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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C22C
管理番号 1357647
異議申立番号 異議2019-700293  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-16 
確定日 2019-11-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6405078号発明「二相ステンレス鋼材および二相ステンレス鋼管」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6405078号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第6405078号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6405078号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成25年1月24日(優先権主張 平成24年5月7日)の出願であって、平成30年9月21日に特許権の設定登録がされ、同年10月17日に特許掲載公報が発行され、その後、平成31年4月16日付けで請求項1?5(全請求項)に係る本件特許に対し、特許異議申立人である谷口充弘(以下、「申立人」という。)によって特許異議の申立てがされ、令和1年6月20日付けで当審から取消理由が通知され、同年8月23日付けで特許権者から意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年8月28日付けで当審から申立人に対し訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をするとともに相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えたところ、同年9月27日付けで申立人から意見書が提出されたものである。

第2 本件訂正の適否

1 本件訂正請求の趣旨

本件訂正請求の趣旨は、「特許第6405078号の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求める。」というものである。

2 訂正事項

本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すために当審において付したものである。

(1)訂正事項1

請求項1の「前記Snが固溶している」という記載を「前記Snの全てが固溶している」という記載に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?5も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2

明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】の「前記Snが固溶している」という記載を「前記Snの全てが固溶している」という記載に訂正する。

3 一群の請求項について

本件訂正前の請求項1?5は、請求項2?5が、本件訂正請求の対象である請求項1を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項である請求項1?5について請求されたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

4 明細書の訂正について

訂正事項2に係る本件訂正は、明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】についてのものであり、一群の請求項である請求項1?5の全てに対応するものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

5 訂正要件の検討

(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正の目的の適否

訂正事項1、2に係る本件訂正は、「前記Snが固溶している」という記載を「前記Snの全てが固溶している」という記載に訂正することによって、Snの全てが固溶していることを明らかにするものであるから、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

イ 新規事項の有無

(ア)本件特許の願書に添付された明細書及び図面(以下、「本件明細書等」という。)には、以下の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を表す(以下同様)。

「【0009】
・・・ステンレス鋼材は、Crの酸化物を主体とする不働態皮膜により耐食性を発現する材料である。二相ステンレス鋼材では、フェライト相とオーステナイト相の異相界面で不連続性を有しており、フェライト相とオーステナイト相との界面においては不働態皮膜が不安定になる傾向が強いため、塩化物イオンの不働態皮膜破壊作用を受けやすく、局部腐食が発生しやすくなる。・・・
【0010】
本発明に係る二相ステンレス鋼材は・・・。
【0011】
前記の・・・二相ステンレス鋼材は、所定量のSnを含有すると共に、所定範囲のN/Snを満足し、このSnが固溶することによって、Feの溶解反応が促進されて、Crの酸化物皮膜が形成されやすくなる。その結果、フェライト相とオーステナイト相との界面においても不働態皮膜が形成しやすくなり、しかもその安定性が高まるため、局部腐食を大幅に抑制できる。・・・
【0012】
そして、二相ステンレス鋼材において、Nは、溶解時に・・・溶液中のH^(+)濃度を低下させる、すなわちpHを上昇させる作用がある。このようなNの作用により、腐食起点のpH低下(酸性化)によって発生・加速される孔食やすきま腐食などの局部腐食が抑制される。所定量のSn含有は、このようなNの溶解性も促進するため・・・pH緩和作用を極大化する。なお、前記のような所定量のSnの作用は、二相ステンレス鋼材にSnを固溶させた場合に得られるものであり、Snが他の合金元素と化合物を形成した場合には、FeやNの溶解反応に影響を及ぼさなくなるため、前記効果は得られにくくなる。したがって、Snは固溶させることが好ましい。」
「【0031】
(Sn:0.001?0.30質量%)
Snは、所定量含有させることにより、塩化物環境における不働態皮膜を強化・安定化し、NのpH緩和作用を極大化させて、耐食性を向上させる効果を有する。このような効果を得るためには、Snは0.001質量%以上含有させることが必要である。しかし、過剰にSnを含有させると熱間加工性が劣化することからSn含有量は0.30質量%以下とする必要がある。・・・」
「【0033】
(N/Sn:1?400)
N/Snは、本発明の二相ステンレス鋼材の耐食性を発現させるのに重要な比である。N/Snが1に満たない場合には、Snが過剰となるためにNの溶解が促進されすぎて、二相ステンレス鋼材中のNが早期に消費され、NのpH緩和効果が持続しないため、効果的な耐食性向上が得られない。また、N/Snが400を超える場合には、Snが不足するためにNの溶解が促進されず、H^(+)消費作用は向上しないため、pH緩和効果が向上しない。・・・」
「【0045】
本発明においては、所定量のSnの作用効果を得るためには、二相ステンレス鋼材にSnを固溶させることが好ましい。熱間加工後の冷却時などにSnが他の合金元素と化合物として析出した場合などには耐食効果が得られにくくなる。このため、熱間加工工程以降に固溶化熱処理を施して急冷することが好ましい。固溶化熱処理の温度は、950℃?1050℃が好ましく、保持時間は10分から30分が好ましく、急冷は10℃/秒以上の冷却速度で冷却することが好ましい。・・・」
「【0047】
本発明に係る二相ステンレス鋼材の実施例について、以下に説明する。
<第1の実施例>
[供試材の作製]
25Cr系二相ステンレス鋼材を溶製して、塩化物腐食環境における耐食性の評価を行った。表1および表2に示す種々の成分組成のステンレス鋼材を約50kg真空溶解炉により溶解し、鋳造により鋳塊とした。得られた鋳塊を熱間鍛造により、断面が50×120mm(長さ適宜)のステンレス鋼塊を得た。次いで、1150℃に加熱した後、熱間圧延を行って、板厚6mmのステンレス鋼素材とした。次いで、1050℃に加熱し、30分保持後に水冷する条件の固溶化熱処理を行った。」
「【0064】
<第2の実施例>
[供試材の作製および試験方法]
18?30Cr系二相ステンレス鋼材を溶製して、塩化物腐食環境における耐食性の評価を行った。用いたステンレス鋼材の成分組成は表6に示す通りであり、溶製方法は第1の実施例と同様である。・・・」

(イ)前記(ア)の記載によれば、本件明細書等には、以下の事項が記載されている。

a ステンレス鋼材は、Crの酸化物を主体とする不働態皮膜により耐食性を発現する材料であるが、二相ステンレス鋼材では、フェライト相とオーステナイト相の異相界面で不連続性を有しており、上記異相界面においては不働態皮膜が不安定になる傾向が強いため、塩化物イオンの不働態皮膜破壊作用を受けやすく、局部腐食が発生しやすくなっていた(【0009】)。

b 本発明に係る二相ステンレス鋼材は、所定量のSnを含有するとともに、所定範囲のN/Snを満足するものであり、このSnが固溶することによって、Feの溶解反応が促進され、フェライト相とオーステナイト相との異相界面においても、Crの酸化物皮膜を主体とする不動態被膜が形成されやすくなり、しかもその安定性が高まるため、局部腐食を大幅に抑制することができる(【0010】、【0011】)。

c さらに、本発明に係る二相ステンレス鋼材では、所定量のSnを含有することで、Nの溶解が促進されるため、Nの溶解に伴うpH緩和作用が極大化され、腐食起点のpH低下(酸性化)によって発生・加速される孔食やすきま腐食等の局部腐食が抑制される。
このような所定量のSnの作用は、二相ステンレス鋼材にSnを固溶させた場合に得られるものであり、Snが他の合金元素と化合物を形成した場合には、FeやNの溶解反応に影響を及ぼさなくなる。したがって、Snは固溶させることが好ましい(【0012】、【0045】)。

d 塩化物環境における不働態皮膜を強化・安定化し、NのpH緩和作用を極大化させて耐食性を向上させるという前記b、cの効果を得るためには、Snの含有量を0.001?0.30質量%とし、N/Snの値を1?400にする必要がある(【0031】、【0033】)。

e 二相ステンレス鋼材にSnを固溶させるためには、熱間加工工程以降に固溶化熱処理を施して急冷することが好ましい。固溶化熱処理の温度は、950℃?1050℃が好ましく、保持時間は10分から30分が好ましく、急冷は10℃/秒以上の冷却速度で冷却することが好ましい(【0045】)。

f 第1の実施例においては、表1及び表2に示す種々の成分組成のステンレス鋼材を真空溶解炉により溶解し、鋳造により鋳塊とし、熱間鍛造によりステンレス鋼塊とし、熱間圧延によって板厚6mmにした25Cr系二相ステンレス鋼材とした上で、1050℃の加熱と30分保持後の水冷の条件で固溶化熱処理を行った(【0047】)。
第2の実施例においても、表6に示す成分組成のステンレス鋼材を用いて、第1の実施例と同様にして、18?30Cr系二相ステンレス鋼材を溶製した(【0064】)。

(ウ)前記(イ)によれば、本発明に係る二相ステンレス鋼材において、Snが他の合金元素と化合物を形成することなく固溶している場合には、固溶状態にあるSnがFeの溶解反応を促進するため、フェライト相とオーステナイト相との異相界面にCrの酸化物皮膜を主体とする不動態被膜が形成されやすくなって、塩化物環境における不働態皮膜が強化・安定化されるという効果が得られ、また、固溶状態にあるSnがNの溶解反応を促進して、NのpH緩和作用を極大化させるため、腐食起点のpH低下(酸性化)によって発生・加速される孔食やすきま腐食等の局部腐食が抑制されて耐食性が向上するという効果が得られる(前記(イ)b、c)。
そして、上記効果を得るためには、固溶状態にあるSnの含有量を0.001?0.30質量%とした上で、固溶状態にあるSnの含有量に基いて算出したN/Snの値を1?400にする必要がある(前記(イ)d)。
他方、第1及び第2の実施例におけるステンレス鋼材は、表1及び表2(第1の実施例)、表6(第2の実施例)に示された成分組成のステンレス鋼材を出発原料として溶製によって製造されたものであるから(前記(イ)f)、表1、2、6の「Sn」の欄に記載された数値は、出発原料となった上記ステンレス鋼材中に含まれるSnの含有量であって、製造後のステンレス鋼材中に固溶しているSnの含有量を意味するとは直ちにはいえない。
しかし、表1、2、6には、「N/Sn」の欄に各ステンレス鋼材の値が記載されており、N/Snの値が技術的意義を有するためには、その算出に際して用いるSnの値が固溶状態にあるSnの含有量である必要があることは上記のとおりであり、さらに、第1及び第2の実施例においては、1050℃の加熱と30分保持後の水冷の条件で固溶化熱処理を行っているところ(前記(イ)f)、この条件は、二相ステンレス鋼材にSnを固溶させるために必要とされる固溶化熱処理温度(950?1050℃)、保持時間(10?30分)及び、冷却速度(10℃/秒以上)の条件(前記(イ)e)を満たすから、以上を踏まえれば、表1、2、6の「Sn」の欄に記載された数値は、出発原料となったステンレス鋼材中に含まれるSnの含有量であるとともに、製造後のステンレス鋼材中に固溶しているSnの含有量でもあると解することができる。
したがって、本件明細書等(【0012】、【0045】)には、Snを固溶させることが「好ましい」旨の記載がされているものの、第1及び第2の実施例には、製造後のステンレス鋼材中に「Sn」の全てが固溶した態様が記載されているといえる。

(エ)したがって、訂正事項1、2に係る本件訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することによって導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、訂正事項1、2に係る本件訂正は、いずれも本件明細書等に記載した事項の範囲内のものであるといえるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(オ)申立人は、令和1年9月27日付け意見書において、本件明細書等の段落【0045】には、Snの全てが固溶していることに関する記載がないから、本件訂正は新規事項の追加に該当すると主張する。
しかし、前記(ア)?(ウ)で検討したとおり、本件明細書等(【0012】、【0045】)には、Snを固溶させることが「好ましい」旨の記載がされているものの、第1及び第2の実施例には、製造後のステンレス鋼材中に「Sn」の全てが固溶した態様が記載されているといえるから、上記主張を採用することはできない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否

前記イの検討を踏まえると、訂正事項1、2に係る本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(2)独立特許要件

特許異議の申立ては、本件訂正前の請求項1?5の全請求項に対してされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

5 小括

以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第4項並びに、同条第9項で準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合する。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の請求単位とする求めもない。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、請求項〔1?5〕について訂正することを認める。

第3 特許異議申立理由に対する当審の判断

1 本件発明

本件訂正が認められたので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材であって、前記二相ステンレス鋼材の成分組成は、
C :0.10質量%以下、
Si:0.1?2.0質量%、
Mn:0.1?2.0質量%、
P :0.05質量%以下、
S :0.030質量%以下、
Al:0.005?0.050質量%、
Cr:18.0?29.0質量%、
Ni:1.0?10.0質量%、
Mo:2.5?6.0質量%、
Sn:0.001?0.30質量%、
N :0.16?0.50質量%、かつ、
前記N量と前記Sn量との質量比(N/Sn)が20?400であって、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、前記Snの全てが固溶していることを特徴とする二相ステンレス鋼材。
【請求項2】
前記成分組成は、さらに、
Cu:0.1?2.0質量%、
Co:0.1?2.0質量%、
W :0.1?6.0質量%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の二相ステンレス鋼材。
【請求項3】
前記成分組成は、さらに、
Mg:0.0005?0.020質量%、
Ca:0.0005?0.020質量%
の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の二相ステンレス鋼材。
【請求項4】
前記成分組成は、さらに、
Ti:0.01?0.50質量%、
Zr:0.01?0.50質量%、
V :0.01?0.50質量%、
Nb:0.01?0.50質量%、
B :0.0005?0.010質量%
よりなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼材。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼材からなることを特徴とする二相ステンレス鋼管。」

2 取消理由通知に記載した取消理由について

(1)取消理由の内容

本件訂正前の請求項1?5に対し、令和1年6月20日付けで当審から特許権者に通知した取消理由の内容は以下のとおりである。

「理由1(明確性要件違反)
本件特許の請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由2(実施可能要件違反)
本件特許の請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号(当審注:「第6項」は「第4項」の誤記である。)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。



1 理由1(明確性要件違反)について

(1)請求項1では、『フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材』の『成分組成』のうち、『Sn』に関して、『Sn:0.001?0.30質量%』と特定され、その上で、『前記Snが固溶していること』が特定されているところ、上記特定では、『前記Sn』という記載はあるものの、この記載のみでは、上記『二相ステンレス鋼材』に含有される『Sn:0.001?0.30質量%』の全てが固溶した状態で存在するのか、その一部のみが固溶した状態で存在するのかは、直ちに明らかにならない。
したがって、請求項1に係る発明は、明確であるとはいえない。

(2)同様の理由により、請求項1を引用する請求項2?5に係る発明についても、明確であるとはいえない。

2 理由2(実施可能要件違反)について

(1)本件特許の発明の詳細な説明には、『二相ステンレス鋼材』中にSnを固溶させる方法に関しては、
『熱間加工後の冷却時などにSnが他の合金元素と化合物として析出した場合などには耐食効果が得られにくくなる。このため、熱間加工工程以降に固溶化熱処理を施して急冷することが好ましい。固溶化熱処理の温度は、950℃?1050℃が好ましく、保持時間は10分から30分が好ましく、急冷は10℃/秒以上の冷却速度で冷却することが好ましい。』(【0045】),
『得られた鋳塊を熱間鍛造により、断面が50×120mm(長さ適宜)のステンレス鋼塊を得た。次いで、1150℃に加熱した後、熱間圧延を行って、板厚6mmのステンレス鋼素材とした。次いで、1050℃に加熱し、30分保持後に水冷する条件の固溶化熱処理を行った。』(【0047】)
と記載されている。
しかし、製造後の『二相ステンレス鋼材』中の固溶Sn量を定量する方法は記載されていないから、当業者であっても、上記Snの固溶方法によって製造した『二相ステンレス鋼材』の固溶Sn量が『0.001?0.30質量%』の範囲内にあるか否かを確認することはできない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(2)同様の理由により、請求項1を引用する請求項2?5に係る発明についても、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が上記発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。」

(2)取消理由の検討

ア 取消理由1(明確性要件違反)について

(ア)本件訂正によって、本件発明1における「Sn:0.001?0.30質量%」に対し「前記Snの全てが固溶していること」が特定されたから、本件発明1は明確なものとなった。
同様の理由により、引用により本件発明1の特定事項を全て備える本件発明2?5についても、本件訂正によって、明確なものとなった。
したがって、本件訂正によって、取消理由1は解消した。

(イ)なお、申立人は、取消理由1(明確性要件違反)として採用した異議申立理由の主張において、「固溶」の概念自体は、本件特許に係る出願の出願前に当業者に周知の事項であることを立証するために、証拠方法として甲第1号証を提出し、甲第1号証の「溶融状態で全くとけ合って1相になっている合金が,凝固後もとけ合っていて,どんな高い倍率の顕微鏡でみても,両金属が区別できないような1相になっている場合がある.これは,ちょうど水に砂糖がとけた状態に似ているが,固体の中でのことであるから,これをA金属がB金属を固溶したといい,その状態を固溶体(solid solution)という.」(第40頁最下行?第41頁第4行)という記載を引用しているところ、上記記載に関し、申立人と特許権者との間に争いはなく、上記記載は妥当であると考えられるので、前記(ア)の判断は、上記記載を前提として行った。

[証拠方法]
甲第1号証:門間改三著、「鉄鋼材料学改訂版」、発行所:実教出版株式会社、1996年2月25日改訂第17刷発行、第40?41頁

イ 取消理由2(実施可能要件違反)について

(ア)取消理由2に対し、特許権者は、令和1年8月23日付けで意見書を提出し、本件特許とは別の特許である特許第5879758号(特願2011-128085号)の審査過程では、固溶Snの含有量を測定する手段が不明であることを根拠とする実施可能要件違反の拒絶理由(下記の乙第1号証)に対し、意見書(下記の乙第2号証)において、添付した下記の参考資料1に基いて、介在物や析出物を生成する元素の固溶度の測定方法は、当業者にとって周知であって、通常は「電解抽出残渣分析法」によって行われると主張している。
そして、この電解抽出残渣分析法によってSnの固溶度の測定する場合には、試料を溶媒中で電気分解して母相の金属部分を溶解させて、介在物や析出物のみを残渣として溶媒中に残し、この残渣をメッシュ等で抽出し、残渣に含まれるSnの量を化学分析によって測定し、全Sn量に対する残渣に含まれるSn量の割合を算出すれば、Snの固溶度が求められると主張している。

[証拠方法]
乙第1号証:拒絶理由通知書(特願2011-128085号、平成27年7月2日付け)
乙第2号証:意見書(特願2011-128085号、平成27年8月28日付け)

[参考資料1]
高山透(外4名)著、「鉄鋼材料中介在物・析出物の分析技術」、素材物性学雑誌、日本素材物性学会、第17巻第2号(2005年2月)、第23?32頁

(イ)前記(ア)の主張によれば、介在物や析出物を生成する元素の固溶度を測定する方法として通常用いられる「電解抽出残渣分析法」は、当業者に周知の測定方法であり、この電解抽出残渣分析法を用いれば、Snの固溶度を求められることも当業者にとって明らかであるから、前記(ア)の主張によって、取消理由2は解消した。

(ウ)申立人は、令和1年9月27日付け意見書において、析出物の定量分析方法には、電解抽出分析法以外の方法も存在するから、Snの固溶度の測定方法として電解抽出分析法が一義的に定まるものではないと主張する。
しかし、実施可能要件を満たすためには、Snの固溶度の測定方法が一義的に定まる必要はなく、当業者に周知の測定方法を用いて測定可能であることがいえれば足りるから、上記主張を採用することはできない。
また、申立人は、Snの固溶度を電解抽出分析法で測定すること自体が周知であったとしても、電解条件までが周知であったとはいえないから、実施可能要件は満たされないとも主張する。
しかし、申立人は、当業者であっても二相ステンレス鋼から抽出物のみを正確に電解抽出することが不可能である特段の事情があることまでは立証していないところ、Snの固溶度を電解抽出分析法で測定する際の電解条件については、当業者が適宜設定できるものであると認められるから、上記主張を採用することもできない。

3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

本件訂正前の請求項1?5に対する特許異議申立理由のうち、取消理由通知において採用しなかったものの概要は、以下のとおりである。

(1)取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由の概要

ア 申立理由1(新規性欠如・進歩性欠如)

本件特許の請求項1、2に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。

イ 申立理由2(進歩性欠如)

本件特許の請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第2号証に記載された発明、及び、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第3号証?甲第26号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

[証拠方法]
甲第2号証:特開昭62-267452号公報
甲第3号証:特開2007-146202号公報
甲第4号証:特開2009-79303号公報
甲第5号証:特開平1-215913号公報
甲第6号証:特許第4462454号公報
甲第7号証:財団法人日本規格協会編、「JISハンドブック ○2 鉄鋼II(棒・形・板・帯/鋼管/線・二次製品)」(当審注:「○2」は、丸数字の2を表す。)、発行所:財団法人日本規格協会、2005年1月31日第1版第1刷発行、第765?790頁
甲第8号証:佐久間健人(外2名)編、「マテリアルの事典」、発行所:株式会社朝倉書店、2001年1月15日初版第1刷、第621?625頁
甲第9号証:伊藤秀夫著、「鉄鋼のリサイクルと不純物元素」、表面技術(Vol.48、No.2、1997)、第132?137頁、社団法人表面技術協会、平成31年4月16日インターネット検索(URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj1989/48/2/48_2_132/_pdf)
甲第10号証:長谷川正義編、「ステンレス鋼便覧〔増訂版〕」、発行所:日刊工業新聞社、昭和35年5月30日発行、第457?465頁
甲第11号証:共同研究会調査部会編、「鉄鋼リサイクル白書?地球環境と共存する鉄鋼?」、発行所:社団法人日本鉄鋼協会、発行日:1994年3月25日、第59?62頁
甲第12号証:田口整司著、「鉄鋼材料のリサイクル」、軽金属(Vol.46、No.11、1996)、第533?536頁、社団法人軽金属学会、平成31年4月16日インターネット検索(URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jilm/46/11/46_11_533/_pdf)
甲第13号証:特開平7-252607号公報
甲第14号証:特開平6-306464号公報
甲第15号証:特開平6-158234号公報
甲第16号証:特開2003-147439号公報
甲第17号証:国際公開第2009/044796号
甲第18号証:国際公開第2009/044802号
甲第19号証:国際公開第2010/110003号
甲第20号証:特開2004-115911号公報
甲第21号証:特開2007-254884号公報
甲第22号証:特開2008-261020号公報
甲第23号証:特開平8-176742号公報
甲第24号証:特開2002-241838号公報
甲第25号証:特開平5-302150号公報
甲第26号証:特表2005-520934号公報
(以下、甲第2号証?甲第26号証を、それぞれ、順に「甲2」?「甲26」という。)

(2)申立理由の検討

ア 甲2?26の記載事項

(ア)甲2

a 甲2には、以下の記載がある。なお、下線は当審にて付与したものである(以下同様)。

(2a)「〔産業上の利用分野〕
本発明は溶接部の耐食性に優れたフェライトとオーステナイトの二相からなるステンレス鋼に関するものである。より詳しくは、海水あるいは塩化物等の環境下において優れた耐食性を示し、特に溶接構造物として溶接施工を伴う場合の溶接金属および溶接熱影響部においても耐食性の劣下が少ない溶接用二相ステンレス鋼に関するものである。」(第2頁左上欄第9?17行)
(2b)「オーステナイトとフェライトの二相組織を有する二相ステンレス鋼は耐応力腐食割れ性に優れていると共に、製造性や機械的性質についても高Cr系ステンレス鋼に比べて優れた面をもっている。・・・
しかし、これらの二相ステンレス鋼は、構造物として溶接施工を伴う場合、溶接金属および溶接熱影響部での耐食性が劣り、その劣下の程度がオーステナイト系ステンレス鋼より顕著であるという欠点を存している。」(第2頁右上欄第11行?左下欄第2行)
(2c)「本発明は、二相ステンレス鋼の前記の有利な特性を生かしながらこの溶接部の耐食性の問題の解決を目的としてなされたものである。
〔問題点を解決する手段〕
本発明は、重量%で、C:0.03%以下、Si:1.5%以下、Mn:2.0%以下、Cr:18.0?30.0%、Ni:5.0?12.0%、Mo:1.5?5.0%、N:0.10?0.30%、残部:Fe及び不可避的不純物からなるステンレス鋼であって、且つ
N(%)≧(1/30)×(%Ni)-(1/10)
および
12.0≦F値≦16.0
〔但し、F値=Cr当量-Ni当量であり、
Cr当量=%Cr+%Mo+4×%Si
Ni当量=1.5×%Ni+30×(%C+%N)+0.5×%Mnである〕
の関係を満足する組成を有する溶接部の耐食性に優れた二相ステンレス鋼を提供するものである。更に本発明は、上記の鋼に0.1?1.0%のCuを追添してなる溶接部の耐食性に一層優れた二相ステンレス鋼、そして、0.1?1.0%のCuおよび0.02?0.10%のSnを複合添加してなる溶接部の耐食性に一層優れた二相ステンレス鋼を提供するものである。」(第2頁左下欄下から第9行?右下欄下から第6行)
(2d)「本発明鋼における各成分の作用と含有量の限定の理由は、次の通りである。」(第3頁左上欄第5?6行)
(2e)「Sn:SnはCuとの共存において耐隙間腐食性を向上させる。その効果は0.02%以上の添加において得られるが、0.10%を越えると熱間加工性を害するのでその上限を0.10%とする。」(第3頁右下欄下から第8?5行)
(2f)「〔実施例〕
母材及び溶接部についての腐食試験に供した鋼の化学成分値とフェライト量を表1に示した。
試料A?Hは比較鋼(但し、A、B、Cは市販材)であり、試料I?Pは本発明鋼である。
比較鋼のうち試料D?Hは本発明鋼に類似した鋼であるがF値が12.0?16.0の範囲を外れたものである。市販材であるA?C以外の各試料D?Pについては、30kg真空溶解炉で溶製後、鍛造、熱間圧延及び冷間圧延して板厚2mmに仕上げ、1050℃×10分保持後空冷の仕上焼鈍を行った。」(第4頁左上欄下から第7行?右上欄第4行)
(2g)「



b 前記aの記載によれば、甲2には、以下の事項が記載されている。

(a)甲2に記載された発明は、海水又は塩化物等の環境下において優れた耐食性を示し、特に溶接構造物として溶接施工を伴う場合の溶接金属及び溶接熱影響部においても耐食性の劣下が少ない溶接用二相ステンレス鋼に関する(2a)。

(b)オーステナイトとフェライトの二相組織を有する二相ステンレス鋼は耐応力腐食割れ性に優れているとともに、製造性や機械的性質についても高Cr系ステンレス鋼に比べて優れた特性を備えているが、構造物として溶接施工を伴う場合、溶接金属及び溶接熱影響部での耐食性が劣り、その劣下の程度がオーステナイト系ステンレス鋼より顕著であるという欠点を有しているところ(2b)、甲2に記載された発明は、二相ステンレス鋼が備える上記の優れた特性を生かしながら、上記した溶接金属及び溶接熱影響部での耐食性の問題を解決することを目的としてなされたものである(2c)。

(c)甲2に記載された発明は、重量%で、C:0.03%以下、Si:1.5%以下、Mn:2.0%以下、Cr:18.0?30.0%、Ni:5.0?12.0%、Mo:1.5?5.0%、N:0.10?0.30%、残部:Fe及び不可避的不純物からなるステンレス鋼であって、かつ
N(%)≧(1/30)×(%Ni)-(1/10)
及び
12.0≦F値≦16.0
〔但し、F値=Cr当量-Ni当量であり、
Cr当量=%Cr+%Mo+4×%Si
Ni当量=1.5×%Ni+30×(%C+%N)+0.5×%Mnである〕
の関係を満足する組成を有する二相ステンレス鋼である。
さらに、甲2に記載された発明は、上記の鋼に0.1?1.0%のCuを追添してなる二相ステンレス鋼であり、
また、上記の鋼に0.1?1.0%のCu及び0.02?0.10%のSnを複合添加してなる二相ステンレス鋼である(2c)。

(d)甲2に記載された発明のうち、0.1?1.0%のCu及び0.02?0.10%のSnを複合添加した場合には、耐隙間腐食性が向上する(2d、2e)。

(e)実施例においては、試料I?Pが本発明鋼であり、この試料I?Pを含む試料D?Pは、30kg真空溶解炉で溶製後、鍛造、熱間圧延及び冷間圧延して板厚2mmに仕上げ、1050℃×10分保持後空冷の仕上焼鈍を行って得られたものである。
本発明鋼の「試料L」は、重量%で、C:0.015%、Si:0.54%、Mn:0.47%、Ni:7.55%、Cr:24.68%、Mo:3.01%、N:0.19%、残部:Fe及び不可避的不純物からなり、
本発明鋼の「試料O」は、重量%で、C:0.012%、Si:0.53%、Mn:0.57%、Ni:6.20%、Cr:25.04%、Mo:3.07%、N:0.18%、Cu:0.55%、残部:Fe及び不可避的不純物からなる(2f、2g)。

c 前記bによれば、甲2には、「試料L」及び「試料O」のそれぞれに基いて認定した以下の「甲2発明1」及び「甲2発明2」が記載されている。

(甲2発明1)
重量%で、C:0.015%、Si:0.54%、Mn:0.47%、Ni:7.55%、Cr:24.68%、Mo:3.01%、N:0.19%、残部:Fe及び不可避的不純物からなり、オーステナイトとフェライトの二相組織を有する二相ステンレス鋼。

(甲2発明2)
重量%で、C:0.012%、Si:0.53%、Mn:0.57%、Ni:6.20%、Cr:25.04%、Mo:3.07%、N:0.18%、Cu:0.55%、残部:Fe及び不可避的不純物からなり、オーステナイトとフェライトの二相組織を有する二相ステンレス鋼。

(イ)甲3には、以下の記載がある。

「【0001】
本発明は、尿素製造プラント用の二相ステンレス鋼・・・に関する。・・・」
「【0014】
本発明の第一の目的は、尿素製造プラントの環境下で著しく耐食性に優れ、尿素製造装置の各種機器の材料として好適な二相ステンレス鋼を提供することにある。」
「【0040】
P:0.04%以下
Pは、鋼の熱間加工性や機械的性質に悪影響を及ぼす不純物である。さらにステンレス鋼では粒界偏析によって耐食性を低下させる。0.04%は不純物としての許容上限であり、これ以下で、できるだけ少ない方がよい。
【0041】
S:0.003%以下
Sも鋼の加工性その他に悪影響を及ぼす不純物である。また、Pと同じく粒界偏析によってステンレス鋼の耐食性を損なう。従って、Sの含有量は0.003%以下で可能なかぎり少ない方がよい。」
「【0053】
本発明鋼の不純物の中で、Alは0.05%以下・・・であるのが望ましい。Alは、酸化物を生成し、これが鋼中に残存して耐食性を低下させる。従って、Alの含有量は、0.05%以下でできるだけ少ないのが望ましい。・・・」

(ウ)甲4には、以下の記載がある。

「【0001】
本発明は、ステンレス鋼製造工程で発生するダストやスケール等の廃棄物を再利用してステンレス鋼を製造する方法に関する。
【0002】
ステンレス鋼は、一般に、スクラップやFe-Cr、Fe-Ni、金属Niなどの原料を電気炉で溶解したのち、この溶鋼を精錬炉で精錬を行うことにより製造される(ステンレス鋼製造工程)。・・・」

(エ)甲5には、以下の記載がある。

「(産業上の利用分野)
この発明は、ステンレス鋼の製造方法に関し、とくに溶融還元法を利用してステンレス鋼を能率よくしかも安価に製造しようとするものである。
(従来の技術)
ステンレス鋼の製造に当っては・・・従来から、Cr含有溶鉄を経済的に脱炭すべく種々のプロセスが実施されているが、いずれの場合にも脱炭反応と同時にCrの酸化反応が生じ、スラグ中にCr分が酸化クロムとして移行する。クロムは高価な金属であるためクロム酸化物含有スラグを廃棄することは経済的観点から好ましくない。・・・
(発明が解決しようとする課題)
・・・
この発明は・・・ステンレス鋼の溶製において脱炭精錬に引き続き通常行われるスラグ中Cr酸化物の還元および脱S処理を行うことなしに、ステンレス鋼を高能率かつ経済的に製造することができる有利な方法を提案することを目的とする。」(第2頁左上欄第3行?右下欄第2行)

(オ)甲6には、以下の記載がある。

「【0001】
本発明は、炭酸ガス腐食環境や応力腐食環境においても優れた耐食性を発揮するとともに高い強度をも兼ね備えた二相ステンレス鋼管の製造方法に関する。・・・」
「【0009】
本発明は・・・深井戸や過酷な腐食環境で使用される油井管に要求される耐食性だけでなく、目標とする強度をも兼ね備えた二相ステンレス鋼管の製造方法を提供することを目的とする。」
「【0044】
P:0.04%以下
Pは、不純物として含有されるが、その含有量が0.04%を超えると熱間加工性を低下させ、また耐食性および靱性をも低下させる。従って、上限を0.04%とするのが好ましい。
【0045】
S:0.03%以下
Sは、上記のPと同様に、不純物として含有されるが、その含有量が0.03%を超えると熱間加工性が著しく低下するだけでなく、硫化物は、孔食の発生起点となり耐孔食性を損なう。このため、その上限値を0.03%とするのが好ましい。」
「【0049】
本発明の二相ステンレス鋼管は・・・通常商業的な生産に用いられている製造設備および製造方法によって製造することができる。・・・」

(カ)甲7には、「JIS G 3459(2004)」「配管用ステンレス鋼管」(第765頁)の標題において、以下の記載がある。

(7a)「1.適用範囲 この規格は,耐食用,低温用,高温用などの配管に用いるステンレス鋼管(以下,管という。)について規定する。」(第765頁本文第9?10行)
(7b)「3.種類及び記号 管の種類は,31種類とし,その記号は,表1による。」(第765頁本文第24行)
(7c)「


(7d)「4.製造方法 管の製造方法は,次による。
a) 管は,継目なく製造するか,自動アーク溶接,レーザ溶接又は電気抵抗溶接によって製造する。
b) 管は,表1による固溶化熱処理又は焼きなましを行い,酸洗又はこれに準じる処理を行う。ただし,表1以外の熱処理については,受渡当事者の協定による。
c) 注文者の要求があるときは,ベベルエンド(1)に加工してもよい。」(第766頁第1?5行)

(キ)甲8には、以下の記載がある。

(8a)「9 リサイクル材料」「9.1 鉄鋼材料」(第621頁)「現在,鉄鋼製品のうち,わが国では30%以上,世界的には約40%がスクラップを原料にして生産されている.」(第621頁本文第3?4行)
(8b)「9.1.2 スクラップ中の不純物 現行の製鋼工程は酸化精錬であるので,鉄より酸素との親和力が強い元素は除去されやすいが,Cu,Sn,Pb,Ni,Mo,As,Sb,Biのような元素では,鉄の方が先に酸化されてしまい,これらの除去はほとんど不可能である.このように,鉄のリサイクルとともに循環する元素をトランプエレメント(tramp element)あるいは循環性元素という.なかでもCuとSnは鋼材の機械的性質を劣化させ,とくに連続鋳造や熱間圧延時の加工性を阻害し,表面割れを生じさせることで重大な問題となりつつある.・・・表9.1.1に鋼の種類ごとの代表的なCu,Snの許容上限濃度を示す^(4)).」(第622頁下から第11?最下行)
(8c)「

」(第623頁)
(8d)「表9.1.2にはスクラップ中トランプエレメントの量を実際のスクラップで測定した例^(5))を示す.なお,表9.1.2には参考のための高炉で生産される銑鉄の組成もあわせて示す.現状の電炉工程では,老廃屑に品位の高い加工屑などを混合してCu,Snなどを実害がないレベルまで希釈することで対応がされている.」(第623頁第1?4行)

(ク)甲9には、以下の記載がある。

(9a)「鋼の生産上有害とされる銅・スズ・亜鉛・鉛など不純物元素は,リサイクルが繰り返されると鋼の中に蓄積され,次第に含有量が高くなるので,製鉄メーカーは鉄スクラップの購入に当たり,明らかにこれら不純物の含有量が多いもの,或いはこれらの金属のめっきされたものを制限している。」(第132頁左欄本文第8?13行)
(9b)「不純物の元素によって,スクラップの溶解・精錬の過程で,スラグ中に取り込んで除去出来るものと出来ないものとがあるので,以下はそれについてまとめたものである。」(第132頁右欄最下行?第134頁右欄第3行)
(9c)「ほぼ金属中に混入してしまうもの
銅・スズ・コバルト・モリブデン・ヒ素・タングステン・(鉛)」(第135頁左欄第6?8行)
(9d)「鉄スクラップはその品種によって不純物元素の含有量がかなり違うので,電気炉製鋼メーカーはその使用に際して,製品としての鋼材への影響を考慮して,スクラップの品種別不純物元素の含有度割合いを勘案し,それらが一定程度に以下となるよう管理している。
電気炉製鋼メーカーの代表的な製品規格であるSSおよびSD規格についてみると,JIS規格では要求されていないものの,それぞれ社内の規格として,程度の差はあっても規定している。表7は社内管理規格の一例である。」(第135頁右欄下から第3行?第136頁左欄第8行)
(9e)「

」(第136頁左欄)

(ケ)甲10には、以下の記載がある。

(10a)「1.ステンレス鋼の製鋼」「1・1 溶解原料」「1・1・1 主要原料の品質」(第457頁)
(10b)「e.ニッケル屑 Niの需給状況によってはニッケル屑も溶解原料としてかなり使用される.ステンレス鋼の溶解に用いるニッケル屑は純ニッケル屑,Ni-Fe屑,Ni-Cr合金屑が主体であるが,品質としては単にNi純分のみでなく,Cu,Zn,Sn,Pb,As,Sbなどの有害元素の混入に十分な注意をはらわねばならない.」(第459頁下から第7?4行)

(コ)甲11には、以下の記載がある。

(11a)「1.3 鉄鋼材料を中心としたリサイクル推進上の課題」「1.3.1 スクラップの質的低下」「(1)現状のスクラップの不純物レベル」(第59頁)
(11b)「不純物元素の許容レベルについては、電炉メーカーで比較的生産量の多い代表的な鋼種について不純物の管理値を調査した結果を表1.3-3に示す。」(第60頁第1?2行)
(11c)「

」(第60頁)
(11d)「(2)不純物元素の濃化 ・・・表1.3-6は、電気炉普通鋼(形鋼、棒鋼)と特殊鋼、高炉製品の銅、スズ含有量の比較を示す。これらの電気炉普通鋼では平均的にみて銅で0.3%以上、スズで0.015%以上は含まれている。これらは再びスクラップとしてリサイクルされるので不純物元素の濃化が進むことになる。」(第61頁第7?18行)
(11e)「



(サ)甲12には、以下の記載がある。

(12a)「鉄鋼材料としてスクラップは,鉄鉱石と比べて酸化鉄の還元が不要なことおよび脈石分がないことから,製造過程でのエネルギーが少なくて済むという長所を持つ。しかし,同時に製品としての組立あるいは回収過程で混入する不純物が,鉄鉱石を出発原料とするバージンメタルと比べて多いという弱点も持っている。」(第533頁左欄第12?17行)
(12b)「表4は原料として市中くずを使用した場合,銑鉄を使用した場合の製品中のトランプ・エレメント含有量を比較したものである^(5))。いずれの元素も精錬中にほとんど除去されず,市中くずからの製品では銑鉄からに比べて約10倍の濃度となっている。
現状の生産品種の成分規格例を表5に示す^(4))。表面処理鋼板や厚中鋼板,鋼管などの中,高級鋼製品でCu,Snなどの不純物の規制が厳しくなっている。一方,構造用材料や線材などこれらの不純物の許容範囲の広い鋼種も約4割あり,前述のスクラップ原料の使用が可能である。」(第535頁右欄下から第7行?第536頁左欄第4行)
(12c)「




(シ)甲13には、以下の記載がある。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、真空チャンバー、配管などの真空容器に用いられる真空特性及び熱間加工性に優れた超高真空機器用ステンレス鋼材及び超高真空容器の製造方法に関するものである。」
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】・・・本発明は熱間圧延時に表面割れを防止し、熱間加工性及び真空特性に優れた超高真空機器用ステンレス鋼材及び超高真空容器を提供することを目的とするものである。」
「【0012】Pは、熱間加工性を劣化させるため低いほど望ましいが、原料から不可避的に混入してくるので、P含有量を0.050%以下とした。・・・」
「【0015】・・・Sn,Sは・・・高濃度では熱間加工性を劣化させる傾向があるため、Snの上限を20ppm(当審注:200ppmの誤記と認められる。)、Sの上限を50ppmとした。・・・
【0016】・・・Pb,Bi,Sn,Zn及びSはスクラップ及び合金原料より混入するものである。Pb,Bi,Znは高蒸気圧成分であり、精錬時間のコントロールによる高温下での蒸発反応により除去可能である。一方、Snは、Pb,Bi,Znに比較して蒸気圧が低いため、蒸発反応によっても除去しにくく、現状の大量生産工程においては原料を選択する以外にない。一方、Sはスラグ精錬による除去が可能であり、例えば高塩基度スラグを用いた脱硫処理がなされる。・・・」

(ス)甲14には、以下の記載がある。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、表面疵の少ないオーステナイト系ステンレス鋼の熱間圧延板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】合金鉄に対し安価なスクラップを多量に使用してオーステナイト系ステンレス鋼を溶製した場合、Pb,Zn,Bi,Sn等の不純物元素が多くなり、熱間圧延時に表面に割れが発生し、圧延されてスケールを噛み込んだ表面疵が発生しやすい。このため、表面疵が発生した熱間圧延板においては、ベルト研削や酸洗溶削などによる表面疵の除去が必要になり、著しい製造コストの上昇をまねいている。」

(セ)甲15には、以下の記載がある。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、製造性、特に加工性に優れた高品質のオーステナイト系ステンレス鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来ステンレス鋼の製造では、原料としてスクラップが使用されている。近年、製造コストの低減化を目的に低価格のスクラップが大量に使われる傾向にある。この場合、スクラップ中に存在する不純物元素の材質特性に及ぼす影響を考慮する必要がある。」
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は不純物元素量を規制して材質特性の劣化を抑え、熱間加工性および冷間加工性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼材を提供することを目的とする。」
「【0008】Sn、Sは、Pb、Zn、Biに比べて影響は少ないものの高濃度では熱間加工性を劣化させる傾向があり、上限をSnは200ppm、Sは90ppmとした。・・・
【0009】・・・Pb、Zn、Bi、SnおよびSはスクラップおよび合金原料より混入するものである。Pb、Zn、Biは高蒸気圧成分であり、高温化での蒸発反応により除去可能である。一方、SnはPb、Zn、Biに比べて蒸気圧が低いため、蒸発反応によっても除去しにくく、現状の大量生産工程においては原料を選択するしかない。一方、Sはスラグ精錬による除去が可能であり、例えば高塩基度スラグを用いた脱硫処理がなされる。」

(ソ)甲16には、以下の記載がある。

「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、表面性状の優れたオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法に関し、特にオーステナイト系ステンレス冷延鋼板で懸念されるへげ疵の発生を効果的に防止しようとするものである。
【0002】
【従来の技術】各種鋼材の製造においては、種々の分野でリサイクル化が進められている。この点は、オーステナイト系ステンレス鋼板の製造分野についても例外ではなく、鉄スクラップの使用量が従来以上に増加する傾向にある。一般に、鉄スクラップ中には、種々の合金元素が含まれているため、かようなスクラップを原料として使用すると、種々の元素がいわゆるトランプエレメントとして鋼材中に混入する。
【0003】上記したようなトランプエレメントとしてSnやNbが挙げられるが、かようなSnやNbは、その性質上、一旦、鋼浴中に混入すると製鋼精錬中に除去される機会がなく、大部分が素材中に残留する。従って、リサイクル化が進めば進むほど、トランプエレメントとしてのSn,Nb量は累積的に増大することになる。」
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】この発明は・・・スクラップの使用量の増大に伴い、原料中におけるSn,Nb量が増大したとしても、熱間割れに起因した冷延板におけるヘゲ疵の発生を効果的に回避することができる、オーステナイト系ステンレス鋼板の新規な製造方法を提案することを目的とする。」
「【0019】・・・この発明は、トランプエレメントとしてSnやNbを含有する全てのオーステナイト系ステンレス鋼板に対して適用できるが、中でもJIS G 4304に規定されるSUS304,SUS 304L,SUS 301,SUS 301L,SUS 316,SUS 316L等に適用してとりわけ有利である。・・基本組成については・・・P:0.040mass%以下、S:0.030mass%以下程度とすることが好ましい。・・・
【0020】・・・SnやNbの混入量がそれぞれ0.20mass%、0.030mass%を超えて多くなると鋼材質とくに伸びが劣化するので、SnやNbの許容上限値はそれぞれ、0.20mass%、0.030mass%とした。・・・」

(タ)甲17には、以下の記載がある。

「[0001]本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼に関し、詳しくは、発電用ボイラ等の高温機器に用いられる高温使用中の溶接部の耐脆化割れ性に優れる高強度オーステナイト系ステンレス耐熱鋼に関する。」
「[0018]本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、発電用ボイラ等の高温で長時間使用される機器の素材として好適な、HAZでの耐脆化割れ性に優れた高強度のオーステナイト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。」
「[0059]sol.Al:0.03%以下
Alは、脱酸作用を有するが、多量の添加は清浄度を著しく害し、加工性や延性を劣化させ、特に、Alの含有量がsol.Al(「酸可溶性Al」)で0.03%を超えると、加工性や延性の低下が著しくなる。したがって、sol.Alの含有量を0.03%以下とした。・・・」
「[0063]本発明においては、不純物中のP、S、Sn、As、Zn、PbおよびSbは、その含有量をそれぞれ、特定の値以下に制限する必要がある。
[0064]すなわち、上記の元素はいずれも、溶接熱サイクル中、または、その後の高温での使用中に粗粒HAZの粒界に偏析して、粒界結合力を低下させ、高温での使用中に粗粒HAZでの脆化割れを招く。したがって、先ず、その含有量をそれぞれ、P:0.04%以下、S:0.03%以下、Sn:0.1%以下、As:0.01%以下、Zn:0.01%以下、Pb:0.01%以下およびSb:0.01%以下に制限する必要がある。」
「[0091]本発明・・・に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、溶解に使用する原料について綿密詳細な分析を実施して、特に不純物中のSn、As、Zn、PbおよびSbの含有量がそれぞれ、前述のSn:0.1%以下、As:0.01%以下、Zn:0.01%以下、Pb:0.01%以下およびSb:0.01%以下・・・を満たすものを選択した後、電気炉、AOD炉やVOD炉などを用いて溶製して製造することができる。」

(チ)甲18には、以下の記載がある。

「[0001]本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼、詳しくは、C固定化元素を含有するオーステナイト系ステンレス鋼に関・・・する。・・・」
「[0017]本発明は・・・C固定化元素を含有し、溶接時にHAZに生じる液化割れを抑止できるとともに、高温で長時間使用された場合のHAZでの耐脆化割れ性にも優れ、しかも、高い耐食性、なかでも、ポリチオン酸SCCに対する高い抵抗力を有するオーステナイト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。」
「[0059]sol.Al:0.03%以下
Alは、脱酸作用を有するが、多量の添加は清浄度を著しく害し、加工性や延性を劣化させ、特に、Alの含有量がsol.Al(「酸可溶性Al」)で0.03%を超えると、加工性や延性の低下が著しくなる。したがって、sol.Alの含有量を0.03%以下とした。下限は特に設けないが、0.0005%以上が好ましい。」
「[0063]本発明においては、不純物中のP、S、Sn、As、Zn、PbおよびSbは、その含有量をそれぞれ、特定の値以下に制限する必要がある。
[0064]すなわち、上記の元素はいずれも、溶接熱サイクル中、または、その後の高温での使用中に粗粒HAZの粒界に偏析して、粒界の融点を下げるとともに粒界の結合力を低下させ、次層溶接時の熱サイクル付与による粗粒HAZでの粒界溶融に基づく液化割れ、高温で使用中の脆化割れを招く。加えて、粒界腐食を促進し、かつ粒界強度の低下をもたらすため、耐ポリチオン酸SCC性を劣化させる。したがって、先ず、その含有量をそれぞれ、P:0.04%以下、S:0.03%以下、Sn:0.1%以下、As:0.01%以下、Zn:0.01%以下、Pb:0.01%以下およびSb:0.01%以下に制限する必要がある。」
「[0087]本発明・・・に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、溶解に使用する原料について綿密詳細な分析を実施して、特に不純物中のSn、As、Zn、PbおよびSbの含有量がそれぞれ、前述のSn:0.1%以下、As:0.01%以下、Zn:0.01%以下、Pb:0.01%以下およびSb:0.01%以下・・・を満たすものを選択した後、電気炉、AOD炉やVOD炉などを用いて溶製して製造することができる。

(ツ)甲19には、以下の記載がある。

「[0001]本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼に関する。より詳しくは・・・CrとNiの含有量が多いSUS310型の、特に、高温水環境で用いられる構造部材に好適な、オーステナイト系ステンレス鋼に関する。」
「[0021]・・・本発明は、耐食性、特に、耐粒界腐食性に優れ、しかも、溶接熱影響部における耐割れ感受性にも優れたオーステナイト系ステンレス鋼、なかでも、CrとNiの含有量が多いSUS310型のオーステナイト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。」
「[0059]P:0.030%以下
Pは、不純物として含有される元素であり・・・含有量は0.030%以下に制限する必要がある。・・・
[0060]S:0.002%以下
Sは、不純物として含有される元素であり・・・含有量は0.002%以下に制限する必要がある。・・・
[0061]Sn:0.015%以下
Snも不純物として含有される元素であり・・・含有量は0.015%以下に制限する必要がある。なお、Snの含有量は0.010%以下とすることが好ましい。」
「[0070]本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、溶解に使用する原料について綿密詳細な分析を実施して、特に不純物中のP、SおよびSnの含有量がそれぞれ、前述のP:0.030%以下、S:0.002%以下およびSn:0.015%以下・・・を満たすものを選択した後、電気炉、AOD炉やVOD炉などを用いて溶製して製造することができる。」

(テ)甲20には、以下の記載がある。

「【0001】
本発明は・・・特に自動車の燃料タンクや燃料パイプ、タンクバンドなどの燃料タンク周辺部材用のステンレス鋼に、Zn含有塗料を部材全体または主に隙間部の耐食性向上を目的として部分的に塗布してなるZn含有塗料塗布型自動車燃料タンクおよび燃料タンク周辺部材用フェライト系ステンレス鋼に関する。・・・」
「【0009】
・・・本発明は、従来の高Crのフェライト系ステンレス鋼より、さらに優れた耐食性と加工性を有し、かつ低Crの自動車の燃料系統部材用に適したフェライト系ステンレス鋼を提供することを目的とするものである。
・・・」
「【0024】
P: 含有量0.06%以下
Pは・・・できる限り少なくするのが望ましいが、余りに低く制限すると製鋼コストの上昇を招く。このため、P含有量は0.06%以下とする。より好適なのは0.03%以下である。
【0025】
S: 含有量0.03%以下
Sは、ステンレス鋼の耐食性に有害な元素であるが、製鋼時の脱硫コストを考慮して、0.03%を上限として許容することができる。より好適なのは、MnやTiで固定できる0.01%以下である。
【0026】
Al: 含有量1.0%以下
Alは、製鋼上の脱酸剤として必要な元素である。その効果を得るためには、0.01%以上の含有が好ましいが、過度に含有されると介在物に起因する表面外観や耐食性の劣化を招くので、1.0%以下とする。より好適なのは0.50%以下である。」
「【0035】
なお、本発明のステンレス鋼においては・・・不可避的不純物として、Zrを0.5%以下、Caを0.1%以下、Taを0.3%以下、Wを0.3%以下、Snを0.3%以下の範囲で含有していても本発明の効果が特に減じることはない。」

(ト)甲21には、以下の記載がある。

「【0001】
本発明は、フェライト系ステンレス鋳鋼・・・に関する。」
「【0005】
本発明の課題は、耐硫酸露点腐食性に優れたフェライト系ステンレス鋳鋼、それを用いた鋳物部品の製造方法及び鋳物部品を提供することにある。」
「【0022】
S:0.01質量%以上0.50質量%以下
SはMn系硫化物を形成し、被削性を向上させる。上記の下限値未満では効果が不十分となる。Sの下限値は、望ましくは0.03質量%とするのがよい。また、上限値を超えると、延性、耐酸化性及び高温疲労強度の低下につながる。Sの上限値は、望ましくは0.10質量%とするのがよい。」
「【0024】
P:0.50質量%以下に制限
Pの含有量は、耐酸化性及び高温疲労強度を低下させるので、上記の上限値以下に制限するのがよく、より望ましくは0.10質量%以下に制限するのがよい。」
「【0029】
Al:0.01質量%以上1.00質量%以下
Alはフェライトを安定させ、α→γ相変態を上昇させる効果が有り、かつ高温強度を向上させる働きがあるため、使用上限温度をさらに向上させたい場合には添加してもよい。・・・」
「【0032】
上記以外の、その他の各元素であって、上記本発明の効果が達成不能とならない範囲で含有されているものを、本明細書では「不純物元素」として定義する。各不純物元素の許容含有量は以下の通りである・・・
Ge、Sn、Pb:0.1質量%以下
・・・」

(ナ)甲22には、以下の記載がある。

「【0001】
本発明は、自動車、家庭電化製品、厨房器具などに用いるスピニング加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼板とその製造方法に関する。」
「【0006】
本発明は、スピニング加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。」
「【0019】
P≦0.04%
Pは、鋼を固溶強化するとともに、脆化しやすくする。P量が0.04%を超えると、鋼の延性が著しく低下するため、P量の上限は0.04%とする。
【0020】
S≦0.008%
Sは・・・MnSとして析出して耐食性を劣化させるとともに、TiSまたはTi4C2S2を形成してスピニング加工時のへらと鋼板との焼き付きを助長する。このため、S量は0.008%以下とする。
【0021】
Al≦0.06%
Alは脱酸剤であり、鋼の清浄度を向上させる。そのため、Al量は0.02%以上含有させることが望ましい。しかし、Al量が0.06%を超えると、脱酸生成物が多量に生成しスピニング加工時に破断の起点となるので、Al量は0.06%以下とする。」
「【0027】
・・・不可避的不純物として・・・Sn≦0.01%・・・などが混入しても、本発明の効果が妨げられることはない。・・・」

(ニ)甲23には、以下の記載がある。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、2相ステンレス鋼、より詳しくは硫化水素環境での耐食性に優れた2相ステンレス鋼に関する。」
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は・・・0.5atm程度の硫化水素を含む環境下での耐硫化水素腐食性に優れた2相ステンレス鋼を提供することにある。」
「【0018】sol-Al:0.01?0.2%
Alは・・・脱酸成分として必要な成分であるが、その効果はsol-Al含有量で0.01%以上で得られる。しかし、そのsol-Al含有量が0.2%を超えると粗大な酸化物が生じて熱間加工性が劣化する。」
「【0025】P:上限0.03%
Pは、不可避不純物として含有されるが、その含有量が0.03%を超えると硫化水素環境での応力腐食割れ感受性を高める。よって、その上限を0.03%以下と定めた。好ましくは、0.02%以下である。
【0026】S:上限0.01%
Sは、Pと同様に不可避不純物として含有されるが、その含有量が0.01%を超えると熱間加工性を著しく劣化させる。よって、その上限値を0.01%と定めた。・・・厳しい条件での熱間加工性を必要とする場合には、S含有量を0.0007%以下とするのが望ましい。」
「【0029】なお、本発明の2相ステンレス鋼において・・・不可避不純物として、B、Sn、As、Sb、Bi、PbおよびZnを、それぞれ0.10%以下の範囲で含有しても、本発明鋼の特性は何等損なわれるものではない。」

(ヌ)甲24には、以下の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、二相ステンレス鋼管の製造方法に・・・関する。」
「【0014】
【発明が解決しようとする課題】本発明は・・・溶接熱影響部における優れた耐食性を有し、延性および靱性の低下の原因である熱間加工、温間加工および冷間加工の歪みが残存することなく、また、時効熱処理等による炭窒化物、金属間化合物が析出することがない完全に固溶化された微細組織を有する高強度の二相ステンレス鋼管の製造方法を提供することを目的とする。」
「【0031】P:0.05%以下
P・・・の含有量は、できるだけ少ないのが望ましく、0.05%以下とした。
【0032】S:0.01%以下
Sも鋼中に混入する不純物であり・・・悪影響を避けるため、Sの含有量を0.01%以下とした。好ましくは、0.005%以下である。」
「【0034】熱間加工性を劣化させる不純物として、As、Sn、Pb、Sb、Bi等が知られているが、これらの元素の合計の含有量は、0.05%以下であるのが望ましい。」

(ネ)甲25には、以下の記載がある。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、湿潤H_(2)S環境下において使用される油井管、ラインパイプなどに好適な耐食性を備える2相ステンレス鋼に関する。」
「【0006】本発明は・・・耐H_(2)S腐食性を改善すると共に従来鋼SUS329J_(2)Lに比べて著しく熱間加工性を損なわない2相ステンレス鋼を提供することを目的とする。」
「【0008】・・・
P:0.03%以上含まれると耐応力腐食割れ性が低下するので、上限を0.03%とした。
S:Sは熱間加工性に極めて有害な元素であるため可及的に低減すべきである。・・・」
「【0010】・・・
Al:Alは脱酸剤として添加し、残留してくるもので、含有し過ぎると靭性が低下するので、その含有量は0.04%以下とした。
・・・」

(ノ)甲26には、以下の記載がある。

「【0001】
本発明は・・・より詳しくは、高耐食性二相ステンレス鋼の製造(鋳造、熱間圧延または溶接)時に生成される、脆いシグマ(σ)相、カイ(χ)相などの金属間相の形成を抑えることにより、高耐食性を維持しつつ、より優れた耐脆化性、鋳造性及び熱間加工性を有するスーパー二相ステンレス鋼に関する。」
「【0015】
・・・
本発明は・・・金属間相の析出速度を低減させるとともに、析出量を減少させて、脆化を防止し、かつ耐食性を向上させることを目的とする。」
「【0066】
アルミニウム(Al)・・・及び硫黄(S)
アルミニウムは・・・1.0%以下で添加することが好ましい。
【0067】
さらに、鋼中には・・・硫黄(S)が不回避的に含まれるが・・・可能であればその含有量を少なくすることが好ましい。鋳物製品の場合・・・硫黄を50ppm以下に抑制することが良く、加工製品の場合・・・硫黄を20ppm以下に抑制することが好ましい。」
「【0069】
・・・Fe、Cr、Mo、Wに比べて原子半径の大きい・・・Sn(1.51Å)・・・はσ相及びχ相の形成を抑制するのに効果的であるので・・・Sn1.0%以下・・・の範囲で添加することができる。」

イ 本件発明1について

(ア)本件発明1と甲2発明1との対比

a 甲2発明1の「オーステナイトとフェライトの二相組織を有する二相ステンレス鋼」と、本件発明1の「フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材」は、「フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材」である点で一致する。

b 重量%の値と質量%の値が同じになることは当業者の技術常識であることを踏まえると、
甲2発明1の「重量%で、C:0.015%、Si:0.54%、Mn:0.47%、Ni:7.55%、Cr:24.68%、Mo:3.01%、N:0.19%」の成分組成と、
本件発明1の「C:0.10質量%以下、Si:0.1?2.0質量%、Mn:0.1?2.0質量%、」「Cr:18.0?29.0質量%、Ni:1.0?10.0質量%、Mo:2.5?6.0質量%、」「N:0.16?0.50質量%」の成分組成とは、
「C:0.015質量%、Si:0.54質量%、Mn:0.47質量%、Cr:24.68質量%、Ni:7.55質量%、Mo:3.01質量%、N:0.19質量%」である点で一致する。

c 以上によれば、本件発明1と甲2発明1との一致点及び相違点1は、以下のとおりである。

(一致点)
フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材であって、前記二相ステンレス鋼材の成分組成として、C:0.015質量%、Si:0.54質量%、Mn:0.47質量%、Cr:24.68質量%、Ni:7.55質量%、Mo:3.01質量%、N:0.19質量%を含有する点。

(相違点1)
本件発明1では、C、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Nの他に、成分として「P:0.05質量%以下、S:0.030質量%以下、Al:0.005?0.050質量%、」及び「Sn:0.001?0.30質量%」が特定され、「かつ、前記N量と前記Sn量との質量比(N/Sn)が20?400であって、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、前記Snの全てが固溶している」のに対して、
甲2発明1では、C、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Nの他は、「残部:Fe及び不可避的不純物からなり、」成分としてP、S、Al及びSnが特定されていない点。

(イ)相違点1についての検討

a 相違点1のうち、甲2発明1が、本件発明1の「Sn:0.001?0.30質量%」が特定され、「かつ、前記N量と前記Sn量との質量比(N/Sn)が20?400であって、」「前記Snの全てが固溶している」点に相当する事項を備えているといえるのかについて検討する。

b 甲2発明1におけるNの含有量は0.19質量%(以下、「質量%」を「%」と略記する。)であるから、この値に基いて、N/Snが20?400になるSnの含有量の範囲を算出すると、
0.000475%(=0.19%/400)
?0.0095%(0.19%/20)
となるから、「Sn:0.001?0.30質量%」と重複するSnの含有量の範囲は0.001?0.0095%となる。
したがって、甲2発明1が、前記aの事項を備えているといえるためには、甲2発明1における「Snの含有量が0.001?0.0095%であって、前記Snの全てが固溶している」といえる必要がある。

c そこで検討すると、甲2には、0.1?1.0%のCu及び0.02?0.10%のSnを複合添加した場合に、耐隙間腐食性が向上することは記載されているが(前記ア(ア)b(d))、Snを単独で添加することは記載も示唆もされていない。
また、甲2発明1を認定する根拠とした「試料L」は、上記のCu及びSnを複合添加する態様に該当するものではなく、第1表(前記ア(ア)a(2g))によれば、Cu及びSnの欄には、いずれも「-」と記載されているのみで、甲2には、Snを含有しているのか否か、仮に含有しているとした場合に含有量がどの程度であるのかについては、記載も示唆もされていない。
ここで、ステンレス鋼の製造に際し、スクラップ等を原料として再利用する場合に(甲4、8?16)、原料中に混入したSnを除去することが困難であるとすれば(甲8、9、12、15、16)、甲2発明1においてSnが不可避的に含有される場合もあり得ることになるが、上記のとおり、甲2には、Snが不可避的不純物である場合に許容できる含有量の上限値がどの程度になるのかは記載も示唆もなく、二相ステンレス鋼における上記上限値が原料の選択や必要とする特性等によらず普遍的に0.0095%以下になることは、甲3?26のいずれにも、記載も示唆もされていないから、甲2発明1に不可避的不純物としてSnが含まれるとしても、その含有量が0.001?0.0095%の範囲になっていたとはいえない。

d 申立人は、第1表(前記ア(ア)a(2g))における甲2発明1を認定する根拠とした「試料L」の「Sn」の欄に記載された「-」の表記の解釈に関し、特許異議申立書において、「試料P」(CuとSnを意図的に複合添加する態様)のSn濃度が「0.05%」と、小数第2位までの値として記載されているから、「試料L」の「Sn」の欄の「-」の記載は、小数第2位の値が四捨五入により0になる値、すなわち、小数第3位の値が4以下となる濃度である「0.004%以下」を意味すると主張している。
しかし、甲2には、第1表の「Sn」の欄に記載された「-」が、どの程度の濃度までを許容する表記であるのかについて何らの記載もされていないから、「-」という記載が、CuとSnを複合添加する態様と同一の基準に基くものであるとまではいえない。
したがって、上記主張を採用することはできない。

e さらに、前記「試料L」は、板厚2mmに仕上げた後に、1050℃×10分保持後空冷の仕上焼鈍を行って得られたものであるところ(前記ア(ア)b(e))、本件明細書等には、二相ステンレス鋼材にSnを固溶させるためには、固溶化熱処理温度(950?1050℃)、保持時間(10?30分)及び、冷却速度(10℃/秒以上)の条件を満たす必要があることが記載されており(前記第2の5(1)イ(イ)e)、上記「試料L」の仕上焼鈍は冷却手段として空冷を採用している点で上記冷却速度の条件を満たしているとはいえないから、甲2発明1において不可避不純物としてSnが含有されていたとしても、その全てが固溶しているとはいえない。
ここで、甲7には、表1(前記ア(カ)(7c))に、3種類のオーステナイト・フェライト系ステンレス鋼管について、「固溶化熱処理℃」の欄に「950以上,急冷」と記載されており、「管は,表1による固溶化熱処理又は焼きなましを行い,酸洗又はこれに準じる処理を行う。ただし,表1以外の熱処理については,受渡当事者の協定による。」(前記ア(カ)(7d))と記載されているが、甲7には、固溶化熱処理によって、ステンレス鋼管中のいずれの成分元素がどの程度の割合で固溶されるのかについては何らの記載もされておらず、上記のとおり、甲2の「試料L」の仕上焼鈍は冷却手段として空冷を採用しているから、甲7の記載事項を踏まえても、甲2発明1において不可避不純物としてSnが含有されていた場合に、その全てが固溶しているとはいえない。
また、甲3?6、8?26のいずれにも、二相ステンレス鋼において不可避的に含まれるSnの全てが固溶した状態で存在することについては、記載も示唆もされていない。

f 以上によれば、甲2発明1は、本件発明1の「Sn:0.001?0.30質量%」が特定され、「かつ、前記N量と前記Sn量との質量比(N/Sn)が20?400であって、」「前記Snの全てが固溶している」点に相当する事項を備えているとはいえないから、相違点1は実質的な相違点であって、本件発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえない。

g そこで、甲2発明1において、前記aの事項を採用することが当業者にとって容易想到であるといえるかについて検討すると、前記cで検討したとおり、甲2発明1において、Snが不可避的に含有されることがあるとしても、二相ステンレス鋼における含有量が、普遍的に0.001?0.0095%の範囲の値になることは、甲3?26のいずれにも、記載も示唆もされておらず、また、前記eで検討したとおり、甲3?26のいずれにも、二相ステンレス鋼において不可避的に含まれるSnの全てを固溶することについては、記載も示唆もされていないから、当業者であっても、甲2発明1において、前記aの事項を採用することは容易になし得たことであるとはいえない。

h したがって、相違点1のその他の事項について検討するまでもなく、甲2発明1において、本件発明1の相違点1に相当する事項を採用することは、当業者であっても容易になし得たことであるとはいえない。

ウ 本件発明2について

(ア)本件発明2と甲2発明2との対比

a 甲2発明2の「オーステナイトとフェライトの二相組織を有する二相ステンレス鋼」と、本件発明2の「フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材」は、「フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材」である点で一致する。

b 重量%の値と質量%の値が同じになることは当業者の技術常識であることを踏まえると、
甲2発明2の「重量%で、C:0.012%、Si:0.53%、Mn:0.57%、Ni:6.20%、Cr:25.04%、Mo:3.07%、N:0.18%、Cu:0.55%」の成分組成と、
本件発明2の「C:0.10質量%以下、Si:0.1?2.0質量%、Mn:0.1?2.0質量%、」「Cr:18.0?29.0質量%、Ni:1.0?10.0質量%、Mo:2.5?6.0質量%、」「N:0.16?0.50質量%、」「さらに、Cu:0.1?2.0質量%、Co:0.1?2.0質量%、W:0.1?6.0質量%の1種または2種以上を含有する」の成分組成とは、
「C:0.012質量%、Si:0.53質量%、Mn:0.57質量%、Cr:25.04質量%、Ni:6.20質量%、Mo:3.07質量%、N:0.18質量%、Cu:0.55質量%」である点で一致する。

c 以上によれば、本件発明2と甲2発明2との一致点及び相違点2は、以下のとおりである。

(一致点)
フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材であって、前記二相ステンレス鋼材の成分組成として、C:0.012質量%、Si:0.53質量%、Mn:0.57質量%、Cr:25.04質量%、Ni:6.20質量%、Mo:3.07質量%、N:0.18質量%、Cu:0.55質量%を含有する点。

(相違点2)
本件発明2では、C、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、N、Cuの他に、成分として「P:0.05質量%以下、S:0.030質量%以下、Al:0.005?0.050質量%、」及び「Sn:0.001?0.30質量%」が特定され、「かつ、前記N量と前記Sn量との質量比(N/Sn)が20?400であって、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、前記Snの全てが固溶している」のに対して、
甲2発明2では、C、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、N、Cuの他は、「残部:Fe及び不可避的不純物からなり、」成分としてP、S、Al及びSnが特定されていない点。

(イ)相違点2についての検討

a 相違点2のうち、甲2発明2が、本件発明2の「Sn:0.001?0.30質量%」が特定され、「かつ、前記N量と前記Sn量との質量比(N/Sn)が20?400であって、」「前記Snの全てが固溶している」点に相当する事項を備えているといえるのかについて検討すると、相違点1についての検討と同様の理由により、甲2発明2は、上記の事項を備えているとはいえないから、相違点2は実質的な相違点であって、本件発明2は、甲2に記載された発明であるとはいえない。

b そこで、甲2発明2において、前記aの事項を採用することが当業者にとって容易想到であるといえるかについて検討すると、相違点1についての検討と同様の理由により、当業者であっても、甲2発明2において、上記aの事項を採用することは容易になし得たことであるとはいえない。

c したがって、相違点2のその他の事項について検討するまでもなく、甲2発明2において、本件発明2の相違点2に相当する事項を採用することは、当業者であっても容易になし得たことであるとはいえない。

エ 本件発明3?5について

本件発明3?5は、いずれも、引用により、本件発明1の「Sn:0.001?0.30質量%」が特定され、「かつ、前記N量と前記Sn量との質量比(N/Sn)が20?400であって、」「前記Snの全てが固溶している」点を発明特定事項として備えているところ、相違点1、2についての検討と同様の理由により、当業者であっても、甲2発明1及び甲2発明2のいずれにおいても、上記の点に相当する事項を採用することは容易になし得たことであるとはいえない。

オ 小括

以上のとおり、本件発明1、2は、甲2に記載された発明ではなく、本件発明1?5は、甲2に記載された発明及び甲3?26に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、申立理由1、2には、いずれも理由がない。

第4 むすび

以上のとおり、請求項1?5に係る本件特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に、請求項1?5に係る本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
二相ステンレス鋼材および二相ステンレス鋼管
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化物、硫化水素、炭酸ガスなどの腐食性物質を含有する環境(以下、腐食環境と称することがある)において使用される二相ステンレス鋼材および二相ステンレス鋼管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼材は、腐食環境において不働態皮膜と呼ばれるCrの酸化物を主体とする安定な表面皮膜を自然に形成し、耐食性を発現する材料である。特に、フェライト相とオーステナイト相からなる二相ステンレス鋼材は、強度特性がオーステナイト系ステンレス鋼やフェライト系ステンレス鋼に対して優れ、耐孔食性と耐応力腐食割れ性が良好である。このような特徴のため、二相ステンレス鋼材は、アンビリカル、海水淡水化プラント、LNG気化器などの海水環境の構造材料を初めとして、油井管や各種化学プラントなどの腐食性が厳しい環境の構造材料として使用されている。
【0003】
しかしながら、使用環境に塩化物(塩化物イオン)などの腐食性物質が多量に含有される場合には、二相ステンレス鋼材中の介在物や不働態皮膜の欠陥などを起点として、二相ステンレス鋼材に局部腐食いわゆる孔食が発生する場合がある。また、二相ステンレス鋼材のすきま部分においては、すきま内部では塩化物イオンなどの腐食性物質が濃縮してより厳しい腐食環境となり、さらにすきま外部と内部との間で酸素濃淡電池を形成して、すきま内部の局部腐食がより促進され、いわゆるすきま腐食が発生する場合がある。さらに、孔食やすきま腐食などの局部腐食は、応力腐食割れの起点となる場合が多く、安全性の観点から耐食性、特に耐局部腐食特性のさらなる向上が求められている。
【0004】
特に、油井管材料においては、より深層の油井やガス井の開発が進められており、従来よりも高温で、かつ、硫化水素、炭酸ガス、塩化物などの腐食性物質を多量に含む環境に曝される場合が多くなっているため、従来よりもさらに優れた耐食性が要求されている。
【0005】
ステンレス鋼の耐孔食性は、Cr量を[Cr]、Mo量を[Mo]、N量を[N]とした際、[Cr]+3.3[Mo]+16[N]で計算される孔食指数PRE(Pitting Resistance Equivalent)で表され、Cr、Mo、Nの含有量を多くすれば優れた耐孔食性が得られることが知られている。また、Cr、Mo、Nの含有量の増加は、耐すきま腐食性の向上にも寄与することが知られている。しかしながら、Cr、Mo、Nの含有量の増加は、鋳造性や圧延性などを低下させるため素材製造面で問題が生じる可能性が大きいことに加えて、溶接性や加工性も低下させるため施工面でも問題が生じる場合が多い。二相ステンレス鋼材において、実用上十分な耐食性を得るための技術としては、特許文献1にCr、Mo、N以外にCu、Ni、V、などの化学成分を調整することが提案され、特許文献2にCr、Mo,N以外にミッシュメタルおよび/またはYを活用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2009/119895号パンフレット
【特許文献2】特開2011-174183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、二相ステンレス鋼材は強度特性に優れる反面、圧延や引抜などの加工が通常の単相ステンレス鋼材よりも難しい場合が多い。また、σ相析出を助長するNi、Mo、Si、Mnなどの元素の含有量の増量はσ脆化を促進して靭性を劣化させる懸念があり、実用が困難である場合が多い。また、二相ステンレス鋼材の耐食性向上に対しては、特許文献1、2では必ずしも十分であるとは言えず、特に塩化物腐食環境において発生する局部腐食に関して問題があり、さらに効果的な耐食性向上の要望がある。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その課題は塩化物、硫化水素、炭酸ガスなどの腐食性物質を含有する環境において良好な耐食性を発現する二相ステンレス鋼材および二相ステンレス鋼管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記のようにステンレス鋼材は、Crの酸化物を主体とする不働態皮膜により耐食性を発現する材料である。二相ステンレス鋼材では、フェライト相とオーステナイト相の異相界面で不連続性を有しており、フェライト相とオーステナイト相との界面においては不働態皮膜が不安定になる傾向が強いため、塩化物イオンの不働態皮膜破壊作用を受けやすく、局部腐食が発生しやすくなる。本発明者らは、前記課題を解決するために製造面や諸特性を害さない範囲において、二相ステンレス鋼材の不働態皮膜の安定性および保護性を強化することに着目し、耐食性を向上させる技術検討を行った。
【0010】
本発明に係る二相ステンレス鋼材は、フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材であって、前記二相ステンレス鋼材の成分組成は、C:0.10質量%以下、Si:0.1?2.0質量%、Mn:0.1?2.0質量%、P:0.05質量%以下、S:0.030質量%以下、Al:0.005?0.050質量%、Cr:18.0?29.0質量%、Ni:1.0?10.0質量%、Mo:2.5?6.0質量%、Sn:0.001?0.30質量%、N:0.16?0.50質量%、かつ、前記N量と前記Sn量との質量比(N/Sn)が20?400であって、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、前記Snの全てが固溶していることを特徴とする。
【0011】
前記のように、二相ステンレス鋼材は、所定量のSnを含有すると共に、所定範囲のN/Snを満足し、このSnが固溶することによって、Feの溶解反応が促進されて、Crの酸化物皮膜が形成されやすくなる。その結果、フェライト相とオーステナイト相との界面においても不働態皮膜が形成しやすくなり、しかもその安定性が高まるため、局部腐食を大幅に抑制できる。また、二相ステンレス鋼材は、不働態皮膜が局所的に破壊された場合にも、固溶Snの作用により不働態皮膜が再生されやすく、結果として不働態皮膜の安定性が高まる。
【0012】
そして、二相ステンレス鋼材において、Nは、溶解時に溶液中のH+と反応してNH4+を形成することにより、溶液中のH+濃度を低下させる、すなわちpHを上昇させる作用がある。このようなNの作用により、腐食起点のpH低下(酸性化)によって発生・加速される孔食やすきま腐食などの局部腐食が抑制される。所定量のSn含有は、このようなNの溶解性も促進するため、NとH+との反応を促進して、pH緩和作用を極大化する。なお、前記のような所定量のSnの作用は、二相ステンレス鋼材にSnを固溶させた場合に得られるものであり、Snが他の合金元素と化合物を形成した場合には、FeやNの溶解反応に影響を及ぼさなくなるため、前記効果は得られにくくなる。したがって、Snは固溶させることが好ましい。
【0013】
また、二相ステンレス鋼材は、所定量のMn、P、S、Al、Moを含有することによって、前記のSnの作用効果が向上し、所定量のC、Si、Niを含有することによって、二相組織が得られ、構造材料として必要な加工性、低温靭性などの諸特性が得られる。
【0014】
また、本発明に係る二相ステンレス鋼材は、前記成分組成が、さらに、Cu:0.1?2.0質量%、Co:0.1?2.0質量%、W:0.1?6.0質量%の1種または2種以上を含有することが好ましい。また、前記成分組成が、さらに、Mg:0.0005?0.020質量%、Ca:0.0005?0.020質量%の1種または2種を含有することが好ましい。また、前記成分組成が、さらに、Ti:0.01?0.50質量%、Zr:0.01?0.50質量%、V:0.01?0.50質量%、Nb:0.01?0.50質量%、B:0.0005?0.010質量%よりなる群から選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
【0015】
前記のように、二相ステンレス鋼材は、Cu、Co、Wの1種または2種以上をさらに含有すること、Mg、Caの1種または2種をさらに含有すること、Ti、Zr、V、Nb、Bよりなる群からから選ばれる1種以上を含有することによって、不働態皮膜の安定性がより一層高まるため、局部腐食をより一層大幅に抑制できる。
【0016】
さらに、本発明に係る二相ステンレス鋼管は、前記の二相ステンレス鋼材からなることを特徴とする。
前記のように、二相ステンレス鋼管は、鋼管を二相ステンレス鋼材で構成することによって、鋼管表面に形成される不働態皮膜の安定性が高まるため、局部腐食を大幅に抑制できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の二相ステンレス鋼材および二相ステンレス鋼管によれば、塩化物、硫化水素、炭酸ガスなどの腐食性物質を含有する環境において良好な耐食性を発現する。その結果、アンビリカル、海水淡水化プラント、LNG気化器などの海水環境の構造材料を初めとして、油井管や各種化学プラントなどの腐食性が厳しい環境の構造材料への使用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】PRE値と孔食電位(Epit)との関係を示す図である。
【図2】PRE値と腐食すきま再不働態化電位(Ercrev)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<二相ステンレス鋼材>
本発明に係る二相ステンレス鋼材の実施形態について詳細に説明する。
本発明の二相ステンレス鋼材は、フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材であって、前記二相ステンレス鋼材の成分組成は、C、Si、Mn、P、S、Al、Cr、Ni、Mo、Sn、Nを所定量含有し、かつ、前記N量と前記Sn量との質量比(N/Sn)が所定範囲であって、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。以下、各構成について説明する。
【0020】
(鋼材組織)
本発明の二相ステンレス鋼材は、フェライト相とオーステナイト相の二相からなるものである。フェライト相とオーステナイト相からなる二相ステンレス鋼材においては、CrやMoなどのフェライト相安定化元素はフェライト相に濃縮し、NiやNなどのオーステナイト相安定化元素はオーステナイト相に濃縮する傾向にある。このとき、フェライト相のオーステナイト相に対する面積率が30%未満または70%を超える場合には、Cr、Mo、Ni、Nなどの耐食性に寄与する元素のフェライト相とオーステナイト相における濃度差異が大きくなりすぎて、フェライト相とオーステナイト相のいずれか耐食性に劣る側が選択腐食されて耐食性が劣化する傾向が大きくなる。したがって、フェライト相とオーステナイト相との面積率も最適化することが推奨され、フェライト相の面積率は、耐食性の観点から30?70%が好ましく、40?60%がさらに好ましい。このようなフェライト相とオーステナイト相の面積率は、フェライト相安定化元素とオーステナイト相安定化元素の含有量を調整することによって適正化することが可能である。
【0021】
また、本発明の二相ステンレス鋼材は、フェライト相とオーステナイト相以外にσ相やCrの炭窒化物などの異相も耐食性や機械特性などの諸特性を害さない程度に許容できる。フェライト相とオーステナイト相との面積率の合計は、95%以上とすることが好ましく、97%以上とすることがさらに好ましい。
【0022】
二相ステンレス鋼材の成分組成の数値範囲の限定理由について説明する。
(C:0.10質量%以下)
Cは、鋼材中でCrなどとの炭化物を形成して耐食性を低下させるため、有害な元素である。Cの含有量はできる限り少なくする必要があり、C含有量の上限値は0.10質量%である。C含有量の好ましい上限値は0.08質量%であり、より好ましくは0.06質量%以下とするのが良い。なお、Cは、鋼材中に含有されていない、すなわち、0質量%であっても良い。
【0023】
(Si:0.1?2.0質量%)
Siは、脱酸とフェライト相の安定化のために必要な元素である。このような効果を得るためには、Siは0.1質量%以上含有させることが必要である。しかし、過剰にSiを含有させると加工性が劣化することからSi含有量は2.0質量%以下とすることが必要である。Si含有量の好ましい下限値は0.15質量%であり、さらに好ましい下限値は0.2質量%である。また、Si含有量の好ましい上限値は1.9質量%であり、さらに好ましい上限値は1.8質量%である。
【0024】
(Mn:0.1?2.0質量%)
Mnは、Siと同様に脱酸効果があり、さらに強度確保のために必要な元素である。このような効果を得るためには、Mnは0.1質量%以上含有させることが必要である。しかし、過剰にMnを含有させると粗大なMnSを形成して耐食性が劣化することからMn含有量は2.0質量%以下とすることが必要である。Mn含有量の好ましい下限値は0.15質量%であり、さらに好ましい下限値は0.2質量%である。また、Mn含有量の好ましい上限値は1.9質量%であり、さらに好ましい上限値は1.8質量%である。
【0025】
(P:0.05質量%以下)
Pは、耐食性に有害な元素であり、溶接性や加工性も劣化させる元素であり、Pの許容される含有量は0.05質量%までである。P含有量はできる限り少ない方が好ましく、好ましい上限値は0.04質量%であり、さらに好ましくは0.03質量%以下とするのが良い。なお、Pは、鋼材中に含有されていない、すなわち、0質量%であって良い。
【0026】
(S:0.03質量%以下)
Sは、MnSを形成して耐食性を低下させるため、有害な元素である。また、Sが過剰に含有されると加工性も劣化する。よって、許容されるS含有量は0.03質量%までである。S含有量はできる限り少ない方が好ましく、好ましい上限値は0.025質量%であり、さらに好ましくは0.02質量%以下とするのが良い。なお、Sは、鋼材中に含有されていない、すなわち、0質量%であっても良い。
【0027】
(Al:0.005?0.050質量%)
Alは、Si、Mnと同様に脱酸の効果がある元素である。このような効果を得るためには、Alは0.005質量%以上含有することが必要である。しかし、過剰にAlを含有させるとSnの耐食効果を害することに加えて、靭性も低下させることからAl含有量は0.050質量%以下とすることが必要である。Al含有量の好ましい下限値は0.006質量%であり、さらに好ましい下限値は0.007質量%である。また、Al含有量の好ましい上限値は0.045質量%であり、さらに好ましい上限値は0.040質量%である。
【0028】
(Cr:18.0?29.0質量%)
Crは、不働態皮膜の主要成分であり、ステンレス鋼材の耐食性発現の基本元素である。このような耐食性を得るためには、Crは18.0質量%以上含有することが必要である。しかし、過剰にCrを含有させると加工性を劣化させることからCr含有量は29.0質量%以下とすることが必要である。Cr含有量の好ましい下限値は18.5質量%であり、さらに好ましい下限値は19.0質量%である。また、Cr含有量の好ましい上限値は28.5質量%であり、さらに好ましい上限値は28.0質量%である。
【0029】
(Ni:1.0?10.0質量%)
Niは、耐食性向上に必要な元素であり、特に、塩化物環境における局部腐食抑制に効果が大きい。また、Niは低温靱性を向上させるのにも有効であり、オーステナイト相を安定化させるためにも必要な元素である。こうした効果を得るためには、Niは1.0質量%以上含有させることが必要である。しかし、過剰にNiを含有させるとオーステナイト相が多くなりすぎて、強度が低下することからNi含有量は10.0質量%以下とすることが必要である。Ni含有量の好ましい下限値は1.2質量%であり、さらに好ましい下限値は1.5質量%である。また、Ni含有量の好ましい上限値は9.5質量%であり、さらに好ましい上限値は9.0質量%である。
【0030】
(Mo:2.5?6.0質量%)
Moは、溶解時にモリブデン酸を生成して、インヒビター作用により耐局部腐食性を向上させる効果を発揮し、耐食性を向上させる元素である。本発明の所定量のSnの効果はこのようなモリブデン酸生成時に得られるため、Moは、本発明に必要な元素である。また、Moはフェライト相を安定化させるためにも必要な元素である。このような効果を得るためには、Moは2.5質量%以上含有させることが必要である。しかし、過剰にMoを含有させると加工性を劣化させることからMo含有量は6.0質量%以下とすることが必要である。Mo含有量の好ましい下限値は2.6質量%であり、さらに好ましい下限値は2.7質量%である。また、Mo含有量の好ましい上限値は5.9質量%であり、さらに好ましい上限値は5.8質量%である。
【0031】
(Sn:0.001?0.30質量%)
Snは、所定量含有させることにより、塩化物環境における不働態皮膜を強化・安定化し、NのpH緩和作用を極大化させて、耐食性を向上させる効果を有する。このような効果を得るためには、Snは0.001質量%以上含有させることが必要である。しかし、過剰にSnを含有させると熱間加工性が劣化することからSn含有量は0.30質量%以下とする必要がある。Snの含有量の好ましい下限値は0.010質量%であり、さらに好ましい下限値は0.015質量%である。また、Snの含有量の好ましい上限値は0.28質量%であり、さらに好ましい上限値は0.25質量%である。
【0032】
(N:0.16?0.50質量%)
Nは、塩化物環境におけるpH緩和作用による耐局部腐食性を向上させる効果を発揮し、オーステナイト相を安定化させるために必要な元素である。このような効果を得るためには、Nは0.16質量%以上含有させることが必要である。しかし、過剰にNを含有させると加工性を劣化させることからN含有量は0.50質量%以下とする必要がある。N含有量の好ましい下限値は0.17質量%であり、さらに好ましい下限値は0.18質量%である。また、N含有量の好ましい上限値は0.49質量%であり、さらに好ましい上限値は0.48質量%である。
【0033】
(N/Sn:1?400)
N/Snは、本発明の二相ステンレス鋼材の耐食性を発現させるのに重要な比である。N/Snが1に満たない場合には、Snが過剰となるためにNの溶解が促進されすぎて、二相ステンレス鋼材中のNが早期に消費され、NのpH緩和効果が持続しないため、効果的な耐食性向上が得られない。また、N/Snが400を超える場合には、Snが不足するためにNの溶解が促進されず、H+消費作用は向上しないため、pH緩和効果が向上しない。このような理由から、N/Snは1?400に調整する必要がある。N/Snの好ましい下限値は20であり、さらに好ましい下限値は25である。また、N/Snの好ましい上限値は380であり、さらに好ましい上限値は350である。
【0034】
(不可避的不純物)
不可避的不純物は、二相ステンレス鋼材の諸特性を害さない程度に含有することができ、その含有量は合計で0.1質量%以下であり、好ましくは0.09質量%以下におさえることによって、本発明の耐食性発現効果を極大化することができる。
【0035】
また、本発明の二相ステンレス鋼材は、前記成分組成が、さらに、所定量のCu、Co、Wの1種または2種以上を含有することが好ましい。
【0036】
(Cu:0.1?2.0質量%、Co:0.1?2.0質量%、W:0.1?6.0質量%)
Cu、Co、Wは、いずれも本発明の二相ステンレス鋼材において耐食性を向上させる元素である。また、CuおよびCoはオーステナイト相を安定化させ、Wはフェライト相を安定化させる作用もあり、強度および靭性の向上に有効である。しかし、Cu、Co、Wは過剰に含有させると熱間加工性を劣化させる元素であり、必要に応じて適量含有させることが好ましい。
【0037】
CuとCoを含有させる場合の好ましい範囲はそれぞれ0.1?2.0質量%である。Wを含有させる場合の好ましい範囲は0.1?6.0質量%である。Cu、CoおよびWの含有量のより好ましい下限値はそれぞれ0.12質量%であり、さらに好ましい下限値はそれぞれ0.15質量%である。また、CuとCoの含有量のより好ましい上限値はそれぞれ1.95質量%であり、さらに好ましい上限値はそれぞれ1.90質量%である。W含有量のより好ましい上限値は5.95質量%であり、さらに好ましい上限値は5.90質量%である。
【0038】
また、本発明の二相ステンレス鋼材は、前記成分組成が、さらに、所定量のMg、Caの1種または2種を含有することが好ましい。
【0039】
(Mg:0.0005?0.020質量%、Ca:0.0005?0.020質量%)
MgおよびCaは、局部腐食の起点となりやすいMnSの形成を抑制して、耐局部腐食性を向上させる元素である。また、これらの元素は、腐食溶解時に表面近傍のpHを上昇させて環境の腐食性を緩和する作用があるため、耐食性向上に有効な元素である。しかし、MgおよびCaは過剰に含有させると加工性や靭性を劣化させる元素であり、適量含有することが好ましい。
【0040】
MgとCaを含有させる場合の好ましい範囲は、それぞれ0.0005?0.020質量%である。MgとCaを含有させる場合のより好ましい下限値は、それぞれ0.0008質量%であり、さらに好ましい下限値は、それぞれ0.0010質量%である。また、MgとCaを含有させる場合のより好ましい上限値は、それぞれ0.019質量%であり、さらに好ましい上限値は、それぞれ0.018質量%である。
【0041】
また、本発明の二相ステンレス鋼材は、前記成分組成が、さらに、所定量のTi、Zr、V、Nb、Bよりなる群から選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
【0042】
(Ti:0.01?0.50質量%、Zr:0.01?0.50質量%、V:0.01?0.50質量%、Nb:0.01?0.50質量%、B:0.0005?0.010質量%)
Ti、Zr、V、NbおよびBは、耐食性を初め、強度特性や加工性を向上させるのに有効な元素である。しかし、Ti、Zr、V、NbおよびBは過剰に含有させると粗大な炭化物もしくは窒化物などの介在物を形成して靭性を低下させる元素であり、適量含有することが好ましい。
【0043】
Ti、Zr、V、Nbを含有させる場合の好ましい範囲は、それぞれ0.01?0.50質量%である。Ti、Zr、V、Nbを含有させる場合のより好ましい下限値はそれぞれ0.012質量%であり、さらに好ましい下限値はそれぞれ0.015質量%である。また、Nb、Ti、Zr、Vを含有させる場合のより好ましい上限値はそれぞれ0.48質量%であり、さらに好ましい上限値はそれぞれ0.45質量%である。Bを含有させる場合の好ましい範囲は0.0005?0.010質量%以下である。Bを含有させる場合のより好ましい下限値は0.0006質量%であり、さらに好ましい下限値は0.0008質量%である。Bを含有させる場合のより好ましい上限値は0.0095質量%であり、さらに好ましい上限値は0.0090質量%である。
【0044】
(二相ステンレス鋼材の製造方法)
本発明の二相ステンレス鋼材は、通常のステンレス鋼材の量産に用いられている製造設備および製造方法によって製造することができる。例えば、転炉あるいは電気炉にて溶解した溶鋼に対して、AOD法やVOD法などによる精錬を行って成分調整した後、連続鋳造法や造塊法などの鋳造方法で鋼塊とする。得られた鋼塊を1100℃?1300℃程度の温度域にて熱間加工を行い、次いで冷間加工を行って所望の寸法形状にすることができる。
【0045】
本発明においては、所定量のSnの作用効果を得るためには、二相ステンレス鋼材にSnを固溶させることが好ましい。熱間加工後の冷却時などにSnが他の合金元素と化合物として析出した場合などには耐食効果が得られにくくなる。このため、熱間加工工程以降に固溶化熱処理を施して急冷することが好ましい。固溶化熱処理の温度は、950℃?1050℃が好ましく、保持時間は10分から30分が好ましく、急冷は10℃/秒以上の冷却速度で冷却することが好ましい。また、必要に応じてスケール除去などの表面調整のための酸洗を行うことができる。
【0046】
<二相ステンレス鋼管>
本発明に係る二相ステンレス鋼管の実施形態について説明する。
本発明の二相ステンレス鋼管は、前記二相ステンレス鋼材からなるもので、通常のステンレス鋼管の量産に用いられる製造設備および製造方法によって製造することができる。例えば、丸棒を素材とした押出製管やマンネスマン製管、板材を素材として成形後に継ぎ目を溶接する溶接製管などによって、所望の寸法にすることができる。また、二相ステンレス鋼管の寸法は、鋼管が使用されるアンビリカル、海水淡水化プラント、LNG気化器、油井管、各種化学プラントなどに応じて適宜設定することができる。
【実施例】
【0047】
本発明に係る二相ステンレス鋼材の実施例について、以下に説明する。
<第1の実施例>
[供試材の作製]
25Cr系二相ステンレス鋼材を溶製して、塩化物腐食環境における耐食性の評価を行った。表1および表2に示す種々の成分組成のステンレス鋼材を約50kg真空溶解炉により溶解し、鋳造により鋳塊とした。得られた鋳塊を熱間鍛造により、断面が50×120mm(長さ適宜)のステンレス鋼塊を得た。次いで、1150℃に加熱した後、熱間圧延を行って、板厚6mmのステンレス鋼素材とした。次いで、1050℃に加熱し、30分保持後に水冷する条件の固溶化熱処理を行った。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
作製したステンレス鋼素材より以下の電気化学試験およびSCC(応力腐食割れ)試験に用いるテストピースを切り出した。電気化学試験に用いたテストピースは、大きさが50×20×2(mm)であり、測定面は湿式回転研磨機によるSiC#600まで研磨仕上げとした。SCC試験に用いたテストピースは、大きさが75×10×2(mm)であり、全面を湿式回転研磨機によるSiC#600まで研磨仕上げとした。すべてのテストピースは、水洗およびアセトン洗浄をしてから下記試験方法に従って試験に供試した。また、電気化学試験およびSCC試験の結果に基づいて、耐食性について総合評価を行った。その結果を表3、表4に示す。なお、総合評価は、耐食性が不良(×)、良好(○)、やや優れている(○?◎)、優れている(◎)の4段階で評価した。
【0051】
また、作製したステンレス鋼素材を圧延方向と平行な断面を埋込み鏡面研磨し、シュウ酸水溶液中で電解エッチングを行った後、倍率100倍で光学顕微鏡観察を行い、画像解析により着色されたフェライト相の面積率(α面積率)を求めた。α面積率は10視野の平均値とした。その結果を、ステンレス鋼材の耐孔食性を表す指標であるPRE値([Cr]+3.3[Mo]+16[N])と共に、表3、表4に示す。
【0052】
[電気化学試験方法]
塩化物環境における耐食性評価試験として、80℃の20%塩化ナトリウム水溶液中での孔食電位(Epit)および腐食すきま再不働態化電位(Ercrev)の電気化学測定を実施した。これらの特性値はそれぞれ、孔食およびすきま腐食発生の臨界電位と考えられ、ステンレス鋼材の耐食性を示す指標である。
【0053】
Epitは、JISG0577(1981)に規定された測定手順に準じて電流密度が1000μA/cm2となるまでアノード分極曲線を測定し、電流密度が100μA/cm2に相当する最も貴な電位(V vs.SCE:飽和カロメル電極基準の電位)とした。なお、アノード分極曲線においては、0.9V(vs.SCE)付近から水の分解の酸素発生反応による電流上昇が起こるため、Epitが0.9V(vs.SCE)を大きく超える材料については本手法ではEpitを測定できない。そこで、上記方法により孔食電位が0.9V(vs.SCE)と測定されたものについては、アノード分極曲線測定後のテストピースを50倍の光学顕微鏡にて孔食の発生状況を観察した。孔食が発生していないものについては、電流上昇は酸素発生によるものとし、Epitは0.9V(vs.SCE)を超えるものとした。Ercrevは、JISG0592(2002)の規定に準じて測定した電位(V vs.SCE)とした。ただし、すきま形成材はPTFE製のマルチクレビスとして、すきま腐食成長過程は電流値500μA、時間3hの定電流電解とした。
なお、本実施例においては、耐孔食性についてはEpitが0.400V(vs.SCE)以上である場合を良好と判断し、耐すきま腐食性についてはErcrevが-0.300V(vs.SCE)以上である場合を良好と判断した。
【0054】
[SCC試験方法]
応力負荷したテストピースを腐食環境に暴露し、H2SおよびCO2を含有する塩化物環境における応力腐食割れ(SCC)の有無を調査した。75×10×2(mm)のテストピースには、各材料の降伏応力と等しい応力を4点曲げによって負荷した。応力負荷したテストピースを、H2S+CO2ガスを封入したオートクレーブ中に20%NaCl水溶液中に14日間浸漬した。このとき、H2S分圧は0.1MPa、CO2分圧は0.9MPaとして、温度は200℃とした。14日間浸漬後に目視によりテストピースの割れ発生の有無を観察し、割れが認められないテストピースについては長手方向の断面を100倍の光学顕微鏡により割れ発生の有無を観察した。
【0055】
本試験では、目視観察で割れ発生が認められたか、または光学顕微鏡により深さ50μm以上の割れ発生が認められた場合を「SCC有り」、光学顕微鏡により深さ50μm未満の微小な割れの発生が認められた場合を「SCC無し(微小割れ)」、光学顕微鏡により割れが全く認められなかった場合を「SCC無し(割れ無し)」と判定した。
【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
表3および表4の結果から、本発明の特許請求の範囲を満足しないNo.1?9、63、64(比較例)は、後記するNo.10?47、58?62(実施例、参考例)に比べてEpitおよびErcrevが卑となり、SCC(応力腐食割れ)も発生したため、耐食性が不良(×)であった。なお、No.1?8、63(比較例)のそれぞれは、Mn、P、S、Al、Mo、SnおよびNが特許請求の範囲を満足しないため、耐食性向上効果が得られない。また、No.7、9、64(比較例)のそれぞれは、N/Snが特許請求の範囲を満足しないため耐食性向上効果が得られない。
【0059】
これらに対して、No.10?47、58?62(実施例、参考例)は、いずれもEpitが0.400V(vs.SCE)以上となっており、No.1?9、63、64(比較例)に比べて孔食が発生しにくい。また、Ercrevもいずれもが-0.300V(vs.SCE)以上となっており、No.1?9、63、64(比較例)に比べてすきま腐食も発生しにくい。さらに、SCCも発生しない。したがって、No.10?47、58?62(実施例、参考例)は、耐食性が、良好(○)、やや優れている(○?◎)、優れている(◎)であった。
【0060】
次に、作製したステンレス鋼素材より以下の耐すきま腐食性試験に用いるテストピースを切り出した。耐すきま腐食性試験に用いたテストピースは、大きさが30×20×2(mm)であり、全面を湿式回転研磨機によるSiC#600まで研磨仕上げとした。テストピースは、水洗およびアセトン洗浄をしてから下記試験方法に従って試験に供試した。また、耐すきま腐食性試験の結果に基づいて、耐食性の総合評価を再度行った。その結果を、PRE値と共に、表5に示す。
【0061】
[耐すきま腐食性評価法]
すきまを付与したテストピースを塩化鉄(FeCl3)の溶液に浸漬し、すきま腐食発生確率を調査した。30×20×2(mm)のテストピースをPTFE製のマルチクレビスではさんで固定し、JISG0578(1981)に規定された測定手順に準じて0.05NHCl+6質量%FeCl3水溶液に24時間浸漬した。この時温度は60℃とした。浸漬後、テストピースを目視で観察し腐食が発生したすきまの数から腐食発生確率を算出した。
【0062】
【表5】

【0063】
表5の結果から、No.1、63、64(比較例)は、Sn、N/Sn比が本発明の特許請求の範囲を満足しないため、腐食発生確率が高かった。これらに対して、No.10、58?62(参考例)は、いずれも腐食発生確率がNo.1、63、64(比較例)の半分以下であった。したがって、No.10、58?62(参考例)は、耐食性が良好(○)、優れている(◎)であった。
【0064】
<第2の実施例>
[供試材の作製および試験方法]
18?30Cr系二相ステンレス鋼材を溶製して、塩化物腐食環境における耐食性の評価を行った。用いたステンレス鋼材の成分組成は表6に示す通りであり、溶製方法は第1の実施例と同様である。第1の実施例と同様のテストピースを用いて、第1の実施例と同様の電気化学試験およびSCC試験を行い、これらのステンレス鋼材の耐食性評価を行った。また、PRE値、α面積率についても第1の実施例1と同様にして測定した。その結果を表7に示す。
【0065】
【表6】

【0066】
【表7】

【0067】
表6、表7、図1、図2の結果から、本発明の特許請求の範囲を満足するNo.53?56(実施例)はいずれもEpitが0.400V(vs.SCE)以上、Ercrevが-0.300V(vs.SCE)以上と、本発明の特許請求の範囲を満足しないNo.48?51(比較例)に比べて、EpitおよびErcrevの双方が貴化しており、耐食性向上効果が得られることがわかる。なお、Cr含有量を30質量%とした材料で比較すると、Sn添加のNo.57(比較例)はSnを添加しないNo.52(比較例)よりもErcrevの貴化は認められるものの、No.52(比較例)とNo.57(比較例)は双方とも、Crを過剰に含有するため、加工性が低下し、実用的ではない。
【0068】
以上のように、本発明の二相ステンレス鋼材および二相ステンレス鋼管について説明したが、本発明はもとより前記の実施形態および実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含されるものである。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材であって、前記二相ステンレス鋼材の成分組成は、
C :0.10質量%以下、
Si:0.1?2.0質量%、
Mn:0.1?2.0質量%、
P :0.05質量%以下、
S :0.030質量%以下、
Al:0.005?0.050質量%、
Cr:18.0?29.0質量%、
Ni:1.0?10.0質量%、
Mo:2.5?6.0質量%、
Sn:0.001?0.30質量%、
N :0.16?0.50質量%、かつ、
前記N量と前記Sn量との質量比(N/Sn)が20?400であって、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、前記Snの全てが固溶していることを特徴とする二相ステンレス鋼材。
【請求項2】
前記成分組成は、さらに、
Cu:0.1?2.0質量%、
Co:0.1?2.0質量%、
W :0.1?6.0質量%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の二相ステンレス鋼材。
【請求項3】
前記成分組成は、さらに、
Mg:0.0005?0.020質量%、
Ca:0.0005?0.020質量%
の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の二相ステンレス鋼材。
【請求項4】
前記成分組成は、さらに、
Ti:0.01?0.50質量%、
Zr:0.01?0.50質量%、
V :0.01?0.50質量%、
Nb:0.01?0.50質量%、
B :0.0005?0.010質量%
よりなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼材。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼材からなることを特徴とする二相ステンレス鋼管。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-10-25 
出願番号 特願2013-11282(P2013-11282)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C22C)
P 1 651・ 536- YAA (C22C)
P 1 651・ 537- YAA (C22C)
P 1 651・ 121- YAA (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 葉子  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 中澤 登
長谷山 健
登録日 2018-09-21 
登録番号 特許第6405078号(P6405078)
権利者 株式会社神戸製鋼所
発明の名称 二相ステンレス鋼材および二相ステンレス鋼管  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
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