており、かつ以下の条件:
(a)遠心分離保持容量(CRC)が、39?60g/gであり、遠心分離保持容量(CRC)と、高荷重下吸収力(AUHL)との合計が、少なくとも60g/gであり、かつ/又は
(b)log_(10)(SFC)>5.7-0.138×CRC、ただしSFCは5以上であり、ここでCRCはg/gで、SFCは10^(-7)cm^(3)・s/gで記載されている、
を満たす、前記流体吸収性製品。」
(2)本件補正前の請求項1の記載
本件補正前の、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「(A)上側の透液性層、
(B)下側の不透液性層、
(C)前記層(A)と前記層(B)との間にある流体吸収コア、該コアは、吸水性ポリマー粒子と繊維状材料との合計に対して、繊維状材料を0?90質量%、及び吸水性ポリマー粒子を10?100質量%含有し、ここで排泄帯域における前記流体吸収コアの坪量は、少なくとも500gsmであり、
(D)前記(A)と(C)との間にある、任意の捕捉・分配層、
(E)前記(C)の上に直接、及び/又は前記(C)の下に直接配置された、任意のティッシュ層、及び
(F)その他の任意の構成要素、
を有する流体吸収性製品であって、
ここで前記吸水性ポリマー粒子は、平均球形度(SPHT)が0.8?0.95であり、かつ以下の条件:
(a)遠心分離保持容量(CRC)と、高荷重下吸収力(AUHL)との合計が、少なくとも60g/gであり、かつ/又は
(b)log_(10)(SFC)>5.7-0.138×CRC、
ただしSFCは5以上であり、ここでCRCはg/gで、SFCは10^(-7)cm^(3)・s/gで記載されている、
を満たす、前記流体吸収性製品。」

2.補正の適否
上記請求項1の補正について検討する。
(1)補正の目的等
上記請求項1の補正は、下記の2つの補正事項からなる。
a.請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「吸水性ポリマー粒子」の構成について、「表面後架橋剤及び多価カチオンにより処理されており」との限定を直列的に付加するもの。
b.請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「吸水性ポリマー粒子」が満たす選択的条件のうちの一つ(a)に、「遠心分離保持容量(CRC)が、39?60g/gであり」との限定を直列的に付加するもの。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、上記補正事項はいずれも、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、本件補正後の請求項1に係る発明が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)、以下に検討する。

(2)本件補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、上記1.(1)に記載したとおりである。
なお、請求項1に記載された(D)、(E)及び(F)は、いずれも「任意の」事項であることが記載されており、また、当該技術分野において、これらの事項を備えなくても流体吸収性製品を構成し得ることは技術常識であるから、上記記載は、本件補正発明が(D)、(E)及び(F)の事項を備えるか否かが任意のものであることを意味している。

(3)引用文献の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由で引用された、特表2011-529753号公報(平成23年12月15日公表。以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある。
ア.「【技術分野】
【0001】
本発明は、上部液体透過層と、下部液体不透過層と、流体吸収性コアとを含み、該吸収性コアが、繊維状材料と、少なくとも8質量%の水分含量を有する10?95質量%の球状流体吸収性ポリマー粒子とを含む流体吸収性物品に関する。」
イ.「【0006】
本発明の目的は、特性、すなわちリウェット値および荷重下リウェットが向上した流体吸収性物品を提供することであった。
【0007】
該目的は、
(A)上部液体透過層と、
(B)下部液体不透過層および
(C)繊維状材料と、10?95質量%の流体吸収性ポリマー粒子とを含む、層(A)と層(B)の間の流体吸収性コア
を含み、流体吸収性コア(C)が少なくとも9gの流体吸収性ポリマー粒子を含み、流体吸収性ポリマー粒子が、少なくとも0.84の平均球形度および少なくとも8質量%の水分含量を有する流体吸収性物品によって達成される。」
ウ.「【0010】
発明の流体吸収性物品に使用可能な流体吸収性ポリマー粒子は、好ましくは少なくとも0.86、より好ましくは少なくとも0.88、および最も好ましくは少なくとも0.9の平均球形度を有する。球形度(SPHT)は、
【数1】

[式中、
Aは、断面積であり、
Uは、ポリマー粒子の断面円周である]で定義される。平均球形度は、容積平均球形度である。」
エ.「【0032】
本明細書に使用されているように、「基本質量」という用語は、1平方メートル当たりの流体吸収性コアの質量を指し、それは、流体吸収性物品のシャーシを含む。基本質量は、流体吸収性コアの個別の領域で測定される:前方総平均は、コアの中心の5.5cm前方からコアの前方遠端の流体吸収性コアの基本質量であり;侵襲域は、コアの中心の5.5cm前方および0.5cm後方の流体吸収性コアの基本質量であり;後方総平均は、コアの中心の0.5cm後方からコアの後方遠端の流体吸収性コアの基本質量である。」
オ.「【0096】
本発明の好適な実施形態において、後架橋の前、最中または後に、後架橋に加えて多価陽イオンが粒子表面に塗布される。」
カ.「【0099】
架橋は、典型的には、後架橋剤をヒドロゲルまたは乾燥ポリマー粒子に噴霧するようにして実施される。噴霧後、後架橋剤が塗布されたポリマー粒子が熱乾燥され、後架橋反応が、乾燥の前または最中に起こり得る。」
キ.「【0236】
実施形態1
本発明の1つの好適な実施形態を以下の実施形態1に記載する。好適な流体吸収性物品は、
(A)スパンボンド層(スリーピースカバーストック)を含む上部液体透過層;
(B)通気性ポリエチレンフィルムおよびスパンボンド不織布の複合体を含む下部液体不透過層;
(C)全吸収性コア質量に基づき10?50質量%の流体吸収性ポリマー粒子を含み、
1.全フラフ量の約50%を含む木材パルプ繊維(セルロース繊維)の親水性繊維状マトリックスの均質上部コアフラフ層;
2.流体吸収性ポリマー粒子を含む流体吸収性層であって;当該構造に好適な流体吸収性ポリマー粒子が約32?60g/gの遠心分離保持能(CRC)を有する流体吸収性層;
3.全フラフ量の約50%を含み、ダスティング層として作用する木材パルプ繊維(セルロース繊維)の親水性繊維状マトリックスの均質下部コアフラフ層を含む多層流体貯蔵部を含む、(A)(B)間の単一流体吸収性コア;および
(D)基本質量が30?80gsm、長方形の流体吸収性コアより小さな、サイズ約150?約250cm^(2)の、(A)(C)間の通気結合取得-分配層とを含む。」
ク.「【0241】
実施形態1の構造例
流体吸収性コアは、各層が均一の長方形サイズを有する多層単一コアシステムからなる。(A)(B)間の層状流体吸収性コアは、親水性繊維(セルロース繊維、フラフパルプ繊維)の多層システムを含む。全フラフパルプ質量は20.45gであり、上部コア(1)と底部コア(3)とで均等に分割される。流体吸収性コアの密度は、前部総平均値が0.18g/cm^(3)、侵襲域が0.17g/cm^(3)、後部総平均値が0.15g/cm^(3)である。流体吸収性コアの基本質量は、前部総平均値が802.75gsm、侵襲域が825.94gsm、後部総平均値が766.14gsmである。
【0242】
流体吸収性層(2)は、31.38質量%の分布流体吸収性ポリマー粒子を保持し、流体吸収性コア内の流体吸収性ポリマー粒子の量は、9.34gである。
【0243】
WO2008/009580A1、第1表、実施例2に記載の、滴下重合から得られる流体吸収性ポリマー粒子は、以下の特徴および吸収プロファイルを示す:
37.2g/gのCRC
10×10^(-7)cm^(3)s/gのSFC
28.1g/gのAUHL
32g/gのAUL
3.1質量%の抽出物
300ppmの残留モノマー
2.9質量%の水分含量
0.59g/gsのFSR
200?600μmのPSD
固化防止度3」
ケ.上記ア.?ク.の記載を総合し、キ.及びク.に記載された実施形態1に着目して、本件補正発明の記載に沿って整理すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「(A)スパンボンド層を含む上部液体透過層、
(B)通気性ポリエチレンフィルムおよびスパンボンド不織布の複合体を含む下部液体不透過層、
(C)前記(A)と前記(B)との間にある流体吸収性コアであって、該コアはフラフパルプ繊維を20.45gと流体吸収性ポリマー粒子を9.34g含み、侵襲域の基本質量が825.94gsmである流体吸収性コア、
(D)前記(A)と前記(C)との間にある通気結合取得-分配層、
を含む流体吸収性物品であって、
基本質量は、1平方メートル当たりの流体吸収性コアの質量であり、侵襲域は、流体吸収性コアの中心の5.5cm前方および0.5cm後方の領域であり、
流体吸水性ポリマー粒子は、滴下重合から得られるものであって、CRCが37.2g/g、AUHLが28.1g/gであり、
SFCが10×10^(-7)cm^(3)s/gである、流体吸収性物品。」

(4)対比
本件補正発明と上記引用発明1とを対比する。
ア.引用発明1は、上部液体透過層と、下部液体不透過層と、流体吸収性コアとを含み、該吸収性コアが、フラフパルプ繊維と、流体吸収性ポリマー粒子とを含む流体吸収性物品に係る技術であり、本件補正発明と技術分野が共通する。
イ.引用発明1の「上部液体透過層」は、本件補正発明の「上側の透液性層」に相当し、以下同様に、「下部液体不透過層」は「下側の不透液性層」に、「流体吸収性コア」は「流体吸収コア」に、「フラフパルプ繊維」は「繊維状材料」に、「流体吸収性ポリマー粒子」は「吸水性ポリマー粒子」に、「流体吸収性物品」は「流体吸収性製品」にそれぞれ相当する。
ウ.引用発明1の「該コアはフラフパルプ繊維を20.45gと流体吸収性ポリマー粒子を9.34g含」むことについて、これらの数値が質量を表すことは自明であるから、フラフパルプ繊維と流体吸収性ポリマー粒子の合計質量である29.79gに対して、フラフパルプ繊維20.45gは68.6質量%、流体吸収性ポリマー粒子9.34gは31.4質量%にあたる。よって、引用発明1の「該コアはフラフパルプ繊維を20.45gと流体吸収性ポリマー粒子を9.34g含」むことは、本件補正発明の「該コアは、吸水性ポリマー粒子と繊維状材料との合計に対して、繊維状材料を0?90質量%、及び吸水性ポリマー粒子を10?100質量%含有」することに相当する。
エ.引用発明1の「基本質量」は、「1平方メートル当たりの流体吸収性コアの質量」であるから、本件補正発明の「流体吸収コアの坪量」に相当する。また、本願明細書の【0041】には、「排泄帯域(insult zone)は、コアの中心の5.5cm前、及び0.5cm後ろにある流体吸収コアの坪量である。」と記載されているところ、引用文献1の「侵襲域」は、「流体吸収性コアの中心の5.5cm前方および0.5cm後方の領域」であるから、本件補正発明の「排泄帯域」に相当する。したがって、引用発明1の「侵襲域の基本質量が825.94gsmである」ことは、本件補正発明の「排泄帯域における前記流体吸収コアの坪量は、少なくとも500gsmであ」ることに相当する。
オ.本件補正発明の(D)、(E)及び(F)の構成は、上記(2)で記載したとおり、備えるか否かが任意のものであるから、この点で本件補正発明と引用発明1とは一致する。
カ.本件補正発明の「以下の条件:(a)・・・であり、かつ/又は(b)・・・、を満たす」との発明特定事項について、「かつ/又は」の記載から、(a)又は(b)のいずれか一方を満たすものであれば、他方を満たすかどうかにかかわらず、当該発明特定事項を備えるものである。
また、引用発明1は、「CRCが37.2g/g」及び「SFCが10×10^(-7)cm^(3)s/g」であり、この数値をもとに計算すると、
log_(10)(SFC)=1
5.7-0.138×CRC=0.5664
となるから、「(b)log_(10)(SFC)>5.7-0.138×CRC、ただしSFCは5以上であり、ここでCRCはg/gで、SFCは10^(-7)cm^(3)・s/gで記載されている」を満たす。
したがって、引用発明1の「流体吸水性ポリマー粒子」が「CRCが37.2g/g」、「SFCが10×10^(-7)cm^(3)s/gである」ことは、本件補正発明の「以下の条件:
(a)遠心分離保持容量(CRC)が、39?60g/gであり、遠心分離保持容量(CRC)と、高荷重下吸収力(AUHL)との合計が、少なくとも60g/gであり、かつ/又は
(b)log_(10)(SFC)>5.7-0.138×CRC、ただしSFCは5以上であり、ここでCRCはg/gで、SFCは10^(-7)cm^(3)・s/gで記載されている、
を満たす」ことに相当する。
キ.以上のことから、本件補正発明と引用発明1との一致点、相違点は以下のとおりである。
【一致点】
「(A)上側の透液性層、
(B)下側の不透液性層、
(C)前記層(A)と前記層(B)との間にある流体吸収コア、該コアは、吸水性ポリマー粒子と繊維状材料との合計に対して、繊維状材料を0?90質量%、及び吸水性ポリマー粒子を10?100質量%含有し、ここで排泄帯域における前記流体吸収コアの坪量は、少なくとも500gsmである、
を有する流体吸収性製品であって、
ここで前記吸水性ポリマー粒子は、以下の条件:
(a)遠心分離保持容量(CRC)が、39?60g/gであり、遠心分離保持容量(CRC)と、高荷重下吸収力(AUHL)との合計が、少なくとも60g/gであり、かつ/又は
(b)log_(10)(SFC)>5.7-0.138×CRC、ただしSFCは5以上であり、ここでCRCはg/gで、SFCは10^(-7)cm^(3)・s/gで記載されている、
を満たす、前記流体吸収性製品。」である点。
【相違点1】
吸水性ポリマー粒子の平均球形度(SPHT)について、本件補正発明では「0.8?0.95」であるのに対し、引用発明1では不明である点。
【相違点2】
吸水性ポリマー粒子について、本件補正発明では「表面後架橋剤及び多価カチオンにより処理されて」いるのに対し、引用発明1では滴下重合から得られるものの、表面の具体的な処理が不明である点。

(5)判断
上記相違点1及び2についてそれぞれ検討する。
ア.相違点1
引用文献1には、引用発明1(実施形態1)の流体吸収性ポリマー粒子の平均球形度について直接示す記載は見当たらないが、【0007】(上記(3)イ.)に引用文献1に記載の技術の目的が「少なくとも0.84の平均球形度を有する」流体吸収性物品によって達成されることが記載されている。したがって、引用発明1が引用文献1に記載の技術を詳細に説明するための実施形態であることや、引用発明1の流体吸収性ポリマー粒子が「滴下重合から得られるもの」であることを考慮すれば、引用発明1の流体吸収性ポリマー粒子も「少なくとも0.84の平均球形度を有する」か、同程度の球形度を有するものと推認できる。
仮に上記推認ができないとしても、【0010】(上記(3)ウ.)には、流体吸収性ポリマー粒子の平均球形度が高いことが好ましいことが記載されているから、引用発明1において、当該記載に基づいて流体吸収性ポリマー粒子の平均球形度を調整し、上記相違点1に係る本件補正発明の構成を得ることは、当業者であれば容易になし得たことである。
イ.相違点2
引用文献1の【0096】及び【0099】(上記(3)のオ.及びカ.)には、好適な例として流体吸収性ポリマー粒子を後架橋剤及び多価陽イオンにより処理されたものとすることが記載されている。ここで、「後架橋剤」は、「噴霧」してポリマー粒子に「塗布」されることが記載されており、ポリマー粒子の表面に適用されることは自明であるから「表面後架橋剤」に相当する。また、「陽イオン」の別名が「カチオン」であることは技術常識であるから、「多価陽イオン」は「多価カチオン」に相当する。
よって、引用発明1の流体吸収性ポリマー粒子について、上記記載に基づいて後架橋剤及び多価陽イオンにより処理されたものとすること、すなわち表面後架橋剤及び多価カチオンにより処理されたものとして上記相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
ウ.そして、上記相違点1及び2を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明1及び引用文献1に記載された事項の作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
エ.また、後記(6)に記載のとおり、審判請求書及び上申書の請求人の主張を考慮しても、上記の判断を覆すものではない。
オ.よって、本件補正発明は、引用発明1及び引用文献1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(6)請求人の主張について
ア.請求人の主張内容
請求人は、平成30年10月10日に提出した審判請求書の【請求の理由】において、本件補正発明の進歩性(特許法第29条第2項)について以下の(ア)?(オ)のとおり主張している。また、平成31年 1月11日に提出した上申書でも、同様の主張を述べている。
(ア)「引用文献1に記載された発明では、吸水性ポリマー粒子はデナコール(エチレングリコールジグリシジルエーテル)により表面後架橋処理されたものにしかすぎません。
したがって、引用文献1には、本願発明1の特徴である、前記吸水性ポリマー粒子が表面後架橋剤及び多価カチオンにより処理されていることについては記載も示唆もされておりません。」(以下「主張1」という。)
(イ)「引用文献1には、例えば、実施形態1の構造例のポリマー粒子(段落番号0243)において、37.2g/gのCRCが記載されているのみです。すなわち、引用文献1には、本願発明1の特徴である、遠心分離保持容量(CRC)が、39?60g/gであることについては記載も示唆もされておりません。」(以下「主張2」という。)
(ウ)「本願発明1では、流体吸収性製品の流体吸収コアは、吸水性ポリマー粒子を少なくとも12質量%、好ましくは吸水性ポリマー粒子を、少なくとも50質量%、場合により80質量%超、より好ましくは吸水性ポリマー粒子を少なくとも85質量%含有します(段落番号0316)。すなわち、本願発明1では、繊維状材料はわずかの量です。」(以下「主張3」という。)
(エ)「引用文献1には、本願発明1の特徴である、(a)遠心分離保持容量(CRC)と、高荷重下吸収力(AUHL)との合計が、少なくとも60g/gであり、かつ/又は(b)log_(10)(SFC)>5.7-0.138×CRCであることについての記載はありません。」(以下「主張4」という。)
(オ)「参考資料より、本願明細書の製造例12のポリマー粒子は、US2011/0059329の製造例5のポリマー粒子よりも、おむつに使用した場合、液体の逆戻り量の低さ(rewet under load)において格段に優れた特性であることがわかります。
これに対して、引用文献1に記載された発明では、上述の本願発明1の特徴については記載も示唆もされておりません。」(以下「主張5」という。)

イ.上記主張の当否
上記主張1?5のそれぞれについて、下記に検討する。
(ア)主張1について
上記第2[理由]2.(5)イ.に記載したとおり、引用文献1の【0096】及び【0099】には、好適な例として流体吸収性ポリマー粒子を後架橋剤及び多価陽イオンにより処理することが記載されており、これを引用発明1において適用することも、当業者であれば容易になし得たものである。
よって、上記主張1は、当を得たものではなく、採用できない。
(イ)主張2について
上記第2[理由]2.(4)カ.に記載したとおり、請求項1の記載において、(a)と(b)とは「かつ/又は」で接続されているから、少なくともいずれか一方を満たすことが特定されているだけである。したがって、引用発明1の流体吸収性ポリマー粒子は、遠心分離保持容量(CRC)が39?60g/gでない、すなわち(a)を満たさないとしても、上記第2[理由]2.(4)カ.に記載のとおり(b)を満たすから、引用発明1は、この発明特定事項について本件補正発明と相違しない。
また、仮に本件補正発明が(a)を満たすものに限定されたとしても、この点は以下の理由で当業者が容易に想到し得たものである。すなわち、引用発明1は「CRCが37.2g/g」及び「AUHLが28.1g/g」であるから、「遠心分離保持容量(CRC)と、高荷重下吸収力(AUHL)との合計が、少なくとも60g/g」である。また、上記第2[理由]2.(3)キ.に摘記したとおり、引用文献1の【0236】には、引用発明1(すなわち実施形態1)について「当該構造に好適な流体吸収性ポリマー粒子が約32?60g/gの遠心分離保持能(CRC)を有する」と記載されている。そして、ポリマー粒子における流体吸収の度合いについて、架橋度等の製造条件を変更することで調整し得ることは技術常識であるから、引用発明1において、当該記載及び技術常識に基づき、CRCを本件補正発明のように39?60g/gとする程度のことは、当業者が適宜なし得た設計変更に過ぎない。
よって、上記主張2は、当を得たものではなく、採用できない。
(ウ)主張3について
請求項1には、吸水性ポリマー粒子の含有量について、「該コアは、吸水性ポリマー粒子と繊維状材料との合計に対して、繊維状材料を0?90質量%、及び吸水性ポリマー粒子を10?100質量%含有し、」と記載されるのみであり、繊維状材料を90質量%及び吸水性ポリマー粒子を10質量%含有するコアも含んでいるから、上記主張3は少なくとも請求項1の記載に基づくものではない。
よって、上記主張3は、当を得たものではなく、採用できない。
(エ)主張4について
本件補正発明は、吸水性ポリマー粒子が「(a)かつ/又は(b)」(以下「本件粒子条件」という。)を満たすことを発明特定事項としたものであって、上記(2)のとおり、引用発明1の流体吸収性ポリマー粒子は本件粒子条件を満たすから、当該発明特定事項について両者は一致する。すなわち、「(a)遠心分離保持容量(CRC)と、高荷重下吸収力(AUHL)との合計が、少なくとも60g/gであり、かつ/又は(b)log_(10)(SFC)>5.7-0.138×CRC」である吸水性ポリマー粒子は、引用文献1に記載されたものである。
引用文献1には本件粒子条件そのものについての記載は見当たらないが、新規性進歩性の判断において本件補正発明と引用発明との一致点であるということは、引用発明の構成が本件補正発明の範囲内であることを意味し、その範囲(つまり本件粒子条件)そのものが引用文献1に記載されていることを要するわけではない。
よって、上記主張4は、当を得たものではなく、採用できない。
(オ)主張5について
上記主張5は、「本願明細書の製造例12のポリマー粒子と、US2011/0059329の製造例5のポリマー粒子との比較実験の結果」に基づいている。しかし、この比較実験がどのような条件や手順で行われ、何を測定したものか詳細な内容が明らかでないから、比較実験の結果として示されている効果の差異がどのようなものであって、これが何に起因するものか具体的に理解することができず、本件補正発明の奏する効果が引用発明1から予測し得ない格別のものと認める理由にはならない。
また、上記主張5は、審判請求書の「US2011/0059329の製造例5のポリマー粒子は、引用文献1のポリマー粒子と同様、デナコール(エチレングリコールジグリシジルエーテル)により表面後架橋処理されたものです。これに対して、本願明細書の製造例12のポリマー粒子は、エチレンカーボネートとアルミニウム塩により表面処理されています。」との記載から、特に本件補正発明の実施例の表面処理の効果について主張するものと解されるところ、このような効果の主張は特許請求の範囲の記載に基づくものでない。
よって、上記主張5は、当を得たものではなく、採用できない。

(7)小括
以上のとおり、本件補正は特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むところ、本件補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。したがって、本件補正は、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1の記載は、上記第2[理由]1.(2)のとおりである。当該請求項1に係る発明を、以下「本願発明」という。

第4 原査定の拒絶理由の概要
原査定の理由である、平成30年 2月27日付けで通知された拒絶理由は、概略以下のとおりである。

引用文献1.特表2011-529753号公報

1.(新規性)この出願の請求項1、3-5、9、11に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の請求項1-12に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3.(サポート要件)出願時の技術常識に照らしても、請求項1-12に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、上記第2[理由]2.(3)に記載したとおりである。

第6 対比及び判断
本願発明を、上記第2[理由]2.(2)の本件補正発明と比較すると、本願発明は、本件補正発明から、吸水性ポリマー粒子が「表面後架橋剤及び多価カチオンにより処理されており」との限定事項を削除するとともに、吸水性ポリマー粒子が満たす選択的条件である(a)から「遠心分離保持容量(CRC)が、39?60g/gであり」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに限定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2[理由]2.に記載したとおり、引用発明1及び引用文献1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1及び引用文献1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明及び他の拒絶理由について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-06-26 
結審通知日 2019-07-01 
審決日 2019-07-16 
出願番号 特願2016-537167(P2016-537167)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61F)
P 1 8・ 121- Z (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 龍平藤井 眞吾  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 西尾 元宏
佐々木 正章
発明の名称 流体吸収性製品  
代理人 前川 純一  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 二宮 浩康  
代理人 森田 拓  
代理人 上島 類  

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