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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B22F 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 B22F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B22F 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B22F 審判 全部申し立て 2項進歩性 B22F 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 B22F |
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管理番号 | 1357638 |
異議申立番号 | 異議2018-700657 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-08-07 |
確定日 | 2019-10-25 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6273633号発明「ケイ素化合物被覆金属微粒子、ケイ素化合物被覆金属微粒子を含む組成物、及びケイ素化合物被覆金属微粒子の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6273633号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?14〕について訂正することを認める。 特許第6273633号の請求項1?4、6、12?14に係る特許を維持する。 特許第6273633号の請求項5、7?11に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6273633号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、2017年(平成29年) 6月 1日(優先権主張 平成28年 6月 2日 日本国(JP) 平成28年 6月 3日 日本国(JP) 平成28年11月 7日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、平成30年 1月19日に特許権の設定登録がされ、同年 2月 7日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許の全請求項に係る特許について、同年 8月 7日付けで特許異議申立人小松 一枝及び前田 知子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年10月29日付けで当審より取消理由が通知され、同年12月 3日に特許権者代理人 弁理士 坂本 智弘らとの面接が行われ、同年12月27日付けで特許権者より意見書(以下、「特許権者意見書1」という。)の提出及び訂正の請求(以下、「前回訂正請求」という。)がされ、平成31年 2月21日付けで異議申立人より意見書(以下、「申立人意見書1」という。)が提出され、同年 3月26日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、令和 1年 5月27日付けで特許権者より意見書(以下、「特許権者意見書2」という。)の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年 7月 8日付けで異議申立人より意見書(以下、「申立人意見書2」という。)が提出され、同年 8月 5日付けで当審より特許権者に対して審尋がされ、同年 8月22日付けで特許権者より回答書(以下、「回答書」という。)が提出され、同年 9月26日付けで異議申立人より上申書(以下、「上申書」という。)が提出されたものである。 第2 本件訂正請求による訂正の適否 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。 なお、前回訂正請求は、本件訂正請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 (1)訂正事項1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に 「少なくとも1種の金属元素又は半金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子であり、 上記金属元素又は半金属元素が、銀、銅、ニッケル及び鉄からなる群から選択され、」 と記載されているのを、 「少なくとも1種の金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子であり、 上記金属元素が、銀、銅、ニッケル及び鉄からなる群から選択され、」 に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する引用する請求項3、4、6、12?14も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に 「上記ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率が、0.1%以上70%以下に制御されていることを特徴とするケイ素化合物被覆金属微粒子。」 と記載されているのを、 「上記ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率が、0.1%以上70%以下に制御されており、 上記Si-OH結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数850cm^(-1)から980cm^(-1)の領域に波形分離されたSi-OH結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合の比率が、上記波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られたピークの総面積に対する上記Si-OH結合に帰属されたピークの面積の比率であり、 (A)上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、1個の金属微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したものであって、上記金属微粒子の一次粒子径が1μm以下であり、且つ、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の一次粒子径が、上記金属微粒子の一次粒子径の100.5%以上、190%以下であるか、又は (B)上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、複数個の金属微粒子が凝集した凝集体の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したものであって、上記凝集体の径が1μm以下であり、且つ、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の粒子径が、上記凝集体の径の100.5%以上、190%以下であることを特徴とするケイ素化合物被覆金属微粒子。」 に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3、4、6、12?14も同様に訂正する。)。 (3)訂正事項3 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に 「少なくとも1種の金属元素又は半金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子であり、 上記金属元素又は半金属元素が、銀、銅、ニッケル及び鉄からなる群から選択され、」 と記載されているのを、 「少なくとも1種の金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子であり、 上記金属元素が、銀、銅、ニッケル及び鉄からなる群から選択され、」 に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3、4、6、12?14も同様に訂正する。)。 (4)訂正事項4 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に 「上記ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-O結合の比率に対するSi-OH結合の比率であるSi-OH結合/Si-O結合の比率が、0.001以上700以下に制御されていることを特徴とするケイ素化合物被覆金属微粒子。」 と記載されているのを、 「上記ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-O結合の比率に対するSi-OH結合の比率であるSi-OH結合/Si-O結合の比率が、0.001以上700以下に制御されており、 上記Si-O結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数1000cm^(-1)以上1300cm^(-1)以下の領域に波形分離されたSi-O結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数850cm^(-1)から980cm^(-1)の領域に波形分離されたSi-OH結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合/Si-O結合の比率が、上記Si-O結合に帰属されたピークの面積に対する上記Si-OH結合に帰属されたピークの面積の比率であり、 (A)上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、1個の金属微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したものであって、上記金属微粒子の一次粒子径が1μm以下であり、且つ、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の一次粒子径が、上記金属微粒子の一次粒子径の100.5%以上、190%以下であるか、又は (B)上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、複数個の金属微粒子が凝集した凝集体の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したものであって、上記凝集体の径が1μm以下であり、且つ、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の粒子径が、上記凝集体の径の100.5%以上、190%以下であることを特徴とするケイ素化合物被覆金属微粒子。」 に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3、4、6、12?14も同様に訂正する。)。 (5)訂正事項5 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5及び7?11を削除する。 (6)訂正事項6 本件訂正前の請求項6に「請求項5に記載のケイ素化合物被覆金属微粒子。」と記載されていたのを「請求項1から4の何れかに記載のケイ素化合物被覆金属微粒子。」に訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項12?14も同様に訂正する。)。 (7)訂正事項7 本件訂正前の請求項12に「請求項1から11の何れかに記載のケイ素化合物被覆金属微粒子。」と記載されていたのを「請求項1から4及び6の何れかに記載のケイ素化合物被覆金属微粒子。」に訂正する(請求項12の記載を引用する請求項13?14も同様に訂正する。)。 (8)訂正事項8 本件訂正前の請求項13に「請求項1から12の何れかに記載のケイ素化合物被覆金属微粒子を含む塗布用組成物、」と記載されていたのを「請求項1から4、6及び12の何れかに記載のケイ素化合物被覆金属微粒子を含む塗布用組成物、」に訂正する。 (9)訂正事項9 本件訂正前の請求項14に「請求項1から12の何れかに記載のケイ素化合物被覆金属微粒子の製造方法。」と記載されていたのを「請求項1から4、6及び12の何れかに記載のケイ素化合物被覆金属微粒子の製造方法。」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項、一群の請求項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1、3について (ア)訂正事項1及び3による訂正は、いずれも、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が、「少なくとも1種の金属元素又は半金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆された」ものとされていたのを、明瞭でない「半金属元素」の場合を削除して、「少なくとも1種の金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆された」もののみとするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (イ)そして、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」において、「半金属元素」からなる「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の場合を削除する訂正事項1及び3による訂正は、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (2)訂正事項2、4について (ア)訂正事項2による訂正は、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」に含まれる「Si-OH結合の比率」の算出方法を限定して明確にするとともに、「金属微粒子」の一次粒子径または「金属微粒子が凝集した凝集体」の径を「1μm以下」に限定し、更に、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の一次粒子径が、「金属微粒子」の一次粒子径の100.5%以上、190%以下であるか、または、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の粒子径が、「金属微粒子が凝集した凝集体」の径の100.5%以上、190%以下であるものに限定するものである。 また、訂正事項4による訂正は、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」に含まれる「Si-OH結合/Si-O結合の比率」の算出方法を限定して明確にするとともに、「金属微粒子」の一次粒子径または「金属微粒子が凝集した凝集体」の径を「1μm以下」に限定し、更に、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の一次粒子径が、「金属微粒子」の一次粒子径の100.5%以上、190%以下であるか、または、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の粒子径が、「金属微粒子が凝集した凝集体」の径の100.5%以上、190%以下であるものに限定するものである。 そして、そのような訂正事項2及び4による訂正は、いずれも、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (イ)また、訂正事項2において、「上記Si-OH結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数850cm^(-1)から980cm^(-1)の領域に波形分離されたSi-OH結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合の比率が、上記波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られたピークの総面積に対する上記Si-OH結合に帰属されたピークの面積の比率であ」ることは、願書に添付した特許請求の範囲の請求項9に記載されるものであり、訂正事項4において、「上記Si-O結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数1000cm^(-1)以上1300cm^(-1)以下の領域に波形分離されたSi-O結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数850cm^(-1)から980cm^(-1)の領域に波形分離されたSi-OH結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合/Si-O結合の比率が、上記Si-O結合に帰属されたピークの面積に対する上記Si-OH結合に帰属されたピークの面積の比率であ」ることは、願書に添付した特許請求の範囲の請求項10に記載されるものであり、訂正事項2及び4において、「(A)上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、1個の金属微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したものであって、上記金属微粒子の一次粒子径が1μm以下であり、且つ、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の一次粒子径が、上記金属微粒子の一次粒子径の100.5%以上、190%以下である」ことは、願書に添付した特許請求の範囲の請求項5に記載されるものであり、訂正事項2及び4において、「(B)上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、複数個の金属微粒子が凝集した凝集体の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したものであって、上記凝集体の径が1μm以下であり、且つ、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の粒子径が、上記凝集体の径の100.5%以上、190%以下である」ことは、願書に添付した特許請求の範囲の請求項7に記載されるものであるから、訂正事項2及び4による訂正は、いずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 (ウ)更に、訂正事項2、4による訂正は、いずれも、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (3)訂正事項5について 訂正事項5による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5及び7?11を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (4)訂正事項6?9について 訂正事項6?9による訂正は、いずれも、選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (5)一群の請求項について 本件訂正前の請求項3?14は、いずれも、直接的または間接的に訂正前の請求項1、2を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?14は、一群の請求項である。 そして、本件訂正請求による訂正は、この一群の請求項について訂正の請求をするものである。 また、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。 3 小括 したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?14〕について訂正を認める。 第3 本件特許発明 本件訂正が認められることは上記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1?4、6、12?14に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明4」、「本件発明6」、「本件発明12」?「本件発明14」といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4、6、12?14に記載された事項により特定される以下のものと認める。 「【請求項1】 少なくとも1種の金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子であり、 上記金属元素が、銀、銅、ニッケル及び鉄からなる群から選択され、 上記ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率が、0.1%以上70%以下に制御されており、 上記Si-OH結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数850cm^(-1)から980cm^(-1)の領域に波形分離されたSi-OH結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合の比率が、上記波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られたピークの総面積に対する上記Si-OH結合に帰属されたピークの面積の比率であり、 (A)上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、1個の金属微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したものであって、上記金属微粒子の一次粒子径が1μm以下であり、且つ、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の一次粒子径が、上記金属微粒子の一次粒子径の100.5%以上、190%以下であるか、又は (B)上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、複数個の金属微粒子が凝集した凝集体の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したものであって、上記凝集体の径が1μm以下であり、且つ、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の粒子径が、上記凝集体の径の100.5%以上、190%以下であることを特徴とするケイ素化合物被覆金属微粒子。 【請求項2】 少なくとも1種の金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子であり、 上記金属元素が、銀、銅、ニッケル及び鉄からなる群から選択され、 上記ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-O結合の比率に対するSi-OH結合の比率であるSi-OH結合/Si-O結合の比率が、0.001以上700以下に制御されており、 上記Si-O結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数1000cm^(-1)以上1300cm^(-1)以下の領域に波形分離されたSi-O結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数850cm^(-1)から980cm^(-1)の領域に波形分離されたSi-OH結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合/Si-O結合の比率が、上記Si-O結合に帰属されたピークの面積に対する上記Si-OH結合に帰属されたピークの面積の比率であり、 (A)上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、1個の金属微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したものであって、上記金属微粒子の一次粒子径が1μm以下であり、且つ、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の一次粒子径が、上記金属微粒子の一次粒子径の100.5%以上、190%以下であるか、又は (B)上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、複数個の金属微粒子が凝集した凝集体の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したものであって、上記凝集体の径が1μm以下であり、且つ、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の粒子径が、上記凝集体の径の100.5%以上、190%以下であることを特徴とするケイ素化合物被覆金属微粒子。 【請求項3】 上記ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率が、官能基の変更処理によって制御されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のケイ素化合物被覆金属微粒子。 【請求項4】 上記官能基の変更処理が、置換反応、付加反応、脱離反応、脱水反応、縮合反応、還元反応、酸化反応より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載のケイ素化合物被覆金属微粒子。 【請求項5】(削除) 【請求項6】 上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、コアとなる1個の金属微粒子の表面全体を、シェルとなるケイ素化合物で被覆したコアシェル型ケイ素化合物被覆金属微粒子であることを特徴とする、請求項1から4の何れかに記載のケイ素化合物被覆金属微粒子。 【請求項7】(削除) 【請求項8】(削除) 【請求項9】(削除) 【請求項10】(削除) 【請求項11】(削除) 【請求項12】 上記Si-OH結合の比率が、0.1%以上70%以下、又は上記Si-OH結合/Si-O結合の比率が、0.001以上700以下に制御されていることによって、 上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の溶媒への分散性が制御されたものであることを特徴とする請求項1から4及び6の何れかに記載のケイ素化合物被覆金属微粒子。 【請求項13】 請求項1から4、6及び12の何れかに記載のケイ素化合物被覆金属微粒子を含む塗布用組成物、透明材用組成物、磁性体組成物、導電性組成物、着色用組成物、反応用組成物又は触媒用組成物。 【請求項14】 接近・離反可能な相対的に回転する処理用面間において金属微粒子を析出させ、上記析出に引き続き連続的に上記金属微粒子の表面にケイ素化合物を被覆させることを特徴とする、請求項1から4、6及び12の何れかに記載のケイ素化合物被覆金属微粒子の製造方法。」 なお、以下、本件発明1の「上記ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率が、0.1%以上70%以下に制御されており、」との発明特定事項、「上記Si-OH結合が、・・・上記波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られたピークの総面積に対する上記Si-OH結合に帰属されたピークの面積の比率であり、」との発明特定事項(当審注:「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)、「(A)上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、・・・上記金属微粒子の一次粒子径の100.5%以上、190%以下であるか、又は(B)上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、・・・上記凝集体の径の100.5%以上、190%以下である」との発明特定事項を、それぞれ「発明特定事項1-1」、「発明特定事項1-2」、「発明特定事項1-3」といい、本件発明2の「上記ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-O結合の比率に対するSi-OH結合の比率であるSi-OH結合/Si-O結合の比率が、0.001以上700以下に制御されており、」との発明特定事項、「上記Si-O結合が、・・・上記Si-OH結合/Si-O結合の比率が、上記Si-O結合に帰属されたピークの面積に対する上記Si-OH結合に帰属されたピークの面積の比率であり、」との発明特定事項、「(A)上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、・・・上記金属微粒子の一次粒子径の100.5%以上、190%以下であるか、又は(B)上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、・・・上記凝集体の径の100.5%以上、190%以下である」との発明特定事項を、それぞれ「発明特定事項2-1」、「発明特定事項2-2」、「発明特定事項2-3」という。 第4 異議申立理由の概要 1 特許法第29条第1項(新規性)及び第2項(進歩性)について (1)各甲号証 甲第1号証:国際公開第2013/151172号 甲第2号証:国際公開第2009/008393号 甲第3号証:特許第4644390号公報 甲第4号証:特開2012-15379号公報 甲第5号証:平河 喜美男 編,JIS K 0117 赤外分光分析法通則,第1刷,財団法人 日本規格協会,平成12年 3月31日,p.1-11 甲第6号証:戸高 宗一郎 編,IR分析 テクニック事例集,第1版第1刷,株式会社 技術情報協会,2013年 9月21日,p.10-15、158-167 甲第7号証:特開2002-294220号公報 甲第8号証:特開平8-259847号公報 (2)甲第1号証を主引用例とする場合について(異議申立書22頁2行?36頁11行) ア 本件訂正前の請求項1?13に係る発明について 本件訂正前の請求項1?13に係る発明は、甲第1号証に実質的に記載された発明であるから、本件訂正前の請求項1?13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 イ 本件訂正前の請求項1?14に係る発明について 本件訂正前の請求項1?14に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1?14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (3)甲第3号証を主引用例とする場合について(異議申立書36頁12行?47頁4行) ア 本件訂正前の請求項1?14に係る発明について 本件訂正前の請求項1?14に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1?14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について(異議申立書47頁6行?58頁15行) (1)粒径について (ア)本件訂正前の請求項1?14に係る発明は、少なくとも1μm程度の粒径を有する「ケイ素化合物被覆金属微粒子」を含むものであり、粒子の分散性が粒径によって影響されることは周知である。 (イ)すると、実施例によって説明されている数十nmといった範囲に比べ、1μmといった大きな粒径を有する「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が、発明の課題を解決できることを、当業者は認識できない。 (ウ)また、実施例で示されているケイ素化合物被膜の膜厚は数nmといった極薄膜であるのに対して、大粒径のμmオーダー粒子では、ケイ素化合物の被覆層の膜厚は数nmの極薄膜とはならず、更に大きな膜厚となることが想定される。 そして、本件訂正前の請求項1?14に係る発明が、いかなる粒子径においても被覆層の厚さを無視できる、または、膜厚を無視してまで、効果が発揮できることを理解できない。 (2)金属元素について (ア)本件訂正前の請求項1?14に係る発明は、「金属元素または半金属元素」が、「銀、銅、ニッケル及び鉄」からなる群から選択され」るものである。 (イ)ところが、実施例として分散性等の特性が確認されているのは、銀、銅、ニッケル、ケイ素アルミニウムドープ鉄であり、特許権者は、ケイ素アルミニウムドープ鉄の実施例は鉄の実施例には当たらないことを主張しており、そうすると、発明の詳細な説明には、鉄の実施例が記載されていないから、「金属元素または半金属元素」が鉄である場合に、発明の課題を解決できると当業者が認識できるとはいえない。 (3)ATR法について (ア)甲第5号証、甲第6号証によれば、ATR法においては、光の入射角やATR結晶の種類によって、得られるスペクトルが変わるから、定量的なATR法によるFT-IR測定のためには、測定を行うための光の入射角やATR結晶の種類の特定が不可欠である。 また、JIS規格では、測定を行うための光の入射角やATR結晶の種類を一律に定めていない。 (イ)そして、本件特許明細書には、ATR法について、光の入射角やATR結晶の種類について一切記載がないから、当業者は、どのような条件でATR法によるFT-IR測定をしているのかを理解できない。 (ウ)すなわち、ATR法を用いて測定した「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の赤外吸収スペクトルに基づいて定量的に特定されている本件訂正前の請求項1?14に係る発明が、発明の課題を解決できると当業者が認識できるとはいえない。 (4)被覆率について 本件訂正前の請求項1?14においては、ケイ素化合物による被覆について、「少なくとも一部」と特定されているだけであり、被覆が金属微粒子のごく一部であり、かつ、Si-OH結合の比率が小さい場合には、Si-OH結合の比率が極端に小さくなるから、本件訂正前の請求項1?14に係る発明は、課題を解決できないものも含むものである。 3 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について(異議申立書58頁16行?60頁22行) (1)ATR法について 本件訂正前の請求項8?10には、ATR法を用いて測定した「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の赤外吸収スペクトルに基づいて定量的な測定を行う上で不可欠な、光の入射角、ATR結晶の種類が記載されていないから、本件訂正前の請求項8?10に係る発明が不明確である。 (2)Si-OH結合、Si-O結合の比率について 本件訂正前の請求項1、2には、「Si-OH結合の比率」、「Si-O結合の比率」が、何に対する比率なのかが記載されていないから、本件訂正前の請求項1、2に係る発明は不明確である。 (3)半金属元素について 本件訂正前の請求項1、2に記載される「銀、銅、ニッケル及び鉄」は金属元素であり、選択肢に半金属元素は存在しないから、本件訂正前の請求項1、2係る発明は不明確である。 (4)プロダクト・バイ・プロセスクレームについて 本件訂正前の請求項11に係る発明は、実質的に、熱処理を施すことによって製造された「ケイ素化合物被覆金属微粒子」であるから、いわゆるプロダクト・バイ・プロセスクレームに当たるので、本件訂正前の請求項11に係る発明は不明確である。 (5)Si-O結合について (ア)本件訂正前の請求項10は、「Si-O結合」を、「波数1000cm^(-1)以上1300cm^(-1)以下の領域に波形分離されたSi-O結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたもの」と特定するものであるが、甲第4号証の【図7(a)】によれば、「Si-O結合」は810cm^(-1)にピークを有するものである。 (イ)そうすると、本件訂正前の請求項10に係る発明は、「Si-O結合」を、「Si-O結合」に帰属する複数のピークのうち1つのピークの面積によって定量化しようとするものであり、技術常識に反するから、本件訂正前の請求項10に係る発明は明確でない。 4 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について(異議申立書60頁23行?62頁2行) (1)粒径について 本件特許明細書は、実施例によって説明されている数十nmといった範囲に比べ、1μmといった大きな粒径を有する「ケイ素化合物被覆金属微粒子」について、分散性に優れた「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の発明を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 (2)金属元素について 本件特許明細書は、「金属元素または半金属元素」が鉄である、分散性に優れた「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の発明を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 (3)ATR法について 本件特許明細書は、ATR法を用いて測定した「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の赤外吸収スペクトルに基づいて定量的に測定されている発明を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 (4)被覆率について 本件特許明細書は、ケイ素化合物による被覆が、金属微粒子の表面のごく一部であり、かつ、Si-OH結合の比率が小さい場合にも、本件発明を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 第5 取消理由及び審尋の概要 1 平成30年10月29日付け取消理由通知書の取消理由の概要 (1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について (1-1)「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の一次粒子または凝集体の径について (ア)本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」における金属微粒子の一次粒子径または金属微粒子が凝集した凝集体の径を、金属微粒子としての特性を最大限利用することが困難となる径である1μm以下としても、金属微粒子に期待される特性を最大限向上させ、またはそのような特性を補って、特性が制御された「ケイ素化合物被覆金属微粒子」を提供する、という課題を解決するものというべきである。 (イ)ところが、本件訂正前の請求項1及び2には、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」における金属微粒子の一次粒子径または金属微粒子が凝集した凝集体の径が特定されていないので、本件訂正前の請求項1及び2に係る発明は、上記(ア)に記載される課題とは無関係な、金属微粒子の一次粒子径または金属微粒子が凝集した凝集体の径が1μmを超える金属微粒子を含むものである。 一方、発明の詳細な説明は、【0048】、【0049】、実施例において、その提供により課題を解決できたことを記載していないから、本件訂正前の請求項1及び2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。 (ウ)このことは、本件訂正前の請求項3、4、8?14に係る発明についても同様である。 (1-2)「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の被覆について (ア)本件訂正前の請求項1に係る発明は、ケイ素化合物で被覆される金属微粒子の表面の割合が少ない「ケイ素化合物被覆金属微粒子」も含むものであるが、その場合、本件発明1は、上記(1)(ア)に記載される課題を解決できないものも含むから、本件発明1が、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。 (イ)このことは、本件訂正前の請求項2?14に係る発明についても同様である。 (2)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について (2-1)「Si-OH結合の比率」及び「Si-OH結合/Si-O結合の比率」について ア 本件訂正前の請求項1、2に係る発明について (ア)本件訂正前の請求項1においては、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」に含まれる「Si-OH結合の比率」の求め方が特定されておらず、本件訂正前の請求項2においては、「Si-OH結合/Si-O結合の比率」の求め方が特定されておらず、このことからみれば、本件訂正前の請求項1、2に係る発明においては、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」に含まれる「Si-OH結合の比率」及び「Si-OH結合/Si-O結合の比率」を、IR測定により測定してもよく、IR測定以外の方法により測定してもよいものである。 (イ)ところが、技術常識からみれば、同じ「ケイ素化合物被覆金属微粒子」について、IR測定により求めた「Si-OH結合の比率」及び「Si-OH結合/Si-O結合の比率」と、IR測定以外の方法により求めた「Si-OH結合の比率」及び「Si-OH結合/Si-O結合の比率」とが合致すると直ちにいえるものではない。 (ウ)このため、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」に含まれる「Si-OH結合の比率」及び「Si-OH結合/Si-O結合の比率」を、IR測定により測定してもよく、IR測定以外の方法により測定してもよい本件訂正前の請求項1、2に係る発明において、上記「Si-OH結合の比率」及び「Si-OH結合/Si-O結合の比率」が明確に特定されているとはいえない。 (エ)更に、本件訂正前の請求項1においては、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」に含まれる「Si-OH結合の比率」の求め方が特定されておらず、本件訂正前の請求項2においては、「Si-OH結合/Si-O結合の比率」の求め方が特定されていないことから、本件訂正前の請求項1、2に係る発明における「Si-OH結合の比率」及び「Si-O結合の比率」が、それぞれ何に対する比率をいうのかも不明確である。 したがって、本件訂正前の請求項1?2に係る発明は明確でない。 (オ)このことは、本件訂正前の請求項3?7、11?14に係る発明ついても同様である。 イ 本件訂正前の請求項8?10に係る発明について (ア)本件訂正前の請求項8?10に係る発明は、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」に含まれる「Si-OH結合の比率」及び「Si-OH結合/Si-O結合の比率」をATR法により求めるものである。 (イ)ここで、甲第5号証によれば、JIS規格は、ATR法における赤外線の入射角及びATR結晶の種類を一律に定めるものではないから、ATR法による定量的なFT-IR測定に際しては、必要に応じて複数種類の赤外線の入射角及びATR結晶を用い得るものであるが、甲第6号証によれば、ATR法においては、赤外線の入射角やATR結晶の種類が変わると得られるスペクトルが変わるから、ATR法による定量的なFT-IR測定のためには、赤外線の入射角及びATR結晶の種類の特定が必要なものである。 (ウ)ところが、本件訂正前の請求項8?10においては、ATR法による測定のための赤外線の入射角及びATR結晶の種類が特定されておらず、このことと、上記(イ)によれば、本件訂正前の請求項8?10に係る発明においては、用いられる赤外線の入射角及びATR結晶の種類に応じて、複数の異なる「Si-OH結合の比率」及び「Si-OH結合/Si-O結合の比率」が求められるから、本件訂正前の請求項8?10に係る発明において、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の「Si-OH結合の比率」及び「Si-OH結合/Si-O結合の比率」が明確に特定されているとはいえない。 したがって、本件訂正前の請求項8?10に係る発明は明確でない。 (エ)このことは、本件訂正前の請求項8?10を引用する本件訂正前の請求項11?14に係る発明についても同様である。 (2-2)「半金属元素」について (ア)本件訂正前の請求項1の「上記金属元素又は半金属元素が、銀、銅、ニッケル及び鉄からなる群から選択され、」との記載は、「銀、銅、ニッケル及び鉄」が「半金属元素」でないことは明らかであるので、記載の意味が不明確であるから、本件訂正前の請求項1に係る発明は明確でない。 (イ)このことは、同様の記載がある本件訂正前の請求項2に係る発明についても同様であり、請求項1または2を直接的または間接的に引用する本件訂正前の請求項3?14に係る発明についても同様である。 (2-3)「熱処理」について (ア)本件訂正前の請求項11に係る発明は、「熱処理」の前後において、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の内部と外周におけるケイ素の分布状態がどのように特定されるのかが不明確であるから、上記「熱処理」を施すことによって生成した「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の構造を明確に特定することができないので、本件訂正前の請求項11に係る発明は明確でない。 (イ)このことは、本件訂正前の請求項11を引用する本件訂正前の請求項12?14に係る発明についても同様である。 (2-4)「Si-O結合」について (ア)本件訂正前の請求項10は、Si-O結合を、「全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数1000cm^(-1)以上1300cm^(-1)以下の領域に波形分離されたSi-O結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたもの」と特定するものである。 (イ)一方、甲第4号証の【図7(a)】には、Si-O結合は、810cm^(-1)及び1060cm^(-1)にピークを有することが記載されており、このことからみれば、Si-O結合は、波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域において複数のピークを有するものであるが、本件訂正前の請求項10に係る発明は、Si-O結合を、Si-O結合に帰属するピークが複数あるにも関わらず、複数あるピークのうちの1つである、「最も面積比率の大きなピーク」のピークの面積によって定量化しようとするものであるから、技術常識に反し、更に、本件訂正前の請求項10において引用される請求項2?9には、Si-O結合を技術常識に基づかない独自の方法により定量化することが記載されていないから、本件訂正前の請求項10における上記Si-O結合の特定は、本件訂正前の請求項2?9におけるSi-O結合の特定に係る解釈とも矛盾するものである。 このため、本件訂正前の請求項10に係る発明は明確でない。 そして、このことは、本件訂正前の請求項10を引用する本件訂正前の請求項11?14に係る発明についても同様である。 (3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について (3-1)ATR法について (ア)本件訂正前の請求項1、2に係る発明においては、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」に含まれる「Si-OH結合の比率」及び「Si-OH結合/Si-O結合の比率」を、IR測定により測定してもよく、IR測定以外の方法により測定してもよいものであるが、発明の詳細な説明には、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」に含まれる「Si-OH結合の比率」及び「Si-OH結合/Si-O結合の比率」をIR測定以外の方法により測定する場合の具体的な工程が記載されていないから、当業者は、「Si-OH結合の比率」又は「Si-OH結合/Si-O結合の比率」をIR測定以外の方法により測定する場合、具体的な測定方法を理解することができない。 (イ)また、本件訂正前の請求項8?10に係る発明においては、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」に含まれる「Si-OH結合の比率」及び「Si-OH結合/Si-O結合の比率」を、IR測定の一つであるATR法により求めるものであるが、JIS規格は、ATR法における赤外線の入射角及びATR結晶の種類を一律に定めるものではなく、ATR法による定量的なFT-IR測定に際しては、必要に応じて複数種類の赤外線の入射角及びATR結晶を用い得るものであるが、ATR法においては、赤外線の入射角やATR結晶の種類が変わると得られるスペクトルが変わるから、ATR法による定量的なFT-IR測定のためには、赤外線の入射角及びATR結晶の種類の特定が必要なものである。 (ウ)ところが、本件特許明細書には、ATR法における光の入射角やATR結晶(クリスタル)の種類について記載がないから、当業者は、「Si-OH結合の比率」又は「Si-OH結合/Si-O結合の比率」をATR法を用いて測定する場合、具体的な測定方法を理解することができない。 (エ)すると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件訂正前の請求項1、2、8?10に係る発明において、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」に含まれる「Si-OH結合の比率」及び「Si-OH結合/Si-O結合の比率」を測定する場合、具体的な測定方法を理解することができないので、発明の詳細な説明は、本件訂正前の請求項1、2、8?10に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 (オ)このことは、本件訂正前の請求項1、2を引用する本件訂正前の請求項3?7、11?14に係る発明、及び、本件訂正前の請求項8?10を引用する本件訂正前の請求項11?14に係る発明についても同様である。 (4)むすび 以上のとおりであるので、本件訂正前の請求項1?14に係る発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号、第6項第2号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。 2 平成31年 3月26日付け取消理由通知書の取消理由及び審尋の概要 (1)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について (ア)前回訂正請求により訂正された請求項11に係る発明は、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が、少なくとも「熱処理」を施される前においては「金属微粒子」の内部にケイ素を含むものであり、「熱処理」を施されたことによって、「熱処理」を施される前に比べて、上記ケイ素が上記「金属微粒子」の内部から外周方向に「移行」したものであることを特定している。 (イ)ところが、上記(ア)の発明特定事項は、「熱処理」という製造工程及びその際の経時的変化を特定しているに過ぎず、製造後の「ケイ素化合物被覆金属微粒子」である発明において認定可能な発明特定事項とはいえないので、物の発明である前回訂正請求により訂正された請求項11に係る発明は明確でない。 このことは、前回訂正請求により訂正された請求項11を引用する請求項12?14に係る発明についても同様であるので、前回訂正請求により訂正された11?14に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。 (2)審尋 (ア)特許権者は、特許権者意見書1において、前回訂正請求により訂正された請求項に係る発明においては、ATR法の測定装置として「FT/IR-6600」とその付属品である「ATR PRO ONE」を用いたこと、「FT/IR-6600」の付属品の中では、ケイ素酸化物のヌープ硬度よりもヌープ硬度が高いATR結晶として、入射角が45°のダイヤモンド結晶を当然用いるものである旨を主張している(7頁下から5行?10頁23行)。 (イ)ところが、「FT/IR-6600」の付属品の中で、ATR結晶として入射角が45°のダイヤモンドが当然に選択されるとしても、特許権者意見書1の8頁の表によれば、入射角が45°のダイヤモンド結晶である「FT/IR-6600」のATR付属品は、特許権者が使用したと主張する「ATR PRO ONE」の他に、高耐圧型1回反射ATRの「ATR PRO470-H」も選択肢となり、ATR結晶の試料接触圧が不明な本件特許明細書に接した当業者であれば、むしろ、耐圧範囲の広い「ATR PRO470-H」が採用され得るものである。 そして、その場合、本件特許明細書の記載からはATR結晶の試料接触圧が不明なのであるから、「Si-OH結合の比率」の値が一意に定まらないとも考えられる。 (ウ)そこで、ATR法による測定において、ATR結晶の試料接触圧が不明であっても「Si-OH結合の比率」の値が一意に定まることを示す技術常識等を開示されたい。 3 令和 1年 8月 5日付け審尋の概要 (ア)特許権者は、特許権者意見書2において、乙第9号証として、社団法人日本化学会編,「第4版実験化学講座6分光I」,丸善株式会社,平成 3年 7月 5日,目次x?xi,p.215?230を添付して、本件発明におけるATR法による測定に関して、ATR法における測定感度を保つためには、試料とATR結晶は、ATR結晶と試料面に空気層がないように、数μm以下の間隔で密着している必要がある旨、本件発明に係る「ケイ素化合物被覆金属微粒子」は、一次粒子径及び粒子径が1.9μm以下である細かな微細粒子であるから、試料を数μm以下の間隔でATR結晶に密着させることが可能であり、測定にあたって空気層が問題になることはない旨、このため、本件発明に係る「ケイ素化合物被覆金属微粒子」のATR法測定では、試料をATR結晶に密着させるために高圧を必要としないから、あえて耐高圧型1回反射ATRの「ATR PRO470-H」を用いる必要はなく、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」を「ATR PRO ONE」のATR結晶に押し当てさえすれば、試料とATR結晶の接触圧が不明であっても測定が可能であり、「Si-OH結合の比率」の値は一意に定まる旨、本件発明に係る「ケイ素化合物被覆金属微粒子」とATR結晶の間に数μm以上の空気層は存在しないから、仮に、耐高圧型1回反射ATRの「ATR PRO470-H」を用いて測定したとしても、「ATR PRO ONE」を用いて測定した場合と同一のATR法測定結果が得られる旨を主張している。 (イ)これに対して、異議申立人は、申立人意見書2において、甲第11証として、FRANK FRIEDRICH et al.,「Contact Pressure Effects on Vibrational Bands of Kaokinite During Infrared Spectroscopic Measurements in a Diamond Attenuated Total Reflection Cell」,APPLIED SPECTROSCOPY,Vol.64,No.5,2010,p.500-506を添付して、甲第11号証のFig.6(504頁)によれば、平均粒径約1.5μmのカオリナイトをATR法により分析する場合、ATR結晶への試料の接触圧が異なれば、Si-O結合について観測されるスペクトルのピーク位置はシフトし、観察されるピーク強度も異なることが確認され、また、乙第9号証の図3・48(224頁)においても、接触圧力の違いによるスペクトルの違いが示されており、ATR結晶の試料の接触圧が異なれば、同一のスペクトルは得られず、測定対象の試料の材料種別によっては、接触圧力の違いに起因し、ATR法により得られるスペクトルは変わり得るから、被測定物の材料種別とその密着性まで考慮しなければ、測定対象の粒径がμm単位で小さいという理由だけでは、試料接触圧が不明であっても「同一のATR法測定結果が得られる」とまではいえないし、「ATR PRO470-H」を用いた場合と、「ATR PRO ONE」を用いた場合とで同一のATR法測定結果が得られると結論付けることはできず、その真偽は不明である旨、本件特許明細書において試料接触圧が不明である以上、「Si-OH結合の比率」の値が一意に定まるとはいえない旨を主張している。 (ウ)ここで、甲第11号証、乙第9号証の記載について検討すると、甲第11号証(500頁左欄1行?22行)によれば、カオリナイトのATRスペクトルは、サファイア・アンビルに印加した接触圧力によって影響を受けるものであるが、これは、Si-O-Si結合角Θの変化によるものであると示唆され、アンビルに加えられる一軸圧力に垂直なせん断力に起因し、四面体シート内でのSiO_(4)単位の歪み及び回転によって引き起こされるものであるから、甲第11号証の記載は、カオリナイトにおいて、ATR結晶への試料の接触圧を試料の結晶格子が歪む程度にまで高くすると、測定されるATRスペクトルが変化することをいうものと認められる。 また、乙第9号証(223頁1行?14行)によれば、ATRの測定のとき結晶と試料面に空気層があると測定感度が著しく低下するから、ATR用結晶と試料とはμmオーダー以下で十分に密着している必要があるのであって、図3・48は、ATR結晶と試料面に空気層があると、ATRスペクトルの測定感度が著しく低下することを開示するものに過ぎないと認められる。 そして、本件発明に係る「ケイ素化合物被覆金属微粒子」のATR法測定は、ATR結晶への試料の接触圧を試料の結晶格子が歪む程度の圧力まで高くするものではなく、ATR結晶と試料面に空気層がない程度に、ATR結晶と試料を試料数μm以下の間隔で密着することで、測定される「Si-OH結合の比率」の値は一意に定まり、このときの接触圧力は、技術常識を踏まえて当業者がその都度決定し得るものと一応推認される。 (エ)あるいは、本件発明においては、「ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率」又は「ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-O結合の比率に対するSi-OH結合の比率であるSi-OH結合/Si-O結合の比率」が特定されているのであって、ATR結晶への試料の接触圧が異なり、観測されるスペクトルのピーク位置やピーク強度が変化したとしても、上記「比率」は変化しないとも一応推認される。 (オ)そこで、上記(ウ)、(エ)の判断に対して意見があれば主張されたい。上記(エ)の判断に同意する場合には、ATR結晶への試料の接触圧が異なれば、観測されるスペクトルのピーク位置やピーク強度が異なるものであるとしても、本件発明に係る「ケイ素化合物被覆金属微粒子」のATR法測定において観測されるスペクトルが一意に定まることを示す理由、技術常識等を開示されたい。 (カ)また、本件特許明細書の【0071】には、本件発明の実施例において、ATR法による測定をFT/IR-6600(日本分光株式会社製)を用いて行った旨が記載されているが、この場合、どの程度の接触圧力でATR結晶へ試料を密着したのかも開示されたい。 あるいは、上記FT/IR-6600(日本分光株式会社製)においては接触圧力が測定できないのであれば、ATR結晶への試料の密着が、どのような手段を用いていかにして行われたのかを開示されたい。 第6 取消理由及び審尋についての判断 1 平成30年10月29日付け取消理由通知書の取消理由について (1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について (1-1)「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の一次粒子または凝集体の径について (ア)本件特許明細書の【0002】?【0008】によれば、本件発明は、「金属微粒子」の一次粒子径またはその「凝集体」の径を、「金属微粒子」としての特性を最大限利用することが困難となり始める径である1μm以下とした場合、厳密に特性を制御された「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が得られていなかった、という課題(以下、「本件課題」という。)を解決するものである。 (イ)ここで、上記第3の「発明特定事項1-3」、「発明特定事項2-3」によれば、本件発明1、2は、「金属微粒子の一次粒子径が1μm以下であ」るか、または「複数個の金属微粒子が凝集した凝集体」「の径が1μm以下であ」ると特定するものであるから、本件課題とは無関係な、「金属微粒子」の一次粒子径または「金属微粒子」の「凝集体」の径が1μmを超えるものを含むものではない。 (ウ)してみれば、本件発明1、2は本件課題を解決できるものといえるから、発明の詳細な説明に記載された発明というべきである。 また、このことは、本件発明1、2を直接的又は間接的に引用する本件発明3、4、6、12?14についても同様であるので、上記第5の1(1)(1-1)の取消理由は理由がない。 (1-2)「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の被覆について (ア)上記第3の「発明特定事項1-3」、「発明特定事項2-3」によれば、本件発明1、2は、「ケイ素化合物被覆金属微粒子の一次粒子径が、上記金属微粒子の一次粒子径の100.5%以上、190%以下であるか、又は」、「ケイ素化合物被覆金属微粒子の粒子径が」、「複数個の金属微粒子が凝集した凝集体」の「径の100.5%以上、190%以下である」、と特定するものである。 (イ)そして、上記(ア)の特定は、「金属微粒子」または「複数個の金属微粒子が凝集した凝集体」の表面が、「ケイ素化合物」で所定の範囲の厚さだけ被覆されることをいうものといえ、「ケイ素化合物」の被覆が所定の範囲の厚さとなるのであれば、「金属微粒子」または「金属微粒子が凝集した凝集体」の表面のうち相応の面積が「ケイ素化合物」で被覆される蓋然性が高いから、本件発明1、2は、「ケイ素化合物」で被覆される「金属微粒子」または「複数の金属微粒子が凝集した凝集体」の表面面積の割合が少ない「ケイ素化合物被覆金属微粒子」を含むものではない。 (ウ)したがって、本件発明1、2は、本件課題を解決できるものといえるから、発明の詳細な説明に記載された発明というべきである。 また、このことは、本件発明1、2を直接的又は間接的に引用する本件発明3、4、6、12?14についても同様であるので、上記第5の1(1)(1-2)の取消理由は理由がない。 (1-3)小括 以上のとおりであるので、上記第5の1(1)の特許法第36条第6項第1号(サポート要件)についての取消理由は理由がない。 (2)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について (2-1)「Si-OH結合の比率」及び「Si-OH結合/Si-O結合の比率」について (ア)本件発明1においては、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」に含まれる「Si-OH結合の比率」の求め方について、「発明特定事項1-2」として特定され、本件発明2においては、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」に含まれる「Si-OH結合/Si-O結合の比率」の求め方について、「発明特定事項2-2」として特定されるものである。 そして、上記「発明特定事項1-2」、「発明特定事項2-2」によれば、「Si-OH結合の比率」は、全反射法(ATR法)を用いて測定した「波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られたピークの総面積」に対する「Si-OH結合に帰属されたピークの面積」の比率をいうものであり、「Si-OH結合/Si-O結合の比率」は、全反射法(ATR法)を用いて測定した「Si-O結合に帰属されたピークの面積」に対する「Si-OH結合に帰属されたピークの面積」の比率をいうものであることが明らかである。 (イ)更に、本件特許明細書の【0071】には、本件発明における FT-IR測定に、フーリエ変換赤外分光光度計「FT/IR-6600(日本分光株式会社製)」を用いたことが記載されており、特許権者意見書1に乙第1号証として添付された「FT/IR-6600(日本分光株式会社製)」のカタログ及び特許権者意見書1の8頁の表によれば、ケイ素酸化物のヌープ硬度(750?900程度)よりも高いヌープ硬度を有するATR結晶は、入射角45°のダイヤモンドだけであるから、本件発明のATR法によるFT-IR測定において、ATR結晶として、入射角45°のダイヤモンドが用いられることは明らかである。 (ウ)してみれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明におけるATR法によるFT-IR測定において、ATR結晶として、入射角45°のダイヤモンドが用いられることを理解できるから、本件発明におけるATR法は明確である。 (エ)上記(ア)?(ウ)によれば、本件発明1、2において、「Si-OH結合の比率」及び「Si-OH結合/Si-O結合の比率」の求め方は明確に特定されているといえるから、本件発明1、2は明確であるというべきである。 そして、このことは、本件発明1、2を直接的又は間接的に引用する本件発明3、4、6、12?14についても同様であるので、上記第5の1(2)(2-1)ア、イの取消理由はいずれも理由がない。 (2-2)「半金属元素」について 本件訂正により、本件発明1、2における「半金属元素」は削除され、本件発明1、2においては、「金属元素」に関して「上記金属元素が、銀、銅、ニッケル及び鉄からなる群から選択され、」と特定されており、記載の意味は明確であるから、本件発明1、2は明確であるというべきである。 このことは、本件発明1、2を直接的又は間接的に引用する本件発明3、4、6、12?14についても同様であるので、上記第5の1(2)(2-2)の取消理由は理由がない。 (2-3)「熱処理」について 本件訂正により請求項11は削除されたので、上記第5の1(2)(2-3)の取消理由は理由がない。 (2-4)「Si-O結合」について (ア)本件発明2は、「Si-O結合」を、「全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数1000cm^(-1)以上1300cm^(-1)以下の領域に波形分離されたSi-O結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたもの」と特定するものである。 そして、上記特定は、本件発明2における「Si-O結合」の定量化をいうものであって、技術常識としての「Si-O結合」の定量化をいうものではないから、Si-O結合が、波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域において複数のピークを有するものであるとしても、本件発明2における「Si-O結合」の発明特定事項は明確である。 (イ)更に、本件発明2において引用される、「Si-O結合」を技術常識に基づいて定量化することが特定される請求項が存在するものでもないから、本件発明2は明確であるというべきである。 このことは、本件発明2を直接的又は間接的に引用する本件発明3、4、6、12?14についても同様であるので、上記第5の1(2)(2-4)の取消理由は理由がない。 (2-5)小括 以上のとおりであるので、上記第5の2(2)の特許法第36条第6項第2号(明確性要件)についての取消理由はいずれも理由がない。 (3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について (3-1)ATR法について (ア)本件発明における「Si-OH結合の比率」は、全反射法(ATR法)を用いて測定した「波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られたピークの総面積」に対する「Si-OH結合に帰属されたピークの面積」の比率をいうものであり、「Si-OH結合/Si-O結合の比率」は、全反射法(ATR法)を用いて測定した「Si-O結合に帰属されたピークの面積」に対する「Si-OH結合に帰属されたピークの面積」の比率をいうものであることが明らかであることは、上記(2)(2-1)(ア)に記載のとおりであって、本件発明は、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」に含まれる「Si-OH結合の比率」及び「Si-OH結合/Si-O結合の比率」を、ATR法以外の方法により測定するものではない。 (イ)また、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明におけるATR法によるFT-IR測定において、ATR結晶として、入射角45°のダイヤモンドが用いられることを理解できることは、上記(2)(2-1)(ウ)に記載のとおりであるから、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「Si-OH結合の比率」又は「Si-OH結合/Si-O結合の比率」をATR法を用いて測定する場合の具体的な測定方法を理解でき、「Si-OH結合の比率」又は「Si-OH結合/Si-O結合の比率」を定量的に測定できるものである。 (ウ)したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1、2に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものというべきである。 このことは、本件発明1、2を直接的又は間接的に引用する本件発明3、4、6、12?14についても同様であるので、上記第5の1(3)(3-1)の特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)についての取消理由は理由がない。 (4)申立人意見書1について (4-1)申立人意見書1の主張の概要 ア 各甲号証 甲第9号証:Yongchao Li et al.,「One-step synthesis and characterization of core-shell Fe@SiO_(2) nanocomposite for Cr(VI) reduction」,Science of the Total Environment,421-422,2012年,p.260-266 甲第10号証:T.Lopez et al.,「Preparation of sol-gel sulfated ZrO_(2)-SiO_(2) and characterization of its surface acidity」,Applied Catalysis A,General 125,1995年,p.217-232 イ 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について (ア)甲第9号証のFig.3b、3dに例示されるように、一次粒子径が1μmの金属微粒子に対しては、ケイ素化合物は必ずしも均一に付着するとは限らず、局所的にケイ素化合物が付着する場合(参考図1)もあれば、一部で薄く付着し、他の一部で過剰に付着する場合(参考図2)もある。 (イ)そうすると、前回訂正請求により訂正された請求項1に係る発明の「(A)」または「(B)」により特定される粒径比を備えるだけでは、ケイ素化合物で被覆される金属微粒子の割合が少ない「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が排除されたと理解することはできない。 (ウ)また、本件特許明細書には、上記「(A)」または「(B)」により特定される、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の一次粒子径と「金属微粒子」の一次粒子径の比や、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の粒子径と「金属微粒子」の凝集体の粒子径の比が具体的にどうであったかが記載されていない。 (エ)以上のとおりであるから、前回訂正請求により訂正された請求項1に係る発明は、ケイ素化合物で被覆される「金属微粒子」の割合が少ない「ケイ素化合物被覆金属微粒子」を依然として含む。そして、実施例の「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が、上記「(A)」または「(B)」により特定される、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の一次粒子径と「金属微粒子」の一次粒子径の比や、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の粒子径と「金属微粒子」の凝集体の粒子径の比を満足しているか否かを理解できないから、前回訂正請求により訂正された請求項1に係る発明によって、本件課題を解決できるとは認められない。 なお、実施例の表5、表10の分散状態を参酌しても、「分散性」が制御できていることを理解できない。 (オ)また、「粒径」に関する付言として、「金属微粒子」の付着の挙動が粒径によって影響されることは技術常識であり、粒径が小さい方が局所的な付着が発生しやすくなるから、実施例によって説明されている数十nmといった範囲に比べ、1μmといった大きな粒径を有する「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が、本件課題を解決できることを、当業者は理解できない。 (カ)更に、「ケイ素化合物」に関する付言として、前回訂正請求により訂正された請求項1に係る発明は、「ケイ素化合物」として、例えば甲第10号証に記載されるZr-Si混合酸化物のようなあらゆる「ケイ素化合物」を含むが、実施例には「ケイ素酸化物」以外のケイ素化合物は開示されていないから、あらゆる「ケイ素化合物」の場合まで本件課題を解決できることを、当業者は理解できない。 (キ)これらのことは、前回訂正請求により訂正された請求項2?4、6、11?14に係る発明についても同様である。 ウ 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について (ア)ATR法によるFT-IR測定において、プリズムとして入射角が45℃のダイヤモンドが必然的に選択されるとしても、FT/IR-6600のATR付属品は、特許権者が使用したと主張する「ATR PRO ONE」の他に、高耐圧型1回反射ATRの「ATR PRO470-H」も選択肢となり、その場合、試料接触圧が不明であるから、「Si-OH結合の比率」の値が一意に定まらない。 (イ)そうすると、当業者は「Si-OH結合の比率」及び「Si-OH結合/Si-O結合の比率」が前回訂正請求により訂正された請求項1に係る発明の範囲の内外であるかを確定できないから、前回訂正請求により訂正された請求項1に係る発明は明確でない。 (ウ)このことは、前回訂正請求により訂正された請求項2?4、6、11?14に係る発明についても同様である。 エ 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について 当業者は、「Si-OH結合の比率」及び「Si-OH結合/Si-O結合の比率」の値を一意に求めるためのATR法による具体的な測定手法を理解できないから、発明の詳細な説明は、前回訂正請求により訂正された請求項に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 オ 付言 (ア)甲第1号証の実施例1及び比較例1の金属ニッケル粉末の表面には、少なくともケイ素に由来する「ケイ素化合物」の薄膜が形成されており、特に、比較例1の金属ニッケル粉末には、上記「ケイ素化合物」の薄膜が形成されている蓋然性が極めて高く、金ケイ素化合物の薄膜は、前回訂正請求により訂正された請求項に係る発明の発明特定事項を満たすと合理的に考えることができる。 (イ)よって、前回訂正請求により訂正された請求項に係る発明は、甲第1号証に対して新規性及び進歩性を有しない。 (4-2)判断 上記(4-1)ウ、エの主張は、ATR法におけるATR結晶の試料接触圧が不明なので、「Si-OH結合の比率」が一意に定まらないことをいう点で、上記第5の2(2)と実質的に同旨であり、これについては、下記2で述べる。また、上記(4-1)オの主張は、本件発明が甲第1号証に記載される発明に対して新規性及び進歩性を有しないことをいう点で、上記第4の1(2)と実質的に同旨であって、この取消理由通知に係る取消理由が解消していないことを主張するものではないので、これについては、下記第7の1(1)(1-2)で述べる。 ここでは、以下、上記(4-1)イ(特許法第36条第6項第1号(サポート要件))について判断する。 ア 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について (ア)本件発明1、2は、「ケイ素化合物」で被覆される「金属微粒子」または「複数個の金属微粒子が凝集した凝集体」の表面面積の割合が少ない「ケイ素化合物被覆金属微粒子」を含むものではないことは、上記(1)(1-2)(イ)に記載のとおりである。 (イ)また、甲第9号証のFig.3b、3dをみても、上記(4-1)イ(ア)の参考図1、2のように、「金属微粒子」に「ケイ素化合物」が均一に付着していないということはできないし、本件特許明細書の【0086】及び図面の【図2】をみれば、実施例1-1は、「金属微粒子」であるAg粒子の一次粒子径が概略18.4nmであり、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の一次粒子径が概略20nmであり、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の一次粒子径が「金属微粒子」の一次粒子径の20÷18.4=108.7%となることが看取されるのであって、本件特許明細書には、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の一次粒子径が「金属微粒子」の一次粒子径の100.5%以上190%以下の範囲に含まれることが記載されているといえる。 (ウ)更に、【0090】の【表5】をみれば、実施例1-1?1-17は、分散媒が純水の場合、分散粒子径/平均一次粒子径が2.8?17.0の範囲に制御され、分散媒がトルエンの場合、分散粒子径/平均一次粒子径が2.0?5.1の範囲に制御されるものであり、本件特許明細書の【表10】(【0101】)をみれば、実施例2-1?2-15は、分散媒が純水の場合、分散粒子径/平均一次粒子径が2.5?10.4の範囲に制御され、分散媒がトルエンの場合、分散粒子径/平均一次粒子径が1.9?4.4の範囲に制御されるものである。 (エ)上記(ア)?(ウ)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明は、「ケイ素化合物」で被覆される「金属微粒子」または「複数個の金属微粒子が凝集した凝集体」の表面面積の割合が少ない「ケイ素化合物被覆金属微粒子」を含むものではなく、本件発明により、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の分散性が制御されて、本件課題を解決できることを理解できるものである。 (オ)また、本件特許明細書の【0002】によれば、「金属微粒子」としての特性は1μmで分散体等として好適なのであって、むしろ径が1μmより小さくなるほど特性を最大限利用することが困難となるのであり、例えば、「金属微粒子」の平均一次粒子径が小さいほど粒子の凝集が起こりやすいことは技術常識であるが、【0109】、【0110】には、実施例4-14として、平均一次粒子径が1μmより小さい68.9nmの銀微粒子において分散性が制御され、本件課題を解決できることが開示されている。 してみれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「金属微粒子」の平均一次粒子径が68.9nm?1μmの範囲の粒径であっても、「金属微粒子」の分散性が制御され、本件課題を解決できることを理解できるものである。 (カ)更に、本件特許明細書の【0030】によれば、本件発明は、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の表面の「Si-OH結合の比率」または「Si-OH結合/Si-O結合の比率」を制御することによって本件課題を解決するものであるから、「Si-OH結合」、または、「Si-OH結合」及び「Si-O結合」を形成する「ケイ素化合物」であれば、「ケイ素酸化物」以外の「ケイ素化合物」でも本件課題を解決できることは明らかである。 そして、上記第3の「発明特定事項1-1」及び「発明特定事項2-1」によれば、本件発明1、2でいう「ケイ素化合物」が、「Si-OH結合」、または、「Si-OH結合」及び「Si-O結合」を形成する「ケイ素化合物」であることは明らかであるから、本件発明1、2は、本件課題を解決できない「ケイ素化合物」を含むものとはいえない。 (キ)以上のとおりであるので、上記(4-1)イの主張はいずれも採用できない。 2 平成31年 3月26日付けの取消理由通知書における取消理由、審尋及び令和 1年 8月 5日付け審尋について 上記第5の2(1)の取消理由は、請求項11における「熱処理」を施すことによって生成した「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の構造を明確に特定できないことをいう点で上記第5の1(2)(2-3)と実質的に同旨であって、これについては、上記第6の1(2)(2-3)で検討したとおりであるので、以下、上記第5の2(2)の審尋及び上記第5の3の審尋(以下、まとめて「審尋」という。)について検討する。 (1)審尋について (ア)乙第9号証には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。 「(ii)測定上の留意点 (1)試料のATR結晶への装着 侵入深さは大きくて波長程度であるのでATRの測定のとき結晶と試料面に空気層があると測定感度が著しく低下する.ATR用結晶と試料とはμmオーダー以下で十分に密着している必要がある.図3・48はKRS-5結晶で入射角45℃でポリプロピレンのフィルムを加圧の指標としてトルクレンチを用いてCH伸縮振動領域のスペクトル測定を行ったものであるが圧力によって強度が著しく異なることが示されている^(11)).・・・フィルム状試料や繊維,粉末試料などは,まず結晶面に試料をおきゴムやテフロンなどの軟らかい物質を試料の背後において全体を金属製押え板で圧力を加えて結晶面と試料の密着性を高める.・・・粉末状試料の場合にはそのまま全反射面に押し付けたり,粘着テープの上に密に接着させて試料とする,あるいは揮発性溶媒に溶解したり懸濁させたりして全反射面に滴下し溶媒を揮散させて試料とする.試料を結晶に締め付ける圧力が弱いと試料と結晶の間に空気層ができて感度低下の原因となる.逆に圧力を加えすぎると試料がもともと平面でないような場合には結晶面に傷がついたりする.」(223頁1行?224頁1行) (イ)そして、上記(ア)の記載からみれば、ATR法においては、測定時に、ATR用結晶と試料とをμmオーダー以下で十分に密着させて、測定のとき結晶と試料面に空気層が存在しない程度の圧力を加えることで正確な測定がなされるのであって、その際の圧力は、試料の形状や材質等に応じて当業者がその都度最適な値を選択し得るものといえる。 また、乙第9号証の図3・48(224頁)の記載は、ATR結晶と試料面に空気層があると、ATRスペクトルの測定感度が著しく低下することを開示するものに過ぎないと認められ、上記図3・48の記載から、本件発明1において「Si-OH結合の比率」の値が一意に定まらないと直ちにいうことはできない。 (ウ)また、特許権者が回答書に添付した乙第18号証である特開2009-222805号公報(【0035】)には、ATR法においては、試料を押さえる圧力によってピークの面積(強度)が変化してしまうため、スペクトルの面積(強度)を直接追うことは好ましくなく、感光体に由来するピークと保護剤に由来するピークの比を用い、安定した指標を得ることが好ましいのであって、ピークaとピークbの面積の比(Sa/Sb)を用いることで安定した指標を求めることが記載されているから、ATR法において、試料を押さえる圧力によってピークの面積(強度)が変化するとしても、求めるピークaとピークbの面積の比(Sa/Sb)を用いることで、安定した指標を求めることができることは、当業者にとって明らかである。 (エ)一方、甲第11号証(500頁左欄1行?22行)によれば、甲第11号証における試料であるカオリナイトを押さえる圧力の差に基づくATRスペクトルの測定値の差は、Si-O-Si結合角Θの変化によるものであると示唆され、アンビルに加えられる一軸圧力に垂直なせん断力に起因し、四面体シート内でのSiO_(4)単位の歪み及び回転によって引き起こされるものである。 これに対して、本件発明は、ATR法の試料としてカオリナイトを用いるものではなく、更に、前記(ア)及び回答書の2頁19行?4頁6行の記載、更に、回答書に添付した乙第14号証である、日本分光株式会社,「ATR PRO ONE 1回反射ATRベースキット PKS-Z1 PKS-G1 PKS-D1 PKS-D1F ATR PRO ONE用プリズムキット 取扱説明書 ハードウェア/機能編」,2013年11月、乙第15号証である、日本分光株式会社,「ATR PRO ONE 1回反射ATRベースキット PKS-Z1 PKS-G1 PKS-D1 PKS-D1F ATR PRO ONE用プリズムキット 取扱説明書 測定編」,2014年 5月の記載からみれば、本件発明は、ATR法による測定の際に、結晶と試料面に空気層が存在しない程度の圧力を加えるものであって、四面体シート内でのSiO_(4)単位の歪み及び回転によって、Si-O-Si結合角Θの変化が引き起こされるのと同等の、試料の結晶格子が歪んだり回転するほどの圧力が加えられるものとは認められない。 してみれば、試料としてカオリナイトを用いる甲第11号証において、四面体シート内でのSiO_(4)単位の歪み及び回転によって、Si-O-Si結合角Θの変化が引き起こされるような接触圧が加えられた場合に、ATRスペクトルの測定値に差が生じるとしても、このことから直ちに、そのような接触圧が加えられるものではなく、試料としてカオリナイトを用いるものでもない本件発明において、「Si-OH結合の比率」の値が一意に定まらないということはできない。 (オ)してみれば、本件特許明細書の記載からは、FT/IR-6600のATR付属品として、特許権者が使用したと主張する「ATR PRO ONE」の他に、高耐圧型1回反射ATRの「ATR PRO470-H」も選択肢となり、ATR結晶の試料接触圧が不明であるとしても、本件特許明細書の記載に接した当業者は、ATR結晶の試料接触圧は、結晶と試料面に空気層が存在しない程度の圧力として、試料の形状や材質等に応じてその都度最適な値を選択し得るのであって、更に求めるピークaとピークbの面積の比(Sa/Sb)を用いることで安定した指標を求めることで、「Si-OH結合の比率」の値が一意に定まることを理解できるものである。 したがって、上記審尋における疑義はいずれも解消した。 (2)申立人意見書2及び上申書について 申立人意見書2の主張の概要は、上記第5の3(イ)のとおりであって、これについては、上記(1)(イ)?(オ)で検討したとおりであるので、以下、上申書の主張について検討する。 (2-1)上申書の主張の概要 (ア)特許権者は、回答書において、乙第19号証として「甲第11号証の図6のスペクトル解析資料」を提示しつつ、「ATR結晶への試料の接触圧が異なり、観測されるスペクトルのピーク位置やピーク強度が変化するような場合があったとしても、比率は一意に定まる」旨を主張しているが、この回答は不合理である。 (イ)すなわち、本件発明において特定される「比率」はピーク強度ではなく、ピークに帰属する面積比によって定まるものである。 そこで、異議申立人は、乙第19号証の2頁の図を用いて、接触圧が異なる場合の面積比率を求めた。 (ウ)その結果、上申書4頁の「表1」より、ピーク強度比率が同じであったとしても、ピークに帰属する面積比は有意に変動するから、特許権者の前記(ア)の主張は失当であり、本件発明は、平成30年10月29日付け取消理由通知書における明確性要件及び実施可能要件の取消理由を解消していない。 (2-2)判断 (ア)試料としてカオリナイトを用いる甲第11号証において、四面体シート内でのSiO_(4)単位の歪み及び回転によって、Si-O-Si結合角Θの変化が引き起こされるような接触圧が加えられた場合に、ATRスペクトルの測定値に差が生じるとしても、このことから直ちに、そのような接触圧が加えられるものではなく、試料としてカオリナイトを用いるものでもない本件発明において、「Si-OH結合の比率」の値が一意に定まらないということはできないことは、上記(1)(エ)に記載のとおりである。 (イ)そして、上記(2-1)の上申書の主張は、甲第11号証のFIG.6(504頁)に基づいて、接触圧が異なる場合の面積比率が有意に変動することをいうものであって、仮にそうであるとしても、上記(1)(エ)に記載したのと同様の理由により、このことから直ちに、本件発明において、「Si-OH結合の比率」の値が一意に定まらないということはできない。 (ウ)したがって、上記(2-1)の主張は採用できない。 第7 異議申立理由についての判断 1 特許法第29条第1項第3号(新規性)及び第2項(進歩性)について (1)甲第1号証を主引用例とする場合について (1-1)甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、以下の記載がある。 (1a)「[請求項1]平均粒径が10nmから1000nmであって、MCT検出器を具備するフーリエ変換赤外分光光度計における1200cm^(-1)から900cm^(-1)の吸収スペクトル信号のS/N比(X)と3700cm^(-1)から3600cm^(-1)の吸収スペクトル信号のS/N比(Y)が、 Y≦-1.0X+23.0 であることを特徴とする金属ニッケル粉末。」(請求の範囲) (1b)「[0001]本発明は、金属ニッケル粉末及び金属ニッケル粉末の製造方法に係り、特に、粒子同士が凝集して形成された粗大粒子の含有量が少ない金属ニッケル粉末及びその製造方法に関する。 ・・・ [0011]本発明者等は、金属ニッケル粉末の粗大粒子について鋭意研究を重ねた結果、金属ニッケル粉末表面の水酸化物の他に、微量に含まれるケイ酸の存在により、ニッケル粉が凝集し粗大粒子が発生することを突き止め、本発明を完成するに至った。」 (1c)「[0018]本発明の金属ニッケル粉末のフーリエ変換赤外分光光度計による赤外吸収スペクトル分析における1200cm^(-1)?900cm^(-1)の吸収スペクトルは、Si-O-Si(鎖状)、(Si-O-Si)_(3)(環状)、(Si-O-Si)_(4)(環状)、(Si-O-Si)_(n)(環状)、SiO_(3)^(2-)(珪酸塩)のSi-O-Siの骨格振動に帰属されるピークである。・・・また、3700cm^(-1)から3600cm^(-1)の吸収スペクトルは、Ni(OH)_(2)に帰属されるピークである。(文献参照:特開2010-237051号公報)。」 (1d)「[0039]本実施例における平均粒径、FT-IR測定、ケイ素濃度、凝集は以下の方法により評価を行った。 [0040]a.平均粒径の評価 走査電子顕微鏡によりニッケル粉末の写真を撮影し、その写真から粒子200個の粒径を測定してその平均値を算出した。なお、粒径は粒子を包み込む最小円の直径とした。 [0041]b.FT-IR測定 以下の条件にて、FT-IR測定を行った。 ・・・ 測定サンプルは以下のように調製した。金属ニッケル粉末を、口径7mmφの底付円柱サンプル治具に詰めた後、金属ニッケル粉末を円柱サンプル治具上端部で水平に擦り切った。この円柱サンプル治具を、サンプルを溢さないようにFT-IR装置にセットした。 S/N比は、1200cm^(-1)から900cm^(-1)の吸収スペクトルの吸光度または3700cm^(-1)から3600cm^(-1)の吸収スペクトルの吸光度の、吸収スペクトルが無くベースラインが歪んでいない領域の吸光度(2200cm^(-1)から1950cm^(-1))に対する比とした。なお、吸光度は、前記の周波数範囲を50cm^(-1)単位でピーク面積値を求め、その平均値とした。 [0042]c.ケイ素濃度測定 イオンクロマトグラフィーにより、純水、炭酸水溶液中のケイ素含有量を測定した。 ・・・ [0044]<実施例1> (Si最小、Ni(OH)最小) 特許第4286220号公報の実施例1に記載する方法と同様な方法で金属ニッケル粉末を作製した。なお、金属ニッケル粉末の製造に先立ち、下記のケイ素濃度が異なる純水を用意した。 純水A:ケイ素濃度 65wtppm 純水B:純水Aを表面のゼータ電位が(+)に帯電したフィルターを有するろ過装置(多用途型タンク付ホルダー ろ過板タイプ(アドバンテック東洋株式会社製))で処理した。ケイ素濃度は3wtppmである。 ・・・ [0046]これと同時に、ノズル23から還元炉2内に水素ガスを供給して塩化ニッケルガスを還元し、ニッケル粉末Pを得た。・・・金属ニッケル粉末Pの一部を採取し、水洗後、平均粒径を測定したところ、金属ニッケル粉末Pの平均粒径は0.3μmであった。 [0047]次いで、窒素ガス-塩酸蒸気-金属ニッケル粉末Pからなる混合ガスを、純水Bを充填した洗浄槽に導き、金属ニッケル粉末を分離回収し、純水Bで洗浄した(純水洗浄)。 [0048]次いで、金属ニッケル粉末スラリー中に炭酸ガスを吹き込んでpH4.0とし、炭酸水溶液として25℃で60分処理を行った(炭酸水溶液処理)。 [0049]炭酸水溶液で処理した金属ニッケル粉末を乾燥した後、大気中において200℃で30分処理を行い(加熱処理)、金属ニッケル粉末を得た。金属ニッケル粉末の平均粒径は0.3μmであった。 [0050]表1に、金属ニッケル粉末の1200cm^(-1)から900cm^(-1)の吸収スペクトル信号のS/N比(X)、3700cm^(-1)から3600cm^(-1)の吸収スペクトル信号のS/N比(Y)、凝集の評価結果を示す。また、FT-IRの結果を図1に示す。」 (1e)「[0067]<比較例1> ケイ素濃度3wtppmとした純水Bに代えて、ケイ素濃度45wtppmとした純水Aを用い、更に乾燥後の加熱処理を200℃で30分処理に代えて、150℃で30分処理とした以外は、実施例1と同様にして金属ニッケル粉末を得た。なお、純水のケイ素濃度は、純水Aと純水Bを混合することにより調製した。 [0068] 表1に、金属ニッケル粉末の1200cm^(-1)から900cm^(-1)の吸収スペクトル信号のS/N比(X)、3700cm^(-1)から3600cm^(-1)の吸収スペクトル信号のS/N比(Y)、凝集の評価結果を示す。」 (1f)「[0077][表1] 」 (1g)「 」 (ア)上記(1a)、(1b)によれば、甲第1号証には「金属ニッケル粉末」に係る発明が記載されており、当該「金属ニッケル粉末」は、MCT検出器を具備するフーリエ変換赤外分光光度計における1200cm^(-1)から900cm^(-1)の吸収スペクトル信号のS/N比(X)と3700cm^(-1)から3600cm^(-1)の吸収スペクトル信号のS/N比(Y)が、Y≦-1.0X+23.0であるものである。 (イ)具体的には、上記(1c)?(1g)によれば、上記「金属ニッケル粉末」のフーリエ変換赤外分光光度計による赤外吸収スペクトル分析における1200cm^(-1)?900cm^(-1)の吸収スペクトルは、Si-O-Si(鎖状)、(Si-O-Si)_(3)(環状)、(Si-O-Si)_(4)(環状)、(Si-O-Si)_(n)(環状)、SiO_(3)^(2-)(珪酸塩)のSi-O-Siの骨格振動に帰属されるピークであり、3700cm^(-1)から3600cm^(-1)の吸収スペクトルは、Ni(OH)_(2)に帰属されるピークであり、S/N比は、1200cm^(-1)から900cm^(-1)の吸収スペクトルの吸光度または3700cm^(-1)から3600cm^(-1)の吸収スペクトルの吸光度の、吸収スペクトルが無くベースラインが歪んでいない領域の吸光度(2200cm^(-1)から1950cm^(-1))に対する比であり、実施例1に注目すれば、上記「金属ニッケル粉末」は、塩化ニッケルガスを還元して粉末を得て、これをケイ素濃度が3wtppmの純水で洗浄し、更に炭酸水溶液処理及び加熱処理を行うことにより製造され、ニッケルガスを還元して得られた粉末の平均粒径が0.3μmであり、金属ニッケル粉末の1200cm^(-1)から900cm^(-1)の吸収スペクトル信号のS/N比(X)が6.1であり、3700cm^(-1)から3600cm^(-1)の吸収スペクトル信号のS/N比(Y)が9.2であるものである。 (ウ)そうすると、甲第1号証には、 「MCT検出器を具備するフーリエ変換赤外分光光度計における1200cm^(-1)から900cm^(-1)の吸収スペクトル信号のS/N比(X)と3700cm^(-1)から3600cm^(-1)の吸収スペクトル信号のS/N比(Y)が、Y≦-1.0X+23.0である、金属ニッケル粉末であって、 フーリエ変換赤外分光光度計による赤外吸収スペクトル分析における1200cm^(-1)?900cm^(-1)の吸収スペクトルは、Si-O-Si(鎖状)、(Si-O-Si)_(3)(環状)、(Si-O-Si)_(4)(環状)、(Si-O-Si)_(n)(環状)、SiO_(3)^(2-)(珪酸塩)のSi-O-Siの骨格振動に帰属されるピークであり、3700cm^(-1)から3600cm^(-1)の吸収スペクトルは、Ni(OH)_(2)に帰属されるピークであり、S/N比は、1200cm^(-1)から900cm^(-1)の吸収スペクトルの吸光度または3700cm^(-1)から3600cm^(-1)の吸収スペクトルの吸光度の、吸収スペクトルが無くベースラインが歪んでいない領域の吸光度(2200cm^(-1)から1950cm^(-1))に対する比であり、 金属ニッケル粉末は、塩化ニッケルガスを還元して粉末を得て、これをケイ素濃度が3wtppmの純水で洗浄し、更に炭酸水溶液処理及び加熱処理を行うことにより製造され、ニッケルガスを還元して得られた粉末の平均粒径が0.3μmであり、1200cm^(-1)から900cm^(-1)の吸収スペクトル信号のS/N比(X)は6.1であり、3700cm^(-1)から3600cm^(-1)の吸収スペクトル信号のS/N比(Y)は9.2である、金属ニッケル粉末。」の発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。)。 (エ)また、比較例1に注目すれば、上記「金属ニッケル粉末」は、塩化ニッケルガスを還元して粉末を得て、これをケイ素濃度が45wtppmの純水で洗浄し、更に炭酸水溶液処理及び加熱処理を行うことにより製造され、ニッケルガスを還元して得られた粉末の平均粒径が0.3μmであって、金属ニッケル粉末の1200cm^(-1)から900cm^(-1)の吸収スペクトル信号のS/N比(X)が7.6であり、3700cm^(-1)から3600cm^(-1)の吸収スペクトル信号のS/N比(Y)が16.9であるから、甲第1号証には、 「金属ニッケル粉末であって、 フーリエ変換赤外分光光度計による赤外吸収スペクトル分析における1200cm^(-1)?900cm^(-1)の吸収スペクトルは、Si-O-Si(鎖状)、(Si-O-Si)_(3)(環状)、(Si-O-Si)_(4)(環状)、(Si-O-Si)_(n)(環状)、SiO_(3)^(2-)(珪酸塩)のSi-O-Siの骨格振動に帰属されるピークであり、3700cm^(-1)から3600cm^(-1)の吸収スペクトルは、Ni(OH)_(2)に帰属されるピークであり、S/N比は、1200cm^(-1)から900cm^(-1)の吸収スペクトルの吸光度または3700cm^(-1)から3600cm^(-1)の吸収スペクトルの吸光度の、吸収スペクトルが無くベースラインが歪んでいない領域の吸光度(2200cm^(-1)から1950cm^(-1))に対する比であり、 金属ニッケル粉末は、塩化ニッケルガスを還元して粉末を得て、これをケイ素濃度が45wtppmの純水で洗浄し、更に炭酸水溶液処理及び加熱処理を行うことにより製造され、ニッケルガスを還元して得られた粉末の平均粒径が0.3μmであり、1200cm^(-1)から900cm^(-1)の吸収スペクトル信号のS/N比(X)は7.6であり、3700cm^(-1)から3600cm^(-1)の吸収スペクトル信号のS/N比(Y)は16.9である、金属ニッケル粉末。」の発明が記載されているといえる(以下、「甲1’発明」という。)。 (1-2)対比・判断 ア 本件発明1について ア-1 対比 (ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「塩化ニッケルガスを還元して得られた粉末」は、本件発明1における「少なくとも1種の金属元素からなる金属微粒子」であって、「上記金属元素が、銀、銅、ニッケル及び鉄からなる群から選択される」ものに相当する。 また、甲1発明においては、「1200cm^(-1)?900cm^(-1)の吸収スペクトル」は、「Si-O-Si(鎖状)、(Si-O-Si)_(3)(環状)、(Si-O-Si)_(4)(環状)、(Si-O-Si)_(n)(環状)、SiO_(3)^(2-)(珪酸塩)のSi-O-Siの骨格振動に帰属されるピークであ」るから、甲1発明の、「1200cm^(-1)から900cm^(-1)の吸収スペクトル信号のS/N比(X)」が「7.6であ」る「金属ニッケル粉末」は、「金属ニッケル粉末」表面に「ケイ素化合物」が存在することが明らかであるので、本件発明1における「金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子」に相当する。 (イ)すると、本件発明1と甲1発明とは、 「少なくとも1種の金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子であり、 上記金属元素が、銀、銅、ニッケル及び鉄からなる群から選択される、ケイ素化合物被覆金属微粒子。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 相違点1-1:本件発明1は、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が上記第3の「発明特定事項1-1」及び「発明特定事項1-2」を有するのに対して、甲1発明が上記第3の「発明特定事項1-1」及び「発明特定事項1-2」を有するか否か不明である点。 相違点1-2:本件発明1は、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が上記第3の「発明特定事項1-3」を有するのに対して、甲1発明が上記第3の「発明特定事項1-3」を有するか否か不明である点。 ア-2 判断 (ア)まず、上記相違点1-1から検討すると、甲1発明における「1200cm^(-1)?900cm^(-1)の吸収スペクトル」は、「Si-O-Si(鎖状)、(Si-O-Si)_(3)(環状)、(Si-O-Si)_(4)(環状)、(Si-O-Si)_(n)(環状)、SiO_(3)^(2-)(珪酸塩)のSi-O-Siの骨格振動に帰属されるピークであ」り、「3700cm^(-1)から3600cm^(-1)の吸収スペクトル」は、「Ni(OH)_(2)に帰属されるピークであ」り、いずれも「Si-OH結合」に由来するピークではないから、甲1発明において、「ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率が、0.1以上70%以下に制御されて」いるということはできない。 また、上記(1-1)(1g)([図1])をみても、上記「発明特定事項1-1」、「発明特定事項1-2」に基づいて求められる「Si-OH結合の比率」が明らかになるものでもない。 (イ)そうすると、甲1発明は、前記第3の「発明特定事項1-1」及び「発明特定事項1-2」を有するものとはいえないから、上記相違点1-1は実質的な相違点であるので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。 (ウ)また、上記(1-1)(1b)によれば、甲1発明は、「ケイ素化合物」の「金属微粒子」への付着を抑制して、粗大粒の発生を抑制したものといえる。 そして、甲1発明において、前記第3の「発明特定事項1-1」及び「発明特定事項1-2」を有するものとすることは、「ケイ素化合物」を「金属微粒子」に意図的に付着させることにほかならず、「ケイ素化合物」の「金属微粒子」への付着を抑制して、粗大粒の発生を抑制する、という甲1発明の特性を損なうものであるから、阻害要因が存在するというべきであり、このことは、甲第2号証?甲第4号証の記載事項に左右されるものでもない。 (エ)してみれば、甲1発明を、前記第3の「発明特定事項1-1」及び「発明特定事項1-2」を有するものとして、上記相違点1-1に係る発明特定事項を有するものとすることを、甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲1発明及び甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 イ 本件発明2について イ-1 対比 (ア)本件発明1と同様にして、本件発明2と甲1発明とを対比すると、本件発明2と甲1発明とは、 「少なくとも1種の金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子であり、 上記金属元素が、銀、銅、ニッケル及び鉄からなる群から選択される、ケイ素化合物被覆金属微粒子。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 相違点1-1’:本件発明2は、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が上記第3の「発明特定事項2-1」及び「発明特定事項2-2」を有するのに対して、甲1発明が上記第3の「発明特定事項2-1」及び「発明特定事項2-2」を有するか否か不明である点。 相違点1-2’:本件発明2は、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が上記第3の「発明特定事項2-3」を有するのに対して、甲1発明が上記第3の「発明特定事項2-3」を有するか否か不明である点。 イ-2 判断 (ア)まず、上記相違点1-1’から検討すると、上記アア-2(ア)に記載したのと同様の理由により、甲1発明において、「ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-O結合の比率に対するSi-OH結合の比率であるSi-OH結合/Si-O結合の比率が、0.001以上700以下に制御されて」いるということはできないし、上記(1-1)(1g)([図2])をみても、「Si-OH結合/Si-O結合の比率」が明らかになるものでもないので、上記相違点1-1’は実質的な相違点であるから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2が甲1発明であるとはいえない。 (イ)また、上記アア-2(ウ)に記載したのと同様の理由により、甲1発明を、前記第3の「発明特定事項2-1」及び「発明特定事項2-2」を有するものとして、上記相違点1-1’に係る発明特定事項を有するものとすることを、甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2を、甲1発明及び甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 ウ 本件発明3、4、6、12?14について (ア)本件発明3は本件発明1または2を引用するものであり、甲1発明と比較した場合、少なくとも上記相違点1-1または相違点1-1’の点で相違するものであるから、本件発明3が甲1発明であるとはいえない。 (イ)そして、甲1発明を、上記相違点1-1または相違点1-1’に係る発明特定事項を有するものとすることを、甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないことは、上記アア-2(エ)、イイ-2(イ)に記載のとおりである。 従って、本件発明3も、上記アア-2(エ)及びイイ-2(イ)に記載したのと同様の理由により、甲1発明及び甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (ウ)更に、上記(ア)の事項は、本件発明3と同様に本件発明1または2を直接的又は間接的に引用する本件発明4、6、12?13についても同様であり、上記(イ)の事項は、本件発明3と同様に本件発明1または2を直接的又は間接的に引用する本件発明4、6、12?14についても同様である。 エ 甲1’発明について (ア)甲1発明の場合と同様にして本件発明1と甲1’発明とを対比すると、本件発明1と甲1’発明とは、少なくとも上記相違点1-1、相違点1-2と同様の点で相違するものである。 そして、上記相違点1-1は実質的な相違点であることは、上記アア-2(イ)に記載のとおりであるので、同様の理由により、本件発明1が甲1’発明であるとはいえない。 (イ)また、甲1発明は、「ケイ素化合物」の「金属微粒子」への付着を抑制して、粗大粒の発生を抑制したものといえることは、上記アア-2(ウ)に記載のとおりであって、甲1’発明は、「金属微粒子」を洗浄する純水として、ケイ素濃度3wtppmとした純水に代えてケイ素濃度45wtppmとした純水を用いて、甲1発明よりも「ケイ素化合物」の付着を多くした、甲1発明の比較例として記載されるものである。 (ウ)してみれば、甲1’発明は、「ケイ素化合物」の「金属微粒子」への付着をより抑制すべき比較例として記載されているのであるから、甲1’発明において、「ケイ素化合物」を「金属微粒子」に更に意図的に付着させて、前記第3の「発明特定事項1-1」及び「発明特定事項1-2」を有するものとする動機付けは存在しないのであって、このことは、甲第2号証?甲第4号証の記載事項に左右されるものでもない。 (エ)したがって、甲1’発明を、前記第3の「発明特定事項1-1」及び「発明特定事項1-2」を有するものとして、上記相違点1-1に係る発明特定事項を有するものとすることを、甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲1’発明及び甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (オ)次に、本件発明1の場合と同様にして本件発明2と甲1’発明とを対比すると、本件発明2と甲1’発明とは、上記イイ-1(ア)に記載したのと同様の理由により、少なくとも上記相違点1-1’、相違点1-2’と同様の点で相違するものである。 そして、上記相違点1-1’は実質的な相違点であるから、本件発明2が甲1発明であるとはいえないことは、上記イイ-2(ア)に記載のとおりであるので、同様の理由により、本件発明2が甲1’発明であるとはいえない。 (カ)また、上記(ウ)に記載したのと同様の理由により、甲1’発明を、前記第3の「発明特定事項2-1」及び「発明特定事項2-2」を有するものとして、上記相違点1-1’に係る発明特定事項を有するものとすることを、甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2を、甲1’発明及び甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (キ)更に、上記ウに記載したのと同様の理由により、上記(ア)、(オ)の事項は、本件発明1または2を直接的又は間接的に引用する本件発明3、4、6、12?13についても同様であり、上記(エ)、(カ)の事項は、本件発明1または2を直接的又は間接的に引用する本件発明3、4、6、12?14についても同様である。 オ 小括 以上のとおりであるから、第4の1(2)の異議申立理由はいずれも理由がない。 (2)甲第3号証を主引用例とする場合について (2-1)甲第3号証の記載事項 甲第3号証には、以下の記載がある。 (3a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 表面にシラノール基を有するコロイダルシリカと平均粒径0.5?500μmであって、金属、合金、金属間化合物および金属化合物の中から選ばれる少なくとも1種の粉体からなる金属系粉体とを含むスラリーを、凍結乾燥処理し、次いで得られた乾燥粉体をコロイダルシリカが分散可能な溶媒中で再分散して、被覆に寄与していない過剰なコロイダルシリカを分級・除去することを特徴とするシリカ被覆金属系複合粉体の製造方法。」 (3b)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、シリカ被覆金属系複合粉体の製造方法およびその方法により得られたシリカ被覆金属系複合粉体に関する。さらに詳しくは、本発明は、凝集粒子やシリカ粒子を実質上含まず、かつ表面に均質で緻密なシリカ被膜をむらなく有し、機能性粉体として各種の用途に有用な金属系複合粉体を効率よく製造する方法、およびこの方法で得られた前記シリカ被覆金属系複合粉体に関するものである。」 (3c)「【0030】 実施例1 <合成> 1000mlのナスフラスコに、テトラエトキシシランを加水分解・重縮合反応することで得られた平均粒径92nmのコロイダルシリカ粒子[宇部日東化成(株)製「ハイプレシカUF」、合成後生シリカ]を含む水分散シリカスラリー(シリカ濃度9.85重量%)を457g仕込み、これに平均粒径10μmのニッケル粉体を255g添加した。その後、エバポレーターに接続し、約1時間回転させることによる攪拌および超音波照射により、分散を行った。次いで、圧力3450Pa、温度50℃で減圧濃縮を行い、水およびアンモニアを除去し、粘性が高くなって、ニッケルとシリカとが相分離を起こさなくなるまで濃縮を続けた。濃縮後の液粘度を、振動式粘度計(Viscomate Model VM1G 山一電機社製)で測定した結果、20℃条件下で、1.6Pa・sであった。 【0031】 次に、メタノール中にドライアイスを添加した溶液中に、ナスフラスコを静置してスラリーを凍結させた後、凍結乾燥器によって乾燥処理することにより、粉体を得た。次いで、この一部をガラス製容器に添加し、イオン交換水中で撹拌及び超音波照射によって再分散させた後、放置し、目的のシリカ被覆ニッケル粉末が沈降後、白濁したコロイダルシリカ単独物が浮遊する上澄みを除去した。そして再度、イオン交換水を添加し、再分散させるという沈降速度差を利用した分級操作によるシリカ単独粒子の除去を行うことで、目的のシリカ被覆ニッケル粉末を得た。 【0032】 <評価> 図1にニッケル粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示した。このシリカ被覆ニッケル粉末を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、図2に示すように、粒子表面にシリカ被膜がむらなく形成され、かつ凝集粒子が、実質上ないことが確認された。 BET比表面積を測定(フローソーブII2300、島津製作所社製)した結果、Ni粉末が、0.425m^(2)/gであったのに対して、シリカ被覆ニッケル粉末は、4.265m^(2)/gであった。 さらに蛍光X線測定(PW2400型 全自動蛍光X線分析装置 PHILIPS社製)を行った結果、Niが91wt%、Siが3.1wt%であった。」 (ア)上記(3a)?(3c)によれば、甲第3号証には、「シリカ被覆金属系複合粉体の製造方法」に係る発明が記載されており、上記「シリカ被覆金属系複合粉体の製造方法」により得られた「シリカ被覆金属系複合粉体」は、凝集粒子やシリカ粒子を実質上含まず、かつ表面に均質で緻密なシリカ被膜をむらなく有するものであって、平均粒径10μmのニッケル粉体に、シリカ被膜を設けたものであり、蛍光X線測定を行った結果、Niが91wt%、Siが3.1wt%であるものである。 (イ)すると、甲第3号証には、 「凝集粒子やシリカ粒子を実質上含まず、かつ表面に均質で緻密なシリカ被膜がむらなく形成された、シリカ被覆金属系複合粉体であって、平均粒径10μmのニッケル粉体にシリカ被膜を設けたものであり、蛍光X線測定を行った結果、Niが91wt%、Siが3.1wt%である、シリカ被覆金属系複合粉体。」の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。 (2-2)対比・判断 ア 本件発明1について ア-1 対比 (ア)本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「ニッケル粉体」は、本件発明1の「少なくとも1種の金属元素からなる金属微粒子」であって、「上記金属元素が、銀、銅、ニッケル及び鉄からなる群から選択される」ものに相当し、甲3発明の「シリカ被覆金属系複合粉体」は、本件発明1の「少なくとも1種の金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子」に相当する。 (イ)すると、本件発明1と甲3発明とは、 「少なくとも1種の金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子であり、 上記金属元素が、銀、銅、ニッケル及び鉄からなる群から選択される、ケイ素化合物被覆金属微粒子。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 相違点3-1:本件発明1は、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が前記第3の「発明特定事項1-1」及び「発明特定事項1-2」を有するのに対して、甲3発明は、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が前記第3の「発明特定事項1-1」及び「発明特定事項1-2」を有するか否か不明である点。 相違点3-2:本件発明1は、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が前記第3の「発明特定事項1-3」を有するのに対して、甲3発明は、「金属微粒子」の平均粒径が10μmであることから、前記第3の「発明特定事項1-3」を有しないことが明らかである点。 ア-2 判断 (ア)まず、上記相違点3-1について検討すると、甲3発明における蛍光X線測定の結果からは、全反射法(ATR法)を用いて測定した「ケイ素化合物被覆金属微粒子」の赤外吸収スペクトルにおける「Si-OH結合の比率」を特定できないから、甲3発明において、「ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率が、0.1%以上70%以下に制御されて」いるということはできない。 (イ)そして、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証には、「ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率」を「0.1%以上70%以下に制御」することにより、粒子の分散性を制御できることが記載も示唆もされないから、甲3発明において、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」を、前記第3の「発明特定事項1-1」及び「発明特定事項1-2」を有するものとして、上記相違点3-1に係る発明特定事項を有するものとすることを、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲3発明及び甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 イ 本件発明2について イ-1 対比 (ア)本件発明1と同様にして、本件発明2と甲3発明とを対比すると、本件発明2と甲3発明とは、 「少なくとも1種の金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子であり、 上記金属元素が、銀、銅、ニッケル及び鉄からなる群から選択される、ケイ素化合物被覆金属微粒子。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 相違点3-1’:本件発明2は、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が前記第3の「発明特定事項2-1」及び「発明特定事項2-2」を有するのに対して、甲3発明は、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が前記第3の「発明特定事項2-1」及び「発明特定事項2-2」を有するか否か不明である点。 相違点3-2’:本件発明2は、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が前記第3の「発明特定事項3-3」を有するのに対して、甲3発明は、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が前記第3の「発明特定事項3-3」を有しないことが明らかである点。 イ-2 判断 (ア)まず、上記相違点3-1’から検討すると、上記アア-2(ア)と同様の理由により、甲3発明において、「ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-O結合の比率に対するSi-OH結合の比率であるSi-OH結合/Si-O結合の比率が、0.001以上700以下に制御されて」いるということはできない。 (イ)そして、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証には、「ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-O結合の比率に対するSi-OH結合の比率であるSi-OH結合/Si-O結合の比率」を「0.001以上700以下に制御」することにより、粒子の分散性を制御できることが記載も示唆もされていないから、甲3発明において、「ケイ素化合物被覆金属微粒子」を、前記第3の「発明特定事項2-1」及び「発明特定事項2-2」を有するものとして、上記相違点3-1’に係る発明特定事項を有するものとすることを、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2を、甲3発明及び甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 ウ 本件発明3、4、6、12?14について (ア)本件発明3は請求項1または2を引用するものであり、甲3発明と比較した場合、少なくとも上記相違点3-1または相違点3-1’の点で相違するものである。 そして、甲3発明において、上記相違点3-1又は相違点3-1’に係る発明特定事項を有するものとすることを、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないことは、上記アア-2(イ)、イイ-2(イ)に記載のとおりである。 (イ)従って、本件発明3も、上記アア-2(イ)及びイイ-2(イ)に記載したのと同じ理由により、甲3発明及び甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (ウ)更に、上記(イ)の事項は、本件発明3と同様に請求項1または2を直接的又は間接的に引用する本件発明4、6、12?14についても同様である。 エ 小括 以上のとおりであるから、第4の1(3)の異議申立理由は理由がない。 2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について 上記第4の2(3)の異議申立理由は、ATR法の赤外線の入射角やATR結晶の種類が不明であることをいう点で、上記第5の1(2)(2-1)イと実質的に同旨であって、これについては、上記第6の1(2)(2-1)(イ)、(ウ)で検討したとおりであり、同(4)の異議申立理由は、本件発明がケイ素化合物の被覆割合が小さい「ケイ素化合物被覆金属微粒子」を含むことをいう点で、上記第5の1(1)(1-2)と実質的に同旨であって、これについては、上記第6の1(1)(1-2)で検討したとおりであり、いずれも理由がないので、以下、同(1)、(2)の異議申立理由について検討する。 (1)粒径について (ア)本件特許明細書の記載に接した当業者は、平均一次粒子径が1μm以下の微粒子において本件課題を解決できることを理解できることは、上記第6の1(1)(1-1)(ウ)及び(4)(4-2)(オ)に記載のとおりである。 (イ)また、本件発明1、2は、上記第3の「発明特定事項1-3」、「発明特定事項2-3」を有するものであって、その場合、ケイ素化合物の被覆層の膜厚が大きな膜厚となることは想定されないので、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1、2に係る「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が本件課題を解決できることを理解できるというべきである。 そして、このことは、本件発明3?4、6、12?14についても同様であるので、上記第4の2(1)の異議申立理由は理由がない。 (2)金属元素について (ア)本件特許明細書には、本件課題を解決できる金属元素として、実施例3-1?実施例3-15としてニッケルが記載されている。 (イ)そして、ニッケルは鉄と同じ鉄族元素であり、鉄と性質が類似するものであるから、本件特許明細書の記載に接した当業者は、金属元素が鉄である場合でも、本件課題を解決できることを理解できるので、本件発明1、2に係る「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が本件課題を解決できることを認識できるというべきである。 このことは、本件発明3?4、6、12?14についても同様であるので、上記第4の2(2)の異議申立理由は理由がない。 (3)小括 以上のとおりであるので、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するから、上記第4の2(1)、(2)の異議申立理由はいずれも理由がない。 3 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について (ア)上記第4の3(1)の異議申立理由は、ATR法の赤外線の入射角やATR結晶の種類が不明であることをいう点で、上記第5の1(2)(2-1)イと実質的に同旨であり、同(2)の異議申立理由は、「Si-OH結合の比率」、「Si-O結合の比率」が何に対する比率をいうのかが不明確であることをいう点で、上記第5の1(2)(2-1)ア(エ)と実質的に同旨であって、これらについては、上記第6の1(2)(2-1)で検討したとおりであり、同(3)の異議申立理由は、「銀、銅、ニッケル及び鉄」が半金属元素でないことをいう点で、上記第5の1(2)(2-2)と実質的に同旨であって、これについては、上記第6の1(2)(2-2)で検討したとおりであり、同(4)の異議申立理由に係る請求項11は本件訂正により削除されるものとなり、同(5)の異議申立理由は、「Si-O結合」の定量化が技術常識に反することをいう点で、上記第5の1(2)(2-4)と実質的に同旨であって、これについては、上記第6の1(2)(2-4)で検討したとおりである。 (イ)してみれば、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合するから、上記第4の3(1)?(5)の異議申立理由はいずれも理由がない。 4 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について (ア)上記第4の4(1)の異議申立理由は、1μmといった大きな粒径の「ケイ素化合物被覆金属微粒子」が本件課題を解決しないことをいう点で、上記第5の1(1)(1-1)と実質的に同旨であって、これについては、上記第6の1(1)(1-1)(ウ)で検討したとおりであり、同(2)の異議申立理由は、本件特許明細書に鉄の実施例が記載されていないことをいう点で、上記第4の2(2)と実質的に同旨であって、これについては、上記2(2)で検討したとおりであり、上記第4の4(3)の異議申立理由は、本件特許明細書の記載からは、ATR法の具体的な測定方法が理解できないことをいう点で、上記第5の1(3)(3-1)(イ)、(ウ)と実質的に同旨であって、これについては、上記第6の1(3)(3-1)(イ)で検討したとおりであり、同(4)の異議申立理由は、本件発明がケイ素化合物の被覆割合が小さい「ケイ素化合物被覆金属微粒子」を含むことをいう点で、上記第5の1(1)(1-2)と実質的に同旨であって、これについては、上記第6の1(1)(1-2)で検討したとおりである。 (イ)してみれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号の規定に適合するから、上記第4の4(1)?(4)の異議申立理由はいずれも理由がない。 第8 むすび 以上のとおり、異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書で通知された取消理由によっては、本件発明1?4、6、12?14に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?4、6、12?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、本件発明5、7?11に係る特許に対して異議申立人がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも1種の金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子であり、 上記金属元素が、銀、銅、ニッケル及び鉄からなる群から選択され、 上記ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率が、0.1%以上70%以下に制御されており、 上記Si-OH結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数850cm^(-1)から980cm^(-1)の領域に波形分離されたSi-OH結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合の比率が、上記波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られたピークの総面積に対する上記Si-OH結合に帰属されたピークの面積の比率であり、 (A)上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、1個の金属微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したものであって、上記金属微粒子の一次粒子径が1μm以下であり、且つ、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の一次粒子径が、上記金属微粒子の一次粒子径の100.5%以上、190%以下であるか、又は (B)上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、複数個の金属微粒子が凝集した凝集体の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したものであって、上記凝集体の径が1μm以下であり、且つ、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の粒子径が、上記凝集体の径の100.5%以上、190%以下であることを特徴とするケイ素化合物被覆金属微粒子。 【請求項2】 少なくとも1種の金属元素からなる金属微粒子の表面の少なくとも一部がケイ素化合物で被覆されたケイ素化合物被覆金属微粒子であり、 上記金属元素が、銀、銅、ニッケル及び鉄からなる群から選択され、 上記ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-O結合の比率に対するSi-OH結合の比率であるSi-OH結合/Si-O結合の比率が、0.001以上700以下に制御されており、 上記Si-O結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数1000cm^(-1)以上1300cm^(-1)以下の領域に波形分離されたSi-O結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合が、全反射法(ATR法)を用いて測定した上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の赤外吸収スペクトルにおける波数750cm^(-1)から1300cm^(-1)の領域におけるピークを波形分離することによって得られた、波数850cm^(-1)から980cm^(-1)の領域に波形分離されたSi-OH結合に由来するピークの内、最も面積比率の大きなピークに帰属されたものであり、上記Si-OH結合/Si-O結合の比率が、上記Si-O結合に帰属されたピークの面積に対する上記Si-OH結合に帰属されたピークの面積の比率であり、 (A)上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、1個の金属微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したものであって、上記金属微粒子の一次粒子径が1μm以下であり、且つ、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の一次粒子径が、上記金属微粒子の一次粒子径の100.5%以上、190%以下であるか、又は (B)上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、複数個の金属微粒子が凝集した凝集体の表面の少なくとも一部をケイ素化合物で被覆したものであって、上記凝集体の径が1μm以下であり、且つ、上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の粒子径が、上記凝集体の径の100.5%以上、190%以下であることを特徴とするケイ素化合物被覆金属微粒子。 【請求項3】 上記ケイ素化合物被覆金属微粒子に含まれるSi-OH結合の比率又はSi-OH結合/Si-O結合の比率が、官能基の変更処理によって制御されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のケイ素化合物被覆金属微粒子。 【請求項4】 上記官能基の変更処理が、置換反応、付加反応、脱離反応、脱水反応、縮合反応、還元反応、酸化反応より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載のケイ素化合物被覆金属微粒子。 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 上記ケイ素化合物被覆金属微粒子は、コアとなる1個の金属微粒子の表面全体を、シェルとなるケイ素化合物で被覆したコアシェル型ケイ素化合物被覆金属微粒子であることを特徴とする、請求項1から4の何れかに記載のケイ素化合物被覆金属微粒子。 【請求項7】 (削除) 【請求項8】 (削除) 【請求項9】 (削除) 【請求項10】 (削除) 【請求項11】 (削除) 【請求項12】 上記Si-OH結合の比率が、0.1%以上70%以下、又は上記Si-OH結合/Si-O結合の比率が、0.001以上700以下に制御されていることによって、 上記ケイ素化合物被覆金属微粒子の溶媒への分散性が制御されたものであることを特徴とする請求項1から4及び6の何れかに記載のケイ素化合物被覆金属微粒子。 【請求項13】 請求項1から4、6及び12の何れかに記載のケイ素化合物被覆金属微粒子を含む塗布用組成物、透明材用組成物、磁性体組成物、導電性組成物、着色用組成物、反応用組成物又は触媒用組成物。 【請求項14】 接近・離反可能な相対的に回転する処理用面間において金属微粒子を析出させ、上記析出に引き続き連続的に上記金属微粒子の表面にケイ素化合物を被覆させることを特徴とする、請求項1から4、6及び12の何れかに記載のケイ素化合物被覆金属微粒子の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-10-15 |
出願番号 | 特願2017-533983(P2017-533983) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(B22F)
P 1 651・ 537- YAA (B22F) P 1 651・ 536- YAA (B22F) P 1 651・ 113- YAA (B22F) P 1 651・ 853- YAA (B22F) P 1 651・ 851- YAA (B22F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 壷内 信吾 |
特許庁審判長 |
菊地 則義 |
特許庁審判官 |
金 公彦 宮澤 尚之 |
登録日 | 2018-01-19 |
登録番号 | 特許第6273633号(P6273633) |
権利者 | エム・テクニック株式会社 |
発明の名称 | ケイ素化合物被覆金属微粒子、ケイ素化合物被覆金属微粒子を含む組成物、及びケイ素化合物被覆金属微粒子の製造方法 |
代理人 | 大石 敏弘 |
代理人 | 中村 敏夫 |
代理人 | 大石 敏弘 |
代理人 | 坂本 智弘 |
代理人 | 矢田 歩 |
代理人 | 中村 敏夫 |
代理人 | 矢田 歩 |
代理人 | 坂本 智弘 |