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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60W
審判 査定不服 出願日、優先日、請求日 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60W
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60W
管理番号 1357502
審判番号 不服2018-10267  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-27 
確定日 2019-12-05 
事件の表示 特願2017-2240「車両の運動制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年4月13日出願公開、特開2017-71399〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年3月29日に出願した特願2013-70950号(以下、「原出願」という。)の一部を平成29年1月11日に新たな特許出願としたものであって、その手続は以下のとおりである。
平成29年10月31日(発送日):拒絶理由通知書(特許法第50条の2の通知を伴う拒絶理由通知)
平成29年12月4日 :意見書の提出
平成30年5月15日(発送日) :拒絶査定
平成30年7月27日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和元年5月21日(発送日) :拒絶理由通知書(以下、「当審拒絶理由」という。)
令和元年6月27日 :面接記録
令和元年7月18日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願の出願日
令和元年7月18日の手続補正により、本願の願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項は、原出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範囲内のもの、かつ、原出願の一部を新たな特許出願とする直前におけるその願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された範囲内のものとなった。したがって、本願は、特許法第44条第1項の規定により適法に原出願の一部を新たな特許出願としたものであり、その出願日は原出願の出願日である平成25年3月29日である。

第3 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和元年7月18日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「距離取得手段が取得した障害物までの距離情報及び車両情報に基づいて、車両の危険ポテンシャルを推定する危険ポテンシャル推定部と、
前記車両の横加加速度と予め定めたゲインとに基づいて前記車両の前後運動制御指令を生成する車両前後運動制御部と、
前記ゲインを調整するゲイン調整部と、を有し、
前記ゲイン調整部は、前記危険ポテンシャル推定部で推定された前記危険ポテンシャルに基づいて前記ゲインが調整され、
前記前後運動制御指令値G_(xc)は、


(但し、Gy:車両横加速度、Gy_dot:車両横加加速度、Cxy:前記ゲイン、T:一次遅れ時定数、s:ラプラス演算子、G_(x_DC):オフセット)で生成され、
前記ゲインが大きいほど、前記危険ポテンシャルは高い、車両の運動制御装置。」

第4 当審における拒絶の理由
当審が通知した拒絶理由のうちの理由3は、次のとおりのものである。

(進歩性)本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 特開2012-189508号公報
3 特開2006-7926号公報(周知技術を示す文献)
4 特開2010-30505号公報(周知技術を示す文献)

第5 引用文献の記載事項
1 引用文献2
当審拒絶理由に引用された、本願の出願日前に頒布された引用文献2(特開2012-189508号公報)には、「慣性センサ」に関して、図面(特に、【図2】を参照。)とともに以下の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。

ア 「【0002】
自動車のハンドル操作に応じて車両の進行方向加速度を制御することで、車両や乗員にかかる慣性力の急変を抑えたり、車両の荷重移動による強いコーナリングフォースを得たりすることが可能となることが知られている(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
この制御の基本概念は、横方向加速度および加加速度(加速度の微分値)に応じた進行方向加速度の目標値を示す式(1)で示される。
【0004】
【数1】

・・・(1)
【0005】
ここで、G_(xc)は車両の進行方向の目標加速度(車両進行方向加速度)であり、車両制御量を示す。G_(y)は車両横方向加速度、G’_(y) は車両横方向の加加速度(加速度の微分)、sgnは正負の符号を返す関数、C_(xv)はゲイン定数、Tは時定数、G_(x_DC)はバイアス定数である。各定数は質量、重心、ないし車両長等、車種に依存して変化し、また制御の調整量(いわゆるチューニング)にも依存して変化する。
【0006】
前述の式(1)に従った車両進行方向の制御を行った場合、横軸に車両の横方向加速度G_(y)、縦軸に進行方向加速度G_(x)を示すダイアグラムに、車両に印加される進行方向加速度と横方向加速度の合成加速度を図示すると、その時間遷移が曲線的になる。この曲線的遷移は、慣性力の急激な変化が少ないことを示し、ひいては乗り心地の悪さや不要な加減速がないことを示す。このように、本制御は合成加速度を適切に制御するため「G-Vectoring制御」と呼ばれる。」

イ 「【0021】
本実施の形態は、先に示したG-Vectoring制御と呼ばれる、車両に横滑りの発生していない定常状態にある車両慣性力の急激な変化を抑えることを目的としたブレーキやスロットル制御を実現するための慣性センサに関するものである。この他に、車両が横滑りしている非定常状態を制御するVDC制御と呼ばれるブレーキ制御が知られている。以下の例ではG-Vectoring制御とVDC制御が共存する車両を用いて実施形態を説明する。
【0022】
[実施例1]
図1は、実施例1における慣性センサの構成を示す図である。
慣性センサ1は、図1に示すように、加速度検出エレメント2、アンプ部3、ADC(Analogue to Digital Convertor)4、信号処理部5、第1の低域通過フィルタ(第1のフィルタ)6、第2の低域通過フィルタ(第2のフィルタ)7、車両制御量計算部8、通信フレーム生成部9を有するセンサモジュールからなる。
【0023】
本実施例において外部からの加速度を検知する加速度検出エレメント2は、例えば加速度の印加によって発生する質量マスの変位を容量変化で捉える静電容量型のいわゆるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれるエレメントであり、容量変化をC/V(Capacitance to Voltage)変換によって電圧信号に変換する。
【0024】
加速度検出エレメント2は、例えば車両の前後方向に延在するように第1軸が設定され、車両の車幅方向に延在するように第2軸が設定され、車両の鉛直方向に延在するように第3軸が設定されている場合に、第1軸の軸方向の加速度である車両進行方向加速度と、第2軸の軸方向の加速度である車両横方向加速度と、第3軸の軸方向の加速度である鉛直方向加速度を検出する。加速度検出エレメント2は、本実施例では各軸に対応して個々に設けられており、合計で3個が設けられているが、1個で第1軸から第3軸の全ての軸方向の加速度を検出するエレメントを用いてもよい。また、すべての軸方向の検出性能を有していなくともよい。
【0025】
アンプ部3は、加速度検出エレメント2から出力された電気信号を適切なレベルに変換する構成を有する。ただし、共存するG-Vectoring制御とVDC制御で要求される加速度のレンジが異なる場合、適用するアプリケーションに応じてレンジを変更できるように、アンプ3のレンジが可変できる構成としてもよく、かかる構成によって以下の利点がある。
【0026】
例えば、定常状態ではG-Vectoring制御のために狭いレンジを入力できるようゲインを上げておき、非定常状態ではVDC制御のために広いレンジを入力できるようゲインを下げておく構成とすることにより、G-Vectoring制御では加速度の小さな変動を細かく検出することができ、VDC制御では加速度の大きな変動を適切に検出することができ、異なる複数の仕様を一つのセンサで満たすことができる。
【0027】
また、時分割によって常時レベルが変動する構成とすることもできる。例えば、1秒間で100回の処理が行われる場合に、50回分を狭いレンジが入力できるゲインとし、残りの50回分を広いレンジが入力できるゲインに切り替えることによって、車両の状態を判別することなく、広いレンジと狭いレンジの両方を検出することができる。
【0028】
そしてさらに、異なるゲインを持つアンプ部3を2つ以上並列に設ける構成としてもよい。例えば、加速度検出エレメント2からの信号を2つに分配して以降の回路をG-Vectoring制御とVDC制御で並列に設ける構成とすることで、各制御に応じた最適な検出を行うことができる 。
【0029】
次に、アンプ部3から出力された電圧信号は、ADC4によって信号レベルをデジタル値に変換する。これによって、後段の信号処理部5をデジタル化することができ、低コストかつ高精度な信号処理を実現可能にする。このとき、ADC4はどのような構成であってもよく、いわゆるフラッシュ型、パイプライン型、逐次比較型、デルタシグマ型とアーキテクチャは問わない。また、必ずしもADCによるデジタル信号化を設ける必要はなく、以降の処理がアナログ回路で行われる構成とすることもできる。
【0030】
次に、ADC4を経たデジタル信号は信号処理部5に送られ、センサ出力値として適切な形に処理される。まず、ADC4を経た信号が何らかの変調を受けている場合は、ここで復調を行う。例えば、キャリア信号が重畳されている場合は、この信号処理部5においてキャリア信号の同期検波を行い、ベースバンド信号に復調する。次に、温度変化に対する補償、ゼロ点の補正、および感度の補正等の出力信号整形を実施する。以上の信号処理は、専用のLSIで構成されていてもよく、DSPとそれに対応した書き換え可能なソフトウェアから成っていてもよい。
【0031】
図1にLPF(Low Pass Filter)1で示される第1の低域通過フィルタ6は、信号処理部5で処理された信号をVDC制御向けの帯域(第1の帯域)に制限するフィルタリング処理を行い、不要なノイズ成分をカットする。そして、図2にLPF2で示される第2の低域通過フィルタ7は、低域通過フィルタ6で示されたVDC制御向けの帯域とは異なる周波数特性、すなわち異なるカットオフ特性を有するフィルタを構成し、信号処理部5で処理された信号をG-Vectoring制御向けの帯域(第2の帯域)に制限するフィルタリング処理を行う。
【0032】
このことは、低域通過フィルタ6によって定義されるセンサとしての出力周波数特性にとらわれず、加速度検出エレメント2からの信号を自由な帯域で使用できることを意味する。例えば、低い帯域だけを制御に用いる場合は、第2の低域通過フィルタ7を第1の低域通過フィルタ6よりも低いカットオフ特性とすればよく、応答性を確保するために、その逆としてもよい。
【0033】
また、第2の低域通過フィルタ7が無限大に高いカットオフ特性を有する構成、すなわち一切の低域通過特性を有さない構成とし、車両制御量計算部8による制御量計算までに加速度信号の位相遅延を極力発生させないようにすることもできる。例えばベースバンド信号を次段の後述される車両制御量計算部8に直接伝送する構成にしたとしても、ノイズ除去は別段で実施したり、アクチュエータが持つ応答性によって間接的に実現したりすることが可能なためである。なお、本実施例では、第2の低域通過フィルタ7の帯域の方が、第1の低域通過フィルタ6の帯域よりも広い帯域に設定されている。
【0034】
図2は、車両制御量計算部の回路構成の一例を示す図である。
車両制御量計算部8は、例えば図2(a)に示す回路10の構成によって、上記背景技術に示した式(1)の演算、すなわち、横方向加速度および横方向加加速度(横方向加速度の微分値)に応じた進行方向加速度の制御量を得る。」

以上から、上記引用文献2には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「車両横方向の加加速度(加速度の微分)と予め定めたゲイン定数とに基づいて前記車両の進行方向の目標加速度(車両進行方向加速度)を生成する車両制御量計算部8と、を有し、
前記車両の進行方向の目標加速度(車両進行方向加速度)G_(xc)は、

(但し、G_(y):車両横方向加速度、G'_(y):車両横方向の加加速度(加速度の微分)、C_(xy):ゲイン定数、T:時定数、G_(x_DC):バイアス定数)で生成される、車両制御量計算部8。」

また、引用文献2には以下の事項が記載されている。

「ゲインを切り替えること。」

2 引用文献3
当審拒絶理由に引用された、本願の出願日前に頒布された引用文献3(特開2006-7926号公報)には、図面(特に、【図26】を参照。)とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0025】
まず、ステップS110で、車速センサ20によって検出される自車速Vhと、舵角センサ30によって検出される自車両の操舵角δのデータを読み込む。ステップS120では、アクセルペダルストロークセンサ(不図示)によって検出されるアクセルペダル操作量SAを読み込む。つづくステップS130で、レーダ装置10および車速センサ20の検出結果に従って障害物検知装置40で算出した複数の前方障害物に関する情報を読み込む。前方障害物に関する情報は、例えば各障害物に対する前後方向の距離(車間距離)Dと相対速度Vr,自車両に対する障害物の左右方向位置xと前後方向位置y、および障害物の幅である。
【0026】
ステップS140では、ステップS110で読み込んだ自車速Vhおよび操舵角δに基づいて、自車両の進路を推定する。以下に、予測進路の推定方法を図9および図10を用いて説明する。予測進路を推定するために、図9に示すように自車両が矢印方向に進行している場合の旋回半径Rを算出する。まず、自車両の旋回曲率ρ(1/m)を算出する。旋回曲率ρは、自車速Vhおよび操舵角δに基づいて、以下の(式1)で算出できる。
ρ=1/{L(1+A・Vh^(2))}×δ/N・・・(式1)
ここで、L:自車両のホイールベース、A:車両に応じて定められたスタビリティファクタ(正の定数)、N:ステアリングギア比である。
【0027】
旋回半径Rは、旋回曲率ρを用いて以下の(式2)で表される。
R=1/ρ ・・・(式2)
(式2)を用いて算出した旋回半径Rを用いることで、図9に示すように自車両の走行軌道を半径Rの円弧として予測することができる。そして、図10に示すように、旋回半径Rの円弧を中心線とした幅Twの領域を、自車両が走行するであろう予測進路として設定する。幅Twは、自車両の幅に基づいて予め適切に設定しておく。
【0028】
ステップS150では、障害物検知装置40によって検出され、ステップS140で設定した自車両の予測進路内にある障害物のうち、自車両に最も近い物体を、制御の対象とする前方障害物として選択する。
【0029】
つづくステップS160では、ステップS150で選択した前方障害物に対する自車両のリスクポテンシャルRPを算出する。前方障害物(先行車)に対するリスクポテンシャルRPは以下のようにして算出する。
【0030】
まず、先行車に対する余裕時間TTC(Time To Contact)を算出する。余裕時間TTCは、先行車に対する現在の自車両の接近度合を示す物理量であり、現在の走行状況が継続した場合、つまり自車速Vhおよび相対車速Vr(先行車速-自車速)が一定の場合に、何秒後に車間距離Dがゼロとなり自車両と先行車両とが接触するかを示す値である。障害物に対する余裕時間TTCは、以下の(式3)で求められる。
TTC=-D/Vr ・・・(式3)
【0031】
余裕時間TTCの値が小さいほど、先行車への接触が緊迫し、先行車への接近度合が大きいことを意味している。例えば先行車への接近時には、余裕時間TTCが4秒以下となる前に、ほとんどのドライバが減速行動を開始することが知られている。
【0032】
つぎに、自車両と先行車との車間時間THWを算出する。車間時間THWは、自車両が先行車に追従走行している場合に、想定される将来の先行車の車速変化による余裕時間TTCへの影響度合、つまり相対車速Vrが変化すると仮定したときの影響度合を示す物理量である。車間時間THWは、以下の(式4)で表される。
THW=D/Vh ・・・(式4)
【0033】
車間時間THWは、車間距離Dを自車速Vhで除したものであり、先行車の現在位置に自車両が到達するまでの時間を表す。この車間時間THWが大きいほど、周囲の環境変化に対する予測影響度合が小さくなる。つまり、車間時間THWが大きい場合には、もしも将来に先行車の車速が変化しても、先行車までの接近度合には大きな影響を与えず、余裕時間TTCはあまり大きく変化しないことを示す。なお、自車両が先行車に追従し、自車速=先行車速である場合は、(式4)において自車速Vhの代わりに先行車速を用いて車間時間THWを算出することもできる。
【0034】
つぎに、余裕時間TTCと車間時間THWを用いて、自車両周囲のリスクポテンシャルRPを算出する。自車両周囲のリスクポテンシャルRPは、以下の(式5)で算出することができる。
RP=a/THW+b/TTC ・・・(式5)
ここで、a、bは、車間時間THWおよび余裕時間TTCにそれぞれ適切な重み付けをするための定数であり、予め適切な値を設定しておく。定数a、bは、例えばa=1,b=8(a<b)に設定する。
【0035】
つづくステップS170では、ステップS160で算出した自車両のリスクポテンシャルRPについて、領域判定を行う。具体的には、自車両のリスクポテンシャルRPが複数の領域のうち、いずれの領域に属するかを判定する。ここでは、図11に示すようにリスクポテンシャルRPに対して3つの領域(領域1、領域2、領域3)を設定する。リスクポテンシャルRPが所定値RP_Th1よりも小さい場合(0≦RP<RP_Th1)は領域1、所定値RP_Th2よりも小さい場合(RP_Th1≦RP<RP_Th2)は領域2、所定値RP_Th2以上の場合(RP≧RP_Th2)は領域3と判定する。
【0036】
ステップS180では、ステップS170で判定したリスクポテンシャルRPの領域に応じて制御反発力Fcを算出する。図12に、各領域1?3と制御反発力Fcとの関係を示す。領域1においては制御反発力Fc=Fc1、領域2においては制御反発力Fc=Fc2,領域3においては制御反発力Fc=Fc3に設定する。ここで、Fc1<Fc2<Fc3とする。
【0037】
リスクポテンシャルRPが領域間を遷移する場合は、以下の(式6)に示すように、所定の変化率ΔFcで制御反発力Fcを変化させる。
・領域1から領域2への遷移:Fc=Fc1+ΔFc12・T
・領域2から領域1への遷移:Fc=Fc2-ΔFc12・T
・領域2から領域3への遷移:Fc=Fc2+ΔFc23・T
・領域3から領域2への遷移:Fc=Fc3-ΔFc23・T ・・・(式6)」

イ 「【0077】
まず、リスクポテンシャルRPの領域判定処理について説明する。この処理は、図8に示したフローチャートのステップS170で実行される。なお、ここでは上述した(式3)および(式4)から算出した余裕時間TTCおよび車間時間THWを、それぞれ障害物に対する自車両のリスクポテンシャルRPとして算出する。したがって、余裕時間TTCおよび車間時間THWについて、それぞれリスクポテンシャルRPの領域判定を行う。図23に、車間時間THWおよび余裕時間TTCと各領域1?3との関係を示す。
【0078】
図23に示すように、車間時間THWが所定値THW_Th1よりも大きくリスクポテンシャルRPが小さい場合は領域1、車間時間THWが所定値THW_Th2よりも大きくリスクポテンシャルRPが中程度の場合は領域2、車間時間THWが所定値THW_Th2以下でリスクポテンシャルRPが大きい場合は領域3とする。また、余裕時間TTCが所定値TTC_Th1よりも大きくリスクポテンシャルRPが小さい場合は領域1、余裕時間TTCが所定値TTC_Th2よりも大きくリスクポテンシャルRPが中程度の場合は領域2、余裕時間TTCが所定値TTC_Th2以下でリスクポテンシャルRPが大きい場合は領域3とする。
【0079】
車間時間THWと余裕時間TTCについて判定したリスクポテンシャルRPの領域が異なる場合は、リスクポテンシャルRPが大きいほうの領域を選択する。例えば、車間時間THWについて領域1と判定され、余裕時間TTCについて領域2と判定された場合は、領域2を選択する。
【0080】
つぎに、制御反発力Fcの算出処理について図24のフローチャートを用いて説明する。この処理は、図8のフローチャートのステップS180において実行される。制御反発力Fcの算出について、図25(a)に示すように、自車両前方に長さlの仮想的な弾性体を設けたと仮定し、この仮想的な弾性体が前方車両に当たって圧縮され、自車両に対する擬似的な走行抵抗を発生するというモデルを考える。制御反発力Fcは、図25(b)に示すように仮想弾性体が前方車両に当たって圧縮された場合の反発力と定義する。
【0081】
ここでは、車間時間THWに関連づけた仮想弾性体、および余裕時間TTCに関連づけた仮想弾性体とを自車両と前方障害物との間に設定したモデルを想定し、それぞれの仮想弾性体による反発力を、車間時間THWに基づく制御反発力Fc1および余裕時間TTCに基づく制御反発力Fc2として算出する。
【0082】
まず、ステップS1801では、車間時間THWをしきい値Th1と比較する。車間時間THWがしきい値Th1(例えば1sec)より小さい場合(THW<Th1)は、ステップS1802へ進む。ステップS1802では、以下の(式7)から車間時間THWに基づく制御反発力Fc1を算出する。
Fc1=k1×(Th1-D) ・・・(式7)
(式7)においてk1は車間時間THWに関連付けた仮想弾性体のばね定数である。バネ定数k1は制御反発力Fc1の特性を決定するゲインであり、後述するようにリスクポテンシャルRPの領域に応じて設定される。一方、ステップS1801でTHW≧Th1と判定された場合は、ステップS1803へ進んで制御反発力Fc1=0にする。
【0083】
つづくステップS1804では、余裕時間TTCをしきい値Th2と比較する。余裕時間TTCがしきい値Th2(例えば10sec)より小さい場合(TTC<Th2)は、ステップS1805へ進む。ステップS1805では、以下の(式8)から余裕時間TTCに基づく制御反発力Fc2を算出する。
Fc2=k2×(Th2-D) ・・・(式8)
(式8)においてk2は余裕時間TTCに関連付けた仮想弾性体のばね定数である。バネ定数k2は制御反発力Fc2の特性を決定するゲインであり、後述するようにリスクポテンシャルRPの領域に応じて設定される。一方、ステップS1804でTTC≧Th2と判定された場合は、ステップS1806へ進んで制御反発力Fc2=0にする。
【0084】
つづくステップS1807では、ステップS1802またはS1803で算出した車間時間THWに基づく制御反発力Fc1と、ステップS1805またはS1806で算出した余裕時間TTCに基づく制御反発力Fc2のうち、大きい方の値を最終的な制御反発力Fcとして選択する。
【0085】
図26に、リスクポテンシャルRPの各領域1?3とゲインk1、k2との関係を示す。図26に示すように、領域1においてはゲインk1=k1_1、ゲインk2=k2_1、領域2においてはゲインk1=k1_2、ゲインk2=k2_2、領域3においてはゲインk1=k1_3、ゲインk2=k2_3とする。なお、k1_1<k1_2<k1_3、k2_1<k2_2<k2_3である。
【0086】
領域間の遷移状態においては、以下の(式9)に示すように、それぞれ所定の変化率Δk1、Δk2でゲインk1、k2を変化させる。
・領域1から領域2への遷移:k1=k1_1+Δk1_12・T
k2=k2_1+Δk2_12・T
・領域2から領域1への遷移:k1=k1_2-Δk1_12・T
k2=k2_2-Δk2_12・T
・領域2から領域3への遷移:k1=k1_2+Δk1_23・T
k2=k2_2+Δk2_23・T
・領域3から領域2への遷移:k1=k1_3-Δk1_23・T
k2=k2_3-Δk2_23・T ・・・(式9)
【0087】
ここで、ゲインk1、k2の変化率Δk1_12,Δk2_12は、領域1と領域2の間で遷移する際のゲインk1、k2の時間変化を決定する値、変化率Δk1_23,Δk2_23は、領域2と領域3の間で遷移する際のゲインk1、k2の時間変化を決定する値であり、Δk1_12<Δk1_23、Δk2_12<Δk2_23、となるように予め適切な値を設定しておく。なお、(式9)において、Tは領域が変化してから(遷移状態)の時間である。
【0088】
図26に示すようにリスクポテンシャルRPの領域に対応して設定したゲインk1、k2を用いて、上述した(式7)(式8)により制御反発力Fc1,Fc2を算出する。図27に、リスクポテンシャルRPが増加していく場合の、リスクポテンシャルRPに対するゲインの変化を示す。図27においてはとくに、車間時間THWの逆数に対するゲインk1の変化を示している。
【0089】
図27に示すように、領域1においてゲインk1=k1_1である。リスクポテンシャルRP、すなわち車間時間THWの逆数が大きくなって領域1から領域2に移行すると、ゲインk1が変化率Δk1_12でk1_2まで徐々に増加する。車間時間THWの逆数がさらに大きくなって領域2から領域3に移行すると、ゲインk1が変化率Δk1_23でk1_3まで徐々に増加する。領域2および領域3において、ゲインk1は遷移状態を過ぎるとそれぞれk1_2、k1_3で固定される。」

以上から、上記引用文献3には次の事項が記載されていると認められる。

「前方障害物に関する情報及び自車速Vhと自車両の操舵角δ、アクセルペダル操作量SAを読み込み前方障害物に対する自車両のリスクポテンシャル(RP)を算出し、リスクポテンシャル(RP)に応じて制御反発力Fcのゲインk1及びk2を変化させる点。」

3 引用文献4
当審拒絶理由に引用された、本願の出願日前に頒布された引用文献4(特開2010-30505号公報)には、図面(特に【図6】を参照。)とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0024】
次に、操舵反力制御部82を、図5を参照しつつ説明する。
操舵反力制御部82は、図5に示すように、リスク演算部82a、目標操舵角演算部82b、及び反力制御演算部82cを備える。
ここで、上述のレーザレーダ11が、自車両の左右前方に存在する障害物、例えば隣接車線の車両あるいは対向車両までの車間距離、相対速度およびその存在方向(相対角度)を検出する。検出情報はリスク演算部82aに出力する。
また、前方カメラ10が、前方道路風景を画像として取り込む。前方カメラ10による検知領域は、水平方向に±45度程度であり、この検知領域内の前方道路風景から、自車両周囲の障害物状況を検出する。検出情報はリスク演算部82aに出力する。
【0025】
そして、リスク演算部82aは、レーザレーダ11、車速センサ9、及び前方カメラ10から入力した信号に基づいて、自車両の周囲に存在する障害物までの前後方向相対距離D、および相対速度Vrを算出する。そして、障害物までの前後方向相対距離D、および相対速度Vrに基づき、自車両における、左右方向のリスクポテンシャルRPを算出する。リスクポテンシャルRPは、自車両周囲のリスク度合いの指標である。
【0026】
具体的には、自車両右方向に関するリスクポテンシャルRPr、及び自車両左方向に関するリスクポテンシャルRPlをそれぞれ個別に算出する。このとき、自車両と障害物(他車両を含む。以下、同様)との前後方向車間距離D、前後方向相対速度Vr、および自車両に対する障害物の存在方向を使用する。
ここで、障害物の存在方向は、自車両正面を基準とした、自車両の進行方向に対する障害物の左右方向の相対角度βを用いる。
【0027】
リスクポテンシャルRPは、例えば、下記(8)式のように、障害物までの前後方向に関する余裕時間TTCを使用して算出する。
RP = sin|β|/TTC ・・・(8)
ここで、余裕時間TTCは下記式で表す。
TTC =D/Vr
この余裕時間TTCは、その符合に応じて、障害物や他車両に対し自車両が接近傾向か離脱傾向かを判断することができる。自車両が他車両や障害物に対して接近傾向である場合は、正の値となる。
【0028】
そして、周囲車両などに対する前後方向の余裕時間TTCが小さいほど、上記リスクポテンシャルRPは大きな値となる。また、相対角度β=90度のようなより併走状態に近いほど、上記リスクポテンシャルRPは大きい値となる。
そして、自車両の周囲に存在する、検出した他車両や障害物などの全ての対象物に対して、リスクポテンシャルRPを個別に算出する。
次に、右方向の領域に存在する他車両や障害物に対する各リスクポテンシャルRPの最大値または総和を右方向リスクポテンシャルRPrとする。同様に、左方向の領域に存在する他車両や障害物に対する各リスクポテンシャルRPの最大値または総和を左方向リスクポテンシャルRPlとする。ここで、相対角度βについて右方向を正と設定すると、相対角度βが正値と負値とによって、各リスクポテンシャルRPについて、右方向か左方向かの区別は可能である。
【0029】
続いて、算出した右方向リスクポテンシャルRPr、および左方向リスクポテンシャルRPlに基づいて、操舵反力ゲインkを算出する。
図6の右側に、リスクポテンシャルRPに対する操舵反力ゲインkの特性の一例を示す。
操舵反力ゲインkは、リスクポテンシャルRPの関数として設定し、図6に示すように、リスクポテンシャルRPが大きくなるほど増加するように設定しておく。また、車速が高くなるほど、操舵角に対する車両運動(ヨー角速度、横加速度)のゲインは高くなる。これに基づき、リスクポテンシャルRPに対する操舵反力ゲインkの値を、車速が高いほど大きい値となるように設定する。但し、リスクポテンシャルRPが所定値以下の場合には、操舵反力ゲインkを一定値とする。
【0030】
また、図6に左側に示すように、リスクポテンシャルRPの増加率が高い程、操舵反力ゲインkが高くなるように補正する。
例えば、操舵反力ゲインkは次のように表すことが出来る。
k = K1・f(V)・RP + K2・f(V)・dRP/dt
K1及びK2は、定数である。f(V)は車速Vに比例した関数である。
ここで、操舵反力ゲインkは、右方向及び左方向リスクポテンシャルRPr、RPlのいずれか大きい値の方に基づいて出力しても良い。すなわち、左右のリスクポテンシャルそれぞれに対応した操舵反力ゲインkrおよびklを出力し、操舵反力の特性をリスクの方向に応じて独立に設定できる構成とすると、運転者にとって、よりリスクを正確に把握できる構成とすることができる。
そして、リスク演算部82aは、算出した操舵反力ゲインk(またはkrとkl)を反力制御演算部82cに出力する。」

以上から、上記引用文献4には次の事項が記載されていると認められる。

「リスク演算部82aは、レーザレーダ11、車速センサ9、及び前方カメラ10から入力した信号に基づいて、障害物までの前後方向相対距離Dおよび相対速度Vrを算出し、障害物までの前後方向相対距離Dおよび相対速度Vrに基づいてリスクポテンシャルを算出し、リスクポテンシャルRPが大きくなるほど操舵反力ゲインkが増加するよう操舵反力ゲインkを設定し、反力制御演算部82cに出力すること。」

第6 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「車両横方向の加加速度(加速度の微分)」は、その機能、構成及び技術的意義からみて前者の「車両の横加加速度」に相当し、以下同様に、「車両の進行方向の目標加速度(車両進行方向加速度)」は「車両の前後運動制御指令」及び「前後運動制御指令値」に、「車両制御量計算部8」は「車両前後運動制御部」及び「車両の運動制御装置」に、「車両横方向加速度」は「車両横加速度」に、「G’y :車両横方向の加加速度(加速度の微分)」は「Gy_dot:車両横加加速度」に、「ゲイン定数」は「ゲイン」に、「時定数」は「一次遅れ時定数」に、「バイアス定数」は「オフセット」にそれぞれ相当する。
また、後者の式に記載される「s」は前者の「s:ラプラス演算子」に相当する。

したがって、両者は、
「車両の横加加速度と予め定めたゲインとに基づいて前記車両の前後運動制御指令を生成する車両前後運動制御部と、を有し、
前記前後運動制御指令値G_(xc)は、


(但し、Gy:車両横加速度、Gy_dot:車両横加加速度、Cxy:前記ゲイン、T:一次遅れ時定数、s:ラプラス演算子、G_(x_DC):オフセット)で生成される、車両の運動制御装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
前者は、「距離取得手段が取得した障害物までの距離情報及び車両情報に基づいて、車両の危険ポテンシャルを推定する危険ポテンシャル推定部」及び「ゲインを調整するゲイン調整部」を有し、「ゲイン調整部」は、「危険ポテンシャル推定部で推定された危険ポテンシャルに基づいてゲインが調整」され、さらに、「ゲインが大きいほど、危険ポテンシャルは高い」ものであるのに対し、後者は、かかる構成を備えていない点。

第7 判断
上記相違点について検討する。
引用文献2の記載事項は、「ゲインを切り替えること。」である。すなわち、引用文献2にはゲインを切り替えることが開示されている。
また、引用文献3の記載事項は
「前方障害物に関する情報及び自車速Vhと自車両の操舵角δ、アクセルペダル操作量SAを読み込み前方障害物に対する自車両のリスクポテンシャル(RP)を算出し、リスクポテンシャル(RP)に応じて制御反発力Fcのゲインk1及びk2を変化させる点。」
である。
そして、引用文献4の記載事項は
「リスク演算部82は、レーザレーダ11、車速センサ9、及び前方カメラ10から入力した信号に基づいて、障害物までの前後方向相対距離Dおよび相対速度Vrを算出し、障害物までの前後方向相対距離Dおよび相対速度Vrに基づいてリスクポテンシャルを算出し、リスクポテンシャルRPが大きくなるほど操舵反力ゲインkが増加するよう操舵反力ゲインkを設定し、反力制御演算部82cに出力すること。」
である。すなわち、車両の運動制御において、
「距離取得手段が取得した障害物までの距離情報及び車両情報に基づいて、車両の危険ポテンシャルを推定」し、「推定された危険ポテンシャルに基づいてゲインが調整」されるようにすることは周知技術といえる。そして、車両の周囲の障害物を回避するよう車両を制御することは、車両制御における一般的な課題であって、引用発明もまた有しているといえるものである。
そうすると、引用発明に対し、該周知技術を適用することは、当業者であれば容易になし得たことである。
そして、「ゲインが大きいほど、危険ポテンシャルは高い」ことは、引用文献4の記載事項にみられるように、車両制御の内容に応じて、当業者が通常の創作能力の範囲で適宜選択し得たことである。
そうすると、引用発明において、周知技術に基づき、当業者の通常の創作能力の範囲で相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、容易になし得たことである。

また、本願発明は、全体としてみても、引用発明及び周知技術から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第8 請求人の意見について
令和元年7月18日付けの意見書において、請求人は「一般に、制御対象を数式演算により制御する場合に種々のゲインを含むことは普通のことであるので、引用文献2にゲインを切り替えることそれ自体が記載されていることは否定しませんが、ゲインを切り替えるという場合には、単にゲインの上げ下げだけではなく、ゲインの調節の対象(ゲインを係数として持つパラメータ)及び制御対象との関連性(そのようなパラメータによってどのように制御対象を制御するか)によってゲインの調節の有様は異なるものです。そのことからすると、抽象的にゲインを取り扱うのではなく、ゲインの調節の対象及び制御対象との関連性を特定して初めてまとまりある一つの技術的事項として論じられるものと考えます。
そこで、引用文献2の記載に立ち返って、仮に、審判長(審判官)殿が認定されるように、引用文献2に『ゲインが切り替えられること』が記載されているとして、ゲインの調節の対象及び制御対象との関連性を捨象するならば、前記したとおり、引用文献2には、本願の請求項1に係る発明の『前記ゲインが大きいほど、前記危険ポテンシャルは高い、』、すなわち、危険ポテンシャルが高いときは、ゲインが大きくなっている、という構成と、ゲインを真逆に変化させる構成が記載されているといえます。さらに、そのような引用文献2の記載に基づいて、本願の請求項1に係る発明の構成と同様に『ゲインが大きいほど、前記危険ポテンシャルは高い、』という構成を導き出すことには、引用文献2に開示された発明の実現を阻害する要因が存在するものと思量します。
逆に、前記した請求人の意見に則して、ゲインの調節の対象及び制御対象との関連性まで特定するならば、引用文献2には、本願の請求項1に係る発明の数式における『-sgn(Gy・G’y)|G’y|/(1+Ts)』に乗算されるゲインCxyをどのように調整するかについて、具体的に示唆するところはなく、さらには、そのようなゲインについて、『ゲインが大きいほど、前記危険ポテンシャルは高い、』ということについても示唆すらされていないということになります。
したがって、どのように引用文献2をみても、本願の請求項1に係る発明の構成を導き出すためには、その動機づけが欠如しているか又は引用文献2に開示された発明又は技術の実現を阻害する要因が存在すると思量します。」と主張する。
また、「審判長(審判官)殿は、拒絶の理由の通知において、引用文献3には、『前方障害物に関する情報及び自車速Vhと自車両の操舵角δ、アクセルペダル操作量SAを読み込み前方障害物に対する自車両のリスクポテンシャル(RP)を算出し、リスクポテンシャル(RP)に応じて制御反発力Fcのゲインk1及びk2を変化させる点。』が記載されており、引用文献4には、『リスク演算部82は、レーザレーダ11、車速センサ9、及び前方カメラ10から入力した信号に基づいて、障害物までの前後方向相対距離Dおよび相対速度Vrを算出し、障害物までの前後方向相対距離Dおよび相対速度Vrに基づいてリスクポテンシャルを算出し、リスクポテンシャルRPが大きくなるほど操舵反力ゲインkが増加するよう操舵反力ゲインkを設定し、反力制御演算部82cに出力すること。』が記載されているとしています。
しかしながら、いずれの引用文献においても、リスクポテンシャルに応じてゲインを変えることは、制御反発力や操舵反力といった手段により運転者にリスクに接近している状態を伝えるために行われていることです。
しかも、かかるゲインを変えることとG-Vectoring制御のゲインとの関係は示されていません。
すなわち、引用文献3の制御反発力は、自車両に仮想的に発生する走行抵抗として算出されるものであり(同文献段落〔0023〕等参照)、同制御反発力に関わるゲインは、『リスクポテンシャルRPが変化して領域が遷移する場合は、領域が変化したことを運転者が容易に知覚できるように』設定されるというものです。
また、引用文献4の操舵反力に関わるゲインは、『走行中のリスクに対応した操舵反力を確実に運転者に伝達することができる』ことを目的とするものであり、また、『運転者にとって、リスクへ接近している状態を理解し易』くすることを目的としているものです(同文献段落〔0006〕等参照)。
したがって、仮にかかる周知技術を引用文献2に記載された発明に組み合わせることができたとしても、それは、せいぜい、引用文献2に記載されたG-Vectoring制御に、新たに運転者へのリスクに接近している状態を伝える手段が追加されて、リスクポテンシャルの高い時に反力が生じて運転者に気づきを与えることができるようになるだけで、本願の請求項1に係る発明のように、通常時には、ぎくしゃくせず、緊急回避操舵時には確実にドライバをアシストする、具体的には前輪の舵の効きを向上する、というような目的を達成するために、G-Vectoring制御自体のパラメータのゲインを変更することにはつながりません。」と主張する。
そこで、これら主張について検討する。
引用発明が本願発明の「ゲインが大きいほど、前記危険ポテンシャルは高い」との発明特定事項を備えていないことは、当審拒絶理由の[相違点2]及び本審決の「第6」において示したとおりである。しかしながら、引用文献2の記載事項及び請求人の「一般に、制御対象を数式演算により制御する場合に種々のゲインを含むことは普通のこと」との指摘を踏まえれば、引用発明の「Cxy:横加加速度ゲイン」が調整できるゲインであることは当業者であれば容易に理解し得たことである。
また、本審決の「第7」において上述したとおり、「距離取得手段が取得した障害物までの距離情報及び車両情報に基づいて、車両の危険ポテンシャルを推定」し、「推定された危険ポテンシャルに基づいてゲインが調整」されるようにすることは周知技術であり、該周知技術は車両の走行制御或いは運動制御に係るものであるから、同じ車両の走行制御或いは運動制御に属する引用発明の目標加速度(車両進行方向加速度)Gxcのゲイン定数(Cxy)を、該周知技術に基づき「距離取得手段が取得した障害物までの距離情報及び車両情報に基づいて、車両の危険ポテンシャルを推定」し、「推定された危険ポテンシャルに基づいてゲインが調整」するようにすることは当業者であれば容易になし得たことである。
そして、「ゲインが大きいほど、危険ポテンシャルは高い」ことは、採用する車両の走行制御或いは運動制御の式に応じて当業者の通常の創作能力の範囲で適宜選択しうる事項であり、引用文献4の記載事項に開示されているように、当業者において既に知られた事項であるから、引用発明において、該周知技術に基づき「距離取得手段が取得した障害物までの距離情報及び車両情報に基づいて、車両の危険ポテンシャルを推定」し、「推定された危険ポテンシャルに基づいてゲインが調整」するようにする際、当業者の通常の創作能力の範囲で適宜なし得たことである。
また、引用文献2の段落【0006】(「第5」「1.」「ア」参照。)に記載されているとおり、引用発明は、「通常時には、ぎくしゃく」しないものであり、該周知技術は「緊急回避操舵時には確実にドライバをアシスト」するものであるから、引用発明において、該周知技術に基づき容易になし得たものといえる本願発明の効果は、当業者であれば、引用発明及び周知技術から予測し得えたことである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

第9 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-10-02 
結審通知日 2019-10-08 
審決日 2019-10-21 
出願番号 特願2017-2240(P2017-2240)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60W)
P 1 8・ 537- WZ (B60W)
P 1 8・ 03- WZ (B60W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 塩澤 正和鶴江 陽介  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 水野 治彦
齊藤 公志郎
発明の名称 車両の運動制御装置  
代理人 特許業務法人平木国際特許事務所  
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