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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08G |
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管理番号 | 1357572 |
審判番号 | 不服2018-12724 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-09-25 |
確定日 | 2019-12-04 |
事件の表示 | 特願2015-532426「ポリ(乳酸)マトリクスにおける添加剤として有用であるポリマーを調製するための新規バイオベースのプレポリマーおよびその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月27日国際公開、WO2014/044809、平成27年12月17日国内公表、特表2015-535867〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、2013年(平成25年)9月20日(パリ条約に基づく優先権主張:2012年9月21日、フランス(FR))の国際出願日に出願されたものとみなされる特許出願であって、平成27年5月27日に手続補正書が提出され、平成29年6月23日付けで拒絶理由が通知され、平成29年12月4日に意見書が提出されたが、平成30年5月18日付けで拒絶査定(原査定)がなされ、それに対して、平成30年9月25日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成27年5月27日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1、4、5、6に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」、「本願発明4」、「本願発明5」、「本願発明6」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 ポリエステル、ポリ(ビニルクロリド)、ポリウレタン、ポリアミド、ポリ(アルキルアクリレート)、ポリ(アルキルメタクリレート)、ポリスチレンまたはポリオレフィンのマトリクスにおける添加剤の調製のための、下記式(I): 【化1】 〔式中: A_(1)は、2?20個の炭素原子を含む、直鎖もしくは分岐鎖の二価のアルキレン基を示し、該基は、1個以上の不飽和を含んでいてもよく、かつ少なくとも1個の置換基-OAlk(Alkは、1?10個の炭素原子を含むアルキル基を示す)により置換されていてもよい; A_(2)は、2?20個の炭素原子を含む、直鎖もしくは分岐鎖の二価のアルキレン基を示し、該基は、1個以上の不飽和を含んでいてもよく、かつ少なくとも1個の置換基-OAlk(Alkは、1?10個の炭素原子を含むアルキル基を示す)により置換されていてもよい; A_(3)は、以下の二価の基: 2?600個の炭素原子を含む直鎖もしくは分岐鎖のアルキレンであり、該基は、1個以上の不飽和を含んでいてもよく、O、NおよびSより選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子により介在されていてもよく、かつ少なくとも1個の置換基-OAlk(Alkは、1?10個の炭素原子を含むアルキル基を示す)により置換されていてもよい;ならびに 6?30個の炭素原子を含むアリーレンであり、該基は、少なくとも1個の置換基-OAlk(Alkは、1?10個の炭素原子を含むアルキル基を示す)により置換されていてもよい; からなる群より選ばれ; X_(1)、X_(3)およびX_(4)は、同一または異なって、互いに独立して、-O-または-NH-を示し; X’_(2)は、-S-、-CH_(2)-および結合からなる群より選ばれ;ならびに nおよびmは、互いに独立して、1?1000の範囲の整数を示し: 基A_(1)、A_(2)およびX’_(2)の炭素原子の総数は、8個以上の条件にある〕を有する化合物の使用。」 「【請求項4】 添加剤が、下記式(II)、(III)、(IV)、(V)および(VI): 【化2】 〔式中、 X_(1)、X’_(2)、X_(3)、X_(4)、A_(1)、A_(2)、A_(3)、nおよびmは、請求項1に定義されたとおりであり; R_(1)およびR_(2)は、互いに独立して、H、または1?20個の炭素原子を含む直鎖もしくは分岐鎖のアルキルを示し、該アルキル基は、少なくとも1個の二重結合または1個の三重結合を含んでいてもよい; A_(4)は、1?20個の炭素原子を含む直鎖もしくは分岐鎖の二価のアルキレン基を示し、該基は、少なくとも1個の不飽和を含んでいてもよい; A_(5)は、以下の基: 1?20個の炭素原子を含む直鎖もしくは分岐鎖のアルキレンであり、該基は、少なくとも1個の不飽和を含んでいてもよい; 6?20個の炭素原子を含むアリーレンであり、該アリーレン基は、置換されていてもよい; 3?20個の炭素原子を含むシクロアルキレンであり、該シクロアルキレンは、置換されていてもよい; 6?30個の炭素原子を含むシクロアルキレン-アルキレン-シクロアルキレン;および 4?15個の炭素原子を含むアルキレン-シクロアルキレン; からなる群より選ばれ; vは、1?5000個の範囲の整数を示し; AおよびBは、以下の基: 【化3】 を示し; DおよびEは、以下の基: 【化4】 を示し; pおよびqは、互いに独立して、1?5000の範囲の整数を示し; tおよびsは、互いに独立して、1?5000の範囲の整数を示す〕を有する化合物からなる群より選ばれる、請求項1?3のいずれか一項記載の使用。 【請求項5】 下記式(IA): 【化5】 〔式中、 X_(1)、X_(3)、X_(4)、A_(1)、A_(2)、A_(3)、nおよびmは、請求項1に定義されたとおりであり; X_(2)は、-CH_(2)-または結合を示し;ならびに 基A_(1)、A_(2)およびX_(2)の炭素原子の総数が、8個以上の条件にある〕を有し、但し、 下記化合物: 【化6】 を除く、化合物。 【請求項6】 下記式(II): 【化7】 〔式中、 X_(1)、X’_(2)、X_(3)、X_(4)、A_(1)、A_(2)、A_(3)、nおよびmは、請求項1に定義されたとおりであり; R_(1)、R_(2)、pおよびqは、請求項4に定義されたとおりである〕を有する化合物。」 第3 原査定の拒絶査定の概要 原査定の拒絶の理由のうち、請求項5及び6に係る発明に対する主な拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。 <拒絶理由通知> 「 理由 1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ・・(中略)・・ 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・・(中略)・・ ●理由1.、2.(新規性、進歩性)について [1] ・請求項 1-6,12,13 ・引用文献等 1,2 ・・(中略)・・ 引用文献1には、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミドなどの水酸基を有するアミド化合物と、ラクチドまたは乳酸を主成分とするモノマーを重合させ、乳酸由来の単位と水酸基を有するアミド化合物由来の単位からなるポリマーを得る旨、ラクチドまたは乳酸を主成分とするモノマー100重量部に対して0.001?10重量部で該アミド化合物を用いる旨の記載があることから(【0017】-【0019】)、得られる化合物は、請求項6の規定を満たすと判断される。 また、該アミド化合物は、請求項5の規定を満たすものである。 ・・(中略)・・ <引用文献等一覧> 1.特開2007-332343号公報 2.特開2005-113001号公報(周知技術を示す文献)」 <拒絶査定> 「この出願については、平成29年 6月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由1.-3.によって、拒絶をすべきものです。 なお、平成29年12月 4日付け意見書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。 ●理由1.、2.(特許法第29条第1項第3号、同第2項)について[1] ・請求項 1-6,12,13 ・引用文献等 1,2,4-6 ・・(中略)・・ 引用文献1には、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミドなどの水酸基を有するアミド化合物と、ラクチドまたは乳酸を主成分とするモノマーを重合させ、乳酸由来の単位と水酸基を有するアミド化合物由来の単位からなるポリマーを得る旨、ラクチドまたは乳酸を主成分とするモノマー100重量部に対して0.001?10重量部で該アミド化合物を用いる旨、該ポリマーをポリ乳酸系樹脂に対して配合する旨の記載がある(特許請求の範囲、【0017】-【0019】、【0031】)。 該ポリマーは、「ポリ乳酸系樹脂の高分子鎖中にアミド基を含有するポリマー」(【0017】)である旨、「乳酸由来の単位と水酸機を有するアミド化合物由来の単位からなるポリマーである」(【0017】)旨の記載があること、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド自体が本願請求項1の式(I)、請求項5の式(IA)の規定を満たす化合物であること、技術常識(例えば参考文献4の段落【0057】、【0079】、図1,2、参考文献5の段落【0031】、【0032】、参考文献6の請求項1、段落【0091】、【0092】)を参酌すれば、この化合物存在下でラクチドを重縮合すれば、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミドが開始剤として働き、その2つの水酸基を起点としてラクチドの重縮合が進むと判断されることから、得られた化合物は、本願請求項6の式(II)の構造を有する化合物に相当する。 ・・(中略)・・ <引用文献等一覧> 1.特開2007-332343号公報 2.特開2005-113001号公報 3.特開昭61-36373号公報 4.国際公開第2010/082639号(新たに引用された文献;周知技術を示す文献) 5.特開2009-263680号公報(新たに引用された文献;周知技術を示す文献) 6.特開2009-227717号公報(新たに引用された文献;周知技術を示す文献)」 第4 引用文献の記載及び引用発明 1.引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の事項が記載されている。 (下線は当審が付与した。以下同様。) ア 「【0017】 以下、本発明について詳細に説明する。 [特定の構造を有するポリ乳酸系化合物(A)] 本発明で示す特定の構造を有するポリ乳酸系化合物(A)とは、後述するポリ乳酸系樹脂(B)の高分子鎖中に特定の構造を含むポリマーとのことであり、具体的にはポリ乳酸系樹脂の高分子鎖中にアミド基を含有するポリマーである。特定の構造を有するポリ乳酸系化合物(A)中のアミド基の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.01?5mol%、更に好ましくは0.03?3mol%である。特定の構造を有するポリ乳酸系化合物(A)は、公知公用の方法で得ることができる、例えば、水酸基を有するアミド化合物と、ラクチドまたは乳酸を主成分とするモノマーを重合させることで得ることができる。ラクチドおよび乳酸以外のその他のモノマーとしては、カプロラクトン、プロピオラクトン、ブチロラクトン等の環状エステル(ラクトン)類、ヒドロキシブタン酸、ヒドロキシプロパン酸等のヒドロキシアルカン酸類を用いることができる。好ましくは乳酸由来の単位と水酸機を有するアミド化合物由来の単位からなるポリマーである。 【0018】 水酸基を有するアミド化合物としては、12-ヒドロキシステアリン酸アミド、12-ヒドロキシ-cis-9-オクタデセノアミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミド、2-アセトアミドエタノール、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス-12-ステアリン酸アミド、m-キシリレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド等が挙げられる。これらの中でもエチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス-12-ステアリン酸アミド、m-キシリレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド、12-ヒドロキシ-cis-9-オクタデセノアミドが好ましい。これらは単独、又は2種以上用いてもよい。 【0019】 水酸基を有するアミド化合物の添加量は特に限定されるものではないが、ラクチドまたは乳酸を主成分とするモノマー100重量部に対して0.001?10重量部であり、好ましくは0.01?5重量部、さらに好ましくは0.1?3重量部である。 【0020】 ラクチド、乳酸またはその他のモノマーの重合を行う際に溶媒を使用しても構わない。例えばヘキサン、ヘプタン、デカンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、ジグリムなどのエーテル系溶媒などが用いられる。これらの溶媒は、1種単独または2種以上組み合わせて用いることができる。ラクチドや乳酸の溶解性、反応温度、反応速度、反応終了後の溶媒除去の容易性等の点から、芳香族炭化水素とエーテル系溶媒が好ましく用いられる。特に好ましくはキシレン、トルエンである。溶媒の使用量は、とラクチドまたは乳酸の合計量に対して、0.1?20倍の範囲で選択される。特に好ましくは0.5?3倍である。 また重合において用いて触媒には公知のものが使用できる。例えばオクタン酸スズ(2-エチルヘキサン酸スズ)、ジラウリン酸ジブチルスズ、塩化スズ等のスズ系触媒、塩化チタン、チタンテトライソプロポキシド等のチタン系触媒、塩化亜鉛、酢酸亜鉛等の亜鉛系触媒があげられ、好ましくはスズ系触媒であり、さらに好ましくは、オクタン酸スズである。触媒の使用量は、ラクタイド100重量部に対して、触媒0.001?5重量部であり、好ましくは0.003?1重量部であり、さらに好ましくは0.005?0.1重量部である。」 イ 「【0049】 [製造例1] L-ラクチド299.4g、D-ラクチド3.02g、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド1.89g、オクタン酸スズ15mg(5wt%キシレン溶液を0.30g添加)を2000mlセパラブルフラスコに入れ、窒素を流しながら190℃の条件下で4時間重合を行った。重合終了後、反応物をクロロホルム1800mlに溶解させ、メタノール中で撹拌しながら沈殿させて、よく撹拌して残存するラクチドを除去し、吸引ろ過を行った。メタノールでリンス洗浄をして、50℃、2kPaで24時間乾燥させて、重量平均分子量14.8万のポリマー(A-1)を269.8g得た。また、^(1)H-NMRにより、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミドに由来するアミド基の水素の存在、水酸基の水素の消出を確認した。 【0050】 [製造例2] L-ラクチド299.4g、D-ラクチド3.02g、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド1.76g、オクタン酸スズ15mg(5wt%キシレン溶液を0.30g添加)を2000mlセパラブルフラスコに入れ、窒素を流しながら190℃の条件下で4時間重合を行った。重合終了後、反応物をクロロホルム1800mlに溶解させ、メタノール中で撹拌しながら沈殿させて、よく撹拌して残存するラクチドを除去し、吸引ろ過を行った。メタノールでリンス洗浄をして、50℃、2kPaで24時間乾燥させて、重量平均分子量16.8万のポリマー(A-2)を278.2g得た。また、^(1)H-NMRにより、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミドに由来するアミド基の水素の存在、水酸基の水素の消出を確認した。」 したがって、上記引用文献1には、特に摘記イの製造例1、2からみて、次の発明が記載されているものと認める。 「エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド。」(以下「引用発明1」という。) さらに、上記引用文献1には、摘記イの製造例1の記載からみて、次の発明が記載されているものと認める。 「L-ラクチド299.4g、D-ラクチド3.02g、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド1.89g、オクタン酸スズ15mg(5wt%キシレン溶液を0.30g添加)を2000mlセパラブルフラスコに入れ、窒素を流しながら190℃の条件下で4時間重合を行った。重合終了後、反応物をクロロホルム1800mlに溶解させ、メタノール中で撹拌しながら沈殿させて、よく撹拌して残存するラクチドを除去し、吸引ろ過を行った。メタノールでリンス洗浄をして、50℃、2kPaで24時間乾燥させて、重量平均分子量14.8万のポリマー(A-1)269.8gであって、また、^(1)H-NMRにより、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミドに由来するアミド基の水素の存在、水酸基の水素の消出を確認したポリマー。」(以下「引用発明2」という。) さらに、上記引用文献1には、摘記イの製造例2の記載からみて、次の発明が記載されているものと認める。 「L-ラクチド299.4g、D-ラクチド3.02g、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド1.76g、オクタン酸スズ15mg(5wt%キシレン溶液を0.30g添加)を2000mlセパラブルフラスコに入れ、窒素を流しながら190℃の条件下で4時間重合を行った。重合終了後、反応物をクロロホルム1800mlに溶解させ、メタノール中で撹拌しながら沈殿させて、よく撹拌して残存するラクチドを除去し、吸引ろ過を行った。メタノールでリンス洗浄をして、50℃、2kPaで24時間乾燥させて、重量平均分子量16.8万のポリマー(A-2)278.2gであって、^(1)H-NMRにより、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミドに由来するアミド基の水素の存在、水酸基の水素の消出を確認したポリマー。」(以下「引用発明3」という。) 第5 対比・判断 1.本願発明5について 本願発明5と引用発明1を対比すると、次のことがいえる。 引用発明1に係る「エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド」は、本願発明5の式(IA) の「X_(1)」が「-O-」、「X_(3)」と「X_(4)」が「-NH-」、「A_(3)」が「2個の炭素原子を含む直鎖の二価のアルキレン」、「n」および「m」が「1」であるといえ、そして、引用発明1に係る「エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド」の「ヒドロキシステアリン酸」のヒドロキシ基とカルボン酸残基を除いた部分 (左上端のCはX_(1)に結合する) は、本願発明5の「A_(2)-X_(2)-A_(1)」に対応し、そうすると、「基A_(1)、A_(2)およびX_(2)の炭素原子の総数が17個」であると判断される。 ここで、本願発明5の「A_(1)」及び「A_(2)」は、「2?20個の炭素原子を含む直鎖もしくは分岐鎖の二価のアルキレン基」であるとされ、「X_(2)」は「-CH_(2)-または結合」とされている。便宜的に引用発明1に係る「エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド」の上記構造を -CH- | (CH_(2))_(5)-CH_(3) と -(CH_(2))_(10)- とに分けて検討すると、上記部分中、左端の -CH- | (CH_(2))_(5)-CH_(3) は、「7個の炭素原子を含む分岐鎖の二価のアルキレン」であり、「A_(2)」に対応する。 また、 -(CH_(2))_(10)- は、「A_(1)-X_(2)」に対応し、「X_(2)」が「CH_(2)」なら「A_(1)」は「9個の炭素原子を含む直鎖の二価のアルキレン基」であるといえる。仮に、「X_(2)」が「結合」ならば、「A_(1)」は「10個の炭素原子を含む直鎖の二価のアルキレン基」であるといえる。 以上のとおり、引用発明1は、本願発明5に相当する化合物であるといえる。 さらに、引用発明1は、請求項5で除くものとされている、【化6】で規定する以下の化合物 ではない。 したがって、本願発明5と引用発明1は、本願発明5の式(IA)を有し、かつ【化6】ではない化合物である点で一致する。 してみると、本願発明5は、引用発明1、すなわち、引用文献1に記載された発明である。 2.本願発明6について 本願発明6と引用発明2を対比すると、次のことがいえる。 引用発明2の「エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド」はヒドロキシル基(「水酸基」及び「-OH基」と同義)を有するものであって、製造例1(上記第4 1.の摘記イ)において、「エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド」と「L-ラクチド」と「D-ラクチド」を重合して得たポリマー(A-1)は、「^(1)H-NMRにより、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミドに由来するアミド基の水素の存在、水酸基の水素の消出を確認」していることから、「エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド」の水酸基を開始点としてL-ラクチドやD-ラクチドが重合してポリマーとなるため、「エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド」の水酸基が消失し、アミド基に水素が残存していることから、該アミド基の水素は重合反応には関与していないと判断される。 してみると、引用発明2におけるポリマー(A-1)は、本願発明6の式(II) の「X_(1)」が「-O-」、「X_(3)」と「X_(4)」が「-NH-」、「A_(3)」が「2個の炭素原子を含む直鎖の二価のアルキレン」、「n」および「m」が「1」であるといえ、そして、引用発明1に係る「エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド」の「ヒドロキシステアリン酸」のヒドロキシ基とカルボン酸残基を除いた部分 (左上端のCはX_(1)に結合する) は、本願発明6の「A_(2)-X’_(2)-A_(1)」に対応し、そうすると、「基A_(1)、A_(2)およびX’_(2)の炭素原子の総数が17個」であると判断される。 。 ここで、本願発明6の「A_(1)」及び「A_(2)」は、「2?20個の炭素原子を含む直鎖もしくは分岐鎖の二価のアルキレン基」であるとされ、「X’_(2)」は「-CH_(2)-または結合」とされている。便宜的に引用発明2に係る「エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド」の上記構造を -CH- | (CH_(2))_(5)-CH_(3) と -(CH_(2))_(10)- とに分けて検討すると、上記部分中、左端の -CH- | (CH_(2))_(5)-CH_(3) は、「7個の炭素原子を含む分岐鎖の二価のアルキレン」であり、「A_(2)」に対応する。 また、 -(CH_(2))_(10)- は、「A_(1)-X_(2)」に対応し、「X’_(2)」が「CH_(2)」なら「A_(1)」は「9個の炭素原子を含む直鎖の二価のアルキレン基」であるといえる。仮に、「X’_(2)」が「結合」ならば、「A_(1)」は「10個の炭素原子を含む直鎖の二価のアルキレン基」であるといえる。 さらに、摘記イの「エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド」の「水酸基の水素が消失している」との記載から、「エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド」の12位の水酸基を開始点としてL-ラクチドやD-ラクチドのCO基が結合して開環重合し、「[]_(p)」及び「[]_(q)」の[]内の繰り返し単位(R_(1)とR_(2)はメチル基である。)を作ると判断される。 また、本願発明6の式(II)の「p」と「q」については、ポリマー(A-1)の重量平均分子量14.8万であり、L-ラクチド及びD-ラクチドの分子量が144.13であるところから「互いに独立して1?5000の範囲の整数」に包含される化合物である。 以上によれば、引用発明2におけるポリマー(A-1)は、その構造式からみて、本願発明6に相当する化合物であるといえる。 したがって、本願発明6と引用発明2は、本願発明6の式(II)を有する化合物である点で一致する。 してみると、本願発明6は、引用発明2、すなわち、引用文献1に記載された発明である。 3.本願発明6について 引用発明3は引用発明2のうち、エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミドの配合量を変更し、さらに得られたポリマーの重量平均分子量や収率などが異なる以外は一致する。 そうすると、本願発明6の式(II)を有する化合物と引用発明3の対比については、上記2.で検討したとおりである。 以上により、引用発明3におけるポリマー(A-2)は、その構造式からみて、本願発明6の式(II) の化合物と同一の構造式を有する。 したがって、本願発明6と引用発明3は、本願発明6の式(II)を有する化合物である点で一致する。 してみると、本願発明6は、引用発明3、すなわち、引用文献1に記載された発明である。 4.まとめ 以上のとおり、本願の請求項5、6に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではない。 5.請求人の主張について 請求人は平成30年9月25日付けで提出した審判請求書の「3.(1)本願発明の新規性・進歩性」において、「引用文献1は、本願発明の化合物(プレポリマー)の特定の構造である請求項1の式(I)を開示していません。したがって、たとえ本願発明の化合物の合成において出発分子として使用されるモノマーが同一であるとしても、本発明で得られる化合物の構造は引用文献1に記載されているということはできません。また、モノマーからの合成反応に関して、本願明細書に記載される反応条件と同様の反応条件について引用文献1に記載されていないことに照らすと、やはり本願発明の化合物は引用文献1に記載されていません。 」と主張する。 上記主張につき検討する。 引用文献1には上記1.に示したとおり、本願発明5の式(IA)の化合物が記載されている。ここで、本願発明5の式(IA)の化合物は、本願請求項1の式(I)の化合物の「X_(2)」を「-CH_(2)-または結合」に限定した化合物であるから、本願請求項1の式(I)の化合物も「エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド」を包含する。そして、引用文献1の製造例1、2の該「エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド」の水酸基にラクチドが重合して、本願発明6の式(II)の化合物となることは、上記2.で述べたように、技術的に明らかである。 そうすると、引用文献1には本願請求項5の式(IA)の化合物(ただし【化6】の化合物を除く)、及び本願請求項6の式(II)の化合物に加えて、本願請求項1の式(I)の化合物が記載されていると判断され、引用文献1の「エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド」、及び製造例1、2で得られたポリマーは、それぞれ、本願発明5の式(IA)の化合物及び本願請求項1の式(I)の化合物、本願発明6の式(II)の化合物に相当し、これらは相違するものではない。 してみると、請求人の「引用文献1は、本願発明の化合物(プレポリマー)の特定の構造である請求項1の式(I)を開示していません。したがって、たとえ本願発明の化合物の合成において出発分子として使用されるモノマーが同一であるとしても、本発明で得られる化合物の構造は引用文献1に記載されているということはできません。」との主張は、引用文献1の記載に基づかず、当を得ないものであるから、請求人の主張は採用できない。 よって、請求人の上記審判請求書の主張は当を得ないものであるから採用することができず、上記1.?4.の検討結果を左右するものではない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本願発明5、6に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではない。 したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2019-07-05 |
結審通知日 | 2019-07-09 |
審決日 | 2019-07-22 |
出願番号 | 特願2015-532426(P2015-532426) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C08L)
P 1 8・ 113- Z (C08G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大久保 智之 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
橋本 栄和 大▲わき▼ 弘子 |
発明の名称 | ポリ(乳酸)マトリクスにおける添加剤として有用であるポリマーを調製するための新規バイオベースのプレポリマーおよびその使用 |
代理人 | 特許業務法人酒井国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人酒井国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人酒井国際特許事務所 |