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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01N
管理番号 1357641
異議申立番号 異議2019-700336  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-24 
確定日 2019-10-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6413759号発明「光学分析装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6413759号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕、4について訂正することを認める。 特許第6413759号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6413759号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成26年12月25日に出願され、平成30年10月12日にその特許権の設定登録がされ、同年10月31日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1?3に係る特許に対し、平成31年4月24日に特許異議申立人 中川 賢治(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和元年6月27日に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年7月26日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、同年9月5日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否

1 訂正の内容
特許権者は、特許請求の範囲の請求項1に、「光源からの光を測定対象である試料に照射し、それに対して該試料から得られる光を検出器に導入して該試料についての分析を行う光学分析装置において」と記載されているのを、「最大強度のピークトップの波長に比べてピーク裾部の波長の光量の時間変動が大きい光を照射する光源と、試料に照射される光の全ての波長範囲であって検出器が検出感度を有する全ての波長範囲における光量を検出信号として反映する検出器とを含み、前記光源からの光を測定対象である試料に照射し、それに対して該試料から得られる吸収後の光を前記検出器に導入して該試料についての分析を行う光学分析装置において」に、「バンドパスフィルタであること」と記載されているのを、「バンドパスフィルタであることにより、前記検出器に導入される該試料からの吸収後の光に該最大強度のピーク波長に比べて光量の時間変動が大きい光が含まれることを抑制すること」に訂正すること(訂正事項1)を請求する(請求項1の記載を引用する請求項2及び請求項3も同様に訂正する。)。
さらに、特許権者は、特許請求の範囲の請求項4に、「請求項1?3のいずれか1項に記載の光学分析装置であって、前記光源と前記試料との間の光路上と該試料と前記検出器との間の光路上との両方に、前記光学フィルタがそれぞれ設けられていることを特徴とする光学分析装置。」と記載されているもののうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「光源からの光を測定対象である試料に照射し、それに対して該試料から得られる光を検出器に導入して該試料についての分析を行う光学分析装置において、前記光源として半導体発光素子を用い、前記光源から前記検出器に至る光路中に光学フィルタを備え、該光学フィルタは、前記光源の発光スペクトルにおいて最大強度のピーク波長を含む一つのピーク波長領域全体の中で、該最大強度のピーク波長を有する光を透過させる一方、該最大強度のピーク波長に比べて光量の時間変動が大きい、該ピーク波長より長波長側及び短波長側のピーク裾部における波長領域の光を遮断するバンドパスフィルタであり、前記光源と前記試料との間の光路上と該試料と前記検出器との間の光路上との両方に、前記光学フィルタがそれぞれ設けられていることを特徴とする光学分析装置。」に訂正すること(訂正事項2)を請求する。
なお、訂正前の請求項1?4は、請求項2?4が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1?4について請求されている。
また、訂正後の請求項4に係る訂正について、特許権者は、当該訂正が認められるときに請求項1とは別の訂正単位として扱われることを求めている。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について

ア 訂正の目的の適否
訂正事項1に係る請求項1?3についての訂正は、光源及び検出器の特性並びに、バンドパスフィルタと検出器との関係を、より具体的に特定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項1に係る請求項1?3についての訂正である、「最大強度のピークトップの波長に比べてピーク裾部の波長の光量の時間変動が大きい光を照射する光源」については、段落【0023】の「光源部1は深紫外LEDを光源とするものである。その深紫外LEDの発光スペクトルの一例を図2中に点線で示す。即ち、測定光として使用される最大強度を示すピークの中心波長は深紫外波長領域である約280nmであるが、該ピークの1/100以下の強度である不要光のピークが可視波長領域である440?450nm付近に存在している。」、段落【0025】の「主要ピークである280nm付近のピークの強度の時間的変動は小さいが、これに比べて主要ピークではない不要光のピークは強度の時間的変動がかなり大きい。」、段落【0034】の「ピークトップの波長に比べてピークの裾部の波長では光量の時間的な揺らぎがかなり大きいことが分かる。LEDでは一般に、このような光量の揺らぎは最大強度を示すピークトップの波長から離れるほど大きくなる傾向にある。この光量も揺らぎもノイズやドリフトの一因である。」等の記載に基づいている。また、「試料に照射される光の全ての波長範囲であって検出器が検出感度を有する全ての波長範囲における光量を検出信号として反映する検出器」については、段落【0025】の「本実施例の吸光光度計では、試料セル2に照射される測定光の全ての波長範囲(厳密にいえば、検出器3が検出感度を有する全ての波長範囲)における光量が検出信号に反映されるから、測定光の波長範囲に光量の変動が大きな光が存在すると、その変動の影響が検出信号に現れ易い。」等の記載に基づいている。そして、「該試料から得られる吸収後の光を前記検出器に導入」については、段落【0022】の「測定光は試料セル2中を透過する際に、該試料セル2中の試料の成分や濃度などに応じた吸収を受ける。こうした吸収後の光が検出器3に入射し、検出器3は入射した光の光量に対応した検出信号を生成する。」等の記載に基づいている。さらに、「バンドパスフィルタであることにより、前記検出器に導入される該試料からの吸収後の光に該最大強度のピーク波長に比べて光量の時間変動が大きい光が含まれることを抑制すること」については、段落【0025】の「この吸光光度計では、光学フィルタ4によって光量の時間的な変動が大きな光の波長領域を遮断しているので、測定光に光量の時間的な変動が大きな光が含まれない。それによって、試料セル2での光の吸収度合いに拘わらず、検出信号の時間的な変動を抑制することができる。」等の記載に基づいている。
以上のことから、訂正事項1に係る請求項1?3についての訂正は、本件特許明細書及び図面のすべての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項の追加に該当しない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1に係る請求項1?3についての訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項4についての訂正は、請求項4の記載を、請求項1を引用する引用形式から独立形式に改め、請求項4について請求項1との引用関係を解消するとともに、請求項2を引用する請求項4、及び請求項3を引用する請求項4について削除する訂正であるから、訂正事項2に係る請求項4についての訂正は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
上記2のとおり、訂正事項1及び2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕、4について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
上記第2のとおり訂正が認められるから、本件特許の請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明3」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「 【請求項1】
最大強度のピークトップの波長に比べてピーク裾部の波長の光量の時間変動が大きい光を照射する光源と、試料に照射される光の全ての波長範囲であって検出器が検出感度を有する全ての波長範囲における光量を検出信号として反映する検出器とを含み、前記光源からの光を測定対象である試料に照射し、それに対して該試料から得られる吸収後の光を前記検出器に導入して該試料についての分析を行う光学分析装置において、
前記光源として半導体発光素子を用い、前記光源から前記検出器に至る光路中に光学フィルタを備え、該光学フィルタは、前記光源の発光スペクトルにおいて最大強度のピーク波長を含む一つのピーク波長領域全体の中で、該最大強度のピーク波長を有する光を透過させる一方、該最大強度のピーク波長に比べて光量の時間変動が大きい、該ピーク波長より長波長側及び短波長側のピーク裾部における波長領域の光を遮断するバンドパスフィルタであることにより、前記検出器に導入される該試料からの吸収後の光に該最大強度のピーク波長に比べて光量の時間変動が大きい光が含まれることを抑制することを特徴とする光学分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光学分析装置であって、
前記光学フィルタは、前記光源の発光スペクトルにおいて前記最大強度のピーク波長を中心にして該ピークの半値幅よりも狭い所定の波長幅の光を透過し、その外側の波長領域の光を遮断する特性を有することを特徴とする光学分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の光学分析装置であって、
前記光学フィルタは、前記光源の発光スペクトルにおいて前記最大強度のピーク波長を中心にし、該最大強度の70%以上の強度の光を透過し、該ピーク波長よりも外側の波長領域の光を遮断する特性を有することを特徴とする光学分析装置。」

第4 申立人が提出した証拠
申立人は、特許異議申立書において次の甲第1号証?甲第5号証を、意見書において次の甲第6号証?甲第8号証を提出している。

甲第1号証:特開2002-116148号公報
甲第2号証:特開平8-219875号公報
甲第3号証:特公平7-10002号公報
甲第4号証:分析化学(第2版)、株式会社東京化学同人、1984年3月21日発行、p.165-167
甲第5号証:第2回 光学フィルタ、[online]、シーシーエス株式会社、[2019年3月18日検索]、インターネット 甲第6号証:鈴木保任 外4名、ものづくり教育を指向した簡易比色計及び電位差計キットの開発、日本分析化学会発行、分析化学、2010年、第59巻 第2号、p.125-130
甲第7号証:S iフォトダイオード S2386シリーズ、[online]、浜松ホトニクス株式会社、[令和1年8月23日検索]、インターネット 甲第8号証:特開平8-122247号公報

甲第1号証?甲第8号証を、以下、それぞれ「甲1」?「甲8」という。

第5 甲各号証の記載

1 甲1について

(1)甲1の記載事項
甲1には、図面とともに、次の事項が記載されている。(下線は、当審において付した。)

(甲1ア)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、複数の試料保持位置を備えた反応プレートを保持するための反応プレート保持台と、反応プレートの試料保持位置に励起光を照射するための照射光学系と、試料保持位置からの蛍光を検出するための検出光学系とを備えた蛍光式プレート解析装置に関するものである。蛍光式プレート解析装置は、生化学分野、生物学分野、分子生物学分野、臨床分野などで使用され、DNA解析装置にも適用される。」

(甲1イ)
「【0008】
【実施例】図1は、一実施例を示す概略構成斜視図である。例えばマイクロタイタープレートなどの反応プレート2が設けられている。反応プレート2には試料を収容するための複数の反応ウェル(試料保持位置)4が形成されている。反応プレート2は反応プレート保持台(図示は省略)に保持され、反応プレート保持台に設けられたアクチュエータにより2次元方向(図中矢印参照)に移動される。
【0009】反応プレート2の底面側(ウェル4が形成された表面とは反対側)に、照射及び検出光学系6が設けられている。照射及び検出光学系6には励起光源としての励起LED8が設けられている。LED8としては、例えば発振周波数480nmの青色LEDを用いることができる。LED8からの光を平行光にするコリメータレンズ10が設けられている。LED8側からコリメータレンズ10を通過した光の光路には、透過波長域480nm付近、半値幅10nmのバンドパスフィルター12が設けられている。バンドパスフィルター12を透過した光の光路には505nm以下の波長の光を透過させ、それより長波長の光を反射するダイクロイックミラー14が設けられており、バンドパスフィルター12からの光はダイクロイックミラー14を透過する。ダイクロイックミラー14の透過光の光路には集光レンズからなる対物レンズ16が設けられている。対物レンズ16からの光は照射位置Aに集光されるようになっている。本発明を構成する照射光学系は、LED8、コリメータレンズ10、バンドパスフィルター12、ダイクロイックミラー14及び対物レンズ16により構成される。
【0010】照射及び検出光学系6にはさらに、ウェル4側から対物レンズ16により集光されダイクロイックミラー14により反射された蛍光の光路に、所定の蛍光波長の光を透過する分光フィルター18が設けられている。分光フィルター18を透過した蛍光の光路には集光レンズ20が設けられている。集光レンズ20からの光の光路にはピンホールスリット22及び光電子増倍管24が設けられている。分光フィルター18を透過した光は、集光レンズ20によりピンホールスリット22のホールに集光され、そのホールを介して光電子増倍管24に照射される。本発明の検出光学系は、対物レンズ16、ダイクロイックミラー14、分光フィルター18、集光レンズ20、ピンホールスリット22及び光電子増倍管24により構成される。
【0011】次に、この実施例の動作を説明する。蛍光物質で標識されたPCR(Polymerase Chain Reaction)産物や、蛍光イムノアッセイ(蛍光免疫測定法)で用いられる蛍光物質で標識された抗原又は抗体、蛍光物質で標識されたオリゴヌクレオチドとデオキシリボ核酸(DNA)断片がハイブリダイゼーションされた二本鎖DNAなど、あらかじめ反応処理された試料を反応プレート2の各ウェル4にそれぞれ収容する。
【0012】反応プレート保持台に設けられたアクチュエータにより、測定対象のウェル4が検出位置Aに合うように反応プレート2を移動させる。480nmの波長で発光させたLED8からの光をコリメータレンズ10により平行光にする。その平行光をバンドパスフィルター12により分光し、480nm付近の波長域の光のみを透過させてダイクロイックミラー14に送る。バンドパスフィルター12からの光はダイクロイックミラー14を透過する。ダイクロイックミラー14を透過した光を対物レンズ16によって照射位置Aに位置されたウェル4に集光し、励起光として照射する。照射位置Aに位置されたウェル4内の試料中の蛍光物質が励起光の照射により励起されて蛍光の発光が起こる。
【0013】試料から発光された蛍光を対物レンズ16により集光し、ウェル4からの散乱光をダイクロイックミラー14で除去しながら分光フィルター18側へ反射させる。ダイクロイックミラー14からの光を分光フィルター18により分光して所定の蛍光波長を集光レンズ20側へ透過させる。分光フィルター18を透過した光を集光レンズ20によりピンホールスリット22のホールに集光し、ピンホールスリット22のホールを通過させて光電子増倍管24へ照射する。
【0014】光電子増倍管24からの電気信号を検出することにより、照射位置Aに位置されたウェル4内の蛍光物質の有無及び濃度を測定する。測定対象のウェル4を測定した後、反応プレート保持台に設けられたアクチュエータにより、次の測定対象のウェル4が検出位置Aに合うように反応プレート2を移動させる。この実施例では、励起光源としてLED8を用いているので、ガスレーザや半導体レーザを用いた従来の蛍光式プレート解析装置に比べて安価でかつコンパクトであり、励起光源の保守を容易にすることができる。」

(甲1ウ)図1


(2)甲1に記載された発明
上記(1)の記載を総合すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「反応プレート保持台に設けられたアクチュエータにより、測定対象のウェル4が検出位置Aに合うように反応プレート2を移動させ、発振周波数480nmの波長で発光させたLED8からの光をコリメータレンズ10により平行光にし、その平行光を透過波長域480nm付近、半値幅10nmのバンドパスフィルター12により分光し、480nm付近の波長域の光のみを透過させてダイクロイックミラー14に送り、バンドパスフィルター12からの光はダイクロイックミラー14を透過し、ダイクロイックミラー14を透過した光を対物レンズ16によって照射位置Aに位置されたウェル4に集光し、励起光として照射し、照射位置Aに位置されたウェル4内の試料中の蛍光物質が励起光の照射により励起されて蛍光の発光が起こり、試料から発光された蛍光を対物レンズ16により集光し、ウェル4からの散乱光をダイクロイックミラー14で除去しながら分光フィルター18側へ反射させ、ダイクロイックミラー14からの光を分光フィルター18により分光して所定の蛍光波長を集光レンズ20側へ透過させ、分光フィルター18を透過した光を集光レンズ20によりピンホールスリット22のホールに集光し、ピンホールスリット22のホールを通過させて光電子増倍管24へ照射し、光電子増倍管24からの電気信号を検出することにより、照射位置Aに位置されたウェル4内の蛍光物質の有無及び濃度を測定する、蛍光式プレート解析装置。」

2 甲2について

(1)甲2の記載事項
甲2には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(甲2ア)
「【請求項1】 波長域350?800nmに複数の吸収ピークのある連続的な吸収スペクトルを有するピリジルアゾ-2-ナフトールまたはジメチルフェニルアゾ-2-ナフトール色素含浸フィルムの吸収スペクトルを計測するための光源部と受光部とを備えた簡易吸光度測定器において、波長450nm付近に相対発光強度のピークを有する発光ダイオードと、フタロシアン系青顔料及び/又は有機系紫顔料をバインダー樹脂に微分散した塗料を塗布した樹脂フィルム又はガラス板より成り、光透過率のピークが40%以上で、330?480nmにあり、かつ260nm以下と520nm以上の光透過率が1%以下のバンドパスフィルターとを有し、上記発光ダイオードの光を上記フィルターに通して光源部からの照射光としたことを特徴とする吸光度測定器。
【請求項2】 受光部に、照射光の波長に感応し得るフォトダイオード、増幅器及びデジタル電圧表示器を備える請求項1記載の吸光度測定器。」

(甲2イ)
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、日射量測定のための有効曝露面積3cm2 以下の色素含浸フィルムの同時多点曝露サンプルを測定現地で簡単に素早く計測することを目的とした簡易測定器を得ることにある。従って小形・軽量の測定器を作ることにある。しかもその測定精度は、その目的から単なる光の透過率ではなく、透過率測定から換算される吸光度が一般の分光光度計の測定結果ときちんと対応がとれていることが必要であり、かかる測定器を得ようとするものである。単に透過率の測定だけであれば比較的に簡単であるが、シャープな半値巾の小さい単色光を用いての透過率測定から吸光度を求める分光光度計と同等の計測値を得て吸光度の定量を行う目的を有するためにはそれなりの工夫がなされなければならず、その要点は次の通りである。
(1) 対象とする色素の吸収スペクトルの特性から単色光の光源としては400?500nmのブルー光が適当であること。
(2) 単色光を安価に取り出すには、分光手法を用いるよりバンドパスフィルターの方が適しているが、波長巾の小さい光量低下の少いバンドパスフィルターを入手するのは困難であるため、単色光を発射する発光ダイオード(LED)を用いる方が好ましいこと。
(3) 発光ダイオードの発射光は単色光といえどもスペクトルに巾があるので必然的にバンドパスフィルターとの併用になるがこれをどうするか、すなわち必要な精度を発揮させるには対象とする色素の吸収スペクトルの半値巾より小さい半値巾を有する単色光にするためにバンドパスフィルターをどう作るかということ。
(4) ブルー色を高エネルギーで発射する発光ダイオードをどうするかということ。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、かかる課題をふまえて、小型でありながら分光光度計に匹敵する精度を持った測定器の作成の必要にせまられ、本発明を完成するに至った。まず本発明の課題を解決するためには、日射量を色素の褪色の程度におきかえて計測するために多少の精度は犠牲にできる点に着目し、本来の分光光度計に活用されている分光技術による単色光による透過率測定に替えて、ある程度のシャープな発光スペクトルを有する高輝度発光ダイオードを単色光源として採用し、これをバンドパスフィルターで修正した光をフィルムに照射し、透過した光をフォトダイオードで受光し、フォトダイオードの出力を通常の手法で増巾し、透過光量を出力電圧としてとらえ、これを通常の手法によりデジタル電圧計で表示させることで小型・軽量の測定器を得ることが出来ることがわかった。そして、前記(1)?(4)の点をよく吟味した結果として、新たに開発された450mm付近の光を高輝度で発射する発光ダイオードを採用し、バンドパスフィルターは、紫青色の顔料を高透明性を示すように微分散した塗料の塗布によって作成し、これを組み合せることで発明を完成させることができたのである。
【0005】すなわち、本発明の測定器は、波長域350?800nmに複数の吸収ピークのある連続的な吸収スペクトルを有するピリジルアゾ-2-ナフトールまたはジメチルフェニルアゾ-2-ナフトール色素含浸フィルムの吸収スペクトルを計測するための吸光度測定器において、波長450nm付近に相対発光強度のピークを有する発光ダイオードと、フタロシアン系青顔料及び/又は有機系紫顔料をバインダー樹脂に微分散した塗料を塗布した樹脂フィルム又はガラス板より成り、光透過率のピークが40%以上で、330?480nmにあり、かつ260nm以下と520nm以上の光透過率が1%以下のバンドパスフィルターとを有し、上記発光ダイオードの光を上記フィルターに通して照射光としたことを特徴とする吸光度測定器であり、更に詳しく一態様を説明すると、波長域350?800nmに複数の吸収ピークのある連続的な吸収スペクトルを有するピリジルアゾ-2-ナフトール(λ_(max) 468nm)またはジメチルフェニルアゾ-2-ナフトール(λ_(max) 360,521nm)色素含浸フィルムの吸収スペクトルを計測するための、発光ダイオードとバンドパスフィルターとの組み合わせにより照射光を部分的に吸収して該色素含浸フィルムの単独吸収ピークの半値幅以下になるよう調整された照射光源と、該照射光の光量を任意に調節できる電気抵抗切り換えスイッチ及び可変抵抗器とからなる光量調節器とを主たる構成とする光源部と、該波長の光源に感応し得るフォトダイオード、増幅器及びデジタル電圧表示器からなる受光部とを備えた吸光度測定器において、該発光ダイオードは、波長450nm付近に相対発光強度のピークを有する光源が使用され、半値幅70nm以下であり20度以下の放射角で発射する高輝度発光ダイオードであり、該バンドパスフィルターは、フタロシアン系青顔料及び/又は有機系紫顔料をバインダー樹脂に微分散した塗料を塗布した樹脂フィルム又はガラス板からできており、330?480nmに光透過率のピークを有し、該ピークの光透過率が40%以上で、かつ260nm以下と520nm以上の光透過率が1%以下のフィルターであることを特徴とする吸光度測定器である。なお、ここで高輝度とは標準発光強度1000mcd以上を指す。」

(甲2ウ)
「【0006】
【実施例】以下、本発明の実施例を図1?7を用いて説明する。光源として日亜化学工業(株)製発光ダイオード1NLPB500(ピーク波長450nm、半値巾70nm、指向特性15度)を用い、発射光強度レンジ切替えのための固定抵抗器群とそれを選択するロータリスイッチ及び透過率100%合せ用の可変抵抗器、点灯スイッチを介して4.5V直流電源に接続したものを作成した。これらの構成をブロック図として図1に示してある。また発光ダイオード1の発光スペクトルは図2のとおりである。受光器のフォトダイオード3はシャープ(株)製BS-112を用いた。増巾器は長尾久夫:トランジスタ技術SPECIAL No.33P.13(1992.5.1CQ出版社発行)記載の“フォトダイオードを使った照度計の製作”の回路を一部変更して作成した。デジタル電圧計測部は市販の嘉穂無線(株)製デジタル電圧/電流計KPS-3234の一部を変更して使用した。測定器は直流電源、主スイッチ、発光ダイオード点灯スイッチ、発射光量レンジ切替スイッチ、透過光量100%調整用可変抵抗器を備えたものに組立てた。
・・・
【0008】このものに加熱残分比で0.5%程度のシランカップリング剤サイラエースS-330(チッソ(株)製)を加えさらに同じく8%のイソシアナート樹脂タケネートD-165N(90PX)《武田薬品製》を加え、必要に応じ元の樹脂を添加してバーコーターでポリエステルフィルムとガラス板に数ミクロンの厚みに塗布し120?150℃で10?20分乾燥したのち光線透過率は測定した。この手法でバイオレット溶液単独及びブルー溶液との適当な混合液を用い二つのバンドパスフィルターを用意した。これらの透過率特性は図3の通りであった。このような特性を得るには膜厚調整と、樹脂の添加量の調整が必要である。さらにガラス製の市販のバンドパスフィルターショット日本(株)製BG-3を25mm×25mmに切断して用いた。このものの光透過率特性を図4に示した。図2と図3若しくは図4とで合成された照射光のスペクトルは略440nm?460nmにピークを有する照射光になることがわかる。この照射スペクトルと被測定色素フィルムのスペクトル(図5)と対比するとピリジルアゾ-2-ナフトール(PAN)の470nmのピークのすそ以内に照射スペクトルが収納されており発光ダイオード単独のスペクトルでは、吸収に関与しない光量を測定することとなる点を防止できることがわかる。これらのフィルターはいずれも同等でバイオレット単独フィルターを用いた測定例を示す。フィルター2と発光ダイオード1先端との距離は8mmとした。またフィルター2とフォトダイオード3の受光面との距離も8mmとした。」

(甲2エ)図1


(甲2オ)図2


(甲2カ)図3


(甲2キ)図5


(2)甲2に記載された発明
上記(1)の記載を総合すると、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「ピリジルアゾ-2-ナフトール(PAN)の吸収スペクトルを計測するための光源部と受光部とを備えた簡易吸光度測定器において、
波長450nm付近に相対発光強度のピークを有する発光ダイオードと、
フタロシアン系青顔料及び有機系紫顔料をバインダー樹脂に微分散した塗料を塗布した樹脂フィルムより成るバンドパスフィルターとを有し、
上記発光ダイオードの光を上記バンドパスフィルターに通して光源部からの照射光とし、該照射光のスペクトルは略440nm?460nmにピークを有する照射光になり、ピリジルアゾ-2-ナフトール(PAN)の470nmのピークのすそ以内に照射スペクトルが収納されており、発光ダイオード単独のスペクトルでは、吸収に関与しない光量を測定することとなる点を防止でき、
受光部に、照射光の波長に感応し得るフォトダイオードを備える、吸光度測定器。」

3 甲3について

(1)甲3の記載事項
甲3には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(甲3ア)
「【請求項1】LEDと、このLEDを駆動するための駆動回路と、上記LEDの光が入射させられる波長フィルタと、この波長フィルタの出射光を分岐してその分岐光の一方を外部に出力する光分岐器と、該分岐光の他方を受光する受光器と、該受光器の出力信号を基準信号と比較し、それらの偏差に応じた出力を上記駆動回路にフィードバックして上記LEDの光出力の大きさを変化させ上記受光器の出力信号が基準信号に一致するようなフィードバック制御を行なうフィードバックループとを有するLED安定化光源。」

(甲3イ)
「【従来の技術】
LEDはその温度により光出力が変わることから、従来より、サーミスタ等の素子で温度を測定してこれに応じて駆動回路を制御し、光出力を安定化することが行われている。
また、LEDの素子自体の温度を一定に保つ方式も行われている。
【発明が解決しようとする問題点】
しかし、前者では、光出力が安定するまで数10分という時間がかかるし、また波長特性に関しては何等補償されることがない。
後者においては、たしかに、LED素子自体の温度を一定に保てば、光出力及び波長特性とも安定する。しかし、安定するまでに数10分という時間がかかるし、装置が複雑でコストがかかる難点がある。」

(甲3ウ)
「【実 施 例】
第1図において、LEDは駆動回路2により駆動電流が与えられて発光している。この光は波長フィルタ3を経て光分岐器4に入射させられる。分岐された光の一方は外部に出力され、他方はPD(フォトダイオード;受光素子)5に入射し、その出力がプリアンプ6を経てコンパレータ7に送られる。このコンパレータ7では、プリアンプ6を経て送られたPD5の出力と基準電圧とを比較し、その比較結果に応じた出力を駆動回路2にフィードバックする。これにより、プリアンプ6を経て送られたPD5の出力が基準電圧に一致するような制御、つまり、波長フィルタ3により波長制限された後光分岐器4で分岐された光が一定になるようなフィードバック制御がなされる。すなわち、プリアンプ6の出力電圧が基準電圧に一致しているときはコンパレータ7からある出力が生じて駆動回路2からLED1に対してある駆動電流が与えられ、LED1から所定の光出力が生じる。プリアンプ6の出力電圧が基準電圧より大きければコンパレータ7の出力は上記より小さくなってLED1の駆動電流が小さいものとなりその光出力は小さくなり、上記のようにプリアンプ6の出力電圧が基準電圧に一致した状態で安定する。プリアンプ6の出力電圧が基準電圧より小さい場合は、コンパレータ7の出力が大きくなってLED1の駆動電流が大きなものとなりその光出力は大きくなり、上記のようにプリアンプ6の出力電圧が基準電圧に一致した状態で安定する。
このように、外部に出力される光とPD5に入射する光との比は波長フィルタ3の半値幅によらず一定になるため、外部に出力される光は、その出力、波長特性とも安定なものとなる。すなわち、波長フィルタ3の通過波長特性が第2図イの曲線Bのようであるとした場合、LED1の発光波長特性が温度によって曲線A1からA2のように動いたとする。すると、波長フィルタ3を経た光のスペクトルは、曲線A1のときは同図ロのようになるが、曲線A2のときは同図ハのようにロより小さくなる。このロやハのようなスペクトルの光の一定割合が光分岐器4によりPD5に導かれ、これがフィードバック制御に用いられるため、A2のように波長がずれた場合にはハのように小さい出力を大きくするためLED1の駆動電流を大きくして光出力をA2′のように大きくして、結果的にハのような出力がロと同じだけの大きさとされる。このようにLED1の発光波長特性が変化しても、そのような変化がなかったと同じ光出力、波長特性の光が外部に出される。そして、このような光出力、波長特性の安定化作用はフィードバック制御によっているため、電源投入直後より直ちに安定化する。
なお、波長の安定度は、波長フィルタ3に半値幅の狭いものを使用すればするほど向上する。たとえば、波長フィルタ3の波長特性が第3図イの曲線Bのようになっていて、LED1の発光スペクトルに対して半値幅があまり狭いものでない場合には、発光波長が第3図イのA1からA2のようにずれその結果フィードバック制御によりA2′のようになったとき、フィルタ3を通った光のスペクトルはA1では第3図ロのようなものとなるのに対し、A2′では第3図ハのようになって中心波長が若干ずれる現象がみられるが、波長フィルタ3の波長特性の半値幅の狭いものを用いれば、このような波長ずれを避けることができるからである。
通常、LEDのスペクトルの半値幅は、長波長(1.3μm,1.55μm帯)LEDに限れば100nm?150nm程度である。また、LEDの発光波長変化は、-10℃?50℃の温度範囲で、大きいもので50nm、小さいもので15nm程度である。そこで、波長フィルタとして半値幅が20nm程度のものを用いることにする。実際、上記の実施例においてLED1として1.3μm帯のLEDを用い、半値幅20nmのフィルタ3を内蔵させてみたところ、-10℃?50℃の温度範囲で波長のずれは1nm以下であった。」

(甲3エ)
「【発明の効果】
この発明によれば、LEDからの光を波長フィルタを通した後で光分岐器で分岐して電気信号に変換し、これを基準信号と比較してLEDの駆動回路にフィードバック制御するという構成で、出力パワーのみならず波長特性も安定した光を出力することができる。しかも、フィードバック制御によりLED駆動電流を可変しているため、応答特性は良好で、電源投入直後から安定な光出力を得ることができる。したがって、簡単な構成でローコストに、周囲の温度変動や時間経過などに対して、LEDの光出力を安定化することができる。」

(甲3オ)第1図


(甲3カ)第2図、第3図


(2)甲3に記載された技術事項
上記(1)の記載を総合すると、甲3には、次の技術事項が記載されていると認められる。

「LEDと、このLEDを駆動するための駆動回路と、上記LEDの光が入射させられる波長フィルタと、この波長フィルタの出射光を分岐してその分岐光の一方を外部に出力する光分岐器と、該分岐光の他方を受光する受光器と、該受光器の出力信号を基準信号と比較し、それらの偏差に応じた出力を上記駆動回路にフィードバックして上記LEDの光出力の大きさを変化させ上記受光器の出力信号が基準信号に一致するようなフィードバック制御を行なうフィードバックループとを有するLED安定化光源であって、
波長フィルタ3の波長特性の半値幅の狭いものを用いれば、中心波長が若干ずれる現象を避けることができる、LED安定化光源。」

4 甲4について

(1)甲4の記載事項
甲4には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(甲4ア)第165?168頁
「9. 3 Beerの法則からのずれ
・・・
a. 装置上の限界 見かけのずれの原因となる装置上の不確定な変動には、つぎのものがある。 1)(装置内で反射して)検出器に達する迷光、2)検出器の感度変化、および3)光源と検出器増幅系の電源の変動。複光束法(10章で論ずる)はたいていの無秩序なずれの原因を相殺するのに役立つ。
もっと避けることのできない装置によるずれの原因は、真に単色光ではなく幅をもった波長について測定せざるをえないことにある。モル吸光係数が、用いた波長幅の内で不変でないかぎり、はかられた吸光度は波長幅においての正しい平均の吸光度ではない。必要なのは強度の対数の平均であるが、検出器がはかるものは平均の強度である。一組の値の対数の平均は平均の対数に等しくはない。波長幅での吸収曲線の傾斜が大きいほどずれは大きい。
図9・6は検量線の形がしばしば波長幅に左右されることを明らかに示している。等しい幅の二つの波長をλ_(1)およびλ_(2)とする。定量分析に最良の波長は二つの理由からλ_(1)である。第一に、吸収極大では濃度による吸光度変化が最大である。これにより、より高い感度と正確さが得られる。第二に、この波長幅内ではモル吸光係数が比較的一定しており、図9・6(b)に示すように直線的な検量線が得られる。しかしながら、波長をたとえば図9・6 (a)のλ_(2)のように吸収ピークの斜面に選ぶと、モル吸光係数が波長幅内で変化する。この波長では、Beerの法則に従わず、また図9・6(c)のように検量線は曲がっている。
最良の正確さを得るには、せまい波長幅が望ましいことは明白であるが、波長幅がせまくなるにつれて検出器に達するエネルギーが減少する。したがって、正確さ、感度および検出器に要求される条件の間にはつねに妥協がある。
われわれは通常、与えられた分析に用いる吸収セルはすべて同一の透明度をもつと仮定する。この仮定を立証するため、二つのセルに溶媒を満たし、単光束型の装置を用い一つのセルについて%T=100に調整し、他のセルの%Tをはかる。第二のセルもまた調べようとするいずれの波長ででも100%Tと読み取れるはずである。二つのセルの間の差は透明度補正(吸光度の単位に換算)である。この補正は波長300nm以上では通常無視できる。」

(甲4イ)図9・6


(2)甲4に記載された技術事項
上記(1)の記載を総合すると、甲4には、次の技術事項が記載されていると認められる。

「吸光分析において、Beerの法則からの装置によるずれの原因は、真に単色光ではなく幅をもった波長について測定せざるをえないことにあり、最良の正確さを得るには、せまい波長幅が望ましいこと。」

5 甲5について
甲5には、次の事項が記載されている。

(甲5ア)「シャープカットフィルタ」の項
「シャープカットフィルタ
このような波長域選択の機能・性能として、所定の波長帯域内では対象光の分光特性を変化させずに高い透過率でそのまま素通しして、それ以外の波長域を完全にカットしたいという厳しい要求の場合もあれば、そこまでは拘らず透過光の分光特性が多少変化を受けてもそれほど大きな問題にはならないという場合まで、色々な場合があります。

波長域選択特性が厳しい場合は、分光透過率特性が特定の波長を境にして極めて急峻に変化(上の概念図のように、例えば分光透過率がλ_(0)=500nmの前後数nmの範囲で透過率がほぼ0%から90数%に急激に変化)する必要があり、シャープカットフィルタと称されるフィルタが用いられます。シャープカット特性を持つフィルタの代表的なものは干渉フィルタと呼ばれるもので、透明のガラス基板の表面に誘電体光学薄膜を多層に重ねた構造のものが一般的です。これは、入射光が多層膜を通過する過程での膜内多重反射による干渉現象により、極めて急峻な分光透過率変化を達成したものです。多層膜を構成する誘電体の材質(屈折率)、膜厚、膜の層数等の組み合わせによって、ロングパス、ショートパス、バンドパスいずれにおいても、様々なシャープカット波長(λ_(0),λ_(1),λ_(2))のものが設計・製作されています。

バンドパスフィルタは、特定の波長範囲のみを“くり抜く”ために用いられますが、非常に狭いバンド幅の場合には殆どの場合、干渉フィルタが使われます。≪※1≫」

(甲5イ)「注釈」の項
「≪※1≫狭帯域バンドパスフィルタ
狭帯域のバンドパスフィルタの場合は、シャープカットと言えども、完全な矩形波状の分光透過率特性にするのは困難なため、透過光の分光透過率特性の保存はかなり難しく、多くの場合は対象狭帯域のエネルギー成分を極力多く抽出するという目的で使用されます。」

第6 取消理由の概要
訂正前の請求項1?3に係る特許に対して、当審が令和元年6月27日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

理由1(新規性)
請求項1ないし3に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

理由2(進歩性)
請求項1ないし3に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

第7 当審の判断
上記第6の理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について

1 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

(1)本件特許明細書には、「上記各実施例では光源としてLEDを用い」(【0039】)、「図7(b)から、ピークトップの波長に比べてピークの裾部の波長では光量の時間的な揺らぎがかなり大きいことが分かる。LEDでは一般に、このような光量の揺らぎは最大強度を示すピークトップの波長から離れるほど大きくなる傾向にある。」(【0034】)との記載がある。この記載を踏まえると、甲1発明の「LED8」は、本件発明1の「最大強度のピークトップの波長に比べてピーク裾部の波長の光量の時間変動が大きい光を照射する光源」に相当するといえる。

(2)甲1発明の「光電子増倍管24」と、本件発明1の「試料に照射される光の全ての波長範囲であって検出器が検出感度を有する全ての波長範囲における光量を検出信号として反映する検出器」とは、「検出器が検出感度を有する全ての波長範囲における光量を検出信号として反映する検出器」である点で共通する。

(3)上記(1)及び(2)を踏まえると、甲1発明の「LED8からの光を」「測定対象の」「ウェル4に」「励起光として照射し、」「試料から発光された蛍光を」「光電子増倍管24へ照射し、光電子増倍管24からの電気信号を検出することにより、」「ウェル4内の蛍光物質の有無及び濃度を測定する、蛍光式プレート解析装置」と、本件発明1の「前記光源からの光を測定対象である試料に照射し、それに対して該試料から得られる吸収後の光を前記検出器に導入して該試料についての分析を行う光学分析装置」とは、「前記光源からの光を測定対象である試料に照射し、それに対して該試料から得られる光を前記検出器に導入して該試料についての分析を行う光学分析装置」である点で共通する。

(4)甲1発明の「LED8」を用いることは、本件発明1の「前記光源として半導体発光素子を用い」ることに相当する。

(5)甲1発明の「バンドパスフィルター12」を、「コリメータレンズ10」と「ダイクロイックミラー14」との間に備えることは、本件発明1の「前記光源から前記検出器に至る光路中に光学フィルタを備え」ることに相当する。

(6)甲1発明の「発振周波数480nmの波長で発光させたLED8からの光」から、「480nm付近の波長域の光のみを透過させ」る「透過波長域480nm付近、半値幅10nmのバンドパスフィルター12」と、本件発明1の「該光学フィルタは、前記光源の発光スペクトルにおいて最大強度のピーク波長を含む一つのピーク波長領域全体の中で、該最大強度のピーク波長を有する光を透過させる一方、該最大強度のピーク波長に比べて光量の時間変動が大きい、該ピーク波長より長波長側及び短波長側のピーク裾部における波長領域の光を遮断するバンドパスフィルタであることにより、前記検出器に導入される該試料からの吸収後の光に該最大強度のピーク波長に比べて光量の時間変動が大きい光が含まれることを抑制すること」とは、「該光学フィルタは、前記光源の発光スペクトルにおいて最大強度のピーク波長を含む一つのピーク波長領域全体の中で、該最大強度のピーク波長を有する光を透過させるバンドパスフィルタである」点で共通する。

2 一致点・相違点
上記1から、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、次の各点で相違する。

(一致点)
「最大強度のピークトップの波長に比べてピーク裾部の波長の光量の時間変動が大きい光を照射する光源と、検出器が検出感度を有する全ての波長範囲における光量を検出信号として反映する検出器とを含み、前記光源からの光を測定対象である試料に照射し、それに対して該試料から得られる光を前記検出器に導入して該試料についての分析を行う光学分析装置において、
前記光源として半導体発光素子を用い、前記光源から前記検出器に至る光路中に光学フィルタを備え、該光学フィルタは、前記光源の発光スペクトルにおいて最大強度のピーク波長を含む一つのピーク波長領域全体の中で、該最大強度のピーク波長を有する光を透過させるバンドパスフィルタである、光学分析装置。」

(相違点1)
検出器が、本件発明1では、「試料に照射される光の全ての波長範囲」における光量を検出信号として反映し、試料から得られる「吸収後の」光を導入するものであるのに対し、甲1発明では、「試料から発光された蛍光」を導入するものである点。

(相違点2)
バンドパスフィルタが、本件発明1では、光源の発光スペクトルにおいて最大強度のピーク波長を含む一つのピーク波長領域全体の中で、該最大強度のピーク波長を有する光を透過させる一方、「該最大強度のピーク波長に比べて光量の時間変動が大きい、該ピーク波長より長波長側及び短波長側のピーク裾部における波長領域の光を遮断する」「ことにより、前記検出器に導入される該試料からの吸収後の光に該最大強度のピーク波長に比べて光量の時間変動が大きい光が含まれることを抑制する」のに対し、甲1発明では、「発振周波数480nmの波長で発光させたLED8からの光」に用いる「透過波長域480nm付近、半値幅10nmのバンドパスフィルター12」である点。

3 判断
上記相違点1について検討する。

光学分析装置において、「試料から得られる吸収後の光」を検出対象にすることが周知技術であっても、甲1発明は、「試料から発光された蛍光」を検出対象とする「蛍光式プレート解析装置」であって、甲1の記載を仔細に検討しても、「試料から得られる吸収後の光」を検出対象にする旨の記載も示唆もない。そして、検出対象とする光が、試料に照射される光と同じ波長域である「試料から得られる吸収後の光」と、試料に照射される光と異なる波長域である「試料から発光された蛍光」とでは、光源のピーク裾部の光が検出に与える影響が異なることは明らかであるから、仮に、上記相違点1に係る本件発明1の構成が吸光光度計において周知技術であったとしても、甲1発明の「蛍光式プレート解析装置」を吸光光度計に変更し、検出対象を「試料から得られる吸収後の光」とする動機付けは存在しない。
よって、上記相違点1は、実質的な相違点であって、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得ることでない。

4 小括
したがって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2、3は、甲1発明ではなく、上記相違点2について検討するまでもなく、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

第8 取消理由に採用しなかった異議申立理由について

1 理由1(特許異議申立書第14?20頁)
申立人は、請求項1?3に係る発明について、甲1に記載された発明、及び甲3、4に記載された事項に基づく進歩性欠如を主張している。
しかしながら、甲3に記載された技術事項(第5の3(2)を参照)によれば、甲3には、波長特性の半値幅の狭い波長フィルタを用いるLED安定化光源、甲4に記載された技術事項(第5の4(2)を参照)によれば、甲4には、波長に幅があることがBeerの法則からの装置によるずれの原因になることが記載されているが、上記相違点1に係る本件発明1の構成である「試料に照射される光の全ての波長範囲」における光量を検出信号として反映し、試料から得られる「吸収後の」光を導入する「検出器」について記載も示唆もされていない。
よって、本件発明1?3は、甲3、4に記載された事項を考慮しても、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでないことは、上記第7で検討したとおりであるから、申立人の主張する上記理由1は採用できない。

2 理由2(特許異議申立書第20?24頁)
申立人は、請求項1?3に係る発明について、甲2に記載された発明、及び甲3、4に記載された事項に基づく進歩性欠如を主張しているので、以下、検討する。

(1)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。

ア 本件特許明細書には、「上記各実施例では光源としてLEDを用い」(【0039】)、「図7(b)から、ピークトップの波長に比べてピークの裾部の波長では光量の時間的な揺らぎがかなり大きいことが分かる。LEDでは一般に、このような光量の揺らぎは最大強度を示すピークトップの波長から離れるほど大きくなる傾向にある。」(【0034】)との記載がある。この記載を踏まえると、甲2発明の「光源部」としての「発光ダイオード」は、本件発明1の「最大強度のピークトップの波長に比べてピーク裾部の波長の光量の時間変動が大きい光を照射する光源」に相当する。

イ 甲2発明の「受光部」としての「照射光の波長に感応し得るフォトダイオード」は、本件発明1の「試料に照射される光の全ての波長範囲であって検出器が検出感度を有する全ての波長範囲における光量を検出信号として反映する検出器」に相当する。

ウ 甲2発明の「ピリジルアゾ-2-ナフトール(PAN)」は、本件発明1の「測定対象である試料」に相当するところ、上記ア及びイを踏まえると、甲2発明の「ピリジルアゾ-2-ナフトール(PAN)の吸収スペクトルを計測するための光源部と受光部とを備えた簡易吸光度測定器」は、本件発明1の「前記光源からの光を測定対象である試料に照射し、それに対して該試料から得られる吸収後の光を前記検出器に導入して該試料についての分析を行う光学分析装置」に相当する。

エ 甲2発明の「光源部」として「発光ダイオード」を用いることは、本件発明1の「前記光源として半導体発光素子を用い」ることに相当する。

オ 甲2発明の「上記発光ダイオードの光を上記バンドパスフィルターに通して光源部からの照射光と」することは、本件発明1の「前記光源から前記検出器に至る光路中に光学フィルタを備え」ることに相当する。

カ 甲2発明は、「波長450nm付近に相対発光強度のピークを有する発光ダイオード」「の光を上記バンドパスフィルターに通して光源部からの照射光とし、該照射光のスペクトルは略440nm?460nmにピークを有する照射光にな」ることから、甲2発明の「バンドパスフィルター」と、本件発明1の「該光学フィルタは、前記光源の発光スペクトルにおいて最大強度のピーク波長を含む一つのピーク波長領域全体の中で、該最大強度のピーク波長を有する光を透過させる一方、該最大強度のピーク波長に比べて光量の時間変動が大きい、該ピーク波長より長波長側及び短波長側のピーク裾部における波長領域の光を遮断するバンドパスフィルタであることにより、前記検出器に導入される該試料からの吸収後の光に該最大強度のピーク波長に比べて光量の時間変動が大きい光が含まれることを抑制する」こととは、「該光学フィルタは、前記光源の発光スペクトルにおいて最大強度のピーク波長を含む一つのピーク波長領域全体の中で、該最大強度のピーク波長を有する光を透過させるバンドパスフィルタである」点で共通する。

(2)一致点・相違点
上記(1)から、本件発明1と甲2発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

(一致点)
「最大強度のピークトップの波長に比べてピーク裾部の波長の光量の時間変動が大きい光を照射する光源と、試料に照射される光の全ての波長範囲であって検出器が検出感度を有する全ての波長範囲における光量を検出信号として反映する検出器とを含み、前記光源からの光を測定対象である試料に照射し、それに対して該試料から得られる吸収後の光を前記検出器に導入して該試料についての分析を行う光学分析装置において、
前記光源として半導体発光素子を用い、前記光源から前記検出器に至る光路中に光学フィルタを備え、該光学フィルタは、前記光源の発光スペクトルにおいて最大強度のピーク波長を含む一つのピーク波長領域全体の中で、該最大強度のピーク波長を有する光を透過させるバンドパスフィルタである、光学分析装置。」

(相違点3)
バンドパスフィルタが、本件発明1では、光源の発光スペクトルにおいて最大強度のピーク波長を含む一つのピーク波長領域全体の中で、該最大強度のピーク波長を有する光を透過させる一方、「該最大強度のピーク波長に比べて光量の時間変動が大きい、該ピーク波長より長波長側及び短波長側のピーク裾部における波長領域の光を遮断する」「ことにより、前記検出器に導入される該試料からの吸収後の光に該最大強度のピーク波長に比べて光量の時間変動が大きい光が含まれることを抑制する」のに対し、甲2発明では、光源の発光スペクトルにおいて最大強度のピーク波長を含む一つのピーク波長領域全体の中で、「該最大強度のピーク波長に比べて光量の時間変動が大きい、該ピーク波長より長波長側及び短波長側のピーク裾部における波長領域の光を遮断する」ことの特定がない点。

(3)判断
上記相違点3について検討する。

上記相違点3に係る本件発明1の構成は、甲3に記載された技術事項(第5の3(2)を参照)及び甲4に記載された技術事項(第5の4(2)を参照)のいずれにも記載も示唆もされていない。
そして、甲2には、(甲2イ)に「(3) 発光ダイオードの発射光は単色光といえどもスペクトルに巾があるので必然的にバンドパスフィルターとの併用になるがこれをどうするか、すなわち必要な精度を発揮させるには対象とする色素の吸収スペクトルの半値巾より小さい半値巾を有する単色光にするためにバンドパスフィルターをどう作るかということ。」と記載されているところ、甲2発明では、発光ダイオードの光をバンドパスフィルターに通した照射光が、「ピリジルアゾ-2-ナフトール(PAN)の470nmのピークのすそ以内に照射スペクトルが収納されており、発光ダイオード単独のスペクトルでは、吸収に関与しない光量を測定することとなる点を防止でき」るバンドパスフィルターを作ったことから、甲2発明において、当該バンドパスフィルターに対し、さらに、「該最大強度のピーク波長に比べて光量の時間変動が大きい、該ピーク波長より長波長側及び短波長側のピーク裾部における波長領域の光を遮断する」ことの動機付けは存在しない。
よって、甲2発明において、上記相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得ることでない。

(4)小括
したがって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2、3は、甲2発明、及び甲3、4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。よって、申立人の主張する上記理由2は採用できない。

3 理由3(特許異議申立書第24?27頁)

(1)申立人は、請求項1?3について、「本件特許明細書には、どの程度の透過率があれば「透過」に該当し、どの程度透過率が低くなれば「遮断」に該当するのかの説明がないので、「透過」と「遮断」の意義が不明確である。そのため、バンドパスフィルタが光を透過させる波長領域と光を遮断する波長領域の範囲が、どのように決められるべきかも不明確である。
また、当業者は、「透過」と「遮断」の意義を理解できず、そのため、どのような特性のバンドパスフィルタを使用すべきかを理解できないので、本件特許発明を実施することができない。」(第24?25頁)と主張をしている。
しかしながら、本件特許明細書には、「バンドパスフィルタによって、ピークトップの波長を中心としてピーク幅よりも狭い所定の通過波長帯域幅に含まれる光を残し、その外側の波長領域の光を減衰する(除去する)ことによって、検出信号における光量の揺らぎの影響を軽減し、ノイズやドリフトをさらに低下させることができる。」(【0034】)と記載されていることを踏まえると、本件発明1?3のバンドパスフィルタにおける透過・遮断特性は、「検出信号における光量の揺らぎの影響を軽減し、ノイズやドリフトをさらに低下させることができる」透過・遮断特性であることが理解できるから、本件発明1?3が不明確であるとはいえず、本件発明1?3を実施することができないとはいえない。

(2)申立人は、請求項1?3について、「本件特許明細書には、光量の時間変動がどの程度大きい領域をピーク裾部というのかについて、何ら説明がない。したがって、「該最大強度のピーク波長に比べて光量の時間変動が大きい、該ピーク波長より長波長側及び短波長側のピーク裾部」は、不明確である。
また、当業者は、「ピーク裾部」の意義を理解できず、そのため、どのような特性のバンドパスフィルタを使用すべきかを理解できないので、本件特許発明を実施することができない。
また、仮に、最大強度のピーク波長の近傍においては、最大強度のピーク波長を除く総ての波長領域が、「ピーク裾部」に該当して遮断対象になると解釈すると、最大強度のピーク波長の近傍において、最大強度のピーク波長以外を総て遮断対象とできるようなバンドパスフィルタは存在しないから、この場合も、当業者は、本件特許発明を実施することができない。」(第25頁)と主張をしている。
しかしながら、本件特許明細書には、「図7(b)から、ピークトップの波長に比べてピークの裾部の波長では光量の時間的な揺らぎがかなり大きいことが分かる。LEDでは一般に、このような光量の揺らぎは最大強度を示すピークトップの波長から離れるほど大きくなる傾向にある。この光量も揺らぎもノイズやドリフトの一因である。そのため、上述した波長特性を有するバンドパスフィルタによって、ピークトップの波長を中心としてピーク幅よりも狭い所定の通過波長帯域幅に含まれる光を残し、その外側の波長領域の光を減衰する(除去する)ことによって、検出信号における光量の揺らぎの影響を軽減し、ノイズやドリフトをさらに低下させることができる。」(【0034】)との記載を踏まえると、本件発明1?3のバンドパスフィルタが遮断するピーク裾部は、「検出信号における光量の揺らぎの影響を軽減し、ノイズやドリフトをさらに低下させることができる」ピーク裾部であることが理解できるから、本件発明1?3が不明確であるとはいえず、本件発明1?3を実施することができないとはいえない。

(3)申立人は、請求項1?3について、「最大強度のピーク波長から離れた長波長側と短波長側における光量がゼロに極めて近くなる波長領域(以下「両端領域」という。)を、「ピーク裾部」から除外して遮断対象としない態様は、本件特許明細書に開示されていない。
したがって、両端領域が、本件特許発明の「ピーク裾部」に該当するのか否かは、不明確である。
また、当業者は、「ピーク裾部」の意義を理解できず、そのため、どのような特性のバンドパスフィルタを使用すべきかを理解できないので、本件特許発明を実施することができない。
また、仮に、両端領域は、本件特許発明の「ピーク裾部」に該当しないと解釈すると、その部分だけを遮断しないようなバンドパスフィルタを入手することは困難であるから、この場合も、当業者は、本件特許発明を実施することができない。また、そのような態様は、明細書においてサポートされていない。」(第26頁)と主張をしている。
しかしながら、本件特許明細書には、「図7(b)から、ピークトップの波長に比べてピークの裾部の波長では光量の時間的な揺らぎがかなり大きいことが分かる。LEDでは一般に、このような光量の揺らぎは最大強度を示すピークトップの波長から離れるほど大きくなる傾向にある。」(【0034】)との記載を踏まえると、ピークの裾部の両端領域ほど、光量の揺らぎが大きくなる傾向にあることが理解でき、上記両端領域が、「ピーク裾部」に含まれることは明らかであるから、本件発明1?3が不明確であるとはいえず、発明の詳細な説明に記載されていないといえず、本件発明1?3を実施することができないとはいえない。

(4)申立人は、請求項2について、「請求項1及び請求項2の前段において、「ピーク」という用語はなく、請求項2の「該ピーク」が何を意味するのか不明確である。
また、当業者は、「該ピーク」の意義を理解できないので、本件特許発明を実施することができない。」(第26頁)と主張をしている。
しかしながら、「前記最大強度のピーク波長を中心にして該ピークの半値幅」における「該ピーク」は、「前記最大強度のピーク波長」の「ピーク」のことを指していることは明らかであるから、本件発明2が不明確であるとはいえず、本件発明2を実施することができないとはいえない。

(5)以上のとおり、申立人の主張する上記理由3は採用できない。

第9 申立人の意見書について

1 申立人は、意見書において甲6?甲8を提出し、甲6に記載された発明を主引用発明とする進歩性欠如(第7?10頁)、及び、甲3に記載された発明を主引用発明とする進歩性欠如(第10?13頁)を理由として追加しているが、これらの理由は、本件訂正により生じた理由でないから、採用できない。

2 申立人は、訂正後の請求項1?3について、「訂正により加筆された「試料に照射される光の全ての波長範囲であって検出器が検出感度を有する全ての波長範囲における光量を検出信号として反映する検出器」は、訂正の根拠とされた、「試料セル2に照射される測定光の全ての波長範囲(厳密にいえば、検出器3が検出感度を有する全ての波長範囲)における光量が検出信号に反映される」(段落[0025])を考慮すると、「試料に照射される光の全ての波長範囲」であって、かつ「検出器が検出感度を有する全ての波長範囲」における光量が検出信号として反映される検出器を意味するもの解釈できる。
しかし、上記加筆部分は、文言上「試料に照射される光の全ての波長範囲」によって、「検出器が検出感度を有する全ての波長範囲」を特定した、という意味に取ることも可能である。つまり、訂正後の検出器は、試料に照射される光の全ての波長範囲に感度を有する検出器であると解釈することも可能である。
したがって、訂正後の検出器は多義的に解釈可能なものであり、不明確である。」 (第13頁)と主張をしている。
しかしながら、「試料に照射される光の全ての波長範囲であって検出器が検出感度を有する全ての波長範囲における光量を検出信号として反映する検出器」は、「試料に照射される光の全ての波長範囲における光量を検出信号として反映する検出器」であって、「検出器が検出感度を有する全ての波長範囲における光量を検出信号として反映する検出器」であると理解するのが自然であるから、本件発明1?3が不明確であるとはいえない。
よって、申立人の主張する上記理由は採用できない。

第10 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、及び意見書に記載した理由によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大強度のピークトップの波長に比べてピーク裾部の波長の光量の時間変動が大きい光を照射する光源と、試料に照射される光の全ての波長範囲であって検出器が検出感度を有する全ての波長範囲における光量を検出信号として反映する検出器とを含み、前記光源からの光を測定対象である試料に照射し、それに対して該試料から得られる吸収後の光を前記検出器に導入して該試料についての分析を行う光学分析装置において、
前記光源として半導体発光素子を用い、前記光源から前記検出器に至る光路中に光学フィルタを備え、該光学フィルタは、前記光源の発光スペクトルにおいて最大強度のピーク波長を含む一つのピーク波長領域全体の中で、該最大強度のピーク波長を有する光を透過させる一方、該最大強度のピーク波長に比べて光量の時間変動が大きい、該ピーク波長より長波長側及び短波長側のピーク裾部における波長領域の光を遮断するバンドパスフィルタであることにより、前記検出器に導入される該試料からの吸収後の光に該最大強度のピーク波長に比べて光量の時間変動が大きい光が含まれることを抑制することを特徴とする光学分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光学分析装置であって、
前記光学フィルタは、前記光源の発光スペクトルにおいて前記最大強度のピーク波長を中心にして該ピークの半値幅よりも狭い所定の波長幅の光を透過し、その外側の波長領域の光を遮断する特性を有することを特徴とする光学分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の光学分析装置であって、
前記光学フィルタは、前記光源の発光スペクトルにおいて前記最大強度のピーク波長を中心にし、該最大強度の70%以上の強度の光を透過し、該ピーク波長よりも外側の波長領域の光を遮断する特性を有することを特徴とする光学分析装置。
【請求項4】
光源からの光を測定対象である試料に照射し、それに対して該試料から得られる光を検出器に導入して該試料についての分析を行う光学分析装置において、
前記光源として半導体発光素子を用い、前記光源から前記検出器に至る光路中に光学フィルタを備え、該光学フィルタは、前記光源の発光スペクトルにおいて最大強度のピーク波長を含む一つのピーク波長領域全体の中で、該最大強度のピーク波長を有する光を透過させる一方、該最大強度のピーク波長に比べて光量の時間変動が大きい、該ピーク波長より長波長側及び短波長側のピーク裾部における波長領域の光を遮断するバンドパスフィルタであり、
前記光源と前記試料との間の光路上と該試料と前記検出器との間の光路上との両方に、前記光学フィルタがそれぞれ設けられていることを特徴とする光学分析装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-10-16 
出願番号 特願2014-261503(P2014-261503)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (G01N)
P 1 652・ 536- YAA (G01N)
P 1 652・ 537- YAA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 伊藤 裕美  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
信田 昌男
登録日 2018-10-12 
登録番号 特許第6413759号(P6413759)
権利者 株式会社島津製作所
発明の名称 光学分析装置  
代理人 喜多 俊文  
代理人 妹尾 明展  
代理人 阿久津 好二  
代理人 喜多 俊文  
代理人 岸本 雅之  
代理人 阿久津 好二  
代理人 江口 裕之  
代理人 岸本 雅之  
代理人 江口 裕之  
代理人 妹尾 明展  

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