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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1357632
異議申立番号 異議2018-700764  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-20 
確定日 2019-10-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6297795号発明「潤滑被膜用塗料組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6297795号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 特許第6297795号の請求項1ないし5、7ないし9に係る特許を維持する。 特許第6297795号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6297795号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成30年3月2日付けでその特許権の設定登録がされ、同年3月20日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年9月20日に、特許異議申立人渡辺広基(以下、「申立人」という。)より、特許異議の申立てがされ、同年11月20日付けで取消理由が通知され、平成31年1月21日に意見書の提出及び訂正請求がされ、同年3月1日に申立人から意見書が提出され、同年3月13日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年4月17日に手続補正書及び意見書が提出され、同年4月26日付けで取消理由通知(決定の予告)と審尋がなされ、令和元年7月11日に意見書、回答書の提出及び訂正請求がされ、同年8月13日に申立人から意見書が提出されたものである。なお、平成31年1月21日付けの訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。

第2 訂正請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、特許第6297795号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?9について訂正することを求める、というものであって、特許請求の範囲を下記訂正事項1?3のとおりに訂正することを求めるというものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載の
「(A)(メタ)アクリル当量が100以下の(メタ)アクリル酸化合物、
(B)(メタ)アクリル当量が120?300の範囲にある(メタ)アクリル酸化合物、
(C)熱硬化性樹脂及び/又は高エネルギー線硬化性樹脂、
(D)少なくとも1種の固体潤滑剤を含み、
前記成分(A):前記成分(B)のモル比が1:9?9:1の範囲にある潤滑被膜用塗料組成物。」を
「(A)(メタ)アクリル当量が95以下の(メタ)アクリル酸化合物、
(B)(メタ)アクリル当量が130?270の範囲にある(メタ)アクリル酸化合物、
(C)熱硬化性ウレタン樹脂及び/又は高エネルギー線硬化性ウレタン樹脂、
(D)少なくとも1種の固体潤滑剤を含み、
前記成分(A):前記成分(B)のモル比が1:6?6:1の範囲にあり、
前記(A)?前記成分(C)の和 100質量部に対し、前記成分(D)5?100質量部含む、潤滑被膜用塗料組成物。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7及び9の請求項の引用を次のとおり訂正する。
特許請求の範囲の請求項7の「請求項1?6のいずれか」を「請求項1?5のいずれか」に訂正する。
特許請求の範囲の請求項9の「請求項1?6のいずれか」を「請求項1?5のいずれか」に訂正する。

(4)一群の請求項について
訂正前の請求項2?9は、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?9は、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項(請求項1?9)に対してされたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、次のア?エの訂正事項からなり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ア 本件明細書の【0029】の「本発明の組成物は、硬化物のハードセグメントを構成する成分として、(A)(メタ)アクリル当量が100以下、好ましくは95以下、より好ましくは90以下の(メタ)アクリル酸化合物、及び、硬化物のソフトセグメントを構成する成分として、(B)(メタ)アクリル当量が120?300、好ましくは130?270、より好ましくは150?250である(メタ)アクリル酸化合物を共に含む。」という記載に基づき、訂正前の「(A)(メタ)アクリル当量が100以下の(メタ)アクリル酸化合物」の「(メタ)アクリル当量」の上限値を「100」から「95」と小さくし、訂正前の「(B)(メタ)アクリル当量が120?300の範囲にある(メタ)アクリル酸化合物」の「(メタ)アクリル当量」の範囲を「120?300」から「130?270」と狭いものとする。
イ 本件明細書の【0040】の「本発明の組成物における前記成分(A)と前記成分(B)の配合比率は、モル比にして1:9?9:1が好ましく、1:6?6:1がより好ましく、1:4?4:1の範囲が特に好ましい。」という記載に基づき、「前記成分(A)と前記成分(B)の配合比率」の範囲について、訂正前の「1:9?9:1」を「1:6?6:1」と狭いものとする。
ウ 本件明細書の【0043】の「熱硬化性樹脂及び/又は高エネルギー線硬化性樹脂としては、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミドイミド樹脂又はその変性物、並びに、これらの混合物が例示される。・・・基材との接着性をより向上させることがきる点においてウレタン樹脂やオレフィン樹脂を使用することが好ましい。特にウレタン樹脂を使用することで基材との接着性や柔軟性をより向上させることができる。」という記載に基づき、訂正前の「熱硬化性樹脂及び/又は高エネルギー線硬化性樹脂」を「熱硬化性ウレタン樹脂及び/又は高エネルギー線硬化性ウレタン樹脂」であることを限定する。
エ 【0064】?【0068】の「本発明の組成物は、更に(D)少なくとも1種の固体潤滑剤を含む。・・・前記成分(D)の配合量は特に限定されるものではないが、前記成分(A)?前記成分(C)の和100質量(重量)部に対して1?200質量(重量)部が好ましく、5?100質量(重量)部がより好ましく、10?100質量(重量)部が更により好ましく、20?100質量(重量)部が特に好ましい。」という記載に基づき、訂正前の請求項1に、「前記成分(A)?前記成分(C)の和100質量部に対し、前記成分5?100質量部を含む」という技術的事項を直列的に付加する。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項7及び9が、訂正前の請求項1?6を引用していたところ、請求項6の削除に伴って、請求項7及び9の引用先を請求項1?6から請求項1?5とする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)小括
上記のとおり、訂正事項1?3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。

第3 本件発明について
上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし5、7ないし9に係る発明(以下、「本件発明1」などといい、本件発明1?5、7?9をまとめて「本件発明」という。)は、以下のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
(A)(メタ)アクリル当量が95以下の(メタ)アクリル酸化合物、
(B)(メタ)アクリル当量が130?270の範囲にある(メタ)アクリル酸化合物、
(C)熱硬化性ウレタン樹脂及び/又は高エネルギー線硬化性ウレタン樹脂、
(D)少なくとも1種の固体潤滑剤を含み、
前記成分(A):前記成分(B)のモル比が1:6?6:1の範囲にあり、
前記(A)?前記成分(C)の和 100質量部に対し、前記成分(D)5?100質量部含む、潤滑被膜用塗料組成物。
【請求項2】
前記成分(C)が、(c1)少なくとも1種のポリオールと(c2)少なくとも1種のイソシアネートを反応させてなるウレタン樹脂である、請求項1に記載の潤滑被膜用塗料組成物。
【請求項3】
前記成分(C)が、(c1-1)ポリカーボネートポリオールと(c2-1)ジイソシアネートを反応させてなる、ポリカーボネート系ウレタン樹脂である、請求項1又は2に記載の潤滑被膜用塗料組成物。
【請求項4】
前記成分(A)である(メタ)アクリル酸化合物が、(メタ)アクリル酸エステルであり、及び/又は、
前記成分(B)である(メタ)アクリル酸化合物が、(メタ)アクリル酸エステルである、請求項1?3のいずれかに記載の潤滑被膜用塗料組成物。
【請求項5】
前記成分(D)が、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、二硫化モリブデン、グラファイト、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛及びこれらの混合物から選ばれる、請求項1?4のいずれかに記載の潤滑被膜用塗料組成物。
【請求項7】
請求項1?5のいずれかに記載の潤滑被膜用塗料組成物を硬化させてなる潤滑被膜。
【請求項8】
請求項7記載の潤滑被膜を備える摺動部材。
【請求項9】
請求項1?5のいずれかに記載の潤滑被膜用塗料組成物を基材表面に塗布し、加熱及び/又は高エネルギー線照射により、基材表面に潤滑被膜を形成する方法。」

第4 平成31年4月26日付け取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由及び当審の判断
1 平成31年4月26日付け取消理由通知で通知した取消理由(決定の予告)は、概略以下のとおりである。
(1)理由1(新規性)訂正前の請求項1、2、4?9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記(4)の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、訂正前の請求項1、2、4?9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)理由2(進歩性)訂正前の請求項1?9に係る発明は、本件特許出願前日本国内又は外国において、頒布された下記(3)の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1?9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)刊行物(申立人が提出した甲第1号証?甲第3号証。以下、甲各号証は、単に、「甲1」などという。)
甲1:特開平8-183147号公報
甲2:特開2005-75835号公報
甲3:特開2011-12251号公報

(4)理由3(サポート要件)本件特許は、その訂正前の特許請求の範囲の請求項1?9の記載が、次のア?ウに記載するように、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。なお、この項においては、「本件発明1」等は、訂正前の請求項に係る発明を指す。
ア サポート要件(その1)
(ア)本件発明1は、成分(A)の(メタ)アクリル酸化合物の(メタ)アクリル当量が100以下であり、成分(B)の(メタ)アクリル酸化合物の(メタ)アクリル当量が120?300の範囲にあり、成分(A):成分(B)のモル比が1:9?9:1の範囲にある。
これに対し、本件発明1の実施例は、樹脂バインダーとして、合成例1で得られたラジカル重合性樹脂組成物のみである。
(イ)該合成例1において、メチルアクリレート(アクリル当量=86)が、本件発明1の成分(A)の(メタ)アクリル酸化合物に対応するが、合成例1のアクリル当量=86に対し、本件発明1の(メタ)アクリル当量が100以下であることは極めて広範な範囲であり、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(ウ)また、該合成例1において、ヒドロキシブチルアクリレート(アクリル当量=144)が、本件発明1の成分(B)の(メタ)アクリル酸化合物に対応するが、合成例1のアクリル当量=144に対し、本件発明1の(メタ)アクリル当量が120?300の範囲にあることは極めて広範な範囲であり、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(エ)そして、該合成例1において、成分(A)の(メタ)アクリル酸化合物に対応するメチルアクリレート(アクリル当量=86)と、成分(B)の(メタ)アクリル酸化合物に対応するヒドロキシブチルアクリレート(アクリル当量=144)との配合割合は、30g(0.300mol):30g(0.208mol)であるが、本件発明1の成分(A):成分(B)のモル比が1:9?9:1の範囲にあることは極めて広範な範囲であり、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(オ)よって、本件発明1?9は、発明の詳細な説明に記載されていない発明を含むものである。

(2)サポート要件(その2)
本件発明6は、成分(A)?成分(C)の和100質量部に対し、成分(D)1?200質量部含む。
これに対し、本件明細書の【表2】(【0102】)に開示されるように、本件の実施例は、樹脂バインダー(合成例1)100重量部に対し、固体潤滑剤40重量部、45重量部、または90重量部配合したもの(実施例1?4)と、樹脂バインダー(合成例1)80重量部及び熱硬化性樹脂20重量部に対し、固体潤滑剤90重量部配合したもの(実施例5)のみである。
そうすると、本件発明6の実施例は、成分(A)?成分(C)の和100質量部に対し、成分(D)を40重量部、45重量部、又は90重量部配合したもののみである。
これに対し、本件発明6において、成分(A)?成分(C)の和100質量部に対し、成分(D)1?200質量部含むことは極めて広範な範囲であり、請求項6に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって、本件発明6?9は、発明の詳細な説明に記載されていない発明を含むものである。

(3)サポート要件(その3)
本件発明1は、(C)熱硬化性樹脂及び/又は高エネルギー線硬化性樹脂を含んでいる。
これに対し、本件明細書の実施例においては、ポリカーボネート系ウレタンを使用した態様のみしか開示されていない。
本件明細書の【0086】を参照すると、ポリカーボネートポリオールと、ジメチロールプロビオン酸と、4,4’-ジシクロヘキシルメクンジイソシアネートとを反応させて、その後、ウレタン化反応を終了した旨が開示されている。上記反応経路を考慮すれば、得られたウレタンには、エネルギー線に感光する官能基は含まれていないことから、得られたウレタンは、熱硬化性樹脂に該当する。
一般的に、熱硬化性樹脂と高エネルギー線硬化性樹脂とは、硬化処理の手順が異なり、それに伴って形成される被膜の特性が異なることは当業者にしてみれば周知事項である。したがって、熱硬化性樹脂を用いた例しか例示されていない態様だけで、高エネルギー線硬化性樹脂を用いた場合でも同様の特性が得られるかどうかは、当業者にしてみても予測し得ない。
また、熱硬化性樹脂および高エネルギー線硬化性樹脂という広範な概念において、ポリカーボネート系ウレタンという実施例のみでは、その概念全体まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
特に、使用される樹脂はその構造によってとり得る特性は大きく異なることから、本件明細書に記載されるシリコーン樹脂など全く性質が異なる樹脂を用いた場合でも同様の特性が得られるかどうかは、当業者にしてみても予測し得ない。
したがって、(C)熱硬化性樹脂及び/又は高エネルギー線硬化性樹脂を含む本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されていない発明を含むものである。

2 理由1(新規性)、理由2(進歩性)についての当審の判断
(1)甲1?3の記載
ア 甲1
甲1には、「対摩耗性を有する化粧材」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 架橋性樹脂からなるバインダーと該架橋性樹脂よりも高硬度の球状粒子とを含有する塗工組成物から形成された耐摩耗性樹脂層が、基材の表面に設けられていることを特徴とする耐摩耗性を有する化粧材。
【請求項2】 球状粒子が球形のα-アルミナである請求項1記載の耐摩耗性を有する化粧材。」
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、建築物の床面、壁面、天井等の内装、家具ならびに各種キャビネットなどの表面装飾用材料として用いられる化粧材に関し、特に表面の耐摩耗性が要求される用途に使用される化粧材に関する。」
「【0025】本発明において、耐摩耗性樹脂層3を基材2の表面に形成するためのバインダーとして用いる架橋性樹脂4は、電離放射線硬化性樹脂または熱硬化性樹脂(常温硬化型樹脂、二液反応硬化型樹脂を含む)等の従来公知の化粧材の架橋性樹脂として用いられる樹脂が利用できる。架橋性樹脂としては電離放射線硬化性樹脂が、硬化速度が速く作業性も良好であり、しかも柔軟性や硬度等の樹脂の物性の調節も容易であり、柔軟な基材を用いた場合にはシート状の化粧材を効率良く連続生産可能であるため好ましい。また、上記の架橋性樹脂の選択は化粧材の用途に応じて適宜選択することができる。該架橋性樹脂は、未架橋状態で球状粒子を分散させて塗工した後、架橋させ、硬化させて塗膜は完成される。」
「【0031】架橋性樹脂として用いる電離放射線硬化性樹脂は、具体的には、分子中に重合性不飽和結合または、エポキシ基を有するプレポリマー、オリゴマー、及び/又はモノマーを適宜混合した、電離放射線により硬化可能な組成物が用いられる。尚、ここで電離放射線とは、電磁波または荷電粒子線のうち分子を重合或いは架橋し得るエネルギー量子を有するものを意味し、通常紫外線または電子線が用いられる。
【0032】上記プレポリマー、オリゴマーの例としては不飽和ジカルボン酸と多価アルコールの縮合物等の不飽和ポリエステル類、ポリエステルメタクリレート、ポリエーテルメタクリレート、ポリオールメタクリレート、メラミンメタクリレート等のメタクリレート類、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリオールアクリレート、メラミンアクリレート等のアクリレート、カチオン重合型エポキシ化合物等が挙げられる。
【0033】ウレタンアクリレートとしては、例えばポリエーテルジオールとジイソシアネートとを反応させて得られる、下記化1の一般式で表されるポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。
【化1】CH_(2)=C(R^(1))-COOCH_(2)CH_(2)-OCONH-X-NHCOO-〔-CH(R^(2))-(CH_(2))_(n)-O-〕_(m)-CONH-X-NHCOO-CH_(2)CH_(2)OCOC(R^(1))=CH_(2)
(式中、R^(1) 、R^(2) はそれぞれ水素またはメチル基であり、Xはジイソシアネート残基、nは1?3の整数、mは6?60の整数である。)
【0034】上記のポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレートに使用されるジイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等が挙げられる。上記のポリエーテルジオールとしては、分子量が500?3000のポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0035】以下、ウレタンアクリレートの製造例を示す。滴下ロート、温度計、還流冷却管及び攪拌棒を備えたガラス製反応容器中に、分子量1000のポリテトラメラレングリコール1000部と、イソホロンジイソシアネート444部とを仕込み、120℃で3時間反応させた後、80℃以下に冷却し、2-ヒドロキシエチルアクリレートを232重量部加え、80℃でイソシアネート基が消失するまで反応させて、ウレタンアクリレートが得られた。
【0036】電離放射線硬化性樹脂に用いるモノマーの例としては、スチレン、αメチルスチレン等のスチレン系モノマー、アクリル酸メチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸ブトキシエチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸メトキシブチル、アクリル酸フェニル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸エトキシメチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ラウリル等のメタクリル酸エステル類、アクリル酸-2-(N、N-ジエチルアミノ)エチル、メメタクリル酸-2-(N、N-ジメチルアミノ)エチル、アクリル酸-2-(N、N-ジベンジルアミノ)メチル、アクリル酸-2-(N、N-ジエチルアミノ)プロピル等の不飽和置酸の置換アミノアルコールエステル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等の不飽和カルボン酸アミド、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6ヘキサンジオールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート等の化合物、ジプロピレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート等の多官能性化合物、及び/又は、分子中に2個以上のチオール基を有するポリチオール化合物、例えばトリメチロールプロパントリチオグリコレート、トリメチロールプロパントリチオプロピレート、ペンタエリスリトールテトラチオグリコール等が挙げられる。
【0037】通常、以上の化合物を必要に応じて1種もしくは2種以上を混合して用いるが、電離放射線硬化性樹脂に通常の塗工適性を付与するために、前記プレポリマーまたはポリチオールを5重量%以上、前記モノマー及びまたはポリチオールを95重量%以下とするのが好ましい。
【0038】モノマーの選定にさいしては、硬化物の可撓性が要求される場合は塗工適性上支障のない範囲でモノマーの量を少なめにしたり、1官能または2官能アクリレートモノマーを用い、比較的低架橋密度の構造とする。また、硬化物の耐摩耗性、耐熱性、耐溶剤性等が要求される場合には、塗工適性上支障のない範囲でモノマーの量を多めにしたり、3官能以上のアクリレートモノマーを用いることで高架橋密度の構造とすることができる。尚、1、2官能モノマーと3官能以上のモノマーを混合し塗工適性と硬化物の物性とを調整することもできる。
【0039】以上のような1官能性アクリレートモノマーとしては、2-ヒドロキシアクリレート、2-ヘキシルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート等が挙げられる。又、2官能アクリレートとしてはエチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート等が、また3官能以上のアクリレートとしては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(テトラ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。」
「【0062】以下、本発明の具体的実施例を示し、本発明を更に詳細に説明する。
〔実施例1?7、比較例1?3〕木目絵柄を印刷した坪量50g/m^(2)の化粧紙の表面に、表2に示すウレタンアクリレートオリゴマー、2官能アクリレートモノマーA、及び2官能アクリレートモノマーBの混合比を各々変化させた組成物からなる架橋性樹脂A?C、又は表3に示す架橋性樹脂D、Eに、表4に示す球状粒子(実施例1?7は球状のα-アルミナ)又は不定形粒子(比較例1?3)を分散した塗工組成物を30g/m^(2) dry塗工し、電子線を5Mrad(175kv)照射して、化粧紙の表面に耐摩耗性樹脂層を形成した化粧材を得た。得られた各化粧材の耐摩耗試験を行った結果を表4に示す。耐摩耗性試験は前記実験例と同様の方法で行った。また、可とう性の試験の評価も実験例と同様に行った。
【0063】
【表2】
〔架橋性樹脂組成:重量部〕
┌────────────────────┬───┬───┬───┐
│種類 │組成A│組成B│組成C│
├────────────────────┼───┼───┼───┤
│ポリエステル系ウレタンアクリレートオリゴ│ │ │ │
│マー(分子量2000:官能基数2) │ 30│ 40│ 73│
│ビスフェノールA(EO)変性ジアクリレー│ │ │ │
│ト(分子量510:官能基数2) │ 40│ 50│ 22│
│脂肪族ジオール系モノマー │ │ │ │
│(分子量300:官能基数2) │ 30│ 10│ 5│
├────────────────────┼───┼───┼───┤
│ 合計 │100│100│100│
├────────────────────┼───┼───┼───┤
│平均架橋間分子量 │250│330│520│
└────────────────────┴───┴───┴───┘
【0064】
【表3】

【0065】
【表4】



イ 甲2
甲2には、「電子線硬化型コーティング用組成物」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【請求項1】
ヌープ硬度1,300?8,000kg/mm^(2)の無機微粒子(A)およびガラス転移温度(Tg)が20?200℃でかつ2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリ(メタ)アクリレート(B)からなる電子線硬化型コーティング用組成物。
【請求項2】
(A)がアルミナ粒子である請求項1記載の組成物。」
「【0055】
本発明の組成物は本発明の効果を阻害しない範囲で必要により、さらに電子線反応性樹脂(C)を加えることができる。(C)は、Tgが20℃未満または200℃を超えるものであり、具体的には下記のものが挙げられ、これらは1種単独でも2種以上の併用でもいずれでもよい。
【0056】
(C1)モノ(メタ)アクリレート
(C11)C4?50のアルキル(メタ)アクリレート
例えばラウリル(メタ)アクリレートおよびステアリル(メタ)アクリレート(C12)C1?30の脂肪族モノオールのAO(C2?4)1?30モル付加物の(メタ)アクリレート
例えばラウリルアルコールのEO2モル付加物の(メタ)アクリレートおよびラウリルアルコールのPO3モル付加物の(メタ)アクリレート
(C13)C6?30の[アルキル(C1?20)]フェノールのAO(C2?4)1?30モル付加物の(メタ)アクリレート
例えばフェノールのPO3モル付加物の(メタ)アクリレートおよびノニルフェノールのEO1モル付加物の(メタ)アクリレート
(C14)C6?30の脂環式モノオールの(メタ)アクリレート
例えばシクロヘキシル(メタ)アクリレートおよびイソボルニル(メタ)アクリレート
【0057】
(C2)ジ(メタ)アクリレート
(C21)(ポリ)オキシアルキレン(C2?4)(分子量62?Mn3,000)のジ(メタ)アクリレート
例えばポリエチレングリコール(Mn400)のジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(Mn200)のジ(メタ)アクリレートおよびポリテトラメチレングリコール(Mn650)のジ(メタ)アクリレート
(C22)ビスフェノールAのAO(C2?4)2?30モル付加物のジ(メタ)アクリレート
例えばビスフェノールAのEO2モル付加物のジ(メタ)アクリレートおよびビスフェノールAのPO4モル付加物のジ(メタ)アクリレート
(C23)C2?30の脂肪族ジオールのジ(メタ)アクリレート
例えばネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートおよび1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート
(C24)C6?30の脂環式ジオールのジ(メタ)アクリレート
例えばジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレートおよび水素化ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート
【0058】
(C3)ポリ(n=3?6またはそれ以上)(メタ)アクリレート
(C31)C3?40の多価(3価?6価またはそれ以上)アルコールのポリ(メタ)アクリレート
例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンPO3モル付加物のトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO3モル付加物のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールEO4モル付加物のテトラ(メタ)アクリレートおよびジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート
【0059】
(C4)ポリエステル(メタ)アクリレート
多価(2価?4価)カルボン酸、多価(2価?6価)アルコールおよび(メタ)アクリロイル基含有化合物とのエステル化により得られる複数のエステル結合と複数の(メタ)アクリロイル基を有する分子量150?Mn4,000のポリエステル(メタ)アクリレート
多価(2価?4価)カルボン酸としては、例えば脂肪族多価カルボン酸[C3?20、例えばマレイン酸(無水物)、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、マレイン酸およびジペンタエリスリトールジカルボン酸(ジペンタエリスリートールと酸無水物の反応物)]、脂環式多価カルボン酸[C5?30、例えばシクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロ(無水)フタル酸およびメチルテトラヒドロ(無水)フタル酸]および芳香族多価カルボン酸[C8?30、例えばイソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸(無水物)およびトリメリット酸(無水物)]が挙げられる。
【0060】
多価(2価?6価)アルコールとしては、C2?30、例えば2価アルコール〔例えばC2?12の脂肪族2価アルコール[(ジ)アルキレングリコール、例えばエチレングリコール、 ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールおよびドデカンジオール];C6?10の脂環式2価アルコール[例えば1,4-シクロヘキサンジオールおよびシクロヘキサンジメタノール];およびC8?20の芳香族2価アルコール[例えばキシリレングリコールおよびビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン]〕および3価?8価またはそれ以上の多価アルコール〔例えば(シクロ)アルカンポリ オールおよびそれらの分子内もしくは分子間脱水物[例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ソルビトール、ジペンタエリスリトールおよびジグリセリンその他のポリグリセリン]および糖類およびその誘導体[例えばショ糖、グルコース、フラクトース、マンノース、ラクトース、およびグリコシド(メチルグルコシド等)]〕が挙げられる。
(メタ)アクリロイル基含有化合物としては、C2?30、例えば(メタ)アクリル酸およびヒドロキシメチル(メタ)アクリレート挙げられる。
【0061】
(C5)主鎖および/または側鎖にエチレン性不飽和基を有するブタジエン重合体[例えばポリブタジエン(Mn500?500,000)]
(C6)ジメチルポリシロキサンの主鎖および/または側鎖にエチレン性不飽和基を有するシロキサン重合体[Mn300?20,000、例えばジメチルポリシロキサンジ(メタ)アクリレート]」
「【0090】
本発明の組成物を硬化させてなる硬化物で被覆された紙、プラスチックフィルム等の表面は、耐擦傷性に優れ摩擦や引っ掻きで傷がつきにくく、さらに外観も良好であることから、例えば内装材〔住宅用建材[例えばインテリア(例えば壁材)および家具類(例えばテーブル、机、本箱およびシステムキッチン)]および車輌用内装材〕、外装材(例えば住宅壁材および車輌壁材)、フィルムおよび包装紙等の幅広い用途に供せられる。これらのうち内装材、とくに住宅用建材および車輌用内装材としてとくに好適に用いられる。」
「【0104】
(実施例1?10)
メチルエチルケトン200部、共重合体(B)をその他の成分とともに表2の配合組成に従ってプラネタリーミキサーに入れ、1時間均一混合し、組成物(実施例1?10)を得た。これを印刷を施した紙(厚み0.2mmの化粧紙)に、硬化乾燥後の膜厚が10μmになるようにバーコーターで塗工し、ドライヤー(内部温度130℃)で30秒間乾燥し、電子線を10Mrad照射し、被覆材(被覆材1?10)を得た。
得られた被覆材の耐擦傷性、耐溶剤性、耐汚染性およびカール性を評価した。結果を表4に示す。」
「【0103】
【表1】


「【0106】
【表2】


「【0110】
【発明の効果】
本発明の電子線硬化型コーティング用組成物は、これを基材にコーティングして電子線硬化させてなる硬化物が下記の効果を奏するため極めて有用である。
(1)耐擦傷性、耐汚染性および耐カール性に優れる。
(2)耐溶剤性に優れる。
(3)被覆材(例えば該組成物がコーティングされた建材化粧紙)の加工性が損なわれることがない。」

ウ 甲3
甲3には、「鋼管ねじ継手の防錆に適した光硬化性組成物」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【請求項1】
下記成分(A)?(G)を含有することを特徴とする光硬化性組成物:
(A)光硬化性(メタ)アクリレート樹脂、
(B)単官能(メタ)アクリレートモノマーおよび2官能(メタ)アクリレートモノマーから選ばれた(メタ)アクリレートモノマー、
(C)3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマー、
(D)光重合開始剤、
(E)ベンゾトリアゾール系防錆剤、
(F)リン酸系防錆顔料およびカルシウムイオン交換シリカから選ばれた防錆顔料、ならびに
(G)リン酸エステル。」
「【請求項3】
前記光硬化性(メタ)アクリレート樹脂(A)が、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートおよびポリウレタン(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の光硬化性組成物。」
「【請求項5】
(H)潤滑剤をさらに含有する、請求項1?4の何れか1項に記載の光硬化性組成物。」
「【請求項11】
鋼管ねじ継手のピンおよび/またはボックスの表面上に請求項8または9に記載の光硬化被膜を有する光硬化被膜付き鋼管ねじ継手。
【請求項12】
鋼管ねじ継手のピンおよび/またはボックスの表面上に請求項1?6の何れか1項に記載の光硬化性組成物を塗布した後、当該塗布面に活性エネルギー線を照射して該組成物を硬化させて光硬化被膜を形成する工程を含む、鋼管ねじ継手の防錆方法。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性組成物およびその用途(例:光硬化被膜、光硬化被膜付き基材、光硬化被膜付き鋼管ねじ継手)、ならびに該組成物を用いた鋼管ねじ継手の防錆方法および光硬化被膜付き鋼管ねじ継手の製造方法に関する。本発明に係る光硬化性組成物は、特に鋼管、中でも油井管(OCTG)の締結に使用される鋼管ねじ継手の防錆用の表面処理に適している。」
「【0022】
本発明は、上記のような従来技術が抱える問題を解決しようとするものである。すなわち本発明は、コンパウンドグリスまたはストレージ用グリスを使用することなく、気密性、基材への密着性、潤滑性能、耐ゴーリング性および耐食性に優れ、かつ薄膜で透明性が高い被膜を形成可能な光硬化性組成物を提供することを目的とする。」
「【0050】
ポリウレタン(メタ)アクリレートとしては、例えば、イソシアネート化合物とポリオール化合物とヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート化合物とを反応させて得られるポリウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。前記イソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。前記ポリオール化合物としては、水素化ビスフェノールAとエチレンオキサイドとの付加物、水素化ビスフェノールA、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。前記ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート化合物としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸の水酸基含有アルキルエステルが挙げられる。」
「【0113】
なお、表1に記載の各成分の詳細は下記のとおりである。
成分(A):光硬化性(メタ)アクリレート樹脂
・A-1:ポリウレタンアクリレート-日本合成化学社製:紫光^(TM) UV3200B、Tg=-8℃、Mn=10000、粘度=50000mPa・s(25℃)、
・A-2:ポリエステルアクリレート-DIC社製:UNIDIC^(TM) V3021、Mn=500、粘度=7000mPa・s(25℃)、
・A-3:ポリエステルアクリレート-ダイセル・サイテック社製:EBECRYL^(TM) 525、Mn=1000、粘度=40000mPa・s(25℃)、
・A-4:ポリエステルアクリレート-ダイセル・サイテック社製:EBECRYL^(TM) 811、粘度=1850mPa・s(60℃)、
・A-5:エポキシアクリレート-DIC社製:UNIDIC^(TM) V5502、Tg=100?140℃、Mn=1300、粘度=2000mPa・s(25℃)、
【0114】
・A-6:エポキシアクリレート-昭和高分子社製:リポキシ^(TM) VR-77-80TPA、Mn=500、粘度=40000mPa・s(25℃);
成分(B):単官能または2官能(メタ)アクリレートモノマー
・B-1:単官能アクリレートモノマー:ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート-日立化成工業社製:ファンクリル^(TM)FA-512A、
・B-2:単官能アクリレートモノマー:フェノキシエチルアクリレート-第一工業製薬社製:ニューフロンティア^(TM)PHE、
・B-3:2官能アクリレートモノマー:トリプロピレングリコールジアクリレート-ダイセル・サイテック社製:TPGDA、
・B-4:2官能アクリレートモノマー:ネオペンチルグリコールジアクリレート-大阪有機化学工業社製:ビスコート^(TM)#215、」
「【0118】
【表1】


「【0132】
【表2】



(2)甲1?3に記載された発明の認定
ア 甲1に記載された発明(甲1発明)
(ア)甲1には、「建築物の床面、壁面、天井等の内装、家具ならびに各種キャビネットなどの表面装飾用材料として用いられる化粧材に関し、特に表面の耐摩耗性が要求される用途に使用される化粧材」(【0001】)について記載され、該化粧材は、【請求項1】から、「架橋性樹脂からなるバインダーと該架橋性樹脂よりも高硬度の球状粒子とを含有する塗工組成物から形成された耐摩耗性樹脂層が、基材の表面に設けられている」ものであるといえる。
(イ)そして、該化粧材の対摩耗性樹脂層を形成する塗工組成物の具体例である実施例6、7について、【表4】(【0065】)には、塗工組成物の架橋性樹脂(組成D、組成E)と、球状粒子又は不定形粒子の種類(球状のアルミナ)、平均粒径(30又は20μm)、添加量(15重量%)とが記載され、【表3】(【0064】)には、架橋性樹脂の組成D、Eが記載され、【0062】には、球状粒子(球状のアルミナ)は、球状のα-アルミナであることが記載されている。
ここで、該【表3】から、組成D、Eは、次のようなものであるといえる。
「組成D:ウレタンアクリレート(分子量:1700) 20重量部
トリメチロールプロパントリアクリレート(分子量:296) 20質量部
ビスフェノールA(EO)_(4)ジアクリレート(分子量:500) 20質量部
フェノール(EO)_(2)ジアクリレート(分子量:236) 20質量部
組成E:ウレタンアクリレート(分子量:1700) 20重量部
トリメチロールプロパントリアクリレート(分子量:296) 20質量部
ビスフェノールA(EO)_(4)ジアクリレート(分子量:500) 10質量部
フェノール(EO)_(2)ジアクリレート(分子量:236) 20質量部」

(ウ)上記(ア)、(イ)から、甲1には、上記実施例6、7について、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「ウレタンアクリレート(分子量:1700) 20重量部、
トリメチロールプロパントリアクリレート(分子量:296) 20質量部、
ビスフェノールA(EO)_(4)ジアクリレート(分子量:500) 20又は10質量部、
フェノール(EO)_(2)ジアクリレート(分子量:236) 20又は30質量部からなる架橋性樹脂、及び、
球状粒子として球状のα-アルミナ(平均粒径(30又は20μm)) 15重量%
を含む、化粧材の対摩耗性樹脂層を形成する塗工組成物。」

イ 甲2に記載された発明(甲2発明)
(ア)甲2には、【請求項1】から、「ヌープ硬度1,300?8,000kg/mm^(2)の無機微粒子(A)およびガラス転移温度(Tg)が20?200℃でかつ2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリ(メタ)アクリレート(B)からなる電子線硬化型コーティング用組成物」が記載されているといえる。
(イ)上記(ア)における電子線硬化型コーティング用組成物の具体例である実施例1?10について、【0104】には、メチルエチルケトン200部、共重合体(B)をその他の成分とともに表2の配合組成に従ってプラネタリーミキサーに入れ、1時間均一混合し、組成物(実施例1?10)を得て、これを印刷を施した紙(厚み0.2mmの化粧紙)に、硬化乾燥後の膜厚が10μmになるようにバーコーターで塗工し、ドライヤー(内部温度130℃)で30秒間乾燥し、電子線を10Mrad照射し、被覆材(被覆材1?10)を得て、得られた被覆材の耐擦傷性、耐溶剤性、耐汚染性およびカール性を評価したことが記載されている。
(ウ)【表2】(【0106】)には、上記実施例10の配合組成が、
「共重合体(B):B1 20部、 B4 20部
TA-401(トリメチロールプロパンEO3モル付加物) 20部
DA-600(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート) 15部
アルミナB(板状アルミナ、平均粒径2μm、ヌープ硬度2800) 20部
シリカ 5部」であることが記載されている。
そして、「共重合体(B)」の「B1」及び「B4」は、【表1】(【0103】)の「合成例1」及び「合成例4」としてそれぞれ示されており、該【表1】に記載された配合組成及び特性値からみて「共重合体(B)」は、上記(ア)における「ガラス転移温度(Tg)が20?200℃でかつ2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリ(メタ)アクリレート(B)」と呼べることは明らかである。
(エ)上記(ア)?(ウ)から、甲2には、上記実施例10について、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「ガラス転移温度(Tg)が20?200℃でかつ2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリ(メタ)アクリレート(B) 40部、
TA-401(トリメチロールプロパンEO3モル付加物) 20部、
DA-600(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート) 15部、及び、
アルミナB(板状アルミナ、平均粒径2μm、ヌープ硬度2800) 20部
を含む電子線硬化型コーティング用組成物。」

ウ 甲3に記載された発明(甲3発明)
(ア)甲3には、【請求項1】から、
「下記成分(A)?(G)を含有する光硬化性組成物。
(A)光硬化性(メタ)アクリレート樹脂、
(B)単官能(メタ)アクリレートモノマー及び2官能(メタ)アクリレートモノマーから選ばれた(メタ)アクリレートモノマー、
(C)3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマー、
(D)光重合開始剤、
(E)ベンゾトリアゾール系防錆剤、
(F)リン酸系防錆顔料及びカルシウムイオン交換シリカから選ばれた防錆顔料、並びに
(G)リン酸エステル。」が記載されているといえる。
そして、【請求項1】を引用する【請求項5】は、上記「光硬化性組成物」に「(H)潤滑剤」がさらに含まれることが記載されている。
(イ)上記(ア)の「光硬化性組成物」の具体例である実施例5について、【表1】(【0118】)には、その成分が記載され、【0113】に、記号「A-3」で表される「ポリエステルアクリレート」は、「ダイセル・サイテック社製:EBECRYL^(TM)525」であることが記載され、【0114】に、記号「A-6」で表される「エポキシアクリレート」は、「昭和高分子社製:リポキシ^(TM)VR-77-80TPA」であることが記載されている。
(ウ)上記(ア)、(イ)から、甲3には、上記実施例5として、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「(A)光硬化性(メタ)アクリレート樹脂:
(A-3)ポリエステルアクリレート(ダイセル・サイテック社製:EBECRYL^(TM)525)20質量部、
(A-6)エポキシアクリレート(昭和高分子社製:リポキシ^(TM)VR-77-80TPA)15質量部、
(B)単官能(メタ)アクリレートモノマー及び2官能(メタ)アクリレートモノマーから選ばれた(メタ)アクリレートモノマー:
(B-3)トリプロピレングリコールジアクリレート 30質量部、
(C)3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマー:
(C-1)トリメチロールプロパントリアクリレート 15質量部、
(D)光重合開始剤:
(D-1)1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 7質量部、
(D-2)2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン 3質量部、
(E)ベンゾトリアゾール系防錆剤:
(E-1)1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]ペンゾトリアゾール 1質量部、
(F)防錆顔料:
(F-1)亜リン酸アルミニウム 5質量部、
(G)リン酸エステル:
(G-1)2-メタクリロイロキシエチルアシッドホスフェート 3質量部、
(H)潤滑剤:
(H-1)マイクロナイズドポリエチレンワックス 1質量部
を含む、光硬化性組成物。」

(3)対比・判断
ア 甲1発明を主引用発明とした場合
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明のウレタンアクリレートは、甲1の【0031】、【0032】の記載からみて、電離放射線硬化性樹脂の構成成分であるから、本件発明1の「(C)熱硬化性ウレタン樹脂及び/又は高エネルギー線硬化性ウレタン樹脂」とは、「高エネルギー線硬化性樹脂」である点で共通するといえる。
また、甲1発明において、(メタ)アクリル酸化合物のアクリル当量を、本件明細書の【0030】?【0032】、【0034】、【0037】の規定に従って求めると、「トリメチロールプロパントリアクリレート(分子量:296)」のアクリル当量は、296/3=98.7、「ビスフェノールA(EO)_(4)ジアクリレート(分子量:500)」のアクリル当量は、500/2=250、「フェノール(EO)_(2)ジアクリレート」のアクリル当量は、236/2=118と求められる。
そうすると、甲1発明の「ビスフェノールA(EO)_(4)ジアクリレート(分子量:500)」は、本件発明1の「(B)(メタ)アクリル当量が130?270の範囲にある(メタ)アクリル酸化合物」に相当する。
また、甲1発明の「球状粒子として球状のα-アルミナ(平均粒径(30又は20μm))」は、本件発明1の「(D)少なくとも1種の固体潤滑剤」に相当する。
そして、本件発明1の「潤滑被膜用塗料組成物」と、甲1発明の「塗工組成物」とは、「塗料組成物」である点で共通する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「(B)(メタ)アクリル当量が130?270の範囲にある(メタ)アクリル酸化合物、(C)高エネルギー線硬化性樹脂、及び、(D)少なくとも1種の固体潤滑剤を含む、塗料組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点1-1)
本件発明1は、「(A)(メタ)アクリル当量が95以下の(メタ)アクリル酸化合物」を含み、前記成分(A):前記成分(B)のモル比が1:6?6:1の範囲にあるのに対し、甲1発明は、「(A)(メタ)アクリル当量が95以下の(メタ)アクリル酸化合物」は含まない点。
(相違点1-2)
本件発明1の高エネルギー線硬化性樹脂は、ウレタン樹脂であるのに対し、甲1発明はウレタンアクリレートである点。
(相違点1-3)
「(D)少なくとも1種の固体潤滑剤」の含有量について、本件発明1は、「前記(A)?前記成分(C)の和 100質量部に対し、前記成分(D)5?100質量部」と規定されているのに対し、甲1発明の「球状粒子として球状のα-アルミナ」の含有量について、そのような規定はされていない点。
(相違点1-4)
用途について、本件発明1の「塗料組成物」は「潤滑被膜用」と規定されているのに対し、甲1発明の「塗工組成物」は、「潤滑被膜用」とは規定されていない点。

ここで、事案に鑑み、相違点1-1について検討する。
甲1には、(メタ)アクリル酸化合物の(メタ)アクリル当量について着目した記載はなく、アクリル当量の異なる2種以上の(メタ)アクリル酸化合物を用いることについては、記載も示唆もされていない。
さらに、甲1発明においては、(メタ)アクリル当量が95以下の(メタ)アクリル酸化合物を組み合わせ、添加することは、想定されていないというべきである。
また、甲1発明において、(メタ)アクリル酸化合物として、(メタ)アクリル当量が95以下のものを、前記成分(A):前記成分(B)のモル比が1:6?6:1の範囲となるように含有させる動機付けは見出せない。

これに対し、本件明細書の【0029】には、次のように記載されている。
「[成分(A)及び成分(B)]
本発明の組成物は、硬化物のハードセグメントを構成する成分として、(A)(メタ)アクリル当量が100以下、好ましくは95以下、より好ましくは90以下の(メタ)アクリル酸化合物、及び、硬化物のソフトセグメントを構成する成分として、(B)(メタ)アクリル当量が120?300、好ましくは130?270、より好ましくは150?250である(メタ)アクリル酸化合物を共に含む。前記(A)成分及び前記(B)成分を併用することで、本発明の組成物の硬化物(重合物)は各種の基材に対して高い密着性を備えることができる。」
また、同【0040】には、次のように記載されている。
「本発明の組成物における前記成分(A)と前記成分(B)の配合比率は、モル比にして1:9?9:1が好ましく、1:6?6:1がより好ましく、1:4?4:1の範囲が特に好ましい。かかる範囲内で(メタ)アクリル当量が異なる2種の(メタ)アクリル酸化合物、好適には、2種の(メタ)アクリル酸エステルを併用することで、短時間で硬化可能であり、硬化時の発熱が少なく基材に与える影響が少なく、また、基材(特にエラストマー製のもの)に対する接着性が著しく改善される。」
そして、本件発明1の実施例について、同【0086】には、「合成例1」が記載され、【表1】(【0090】)には、「合成例1」によって得られたラジカル重合性樹脂組成物の硬化後の塗膜の「接着性」が「○」であること(剥離強度が10N/10mmより大きい(【0089】))が記載され、【表2】(【0102】)、【表3】(【0103】)には、該「合成例1」を用いて得られた実施例1?6の潤滑被膜について、「碁盤目密着性試験」において「◎」であること(潤滑被膜を形成した各試験片の当該被膜を100マスの碁盤目にカットし、セロテープ(登録商標)剥離試験を行い、碁盤目100マスのうち被膜の残った格子数が100であること(【0098】))が記載されている。
そうすると、本件発明1は、上記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を備えることで、「各種の基材に対して高い密着性を備え」、「短時間で硬化可能であり、硬化時の発熱が少なく基材に与える影響が少なく、また、基材(特にエラストマー製のもの)に対する接着性が著しく改善され」た「潤滑被膜用塗料組成物」が得られたものであって、甲1発明からは、当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものであるということができる。

したがって、上記相違点1-1は、当業者が容易に想到し得ることであるということはできない。

よって、上記相違点1-2?1-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)本件発明2?5、7?9について
本件発明2?5、7?9は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様な理由から、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 甲2発明を主引用発明とした場合
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明において、(メタ)アクリル酸化合物のアクリル当量を本件明細書の【0030】?【0032】の規定に従うと、「TA-401(トリメチロールプロパンEO_(3)モル付加物)」のアクリル当量は、428/3=142.6、「DA-600(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)」のアクリル当量は、578/6=96.3と求められる。
そうすると、甲2発明の「TA-401(トリメチロールプロパンEO_(3)モル付加物)」は、本件発明1の「(B)(メタ)アクリル当量が130?270の範囲にある(メタ)アクリル酸化合物」に相当する。
そして、甲2発明の「アルミナB(板状アルミナ、平均粒径2μm、ヌープ硬度2800)」は、本件発明1の「(D)少なくとも1種の固体潤滑剤」に相当する。
また、本件発明1の「潤滑被膜用塗料組成物」と、甲2発明の「電子線硬化型コーティング用組成物」とは、「塗料組成物」である点で共通する。

そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「(B)(メタ)アクリル当量が130?270の範囲にある(メタ)アクリル酸化合物、
(D)少なくとも1種の固体潤滑剤を含む、塗料組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点2-1)
本件発明1は、「(A)(メタ)アクリル当量が95以下の(メタ)アクリル酸化合物」を含み、前記成分(A):前記成分(B)のモル比が1:6?6:1の範囲にあるのに対し、甲2発明は、「(A)(メタ)アクリル当量が95以下の(メタ)アクリル酸化合物」は含まない点。
(相違点2-2)
本件発明1は、「(C)熱硬化性ウレタン樹脂及び/又は高エネルギー線硬化性ウレタン樹脂」を含むのに対し、甲2発明はそのような樹脂は含まない点。
(相違点2-3)
「(D)少なくとも1種の固体潤滑剤」の含有量について、本件発明1は、「前記(A)?前記成分(C)の和 100質量部に対し、前記成分(D)5?100質量部」と規定されているのに対し、甲2発明の「アルミナB(板状アルミナ、平均粒径2μm、ヌープ硬度2800)」の含有量について、そのような規定はされていない点。
(相違点2-4)
用途について、本件発明1の「塗料組成物」は「潤滑被膜用」と規定されているのに対し、甲2発明の「電子線硬化型コーティング用組成物」は、「潤滑被膜用」とは規定されていない点。

ここで、事案に鑑み、相違点2-1について検討する。
甲2には、(メタ)アクリル酸化合物の(メタ)アクリル当量について着目した記載はなく、アクリル当量の異なる2種以上の(メタ)アクリル酸化合物を用いることについては、記載も示唆もされていない。
さらに、甲2発明においては、(メタ)アクリル当量が95以下の(メタ)アクリル酸化合物を組み合わせ、添加することは、想定されていないというべきである。
また、甲2発明において、(メタ)アクリル酸化合物として、(メタ)アクリル当量が95以下のものを、前記成分(A):前記成分(B)のモル比が1:6?6:1の範囲となるように含有させる動機付けは見出せない。

これに対し、上記ア(ア)で述べたように、本件発明1は、上記相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項を備えることで、「各種の基材に対して高い密着性を備え」、「短時間で硬化可能であり、硬化時の発熱が少なく基材に与える影響が少なく、また、基材(特にエラストマー製のもの)に対する接着性が著しく改善され」た「潤滑被膜用塗料組成物」が得られたものであって、甲2発明からは、当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものであるということができる。

したがって、上記相違点2-1は、当業者が容易に想到し得ることであるということはできない。

よって、上記相違点2-2?2-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)本件発明2?5、7?9について
本件発明2?5、7?9は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様な理由から、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 甲3発明を主引用発明とした場合
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明において、(メタ)アクリル酸化合物のアクリル当量を本件明細書の【0030】?【0032】の規定に従うと、「(C-1)トリメチロールプロパントリアクリレート」のアクリル当量は、296/2=98.7、「(B-3)トリプロピレングリコールジアクリレート」のアクリル当量は、300/2=150、「(A-6)エポキシアクリレート(昭和高分子社製:リポキシ^(TM)VR-77-80TPA)」のアクリル当量は、500/2=250、「(A-3)ポリエステルアクリレート(ダイセル・サイテック社製:EBECRYL^(TM)525)」のアクリル当量は、1000/2=500と求められる。
そうすると、甲3発明の「(B-3)トリプロピレングリコールジアクリレート」及び「(A-6)エポキシアクリレート(昭和高分子社製:リポキシ^(TM)VR-77-80TPA)」は、本件発明1の「(B)(メタ)アクリル当量が130?270の範囲にある(メタ)アクリル酸化合物」に相当する。
そして、甲3発明の「(H)潤滑剤:(H-1)潤滑剤(マイクロナイズドポリエチレンワックス)」は、本件発明1の「(D)少なくとも1種の固体潤滑剤」に相当する。
また、本件発明1の「潤滑被膜用塗料組成物」と、甲3発明の「光硬化性組成物」とは、甲3の請求項12に、「光硬化性組成物を塗布」することが記載されていることから、甲3発明の「光硬化性組成物」は「塗料組成物」であるといえ、両者は「塗料組成物」である点で共通する。

そうすると、本件発明1と甲3発明とは、
「(B)(メタ)アクリル当量が130?270の範囲にある(メタ)アクリル酸化合物、
(D)少なくとも1種の固体潤滑剤を含む、塗料組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点3-1)
本件発明1は、「(A)(メタ)アクリル当量が95以下の(メタ)アクリル酸化合物」を含み、前記成分(A):前記成分(B)のモル比が1:6?6:1の範囲にあるのに対し、甲3発明は、「(A)(メタ)アクリル当量が95以下の(メタ)アクリル酸化合物」は含まない点。
(相違点3-2)
本件発明1は、「(C)熱硬化性ウレタン樹脂及び/又は高エネルギー線硬化性ウレタン樹脂」を含むのに対し、甲3発明はそのような樹脂は含まない点。
(相違点3-3)
「(D)少なくとも1種の固体潤滑剤」の含有量について、本件発明1は、「前記(A)?前記成分(C)の和 100質量部に対し、前記成分(D)5?100質量部」と規定されているのに対し、甲3発明の「潤滑剤(マイクロナイズドポリエチレンワックス)」の含有量について、そのような規定はされていない点。
(相違点3-4)
用途について、本件発明1の「塗料組成物」は「潤滑被膜用」と規定されているのに対し、甲3発明の「光硬化性組成物」は、「潤滑被膜用」とは規定されていない点。

ここで、事案に鑑み、相違点3-1について検討する。
甲3には、(メタ)アクリル酸化合物の(メタ)アクリル当量について着目した記載はなく、アクリル当量の異なる2種以上の(メタ)アクリル酸化合物を用いることについては、記載も示唆もされていない。
さらに、甲3発明においては、(メタ)アクリル当量が95以下の(メタ)アクリル酸化合物を組み合わせ、添加することは、想定されていないというべきである。
また、甲3発明において、(メタ)アクリル酸化合物として、(メタ)アクリル当量が95以下のものを、前記成分(A):前記成分(B)のモル比が1:6?6:1の範囲となるように含有させる動機付けは見出せない。

これに対し、上記ア(ア)で述べたように、本件発明1は、上記相違点3-1に係る本件発明1の発明特定事項を備えることで、「各種の基材に対して高い密着性を備え」、「短時間で硬化可能であり、硬化時の発熱が少なく基材に与える影響が少なく、また、基材(特にエラストマー製のもの)に対する接着性が著しく改善され」た「潤滑被膜用塗料組成物」が得られたものであって、甲3発明からは、当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものであるということができる。

したがって、上記相違点3-1は、当業者が容易に想到し得ることであるということはできない。

よって、上記相違点3-2?3-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)本件発明2?5、7?9について
本件発明2?5、7?9は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様な理由から、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 理由3(サポート要件)についての当審の判断
(1)特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するかどうか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲の記載に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
上記の観点に立って、本件について検討することとする。

(2)本件発明の課題は、本件明細書の【0006】の記載からみて、「加熱及び/又は高エネルギー線照射により、各種の基材の表面に高い密着性を有する樹脂被膜を形成し得る潤滑被膜用塗料組成物を提供すること」と認められる。

(3)本件発明1は、上記第3に示したとおりのものであるところ、本件発明1に係る「潤滑被膜用塗料組成物」は、「(A)(メタ)アクリル当量が95以下の(メタ)アクリル酸化合物」と「(B)(メタ)アクリル当量が130?270の範囲にある(メタ)アクリル酸化合物」を含むこと、及び、「前記成分(A):前記成分(B)のモル比が1:6?6:1の範囲にあ」ることが規定されている。

(4)ア これに対し、本件明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
「【0029】
[成分(A)及び成分(B)]
本発明の組成物は、硬化物のハードセグメントを構成する成分として、(A)(メタ)アクリル当量が100以下、好ましくは95以下、より好ましくは90以下の(メタ)アクリル酸化合物、及び、硬化物のソフトセグメントを構成する成分として、(B)(メタ)アクリル当量が120?300、好ましくは130?270、より好ましくは150?250である(メタ)アクリル酸化合物を共に含む。前記(A)成分及び前記(B)成分を併用することで、本発明の組成物の硬化物(重合物)は各種の基材に対して高い密着性を備えることができる。
【0030】
本発明における(メタ)アクリル当量は次のように計算する。(メタ)アクリル酸化合物の(メタ)アクリロイル基が1つの場合は、分子量の値をMxとする。(メタ)アクリル酸化合物の(メタ)アクリロイル基が2つ以上の場合は、(メタ)アクリル酸化合物の分子量÷(メタ)アクリロイル基数をMxとする。使用する(メタ)アクリル酸化合物の合計量をA(質量部)、各(メタ)アクリル酸化合物Xの量をAx(質量部)とする。この場合、(メタ)アクリル当量は、Mx×(Ax÷A)の総和となる。
【0031】
例えば、アクリル酸メチルの場合、アクリロイル基は1つであり、また、分子量は86であるので、アクリル酸メチルのみを使用する場合、Mx=86となり、Ax÷A=1なので、アクリル当量は86となる。また、メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルを50:50の質量比で混合して使用する場合、メタクリル酸メチルのメタクリル基は1つであり、また、分子量は100であるので、100×(50/100)+86×(50/100)=50+43=93により、(メタ)アクリル当量は93となる。
【0032】
したがって、(A)(メタ)アクリル当量が100以下の(メタ)アクリル酸化合物として1種以上の(メタ)アクリル酸化合物を使用することが可能であり、また、(B)(メタ)アクリル当量が120?300の範囲にある(メタ)アクリル酸化合物として、1種以上の(メタ)アクリル酸化合物を使用することが可能である。また、好適な(メタ)アクリル酸化合物は、成分(A)及び成分(B)のそれぞれについて、(メタ)アクリル酸エステルである。」
「【0040】
本発明の組成物における前記成分(A)と前記成分(B)の配合比率は、モル比にして1:9?9:1が好ましく、1:6?6:1がより好ましく、1:4?4:1の範囲が特に好ましい。かかる範囲内で(メタ)アクリル当量が異なる2種の(メタ)アクリル酸化合物、好適には、2種の(メタ)アクリル酸エステルを併用することで、短時間で硬化可能であり、硬化時の発熱が少なく基材に与える影響が少なく、また、基材(特にエラストマー製のもの)に対する接着性が著しく改善される。」

上記【0030】から、「(メタ)アクリル酸化合物」の「(メタ)アクリル当量」は、「(メタ)アクリロイル基が1つの場合は、分子量の値をMxと」し、「(メタ)アクリル酸化合物の(メタ)アクリロイル基が2つ以上の場合は、(メタ)アクリル酸化合物の分子量÷(メタ)アクリロイル基数をMxとする」ことで求められることが理解できる。
そうすると、本件発明1における「(メタ)アクリル当量」とは、1の「(メタ)アクリル酸化合物の(メタ)アクリロイル基」あたりの「(メタ)アクリル酸化合物」の分子量であると理解でき、このような値は、「(メタ)アクリル酸化合物」の硬さやガラス転移温度に関連するものであることは技術常識であるところ、【0029】から、(A)(メタ)アクリル当量が95以下の(メタ)アクリル酸化合物は、硬化物のハードセグメントを構成し、(B)(メタ)アクリル当量が130?270の(メタ)アクリル酸化合物は、硬化物のソフトセグメントを構成すること、及び、ハードセグメントとソフトセグメントの両者が硬化物に存在することで、硬化物が基材に対して密着性を備えたものとなることが理解できる。

そして、【0040】から、前記成分(A)と前記成分(B)の配合比率は、モル比にして1:6?6:1のものは、短時間で硬化可能であり、硬化時の発熱が少なく基材に与える影響が少なく、また、基材(特にエラストマー製のもの)に対する接着性が著しく改善されることが理解できる。

イ また、本件発明1の実施例及び本件発明1に含まれない比較例について、本件明細書には、次のように記載されている。
「【実施例】
【0086】
[合成例1]
撹拌機及び加熱器を備えた反応装置に、ポリカーボネートポリオール(数平均分子量:1,000)0.1molと、ジメチロールプロピオン酸0.2molと、4,4'-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート0.3molと、ジブチル錫ジラウリレート0.1gと、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)50gとを導入し、撹拌して反応させた。ウレタン化反応終了後、トリエチルアミン0.2molと、メチルアクリレート(アクリル当量=86)30g(0.300mol)と、ヒドロキシブチルアクリレート(アクリル当量=144)30g(0.208mol)とを添加して撹拌した。これを水300gと1,6-ヘキサンジアミン0.1molとの混合溶液に加え、ラジカル重合性樹脂組成物(紫外線硬化性ポリウレタン樹脂分散物)を得た。
【0087】
[比較合成例1]
撹拌機及び加熱器を備えた反応装置に、ポリカーボネートポリオール(数平均分子量:1,000)0.1molと、ジメチロールプロピオン酸0.2molと、4,4'-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート0.3molと、ジブチル錫ジラウリレート0.1gと、NEP50gとを導入し、撹拌して反応させた。ウレタン化反応終了後、トリエチルアミン0.2molと、ヒドロキシブチルアクリレート(アクリル当量=144)60gとを添加して撹拌した。これを水300gと1,6-ヘキサンジアミン 0.1molとの混合溶液に加え、ラジカル重合性樹脂組成物(紫外線硬化性ポリウレタン樹脂分散物)を得た。
【0088】
[比較合成例2]
撹拌機及び加熱器を備えた反応装置に、ポリカーボネートポリオール(数平均分子量:1,000)0.1molと、ジメチロールプロピオン酸0.2molと、4,4'-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート0.3molと、ジブチル錫ジラウリレート0.1gと、NEP50gとを導入し、撹拌して反応させた。ウレタン化反応終了後、トリエチルアミン0.2molと、ヒドロキシブチルアクリレート(アクリル当量=144)30gと、ラウリルメタアクリレート(アクリル当量=240)30gとを添加して撹拌した。これを水300gと1,6-ヘキサンジアミン0.1molとの混合溶液に加え、ラジカル重合性樹脂組成物(紫外線硬化性ポリウレタン樹脂分散物)を得た。
【0089】
[剥離強度測定]
合成例1並びに比較合成例1及び2で得られたラジカル重合性樹脂組成物100重量部に対してラジカル型光重合開始剤(IRGACURE 907)を2重量部の配合比で添加し、撹拌して溶解した。得られた混合物をエチレン-プロピレン-ジエンゴム板(厚さ1mm)の表面に、バーコーターで乾燥被膜厚が5μmとなるように塗布し、250WハンディタイプUV照射機((株)あすみ技研製)により積算光量1000mJ/cm2で硬化させた。硬化後の試験片の塗膜面同士を図1のように貼り合わせ瞬間接着剤にて先端から70mmまでを接着し常温にて10分間放置後、島津オートグラフAGSシリーズ((株)島津製作所製)を用いて引張ったときの剥離強度を測定した。結果を表1に示す。なお、表1において■は、該当成分が存在することを示す。また、評価結果は以下の基準による。
剥離強度 ○:>10N/10mm、△:5?10N/10mm、×:1?5N/10mm
【0090】
【表1】

【0091】
[実施例1?5]
合成例1で得られたラジカル重合性樹脂組成物にラジカル型光重合開始剤(IRGACURE 907)を表2に示す配合比で撹拌混合して溶解した。その後、固体潤滑剤及びその他の添加剤を攪拌しながら加え、得られた混合物を1000rpmで30分間混合攪拌して潤滑被膜用塗料組成物を得た。
【0092】
[実施例6]
合成例1で得られたラジカル重合性樹脂組成物にラジカル型熱重合開始剤(OTAZO-15)を表3に示す配合比で撹拌混合して溶解した。その後、固体潤滑剤及びその他の添加剤を攪拌しながら加え、得られた混合物を1000rpmで30分間混合攪拌して潤滑被膜用塗料組成物を得た。
【0093】
[比較例1?6]
比較合成例1及び2で得られたラジカル重合性樹脂組成物にラジカル型光重合開始剤(IRGACURE 907)を表2に示す配合比で撹拌混合して溶解した。その後、固体潤滑剤及びその他の添加剤を攪拌しながら加え、得られた混合物を1000rpmで30分間混合攪拌して潤滑被膜用塗料組成物を得た。
【0094】
[比較例7及び8]
比較合成例1及び2で得られたラジカル重合性樹脂組成物にラジカル型熱重合開始剤(OTAZO-15)を表3に示す配合比で撹拌混合して溶解した。その後、固体潤滑剤及びその他の添加剤を攪拌しながら加え、得られた混合物を1000rpmで30分間混合攪拌して潤滑被膜用塗料組成物を得た。
【0095】
[潤滑被膜形成]
潤滑被膜用塗料組成物を表2及び表3に示す各種基材に膜厚5?100μmとなるようにスプレー塗装した。溶媒を蒸発させるため25℃×1分間放置した後、実施例1?5並びに比較例1?6(表2)については250WハンディタイプUV照射機((株)あすみ技研製)により2000mJ/cm^(2)?3000mJ/cm^(2)の積算光量で照射し、硬化被膜を作成した。実施例6及び比較例7?8(表3)については、180℃、15分間加熱し、硬化被膜を作成した。
【0096】
実施例1?5並びに比較例1?6について以下に示す測定及び試験を行い、潤滑被膜の評価を行った。結果を表2に併せて示す。
【0097】
<評価方法>
[摩擦係数測定]
潤滑被膜を形成した各試験片に対し、垂直荷重をかけたローラーを回転移動させることによって往復させる往復動摩擦摩耗試験機を用いて、滑り速度0.2m/s、荷重1kg、滑り距離(ストローク)100mmの条件で、SUJ2鋼ローラーに対する摺動時の動摩擦係数(単位:μ)を測定した。
【0098】
[碁盤目密着性試験]
潤滑被膜を形成した各試験片の当該被膜を100マスの碁盤目にカットし、セロテープ(登録商標)剥離試験を行った。碁盤目100マスのうち被膜の残った格子数を確認した。
◎(100),○(90?99),△(50?89),×(0?49)
【0099】
実施例6及び比較例7?8について、上記と同様にして摩擦係数測定及び碁盤目密着性試験を行い、更に、以下に示す試験を行い、潤滑被膜の評価を行った。結果を表3に併せて示す。
【0100】
[耐荷重性試験]
リングオンプレート試験機を用いて、回転数0.5m/s、ステップアップ荷重(98N/cm^(2)/分)の条件で、摺動により基材表面の潤滑被膜が摩耗により消失し、潤滑被膜と相手材(鋼リング)との摩擦が生じる状態になった際の荷重を評価した。
【0101】
[鉛筆硬度試験]
JIS K 5400に準拠し、潤滑被膜を形成した試験片に対して、荷重1000g、移動速度0.5mm/sの条件で引っ掻いたときの潤滑被膜が界面破壊したときの鉛筆濃度の一段階下位の濃度番号を記録した。
【0102】
【表2】

【0103】
【表3】



そうすると、本件発明1について、ラジカル型光重合開始剤を用いた実施例1?5に係る潤滑被膜用塗料組成物による硬化被膜は、摩擦係数が0.18μ(実施例3、基材:NRゴム)?0.26μ(実施例2、基材:NRゴム)であり、碁盤目密着性試験において「◎」であること(潤滑被膜を形成した各試験片の当該被膜を100マスの碁盤目にカットし、セロテープ(登録商標)剥離試験を行い、碁盤目100マスのうち被膜の残った格子数が100であること)が理解できる。
また、本件発明1について、ラジカル型熱重合開始剤を用いた実施例6に係る潤滑被膜用塗料組成物による硬化被膜は、摩擦係数が0.35μ(基材:鋼板(SPCC-SB))であり、碁盤目密着性試験において「◎」であることが理解できる。
したがって、本件発明1は、「加熱及び/又は高エネルギー線照射により、各種の基材の表面に高い密着性を有する樹脂被膜を形成し得る潤滑被膜用塗料組成物」であることが、実施例によって確認されているといえる。

ウ 一方、発明の詳細な説明には、「(A)(メタ)アクリル当量が95以下の(メタ)アクリル酸化合物」を含まない比較例1?8は、いずれも、碁盤目密着性試験において「×」(潤滑被膜を形成した各試験片の当該被膜を100マスの碁盤目にカットし、セロテープ(登録商標)剥離試験を行い、碁盤目100マスのうち被膜の残った格子数が0?49であること)であることが示されている。

エ 以上のことから、「(A)(メタ)アクリル当量が95以下の(メタ)アクリル酸化合物」と「(B)(メタ)アクリル当量が130?270の範囲にある(メタ)アクリル酸化合物」を含むこと、及び、「前記成分(A):前記成分(B)のモル比が1:6?6:1の範囲にあ」ることが規定された本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができる。

(5)次に、上記第4 1(4)の理由3(サポート要件)について検討する。
ア サポート要件(その1)について
(ア)成分(A)の(メタ)アクリル酸化合物の(メタ)アクリル当量の範囲について(上記第4 1(4)ア(イ))
本件発明1の成分(A)の(メタ)アクリル当量は、100以下から95以下に訂正されたものであるところ、本件発明1の成分(A)の(メタ)アクリル当量の値は、本件明細書【0029】に記載されるように、硬化物のハードセグメントを構成する成分について規定したものであって、該当量が95以下であれば、「(B)(メタ)アクリル当量が130?270の範囲にある(メタ)アクリル酸化合物」に対して、相対的に、該当量が小さいものとなるため、硬化物においてハードセグメントを構成する成分となることは明らかである。
また、(メタ)アクリル当量が95以下の(メタ)アクリル酸化合物について、(メタ)アクリル当量の値によって、本件発明1において硬化物の「ハードセグメント」として機能しなくなるという根拠は見出せない。
なお、カルボキシ基(-COOH)の分子量は45であるから、(メタ)アクリル当量が45未満になることはない。
そうすると、本件発明1の(A)の(メタ)アクリル当量の範囲の規定は、本件発明1において、硬化物に「ハードセグメント」が含まれるという技術思想を規定したものであって、その範囲に含まれ、かつ、存在しえる、全ての(メタ)アクリル酸化合物が、硬化物においてハードセグメントを構成する成分となるということができる。
そして、その範囲に含まれる(メタ)アクリル当量が86の(メタ)アクリル酸化合物を含むラジカル重合性樹脂組成物が、「(メタ)アクリル当量が86の(メタ)アクリル酸化合物」を含まないものと比較して、接着性が良好なものであることが確認されている。
したがって、本件発明1の成分(A)の(メタ)アクリル当量の範囲の規定は、合成例1の(メタ)アクリル当量が86の(メタ)アクリル酸化合物に対して、広範な範囲とはいえず、本件発明1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できる。
(イ)成分(B)の(メタ)アクリル酸化合物の(メタ)アクリル当量の範囲について(上記第4 1(4)ア(ウ))
本件発明1の成分(B)の(メタ)アクリル当量は、120?300の範囲から130?270の範囲に訂正されたものであるところ、本件発明1の成分(B)の(メタ)アクリル当量の値は、本件明細書【0029】に記載されるように、硬化物のソフトセグメントを構成する成分について規定したものであって、該当量が130?270の範囲であれば、「(A)(メタ)アクリル当量が95以下の(メタ)アクリル酸化合物」に対して、相対的に、該当量が大きいものとなるため、硬化物においてソフトセグメントを構成する成分となることは明らかである。
そして、(メタ)アクリル当量が130?270の範囲の(メタ)アクリル酸化合物について、(メタ)アクリル当量の大きさによって、本件発明1において硬化物の「ソフトセグメント」として機能しなくなるとする根拠は見出せない。
そうすると、本件発明1の成分(B)の(メタ)アクリル当量の範囲の規定は、本件発明1において、硬化物に「ソフトセグメント」が含まれるという技術思想を規定したものであって、その範囲に含まれ、かつ、存在しえる、全ての(メタ)アクリル酸化合物が、硬化物においてソフトセグメントを構成する成分となるということができる。
したがって、合成例1の(メタ)アクリル当量が144の(メタ)アクリル酸化合物に基いて、本件発明1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できる。
(ウ)成分(A):成分(B)のモル比について(上記第4 1(4)ア(エ))
本件発明1の成分(A):成分(B)のモル比が1:9?9:1の範囲から、1:6?6:1の範囲に訂正され、成分(A):成分(B)は、硬化物のハードセグメントとソフトセグメントを構成する成分のモル比を意味するものであるところ、その比が1:6?6:1の範囲であれば、硬化物にハードセグメントとソフトセグメントが存在することは明らかである。
そして、該モル比が1:6?6:1の範囲について、当該モル比によって、本件発明1において「基材に対する高い密着性」が維持できなくなるものが含まれるとする根拠は見出せない。
そうすると、本件発明1における成分(A):成分(B)のモル比の規定は、硬化物にハードセグメントとソフトセグメントとが含まれるという技術思想を規定したものであって、その全ての範囲において、硬化物にハードセグメントとソフトセグメントが存在するものであるということができる。
したがって、合成例1の当該比が、30g(0.300mol):30g(0.208mol)のものに基いて、本件発明1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できる。
(エ)以上のとおり、サポート要件(その1)の取消理由は理由がない。

イ サポート要件(その2)について
本件発明6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、本件訂正によって、「成分(A)?成分(C)の和100質量部に対」する「成分(D)」(少なくとも1種の固体潤滑剤)の含有量は、「1?200質量部」から、「5?100質量部」に訂正されたものであるところ、「固体潤滑剤」は、一般に、被膜の摺動特性を向上させるものであって、その含有量によって、本件発明1の「基材に対する高い密着性」が大きく変わるものではない。
そして、「成分(D)」の含有量が5?100質量部の範囲のものであって、該含有量によっては、本件発明1において「基材に対する高い密着性」が維持できなくなるものが存在するという根拠は見出せない。
したがって、「成分(D)」の含有量が、40重量部、45重量部、又は90重量部配合した実施例に基いて、本件発明6に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できる。

したがって、サポート要件(その2)の取消理由は理由がない。

ウ サポート要件(その3)について
本件発明1において、「(C)熱硬化性樹脂及び/又は高エネルギー線硬化性樹脂」は、本件訂正によって、「(C)熱硬化性ウレタン樹脂及び/又は高エネルギー線硬化性ウレタン樹脂」に訂正され、「シリコーン樹脂」といった、ウレタン樹脂とは性質や特性が異なる樹脂を用いたものは含まなくなった。
また、「ウレタン樹脂」が「熱硬化性」であるか、「高エネルギー線硬化性」であるか、又は、「ポリカーボネート系ウレタン」かそうでないかによって、本件発明1において「基材に対する高い密着性」が維持できなくなるとする根拠は見出せない。
したがって、ポリカーボネート系ウレタンを使用した実施例に基いて、本件発明1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できる。

したがって、サポート要件(その3)の取消理由は理由がない。

エ まとめ
以上のとおり、本件発明は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできず、理由3(サポート要件)の取消理由は理由がない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5、7?9に係る特許を取り消すことはできない。
請求項6に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項6に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
また、他に本件請求項1?5、7?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(メタ)アクリル当量が95以下の(メタ)アクリル酸化合物、
(B)(メタ)アクリル当量が130?270の範囲にある(メタ)アクリル酸化合物、
(C)熱硬化性ウレタン樹脂及び/又は高エネルギー線硬化性ウレタン樹脂、
(D)少なくとも1種の固体潤滑剤
を含み、
前記成分(A):前記成分(B)のモル比が1:6?6:1の範囲にあり、
前記成分(A)?前記成分(C)の和 100質量部に対し、前記成分(D)5?100質量部含む、潤滑被膜用塗料組成物。
【請求項2】
前記成分(C)が、(c1)少なくとも1種のポリオールと(c2)少なくとも1種のイソシアネートを反応させてなるウレタン樹脂である、請求項1に記載の潤滑被膜用塗料組成物。
【請求項3】
前記成分(C)が、(c1-1)ポリカーボネートポリオールと(c2-1)ジイソシアネートを反応させてなる、ポリカーボネート系ウレタン樹脂である、請求項1又は2に記載の潤滑被膜用塗料組成物。
【請求項4】
前記成分(A)である(メタ)アクリル酸化合物が、(メタ)アクリル酸エステルであり、及び/又は、
前記成分(B)である(メタ)アクリル酸化合物が、(メタ)アクリル酸エステルである、請求項1?3のいずれかに記載の潤滑被膜用塗料組成物。
【請求項5】
前記成分(D)が、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、二硫化モリブデン、グラファイト、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛及びこれらの混合物から選ばれる、請求項1?4のいずれかに記載の潤滑被膜用塗料組成物。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
請求項1?5のいずれかに記載の潤滑被膜用塗料組成物を硬化させてなる潤滑被膜。
【請求項8】
請求項7記載の潤滑被膜を備える摺動部材。
【請求項9】
請求項1?5のいずれかに記載の潤滑被膜用塗料組成物を基材表面に塗布し、加熱及び/又は高エネルギー線照射により、基材表面に潤滑被膜を形成する方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-10-07 
出願番号 特願2013-131903(P2013-131903)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09D)
P 1 651・ 113- YAA (C09D)
P 1 651・ 121- YAA (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 櫛引 智子  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 川端 修
木村 敏康
登録日 2018-03-02 
登録番号 特許第6297795号(P6297795)
権利者 ダウ・東レ株式会社
発明の名称 潤滑被膜用塗料組成物  
代理人 村山 靖彦  
代理人 村山 靖彦  

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