ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61K |
---|---|
管理番号 | 1357625 |
異議申立番号 | 異議2018-700639 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-08-02 |
確定日 | 2019-10-11 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6306594号発明「貼付剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6306594号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2-6〕、〔7-8〕について訂正することを認める。 特許第6306594号の請求項2ないし8に係る特許を維持する。 特許第6306594号の請求項1に係る発明についての特許異議申立てを却下する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6306594号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成26年8月11日(優先権主張 2013年8月21日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成30年3月16日にその特許権の設定登録がされ、平成30年4月4日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 平成30年 8月2日受付け(平成30年8月1日付け): 特許異議申立人による特許異議の申立て 平成31年 1月 4日付け:取消理由通知 平成31年 3月 5日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 この後、特許法第120条の5第5項の規定にしたがい、平成31年 3月14日付け通知により特許異議申立人に対して訂正の請求があった旨の通知をするとともに期間を指定して意見を述べる機会を与えたが、特許異議申立人からは何らの意見もなかった。 令和 1年 6月11日付け:取消理由通知(決定の予告) 令和 1年 7月12日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 この後、特許法第120条の5第5項の規定にしたがい、令和 1年 7月18日付け通知により特許異議申立人に対して訂正の請求があった旨の通知をするとともに期間を指定して意見を述べる機会を与えたが、特許異議申立人からは何らの意見もなかった。 令和 1年 7月12日に訂正の請求がされたので、平成31年 3月 5日の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項により、取り下げられたものとみなされる。 2 訂正の適否 (1)訂正の内容 訂正の請求による訂正の内容は、以下のア?カのとおりである。 ア 訂正事項1 訂正前の特許請求の範囲の請求項1を削除する。 イ 訂正事項2 訂正前の特許請求の範囲の請求項2に、 「前記粘着剤は、アクリル系粘着剤、スチレンブロックコポリマー系粘着剤及びポリイソブチレン系粘着剤から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の貼付剤。」とあるのを、 「支持体と、該支持体の少なくとも片面上に配置された、薬物及び粘着剤を含有する粘着剤層と、を備える貼付剤であって、 前記薬物の少なくとも一部は、フリー体であるナルフラフィンであり、 前記粘着剤は、スチレンブロックコポリマー系粘着剤及びポリイソブチレン系粘着剤から選ばれる少なくとも1種を含み、 密閉下、60℃、75%相対湿度にて2週間保存した場合の、保存前のナルフラフィン含量に対する保存後のナルフラフィン含量の割合で表される、安定性が93.3%以上である、貼付剤。」と訂正する。(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3、4及び6も同様に訂正する。) ウ 訂正事項3 訂正前の特許請求の範囲の請求項3に、 「請求項1又は2に記載の貼付剤の製造方法であって、」とあるのを、 「請求項2に記載の貼付剤の製造方法であって、」と訂正する。 エ 訂正事項4 訂正前の特許請求の範囲の請求項5に「前記脱塩剤は、酢酸ナトリウムである、請求項3又は4に記載の製造方法。」とあるうち、請求項3が請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、 「貼付剤の製造方法であって、 前記貼付剤が、支持体と、該支持体の少なくとも片面上に配置された、薬物及び粘着剤を含有する粘着剤層と、を備え、前記薬物の少なくとも一部は、フリー体であるナルフラフィンであり、 粘着剤、並びにナルフラフィンのフリー体、又はナルフラフィンの塩及び脱塩剤を溶媒に溶解又は分散させて混合物を得る工程と、 当該混合物を支持体の少なくとも片面上に配置させる工程と、を備え、 前記脱塩剤は、酢酸ナトリウムである、製造方法。」に訂正する。 オ 訂正事項5 訂正前の特許請求の範囲の請求項5に「前記脱塩剤は、酢酸ナトリウムである、請求項3又は4に記載の製造方法。」とあるうち、請求項3が請求項2を引用するものについて、独立形式に改め、 「貼付剤の製造方法であって、 前記貼付剤が、支持体と、該支持体の少なくとも片面上に配置された、薬物及び粘着剤を含有する粘着剤層と、を備え、前記薬物の少なくとも一部は、フリー体であるナルフラフィンであり、前記粘着剤は、アクリル系粘着剤、スチレンブロックコポリマー系粘着剤及びポリイソブチレン系粘着剤から選ばれる少なくとも1種を含み、 粘着剤、並びにナルフラフィンのフリー体、又はナルフラフィンの塩及び脱塩剤を溶媒に溶解又は分散させて混合物を得る工程と、 当該混合物を支持体の少なくとも片面上に配置させる工程と、を備え、 前記脱塩剤は、酢酸ナトリウムである、製造方法。 」に訂正し、新たに請求項7とする。 カ 訂正事項6 訂正前の特許請求の範囲の請求項6に 「前記脱塩剤の含有量は、ナルフラフィンの塩1モルに対し、0.3?5モルである、請求項3?5のいずれか一項に記載の製造方法。」とあるうち、請求項5が請求項2を引用する請求項3を引用するものについて、 「前記脱塩剤の含有量は、ナルフラフィンの塩1モルに対し、0.3?5モルである、請求項7に記載の製造方法。 」に訂正し、新たに請求項8とする。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1 訂正事項1に係る訂正は、請求項1を削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 イ 訂正事項2 訂正事項2に係る訂正は、 (ア)訂正前の請求項2が請求項1を引用する記載であったところ、請求項間の引用関係を解消して、独立請求項形式に改め、 (イ)訂正前の請求項2に記載された貼付剤に備えられる粘着剤層に含有される「粘着剤」の選択肢を、「アクリル系粘着剤、スチレンブロックコポリマー系粘着剤及びポリイソブチレン系粘着剤から選ばれる少なくとも1種を含む」ものから「スチレンブロックコポリマー系粘着剤及びポリイソブチレン系粘着剤から選ばれる少なくとも1種を含む」ものにし、 (ウ)訂正前の請求項2に記載された貼付剤を、密閉下、60℃、75%相対湿度にて2週間保存した場合の、保存前のナルフラフィン含量に対する保存後のナルフラフィン含量の割合で表される、安定性が93.3%以上であるものに限定するものである。 上記(ア)は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 上記(イ)は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 上記(ウ)は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、本件特許明細書の段落【0048】には「以下の各実施例及び比較例で製造された貼付剤の安定性評価は以下のようにして行った。まず、貼付剤をそれぞれアルミ包材にて包装し密閉した。密閉した貼付剤を60℃、75%RHで2週間保存した後、製剤中の薬物含量を高速液体クロマトグラフ(HPLC)法により測定した。密閉直後の薬物含量に対する保存後の薬物含量の割合を算出し、安定性を評価した。」との記載があり、同段落【0060】?【0064】には実施例5?実施例9に係る貼付剤の配合量及び安定性評価の結果を表3に示す旨の記載があり、同段落【0069】?【0070】には実施例10?実施例11に係る貼付剤の配合量及び安定性評価の結果を表4に示す旨の記載がある。さらに、同段落【0068】には 「 【表3】 」が記載され、同段落【0072】には 「 【表4】 」が記載されている。 したがって、請求項2に記載された貼付剤を、密閉下、60℃、75%相対湿度にて2週間保存した場合の、保存前のナルフラフィン含量に対する保存後のナルフラフィン含量の割合で表される、安定性が93.3%以上であるものに限定する上記(ウ)は、本件特許明細書又は特許請求の範囲の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 以上より、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」及び同条同項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 ウ 訂正事項3 訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1又は2を引用する記載であったものを、訂正事項1に係る訂正により請求項1が削除されることに伴い、請求項3を請求項2のみを引用する記載に変更するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 エ 訂正事項4 訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項5が、訂正前の請求項1又は2を引用する訂正前の請求項3をさらに引用する記載であったところ、訂正前の請求項1のみを引用する訂正前の請求項3をさらに引用するものとするとともに、請求項間の引用関係を解消して、独立請求項形式に改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」及び同条同項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 オ 訂正事項5 訂正事項5に係る訂正は、訂正前の請求項5が、訂正前の請求項1又は2を引用する訂正前の請求項3をさらに引用する記載であったところ、訂正前の請求項2のみを引用する訂正前の請求項3をさらに引用するものとするとともに、請求項間の引用関係を解消して、独立請求項形式に改めて、新たな請求項7とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」及び同条同項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 カ 訂正事項6 訂正事項6に係る訂正は、訂正前の請求項6が、訂正前の請求項3?5のいずれか一項を引用する記載であったところ、訂正前の請求項2を引用する請求項3をさらに引用する請求項5を引用するもののみとするとともに、請求項間の引用関係を解消して、独立請求項形式に改めて、新たな請求項8とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」及び同条同項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)小括 上記のとおり、訂正事項1?訂正事項6に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 また、請求項2?6は特許異議の申立てがされた請求項であるから、その訂正に特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。 ここで、令和 1年 7月12日提出の訂正請求書において、訂正後の請求項5?8について、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とする求めがされている(第12頁第3?5行)が、訂正後の請求項6は、訂正後の請求項5のみを引用するものではなく、訂正後の請求項3?5のいずれか一項を引用するものであり、訂正後の請求項3は訂正後の請求項2を引用するものであるから、訂正後の請求項5?6については一群の請求項の他の請求項すなわち請求項2?4とは別の訂正単位とすることはできない。 したがって、特許請求の範囲を、令和 1年 7月12日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2-6〕、〔7-8〕について訂正することを認める。 3 本件発明 上記のとおり、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを認めたため、請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」、……、「本件発明8」ともいい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 (削除) 【請求項2】 支持体と、該支持体の少なくとも片面上に配置された、薬物及び粘着剤を含有する粘着剤層と、を備える貼付剤であって、 前記薬物の少なくとも一部は、フリー体であるナルフラフィンであり、 前記粘着剤は、スチレンブロックコポリマー系粘着剤及びポリイソブチレン系粘着剤から選ばれる少なくとも1種を含み、 密閉下、60℃、75%相対湿度にて2週間保存した場合の、保存前のナルフラフィン含量に対する保存後のナルフラフィン含量の割合で表される、安定性が93.3%以上である、貼付剤。 【請求項3】 請求項2に記載の貼付剤の製造方法であって、 粘着剤、並びにナルフラフィンのフリー体、又はナルフラフィンの塩及び脱塩剤を溶媒に溶解又は分散させて混合物を得る工程と、 当該混合物を支持体の少なくとも片面上に配置させる工程と、を備える製造方法。 【請求項4】 前記脱塩剤は、酢酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムから選ばれる少なくとも1種である、請求項3に記載の製造方法。 【請求項5】 貼付剤の製造方法であって、 前記貼付剤が、支持体と、該支持体の少なくとも片面上に配置された、薬物及び粘着剤を含有する粘着剤層と、を備え、前記薬物の少なくとも一部は、フリー体であるナルフラフィンであり、 粘着剤、並びにナルフラフィンのフリー体、又はナルフラフィンの塩及び脱塩剤を溶媒に溶解又は分散させて混合物を得る工程と、 当該混合物を支持体の少なくとも片面上に配置させる工程と、を備え、 前記脱塩剤は、酢酸ナトリウムである、製造方法。 【請求項6】 前記脱塩剤の含有量は、ナルフラフィンの塩1モルに対し、0.3?5モルである、請求項3?5のいずれか一項に記載の製造方法。 【請求項7】 貼付剤の製造方法であって、 前記貼付剤が、支持体と、該支持体の少なくとも片面上に配置された、薬物及び粘着剤を含有する粘着剤層と、を備え、前記薬物の少なくとも一部は、フリー体であるナルフラフィンであり、前記粘着剤は、アクリル系粘着剤、スチレンブロックコポリマー系粘着剤及びポリイソブチレン系粘着剤から選ばれる少なくとも1種を含み、 粘着剤、並びにナルフラフィンのフリー体、又はナルフラフィンの塩及び脱塩剤を溶媒に溶解又は分散させて混合物を得る工程と、 当該混合物を支持体の少なくとも片面上に配置させる工程と、を備え、 前記脱塩剤は、酢酸ナトリウムである、製造方法。 【請求項8】 前記脱塩剤の含有量は、ナルフラフィンの塩1モルに対し、0.3?5モルである、請求項7に記載の製造方法。 」 4 取消理由(決定の予告)の概要 当審が令和 1年 6月11日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。 特許請求の範囲を、平成31年 3月 5日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2?6〕について訂正することを認める。 請求項1、3に係る発明は、甲第1号証(特開2013-147459号公報)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、それらの発明に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。(取消理由1) 請求項4は、甲第1号証(特開2013-147459号公報)に記載された発明及び甲第1号証(特開2013-147459号公報)の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(取消理由2) したがって、請求項1、3?4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 請求項2、5?6に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に請求項2、5?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 5 当審の判断 (1)甲第1号証の記載及び甲第1号証に記載された発明 取消理由通知において引用した甲第1号証(特開2013-147459号公報)(以下、「甲1」という。)には、以下の記載事項(1)?記載事項(5)が記載されている。 記載事項(1) 「【請求項1】 支持体および該支持体の一方の面に粘着層を有する貼付剤であって、該支持体は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリウレタンを主体とした合成樹脂フィルムまたはシート、あるいはこれらの積層体、多孔質体、発泡体、紙、布および不織布から選択され、該粘着層は、有効成分としてナルフラフィンまたはその塩、粘着基剤、粘着付与樹脂、薬物溶解剤およびpH調整剤を含有し、該粘着基剤はポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリブチルゴム、天然ゴム、合成イソプレンゴム、スチレン-イソプレン-スチレンゴム、スチレン・ブタジエンゴムおよびスチレン-ブタジエン-スチレンゴムから選択される1種または2種以上であり、該粘着付与樹脂は石油系樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂およびクマロンインデン系樹脂から選択される1種または2種以上であり、該薬物溶解剤は、N-メチル-2-ピロリドン、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、モノオレイン酸ソルビタン、炭酸プロピレン、オレイルアルコール、クロタミトンおよびl-メントールから選択される1種または2種以上であり、該pH調整剤は、ジイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムから選択される1種または2種以上であるそう痒症改善経皮吸収貼付剤。」(2頁2?19行) 記載事項(2) 「【0002】 そう痒(痒み)は、表皮(皮膚、粘膜および角膜)特有の感覚で、我々が日常でも感じる症状であり、炎症を伴う皮膚疾患においては最も高頻度に苦痛として感じられる症状である。痒みを伴う疾患には、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎など皮膚疾患によるものに加え、腎疾患(慢性腎不全)、腎透析、肝疾患、糖尿病、悪性腫瘍などに伴うものがある。これら痒みが重度になると、引っ掻き行動やイライラ感が増大してじっとしては居られず、ひいては日常生活に支障が出たり、睡眠障害を引き起こすなど、患者のQOL(Quality of Life)を著しく低下させてしまう。治療薬としては、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬が一般的であるが、これらが奏効するのは蕁麻疹などの一部の痒みであり、アトピー性皮膚炎や内臓疾患に伴う重度の痒みには、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の服用、ステロイド薬の外用から民間療法に至るまで種々の既存治療法が全く奏効しない患者が存在することが医療上の大きな問題となっている。 【0003】 ナルフラフィンは、オピオイドκ(カッパー)受容体作動薬として、従来の末梢性の痒みとは別の、臨床的には難治性といわれてきたオピオイドシステムが関与する中枢性の痒みに対して、本質的に止痒作用を示す(特許文献1)。このナルフラフィンの強力な止痒作用は、抗ヒスタミン薬および抗アレルギー薬が有効ではない難治性の痒みに対する治療薬となる(特許文献2および3)。実際に、当該薬物を含有した経口そう痒症改善剤として、レミッチカプセル2.5μg(鳥居薬品(株))が上市されている。 【0004】 薬剤の投与方法の中で、経口投与は最も一般的な方法で、患者のQOLの面で優れているものであり、第一選択として用いられるのが通常である。しかしながら、経口投与では一過性の血中薬物濃度の上昇が起こり、それが副作用の原因となる場合がある。実際に、ナルフラフィンの経口剤は、副作用として不眠、便秘および眠気などが認められており、用量依存的に発現率が増加していることから、血中での一過性のナルフラフィン濃度の上昇が副作用発現の原因である可能性が考えられる。 【0005】 このため、副作用の原因となる一過性の血中薬物濃度の上昇を抑制し、血中薬物濃度を長時間一定に維持する経皮吸収貼付剤を調製することにより、持続的に薬効を示すが、副作用の発現を抑えた製剤の開発が望まれていた。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0006】 【特許文献1】特許第3531170号公報 【特許文献2】特許第3617055号公報 【特許文献3】特許第3743449号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明の目的は、上述の状況を鑑みてなされたもので、支持体および該支持体の一方の面に粘着層を有する貼付剤であって、該粘着層は、有効成分としてナルフラフィンまたはその塩、粘着基剤、粘着付与樹脂、薬物溶解剤およびpH調整剤を含有するそう痒症改善経皮吸収貼付剤を調製することで、副作用の原因となる一過性の血中薬物濃度の上昇を抑制し、血中薬物濃度を長時間一定に維持することができるそう痒症改善経皮吸収貼付剤を提供することにある。」(3頁10行?4頁4行) 記載事項(3) 「【0016】 本発明の経皮吸収貼付剤において使用される粘着基剤としては、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、含水性粘着基剤などが挙げられる。最終製剤において、経皮吸収貼付剤としての機能を十分に発揮することができる保形性および粘着性を保持できれば、種類および添加量は、特に限定されないが、ゴム系粘着剤がより好ましい。このゴム系粘着剤の例としては、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリブチルゴム、天然ゴム、合成イソプレンゴム、スチレン-イソプレン-スチレンゴム、スチレン・ブタジエンゴムおよびスチレン-ブタジエン-スチレンゴムなどが挙げられ、ここに挙げた1種または2種以上を使用することが好ましい。」(5頁49行?6頁17行) 記載事項(4) 「【0023】 本発明の経皮吸収貼付剤において使用されるpH調整剤としては、当該有効成分の安定性に対し、著しく影響を及ぼさなければ特に限定はなく、例えば、ジイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどから選択される1種または2種以上を使用することが好ましい。」(7頁9?14行) 記載事項(5) 「【実施例】 【0033】 以下に実施例によりさらに詳細に本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。 (実施例1) 表1に示す配合に基づき、後述する調製法1の方法により調製し、本発明のそう痒症改善経皮吸収貼付剤を得た。得られたそう痒症改善経皮吸収貼付剤を使用し、試験例1に従って血漿中ナルフラフィン濃度を測定した結果、0.25、0.5時間後は薬物が検出されず、1.5時間後は0.02ng/mL、2時間後は0.04ng/mL、4時間後は0.07ng/mL、8時間後は0.07ng/mL、12時間後は0.04ng/mLであった。また、測定された血漿中ナルフラフィン濃度の時間推移挙動(n=3)を図1に示す。 【0034】 【表1】 【0035】 (調製法1) ポリイソブチレンをヘキサンに溶解し、ポリイソブチレン溶液(ポリイソブチレン濃度:10質量%)を調製する。ナルフラフィン塩酸塩を流動パラフィン中に分散させたのち、ポリイソブチレン溶液および残りの添加剤と混練する。得られた練合物を、上記剥離材上に、塗布展延して乾燥させ、乾燥後の厚みが30μmとなるように粘着層を形成した。粘着層塗布面に支持体を貼り合わせ、所望の大きさに裁断して本発明の経皮吸収貼付剤を得た。」(8頁32行?9頁25行) 記載事項(5)、記載事項(1)及び記載事項(2)から、甲1には、 「表1に示す配合に基づき、以下の調製法により製造されたそう痒症改善経皮吸収貼付剤。 (調製法)ポリイソブチレンをヘキサンに溶解し、ポリイソブチレン溶液(ポリイソブチレン濃度:10質量%)を調製する。ナルフラフィン塩酸塩を流動パラフィン中に分散させたのち、ポリイソブチレン溶液および表1に示される残りの添加剤と混練する。得られた練合物を、剥離材上に、塗布展延して乾燥させ、乾燥後の厚みが30μmとなるように粘着層を形成する。粘着層塗布面に支持体を貼り合わせ、所望の大きさに裁断する。 【表1】 」の発明(以下、「甲1-1発明」という。)、及び 「表1に示す配合に基づき、以下の調製法により、そう痒症改善経皮吸収貼付剤を製造する方法。 (調製法)ポリイソブチレンをヘキサンに溶解し、ポリイソブチレン溶液(ポリイソブチレン濃度:10質量%)を調製する。ナルフラフィン塩酸塩を流動パラフィン中に分散させたのち、ポリイソブチレン溶液および表1に示される残りの添加剤と混練する。得られた練合物を、上記剥離材上に、塗布展延して乾燥させ、乾燥後の厚みが30μmとなるように粘着層を形成する。粘着層塗布面に支持体を貼り合わせ、所望の大きさに裁断する。 【表1】 」の発明(以下、「甲1-2発明」という。) が記載されていると認められる。 (2)取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について (2-1)取消理由1(新規性欠如)について ア 本件発明2 本件発明2と甲1-1発明とを対比する。 甲1-1発明における「粘着層」は、本件発明2における「薬物及び粘着剤を含有する粘着剤層」に相当し、甲1-1発明において粘着層が支持体の少なくとも片面上に配置されていることは明らかである。 したがって、両者は、 (一致点) 「支持体と、該支持体の少なくとも片面上に配置された、薬物及び粘着剤を含有する粘着剤層と、を備える貼付剤」である点で一致し、 (相違点) ・粘着剤層に含有される「薬物」について、 本件発明2においては「薬物の少なくとも一部は、フリー体であるナルフラフィンである」とされる一方、 甲1-1発明には、薬物としてナルフラフィン塩酸塩を配合することは記載されているものの、「薬物の少なくとも一部は、フリー体であるナルフラフィンである」ことは明記されていない点で一見相違し(以下、「相違点2-1」という。)、 ・ナルフラフィンの安定性について、 本件発明2においては「密閉下、60℃、75%相対湿度にて2週間保存した場合の、保存前のナルフラフィン含量に対する保存後のナルフラフィン含量の割合で表される、安定性が93.3%以上である」とされる一方、 甲1-1発明においては安定性が示されていない点で相違する(以下、「相違点2-2」という。)。 (ア)相違点2-1について 化合物の塩酸塩と塩基性物質を混合すれば、化合物の塩酸塩の少なくとも一部がフリー体に変化することは技術常識である。 例えば、国際公開第2009/107479号(段落[0031]?段落[0037]、特に段落[0037])には、貼付剤の粘着層に、塩基性薬物の塩酸塩などの塩基性薬物酸付加塩と塩基性物質などの脱塩剤を配合することで塩基性薬物酸付加塩の全部又は一部をフリー体の状態に変換することが記載され、国際公開第2009/107478号(特許異議申立人の提出した甲第3号証)(段落[0011]及び段落[0029]?[0036]、特に段落[0035]?[0036])には、貼付剤の粘着層に、塩酸ロピニロールなどのロピニロール酸付加塩と塩基性物質などの脱塩剤を配合することでロピニロール酸付加塩をフリー体に変換することが記載され、国際公開第2009/107477号(段落[0033]?[0038])及び国際公開第2009/107476号(段落[0040]?[0045])には、貼付剤の粘着層に、バレニクリン塩酸塩などのバレニクリン酸付加塩と塩基性物質などの中和剤を配合することでバレニクリン塩酸塩の全部又は一部をフリー体の状態に変換することが記載されている。 ナルフラフィン塩酸塩は、フリー体であるナルフラフィンと塩酸との化学反応により生成するものであるから(例えば、特許第2525552号公報101頁202欄40行?102頁203欄50行の[実施例68]についての記載、及び、国際公開第2006/109671号の段落[0025]?[0045]、段落[0062]?[0072]、請求の範囲[7]?[12]の記載を参照)、ナルフラフィン塩酸塩と塩基性物質を混合すればナルフラフィン塩酸塩の少なくとも一部がフリー体であるナルフラフィンに変化することは明らかである。 ここで、甲1-1発明に「pH調整剤」として配合された「モノエタノールアミン」が塩基性物質であることは技術常識である。 甲1-1発明における粘着層は、 「表1に示す配合に基づき、以下の調製法…… (調製法)ポリイソブチレンをヘキサンに溶解し、ポリイソブチレン溶液(ポリイソブチレン濃度:10質量%)を調製する。ナルフラフィン塩酸塩を流動パラフィン中に分散させたのち、ポリイソブチレン溶液および表1に示される残りの添加剤と混練する。得られた練合物を、上記剥離材上に、塗布展延して乾燥させ、乾燥後の厚みが30μmとなるように粘着層を形成する。 【表1】 」工程により形成されるものであるとされ、この工程で用いられる「ポリイソブチレン」は、甲1の記載事項(3)に示されるとおり「粘着剤」であり、同「ヘキサン」は本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0042】に「溶媒」の例として挙げられているものであって、この工程における混練によりナルフラフィン塩酸塩が塩基性物質であるモノエタノールアミンと混合されていることは明らかである。 ナルフラフィン塩酸塩(分子量513.025)の配合量が0.25質量%であり、モノエタノールアミン(分子量61.08)の配合量が0.3質量%であることから算出されるナルフラフィン塩酸塩とモノエタノールアミンのモル比は1:10.1であって、モノエタノールアミンのモル比が大きいことを、上記技術常識と併せて考慮すると、上記工程におけるナルフラフィン塩酸塩とモノエタノールアミンとの混合により、ナルフラフィン塩酸塩の少なくとも一部がフリー体であるナルフラフィンに変化して、甲1-1発明における粘着層に存在すると、当業者は認識する。 したがって、上記相違点2-1は実質的な相違点ではない。 (イ)相違点2-2について フリー体であるナルフラフィン及びナルフラフィン塩酸塩の安定性は、特許異議申立人の提出した甲1、甲第2号証(国際公開第2013/099835号)及び甲第3号証(国際公開第2009/107478号)のいずれにも記載されておらず、技術常識であるとは認められないので、技術常識を参酌しても、甲1-1発明が、上記相違点2に係る「密閉下、60℃、75%相対湿度にて2週間保存した場合の、保存前のナルフラフィン含量に対する保存後のナルフラフィン含量の割合で表される、安定性が93.3%以上である」ことを満たすものであるとは認められない。 したがって、上記相違点2-2は実質的な相違点である。 (ウ)本件発明2の新規性についての判断 上記(ア)及び(イ)より、本件発明2は甲1-1発明ではない。 イ 本件発明3 本件発明3と甲1-2発明とを対比する。 甲1-2発明における「練合物」は、調製法からみて「薬物及び粘着剤を含有する」ものであって本件発明3における「混合物」に相当するから、甲1-2発明における「得られた練合物を、上記剥離材上に、塗布展延して乾燥させ、乾燥後の厚みが30μmとなるように粘着層を形成する。粘着層塗布面に支持体を貼り合わせ、所望の大きさに裁断する。」工程及び「粘着層」は、本件発明3における「混合物を支持体の少なくとも片面上に配置させる工程」及び「粘着剤層」に相当する。 また、甲1-2発明により製造される貼付剤は、本件発明3にいう「支持体と、該支持体の少なくとも片面上に配置された、薬物及び粘着剤を含有する粘着剤層と、を備える貼付剤」に相当する。 したがって、本件発明3と甲1-2発明とは (一致点) 「支持体と、該支持体の少なくとも片面上に配置された、薬物及び粘着剤を含有する粘着剤層と、を備える貼付剤の製造方法であって、 混合物を得る工程と、 当該混合物を支持体の少なくとも片面上に配置させる工程、を備える製造方法。」である点で一致し、 (相違点) ・「混合物を得る工程」及び粘着剤層に含有される「薬物」について、 本件発明3においては、 「混合物を得る工程」が「粘着剤、並びにナルフラフィンのフリー体、又はナルフラフィンの塩及び脱塩剤を溶媒に溶解又は分散させて得る工程」とされるとともに、粘着剤層に含有される「薬物」について「薬物の少なくとも一部は、フリー体であるナルフラフィンである」とされる一方、 甲1-2発明においては、 「混合物を得る工程」が「表1に示す配合に基づき、以下の調製法…… (調製法)ポリイソブチレンをヘキサンに溶解し、ポリイソブチレン溶液(ポリイソブチレン濃度:10質量%)を調製する。ナルフラフィン塩酸塩を流動パラフィン中に分散させたのち、ポリイソブチレン溶液および表1に示される残りの添加剤と混練する。 【表1】 」工程とされるとともに、粘着剤層に含有される「薬物」としてナルフラフィン塩酸塩を配合することは記載されているものの、「薬物の少なくとも一部は、フリー体であるナルフラフィンである」ことは明記されていない点で一見相違し(以下、「相違点3-1」という。)、 ・ナルフラフィンの安定性について、 本件発明2においては「密閉下、60℃、75%相対湿度にて2週間保存した場合の、保存前のナルフラフィン含量に対する保存後のナルフラフィン含量の割合で表される、安定性が93.3%以上である」とされる一方、 甲1-2発明においては安定性が示されていない点で相違する(以下、「相違点3-2」という。)。 (ア)相違点3-1について 化合物の塩酸塩と塩基性物質を混合すれば、化合物の塩酸塩の少なくとも一部がフリー体に変化することは技術常識である。 例えば、国際公開第2009/107479号(段落[0031]?段落[0037]、特に段落[0037])には、貼付剤の粘着層に、塩基性薬物の塩酸塩などの酸付加塩と塩基性物質などの脱塩剤を配合することで塩基性薬物の全部又は一部をフリー体の状態に変換することが記載され、国際公開第2009/107478号(特許異議申立人の提出した甲第3号証)(段落[0011]及び段落[0029]?[0036]、特に段落[0035]?[0036])には、貼付剤の粘着層に、塩酸ロビニロールなどのロピニロール酸付加物と塩基性物質などの脱塩剤を配合することでロピニロール酸付加物をフリー体に変換することが記載され、国際公開第2009/107477号(段落[0033]?[0038])及び国際公開第2009/107476号(段落[0040]?[0045])には、貼付剤の粘着層に、バレニクリンの塩酸塩などの酸付加塩塩と塩基性物質などの中和剤を配合することでバレニクリンの塩酸塩の全部又は一部をフリー体の状態に変換することが記載されている。 ナルフラフィン塩酸塩は、フリー体であるナルフラフィンと塩酸との化学反応により生成するものであるから(例えば、特許第2525552号公報101頁202欄40行?102頁203欄50行の[実施例68]についての記載、及び、国際公開第2006/109671号の段落〔0025〕?〔0045〕、同段落〔0062〕?〔0072〕、請求の範囲〔7〕?〔12〕の記載を参照)、ナルフラフィン塩酸塩と塩基性物質を混合すればナルフラフィン塩酸塩の少なくとも一部がフリー体であるナルフラフィンに変化することは、技術常識から明らかである。 甲1-2発明における「モノエタノールアミン」は、記載事項(4)及び記載事項(2)(特に、段落【0007】)から甲1-2発明に「pH調整剤」として配合されたものとは認められるが、「モノエタノールアミン」が塩基性物質であることは技術常識である。 また、甲1-2発明における「混合物を得る工程」で用いられる「ポリイソブチレン」は、甲1の記載事項(3)に示されるとおり「粘着剤」であり、同「ヘキサン」は本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0042】に「溶媒」の例として挙げられているものであって、この工程における混練によりナルフラフィン塩酸塩が塩基性物質であるモノエタノールアミンと混合されていることは明らかである。 ナルフラフィン塩酸塩(分子量513.025)の配合量が0.25質量%であり、モノエタノールアミン(分子量61.08)の配合量が0.3質量%であることから算出されるナルフラフィン塩酸塩とモノエタノールアミンのモル比は1:10.1であって、モノエタノールアミンのモル比が大きいことを、上記技術常識と併せて考慮すると、甲1-2発明における「混合物を得る工程」でのナルフラフィン塩酸塩とモノエタノールアミンとの混合により、得られる「混合物」には、ナルフラフィン塩酸塩の少なくとも一部がフリー体であるナルフラフィンに変化して存在すると、当業者は認識し、それとともに、その「混合物」を支持体の少なくとも片面上に配置させる工程で形成された粘着剤層に含有される薬物の少なくとも一部は、フリー体であるナルフラフィンであると、当業者は認識する。 そして、本件発明3にいう「脱塩剤」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】?【0013】、同段落【0031】、同段落【0033】に記載されるように、ナルフラフィンの塩とともに使用されることによってナルフラフィンの塩をフリー体に変化させるものであるから、甲1-2発明における「混合物を得る工程」でナルフラフィン塩酸塩と混合されることによりナルフラフィン塩酸塩の少なくとも一部をフリー体に変化させる「モノエタノールアミン」を、当業者は「脱塩剤」として認識する。 以上より、甲1-2発明における「混合物を得る工程」で用いられる「ポリイソブチレン」は「粘着剤」であり、同「ナルフラフィン塩酸塩」は「ナルフラフィンの塩」であり、同「モノエタノールアミン」は「脱塩剤」であり、同「ヘキサン」は「溶媒」であるから、甲1-2発明における「混合物を得る工程」は、本件発明3における「混合物を得る工程」である「粘着剤、並びに……ナルフラフィンの塩及び脱塩剤を溶媒に溶解又は分散させて得る工程」に相当し、甲1-2発明における粘着剤層に含有される「薬物」は、本件発明3における粘着剤層に含有される薬物についての「薬物の少なくとも一部は、フリー体であるナルフラフィンである」との発明特定事項を満たすものである。 したがって、上記相違点3-1は実質的な相違点ではない。 (イ)相違点3-2について フリー体であるナルフラフィン及びナルフラフィン塩酸塩の安定性は、特許異議申立人の提出した甲1、甲第2号証(国際公開第2013/099835号)及び甲第3号証(国際公開第2009/107478号)のいずれにも記載されておらず、技術常識であるとは認められないので、技術常識を参酌しても、甲1-2発明が、上記相違点2に係る「密閉下、60℃、75%相対湿度にて2週間保存した場合の、保存前のナルフラフィン含量に対する保存後のナルフラフィン含量の割合で表される、安定性が93.3%以上である」ことを満たすものであるとは認められない。 したがって、上記相違点3-2は実質的な相違点である。 (ウ)本件発明3の新規性についての判断 上記(ア)及び(イ)より、本件発明3は甲1-2発明ではない。 ウ 小括 以上、ア及びイに示したとおり、本件発明2、3は、甲1に記載された発明ではない。 (2-2)取消理由2(進歩性欠如)について ア 本件発明4 本件発明4は、本件発明3のすべての発明特定事項を含み、さらに 「前記脱塩剤は、酢酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムから選ばれる少なくとも1種である」ことを発明特定事項として加えたものである。 本件発明4は甲1-2発明とは、少なくとも、本件発明3と甲1-2発明との相違点である上記相違点3-2で相違するところ、フリー体であるナルフラフィン及びナルフラフィン塩酸塩の安定性は、特許異議申立人の提出した甲1、甲第2号証(国際公開第2013/099835号)及び甲第3号証(国際公開第2009/107478号)のいずれにも記載されておらず、技術常識であるとも認められない以上、当業者が甲1-2発明に対して、上記相違点3-2に係る「密閉下、60℃、75%相対湿度にて2週間保存した場合の、保存前のナルフラフィン含量に対する保存後のナルフラフィン含量の割合で表される、安定性が93.3%以上である」ことを採用する動機づけはないといえるので、甲1-2発明に対して上記相違点3-2を採用することは、甲1、甲第2号証(国際公開第2013/099835号)及び甲第3号証(国際公開第2009/107478号)に記載された技術的事項及び技術常識を参酌しても、当業者が容易に想到し得たことではない。 イ 小括 以上、アに示したとおり、本件発明4は、甲1に記載された発明及び甲1、甲第2号証(国際公開第2013/099835号)及び甲第3号証(国際公開第2009/107478号)に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明は甲1に記載された発明並びに甲第2号証(国際公開第2013/099835号、以下「甲2」という。)及び甲第3号証(国際公開第2009/107478号、以下「甲3」という。)に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである旨(進歩性欠如)を主張する。 本件発明4に対する進歩性欠如の主張は取消理由通知(決定の予告)において採用し、その判断は上記(2-2)に示したとおりであるので、取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった本件発明2?3、本件発明5?8に対する進歩性欠如の主張についての当審の判断を、以下ア?カに示す。 ア 本件発明2 本件発明2と甲1-1発明とは、前記(2)(2-1)アに示した相違点2-2で、少なくとも相違するところ、フリー体であるナルフラフィン及びナルフラフィン塩酸塩の安定性は、特許異議申立人の提出した甲1?甲3のいずれにも記載されておらず、技術常識であるとも認められない以上、当業者が甲1-1発明に対して、上記相違点2-2に係る「密閉下、60℃、75%相対湿度にて2週間保存した場合の、保存前のナルフラフィン含量に対する保存後のナルフラフィン含量の割合で表される、安定性が93.3%以上である」ことを採用する動機づけはないといえるので、甲1-1発明に対して上記相違点2-2を採用することは、甲1?甲3に記載された技術的事項及び技術常識を参酌しても、当業者が容易に想到し得たことではない。 よって、本件発明2は、甲1に記載された発明及び甲1?甲3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明3 本件発明3と甲1-2発明とは、前記(2)(2-1)イに示した相違点3-2で、少なくとも相違するところ、フリー体であるナルフラフィン及びナルフラフィン塩酸塩の安定性は、特許異議申立人の提出した甲1?甲3のいずれにも記載されておらず、技術常識であるとも認められない以上、当業者が甲1-2発明に対して、上記相違点3-2に係る「密閉下、60℃、75%相対湿度にて2週間保存した場合の、保存前のナルフラフィン含量に対する保存後のナルフラフィン含量の割合で表される、安定性が93.3%以上である」ことを採用する動機づけはないといえるので、甲1-2発明に対して上記相違点3-2を採用することは、甲1?甲3に記載された技術的事項及び技術常識を参酌しても、当業者が容易に想到し得たことではない。 よって、本件発明3は、甲1に記載された発明及び甲1?甲3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明5 本件発明5と甲1-2発明とを対比すると、本件発明5においては「前記脱塩剤は、酢酸ナトリウムである」との発明特定事項により、「酢酸ナトリウム」を用いることが定められる一方、甲1-2発明においては「酢酸ナトリウム」を用いない点で、少なくとも相違する。 そして、甲1?甲3に記載された技術的事項及び技術常識を参酌しても、当業者が甲1-2発明において「酢酸ナトリウム」を用いる動機づけを見出すことはできない。 よって、本件発明5は、甲1に記載された発明及び甲1?甲3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 本件発明6 本件発明6のうち本件発明4を引用するものは、本件発明4の全ての発明特定事項を含むものであるから、前記(2)(2-2)で説示したとおり、本件発明4が、甲1に記載された発明及び甲1?甲3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明6のうち本件発明4を引用するものも、甲1に記載された発明及び甲1?甲3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 本件発明6のうち本件発明5を引用するものは、本件発明5の全ての発明特定事項を含むものであるから、前記ウで説示したとおり、本件発明5が、甲1に記載された発明及び甲1?甲3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明6のうち本件発明5を引用するものも、甲1に記載された発明及び甲1?甲3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 以上のことから、本件発明6は、甲1に記載された発明及び甲1?甲3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 オ 本件発明7 本件発明7と甲1-2発明とを対比すると、本件発明7においては「前記脱塩剤は、酢酸ナトリウムである」との発明特定事項により、「酢酸ナトリウム」を用いることが定められる一方、甲1-2発明においては「酢酸ナトリウム」を用いない点で、少なくとも相違する。 そして、甲1?甲3に記載された技術的事項及び出願時の技術常識を検討しても、当業者が甲1-2発明において「酢酸ナトリウム」を用いる動機づけを見出すことはできない。 よって、本件発明7は、甲1に記載された発明及び甲1?甲3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 カ 本件発明8 本件発明8は、本件発明7の全ての発明特定事項を含むものであるから、前記オで説示したとおり、本件発明7が、甲1に記載された発明及び甲1?甲3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明8も、甲1に記載された発明及び甲1?甲3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 以上のことから、本件発明8は、甲1に記載された発明及び甲1?甲3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 以上ア?カに説示したとおり、取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由についての特許異議申立人の主張は、採用することができない。 6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明2?8に係る特許を取り消すことはできず、他に本件発明2?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、本件発明1は、前記のとおり、訂正の請求により削除された。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (削除) 【請求項2】 支持体と、該支持体の少なくとも片面上に配置された、薬物及び粘着剤を含有する粘着剤層と、を備える貼付剤であって、 前記薬物の少なくとも一部は、フリー体であるナルフラフィンであり、 前記粘着剤は、スチレンブロックコポリマー系粘着剤及びポリイソブチレン系粘着剤から選ばれる少なくとも1種を含み、 密閉下、60℃、75%相対湿度にて2週間保存した場合の、保存前のナルフラフィン含量に対する保存後のナルフラフィン含量の割合で表される、安定性が93.3%以上である、貼付剤。 【請求項3】 請求項2に記載の貼付剤の製造方法であって、 粘着剤、並びにナルフラフィンのフリー体、又はナルフラフィンの塩及び脱塩剤を溶媒に溶解又は分散させて混合物を得る工程と、 当該混合物を支持体の少なくとも片面上に配置させる工程と、を備える製造方法。 【請求項4】 前記脱塩剤は、酢酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムから選ばれる少なくとも1種である、請求項3に記載の製造方法。 【請求項5】 貼付剤の製造方法であって、 前記貼付剤が、支持体と、該支持体の少なくとも片面上に配置された、薬物及び粘着剤を含有する粘着剤層と、を備え、前記薬物の少なくとも一部は、フリー体であるナルフラフィンであり、 粘着剤、並びにナルフラフィンのフリー体、又はナルフラフィンの塩及び脱塩剤を溶媒に溶解又は分散させて混合物を得る工程と、 当該混合物を支持体の少なくとも片面上に配置させる工程と、を備え、 前記脱塩剤は、酢酸ナトリウムである、製造方法。 【請求項6】 前記脱塩剤の含有量は、ナルフラフィンの塩1モルに対し、0.3?5モルである、請求項3?5のいずれか一項に記載の製造方法。 【請求項7】 貼付剤の製造方法であって、 前記貼付剤が、支持体と、該支持体の少なくとも片面上に配置された、薬物及び粘着剤を含有する粘着剤層と、を備え、前記薬物の少なくとも一部は、フリー体であるナルフラフィンであり、前記粘着剤は、アクリル系粘着剤、スチレンブロックコポリマー系粘着剤及びポリイソブチレン系粘着剤から選ばれる少なくとも1種を含み、 粘着剤、並びにナルフラフィンのフリー体、又はナルフラフィンの塩及び脱塩剤を溶媒に溶解又は分散させて混合物を得る工程と、 当該混合物を支持体の少なくとも片面上に配置させる工程と、を備え、 前記脱塩剤は、酢酸ナトリウムである、製造方法。 【請求項8】 前記脱塩剤の含有量は、ナルフラフィンの塩1モルに対し、0.3?5モルである、請求項7に記載の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-10-02 |
出願番号 | 特願2015-532824(P2015-532824) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(A61K)
P 1 651・ 113- YAA (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 古閑 一実、伊藤 基章、横山 敏志 |
特許庁審判長 |
光本 美奈子 |
特許庁審判官 |
村上 騎見高 穴吹 智子 |
登録日 | 2018-03-16 |
登録番号 | 特許第6306594号(P6306594) |
権利者 | 久光製薬株式会社 |
発明の名称 | 貼付剤 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 坂西 俊明 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 木元 克輔 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 木元 克輔 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 坂西 俊明 |
代理人 | 清水 義憲 |