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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16K
管理番号 1357690
異議申立番号 異議2019-700664  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-23 
確定日 2019-12-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6474579号発明「弁装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6474579号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6474579号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成26年10月1日に出願され、平成31年2月8日にその特許権の設定登録がされ、平成31年2月27日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和元年8月23日に特許異議申立人清水すみ子(以下、「特許異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6474579号の請求項1?5の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
金属製の水道管を密封状に囲む分割構造の筐体と、該筐体の中で不断流状態で円筒状の回転可能なカッターで切断され円弧状に形成された前記水道管の切断面同士の離間部分に挿入され設置される弁本体と、を有する弁装置であって、前記弁本体は弁体と、弁座孔部を有する弁座体と、前記筐体の筐体開口部を閉塞する弁蓋と、前記弁座体と前記筐体との間を密封する密封部材と、を備え、前記弁体は、前記筐体内に設置された前記弁座体に向けて挿入されることで前記弁座孔部を開閉可能となっており、前記弁座体は、前記切断面に対向し該弁座体が挿入される方向に先細りに傾斜する弁座体傾斜面を有し、該弁座体傾斜面により、前記弁座体の基端部側の管軸方向幅は、前記切断面に最接近する前記水道管の頂部と底部との略中間位置における前記弁座体の管軸方向幅より大きく形成されており、前記切断面に最接近する前記水道管の頂部と底部との略中間位置における前記弁座体の管軸方向幅は、前記切断面同士の最小離間距離よりも小さく形成されていることを特徴とする弁装置。
【請求項2】
前記弁蓋と前記筐体とに跨がるように固定部材が取付けられることを特徴とする請求項1に記載の弁装置。
【請求項3】
前記弁体は、前記弁座孔部に対向し、該弁体が挿入される方向に先細りに傾斜する弁体傾斜面を有することを特徴とする請求項1または2に記載の弁装置。
【請求項4】
前記筐体を構成する筐体下部は、前記密封部材によって密封される鉢状の筐体底部を有し、該筐体底部の中央に排出孔が形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の弁装置。
【請求項5】
前記弁座体は、前記切断面に向けて延設される延設部を備えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の弁装置。」

第3 申立理由の概要
1 理由1
本件特許発明1及び2は、甲第1号証(特開2013-117264号公報)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
本件特許発明1?5は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
したがって、請求項1?5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?5に係る特許を取り消すべきものである。
2 理由2
本件特許発明1?5は、甲第8号証(特開平4-34293号公報)に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
したがって、請求項1?5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?5に係る特許を取り消すべきものである。

第4 甲第1号証ないし甲第8号証
1 甲第1号証
(1)甲第1号証の記載
本件特許の出願前に頒布された甲第1号証には、「制流体保持方法及びその際に用いられる係合具」に関して、次のような記載がある(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。
ア 「【0001】
本発明は、流体管に対し密封状に取り付けられる筐体と、前記筐体に連通するケース体と、制流体が接続され、軸方向に進退移動することによって前記制流体を前記ケース体を介し前記筐体内に設置する軸部材と、前記筐体内に設置された前記制流体を保持する保持具とを用い、前記筐体内に不断流状態で設置された前記制流体を該筐体に保持する制流体保持方法、及びその際に用いられる係合具に関する。」

イ 「【0013】
実施例1に係る制流体保持方法及びその際に用いられる係合具につき、図1から図7を参照して説明する。図1に示されるように、符号1の流体管は、例えば、地中に埋設されるガス用の鋳鋼製の流体管1であって、この流体管1は、2分割構造の筐体20によって所定箇所が囲繞されている。尚、本発明に係る流体管は、ダクタイル鋳鉄、その他鋳鉄、鋼、塩化ビニール、ポリエチレン若しくはポリオレフィン製等であってもよく、また、流体管は、3分割以上の複数分割構造の筐体によって囲繞されても構わない。更に尚、本実施例では流体管内の流体はガスであるが、流体管の内部を流れる流体は必ずしもガスに限らず、例えば上水、工業用水や下水等の他、ガスと液体との気液混合体であっても構わない。」

ウ 「【0023】
そして、ここでは図示しないが、ケース体3の上端のフランジ3bには、内空構造の筒状部材が密封状に取り付けられ、当該筒状部材の内部に流体管1を切断する切断装置が取り付けられる。当該切断装置は、筐体20内において所定の作業を行う作業具であるカッタを備え、当該カッタが前記筒状部材、ケース体3及び筐体20の内部を進行移動することで流体管1が切断される。その後、前記カッタを流体管1の切片とともに上方へ引き戻し、作業弁14によって筐体20内を一時的に閉塞する。その後、前記筒状部材及び前記切断装置が取り外されることで流体管1の不断流状態での切断作業が完了する。」

エ 「【0030】
図3に示されるように、図示しない前記駆動手段によって軸部材8を筐体20内に進行させることによって、軸部材8と一体になったプラグ9、中蓋12及び係合具21がケース体3と取付具40とを介して流体管1の切断箇所に向けて導入される。このときには、図4(a)に示されるように、各嵌合部12bを各導入溝24bに嵌合するように配設した後、その状態を保ったまま流体管1の切断箇所に向けてプラグ9を進行させる。
【0031】
このプラグ9は、延設部2bの内周面とプラグ9との間に当接する密封部材9aと、この密封部材9aに連続して、凸部25の上面及び筐体20の内側面とプラグ9との間に当接する密封部材9bと、を備えている。密封部材9aによって筐体20内の流体が筐体20の外方へ漏出することを防止することができるとともに、密封部材9bによって図3における切断された左右の流体管1同士の流路を遮断することができる。」

オ 「【0035】
その後、図6に示されるように、中蓋12の中央部に嵌合する断面視下向き略凸形状の押蓋36が設置され、この押蓋36とプラグ9とに亘って略垂直に固定ネジ36aを所定の本数挿入して固定する。このことで、各固定ネジ36aを締め込むことによってプラグ9と押蓋36とで中蓋12が狭圧され、この中蓋12が移動不能に位置決めされ、周方向に回転することが防止される。つまり、中蓋12の各嵌合部12bが周方向に導入溝24bと異なる所定位置に固定され、開口部20aの内面から中蓋12及びプラグ9が外れることが防止される。
【0036】
その後、図7に示されるように、筐体20の開口部20aの上端には、開口部20aを閉塞する上蓋13が設置される。上蓋13は、断面視略コ字状を成しており、開口部20aの上端に外嵌されるように形成されている。開口部20aに上蓋13を外嵌設置した後、上蓋13の端部と開口部20aの外周面とが当接する部位を溶接する。このことによって、開口部20aの開口から筐体20内に夾雑物等が混入することが防止されるばかりか、開口部20aの外方に張り出す接続部やネジ等の別段の部材を用いることなく上蓋13を設置できる。流体管1の切断箇所に対してプラグ9の設置が完了する。尚、この上蓋は、開口部の上端に外嵌されるものに限らず、開口部が密封状に閉塞されるものであればよい。更に尚、このような上蓋13を特段に設けず、押蓋を設置後、当該押蓋の外周面を筐体の内周面に対して溶接等により密封することで、当該押蓋のみによって開口部を閉塞してもよい。」

カ 「【0045】
例えば、前記実施例では、制流体としてプラグ9を適用しているが、例えば、バタフライ弁、切換弁、ゲート弁、緊急遮断弁などの各種バルブであってもよく、多岐に亘る態様に応用することができる。」

キ 上記イには、「符号1の流体管は、例えば、地中に埋設されるガス用の鋳鋼製の流体管1であって、・・・」との記載、及び「流体管の内部を流れる流体は必ずしもガスに限らず、例えば上水、工業用水や下水等の他、ガスと液体との気液混合体であっても構わない。」との記載があることから、流体管1は、上水用の鋳鋼製の流体管1であることが理解できる。

ク 図7の図示内容から、プラグ9は、流体管1の切断面に対向しプラグ9が挿入される方向に先細りに傾斜する傾斜面を有し、該傾斜面により、前記プラグ9の基端部側の管軸方向幅は、前記切断面に最接近する前記流体管1の頂部と底部との略中間位置における前記プラグ9の管軸方向幅より大きく形成されており、前記切断面に最接近する前記流体管1の頂部と底部との略中間位置における前記プラグ9の管軸方向幅は、前記切断面同士の最小離間距離よりも小さく形成されていることが看取できる。

ク 上記オの記載及び図7の図示内容から、弁蓋13と筐体20とに跨がるように中蓋12が取付けられることが理解できる。

(2)甲第1号証に記載された発明
上記(1)及び図面の記載を総合すると、甲第1号証には次の発明が記載されている。

ア 甲1発明1
「上水用の鋳鋼製の流体管1に対し密封状に取り付けられる2分割構造の筐体20と、該筐体20内において不断流状態でカッタで切断された前記流体管1の切断箇所に向けて導入され設置されるプラグ9と、前記筐体20の開口部20aを閉塞する弁蓋13と、前記プラグ9と前記筐体20との間に当接する密封部材9a,9bと、を有する制流体保持装置であって、前記プラグ9は、流体管1の切断面に対向し該プラグ9が挿入される方向に先細りに傾斜する傾斜面を有し、該傾斜面により、前記プラグ9の基端部側の管軸方向幅は、前記切断面に最接近する前記流体管1の頂部と底部との略中間位置における前記プラグ9の管軸方向幅より大きく形成されており、前記切断面に最接近する前記流体管1の頂部と底部との略中間位置における前記プラグ9の管軸方向幅は、前記切断面同士の最小離間距離よりも小さく形成されている制流体保持装置。」

イ 甲1発明2
「弁蓋13と筐体とに跨がるように中蓋12が取付けられる、甲1発明1の制流体保持装置。」

2 甲第2号証
本件特許の出願前に頒布された甲第2号証(特開2013-36568号公報)には、「制流体設置方法及び設置装置」に関して、次のような記載がある。
ア 「【0013】
実施例1に係る制流体設置方法及び設置装置につき、図1から図7を参照して説明する。図1に示すように、本実施例の流体管1は、略円筒形状に形成された高密度ポリエチレン等の樹脂製管から成り、略水平方向に延設され、内部には流体としての上水が流れている。この流体管1は、例えば、図5及び図7に示すように、制流体11を設置するための筐体2が所定箇所に密封状に取り付けられるようになっている。この筐体2内で流体管1を後述するカッタ部材52により切断するとともに(図2(a)、(b)ないし図4参照)、筐体2内に挿入配置された制流体11を設置することで(図5ないし図7参照)、流体の流路を遮断可能となっている。」

イ 「【0065】
例えば、前記実施例では、制流体11を弁板13で主に構成し、筐体2内に設置することで流路を遮断する遮断弁として機能したが、例えば本発明の変形例として図9に示されるように、筐体2’内にシール材26a,26bを介して密封状に設置される弁箱23と、この弁箱23内で垂直方向を向く枢軸15の回動操作によって上下動自在に枢支される弁本体25と、から構成された制流体31であってもよく、弁本体25が弁箱23内を上下することで流体管1の流路を任意の開度で開放若しくは遮断するゲート弁として機能させてもよい。あるいは制流体は、バタフライ弁、緊急遮断弁、あるいはプラグ等で構成されていてもよいし、流体管と該流体管から分岐する分岐管との流路を切換可能な切換弁で構成されていても構わない。」

3 甲第3号証
本件特許の出願前に頒布された甲第3号証(特開2013-40655号公報)には、「樹脂製流体管用の被接続体」に関して、次のような記載がある。
ア 「【0019】
図3及び図4に示されるように、流体管1の外周面には、ケース2が密封状に取り付けられており、既設の流体管1に対し不断流状態での作業が可能となっている。またケース2の上部にフランジを備え、後述する切断装置6および弁装置16と連結可能となっている。さらにケース2の内部には、流体管1の管軸と略直交する上下方向において内空部15が設けられており、後述する切断装置6におけるカッタ部材62が挿通可能であるとともに、後述する流体管1の切断後に設置する弁装置16が設置可能である。なお、ケース2は、2以上の複数に分割が可能であるものでもよい。」

イ 「【0033】
切断装置6による切断後は、カッタ部材62上方に引き上げた後、ケース2内に設けられた作業弁7を閉操作して内空部15の止水を行い、続いてケース2内に設けられたカバー体13に替えて弁装置16が接続され、制流体であるゲート弁17が流体管1に接続される。最後に弁蓋18とケース2とが連結され、弁装置16の設置が完了する。尚、制流体として、例えばバタフライ弁、緊急遮断弁、切換弁あるいはプラグ等で構成してもよい。」

ウ 図4及び図5の図示内容から、ゲート弁17は、弁体及び弁座体を備えることが看取できる

4 甲第4号証
本件特許の出願前に頒布された甲第4号証(特開2006-132715号公報)には、「既設管の弁設置設備及びそれに用いられる弁体」に関して、次のような記載がある。
ア 「【0075】
〔第4実施形態〕
上述の第1実施形態では、既設水道管1の外径よりも小なる穿孔径に構成されたホールソー4を切断除去予定管部1Aの横断方向の三位置において下方に送り込みながら穿孔移動させることにより、不断水状態のまま既設水道管1の切断除去予定管部1Aをそれの管径Dよりも小なる切断幅で三つの部分に分けて切断除去するように構成したが、図21?図24に示すように、既設水道管1の外径よりも大なる穿孔径に構成されたホールソー4を切断除去予定管部1Aの横断方向中央位置において下方に送り込みながら穿孔移動させることにより、不断水状態のまま既設水道管1の切断除去予定管部1Aを一工程で切断除去するように構成してもよい。」

イ 「【0082】
更に、前記弁箱Aの傾斜内壁面6fには、切り屑を管内流体の一部と共に外部に排出可能な排液口66が形成されているとともに、前記弁体2の鍔部2Cの第3シール材2Fが弁箱Aの第3弁座19Cに圧接されたとき、鍔部2Cの弁挿入方向他端側の面、つまり、下側外面2bと弁箱Aの傾斜内壁面6fとの対向面間に切り屑が堆積可能な空隙Sが形成されている。」

ウ 図21及び図22の図示内容から、弁箱Aを構成する下部ケース6が鉢状の底部を有すること、及び、その底部の中央に排液口66が形成されていることが看取できる。

5 甲第5号証
本件特許の出願前に頒布された甲第5号証(特開2013-185682号公報)には、「既設管の弁設置設備及びそれに用いられる弁体」に関して、次のような記載がある。
ア 「【0017】
本発明の実施形態について、ダクタイル鋳鉄製の既設の水道管(流体管の一例)に対し、不断水状態で防蝕処置を施す場合を例に挙げ、図面を参照しながら説明する。図1に示した水道管Kは、既にフルカット切断が施されており、管軸方向に切り離されている。フルカット切断は、作業用仕切弁5(以下、作業弁5)の上方に接続した穿孔機を用いて施工され、その穿孔機を撤去したうえで、作業弁5に密閉ケース6が接続されている。
【0018】
この防蝕処置は、水道管Kの外周面を取り囲んで装着された外箱1に収容される入れ子式の二重筒体2を備える。外箱1は、既設の水道管Kに対して外嵌め可能な割り構造を有し、フルカット切断箇所の周囲を密閉している。本実施形態の外箱1は、図2に示すようなT字管形状をしており、管軸方向に交差する方向へ開口する分岐部11を有する。分岐部11は、フランジ接続された蓋体12(図9では取り外している。)により閉塞されている。
【0019】
外箱1は、上側部材13と下側部材14とを締結具15(図9参照)により互いに接合してなる上下二つ割り構造を有する。ボルトとナットで構成した締結具15に代えて、溶接などで接合することも可能である。このような外箱1の構造は、例えば特開2007-187241号公報や特開2011-75052号公報に開示されている。上側部材13の上部には、フランジ16を有する開口部が形成されており、この開口部を通じて穿孔機のカッターや二重筒体2を外箱1内に配置できる。」

イ 図1の図示内容から、外箱1を構成する下側部材14が鉢状の底部を有すること、及び、その底部の中央に排出孔が形成されていることが看取できる。

6 甲第6号証
本件特許の出願前に頒布された甲第6号証(特開2013-185682号公報)には、「既設流体管の流路開閉装置」に関して、次のような記載がある。
ア 「【0029】
ここで、図2(a)、(b)で示されるようにバタフライ弁4は、ほぼ中央部に開口Hを有する仕切壁6と、開閉軸40を中心に回動して開口Hを開閉可能である弁体7と、仕切壁6の上端部と一体的に連接される水平方向に備えられる円形の上蓋部5とからなる。」

イ 「【0062】
また、図5及び図8(b)に示されるように筐体10の外側面にから内面に向けて螺挿される固定プラグねじ23が、バタフライ弁4の設置位置における、上蓋部5の上面と当接する高さ位置に筐体10の平面視円周方向に略等間隔に6箇所配設されている。
【0063】
バタフライ弁4の設置位置において、固定プラグねじ23が筐体10の外側面から螺挿されることにより、固定プラグねじ23の先端部が、上蓋部5の上面を摺接しながら筐体10内部中心に向かって進入するため、バタフライ弁4を下方に押圧した状態での固定が可能となる。」

ウ 上記アの記載と、図2、図3、図6及び図8の図示内容から、仕切壁6の開口Hには、上流及び下流側に向けて延びる延設部を備えることが理解できる。

7 甲第7号証
本件特許の出願前に頒布された甲第7号証(特開2006-250295号公報)には、「既設流体管の不断水仕切弁設置方法及び仕切弁設置装置」に関して、次のような記載がある。
ア 「【0015】
図2(a)、(b)に示すように、本実施例の仕切弁設置装置は、既設水道管の流路を変更するバタフライ弁4と筐体10とからなり、バタフライ弁4は、ほぼ中央部に開口Hを有する仕切壁6と、開閉軸40を中心に回動して開口Hを開閉可能である弁体7と、仕切壁6の上端部と一体的に連接される水平方向に備えられる円形の上蓋5と、上蓋5上面に設けられる減速ギア28(動力伝達手段)とからなる。」

イ 「【0023】
また、筐体10の外側面にから内面に向けて螺挿される固定プラグねじ23が、後述するバタフライ弁4の設置位置における、上蓋5の上面と当接する高さ位置に筐体10の平面視円周方向に略等間隔に6箇所配設されている。」

ウ 上記アの記載と、図2、図4及び図5の図示内容から、仕切壁6の開口Hには、上流及び下流側に向けて延びる延設部を備えることが理解できる。

8 甲第8号証
(1)甲第8号証の記載
本件特許の出願前に頒布された甲第8号証には、「都市ガス配管用分岐管接続具」に関して、次のような記載がある。
ア 「〔産業上の利用分野〕
本発明は、都市ガス配管に対して分岐管を接続するための接続具に関する。」(1ページ右下欄18?20行)

イ 「〔作 用〕
都市ガス配管にその一部を切取った状態で接続具本体を連結すると共に、接続具本体に分岐管を連結し、接続具本体の内部に弁構成部品を、弁座の3個の開口部が一対の都市ガス配管接続部と分岐管接続部に各別に連通された状態で収容して、接続具本体の開口部を蓋体で閉じると、蓋体を貫通する弁棒により弁体を回転操作することによって弁座の3個の開口部の連通状態を上述の4状態から選択でき、そのことにより〔従来の技術〕の項で詳述したところの都市ガス配管で必要な4状態を選択できる。」(2ページ右下欄4?15行)

ウ 「〔実施例〕
次に、第1図ないし第4図により実施例を示す。
弁箱兼用の接続具本体(1)と、その内部に収容する弁構成部品(A)と、接続具本体(1)の開口部を閉じる蓋体(17)とによって、都市ガス配管(2)に分岐管(4)を接続するための接続具を形成してある。
接続具本体(1)に一対の都市ガス配管接続部(1b)と分岐管接続部(1a)と弁構成部品(A)に対する奥狭まり嵌合部(1c)を形成し、接続具本体(1)を都市ガス配管(2)に外嵌させて気密状に連結するように割線(B)で2分割型に形成してある。
弁構成部品(A)を形成するに、有底円筒形で底部ほど小径に形成した弁座(10)に、先細り形状の弁体(11)を回転操作自在に気密内嵌させ、弁座(10)に連結した弁体押え部材(12)に弁棒(13)を貫通させ、
都市ガス配管接続部(1b)と分岐管接続部(1a)に各別接続するための3個の開口部(14a),(14b),(14c)を弁座(10)に形成し、T字状の流路(15)を弁体(11)に形成し、弁座(10)の外面にシール材(16a?16c)を付設してある。
弁体(11)の流路(15〉を、弁座(12)の3個の開口部(14a)、 (14b)、 (14c)の全てを連通する状態、並びに、それら3個の開口部(14a)、 (14b)、 (14c)のうち任意の2個のみを連通する3つの状態から成る4状態を、弁体(11)の回転操作で選択可能に形成してある(第5図参照)。」(3ページ右上欄1行?左下欄10行)

エ 「次に、上記接続具の使用法を説明する。
(1) 第6図(イ)に示すように、割型の接続具本体(1)を都市ガス配管(2)に外嵌させて溶接部(3)により気密状に連結する。
(2) 第6図(ロ)に示すように、分岐管接続部(1a)に分岐管(4)を溶接部(5)により気密状に接続し、分岐管(4)の末端をキャップ(6)取付けや需要先への配管接続などの適当な手段で閉塞する。分岐管(4)の接続と末端閉塞はいずれが先であってもよい。
(3) 第6図(ハ)に示すように、接続具本体(1)に取付台(7)を離脱自在に取付け、取付台(7)に穿孔機(8)を離脱自在に取付け、取付台(7)のシャッター(7a)を開き、穿孔機(8)のドリル(8a)を取付台(7)の通路(7b)から差込み、接続具本体(1)、取付台(7)及び穿孔機(8)の作用でガス洩れを抑制した状態でドリル(8a)により都市ガス配管(2)を切断する。
(4) ドリル(8a)を都市ガス配管(2)の切断片と共に取付台(7)から引出した後、第6図(ニ)に示すように、シャッター(7a)を閉じて、穿孔機(8)に代えて弁体装着機(9)を取付台(7)に離脱自在に取付ける。弁体装着機(9)の内部に弁構成部品(A)を収容しておく。
(5) 第6図(ホ)に示すように、シャッター(7a)を開き、接続具本体(1)、取付台(7)、弁体装着機(9)でガス洩れを抑制した状態で、弁構成部品(A)を取付台(7)の通路(7b)から差込み、弁座(10)を接続具本体(1)に対して、シール材(16a?16c)により弁座(10)と接続具本体(1)の間からのガス洩れを阻止した状態で内嵌させる。この時、都市ガス配管接続部(1b)どうしを流路(15)で接続する。」

オ 上記エの記載及び第6図の図示内容から、ドリル(8a)は円筒状で回転可能なものであると理解できる。また、当該ドリル(8a)で切断された都市ガス配管(2)の切断面は、第3図の図示内容もあわせみると、円弧状に形成されることが理解できる。
また、上記エに、「ガス洩れを抑制した状態でドリル(8a)により都市ガス配管(2)を切断する。」との記載、「ガス洩れを抑制した状態で、弁構成部品(A)を取付台(7)の通路(7b)から差込み、」との記載、「シール材(16a?16c)により弁座(10)と接続具本体(1)の間からのガス洩れを阻止した状態で内嵌させる。」との記載、及び「シール材(16a?16c)により弁座(10)と接続具本体(1)の間からのガス洩れを阻止した状態で内嵌させる。」との記載があることから、都市ガス配管(2)の切断作業及び弁構成部品(A)の挿入・設置作業は不断流状態で行われることが理解できる。
以上を総合すると、弁構成部品(A)は、接続具本体(1)の中で不断流状態で円筒状の回転可能なドリル(8a)で切断され円弧状に形成された前記都市ガス配管(2)の切断面同士の離間部分に挿入され設置されることが理解できる。

カ 第3図の図示内容から、ドリル(8a)で切断された都市ガス配管(2)の円弧状に形成された切断面である最接近する弁座(10)の径は、都市ガス配管(2)の円弧状に形成された切断面の径よりも小さく形成されていることが看取できる。

キ 上記ウの記載並びに第1図及び第3図の図示内容から、弁体(11)は、弁座(10)3個の開口部(14a)、(14b)、(14c)に対向し、該弁体(11)が挿入される方向に先細り形状であることが理解できる。

(2)甲第8号証に記載された発明
上記(1)及び図面の記載を総合すると、甲第8号証には次の発明が記載されている。

ア 甲8発明1
「都市ガス配管(2)を気密状に連結する2分割型に形成された接続具本体(1)と、該接続具本体(1)の中で不断流状態で円筒状の回転可能なドリル(8a)で切断され円弧状に形成された前記都市ガス配管(2)の切断面同士の離間部分に挿入され設置される弁構成部品(A)と、を有する都市ガス配管用分岐管接続具であって、前記弁構成部品(A)は弁体(11)と、3個の開口部(14a)、(14b)、(14c)が形成された弁座(10)と、前記接続具本体(1)の開口部を閉じる蓋体(17)と、前記弁座(10)を前記接続具本体(1)に対して、弁座(10)と接続具本体(1)の間からのガス洩れを阻止した状態で内嵌されるシール材(16a?16c)と、を備え、前記弁体(11)は、弁座(10)の3個の開口部(14a)、(14b)、(14c)の連通状態を、弁体(11)の回転操作で選択可能になるように形成されており、前記弁座(10)は、有底円筒形で底部ほど小径に形成されており、前記ドリル(8a)で切断された都市ガス配管(2)の円弧状に形成された切断面に最接近する前記弁座(10)の径は、前記都市ガス配管(2)の円弧状に形成された切断面の径よりも小さく形成されている都市ガス配管用分岐管接続具。」

イ 甲8発明2
「弁体(11)は、弁座(10)の3個の開口部(14a)、(14b)、(14c)に対向し、該弁体(11)が挿入される方向に先細り形状である、甲8発明1の都市ガス配管用分岐管接続具。」

第5 当審の判断
1 甲第1号証を主引例とした場合
(1)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明1とを対比する。
本件特許発明1と甲1発明1とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲1発明1における「鋳鋼製」は、本件特許発明1における「金属製」に相当し、以下同様に、「上水用の」「流体管1」あるいは「流体管1」は「水道管」に、「上水用の鋳鋼製の流体管1に対し密封状に取り付けられる」ことは「金属製の水道管を密封状に囲む」ことに、「2分割構造」は「分割構造」に、「該筐体20内において」は「該筐体の中で」に、「カッタ」は「カッター」に、「切断箇所に向けて導入され設置される」ことは「切断面同士の離間部分に挿入され設置される」ことに、「開口部20a」は「筐体開口部」にそれぞれ相当する。
そして、甲1発明1における「プラグ9」と本件特許発明1における「弁本体」あるいは「弁座体」とは、「制流体」という限りにおいて一致するとともに、甲1発明1における「制流体保持装置」と本件特許発明1における「弁装置」とは「制流体装置」という限りにおいて一致し、また、甲1発明1における「前記プラグ9と前記筐体20との間に当接する」密封部材9a,9bと本件特許発明1における「前記弁座体と前記筐体との間を密封する」密封部材とは、「前記制流体と前記筐体との間を密封する」密封部材という限りにおいて一致し、さらに、甲1発明1における「前記プラグ9は、流体管1の切断面に対向し該プラグ9が挿入される方向に先細りに傾斜する傾斜面を有し、該傾斜面により、前記プラグ9の基端部側の管軸方向幅は、前記切断面に最接近する前記流体管1の頂部と底部との略中間位置における前記プラグ9の管軸方向幅より大きく形成されており、前記切断面に最接近する前記流体管1の頂部と底部との略中間位置における前記プラグ9の管軸方向幅は、前記切断面同士の最小離間距離よりも小さく形成されている」ことと本件特許発明1における「前記弁座体は、前記切断面に対向し該弁座体が挿入される方向に先細りに傾斜する弁座体傾斜面を有し、該弁座体傾斜面により、前記弁座体の基端部側の管軸方向幅は、前記切断面に最接近する前記水道管の頂部と底部との略中間位置における前記弁座体の管軸方向幅より大きく形成されており、前記切断面に最接近する前記水道管の頂部と底部との略中間位置における前記弁座体の管軸方向幅は、前記切断面同士の最小離間距離よりも小さく形成されていること」とは「前記制流体は、前記切断面に対向し該制流体が挿入される方向に先細りに傾斜する傾斜面を有し、該傾斜面により、前記制流体の基端部側の管軸方向幅は、前記切断面に最接近する前記水道管の頂部と底部との略中間位置における前記制流体の管軸方向幅より大きく形成されており、前記切断面に最接近する前記水道管の頂部と底部との略中間位置における前記制流体の管軸方向幅は、前記切断面同士の最小離間距離よりも小さく形成されている」ことという限りにおいて一致する。
したがって、両者は、
「金属製の水道管を密封状に囲む分割構造の筐体と、該筐体の中で不断流状態で円筒状の回転可能なカッターで切断され円弧状に形成された前記水道管の切断面同士の離間部分に挿入され設置される制流体と、筐体の筐体開口部を閉塞する弁蓋と、前記制流体と前記筐体との間を密封する密封部材と、を有する弁装置であって、前記制流体は、前記切断面に対向し該制流体が挿入される方向に先細りに傾斜する傾斜面を有し、該傾斜面により、前記制流体の基端部側の管軸方向幅は、前記切断面に最接近する前記水道管の頂部と底部との略中間位置における前記制流体の管軸方向幅より大きく形成されており、前記切断面に最接近する前記水道管の頂部と底部との略中間位置における前記制流体の管軸方向幅は、前記切断面同士の最小離間距離よりも小さく形成されている制流体装置。」
の点で一致し(以下、「一致点1」という。)、以下の点で相違する。

<相違点1-1>
本件特許発明1においては、カッターは、「円筒状の回転可能な」カッターであり、水道管の切断面は「円筒状に形成され」るのに対し、
甲1発明1においては、カッタが円筒状で回転可能であるか、また、流体管1の切断箇所が円筒状に形成されるか、不明である点。
<相違点1-2>
本件特許発明1においては、制流体装置は「弁装置」であり、制流体は「弁本体」あるいは「弁座体」であって、「前記弁本体は弁体と、弁座孔部を有する弁座体と、を備え、前記弁体は、前記筐体内に設置された前記弁座体に向けて挿入されることで前記弁座孔部を開閉可能となっており」、密封部材は「前記弁座体」と前記筐体との間を密封する」ものであり、前記「弁座体」は、前記切断面に対向し該「弁座体」が挿入される方向に先細りに傾斜する「弁座体」傾斜面を有し、該「弁座体」傾斜面により、前記「弁座体」の基端部側の管軸方向幅は、前記切断面に最接近する前記水道管の頂部と底部との略中間位置における前記「弁座体」の管軸方向幅より大きく形成されており、前記切断面に最接近する前記水道管の頂部と底部との略中間位置における前記「弁座体」の管軸方向幅は、前記切断面同士の最小離間距離よりも小さく形成されているのに対し、
甲1発明1においては、制流体装置は「制流体保持装置」であり、制流体は、プラグ9であって、弁体と弁座体とを備えていない点。

相違点1-1について検討する。
制流体設置装置において、円筒状の回転可能なカッターで水道管を切断し、切断面を円弧状に形成することは、例えば、甲第2号証及び甲第3号証に記載されるように周知の技術であるところ、甲第1号証の図5ないし図7の流体管1の切断面は円弧状に形成されることが看取でき、かかる切断面は、周知のような円筒状の回転可能なカッターで切断されたと考えることが最も合理的であるから、この点は、実質的な相違点ではない。
相違点1-2について検討する。
甲第2号証には、制流体設置装置において、弁本体25と弁箱23を備え、弁本体25が弁箱23を上下することで流体管1の流路を開放若しくは遮断することが記載されており、ここで、甲第2号証に記載された「弁本体25」は本件特許発明1の「弁体」に相当し、同様に「弁箱25」は「弁座体」に相当する。また、甲第3号証の樹脂製流体管用の被接続体においても、図4及び図5の記載から、ゲート弁17が同様の「弁体」及び「弁座体」を備えることが看取できる。しかしながら、甲第2号証及び甲第3号証に記載された弁座体は、いずれも、流体管の切断面に対向する部分の管軸方向幅が、高さ方向にほぼ一定であり、傾斜面を備えていない。
そして、甲第1号証の段落【0045】には、「・・・制流体としてプラグ9を適用しているが、例えば、バタフライ弁、切換弁、ゲート弁、緊急遮断弁などの各種バルブであってもよく、・・・」との記載があり、プラグ9を甲第2号証及び甲第3号証に記載されるようなゲート弁に変更する示唆がされているといえ、また、甲第2号証や甲第3号証に記載されるように、制流体設置装置において、弁体と弁座体とを備え、弁体が弁座体を上下することで流体管の流路を開放若しくは遮断することが周知(以下、「周知技術」という。)であるとして、甲1発明1のプラグ9を、甲第2号証や甲第3号証に記載されるようなゲート弁に置き換えるとすると、流体管の切断面に対向する部分の管軸方向幅が、高さ方向にほぼ一定である弁座体を備えたゲート弁に置き換えることとなり、置き換えた上で、さらに、弁座体の形状を、プラグ9のような傾斜面とする動機づけは見当たらない。
そうすると、甲1発明1に、周知技術を採用しても、本件特許発明1の相違点1-2に係る発明特定事項を導くことはできない。
また、甲第4号証ないし甲第7号証のいずれにも、本件特許発明1の相違点1-2に係る発明特定事項について、記載も示唆もない。
よって、本件特許発明1は、甲1発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

特許異議申立人は、特許異議申立書において、「また、甲1発明では、円筒状のカッターにより切断された流体管の切断面同士の離間部分に制流体が挿入され、その制流体の基端部側の管軸方向幅が大きく形成されているので、切断面との離間幅を小さくして、筐体内での流れの乱れを抑え圧力損失を低減する作用を奏すると推察される。よって、本件特許発明1の効果は、甲第1号証の記載事項から予測し得る範囲内のものである。(特許異議申立書20ページ25行?21ページ2行)」と主張しているが、上述のとおり、甲1発明1の制流体の基端部側の管軸方向幅は大きく形成されているが、甲1発明1に周知技術を適用すると、弁座体の基端部側の管軸方向幅が大きく形成されないものとなり、本件特許発明1の、筐体内での流れの乱れを抑え圧力損失を低減するという作用・効果を奏することはできない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(2)本件特許発明2
本件特許発明2と甲1発明2とを対比すると、甲1発明2の「中蓋12」は本件特許発明2の「固定部材」に相当し、上記一致点1に加えて以下の点で一致し、相違点1-1及び相違点1-2で相違する。
「前記弁蓋と前記筐体とに跨がるように固定部材が取付けられる」点。
上記相違点1-1について検討すると、上記(1)で述べたとおり、相違点1-1は実質的な相違点ではない。
上記相違点1-2について検討すると、上記(1)で述べたとおり、相違点1-2は、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、本件特許発明2は甲1発明2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件特許発明3
本件特許発明3と甲1発明1とを対比すると、上記一致点1で一致し、上記相違点1-1及び相違点1-2に加えて、以下の点で相違する。(以下、「相違点1-3」という。)
本件特許発明3においては、「前記弁体は、前記弁座孔部に対向し、該弁体が挿入される方向に先細りに傾斜する弁体傾斜面を有する」ものであるのに対し、甲1発明1においては、かかる弁体を備えていない点。
上記相違点1-1について検討すると、上記(1)で述べたとおり、相違点1-1は実質的な相違点ではない。
上記相違点1-2について検討すると 上記(1)で述べたとおり、相違点1-2は、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、相違点1-3について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲1発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件特許発明4
本件特許発明4と甲1発明1とを対比すると、上記一致点1で一致し、上記相違点1-1及び相違点1-2に加えて、以下の点で相違する。(以下、「相違点1-4」という。)
本件特許発明4においては、「前記筐体を構成する筐体下部は、前記密封部材によって密封される鉢状の筐体底部を有し、該筐体底部の中央に排出孔が形成されている」ものであるのに対し、甲1発明1においては、かかる排出孔を備えていない点。
上記相違点1-1について検討すると、上記(1)で述べたとおり、相違点1-1は実質的な相違点ではない。
上記相違点1-2について検討すると 上記(1)で述べたとおり、相違点1-2は、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、相違点1-4について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲1発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件特許発明5
本件特許発明5と甲1発明1とを対比すると、上記一致点1で一致し、上記相違点1-1及び相違点1-2に加えて、以下の点で相違する。(以下、「相違点1-5」という。)
本件特許発明4においては、「前記弁座体は、前記切断面に向けて延設される延設部を備える」ものであるのに対し、甲1発明1においては、かかる延設部を備えていない点。
上記相違点1-1について検討すると、上記(1)で述べたとおり、相違点1-1は実質的な相違点ではない。
上記相違点1-2について検討すると 上記(1)で述べたとおり、相違点1-2は、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、相違点1-5について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲1発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 甲第8号証を主引例とした場合
(1)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲8発明1とを対比する。
本件特許発明1と甲8発明1とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲8発明1における「気密状」は、本件特許発明1における「密封状」に相当し、以下同様に、「連結する」ことは「囲む」ことに、「2分割型に形成された」ことは「分割構造」に、「接続具本体(1)」は「筐体」に、「カッタ」は「ドリル(8a)」に、「弁構成部品(A)」は「弁本体」に、「3個の開口部(14a)、(14b)、(14c)」は「弁座孔部」に、「弁座(10)」は「弁座体」に、「3個の開口部(14a),(14b),(14c)が形成された弁座(10)」は「弁座孔部を有する弁座体」に、「接続具本体(1)の開口部を閉じる蓋体(17)」は「筐体の筐体開口部を閉塞する弁蓋」に、「前記弁座(10)を前記接続具本体(1)に対して、弁座(10)と接続具本体(1)の間からのガス洩れを阻止した状態で内嵌されるシール材(16a?16c)」は「前記弁座体と前記筐体との間を密封する密封部材」にそれぞれ相当する。
また、甲8発明1における「都市ガス配管(2)」と本件特許発明1における「金属製の水道管」とは「配管」という限りにおいて一致し、また、甲8発明における「都市ガス配管用分岐管接続具」と本件特許発明1における「弁装置」とは「配管装置」という限りにおいて一致し、さらに、甲1発明における「前記弁体(11)は、弁座(10)の3個の開口部(14a)、(14b)、(14c)の連通状態を、弁体(11)の回転操作で選択可能になるように形成されて」いることと本件特許発明1における「前記弁体は、前記筐体内に設置された前記弁座体に向けて挿入されることで前記弁座孔部を開閉可能となって」いることとは「弁体は、弁座孔部を開閉可能となって」いることという限りにおいて一致している。
したがって、両者は、
「配管を密封状に囲む分割構造の筐体と、該筐体の中で不断流状態で円筒状の回転可能なカッターで切断され円弧状に形成された前記配管の切断面同士の離間部分に挿入され設置される弁本体と、を有する配管装置であって、前記弁本体は弁体と、弁座孔部を有する弁座体と、前記筐体の筐体開口部を閉塞する弁蓋と、前記弁座体と前記筐体との間を密封する密封部材と、を備え、前記弁体は前記弁座孔部を開閉可能となっている弁装置。」
の点で一致し(以下、「一致点8」という。)、以下の点で相違する。

<相違点8-1>
本件特許発明1においては、配管は、「金属製の水道管」であり、また、配管装置は、「弁装置」であるのに対し、
甲8発明1においては、配管は、都市ガス配管(2)であり、また、配管装置は、都市ガス配管用分岐管接続具である点。
<相違点8-2>
本件特許発明1においては、弁体は、「前記筐体内に設置された前記弁座体に向けて挿入されることで」前記弁座孔部を開閉可能となっており、また、弁座体は、前記切断面に対向し該弁座体が挿入される方向に先細りに傾斜する弁座体傾斜面を有し、該弁座体傾斜面により、前記弁座体の基端部側の管軸方向幅は、前記切断面に最接近する前記水道管の頂部と底部との略中間位置における前記弁座体の管軸方向幅より大きく形成されており、前記切断面に最接近する前記水道管の頂部と底部との略中間位置における前記弁座体の管軸方向幅は、前記切断面同士の最小離間距離よりも小さく形成されているのに対し、
甲8発明1においては、弁体(11)は、弁座(10)の3個の開口部(14a)、(14b)、(14c)の連通状態を、弁体(11)の回転操作で選択可能になるように形成されており、また、弁座(10)は、有底円筒形で底部ほど小径に形成されており、前記ドリル(8a)で切断された都市ガス配管(2)の円弧状に形成された切断面に最接近する前記弁座(10)の径は、前記都市ガス配管(2)の円弧状に形成された切断面の径よりも小さく形成されている点。

事案に鑑み、先ず、相違点8-2について検討する。
甲8発明1の弁構成部品(A)のバルブ形式は、弁座(10)の3個の開口部(14a)、(14b)、(14c)の連通状態を、有底円筒形で底部ほど小径に形成された弁座(10)内で弁体(11)を回転操作することで切り換える3方弁であって、甲第8号証の1ページ右下欄18?20行には、「本発明は、都市ガス配管に対して分岐管を接続するための接続具に関する。」との記載があり、また、2ページ11?15行には、「蓋体を貫通する弁棒により弁体を回転操作することによって弁座の3個の開口部の連通状態を上述の4状態から選択でき、そのことにより〔従来の技術〕の項で詳述したところの都市ガス配管で必要な4状態を選択できる。」との記載があることから、都市ガス配管に対して分岐管を接続した3方の流路を切り換える3方弁を提供することを前提とした技術であり、甲8発明1において、3方弁であることは必須の事項であるといえる。
そして、制流体設置装置において、弁体と弁座体とを備え、弁体が弁座体を上下することで流体管の流路を開放若しくは遮断することが、甲第2号証や甲第3号証に記載されるように周知技術であるとしても、かかる技術は、流体管の流路を開閉する2方弁であって、3方の流路を切り換えるものではない。
そうすると、3方弁である甲8発明1に、周知技術を適用して2方弁となるようにする動機づけは見いだせない。
3方弁が2方弁に変更されることは措いて、仮に、甲8発明1に周知技術を適用したとしても、弁座体は、切断面に対向し該弁座体が挿入される方向に先細りに傾斜する弁座体傾斜面を有し、該弁座体傾斜面により、前記弁座体の基端部側の管軸方向幅は、前記切断面に最接近する水道管の頂部と底部との略中間位置における前記弁座体の管軸方向幅より大きく形成されており、前記切断面に最接近する前記水道管の頂部と底部との略中間位置における前記弁座体の管軸方向幅は、前記切断面同士の最小離間距離よりも小さく形成されていることを導き出すことはできない。
そうすると、甲8発明1に、周知技術を適用する動機づけは見当たらず、仮に適用したとしても、本件特許発明1の相違点8-2に係る発明特定事項を導くことはできない。
また、甲第4号証ないし甲第7号証のいずれにも、本件特許発明1の相違点1-2に係る発明特定事項について、記載も示唆もない。
よって、相違点8-1を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲8発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

特許異議申立人は、特許異議申立書の16ページないし18ページにおける甲8発明の認定、及び、22ページないし23ページにおける本件特許発明1と甲8発明との対比において、甲8発明の弁座(10)が、有底円筒形で底部ほど小径に形成されていることを捨象して、甲8発明が、本件特許発明1の「弁座体は、前記切断面に対向し該弁座体が挿入される方向に先細りに傾斜する弁座体傾斜面を有し、該弁座体傾斜面により、前記弁座体の基端部側の管軸方向幅は、前記切断面に最接近する前記水道管の頂部と底部との略中間位置における前記弁座体の管軸方向幅より大きく形成されており、前記切断面に最接近する前記水道管の頂部と底部との略中間位置における前記弁座体の管軸方向幅は、前記切断面同士の最小離間距離よりも小さく形成されている」との発明特定事項を備えていると認定し、かかる点を一致点としている。
しかしながら、甲8発明1の弁座(10)は、「有底円筒形」であって、甲第8号証の第3図に示されるように水平方向断面が略円形であるから、「管軸方向幅」を認定することが困難であり、甲8発明1については、上記「第4 8(2)ア」に示したとおり認定せざるを得ず、したがって、甲8発明1の対比においては、本件特許発明1における「弁座体の管軸方向幅」に関する発明特定事項について、上記<相違点8-2>で認定したとおり、相違点とせざるを得ない。
また、特許異議申立人は、同様に、甲8発明の認定において、弁座(10)に3個の開口部(14a)、(14b)、(14c)が備えられていること、すなわち、3方弁であることを捨象しているが、上述のとおり、甲8発明1において、3方弁であることは必須の事項であるから、これを捨象することは適切でない。
したがって、特許異議申立人の、特許異議申立書における、甲8発明の認定は採用できない。

(2)本件特許発明2
本件特許発明2と甲8発明1とを対比すると、上記一致点8で一致し、相違点8-1及び相違点8-2に加えて以下の点で相違する。(以下、「相違点8-3」という。)
本件特許発明2においては、「前記弁蓋と前記筐体とに跨がるように固定部材が取付けられる」ものであるのに対し、甲8発明1においては、かかる固定部材を備えていない点。
上記相違点8-2について検討すると、上記(1)で述べたとおり、相違点8-2は、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、相違点8-1及び相違点8-3を検討するまでもなく、本件特許発明2は甲8発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件特許発明3
本件特許発明3と甲8発明2とを対比すると、甲8発明2における「先細り形状である」ことは本件特許発明3における「先細りに傾斜する弁体傾斜面を有すること」に相当するから、上記一致点8に加えて以下の点で一致し、上記相違点8-1及び相違点8-2で相違する。
「前記弁体は、前記弁座孔部に対向し、該弁体が挿入される方向に先細りに傾斜する弁体傾斜面を有する」点。
上記相違点8-2について検討すると 上記(1)で述べたとおり、相違点8-2は、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、相違点8-1について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲8発明2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件特許発明4
本件特許発明4と甲8発明1とを対比すると、上記一致点8で一致し、上記相違点8-1及び相違点8-2に加えて、以下の点で相違する。(以下、「相違点8-4」という。)
本件特許発明4においては、「前記筐体を構成する筐体下部は、前記密封部材によって密封される鉢状の筐体底部を有し、該筐体底部の中央に排出孔が形成されている」ものであるのに対し、甲8発明1においては、かかる排出孔を備えていない点。
上記相違点8-2について検討すると 上記(1)で述べたとおり、相違点8-2は、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、相違点8-1及び相違点8-4について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲8発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件特許発明5
本件特許発明5と甲8発明1とを対比すると、上記一致点8で一致し、上記相違点8-1及び相違点8-2に加えて、以下の点で相違する。(以下、「相違点8-5」という。)
本件特許発明4においては、「前記弁座体は、前記切断面に向けて延設される延設部を備える」ものであるのに対し、甲8発明1においては、かかる延設部を備えていない点。
上記相違点8-2について検討すると 上記(1)で述べたとおり、相違点8-2は、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、相違点8-1及び相違点8-5について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲8発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-11-22 
出願番号 特願2014-203240(P2014-203240)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F16K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加藤 昌人  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 佐々木 芳枝
久保 竜一
登録日 2019-02-08 
登録番号 特許第6474579号(P6474579)
権利者 コスモ工機株式会社
発明の名称 弁装置  
代理人 溝渕 良一  
代理人 秋庭 英樹  
代理人 堅田 多恵子  
代理人 重信 和男  
代理人 林 道広  
代理人 石川 好文  

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