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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1357432
審判番号 不服2017-19572  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-29 
確定日 2019-11-27 
事件の表示 特願2016-559367「ズームレンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月11日国際公開、WO2016/019823、平成29年 4月13日国内公表、特表2017-510852〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件出願は、2015年7月30日(優先権主張 平成26年8月6日、中国)を国際出願日とする出願であって、平成29年4月18日付けで拒絶理由が通知され、同年7月25日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年8月29日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ(同査定の謄本の送達(発送)日 同年9月5日)、これに対し、同年12月29日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において平成30年10月29日付けで拒絶理由が通知され、平成31年1月29日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成31年1月29日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
ズームレンズであって、
20枚のレンズであって表面がいずれも球面であり且つガラス材からなる前記20枚のレンズと1つの絞りとにより構成される光学システムを含み、
前記光学システムは、光線の入射方向に沿って、正の屈折力を有する前固定群、負の屈折力を有する変倍群、正の屈折力を有する補償群、及び、正の屈折力を有する後固定群が順に配列されて構成されており、
前記前固定群は、光線の入射方向に沿って、正レンズである第一レンズと、負レンズである第二レンズと、正レンズである第三レンズと、負レンズである第四レンズと、正レンズである第五レンズと、正レンズである第六レンズと、負レンズである第七レンズと、が順に配列されてなり、
前記変倍群は、光線の入射方向に沿って、負レンズである第八レンズと、負レンズである第九レンズと、正レンズである第十レンズと、正レンズである第十一レンズと、が順に配列されてなり、
前記補償群は、光線の入射方向に沿って、正レンズである第十二レンズと、負レンズである第十三レンズと、正レンズである第十四レンズと、負レンズである第十五レンズと、前記補償群のレンズと同期に移動する前記絞りと、が順に配列されてなり、
前記後固定群は、光線の入射方向に沿って、負レンズである第十六レンズと、正レンズである第十七レンズと、正レンズである第十八レンズと、負レンズである第十九レンズと、正レンズである第二十レンズと、が順に配列されてなり、
前記変倍群は、前記前固定群と前記補償群との間で移動することにより、前記光学システムの焦点距離を変更し、
前記補償群は、前記変倍群と前記後固定群との間で移動することにより、前記光学システムの全長を所定長に保ち、
前記第一レンズ及び前記第二レンズが第一の二重接合構造を構成し、
前記第三レンズ、前記第四レンズ及び前記第五レンズが第一の三重接合構造を構成し、
前記第十レンズ及び前記第十一レンズが第二の二重接合構造を構成し、
前記第十三レンズ、前記第十四レンズ及び前記第十五レンズが第二の三重接合構造を構成する、
ことを特徴とするズームレンズ。」

第3 当審拒絶理由について

1.当審拒絶理由の概要
当審において平成30年10月29日付けで通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は以下の通りである。

理由1.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の請求項1ないし9の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由2.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の請求項1ないし9の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由3.(省略)

2.当審拒絶理由の判断
(1)当審拒絶理由の理由1(実施可能要件)について
ア.本願発明の課題は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、段落【0004】に記載された「従来のズームレンズにおける焦点距離が短くて、ズーム比が低いという課題を解決する」ことであると認められる。

イ.一方、本願明細書の発明の詳細な説明の【発明を実施するための形態】の項には実施例について以下の記載がある。

「【0024】
上記設計思想に基づいて、本発明は、ズームレンズを提供しており、図1に、本発明の実施例によるズームレンズの構造模式図が示されており、当該ズームレンズの光学システムは、20枚の表面が球面でガラス材となるレンズと、1つの絞りとを含み、光線の入射方向に沿って、正の屈折力を有する前固定群01、負の屈折力を有する変倍群02、正の屈折力を有する補償群03及び正の屈折力を有する後固定群04が順に構成されている。
【0025】
前記前固定群01は、光線の入射方向に沿って、順に第一レンズL1?第七レンズL7を含み、第一レンズL1が正レンズであり、物体面へ凸な第一表面及び像面へ凸な第二表面を有し、そのうち、第二表面が接合面である。
【0026】
好ましくは、当該第一レンズL1の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.45 【0027】
第二レンズL2が負レンズであり、物体側へ凹な第二接合表面及び像側へ凸な第三表面を有する。
【0028】
好ましくは、当該第二レンズL2の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.45 【0029】
第三レンズL3が正レンズであり、物体側へ凸な第四表面及び像側へ凸な第五表面を有し、そのうち、第五表面が接合面である。
【0030】
好ましくは、当該第三レンズL3の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.55 【0031】
第四レンズL4が負レンズであり、物体側へ凹な第五表面及び像側へ凹な第六表面を有し、そのうち、第六表面が接合面である。
【0032】
好ましくは、当該第四レンズL4の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.60 【0033】
第五レンズL5が正レンズであり、物体側へ凸な第六表面及び像側へ凹な第七表面を有する。
【0034】
好ましくは、当該第五レンズL5の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.55 【0035】
第六レンズL6が正レンズであり、物体側へ凸な第八表面及び像側へ凸な第九表面を有する。
【0036】
好ましくは、当該第六レンズL6の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.50 【0037】
第七レンズL7が負レンズであり、物体側へ凸な第十表面及び像側へ凸な第十一表面を有する。
【0038】
好ましくは、当該第七レンズL7の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.65 【0039】
説明しておきたいのは、上記第一レンズL1及び第二レンズL2が第一の二重接合構造を構成し、上記第三レンズL3、第四レンズL4及び第五レンズL5が第一の三重接合構造を構成する。
【0040】
前記変倍群02は、光線の入射方向に沿って、順に第八レンズL8?第十一レンズL11を含み、第八レンズL8が負レンズであり、物体側へ凸な第十二表面及び像側へ凹な第十三表面を有する。
【0041】
好ましくは、当該第八レンズL8の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.60 【0042】
第九レンズL9が負レンズであり、物体側へ凹な第十四表面及び像側へ凹な第十五表面を有する。
【0043】
好ましくは、当該第九レンズL9の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.60 【0044】
第十レンズL10が正レンズであり、物体側へ凸な第十六表面及び像側へ凹な第十七表面を有し、そのうち、第十七表面が接合面である。
【0045】
好ましくは、当該第十レンズL10の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.45 【0046】
第十一レンズL11が正レンズであり、物体側へ凸な第十七表面及び像側へ凸な第十八表面を有する。
【0047】
好ましくは、当該第十一レンズL11の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.65 【0048】
説明しておきたいのは、上記第十一レンズL10及び第十一レンズL11が第二の二重接合構造を構成する。
【0049】
前記補償群03は、光線の入射方向に沿って、順に第十二レンズL12?絞りを含み、第十二レンズL12が正レンズであり、物体側へ凸な第十九表面及び像側へ凸な第二十表面を有する。
【0050】
好ましくは、当該第十二レンズL12の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.65 【0051】
第十三レンズL13が負レンズであり、物体側へ凸な第二十一表面及び像側へ凹な第二十二表面を有し、そのうち、第二十二表面が接合面である。
【0052】
好ましくは、当該第十三レンズL13の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.65 【0053】
第十四レンズL14が正レンズであり、物体側へ凸な第二十二表面及び像側へ凹な第二十三表面を有し、そのうち、第二十三表面が接合面である。
【0054】
好ましくは、当該第十四レンズL14の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.55 【0055】
第十五レンズL15が負レンズであり、物体側へ凹な第二十三表面及び像側へ凸な第二十四表面を有する。
【0056】
好ましくは、当該第十五レンズL15の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.50 【0057】
絞り21は、補償群03のレンズと同期に移動し、その絞り面が第二十五表面を構成する。
【0058】
説明しておきたいのは、上記第十五レンズL13、第十五レンズL14及び第十五レンズL15が第二の三重接合構造を構成する。
【0059】
前記後固定群04は、光線の入射方向に沿って、順に第十六レンズL16?第二十レンズL20を含み、第十六レンズL16が負レンズであり、物体側へ凹な第二十六表面及び像側へ凹な第二十七表面を有する。
【0060】
好ましくは、当該第十六レンズL16の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.65 【0061】
第十七レンズL17が正レンズであり、物体側へ凸な第二十八表面及び像側へ凸な第二十九表面を有する。
【0062】
好ましくは、当該第十七レンズL17の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.50 【0063】
第十八レンズL18が正レンズであり、物体側へ凸な第三十表面及び像側へ凸な第三十一表面を有する。
【0064】
好ましくは、当該第十八レンズL18の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.60 【0065】
第十九レンズL19が負レンズであり、物体側へ凹な第三十二表面及び像側へ凹な第三十三表面を有する。
【0066】
好ましくは、当該第十九レンズL19の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.55 【0067】
第二十レンズL20が正レンズであり、物体側へ凸な第三十四表面及び像側へ凸な第三十五表面を有する。
【0068】
好ましくは、当該第二十レンズL20の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.45 【0069】
更に、当該ズームレンズの光学システムが連続ズームシステムであり、上記正レンズ1の第一表面から上記正レンズ20の第二表面までの全長が350mmであり、いずれの焦点距離の場合も、当該全長が変わらない。
【0070】
好ましくは、図2に、当該光学システムにおいて、第7レンズと第8レンズとのピッチd1、第11レンズと第12レンズとのピッチd2、第15レンズと第16レンズとのピッチd3のズーミング時の変化模式図が示されており、前記前固定群01と前記変倍群02との間のピッチの変化範囲が3.34mm?137.31mmであり、前記変倍群02と前記補償群03との間のピッチの変化範囲が207.84mm?1mmであり、前記補償群03と前記後固定群04との間のピッチの変化範囲が0.77mm?73.65mmである。
【0071】
具体的に、当該光学システムの焦点距離が750mmである場合は、前記前固定群と前記変倍群との間の距離が137.31mmであり、前記変倍群と前記補償群との間の距離が1mmであり、前記補償群と前記後固定群との間の距離が73.65mmであり、当該光学システムの焦点距離が15mmである場合は、前記前固定群と前記変倍群との間の距離が3.34mmであり、前記変倍群と前記補償群との間の距離が207.84mmであり、前記補償群と前記後固定群との間の距離が0.77mmである。
【0072】
更に、当該ズームレンズの光学システムにおけるバックフォーカスが50mmより大きく、当該バックフォーカスにおいて、フィルタが配置される。
【0073】
実際の応用において、当該フィルタの厚さ、位置及び膜系は、プロジェクトの具体的な要求に応じて設定される。
【0074】
説明しておきたいのは、当該光学システムの全長が410mmより小さく、いずれの焦点距離の場合も、当該光学システムの全長が変わらない。」

ウ.そうすると、当該実施例については、本願発明の発明特定事項を含む、
光学要素の数(段落【0024】に「当該ズームレンズの光学システムは、20枚の表面が球面でガラス材となるレンズと、1つの絞りとを含み」と記載されている。)、
光学要素の配列順(4つのレンズ群の配列について段落【0024】に「光線の入射方向に沿って、正の屈折力を有する前固定群01、負の屈折力を有する変倍群02、正の屈折力を有する補償群03及び正の屈折力を有する後固定群04が順に構成されている。」と記載されるとともに、各レンズ群における各レンズの配列について段落【0025】ないし【0067】に、例えば、「前記前固定群01は、光線の入射方向に沿って、順に第一レンズL1?第七レンズL7を含み、第一レンズL1が正レンズであり」(段落【0025】)のように記載されている。)、
各レンズの正負、各レンズ面の形状(各レンズの正負及び各レンズ面の形状については、段落【0025】ないし【0067】に、例えば、「第一レンズL1が正レンズであり、物体面へ凸な第一表面及び像面へ凸な第二表面を有し」(段落【0025】)のように記載されている。)、
各レンズの屈折率、各レンズの分散範囲及び各レンズの材料の型番(各レンズの屈折率、各レンズの分散範囲及び各レンズの材料の型番については、段落【0026】ないし【0068】に、例えば、「好ましくは、当該第一レンズL1の屈折率及び分散範囲がそれぞれ1.45 等の諸元の記載はあるものの、「焦点距離が短くて、ズーム比が低い」という本願発明の課題に関しては、「焦点距離」について「好ましくは、図2に、当該光学システムにおいて、第7レンズと第8レンズとのピッチd1、第11レンズと第12レンズとのピッチd2、第15レンズと第16レンズとのピッチd3のズーミング時の変化模式図が示されており、前記前固定群01と前記変倍群02との間のピッチの変化範囲が3.34mm?137.31mmであり、前記変倍群02と前記補償群03との間のピッチの変化範囲が207.84mm?1mmであり、前記補償群03と前記後固定群04との間のピッチの変化範囲が0.77mm?73.65mmである。具体的に、当該光学システムの焦点距離が750mmである場合は、前記前固定群と前記変倍群との間の距離が137.31mmであり、前記変倍群と前記補償群との間の距離が1mmであり、前記補償群と前記後固定群との間の距離が73.65mmであり、当該光学システムの焦点距離が15mmである場合は、前記前固定群と前記変倍群との間の距離が3.34mmであり、前記変倍群と前記補償群との間の距離が207.84mmであり、前記補償群と前記後固定群との間の距離が0.77mmである。」(段落【0070】及び【0071】)及び「本実施例において、上記の20枚の表面が球面でガラス材からなるレンズと1つの絞りとにより構成された光学システムでは、以下の技術指標が達成されている。焦点距離fの範囲が750mm?15mmである50倍の焦点距離変換が実現され、可視光(RGB波帯486nm?656nm)と800nm?950nm近赤外波帯との共焦点結像が実現され、レンズのF値の変換範囲が4.78?10.54であり、そのうち、焦点距離が15mmである時にF値が4.78になり、焦点距離が750mmである時にF値が10.54になり、画角範囲が35°から0.7°であり、そのうち、焦点距離が15mmである時に画角が35°になり、焦点距離が750mmである時に画角が0.7°になり、1/1.8インチの検出器を像面として採用可能であり、いずれの焦点距離の場合も、システムは、可視光帯において、120lp/mmにて高いMTF値に達し、近赤外光帯において、80lp/mmにて高いMTF値に達している。」(段落【0075】)と記載されるとともに、図面の【図2】に、焦点距離f、第7レンズと第8レンズとのピッチd1、第11レンズと第12レンズとのピッチd2、及び、第15レンズと第16レンズとのピッチd3の値が示されているのみであって、当該実施例がどのような作用によって「焦点距離が短くて、ズーム比が低い」という本願発明の課題を解決するかという作用機序については何ら説明がない。

エ.また、一般に、複数のレンズを組み合わせてズームレンズを設計するにあたって、一定の光学性能を実現するためには、複数のレンズの枚数や配置だけでなく、個々のレンズにどのような諸元のものを選定するかが重要な要素となることが技術常識であるところ、当該実施例については、レンズを用いた光学系の設計一般において重要である各レンズ面の曲率半径、レンズ面間隔及びレンズ厚等の諸元についての数値データも開示されていない。

オ.そうすると、当業者が実施例のズームレンズを再現するにあたっては、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された以外の多くの諸元について再度適切な組み合わせを決定する必要が生じることになる。

カ.本願発明は、上記実施例以外の態様を包含するものであるが、上述のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には本願発明の課題がどのようにして解決されるかという作用機序が記載されておらず、かつ、本願明細書には実施例の場合以外の諸元の数値データについての記載もないから、当業者が実施例以外の本願発明のズームレンズを設計するにあたっては、上記実施例において数値データが開示されていない諸元に加えて、実施例の場合のみの数値データが記載された諸元についても考慮して、適切な組み合わせを決定する必要が生じることになる。

キ.してみると、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載に基づいて本願発明のズームレンズを製造しようとした当業者が、上記の各諸元について適切な組み合わせを決定するために、過度な試行錯誤を要することは明らかである。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本願発明のズームレンズを当業者が製造しようとした場合、当業者に過度の試行錯誤を強いるものといわざるを得ず、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明のズームレンズをどのようにして実施することができるかを理解できるように記載されているとはいえない。

ク.請求人の主張について
(ア)請求人は、平成31年1月29日付け意見書において、本願明細書の以下の「a.及びb.」の記載を挙げて、「焦点距離が短くて、ズーム比が低い」という本願発明の課題を解決するかという作用機序については、説明がされているものと確信致します。」と主張している。

a.「前固定群、変倍群、補償群及び後固定群との四つの部分によって当該ズームレンズが構成されており、そのうち、変倍群が前後に移動することで、焦点距離が変更され、補償群が移動することで、焦点距離の移動による全長の変化が補償され、このように、システムの全長が変わらないことが保証される。各群の屈折力を設計する際、まずは、ズーム公式に従って、各群の光角度を計算して割り当て、その後、理想的な面型により初期枠組みを確立してから、焦点距離、筒長の第一種境界条件を加えて初期枠組みを最適化することで、各群の屈折力分布を確定する。」(段落【0019】)

b.「本発明は、ズームレンズを開示しており、当該ズームレンズの光学システムは、20枚の表面が球面でガラス材からなるレンズと、1つの絞りとを含み、光線の入射方向に沿って、正の屈折力を有する前固定群、負の屈折力を有する変倍群、正の屈折力を有する補償群、及び、正の屈折力を有する後固定群が順に構成されており、前固定群は、一つの二重接合構造を採用して球面収差及び色収差を補正し、一つの三重接合構造を採用して色収差及び二次スペクトルを補正し、変倍群は、負、負、正の構造を採用すると共に一つの二重接合構造を含むことで収差の過補正を回避し、補償群は、光学利用率の高い絞り及び一つの三重接合構造を含むことで、色収差を効果的に制御し、デュアルバンド共焦点結像を実現することができる。当該ズームレンズは、各素子を合理的に配列し、適切な材料を選択することで、焦点距離750mm?15mmの50倍のズーム比、350mmの長焦点距離という光学的指標要求をクリアし、しかも、当該ズームレンズは、可視光帯と近赤外波帯での共焦点結像に適用可能であるため、昼夜両用型のモニタシステムに適用される。」(段落【0076】)

(イ)上記「a.」の記載について検討すると、「前固定群、変倍群、補償群及び後固定群との四つの部分によって当該ズームレンズが構成されており、そのうち、変倍群が前後に移動することで、焦点距離が変更され、補償群が移動することで、焦点距離の移動による全長の変化が補償され、このように、システムの全長が変わらないことが保証される。」との記載は、本願発明が請求項1に記載された「前記光学システムは、光線の入射方向に沿って、正の屈折力を有する前固定群、負の屈折力を有する変倍群、正の屈折力を有する補償群、及び、正の屈折力を有する後固定群が順に配列されて構成されており」、「前記変倍群は、前記前固定群と前記補償群との間で移動することにより、前記光学システムの焦点距離を変更し、前記補償群は、前記変倍群と前記後固定群との間で移動することにより、前記光学システムの全長を所定長に保ち」との発明特定事項を備えることにより、「変倍群が前後に移動することで、焦点距離が変更され、補償群が移動することで、焦点距離の移動による全長の変化が補償され」るという作用によって「システムの全長が変わらない」という効果を奏することを示したものと解されるから、当該記載は「システムの全長が変わらない」ための作用を示すものではあるものの、当該記載は「焦点距離が短くて、ズーム比が低い」という本願発明の課題を解決するための作用機序を示したものとはいえない。
また、「各群の屈折力を設計する際、まずは、ズーム公式に従って、各群の光角度を計算して割り当て、その後、理想的な面型により初期枠組みを確立してから、焦点距離、筒長の第一種境界条件を加えて初期枠組みを最適化することで、各群の屈折力分布を確定する。」との記載も、レンズ群の屈折力の設計手順の概略を示したものであって「各群の光角度」、「面型」、「焦点距離、筒長の第一種境界条件」といった指標を具体的にどのようにして決定するかを示したものではなく、このような手順で「各群の屈折力分布を確定する」ことによる作用も何ら示されていないから、本願発明の課題を解決するための作用機序を示したものではないことは明らかである。

(ウ)上記「b.」の記載について検討すると、「本発明は、ズームレンズを開示しており、当該ズームレンズの光学システムは、20枚の表面が球面でガラス材からなるレンズと、1つの絞りとを含み、光線の入射方向に沿って、正の屈折力を有する前固定群、負の屈折力を有する変倍群、正の屈折力を有する補償群、及び、正の屈折力を有する後固定群が順に構成されており、前固定群は、一つの二重接合構造を採用して球面収差及び色収差を補正し、一つの三重接合構造を採用して色収差及び二次スペクトルを補正し、変倍群は、負、負、正の構造を採用すると共に一つの二重接合構造を含むことで収差の過補正を回避し、補償群は、光学利用率の高い絞り及び一つの三重接合構造を含むことで、色収差を効果的に制御し、デュアルバンド共焦点結像を実現することができる。」との記載は、「二重接合構造」及び「三重接合構造」等の構成を有するレンズ群自体が有する、収差及び二次スペクトルを補正し、異なる波長の焦点を一致させるという周知の作用を示すに止まるものであって、当該作用と「焦点距離が短くて、ズーム比が低い」という課題との関係も明らかでないから、「焦点距離が短くて、ズーム比が低い」という本願発明の課題を解決するための作用機序を示したものとはいえない。
また、「当該ズームレンズは、各素子を合理的に配列し、適切な材料を選択することで、焦点距離750mm?15mmの50倍のズーム比、350mmの長焦点距離という光学的指標要求をクリアし、しかも、当該ズームレンズは、可視光帯と近赤外波帯での共焦点結像に適用可能であるため、昼夜両用型のモニタシステムに適用される。」という記載は、「焦点距離が短くて、ズーム比が低い」という本願発明の課題に関連する「焦点距離750mm?15mmの50倍のズーム比、350mmの長焦点距離という光学的指標要求をクリアし」との記載を含むものの、その手段については「当該ズームレンズは、各素子を合理的に配列し、適切な材料を選択することで」と記載されているのみで、具体的にどのようにして各素子を配列し、材料を選択するのかは明らかでなく、また、当該各素子の配列や材料の選択による作用も何ら示されていないから、本願発明の課題を解決するための作用機序を示したものではないことは明らかである。さらに、「当該ズームレンズは、可視光帯と近赤外波帯での共焦点結像に適用可能であるため、昼夜両用型のモニタシステムに適用される」との記載についても、上述のとおり、同段落には「二重接合構造」及び「三重接合構造」等の構成を有するレンズ群が収差及び二次スペクトルを補正することが記載されており、当該補正によって異なる波長の焦点を一致させるという作用を有することは光学機器の技術分野において周知の技術事項であるとはいえるものの、本願発明がズームレンズを構成する特定のレンズを「二重接合構造」及び「三重接合構造」として「前記第一レンズ及び前記第二レンズが第一の二重接合構造を構成し、前記第三レンズ、前記第四レンズ及び前記第五レンズが第一の三重接合構造を構成し、前記第十レンズ及び前記第十一レンズが第二の二重接合構造を構成し」たことにより、どのような作用によって「可視光帯」と「近赤外波帯」という特定の波長域において共焦点結像が得られるのかという作用機序が理解できるように記載されているとはいえない。

(エ)請求人はまた、上記意見書において、「光学システムにおける設計とは、光学的要件に応じて各レンズの曲率半径、レンズ面間隔、レンズ厚、材質等のパラメータを解くプロセスであり、このプロセスにおいて定まる基本解の中で最もバランスのとれた解を見つけて最終設計とすることであると考えます。本願の明細書及び図面には、前記基本解の値の範囲が示されていると言えます。ここで、ある一つのズームレンズの具体的な設計では、確かに審査官殿のご指摘のように、各レンズの諸元についての具体的な数値データを一意的に決定する必要があります。しかし、ご指摘された「各レンズ面の曲率半径、レンズ面間隔及びレンズ厚」は、レンズの結像品質や外形サイズ等を最適化するためのパラメータに過ぎず、本願発明において重要な技術的要素ではありません。」及び「そして、当業者は、本願の請求項1-7に係る発明をある一つのズームレンズに適用する際に、各請求項に記載の構成の制約下において、各レンズの曲率半径、レンズ厚及び各レンズ間のレンズ間隔を周知の光学設計ソフトウェア等を用いて適宜に定めることができます。つまり、ズームレンズを構成する各群の群数、各群のレンズ構成等が確定した場合、当業者は、所望のズーム効果を得るために、ズームレンズを構成する1以上のレンズの具体的なパラメータ(各レンズの曲率半径、レンズ厚及び各レンズ間のレンズ間隔等)を具体的な条件に従って変更した場合、周知の光学設計ソフトウェアを用いて、残りのレンズの具体的なパラメータを当業者に過度の試行錯誤を強いることなく、通常の試行錯誤の範囲内で取得することができるものと確信致します。」と主張している。

(オ)しかしながら、請求項1に記載された条件のみに基づいて、請求項1に記載された条件以外の諸元について数値を定めて、一定の光学性能を備えたズームレンズを得ることについて、具体的な設計手法や実際の設計例は本願明細書には示されていないし、また、請求項1に記載された条件のみに基づいて一定の光学性能を備えたズームレンズを設計できることが、光学設計の技術分野における技術常識であるとも認められないから、請求項1に記載された条件のみに基づいて、請求項1に記載された以外の諸元について数値を定めて、一定の光学性能を備えたズームレンズを得ることができるかは明らかでない。
また、光学設計ソフトウェア等を用いる場合に、本願明細書に記載された実施例のような既知のパラメータを初期データとし、当該初期データを変更して設計を行うことは、光学設計の技術分野において周知の技術事項であるとは認められるものの、請求項1に記載された条件に基づくとともに、本願明細書に記載された実施例の諸元の数値を光学設計ソフトウェア等における初期データとして、請求項1に記載された以外の諸元について数値を定めて、一定の光学性能を備えたズームレンズを得ることについても、同様に、一定の光学性能を備えたズームレンズを得ることができるかは明らかでない。

(カ)以上のとおりであるから、請求人の主張はいずれも採用することができない。

ケ.なお、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例には、以下のように、相互に整合性を欠く記載や、技術常識に整合しない記載があるから、本願発明のズームレンズを製造しようとした当業者は、これらの記載に関する事項についてはさらなる試行錯誤を要することになる。

(ア)段落【0037】には「第七レンズL7が負レンズであり、物体側へ凸な第十表面及び像側へ凸な第十一表面を有する。」と記載されている。しかしながら、一般に両側が凸な表面であるレンズが正レンズであることは明らかであるから、第七レンズが「負レンズ」であることと、「物体側へ凸な第十表面及び像側へ凸な第十一表面を有」することとは整合しない。
なお、図面の【図1】からは、第十表面が凸で第十一表面が凹であることを看取することができ、これは第七レンズが「負レンズ」であることとは整合しているものの、同図からは第二レンズの第三表面が凹である点、第六レンズの第九表面が凹である点、第十五レンズの第二十四表面が凹である点等を看取することができ、これらの点は発明の詳細な説明の「第二レンズL2が負レンズであり、物体側へ凹な第二接合表面及び像側へ凸な第三表面を有する。」(段落【0027】)、「第六レンズL6が正レンズであり、物体側へ凸な第八表面及び像側へ凸な第九表面を有する。」(段落【0035】)、「第十五レンズL15が負レンズであり、物体側へ凹な第二十三表面及び像側へ凸な第二十四表面を有する。」(段落【0055】)との記載と整合していないから、図面を参酌したとしても明細書の記載全体を矛盾なく解釈できることにはならない。

(イ)本願明細書には「前記変倍群02は、光線の入射方向に沿って、順に第八レンズL8?第十一レンズL11を含み(後略)」(段落【0040】)、「第十レンズL10が正レンズであり、物体側へ凸な第十六表面及び像側へ凹な第十七表面を有し、そのうち、第十七表面が接合面である。」(段落【0044】)、「第十一レンズL11が正レンズであり、物体側へ凸な第十七表面及び像側へ凸な第十八表面を有する。」(段落【0046】)、「説明しておきたいのは、上記第十一レンズL10(審決注:「第十一レンズL10」は「第十レンズL10」の誤記と認める。)及び第十一レンズL11が第二の二重接合構造を構成する。」(段落【0048】)と記載されているから、第十レンズ及び第十一レンズはそれぞれ正レンズであり、二重接合構造を構成するものと認められる。しかしながら、二重接合構造のレンズは、一般に屈折率やアッベ数(分散範囲)が異なる正レンズと負レンズとを組み合わせることにより収差を調整することが技術常識であるところ、2枚の正レンズを用いた上記の「第二の二重接合構造」において、どのようにして収差を調整するのかが不明である。

コ.してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)当審拒絶理由の理由2(サポート要件)について
ア.本願明細書の発明の詳細な説明には、上記「(1)イ.及びウ.」で示したとおり、1つの実施例について、本願発明の発明特定事項を含む、光学要素の数、光学要素の配列順、各レンズの正負、各レンズ面の形状、各レンズの屈折率、各レンズの分散範囲及び各レンズの材料の型番等の諸元の記載はあるものの、当該実施例がどのような作用によって「焦点距離が短くて、ズーム比が低い」という本願発明の課題を解決するかという作用機序については何ら説明がない。

イ.また、複数のレンズを組み合わせてズームレンズを設計するにあたって、一定の光学性能を実現するためには、複数のレンズの枚数や配置だけでなく、個々のレンズにどのような諸元のものを選定するかが重要な要素となることが技術常識であるところ、当該実施例については、レンズを用いた光学系の設計一般において重要である各レンズ面の曲率半径、レンズ面間隔及びレンズ厚等の諸元についての数値データが開示されていない。

ウ.そうすると、本願発明の発明特定事項を備えたものであれば、各レンズ面の形状、各レンズの屈折率、各レンズの分散範囲及び各レンズの材料の型番等の諸元が本願明細書の発明の詳細な説明に示された実施例以外であるものや、実施例において示されていない各レンズ面の曲率半径、レンズ面間隔及びレンズ厚等の諸元が任意の数値であるものが、本願発明の課題を解決することができるものであるかは明らかでない。

エ.してみると、当業者は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識を参酌したとしても、上記の課題を解決できると認識できるものを把握することができない。

オ.また、平成31年1月29日付け意見書における請求人の主張も、上記「(1)ク.」のとおり、採用することができない。

カ.なお、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載された実施例には、上記「(1)ケ.」で示したとおりに、相互に整合性を欠く記載や、技術常識に整合しない記載があるから、これらの記載に関する事項については光学設計ソフトウェア等に用いる初期データを確定することができないことになる。

キ.してみると、本願発明は、当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえないから、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 むすび

以上のとおり、この出願は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-06-28 
結審通知日 2019-07-02 
審決日 2019-07-17 
出願番号 特願2016-559367(P2016-559367)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G02B)
P 1 8・ 536- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森内 正明  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 藤本 義仁
森次 顕
発明の名称 ズームレンズ  
代理人 松島 鉄男  
代理人 西山 春之  
代理人 小川 護晃  
代理人 関谷 充司  
代理人 奥山 尚一  
代理人 有原 幸一  
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