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審判番号(事件番号) データベース 権利
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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 発明同一  C09J
管理番号 1357688
異議申立番号 異議2018-700579  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-13 
確定日 2019-11-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6262585号発明「ホットメルト接着剤及び紙製包装用資材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6262585号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6262585号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成26年3月27日〔優先権主張:平成25年3月29日(JP)日本国〕に特許出願されたものであって、平成29年12月22日に特許権の設定登録がされ、平成30年1月17日にその特許公報が発行され、その請求項1?4に係る発明の特許に対し、平成30年7月13日に佐藤幸代(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。
平成30年 9月28日付け 取消理由通知
同年11月30日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年12月17日付け 訂正請求があった旨の通知
平成31年 1月17日 意見書(特許異議申立人)
同年 1月31日付け 訂正拒絶理由通知
同年 3月 7日 意見書・手続補正書(特許権者)
同年 3月19日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和元年 5月21日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 5月23日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 6月18日 意見書(特許異議申立人)
同年 7月 4日付け 訂正拒絶理由通知
同年 8月 8日 意見書・手続補正書(特許権者)

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
平成30年11月30日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされるところ、
令和元年5月21日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は『特許第6262585号の明細書、特許請求の範囲を本請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?4からなる一群の請求項について訂正することを求める。』というものであり、その内容は、以下の訂正事項1?4からなるものである(なお、訂正箇所に下線を付す。)。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項3において「ポリプロピレンを、エチレン-α-オレフィン共重合体100重量部に対して、25?400重量部含むことを特徴とする請求項1に記載のホットメルト接着剤。」とあるのを、
訂正後の請求項3において「α-オレフィンの炭素数が6?8であるエチレン-α-オレフィン共重合体と、軟化点が80?100℃であるポリプロピレンとを含み、且つ上記エチレン-α-オレフィン共重合体及び上記ポリプロピレンの合計100重量部に対して、軟化点が110?130℃である石油樹脂50?120重量部、及びフィシャートロプシュワックス25?75重量部を含むことを特徴とするホットメルト接着剤であって、前記ポリプロピレンを、前記エチレン-α-オレフィン共重合体100重量部に対して、25?400重量部含むことを特徴とする、前記ホットメルト接着剤。」に訂正する。
(また、請求項3を直接的に引用する請求項4も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(4)訂正事項4
明細書の段落0007の「本発明のホットメルト接着剤は、エチレン-α-オレフィン共重合体、軟化点が80?100℃であるポリプロピレン、軟化点が110?150℃である粘着付与剤、及びワックスを含むことを特徴とする。」との記載を、訂正後の「本発明のホットメルト接着剤は、α-オレフィンの炭素数が6?8であるエチレン-α-オレフィン共重合体と、軟化点が80?100℃であるポリプロピレンとを含み、且つ上記エチレン-α-オレフィン共重合体及び上記ポリプロピレンの合計100重量部に対して、軟化点が110?130℃である石油樹脂50?120重量部、及びフィシャートロプシュワックス25?75重量部を含むことを特徴とするホットメルト接着剤であって、前記ポリプロピレンを、前記エチレン-α-オレフィン共重合体100重量部に対して、25?400重量部含むことを特徴とする。」に訂正する。

なお、上記訂正事項1?4に含まれない事項として、本件訂正の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲では、訂正前の請求項4の「請求項1?3の何れか1項に記載のホットメルト接着剤」との記載部分が、訂正後に「請求項3に記載のホットメルト接着剤」に変更されているところ、この点の不備を指摘した審尋(く)に対して、令和元年8月8日付けの手続補正では適切な補正がなされていない。

2.令和元年8月8日付けの手続補正について
(1)補正の内容
令和元年8月8日付けの手続補正(以下「変更補正」という。)は、令和元年5月21日に提出された訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項3に
「α-オレフィンの炭素数が6?8であるエチレン-α-オレフィン共重合体と、軟化点が80?100℃であるポリプロピレンとを含み、且つ上記エチレン-α-オレフィン共重合体及び上記ポリプロピレンの合計100重量部に対して、軟化点が110?130℃である石油樹脂50?120重量部、及びフィシャートロプシュワックス25?75重量部を含むことを特徴とするホットメルト接着剤であって、前記ポリプロピレンを、前記エチレン-α-オレフィン共重合体100重量部に対して、25?400重量部含むことを特徴とする、前記ホットメルト接着剤。」とあるのを、
「α-オレフィンの炭素数が6または8であるエチレン-α-オレフィン共重合体と、軟化点が80?100℃であるポリプロピレンとを含み、且つ上記エチレン-α-オレフィン共重合体及び上記ポリプロピレンの合計100重量部に対して、軟化点が110?130℃である粘着付与剤50?120重量部、及びフィッシャートロプシュワックス25?75重量部を含むことを特徴とするホットメルト接着剤であって、前記粘着付与剤が石油樹脂の水素添加物であり、前記ポリプロピレンを、前記エチレン-α-オレフィン共重合体100重量部に対して、25?400重量部含むことを特徴とする、前記ホットメルト接着剤。」に補正することを含むものである(なお、補正箇所に下線を付した。)。

(2)変更補正の許否
特許法第120条の5第9項で準用する同法第131条の2第1項は「請求書の補正は、その要旨を変更するものであつてはならない。」と規定している。そして、要旨を変更するとは、訂正請求書の記載事項のうち、請求の趣旨(訂正事項)の記載を変更することによって、補正の前後で請求の基礎である「訂正を申し立てている事項」の同一性や範囲を変更することであるところ、訂正請求書に添付した「訂正特許請求の範囲」は、その「請求の趣旨」と一体不可分のものであるから、当該「訂正特許請求の範囲」を補正することも、その「請求の趣旨」を変更する補正として扱われることとなる。
この点を踏まえて変更補正をみると、変更補正は、補正前の訂正特許請求の範囲の請求項3に記載されている「石油樹脂」を、補正後の「石油樹脂の水素添加物」の「粘着付与剤」に変更することを含むものであって、補正前の「石油樹脂」と、補正後の「石油樹脂の水素添加物」は、水素添加の有無において構造の異なる別の化合物であるから、この交換的変更は、補正の前後の「訂正を申し立てている事項」の範囲を実質的に変更するものである。
したがって、変更補正は、本件訂正の「請求の趣旨」を変更する補正を含むから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第131条の2第1項の規定に違反しており、当該補正を許可することはできない。

3.本件訂正による訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア.訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1のみを引用する請求項3において、訂正前の「軟化点が110?130℃である粘着付与剤50?120重量部」という発明特定事項に対応する事項を、訂正後の「軟化点が110?130℃である石油樹脂50?120重量部」という発明特定事項に改める訂正を含むものである。
すなわち、訂正事項1は、訂正前は「粘着付与」という「物質の特性」によって特定されていた「剤」を、訂正後は「石油樹脂」という「物質の特性」によって特定されていない「材料名」に「変更」する訂正を含むものといえる。
そして、特許異議申立人が令和元年6月18日付けで提出した意見書に添付された参考資料2(化学大辞典5)の第319頁の「せきゆじゅし石油樹脂」の項の「石油樹脂」が「石油系不飽和炭化水素を直接原料とする樹脂」であって「アルミニウムペイントなどの展色剤,ゴムの軟化剤,印刷インキ,布やコンクリートの防水,接着剤に使用される」との記載からみて、全ての「石油樹脂」が「粘着付与」の「物質の特性」を有するものと直ちに解することはできない。
してみると、訂正前の請求項1のみを引用する請求項3の「粘着付与剤」という事項を、訂正後の請求項3の「石油樹脂」という事項に変更する訂正は、訂正前の「粘着付与」という「物質の特性」による特定を「削除」している点において、訂正後の請求項3の範囲を減縮しているとは認められず、このような訂正を含む訂正事項1が、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するとは認められない。
また、このような訂正を含む訂正事項1が、同項第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」、同項第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」、又は同項第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」のいずれかを目的とするものに該当するとも認められない。

加えて、訂正事項1は、訂正前の請求項3の記載において「ポリプロピレンを…25?400重量部含むことを特徴とする」としていた発明特定事項を、訂正後の請求項3において「軟化点が80?100℃であるポリプロピレンとを含み、…前記ポリプロピレンを…25?400重量部含むことを特徴とする」という発明特定事項に改める訂正を含むものである。
すなわち、訂正事項1は、訂正前の請求項3において「軟化点が80℃未満及び100℃超のポリプロピレン」を含むポリプロピレンの量を「25?400重量部含む」としていたのに、訂正後の請求項3において「軟化点が80℃未満及び100℃超のポリプロピレン」を含まない「軟化点が80?100℃であるポリプロピレン」のポリプロピレンの量を「25?400重量部含む」ものとすることにより、訂正後の「軟化点が80℃未満及び100℃超のポリプロピレン」を含めたポリプロピレンの量を、訂正前の「25?400重量部含む」よりも広い範囲に「拡張」する訂正を含むものといえる。
してみると、上記のような「拡張」を含む訂正事項1が、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するとは認められない。
また、平成31年3月19日付けの取消理由通知書の第42頁の『例えば「本発明のホットメルト接着剤は、ポリプロピレンとして軟化点が80?100℃であるポリプロピレンのみを含んでいる。」となっていないので、本件明細書の段落0014?0017の記載振りを含む明細書全体の記載を総合しても、本件特許の請求項3及び本件明細書の段落0017に記載された「ポリプロピレン」が「軟化点が80?100℃であるポリプロピレン」を一義的に意味するとは解せない。』との指摘をしていたところ、上記「拡張」を含む訂正によって、訂正後の請求項3における「軟化点が80℃未満及び100℃超のポリプロピレン」を含めたポリプロピレンの含有量の範囲が尚更に不明確になったので、このような訂正を含む訂正事項1が、同項第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当するとは認められない。
さらに、このような訂正を含む訂正事項1が、同項第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」、又は同項第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」のいずれかを目的とするものに該当するとも認められない。

したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項に掲げる事項を目的とするものに該当しない。

イ.特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
上記ア.に示したように、訂正事項1は、訂正前の請求項3を「変更」及び/又は「拡張」するものであるから、当該訂正は実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものである。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないとはいえないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものではない。

ウ.特許明細書等に記載した事項の範囲内
特許権者は、平成29年11月27日付け意見書(甲第13号証)において『本願請求項1では、「上記エチレン-α-オレフィン共重合体及び上記ポリプロピレンの合計100重量部に対して、軟化点が110?130℃である粘着付与剤50?120重量部」と記載する補正を行いました。粘着付与剤の軟化点の上限値(130℃)については明細書段落[0045]の「粘着付与剤B(軟化点Sp:130℃)」に記載されており、粘着付与剤の含有量については明細書段落[0025]に記載されており、これらの記載に基づいて上記補正を行っております。』との釈明をしている。
しかしながら、本件特許明細書の段落0045には「粘着付与剤B(軟化点Sp:130℃、石油樹脂の水素添加物、イーストマンケミカル社製 製品名「イーストタックH130W])」と記載されており、一般に「石油樹脂」と「石油樹脂の水添物」は粘着付与剤の技術分野において同じ種類のものとして認識されていないので、本件特許の出願時の技術水準を考慮しても、訂正後の「軟化点が…130℃である石油樹脂」という事項の導入が当業者に自明であるといえる根拠は見当たらない。
このため、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲の記載を総合しても、訂正後の請求項3に導入された「軟化点が110?130℃である石油樹脂50?120重量部」という事項を導くことができるとは認められない。

また、特許権者は、令和元年5月21日付けの訂正請求書の第5頁第6?11行において『「フィシャートロプシュワックス」については、当初明細書の段落【0027】に「なかでも、フィッシャートロプシュワックス及びパラフィンワックスが好ましく、フィッシャートロプシュワックスがより好ましい。」と記載されていることから、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり』との主張をしているが、本件特許明細書(誤記又は誤訳の訂正を目的とする訂正の場合にあっては本件当初明細書)の段落0027の「フィッシャー」との記載に基づいて、訂正後の請求項3の「フィシャー」という事項を導くことができるとはいえない。
このため、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲の記載を総合しても、訂正後の請求項3に導入された「フィシャートロプシュワックス」という事項を導くことができるとは認められない。

したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書の、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。

(2)訂正事項4について
訂正事項4は、本件特許明細書の段落0007の記載に「軟化点が110?130℃である石油樹脂50?120重量部」という事項を導入する訂正を含むところ、上記(1)ウ.に示した理由と同様の理由により、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲の記載を総合しても、訂正後の段落0007に導入された「軟化点が110?130℃である石油樹脂50?120重量部」という事項を導くことができるとは認められない
したがって、訂正事項4は、願書に添付した明細書の、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。

(3)一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1?4について、その請求項2?4はいずれも請求項1を直接又は間接に引用しているものであるから、訂正前の請求項1?4に対応する訂正後の請求項1?4は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
したがって、訂正事項1による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。
また、訂正事項4による明細書の訂正に係る請求項は、訂正前の請求項1?4であるから、訂正事項4と関係する一群の請求項が請求の対象とされている。
したがって、訂正事項4による本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。

3.まとめ
以上総括するに、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項に掲げる事項を目的とするものに該当せず、また、訂正事項1は、同法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第6項の規定に適合するものではなく、さらに、訂正事項1及び4は、同法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項の規定に適合するものではないから、請求項1?4に係る一群の請求項の訂正を認めることができない。

第3 本件発明
本件訂正は上記のとおり認められないところ、特許第6262585号の請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明4」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】エチレン-α-オレフィン共重合体と、軟化点が80?100℃であるポリプロピレンとを含み、且つ上記エチレン-α-オレフィン共重合体及び上記ポリプロピレンの合計100重量部に対して、軟化点が110?130℃である粘着付与剤50?120重量部、及びワックス25?75重量部を含むことを特徴とするホットメルト接着剤。
【請求項2】エチレン-α-オレフィン共重合体が、エチレン-1-オクテン共重合体を含むことを特徴とする請求項1に記載のホットメルト接着剤。
【請求項3】ポリプロピレンを、エチレン-α-オレフィン共重合体100重量部に対して、25?400重量部含むことを特徴とする請求項1に記載のホットメルト接着剤。
【請求項4】請求項1?3の何れか1項に記載のホットメルト接着剤を用いて形成されてなることを特徴とする紙製包装用資材。」

第4 取消理由通知の概要
平成31年3月19日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知された取消理由の概要は、次の理由1?5からなるものである。

理由1(拡大先願):本件発明1?4は、甲第1号証に係る国際出願の当初明細書中に記載された発明と同一である。そして、甲第1号証に係る国際出願の優先日は、本件の優先日より前であり、本件出願後に国際公開がされており、しかも、本件出願の発明者が甲第1号証に記載された発明をした者と同一ではなく、また本件出願の時において、その出願人が甲第1号証の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができず、本件発明1?4に係る特許は取り消すべきものである。

理由2(進歩性):本件発明1?4は、甲第2号証に記載された発明、又は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本件発明1?4に係る特許は取り消すべきものである。

理由3(サポート要件):本件発明1?4に係る特許の特許請求の範囲には、下記の点で不備があり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件発明1?4に係る特許は取り消すべきものである。

ア「ワックス」について
イ「粘着付与剤」について
ウ「エチレン-α-オレフィン共重合体」について
エ「ポリプロピレンの含有量」について

理由4(明確性要件):本件発明1?4に係る特許の特許請求の範囲には、下記の点で不備があり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件発明1?4に係る特許は取り消すべきものである。

オ「ポリプロピレンの軟化点」について

理由5(拡大先願):本件発明1?4は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約第二十1条に規定する国際公開がされた下記Xの特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない(特許法第41条第3項、同法第184条の15第2項参照。)。
X:特願2013-33908号(国際公開第2014/077258号)
よって、本件発明1?4に係る特許は、同法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
1.理由1及び5について
(1)甲第1号証(国際公開第2014/077258号)に係る国際出願の当初明細書中に記載された事項
「[請求項1]下記(a1)?(d1)を満たすプロピレン系重合体。
(a1)[mmmm]=60?80モル%
(b1)重量平均分子量(Mw)=10,000?55,000
(c1)Mw/Mn≦2.5
(d1)[rmrm]<2.5モル%
[請求項2]下記(b1’)を満たす、請求項1に記載のプロピレン系重合体。
(b1’)重量平均分子量(Mw)=10,000?51,000
[請求項3]エチレン系重合体(A)100質量部に対して、請求項1又は2に記載のプロピレン系重合体(B1)1?30質量部を含むホットメルト接着剤。
[請求項4]エチレン系重合体(A)100質量部に対して、下記(a2)及び(b2)を満たすプロピレン系重合体(B2)1?30質量部を含むホットメルト接着剤。
(a2)[mmmm]=20?80モル%
(b2)重量平均分子量(Mw)=1,000?150,000
[請求項5]前記エチレン系重合体(A)がエチレン-α-オレフィン共重合体である、請求項3又は4に記載のホットメルト接着剤。
[請求項6]前記エチレン系重合体(A)がエチレン-1-オクテン共重合体である、請求項3?5のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
[請求項7]前記エチレン系重合体(A)が、エチレンから導かれる構成単位を63?65質量%、1-オクテンから導かれる構成単位を35?37質量%含有するエチレン-1-オクテン共重合体である、請求項3?6のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
[請求項8]エチレン系重合体(A)100質量部に対して、粘着付与樹脂(C)50?200質量部及びワックス(D)50?200質量部を更に含む、請求項3?7のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
[請求項9]請求項3?8のいずれかに記載のホットメルト接着剤を溶融し、少なくとも1つの基材に塗布する工程、及び塗布されたホットメルト接着剤に他の基材を接着する工程を含む、基材と他の基材との接着方法。」

「[0018](e1)融点(Tm-D)
本発明のプロピレン系重合体の融点(Tm-D)は、オープンタイム向上及び耐熱クリープ性向上の観点から、好ましくは0?140℃、より好ましくは20?120℃、更に好ましくは90?120℃である。」

「[0057](エチレン系重合体(A))
本発明に用いられるエチレン系重合体(A)は本発明のホットメルト接着剤のベースポリマーであり、具体的には、ポリエチレンや、エチレンと炭素数3?10のオレフィンとの共重合体が挙げられる。接着性の観点からは、好ましくはエチレン-α-オレフィン共重合体である。α-オレフィンの具体例としては、プロピレン、1-ブテン,1-ペンテン,4-メチル-1-ペンテン,1-ヘキセン,1-オクテン,1-デセン,1-ドデセン,1-テトラデセン,1-ヘキサデセン,1-オクタデセン,1-エイコセン等が挙げられる。本発明においては、これらのうち一種又は二種以上を用いることができる。これらのα-オレフィンの中でも1-オクテンが好ましい。本発明に用いられるエチレン系重合体(A)は、接着性の観点から、より好ましくはエチレン-1-オクテン共重合体であり、更に好ましくはエチレンから導かれる構成単位を63?65質量%、1-オクテンから導かれる構成単位を35?37質量%含有するエチレン-1-オクテン共重合体である。」

「[0059]本発明に用いられるエチレン系重合体(A)の市販品としては、Exactシリーズ(エクソン・モービル社製)、Affinity polymerシリーズ(ダウ・ケミカル社製)等があり、より好ましくは、Affinity GA1950(ダウ・ケミカル社製)が挙げられる(いずれも商品名)。
[0060](粘着付与樹脂(C))
本発明のホットメルト接着剤は、粘着付与樹脂(C)を含有してもよい。
粘着付与樹脂(C)としては、例えば、ロジン誘導体樹脂、ポリテルペン樹脂、石油樹脂、油溶性フェノール樹脂などからなる常温で固体、半固体あるいは液状のもの等を挙げることができる。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明では、ベースポリマーとの相溶性を考慮して、水素添加物を用いることが好ましい。中でも、熱安定性に優れる石油樹脂の水素化物がより好ましい。
粘着付与樹脂(C)の市販品としては、アイマーブP-125、P-100、P-90(以上、出光興産(株)製)、ユーメックス1001(三洋化成工業(株)製)、ハイレッツT1115(三井化学(株)製)、クリアロンK100(ヤスハラケミカル(株)製)、ECR227、エスコレッツ2101(以上、トーネックス(株)製)、アルコンP100(荒川化学(株)製)、Regalrez 1078(ハーキュレス(Hercules)社製)、Eastotac H-130R(イーストマン・ケミカル社製)等を挙げることができる(いずれも商品名)。
本発明のホットメルト接着剤における粘着付与樹脂(C)の含有量は、粘着性向上及び粘度低下による被着体への濡れ性向上の観点から、エチレン系重合体(A)100質量部に対して、好ましくは50?200質量部、より好ましくは70?150質量部、更に好ましくは80?120質量部である。
[0061](ワックス(D))
本発明のホットメルト接着剤は、ワックス(D)を含有してもよい。
ワックス(D)としては、例えば、動物ワックス、植物ワックス、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、木蝋、蜜蝋、鉱物ワックス、石油ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、高級脂肪酸ワックス、高級脂肪酸エステルワックス、フィッシャー・トロプシュワックス等が挙げられる。
本発明のホットメルト接着剤におけるワックス(D)の含有量は、柔軟性向上、粘度低下による濡れ性の向上の観点から、エチレン系重合体(A)100質量部に対して、好ましくは50?200質量部、より好ましくは60?150質量部、更に好ましくは70?120質量部である。ワックスの添加量が多くなると、ホットメルト接着剤の粘度が低くなる。」

「[0063][本発明の第2の実施態様のホットメルト接着剤]
本発明の第2の実施態様のホットメルト接着剤は、エチレン系重合体(A)と下記(a2)及び(b2)を満たすプロピレン系重合体(B2)を含有する。
(a2)[mmmm]=20?80モル%
(b2)重量平均分子量(Mw)=1,000?150,000
本発明の第2の実施態様のホットメルト接着剤では、良好な耐熱クリープ性と適度なオープンタイムとのバランスから、エチレン系重合体(A)100質量部に対して、上記の本発明のプロピレン系重合体(B2)1?30質量部、好ましくは5?25質量部、より好ましくは10?20質量部を含有する。ベースポリマーであるエチレン系重合体(A)に対して本発明のプロピレン系重合体(B2)を改質剤として配合することにより、本発明の第2の実施態様のホットメルト接着剤は、良好な耐熱クリープ性と適度なオープンタイムとのバランスに優れる。
[0064]本発明の第2の実施態様のホットメルト接着剤におけるエチレン系重合体(A)、粘着付与樹脂(C)、ワックス(D)及び各種添加剤については、本発明の第1の実施態様のホットメルト接着剤について説明したものと同様である。
[0065](プロピレン系重合体(B2))
本発明の第2の実施態様のホットメルト接着剤に用いられるプロピレン系重合体(B2)は、下記(a2)及び(b2)を満たす。また、好ましくは更に下記(c2)?(e2)を満たす。
(a2)[mmmm]=20?80モル%
(b2)重量平均分子量(Mw)=1,000?150,000
(c2)Mw/Mn≦2.5
(d2)[rmrm]≧2.5モル%
(e2)融点(Tm-D)=0?140℃」

「[0073]なお、プロピレン系重合体(B2)の市販品としては、エルモーデュS400(出光興産(株)製)等を挙げることができる。」

「[0084]製造例3
(ポリプロピレン3の製造)
撹拌機付き、内容積68m^(3)のステンレス製反応器に、n-ヘプタンを5.2m^(3)/h、トリイソブチルアルミニウムを0.6mol/h、さらに、ジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレートと錯体Bとトリイソブチルアルミニウムとプロピレンを事前に接触させ得られた触媒成分をジルコニウムあたり0.7mmol/hで連続供給した。
重合温度85℃で気相部水素濃度を5.0mol%、反応器内の全圧を1.7MPa・Gに保つようプロピレンと水素を連続供給した。
得られた重合溶液に、イルガノックス1010(商品名、BASF社製)を、重合溶液中の含有量が1000ppmになるように添加し、溶媒を除去することにより、プロピレン単独重合体(ポリプロピレン3)を得た。」

「[0094][表1-1]



「[0096]以下のホットメルト接着剤の製造に用いた原料を示す。
<エチレン系重合体(A)(ベースポリマー)>
エチレン-1-オクテン共重合体(商品名:Affinity GA1950、ダウ・ケミカル社製、重量平均分子量:38000、1-オクテンの含有量:35?37重量%、メルトフローレート:500g/10min)
<プロピレン系重合体(B)>
(B-X)エチレン-プロピレン共重合体(商品名:Licocene PP2602、クラリアント社製、エチレン:プロピレン=15mol%:85mol%)
(B-Y)ポリプロピレン(商品名:ビスコール 660-P、三洋化成工業(株)製)
(B-Z)エチレン-プロピレン-ブテン共重合体(商品名:VESTOPLAST 708、Evonik社製、重量平均分子量(Mw):75,000、分子量分布(Mw/Mn):6.5)
<粘着付与樹脂(C)>
(C-1)脂肪族系炭化水素石油樹脂の水素化誘導体(商品名:Eastotac H-130R、イーストマン・ケミカル社製、軟化点:130℃)
(C-2)水添石油樹脂(商品名:アイマーブP-125、出光興産(株)製、軟化点:125℃)
<ワックス(D)>
(D-1)フィッシャー・トロプシュワックス(商品名:Paraflint H1、サゾール・ワックス社製)
(D-2)ポリプロピレンワックス(商品名:ビスコール660-P、三洋化成工業(株)製)
[0097]比較例1?4、実施例1?14、参考例1?5
(包装用ホットメルト接着剤の製造)
表2及び3に記載の材料を、表2及び3に記載の配合比でSUS缶に入れ、180℃で30分加熱して溶融させた後、撹拌翼で15分混合・撹拌し、ホットメルト接着剤を作製した。得られたホットメルト接着剤について以下の評価を行った。」

「[0105][表2-1]

[0106][表2-2]



「[0114]本発明のプロピレン系重合体は、ホットメルト接着剤の分野に好適に利用できる。また、本発明のホットメルト接着剤は、ダンボール等の包装用の接着剤や、衛生用品用、木工用、製本用、繊維用、電気材料用、製缶用、建築用及び製袋用等の接着剤として好適に利用できる。」

(2)出願X(特願2013-33908号)の当初明細書中に記載された事項
摘記X1:請求項1?9
「【請求項1】下記(a1)?(d1)を満たすプロピレン系重合体。
(a1)[mmmm]=60?80モル%
(b1)重量平均分子量(Mw)=10,000?55,000
(c1)Mw/Mn≦2.5
(d1)[rmrm]<2.5モル%
【請求項2】下記(b1’)を満たす、請求項1に記載のプロピレン系重合体。
(b1’)重量平均分子量(Mw)=10,000?51,000
【請求項3】エチレン系重合体(A)100質量部に対して、請求項1又は2に記載のプロピレン系重合体(B1)1?30質量部を含むホットメルト接着剤。
【請求項4】エチレン系重合体(A)100質量部に対して、下記(a2)及び(b2)を満たすプロピレン系重合体(B2)1?30質量部を含むホットメルト接着剤。
(a2)[mmmm]=20?80モル%
(b2)重量平均分子量(Mw)=1,000?150,000
【請求項5】前記エチレン系重合体(A)がエチレン-α-オレフィン共重合体である、請求項3又は4に記載のホットメルト接着剤。
【請求項6】前記エチレン系重合体(A)がエチレン-1-オクテン共重合体である、請求項3?5のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
【請求項7】前記エチレン系重合体(A)が、エチレンから導かれる構成単位を63?65質量%、1-オクテンから導かれる構成単位を35?37質量%含有するエチレン-1-オクテン共重合体である、請求項3?6のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
【請求項8】エチレン系重合体(A)100質量部に対して、粘着付与樹脂(C)50?200質量部及びワックス(D)50?200質量部を更に含む、請求項3?7のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
【請求項9】請求項3?8のいずれかに記載のホットメルト接着剤を溶融し、少なくとも1つの基材に塗布する工程、及び塗布されたホットメルト接着剤に他の基材を接着する工程を含む、基材と他の基材との接着方法。」

摘記X2:段落0018及び0057
「【0018】(e1)融点(Tm-D)
本発明のプロピレン系重合体の融点(Tm-D)は、オープンタイム向上及び耐熱クリープ性向上の観点から、好ましくは0?140℃、より好ましくは20?120℃、更に好ましくは40?100℃である。・・・
【0057】(エチレン系重合体(A))
本発明に用いられるエチレン系重合体(A)は本発明のホットメルト接着剤のベースポリマーであり、具体的には、ポリエチレンや、エチレンと炭素数3?10のオレフィンとの共重合体が挙げられる。接着性の観点からは、好ましくはエチレン-α-オレフィン共重合体である。α-オレフィンの具体例としては、プロピレン、1-ブテン,1-ペンテン,4-メチル-1-ペンテン,1-ヘキセン,1-オクテン,1-デセン,1-ドデセン,1-テトラデセン,1-ヘキサデセン,1-オクタデセン,1-エイコセン等が挙げられる。本発明においては、これらのうち一種又は二種以上を用いることができる。これらのα-オレフィンの中でも1-オクテンが好ましい。本発明に用いられるエチレン系重合体(A)は、接着性の観点から、より好ましくはエチレン-1-オクテン共重合体であり、更に好ましくはエチレンから導かれる構成単位を63?65質量%、1-オクテンから導かれる構成単位を35?37質量%含有するエチレン-1-オクテン共重合体である。」

摘記X3:段落0059?0061
「【0059】 本発明に用いられるエチレン系重合体(A)の市販品としては、Exactシリーズ(エクソン・モービル社製)、Affinity polymerシリーズ(ダウ・ケミカル社製)等があり、より好ましくは、Affinity GA1950(ダウ・ケミカル社製)が挙げられる(いずれも商品名)。
【0060】(粘着付与樹脂(C))
本発明のホットメルト接着剤は、粘着付与樹脂(C)を含有してもよい。
粘着付与樹脂(C)としては、例えば、ロジン誘導体樹脂、ポリテルペン樹脂、石油樹脂、油溶性フェノール樹脂などからなる常温で固体、半固体あるいは液状のもの等を挙げることができる。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明では、ベースポリマーとの相溶性を考慮して、水素添加物を用いることが好ましい。中でも、熱安定性に優れる石油樹脂の水素化物がより好ましい。
粘着付与樹脂(C)の市販品としては、アイマーブP-125、P-100、P-90(以上、出光興産(株)製)、ユーメックス1001(三洋化成工業(株)製)、ハイレッツT1115(三井化学(株)製)、クリアロンK100(ヤスハラケミカル(株)製)、ECR227、エスコレッツ2101(以上、トーネックス(株)製)、アルコンP100(荒川化学(株)製)、Regalrez 1078(ハーキュレス(Hercules)社
製)等を挙げることができる(いずれも商品名)。
本発明のホットメルト接着剤における粘着付与樹脂(C)の含有量は、粘着性向上及び粘度低下による被着体への濡れ性向上の観点から、エチレン系重合体(A)100質量部に対して、好ましくは50?200質量部、より好ましくは70?150質量部、更に好ましくは80?120質量部である。
【0061】(ワックス(D))
本発明のホットメルト接着剤は、ワックス(D)を含有してもよい。
ワックス(D)としては、例えば、動物ワックス、植物ワックス、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、木蝋、蜜蝋、鉱物ワックス、石油ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、高級脂肪酸ワックス、高級脂肪酸エステルワックス、フィッシャー・トロプシュワックス等が挙げられる。
本発明のホットメルト接着剤におけるワックス(D)の含有量は、柔軟性向上、粘度低下による濡れ性の向上の観点から、エチレン系重合体(A)100質量部に対して、好ましくは50?200質量部、より好ましくは60?150質量部、更に好ましくは70?120質量部である。ワックスの添加量が多くなると、ホットメルト接着剤の粘度が低くなる。」

摘記X4:段落0063?0065
「【0063】[本発明の第2の実施態様のホットメルト接着剤]
本発明の第2の実施態様のホットメルト接着剤は、エチレン系重合体(A)と下記(a2)及び(b2)を満たすプロピレン系重合体(B2)を含有する。
(a2)[mmmm]=20?80モル%
(b2)重量平均分子量(Mw)=1,000?150,000
本発明の第2の実施態様のホットメルト接着剤では、良好な耐熱クリープ性と適度なオープンタイムとのバランスから、エチレン系重合体(A)100質量部に対して、上記の本発明のプロピレン系重合体(B2)1?30質量部、好ましくは5?25質量部、より好ましくは10?20質量部を含有する。ベースポリマーであるエチレン系重合体(A)に対して本発明のプロピレン系重合体(B2)を改質剤として配合することにより、本発明の第2の実施態様のホットメルト接着剤は、良好な耐熱クリープ性と適度なオープンタイムとのバランスに優れる。
【0064】本発明の第2の実施態様のホットメルト接着剤におけるエチレン系重合体(A)、粘着付与樹脂(C)、ワックス(D)及び各種添加剤については、本発明の第1の実施態様のホットメルト接着剤について説明したものと同様である。
【0065】(プロピレン系重合体(B2))
本発明の第2の実施態様のホットメルト接着剤に用いられるプロピレン系重合体(B2)は、下記(a2)及び(b2)を満たす。また、好ましくは更に下記(c2)?(e2)を満たす。
(a2)[mmmm]=20?80モル%
(b2)重量平均分子量(Mw)=1,000?150,000
(c2)Mw/Mn≦2.5
(d2)[rmrm]≧2.5モル%
(e2)融点(Tm-D)=0?140℃」

摘記X5:段落0073
「【0073】なお、プロピレン系重合体(B2)の市販品としては、エルモーデュ S400(出光興産(株)製)等を挙げることができる。」

摘記X6:段落0082
「【0082】製造例3
(ポリプロピレン3の製造)
撹拌機付き、内容積68m^(3)のステンレス製反応器に、n-ヘプタンを5.2m^(3)/h、トリイソブチルアルミニウムを0.6mol/h、さらに、ジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレートと錯体Bとトリイソブチルアルミニウムとプロピレンを事前に接触させ得られた触媒成分をジルコニウムあたり0.7mmol/hで連続供給した。
重合温度85℃で気相部水素濃度を5.0mol%、反応器内の全圧を1.7MPa・Gに保つようプロピレンと水素を連続供給した。
得られた重合溶液に、イルガノックス1010(商品名、BASF社製)を、重合溶液中の含有量が1000ppmになるように添加し、溶媒を除去することにより、プロピレン単独重合体(ポリプロピレン3)を得た。」

摘記X7:段落0092
「【0092】【表1】



摘記X8:段落0093?0094
「【0093】以下のホットメルト接着剤の製造に用いた原料を示す。
<エチレン系重合体(A)(ベースポリマー)>
エチレン-1-オクテン共重合体(商品名:Affinity GA1950、ダウ・ケミカル社製、重量平均分子量:38000、1-オクテンの含有量:35?37重量%、メルトフローレート:500g/10min)
<プロピレン系重合体(B)>
エチレン-プロピレン共重合体(商品名:Licocene PP 2602、クラリアント社製、エチレン:プロピレン=15mol%:85mol%)
ポリプロピレン(商品名:ビスコール 660-P、三洋化成工業(株)製)
<粘着付与樹脂(C)>
脂肪族系炭化水素石油樹脂の水素化誘導体(商品名:Eastotac H-130R、イーストマン・ケミカル社製、軟化点:130℃)
<ワックス(D)>
フィッシャー・トロプシュワックス(商品名:Paraflint H1、サゾール・ワックス社製)
【0094】比較例1?4、実施例1?8、参考例1?5
(ホットメルト接着剤の製造)
表2に記載の材料を表2に記載の配合比でサンプル瓶に入れ、180℃で30分加熱して溶融させた後、金属スプーンで十分に混合・撹拌し、ホットメルト接着剤を作製した。得られたホットメルト接着剤について以下の評価を行った。」

摘記X9:段落0101?0102
「【0101】【表2-1】

【0102】【表2-2】



摘記X10:段落0104
「【0104】本発明のプロピレン系重合体は、ホットメルト接着剤の分野に好適に利用できる。また、本発明のホットメルト接着剤は、ダンボール等の包装用の接着剤として好適に利用できる。」

(3)出願X及び甲第1号証の当初明細書中に記載された発明
ア.甲1A発明
出願X及び甲第1号証の請求項8(請求項8は請求項6を引用し、請求項6は請求項4を引用している。)には、次の記載があるといえる。

「エチレン系重合体(A)としてのエチレン-1-オクテン共重合体100質量部に対して、下記(a2)及び(b2)を満たすプロピレン系重合体(B2)1?30質量部を含み、粘着付与樹脂(C)50?200質量部及びワックス(D)50?200質量部を更に含む、ホットメルト接着剤。
(a2)[mmmm]=20?80モル%
(b2)重量平均分子量(Mw)=1,000?150,000」

ここで、エチレン系重合体(A)100質量部とプロピレン系重合体(B2)1?30質量部との合計は101?130質量部であるから、これを100質量部として換算すると、粘着付与樹脂(C)の配合量は、上記合計100質量部に対しては、38.5?198.0の範囲となり(合計が101質量部の場合、49.5?198.0、合計が130質量部の場合、38.5?153.8となる)、同様に、ワックス(D)の配合量も、38.5?198.0の範囲となる。

したがって、出願X及び甲第1号証の当初明細書中には、以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲1A発明」という。)。なお、「質量部」は「重量部」と読み替えるものとする。

「エチレン系重合体(A)としてのエチレン-1-オクテン共重合体100重量部に対して、下記(a2)及び(b2)を満たすプロピレン系重合体(B2)1?30重量部を含み、上記エチレン系重合体(A)とプロピレン系重合体100重量部に対して、粘着付与樹脂(C)38.5?198.0重量部及びワックス(D)38.5?198.0重量部を更に含む、ホットメルト接着剤。
(a2)[mmmm]=20?80モル%
(b2)重量平均分子量(Mw)=1,000?150,000」

イ.甲1B発明
出願Xの【0104】及び甲第1号証の[0114]には、「本発明のホットメルト接着剤は、ダンボール等の包装用の接着剤・・・として好適に利用できる。」と記載されているから、出願X及び甲第1号証の当初明細書中には、以下の発明も記載されていると認められる(以下「甲1B発明」という。)。

「甲1A発明に係るホットメルト接着剤を用いて形成されたダンボール」

(4)本件発明1について
ア.本件発明1と甲1A発明との対比
甲1A発明の「エチレン系重合体(A)としてのエチレン-1-オクテン共重合体」、「プロピレン系重合体(B2)」、「粘着付与樹脂(C)」、及び、「ワックス(D)」はそれぞれ、本件発明1の「エチレン-α-オレフィン共重合体」、「ポリプロピレン」、「粘着付与剤」、及び、「ワックス」に相当している。
そして、甲1A発明において「上記エチレン系重合体(A)とプロピレン系重合体100重量部に対して、粘着付与樹脂(C)38.5?198.0重量部及びワックス(D)38.5?198.0重量部」含むことと、
本件発明1における「上記エチレン-α-オレフィン共重合体及び上記ポリプロピレンの合計100重量部に対して、」「粘着付与剤50?120重量部、及びワックス25?75重量部を含む」ことを対比すると、
粘着付与剤の配合量は両者とも「50?120重量部」の範囲で共通し、同様に、ワックスの配合量は両者とも「38.5?75重量部」の範囲で共通している。
そうすると、本件発明1と甲1A発明とを対比したときの一致点及び相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「エチレン-α-オレフィン共重合体と、ポリプロピレンとを含み、且つ上記エチレン-α-オレフィン共重合体及び上記ポリプロピレンの合計100重量部に対して、粘着付与剤50?120重量部、及びワックス38.5?75重量部を含むことを特徴とするホットメルト接着剤。」

<相違点1>
ポリプロピレンの軟化点に関し、本件発明1は、「80?100℃」であるのに対し、甲1A発明は、それが明らかでない点。

<相違点2>
粘着付与剤の軟化点に関し、本件発明は、「110?130℃」であるのに対し、甲1A発明は、それが明らかでない点。

イ.判断
(ア)相違点1について
出願Xの【0073】及び甲第1号証の[0073]には、甲1A発明における「ポリプロピレン系重合体(B2)」に関し、「プロピレン系重合体(B2)の市販品としては、エルモーデュ S400(出光興産(株)製)等を挙げることができる。」と記載されており、甲第4号証によれば、上記「エルモーデュ S400」の軟化点は93℃である。
したがって、甲1A発明における「ポリプロピレン系重合体(B2)」は、軟化点が93℃のものを含むから、相違点1は実質的には相違点とはならない。

(イ)相違点2について
出願Xの【0060】及び甲第1号証の[0060]には、「粘着付与樹脂(C)の市販品としては、アイマーブP-125、P-100、P-90(以上、出光興産(株)製)、ユーメックス1001(三洋化成工業(株)製)、ハイレッツT1115(三井化学(株)製)、クリアロンK100(ヤスハラケミカル(株)製)、ECR227、エスコレッツ2101(以上、トーネックス(株)製)、アルコンP100(荒川化学(株)製)、Regalrez 1078(ハーキュレス(Hercules)社製)、Eastotac H-130R(イーストマン・ケミカル社製)等を挙げることができる」と記載されている。なかでも、軟化点の低いものとして、軟化点が90℃である「アイマーブP-90」(甲第6号証)が挙げられ、軟化点の高いものとして、軟化点が153℃である「ユーメックス1001」(甲第7号証第79頁)が挙げられている。すなわち、出願X及び甲第1号証には、軟化点が90℃?153℃である粘着付与剤が記載されているといえる。
そして、出願X及び甲第1号証の「実施例4」では、粘着付与樹脂として「脂肪族系炭化水素石油樹脂の水素化誘導体(商品名:Eastotac H-130R、イーストマン・ケミカル社製)」が用いられているところ、当該粘着付与樹脂は、甲第1号証の段落0096の「脂肪族系炭化水素石油樹脂の水素化誘導体(商品名:Eastotac H-130R、イーストマン・ケミカル社製、軟化点:130℃)」との記載にあるように「軟化点が130℃である粘着付与樹脂」に該当する。
したがって、甲1A発明における「粘着付与樹脂(C)」の軟化点は90℃?153℃である蓋然性が高く、その実施例4の具体例では軟化点が130℃の粘着付与樹脂が実際に使用されていることから、相違点2は実質的には相違点とはならない。

(ウ)対比・判断のまとめ
以上からすると、相違点1、2はいずれも実質的なものではないから、本件発明1は、甲1A発明と実質的に同一である。

ウ.特許権者の主張について
(ア)平成30年11月30日付けの意見書の第3頁において、特許権者は「訂正発明1および訂正発明1を直接的または間接的に引用する訂正発明2?4では、「エチレン-α-オレフィン共重合体100重量部に対する、ポリプロピレンの配合量は33?300重量部であるので、上記甲1A発明または上記甲1B発明と同一ではない。」と主張している。しかしながら、本件発明1は、ポリプロピレンを「25?400重量部含む」ものとして特定されているので、上記主張は採用できない。

(イ)令和元年5月21日付けの意見書の第6頁において、特許権者は「訂正発明3および4のホットメルト接着剤のように、エチレン-α-オレフィン共重合体100重量に対して、軟化点が80?100℃であるポリプロピレンを25?400重量部と多量に配合したものは、実施例4、実施例14および参考例2だけであり(いずれも29重量部)、しかも、これらにおいて用いられているポリプロピレン(それぞれ、ポリプロピレン1?3)の軟化点は80?100℃であるとはいえません。」と主張している。しかしながら、出願Xの【0018】及び甲第1号証の[0018]には「本発明のプロピレン系重合体の融点(Tm-D)は、オープンタイム向上及び耐熱クリープ性向上の観点から、好ましくは0?140℃、より好ましくは20?120℃」と記載され、その「更に好まし」い範囲として出願Xでは「40?100℃」と記載され、甲第1号証では「90?120℃」と記載され、出願Xの【0073】及び甲第1号証の[0073]には「プロピレン系重合体(B2)の市販品としては、エルモーデュS400(出光興産(株)製)等を挙げることができる。」と記載され、甲第4号証によれば、当該「エルモーデュS400」の軟化点は93℃とされていることから、当該主張は採用できない。

(ウ)令和元年8月8日付けの意見書の第7?9頁において、特許権者は「出願Xの発明は、耐熱クリープ性と適度なオープンタイム(被着材に塗布したときから温度が下がって粘着性がなくなるまでの保持時間)とのバランスのとれたホットメルト接着剤を提供することを目的とするものであり・・・訂正発明3および4のホットメルト接着剤のように、特定の成分、配合比を選択して、耐熱接着性及び耐寒接着性の双方に優れているホットメルト接着剤を提供することを目的とするものではありません。・・・このように、出願Xに記載された「エルモーデュS400」の「軟化点」が「93℃」であるか否かにかかわらず、訂正発明3および4のホットメルト接着剤は、出願Xに記載されたものとはいえないものです。」と主張している。しかしながら、本件発明1と甲1A発明との構成に実質的な差異は認められないので、当該主張は採用できない。

(5)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1におけるエチレン-α-オレフィン共重合体について、「エチレン-1-オクテン共重合体」に特定するものである。
しかしながら、甲1A発明は、エチレン系重合体(A)として、エチレン-1-オクテン共重合体を用いるものであるから、本件発明2と甲1A発明とを対比しても、上記相違点1、2のほかに相違点は存在しない。
そして、上記(4)イ.で述べたとおり、相違点1、2は実質的なものではないから、本件発明2は、甲1A発明と実質的に同一である。

(6)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1において、「ポリプロピレンを、エチレン-α-オレフィン共重合体100重量部に対して、25?400重量部含む」とするものである。
しかしながら、甲1A発明は、「エチレン系重合体(A)・・・100重量部に対して、・・・プロピレン系重合体(B2)1?30重量部」含むものであるから、本件発明3と甲1A発明とを対比すると、両者は、「25?30重量部」という範囲で一致しているから、両者を対比しても、上記相違点1、2のほかに相違点は存在しない。
そして、上記(4)イ.で述べたとおり、相違点1、2は実質的なものではないから、本件発明3は、甲1A発明と実質的に同一である。

(7)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1のホットメルト接着剤を用いて形成されてなることを特徴とする紙製包装用資材である。
しかしながら、本件発明4の「紙製包装用資材」は甲1B発明の「ダンボール」に相当するから、本件発明4と甲1B発明とを対比しても、上記相違点1、2のほかに相違点は存在しない。
そして、上記(4)イ.で述べたとおり、相違点1、2は実質的なものではないから、本件発明4は、甲1B発明と実質的に同一である。

(8)理由1及び5についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?4は、甲1A発明又は甲1B発明と実質的に同一である。

2.理由2について
(1)引用刊行物の記載事項
ア.甲第2号証(国際公開第2013/039261号)には、和訳にして、次の記載がある。
摘記2a:請求項1?4
「1.(A)メタロセン触媒を用いて重合することによって得られた、融点が100℃以下のポリプロピレンポリマー、及び、(B)エチレン系共重合体とを含むホットメルト接着剤。
2.上記(B)エチレン系共重合体が、メタロセン触媒を用いて重合することによって得られた、エチレン-α-オレフィン共重合体である、請求項1に記載のホットメルト接着剤。
3.上記エチレン-α-オレフィン共重合体が、エチレン-プロピレン共重合体、及び、エチレン-オクテン共重合体から少なくとも一つ選択されるものを含む、請求項2に記載のホットメルト接着剤。
4.請求項1?3のいずれかに記載のホットメルト接着剤に用いることによって得られた、使い捨て製品。」

摘記2b:段落0009
「[0009]本発明は、高速塗工及び低温でのスパイラル塗工に優れ、ポリエチレンや不織布との接着性にも優れるホットメルト接着剤、及びそのホットメルト接着剤によって得られる使い捨て製品を提供することを目的とする。」

摘記2c:段落0022
「[0022]本発明において、(A)プロピレンホモポリマーは、プロピレンの単独重合体であって、重合触媒としてメタロセン触媒を用いて製造されたものをいう。(A)プロピレンホモポリマーの融点は、100℃以下であり、60?90℃であることがより好ましく、特に65?85℃であることが最も好ましい。」

摘記2d:段落0026及び0027
「[0026](A)プロピレンホモポリマーとして、(A1)重量平均分子量が60000以下のプロピレンホモポリマー、(A2)重量平均分子量が60000より大きいプロピレンホモポリマーを例示できる。
(A1)プロピレンホモポリマーの重量平均分子量は、30000?60000であることが好ましく、特に重量平均分子量30000?55000であることが好ましい。
[0027](A2)プロピレンホモポリマーは、重量平均分子量が60000より大きいが、特に重量平均分子量が60000より大きく、90000以下であることが好ましく、重量平均分子量60000より大きく、80000以下であることがより好ましい。
(A1)プロピレンホモポリマーの市販品として出光興産社製のエルモーデュX400S(商品名)を例示でき、(A2)プロピレンホモポリマーの市販品として出光興産社製のエルモーデュX600S(商品名)を例示できる。」

摘記2e:段落0029
「[0029]本発明では、(A)プロピレンホモポリマーと(B)エチレン系共重合体の合計の重量100重量部に対し、(A)プロピレンホモポリマーは60?95重量部であることが好ましく、特に70?90重量部であることが好ましい。
(A)プロピレンホモポリマーが(A1)プロピレンホモポリマーおよび(A2)プロピレンホモポリマーの双方を含む場合、両ポリマーの重量比は1:3?3:2((A1):(A2))であることが好ましい。」

摘記2f:段落0032?0033
「[0032]本発明において、(B)エチレン系共重合体というのは、エチレンと、エチレンと共重合し得る共重合性モノマーとの共重合体をいう。
[0033]共重合性モノマーとしては、
エチレン、プロピレン、オクテン、ブテン等のα-オレフィン;
酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、マレイン酸、マレイン酸エステル等のカルボン酸(エステル);
無水マレイン酸、無水フタル酸、無水コハク酸等のカルボン酸無水物;
等を例示できる。」

摘記2g:段落0037?0038
「[0037]本発明の(B)エチレン共重合体として、エチレン/α-オレフィンコポリマーが好ましい。エチレン/α-オレフィンコポリマーとして、特に、メタロセン触媒で重合して得られたエチレン/α-オレフィンコポリマーが好ましい。
本発明のホットメルト接着剤は、メタロセン触媒で重合して得られたエチレン/α-オレフィンコポリマーを含む場合、低温でのスパイラル塗工適正が向上し、ポリエチレンフィルムや不織布との接着性も更に優れる。
[0038]メタロセン触媒で重合して得られたエチレン/α-オレフィンコポリマーとしては、エチレン/プロピレンコポリマー、エチレン/オクテンコポリマー、エチレン/ブテンコポリマー、エチレン/プロピレン/ブテンが挙げられるが、特にエチレン/プロピレンコポリマー、エチレン/オクテンが望ましい。
本発明のホットメルト接着剤は、エチレン/プロピレンコポリマー及びエチレン/オクテンから選択される少なくとも一種を含む場合、低温でのスパイラル塗工適正がより向上する。」

摘記2h:段落0045
「[0045]本発明の使い捨て製品用ホットメルト接着剤は、更に(C)粘着付与樹脂を含むことが好ましい。(C)粘着付与樹脂は、(A)プロピレンホモポリマーおよび(B)ワックスの合計の重量100重量部に対し、20?180重量配合されることが好ましく、特に40?150重量配合されることがより好ましく、60?150重量部配合されることが特に好ましい。
(C)粘着付与樹脂が上k割合で配合されることによって、ホットメルト接着剤は、150℃以下の低温でのスパイラル塗工が可能となり、さらには、ポリエチレンフィルムや不織布へも均一に塗工でき、使い捨て製品の製造により適した接着剤となる。」

摘記2i:段落0047
「[0047](C)粘着付与樹脂として、市販品を用いることができる。そのような市販品として例えば、荒川化学社製のアルコンP100(商品名)、アルコンM100(商品名)、ヤスハラケミカル社製のクリアロンM105(商品名)、エクソン社製のECR5400(商品名)、ECR179EX(商品名)、日本ゼオン社製のクイントンDX390(商品名)を例示することができる。これらの市販の粘着付与樹脂は、単独で又は組み合わせて使用することができる。」

摘記2j:段落0050
「[0050]本発明のホットメルト接着剤は、(E)ワックスを含んでいることが好ましい。尚、本明細書で「ワックス」とは、常温で固体、加熱すると液体となる重量平均分子量が10000未満の有機物であり、一般的に「ワックス」とされているものをいい、ワックス状の性質を有するものであれば、本発明に係るホットメルト接着剤を得ることができる限り、特に制限されるものではない。」

摘記2k:0066?0067及び0072
「[0066]本発明に係る使い捨て製品用ホットメルト接着剤は、150℃の溶融粘度が7000mPa・s以下であることが好ましく、1000?6000mPa・sであることがより好ましく、2000?6000mPa・sであることが特に好ましい。「溶融粘度」とは、ホットメルト接着剤の溶融体の粘度であり、ブルックフィールドRVT型粘度計(スピンドルNo.27)で測定される。
[0067]溶融粘度が上記範囲に制御されることで、ホットメルト接着剤は、低温塗工により適し、更に不織布にも均一に塗工され、浸透しやすくなるので、使い捨て製品用により適する。
このように、本発明に係るホットメルト接着剤は、紙加工、製本、使い捨て製品等にも利用可能であるが、不織布やポリエチレンフィルムに対する接着性が優れているので、使い捨て製品に好適に利用される。・・・
[0072]ホットメルト接着剤を、スプレー塗工にて広い幅で塗工できることは、使い捨て製品を製造するために極めて有利である。」

摘記2l:段落0078?0081
「[0078]以下、本発明を更に詳細に、より具体的に説明することを目的として、実施例を用いて本発明を説明する。これらの実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明を何ら制限するものではない。
ホットメルト接着剤を配合するための成分を、以下に示す。
[0079](A)メタロセン触媒で重合して得られた融点100℃以下のプロピレンホモポリマー
(A1)出光興産社製商品名「エルモーデュX400S」
融点75℃重量平均分子量45000
(A2)出光興産社製商品名「エルモーデュX600S」
融点80℃重量平均分子量70000
(A’3)クラリアント社製商品名「リコセンPP6102」
メタロセン触媒で重合して得られたプロピレンホモポリマー融点145℃
(A’4)イーストマンケミカル社製商品名「イーストフレックスP1010」
チーグラーナッタ触媒で重合して得られたプロピレンホモポリマー
融点145℃
(A’5)クラリアント社製商品名「リコセンPE4201GR」
メタロセン触媒で重合して得られたポリエチレンホモポリマー
融点128℃
[0080](B)エチレン系重合体
(B1)エクソンモービル社製商品名「ビスタマックス2330」
メタロセン触媒で重合して得られたプロピレン/エチレン共重合体
メルトインデックス200(g/10min:230℃)
(B2)エクソンモービル社製商品名「ビスタマックス6202」
メタロセン触媒で重合して得られたプロピレン/エチレン共重合体
メルトインデックス20(g/10min:230℃)
(B3)ダウ社製商品名「バーシファイ4301」
メタロセン触媒で重合して得られたプロピレン/エチレン共重合体
メルトインデックス25(g/10min:230℃)
プロピレン/エチレンのランダム共重合体構造
(B4)ダウ社製商品名「インヒューズ9807」
メタロセン触媒で重合して得られたエチレン/オクテン共重合体
メルトインデックス15(g/10min:190℃)
エチレン/オクテンでブロック構造を有する
(B5)ダウ社製商品名「エンゲージ8137」
メタロセン触媒で重合して得られたエチレン/オクテン共重合体
メルトインデックス13(g/10min:190℃)
エチレン/オクテンのランダム共重合体構造
(B6)ダウ社製商品名「アフィニティーGA1950」
メタロセン触媒で重合して得られたエチレン/オクテン共重合体
メルトインデックス500(g/10min:190℃)
エチレン/オクテンのランダム共重合体構造
(B7)ハンツマン社製商品名「レキセンタック2780A」
チーグラーナッタ触媒で重合して得られたプロピレン/エチレン共重合体
(B8)エボニック社製商品名「ベストプラスト703」
チーグラーナッタ触媒で重合して得られたプロピレン/エチレン/ブテン共重合体
(B9)東ソー社製商品名「ウルトラセン722」
チーグラーナッタ触媒で重合して得られたエチレン/酢酸ビニル共重合体
(B’10)ハンツマン社製商品名「レキセンタック2780A」
チーグラーナッタ触媒で重合して得られたプロピレン/ブテン共重合体
(B’11)三菱レーヨン社製商品名「BR-106」
アクリル系共重合体
[0081](C)粘着付与樹脂
(C1)水素添加ジシクロペンタジエン系樹脂
エクソンモービル社製商品名「ECR179EX」
(C2)水素添加ジシクロペンタジエン系樹脂
エクソンモービル社製商品名「ECR5400」
(C3)水素添加環状脂肪族石油炭化水素樹脂
荒川化学社製商品名「アルコンM100」
(C4)水素添加環状脂肪族石油炭化水素樹脂
荒川化学社製商品名「アルコンP100」
(C5)未水素添加脂肪族芳香族共重合体系樹脂
日本ゼオン社製商品名「クイントンDX390N」
(C6)水素添加テルペン系樹脂
ヤスハラケミカル社製商品名「クリアロンM105」」

摘記2m:段落0083
「[0083](E)カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物で修飾されたワックス
(E1)マレイン酸修飾ワックス
クラリアント社製商品名「リコセンMA6252TP」
(E2)フィッシャートロプシュワックス
サゾール社製商品名「サゾールワックスH-1」

摘記2n:段落0085及び0097
「[0085](A)?(F)成分を表1?3に示す割合で配合し、約150℃で2時間かけて万能攪拌機を用いて溶融混合し、実施例1?19および比較例1?9のホットメルト接着剤を調整した。表1?3に示されるホットメルト接着剤の組成(配合)に関する数値は、全て重量部である。
ホットメルト接着剤の各々(実施例および比較例)について、ホットメルト接着剤の熱安定性、塗工適性、高速塗工適性、剥離強度を評価した。以下、各評価の概要について説明する。」

「[0097][表3]



イ.甲第3号証(特表2005-505679号公報)には、次の記載がある。
摘記3a:段落0005
「【0005】本発明では、SPPおよびAPAOのポリマーブレンド、粘着付与剤樹脂、可塑剤ならびに、場合により、合成ポリオレフィンワックスまたは石油ワックスを含む混合物が噴霧可能なホットメルト接着剤組成物を与えることが見いだされた。この組成物は、強靱性、低収縮性もしくは無収縮性、高粘着性強度、低粘度、優れた熱安定性および種々の支持体に対する良好な接着性を含む新規な組み合わせ特性を示す。本発明の組成物は、特に、ポリエチレンおよびポリプロピレンフィルムの結合のための使い捨て不織布物品、不織布ファブリックおよびエラスティックストランドが互いにまたはそれら自身でアセンブリに有用である。」

摘記3b:段落0027
「【0027】発明の要約
本発明はSPPおよびAPAOのポリマーブレンドをベースとしたホットメルト接着剤組成物に関する。SPP/APAOブレンドに加えて、接着剤は粘着付与剤樹脂、場合により、可塑剤および、場合により、ワックスを主要成分として含む。本発明の組成物はSPPおよびAPAO間で優れた特性の利点を与え、従来のAPAOブレンド接着剤および粘着付与したSPPの欠点を克服する。本発明の組成物は、引っ張り強度、強靱性、柔軟性および接着性のバランスのとれた特性を与える。それは、完全な相容性、優れた熱安定性、調節可能な開放時間、改良された粘着力、低粘度、凝固時の低収縮性、硬化時粘性が低いかまたはない、そして慣用の被覆装置を用いて良好な処理性を示す。特に、本発明は、種々のスプレーコーティング施用法、例えば、スパイラルスプレー、溶融吹き込み、コントロールコート、コントロールウエイブ等の施用法によく適した接着剤組成物をもたらす。これに対し、従来のAPAOおよびSPPベース接着剤はこのような広い処理性がない。」

摘記3c:段落0030
「【0030】本発明の別の目的は、ポリエチレン、ポリプロピレンフィルム、不織布等を互いにそしてそれら自身に結合する使い捨て不織布物品の構成のための噴霧可能なホットメルト接着剤に関する。この接着剤は優れた剥離強度およびこのような用途において結合耐久性を与える。」

摘記3d:段落0042
「【0042】ワックスは、ホットメルト接着剤組成物の溶融粘度を下げるために使用できる。約0重量%?35重量%で変動する量を本発明の組成物で使用できるが、好適な量は0重量%?18重量%である。これらのワックスは接着剤の硬化時間および軟化点にも影響を与えることができる。有用なワックスの中には、
1.低分子量、すなわち、数平均分子量(Mn)が500?6000に等しく、ASTM法D-1321により測定して約0.1?120の硬度値を示し、約65℃?140℃のASTM軟化点を示すポリエチレン;
2.約50℃?80℃の融点を示すパラフィンワックスおよび約55℃?100℃の融点を示すマイクロクリスタリンワックスのような石油ワックスであり、後者の融点はASTM法D127-60により測定した;
3.Fischer-Tropschワックスのような一酸化炭素と水素とを重合反応させることにより製造した合成ワックス;および
4.ポリオレフィンワックス。本明細書中で使用するように、「ポリオレフィンワックス」という用語は、オレフィンモノマー単位から構成されるようなポリマーまたは長鎖体を指す。この種の物質は、Eastman Chemical Co.から"Epolene"という販売名で商業的に入手できる。本発明の組成物に使用されるのに好適な物質は、約100℃?170℃の環球式軟化点を有する。これらのワックス希釈剤は室温で固形であることが理解されるべきである。」

摘記3e:段落0048及び0053
「【0048】次いで、得られたホットメルト接着剤を種々の施用技術を使用して支持体に施用できる。それらの例には、ホットメルトグルーガン、ホットメルトスロットダイ、ホットメルトホイールコーティング、ホットメルトローラーコーティング、吹き込みコーティング、スパイラルスプレー等がある。・・・
【0053】噴霧能力をMeltex CT225(Nordson)ホットメルトコーターで経験的に測定した。コーティング条件は接着剤サンプルに依存して変動する。
Fina EOD 98-05およびEOD 99-19は、米国特許第5,476,914号に開示されているシングルサイトメタロセン触媒系を使用することにより調製したSPPのプロピレン-エチレンコポリマー型である。このポリマーは、約10重量%のエチレンを含有し、Ato Fina Petrochemicals Inc,Houston,TXから商業的に入手できる。それら双方は約95%のr値、0.87g/ccの密度および130℃のDSC融点を示す。Fina EOD 98-05の溶融流量は、ASTM Method D-1238を使用することにより決定して約20g/10分であり、Fina EOD 99-19の溶融流量は25g/10分である。」

摘記3f:段落0055
「【0055】Rexflex RT2180はアタクチックホモポリプロピレン型のAPAOであり、ブルックフィールド粘度が190℃で約8,000cPであり、Tgが-20℃、そして軟化点が約157℃である。Rexflex RT2180はHuntsman Corporationから入手できる。」

摘記3g:段落0062及び0064
「【0062】Eastman Chemical Companyから入手できるEastotac H130Rは部分的に水素化したC5炭化水素樹脂であり、130℃のR&B軟化点を示す。・・・
【0064】Marcus Oil & Chemicals, Inc.から入手できるMarcus 300は、約240゜Fの融点を示す合成ポリエチレンワックスである。
下記に示す実施例により、さらに本発明を例証する。」

摘記3g:段落0067
「【0067】【表1】



ウ.周知例A(国際公開第2012/147951号)には、次の記載がある。
摘記A1:請求項1、4及び6
「[請求項1]軟化点が105?165℃のポリオレフィンワックスと、エラストマーと、粘着付与剤とを含み、
加熱時において粘度が500Pa・sとなる温度をX[℃]とし、冷却時において粘度が500Pa・sとなる温度をY[℃]としたとき、X>YかつX-Yが5以上であることを特徴とするホットメルト粘着剤。…
[請求項4]さらに、軟化剤を含む請求項1に記載のホットメルト粘着剤。…
[請求項6]前記ポリオレフィンワックスは、ポリエチレンワックスであり、その含有量が10?30重量%であり、前記エラストマーの含有量が10?20重量%、前記粘着付与剤の含有量が25?40重量%、前記軟化剤の含有量が25?40重量%である請求項4に記載のホットメルト粘着剤。」

エ.周知例B(特開2006-188580号公報)には、次の記載がある。
摘記B1:請求項1、12及び13
「【請求項1】少なくとも1種のエチレン/C_(3)?C_(20)α-オレフィン共重合体を包含する第1の成分、
前記第1の成分100重量部につき約6?約12重量部の量の、少なくとも1種のエチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体を包含する第2の成分、
前記第1の成分100重量部につき約50?約200重量部の量の、少なくとも1種の粘着付与樹脂を包含し、前記第1および前記第2の成分と相溶性の第3の成分
を含むホットメルト接着組成物。…
【請求項12】少なくとも1種のワックスをさらに含有する請求項1?11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】前記ワックスが、第1の成分100重量部につき約30?約80重量部の量で存在する請求項12に記載の組成物。」

(2)甲第2号証に記載された発明
ア.甲2A発明
甲第2号証の請求項3(請求項3は請求項2を引用し、請求項2は請求項1を引用している)によれば、次の発明が記載されているといえる(以下、「甲2A発明」という。)。

「(A)メタロセン触媒を用いて重合することによって得られた、融点が100℃以下のポリプロピレンホモポリマー、及び、(B)エチレン-プロピレン共重合体、及び、エチレン-オクテン共重合体から少なくとも一つ選択されるものを含むエチレン系共重合体、を含むホットメルト接着剤」

イ.甲2B発明
甲第2号証の請求項4には「請求項1?3のいずれかに記載のホットメルト接着剤に用いることよって得られた、使い捨て製品」との記載があり、また、甲第2号証の[0067]には、「本発明に係るホットメルト接着剤は、紙加工、製本、使い捨て製品等にも利用可能」との記載があるから、甲第2号証には、ホットメルト接着剤を用いて紙加工することによって得られたものについての記載もあるといえ、甲第2号証には、以下の発明も記載されていると認められる(以下、「甲2B発明」という。)。

「甲2A発明に係るホットメルト接着剤を用いて紙加工することによって得られたもの」

(3)本件発明1と甲2A発明との対比
ア.対比
本件発明1と甲2A発明とを対比すると、甲2A発明における「(A)メタロセン触媒を用いて重合することによって得られた」、「ポリプロピレンホモポリマー」、「(B)エチレン-プロピレン共重合体、及び、エチレン-オクテン共重合体から少なくとも一つ選択されるものを含むエチレン系共重合体」はそれぞれ、本件発明1における「ポリプロピレン」、「エチレン-α-オレフィン共重合体」に相当している。
したがって、本件発明1と甲2A発明とを対比すると、一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「エチレン-α-オレフィン共重合体と、ポリプロピレンとを含む、ホットメルト接着剤」

<相違点1’>
本件発明1は、「軟化点が80?100℃であるポリプロピレン」であるのに対し、甲2A発明は、「融点が100℃以下のポリプロピレンホモポリマー」である点。

<相違点2’>
本件発明1は、ホットメルト接着剤が「上記エチレン-α-オレフィン共重合体及び上記ポリプロピレンの合計100重量部に対して、軟化点が110?130℃である粘着付与剤50?120重量部」を含むのに対して、甲2A発明は、それが特定されていない点。

<相違点3’>
本件発明1は、ホットメルト接着剤が「上記エチレン-α-オレフィン共重合体及び上記ポリプロピレンの合計100重量部に対して、」「ワックス25?75重量部を含む」のに対して、甲2A発明は、それが特定されていない点。

イ.判断
上記相違点1’?3’を検討する。
<相違点1’について>
甲第2号証の[0027]には、ポリプロピレンの1種であるプロピレンホモポリマーとして、「(A1)プロピレンホモポリマーの市販品として出光興産社製のエルモーデュX400S(商品名)を例示でき、(A2)プロピレンホモポリマーの市販品として出光興産社製のエルモーデュX600S(商品名)を例示できる。」と記載され、実際に、実施例において、「エルモーデュX400S」及び「エルモーデュX600S」を用いることが記載されている([0079]、[0097])。
そして、出光興産の資料である甲第8号証によれば、上記「エルモーデュX400S」の軟化点は、90℃であり、上記「エルモーデュX600S」の軟化点は、100℃である。
そうすると、甲2A発明における「融点が100℃以下のポリプロピレンホモポリマー」は、「エルモーデュX400S」及び「エルモーデュX600S」を含むといえるから、甲2A発明における「融点が100℃以下のポリプロピレンホモポリマー」は、軟化点が90℃又は100℃であるポリプロピレンホモポリマーを含むといえる。
よって、甲2A発明における「融点が100℃以下のポリプロピレンホモポリマー」と、本件発明1における「軟化点が80?100℃であるポリプロピレン」とを対比すると、両者は、軟化点が90℃又は100℃であるポリプロピレンを含む点で共通している。
したがって、該相違点1’は、実質的には相違点とはならないといえる。

<相違点2’について>
本件発明1における「粘着付与剤」について、本件明細書の【0021】によれば、石油樹脂及びその水素添加物が好ましい旨記載されている。
他方、甲第2号証の[0045]には、「本発明の使い捨て製品用ホットメルト接着剤は、更に(C)粘着付与樹脂を含むことが好ましい。(C)粘着付与樹脂は、(A)プロピレンホモポリマーおよび(B)ワックスの合計の100重量部に対し、20?180重量配合されることが好ましく、特に40?150重量配合されることがより好ましく、60?150重量部配合されることが特に好ましい。」と記載されている(なお、上記では「(B)ワックス」となっているが、明細書の記載内容から「(B)エチレン系共重合体」の誤記であると認められる。)。
そして、上記「(C)粘着付与樹脂」は、本件発明1における「粘着付与剤」に相当する。
また、甲第2号証の実施例([0081]、[0097]等)においても、(C)粘着付与樹脂を含むホットメルト接着剤が記載されており、例えば実施例12?19には、(A)プロピレンホモポリマーおよび(B)エチレン系共重合体の合計100重量部に対して、60?100重量部の(C)粘着付与樹脂を用いる例が記載されている。
よって、甲2A発明は、(A)プロピレンホモポリマーおよび(B)エチレン系共重合体に加え、(C)粘着付与樹脂を更に含むものを実質的に含むといえ、その含有量は、(A)プロピレンホモポリマーおよび(B)エチレン系共重合体の合計100重量部に対し、20?180重量配合される場合を含むといえる。
さらに、上記「(C)粘着付与樹脂」の具体例として、甲第2号証には、「荒川化学社製のアルコンP100(商品名)、アルコンM100(商品名)、ヤスハラケミカル社製のクリアロンM105(商品名)、エクソン社製のECR5400(商品名)、ECR179EX(商品名)、日本ゼオン社製のクイントンDX390(商品名)」([0047])が記載されており、これら列挙された(C)粘着付与樹脂のうち、例えば「クリアロンM105」については、軟化点は105±5℃であり(甲第9号証)、この軟化点の範囲は、本件発明1で特定された「軟化点が110?130℃」との範囲と対比すると、軟化点110℃において重複している。そして、具体的には、甲第2号証の実施例17及び19において「クリアロンM105」を用いることが記載されている。
そうすると、甲第2号証には、(A)プロピレンホモポリマーおよび(B)エチレン系共重合体の合計100重量部に対して、軟化点が110℃である粘着付与剤20?180重量部配合する場合についても記載されているといえ、甲2A発明はこの場合をも含むといえるから、該相違点2’は、実質的には相違点とはならないといえる。
仮に、実質的な相違点であるとしても、ホットメルト接着剤の技術分野では、接着剤の塗工性や温度に関する特性(溶融粘度、軟化点、融点等)について検討することは、当業者であれば通常考慮し得ることであるから、上記(C)粘着付与樹脂について種々検討し、その軟化点を本件発明1の範囲に重複するものとする程度のことは、当業者ならば容易に想到し得るといえる。

<相違点3’について>
甲第2号証の[0050]、[0083]には、ホットメルト接着剤において、フィッシャートロプシュワックスなどのワックスを更に含んでもよい旨記載されており、実施例においても用いる例が記載されている(実施例18等)。
ただ、甲第2号証には、ホットメルト接着剤におけるワックスの含有量について、どの程度の含有量が適量なのかについての記載はない。
しかしながら、ワックスの含有量を、エチレン-α-オレフィン共重合体及びポリプロピレンの合計100重量部に対して、25?75重量部程度含有させることは、周知技術である。
すなわち、甲第10号証(特開2005-290296号公報)には、非晶質エチレン・プロピレン共重合体と非晶質ポリプロピレンとの合計100重量部に対して、ワックスを33重量部含む樹脂組成物が開示されている(【0034】、【0035】、表1)。
また、甲第11号証(特開2009-35646号公報)には、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂と結晶性ポリプロピレンとの合計100重量部に対して、低分子量エチレン-酢酸ビニル共重合ワックスを25重量部含むポリオレフィン用易剥離性接着剤が開示されている(【0036】、【0040】、【0042】、【0045】、【0047】、【0048】、表1、表2)。
さらに、甲第12号証(特表2003-533551号公報)には、ポリプロピレンモノマー単位からなるホモポリマーFPO(可撓性ポリオレフィン)100重量部に対して、合成ポリエチレンワックスを50重量部含むホットメルト接着剤(実施例1)、エチレンおよびプロピレンポリマー単位からなる共重合体FPO100重量部に対して、合成ポリエチレンワックスを75重量部を含むホットメルト接着剤(実施例5)、エチレンおよびプロピレンモノマー単位からなる共重合体FPO100重量部に対して、プロピレン由来合成ワックスを68重量部含むホットメルト接着剤(実施例8)が開示されている(【0043】、【0044】、【0045】、【0048】、【0049】、【0052】、表1)。
加えて、例えば、周知例A(国際公開第2012/147951号)の請求項1を間接的に引用する請求項6(摘記A1)には、ポリオレフィンワックスの含有量が10?30重量%であり、エラストマー(製品名:エルモーデュS400など)の含有量が10?20重量%、粘着付与剤(テルペン系樹脂など)の含有量が25?40重量%、軟化剤(パラフィン系プロセスオイルなど)の含有量が25?40重量%であるホットメルト接着剤の発明が記載されており、
同様に、周知例B(特開2006-188580号公報)の請求項1を間接的に引用する請求項13(摘記B1)には、第1の成分(商品名:アフィニティーGA1950など)100重量部につき、約50?200重量部の量の粘着付与樹脂(商品名:アイマーブP-125など)と、約30?80重量部の量のワックス(商品名:BARECO PX-100など)とを含有するホットメルト接着組成物についての発明が記載されている。
したがって、上記甲第10?12号証のみならず、周知例A?Bなどにも記載されているように、熱可塑性樹脂100重量部に対して、ワックスを25?75重量部とすることは、周知技術といえるから、甲2A発明において、熱可塑性樹脂であるポリプロピレンホモポリマーとエチレン系共重合体100重量部に対して、ワックスの含有量を25?75重量部とすることは、当業者ならば容易に想到し得たことである。
仮に、上記相違点3’について、ホットメルト接着剤において、熱可塑性樹脂100重量部に対して、ワックスを25?75重量部とすることが周知技術でないとしても、下記のとおり、甲2発明及び甲第3号証に記載された事項をもとに、当業者が容易に想到し得たことである。
甲2A発明及び甲2B発明が解決しようとする課題は、「高速塗工及び低温でのスパイラル塗工に優れ、ポリエチレンや不織布との接着性にも優れるホットメルト接着剤、及びそのホットメルト接着剤によって得られる使い捨て製品を提供すること」([0009])であり、他方、甲第3号証に記載された発明は、「ポリエチレン、ポリプロピレンフィルム、不織布等を互いにそしてそれら自身に結合する使い捨て不織布物品の構成のための噴霧可能なホットメルト接着剤」に関し、「優れた剥離強度およびこのような用途において結合耐久性を与える」ことを解決しようとする課題としている。したがって、両者の課題は、使い捨て製品に用いる優れたホットメルト接着剤を提供するという点で共通している。
そして、甲第2号証には、ホットメルト接着剤に関し、150℃の溶融粘度が7000mPa・s以下であることが好ましく、溶融粘度を制御することで、ホットメルト接着剤は、低温塗工により適し、更に不織布にも均一に塗工され、浸透しやすくなるので、使い捨て製品用により適する旨記載されており([0066]、[0067])、他方、甲第3号証には、ワックスは、ホットメルト接着剤組成物の溶融粘度を下げるために使用できること(【0042】)、また、甲第3号証の実施例3には、エチレン-α-オレフィン共重合体及びポリプロピレンの合計100重量部に対して、ワックス34重量部含むホットメルト接着剤が開示されている(【0067】、表1)。
してみると、ホットメルト接着剤の溶融粘度を下げ、使い捨て製品により適するようにするために、甲第3号証に記載されたワックスの含有量を、甲2A発明に適用することは、当業者にとって容易であり、本件発明1は進歩性を有しない。
また、本件発明に係るホットメルト接着剤が有する「-20℃?55℃と広い範囲の温度環境下であっても優れた接着性を維持することができる」(【0042】)という効果は、溶融粘度を制御することで低温塗工に適したホットメルト接着剤を得ようとする当業者ならば、予測の範囲内であって、格別顕著なものではない。

ウ.小括
以上のとおり、本件発明1は、甲2A発明、甲第3号証に記載された発明、及び、周知技術(甲第10?12号証や周知例A?Bなど)をもとに、当業者が容易に想到し得たことである。

エ.特許権者の主張について
令和元年8月8日付けの意見書の第13頁において、特許権者は「甲第2号証のホットメルト接着剤は「高速塗工及びスパイラル塗工」(段落[0009])といった対象物の表面に塗布されるものであるのに対し、甲第3号証のホットメルト接着剤は「噴霧可能なもの」(段落[0005])といった対象物の表面に噴霧されるものですので、ホットメルト接着剤の粘度およびこれに影響を与えるワックスの配合量は異なってくると思慮いたします。このように、甲第2号証と甲第3号証との組み合わせに動機付けがあるとはいえず、訂正発明3および4のホットメルト接着剤は、甲第2号証に記載された発明および甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得たものではありません。」と主張している。
しかしながら、甲第2号証には「ホットメルト接着剤を、スプレー塗工にて広い幅で塗工できることは、使い捨て製品を製造するために極めて有利である。」([0072])と記載され、甲第3号証には「得られたホットメルト接着剤を種々の施用技術を使用して支持体に施用できる。それらの例には、ホットメルトグルーガン、ホットメルトスロットダイ、ホットメルトホイールコーティング、ホットメルトローラーコーティング、吹き込みコーティング、スパイラルスプレー等がある。」(【0048】)と記載されており、甲第2号証と甲第3号証が異なる塗工方法を前提にしているとはいえないので、上記主張は採用できない。

(4)本件発明2と甲2A発明との対比
本件発明2は、本件発明1におけるエチレン-α-オレフィン共重合体について、「エチレン-1-オクテン共重合体」に特定するものである。
しかしながら、甲2A発明は、エチレン系共重合体(B)として、エチレン-オクテン共重合体を用いる場合を含み、該「エチレン-オクテン共重合体」は、本件発明2における「エチレン-1-オクテン共重合体」に相当するものである。
したがって、本件発明2と甲2A発明とを対比しても、上記相違点1’?3’のほかに相違点は存在しない。
そして、上記相違点1’?3’については、上記(3)イ.で述べたとおりであるから、本件発明2は、甲2A発明、甲第3号証に記載された発明、及び、周知技術(甲第10?12号証など)に記載された発明をもとに、当業者が容易に想到し得たことであるか、または、甲2A発明、及び、甲第3号証に記載された発明をもとに、当業者が容易に想到し得たことである。

(5)本件発明3と甲2A発明との対比
本件発明3は、本件発明1において、「ポリプロピレンを、エチレン-α-オレフィン共重合体100重量部に対して、25?400重量部含む」とするものである。
本件発明3と甲2A発明とを対比すると、両者は、上記相違点1’?3’に加え、以下の点で相違している。

<相違点4’>
本件発明3は「ポリプロピレンを、エチレン-α-オレフィン共重合体100重量部に対して、25?400重量部含む」ことが特定されているのに対し、甲2A発明は、それが特定されていない点

しかしながら、甲第2号証には、「(A)プロピレンホモポリマーと(B)エチレン系共重合体の合計の重量100重量部に対し、(A)プロピレンホモポリマーは60?95重量部」であることが好ましい旨と記載されており([0029])、この記載から、(B)エチレン系重合体を100重量部とした場合の(A)プロピレンホモポリマーの好ましい含有量は、「150?1900重量部」であると換算できる。
そうすると、本件発明3における「25?400重量部」と、甲第2号証に記載された「150?1900重量部」とを対比すると、両者は大部分において重複している。
よって、該相違点4’は、実質的には相違点にはならない。
そして、上記相違点1’?3’については、上記(3)イ.で述べたとおりであるから、本件発明3は、甲2A発明、甲第3号証に記載された発明、及び、周知技術(甲第10?12号証など)に記載された発明をもとに、当業者が容易に想到し得たことである。

(6)本件発明4と甲2B発明との対比
本件発明4は、本件発明1のホットメルト接着剤を用いて形成されてなることを特徴とする紙製包装用資材である。
しかしながら、甲2B発明は、「甲2A発明に係るホットメルト接着剤を用いて紙加工することによって得られたもの」であって、本件発明4の「紙製包装用資材」は、甲2B発明の「ホットメルト接着剤を用いて紙加工することによって得られたもの」に相当するから、本件発明4と甲2B発明とを対比しても、上記相違点1’?4’のほかに相違点は存在しない。
そして、上記相違点1’?3’については、上記(3)イ.で述べたとおりであり、上記相違点4’については、上記(5)で述べたとおりであるから、本件発明4は、甲2B発明、甲第3号証に記載された発明、及び、周知技術(甲第10?12号証など)に記載された発明をもとに、当業者が容易に想到し得たことである。

3.理由3について
(1)本件発明の課題、及び、効果について
本件明細書によると、「耐熱接着性及び耐寒接着性の双方に優れているホットメルト接着剤及びこれを用いて形成された紙製包装用資材を提供すること」(【0006】)を本件発明の解決すべき課題とし、そのホットメルト接着剤は、「エチレン-α-オレフィン共重合体、軟化点が80?100℃であるポリプロピレン、軟化点が110?150℃である粘着付与剤、及びワックスを含むこと」(【0007】)という構成をとることによってその課題を解決するもの(【0007】)といえる。

(2)判断
ア.「ワックス」について
本件明細書の【0026】には、「ワックスとしては、フィッシャートロプシュワックス、及びポリエチレンワックスなどの合成ワックス;パラフィンワックス、及びマイクロクリスタリンワックスなどの石油系ワックス;木ロウ、カルバナワックス、蜜ロウ、及び植物ワックスなどの天然系ワックスが挙げられる。植物ワックスとしては、例えば、ひまわりやコメなどの植物に由来するワックスなどが挙げられる。ワックスは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。」と記載され、実施例で効果が確認されている「フィッシャートロプシュワックス」以外の様々な種類のワックスについても使用できる旨の記載がある。
しかしながら、ワックスの諸物性(融点、溶融粘度、他の成分との相溶性等)は、種類によって大きく異なるものであることは技術常識であるから、実際に実施例において唯一確認されている「フィッシャートロプシュワックス」以外のワックスを用いた場合でも、耐熱接着性及び耐寒接着性の双方に優れるという効果を奏するか否かは不明である。
また、明細書の【0030】には、ワックスの含有量を特定範囲とすることで、塗工性や接着力が低下することがない旨記載されているものの、「フィッシャートロプシュワックス」以外の様々なワックスの場合であっても、含有量さえ特定の範囲とすればよいとする根拠が明らかでない。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、「ワックス」とのみ特定することによって本件発明の課題が解決できるとは認められず、本件発明1の範囲まで、本件明細書において開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。
また、本件発明1を引用する本件発明2?4についても同様である。

イ.「粘着付与剤」について
本件明細書の【0020】には、「粘着付与剤としては、例えば、スチレン系ブロック共重合体、フェノール樹脂、変性フェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、キシレン-フェノール樹脂、シクロペンタジエン-フェノール樹脂、クマロンインデン樹脂、ロジン系樹脂、ロジンエステル樹脂、石油樹脂、テルペン系樹脂、及びこれらの水素添加物などが挙げられる。粘着付与剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。」と記載され、実施例で効果が確認されている「石油樹脂の水素添加物」以外の様々な粘着付与剤についても使用できる旨の記載がある。
しかしながら、粘着付与剤の諸特性(軟化点、他の成分との相溶性等)は、種類によって大きく異なるものであることは技術常識であるから、実際に実施例において確認されている「石油樹脂の水素添加物」以外の粘着付与剤を用いた場合でも耐熱接着性及び耐寒接着性の双方に優れるという効果を奏するか否かは不明である。
また、明細書には、粘着付与剤の軟化点を特定範囲とすることで、「粘着付与剤と、エチレン-α-オレフィン共重合体及びワックスとは優れた相溶性を有している」(【0022】)との記載はあるものの、「石油樹脂の水素添加物」以外の様々な粘着付与剤の場合であっても、軟化点さえ特定の範囲とすればよいとする根拠が明らかでない。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、「粘着付与剤」とのみ特定することで本件発明の課題が解決できるとは認められず、本件発明1の範囲まで、本件明細書において開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。
また、本件発明1を引用する本件発明2?4についても同様である。

ウ.「エチレン-α-オレフィン共重合体」について
本件明細書の【0020】には、「エチレン-α-オレフィン共重合体は、エチレンとα-オレフィンとの共重合体である。α-オレフィンの炭素数は、3?20が好ましく、6?8がより好ましい。α-オレフィンとしては、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、及び1-オクテン等が挙げられる。」と記載され、α-オレフィンとして実施例で効果が確認されている「1-オクテン」以外の様々なα-オレフィンを含む共重合体についても使用できる旨の記載がある。
しかしながら、一般に、エチレン-α-オレフィン共重合体といっても、エチレン-α-オレフィン共重合体中におけるαオレフィン成分の種類や含有量によって、メルトフローレート等の物性が変化し得ることは技術常識である。
また、明細書には、エチレン-α-オレフィン共重合体中におけるαオレフィン成分の含有量やメルトフローレートを特定範囲とすることで、耐熱接着性や接着力が低下することがない旨記載されている(【0009】、【0010】)ものの、「エチレン-1-オクテン」以外の様々なエチレン-α-オレフィン共重合体の場合であっても、αオレフィン成分の含有量やメルトフローレートさえ特定の範囲とすればよいとする根拠が明らかでない。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、「エチレン-α-オレフィン共重合体」とのみ特定することで本件発明の課題が解決できるとは認められず、本件発明1の範囲まで、本件明細書において開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。
また、本件発明1を引用する本件発明3、4についても同様である。

エ.エチレン-α-オレフィン共重合体に対するポリプロピレンの含有量について
本件明細書【0017】には、「ホットメルト接着剤中におけるポリプロピレンの含有量は、エチレン-α-オレフィン共重合体100重量部に対して、25?400重量部が好ましく、30?350重量部がより好ましく、80?120重量部が特に好ましい。」と記載され、実施例には、エチレン-α-オレフィン共重合体であるエチレン-1-オクテン共重合体100重量部に対して、ポリプロピレンAが33?300重量部である場合についての記載がある。
他方、本件発明1は、エチレン-α-オレフィン共重合体に対するポリプロピレンの含有量についての特定はない。
しかしながら、本件発明の詳細な説明をみても、エチレン-α-オレフィン共重合体に対するポリプロピレンの含有量がどのような場合でも、上記本件発明の課題を解決し得るとの記載はなく、むしろ、【0017】には、「ホットメルト接着剤におけるポリプロピレンの含有量が少な過ぎると、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ性を低下させる虞れがある。また、ホットメルト接着剤におけるポリプロピレンの含有量が多過ぎると、ホットメルト接着剤の硬化物の柔軟性を低下させ、そのため低温環境下におけるホットメルト接着剤の硬化物の接着力を低下させる虞れがある。」との記載があり、ポリプロピレンの含有量によっては、本件発明の上記課題を解決できないといえる。
したがって、ポリプロピレンを含むとのみ特定することで本件発明の課題が解決できるとは認められず、本件発明1の範囲まで、本件明細書において開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。
また、本件発明1を引用する本件発明2、4についても同様である。

4.理由4について
本件特許の請求項1に記載された「軟化点が80?100℃であるポリプロピレン」という発明特定事項と、当該請求項1を直接に引用する請求項3に記載された「ポリプロピレンを、エチレン-α-オレフィン共重合体100重量部に対して、25?400重量部含む」という発明特定事項について、当該請求項3の記載は、例えば「前記ポリプロピレンを…25?400重量部含む」のように特定されていないので、請求項1の「軟化点が80?100℃であるポリプロピレン」と、請求項3の「ポリプロピレン」との関係が明確ではない。
そして、本件特許の請求項3及び本件明細書の段落0017に記載された「ポリプロピレン」については、上記請求項1に記載された「軟化点が80?100℃であるポリプロピレン」を専ら意味するのか、軟化点が限定されない全てのポリプロピレン(すなわち、軟化点が80℃未満及び101℃以上のポリプロピレンをも含めて)を意味するのか明確ではない。
したがって、本件特許の請求項1及び3並びにその従属項の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
なお、平成31年3月7日付けの意見書の第3?4頁では『本件特許明細書の段落【0015】?【0017】の「ポリプロピレン」は、前提である本件特許明細書の【0014】の「軟化点が80?100℃であるポリプロピレン」であることは明らかであると思慮いたします。』との主張について、本件明細書の段落0014の記載は「本発明のホットメルト接着剤は、軟化点が80?100℃であるポリプロピレンを含んでいる。」となっており、例えば「本発明のホットメルト接着剤は、ポリプロピレンとして軟化点が80?100℃であるポリプロピレンのみを含んでいる。」となっていないので、本件明細書の段落0014?0017の記載振りを含む明細書全体の記載を総合しても、本件特許の請求項3及び本件明細書の段落0017に記載された「ポリプロピレン」が「軟化点が80?100℃であるポリプロピレン」を一義的に意味するとは解せない。

第7 むすび
以上のとおり、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条及び第29条の2の規定に違反する特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
また、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-10-08 
出願番号 特願2014-65456(P2014-65456)
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (C09J)
P 1 651・ 537- ZB (C09J)
P 1 651・ 161- ZB (C09J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 木村 敏康
天野 宏樹
登録日 2017-12-22 
登録番号 特許第6262585号(P6262585)
権利者 積水フーラー株式会社
発明の名称 ホットメルト接着剤及び紙製包装用資材  
代理人 山本 拓也  

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